JP2017051592A - 医療用チューブ - Google Patents
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Abstract
Description
そこで、一時的に、又は恒久的に当該臓器の機能を補助し又は代替させる人工的な手段として種々の人工臓器が開発されている。人工臓器の一例としては、血管を補強し又は代替する人工血管(血管グラフト)が開発され、使用されている。人工血管においては、血流を確保する必要があることから、湾曲又は屈曲させた場合であってもつぶれずに内腔面積を保持することが要求される。
特許文献1には、外力による曲げ変形に対して内腔面積の減少を防止できる人工血管が記載されている。この人工血管は、らせん状の金属製の線材と、線材の一部を軸方向に連結した金属製の連結材とを有する円筒形のチューブ本体と、チューブ本体の外周面に巻回された伸縮性のある膜部材とを備えている。
特許文献2には、ステント付き血管グラフトが記載されている。この血管グラフトは、e−PTFE(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン)から形成されたグラフトに対して、ニチノールワイヤから形成されたステントが一体化されている。
上記特許文献に開示された人工血管は、外力による曲げ変形に対して内腔面積の減少を防止できるが、金属製の線材が有する弾性力により直線的な形状を維持しようとするため、人工血管を湾曲させた形状のまま体内に埋め込む必要がある場合には、患者の他の器官を傷つけてしまう虞がある。
この金属製多孔チューブによれば、外力による曲げ変形に対しても内腔面積が減少せず、また外力を加えて湾曲変形させた場合は塑性変形することから、弾性力により患者の他の器官を傷つけてしまうといった事態を防止できる。しかし、上記金属製多孔チューブを医療用途に用いる場合、露出した金属製多孔体部分が患部周辺に接触すると組織を傷つける虞がある。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、人体の管状の臓器を補強又は代替する人工臓器や、体液や薬液を体外へ導いたり体内に注入するために体内に挿入されるカニューレやカテーテル等として用いることが可能な新規な医療用チューブを提供することを目的とする。
請求項2に記載の発明は、前記樹脂コーティング層は、前記金属製多孔体を被覆する被覆部と、前記金属製多孔体の軸方向の端縁を超えて軸方向の外側に延長された延長部と、を備えたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、前記金属製多孔体の軸方向の適所に、前記金属製多孔体の変形を阻止可能な硬度を有する材料により形成された変形阻止部を備えたことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、前記樹脂コーティング層が、人体の細胞を定着させる足場材料を含むことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、前記樹脂コーティング層が、治療薬剤を含むことを特徴とする。
図1(A)〜(C)は、本発明の一実施形態に係る管状の金属成形体を示す図である。夫々、縦断面図(軸方向に沿った方向における断面図)と、横断面図(軸方向と直交する方向における断面図)を示している。
金属成形体200は、金属製の線材が螺旋状、且つ多層状に巻き付けられ、更に、各線材同士が焼結処理により接合された金属製多孔体1と、金属製多孔体1の全部又は一部を被覆する樹脂コーティング層210とを備えている。まず、金属製多孔体について説明する。
図2は、金属製多孔体の一例を示す斜視図である。図2には、管状の金属製多孔体1を示している。図3は、図2に示す金属製多孔体を形成する線材層の部分拡大斜視図である。
金属製多孔体1は、金属製の線材が網目状に組み合わせられた構成を有しており、例えば金属製の線材を螺旋状、且つ多層状に所定のピッチで巻き付けることにより形成される。金属製多孔体1は、図3に示すように、金属製の線材2を第一の方向に傾斜させることにより形成された線材層3と、線材2を第一の方向と交差する第二の方向に傾斜させることにより形成された線材層4とが順次積層されている。また、隣接する線材2同士は、焼結処理によって接合されている。
なお、図3には線材層を2層分のみ示している。
金属製多孔体1の代表的な形態として、図2に示した管状の金属製多孔チューブ1Aを挙げることができる。この金属製多孔チューブ1Aは、長手方向の両端が開放された形態である。
管状の金属製多孔体1の他の形態として、図4に示すように、長手方向の一端が開放され、他端が閉じた形態の金属製多孔チューブ1Bを挙げることができる。
金属製多孔体1の更に他の形態として、例えば、図5に示す円環状の金属製多孔体1C及び図6に示す円錐状の金属製多孔体1Dを挙げることができる。
上記各金属製多孔体1は、人の手で変形させてもキンクしないように作製されている。
ここでいう「キンク」とは、金属製多孔体1に外力を加えたときに、金属製多孔体1がつぶれてしまい、金属製多孔体1から外力を除去してもつぶれてしまった金属製多孔体1が元の状態に復元しない現象をいう。
《金属製の線材》
金属製多孔チューブ1Aは、線径が0.05mm以上、0.2mm以下の金属製の線材2(以下、単に「線材2」という。)によって構成されている。
線材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料が用いられている。ステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレス鋼、例えば、JIS規格のSUS304やSUS316L等を挙げることができる。また、線材2は、ステンレス鋼の他に、チタン又はその合金、ニッケル又はその合金を用いてもよい。ニッケル合金としては、種々のものを用いることができる。一例として、ニッケル基にモリブデンやクロムを加えた合金(例えば、ハステロイ(ハステロイは登録商標)等)を用いることができる。また、ニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等を加えた合金(例えば、インコネル(インコネルは登録商標)等)を用いることもできる。こうした金属材料により形成された線材2は、耐熱性、耐薬品性及び耐食性を有している。
(圧延率)={(D1−D2)/D1}×100
・・・式(1)
金属製多孔チューブ1Aは、図3に示すように、金属製の線材2を第一の方向に傾斜させ、所定のピッチで螺旋状に巻き付けて形成された線材層3と、線材2を第一の方向と交差する第二の方向に傾斜させ、所定のピッチで螺旋状に巻き付けて形成された線材層4とが、順次積層されて構成されている。
なお、線材層の数は、金属製多孔チューブ1Aの肉厚に応じて500層〜3000層に設定される。例えば、後述の実施例及び比較例の場合は、1000層〜1500層に設定されている。金属製多孔チューブ1Aは、焼結されることによって、線材2同士が接合されている。
線材2の巻き角度は、5°以上、90°未満の範囲で中空筒状体を形成することができる角度である。より具体的には、巻き角度は40°以上、80°以下である。なお、「巻き角度」とは、図8のθで表されている角度であり、線材層3を構成する線材2と線材層4を構成する線材2とがなす角度を意味する。
この金属製多孔チューブ1Aは、空隙率が32%以上、62%以下であり、密度が7.75g/cm3以上、8.06g/cm3以下のステンレス鋼を用いた場合、嵩密度が3.35g/cm3以上、5.2g/cm3以下である。また、接合された線材2同士の剥離強度は、0.95N以上、1.4N以下である。こうした金属製多孔チューブ1Aは、外径が1mm以上、15mm以下に形成され、内径が0.5mm以上、14mm以下に形成されている。
「空隙率」とは、{(材料比重-製品密度)/材料比重}×100によって表すことができる製品の全容積に対する隙間の容積の割合のことである。
「剥離強度」とは、金属製多孔チューブ1Aから線材2を1本引き出し、引き出された1本の線材2を金属製多孔チューブ1Aから引っ張って、1本の線材2が接合された部分で金属製多孔チューブ1Aから剥離されるのに必要な力のことをいう。
こうした金属製多孔チューブ1Aは、フィルター、センサーカバー、カテーテル、消音材、発泡、拡散材、ガイド等の用途に用いることができる。なお、金属製多孔チューブをフィルターとして使用する場合、図4に示した金属製多孔チューブ1Bは、長手方向の一端が開放され、他端が閉じているので、金属製多孔チューブ1Bの周面だけでなく、閉じた他端もフィルターとして機能する。
図6に示した円環状の金属製多孔体1Cは、フィルター、消音材、発泡、拡散材、流動材等の用途に用いることができ、図6に示した円錐状の金属製多孔体1は、フィルター、センサーカバー、消音材、発泡、拡散材等の用途に用いることができる。
次に、金属製多孔チューブ1Aの製造方法について説明する。
金属製多孔チューブ1Aの製造方法は、圧延された線材2を芯材(不図示)に巻き付け
るワインド工程と、芯材に巻き付けられた線材2を焼結する焼結工程と、焼結された線材2を、芯材に巻き付けられた状態でスウェージングするスウェージング工程と、スウェージング工程が終了した後に、線材2が巻き付けられている芯材を抜き取る芯材抜き取り工程とを備えている。
ワインド工程は、芯材に線材2を巻き付けて管状の部材を形成する工程である。ワインド工程は、線材2を芯材に巻き付ける際に一般的に使用されているワインダー(巻き付け装置)を用いて行われる。線材2は、圧延機で事前に圧延加工されたものを使用してワインダーで芯材の外周面に巻き付けられたり、ワインダーの内部で圧延しつつ芯材の外周面に巻き付けられたりする。
線材2を芯材に巻き付けるとき、線材2は、芯材の軸に対して第一の方向に傾斜されて、芯材の軸方向に所定のピッチで芯材の一端側から他端側に向けて順次巻き付けられる。このように芯材に巻き付けられた線材2は、芯材の外周面で1つの線材層3を形成する。線材2は、こうして形成された線材層3の外周にさらに巻き付けられて、他の線材層4が形成される。この際、線材2は、芯材の軸に対して第一の方向と交差する第二の方向に傾斜されて、芯材の軸方向に所定のピッチで芯材の他端側から一端側に向けて巻き付けられる。
ワインド工程は、線材2を第一の方向に傾斜させて芯材の周りに所定のピッチで巻き付けて形成された線材層3と、線材2を第二の方向に傾斜させて芯材の周りに所定のピッチで巻き付けて形成された線材層4とを順次形成して複数の線材層を多層状に積層して管状の部材を形成する工程である。
スウェージング工程は、線材2からなる管状の部材の外径を所望の寸法に整える冷間鍛造加工工程である。スウェージング工程は、例えば、分割された金型を回転させて、叩きながら管状の部材の外径を絞っていくことによって行われる。
芯材抜き取り工程は、線材2からなる管状の部材から芯材を抜き出して、所望の内径と外径とを有する金属製多孔チューブ1Aを形成させる工程である。芯材が抜き出された管状の部材は、芯材の外径と一致する内径を有すると共に、積層された線材2の層の数に応じた外径を有する金属製多孔チューブ1Aとなる。
以上に説明した工程を経た後、金属製多孔チューブ1Aは洗浄され、樹脂コーティングが施される。
次に、金属の薄層110を設けた金属製多孔チューブ1E、1F、1Gについて図9を参照して説明する。図9(A)〜(C)は、金属の薄層を設けた金属製多孔体の一例を示す縦断面図である
この金属製多孔チューブ1E、1F、1Gは、金属の薄層110を備えている。金属の薄層110は、金属製多孔体である金属製多孔チューブ1E、1F、1Gの内周面、外周面、及び内周面と外周面との間に位置する中間部分の少なくとも1つの部位に設けられることによって構成されている。なお、金属の薄層110を設けた金属製多孔チューブ1E、1F、1Gは、金属の薄層110を設けたこと以外は、金属製多孔チューブ1Aと構成が同じである。
なお、金属の薄層110は、図9(B)に示すように、金属製多孔チューブFの内周面に設けてもよい。内周面に金属の薄層110を設けた金属製多孔チューブ1Fは、図9(B)に示すように、線材2によって管状に形成された多孔質層103と、多孔質層103の内周面に設けられた金属の薄層110とから構成されている。なお、この金属製多孔チューブ1Fの構成は、金属の薄層110を金属製多孔チューブ1Fの内周面に設けたこと以外は、構成が金属製多孔チューブ1Eと同じである。
なお、金属の薄層110は、内周面、外周面及び内周面と外周面との間に位置する中間部分のすべてに設けたり、内周面及び外周面に設けたり、内周面及び中間部分に設けたり、外周面と中間部分に設けたりしてもよい。
こうした金属製多孔チューブ1E、1F、1Gは、その外径D、内径d及び長さLを用途に応じて形成することができる。
また、金属の薄層110を金属製多孔チューブ1Fの内周面に設けた場合(図9(B)参照)、金属の薄層110は、金属製多孔チューブ1Eの内部を金属製多孔チューブ1Fの内周面よりも内側に形成された空間部を移動する流体等の物との間に発生する摩擦を低下させ、流体等の物を円滑に移動させることができる。例えば、金属製多孔チューブ1Eを利用して、流体が金属製多孔チューブ1Eの長手方向の一端側から他端側に移動するように流体を吸引した場合、流体が金属製多孔チューブ1Eの内部を金属製多孔チューブ1Fの内周面よりも内側に形成された空間部を円滑に移動させることができる。
次に、金属の薄層110を設けた金属製多孔チューブ1Eの製造方法を説明する。なお、ここでは、金属の薄層110を設けた金属製多孔チューブの製造にとって特徴的なことだけを説明し、既に説明した金属製多孔チューブ1Aを製造する場合と同一の点については、その説明を省略する。
金属製多孔チューブ1Fは、芯材に薄い金属材料を巻き付ける金属材料巻付工程と、芯材に巻かれた薄い金属材料に線材2を巻き付けるワインド工程と、芯材に巻き付けられた薄い金属材料及び線材2を焼結する焼結工程と、焼結された線材2を、芯材に巻き付けられた状態でスウェージングするスウェージング工程と、スウェージング工程が終了した後に、薄い金属材料及び線材2が巻き付けられている芯材を抜き取る芯材抜き取り工程とを備えている。
金属材料巻付工程は、完成される金属製多孔チューブ1Eの長さに相当する寸法になるように芯材の長手方向に薄い金属材料を芯材に巻き付けている。巻き付ける金属材料は、厚さが2μm〜20μmである。ワインド工程は、芯材に巻かれた薄い金属材料の外周に線材2を巻き付けている。線材2は、芯材に巻かれた薄い金属材料と芯材の長手方向の寸法が同じになるようにして芯材に巻かれる。焼結工程は、薄い金属材料と線材2とを焼結すると共に、線材2同士を焼結している。
最初に芯材に線材2を巻き付ける第1のワインド工程が行われる。第1のワインド工程は、図9(A)に示す金属製多孔チューブ1Eの多孔質層101を形成する工程である。次いで、芯材に巻かれた線材2の外周面に薄い金属材料を巻き付ける金属材料巻付工程が行われる。巻き付ける金属材料は、厚さが2μm〜20μmの範囲内である。薄い金属材料は、芯材に巻かれた線材2の芯材が延びる方向の寸法と同じ寸法だけ巻かれる。その後、薄い金属材料の外周に線材2を巻き付ける第2のワインド工程が行われる。この第2のワインド工程は、図9(A)に示す金属製多孔チューブ1Eの多孔質層102を形成する工程である。第2のワインド工程が終了した後、芯材に巻き付けられた薄い金属材料及び線材2を焼結する焼結工程が行われる。この焼結工程では、薄い金属材料と線材2とが焼結されると共に、線材2同士が焼結される。焼結工程が終了した後、スウェージング工程と芯材抜き取り工程と行われる。
最初に芯材に線材2を巻き付けるワインド工程が行われる。次いで、芯材に巻かれた線材2の外周に薄い金属材料を巻き付ける金属材料巻付工程が行われる。巻き付ける金属材料は、厚さが2μm〜20μmの範囲内である。薄い金属材料、芯材に巻かれた線材2の芯材が延びる方向の寸法と同じ寸法だけ巻かれる。金属材料巻付工程の後、芯材に巻き付けられた薄い金属材料及び線材2を焼結する焼結工程が行われる。この焼結工程では、薄い金属材料と線材2とが焼結されると共に、線材2同士が焼結される。焼結工程が終了した後、スウェージング工程と芯材抜き取り工程と行われる。焼結工程が終了した後、スウェージング工程と芯材抜き取り工程と行われる。
金属の薄層を設けた金属製多孔チューブについても、以上に説明した工程を経た後、洗浄され、樹脂コーティングが施される。
続いて、樹脂コーティング層について図1に基づいて説明する。以下、金属成形体を構成する金属製多孔体として図2に示した管状の金属製多孔チューブ1Aを用いた例に基づいて詳細に説明する。
金属成形体200は、上述のようにして作製された金属製多孔チューブ1Aを被覆する樹脂コーティング層210を備えている。
金属成形体は、図1(A)に示す金属成形体200Aのように、金属製多孔チューブ1Aの外周面をコーティングする外部コーティング層211と、内周面をコーティングする内部コーティング層213の双方を備えてもよい。また、図1(B)に示す金属成形体200Bのように外部コーティング層211のみを備えてもよいし、図1(C)に示す金属成形体200Cのように内部コーティング層213のみを備えてもよい。
樹脂コーティング層210の各部の厚さは、金属製多孔チューブ1Aの内径及び外径、樹脂コーティング層210を形成する樹脂、金属成形体の用途、金属成形体に要求される強度等に応じて適宜設定される。例えば、図1(A)に示す金属成形体200Aでは、金属製多孔チューブ1Aの内径及び外径は夫々2.2mm、3.2mm、長さは26mm、外部コーティング層211の厚さは0.4mm、内部コーティング層213の厚さは0.2mm、端縁部コーティング層212、214の厚さは夫々0.5mmとすることができる。
樹脂コーティング層210は、コーティングした部位において金属製多孔チューブ1Aを形成する線材を露出させることなく被覆し、金属成形体の表面を滑らかにする。
図10は、樹脂コーティング層の他の形態を説明する縦断面図である。本図に示す金属成形体は、金属製多孔体の一部にのみ樹脂コーティング層を備えた点に特徴がある。以下、金属成形体を構成する金属製多孔体として図2に示した環状の金属製多孔チューブ1Aを用いた例に基づいて詳細に説明する。
金属成形体200(200D)は、金属製多孔チューブ1Aの端部を被覆する端部コーティング層220を備えている。金属成形体200(200D)は端部コーティング層220として、金属製多孔チューブ1Aの軸方向端部の外周面をコーティングする外側端部コーティング層221と、軸方向の端面をコーティングする端縁部コーティング層212と、軸方向端部の内周面をコーティングする内側端部コーティング層223を備えている。なお、金属成形体200(200D)は、外側端部コーティング層221と、端縁部コーティング層212と、内側端部コーティング層223の何れか、又はこれらを適宜選択的に組み合わせたコーティング層を備えてもよい。
ここで、端部コーティング層220の厚さは、金属製多孔体の表面(外周面、内周面、端面)に位置する金属線材を基準として規定される。
なお、樹脂コーティング層の軸方向長、厚さ、或いは金属製多孔体の各孔内への浸透度等の設定については、図1に示した樹脂コーティング層210にも同様に当てはめることができる。
図11(a)、(b)は、樹脂コーティング層の更に他の形態を説明する縦断面図である。
図11(a)に示すように樹脂コーティング層は、金属製多孔体の面に応じて(内周面か外周面かによって)、その形成範囲が異なるようにしてもよい。例えば、図2に示した金属製多孔チューブ1Aに樹脂コーティング層を形成する場合、外周側には軸方向の全域に外部コーティング層211を形成し、内周側には軸方向端部に内側端部コーティング層223を形成した管状の金属成形体200(200E)としてもよい。
また、樹脂コーティング層のうち、軸方向端部に位置する部位は、金属製多孔チューブ1Aの端縁から大きく突出させるようにしてもよい。即ち、図11(b)に示すように管状の金属成形体200(200F)の樹脂コーティング層(図では外部コーティング層211)は、金属製多孔チューブ1Aと径方向に重なることにより金属製多孔チューブ1Aを被覆している被覆部211aと、金属製多孔チューブ1Aの端縁を超えて軸方向の外側に延長され、樹脂コーティング層が単独で存在する(金属製多孔チューブ1Aとは重なっていない樹脂コーティング層部分である)延長部211bとを含んでもよい。
なお、樹脂コーティング層は、多層状に形成してもよい。
また、樹脂コーティング層には、形成部位によって異なる樹脂材料を用いてもよい。例えば、金属製多孔チューブ1Aの内周面を被覆する樹脂コーティング層と、外周面を被覆する樹脂コーティング層とに、互いに異なる樹脂材料を用いてもよい。また、軸方向の位置に応じて樹脂コーティング層を構成する樹脂材料を切り替えてもよい。
上記金属製多孔チューブ1Aは、人の手で変形させてもキンクせずに自在に変形可能に構成されているため、樹脂コーティング層210を構成する樹脂は金属製多孔チューブ1Aの変形に追従して変形可能な柔軟性を有したものが使用される。
樹脂コーティング層210に使用可能な樹脂としては、例えばスチレン系樹脂、塩ビ系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、が挙げられる。
金属成形体を再使用する場合は、洗浄、消毒、及び滅菌方法に対応した樹脂が用いられる。例えばオートクレーブによる高圧蒸気滅菌を実施する場合は、耐熱温度130℃以上の樹脂として、ポリオレフィン等を用いるのが好適である。
その他、樹脂コーティング層210に使用する樹脂としては、使用環境に応じて適したものが選択される。
樹脂コーティング層210には上述の樹脂以外にも、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂等を用いてもよい。また、樹脂コーティング層210に使用する樹脂は合成樹脂であってもよいし、天然樹脂であってもよい。天然樹脂は植物由来のものであっても動物由来のものであってもよい。動物由来の樹脂にはタンパク質由来樹脂の一つであるゼラチンやコラーゲンが含まれる。
樹脂コーティング層が、金属製多孔チューブ1Aと共に変形することを要求されない場合や、金属製多孔チューブ1Aの変形を阻止する目的で用いられる場合等には、樹脂コーティング層には、それ自体が変形しないような(又は変形させて使用することを前提としないような)硬質な樹脂を用いることができる。このような用途に用いる樹脂としては、例えば非延伸型のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が挙げられる。
硬質な樹脂から形成される樹脂コーティング層は、金属製多孔チューブ1Aの軸方向の端部、又は中間部の適所に部分的に設けることができる。
硬質樹脂による樹脂コーティング層は金属製多孔チューブ1Aの変形を阻止するが、硬質樹脂によってコーティングされていない金属製多孔チューブ1Aの部分は自在に湾曲変形する。従って、金属製多孔チューブ1Aのうち硬質樹脂による樹脂コーティング層が形成された部位は、例えば金属製多孔チューブ1Aの変形を防止しつつ鉗子等による挟持を可能とする挟持専用部(変形阻止部)として機能させることができる。硬質樹脂からなる樹脂コーティング層は、金属製多孔チューブ1Aの変形に追従して変形する樹脂コーティング層に対して軸方向に並べて配置してもよいし、変形する樹脂コーティング層に重ねて(コーティング層の厚さ方向に重ねて)配置してもよい。
樹脂コーティング層は、インサート成形又はディッピングにより形成される。以下、樹脂コーティング層の形成方法の例として、インサート成形について説明する。
インサート成形では、金型内に金属製多孔チューブを装填した後、金属製多孔チューブの周囲に溶融させた樹脂を注入して固化させ、金属製多孔チューブと樹脂とを一体化した金属成形体を作製する。本例に示すインサート成形は、インサートである金属製多孔チューブを金型に装着して、金属製多孔チューブの周囲に樹脂を射出する射出成形方式によるものである。
図12(A)に示すように、一次インサート成形工程において使用する一次金型230は、金属製多孔チューブ1Aの内周面と所定の間隙を有した状態にて金属製多孔チューブ1Aの一端から金属製多孔チューブ1Aの中空部5内に挿入される円柱状の突起233を有した第一コア231と、金属製多孔チューブ1Aの外周面と密着する内面を有した円柱状の中空空間内に金属製多孔チューブ1Aを収容する第一キャビティ241とを有する。第一キャビティ241は、半円筒状の分割片(軸方向に沿った断面による分割体からなる分割片)に二分割可能に構成されている。第一キャビティ241の最奥部には、端縁部コーティング層214を形成するための空洞部243が形成されている。また、この空洞部243には樹脂注入口245が連通形成されている。
一次インサート成形工程においては、樹脂注入口245から溶融樹脂を所定の圧力にて一次金型230と金属製多孔チューブ1Aとの間に形成された空間内に注入することにより、内部コーティング層213と一方の端縁部コーティング層214を形成する。また、樹脂が固化した後、内部コーティング層213が形成された金属製多孔チューブ1Aが一次金型230から取り出される。
二次インサート成形工程においては、樹脂注入口265から溶融樹脂を所定の圧力にて二次金型250と金属製多孔チューブ1Aとの間に形成された空間内に注入することにより、外部コーティング層211と、他方の端縁部コーティング層212を形成する。また、樹脂が固化した後、金属成形体200Aが二次金型250から取り出される。
なお、インサート成形における注入樹脂の温度及び圧力条件等は、コーティングする樹脂の種類や粘性に応じて適宜設定される。
図13は、ディッピングにより樹脂コーティング層を形成する様子を示した模式図である。金属成形体を構成する金属製多孔体として図2に示した環状の金属製多孔チューブ1Aを用いた例に基づいて説明する。また、金属製多孔チューブ1Aの端部にのみ樹脂コーティング層を形成する例により説明する。
図13(a)に示すように、金属製多孔チューブ1Aを、その軸方向を上下方向とするように吊り下げ支持する。図13(b)に示すように、樹脂材料を溶解させたディップ成形用組成物270(コロイド溶液:ゾル)中に、金属製多孔チューブ1Aを浸漬させる。金属製多孔チューブ1Aの浸漬深さは、形成する樹脂コーティング層の軸方向長に応じて決定する。最後に、図13(c)に示すように、金属製多孔チューブ1Aをディップ成形用組成物270から引き上げて、金属製多孔チューブ1Aに付着させた樹脂材料を固化させる。
ディッピングの場合、インサート成形に比べて樹脂コーティング層を肉薄に仕上げることができる。また、樹脂コーティング層の厚さは、ディップするときに最下部となる金属製多孔チューブの部位は他の部位に比べて比較的肉厚になるものの、その他の部位においてはほぼ一定に(平均的に)形成することができる。また、金属製多孔チューブをディップ成形用組成物に浸漬させて引き上げた後、金属製多孔チューブに付着した余剰のディップ成形用組成物を拭き取ることによって、樹脂コーティング層を更に肉薄に仕上げることができる。樹脂コーティング層を、金属製多孔チューブの表面において各孔を埋める目止め材として機能させる場合、樹脂コーティング層はごく肉薄で足りるため、その形成方法としてディッピングは好適である。
金属製多孔チューブのうち、ディップ成形用組成物内に浸漬させる部位を調整することにより、所望の部位にのみ樹脂コーティング層を形成することができる。例えば、金属製多孔チューブの端部のみをディップ成形用組成物中に浸漬させることで、樹脂コーティング層が端部にのみ形成された金属成形体を得ることができる。また、ディッピング直後にゲル状となっている樹脂コーティング層部分を成形用の雌型内に収容した状態で固化させることによって、樹脂コーティング層を所望の形状に成形すると共に、その表面を滑らかにすることができる。
また、金属製多孔チューブの中空部内に心棒を挿入したり、金属製多孔チューブの適所にマスキングを施す等により、樹脂コーティング層の形成位置を制御できる。
樹脂コーティング層は、塗装により形成することができる。塗装には、吹き付け塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装、又はその他の塗装方法を用いることができる。樹脂コーティング層を塗装により形成する場合、金属製多孔チューブにマスキングを施すことにより、樹脂コーティング層を金属製多孔チューブの任意の位置に形成し、また部位により樹脂コーティング層の厚さを調整することが可能である。塗装には、特にエポキシ系やウレタン系の2液性の塗料を好適に用いることができる。
樹脂コーティング層の厚さは、ディッピングと同様に塗装材料の粘度や塗装回数等によりコントロールできる。塗装材料の粘度は塗装材料に含まれる溶剤の割合等によってコントロールすることができる。
本例においても、ディッピングの場合と同様に、肉厚が樹脂コーティング層の全域において平均的で、且つ肉薄の樹脂コーティング層を形成することができる。
樹脂コーティング層は、熱収縮チューブを利用して形成することができる。
図14(a)〜(c)は、熱収縮チューブにより樹脂コーティング層を形成する様子を示した模式図である。熱収縮チューブを利用する場合、図14(a)に示すように金属製多孔チューブ1Aを熱収縮チューブ280によって被覆し、図14(b)に示すように熱収縮チューブ280を加熱して収縮させることによって、図14(c)に示すように熱収縮チューブが樹脂コーティング層(図では端部コーティング層220)として金属製多孔チューブ1Aに一体化された金属成形体200(200D)を得ることができる。
ここで、熱収縮チューブには、ナイロンエラストマー製の熱収縮チューブ(例えば、株式会社ハギテック製のペバックス)や、株式会社ハギテック製のポリオレフィン製の熱収縮チューブ等を用いることができる。
本例においても、ディッピングの場合と同様に、肉厚が樹脂コーティング層の全域において平均的で、且つ肉薄の樹脂コーティング層を形成することができる。また、熱収縮チューブは固体であり取り扱いが容易であり、また樹脂コーティング層の形成に必要な装置が大がかりとならない。
樹脂コーティング層は、金属製多孔チューブにシート状又はテープ状の樹脂製のコーティング材料を巻き付けた後、溶着させることにより形成することができる。溶着により、コーティング材料同士を一体化させると共に、コーティング材料と金属製多孔チューブを一体化させることができる。加熱による溶着の場合、コーティング材料を含む金属製多孔チューブの全体を炉に入れて加熱してもよいし、高周波や超音波を用いて部分的に加熱してもよい。加熱による溶着は、少なくとも金属製多孔チューブを構成する金属線材が焼結する温度に満たない温度で実施する。
この場合に用いる樹脂材料としては、例えばe−PTFE(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン)を用いることができる。
また、樹脂コーティング層を構成するコーティング材料は、予めチューブ状に成形されていてもよい。この場合、コーティング材料を金属製多孔チューブの内周側及び/又は外周側に配置した後、加熱によりコーティング材料を溶融又は軟化させることにより、コーティング材料と金属製多孔チューブを一体化させることができる。
次に、図15及び図16を参照して、金属成形体を吸引器具に装着した場合の使用例について説明する。図15は、吸引器具の概要を示す平面図である。図16(A)、(B)は、吸引器具の先端に管状の金属成形体を装着した状態を示す図である。
吸引器具60は、図15に示すように、本体61と、本体61の基端側に設けられた接続部62とから構成されている。なお、図15に示した吸引器具60の例では、本体61は先端61a側の直径が小さくなるように形成されている。また、接続部62は、蛇腹状に形成されている。この接続部62は、ゴム管やビニール管等を接続するための部位である。こうした本体61の内部及び接続部62の内部は、本体61の先端61aと接続部62の後端62bとを連絡する図示しない通路を備えている。吸引器具60は、接続部62にゴム管やビニール管等の一端を接続すると共に、ゴム管やビニール管等の他端を図示しないバキューム装置に接続して使用される。吸引器具60は、ゴム管やビニール管等を介して図示しないバキューム装置に接続されることにより、先端61aから物を吸い取る吸引力が与えられる。
吸引器具60の本体61の先端61aには管状の金属成形体200A、200B、200Cの何れかが装着される。図16(A)は本体61の内部に金属成形体200Aを挿入した状態を示しており、図16(B)は本体61の外部を金属成形体200Aにて被覆した状態を示している。
図1に示す金属成形体200A、200B、200Cは、外部コーティング層211と内部コーティング層213の少なくとも一方を備えているので、吸引した体液等を外部に漏らすことなく中空部201内を通過させる。内部コーティング層213を備えた金属成形体200A、200Cでは、吸引した体液等が中空部201内を円滑に通過する。
外部コーティング層211及び端縁部コーティング層212を備えた金属成形体200A、200Bでは、金属成形体200A、200Bと接触した患部周辺の組織を傷つけない。
金属成形体200A、200B、200Cは、内周面又は外周面に樹脂コーティング層を備えているので、金属製多孔チューブ1Aを構成する線材層の層数を低減させたとしても、強度を保持することができる。その結果、金属成形体の材料費を低減でき、金属成形体をディスポーザル品として提供することも可能となる。
なお、金属成形体200Aの用途は、吸引器具60の先端に装着して利用することだけに限定されない。金属成形体200Aは、保護管、ホース、医療用カテーテル、吸引管、絶縁チューブ、洗浄筒先端等にも用いることができる。
本発明の実施形態に係る金属成形体の第二の使用例について説明する。金属成形体は、人体の臓器を置換(代替)又は補強するための人工臓器を含む医療材料として使用することができる。
特に、図2に示す金属製多孔チューブ1Aに樹脂コーティング層を形成した金属成形体は、人体の管状の臓器を置換(代替)又は補強するための人工導管(医療用チューブ)として使用することができる。ここで、「管状の臓器」の一例としては、血管、気管、食道、腸管、尿管等を挙げることができる。
また、管状の金属成形体は、カニューレやカテーテル等の医療器具(医療用チューブ)としても使用することができる。ここで、カニューレ及びカテーテルは、体液や薬液を体外へ導いたり体内に注入するために体内に挿入される管である。カニューレ及びカテーテルは比較的短期間、一時的に体内に挿入するものでも、比較的長期間にわたり体内に留置されるものでもよい。
管状の金属成形体は、全部が人体の中に埋め込まれてもよいし、人体の内外を連通(接続)させるべく、一部が人体の中に埋め込まれ、他部が人体の外部に配置される態様で使用されてもよい。また、管状の金属成形体は、人工臓器のうち体外に配置される部位に使用され、全部が人体の外部に配置される態様で使用されてもよい。
管状の金属成形体を体内に配置する人工導管として使用する場合、金属製多孔チューブを構成する金属としては、特にチタン・チタン合金、ニチノール(Ni−Ti合金)が好適である。これらの金属を用いる場合、金属同士の接合には焼結による拡散接合の他、必要に応じてろう付け、抵抗溶接等を用いることができる。
管状の金属成形体を体内に配置する人工導管として使用する場合、金属製多孔チューブを構成する樹脂コーティング層を構成する樹脂としては、生体適合性(Biocompatibility)に優れた生分解性のない樹脂として特にシリコン、ポリウレタン、PTFE、が好適である。また、人工導管には生体適合性に優れた生分解性のある樹脂を用いることも可能であるが、この場合は、生分解性のある樹脂が分解する過程で生体組織が増殖して、人工導管が担った臓器部分を再生できることが必要である。
金属製多孔チューブ1Aに樹脂コーティング層を形成した管状の金属成形体200A(図1)を気管カニューレとして用いる例について説明する。図17は、本発明の実施形態に係る管状の金属成形体を気管カニューレとして使用した例を示す模式図である。
気管カニューレ300は、気管切開手術により気管に形成された孔を通じて気管に挿入される管状の部材である。気管カニューレ300の軸方向の一端側が体外に配置され、他端側が体内に配置される。気管カニューレ300の軸方向一端寄りの外周面には体外に配置されるフランジ部301が形成されている。気管カニューレ300の軸方向他端寄りの外周面には、気管と気管カニューレ300との隙間を塞ぐための拡縮自在なカフ303が任意で取り付けられてもよい。
金属製多孔チューブ1Aの適所に樹脂コーティング層を形成した管状の金属成形体を人工血管として用いる例を説明する。図18は、本発明の実施形態に係る管状の金属成形体を人工血管として使用した例を示す模式図である。図においては下行大動脈321の一部が金属成形体200(200F)によって置換されている。
図示する金属成形体は、図11(b)に示した延長部211bを有する金属成形体200Fであり、金属成形体200Fの一方の端部に位置する延長部211bが下行大動脈321の上流側(心臓側)に縫合され、他方の端部に位置する延長部211bが下行大動脈321の下流側(心臓とは反対の側)に縫合されることにより、金属成形体200Fが下行大動脈321に一体化されている。即ち、本例において延長部211bは、人体臓器との接合(縫合)に用いられる接合部(縫合部)として機能する。
ここで、金属成形体200Fは内径が確保された中空状の形態のまま人の手で湾曲変形させることができるので、下行大動脈321の湾曲形状に合わせて変形させて使用することができる。
人工導管として使用される管状の金属成形体を構成する金属線材の線径、圧延率、金属製多孔体の内径及び外径(金属線材の巻き付け回数)は、人工導管が埋め込まれる箇所に応じて適宜設定される。
ここで、人体内に全部又は一部が埋め込まれる人工導管においては、人体への負担を極力少なくするために、できるだけ外径が小さく、且つできるだけ大きい内径を有すること、即ち肉薄であることが望まれる。しかし、人工導管は肉薄であるほど、外力に弱くなり押しつぶされやすくなるという問題がある。
本発明の一実施形態に係る管状の金属成形体を人工導管として用いる場合、金属成形体は金属構造部分を含むため、金属製多孔体を肉薄に仕上げながらも、金属製多孔体を外側に押し広げようとする外力、又は内側に押しつぶそうとする外力に対して比較的高い耐力を備えた人工導管を提供することができる。
しかし、このような人工血管を外力により湾曲させた場合には、サポート部材が有する弾性力により直線的な形状を維持しようとする反力が働く。仮に、人工血管を湾曲させた形状のまま体内に埋め込む必要がある場合には、患者の他の器官を傷つけてしまう虞がある。
本発明の各実施形態に係る管状の金属成形体は、人の手で自由に湾曲させることが可能でありながら、キンクせずに塑性変形し、内径が確保された中空状の形態を保持できるという特徴がある。また、変形させた後は、弾性的に元の形状に復帰しようとはせずに、その形態を維持する。従って、変形させた後の管状の金属成形体には、元の形状に復帰しようとする反力が働かず、その形状を維持するため、体内に埋め込まれた場合であっても、弾性力により患者の正常な器官を傷つけるといった事態を防止できる。
しかし、より長期にわたって管状の金属成形体を体内に留置し、安定した導管機能を発揮させるためには、単に異物を排除するという生体反応を最小限に抑えるような性質を有しているだけではなく、金属成形体の表面に患者の自己組織(内皮組織)が形成されるよう促進することが望ましい。
血栓をアンカリングすることによって、血液中への血栓の脱落を防止することができ、また、アンカリングされた血栓の上に内皮細胞が定着し、抗血栓性を高めることも期待できる。究極的には血液との接触部の全体を内皮細胞で覆うことが理想的であるが、内皮細胞の細胞分裂回数には限界がある。
また、これらの足場材料には、治療薬剤を含んでもよい。治療薬剤として内皮組織の形成を促進する薬品を混合しておくことで、金属成形体への細胞の定着及び細胞の増殖を図ることができる。この場合、金属製多孔体にコーティングする足場材料には徐放性を有する形態に調整した治療薬剤を混合したり、内部に保持した治療薬剤を徐放する性質を有する徐放性ゼラチンハイドロゲルをコーティングすること等が好適である。
また、金属成形体にコーティングする足場材料には、内皮組織の形成を促進する治療薬剤の代わりに、又はこれと合わせて、抗血栓性を高めるための治療薬剤として、凝固因子を抑制する抗血液凝固薬であるヘパリン、血小板の活性を抑制するプロスタグランディン、或いは血栓溶解薬であるウロキナーゼ等を混合してもよい。
以下、金属製多孔体の実施例及び比較例に基づいて、キンクせずに自在に変形可能な金属製多孔体に必要な条件について詳細に説明する。図19は、実施例及び比較例の物性値をまとめた表である。
実施例1では、材質がJIS規格のSUS304(密度は7.93g/cm3である。)、線径が0.13mmの丸線材を圧延加工して圧延率63%に形成された線材2を用いて金属製多孔チューブ1Aを作製した。
実施例1の金属製多孔チューブ1Aの作製は、以下の工程を経て行った。
最初にワインダーの内部で丸線材を圧延加工し、圧延率が63%の線材2を形成した。次に、圧延加工された線材2をセラミックス製の芯材(不図示)に巻き付けて芯材の外周面に管状の部材を形成した。具体的には、まず、線材2を芯材の軸に対して一方向に傾斜させ、芯材の周りに一定のピッチで芯材の軸方向の一方向に順次巻き付けて1つの線材層3を形成した。次に、この1つの線材層3の外周から線材2を芯材の軸に対して逆向きの方向に傾斜させ、芯材の周りに一定のピッチで芯材の軸方向の逆方向に巻き付けてさらに線材層4を形成した。こうした手順を300回繰り返して行い、線材2からなる複数の線材層を芯材の外周面に形成して管状の部材を芯材の外周面に作製した。
次いで、熱処理を行った。熱処理は、管状の部材を芯材ごと真空炉に入れて、温度を1180℃にして180分行った。こうした熱処理を行うことによって、線材2同士を焼結した。
その後、管状の部材の外径が所定の寸法に形成されるように、芯材の外周面に巻かれた管状の部材をスウェージングした。スウェージングを行った後、管状の部材を芯材ごと真空炉に入れてもう一度熱処理を行った。熱処理は、温度を1180℃にして180分行った。2回目の熱処理後、芯材を取り外して実施例1の金属製多孔チューブ1Aを得た。
以下、実施例1と同様にして、図19に示す物性表の実施例2〜9、比較例1〜7に示すような金属製多孔チューブ1Aを作製した。
なお、JIS規格のSUS316Lの密度は7.98g/cm3である。
実施例9の金属製多孔チューブ1Aの熱処理は、980℃の温度で180分行った。
比較例5の金属製多孔チューブ1Aの熱処理は、780℃の温度で180分行った。比較例5では、熱処理の温度が低く、線材2が焼結されなかった。
実施例1〜9及び比較例1〜7の「嵩密度」は、上述した単位体積の質量=製品重量/製品体積によって表すことができる、製品の重量を製品の体積で除した単位体積あたりの質量のことであり、「空隙率」は、上述した{(材料比重-製品密度)/材料比重}×100によって表すことができる製品の全容積に対する隙間の容積の割合のことであり、「圧延率」は、上記の式(1)によって求められた数値をそれぞれ意味する。
図20は、第1の曲げ試験の説明図である。第1の強度試験は、図20に示すように、引っ張り試験機(ORIENTEC社製、RT−1250A型)と自作した試験用のジグとからなる曲げ試験機10を使用して試験片50を曲げ変形させ、試験片50がキンクするか否かを確認する試験である。
曲げ試験機10は、試験片50を支持する1対の支持部11と、この支持部11によって支持された試験片50を押圧するためのアーム12とを備えている。
アーム12は、その下部に、接続棒13と接続棒13の下端に取り付けられた押圧体14とを備えている。
押圧体14は、直径が5mmに形成された円柱状の部材であり、押圧体14の外周面が試験片50に押し当てられるように構成されている。
図21は、第2の曲げ試験の説明図である。第2の強度試験は、図21に示すように、引っ張り試験機(ORIENTEC社製、RT−1250A型)と自作した試験用のジグとからなる曲げ試験機20を使用して試験片50を曲げ変形させ、試験片50がキンクするか否かを確認する試験である。
この曲げ試験機20は、上下方向に延びる円柱状の支持棒21と、この支持棒21の上端部に試験片50を支持する支持部22と、支持部22に支持された試験片50を押圧する円柱状のアーム23とを備えている。
支持部22は、板状の部材が支持棒21の上端から上方に向けて突出するようにして設けられた部材であり、その板厚は3mmである。支持部22は、その中央部分に穴22aを備えており、試験片50を穴22aに通して試験片50を支持するように構成されている。
アーム23は、その下端部に試験片50を押圧するための1対の押圧板24を備えている。
1対の押圧板24は、所定の距離だけ間隔を空けてアームの下端部に設けられている。1対の押圧板24は、その間に支持部22を位置させて支持部22の両側から試験片50を押圧するように構成されている。
表3は、線材2の圧延率順に、実施例1〜7と比較例1〜4の強度試験結果をソートし直したものである。
しかし、圧延率が39%以上63%以下の範囲に含まれる40%であっても、実施例3、4、5、6の試験片50は「キンクしない」という結果を得られたが、実施例1、2の試験片50は「キンクしにくい」という結果しか得られなかった。このことから、圧延率が39%以上63%以下であることは、必要条件ではあるが、十分条件とまではいえないということができる。
しかし、試験片50の嵩密度が3.35g/cm3以上5.11g/cm3以下の範囲に含まれる3.98g/cm3である実施例7の試験片50は「キンクしにくい」という結果しか得られなかった。このことから、試験片50の嵩密度が3.35g/cm3以上5.11g/cm3以下であることは、必要条件ではあるが、十分条件とまではいえないということができる。
しかし、試験片50の空隙率が35.9%以上58%以下の範囲に含まれる50.2%である実施例7の試験片50は「キンクしにくい」という結果しか得られなかった。このことから、試験片50の空隙率が35.9%以上58%以下であることは、必要条件ではあるが、十分条件とまではいえないということができる。
剥離強度試験は、図22に示すように、引っ張り試験機(ORIENTEC社製、RT−1250A型)に自作した試験用のジグを装着した引っ張り試験機30を使用して、焼結によって接合された線材2が剥離する際の荷重を測定する試験である。使用した引っ張り試験機30は、ベース31と、一定の間隔を空けてベース31に取り付けられた1対の保持部32と、ベース31に対して上下に移動するチャック部33とを備えている。
剥離強度試験は、上記実施例8の金属製多孔チューブ1Aと、比較例5、6の金属製多孔チューブ1Aとを試験片50として行った。その際、試験片50を1対の保持部32に保持させ、線材2を試験片50の外周面から1本引き出し、引き出された1本の線材2をチャック部33で保持し、チャック部33を試験片50から引き離して引き出された1本の線材2を試験片50から引っ張ることによって行った。チャック部33を試験片50から引き離す際、焼結によって接合された線材2が剥離するときの荷重を複数測定することができる。評価の対象となる試験結果は、複数の剥離強度の平均値である。
こうした剥離強度試験を行って実施例8の試験片50と、比較例5、6の試験片50の剥離強度を測定した。剥離強度試験の後、各試験片50を折り曲げてキンクしたかどうかを確認するキンク確認試験を行った。その際、試験片50の内側の部分がなす角度が、約110°になるように折り曲げた。
これに対し比較例5の試験片50は、熱処理の温度が低かったため線材2が焼結されなかった。そのため、剥離強度を測定することができなかった。また、比較例5の試験片50は、キンク確認試験によってキンクの有無を確認することもできなかった。比較例6の試験片50は、「キンクした」という結果を得た。比較例6の試験片50の剥離強度は、0.93Nであった。
実施例8の試験片50の試験結果と、比較例6の試験片50の試験結果とを比較する。実施例8の試験片50の剥離強度は1.08Nであり、比較例6の試験片50の剥離強度は0.93Nである。このように、実施例8の試験片50の剥離強度と比較例6の試験片50の剥離強度とは、共に1N付近である。両者の剥離強度は共に1N付近であるにもかかわらず、実施例8の試験片50は「キンクしない」という結果を得た一方で、実施例9の試験片50は「キンクした」という結果を得た。そこで、剥離強度以外の物性値についても両者を比較する。
図19の物性表に示すように、実施例8の試験片50及び比較例6の試験片50の線材2の材質、線材2の線径、試験片50の内径、試験片50の外径及び試験片50の全長は同じである。しかし、線材2の圧延率、試験片50の嵩密度及び試験片50の空隙率は、次のように相違する。
実施例8の試験片50の試験結果と比較例6の試験片50の試験結果との比較から分かることは、金属製多孔チューブ1Aを構成する線材2の剥離強度が1N付近である場合でも、金属製多孔チューブ1Aの空隙率が32%以上62%以下の範囲、嵩密度が3.35g/cm3以上5.2g/cm3以下の範囲、線材の圧延率が39%以上63%以下の範囲を外れた場合には、金属製多孔チューブがキンクすることである。
厚さが約5μm、幅が6mmのSUS304の薄い金属材料を図示しないセラミックス製の芯材に巻き付け、その後に、線材2をSUS304の薄い金属材料の外から巻き付ける工程を経て、図9(B)に示す内周面に金属の薄層を備えた金属製多孔チューブ1Fを製作した。製作した金属製多孔チューブ1Fは、外径Dが2mmであり、内径dが1.3mmであり、長さLが20mmであり、金属の薄層の厚さが5μmであった。
実施例10の金属製多孔チューブ1Fを用いて流体を吸引したところ、金属製多孔チューブ1Fは、内周面よりも内側に形成された空間部をする流体を外部に漏らさないで金属製多孔チューブ1Fの長手方向の一端側から他端側に移動させることができた。
図23は、管状の金属成形体の断面写真であり、(A)は縦断面写真であり、(B)は横断面写真である。製作した金属成形体は、図1(A)に示した金属成形体200Aであり、ステンレス線材からなる管状の金属製多孔体1Aの全体に対して、図12(A)、(B)に夫々示した一次金型230と二次金型250を用いて、射出成形方式によるインサート成形によりエラストマー樹脂による樹脂コーティング層210を形成したものである。
使用した金属製多孔体1Aの内径はφ2.2mm、外径はφ3.2mm、長さは26mmである。また、外部コーティング層211の厚さは0.4mm、内部コーティング層213の厚さは0.2mm、端縁部コーティング層212と端縁部コーティング層214(不図示)の厚さは、夫々0.5mmである。
断面写真から確認できるように、実施例11の金属成形体200Aの表面には、金属製多孔体1Aに対して均一に樹脂コーティング層210が形成されており、樹脂コーティング層210の厚さの寸法精度が高く維持されている。また、金属製多孔体1Aを構成する線材2の位置ずれや剥離等は確認できなかった。
また、この金属成形体200Aに対して外力を加えて変形させたところ、キンクを発生させることなく自在に変形させることができた。
〈第一の実施態様〉
本態様は、人体に挿入されるか、又は少なくとも一部が人体内に埋め込まれる医療用チューブ(金属成形体200)であって、金属線材が螺旋状、且つ多層状に巻き付けられ、各金属線材同士が焼結処理により接合された管状の金属製多孔体(金属製多孔チューブ1A)と、金属製多孔体の変形に追従して変形可能な柔軟性を有する樹脂により形成され、金属製多孔体の少なくとも一部を被覆する樹脂コーティング層(210、220)と、を備えたことを特徴とする。
人体内に全部又は一部が埋め込まれる医療用チューブにおいては、人体への負担を極力少なくするために、できるだけ外径が小さく、且つできるだけ大きい内径を有すること、即ち肉薄であることが望まれる。しかし、医療用チューブは肉薄であるほど外力に弱くなり押しつぶされやすくなるという問題がある。本態様に係る医療用チューブは金属構造部分を含むため、金属製多孔体を肉薄に仕上げながらも、医療用チューブを変形させようとする外力に対して比較的高い耐力を備えた医療用チューブを提供することができる。
また、医療用チューブにおいては、キンクせずに湾曲変形し、変形後も内腔面積を保持することが要求される。このような性質は金属製多孔体部分に担保させることができる。本態様においては樹脂コーティング層が金属製多孔体の変形に追従して変形するので、金属製多孔体の特性を活かすことができる。また、樹脂コーティング層を備えることにより、医療用チューブとして使用するに適した生体適合性を付与することができる。
また、本態様の医療用チューブは金属線材同士が焼結処理により接合されているので、焼結処理により発現する金属の優れた特性を活かすことができる。即ち、医療用チューブは湾曲変形させた場合には塑性変形するため、弾性力により患者の正常な器官を傷つけるといった事態を防止できる。
本態様に係る医療用チューブ(金属成形体200F)において、樹脂コーティング層(外部コーティング層211)は、金属製多孔体(金属製多孔チューブ1A)を被覆する被覆部211aと、金属製多孔体の軸方向の端縁を超えて軸方向の外側に延長された延長部211bと、を備えたことを特徴とする。
金属成形体を医療用チューブとして用いる場合、金属成形体を人体の臓器と何らかの方法により接合する必要がある。本態様によれば、延長部を人体の臓器と接合(縫合)する接合部(縫合部)として機能させることができる。
本態様に係る医療用チューブ(金属成形体200F)において、金属製多孔体(金属製多孔チューブ1A)の軸方向の適所に、金属製多孔体の変形を阻止可能な硬度を有する材料により形成された変形阻止部を備えたことを特徴とする。
外科的手術により医療用チューブを体内に埋め込む場合、医療用チューブを鉗子等で挟持したい場合がある。しかし、金属製多孔体に、キンクせずに内腔面積を保持したまま自在に湾曲変形可能な性質を持たせる場合、鉗子等で強く挟持すると医療用チューブがつぶれてしまう虞がある。本態様によれば、鉗子等で挟持するための専用の部位として変形阻止部を設けることにより、医療用チューブの損傷を防止することができる。
本態様に係る医療用チューブ(金属成形体200F)において、樹脂コーティング層(210、220)が、人体の細胞を定着させる足場材料を含むことを特徴とする。
足場材料としては、ゼラチンやコラーゲン、ポリグリコール酸(PGA)やポリ乳酸(PLA)等を用いることができる。医療用チューブが足場材料による樹脂コーティング層を備えることにより、金属成形体の表面において細胞の増殖を促し、定着させることができる。
本態様に係る医療用チューブ(金属成形体200F)において、樹脂コーティング層(210、220)が、治療薬剤を含むことを特徴とする。
例えば治療薬剤として内皮組織の形成を促進する薬品を用いれば、金属成形体の表面により効率的に細胞を定着させることができる。
Claims (5)
- 人体に挿入されるか、又は少なくとも一部が人体内に埋め込まれる医療用チューブであって、
金属線材が螺旋状、且つ多層状に巻き付けられ、前記各金属線材同士が焼結処理により接合された管状の金属製多孔体と、
前記金属製多孔体の変形に追従して変形可能な柔軟性を有する樹脂により形成され、前記金属製多孔体の少なくとも一部を被覆する樹脂コーティング層と、を備えたことを特徴とする医療用チューブ。 - 前記樹脂コーティング層は、前記金属製多孔体を被覆する被覆部と、前記金属製多孔体の軸方向の端縁を超えて軸方向の外側に延長された延長部と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
- 前記金属製多孔体の軸方向の適所に、前記金属製多孔体の変形を阻止可能な硬度を有する材料により形成された変形阻止部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用チューブ。
- 前記樹脂コーティング層が、人体の細胞を定着させる足場材料を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の医療用チューブ。
- 前記樹脂コーティング層が、治療薬剤を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の医療用チューブ。
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