以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の第1の制動装置および本発明の第2の制動装置は、例えば、車椅子、手押車、子供用自転車などの子供用乗り物、三輪自転車、荷物運搬台車、リヤカー、買物カートあるいはキャスター等の車輪の制動装置として採用することができる。以下の説明では、本発明における、第1の制動装置の一実施形態、および第2の制動装置の一実施形態を車椅子の制動装置に採用した態様を例にあげて説明する。
図1は、本発明の第1の制動装置の一実施形態、および本発明の第2の制動装置の一実施形態を備えた車椅子1の斜視図である。以下の説明では、前後あるいは左右の用語は、車椅子1に座った利用者を基準にして用いている。すなわち、車椅子に座った利用者の前方を前とし、後方を後とし、左手側を左とし、右手側を右としている。したがって、図1では、左斜め下方が前になり、右斜め上方が後になり、右斜め下方が左になり、左斜め上方が右になる。また、前進とは車椅子1に座った利用者の前方に移動することをいい、後進とは車椅子1に座った利用者の後方に移動することをいう。図2以降においても、図1における前後左右を基準に説明する。
図1に示すように、車椅子1は、本体10と、本体10の左右それぞれに回転自在に設けられた車輪2とを備えている。本体10は、利用者が座る座部11と、車体を構成するパイプ状のフレーム12と、左右一対の肘掛13とを備えている。また、本実施形態の車椅子1は、本体10の後方側にハンドル部14が設けられている。このハンドル部14は、例えば、介助者などが車椅子1を移動させる際に掴む部分であり、このハンドル部14には、移動する車椅子1を停止させる不図示のブレーキの操作部141が設けられている。車輪2には、車椅子1に座った利用者が掴むハンドリム22が設けられ、また、本実施形態の車椅子1には、車輪2の他に、一対の補助車輪15が設けられている。この補助車輪15は、車輪2の前方に配置され、主として車椅子1の進行方向を決定するものである。本実施形態では、路面や床面に接する外周部分がゴムで構成された車輪2を採用しており、これら一対の車輪2が回転することで車椅子1が前方または後方に移動し、これら一対の車輪2の回転を停止させることで車椅子1の移動が停止し、これら一対の車輪2の回転を制動し停止した状態を維持することで車椅子1の停止状態が維持されるものである。本実施形態の車椅子1には、これら一対の車輪2の回転を制動する、上ブレーキ3と下ブレーキ5が、一対の車輪2それぞれに設けられている。なお、図1では、右側の車輪2に設けられた上ブレーキ3と下ブレーキ5は、肘掛13やフレーム12等に隠れている。上ブレーキ3は、第1の制動装置の一例に相当するものであり、下ブレーキ5は、第2の制動装置の一例に相当するものである。一対の車輪2それぞれに設けられた、一対の上ブレーキ3と一対の下ブレーキ5は、左右で同一構造であるため、以下では、左側の車輪2に設けられた上ブレーキ3と下ブレーキ5を例に挙げて説明する。
図2は、図1に示す上ブレーキ3が車輪2の回転を制動する様子を模式的に示す図である。図3(a)は、図2(c)に示す、車輪2の回転を制動した上ブレーキ3を解除する様子を模式的に示す図であり、同図(b)は、上ブレーキ3を作動させない状態を模式的に示す図である。図2および図3では、左側が前側になり、左側に進むことで前進することになる。また、右側が後になり、右側に進むことで後進することになる。なお、図2および図3に示す車輪2は、その外周部分21における、上ブレーキ3と接触する部分とその周囲の一部を示している。
図2(a)に示すように、上ブレーキ3は、接触部材31と、この接触部材31を回動自在に支持する軸部材32と、接触部材31の回動を規制するストッパ33とを備えたものである。接触部材31は、例えば樹脂によって構成された円盤状のものであり、円筒状の外周面311、すなわち曲面状の外周面311を有し、水平方向(図2および図3では紙面に直交する方向)に延在した軸部材32を回動中心として回動自在に配置されている。軸部材32は、図1に示すフレーム12に固定されたものであり、接触部材31の中心Oからズレた偏心位置に設けられている。なお、図2(a)では、接触部材31の中心Oを便宜的に示している。軸部材32が接触部材31の偏心位置に設けられているため、外周面311における周方向の部位によって軸部材32からの間隔が相違する。以下、図2(a)において、Minを付した両矢印で示す、軸部材32から外周面311までの最小の間隔を最小間隔Minと称することがあり、Maxを付した両矢印で示す、軸部材32から外周面311までの最大の間隔を最大間隔Maxと称することがある。また、図2(a)では、接触部材31は、自重により外周面311が車輪2の外周部分21に接触している。以下、接触部材31の外周面311における、車輪2に接触している箇所を接触部311aと称することがあり、図2(a)において、Cを付した両矢印で示す、軸部材32から接触部311aまでの間隔を接触部間隔Cと称することがある。接触部材31は、例えば、車輪2に接触していない状態から自重によって反時計回りに回動させることで、図2(a)に示すように接触部311aが車輪2の外周部分21に接触する。
図2(b)は、図2(a)に示す状態から、図の円弧状の矢印で示すように車輪2を反時計回りに回転させ、図1に示す車椅子1を前進させている様子を示している。図2(b)に示すように、車椅子1を前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2が回転すると、接触部材31の外周面311と車輪2の外周部分21とはすべって空回りする状態になる。また、車輪2の素材と接触部材31の素材との組合せによっては円弧状の両矢印で示すように、接触部材31が車輪2上で跳ねるようにばたつく状態になる。いずれにおいても、車椅子1を前進させる方向に車輪2が回転しても、上ブレーキ3によって車輪2の回転は制動されないため、車椅子1の前進は規制されない。
図2(c)は、同図(a)に示す状態から、図の太い円弧状の矢印で示すように車輪2を時計回りに回転させ、図1に示す車椅子1を後進させようとする様子を示している。図2(c)では図2(a)に示す状態を一点鎖線で示しており、この一点鎖線で示す状態から車椅子1を後進させる方向(図では時計回り)に車輪2が回転すると、この車輪2の回転に伴い、図では円弧状の細い矢印で示すように接触部材31が反時計回りに回動する。接触部材31が回動するにつれて接触部間隔Cは次第に大きくなり、接触部材31は車輪2に圧接し、本実施形態では接触部材31が車輪2に食い込んでいく。この結果、接触部材31によって車輪2の外周部分21に摩擦力が付与され、この摩擦力が次第に増加していく。やがて、接触部間隔Cが最大間隔Maxに一致すると、車輪2の外周部分21に付与される摩擦力も最大になる。図2(c)では、接触部間隔Cが最大間隔Maxに一致した状態を二点鎖線で示している。さらに、車椅子1を後進させる方向に車輪2を回転させると、接触部材31がストッパ33に当接し、接触部材31の回動が規制される。すなわち、ストッパ33は、規制部材の一例に相当する。接触部材31は、ストッパ33に当接した状態からストッパ33とは反対の方向、すなわち時計回りに回動しようとすると、二点鎖線で示す、車輪2の外周部分21に付与される摩擦力が最大になる状態までは接触部間隔Cが大きくなり、車輪2に付与される摩擦力も増加する。このため、ストッパ33に当接した状態から接触部材31を時計回りに回動させるためには、増加する摩擦力に抗する力が必要になり、この力が付与されない限り、接触部材31はストッパ33に接触した状態で安定する。これにより、車輪2に摩擦力が付与され、車輪2の回転が制動される。この結果、図1に示す車椅子1の移動を阻止することが可能になる。すなわち、上ブレーキ3は、車椅子1の前進は許容しつつ、車椅子1を僅かに後進させることで車輪2の回転を制動し、車椅子1の不用意な移動を阻止するものである。この上ブレーキ3によれば、接触部材31を車輪2に圧接するための力を必要とせず、また、接触部材31を車輪2に接触させる調整が容易であり、摩擦力を安定して付与することができる。
続いて、図3(a)を用いて、図2(c)に示す、上ブレーキ3の解除について説明する。図1に示す車椅子1を前進させる方向に押し、図3(a)の太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2を回転させると、図では円弧状の細い矢印で示すように接触部材31が時計回りに回動する。二点鎖線で示す、車輪2に付与される摩擦力が最大になる状態を乗り越える力が車輪2の回転によって付与されると、接触部材31は、図2(a)に示す状態、すなわち自重によって車輪2に接触する状態まで回動する。これによって、車輪2に付与されていた摩擦力が消滅し、車輪2の回転の制動が解除される。
また、図1に示す車椅子1をブレーキをかけずに後進させる場合など、上ブレーキ3を作動させたくない場合には、図3(b)において一点鎖線で示す、図2(a)に示す状態、すなわち自重によって接触部材31が車輪2に接触する状態から、円弧状の矢印で示すように接触部材31をストッパ33に当接するまで時計回りに回動させる。これにより、接触部材31は、車輪2から離間した状態に支持され、車輪2が回転しても接触部材31は回動せず、上ブレーキ3は作動しない。すなわち、ストッパ33は、支持部材の一例にも相当し、本実施形態のストッパ33は、規制部材と支持部材とを兼ねるものである。もちろん、規制部材と支持部材をそれぞれ設ける態様を採用することも可能である。
図4は、図1に示す下ブレーキ5の構造および動作を説明するための図である。図4(a−1)、同図(a−2)および同図(a−3)は、下ブレーキ5を上方から見た図であり、図4(b−1)、同図(b−2)および同図(b−3)は、下ブレーキ5を、図1に示す車椅子1の左側方から見た図である。図4では、下ブレーキ5が固定されたフレーム12の一部と、車輪2の一部も示している。この車輪2の一部は、その外周部分21における、下ブレーキ5と接触する部分とその周囲の一部である。図4では、左側が前側になり、右側が後側になる。また、図4(a−1)、同図(a−2)および同図(a−3)では、上側が右側になり、下側が左側になり、図4(b−1)、同図(b−2)および同図(b−3)では、紙面奥側が右側になり、紙面手前側が左側になる。
図4(a−1)および同図(b−1)に示すように、下ブレーキ5は、第2接触部材51、第2軸部材52、ベース板53、退避アーム54、圧縮コイルばね55、押付アーム56および引張コイルバネ57を有している。また、図4(b−1)に示すように、ベース板53の上側部分には上側ストッパ58が設けられ、ベース板53の下側部分には下側ストッパ59が設けられている。上側ストッパ58は、一方向側規制部材の一例に相当するものであり、下側ストッパ59は、他方向側規制部材の一例に相当するものである。また、下側ストッパ59は、退避アーム54の下端側部分をベース板53に取付ける機能も兼ねるものである。なお、図4(a−1)、同図(a−2)および同図(a−3)では、図面を簡略化するため、上側ストッパ58および下側ストッパ59は省略している。
第2接触部材51は、円盤状のものであり、曲面状の外周面511を有している。この外周面511は、左右方向(図4(a−1)では上下方向)に平行な平行面5111と、左方向に先細りしたテーパ面5112とを有している。第2接触部材51は、中心からズレた偏心位置に設けられた第2軸部材52に回動自在に支持されており、圧縮コイルばね55によって左方向(図4(a−1)では下方向)に付勢されている。これにより、第2接触部材51の外周面511が車輪2の外周部分21に接触している。なお、図4(a−1)および同図(b−1)では、第2接触部材51の外周面511における平行面5111を車輪2に接触させているが、テーパ面5112が車輪2に接触してもよい。すなわち、細かな調整は不要であり、第2接触部材51を車輪2に接触させるための調整が容易になる。第2接触部材51の左側(図4(a−1)では下側)には、第2軸部材52が貫通した退避アーム54が設けられている。また、第2接触部材51の右側(図4(a−1)では上側)には、引張コイルバネ57の一端が取り付けられ、引張コイルバネ57の他端は、ベース板53に回動可能に軸支された押付アーム56に取り付けられている。
図5は、図4(a−1)および同図(b−1)に示す状態の下ブレーキ5において、車輪2の回転を制動する様子を模式的に示す図である。図5および後述する図6では、図4(a−1)および同図(b−1)に示す下ブレーキ5のうち、第2接触部材51、第2軸部材52、上側ストッパ58、下側ストッパ59および車輪2の一部を模式的に示している。また、第2軸部材52から第2接触部材51の接触部511aまでの間隔を第2接触部間隔C2と称することがあり、図の左側が前側になり、右側が後側になる。
図5(a)は、第2接触部間隔C2が、第2軸部材52から外周面511までの最小の間隔に一致した状態である。図5(b)に示すように、同図(a)の状態から、太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1が後進する方向(図では時計回り)に車輪2を回転させる。これにより、細い円弧状の矢印で示すように、第2接触部材51が第2軸部材52を回動中心にして反時計回りに回動し、一点鎖線で示す状態から二点鎖線で示す状態に変化し、さらに実線で示す状態、すなわち下側ストッパ59に接触するまで第2接触部材51が回動する。この結果、第2接触部間隔C2が大きくなることで、第2接触部材51が車輪2に圧接し、これにより車輪2に摩擦力を付与して車輪2を制動することができる。
一方、図5(c)に示すように、同図(a)の状態から、太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1が前進する方向(図では反時計回り)に車輪2を回転させる。これにより、細い円弧状の矢印で示すように、第2接触部材51が時計回りに回動し、一点鎖線で示す状態から二点鎖線で示す状態に変化し、さらに上側ストッパ58に接触するまで第2接触部材51が回動する。この結果、第2接触部間隔C2が大きくなることで、第2接触部材51が車輪2に圧接し、これにより車輪2に摩擦力を付与して車輪2を制動することができる。
図4(a−2)および同図(b−2)は、第2接触部材51を、第2軸部材52の延在方向に移動させることで、第2接触部材51が車輪2に接触しない状態に切り換えた様子を示している。退避アーム54を右方向(図4(a−2)では上方向)に押すことで、図4(a−2)の矢印に示すように、圧縮コイルばね55の付勢力に抗して第2接触部材51が右方向に移動し車輪2から離間する。なお、退避アーム54は、不図示のロック部材により、第2接触部材51を車輪2から離間させた姿勢に維持することができる。これにより、下ブレーキ5が解除される。また、不図示のロック部材を解除すれば、圧縮コイルばね55の付勢力によって、第2接触部材51と退避アーム54が左方向(図4(a−2)では下方向)に移動し、図4(a−1)および同図(b−1)に示す状態に変化し、車輪2を制動することができる状態に切り替わる。すなわち、下ブレーキ5は、第2接触部材51を第2軸部材52の延在方向に移動させることで、第2接触部材51が車輪2に接触しない状態と接触する状態との間で切り換えることができるものである。
さらに、図4(a−2)および同図(b−2)に示す状態から、同図(a−3)および同図(b−3)に示すように、押付アーム56を反時計回りに回動させ、これにより第2接触部材51を反時計回りに回動させることによっても、第2接触部材51を車輪2に接触させることができる。
図6は、図4(a−3)および同図(b−3)に示す状態の下ブレーキ5において、車輪2の回転を制動する様子を模式的に示す図である。
図6(a)は、図4(a−3)および同図(b−3)に示すように、押付アーム56を反時計回りに回動させることで第2接触部材51を車輪2に接触させた様子を模式的に示している。なお、図4(a−2)および同図(b−2)に示す、第2接触部材51が車輪2から離間した状態における第2接触部材51を一点鎖線で示し、図4(b−3)に示す押付アーム56を回動させることで第2接触部材51が回動する方向を円弧状の矢印で示している。
図6(a)に示すように、押付アーム56によって第2接触部材51を車輪2に接触させた状態では、第2接触部間隔C2が最小間隔Minよりも大きくなる。本実施形態では、図6(a)に示す状態における接触部511aから時計回りの方向に向かうにつれて、第2接触部材51の外周面511と第2軸部材52との間隔が大きくなり、反対に、この間隔は、接触部511aから反時計回りの方向に向かうにつれて小さくなる。このため、図6(b)において太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を後退させる方向(図では時計回り)に車輪2を回転させると、第2接触部材51は、一点鎖線で示す状態から細い円弧状の矢印で示すように反時計回りに回動し、第2接触部間隔C2が徐々に大きくなって車輪2に圧接し、本実施形態では第2接触部材51が車輪2に食い込みながら2点鎖線で示す状態になり、さらに反時計回りに回動してやがて上側ストッパ58に当接した状態で停止する。これにより、車輪2の外周部分21に摩擦力が付与され、車輪2が制動される。
一方、図6(c)において太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2を回転させると、第2接触部材51の外周面511と車輪2の外周部分21とはすべって空回りしたり、円弧状の両矢印で示すように、第2接触部材51が車輪2に対してばたつく状態になる。このため、車椅子1を前進させる方向に車輪2が回転しても、下ブレーキ5によって車輪2の回転は制動されないため、車椅子1の前進は規制されない。
このように、下ブレーキ5も、第2接触部材51を車輪2に圧接するための力を必要としない。また、第2接触部材51は、第2軸部材52の延在方向に移動させることで、車輪2に接触しない状態と接触する状態との間で切り換えられるものであるため、特許文献2に記載された制動装置のように、接触部材を車輪の径方向から接触させる構成と比べて、第2接触部材51を車輪2に適切に接触させる調整が容易になる。さらに、下ブレーキ5によれば、図4(a−1)、同図(b−1)および図5に示すように、図1に示す車椅子1の前方への移動と後方への移動を共に規制する状態と、図4(c−1)、同図(c−1)および図6に示すように、図1に示す車椅子1の後方への移動を規制し、前方への移動は許容する状態とに切り換えることができる。
次に、本発明の第1の制動装置に相当する上ブレーキの他の実施形態および本発明の第2の制動装置に相当する下ブレーキの他の実施形態について説明する。以下の説明では、これまで説明してきた上ブレーキ3および下ブレーキ5との相違点を中心に説明し、これまで説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで用いた符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
図7は、第2の上ブレーキ3’が、車輪2の回転を制動する様子を模式的に示す図であり、図8(a)は、上ブレーキユニット7を軸部材32の延在方向に見た図であり、図8(b)および同図(c)は、上ブレーキユニット7が、車輪2の回転を制動する様子を模式的に示す図である。なお、図7、図8(b)および同図(c)では、左側が前側になり、左側に進むことで前進することになる。また、右側が後になり、右側に進むことで後進することになる。
図7(a)に示すように、第2の上ブレーキ3’は、前後方向に所定の間隔をあけて一対の接触部材31が配置され、それぞれの接触部材31の中心からズレた偏心位置に軸部材32がそれぞれ設けられている。前側に配置された接触部材31は、自重により反時計回りに回動することによって、外周面311が車輪2の外周面311に接触し、後側に配置された接触部材31は、自重により時計回りに回動することによって、外周面311が車輪2の外周面311に接触している。また、前後一対の接触部材31,31の間には、ストッパ33が設けられている。
図7(b)において太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2が回転すると、この車輪2の回転に伴い、後側に配置された接触部材31が、図では円弧状の細い矢印で示すように一点鎖線で示す位置から時計回りに回動する。後側に配置された接触部材31は車輪2に圧接し、次第に車輪2に食い込みながらストッパ33に当接することで回動が規制される。これにより、車輪2の外周部分21に摩擦力が付与され車輪2の回転が制動される。なお、前側に配置された接触部材31は、外周面311が車輪2の外周部分21とすべって空回りしたり、円弧状の両矢印で示すように、接触部材31が車輪2に対してばたつく状態になり、前側に配置された接触部材31によっては車輪2の回転は制動されない。
一方、図7(c)において太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を後進させる方向(図では時計回り)に車輪2が回転すると、この車輪2の回転に伴い、今度は、前側に配置された接触部材31が、図では円弧状の細い矢印で示すように一点鎖線で示す位置から反時計回りに回動する。前側に配置された接触部材31は車輪2に圧接し、次第に車輪2に食い込みながらストッパ33に当接することで回動が規制される。これにより、車輪2の外周部分21に摩擦力が付与され車輪2の回転が制動される。なお、後側に配置された接触部材31は、外周面311が車輪2の外周部分21とすべって空回りしたり、円弧状の両矢印で示すように、接触部材31が車輪2に対してばたつく状態になり、後側に配置された接触部材31によっては車輪2の回転は制動されない。
これらのように、第2の上ブレーキ3’によれば、前進と後進の両方において車輪2の回転を制動し、車椅子1の不用意な移動を防ぐことができる。なお、前側の接触部材31を時計回りに回動させることで点線で示すようにストッパ33に支持させ、後側の接触部材31を反時計回りに回動させることで点線で示すようにストッパ33に支持させることで、第2の上ブレーキ3’が作動しない状態にすることができる。また、前側の接触部材31と後側の接触部材31のうちいずれか一方をストッパ33に支持させ、前進または後進のいずれか一方における車輪2の回動を制動させてもよい。
図8(a)に示すように、上ブレーキユニット7は、接触部材31、軸部材32およびストッパ33の他に、軸部材32の両端部を回動自在に支持する一対の軸受部72と、軸受部72の上端部に固定された取付部71とを有している。この上ブレーキユニット7は、上ブレーキが、いわゆるキャスター風にユニット化されたものである。軸受部72には、上下方向に延在した長孔72aが形成されており、この長孔72aにストッパ33が挿通されている。ストッパ33は、長孔72aに沿って上下方向の位置を移動させ固定することができるものである。なお、長孔72aに代えて、上下方向に所定間隔をあけて複数の取付孔を形成してもよい。接触部材31には、重り312が取り付けられている。本実施形態の重り312は、軸部材32から外周面311までの間隔が最大となる最大間隔Max上に設けられ、接触部材31は、重り312の荷重によって最大間隔Maxが上下方向に沿う姿勢で安定する。
図8(b)は、図1に示す車椅子1のフレーム12等に上ブレーキユニット7を取付け、接触部材31が自重により車輪2の外周部分21に接触した状態を示している。接触部材31は、一点鎖線で示す図8(a)に示す状態から、図では円弧状の矢印で示すように、反時計回りに回動し、重り312が接触部材31の前側に位置する姿勢になる。この重り312によって、下方を向く矢印で示す荷重が生じ、接触部材31の車輪2への接触状態を安定させることができる。この状態で、車椅子1を後進させる方向(図では時計回り)に車輪2が回転すると、図2(c)に示す状態と同様に、車輪2の回転に伴い接触部材31が反時計回りに回動し、接触部材31によって車輪2の外周部分21に摩擦力が付与されることで車輪2の回転が制動される。この上ブレーキユニット7のように、上ブレーキをユニット化することで、車輪2を有する様々な物品の制動装置として取付けることが容易になり、車輪2を有する様々な既存の物品に後付けする態様も採用しやすい。
また、上下方向の両矢印で示すようにストッパ33の位置を調整することで、図2(c)に示す、ストッパ33によって回動が規制された接触部材31の姿勢や、図3(b)に示す、ストッパ33によって車輪2と離間した状態に支持される接触部材31の姿勢を調整することができる。
図8(c)は、例えば、図1に示す車椅子1が、上り坂に位置している状態の上ブレーキユニット7の状態を示している。図8(c)の下方を向く矢印に示すように、接触部材31には、重り312によって下方に荷重が生じている。すなわち、接触部材31には、車輪2に接触する方向への荷重が重り312によって生じている。このため、登り坂に位置する場合のように傾いた姿勢であっても、接触部材31の外周面311が車輪2の外周部分21に接触する状態を安定させることができる。
図9は、第2の下ブレーキ5’の構造および動作を説明するための図である。図9(a−1)、同図(a−2)および同図(a−3)は、第2の下ブレーキ5’を上方から見た図であり、図9(b−1)および同図(b−2)は、第2の下ブレーキ5’を、図1に示す車椅子1の左側方から見た図である。また、図9(b−3)は、同図(a−3)のA−A断面図である。なお、図9(b−1)では、車輪2を省略している。なお、図4と同様に、図9では、左側が前側になり、右側が後側になる。また、図9(a−1)、同図(a−2)および同図(a−3)では、上側が右側になり、下側が左側になり、図9(b−1)、同図(b−2)および同図(b−3)では、紙面奥側が右側になり、紙面手前側が左側になる。
図9(a−1)に示すように、第2の下ブレーキ5’は、第2接触部材51と、第2軸部材52と、圧縮コイルばね55を備えている。第2軸部材52は、フレーム12に取り付けられた軸部521と、この軸部521に対して左右方向に移動自在に挿通されたスリーブ522とを備えている。スリーブ522は、右側(図の上側)にフランジ部5221を有しており、このフランジ部5221から前側(図では左側)に延在した位置決め腕部5222が設けられている。スリーブ522には、フランジ部5221に当接させた状態で第2接触部材51が回転自在に支持され、Eリング5223によって抜け止めされている。フレーム12には、左側(図の下側)に延在した延在部121が設けられ、この延在部121には、位置決め腕部5222の先端が係合する、第1位置決め凹部121a、第2位置決め凹部121bおよび第3位置決め凹部121cが、左右方向に所定の間隔をあけて形成されている。スリーブ522と、このスリーブ522に支持された第2接触部材51は、圧縮コイルばね55によって左側(図では下側であり、車輪2に近づく方向)に付勢された状態で、位置決め腕部5222が係合する位置決め凹部によって左右方向(図の上下方向)の位置が規制されている。
図9(a−1)は、位置決め腕部5222が第1位置決め凹部121aに係合し、第2接触部材51が車輪2から最も離れた位置にある状態を示している。この状態では、図9(a−1)および同図(b−1)の一点鎖線で示すように、第2接触部材51が回転しても車輪2に接触しない。
第1位置決め凹部121aに対する位置決め腕部5222の係合を解除すると、圧縮コイルばね55の付勢力によって、図9(a−2)および同図(b−2)に示すように、第2接触部材51が車輪2に近づき、位置決め腕部5222が第2位置決め凹部121bに係合する。この状態では、第2接触部材51の外周面511におけるテーパ面5112が車輪2の外周部分21に圧接し、上述した図6(a)で示した状態と同様になる。図9(b−2)において円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を後退させる方向(図では時計回り)に車輪2を回転させると、車輪2の外周部分21に摩擦力が付与され、車輪2が制動される。一方、図1に示す車椅子1を前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2を回転させても車輪2の回転は制動されず、車椅子1の前進は規制されない。すなわち、図9(a−2)および同図(b−2)に示す状態では、図1に示す車椅子1を後進させる場合にブレーキがかかる。
ここで、圧縮コイルばね55がスリーブ522を付勢することで、スリーブ522とともに第2接触部材51が車輪2に近づく方向にスライドする。しかしながら、圧縮コイルばね55の付勢力は直接的には第2接触部材51に作用しないため、圧縮コイルばね55の付勢力によって第2接触部材51の回転が規制されることはない。
次に、第2位置決め凹部121bに対する位置決め腕部5222の係合を解除すると、圧縮コイルばね55の付勢力によって、図9(a−3)および同図(b−3)に示すように、第2接触部材51が車輪2に食い込んでいき、位置決め腕部5222が第3位置決め凹部121cに係合する。この状態では、図9(b−3)において円弧状の両矢印で示すように、図1に示す車椅子1を後退させる方向(図では時計回り)に車輪2を回転させようとしても、前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2を回転させようとしても、車輪2の外周部分21に付与された摩擦力によって車輪2が制動される。すなわち、図9(a−3)および同図(b−3)に示す状態では、図1に示す車椅子1を前進させる場合であっても後進させる場合であってもいずれもブレーキがかかる。
なお、図9では、図1に示す車椅子1の左側に設けられた第2の下ブレーキ5’を例に挙げて説明したが、車椅子1の左右両側に設けられた一対の第2の下ブレーキ5’における、図9(a−1)〜同図(a−3)に示す状態を一致させる連動手段を設けてもよい。また、圧縮コイルばね55を省略可能であり、付勢されていない状態で第2接触部材51を左右方向にスライドさせる態様としてもよい。
図10は、本発明の第1の制動装置の他の実施形態である第2ブレーキ8において、車輪の回転を制動する様子を模式的に示す図である。この第2ブレーキ8は、前述の上ブレーキ3と同じく、自重により車輪に接触する接触部材を備えたものであり、本発明の第1の制動装置の一例に相当する。また、第2ブレーキ8は、図1に示す車椅子1における、下ブレーキ5が設けられた位置と略同じ位置に設けられ、後述する接触部材81が、車輪2のやや下側部分に接触する。なお、図10においても、図の左側が前側になり、右側が後側になる。
図10に示すように、第2ブレーキ8は、接触部材81と、この接触部材81を回動自在に支持する軸部材82と、接触部材81の回動を規制するストッパ83と、振止部材84と、リードスイッチ85を備えている。軸部材82は、図2に示す上スイッチ3の軸部材32と同じく、接触部材81の中心からズレた偏心位置に設けられている。
図10(a)は、自重によって接触部材81が車輪2に接触した状態を示しており、この状態において、接触部材81は、軸部材82の中心よりも前側(車輪2と反対側)に設けられた重り812を有している。また、接触部材81は、重り812よりも後側(車輪2側)の左右両側それぞれに、肉盗みとしての凹部813が形成され、重り812よりも後側の部分の重さが軽くなっている。これら重り812と凹部813によって、接触部材81には、軸部材82を回動中心として、図の細い円弧状の矢印で示すように車輪2に向かう力が生じ、接触部811aが車輪2の外周部分21に接触した状態になる。なお、重り812と凹部813のうち、いずれか一方を設ける態様としてもよい。
リードスイッチ85は、接触部材81の前側に配置されており、図10(a)に示す状態において、接触部材81とリードスイッチ85との間にはわずかな隙間を有している。振止部材84は、接触部材81の前側に設けられ、接触部材81の時計回りの回動を阻止して接触部材81がリードスイッチ85に接触することを防止するものである。また、接触部材81には、リードスイッチ85を動作させるマグネット814が埋め込まれており、図10(a)に示す、自重により接触部材81が車輪2に接触した状態では、接触部材81のマグネット814がリードスイッチ85に近接し、リードスイッチ85がON状態になる。
図1に示す車椅子1を後進させると、図10(a)に示す状態から、同図(b)の太い円弧状の矢印で示すように車輪2が時計回りに回転し、この車輪2の回転に伴い、図では円弧状の細い矢印で示すように接触部材81がストッパ83に当接するまで反時計回りに回動する。これにより、前述した上ブレーキ3等と同様に、車輪2に摩擦力が付与されることで車輪2の回転が制動され、図1に示す車椅子1の移動を阻止することが可能になる。また、接触部材81が反時計回りに回動することでマグネット814がリードスイッチ85から離れ、リードスイッチ85が動作してOFF状態になる。すなわち、リードスイッチ85は、接触部材の回動を検出する検出部材の一例に相当する。例えば、リードスイッチ85に接続され、スピーカを有する警報装置を図1に示す車椅子1の背面等に設け、リードスイッチ85がOFF状態になると、警報装置のスピーカから警告音が出力されるといった態様を採用することができる。この態様によれば、利用者が車椅子1から立ち上がって車椅子1が後方に移動した場合には、リードスイッチ85がOFF状態になって警告音が出力され、利用者が車椅子1から立ち上がって危険であるといった状況を周囲の介護者等に知らせることができる。
なお、リードスイッチ85が接触部材81の回動を検出する時点は、接触部材81がわずかに回動した時点であってもよいし、ストッパ83に当接した時点であってもよいし、これらの間の所定の時点であってもよい。また、ライト等の表示部材を有する警報装置を採用し、リードスイッチ85が接触部材81の回動を検出すると表示部材を点灯させ周囲の介護者等に知らせる態様としてもよい。またさらに、リードスイッチ85が接触部材81の回動を検出すると警報装置から介護者等の携帯情報端末等に警報情報を送信する、といった態様も採用することもできる。さらに、第2ブレーキ8も、図8に示すブレーキユニット7と同様に、キャスター風にユニット化してもよい。また、第2ブレーキ8の位置を移動させることで、車輪2に付与する摩擦力を調整できる態様としてもよいし、接触部材81が車輪2に接触しない位置まで第2ブレーキ8を移動できる構造を採用し、車椅子1が後進しても車輪2の回転を制動しない状態に変更可能な態様としてもよい。
一方、図10(c)において太い円弧状の矢印で示すように、図1に示す車椅子1を前進させる方向(図では反時計回り)に車輪2を回転させると、接触部材81の外周面811と車輪2の外周部分21とはすべって空回りしたり、円弧状の両矢印で示すように、接触部材81が車輪2に対してばたつく状態になるが、振止部材84によって、接触部材81がリードスイッチ85に接触してしまうことが防止される。また、リードスイッチ85は、ON状態が維持される。
本発明は上述の実施の形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、上記実施形態では、上ブレーキ3と下ブレーキ5とを車椅子1に設けた態様を例に挙げて説明したが、上ブレーキ3と下ブレーキ5のいずれか一方を車椅子1に設ける態様としてもよいし、また、上ブレーキ3と下ブレーキ5のいずれか一方を車椅子1に複数設けてもよい。さらに、上ブレーキ3と第2ブレーキ8を車椅子1に設けてもよいし、第2ブレーキ8を車椅子1に複数設ける態様としてもよい。また、上記実施形態では、車輪2のゴム製の外周部分21が凹み、接触部材31や第2接触部材51が食い込む形態を例に挙げて説明したが、接触部材31や第2接触部材51が凹み、車輪2の外周部分21に摩擦力を付与する構成も採用することができる。さらに、第2ブレーキ8の接触部材81が凹み、車輪2の外周部分21に摩擦力を付与する構成としてもよい。
なお、以上説明した各実施形態の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態に適用してもよい。また、上ブレーキ3,3’や上ブレーキユニット7の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、下ブレーキ5に適用してもよく、下ブレーキ5の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、上ブレーキ3,3’や上ブレーキユニット7に適用してもよい。さらに、第2ブレーキ8の記載にのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、上ブレーキ3,3’、上ブレーキユニット7あるいは下ブレーキ5に適用してもよく、上ブレーキ3,3’、上ブレーキユニット7あるいは下ブレーキ5の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、第2ブレーキ8に適用してもよい。例えば、第2ブレーキ8のリードスイッチ85等の検出部材を、上ブレーキ3,3’、上ブレーキユニット7あるいは下ブレーキ5に設けてもよい。