JP2016503653A - 植物における遺伝連鎖を解消するための方法 - Google Patents
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Abstract
Description
a.リンケージドラッグの破壊:TMV及びTYCLV等、重大なウイルスに対する抵抗性は、野生トマト種から導入され、抵抗性を付与する遺伝子は、組換え的にサイレントな大型のイントログレッション断片に存在する。このようなイントログレッションには、収量にマイナスに影響を与える遺伝子も存在するが(リンケージドラッグ)、これを抵抗性の供給源から組換えによって除去することができない。しかし、ウイルス抵抗性には非常に価値があるため、この収量損失は受け入れられる。本明細書に記載されている技法は、規定のポジションにおいてイントログレッション断片をばらばらにし、これによって、ウイルス抵抗性を有するが、リンケージドラッグを欠く系統を作出する目的に用いることができる。あらゆる形態のリンケージドラッグが、育種における大きな問題であり、将来に亘り植物育種の進行を遅らせ、複雑化し続けるであろう。
b.テーラードイントログレッション(tailored introgressions):公知配列のいずれかの染色体領域は、相同染色体上のいずれかの他の配列に連鎖し得る。これによって、最終産物に望むイントログレッションのサイズを規定することが可能になる。実際には、イントログレッションは、単一の遺伝子を含むことができる。
c.微細マッピング:遺伝子マッピングは、減数分裂組換えを用いて、遺伝子をマーカーに連鎖させるが、減数分裂組換えが抑制される場合又は多くの遺伝子が密接に連鎖している場合には有効ではない。転座をもたらす本明細書に開示されている方法は、イントログレッション断片をより小さな領域に分け、続いてマーカーを用いてこれを遺伝子型判定する又は表現型判定するために用いることができる。このようにして、原因遺伝子を迅速に同定することができる。
d.遺伝子内組換え:病原体の新たな生物型が進化するにつれて、抵抗性の新たな供給源が必要とされる。抵抗性遺伝子は、正常にクラスターで存在し、これらの間の組換えは、新たな抵抗性を付与する新たな遺伝子を生じる。しかし、これは、低頻度の事象であり、発見が困難である。転座を用いて、異なる染色体上のクラスターに存在する抵抗性遺伝子の部分(ドメイン)を組み合わせて、新規抵抗性を付与するドメインの新たな組み合わせを作製することができる。
e.倍数体種におけるホモ接合性:いくつかの倍数体植物種は、異質倍数体であり、これは、別々のゲノム同士が、減数分裂において組換えを行わないことを意味する。これは、ゲノムのうち1種が染色体ポジションにマイナスの表現型を保有する場合に、これを排除することができないため、問題となり得る。転座は、ゲノム間で誘導することができ、自家受粉によって、染色体腕全体が完全にホモ接合型となる状況を作り出すことができる。これを用いて、一方のゲノムの染色体において誘導された突然変異を、他方のゲノムの染色体に移行させることもでき、この手法は、斯かる突然変異が劣性である場合に(殆どがこれに該当する)特に有用である。
[027]他に特段の規定がなければ、本明細書に用いられている技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているものと同じ意義を有する。分子生物学、生化学、計算生化学、細胞培養、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、配列決定及び関連分野における従来技術の実施は、当業者にとって周知であり、例えば、次の参考文献に記述されている:Sambrookら、Molecular Cloning. A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989;Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、1987及び定期更新;並びにシリーズ、Methods in Enzymology、Academic Press、San Diego。本発明のために、次の用語を下に規定する。
(a)前記第1の遺伝子座A及び前記第2の遺伝子座Bを含む前記第1の染色体を含み、少なくとも第2の染色体を更に含む少なくとも1個の植物細胞を用意するステップであり、前記染色体が、互いに相同又は同祖染色体であるステップと、
(b)第1の染色体に二本鎖切断を導入するサブステップであり、第1の染色体における二本鎖切断が、前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間に導入され、これによって、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分及び第2の遺伝子座Bを含む第1の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ、及び
第2の染色体に二本鎖切断を導入し、これによって、第2の染色体における第1の部分及び第2の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ
を含むステップと、
(c)必要に応じて、ステップ(b)によって得られた少なくとも1個の植物細胞を用いて、第1の染色体における第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖が解消され、更に、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分が、第2の染色体における第2の部分にライゲーションされた少なくとも1個の植物細胞を同定するステップと
を含み、第1の染色体における二本鎖切断及び/又は第2の染色体における二本鎖切断が、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ及びCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムからなる群から選択されることが好ましい、少なくとも1種の部位特異的ヌクレアーゼによって導入される方法が提供される。
i.第1の染色体が、前記第1の遺伝子座A及び前記第2の遺伝子座Bを含み、前記第1の遺伝子座Aが、第1の特性の望ましい形質に連鎖し、前記第2の遺伝子座Bが、前記第1の特性又は第2の特性の望ましくない形質に連鎖し、
ii.前記第2の染色体が、前記第1の特性又は第2の特性の望ましくない形質に連鎖した前記第2の遺伝子座Bと同一の遺伝子座を含まず、
iii.第1の染色体における前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間に並びに第2の染色体における対応する遺伝子座又は位置に、1個の二本鎖切断が導入される。
染色体上における前記第1の遺伝子座Aの位置と前記第2の遺伝子座Bの位置とを含むこれらの間の(減数分裂)組換えが抑制されており、
前記植物P1が、前記遺伝連鎖の非存在によって特徴づけされ、
(a)前記第1の遺伝子座A及び前記第2の遺伝子座Bを含む前記第1の染色体を含み、少なくとも第2の染色体を更に含む少なくとも1個の植物細胞を用意するステップであり、前記染色体が、互いに相同又は同祖染色体であるステップと、
(b)第1の染色体に二本鎖切断を導入するサブステップであり、第1の染色体における二本鎖切断が、前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間に導入され、これによって、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分及び第2の遺伝子座Bを含む第1の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ、及び
第2の染色体に二本鎖切断を導入し、これによって、第2の染色体における第1の部分及び第2の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ
を含むステップと、
(c)必要に応じて、ステップ(b)によって得られた少なくとも1個の植物細胞を用いて、第1の染色体における第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖が解消され、更に、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分が、第2の染色体における第2の部分にライゲーションされた少なくとも1個の植物細胞を同定するステップと
を含み、第1の染色体における二本鎖切断及び/又は第2の染色体における二本鎖切断が、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ及びCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムからなる群から選択されることが好ましい、少なくとも1種の部位特異的ヌクレアーゼによって導入される方法も提供される。
トマトプロトプラストの染色体VIIにおける標的化転座の誘導
[084]トマト細胞において標的化転座を作製するための実験構成を図1に示す。このアプローチは、相同染色体の両方における同じ又は対応するゲノムポジションにDNA二本鎖切断(DSB)を誘導する部位特異的ヌクレアーゼ、本実施例においては、ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いる。次に、他の染色体由来のDNA端部を一体に連結し、これによって染色体腕を交換することによってこれら2個のDSBが修復される際に、染色体間の転座を形成することができる。転座形成を検出するために、各染色体におけるZFN切断部位を特異的に増幅するPCRプライマーを設計した。転座が形成されると、これらの接合部は、これらフォワード及びリバースプライマーの異なる組み合わせを用いることによって特異的に増幅することができる。特異的プライマー設計のために、配列差は、各染色体におけるZFN切断部位に隣接して存在する必要がある。野生トマト種ソラナム・ペンネリから染色体VIIにイントログレッションを保有するトマト系統を用いることによって、これを達成した。このイントログレッション領域は、S.ペンネリALS2遺伝子(SpALS2)におけるZFN標的部位を含有し、野生型ALS2(WT ALS2)との十分な配列差も有して、特異的プライマー設計を可能にする。WTトマト(M82)をS.ペンネリ染色体VIIイントログレッション系統IL7−3と交雑することによって、ALS遺伝子座がヘテロ接合型のF1雑種を作出することによって実験を行った。次に、このF1雑種からプロトプラストを生成し、WT ALS2及びSpALS2遺伝子座の両方にDSBを誘導するZFNを発現するプラスミドコンストラクトをトランスフェクトした。本出願人らのPCRアプローチを用いて、本出願人らは、相互転座が起こった細胞を検出することができた。驚くべきことに、斯かる事象は、相対的に高頻度(0.8%)で検出可能であり、DNA DSBは、異なる染色体上に位置したため、これは予想外のことであった。これは、部位特異的ヌクレアーゼが、植物細胞において相互転座を誘導することができるという、初めて報告された証拠であり、斯かる事象が相対的に高頻度で起こることを実証する。次に、本出願人らは、個々の植物プロトプラストからカルスを育成し、PCRを用いてこれらのカルスの遺伝子型を判定して、所望の転座を有するカルスの同定に取り掛かった。斯かるカルスは、植物体に再生させることができ、イントログレッション断片に隣接するマーカー間の連鎖の喪失を示すであろう。このアプローチを用いて、相同性非依存的様式で、体細胞植物プロトプラストにおけるイントログレッション断片のサイズを減少させることができる。
[085]本出願人らの実験のために、プラスミドpKG7402を用いた。このプラスミドは、トマトアセト乳酸シンターゼ(ALS)遺伝子(ALS1及びALS2)に結合してDNA二本鎖切断を誘導するよう設計された、2種のジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子を含有する。ALS1は、染色体IIIの短腕に位置し、ALS2は、染色体VIIの長腕に位置する。
[086]トマト野生種ソラナム・ペンネリ由来のイントログレッションを染色体VIIに含有するソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)系統(IL7−3)を用いた。このイントログレッション断片は、およそ56cMのサイズであり、この染色体の長腕の大部分を構成し(Eshed、Y&Zamir、D.(1995)Genetics 141:1147〜1162)、S.ペンネリのALS2遺伝子を含む。このイントログレッション断片がホモ接合型の植物を、親系統(M82)と戻し交雑し、F1種子を採取した。次に、これらの種子を滅菌し、2000ルクスの16/8時間の光周期で、25℃、60〜70%RHにて、背の高い広口瓶内で合成培地(MS20:MS培地+ビタミン(Duchefa)4.4g/l、ショ糖20g/l、マイクロ寒天(micro agar)8g/l)において発芽させた。同様の方法で親M82及びホモ接合型IL7−3系統も処理し、組織培養において無菌植物体として維持した。3〜4週間後に、プロトプラストの生成のために成熟葉を収集した。
[087]トマト葉プロトプラストの単離及び再生は、以前に記載されており(Shahin(1985)Theor.Appl.Genet.69:235〜240;Tan(1987)Theor.Appl.Genet.75:105〜108;Tan(1987)Plant Cell Rep.6:172〜175)、必要とされる溶液は、これらの刊行物に見出すことができる。簡潔に説明すると、1gの収集したての葉を5ml CPW9Mの入ったディッシュに置き、メスの刃を用いて、主茎に対して垂直に1mmに切断した。25ml酵素溶液(2%セルロースonozuka RS、0.4%マセロザイムonozuka R10、2,4−D(2mg/ml)、NAA(2mg/ml)、BAP(2mg/ml)pH5.8を含有するCPW9M)のフレッシュなプレートに葉片を移し、一晩25℃で暗所にて消化を進めた。次に、オービタルシェーカー(40〜50rpm)に1時間置くことによって、プロトプラストを遊離させた。反応液を50μm篩に通し、CPW9Mで篩を2回洗浄することによって、細胞デブリからプロトプラストを分離した。プロトプラストを85gで遠心分離し、上清を廃棄し、続いて、CPW9Mの容量の半分に取り入れた。プロトプラストを最終的に3ml CPW9Mに取り入れ、次に、3ml CPW18Sを2溶液が混ざらないよう慎重に加えた。プロトプラストを85gで10分間スピンし、長いパスツールピペットを用いて、相間(interphase)層に浮遊する生存プロトプラストを採取した。CPW9Mを加えることによって、プロトプラスト容量を10mlに増加させ、回収されたプロトプラストの数を血球計算器で決定した。プラスミドコンストラクトによるトランスフェクションのために、プロトプラスト懸濁液を85×gで10分間、5℃にて遠心分離する。上清を廃棄し、プロトプラストペレットを再懸濁して、KCl洗浄培地における最終濃度106.mL−1とする。10mLチューブにおいて、250μLのプロトプラスト懸濁液+/−40μgの純粋プラスミドDNA及び250μlのPEG溶液(40%PEG4000(Fluka#81240)、0.1M Ca(NO3)2、0.4Mマンニトール)を穏やかに但し十分に混合する。室温における20分間のインキュベート後に、5mL冷0.275M Ca(NO3)2を滴下して加える。プロトプラスト懸濁液を10分間85×gで4℃にて遠心分離し、上清を廃棄する。PEG処理後に、再生のためにトマトプロトプラストをアルギン酸塩溶液に包埋した。2mlのアルギン酸塩溶液を加え(マンニトール90g/l、CaCl2.2H2O 140mg/l、アルギン酸Na 20g/l(Sigma A0602))、反転によって完全に混合した。この混合液の1mlをCa−寒天プレート(72.5g/lマンニトール、7.35g/l CaCl2.2H2O、8g/l寒天)の上に均等に重層し、重合させた。次に、このアルギン酸塩ディスクを、4mlのK8p培養培地を含有する4cmペトリ皿に移し、暗所で30℃にて7日間インキュベートした。続いてアルギン酸塩ディスクを5mm厚の条片に切断し、固形再生培地TM−DB(TM2 basal2.5g/l(Duchefa)、Nitschビタミン110mg/l、ショ糖50g/l、マイクロ寒天8g/l、2,4−D 0.2mg/l、BAP 0.5mg/l、pH5.8)の上に3週間重層した。次に、再生したカルスをピンセットで採取し、GM−ZG培地(MSマクロ+ミクロ粉末(Duchefa)4.3g/l、Nitschビタミン110mg/l、マンニトール36.4g/l、ショ糖2.5g/l、マイクロ寒天8g/l、ゼアチン1mg/l、GA3 1mg/l、pH5.8)上に個々に置いた。次に、およそ7mmに達したら、これらをDNA単離のためにサンプリングした。シュート再生後に、カルスをMS−ZI培地(MS+ビタミン(Duchefa)4.4g/l、ショ糖20g/l、マイクロ寒天8g/l、ゼアチン2mg/l、IAA 0.1mg/l、pH5.8)に移した。2〜3週間後に、シュートを切除し、発根培地(MS+ビタミン(Duchefa)4.4g/l、ショ糖20g/l、マイクロ寒天8g/l、0.5mg/ml IBA、pH5.8)に移し、その後、温室に移した。
[088]ホモ接合型IL7−3系統から染色体DNAを単離し(DNeasyキット、Qiagen)、ゲノムウォーカー(Genome Walker)キット(Clontech)を用いて、メーカーの説明書の通りに、S.ペンネリALS2遺伝子座の配列を決定した。簡潔に説明すると、500ngのゲノムDNAを制限酵素(DraI、EcoRV、PvuII又はStuI)で一晩消化し、ゲノムウォーカーアダプターをライゲーションした。S.リコペルシカム(S.lycopersicum)ALS2 ORFの保存された配列において設計された、ALS2特異的ネステッドプライマー、11_11533(5’−TGGGAATGGTGGTTCAGTGGGAGGA−3’)及び11_11534(5’−GGTGGTTCAGTGGGAGGATCGATTCT−3’)を用いて、S.ペンネリALS2遺伝子座の3’端を増幅した。対応して、ネステッドプライマー対、11_11536(5’−CGTAGCTCCCGGACCAGATGTAGCA−3’)及び11_11537(5’−ATGTAGCAATACAAACACCAGGGAACCCA−3’)を用いて、ALS遺伝子座の5’端を増幅した。ゲルからPCR産物を切り出し、配列決定した。これらの配列に基づき、介在領域を増幅する追加的なプライマー(11_13680(TCACCCCTTCACCTTACC)及び11_13681(CCTTCACATTTAACCAAAGC))を設計し、これらを用いて遺伝子座の配列決定を完成させた(図2)。このようにして、ALS2におけるZFN標的部位が、M82及びIL7−3系統の両方において保存されていることが実証された。
[089]S.ペンネリ及びM82 ALS2配列のアライメントによって、アレルの1種のみを選択的に増幅し、ZFN標的部位を含むPCR産物を増幅する特異的プライマーの設計に活用することができる配列差を同定することができた。S.ペンネリALS2遺伝子座を増幅するために、本出願人らは、プライマー、11_13680+11_13681を用い、M82 ALS2遺伝子座のために、プライマー、09Q136(GAAAGGGAAGGGGTTAAGG)及び12_07231(CTTCAGTAGAGCCCTTGC)を用いた。結果を図2aに示し、本図は、これらのプライマーが、親系統IL7−3及びM82における正確なサイズのバンドを増幅したことと共に、これら2種の親の交雑に由来するF1系統(系統BC)に両方の遺伝子座が存在したことを示す。
[090]IL7−3系統及びM82植物の両方からプロトプラストを単離し、プラスミドpKG7402又は35S::GFPカセットを保有するプラスミド(pKG7381)のいずれかをトランスフェクトした。12時間後に、pKG7381をトランスフェクトしたプロトプラストを蛍光顕微鏡下で観察して、GFP発現を評価した。これは、IL7−3及びM82プロトプラストの両方において同等であり(データ図示せず)、系統IL7−3におけるS.ペンネリイントログレッションが、形質転換に影響を与えなかったことを実証した。48時間後に、遠心分離によってプロトプラストを採取し、DNeasyキット(Qiagen)を用いてゲノムDNAを単離した。次に、ZFN標的部位を含むALS2遺伝子座の205bp断片を増幅するプライマー、09Q132(CTTGTGGAGGCACTTGAA)及び09Q133(CCGGACCAGATGTAGCAATA)を用いて、このDNAにおけるPCR反応を行った。次に、PCR産物を精製し、ベクター(pCR2.1:Blunt、Invitrogen)にクローニングし、ワンショットケミカリーコンピテント(One Shot Chemically Competent)E.コリ(E.coli)細胞(Invitrogen)へとメーカーの説明書の通りに形質転換し、50μg/mlカナマイシン(Duchefa)を補充したLB培地に蒔いた。その後、同じプライマーを用いて個々の96個の細菌コロニーにおけるPCRを行い、ロッシュライトサイクラー(Roche Light Cycler)装置における高分解能融解曲線解析によって、その結果得られたPCR産物を解析して、異常な融解特性を有するPCR産物を同定した。次に、斯かるクローンを配列決定に回し、その結果を図3に示す。IL7−3及びM82系統の両方に関し、トランスフェクトしたプロトプラストの集団に由来するPCR産物のおよそ10%は、ZFN標的部位にINDELを含有した。両方の系統におけるこれらINDELのサイズも匹敵しており、よって、本出願人らは、S.ペンネリALS2遺伝子座が、M82 ALS2遺伝子座と同じほど効率的に標的となり得ると結論付けることができる。対照として、本出願人らは、pKG7381トランスフェクションに由来する96個のPCR産物も解析した。そのいずれも異常な融解特性を示さず、その2種を配列決定したときに、配列に対するいかなる変更も示さなかった(データ図示せず)。
[091]in vitro育成したF1植物(M82×IL7−3交雑に由来)から、プロトプラストを単離した。加えて、本出願人らは、in vitro育成したM82及びIL7−3植物からもプロトプラストを単離した。40μgのプラスミドpKG7402(又は対照として40μgのpKG7381)をプロトプラストにトランスフェクトし、液体培地において48時間維持した。次に、各トランスフェクションから得たプロトプラストを遠心分離(800rpm、10分間)によって収集し、DNeasyキット(Qiagen)を用いて、これらプロトプラスト集団からゲノムDNAを単離した。プロトプラスト集団における転座の存在を検出するために、遺伝子座特異的プライマーの組み合わせを用いた。例えば、S.ペンネリALS2プライマー(11_13680)及びM82プライマー(12_07231)の組み合わせは、転座を起こした染色体のみを増幅する筈であり、ZFN標的部位のポジションにおける転座接合部を含むPCR産物を生成するであろう。全プロトプラストDNA試料において、これらのプライマーを用いたPCR反応を行い、1μlゲノムプロトプラストDNA、5μl 5×ヘラクレス(Herculase)融合バッファー(Agilent)、0.3μl 100mM dNTP、1.25μlプライマー11_13680、1.25μlプライマー12_07231、0.25μlヘラクレスII融合酵素(Agilent)及び15.95μl水からなる反応液において、次のサイクリング条件{95℃ 2’;[95℃ 30”、60℃ 30”、72℃ 2’]×40;72℃ 5’}を用いた。1%アガロースゲルにおけるPCR産物の電気泳動は、全試料が、予想されるサイズのバンドを生成したが、バンドの強度が、pK7402で処理したF1植物試料においてより強かったことを示した(データ図示せず)。対照試料におけるPCR産物を観察すると、これは、プライマー組み合わせ11_13680+12_07231が、未変更のS.ペンネリ及びM82 ALS2遺伝子座から非特異的(aspecific)PCR産物を作製することができたが、処理したF1プロトプラスト由来のPCR産物は、転座接合部から作製されたPCR産物をさらに含有するため、より強くなり得ることを示唆した。処理した試料及び対照試料の両方から得た2.2kbpのPCR産物をゲルから切り出し、Qiagenゲル単離キットを用いて精製した。次に、ゼロブラント(Zero Blunt)PCRライゲーションキット(Invitrogen)を用いて、メーカーの説明書に従ってPCR産物をクローニングし、結果物として得られた、クローニング産物を含有するプラスミドをE.コリTOP10細胞から精製し、完全2.2kbp PCR産物を配列決定した。結果を図4に示す。プライマーは実際に、対照試料からALS2 PCR産物を増幅することができたが、配列決定は、これらが常に、WT ALS2遺伝子座(M82)又はSpALS2遺伝子座(IL7−3)のいずれかに由来したことを示した。対照プラスミド(pKG7381)をトランスフェクトしたF1プロトプラストに由来する2種のPCR産物の解析は、このPCR反応において両方の遺伝子座が増幅されたことを示した。対照由来の全PCR産物は、予想される配列を示した。pKG7402で処理したF1雑種プロトプラストに由来するPCR産物は全て、親系統由来のプロトプラストをpKG7402で処理した際に、前に観察された事象と同様に、ZFN結合部位に小さいINDELを示した。しかし、これら2.2kbp PCR産物のそれぞれに関して、ZFN結合部位のSNPの上流は、これがS.ペンネリALS2配列であることを示したが、転座接合部断片に関して予想した通り、ZFN結合部位のSNPの下流は、M82 ALS2配列に由来した。したがって、これは、プロトプラストの集団において、S.ペンネリイントログレッションとWT M82染色体VIIとの間でALS2遺伝子座における標的化転座を起こし、染色体腕の交換及びイントログレッション断片における連鎖の破壊を生じた細胞が存在したことの優れた証拠をもたらした。
[093]F1雑種系統の葉からプロトプラストを単離し、40μgのプラスミドpKG7402をトランスフェクトした。次に、更なる発生のために、これをアルギン酸塩ディスクに包埋し、続いて4ml K8p培地において7日間インキュベートした。次に、ディスクを5mm条片にスライスし、微小カルスの更なる発生のためにこれを固形TM−DB培地(2−4D、BAP)上に置いた。育成3週間後に、800個のカルスを鉗子で採取し、フレッシュなTM−DB培地に移した。本出願人らは、転座接合部が、ZFN切断部位に小さいINDELを常に含有することを示したため、先ず、このことに関して全カルスをスクリーニングした。遺伝子型判定のために、プラスチックピペットの先端を用いて、各発生中のカルスから組織の小片を掻き取り、続いて、Phireプラントダイレクト(Plant Direct)PCRキット(Thermo Scientific)の20μlの希釈バッファーに再懸濁した。この材料における直接的PCRのために、希釈物から1μlを取り、10μlの2×反応バッファー、2μlのプライマー、12_11216及び12_11217(5pmol)、0.2μlのPhireポリメラーゼ並びに最終反応容量が20μlとなる量の水と共に混合した。用いたPCR条件;98℃5分間、{98℃5秒間、62℃5秒間、72℃1.5分間}×40、72℃5分間。次に、これらのPCR産物を水で200倍希釈し、その1μlをネステッドPCRに用いて、ZFN切断部位を増幅した(1μl PCR産物、5μl 10×反応バッファー、0.5μl dNTP(20mM)、1μl 09Q132(5pmol)、1μl 09Q133(5pmol)、0.2μl AmpliTaq(5U/μl)及び41.3μl水、サイクリング条件94℃2分間、{94℃30秒間、55℃30秒間、72℃30秒間}×30、72℃5分間)。これによって、INDELの存在をスクリーニングすることができるZFN切断部位を含む200bp PCR断片が作製された。F1系統由来の材料においてもこれらのPCR反応を行って、対照PCR産物を作製した。ZFN切断部位にINDELを有するカルスを検出するために、各200bp PCR産物の4μlを、4μlの対照PCR産物並びに1μlのTE及びLC Greenの両方と混合した。次に、ロッシュライトサイクラーの遺伝子スキャニングプロトコールを用いて、この混合物の融解特性を決定した。本出願人らは、ZFN切断部位におけるINDELを示す、異常な融解特性を有する53個の試料を同定した。次に、ゼロブラントPCRクローニングキット(Invitrogen)を用いて、これら53個のカルスから得られた1.3kbp産物をクローニングした。その後、上述の通りHindIII及びMseI部位の存在に関して、各ライゲーションから4個の細菌コロニーの遺伝子型を判定した。単一のカルス、TT1及びTT2から、本出願人らは、検査した全細菌クローンが、制限部位の一方を欠いたことを示すことができ、この細胞が相互標的化転座を起こしたことを実証する。これらのクローンを配列決定し、プロトプラストに由来する配列と同様に、これらのカルスにおいて標的化転座が起きたことを示すことができた。これらのカルスが同定された頻度(0.25%)は、以前に決定された頻度と同じ範囲内であり、依然として予想外に高い。
[094]次に、カルスTT1及びTT2を、シュート形成(shooting)培地に移し、その後、シュートを誘導して、根を形成させることができる。続いて、更なる遺伝子型判定のために、植物体を温室に移す。植物体TT1から種子を採取し、土壌で発芽させる。実生から葉材料を収集し、DNAを単離する。後代においてマーカー、TG20及びTG143がもはや連鎖していないことを実証するために、これらのマーカーの存在に関して実生を解析する。イントログレッションに隣接して同じ染色体に2種のマーカーが存在するF1植物の自家受粉は、その25%がマーカーのいずれかを欠如し、75%が両方のマーカーが陽性の後代を生じることが予想される。標的化転座を含有する植物体において、マーカー間の連鎖は、プロトプラストにおいて既に破壊されている。斯かる植物体の後代を解析する場合、50%が両方のマーカーを有し(この場合、異なる染色体上に位置する)、25%がマーカーTG20のみを含有し、25%がマーカーTG143のみを含有することが予想される。TT1及びTT2植物体の後代において、マーカー分離解析を行うことができる。したがって、トマトプロトプラストにおけるZFN等、部位特異的ヌクレアーゼの一過性発現は、生存可能な植物体を生じ、次世代へと伝達され得る相互標的化転座を誘導することができる。このアプローチを用いて、配列非依存的様式で、2種のDNA配列の間のいかなる形態の連鎖も破壊することができる。
TYLCV遺伝子座におけるリンケージドラッグの破壊
[095]トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)は、ベゴモ(begamo)ウイルスに起因し、コナジラミ類によって伝染する重篤なトマト疾患である。TYLCV感染は、温暖な(亜)熱帯地方でよく見られ、これらの地方におけるトマト栽培を制限する。TYLCV感染に対する抵抗性は、いくつかの野生トマト種において発見された(Jiら(2007)、Tomato Yellow Leaf Curl Virus Disease(Czosnek、H.編).Netherlands:Springer、343〜362頁)。現在、5種の抵抗性遺伝子座、Ty1〜Ty5が育種に用いられている。S.チレンス(S.chilense)LA1969由来のTy1遺伝子座は、マッピングされた最初の抵抗性遺伝子座であり、6番染色体においてTy3遺伝子座に連鎖しており、いくつかの市販の変種に組み入れられた。しかし、Ty1抵抗性遺伝子座は、自己壊死(autonecrosis)等の望ましくない形質を伴うという、リンケージドラッグを負う。Ty1遺伝子座は、6番染色体のセントロメア周辺領域に位置し、組換えの重大な抑制を負う17MBイントログレッション断片に位置する。Verlaanら(2011、Plant J 68:1096〜1103)は、3000体のF2植物においてTy1遺伝子座における組換えを試験したが、大部分のイントログレッション断片に亘りこの集団においていかなる組換え事象も検出することができなかった。これは、減数分裂の際のこの領域における組換えを阻害する、S.チレンスLA1969におけるいくつかの染色体再編成によるものと思われる。標的化転座の生成は、相同性非依存性であるため、これを用いてリンケージドラッグを破壊し、Ty1遺伝子座の微細マッピングを単純化するために、Ty1遺伝子座のサイズを減少させることができる。
トマト育種材料における規定のサイズのイントログレッションの作製及び早期果実熟成の原因遺伝子の微細マッピング
[098]早期果実熟成の原因である染色体Iにおける遺伝子座を保有するトマト系統、ER43を同定することができる。マーカー解析によって、遺伝子座が、527kbp離れたAFLPマーカーMM101とMM107との間に位置することを立証することができる。この領域の完全配列を利用できるため、BLAST解析に基づき、トマトゲノムにおける単一コピー配列である、一連の標的配列を100kbpの間隔をあけて選択することができる。これらの標的配列に隣接するプライマーを設計し、トマト系統Moneymaker(http://www.seedaholic.com/tomato−cherry−fox−organic−seeds−1.htmlから利用可能)における対応する遺伝子座の増幅に用いて、第一に、標的配列が両系統において同一であることを確認し、第二に、特異的プライマーの設計に活用することができる、2種のトマト系統におけるこれら標的配列前後の配列差を同定する。その後、5種のTALENコンストラクトを設計して、これら標的配列にDSBを生成する。次に、TALEN配列を合成し、トマトAA6プロモーター等、トマトプロトプラストにおいて活性を有するプロモーター配列とTALENとを融合するプラスミドコンストラクトにクローニングする。ER43及びMoneymaker系統のプロトプラストに、各TALENプラスミドをトランスフェクトし、適した液体培地において24時間インキュベートし、遠心分離によって収集する。次に、トランスフェクトしたプロトプラストの各集団からゲノムDNAを単離し、染色体特異的プライマーを用いて、5種の標的配列のそれぞれを増幅する。次に、処理プロトプラストの各バッチの10%前後に存在し得る標的配列におけるINDELの存在に関して、PCR産物を解析する。これは、TALENコンストラクトが、細胞において活性を有し、両方のトマト系統の標的配列にDSBを誘導することができることを実証するであろう。次に、系統ER43及びMoneymakerを交雑して、組織培養において無菌条件下で維持されるF1系統を生成し、プロトプラストの生成に用いる。次に、このようなプロトプラストに、TALENコンストラクトをトランスフェクトし、各トランスフェクションに由来する1000個のカルスを育成し、染色体特異的PCRプライマーの異なる組み合わせを用いて、標的配列における転座の存在に関する遺伝子型の判定を行った。このような標的化転座を含むカルスを再生させて植物体とし、自家受粉させて、各転座がホモ接合型のF2植物を作出する。次に、これらの表現型を判定して、早期熟成遺伝子座を保有する染色体断片を同定する。次にこの領域の物理地図を構築し、早期熟成表現型の原因遺伝子を同定することができる。
ブラシカ・ナプスにおける標的化転座
[099]アブラナ(Oliseed rape)又はキャノーラ(ブラシカ・ナプス)は、ブラシカ・ラパ(Brassica rapa)(Aゲノム)及びブラシカ・オレラケア(Brassica oleraceae)(Cゲノム)の種間雑種形成から形成された複二倍体種である。選択的な系統育種が集中的に用いられて、この作物における収量及び種子品質の両方が改善された。系統育種は、樹立された栽培品種対の間の交雑に起因する優れたF2及び後世代個体の選択及び同系交配に関与する。しかし、限られた数のF2植物がスクリーニングされるため、育種プロセスの最終産物は、多くの場合、農学的形質にマイナスの効果をもたらす多量の親ゲノムを含有する。このことは、戻し交雑の複数世代の後であっても、依然として親ゲノムの一方の29%を含有したB.ナプス型「Tapidor」において実証された(Sharpe&Lydiate、2001、Genome 46:461〜468)。全ゲノム単位において別個のドナー及びエリートアレルを保有するF1に由来する仮想のF2個体が、いかなる固定されたドナー遺伝子型も含まない確率を計算することが可能である。これは、およそ81825体のF2植物において1回起こると推定された(Sedcole、T.R.(1977)Crop Sci.17:667〜668)。対照的に、アブラナにおける系統育種プログラムは一般に、1000〜2000体の間のF2植物のみを選択し、多量の非連鎖ドナー遺伝子型を含有する個体の選択をもたらす。倍加された一倍体の作出の実施と組み合わせて、育種スピードを増加させると、親遺伝子型は、対象とする遺伝子座に連鎖していない場合であっても、非常に迅速にホモ接合型となり、固定され得る。
標的化転座を用いた遺伝子座ドメインの融合
[102]植物系統IR3は、そのトリコームにおける高濃度の殺虫性化合物の存在のため、広範な昆虫に対し強い抵抗性を有する。このような高濃度は、この化合物の生化学的合成に関与する遺伝子の1種(IK4)の高発現によって達成される。高発現は、トリコーム特異的様式で高転写活性化を駆動する新規プロモーターによって達成される。植物系統IR12もIK4遺伝子を含有するが、昆虫の摂食に対し感受性である。分子解析は、IK4遺伝子が、IR12のトリコームにおいて発現されず、これが、その不活性化をもたらすIR12系統におけるIK4遺伝子のプロモーターにおけるヌクレオチド差によるものであることを示した。これらの実験の目的は、系統間で標的化転座を誘導し、系統IR12由来のIK4遺伝子とIR3プロモーターとの融合をもたらすことによって、IR12系統におけるIK4遺伝子の高いトリコーム特異的発現を回復させることであった。標的配列は、IK4 ORFの20bp上流に位置すると同定され、この部位にDSBを作製するようTALENを設計する。次に、植物発現に適したプロモーターの後ろにTALENをクローニングし、IR3及びIR12系統の両方のプロトプラストに、得られたプラスミドをトランスフェクトする。実施例3に記載されている通り、このようにして、本出願人らは、TALEN発現が、両方の植物系統における標的配列にDSBを誘導できることを確認することができる。次に、IR3及びIR12系統を交雑することによって、F1系統を作出し、これを用いてプロトプラストを生成し、これにTALENコンストラクトをトランスフェクトする。他の実施例に記載されている通り、IR3又はIR12遺伝子座のいずれかを増幅する特異的プライマーを異なる組み合わせで用いて、標的化転座が起こったカルスを同定する。次に、これらのカルスを再生させて植物体とし、IR12親植物と戻し交雑を数回行い、各世代において標的化転座に関して選択して、植物が、所望の転座を除きIR12親と同質遺伝子的である状況に達する。定量的RT−PCRを用いて、この系統において、IR4 IK4遺伝子へのIR3プロモーターの正確な融合が、トリコームにおける高いIK4発現を回復させたことを示すことができ、その後の表現型判定は、この植物が、広範な昆虫に対し強い抵抗性を示すことを実証する。本実施例は、転座を用いて、別の系統の遺伝子にプロモーター又は他の調節配列を融合させ、これによって、価値ある表現型をもたらす新規発現パターンを達成することができることを実証する。
標的化転座を用いた新規オープンリーディングフレームの作製
[103]真菌病原体に対する抵抗性は、多くの場合、植物ゲノムの至るところに分布する抵抗性遺伝子クラスターに位置するロイシンリッチリピート(LRR)遺伝子のクラスによって付与される。植物系統M17は、疾患、葉枯れ病(late blight)の原因となる真菌病原体の品種(race)1に対する特異的な抵抗性を付与するLRR抵抗性遺伝子(LRR12)を含有する。植物系統P15は、染色体上の同じポジションに位置する類似の抵抗性遺伝子クラスターを保有する。P15において、LRR63という名称の、LRR12と配列が最も類似した抵抗性遺伝子は、クラスターにおける同じポジションに位置するが、異なるアミノ酸配列を有する。結果として、LRR63遺伝子は、真菌品種2に対する抵抗性を付与するが、品種1に対する抵抗性は付与しない。これらの抵抗性遺伝子のいずれも、真菌品種3に対する抵抗性を付与しない。本出願人らの仮説は、LRR12及びLRR63遺伝子のドメインを組み合わせることによって、真菌品種3に対する新規抵抗性を達成することができることである。これらの遺伝子の両方の配列が公知のものであり、LRR12及びLRR63の両方に存在した配列に関してイントロンが解析される。次に、この標的配列にDSBを誘導することができる部位特異的ヌクレアーゼを設計する。次に、植物プロトプラストにおいて発現をもたらすプロモーターの後ろに部位特異的ヌクレアーゼをクローニングし、得られたプラスミドを用いて、植物系統M17及びP15の両方から得られるプロトプラストをトランスフェクトする。本明細書に含まれる他の実施例においてより詳細に記載されている通り、本出願人らは、部位特異的ヌクレアーゼが、LRR12及びLRR63の両方におけるイントロン標的配列にDSBを生成できることを実証することができる。次に、M17及びP15系統を交雑することによってF1系統を作出し、無菌条件下で組織培養においてこれを維持する。次に、F1系統からプロトプラストを単離し、部位特異的ヌクレアーゼをコードするプラスミドをトランスフェクトする。次に、個々のプロトプラストを再生させてカルスとし、LRR12又はLRR63に設計された特異的プライマーの組み合わせによってこれらの遺伝子型を判定して、標的化転座が起こったカルスを検出する。転座は、イントロンにおいて標的化されたため、転座の際に生成される小さいINDELは、単にイントロン配列の部分を除去し、したがって、遺伝子オープンリーディングフレームに影響を与えない。転座は、LRR63遺伝子のドメインとLRR12遺伝子のドメインとの融合をもたらし、新たな抵抗性を付与する新規遺伝子を作製する。転座を有するカルスを再生させて植物体とし、新たなキメラオープンリーディングフレームが、LRR12及びLRR63の両方に由来するドメインで構成されており、真菌品種3に対する新規抵抗性をもたらすことを実証することができる。本実施例は、標的化転座を用いて、異なる遺伝子由来のドメインを一体に連結して、重要な新たな表現型を付与する新規遺伝子を作製できる方法を実証する。
標的化転座の同時誘導及び減数分裂の阻害
[104]部位特異的ヌクレアーゼを用いて、F1雑種におけるホメオロガス染色体の間に標的化転座を誘導することができる。次に、個々のカルスを再生させて植物体を生成し、これを正常な減数分裂に進めて、親植物の両方に由来するゲノムセグメントを有する正常なF2集団をもたらす。次に、表現型の判定をするための同質遺伝子的系統を得るために、大規模戻し交雑が必要とされ、これは、数年間を要し、複数ラウンドの集団スクリーニングに関与し得る。初代の植物において減数分裂乗換えが阻害されて、配偶子における親染色体のランダムな分離を可能にすれば、一世代で同質遺伝子的系統を得ることができる。大部分の配偶子は、異常染色体数のために生存不可能となるであろうが、僅かなパーセンテージは、所望の親の全染色体を含有し、要求される親との直接的戻し交雑において用いる場合、一世代で同質遺伝子的系統を生じるであろう。生成すべき標的化転座は、実施例1〜6に記載されているもののうちいずれであってもよい。F1植物からプロトプラストを生成し、2種のプラスミドを同時にトランスフェクトすることができる。第1のプラスミドは、植物プロトプラストにおいて活性を有するプロモーターによって駆動される部位特異的ヌクレアーゼを保有し、これは、既に記載されている通り、所望の標的化転座を生成する。第2のプラスミドは、植物プロトプラストにおいて活性を有する第2のプロモーターによって駆動される異なる部位特異的ヌクレアーゼを保有し、これは、減数分裂における乗換え形成に関与する遺伝子Dmc1にDSBを生じるよう設計される。このDSBの修復は、この減数分裂遺伝子に小さいINDELを生成し、遺伝子機能の完全喪失をもたらすであろう。次に、所望の標的化転座を含むカルスを選択し、Dmc1の標的配列における追加的ホモ接合型INDEL突然変異に関してこれらをスクリーニングする。次に、これらのカルスを再生させて植物体とし、初代の親植物と戻し交雑する。この交雑に由来する植物が、所望の転座を含むが、それ以外は戻し交雑親と同質遺伝子的であることを実証することができる。よって、本方法は、大規模戻し交雑プログラムを必要としない、標的化転座を含み、それ以外は親系統の一方と同質遺伝子的でもある系統の作出に適用することができる。
Claims (19)
- 植物又は植物細胞における第1の植物染色体上に存在する第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖を解消するための方法であって、
染色体上における前記第1の遺伝子座Aの位置と前記第2の遺伝子座Bの位置とを含むこれらの間の(減数分裂)組換えが抑制されており、
(a)前記第1の遺伝子座A及び前記第2の遺伝子座Bを含む前記第1の染色体を含み、少なくとも第2の染色体を更に含む少なくとも1個の植物細胞を用意するステップであり、前記染色体が、互いに相同又は同祖染色体であるステップと、
(b)第1の染色体に二本鎖切断を導入するサブステップであり、第1の染色体における二本鎖切断が、前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間に導入され、これによって、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分及び第2の遺伝子座Bを含む第1の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ、及び
第2の染色体に二本鎖切断を導入し、これによって、第2の染色体における第1の部分及び第2の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ
を含むステップと、
(c)必要に応じて、ステップ(b)によって得られた少なくとも1個の植物細胞を用いて、第1の染色体における第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖が解消され、更に、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分が、第2の染色体における第2の部分にライゲーションされた、少なくとも1個の植物細胞を同定するステップと
を含み、
第1の染色体における二本鎖切断及び/又は第2の染色体における二本鎖切断が、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ及びCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムからなる群から選択されることが好ましい、少なくとも1種の部位特異的ヌクレアーゼによって導入される、方法。 - ステップ(c)が行われる、請求項1に記載の方法。
- ステップ(c)において、第1の染色体における第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖が解消され、更に、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分が、第2の染色体における第2の部分にライゲーションされ、更に、第1の染色体における第2の部分が、第2の染色体における第1の部分にライゲーションされた植物細胞が同定される、請求項2に記載の方法。
- 前記第2の染色体が、前記第1の遺伝子座Aと同一の遺伝子座を含まない、及び/又は前記第2の遺伝子座Bと同一の遺伝子座を含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記第1の植物染色体上に存在する前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間の距離が、1塩基対と染色体全長との間である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 第1の染色体における二本鎖切断及び/又は第2の染色体における二本鎖切断が、同じ部位特異的ヌクレアーゼ、同じジンクフィンガーヌクレアーゼ、同じメガヌクレアーゼ、同じTALエフェクターヌクレアーゼ又は同じCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムによって導入される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 第1の染色体において1個以下の二本鎖切断が導入され、第2の染色体において1個以下の二本鎖切断が導入される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- i.第1の染色体が、前記第1の遺伝子座A及び前記第2の遺伝子座Bを含み、前記第1の遺伝子座Aが、第1の特性の望ましい形質に連鎖し、前記第2の遺伝子座Bが、前記第1の特性又は第2の特性の望ましくない形質に連鎖し、
ii.前記第2の染色体が、前記第1の特性又は第2の特性の望ましくない形質に連鎖した前記第2の遺伝子座Bと同一の遺伝子座を含まず、
iii.第1の染色体における前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間に、並びに、第2の染色体における対応する遺伝子座又は位置に、1個の二本鎖切断が導入される、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。 - 第1又は第2の特性の望ましくない形質が、第1の特性の望ましい形質にマイナスの影響を与える形質、収量の低減、疾患又は有害生物に対する抵抗性の低減、成長の低減、サイズの低減、種子量の低減、塩、熱、低温、水及び乾燥ストレスを含むストレスに対する抵抗性の低減からなる群から選択される形質である、請求項8に記載の方法。
- (d)請求項1に記載のステップ(b)又は請求項1若しくは2に記載のステップ(c)の後に得られた植物細胞から植物体を再生させるステップと、
(e)自家受粉又は別の植物体と交雑することによって、前記再生された植物体から種子を作製するステップと、
(f)ステップ(e)において得られた種子から植物体を成長させるステップと、
(g)必要に応じて、ステップ(f)において得られた前記植物体を遺伝連鎖の解消に関してスクリーニングするステップと
を更に含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。 - 請求項1に記載のステップ(c)によって同定するステップが、配列決定するサブステップ、及び/又は第1の染色体のライゲーションされた部分を選択的に増幅するサブステップ、及び/又は子孫の表現型を判定するサブステップ、及び/又は蛍光in−situハイブリダイゼーション(FISH)を行うサブステップを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
- 用意される植物細胞が、植物体細胞、好ましくは、プロトプラスト、及び/又は雑種から得られる植物細胞である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
- 植物が、二倍体、三倍体、四倍体、五倍体、六倍体、八倍体、十倍体、十二倍体又は複二倍体である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
- 植物P2から得られる植物P1を用意するための方法であって、前記植物P2が、第1の染色体における第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖の存在によって特徴づけされ、
染色体上における前記第1の遺伝子座Aの位置と前記第2の遺伝子座Bの位置とを含むこれらの間の(減数分裂)組換えが抑制されており、
前記植物P1が、前記遺伝連鎖の非存在によって特徴づけされ、
(a)前記第1の遺伝子座A及び前記第2の遺伝子座Bを含む前記第1の染色体を含み、少なくとも第2の染色体を更に含む少なくとも1個の植物細胞を用意するステップであり、前記染色体が、互いに相同又は同祖染色体であるステップと、
(b)第1の染色体に二本鎖切断を導入するサブステップであり、第1の染色体における二本鎖切断が、前記第1の遺伝子座Aと前記第2の遺伝子座Bとの間に導入され、これによって、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分及び第2の遺伝子座Bを含む第1の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ、及び
第2の染色体に二本鎖切断を導入し、これによって、第2の染色体における第1の部分及び第2の染色体における第2の部分を生じさせるサブステップ
を含むステップと、
(c)必要に応じて、ステップ(b)によって得られた少なくとも1個の植物細胞を用いて、第1の染色体における第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖が解消され、更に、第1の遺伝子座Aを含む第1の染色体における第1の部分が、第2の染色体における第2の部分にライゲーションされた、少なくとも1個の植物細胞を同定するステップと、
(d)前記植物P1を再生させるステップと
を含み、
第1の染色体における二本鎖切断及び/又は第2の染色体における二本鎖切断が、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ及びCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムからなる群から選択されることが好ましい、少なくとも1種の部位特異的ヌクレアーゼによって導入される、方法。 - ステップ(c)が行われる、請求項14に記載の方法。
- 第1の染色体上に存在する第1の遺伝子座Aと第2の遺伝子座Bとの間の遺伝連鎖を解消するための、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ及びCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムから選択されることが好ましい部位特異的ヌクレアーゼの使用であって、
染色体上における前記第1の遺伝子座Aの位置と前記第2の遺伝子座Bとの位置とを含むこれらの間の(減数分裂)組換えが抑制されている、使用。 - 前記第1の遺伝子座Aが、第1の特性の望ましい形質に連鎖し、前記第2の遺伝子座Bが、前記第1の特性又は第2の特性の望ましくない形質に連鎖している、請求項16に記載の使用。
- リンケージドラッグを解消するための、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ及びCas9/crRNA/tracrRNA CRISPRシステムから選択されることが好ましい部位特異的ヌクレアーゼの使用。
- 請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法及び/又は請求項16〜18のいずれか一項に記載の使用によって得ることができる又は得られる、植物、植物部分、果実又は種子。
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