JP2016223288A - 鋼矢板 - Google Patents
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Abstract
周辺地盤への悪影響を及ぼすことなく、打設施工時の鋼矢板の直進性を高め、打設施工中の曲がりや倒れなどが防止でき、従来工法よりも打設長さの長い施工を可能にする鋼矢板を得ること。
【解決手段】
断面形状がU形またはハット形の鋼矢板であって、
地中に打設する場合における鋼矢板下端位置から、鋼矢板断面幅以上かつ鋼矢板全長の1/3以下の長さに亘り、鋼矢板表面の少なくとも内周面側に摩擦低減処理を施してある鋼矢板。
【選択図】図1B
Description
特に鋼矢板の打設長さが長くなると、上記の傾向が顕著になる。その結果、鋼矢板打設時の地盤抵抗(貫入抵抗(penetration resistance))や隣接する鋼矢板継手(joint)間の接触抵抗(contact resintance)が大きくなり、打設が困難になるなどの問題が生じる。
例えば、油圧圧入工法(hydraulic press-in construction method)の場合、U形鋼矢板IIW型では打ち込み可能長さが10mであり、U形鋼矢板VIL型では打ち込み可能長さが30mである。
長尺の鋼矢板を打設するためには鋼矢板の施工性(workability)を向上させる必要がある。このような必要性を満たす従来技術として、高圧の水を噴射させ周辺地盤を柔らかくしつつ、鋼矢板を打設するウォータージェット工法(water jet construction method)がある(特許文献1参照)。
また、鋼矢板表面の摩擦抵抗(frictional resistance)を低減する技術としては、特許文献2のように、吸水性樹脂(water-absorbing resin)とアルカリ水可溶性樹脂(alkaline water-soluble resin)とを必須成分とする摩擦低減材(friction reducing material)を表面に塗布または貼り付けるものがある。
また、鋼矢板を打設する際の施工性を向上するために、特許文献1に開示されたウォータージェット工法を用いると以下のような問題がある。高圧水を通すジェットノズルの設置作業やノズルホルダを鋼矢板に付設する作業などにより、現地での施工準備時間が長くなることや、高圧の水を噴射することで周辺地盤が乱れ、地耐力(soil bearing power)が低下し、不安定な構造となるおそれがある。
しかしながら、このような構造は、鋼矢板の直進性を改善することにより打設性(drivability)を向上するという観点からは、必ずしも合理的ではない。特に打設長が長い鋼矢板の場合、摩擦低減材の設置面積が大きくなり、コストが膨大となる。ここで直進性とは、鋼矢板打設時に、鋼矢板の曲がりや回転(ねじれ)が発生せず、鋼矢板がまっすぐに地中に貫入する(penetrate)程度を表すものである。
鋼矢板の打設時において、貫入抵抗が増大する大きな要因の一つとして、図30A、図30Bおよび図31に示すように、鋼矢板11の下端部において、ウェブ(web)およびフランジ(flange)によって形成される隅角部(corner)内側に土13が詰まることで鋼矢板下端部内側が閉塞し、当該部位の摩擦抵抗が増大することが考えられる。
地中に打設する場合における鋼矢板下端位置から、鋼矢板断面幅以上かつ鋼矢板全長の1/3以下の長さに亘り、鋼矢板表面の少なくとも内周面側に摩擦低減処理を施したものである。
以下、本実施の形態に係るU形鋼矢板1について詳細に説明する。
U形鋼矢板1は、図1Bに示す通り、鋼矢板長さをL、鋼矢板断面幅をBとしている。
摩擦低減処理は、樹脂性材料、アスファルト材料(asphalt)、塗料などの従来から存在する摩擦低減材を塗布すること、あるいは鋼矢板の表面に化学処理を施したり、鋼矢板の化学成分を調整するなどの方法、あるいは摩擦低減可能な板状の部材などを鋼矢板表面に貼り付けることなどの態様を含む。
なお、摩擦低減材を塗布する場合には、塗布膜が鋼矢板の打設によって剥がれない硬質のものである必要がある。
摩擦低減処理を施す区間の長さ(摩擦低減処理区間長S)は、地中に打設する場合における鋼矢板下端位置から、鋼矢板断面幅B以上かつ鋼矢板全長Lの1/3以下にするのが好ましい。複数枚の鋼矢板を縦継ぎして打設して用いる場合は、複数枚の総計長さを鋼矢板全長Lとする。
その理由は、後述する実施例において実証するように、鋼矢板全長Lの1/3を超えて摩擦低減処理を行っても直進性を向上させる効果が少なく、コストが高くなるからである。
一方、摩擦低減処理を施す長さが鋼矢板断面幅B未満では、本発明の目的である直進性を確保する効果が十分得られないからである。
なお、摩擦低減材3の施工は、工場などで予め行うことで、現地での施工準備時間を短くすることができる。
また、ウォータージェット工法(water jet construction method)を実施する場合のような周辺地盤への悪影響を与えることなく、長い鋼矢板の施工が可能になる。
これらの効果については、後述する実施例において実証している。
この場合、摩擦低減材3の塗布量等を減じてコスト低減が可能であると同時に、図2の構造に準ずる貫入抵抗の低減効果を得ることができる。
隅角部1dの摩擦抵抗は、土の拘束効果への寄与が大きいと考えられるので、当該部位に摩擦低減材3を施工することは打設施工中の曲がり抑止および貫入抵抗の低減効果が高い。
つまり、図5に示す例では、図4の場合と比較して摩擦低減材3の施工量をさらに減じることができ、一層のコスト低減が可能であると同時に、図2、図3の構造に準ずる鋼矢板施工中の曲がり抑止および貫入抵抗の低減効果が期待できる。
ウェブ部1aの内周面中央部分における摩擦抵抗も土の拘束効果への寄与があると考えられるので、当該部位に摩擦低減材3を施工することは鋼矢板施工中の曲がり抑止および貫入抵抗の低減に効果的である。
ハット形鋼矢板5の断面形状は、図9に示すように、ウェブ部5aと、ウェブ部5aの両側に設けられたフランジ部5bと、フランジ部5bから屈曲して幅方向に延びるアーム部5cと、アーム部5cの先端に設けられた継手部(joint portion)5dとを有している。
図10は、ハット形鋼矢板5の表面全周に摩擦低減材3を施工したものである。
図11は、ハット形鋼矢板5の表面の内周面側全面に摩擦低減材3を施工したものである。
図12は、ハット形鋼矢板5の表面の内周面のうち、アーム部(arm portion)5cへの摩擦低減材3の施工を省略したものである。アーム部5cにおける摩擦抵抗は土の拘束効果への寄与は小さいと考えられるためである。
図15は、U形鋼矢板1の図7の場合と同様に、ハット形鋼矢板5のウェブ部5aの内周面のみに摩擦低減材3を施工した例である。この場合も、U形鋼矢板1の場合と同様に、隅角部5eの片側(ウェブ部5a側)における摩擦低減がされることで、隅角部5eで土の拘束が生ずるのを防止できる効果が期待できる。
図16は、U形鋼矢板1の図8の場合と同様に、フランジ部5bの内周面のみに摩擦低減材3を施工した例である。この場合も、図15に示した例と同様に、隅角部5eで土の拘束が生ずるのを防止できる効果が期待できる。
実験は、実際の施工を模擬して行った。土槽(soil box)に深度1.5m(実スケール換算15m)の均質な砂地盤(sand ground)を作成して、摩擦低減処理の条件を変えた鋼矢板模型を油圧により、全長、砂地盤に貫入し、条件毎の打設時の貫入抵抗比(ratio of penetration resistance)および鋼矢板の曲がり(warp)を評価項目として実験結果を取得した。
実験は、摩擦低減材施工パターン、および、鋼矢板下端からの摩擦低減材3の施工区間長(摩擦低減処理区間長S)を変化させて行った。
実験では、鋼矢板全長を打設長さとした。
摩擦低減材施工パターンは、摩擦低減材3を施工しないパターンN(図17A参照)、U形鋼矢板1の下端から摩擦低減処理区間長Sの全表面に摩擦低減材3を施工したパターンA(図17B参照)、U形鋼矢板1の下端から摩擦低減処理区間長S表面の内周面側のみに摩擦低減材3を施工したパターンB(図17C参照)、U形鋼矢板1の下端から摩擦低減処理区間長Sの表面の内周面側における隅角部1dのみに摩擦低減材3を施工したパターンC(図17D参照)、U形鋼矢板1の下端から摩擦低減処理区間長Sの表面の内周面側におけるウェブ部1aのみに摩擦低減材3を施工したパターンD(図17E参照)の5通りとした。
打設時の貫入抵抗比は、摩擦低減材3なしのケース(U形-N-0(比較例1))における最大貫入抵抗力を基準(=1.0)とした場合における、摩擦低減材3を施工したケースにおける最大貫入抵抗力の比率である。貫入抵抗比の値が小さいものほど貫入抵抗が小さく好適であることを意味している。
鋼矢板の曲がり(warp)(rad)は、図18に示すように、鋼矢板頭部と鋼矢板下端の水平方向の変位を曲がり量Δとした場合におけるΔ/Lであり、値が小さいものほど鋼矢板の曲がりが小さく好適であることを意味している。
上記実験条件および実験結果をまとめたものを表1に示す。
表1に示す実験結果(評価項目)に基づいて種々のグラフを作成し、該各グラフに基づいて評価を行ったので、その結果について以下に説明する。
図19は、摩擦低減処理区間長S毎の違いを評価するためのグラフであり、横軸が摩擦低減処理区間長S(m)を示し、縦軸が鋼矢板の曲がり(rad)を示している。
図19においては、表1に示したもののうち、摩擦低減材施工パターンがパターンNのもの(比較例1)とパターンAのもの(比較例2〜比較例4、本発明例1〜本発明例3)についての実験結果をプロットしている。
図20において、縦軸は鋼矢板の曲がり(rad)を表している。
パターンAよりもパターンBの方が鋼矢板の曲がり抑止効果が高かったのは、鋼矢板の内周面および外周面における摩擦抵抗が均衡化され、鋼矢板の直進性がより高まり、施工中の曲がりが抑えられたためであると推察される。つまり、摩擦低減材3を施工していない状態において、鋼矢板の外周面は内周面よりも摩擦抵抗が小さいため、摩擦低減材3を内周面のみに施工することで鋼矢板の内周面および外周面における摩擦抵抗が均衡化されたものと考えられる。
図21に示す通り、摩擦低減材3を施工していないパターンNに比べて、摩擦低減材3を施工したパターンA〜パターンDでは貫入抵抗比が減少しており、その効果の大きさ(貫入抵抗比低減効果)は、大きい順にパターンA⇒パターンB⇒パターンC⇒パターンDの順であった。
図22において、パターンAおよびパターンDの各プロットは、パターンBのプロットとパターンCのプロットを通る直線P1よりも上方に位置している。このことは、パターンAおよびパターンDの場合、パターンBおよびパターンCの場合よりも、摩擦低減材3の施工周長に対する鋼矢板の曲がり抑制効果が小さいことを意味している。
従って、鋼矢板の曲がり抑止の観点から、摩擦低減材施工パターンとしては、パターンB、パターンCの形状とすることが好ましいと言える。
実験のパラメータは、摩擦低減材施工パターンおよび摩擦低減処理区間長Sである。
実験では、鋼矢板全長を打設長さとした。
摩擦低減材施工パターンは、実施例1のU形鋼矢板1の場合と同様であり、図24A〜24Eに示すとおり、摩擦低減材3を施工しないパターンN(図24A参照)、ハット形鋼矢板5の下端から摩擦低減処理区間長Sの全表面に摩擦低減材3を施工したパターンA(図24B参照)、ハット形鋼矢板5表面の下端から摩擦低減処理区間長Sの内周面側のみに摩擦低減材3を施工したパターンB(図24C参照)、ハット形鋼矢板5の下端から摩擦低減処理区間長Sの表面の内周面側における隅角部5eのみに摩擦低減材3を施工したパターンC(図24D参照)、ハット形鋼矢板5の下端から摩擦低減処理区間長Sの表面の内周面側におけるウェブ部5aのみに摩擦低減材3を施工したパターンD(図24E参照)の5通りとした。
実験条件および実験結果をまとめたものを表2に示す。
図25に示す通り、実施例1と同様に、摩擦低減処理区間長Sが長くなれば、総じて貫入抵抗比は小さくなる傾向にあるが、摩擦低減処理区間長Sが4m(=1/3×L)より長くなるケースでは鋼矢板の曲がりの減少度合いは僅かであるであることから、摩擦低減材3の施工コストを考慮して、摩擦低減処理区間長Sを4m(=1/3×L)以下とすることが好適な条件となる。
図26に示す通り、摩擦低減材3を施工しないパターンNに比べて、摩擦低減材3を施工したケース(パターンA〜パターンD)では鋼矢板の曲がりが減少しており、その効果の大きさ(鋼矢板の曲がり低減効果)は、大きい順にパターンB⇒パターンA⇒パターンC⇒パターンDの順であった。鋼矢板の曲がり抑止にはパターンBが最も効果的であった。したがって、ハット形鋼矢板5の場合でも、U形鋼矢板1と同様に直進施工性の観点からは、摩擦低減材3をパターンBで施工するのが最も好ましい。
図27に示す通り、摩擦低減材3を施工しないパターンNに比べて、摩擦低減材3を施工したケース(パターンA〜D)では貫入抵抗比が減少しており、その効果の大きさ(貫入抵抗比低減効果)は、大きい順にパターンA⇒パターンB⇒パターンC⇒パターンDの順であった。
図28において、パターンAおよびパターンDの各プロットは、パターンBのプロットとパターンCのプロットを通る直線P3よりも上方に位置している。このことは、パターンAおよびパターンDの場合、パターンBおよびパターンCの場合よりも、摩擦低減材3の施工周長に対する鋼矢板の曲がり低減効果が小さいことを意味している。
従って、鋼矢板の曲がり抑止の観点から、実施例1と同様に、摩擦低減材施工パターンとしてはパターンB、パターンCの形状とすることが好適である。
パターンA、パターンB、パターンCでは摩擦低減材3の施工周長に応じて、ほぼ直線的(図29中の直線P4参照)に貫入抵抗比が低減しているが、パターンDのプロットは、パターンA、パターンB、パターンCを結んだ直線P4の上方に位置している。このことは、パターンDが他のパターンに比較して摩擦低減材3の施工周長に対する貫入抵抗低減効果が小さいことを意味している。従って、貫入抵抗比低減の観点から、摩擦低減材施工パターンとしては、パターンA、パターンB、パターンCの形状とすることが好適となる。
実験は、実際の施工を模擬して行った。土槽(soil box)に深度2.0m(実スケール換算40m)の均質な砂地盤を作成して、長さLを実スケール換算でそれぞれ、12m、24m、36mに変えた鋼矢板模型を、油圧により、全長、砂地盤に貫入し、条件毎の打設時の貫入抵抗比および鋼矢板の曲がりを評価項目として実験結果を取得した。
実験は、鋼矢板長さの他、摩擦低減処理有り/無しを変化させて行った。
実験では、鋼矢板全長を打設長さとした。
打設時の貫入抵抗比は、摩擦低減材3なしのケース(U形12-N-0(比較例7)、U形24-N-0(比較例8)、U形36-N-0(比較例9))における最大貫入抵抗力を基準(=1.0)とした場合における、摩擦低減材3を施工したケースにおける最大貫入抵抗力の比率であり、値が小さくなるほど貫入抵抗低減効果が大きく、好適であることを意味している。
鋼矢板の曲がり(rad)は、図18に示すように、鋼矢板頭部と鋼矢板下端の水平方向の変位を曲がり量Δとした場合におけるΔ/Lであり、値が小さいものほど鋼矢板の曲がりが小さく好適であることを意味している。
なお、U形36-N-0(比較例9))では、施工途中の深度28m(実スケール換算)で、鋼矢板の変形により貫入不能となったため、最終的な鋼矢板の曲がりは計測できなかった。
上記実験条件および実験結果をまとめたものを表3に示す。
図32は、鋼矢板長さの影響による摩擦低減効果の違いを評価するためのグラフであり、横軸が鋼矢板長さL(m)を示し、縦軸が貫入抵抗比を示している。
1a ウェブ部
1b フランジ部
1c 継手部
1d 隅角部
3 摩擦低減材
5 ハット形鋼矢板
5a ウェブ部
5b フランジ部
5c アーム部
5d 継手部
5e 隅角部
11 鋼矢板(従来例)
13 土
Claims (6)
- 断面形状がU形またはハット形の鋼矢板であって、
地中に打設する場合における鋼矢板下端位置から、鋼矢板断面幅以上かつ鋼矢板の打設長さの1/3以下(1/3の場合を除く)の長さに亘り、鋼矢板表面の少なくとも内周面側に摩擦低減処理を施してある鋼矢板。 - 前記摩擦低減処理を鋼矢板表面の内周面側のみに施した請求項1記載の鋼矢板。
- 前記摩擦低減処理を鋼矢板表面の内周面側における隅角部のみに施した請求項2記載の鋼矢板。
- 断面形状がU形またはハット形の鋼矢板であって、
地中に打設する場合における鋼矢板下端位置から、鋼矢板断面幅以上かつ鋼矢板全長の1/3以下の長さに亘り、鋼矢板表面の内周面側における隅角部のみに摩擦低減処理を施してある鋼矢板。 - 鋼矢板の打設長さは、12m以上である請求項1から4までのいずれか一項に記載の鋼矢板。
- 施工中における曲がりを低減することのできる請求項1から5までのいずれか一項に記載の鋼矢板。
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