JP2016213343A - 熱電変換材料の製造方法及び熱電変換素子の製造方法 - Google Patents
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しかし、このような方法ではプロセスが長く、材料のロスが多くなりコスト高になる。さらに、粉体を作製するプロセスの間に不純物が混入し、熱電変換特性が低下するおそれもある。
例えば、特許文献1には、熱電変換材料の原料を溶融させる工程と、前記溶融された熱電変換材料の原料を凝固させる工程とを有しており、少なくとも凝固工程において、熱電変換材料の原料の溶融物に超音波振動を印加することが開示されている。この方法によれば、結晶の配向を揃えるとともに、結晶粒を微細化し、これにより、熱伝導率を小さくし、性能指数を向上させることが可能になると記載されている。
これに対して、特許文献に開示される溶解鋳造によって熱電変換材料を製造する方法では、組成が不均一になり易く、また、冷却時に型に溶着し、熱応力によって割れが生じ易いという問題がある。
また、溶解された原料は、そのまま溶解用るつぼ内で凝固させると凝固に時間がかかり、結晶が成長し微細化するのが難しい為、溶湯を凝固用るつぼに移し変え、結晶が割れないように凝固用るつぼの温度を制御しながら出来る限り素早く凝固させることにより、微細な結晶粒の熱電変換材料を得ることができる。そして、得られた熱電変換材料を所望の形に切り出すことによって熱電変換素子を得ることができる。
溶解用るつぼ内の溶湯を撹拌することにより、溶湯中の組成を均一化することができる。攪拌機には、セラミックス製の羽根を有する攪拌翼を用い、この羽根を回転させて攪拌するとよい。
凝固用るつぼの内面に離型層を形成しておくことにより、溶湯とるつぼとの反応を抑えて、るつぼとの溶着を防止することができる。このため、結晶が凝固し冷却する際にるつぼと熱電変換材料のインゴットとの拘束がなくなり、溶着による熱電変換材料の割れを防止できる。離型層にはシリコンナイトライド、ボロンナイトライドを用いることが好ましい。
凝固用るつぼにより熱電変換素子のほぼ最終形状に近い形状で凝固させ、これを切断して熱電変換素子とするため効率が良い。
本発明が適用される熱電変換材料としては、ビスマステルル合金、スクッテルダイト合金、シリサイド合金、ハーフホイスラー合金等が用いられる。
代表的な熱電変換材料の物性を表1に示す。
その製造のための装置として、図1に示すように、一つの炉の中に、溶解用るつぼと凝固用るつぼとを設置したものが用いられる。
炉11は、ガス導入管12とガス排出管13とが備えられており、これら管12,13を通して、炉11内を真空にし、あるいは還元性雰囲気等の所定の雰囲気に設定することができる。
なお、離型層7をボロンナイトライドによって形成してもよい。
また、溶解用るつぼ1には傾転機構(図示略)が備えられており、溶解用るつぼ1を垂直の起立姿勢から傾けて、内部の溶湯を注出して凝固用るつぼ2に移し変えることができるようになっている。
この傾転機構及び攪拌機6の各駆動部(ともに図示略)は炉11の外部に設置される。
まず、溶解用るつぼ1に原料を投入する。
例えば、シリサイド系のP型熱電変換材料の場合は、原料としてMnとSiが用いられる。シリサイド系のN型熱電変換材料の場合には、MgとSi、さらにSb、Al、Sn、Agなどの元素を添加して熱電特性(熱伝導度、電気伝導度、ゼーベック係数等)の向上を図る。個別原料はそれぞれペレット状、粒状、粉状等の形態で混ぜて投入する。
次に、炉11内をまず真空引きしてアルゴンガス等の不活性ガスで炉11内を置換した後、再度真空引きし、その後、不活性ガス、又は不活性ガスに水素を混合した還元性ガスを導入して、その不活性ガス又は還元性ガスを炉11内に流通させる。この一連の操作によって溶解るつぼ1上部の酸素を追い出す。還元性ガスは水素の爆発限界を避け、例えば、アルゴン+1%〜4%水素、あるいはアルゴン+75%〜100%水素等を使用することができる。
なお、原料の一部に液相が生じる前、即ち、加熱前から溶解用るつぼ1に蓋5をすることも可能である。しかしながら、液相が生じた状態で溶解用るつぼ1に蓋5をする場合、加熱中に原料表面に付着した水分や有機物等の不純物を揮発させることが可能であり、また、還元性ガスを使用した場合には原料表面の酸化物を還元することも可能となる。よって、ガスとして還元性ガスを用い、少なくとも原料の一部に液相が生じた状態で溶解用るつぼ1に蓋5をすることが望ましい。
この溶湯の移し変えに際しては、凝固用るつぼ2を予めヒータ4で加熱して700℃〜1030℃に保温しておく。
そして、この凝固用るつぼ2に溶湯を移し変える。
この際、溶湯注入後、1030℃までの冷却速度を15℃/分以上90℃/分以下となるよう冷却する。1030℃までの冷却速度が15℃/分未満の場合、得られる熱電変換材料の結晶粒径が大きくなる。このような熱電変換材料を用いて熱電変換素子を作製すると、熱伝導率が高くなり、無次元性能指数が低下するため、発電変換効率が低下することとなる。1030℃までの冷却速度が90℃/分を超えると、熱電変換材料に割れが生じやすい。よって、少なくとも溶湯の温度が1030℃にまで低下するまでは、冷却速度を15℃/分以上90℃/分以下とする必要がある。
そして、凝固用るつぼ2にて、500℃〜950℃に維持した状態で10分〜120分保持した後、ヒータ4からの加熱を停止して、炉冷する。この炉冷の際の冷却速度は、1℃/分以上10℃以下/分とするとよい。
この凝固用るつぼ21を用いることにより、熱電変換素子をより効率的に製造することができる。
なお、この凝固用るつぼ21の場合、複数個のキャビティ22のうちの一つのキャビティ22aに熱電対等の温度センサ8が挿入されており、このキャビティ22aを除く他のキャビティ22内に溶湯が充填される。
溶解用るつぼ、凝固用るつぼともにアルミナ製のものを用意し、後述の実施例5を除き、内面にシリコンナイトライドの離型層をコーティングしたものを用いた。各実施例、比較例の原料としては、いずれも以下のものを準備した。
Mg:純度99.9%(3N)、直径6mm、長さ5mmのワイヤーカット材を300g
Si:純度99.999%(5N)、最大径5mmの破砕状のものを171g
Sb:純度99.9%(3N)、直径300μm以下の粗粉末状のものを11.3g
また、得られた熱電変換材料の結晶粒径を測定した。結晶粒径は、二次電子走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、熱電変換材料の任意の領域を10か所測定し、面内の結晶粒子の個数を数え、測定領域の面積をその個数で割り、結晶粒子の平均面積を求めた。その平均面積の平方根を求め、その値を結晶粒径とした。
各実施例、比較例の条件及びその作製結果は以下の通りである。
条件:内容積が500cm3の溶解用るつぼ内に原料を投入して850℃まで昇温した後、850℃に4時間保持し、その後1150℃で60分保持した。その際、700℃より溶解用るつぼに蓋をし、1150℃で5分間蓋をした状態で攪拌した。攪拌を止め、1150℃で5分間放置した後に蓋をあけ、950℃に保温した内容積300cm3の凝固用るつぼに溶湯を注ぎ、凝固後900℃まで降温し、900℃で1時間保持した後、炉冷した。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、25℃/分であった。
結果:結晶に割れがなく、るつぼとの溶着が見られず、凝固用るつぼから容易に熱電変換材料を取り出すことができた。得られた熱電変換材料の結晶粒径は36μmであった。
条件:内容積が500cm3の溶解用るつぼ内に原料を投入して850℃まで昇温した後、850℃に4時間保持し、その後1120℃で60分保持した。その際、700℃より溶解用るつぼに蓋をし、1120℃で5分間蓋をした状態で攪拌した。攪拌を止め、1120℃で5分間放置した後に蓋をあけ、900℃に保温した内容積300cm3の凝固用るつぼに溶湯を注ぎ、900℃で1時間保持した後、炉冷した。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、45℃/分であった。
結果:結晶に割れがなく、るつぼとの溶着が見られず、凝固用るつぼから容易に結晶を取り出すことができた。得られた熱電変換材料の結晶粒径は25μmであった。
条件:内容積が500cm3の溶解用るつぼ内に原料を投入して850℃まで昇温した後、850℃に4時間保持し、その後1150℃で60分保持した。その際、700℃より溶解用るつぼに蓋をし、1150℃で5分間蓋をした状態で攪拌した。攪拌を止め、1150℃で5分間放置した後に蓋をあけ、800℃に保温した内容積300cm3の凝固用るつぼに溶湯を注ぎ、800℃で1時間保持した後、炉冷した。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、90℃/分であった。
結果:取り出した熱電変換材料に割れがなく、るつぼとの溶着が見られず、凝固用るつぼから容易に熱電変換材料を取り出すことができた。得られた熱電変換材料の結晶粒径は17μmであった。
条件:内容積が500cm3の溶解用るつぼ内に原料を投入して850℃まで昇温した後、850℃に4時間保持し、その後1150℃で60分保持した。その際、700℃より溶解用るつぼに蓋をした。溶解用るつぼ内で原料を溶解した際の攪拌は行わなかった。1150℃で蓋をあけ、1030℃に保温した内容積300cm3の凝固用るつぼに溶湯を注ぎ、凝固後900℃まで降温し、900℃で1時間保持した後、炉冷した。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、15℃/分であった。
結果:るつぼとの反応はなく、結晶の割れも生じなかったが、一部に組成が異なる領域のものがあった。理想的なマグネシウムシリサイド(N型)の組成は、質量%比でMg:Si=66.6:33.3であるが、Mg:Si=50.3:49.4あるいはMg:Si=55.2:44.5の比率のものが存在した。得られた熱電変換材料の結晶粒径は43μmであった。
条件:溶解用るつぼ、凝固用るつぼとも内面の離型層が形成されていないものを用いた他は、実施例1と同じ条件とした。なお、アルミナ保護管にも離型層は形成されていないものを用いた。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、25℃/分であった。
結果:熱電変換材料がつるぼと反応し、るつぼの内壁に溶着した。また、外周部(るつぼの内周部付近)の熱電変換材料には割れが発生していた。得られた熱電変換材料の結晶粒径は40μmであった。
条件:内容積が500cm3の溶解用るつぼ内に原料を投入して850℃まで昇温した後、850℃に4時間保持し、その後1150℃で60分保持した。その際、700℃より溶解用るつぼに蓋をし、1150℃で5分間蓋をした状態で攪拌した。攪拌を止め、1150℃で5分間放置した後に蓋をあけ、1030℃に保温した内容積300cm3の凝固用るつぼに溶湯を注ぎ、凝固後900℃まで降温し、900℃で1時間保持した後、炉冷した。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、15℃/分であった。
結果:取り出した熱電変換材料に割れがなく、るつぼとの溶着が見られず、凝固用るつぼから容易に熱電変換材料を取り出すことができた。得られた熱電変換材料の結晶粒径は44μmであった。
条件:溶解用るつぼ、凝固用るつぼとも実施例1と同じものを用い、溶解条件も実施例1と同じとしたが、凝固用るつぼを650℃に保温し、その凝固用るつぼに溶解用るつぼから溶湯を注いで、そのまま炉冷した。凝固用るつぼに溶湯を注いでから1030℃までの冷却速度は、100℃/分であった。
結果:熱電変換材料に割れが発生していた。得られた熱電変換材料の結晶粒径は8μmであった。
条件:溶解用るつぼ内で原料を溶解した後、凝固用るつぼに移し変えずに、溶解用るつぼのままヒータによる加熱を停止して炉冷した。また、溶湯の攪拌は行わなかった。ヒータによる加熱を停止してから1030℃までの冷却速度は、10℃/分であった。
結果:るつぼとの反応はなく、熱電変換材料の割れも生じなかったが、一部に組成が大きく異なる領域(Mg:Si=15.0:84.9)があった。得られた熱電変換材料の結晶粒径は67μmであった。
なお、その場合、溶解用るつぼ内の溶湯を撹拌することにより、より正確な組成の熱電変換材料を歩留まり良く得ることができる。
なお、離型層を形成しなかったるつぼを用いた実施例5においては、るつぼの内周面付近で異常が認められ、歩留まりは低下するものの、内側のの熱電変換材料から得られる熱電変換素子は、他の実施例と同等の性能を有するものであった。
これに対して、溶解用るつぼにて原料を溶解して、そのまま凝固したものや、溶解用るつぼから溶湯を650℃に保持した凝固用るつぼに移し変えた場合には、即ち、少なくとも溶湯を1030℃まで冷却する際の冷却速度が15℃/分未満の場合や、90℃/分を超えた場合には、得られる熱電変換材料の結晶の粒径が大きく異なったり、熱電変換材料に割れが生じたりする不具合があった。
1a 開口
2 凝固用るつぼ
3,4 ヒータ
5 蓋
6 攪拌機
6a 羽根
6b 攪拌棒
6c ブッシュ
7 離型層
8 温度センサ
9 保護管
10 製造装置
11 炉
21 凝固用るつぼ
22,22a キャビティ
Claims (4)
- 炉の中に、溶解用るつぼと凝固用るつぼとを設置して、前記炉内を不活性雰囲気又は還元性雰囲気としておき、熱電変換材料を構成する各元素の原料を前記溶解用るつぼ内で溶解する溶解工程と、前記溶解工程後に、予熱しておいた前記凝固用るつぼに熱電変換材料の溶湯を移して凝固させる凝固工程とを有し、前記溶解工程では、少なくとも前記原料に液相が生じた状態では前記溶解用るつぼの開口を閉塞した状態とし、その閉塞状態で前記原料を溶解し、前記凝固工程では、熱電変換材料を1030℃まで冷却する際の冷却速度を15℃/分以上90℃/分以下とすることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
- 前記溶解工程では、前記溶解用るつぼ内の溶湯を撹拌することを特徴とする請求項1記載の熱電変換材料の製造方法。
- 前記凝固用るつぼの内面に離型層を形成しておくことを特徴とする請求項1又は2記載の熱電変換材料の製造方法。
- 請求項1から3のいずれか一項記載の熱電変換材料の製造方法により熱電変換素子を製造する方法であって、前記凝固用るつぼは、熱電変換材料を熱電変換素子の横断面形状で角型に凝固させるものであり、前記冷却工程の後に、前記角型に凝固した熱電変換材料を長さ方向の途中位置で切断して熱電変換素子を形成することを特徴とする熱電変換素子の製造方法。
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