JP2016199795A - チタン部材およびその製造方法 - Google Patents
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従来、耐熱性の要求されるチタン部材においては、例えば、自動車の内燃機関近傍又は排気装置などの各用途に応じた要求に対応するチタン合金が用いられてきた。
しかし、上記のチタン合金を用いて製造されたチタン部材は、高温での耐酸化性および耐水素吸収性が不十分であり、耐酸化性および耐水素吸収性をより一層向上させることが要求されている。
しかし、特許文献1に記載の複合材料では、耐酸化性が不十分であった。また、特許文献1に記載の複合材料は、粉末冶金法によって製造するため、製造コストが高く、材質が限定されるという不都合もあった。
例えば、特許文献2には、チタン材の表面にアルミニウム粉末と液状バインダを混合したものを塗布し、400℃程度の温度で焼成し、酸素バリヤ被膜を形成する表面処理方法が開示されている。
特許文献4には、チタンまたはチタン合金からなる基材上を覆う皮膜として形成されている、少なくともチタン、硼素、および窒素を含有する導電性耐食材料が開示されている。
具体的には、特許文献2では、酸素バリヤ被膜を、酸化しやすいアルミニウム粉末を焼成して形成している。このため、特許文献2において、チタン材の表面に形成される酸素バリヤ被膜は、アルミ酸化物層である。アルミ酸化物層は、チタン材の表面から剥離し易いため、耐酸化性が十分に得られなかった。
また、本発明は、高温でも優れた耐酸化性および耐水素吸収性が得られるチタン部材を簡便な方法で製造できるチタン部材の製造方法を提供することを課題とする。
その結果、チタンまたはチタン合金からなるチタン基材上に、Si、B、Ti、O(酸素)を所定の含有量で含む酸化物層を、所定の厚みで形成することで、高温での耐酸化性及び耐水素吸収性に優れたチタン部材を提供できることを見出し、本発明を想到した。
本発明の要旨は以下のとおりである。
前記チタン基材上に形成された酸化物層とを有し、
前記酸化物層が、質量%でSi:25〜50%、B:1〜5%、Ti:5〜20%、酸素:40〜55%、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、
前記酸化物層の厚みが1.0μm以上5.0μm以下であることを特徴とするチタン部材。
(2)前記チタン部材が、自動車用のエンジン部材又は排気装置部材として用いられることを特徴とする(1)に記載のチタン部材。
前記チタン基材の表面に、SiとBとを含む粉末を塗布し、酸素を含む雰囲気中で、700〜850℃、1〜4時間の熱処理を施す工程を含むことを特徴とするチタン部材の製造方法。
また、本発明のチタン部材の製造方法は、チタン基材の表面に、SiとBとを含むスラリーを塗布し、酸素を含む雰囲気中で、700〜850℃、1〜4時間の熱処理を施す工程を含む方法であるため、簡便に高温でも優れた耐酸化性および耐水素吸収性が得られるチタン部材を製造できる。
「チタン部材」
本実施形態のチタン部材は、チタン基材と、チタン基材上に形成された酸化物層とを有する。本実施形態のチタン部材は、例えば、自動車用のエンジン部材又は排気装置部材として好適である。
本実施形態においてチタン基材として用いられるチタン合金としては、高温強度および/または耐酸化性を向上させることにより耐熱性を向上させる元素である、Al、Si、Nb、Sn、Cu、Feから選ばれるいずれか1種以上の元素を含有するチタン合金であることが望ましい。このようなチタン合金としては、具体的には、Ti−1%Cu−0.5%Nb、Ti−0.5Al−0.45Si−0.2Nb、Ti−0.45%Si−0.2%Fe、Ti−1%Cu−1%Sn−0.35%Si−0.2%Nbなどが挙げられる。
例えば、本実施形態のチタン部材が自動車用排気管に用いられるものである場合など、チタン基材に対して管成形や曲げ加工など良好な室温成形性が要求される場合には、チタン基材の微視組織は等軸組織であることが好ましい。また、チタン基材に対して高温クリープ強度が要求される場合には、チタン基材の微視組織は針状α相を主とする針状組織であることが好ましい。
また、酸化物層中に、チタンおよび/またはシリコンの窒化物、硼化物、炭化物は存在していないか、存在していてもX線回折法による検出限界以下の極微量である。
酸化物層中のSi含有量が25%未満および/またはB含有量が5%超であると、シリコンとボロンとを含む非晶質酸化物中におけるシリコンの割合が不足して、シリコンとボロンとを含む非晶質酸化物の耐熱性が低下し、酸化物層が不安定になる。また、酸化物層中のSi含有量が25%未満であると、Siを含むことによる耐酸化性向上効果が十分に得られない。よって、Si含有量が25%未満および/またはB含有量が5%超であると、チタン部材の耐酸化性および/または耐水素吸収性が不足する。
本実施形態のチタン部材の酸化物層中には、Si、B、Ti、O(酸素)以外に、不可避的不純物として、チタン基材、後述する熱処理時の雰囲気、チタン基材の表面に塗布するスラリーの原料等から侵入するCr、Fe、Ni、Nb、Al、Sn、Cu、N、Cが含まれている。
本実施形態のチタン部材では、酸化物層によってチタン部材の耐酸化性および耐水素吸収性を向上させる効果が充分に発揮されるように、酸化物層中に含まれる不可避的不純物の含有量は酸化物層全体の10%未満であることが好ましい。
すなわち、チタン部材から採取した試験片の酸化物層を含む断面を鏡面研磨し、電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析装置を用いて、ビーム径0.5μm、加速電圧15kV、照射電流0.5μA、照射時間1000msecの条件で線分析を行い、簡易定量分析(ZAF)により濃度を算出して求めることができる。
本実施形態のチタン部材の製造方法では、まず、チタン基材を製造する。チタン基材は、従来公知の製造方法を用いて製造できる。
例えば、スポンジチタン、母合金、スクラップなどの原料を用いて所定の化学組成となるように成分を調整し、消耗電極式真空アーク溶解法、電子ビーム溶解法、プラズマ溶解法などを用いて溶解し、鍛造、熱延、冷延などの展伸工程を経て板状、棒状又は管状の形状に加工する方法などにより製造できる。
また、チタン基材は、鋳造法や3次元積層成形法などを用いて所定の形状に成型する方法により製造してもよい。
スラリー中に含まれるSiは、Si元素を含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Si化合物の粉末および/またはSi粉末を用いることができる。スラリー中に含まれるSiは、単体の粉末では可燃性であるため、Si化合物の粉末であることが好ましく、中でもクロムシリサイド(CrSi2)粉末を用いることが好ましい。
次に、必要に応じて、スラリーを塗布したチタン基材の表面を乾燥することにより塗膜を形成する。スラリーを塗布したチタン基材の表面を乾燥する方法としては、例えば、室温の大気中で放置する方法などを用いることができ、特に限定されるものではない。
熱処理温度が700℃未満であると、1.0μm以上の厚みの酸化物層を形成するための熱処理時間が長時間となり、生産性が不十分となる。また、熱処理温度が700℃未満および/または熱処理時間が1時間未満であると、シリコン元素およびボロン元素の酸化物が、チタン基材の表面が酸化されることによって形成されるチタン酸化物層中に取り込まれにくくなり、上記組成の酸化物層が得られない。
一方、熱処理温度が850℃を超えるおよび/または熱処理時間が4時間を超えると、チタン基材の表面および酸化物層が脆化するとともに、チタン基材から酸化物層が剥離し易くなる。
また、本実施形態では、上記の範囲内で熱処理温度および/熱処理時間を調整することによって、1.0μm以上5.0μm以下の範囲内の所定の厚みを有する酸化物層が得られる。
熱処理を行う際の雰囲気は、例えば、大気中であってもよいし、分圧で0.05〜0.2Barの少量の酸素を含む低真空雰囲気であってもよいし、5〜20%の酸素を含む不活性ガス雰囲気であってもよい。
すなわち、本実施形態では、スラリー中のSi元素とB元素との割合が適正であるので、酸素と窒素を含む雰囲気中で上記の熱処理温度及び熱処理時間で熱処理を施すことにより、酸化物層を形成しつつ、チタン基材の最表層部に十分に窒素を濃化させることができ、チタン部材の耐酸化性をより一層向上できる。
下記(A)または(B)の化学組成となるように成分を調整した原料(チタン合金素材)を、VAR(真空アーク溶解)法を用いて溶解し、鍛造、熱延、冷延して、厚み1mmのチタン合金板を製造した。このようにして得られたチタン合金板に、真空中で、750℃、5時間の焼鈍を施して、チタン基材とした。
(A)Ti−0.1%Fe−0.45%Si−0.05%O(酸素)
(B)Ti−1%Cu−1%Sn−0.35%Si−0.2%Nb−0.05%O(酸素)
平均粒径5μmのクロムシリサイド(CrSi2)粉末と平均粒径0.5μmのボロンカーバイド(B4C)粉末とを水中に分散させてスラリーを作成した。なお、スラリーは、クロムシリサイド粉末とボロンカーバイド粉末とを、スラリー中のSi元素とB元素との割合が、表1に示す酸化物層の組成におけるSi含有量とB含有量との質量比となるように調整した。
各チタン基材から縦20mm横20mmの正方形で厚みが1mmの試験片を採取し、上述した方法により調整したスラリーを表面の全面に塗布し、室温の大気中で48時間放置して乾燥させた。その後、スラリーを塗布したチタン基材に対して、大気中で、表1に示す熱処理温度および熱処理時間で熱処理を施して酸化物層を形成し、No.1〜No.16のチタン部材を得た。
各チタン部材から採取した酸化物層の断面を含む試験片を、鏡面研磨して平滑にした後、SEM観察で観察することにより測定した。
「酸化物層の組成」
酸化物層の組成は、EPMA分析装置を用いて上述した方法により求めた。
表1に示すように、No.1〜No.16のチタン部材については、いずれも酸化物層中に含まれる不可避的不純物の含有量は10%未満であった。したがって、スラリーの原料に含まれるCrおよびCは、熱処理中にほとんどが揮発していた。
そして、No.1〜No.17のチタン部材について、以下に示す方法により、耐酸化性を評価した。その結果を表1に示す。
No.1〜No.17のチタン部材を、800℃で100時間、静止大気中に暴露し、暴露後の増加質量を測定し、増加質量をチタン部材の表面積で割った値(増加質量(mg)/チタン部材の表面積(cm2)、以下「酸化増量」と記載する。)で評価した。
そして、各チタン部材について、酸化増量が、酸化物層を形成しない試験片の耐酸化性を評価した場合の酸化増量の50%未満である場合を合格と評価した。
具体的には、酸化物層を形成しなかった場合の酸化増量は、上記(A)の化学組成のチタン基材および上記(B)の化学組成のチタン基材(No.17のチタン部材)の両方とも3.6mg/cm2であった。したがって、各チタン部材については、酸化増量が3.6mg/cm2の50%である1.8mg/cm2未満のときを合格とした。
No.1〜No.17の耐水素吸収性の評価用のチタン部材(試料片)に対し、アルゴン99%水蒸気1%の雰囲気中で、800℃で30分の熱処理を行った。次に、試料片中央部の水素濃度を、LECO社性水素分析装置を用いて熱伝導度法で測定した。そして、水素濃度が100ppm以下である場合を合格とし、100ppmを超える場合を不合格と評価した。なお、LECO社製標準試料の水素濃度である113ppmを超える分析値は、外挿法により算出した。
また、アルゴン99%水蒸気1%の雰囲気中での熱処理を行う前の各試料片では、いずれも試料片中央部の水素濃度の値は10ppm未満であり充分に低かった。
No.1〜6のチタン部材は、酸化物層の厚みおよび組成が本発明の範囲内であり、いずれも耐酸化性および耐水素吸収性の評価が良好であった。
また、No.8は、熱処理温度が本発明の上限を超えているため、酸化物層の厚みが厚くなりすぎ、チタン基材の表面および酸化物層が脆化されたものとなり、耐酸化性の評価が不合格となった。
No.9〜12のチタン部材は、酸化物層の厚みおよび組成が本発明の範囲内であり、いずれも耐酸化性および耐水素吸収性の評価が良好であった。
また、No.14のチタン部材は、酸化物層中のB含有量が不足しているため、耐酸化性および耐水素吸収性の評価が不合格であった。
No.16は、酸化物層中のSi含有量が少なく、Ti含有量が多いため、耐酸化性および耐水素吸収性の評価が不合格となった。
No.17は、酸化物層を形成していないため、耐酸化性および耐水素吸収性の評価が不合格であった。
Claims (3)
- チタンまたはチタン合金からなるチタン基材と、
前記チタン基材上に形成された酸化物層とを有し、
前記酸化物層が、質量%でSi:25〜50%、B:1〜5%、Ti:5〜20%、酸素:40〜55%、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、
前記酸化物層の厚みが1.0μm以上5.0μm以下であることを特徴とするチタン部材。 - 前記チタン部材が、自動車用のエンジン部材又は排気装置部材として用いられることを特徴とする請求項1に記載のチタン部材。
- 請求項1または請求項2に記載のチタン部材の製造方法であり、
前記チタン基材の表面に、SiとBとを含む粉末を塗布し、酸素を含む雰囲気中で、700〜850℃、1〜4時間の熱処理を施す工程を含むことを特徴とするチタン部材の製造方法。
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