JP2016199776A - オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶加材を用いずに溶接する場合に、優れた溶接施工性、具体的には、深い溶け込み深さと優れた溶接金属の強度とが得られる高圧水素ガス用機器等に使用可能な安価なオーステナイト系ステンレス鋼を提供すること。
【解決手段】
化学組成が、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.1〜1.2%、Mn:8.5〜12%、Ni:2〜10%、Cr:11〜19%、Cu:0.5〜3.5%、N:0.05〜0.40%、Al:0.0005〜0.05%、O:0.001〜0.02%、Co:0〜3%、Mo:0〜4%、V:0〜0.5%、Nb:0〜0.5%、Ti:0〜0.5%、B:0〜0.01%、Ca:0〜0.05%、Mg:0〜0.05%、REM:0〜0.5%、ならびに、残部:Feおよび不純物であり、かつ、不純物としてのPおよびSがそれぞれP:0.03%以下およびS:0.01%以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。
【選択図】 なし

Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関する。特に、本発明は、高圧水素ガス用機器または液体水素貯槽等に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼に係り、溶加材を使用しないで溶接する場合に優れた溶接施工性と溶接金属強度とを具備するオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
近年、化石燃料に代えて、水素をエネルギーとして利用する輸送機器の実用化研究が活発に進められている。その実用化に際しては、水素を高圧で貯蔵、輸送できる使用環境の整備が併せて必要であり、そこに使用される水素環境下での耐脆化特性に優れた材料の開発が進められている。特に、近年、希少元素であるNi量を低減した安価な高強度材料の開発が進められている。
例えば、特開2007−126688号公報(特許文献1)にはNiに代えてMnを活用することにより、水素環境下での耐脆化特性を確保するとともに、Nの固溶強化を活用し、高強度を図ったオーステナイト系ステンレス鋼が提案されている。さらに、国際公開第2012/043877号(特許文献2)には、MnおよびNを活用するとともに、N量に応じてδフェライトの体積率および寸法を規定し、耐水素脆化特性と強度の向上を図ったオーステナイト系ステンレス鋼が提案されている。
オーステナイト系ステンレス鋼を構造物として使用する場合、コスト面からは溶接による組み立てが可能であることが求められている。そのため、例えば、特開平5−192785号公報(特許文献3)および特開2010−227949号公報(特許文献4)には、Al、TiおよびNbを積極活用し、溶接後熱処理を行うことにより、800MPaを超える引張強さが得られる溶接材料(溶接金属)が提案されている。一方で、特開平9−137255号公報(特許文献5)には、オーステナイト鋼材中のAl含有量に応じて酸素(O)含有量を調整し、溶接施工性を改善した鋼が提案されている。
特開2007−126688号公報 国際公開第2012/043877号 特開平5−192785号公報 特開2010−227949号公報 特開平9−137255号公報
ところで、実際の構造物では、例えば薄肉部材を接合する場合、溶加材を用いずに、ガスタングステンアーク溶接により突き合わせ溶接を行う必要が生じることがある。その際、溶け込み深さが充分でない場合には、未溶融の突き合わせ面が欠陥として残存し、必要な溶接継手強度が得られないという問題が生じる。その対策の一つとして、溶接入熱を増大させることが考えられるが、溶融部が大きくなり、アンダーカットおよび溶け落ちが生じ、却って、溶接継手の健全性が損なわれる場合がある。
上記の特許文献1〜4に記載の発明は、いずれもこのような課題を何ら考慮していない。一方で、このような課題に対し、特許文献5に記載の発明によれば、ビード幅の均一性および裏ビード形成能の改善を図ることができるとされている。しかしながら、AlはNとの親和力が強いことから、Nを積極的に活用したステンレス鋼において、この方法をそのまま活用できるものではない。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、高圧水素ガス用機器等に使用可能な安価なオーステナイト系ステンレス鋼であって、溶加材を用いずに溶接する場合に、優れた溶接施工性、具体的には、深い溶け込み深さと優れた溶接金属の強度とが得られるオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した課題を解決するために調査を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
すなわち、C:0.01〜0.12%、Si:0.1〜1.2%、Mn:8.5〜12%、Ni:2〜10%、Cr:11〜19%、Cu:0.5〜3.5%、N:0.05〜0.40%、Al:0.0005〜0.05%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼を、溶加材を用いずに溶接する場合において、充分な溶け込み深さを得るためには、Oを0.001〜0.02%の範囲で必ず含有させることが有効であることが判明した。
さらに、上記のオーステナイト系ステンレス鋼を、溶加材を用いずに溶接する場合において、充分な溶け込み深さおよび優れた溶接金属の強度を得るためには、Al含有量に応じてMn含有量を適正な範囲に調整すること、具体的には、本発明の化学成分範囲において、AlおよびMnの含有量が下記(i)式を満足することが有効であることが判明した。
20Al+8.5≦Mn≦12 ・・・(i)
ただし、(i)式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
その理由は、次のように考えられる。
Alは、溶接中にNの溶解度を低めるとともに、Nとの親和力が強いため、凝固後の溶接金属において窒化物を形成して、固溶N量を低減し、間接的に強度低下を招く。加えて、Alは、溶接中にOの溶解度を小さくし、表面活性元素であるOの効果を小さくすることから、間接的に溶け込み深さを浅くする元素である。
そのため、本発明者らは、Alによる悪影響を排除し、充分な溶け込み深さを得るためには、Oの含有量を管理することが必要であることを見出した。具体的には、本発明の化学成分範囲でOによる溶け込み深さ増大の効果を確実に得るためには、0.001%以上のOを必ず含有させる必要があることを見出した。Oによる溶け込み深さを増大させることは、溶加材を用いずに溶接する場合に、重要な知見である。
また、Mnは、溶接中の溶融池においてNの溶解度を高めることで、溶接中のNの飛散を軽減するとともに、凝固後の溶接金属においてNの固溶度を高めて、その高強度化に寄与する。加えて、Mnは、アークの電流密度を高め、溶け込み深さを深くする効果をも併せて有する。
そのため、本発明者らは、溶加材を用いずに溶接する場合において、より充分な溶け込み深さを得、かつ、高強度の溶接金属を確実に得るために、Al含有量の増加に応じて、Mn含有量を高める必要があることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(4)に示すオーステナイト系ステンレス鋼にある。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.01〜0.12%、
Si:0.1〜1.2%、
Mn:8.5〜12%、
Ni:2〜10%、
Cr:11〜19%、
Cu:0.5〜3.5%、
N:0.05〜0.40%、
Al:0.0005〜0.05%、
O:0.001〜0.02%、
Co:0〜3%、
Mo:0〜4%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
Ti:0〜0.5%、
B:0〜0.01%、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.5%、ならびに、
残部:Feおよび不純物であり、かつ、
不純物としてのPおよびSがそれぞれP:0.03%以下およびS:0.01%以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。
(2)前記Mnの含有量が下記(i)式を満足する、上記(1)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
20Al+8.5≦Mn≦12 ・・・(i)
ただし、(i)式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
(3)前記化学組成が、質量%で、
Co:0.005〜3%、
Mo:0.01〜4%、
V:0.001〜0.5%、
Nb:0.001〜0.5%、
Ti:0.001〜0.5%、
B:0.0001〜0.01%、
Ca:0.0005〜0.05%、
Mg:0.0005〜0.05%、および、
REM:0.001〜0.5%から選択される1種以上である、上記(1)又は上記(2)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
(4)常温での引張強度が560MPa以上である、上記(1)から上記(3)までのいずれか一つに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
(5)高圧水素ガス用機器または液体水素貯槽に使用される、上記(1)から上記(4)までのいずれか一つに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
(6)溶加材を用いずに溶接することができる、上記(1)から上記(5)までのいずれか一つに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
本発明によれば、溶加材を用いずに溶接する場合に、優れた溶接施工性、具体的には、深い溶け込み深さと優れた溶接金属の強度とが得られるオーステナイト系ステンレス鋼を安価に提供することができる。なお、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、板および管等の種々の形状の部材に適用可能であるが、全姿勢溶接にて安定して優れた溶接施工性が得られるので、厚さの薄い鋼管に好適である。また、高圧水素ガス用機器等にも使用可能である。さらに、強度など必要な性能を満足する溶接金属が得られれば、溶加材を使用しても高圧水素ガス用機器等に使用できることは言うまでもない。
実施例で用いた開先加工の形状および寸法を示す図である。
以下、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる各成分元素の作用効果とその含有量の限定理由について、詳しく説明する。なお、以下の説明において、各成分元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.12%
Cは、オーステナイト組織を安定化させるのに有効な元素である。この効果を得るためには、Cを0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると、溶接時の加熱により粒界に炭化物を形成し、溶接熱影響部の耐食性を劣化させる。そのため、C含有量を0.12%以下とする。C含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.03%以上であることがより好ましい。また、C含有量は、0.11%以下であることが好ましく、0.10%以下であることがより好ましい。
Si:0.1〜1.2%
Siは、脱酸剤として含有されるが、耐食性の向上に有効な元素である。その効果を充分に得るためには、0.1%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると、オーステナイト組織の安定性を低下させるとともに、延性の低下を招く。さらに、溶加材を用いない溶接では、溶接金属の凝固割れ感受性を高める。そのため、Si含有量を1.2%以下とする。Si含有量は、0.15%以上であることが好ましく、0.2%以上であることがより好ましい。また、Si含有量は、1.1%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
Mn:8.5〜12%
Mnは、製造時の脱酸に寄与するとともに、オーステナイト組織を安定化させるのにも有効な元素である。その効果を充分に得るためには、Mnを8.5%以上含有させる必要がある。また、Mnは、母材製造時および溶接中において、溶融金属中のNの溶解度を大きくし、強度を高めるために有効である。加えて、アークの電流密度を高め、溶け込み深さを深くする効果をも有する元素である。本発明の化学成分範囲において、このMnの効果を活用し、充分な溶け込み深さと溶接金属の高強度とを安定して得るためには、逆の効果を有するAl量に応じて、Mnの下限を調整することが好ましい。具体的には、Mnを20Al+8.5(%)以上含有させることが好ましい。一方、過剰に含有させると、延性の低下を招くため、Mn含有量を12%以下とする。Mn含有量は、11.5%以下であることが好ましく、11%以下であることがより好ましい。
Ni:2〜10%
Niは、安定なオーステナイト組織を得るために必須の元素であり、積層欠陥エネルギーを高め、水素環境下での脆化感受性を低下させる。本発明のCr含有範囲で、その効果を充分に得るためには、Niを2%以上含有させる必要がある。しかしながら、高価な元素であるため、その含有量は製造コストに直結する。そのため、Ni含有量を10%以下とする。Ni含有量は、2.5%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。また、Ni含有量は、9.5%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましい。
Cr:11〜19%
Crは、母材製造時および溶接中において、溶融金属中のNの溶解度を大きして強度を高めるのに有効である。その効果を充分に得るためには、Crを11%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると、オーステナイト組織を不安定にするとともに、炭化物の過剰な生成による脆化を招く。そのため、Cr含有量を19%以下とする。Cr含有量は、11.5%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましい。また、Cr含有量は、18.5%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましい。
Cu:0.5〜3.5%
Cuは、Niと同様に安定なオーステナイト組織を得るのに有効な元素である。その効果を得るには、Cuを0.5%以上含有させる必要がある。しかしながら、Niと同様、高価な元素であるとともに、過剰に含有させると、溶加材を用いない溶接では、溶接金属の凝固割れ感受性を高める。そのため、Cu含有量を3.5%以下とする。Cu含有量は、0.6%以上であることが好ましく、0.8%以上であることがより好ましい。また、Cu含有量は、3.2%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。
N:0.05〜0.40%
Nは、マトリックスに固溶し、強度の向上に有効な元素である。加えて、オーステナイト組織の安定化にも寄与する元素である。この効果を得るためには、Nを0.05%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると、母材においては、製造時の熱間加工性低下、溶接金属においては、溶接中のブローホールおよびピットの原因となる。そのため、N含有量を0.40%以下とする。N含有量は、0.08%以上であることが好ましく、0.10%以上であることがより好ましい。また、N含有量は、0.38%以下であることが好ましく、0.35%以下であることがより好ましい。
Al:0.0005〜0.05%
Alは、Siと同様に脱酸剤として含有され、その効果を得るためには、Alを0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、Alは溶接中に、Nの溶解度を低めるとともに、凝固後の溶接金属において窒化物を形成して、固溶N量を低減し、強度低下を招く。加えて、溶接中のOの溶解度を小さくすることにより、表面活性元素であるOの効果を小さくし、溶け込み深さを浅くする元素である。そのため、Al含有量を0.05%以下にするとともに、後述するように、Al含有量に応じてMn含有量を管理する必要がある。Al含有量は、0.0008%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、Al含有量は、0.045%以下であることが好ましく、0.040%以下であることがより好ましい。
O:0.001〜0.02%
Oは、不純物として存在するが、溶接時の溶融金属の表面張力を低下させ、溶け込み深さを増大させる効果を有する。その効果を得るためには、Oを0.001%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると、清浄性が低下し、延性の低下を招く。そのため、O含有量を0.02%以下とする必要がある。O含有量は、0.0015%以上であることが好ましく、0.002%以上であることがより好ましい。また、O含有量は、0.018%以下であることが好ましく、0.015%以下であることがより好ましい。
Co:0〜3%
Coは、Ni、Cuと同様に安定なオーステナイト組織を得るのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると、溶接金属の延性を低下させる。そのため、Coを含有させる場合、その含有量を3%以下とする。Co含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.005%以上であることが好ましい。Co含有量は、0.008%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。また、Co含有量は、2.5%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましい。
Mo:0〜4%
Moは、使用環境下での耐食性の向上、および、強度を高めるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Moは非常に高価な元素であるとともに、過剰に含有させると、オーステナイト組織を不安定にする。そのため、Moを含有させる場合には、その含有量を4%以下とする。Mo含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.01%以上であることが好ましい。Mo含有量は、0.03%以上であることがより好ましく、0.1%以上であることがさらに好ましい。また、Mo含有量は、3.8%以下であることが好ましく、3.5%以下であることがより好ましい。
V:0〜0.5%
Vは、基質に固溶または炭窒化物として析出し、強度を向上させるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると、炭窒化物が多量に析出し、延性の低下を招く。そのため、Vを含有させる場合、その含有量は0.5%以下とする。V含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.001%以上であることが好ましい。V含有量は、0.005%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。また、V含有量は、0.45%以下であることが好ましく、0.40%以下であることがより好ましい。
Nb:0〜0.5%
Nbは、Vと同様、基質に固溶または炭窒化物として析出し、強度を向上させるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると、溶加材を用いない溶接では、溶接金属の凝固割れ感受性を高めるとともに、延性の低下も招く。そのため、Nbを含有させる場合、その含有量は0.5%以下とする。Nb含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.001%以上であることが好ましい。Nb含有量は、0.005%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。また、Nb含有量は、0.45%以下であることが好ましく、0.40%以下であることがより好ましい。
Ti:0〜0.5%
Tiは、V、Nbと同様に、基質に固溶または炭窒化物として析出し、強度を向上させるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると、炭窒化物が多量に析出し、延性の低下を招く。そのため、Tiを含有させる場合、その含有量は0.5%以下とする。Ti含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.001%以上であることが好ましい。Ti含有量は、0.003%以上であることがより好ましく、0.005%以上であることがさらに好ましい。また、Ti含有量は、0.45%以下であることが好ましく、0.40%以下であることがより好ましい。
B:0〜0.01%
Bは、粒界に偏析して粒界固着力を高め、強度向上に寄与するとともに、水素環境下での脆化を抑制する効果を有するため、含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると、溶加材を使用しない場合、溶接金属において凝固割れ感受性を増大させる。そのため、Bを含有させる場合、その含有量は0.01%以下とする。B含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.0001%以上であることが好ましい。B含有量は、0.0002%以上であることがより好ましく、0.0005%以上であることがさらに好ましい。また、B含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
Ca:0〜0.05%
Caは、熱間加工性を改善する作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Caの含有量が過剰になるとOと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。そのため、Caを含有させる場合、その含有量は0.05%以下とする。Ca含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.0005%以上であることが好ましい。Ca含有量は、0.0008%以上であることがより好ましく、0.001%以上であることがさらに好ましい。また、Ca含有量は、0.03%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましい。
Mg:0〜0.05%
Mgは、Caと同様、熱間加工性を改善する作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Mgの含有量が過剰になるとOと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。そのため、Mgを含有させる場合、その含有量は0.05%以下とする。Mg含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.0005%以上であることが好ましい。Mg含有量は、0.0008%以上であることがより好ましく、0.001%以上であることがさらに好ましい。また、Mg含有量は0.03%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましい。
REM:0〜0.5%
REMは、Sとの親和力が強く、熱間加工性を改善する作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、その含有量が過剰になるとOと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。そのため、REMを含有させる場合、その含有量は0.5%以下とする。REM含有量は、上記効果を充分に得るためには、0.001%以上であることが好ましい。REM含有量は、0.002%以上であることがより好ましく、0.005%以上であることがさらに好ましい。また、REM含有量は、0.3%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
なお、「REM」とは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は、REMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。また、REMについては、一般的にミッシュメタルに含有される。このため、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、上記の各元素を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有するものである。なお、「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。不純物のうち、PおよびSについては、その含有量を厳密に制限する必要がある。
P:0.03%以下
不純物として含まれ、母材においては製造時の熱間加工性を阻害するとともに、溶加材を使用しない場合、溶接金属において凝固割れ感受性を増大させる。そのため、可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製鋼コストの増大を招くため、P含有量を0.03%以下とする。P含有量は、0.025%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましい。
S:0.01%以下
Pと同様、不純物として含まれ、母材においては製造時の熱間加工性を阻害するとともに、溶加材を使用しない場合、溶接金属において凝固割れ感受性を増大させる。そのため、Pと同様に可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製鋼コストの増大を招く。そのため、S含有量を0.01%以下とする。S含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す鋼種A〜Jの化学組成を有する材料を実験室溶解して鋳込んだインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理及び機械加工により、板厚2.2mm、幅50mm、長さ100mmの鋼板を作製し、試供材料とした。
Figure 2016199776
上記試供材料の長手方向に、図1に示す開先加工を施した後、ガスタングステンアーク溶接方法により、溶加材を用いず、入熱5kJ/cmとして、突き合わせ溶接を行った。以上により、表2に示す試験番号1〜10の溶接継手を得た。
<溶接施工性>
得られた溶接継手のうち、裏ビードが形成されなかったものを「不合格」と判定し、裏ビードが形成されたものの、裏ビード幅が1mm未満のものを「可」、裏ビート幅が1mm以上のものを「良」として「合格」と判定した。結果を表2に示す。
<引張試験>
溶接施工性が「合格」であった溶接継手については、溶接金属を平行部中央にもつ板状引張試験片を採取し、常温での引張試験に供した。そして、引張強度が、母材の目標強度である600MPa以上のものを「良」、600MPa未満であり、かつ、母材の必要強度である560MPa以上のものを「可」として「合格」と判定し、560MPa未満のものを「不合格」と判定した。結果を表2に示す。
<低歪速度引張試験>
引張試験が「合格」であった溶接継手については、溶接金属を平行部とする段付板状低歪速度引張試験片を採取し、大気中および45MPaの高圧水素環境下における低歪速度引張試験に供した。なお、歪速度は3×10−5/sとし、低歪速度引張試験において、高圧水素環境下での破断絞りと大気中での破断絞りの比が90%以上となるものを「合格」、90%未満となるものを「不合格」とした。結果を表2に示す。
Figure 2016199776
表2より明らかなように、本発明の要件を満たす溶接継手1〜4、6および7は、充分な溶け込み深さが得られる優れた溶接施工性を有するとともに、母材の目標強度を上回る溶接継手強度が安定して得られることが明らかとなった。加えて、良好な耐水素脆化感受性をも有することが明らかとなった。したがって、総合評価として「良」と判定した。また、本発明の要件を満たす溶接継手5は、Mn含有量が、8.51%であり、Alとの関係式から導出される下限を満足しなかったものの、必要な溶け込み深さは得られるとともに、母材の必要強度および耐水素脆化特性を満足した。したがって、総合評価として「可」と判定した。
一方、溶接継手9は、Mn含有量が8.61%であり、Alとの関係からなる(i)式の必要量8.78%を僅かに下回ったものの、必要な溶け込み深さが得られたため、溶接施工性は「可」と判定した。しかしながら、溶接金属中のN含有量が、0.04%であり、必要含有量の0.05%を下回ったため、溶接継手の強度が母材の必要強度を下回った。
また、溶接継手8は、Mn含有量が、6.94%であり、必要含有量の8.5%を大きく下回るとともに、O含有量が、0.0006%であり、必要含有量の0.001%を下回ったため、溶け込み深さが充分でなく、裏ビードが形成されず、溶接施工性が不芳であった。さらに、溶接継手10は、溶接施工性および溶接継手の強度は必要性能を満足したものの、Ni含有量が1.96%であり、必要含有量の2%を下回ったため、オーステナイトの安定性に劣り、耐水素脆化性が不芳であった。
以上のように、本発明の必要要件を満たすオーステナイト系ステンレス鋼のみが、溶加材を用いずに溶接した場合、良好な溶接施工性を有するとともに、溶接金属の強度に優れるため、必要な強度および耐水素脆化感受性を有する溶接継手が得られることが分かった。
本発明によれば、溶加材を用いずに溶接する場合に、優れた溶接施工性、具体的には、深い溶け込み深さと優れた溶接金属の強度とが得られる高圧水素ガス用機器等に使用可能な安価なオーステナイト系ステンレス鋼を得ることができる。したがって、本発明は、高圧水素ガス機器等の種々の鋼材に好適に利用できる。

Claims (6)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.12%、
    Si:0.1〜1.2%、
    Mn:8.5〜12%、
    Ni:2〜10%、
    Cr:11〜19%、
    Cu:0.5〜3.5%、
    N:0.05〜0.40%、
    Al:0.0005〜0.05%、
    O:0.001〜0.02%、
    Co:0〜3%、
    Mo:0〜4%、
    V:0〜0.5%、
    Nb:0〜0.5%、
    Ti:0〜0.5%、
    B:0〜0.01%、
    Ca:0〜0.05%、
    Mg:0〜0.05%、
    REM:0〜0.5%、ならびに、
    残部:Feおよび不純物であり、かつ、
    不純物としてのPおよびSがそれぞれP:0.03%以下およびS:0.01%以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。
  2. 前記Mnの含有量が下記(i)式を満足する、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
    20Al+8.5≦Mn≦12 ・・・(i)
    ただし、(i)式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Co:0.005〜3%、
    Mo:0.01〜4%、
    V:0.001〜0.5%、
    Nb:0.001〜0.5%、
    Ti:0.001〜0.5%、
    B:0.0001〜0.01%、
    Ca:0.0005〜0.05%、
    Mg:0.0005〜0.05%、および、
    REM:0.001〜0.5%から選択される1種以上である、請求項1または請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
  4. 常温での引張強度が560MPa以上である、請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
  5. 高圧水素ガス用機器または液体水素貯槽に使用される、請求項1から請求項4までのいずれか一つに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
  6. 溶加材を用いずに溶接することができる、請求項1から請求項5までのいずれか一つに記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
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