JP2016172888A - 冷間加工性に優れた鋼線材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】球状化焼鈍後に軸受けやクランクシャフトなどの各種冷間加工が施される中、高炭素鋼線材において、球状化焼鈍工程を省略可能とする中、高炭素鋼線材を提供する。
【解決手段】鋼成分が質量%で、C:0.1〜1.2%、Si:0.02〜1.0%、Mn:0.2〜1.5%、Al:0.001〜0.05%を含有し、N:0.03%以下、P:0.020%以下、S:0.020%以下に制限し、フェライト粒径が1μm≦フェライト粒径≦15μm、であり、かつしきい値以上の粒径の分布から極値統計法によって算出する球状化セメンタイトの最大径が1.5μm以下の微細球状化セメンタイト−微細フェライト組織とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、球状化焼鈍後に冷間鍛造により部品加工される中、高炭素鋼線材およびその製造方法に関するものであって、球状化焼鈍工程の省略を可能とする鋼線材、およびその製造方法に関するものである。
冷間で加工する冷間加工は、生産性が高いことから幅広い分野で利用されている。冷間加工に供される素材は、局部的に激しい変形をうけるために、材料割れによる不良の発生や、工具ダイスの破損などの事故が起こりやすい。特に、クランクシャフトや軸受け鋼に代表されるような中、高炭素鋼では、板状セメンタイトと板状フェライトが層状構造をなすパーライト組織が形成されるため、変形抵抗が高く、その後の加工工程での作業効率や成形性を向上させるために、鋼中の炭化物を球状化するための球状化焼鈍が行われるのが一般的である。
上記のように球状化焼鈍を施すことによって、鋼材の変形能の向上が図れるとともに、ダイス寿命の向上に効果がある変形抵抗低減が達成されるのであるが、球状化焼鈍は長時間を要する処理であることが知られており、球状化焼鈍の短時間化や省略ができる素材が求められている。
素材の球状化焼鈍短時間化に関しては、これまで様々な技術が開発されている。たとえば、特許文献1〜3では、フェライト粒径を5〜15μmと微細に制御することで、その後の球状化焼鈍の時間の短時間化を図っている。しかし、残存したパーライト組織を十分に球状化させるには、なお15時間程度の長時間の球状化焼鈍が必要である。
特開昭62−139817号公報 特開2000−119808号公報 特開2004−300497号公報
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、冷間加工前の高温・長時間での球状化焼鈍を省略し、冷間加工性に優れた低強度・高延性の鋼を効率よく製造することのできる方法および上記製造方法によって得られる低強度・高延性の鋼線材を提供することを目的とするものである。
本発明は球状化焼鈍の短時間化を可能とする鋼線材であり、その要旨は以下のとおりである。
(1)鋼成分が質量%で、C:0.1〜1.2%、Si:0.02〜1.0%、Mn:0.2〜1.5%、Al:0.001〜0.05%を含有し、N:0.03%以下、P:0.020%以下、S:0.020%以下に制限し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、フェライト粒径が1μm<フェライト粒径<15μmとなり、パーライト面積率が10%以下となり、しきい値以上の粒径の分布から極値統計法によって算出する球状化セメンタイトの最大径が1.5μm以下となることを特徴とする冷間加工性に優れた鋼線材。
(2)質量%でさらにMo:0.02〜0.20%を含有することを特徴とする前記(1)の鋼線材。
(3)質量%でさらにNb:0.002〜0.05%、V:0.02〜0.20%、Ti:0.002〜0.05%のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)の鋼線材。
(4)質量%でさらにCr:0.03〜2.0%を含有することを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかの鋼線材。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の成分からなる鋼片を変態直前で焼入れした際のオーステナイト粒径が5μm以下であり、550℃〜Ac1点の温度域で60秒以上保持することを特徴とする冷間加工性に優れた鋼線材の製造方法。
本発明によれば、球状化焼鈍工程の省略が可能となるなど、産業上の貢献が極めて顕著である。
球状化セメンタイト径の分布の例を示す図である。 平均超過関数を適用した例を示す図である。 球状化セメンタイト径の分布にベータ関数をフィッティングさせた例を示す図である。
本発明者らは、上述のような問題点を解決するために、鋼線材の組織および熱処理方法について種々調査・研究を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
・フェライト変態直前のオーステナイト粒径を5μm以下として、550℃からAc1点の温度域で変態をさせた場合、微細な球状化セメンタイト組織を得ると同時に微細なフェライト組織を得ることができる。
・球状化セメンタイトの最大値が1.5μm以下の場合、加工時のセメンタイトの割れを抑制することができる。
・上記の鋼材は低強度かつ高延性を兼ね備えた鋼となり、球状化焼鈍工程の省略が可能となる。
従来、延性の確保のためには熱間圧延後に長時間の球状化焼鈍工程が必須であるとされていた。これは硬質第二相であるセメンタイトを、パーライト組織に代表される板状セメンタイトから球状化セメンタイトとすることで、変形抵抗を下げるとともに延性を改善できるためである。しかし、この球状化焼鈍工程は、生産性や製造コスト面で負荷が大きい。
そこで、本発明者らは、熱間圧延後に直接球状化セメンタイトを得ることが可能であれば、熱間圧延後の球状化焼鈍工程を省略できるのではないかと考え、詳細に調査を行った。
通常、高炭素鋼の場合、熱間圧延後の組織はパーライト組織となるが、変態直前のオーステナイト粒径を微細にすれば、オーステナイト粒界の曲率が小さくなり、フェライトとセメンタイトが協調的に析出するパーライト変態を抑制できるのではないかと考えた。
たとえば、VCなどのピン止め粒子を使用し、オーステナイト粒径を5μm以下に制御した状態で、パーライト変態と同様に550℃〜Ac1点で恒温変態させた場合には、得られる組織はパーライト組織ではなく、微細フェライトと球状化セメンタイト組織であることが明らかとなった。この組織の特徴は、変態温度がパーライト変態域であれば、いずれの変態温度でも球状化組織を得ることができる点であり、650℃といった比較的高温域で変態させれば、フェライト、球状化セメンタイトがともに若干粗大化するため、変形抵抗をさげることができ、570℃といった比較的低温域で変態させれば、微細なフェライト、微細な球状化セメンタイトを得ることができ、変形能を高めることができることが分かった。
さらに、球状化セメンタイトの粒径分布のうち、しきい値以上の粒径の分布から極値統計法によって算出する球状化セメンタイトの最大値が1.5μm以下の場合、加工時のセメンタイトの割れを抑制することができることが分かった。
本発明はこれらの基礎実験を通じて完成したものであり、変態直前のオーステナイト粒径を微細化させることで変態直後から球状化セメンタイト組織を得て、変態温度によって変形抵抗、変形能を制御するものである。
(組織の測定方法について)
[セメンタイトと組織の定義]
本発明において、板状セメンタイトとはアスペクト比で5以上のセメンタイトを指し、球状化セメンタイトとはアスペクト比で5以下のセメンタイトを指すものとする。なお、セメンタイトのアスペクト比はセメンタイト最大径(長径)と最小径(短径)とを求め、アスペクト比=(長径)/(短径)として計算する。
[非球状化セメンタイト組織]
本発明において、球状化セメンタイト組織とは、球状化セメンタイトを有するフェライト組織をさし、パーライト組織やベイナイト、マルテンサイトを非球状化セメンタイト組織とする。非球状化セメンタイト組織面積率の測定には、鋼線材の表層、中間、中心部において1000倍以上のSEM画像を各々2枚以上取得し、行った。
[球状化セメンタイト径の最大値]
球状化セメンタイト径の測定情報を基にした鋼線材の一定体積中に存在し得る最大の球状化セメンタイト径の予測方法を説明する。
個々の球状化セメンタイト粒の面積を算出し、円に換算した直径を記録し、球状化セメンタイト径の情報から、ある一定の鋼線材量あたりに存在し得る最大の球状化セメンタイト径を極値統計法(情報論的学習理論テクニカルレポート2009「極値統計学」、高橋倫也著 参照)で予測する。
上記の方法で5000μm2以上の領域(6000μm2)の球状化セメンタイト径の分布を求めた例を図1に示す。分布から細かい球状化セメンタイトが大多数であることが分かるが、極値統計に適用するのは球状化セメンタイト径の粗大域の特徴を示す領域であり、十分に粗大なあるしきい値以上の球状化セメンタイト径を用いる。
しきい値の決定には平均超過関数を用いる。全N個のデータのうち、値uを超えるものをX[1],X[2],・・・,X[nu]とし、X[nu]はデータの最大値を示す。値u<X[nu]に対して下記式(1)で示される標本平均超過
Figure 2016172888
をプロットし、ある値u以上で傾きが負となる直線とみなせるとき、このuをしきい値とする。たとえば、図1の分布では全粒数Nは7444個あり最大の球状化セメンタイト径は0.63μmである。球状化セメンタイト径0.05μmを超える球状化セメンタイトブロックの数は3847個であるので下記式(2)に基づく値をプロットし、
Figure 2016172888
同様に値u≧0.05として、uを0.06、0.07、・・・、0.50μmとしてプロットする。実際に、図1の分布について値uを0.05〜0.50μmとしてプロットした例を図2に示す。この図からしきい値は0.30μm以上が適切であることが分かる。なお、0.40μm以上の領域で値が上昇しているが、これはしきい値以上のデータが非常に少ないために極値の分布として成立していないことに起因している。
上記の方法でしきい値を決定した後、しきい値u以上の球状化セメンタイト粒を次式に従って大きさの順に並べる。
X1≦X2≦X3・・・・・・・・≦Xn
ここでnはしきい値uを超える球状化セメンタイト粒数であり、Xnは最大の球状化セメンタイト径である。次にXi以下の存在確率YをYi=i/(N+1)で定義し、これを点(Xi,Yi)としてXY直交座標系にプロットする。なお、Nは測定した全球状化セメンタイト粒数である。これを下記式(3)で示すベータ関数H(X)に近似する。
Figure 2016172888
ここでσは尺度パラメータ、ξは形状パラメータ、Xは球状化セメンタイト径である。
ベータ関数のパラメータσ、ξの算出は最尤法を用い、その対数尤度l(σ、ξ)は、下記式(4)となる。
Figure 2016172888
ただし、1+yi/σ>0、i=1,2、・・・、nであり、この対数尤度を最大にする最尤推定値(σ、ξ)を求める。たとえば、図2の分布ではしきい値を0.30μmとして計算するとσ=−0.25、ξ=6.5となる。図3に図2でフィッティングした関数を破線で、測定した球状化セメンタイト径はプロットとして示す。
予測を行う粒数m(個)は本発明では、鋼線材1kg中に存在すると考えられる粒数107個とした。このm個のデータで平均1回超えられる球状化セメンタイト径Xmは下記式(5)となる。
Figure 2016172888
ここでζはしきい値uまでの累積数分率で、nu/Nとする。このXmが鋼線材1kg中に存在し得る最大の球状化セメンタイト径である。
ここで、球状化セメンタイト径を求める領域を6000μm2以上とした理由は、測定領域が6000μm2以下では統計処理を行う上でデータ数が少なくなってしまい、極値統計によって、ある一定量の鋼線材に存在しうる最大の球状化セメンタイト径の最大値を予測する精度が低下するためである。従って、測定領域は広いほどより確かなものとなるが、最大で10000μm2あれば十分である。
[フェライト粒径]
フェライト粒径は鋼線材中心部を測定箇所とし、電子線後方散乱(Electron BackScatter Diffraction、EBSDという)法によって測定する。鋼線材長手方向に垂直な断面をコロイダルシリカ粒子により鏡面研磨し、径方向の中心部近傍でEBSD法による測定を行い、フェライト結晶方位のマップを作成する。マッピングの領域は一辺がいずれも500μm以上の矩形領域で行い、ピクセル形状は正6角形要素配置、ステップは0.5μm間隔で行う。
EBSD法によってフェライト結晶方位を同定すれば、それぞれの6角形状ピクセルにはフェライトの結晶方位の情報が与えられ、その結果、隣接するピクセルの境界には、結晶方位の角度差の情報が定義される。二つのピクセル間の境界で15°以上のフェライト結晶方位傾角差があり、それと隣接するピクセル境界も15°以上というように、15°以上の傾角差のあるピクセル境界が連続する場合、それらをつなげてフェライト粒界として定義する。
[オーステナイト粒径]
変態直前のオーステナイト粒径は、オーステナイト域から変態させるための冷却時に急冷を行い、マルテンサイト組織とし、たとえばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムでのエッチングにて旧オーステナイト粒界を現出させることで測定する。測定方法はJIS切断法にのっとり、平均値を算出する。
<成分について>
以下、成分に関する記載において、%は全て質量%である。
[C]
Cは、鋼材の強度を付与するためのセメンタイトを形成する元素である。C量が0.10%未満であると、必要な強度を得ることができず、一方、C量が1.20%を超えると、強度が過大となり、延性、靭性が低下する。したがって、C量は、0.10〜1.20%の範囲に限定する。好ましくはC量を0.20%以上とする。より好ましくは0.40%以上である。さらに好ましくは0.60%以上である。
[Si]
Siは、鋼の脱酸に用いられる元素である。効果を得るためには、0.02%以上のSiを添加する。好ましくは、Si量を0.05%以上とする。一方、Si量が1.0%を超えると、熱間圧延工程で表面脱炭が発生し易くなるほか、固溶強化も過大となるため、上限を1.0%とする。好ましくはSi量を0.8%以下、より好ましくは0.5%以下とする。
[Mn]
Mnは、脱酸や脱硫に用いられるほか、鋼の焼き入れ性を向上させる元素であり、0.1%以上を添加する。一方、Mn量が1.5%を超えると、フェライト変態が著しく遅延するために過冷組織が発生し、鋼線材の取り扱い中に割れなどが発生する可能性がある。従って、Mn量を1.5%以下とする。好ましくはMn量を1.0%以下とする。
[Al]
Alは、脱酸作用を有する元素であり、鋼中の酸素量低減のために必要である。しかし、Al含有量が0.001%未満ではこの効果が得難い。一方で、Alは硬質な酸化物系介在物を形成しやすく、特に、Al含有量が0.05%を超えると、粗大な酸化物系介在物の形成が著しくなるので伸線加工性の低下が顕著になる。したがって、Alの含有量を0.001〜0.05%とした。より好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましい上限は0.04%以下である。
[N]
Nは、冷間での加工中に転位に固着して鋼の強度を向上させ、変形能を低下させる元素である。特に、N含有量が0.02%を超えると変形能の低下が著しくなる。したがって、N含有量を0.02%以下に制限した。より好ましくは0.01%以下である。
[P]
Pは、鋼中で偏析しやすく、偏析すると著しく変態を遅らせるため、変態が完了せず、硬質なマルテンサイトが形成されやすい。これを防止するため、P含有量は0.02%以下に制限する。
[S]
Sは、多量に存在するとMnSを多量に形成し、鋼の変形能を低下させるので0.020%以下に制限する。より好ましくは0.010%以下である。
[Mo]
Moの添加は任意である。添加すれば、鋼線材の焼き入れ性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Moを0.02%以上添加することが望ましい。しかし、Moの含有量が0.20%を超えると、マルテンサイト組織が生成しやすくなり、靭性が低下する。したがって、Moの含有量は0.02〜0.20%が好ましい。より好ましくは0.08%以下である。
[B]
Bの添加は任意である。添加すれば、鋼線材の焼き入れ性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Bを0.0003%以上添加することが望ましい。しかし、Bの含有量が0.003%を超えると、粗大な窒化物が生成しやすくなり、伸線加工性が低下する場合がある。したがって、Bの含有量は0.0003〜0.003%が好ましい。より好ましくは0.002%以下である。
[V]
Vの添加は任意である。添加すれば、鋼線材中に炭窒化物を形成して、フェライト径を小さくする。この効果を得るためには、Vを0.02%以上添加することが望ましい。しかし、Vの含有量が0.20%を超えると、粗大な炭窒化物が生成しやすくなり、変形能が低下する場合がある。したがって、Vの含有量は0.02〜0.20%が好ましい。より好ましくは0.08%以下である。
[Nb]
Nbの添加は任意である。添加すれば、鋼線材中に炭窒化物を形成して、フェライト径を小さくする。この効果を得るためには、Nbを0.002%以上添加することが望ましい。しかし、Nbの含有量が0.05%を超えると、粗大な炭窒化物が生成しやすくなり、変形能が低下する場合がある。したがって、Nbの含有量は0.002〜0.05%が好ましい。より好ましくは0.02%以下である。
[Ti]
Tiの添加は任意である。添加すれば、鋼線材中に炭窒化物を形成して、フェライト径を小さくする。この効果を得るためには、Tiを0.002%以上添加することが望ましい。しかし、Tiの含有量が0.05%を超えると、粗大な炭窒化物を形成しやすくなり、変形能が低下する場合がある。したがって、Tiの含有量を0.02〜0.05%とすることが好ましい。より好ましくは0.03%以下である。
[Cr]
Crは、焼き入れ性の向上のほか、旧オーステナイト(γ)粒径の微細化に寄与する元素である。効果を得るためには0.03%以上のCrを添加する。好ましくは0.1%以上である。一方、Cr量が2.0%を超えると上記Mnと同様に焼き入れ性が大きくなり、過冷組織の発生を助長する可能性がある。従って、上限を2.0%とする。より好ましくは1.6%以下とする。
<金属組織について>
次に、本発明の鋼線材の金属組織および製造方法について説明する。
[非球状化セメンタイト面積率]
非球状化セメンタイト組織の面積率が大きいと、変形抵抗が過大となるため、変形能が低下する。本発明の実施形態では、変形能を高めるため、非球状化セメンタイト組織の面積率を10%以下とする。残部は、初析フェライトや球状化セメンタイトを有するフェライトなどの組織である。より好ましくは7%以下である。
[球状化セメンタイトの最大径]
粗大な球状化セメンタイトが存在する場合、粗大な球状化セメンタイトに変形が集中して欠陥が生じ、割れの原因となるため、変形能が低下する。本発明の変形能の良否を判断するための球状化セメンタイト径の上限として、1.5μmとした。なお、下限は低い方が好ましいが、0.3μm未満にすることは鋼線材製造工程上から難しい。
[フェライト粒径]
変態後のフェライト粒径は、粗大になると、変形抵抗は小さくなるものの、変形能が低下する。フェライトの平均粒径が15μmよりも大きくなると変形能の確保が困難となる。より好ましくは12μm以下である。フェライトの平均粒径が微細になりすぎると変形抵抗が大きくなるため、1μm以上とする、より好ましくは3μm以上である。
[オーステナイト粒径]
変態直前のオーステナイト粒径を5μm以下とすることで、変態直後から球状化セメンタイトを得ることが可能となる。オーステナイト粒径が5μm以上になると、変態後の組織はパーライト組織が主となってしまい、変形能の向上のためには長時間の球状化焼鈍が必要となる。より好ましくは3μm以下である。なお、変態直前のオーステナイト粒径を1μm以下とすることは製造上困難であることから、1μm以上とする。
[変態温度]
微細なオーステナイトから変態させることで、パーライト組織を抑制し、球状化セメンタイトを得ることができる。従って、変態温度域はパーライト変態が可能である550℃〜Ac1点とする。より好ましい下限は600℃であり、上限は670℃である。
[保持時間]
550℃〜Ac1点の領域で保持することでフェライトへの変態が完了するが、60秒以下の保持では未変態組織が残存し、焼割れの原因となるため、60秒以上とする。好ましくは100秒以上である。一方で、変態完了後にAc1点以下で保持することで粒径を調整し、変形抵抗を制御できるが、生産性を考慮すると600秒以下が望ましい。
<鋼線材の製造方法について>
次に、本発明の鋼線材の製造方法について具体的な例で説明する。なお、以下の説明は本発明を説明するための例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明の鋼線材は、常法によって上記の成分を有する鋼を溶製し、鋳造して、得られた鋼片に対して熱間圧延を施して製造する。熱間圧延は、鋼片を1050℃に加熱して行う。熱間圧延の仕上温度は740〜800℃、最終の圧延速度は90m/秒である。仕上げ圧延後にオーステナイト粒径を粗大化させないために、仕上げ圧延直後からAC1以下に到達するまでを50℃/秒以上で冷却を行う。更に、550℃から650℃に到達するまで30℃/secで冷却し、550℃から650℃に到達後は衝風冷却、ミスト冷却、水冷などの手段で10℃/秒以上の冷却速度650℃〜550℃の範囲内の温度に冷却し、これらの温度範囲で60秒以上保持後、空冷や水冷によって室温まで冷却する。なお、鋼線材の直径は特に限定されない。
本実施例では、表1に記載の成分組成からなる供試鋼No.A〜Jを作製し、表2に示す条件でオーステナイト粒径からフェライト変態させることでΦ10mmの鋼線材を得た。
Figure 2016172888
Figure 2016172888
得られた鋼線材のフェライト粒径、非球状化セメンタイト面積率を測定し、さらに変形抵抗、変形能を評価するために引張試験に供した。引張試験は、400mm間隔で8箇所の位置から100mmを採取し、JIS5号引張試験を行うことで測定した。なお、ひずみ速度は10-3/秒とした。
引張強度は上記の8本の試験結果の引張強度の平均値とした。絞り値の測定は、破断後の両端を突き合わせたうえで、最も小さい断面積(S)を測定し、試験前の断面積(S0)を用いて、式[(S0−S)/S0×100]から算出した。
引張強度は高くなると、その後の加工工程での作業効率の低下が顕著であるため、1100MPa以下が望ましい。また、引張強度に関わらず、絞り値が低い場合、その後の加工工程において、割れや工具ダイスの破損が生じる危険性が高いため、30%以上が望ましい。
本実施例では、引張強度1100MPa以下、絞り値45%以上の場合、球状化焼鈍を省略できることから、引張強度1100MPa以下、絞り値45%以上を目標値とした。
No.3では、変態直前のオーステナイト粒径が6μm程度であり、変態完了後の組織がパーライトを主体とする組織になっている。そのため、変形能が低く、球状化焼鈍が必要となる。
No.4では従来の球状化焼鈍を施しており、フェライト、球状化セメンタイトがともに粗大化しており、変形抵抗が低くなっている。
No.5では変態温度が500℃程度であり、ベイナイト変態しており、変形抵抗が高く、変形能が低くなっている。
No.11では保持時間が30秒程度であって、未変態組織が残存しており、変形能が低くなっている。
No.14では鋼中のMn量が高く、180秒の保持でも未変態組織が残存するため、変形能が低くなっている。
No.15では鋼中のSi量が高く、変形抵抗が増大している。

Claims (5)

  1. 鋼成分が質量%で、C:0.1〜1.2%、Si:0.02〜1.0%、Mn:0.2〜1.5%、Al:0.001〜0.05%を含有し、N:0.03%以下、P:0.020%以下、S:0.020%以下に制限し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、フェライト粒径が1μm≦フェライト粒径≦15μmとなり、非球状化セメンタイト面積率が10%以下となり、しきい値以上の粒径の分布から極値統計法によって算出する球状化セメンタイトの最大径が1.5μm以下となることを特徴とする冷間加工性に優れた鋼線材。
  2. 質量%でさらにMo:0.02〜0.20%、B:0.0003〜0.003%を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼線材。
  3. 質量%でさらにNb:0.002〜0.05%、V:0.02〜0.20%、Ti:0.002〜0.05%のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼線材。
  4. 質量%でさらにCr:0.03〜2.0%を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼線材。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の成分からなる鋼片をA1点以上に加熱してオーステナイト化した際のフェライト変態直前のオーステナイト粒径が5μm以下であり、550℃〜Ac1点の温度域で60秒以上保持、または冷却することを特徴とする冷間加工性に優れた鋼線材の製造方法。
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