JP2013007088A - 冷間加工用機械構造用鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】所定の化学成分組成を有し、鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が90面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、且つ隣り合う2つの結晶の方位差が15°を超える大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が15〜35μmである。
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
【選択図】図1
Description
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
パーライトとフェライトは鋼の変形抵抗を低減させて冷間加工性向上に寄与する金属組織である。しかしながら、単に球状化したセメンタイトとフェライトを含む金属組織とするだけでは、所望の軟質化を図ることができないことから、以下で詳述する様に、この金属組織の面積率、フェライト面積率A、bcc−Fe結晶粒の平均粒径等も適切に制御する必要がある。
組織(前組織)にベイナイトやマルテンサイト等の微細な組織を含む場合には、一般的な球状化焼鈍を行っても、球状化焼鈍後はベイナイトやマルテンサイトの影響によって組織が微細となり、軟質化が不十分となる。こうした観点から、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率は90面積%以上とする必要がある。好ましくは95面積%以上、より好ましくは97面積%以上である。尚、パーライトとフェライト以外の金属組織としては、例えば製造過程で生成し得るマルテンサイトやベイナイト等を一部含まれることがあるが、これら組織の面積率が高くなると強度が高くなって冷間加工性が劣化することがあるため、全く含まれていなくてもよい。したがって全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率は、最も好ましくは100面積%である。
上記趣旨から明らかなように、前組織中のフェライト面積率Aをできるだけ多くする必要がある。フェライトの面積率Aを多くすることによって、球状化焼鈍後にパーライトが局在化し、球状セメンタイトが成長しやすい(粒子間距離が大きくなりやすい)状態となる。本発明者らは、初析フェライトを平衡量まで析出させるという観点から検討し、実験に基づき平衡フェライト析出量は、(0.8−Ceq)×129で表されること、およびフェライト面積率Aは、平衡析出量の75%以上を確保できれば良いとの着想に基づき、最低限確保する必要があるフェライト量として下記(1)式で表されるAe値を定めた。尚、フェライトの面積率Aを測定するときのフェライトは、パーライト組織中に含まれるフェライトは含まない趣旨である(初析フェライトのみ測定)。
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
前組織におけるbcc(体心立方格子)−Fe結晶粒の平均円相当直径(以下、単に「フェライト平均粒径」と呼ぶことがある)を15μm以上にしておくと、球状化焼鈍後に軟質化が可能となる。しかしながら、前組織におけるフェライト平均粒径が大きくなり過ぎると、通常の球状化焼鈍では再生パーライト等の強度を増加させる組織となり、軟質化が困難となるので、フェライト平均粒径は35μm以下とする必要がある。フェライト平均粒径の好ましい下限は18μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。フェライト平均粒径の好ましい上限は32μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。
Cは、鋼の強度(最終製品の強度)を確保する上で有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、C含有量は0.3%以上とする必要がある。好ましくは0.32%以上(より好ましくは0.34%以上)とするのが良い。しかしながら、Cが過剰に含有されると強度が高くなって、冷間加工性が低下するので0.6%以下とする必要がある。好ましくは、0.55%以下(より好ましくは0.50%以下)とするのが良い。
Siは、脱酸元素として、および固溶体硬化による最終製品の強度を増加させることを目的として含有させるが、0.05%未満ではこうした効果が有効に発揮されず、また0.5%を超えて過剰に含有されると硬度が過度に上昇して冷間加工性を劣化させることになる。尚、Si含有量の好ましい下限は0.07%以上(より好ましくは0.10%以上)であり、好ましい上限は0.45%以下(より好ましくは0.40%以下)である。
Mnは、焼入れ性の向上を通じて、最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であるが、0.2%未満ではその効果が不十分であり、1.5%を超えて過剰に含有すると硬度が上昇して冷間加工性を劣化させるため、0.2〜1.5%とした。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.3%以上(より好ましくは0.4%以上)であり、好ましい上限は1.1%以下(より好ましくは0.9%以下)である。
Pは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、Pは鋼中で粒界偏析を起こし、延性の劣化の原因となるので、0.03%以下に抑制する。P含有量の好ましい上限は0.02%以下(より好ましくは0.01%以下)である。
Sは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中でMnSとして存在し、冷間加工にとって延性を劣化させる有害な元素であるので、その含有量を0.05%以下とする必要がある。但し、Sは被削性を向上させる作用を発揮させるので、0.001%以上含有させることは有用である。S含有量の好ましい下限は0.002%(より好ましくは0.003%以上)であり、好ましい上限は0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)である。
Alは、脱酸元素として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定するのに有用である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Al含有量は0.01%以上とする必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.1%を超えると、Al2O3が過剰に生成し、冷間加工性を劣化させる。尚、Al含有量の好ましい下限は0.013%以上(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.090%以下(より好ましくは0.080%以下)である。
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中に固溶Nが含まれると、歪み時効による硬度上昇、延性低下を招き、冷間加工性を劣化させるため0.015%以下に抑制する必要がある。N含有量の好ましい上限は0.013%以下であり、より好ましい上限は0.010%以下である。
Cr、Cu、Ni、MoおよびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させることによって最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であり、必要によって単独でまたは2種以上で含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、強度が高くなり過ぎ、冷間加工性を劣化させるので、上記のように夫々の好ましい上限を定めた。より好ましくはCrで0.45%以下(更に好ましくは0.40%以下)、Cu,NiおよびMoで0.22%以下(更に好ましくは0.20%以下)、およびBで0.007%以下(更に好ましくは0.005%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、それらの効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、Crで0.015%以上(より好ましくは0.020%以上)、Cu,NiおよびMoで0.02%以上(より好ましくは0.05%以上)、およびBで0.0003%以上(より好ましくは0.0005%以上)である。
Ti,NbおよびVは、Nと化合物を形成し、固溶Nを低減することで、変形抵抗低減の効果を発揮するため、必要によって単独でまたは2種以上を含有させることができる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、形成される化合物が変形抵抗の上昇を招き、却って冷間加工性を低下させるので、TiおよびNbで0.2%以下、Vで0.5%以下とするのが良い。より好ましくはTiおよびNbで0.18%以下(更に好ましくは0.15%以下)、およびVで0.45%以下(更に好ましくは0.40%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、その効果を有効に発揮させるためには好ましい下限は、TiおよびNbで0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)、およびVで0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)である。
大角粒界で囲まれた結晶粒の平均粒径を15〜35μmに制御するためには、仕上げ圧延温度を適切に制御する必要がある。この仕上げ圧延温度が1100℃を超えると、平均粒径を35μm以下にすることが困難となる。また、仕上げ圧延温度が1100℃を超えると、フェライトの面積率Aを、Aeとの関係でA>Aeを満足させることが困難となる。但し、仕上げ圧延温度が950℃以下となると、フェライト平均粒径を15μm以上にすることが困難となるので、950℃超とする必要がある。
640〜680℃の温度範囲(冷却停止温度)までの冷却速度が遅くなると、フェライト結晶粒が粗大化して平均粒径が35μmを超える可能性があるため、平均冷却速度を5℃/秒以上とする必要がある。この平均冷却速度は、好ましくは10℃/秒以上であり、より好ましくは20℃/秒以上である。尚、このときの平均冷却速度の上限については、特に限定されないが、現実的な範囲として200℃/秒以下である。尚、このときの冷却については、5℃/秒以上となる平均冷却速度の範囲内であれば、冷却速度を変えるような冷却形態であっても良い。
フェライト平均粒径の粗大化と、フェライト面積率Aが少なくなることを防止するためには、上記のような冷却(即ち、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却)の代わりに、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲(第1冷却停止温度)まで一旦冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃温度範囲(第2冷却停止温度)まで冷却するようにしても良い。即ち、750〜800℃の温度範囲までを、平均冷却速度を20℃/秒以上(好ましくは30℃/秒以上、より好ましくは40℃/秒以上)の急冷とし、その温度範囲から640〜680℃の温度範囲までを、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で冷却するようにしても良い。
640〜680℃の温度範囲から1℃/秒以下の平均冷却速度で徐冷することによって、上記フェライト平均粒径を15〜35μmに制御しつつ(制御した状態で)、フェライト面積率Aを大きくすることができる。こうした効果を発揮させるためには、冷却時間(徐冷時間)は少なくとも20秒以上とする必要があるが、好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上、更に好ましくは120秒以上である。生産性や設備上の制約を考慮し、現実的な時間で実施できるという観点から、冷却時間の好ましい上限は2000秒以下(より好ましくは1800秒以下)である。尚、このような徐冷を終えた後は、通常の冷却(放冷)を行って、室温までの温度とすれば良い。
得られた各線材(圧延材)の組織因子(組織およびフェライト平均粒径)、および球状化焼鈍後の硬さの測定に当たって、各線材、各ラボ試験片材、共に縦断面が観察できるように樹脂埋めし、線材の半径Dに対し、D/4の位置を測定した。
前組織粒径の測定は、EBSP解析装置およびFE−SEM(電解放出型走査電子顕微鏡)を用いて測定した。結晶方位差(斜角)が15°を超える境界(大角粒界)を結晶粒界として「結晶粒」を定義し、フェライトにおける結晶粒の平均粒径を決定した。このときの測定領域は400μm×400μm、測定ステップは0.7μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1以下の測定点は解析対象から削除した。
パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)、フェライト面積率A(F面積率A)の測定においては、ナイタールエッチングによって組織を現出させ、光学顕微鏡にて組織観察を行い、倍率400倍にて5視野を撮影した。それらの写真を元に、画像解析によって、パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)、フェライト面積率Aを測定し、平均値を算出した。
球状化焼鈍後の硬さの測定は、ビッカース硬度計を用いて、荷重1kgfで5点測定し、その平均値(HV)を求めた。
上記表1に示した鋼種Aを用いた。ラボの加工フォーマスタ試験装置を用いて、加熱温度(圧延仕上げ温度に相当)、冷却速度を下記表2のように変化させて、前組織の異なるサンプルを夫々作製した。尚、表2の製造条件において、「冷却1」は加熱温度から750〜800℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却2」は「冷却1」を行った後、640〜680℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却3」は「冷却2」を行った後の冷却を示している。
上記表1に示した鋼種B〜Jを用い、下記表4に示す製造条件(仕上げ圧延温度、平均冷却速度、冷却時間)、前組織の異なるサンプル(φ17mmの線材)を作製した。尚、表4の製造条件において、「冷却1」は仕上げ圧延温度から750〜800℃または640〜680℃までの温度範囲までの冷却を示し(1段階の冷却のときは「冷却2」はなし)、「冷却2」は「冷却1」を行った後、640〜680℃まで冷却を示し、「冷却3」は「冷却2」を行った後の冷却を示している。
Claims (5)
- C :0.3〜0.6%(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.2〜1.5%、
P :0.03%以下(0%を含まない)、
S :0.001〜0.05%、
Al:0.01〜0.1%、および
N:0.015%以下(0%を含まない)を夫々含有し、
残部が鉄および不可避不純物からなり、
鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が90面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、
且つ隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が15〜35μmであることを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼。
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。 - 更に他の元素として、
Cr:0.5%以下(0%を含まない)、
Cu:0.25%以下(0%を含まない)、
Ni:0.25%以下(0%を含まない)、
Mo:0.25%以下(0%を含まない)、および
B :0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1に記載の冷間加工用機械構造用鋼。 - 更に他の元素として、
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、
Nb:0.2%以下(0%を含まない)、および
V:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の冷間加工用機械構造用鋼。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、その後、1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲まで冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、更に1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
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