JP2013007088A - 冷間加工用機械構造用鋼およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】通常の球状化焼鈍を施した場合であっても、球状化焼鈍による軟質化を図ることができるような冷間加工用機械構造用鋼、およびこのような冷間加工用機械構造用鋼を製造するための有用な方法を提供する。
【解決手段】所定の化学成分組成を有し、鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が90面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、且つ隣り合う2つの結晶の方位差が15°を超える大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が15〜35μmである。
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車用部品、建設機械用部品等の各種部品の製造に用いられる冷間加工用機械構造用鋼に関し、特に球状化焼鈍後の変形抵抗が低く冷間加工性に優れた特性を有する鋼材、およびそのような冷間加工用機械構造用鋼を製造するための有用な方法に関するものである。具体的には、冷間鍛造、冷間圧造、冷間転造等の冷間加工によって製造される自動車用部品、建設機械用部品等の各種部品、例えば、ボルト、ねじ、ナット、ソケット、ボールジョイント、インナーチューブ、トーションバー、クラッチケース、ケージ、ハウジング、ハブ、カバー、ケース、受座金、タペット、サドル、バルグ、インナーケース、クラッチ、スリーブ、アウターレース、スプロケット、コアー、ステータ、アンビル、スパイダー、ロッカーアーム、ボディー、フランジ、ドラム、継手、コネクター、プーリー、金具、ヨーク、口金、バルブリフター、スパークプラグ、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、コモンレール等の機械部品、伝送部品等に用いられる高強度機械構造用線材および棒鋼を対象とし、上記の各種機械構造用部品を製造するときの室温および加工発熱領域における変形抵抗が低く、且つ金型や素材の割れが抑制されることで優れた冷間加工性を発揮することができる。
自動車用部品、建設機械用部品等の各種部品を製造するにあたっては、炭素鋼、合金鋼などの熱間圧延材に冷間加工性を付与する目的で球状化焼鈍処理を施してから、冷間加工を行い、その後切削加工などを施すことによって所定の形状に成形した後、焼入れ焼戻し処理を行って最終的な強度調整が行われている。
近年は、部品形状が複雑化・大型化する傾向にあり、それに伴って冷間加工工程では、鋼材を更に軟質化し、鋼材の割れの防止や金型寿命を向上させるという要求がある。鋼材を更に軟質化させるためには、より長時間の球状化焼鈍処理を施すことによって軟質化は可能であるが、その一方で、省エネルギーの観点からして、熱処理時間を長くし過ぎることには問題がある。
これまでにも、球状化焼鈍時間を短縮、或は球状化焼鈍時間を省略しても、通常の球状化焼鈍処理材と同等の軟質化を得る方法がいくつか提案されている。こうした技術として、例えば特許文献1には、初析フェライトとパーライト組織を規定し、その平均粒径を6〜15μmとし、且つフェライト体積率を規定することによって、球状化焼鈍処理を迅速に行なうことと、冷間鍛造性を両立させた技術が開示されている。しかしながら、組織を微細にした場合には、球状化焼鈍処理時間の短縮化は図れるものの、通常の球状化焼鈍処理(10〜30時間程度の焼鈍処理)を行ったときに、素材の軟質化は不十分なものとなる。
一方、特許文献2には、転位セルの大きさと、フェライト粒度番号を規定することによって、圧延ままで軟質化を図る技術が開示されている。しかしながら、このような技術では、更に軟質化が必要となる場合には不十分である。
特開2000−119809号公報 特許第3474545号公報
本発明はこうした状況の下になされたものであって、その目的は、通常の球状化焼鈍を施した場合であっても、球状化焼鈍による軟質化を図ることができるような冷間加工用機械構造用鋼、およびこのような冷間加工用機械構造用鋼を製造するための有用な方法を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明の冷間加工用機械構造用鋼とは、C:0.3〜0.6%(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.05%、Al:0.01〜0.1%、およびN:0.015%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が90面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、且つ隣り合う2つの結晶の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が15〜35μmである点に要旨を有するものである。尚、前記「平均円相当直径」とは、方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたフェライト結晶粒を、同一面積の円に換算したときの直径(円相当直径)の平均値である。
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
本発明の冷間加工用機械構造用鋼の基本的な化学成分は、上記の通りであるが、必要によって更に、(a)Cr:0.5%以下(0%を含まない)、Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、Mo:0.25%以下(0%を含まない)、およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、(b)Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、およびV:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、等を含有させることも有用であり、含有される成分に応じてその鋼材の特性が更に改善される。
一方、上記のような本発明の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当っては、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、その後、1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却するようにすれば良い。
また、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲まで冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、更に1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却するようにしても、本発明の冷間加工用機械構造用鋼を製造することができる。
本発明では、化学成分組成と共に、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率を規定し、フェライトの面積率Aを所定の関係式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、且つフェライト結晶粒の平均円相当直径を適切に規定することによって、通常の球状化焼鈍を実施した場合であっても硬さを十分低くすることができる冷間加工用機械構造用鋼を実現でき、こうした冷間加工用機械構造用鋼は球状化焼鈍後の冷間加工性に優れたものとなる。
鋼材中のC含有量と球状化焼鈍処理後の硬さの関係を示すグラフである。
本発明者らは、通常の球状化焼鈍を施した場合であっても、球状化焼鈍による軟質化を図ることができるような冷間加工用機械構造用鋼を実現するべく、様々な角度から検討した。その結果、球状化焼鈍後における鋼の軟質化を図るためには、球状化焼鈍後のフェライト結晶粒の粒径を比較的大きくし、且つ球状セメンタイトによる分散強化を低減するために、セメンタイトの粒子間距離をできるだけ大きくすることが重要であるとの着想が得られた。そして、球状化焼鈍後に上記の様な組織を実現するためには、球状化焼鈍前の金属組織(以下、「前組織」と呼ぶことがある)を、パーライトとフェライトを主相とした上で、組織中のフェライトの面積率をできるだけ高め、且つ大角粒界で囲まれたフェライト結晶粒の平均円相当直径を比較的大きくすれば、球状化焼鈍後の硬さを最大限に低下できることを見出し、本発明を完成した。
本発明で規定する各要件について説明する。
[金属組織:パーライトとフェライトを有すること]
パーライトとフェライトは鋼の変形抵抗を低減させて冷間加工性向上に寄与する金属組織である。しかしながら、単に球状化したセメンタイトとフェライトを含む金属組織とするだけでは、所望の軟質化を図ることができないことから、以下で詳述する様に、この金属組織の面積率、フェライト面積率A、bcc−Fe結晶粒の平均粒径等も適切に制御する必要がある。
[パーライトとフェライトの合計面積率:全組織に対して90面積%以上]
組織(前組織)にベイナイトやマルテンサイト等の微細な組織を含む場合には、一般的な球状化焼鈍を行っても、球状化焼鈍後はベイナイトやマルテンサイトの影響によって組織が微細となり、軟質化が不十分となる。こうした観点から、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率は90面積%以上とする必要がある。好ましくは95面積%以上、より好ましくは97面積%以上である。尚、パーライトとフェライト以外の金属組織としては、例えば製造過程で生成し得るマルテンサイトやベイナイト等を一部含まれることがあるが、これら組織の面積率が高くなると強度が高くなって冷間加工性が劣化することがあるため、全く含まれていなくてもよい。したがって全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率は、最も好ましくは100面積%である。
[フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足する]
上記趣旨から明らかなように、前組織中のフェライト面積率Aをできるだけ多くする必要がある。フェライトの面積率Aを多くすることによって、球状化焼鈍後にパーライトが局在化し、球状セメンタイトが成長しやすい(粒子間距離が大きくなりやすい)状態となる。本発明者らは、初析フェライトを平衡量まで析出させるという観点から検討し、実験に基づき平衡フェライト析出量は、(0.8−Ceq)×129で表されること、およびフェライト面積率Aは、平衡析出量の75%以上を確保できれば良いとの着想に基づき、最低限確保する必要があるフェライト量として下記(1)式で表されるAe値を定めた。尚、フェライトの面積率Aを測定するときのフェライトは、パーライト組織中に含まれるフェライトは含まない趣旨である(初析フェライトのみ測定)。
Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
即ち、フェライトの面積率Aが、上記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足したときに、フェライト面積率を大きくすることによる効果が発揮されるものとなる。これに対し、フェライトの面積率Aが、上記Ae値以下となる場合(即ち、A≦Ae)には、球状化焼鈍後に新たな微細フェライトが析出しやすくなって、軟質化が不十分となる。また、フェライト面積率Aが小さい状態で、フェライト結晶粒径を大きくすると(後述する)、再生パーライトが生成しやすくなり、十分な軟質化が困難となる。
[隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径:15〜35μm]
前組織におけるbcc(体心立方格子)−Fe結晶粒の平均円相当直径(以下、単に「フェライト平均粒径」と呼ぶことがある)を15μm以上にしておくと、球状化焼鈍後に軟質化が可能となる。しかしながら、前組織におけるフェライト平均粒径が大きくなり過ぎると、通常の球状化焼鈍では再生パーライト等の強度を増加させる組織となり、軟質化が困難となるので、フェライト平均粒径は35μm以下とする必要がある。フェライト平均粒径の好ましい下限は18μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。フェライト平均粒径の好ましい上限は32μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。
フェライト平均粒粒を測定するときのフェライトは、隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたフェライト結晶粒(bcc−Fe結晶粒)を対象とするが、これは方位差が15°以下の小角粒界では、球状化焼鈍による影響が小さいからである。つまり、前記方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたフェライト結晶粒で、同一面積の円に換算したときの直径を上記のような範囲とすることによって、球状化焼鈍後に十分な軟質化が実現できるものとなる。尚、前記「方位差」は、「ずれ角」若しくは「斜角」とも呼ばれているものであり、方位差の測定にはEBSP法(Electron Backscattering Pattern法)を採用すればよい。また、平均粒径を測定するフェライトは、パーライト組織中に含まれるフェライトも含む趣旨である。
本発明では、冷間加工用機械構造用鋼を想定してなされたものであり、その鋼種については冷間加工用機械構造用鋼としての通常の化学成分組成のものであれば良いが、C、Si、Mn、P、S、AlおよびNについては、適切な範囲に調整するのが良い。こうした観点から、これらの化学成分の適切な範囲およびその範囲限定理由は下記の通りである。
[C:0.3〜0.6%]
Cは、鋼の強度(最終製品の強度)を確保する上で有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、C含有量は0.3%以上とする必要がある。好ましくは0.32%以上(より好ましくは0.34%以上)とするのが良い。しかしながら、Cが過剰に含有されると強度が高くなって、冷間加工性が低下するので0.6%以下とする必要がある。好ましくは、0.55%以下(より好ましくは0.50%以下)とするのが良い。
[Si:0.05〜0.5%]
Siは、脱酸元素として、および固溶体硬化による最終製品の強度を増加させることを目的として含有させるが、0.05%未満ではこうした効果が有効に発揮されず、また0.5%を超えて過剰に含有されると硬度が過度に上昇して冷間加工性を劣化させることになる。尚、Si含有量の好ましい下限は0.07%以上(より好ましくは0.10%以上)であり、好ましい上限は0.45%以下(より好ましくは0.40%以下)である。
[Mn:0.2〜1.5%]
Mnは、焼入れ性の向上を通じて、最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であるが、0.2%未満ではその効果が不十分であり、1.5%を超えて過剰に含有すると硬度が上昇して冷間加工性を劣化させるため、0.2〜1.5%とした。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.3%以上(より好ましくは0.4%以上)であり、好ましい上限は1.1%以下(より好ましくは0.9%以下)である。
[P:0.03%以下(0%を含まない)]
Pは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、Pは鋼中で粒界偏析を起こし、延性の劣化の原因となるので、0.03%以下に抑制する。P含有量の好ましい上限は0.02%以下(より好ましくは0.01%以下)である。
[S:0.001〜0.05%]
Sは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中でMnSとして存在し、冷間加工にとって延性を劣化させる有害な元素であるので、その含有量を0.05%以下とする必要がある。但し、Sは被削性を向上させる作用を発揮させるので、0.001%以上含有させることは有用である。S含有量の好ましい下限は0.002%(より好ましくは0.003%以上)であり、好ましい上限は0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)である。
[Al:0.01〜0.1%]
Alは、脱酸元素として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定するのに有用である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Al含有量は0.01%以上とする必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.1%を超えると、Al23が過剰に生成し、冷間加工性を劣化させる。尚、Al含有量の好ましい下限は0.013%以上(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.090%以下(より好ましくは0.080%以下)である。
[N:0.015%以下(0%を含まない)]
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中に固溶Nが含まれると、歪み時効による硬度上昇、延性低下を招き、冷間加工性を劣化させるため0.015%以下に抑制する必要がある。N含有量の好ましい上限は0.013%以下であり、より好ましい上限は0.010%以下である。
本発明の冷間加工用機械構造用鋼の基本的な化学成分組成は、上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。尚、「実質的に鉄」とは、鉄以外にも本発明の鋼材の特性を阻害しない程度の微量成分(例えば、Sb,Zn等)も許容できる他、P,S,N以外の不可避不純物(例えば、O,H等)も含み得るものである。
本発明の冷間加工用機械構造用鋼には、必要によって更に、(a)Cr:0.5%以下(0%を含まない)、Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、Mo:0.25%以下(0%を含まない)、およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、(b)Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、およびV:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、等を含有させることも有用であり、含有される成分に応じてその鋼材の特性が更に改善される。これらの成分を含有させるときの成分範囲限定理由は下記の通りである。
[Cr:0.5%以下(0%を含まない)、Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、Mo:0.25%以下(0%を含まない)、およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上]
Cr、Cu、Ni、MoおよびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させることによって最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であり、必要によって単独でまたは2種以上で含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、強度が高くなり過ぎ、冷間加工性を劣化させるので、上記のように夫々の好ましい上限を定めた。より好ましくはCrで0.45%以下(更に好ましくは0.40%以下)、Cu,NiおよびMoで0.22%以下(更に好ましくは0.20%以下)、およびBで0.007%以下(更に好ましくは0.005%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、それらの効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、Crで0.015%以上(より好ましくは0.020%以上)、Cu,NiおよびMoで0.02%以上(より好ましくは0.05%以上)、およびBで0.0003%以上(より好ましくは0.0005%以上)である。
[Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、およびV:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上]
Ti,NbおよびVは、Nと化合物を形成し、固溶Nを低減することで、変形抵抗低減の効果を発揮するため、必要によって単独でまたは2種以上を含有させることができる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、形成される化合物が変形抵抗の上昇を招き、却って冷間加工性を低下させるので、TiおよびNbで0.2%以下、Vで0.5%以下とするのが良い。より好ましくはTiおよびNbで0.18%以下(更に好ましくは0.15%以下)、およびVで0.45%以下(更に好ましくは0.40%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、その効果を有効に発揮させるためには好ましい下限は、TiおよびNbで0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)、およびVで0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)である。
本発明の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たっては、上記のような成分組成を満足する鋼を、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、その後、1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却すれば良い。他の方法として、上記のような成分組成を満足する鋼を、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲まで一旦冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、更に1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却するようにしても良い。これらの製造条件について説明する。
[仕上げ圧延温度:950℃超、1100℃以下」
大角粒界で囲まれた結晶粒の平均粒径を15〜35μmに制御するためには、仕上げ圧延温度を適切に制御する必要がある。この仕上げ圧延温度が1100℃を超えると、平均粒径を35μm以下にすることが困難となる。また、仕上げ圧延温度が1100℃を超えると、フェライトの面積率Aを、Aeとの関係でA>Aeを満足させることが困難となる。但し、仕上げ圧延温度が950℃以下となると、フェライト平均粒径を15μm以上にすることが困難となるので、950℃超とする必要がある。
[仕上げ圧延後に、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却]
640〜680℃の温度範囲(冷却停止温度)までの冷却速度が遅くなると、フェライト結晶粒が粗大化して平均粒径が35μmを超える可能性があるため、平均冷却速度を5℃/秒以上とする必要がある。この平均冷却速度は、好ましくは10℃/秒以上であり、より好ましくは20℃/秒以上である。尚、このときの平均冷却速度の上限については、特に限定されないが、現実的な範囲として200℃/秒以下である。尚、このときの冷却については、5℃/秒以上となる平均冷却速度の範囲内であれば、冷却速度を変えるような冷却形態であっても良い。
[仕上げ圧延後に、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲まで一旦冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃温度範囲まで冷却]
フェライト平均粒径の粗大化と、フェライト面積率Aが少なくなることを防止するためには、上記のような冷却(即ち、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却)の代わりに、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲(第1冷却停止温度)まで一旦冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃温度範囲(第2冷却停止温度)まで冷却するようにしても良い。即ち、750〜800℃の温度範囲までを、平均冷却速度を20℃/秒以上(好ましくは30℃/秒以上、より好ましくは40℃/秒以上)の急冷とし、その温度範囲から640〜680℃の温度範囲までを、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で冷却するようにしても良い。
640〜680℃温度範囲までを2段階の冷却を行うことによって、1段階で冷却するときに比べてフェライト面積率Aを大きくすることができると共に、上記フェライト平均粒径を35μm以下に制御し易くなる。2段階目の冷却は、平均粒径を35μm以下とするために0.1℃/秒以上の平均冷却速度で行う必要があるが、その上限は平均冷却速度が15℃/秒以下での冷却、若しくは平均冷却速度が1.0℃/秒以下での徐冷となる。但し、1段階目の冷却速度よりも遅くなる冷却速度であれば、2段階冷却による効果を発揮できるので、2段階目の冷却時の平均冷却速度は20℃/秒程度まで高めても良い。
上記の冷却では、いずれの冷却方式(1段階の冷却または2段階の冷却)を採用するにしても、冷却停止温度(2段階冷却では第2冷却停止温度)は、640〜680℃の温度範囲とする必要がある。この温度が640℃よりも低くなると、フェライト平均粒径が15μm未満となり、680℃を超えるとフェライト平均粒径が35μmを超えるようになる。
[640〜680℃の温度範囲まで冷却した後、1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却]
640〜680℃の温度範囲から1℃/秒以下の平均冷却速度で徐冷することによって、上記フェライト平均粒径を15〜35μmに制御しつつ(制御した状態で)、フェライト面積率Aを大きくすることができる。こうした効果を発揮させるためには、冷却時間(徐冷時間)は少なくとも20秒以上とする必要があるが、好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上、更に好ましくは120秒以上である。生産性や設備上の制約を考慮し、現実的な時間で実施できるという観点から、冷却時間の好ましい上限は2000秒以下(より好ましくは1800秒以下)である。尚、このような徐冷を終えた後は、通常の冷却(放冷)を行って、室温までの温度とすれば良い。
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
下記表1に示す化学成分組成の鋼を用い、各種製造条件(仕上げ圧延温度、冷却速度、冷却停止温度、冷却時間:後記表2、4参照)にて圧延を行い、φ8.0mmまたはφ17mmの線材を作製した。
Figure 2013007088
(組織因子の測定方法)
得られた各線材(圧延材)の組織因子(組織およびフェライト平均粒径)、および球状化焼鈍後の硬さの測定に当たって、各線材、各ラボ試験片材、共に縦断面が観察できるように樹脂埋めし、線材の半径Dに対し、D/4の位置を測定した。
(前組織のフェライト平均粒径の測定)
前組織粒径の測定は、EBSP解析装置およびFE−SEM(電解放出型走査電子顕微鏡)を用いて測定した。結晶方位差(斜角)が15°を超える境界(大角粒界)を結晶粒界として「結晶粒」を定義し、フェライトにおける結晶粒の平均粒径を決定した。このときの測定領域は400μm×400μm、測定ステップは0.7μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1以下の測定点は解析対象から削除した。
(組織の観察)
パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)、フェライト面積率A(F面積率A)の測定においては、ナイタールエッチングによって組織を現出させ、光学顕微鏡にて組織観察を行い、倍率400倍にて5視野を撮影した。それらの写真を元に、画像解析によって、パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)、フェライト面積率Aを測定し、平均値を算出した。
(球状化焼鈍後の硬さの測定)
球状化焼鈍後の硬さの測定は、ビッカース硬度計を用いて、荷重1kgfで5点測定し、その平均値(HV)を求めた。
[実施例1]
上記表1に示した鋼種Aを用いた。ラボの加工フォーマスタ試験装置を用いて、加熱温度(圧延仕上げ温度に相当)、冷却速度を下記表2のように変化させて、前組織の異なるサンプルを夫々作製した。尚、表2の製造条件において、「冷却1」は加熱温度から750〜800℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却2」は「冷却1」を行った後、640〜680℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却3」は「冷却2」を行った後の冷却を示している。
Figure 2013007088
このとき、加工フォーマスタサンプルは、φ8.0mm×12.0mmとし、熱処理終了後に2等分し、夫々前組織調査用サンプル、および球状化焼鈍用のサンプルとした。また球状化焼鈍は、サンプルを夫々真空封入し、大気炉にて、760℃×6時間保持(均熱)後、平均冷却速度10℃/時で660℃まで冷却し、その後放冷する熱処理を行った。これらについて、前組織のフェライト平均粒径(前組織α平均粒径)、フェライト面積率(前組織F面積率A)および球状化焼鈍後の硬さの測定結果を、下記表3に示す。尚、C含有量が0.46%の鋼種Aにおける軟質化の基準は、HV137以下である。
Figure 2013007088
これらの結果から、次のように考察できる。試験No.4、7、10、11は、本発明で規定する要件の全てを満足する例であり、球状化焼鈍後の硬さを十分低くすることができることが分かる。
これに対して、試験No.1〜3、5、6、8、9、12〜14は、本発明で規定する要件のいずれかを欠く例であり、球状化焼鈍後の硬さを十分低くできないことが分かる。即ち、試験No.1のものは、加熱温度が低い例であり、フェライト平均粒径が小さくなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.2、3のものは、加熱温度が低く、また「冷却2」での冷却停止温度が低くなっている例であり、フェライト平均粒径が小さく、且つフェライト面積率Aも低くなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。
試験No.5、6、8、9は、「冷却2」での冷却停止温度が低くなっている例であり、フェライト面積率が低くなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.12は、「冷却1」および「冷却2」での平均冷却速度が遅い例であり、フェライト平均粒径が大きくなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.13は、「冷却3」での平均冷却速度が速く、且つ冷却時間が短いものであり、パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)が少なくなると共に、フェライト面積率Aも低くなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.14は、加熱温度が高く、また「冷却1」での平均冷却速度が遅い例であり、フェライト平均粒径が大きくなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。
[実施例2]
上記表1に示した鋼種B〜Jを用い、下記表4に示す製造条件(仕上げ圧延温度、平均冷却速度、冷却時間)、前組織の異なるサンプル(φ17mmの線材)を作製した。尚、表4の製造条件において、「冷却1」は仕上げ圧延温度から750〜800℃または640〜680℃までの温度範囲までの冷却を示し(1段階の冷却のときは「冷却2」はなし)、「冷却2」は「冷却1」を行った後、640〜680℃まで冷却を示し、「冷却3」は「冷却2」を行った後の冷却を示している。
Figure 2013007088
球状化焼鈍前のフェライト平均粒径(前組織α平均粒径)、フェライト面積率A(前組織F面積率A)を測定すると共に、球状化焼鈍後の硬さを上記した要領で測定した。このときの球状化焼鈍は、サンプルを夫々真空封入し、大気炉にて、740℃×6時間保持(均熱)後、平均冷却速度12℃/時で710℃まで冷却し、その温度で1時間保持し、更に660℃まで平均冷却速度12℃/時で冷却し、その後放冷する熱処理を行った。これらについて、フェライト平均粒径(前組織α平均粒径)、フェライト面積率A(前組織F面積率A)および球状化焼鈍後の硬さの測定結果を、下記表5に示す。尚、球状化焼鈍後の軟質化の硬さ基準は、C含有量が0.33%の鋼種(鋼種F)でHV127以下、C含有量が0.35%の鋼種(鋼種C,D,E)でHV129以下、C含有量が0.44〜0.46%の鋼種(鋼種A,G,H,I,J)でHV137以下、C含有量が0.46%超〜0.48%の鋼種(鋼種B)でHV140以下である。
Figure 2013007088
これらの結果から、次のように考察できる。試験No.15〜34は、本発明で規定する要件の全てを満足する例であり、球状化焼鈍後の硬さを十分低くすることができることが分かる。
これに対して、試験No.35〜39のものでは、本発明で規定する要件のいずれかを欠くものであり、球状化焼鈍後の硬さを十分低くできないことが分かる。即ち、試験No.35は、「冷却2」での冷却停止温度が低くなっている例であり、フェライト面積率Aが低くなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.36のものは、仕上げ圧延温度が低く、また「冷却3」での冷却時間が短くなっている例であり、パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)が少なくなると共に(残部はベイナイトが観察された)、フェライト平均粒径が小さくなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。
試験No.37は、仕上げ圧延温度が高く、また「冷却2」での平均冷却速度が遅くなっている例であり、フェライト平均粒径が大きくなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.38は、仕上げ圧延温度が低く、また「冷却2」での冷却停止温度が低い例であり、フェライト平均粒径が小さく、且つフェライト面積率Aも低くなっており、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。試験No.39は、Mn含有量が多い鋼種Jを用いた例であり、球状化焼鈍後の硬さが高いままである。
上記表5の結果に基づき、試験No.16〜18、20〜22、24〜26、28〜30(C含有量が0.35%の鋼種C,D,Eを用いたもの)、試験No.31〜34(C含有量が異なる鋼種F,G,H,Iを用いたもの:以上発明例)、および試験No.35〜39(比較例のもの)について、鋼材中のC含有量と球状化処理後の硬さの関係を図1に示す。尚、C含有量が0.35%の鋼種C,D,Eを用いた発明例は、12のプロット数となるが、硬さの値が一致しているものがあるので、4のプロット数として現れている。この結果から明らかなように、C含有量が同レベルであっても、本発明での規定する要件を満足するもの(発明例)では、球状化焼鈍後の硬さが十分低くなっていることが分かる。

Claims (5)

  1. C :0.3〜0.6%(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、
    Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.2〜1.5%、
    P :0.03%以下(0%を含まない)、
    S :0.001〜0.05%、
    Al:0.01〜0.1%、および
    N:0.015%以下(0%を含まない)を夫々含有し、
    残部が鉄および不可避不純物からなり、
    鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が90面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、
    且つ隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が15〜35μmであることを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼。
    Ae=(0.8−Ceq)×96.75 …(1)
    但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
  2. 更に他の元素として、
    Cr:0.5%以下(0%を含まない)、
    Cu:0.25%以下(0%を含まない)、
    Ni:0.25%以下(0%を含まない)、
    Mo:0.25%以下(0%を含まない)、および
    B :0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1に記載の冷間加工用機械構造用鋼。
  3. 更に他の元素として、
    Ti:0.2%以下(0%を含まない)、
    Nb:0.2%以下(0%を含まない)、および
    V:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の冷間加工用機械構造用鋼。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、その後、1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ圧延した後、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲まで冷却し、その後、0.1℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、更に1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
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