JP5618916B2 - 冷間加工用機械構造用鋼およびその製造方法、並びに機械構造用部品 - Google Patents
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Description
Ae=(0.8−Ceq1)×96.75 …(1)
但し、Ceq1=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
パーライトとフェライトは鋼の変形抵抗を低減させて冷間加工性向上に寄与する金属組織である。また、ベイナイトは、高周波焼入れ性を確保するために必要な組織である。しかしながら、単に球状化したパーライト、フェライトおよびベイナイトを含む金属組織とするだけでは、所望の軟質化、および高周波焼入れ性を図ることができないことから、以下で詳述する様に、この金属組織における各組織の面積率(パーライト+フェライト+ベイナイトの合計面積率、パーライト+フェライトの合計面積率、ベイナイトの面積率)、フェライト面積率A、bcc−Fe結晶粒の平均粒径等も適切に制御する必要がある。
組織(前組織)にマルテンサイトの微細な組織を含む場合には、一般的な球状化焼鈍を行っても、球状化焼鈍後はマルテンサイトの影響によって組織が微細となり、軟質化が不十分となる。こうした観点から、全組織に対するパーライト、フェライトおよびベイナイトの合計面積率は95面積%以上とする必要がある。好ましくは97面積%以上、より好ましくは99面積%以上、最も好ましくは100面積%である。
ベイナイトは、球状化焼鈍の迅速化、球状化焼鈍処理材の高周波焼入れ性を向上させる上で必要な組織である。ベイナイトは、微細なセメンタイトが分散している組織であるため、セメンタイト同士が近接しており、短時間の球状化焼鈍処理で球状セメンタイト組織が得られる。但し、セメンタイトが微細であるため、凝集しにくく硬さが低下しにくい特徴がある。一方、高周波焼入れ処理においては、セメンタイトが微細であるほど、短時間でセメンタイトを分解することができる。
上記趣旨から明らかなように、前組織中のフェライトAの面積率をできるだけ多くする必要がある。フェライトはCを殆ど固溶しないため、パーライト部分にセメンタイトを凝集させると共に、セメンタイト同士の距離を近接させることができる。但し、鋼材中のC含有量によって、フェライト面積率は変化するため、C含有量に応じたフェライト面積率を計算する必要がある。
Ae=(0.8−Ceq1)×96.75 …(1)
但し、Ceq1=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
前組織におけるbcc(体心立方格子)−Fe結晶粒の平均円相当直径(以下、単に「フェライト平均粒径」と呼ぶことがある)を15μm以上にしておくと、球状化焼鈍後に軟質化が可能となる。しかしながら、前組織におけるフェライト平均粒径が大きくなり過ぎると、通常の球状化焼鈍では再生パーライト等の強度を増加させる組織となり、軟質化が困難となるので、フェライト平均粒径は35μm以下とする必要がある。フェライト平均粒径の好ましい下限は18μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。フェライト平均粒径の好ましい上限は32μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。
Cは、鋼の強度(最終製品の強度)を確保する上で有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、C含有量は0.3%以上とする必要がある。好ましくは0.32%以上(より好ましくは0.34%以上)とするのが良い。しかしながら、Cが過剰に含有されると強度が高くなって、冷間加工性が低下するので0.6%以下とする必要がある。好ましくは、0.55%以下(より好ましくは0.50%以下)とするのが良い。
Siは、固溶強化により鋼材強度を高める作用を有する。Si含有量を極端に低減することは製造上困難であり、コスト的にも見合わない。一方、Siを過剰に含有させると、変形抵抗の増大や変形能の低下を生じさせるため、冷間加工性が劣化する。この傾向はSi含有量が0.5%を超えると顕著に現れはじめる。このため、Si含有量は0.005〜0.5%とした。尚、Si含有量の好ましい下限は0.008%以上(より好ましくは0.01%以上)であり、好ましい上限は0.40%以下(より好ましくは0.30%以下)である。
Mnは、溶製中の鋼の脱酸、脱硫元素として有効であり、また鋼材への熱間加工時の加工性劣化を抑制する効果を発揮する。更に、Sと結合することで、鋼材の変形能を向上させるのにも有効な元素である。Mn含有量が、0.2%未満ではこれらの効果が発揮されず、1.1%を超えて過剰に含有されると、固溶強化による変形抵抗が増加して冷間加工性を劣化させるため、0.2〜1.1%とした。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.3%以上(より好ましくは0.4%以上)であり、好ましい上限は1.0%以下(より好ましくは0.9%以下)である。
Pは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、フェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させる。またPは、フェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、変形抵抗や変形能の観点からは、Pは極力低減することが好ましいが、極端な低減は製鋼コストの増大を招き、0%とすることは製造上困難であるので、0.03%以下(0%を含まない)と定めた。P含有量の好ましい上限は0.028%以下(より好ましくは0.025%以下)である。
SもPと同様に鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中でFeと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出するため、変形能を劣化させる。従って、Sは全量をMnと結合させ、MnSとして無害に析出させる必要がある。但し、このMnSの析出量が増加すると、変形能が低下するので、S含有量は0.03%以下とする必要がある。その一方で、Sは被削性を向上させる作用を発揮させるので、0.001%以上含有させることは有用である。S含有量の好ましい下限は0.003%以上(より好ましくは0.005%以上)であり、好ましい上限は0.028%以下(より好ましくは0.025%以下)である。
Alは、脱酸元素として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定し、変形抵抗の低下、変形能の向上に有用である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Al含有量は0.01%以上とする必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.1%を超えると、Al2O3が過剰に生成し、変形能を劣化させる。尚、Al含有量の好ましい下限は0.013%以上(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.08%以下(より好ましくは0.06%以下)である。
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中に固溶Nが含まれると、動的歪み時効による変形抵抗の増加や、変形の局在化を招くため、冷間加工性を劣化させやすい。従って、変形抵抗、変形能の観点から、Nは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招き、0%とすることは製造上困難であるので、0.015%以下(0%を含まない)と定めた。N含有量の好ましい上限は0.013%以下であり、より好ましい上限は0.010%以下である。
Cr、Cu、Ni、MoおよびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させることによって最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であり、必要によって単独でまたは2種以上で含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、強度が高くなり過ぎ、冷間加工性を劣化させるので、上記のように夫々の好ましい上限を定めた。より好ましくはCrで0.45%以下(更に好ましくは0.40%以下)、Cu,NiおよびMoで夫々0.22%以下(更に好ましくは0.20%以下)、およびBで0.007%以下(更に好ましくは0.005%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、それらの効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、Crで0.015%以上(より好ましくは0.020%以上)、Cu,NiおよびMoで0.02%以上(より好ましくは0.05%以上)、およびBで0.0003%以上(より好ましくは0.0005%以上)である。
Ti,NbおよびVは、Nと化合物を形成し、固溶Nを低減することで、変形抵抗低減の効果を発揮するため、必要によって単独でまたは2種以上を含有させることができる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、形成される化合物が変形抵抗の上昇を招き、却って冷間加工性を低下させるので、TiおよびNbで0.2%以下、Vで0.5%以下とすることが好ましい。より好ましくはTiおよびNbで0.15%以下(更に好ましくは0.10%以下)、およびVで0.40%以下(更に好ましくは0.30%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、その効果を有効に発揮させるためには好ましい下限は、いずれも0.001%以上(より好ましくは0.03%以上)である。
大角粒界で囲まれた結晶粒の平均粒径(フェライト平均粒径)を15〜35μmに制御するためには、950℃超、1250℃以下の温度に加熱し、仕上げ加工温度(熱間仕上げ加工温度)を950℃超、1100℃以下に制御する必要がある。加熱温度は950℃超、1250℃以下の範囲であるが、加熱温度が950℃以下となると、鋼材の変形抵抗が高くなり、成形が困難となる。一方、加熱温度が1250℃を超える温度域では、成形が容易であるが、端部のだれによって鋼材の取り扱いが困難になることや、変形抵抗が低くなり過ぎて、過剰に成形されてしまうため、その上限を1250℃とした。仕上げ加工温度(熱間仕上げ加工温度)によって、フェライト平均粒径が主として決定されるが、仕上げ加工温度が1100℃を超えると、フェライト平均粒径を35μm以下にすることが困難となる。また、仕上げ加工温度が1100℃を超えると、フェライトの面積率Aを、Aeとの関係でA>Aeを満足させることが困難となる。但し、仕上げ加工温度が950℃以下となると、フェライト平均粒径を15μm以上にすることが困難となるので、950℃超とする必要がある。
640〜680℃の温度範囲(冷却停止温度)までの冷却速度を速くすると、上記の圧延条件で作り込んだ前組織の平均粒径を維持したまま、組織サイズが変化しにくいAr1変態点以下まで冷却することができる。このときの平均冷却速度が5℃/秒未満であると、特に前組織の平均粒径が35μm付近の場合、所定の組織とすることができなくなる。こうした観点から、平均冷却速度は5℃/秒以上とする必要がある。この平均冷却速度は、好ましくは7.5℃/秒以上であり、より好ましくは10℃/秒以上である。このときの平均冷却速度の上限については、特に限定されないが、現実的な範囲として200℃/秒以下である。尚、このときの冷却については、5℃/秒以上となる平均冷却速度の範囲内であれば、冷却速度を変えるような冷却形態であっても良い。
フェライト平均粒径の粗大化と、フェライト面積率Aが少なくなることを防止するためには、上記のような冷却(即ち、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却)の代わりに、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲(第1冷却停止温度)まで一旦冷却し、その後、0.10℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲(第2冷却停止温度)まで冷却するようにしても良い。即ち、750〜800℃の温度範囲までを、平均冷却速度を20℃/秒以上の急冷とし、その温度範囲から640〜680℃の温度範囲までを、0.10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却するようにしても良い。
640〜680℃の温度範囲から1℃/秒超、10℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することによって、上記フェライト平均粒径を15〜35μmに制御しつつ(制御した状態で)、フェライト面積率Aを大きくし、且つ所定量のベイナイトを確保することができる。このときの冷却開始温度が680℃を超えると、前組織の平均粒径が35μmを超えやすくなり、球状化焼鈍処理で硬さが下がりにくくなる。一方、冷却開始温度が640℃未満では、動的再結晶によって組織が微細化しやすくなり、前組織のフェライト平均粒径が15μm未満となりやすくなる。
前組織粒径の測定は、EBSP解析装置およびFE−SEM(電解放出型走査電子顕微鏡)を用いて測定した。結晶方位差(斜角)が15°を超える境界(大角粒界)を結晶粒界として「結晶粒」を定義し、フェライトにおける結晶粒の平均粒径を決定した。このときの測定領域は400μm×400μm、測定ステップは0.7μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1以下の測定点は解析対象から削除した。
パーライト+フェライト+ベイナイトの合計面積率(P+F+Bの割合)、パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)、フェライト面積率A(F面積率A)、およびベイナイトの面積率の測定においては、ナイタールエッチングによって組織を現出させ、光学顕微鏡にてミクロ組織観察と判定を行った。それらの写真において、組織内が白く、濃淡の無い領域がフェライトであり、その他の濃淡のある部分が分散して混在している暗いコントラストの領域がパーライト、白い部分が針状に混在している領域がベイナイトと判定した。組織解析は、400倍で10枚組織写真を撮影し、各写真に対してランダムに100点を選び、各点の組織を判別した。各組織(フェライト、パーライト、ベイナイト、その他)が存在した点数を全点数100で割ることで組織分率を求めた。
球状化焼鈍後の硬さの測定は、ビッカース硬度計を用いて、荷重1kgfで5点測定し、その平均値(Hv)を求めた。硬さの測定位置は、表層から1mm内部の位置である。このときの硬さの基準は、球状化焼鈍後の硬さの平均値が下記(2)式を満足し、且つ高周波焼入れ処理後の硬さが550Hv以上となるものを合格とした。それぞれ硬さの平均値が下記(2)式を満足しないもの、および高周波焼入れ処理後の硬さが550Hvを下回るものが比較例である。
Hv≦88.4×Ceq2+81.0 …(2)
但し、Ceq2=[C]+0.2×[Si]+0.2×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
上記表1に示した化学成分組成の鋼種のうち、鋼種1H(本発明で規定する成分組成を満足する鋼)を用い、ラボの加工フォーマスタ試験装置を用いて、加熱温度、仕上げ加工温度、平均冷却速度を下記表2、4のように変化させて、前組織の異なるサンプルを夫々作製した。尚、表2、4の製造条件において、「冷却1」は加熱温度から750〜800℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却2」は「冷却1」を行った後(行わない場合もある)、640〜680℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却3」は「冷却2」を行った後の300℃以下まで[実際には室温(25℃)まで冷却]の冷却を示している。
上記表1に示した鋼種1A〜2Eを用い(但し、1Hを除く)、前記試験No.17で採用した条件(表2)にて、φ60mmの線材を製造(熱間圧延)した。尚、サンプルは、φ60mm×50mmとし、熱間加工後に横断面で2サンプル切断し、夫々前組織調査用サンプル、および球状化焼鈍用のサンプルとした。また球状化焼鈍は、サンプルを夫々真空封入し、大気炉にて、740℃×6時間保持(均熱)後、冷却速度10℃/時で710℃まで冷却して2時間保持し、その後冷却速度10℃/時で660℃まで冷却して放冷する熱処理を行った。
Claims (6)
- C :0.3〜0.6%(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、
Si:0.005〜0.5%、
Mn:0.2〜1.1%、
P :0.03%以下(0%を含まない)、
S :0.001〜0.03%、
Al:0.01〜0.1%、および
N:0.015%以下(0%を含まない)を夫々含有し、
残部が鉄および不可避不純物からなり、
鋼の金属組織が、パーライト、フェライトおよびベイナイトを有し、全組織に対するパーライト、フェライトおよびベイナイトの合計面積率が95面積%以上、パーライトとフェライトの合計面積率が70面積%以上、ベイナイトの面積率が10面積%超〜30面積%であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、
且つ隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が15〜35μmであることを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼。
Ae=(0.8−Ceq1)×96.75 …(1)
但し、Ceq1=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。 - 更に他の元素として、
Cr:0.5%以下(0%を含まない)、
Cu:0.25%以下(0%を含まない)、
Ni:0.25%以下(0%を含まない)、
Mo:0.25%以下(0%を含まない)、および
B :0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1に記載の冷間加工用機械構造用鋼。 - 更に他の元素として、
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、
Nb:0.2%以下(0%を含まない)、および
V:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の冷間加工用機械構造用鋼。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、950℃超、1250℃以下の温度に加熱し、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ加工した後、5℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、その後1℃/秒超、10℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以下まで冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、950℃超、1250℃以下の温度に加熱し、950℃超、1100℃以下の温度で仕上げ加工した後、20℃/秒以上の平均冷却速度で750〜800℃の温度範囲まで冷却し、その後、0.10℃/秒以上の平均冷却速度で640〜680℃の温度範囲まで冷却し、更に1℃/秒超、10℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以下まで冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を用いて、線材または棒鋼を経て得られる機械構造用部品。
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