JP2016172528A - 車体部材の接合構造 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】リヤホイールハウス2のフランジ部2aと、リヤフロアパネル1の接合面部1aとを備え、フランジ部2aと接合面部1aが熱硬化型接着材3を介してスポット溶接にて接合されると共にそれらの外周を電着塗膜5によって被覆された車体部材の接合構造において、接着材3が、130℃において5分間で硬化可能なエポキシ樹脂系接着材であって、歪0.1%、周波数1Hz、昇温速度5℃/minの動的粘弾性測定における温度範囲20〜170℃の複素粘度の最低値が200Pa・s以下に設定されている。
【選択図】 図1
Description
このように接着とスポット溶接とを併用したWB法は、車体剛性やNVH性能の改善に有効であることから、車体重量の軽量化を図るために車体構造への適用が拡大している。
WB法を用いた車体の製造方法は、第1車体部材の接合端部と第2車体部材の被接合部に熱硬化型接着材を塗布する塗布工程と、これら接着材が塗布された接合端部と被接合部を重ね合わせる積層工程と、重ね合わせた両者を挟圧してスポット溶接する溶接工程と、電着塗装を施す電着工程と、電着塗膜を焼付け乾燥させる乾燥工程とが行われている。
接着材の塗布工程では、両者の接着性及びシール性を考慮して、溶接工程の挟圧によって接合端部と被接合部との隙間から接着材が若干はみ出すように塗布要領が設定されている。
そこで、本出願人は、はみ出し部の移動に起因した溝欠陥の発生及び溝欠陥の発生と同時に生じる電着塗膜の破断を防止する技術を既に提案している。
これにより、立ち上がり部と段差部との間隔を先細り形状にできることから、溝欠陥に伴う錆の発生を抑制している。
通常、金属部材同士を接合する場合には、エポキシ樹脂系接着材が使用に供されている。
エポキシ樹脂系接着材は、エポキシ樹脂や硬化剤等の樹脂成分と、充填剤や希釈剤等の改質成分から構成されている。
エポキシ樹脂は、1分子中に2以上のオキシラン環(エポキシ基)を有し、所定の硬化剤によって3次元網目構造化された硬化樹脂を与える化合物であり、硬化剤は、ジシアンジアミドを中心とした熱溶解反応型が主流とされている。
しかし、設計仕様やデザインの制約等によって、接合対象部によっては、第1,第2車体部材に立ち上がり部や段差部を必ずしも形成することができない虞がある。
つまり、WB法の車体構造への適用範囲を更に拡大するためには、接合対象の構造要件の影響を受けることなく、溝欠陥の発生を抑制する必要がある。
図10に示すように、第1検証実験では、第1車体部材の接合端部21と第2車体部材の被接合部22に汎用の熱硬化型エポキシ樹脂系接着材23を塗布し、接合端部21と重ね合わせた被接合部22とを挟圧して複数箇所の接合点でスポット溶接した後、接着材23を硬化温度まで昇温し、接合端部21と被接合部22との隙間状態と、はみ出し部23bの移動挙動について夫々測定を行った。
図11に示すように、接着材23が硬化した後(接着後期)の接合端部21(実線)と被接合部22との隙間間隔δ1は、接着材23が塗布された直後、所謂硬化される前(接着初期)の接合端部21(仮想線)と被接合部22との隙間間隔δ2よりも間隔が小さく形成されている。
図12に示すように、スポット工程終了後においては、温度が高い程、接合端部21と被接合部22との隙間は小さくなる傾向がある。
図13(a)に示すように、接着材23が硬化される前のスポット間における接合端部21(図11の仮想線)と被接合部22との隙間間隔には、所定の粘度を有する接着材23が充填されているため、接着材23から接合端部21に対して上方向への応力F1が作用しており、この応力F1に対応して接合端部21から下方向への反力(弾性力)f1が作用している。それ故、図13(b)に示すように、接着材23が硬化温度まで昇温される途中段階(接着中期)において、接着材23の粘度が一時的に減少することから、接合端部21の反力f1が接着材23の応力F2(F2<F1)よりも大きくなった時点で、接合端部21の反力f1によって接着材23が接合端部21と被接合部22との隙間から外部へ押し出され、接合端部21が形状復帰することが判明した。
また、図13(b)に示すように、接着材23が接合端部21と被接合部22との隙間から接着材23が押し出されたとき、接着材23の鉤状のはみ出し部23bには接合端部21から何ら応力が与えられていないため、はみ出し部23bの鉤形状は接着材23の保有する粘度により保持されている。このはみ出し部23bの形状保持性が、溝欠陥の直接的な発生要因であることを知見した。
図14に示すように、第2の検証実験では、粘度特性の異なる2種類のエポキシ樹脂系接着材Ba,Bbを準備し、第1,第2車体部材をWB法にて接合したときの接着材Ba,Bbの硬化後におけるはみ出し部の形状について検証した。
図15(a)に示すように、粘度が高い接着材Baは、接着材Baの硬化前後において、はみ出し部の形状変化が殆どなく、大きな溝欠陥Dが発生している。
図15(b)に示すように、粘度が低い接着材Bbは、接着材Bbの硬化前後において、はみ出し部の形状変化が発生し、接着材Baに比べて溝欠陥Dが抑制されている。
しかし、エポキシ樹脂系接着材等の熱硬化型接着材は、その物性上、グラフト重合による3次元高分子として経時的、熱硬化的な反応を必要とすることから、接着初期の塗布性と接着後期の硬化性とを確保しつつ、接着中期において量産に対応可能な現象再現性を備えた接着材料の要件を特定することは容易ではない。
この構成によれば、接着中期において量産に対応可能な現象再現性を確保することができる。
この構成によれば、20〜100mmのピッチでスポット溶接された車体部材の接合構造において、接合端部とはみ出し部との間の溝部を除去することができる。
以下の説明は、本発明をリヤフロアパネル1とリヤホイールハウス2との接合構造に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
図1,図2に示すように、本実施例の車体は、リヤフロアパネル1(第2車体部材)と、左右1対のリヤホイールハウス2(第1車体部材)等を備えている。
ここで、第1車体部材と第2車体部材との組み合わせは、フロアパネルとフロアフレーム、ダッシュクロスメンバとダッシュロアパネル、クロスメンバとフロアパネル、リヤサイドフレームとリヤフロアパネル等何れの組み合わせに設定しても良い。
1対のリヤホイールハウス2は、所定板厚(例えば0.8mm)の鋼製板材によって形成されている。これらリヤホイールハウス2は、1対のサイドパネルインナ(図示略)の下端から車幅方向内側へ夫々膨出し、下端側部分にフランジ部2a(接合端部)が夫々形成されている。
接合面部1aとフランジ部2aとの間には、一液性熱硬化型エポキシ樹脂系接着材3(以下、接着材3と省略する)が熱硬化された接着部3aが充填されている。
接着部3aは、少なくとも隣り合う接合点4の間の位置において、フランジ部2aと接合面部1aとによって形成された隙間から外部へ押し出された接着材3が硬化して構成された複数のはみ出し部3bが形成されている。そして、図2に示すように、接合面部1a、フランジ部2a、はみ出し部3b等の表面は、電着塗装が施されることにより、電着塗膜5によって被覆されている。
樹脂成分には、エポキシ樹脂と硬化剤等が用いられている。
エポキシ樹脂は、接着性及び生産性を向上可能なビスフェノール型エポキシ樹脂であり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールF型エポキシ樹脂等から任意に選択することができる。
硬化剤は、エポキシ基と反応することにより3次元網目構造を形成可能な活性基を有する熱溶解反応型硬化剤であり、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、カルボン酸無水物等から任意に選択することができる。
希釈剤は、接着材3の接着初期及び接着後期の性能に影響を与えることなく、接着材3の粘度を低下させるように構成されている。
尚、非反応性希釈剤は硬化物中で可塑剤として作用することから、基本的に、エポキシ基を備えた反応性希釈剤の使用が好ましい。
複素粘度η*の最低値が200Pa・s超える場合、乾燥工程の途中段階(接着中期)における接着材3の流動性が低い(粘性が高い)ことから、はみ出し部3bがフランジ部2aの板厚方向壁部から離隔したとき、はみ出し部3bの形状が維持される。
温間中の複素粘度η*は、例えば、レオメータ10等を用いることによって測定することができる。
図3に示すように、レオメータ10は、固定プレート11と、この固定プレート11との隙間(例えば0.5mm)に試料となる接着材3を挟み込む可動プレート12と、この可動プレート12を所定周期で回転振動させて接着材3に応力を付与可能な駆動部13と、可動プレート12と同期して回転振動する円板部14と、プレート11,12と接着材3を内部に収容して内部温度を昇降調節可能なケース部15と、円板部14の回転振動動作に基づき可動プレート12の周期を検出可能なエンコーダ16と、エンコーダ16の検出値に基づき駆動部13を制御すると共に可動プレート12に生じる粘性摩擦トルクを測定可能な制御測定部17と、ケース部15内部の温度を制御する温度制御部18と、制御測定部17と温度制御部18とを操作すると共に各種測定値を表示可能な操作部19を備えている。
損失弾性率G"は、次式に動的粘性率η’を代入して算出することができる。
G"=ωη’ …(1)
複素弾性率G*は、次式に貯蔵弾性率G’と、式(1)で求めた損失弾性率G"を代入して算出している。尚、iは虚数単位である。
G*=G’+iG" …(2)
複素粘度η*は、次式に式(2)で求めた複素弾性率G*を代入して算出している。
η*=G*/(iω) …(3)
式(1)〜式(3)から次式(4)を導くことができる。
η*=η’−iη" …(4)
尚、複素粘度η*の虚部η"は、次式(5)で定義されるパラメータである。
η"=G’/ ω …(5)
図4に示すように、歪範囲を設定するため、溝欠陥発生率0%である材料要件に設定された接着材B1と溝欠陥発生率80%である材料要件に設定された接着材B2とを準備して、歪と貯蔵弾性率G’との相関関係を検証した。
動的粘弾性測定において歪が10%以上の場合、接着材B1,B2共に貯蔵弾性率G’が低く、材料要件を特定することが難しい。これは、大きな歪によって架橋反応が阻害されることが原因と推測される。
動的粘弾性測定において歪が10%未満では、接着材B2は歪の減少に伴って急激に貯蔵弾性率G’が増加し、接着材B1は歪の減少に伴って緩やかに貯蔵弾性率G’が増加する傾向がある。歪が1%以下では、接着材B1,B2の貯蔵弾性率G’に明確な差異が生じるため、歪1%以下の条件下で動的粘弾性測定している。
動的粘弾性測定において歪が0.1%未満では、架橋反応が過剰に進行して架橋点が増加するため、現象の再現性を確保することが困難である。従って、歪0.1%の条件下で動的粘弾性測定することが好ましい。
動的粘弾性測定において周波数が1Hzを超える場合、材料要件を特定することが難しい。この理由として、高い周波数によって架橋反応に影響を与える可能性がある点、熱硬化型エポキシ樹脂系接着材で接着した金属板をスポット溶接した場合、スポット溶接後の昇温工程において、粘性が低下した接着材が金属板の復帰応力によって押し出される現象の変形速度オーダーから乖離する可能性がある点の2点が挙げられるからである。
動的粘弾性測定において周波数が1Hz未満の場合、架橋反応が過剰に進行して架橋点が増加するため、現象の再現性を確保することが困難である。従って、周波数1Hzの条件下で動的粘弾性測定することが好ましい。
この温度範囲は、接着材3の流動性が増加する温度域及び接着材3が硬化を開始する温度範囲を含むと共に電着塗膜を硬化させる乾燥炉の温度を含む範囲である。
動的粘弾性測定において昇温速度5℃/minを超える場合、架橋反応が過剰に進行して架橋点が増加するため、現象の再現性を確保することが困難である。
動的粘弾性測定において昇温速度5℃/min未満の場合、乾燥工程における昇温傾向に合致しないため、現象の再現性を確保することが困難である。従って、20〜170℃の温度範囲において昇温速度5℃/minの条件下で動的粘弾性測定することが好ましい。
以上により、図5に示すように、接着材3の物性が現象再現性を維持しつつ温間中の複素粘度η*の最低値が200Pa・s以下になるように接着材3の材料要件を規定している。
(塗布工程)
前述した材料要件を満たす接着材3を準備し、各々が重ね合わされるリヤフロアパネル1の接合面部1aとリヤホイールハウス2のフランジ部2aに夫々塗布する。
接着材3は、常温において塗布部分から流れ落ちないように所定の粘度を備え且つ外部作用によって流動可能な塗布性を有している。
接着材3は、各々の接合点4間(スポットピッチ間)において途切れた部分が存在しないように塗布されると共に溶接工程が終了したとき、少なくとも接合点4の近傍位置にはみ出し部3bが生じるように塗布量が設定されている。
接着材3が接合面部1aとフランジ部2aとによって挟まれた隙間(空間)内に位置するように接合面部1aとフランジ部2aとを重ね合わせる。
尚、接着性を確保するために、必要に応じて、積層された接合面部1aとフランジ部2aに対して接合面部1a(フランジ部2a)に直交する方向から両者を挟み込むプレ加圧工程を溶接工程の前段階において積層工程に引き続き行っても良い。
接着材3によって接着された接合面部1aとフランジ部2aとをスポット溶接用電極(図示略)により所定の加圧力で挟持した後、両電極間に所定電流を通電する。
上記挟持と通電によって、接合点4相当部分において接合面部1aとフランジ部2aが接触し、溶融温度以上に加熱されナゲットが形成される。このナゲットが冷却されて接合点4が形成される。この接合点4が、20〜100mm間隔に配設されるように複数個所スポット溶接が行われている。
図6に示すように、この溶接工程では、スポット溶接用電極の挟持によって隙間内に位置する接着材3が部分的に外部へ押し出され、溶接工程終了時、隣り合う接合点4の間の位置にフランジ部2aの板厚方向壁部に沿うように上方へ膨出した鉤状のはみ出し部3bが形成されている。
接合されたリヤフロアパネル1及びリヤホイールハウス2をマイナスに荷電し、これらリヤフロアパネル1及びリヤホイールハウス2をプラスに荷電した電着塗料タンク(図示略)に浸漬する。これにより、塗料が、はみ出し部3bを含むリヤフロアパネル1及びリヤホイールハウス2の表面に電着塗装され、電着塗膜5が形成される。
電着塗膜5が形成されたリヤフロアパネル1及びリヤホイールハウス2は乾燥炉(図示略)に移動され、乾燥炉の熱を利用して電着塗膜5をリヤフロアパネル1及びリヤホイールハウスの表面に焼付け乾燥させる。
乾燥炉内の温度は、炉内の位置によっても異なるが、平均して約170℃に維持され、リヤフロアパネル1及びリヤホイールハウス2は昇温速度が約5℃/minになるように乾燥炉内を約30分掛けて移動する。
接着材3は、接着初期の常温から接着後期の約150℃までの途中期間(約40〜約90℃の間)において、複素粘度η*の最低値が200Pa・s以下に規定されているため、接合面部1aとフランジ部2aとによって挟まれた隙間から外部へ押し出され、これに伴いはみ出し部3bもフランジ部2aの板厚方向壁部から離隔するように移動する。
はみ出し部3bは、フランジ部2aの板厚方向壁部から離隔するとき、形状保持性が低下しているため、自重によって上方への膨出量が減少して再びフランジ部2aの板厚方向壁部に当接した形状に変形している(図2参照)。
接着材が硬化した後(接着後期)の接合端部と被接合部との隙間間隔δaは、接着材が塗布された直後(接着初期)の接合端部と被接合部との隙間間隔δbよりもΔδだけ間隔が小さく形成されることから、梁の弾性理論式を適用すると、隙間変化量Δδを次式のように表すことができる。
Δδ=wP4/384EI …(6)
尚、wは接着材からの抵抗力、Pはスポットピッチ、Eはヤング率、Iは断面2次モーメント(板厚の3乗)である。
Δδ=ws/384E …(7)
また、図7に示すように、構造因子sが大きい程、溝欠陥の発生率が高くなる相関関係が存在しているため、スポットピッチPが大きい程、或いは断面2次モーメントIが小さい程、接合端部と被接合部との隙間から接着材が押し出され易くなり、溝欠陥の発生率が高くなる傾向がある。
図8に示すように、温間中の複素粘度η*の最低値が400Pa・s以上の接着材の場合、構造因子s毎に溝欠陥の発生率は夫々異なっている。
しかし、図9に示すように、複素粘度η*の最低値が200Pa・s以下の接着材の場合、構造因子sの値に拘らず接合部位に溝欠陥は発生することがなく、電着塗膜の破断も発生しなかった。
1〕前記実施形態においては、鋼製板材同士を接合した接合構造の例を説明したが、鋼製以外、例えば、アルミ合金製板材同士を接合した接合構造に適用しても良い。
また、異種金属製板材同士を接合した接合構造に適用することも可能である。
1a 接合面部
2 リヤホイールハウス
2a フランジ部
3 接着材
3b はみ出し部
η* 複素粘度
Claims (3)
- 第1車体部材の接合端部と、第2車体部材の被接合部とを備え、前記接合端部と被接合部が熱硬化型接着材を介して点接合手段にて接合された車体部材の接合構造において、
前記熱硬化型接着材が、歪1%以下の動的粘弾性測定における温間中の複素粘度の最低値が200Pa・s以下であることを特徴とする車体部材の接合構造。 - 前記動的粘弾性測定の条件が、歪0.1%、周波数1Hz、昇温速度5℃/min、温度範囲20〜170℃であることを特徴とする請求項1に記載の車体部材の接合構造。
- 前記接合端部と被接合部が20〜100mmのピッチでスポット溶接されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車体部材の接合構造。
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