JP2016166435A - 炭素繊維前駆体アクリル繊維及び炭素繊維 - Google Patents

炭素繊維前駆体アクリル繊維及び炭素繊維 Download PDF

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知之 小谷
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Abstract

【課題】炭素収率の高い炭素繊維前駆体アクリル繊維束、及び該炭素繊維前駆体アクリル繊維束から製造される高配向度かつ高弾性率な炭素繊維を提供する。【解決手段】リン酸エステル骨格を有する化合物とアクリロニトリル系重合体を含有する混合物からなる炭素繊維前駆体アクリル繊維に関する。前記リン酸エステル骨格を有する化合物は、芳香族縮合リン酸エステルが好ましい。前記炭素繊維前駆体アクリル繊維を耐炎化及び炭素化して得られる炭素繊維に関する。【選択図】 なし

Description

本発明は、炭素収率の高い炭素繊維前駆体アクリル繊維束及び該炭素繊維前駆体アクリル繊維束から製造される高配向度かつ高弾性率な炭素繊維に関する。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度及び比弾性率を有することから、複合材料用補強繊維として、スポーツ用途及び航空・宇宙用途に加え、自動車や土木、建築、圧力容器、風車ブレード等の一般産業用途に用いられている。
炭素繊維の中で、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(以下、「PAN系炭素繊維」と略する。)は最も広く利用されている。PAN系炭素繊維は、例えば、油剤組成物を付着させたアクリル繊維を炭素繊維前駆体として、200〜400℃の酸化性雰囲気下で加熱処理することにより耐炎化繊維に転換し、引き続いて1000℃以上の不活性雰囲気下で炭素化処理して得られる。この方法で得られるPAN系炭素繊維は、PAN系ポリマーの分子骨格が炭素繊維中のグラファイト網面の構造に反映される。従って、耐炎化処理及び炭素化処理と同時に延伸処理を行い、PAN系ポリマーの分子配向度を高くできれば、炭素繊維中のグラファイト網面の配向が向上し、炭素繊維の機械的強度は、グラファイト本来の機械的強度に近づく。延伸倍率が大きく、加熱処理温度が高いほど、得られる炭素繊維は高い弾性率を示す。炭素繊維の引張強度は、焼成温度の上昇に伴い増大し、1500℃付近で極大となり、その後減少する。また、炭素繊維の結晶配向度の上昇に伴い、弾性率も増加する(非特許文献1)。しかしながら、結晶配向度を上昇するために、炭素化処理中に過剰に張力をかけて延伸を行うと、毛羽の発生が起こり、炭素繊維の品質が低下する。従って、炭素化処理中に張力を付与しなくても、弾性率の高い炭素繊維を製造する技術が望まれていた。
特許文献1及特許文献2には、炭素繊維の結晶微細構造を改質する目的として、微粒子やポリイミドをアクリロニトリル系重合体に混合して、紡糸及び焼成処理を行うことにより、炭素繊維の結晶構造を制御する技術が開示されている。
しかし、特許文献1に開示された技術では、炭素繊維中の微粒子は、異物として作用するため、紡糸性の低下や、炭素繊維の機械的強度が低下する原因となっていた。さらに、金属元素を含んだ微粒子を混合すると触媒黒鉛化作用により逆に結晶が成長して圧縮強度に不利となる。また、特許文献2に開示された技術では、ポリイミドを含有した炭素繊維は、炭素繊維の結晶サイズの成長に一定の効果を有するが、結晶配向度に関する記載がない。
特開平2−251615号公報 特開平5−295616号公報
W.Ruland:Appl.Polym.Symp.,9(1969),293.
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、炭素繊維の製造中に張力を付与しなくても、結晶構造が高配向度であり、かつ毛羽の発生が抑制された高品質・高弾性率の炭素繊維を得ることのできる炭素繊維前駆体繊維を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは検討を行い、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、リン酸エステル骨格を有する化合物が1〜30質量%とアクリロニトリル系重合体が70〜99質量%を含有する混合物からなる炭素繊維前駆体アクリル繊維に関する。
前記リン酸エステル骨格を有する化合物は、芳香族縮合リン酸エステルを用いることができる。
前記リン酸エステル骨格を有する化合物は、アクリロニトリル系重合体と共有結合した形態をとることもできる。
さらに本発明は、前記の炭素繊維前駆体アクリル繊維を耐炎化処理、及び炭素化処理して得られる炭素繊維に関する。
前記炭素繊維は、元素分析による炭素原子の含有率が92.5%以上であり、広角X線回折測定法(XRD)により得られた結晶配向度が77.5%以上であることが好ましい。
本発明によれば、アクリロニトリル系重合体とリン酸エステル骨格を有する化合物を含有する混合物を炭素繊維前駆体として用いることにより、高配向度かつ高弾性率な炭素繊維を得ることができる。
炭素繊維の結晶配向度とストランド弾性率の関係を示す(参考例1〜6)
本発明の炭素繊維前駆体アクリル系繊維(以下、「炭素繊維前駆体繊維」と略する。)は、下記式(1)で表されるリン酸エステル骨格を有する化合物と、ポリアクリロニトリル系重合体(以下、「PAN系重合体」と略する。)を含有する混合物からなることを特徴とする。
[リン酸エステル骨格を有する化合物]

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい総炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基からなる群より選ばれる。Rはアルキル鎖又は芳香族環より選ばれる。nは0又は1以上の整数である)
上記のリン酸エステル骨格を有する化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェート、トリスノニルフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
さらに上記以外のリン酸エステル化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル化合物、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、及びフェニルジノニルフェニルホスフェートなどのモノリン酸エステル化合物、芳香族縮合リン酸エステル化合物などが挙げられる。これらのリン酸エステル骨格を有する化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また本発明では、単純にPAN系重合体と前記リン酸エステル骨格を有する化合物を混合するだけではなく、反応点を持つPAN系重合体と前記リン酸エステル骨格を有する化合物とを、エステル化やエステル交換反応などの手法で化学結合させてもよい。
[芳香族縮合リン酸エステル化合物]
前記リン酸エステル骨格を有する化合物の中でも、芳香族縮合リン酸エステル化合物は熱安定性に優れることから好適である。本発明で用いられる芳香族縮合リン酸エステル化合物は、下記式(2)で示される。具体的には、CR741、CR733S、PX200(以上商品名、大八化学工業(株)製)、FP600、FP700、FP800(以上商品名、(株)ADEKA製)などを挙げることができる。

(式(2)中、Q1〜Q6は、それぞれ独立に水素原子又は総炭素数1〜6のアルキル基より選ばれる。R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基より選ばれる。nは1以上の整数、n1〜n6はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。)
上記式(2)で示される芳香族縮合リン酸エステル化合物は、nは1以上の整数であり、1〜3の整数が好ましい。n1〜n6は0〜2の整数であって、0が好ましい。R1及びR2は水素原子又はメチル基より選ばれ、メチル基が好ましい。
[PAN系重合体]
PAN系重合体としては、アクリロニトリルの単独重合体(ポリアクリロニトリル)、又はアクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体を用いることができる。また、これら単独重合体と共重合体とを併用してもよい。共重合体を用いる場合は、炭素繊維にした際の共重合成分に起因する欠陥点を少なくし、炭素繊維の品位並びに性能を向上させる観点から、共重合体を構成する全単位(100mol%)のうち、アクリロニトリル単位の割合が90mol%以上であることが好ましい。他のモノマーとしては、アクリロニトリルと共重合可能なモノマーであれば特に制限されないが、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン等の不飽和モノマー類;メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属類などが挙げられる。これら他のモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶融紡糸性を保持する点で、他のモノマー単位の割合は5mol%以下であることが好ましい。PAN系重合体の製造は、アクリロニトリルと、必要に応じて他の共重合可能なモノマーとを、公知の重合方法を用いて行うことができる。具体的には、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合を用いることができ、中でもラジカル重合は、操作が容易である点から好適である。
ラジカル重合を行う場合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など、公知の重合法を採用できる。特に懸濁重合や乳化重合は、重合度の高い重合体を比較的容易に得ることができるため好ましい。ラジカル重合に用いる重合開始剤や触媒は特に限定されず、例えばアゾ系化合物、有機過酸化物、又は過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのアンモニウム塩等のレドックス触媒などが挙げられる。
ラジカル乳化重合の場合、乳化剤及び分散剤の少なくとも一方が必要となる。この場合の乳化剤や分散剤は特に限定されるものではなく、各種アニオン型、ノニオン型、カチオン型を使用できる。特に乳化剤としてアニオン系界面活性剤(例えば脂肪族石鹸、アルキル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、スルホン化エステル、スルホン化アミドなど)や、非イオン性界面活性剤(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪酸エステル類、ゾルビタン脂肪族エステル類など)等を用いたラジカル乳化重合が好適である。また、分子量調節剤としてプロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン等を用いることができる。
[PAN系重合体とリン酸エステル骨格を有する化合物の結合]
リン酸エステル骨格を有する化合物とPAN系重合体とを単純に混合するだけではなく、リン酸エステル骨格を有する化合物を、エステル化やエステル交換反応などの手法を用いて、反応点を有するPAN系重合体と化学結合させてもよい。化学結合させることにより、紡糸中に、リン酸エステル骨格を有する化合物が、炭素繊維前駆体繊維から脱落することを抑制できる。
[他の成分]
混合物は、少なくとも上述したリン酸エステル骨格を有する化合物とPAN系共重合体を含有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じてリン酸エステル骨格を有する化合物とPAN系重合体以外の他の成分を含有してもよい。
[炭素繊維前駆体繊維の組成]
本発明の炭素繊維前駆体繊維は、PAN系共重合体70質量%以上99質量%以下、リン酸エステル骨格を有する化合物を1質量%以上30質量%以下含有する混合物からなることが好ましく、より好ましくは3質量%以上10質量%以下である。リン酸エステル骨格を有する化合物の含有量が1質量%以上であれば、得られる炭素繊維の配向度と弾性率が向上する。一方、リン酸エステル骨格を有する化合物の含有量が30質量%以下であれば、紡糸性を良好に維持しつつ、得られるプレカーサー、炭素繊維前駆体繊維の強度を十分なものとすることができる。
なお、混合物が他の成分を含有する場合、その含有量はPAN系重合体100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下である。
本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維の紡糸原液を製造するには、前記リン酸エステル骨格を有する化合物と前記PAN系重合体を溶剤に溶解させることで調製される。リン酸エステル骨格を有する化合物の溶媒は、PAN系重合体が可溶な溶媒であることが好ましく、工業性の観点や、紡糸工程の簡略化という観点から、PAN系重合体の製造時に用いられる溶媒と同一の溶媒であることが好ましい。溶媒が異なる場合は、PAN系重合体とリン酸エステル骨格を有する化合物が、溶媒中に均一に分散しない場合がある。
本発明において、炭素繊維前駆体繊維は、乾湿式紡糸法又は乾式紡糸法など公知の紡糸方法を用いることができる。工業的な観点から、生産性に優れた湿式紡糸法又は湿式紡糸法が好ましい。湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法を用いる場合、前記紡糸原液を、紡糸口金から紡出し、凝固浴に導入して繊維状に凝固せしめる。前記凝固浴は、紡糸原液に用いられる溶剤の水溶液が好適に使用され、含まれる溶剤の濃度を調節して、凝固糸の空隙率を調整する。凝固浴に使用する溶剤濃度は、溶剤の種類によって異なるが、例えばジメチルアセトアミド(DMAc)の場合は、DMAc濃度は50〜80質量%、好ましくは60〜75質量%である。また凝固浴の温度は通常50℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。凝固浴の温度を低くすれば、構造がより緻密な糸を得ることができるが、温度を低くしすぎると凝固糸の引取速度が低下して、生産性が低下するので、適切な範囲に設定することが望ましい。
本発明では、上記の方法で得られた膨潤糸に洗浄処理や延伸処理を行って、繊維状物(以下、単に「繊維」という)。なお、洗浄処理と延伸処理の順番については、洗浄処理を延伸処理の前に行っても良く、また洗浄処理と延伸処理を同時に行っても良い。洗浄処理の方法に特に制限はないが、一般的に用いられている、水中、特に温水中に繊維を浸漬して洗浄処理する方法を挙げることができる。
繊維を延伸処理する方法としては、特に限定されるものではなく、水中や温水中に繊維を浸漬させながら延伸処理する方法、熱板や加熱ローラー等を用いて空気中で繊維を乾熱延伸する方法、また熱風を循環させた箱型炉内で繊維を延伸処理する方法を挙げることができる。経済的な観点から、温水中で繊維を延伸処理する方法が好ましい。また繊維の延伸倍率は1〜15倍とすることが好ましい。ただし、後に二次延伸を行う場合、その延伸倍率を考慮して設定することが好ましい。
本発明では、油剤付与工程において、上記の方法で得られた洗浄後及び延伸後の繊維を、シリコーン系油剤が入った油浴槽に導いて、繊維にシリコーン系油剤を付与する。油剤としては、シリコーン化合物を含有するシリコーン系油剤を使用する。かかるシリコーン油剤はジメチルシリコーンオイルや有機変性シリコーンオイルを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンオイルがより好ましい。通常は、シリコーン化合物とノニオン系乳化剤を混合し、乳化したものを用いる。また、場合により、酸化防止剤や各種添加剤、さらにシリコーン原子を含まない有機物を混合することもできる。
本発明の方法では、乾燥緻密化において上記で得られたシリコーン系油剤を付与した繊維を乾燥緻密化する。乾燥緻密化の方法としては、熱板や加熱ローラーに繊維を接触させることにより行う方法が一般的であり、中でも加熱ローラーによる乾燥が生産性に優れる観点から好ましい。乾燥温度は、温度が高いほどシリコーン油剤の架橋反応が促進され、生産性の観点からも好ましくなるので、単繊維間の融着が生じない程度に乾燥温度を設定すれば良い。具体的には150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。また乾燥時間は繊維が十分乾燥するように設定すればよい。
本発明では、必要に応じて、上記で得られた乾燥緻密化後の繊維を二次延伸することもできる。二次延伸の方法としては、乾熱延伸、スチーム延伸等が挙げられる。
本発明の炭素繊維前駆体繊維の単繊維繊度は0.5〜2.0dtexが好ましく、0.6〜1.5dtexがより好ましい。単繊維繊度が0.5dtex以上であれば、可紡性が良好になり、ローラー、ガイドとの接触による糸切れ発生を抑制できる。また2.0dtex以下であれば、耐炎化後の各単繊維における内外構造差を小さくでき、続く炭化処理の工程通過性が良好になり、得られる炭素繊維の引張強度、引張弾性率の低下を抑制できる。
[炭素繊維の製造]
耐炎化処理工程において、前記炭素繊維前駆体繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱して、耐炎化繊維束を得る。酸化性雰囲気としては、空気、酸素、二酸化窒素など公知の酸化性雰囲気を用いることができ、経済性の面から空気が好ましい。耐炎化処理の時間は、炭素繊維の生産性と性能を高める観点から30〜120分が好ましい。耐炎化処理の時間を30分以上とすれば、前駆体繊維の耐炎化反応が十分に進行するので、耐炎化処理斑を生じにくくなり、また耐炎化処理の後に行われる炭素化処理工程において毛羽、束切れの発生が抑制される。一方、耐炎化処理の時間を120分以下とすることで、耐炎化装置を大型化したり耐炎化処理速度を下げたりする必要がなくなり、生産性が向上する。
本発明の方法では、前炭素化処理工程において、前記耐炎化繊維束を第1の炭素化炉に投入して前炭素化処理し、前炭素化繊維束を得る。第1の炭素化炉内は、温度が300℃以上1,000℃未満の不活性雰囲気である。なお、第1の炭素化炉内を循環する不活性雰囲気の流れは、走行する被処理繊維に対して平行方向でも、垂直方向でもよく、特に限定されない。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
本発明では、炭素化工程において、前記前炭素化繊維束を第2の炭素化炉に投入して炭素化処理し、炭素化繊維束を得る。第2の炭素化炉内は、最高温度が1,000℃以上3,000℃以下の不活性雰囲気であり、前炭素化繊維束は、該不活性雰囲気中を走行する間に炭素化処理される。なお、第2炭素化炉内の不活性雰囲気の流れは、走行する被処理繊維に対して平行方向でも、垂直方向でもよく、特に限定されない。不活性雰囲気としては、先に例示した公知の不活性雰囲気の中から選択して用いることができるが、経済性の面から窒素が望ましい。
以下に、実施例により、本発明をより具体的に説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明における最良の実施形態の一例であり、本発明を限定するものではない。本実施例における各測定方法は以下のとおりである。
[測定・評価]
[グラファイト網面サイズ:Lc]
1)X線回折測定装置(XRD)を用いて。繊維サンプルの繊維軸に対して垂直方向にスキャンを行い、グラファイトの(002)反射に相当する2θ=25近傍の回折プロファイルを得た。
2)上記プロファイルにおける回折強度ピークを、15°〜33°の範囲で切り出し、平滑化処理、バックグラウンド除去処理、Kα1とKα2との分離処理後、Kα1の半値幅β(単位:°)を読み取ってrad変換した。そして、この半値幅βを下記数式に代入し、β(rad)真の半値全幅を求めた。

(βは装置定数(1.05×10−2rad)を表す。)
3)上式により求めたβを下記の数式に代入し、グラファイト網面サイズLc(nm)を求めた。
Lc(単位:nm)=Kλ/(β×cosθ)
(Kはシェラー定数0.9、λ(nm)はX線の波長(CuKα線;0.15418nm)、θはBraggの回折角)
[結晶配向度]
1)2θ測定で得られたプロファイルで最高ピーク強度となっている2θの角度位置で検出器を固定し、サンプル繊維束を固定しているホルダーを入射X線に対して垂直な面上で回転させながら回折強度を測定した。
2)その回折強度ピークの半値幅B(単位:°)を求め、次式により結晶配向度(単位:%)を求めた。

3)算出された結晶配向度の評価基準(三段階評価)は次のとおりとした。
○:配向度(%) ≧77.5
△:配向度(%) 76.5〜77.5
×:配向度(%) ≦76.5
[炭素原子の含有率]
元素分析装置 vario EL cube(装置名、DKSHジャパン社製)を用いて、燃焼法により炭素原子の含有率(wt%)を求めた。
測定モード:CHNS
使用メソッド:10mg90s(試料量10〜20mg、120s酸素吹付)
標準物質:スルファニル酸(C:41.61%、H:4.07%、N:8.09%、S:18.50%)
燃焼管:1150℃ 還元管:850℃
[毛羽の評価]
炭素繊維の3000フィラメント中における、1mあたりの毛羽の本数をかぞえた。評価基準は次のとおりとした。
○:毛羽の本数(本/m) ≦1
△:毛羽の本数(本/m) 2〜10
×:毛羽の本数(本/m) ≧10
[ストランド弾性率]
炭素繊維のストランド弾性率は、JIS-R-7608に記載された試験法に準拠して測定した。
(実施例1)
芳香族縮合リン酸エステル CR−741(商品名、大八化学工業社製)をジメチルアセトアミドに溶解させ、一晩冷蔵することで芳香族縮合リン酸エステル溶解液を得た。次いで、PAN系重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96/3/1(質量比)、表1では「PAN系重合体A」と略する。)を、−5度以下まで冷蔵した前記芳香族縮合リン酸エステル溶解液中に加え、ダイナミックミキサーで15分間攪拌して、混合した分散液を調製した。総固形分濃度は24.0%、PAN系重合体と芳香族縮合リン酸エステルの質量比は95:5とした。この分散液を110℃で1時間加熱攪拌して、炭素繊維前駆体繊維の紡糸原液を得た。次いで、前記紡糸原液を、湿式紡糸法を用いて、紡糸ノズル(孔径0.075mm、孔数400)から凝固浴(温度38℃、ジメチルアセトアミド濃度67%の水溶液水溶)に吐出して、凝固糸とした。次いで、凝固糸を60℃から98℃の温水中で脱溶媒しながら、4.7倍に延伸して延伸糸とした。この延伸糸を4本合糸してアミノシリコン系油剤1%水溶液中に浸漬した後、150℃の加熱ローラーに接触させて乾燥緻密化した。総延伸倍率は12倍であった。得られた延伸糸をさらに2本合糸することで、単糸繊度1.2dtex、フィラメント数3200本の炭素繊維前駆体繊維束を得た。バッチ式耐炎化炉を用いて260℃の熱風を風速3m/sで得られた炭素繊維前駆体繊維束に吹きつけながら、空気雰囲気において20分間加熱し、繊維密度1.33g/cmの耐炎化繊維束を得た。続いて窒素雰囲気中400℃〜700℃で予備炭化処理を行った後、窒素雰囲気中、最高温度1300℃で炭素化処理し、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束を構成する炭素繊維の結晶配向度は、77.9%であった。
(実施例2)
紡糸原液中のPAN系重合体と芳香族縮合リン酸エステルの質量比を98:2とした以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を製造した。炭素繊維の結晶配向度は77.0%であった。
(比較例1)
紡糸原液中に芳香族縮合リン酸エステルを不使用とした以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を製造した。炭素繊維の結晶配向度は76.0%であった。
(比較例2)
炭素化処理時の張力を0.25g/dtexに設定した以外は、比較例1と同様の方法で炭素繊維束を製造した。炭素繊維の結晶配向度は82.3%であった。
(参考例1〜6)
PAN系重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=97/2/1(質量比))をジメチルアセトアミドに溶解し、重合体濃度21質量%の紡糸原液を調製し、ジメチルアセトアミド水溶液(濃度60質量%、温度35℃)を満たした凝固浴中に、紡糸ノズル(孔径50μm、孔数50000)より吐出し、凝固糸とした。次いで、凝固糸を、水洗槽中で脱溶媒しながら、5.5倍延伸処理して、膨潤状態のアクリル繊維束の延伸糸を得た。
その後、延伸糸に油剤処理を施し、表面温度180℃の加熱ロールに、延伸糸を接触させて乾燥緻密化(乾燥緻密化処理)した後に、表面温度190℃の加熱ロールを用いて1.5倍延伸を施し(二次延伸処理)、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、空気雰囲気中、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉をとおして耐炎化処理して、耐炎化繊維束を得た。その後、該耐炎化繊維束を、窒素雰囲気中で温度400℃から最高温度を表2に記載した温度(1400℃〜2400℃)の温度勾配を有する炭素化炉に導入して、炭素繊維束を得た(炭素化処理)。炭素繊維の結晶配向度とストランド弾性率の評価結果を図1に示す。比較例2からわかるように、リン酸エステル骨格を有する化合物を不使用とした比場合、炭素化処理時に繊維束に張力を付与(0.25g/dtex)すると、炭素繊維の結晶配向度が向上したが毛羽の発生が観察された。
図1から、炭素繊維の配向度と弾性率には正の相関がある。炭素繊維の結晶配向度の上昇は、ストランド弾性率の向上につながることが示唆される。リン酸エステル骨格を有する化合物を使用した実施例1、2は、炭素化処理時に繊維束に張力を付与しなくても、比較例1に対して結晶配向度が1.0〜1.9%増加した。これは図1から、ストランド弾性率に換算して22〜40GPaの増加が期待される。さらに、実施例1、2では毛羽の発生は観察されなかった。


本発明によれば、炭素繊維の毛羽が少なく高品質であり、高配向度で高弾性率な炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を得ることができる。
このようにして得られた炭素繊維は、例えばプリプレグ化したのち複合材料に成形することもできる。この炭素繊維を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。

Claims (5)

  1. リン酸エステル骨格を有する化合物1〜30質量%とアクリロニトリル系重合体70〜99質量%を含有する混合物からなる炭素繊維前駆体アクリル繊維。
  2. 前記リン酸エステル骨格を有する化合物が、芳香族縮合リン酸エステルである、請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維。
  3. 前記リン酸エステル骨格を有する化合物が、アクリロニトリル系重合体と共有結合している、請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維を耐炎化および炭素化して得られる炭素繊維。
  5. 元素分析による炭素原子の含有率が92.5%以上であり、広角X線回折測定によりグラファイトの(002)反射の回折ピークの半値幅から求めた結晶配向度が77.5%以上である、請求項4に記載に炭素繊維。
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JP2018145561A (ja) * 2017-03-07 2018-09-20 三菱ケミカル株式会社 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、炭素繊維束及び炭素繊維束の製造方法
JP2018154945A (ja) * 2017-03-17 2018-10-04 帝人株式会社 難燃性能に優れた易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法

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