JP2016164120A - 炭化珪素単結晶ウェハ - Google Patents

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Abstract

【課題】昇華再結晶法によるSiC単結晶インゴットから作製され、転位密度が低く、かつ、弾性歪が小さいSiC単結晶ウェハの提供。
【解決手段】黒鉛坩堝4の周辺に配置する断熱材5として2250℃以上の温度で高温熱処理した黒鉛フェルトを用い、単結晶成長中にSiC単結晶インゴット2側面からの入熱を制御して、SiC単結晶インゴット2の温度分布変化を抑えながら結晶成長させることにより得られる、表面の基底面転位密度が100〜1000個/cm2、貫通螺旋転位密度が160〜500個/cm2、かつ、ラマンシフト値が0.03〜0.2である、口径150〜300mmのSiC単結晶ウェハ2。又は、表面の基底面転位密度が80〜500個/cm、貫通螺旋転位密度が110〜300個/cm、かつ、ラマン指数が0.00〜0.15以下である、口径100〜150mm以下の炭化珪素単結晶ウェハ。
【選択図】図4

Description

本発明は、基底面転位、及び貫通螺旋転位の密度が低く、かつ、ラマン指数の小さい、結晶品質の高い炭化珪素単結晶ウェハ、及び、それを得ることができる炭化珪素単結晶インゴットの製造方法に関するものである。
炭化珪素(SiC)は、2.2〜3.3eVの広い禁制帯幅を有するワイドバンドギャップ半導体であり、その優れた物理的、化学的特性から、耐環境性半導体材料として研究開発が行われている。特に近年は、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波電子デバイス、高耐圧・高出力電子デバイス向けの材料としてSiCが注目されており、研究開発は盛んになっている。ところが、SiCは、良質な大口径単結晶の製造が難しいとされており、これまでSiCデバイスの実用化を妨げてきた。
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)で半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶を得ていた。しかしながら、この方法では得られる単結晶の面積が小さく、その寸法、形状、さらには結晶多形(ポリタイプ)や不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。一方、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)を用いて珪素(Si)等の異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより、立方晶のSiC単結晶を成長させることも行われている。この方法では大面積の単結晶は得られるが、SiCとSiの格子不整合が約20%もあることなどにより、多くの欠陥(〜107/cm2)を含むSiC単結晶しか成長させることができず、高品質のSiC単結晶は得られていない。
そこで、これらの問題点を解決するために、SiC単結晶ウェハを種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(非特許文献1参照)。この改良レーリー法を用いれば、SiC単結晶の結晶多形(6H型、4H型、15R型等)や、形状、キャリア型、及び濃度を制御しながらSiC単結晶を成長させることができる。尚、SiCには200以上の結晶多形(ポリタイプ)が存在するが、結晶の生産性と電子デバイス性能の点で4Hポリタイプが最も優れているとされており、商業生産されるSiC単結晶は4Hであることが多い。また、導電性は、ドーパントとして窒素が扱いやすい点で、単結晶インゴットはn型導電性で育成される場合がほとんどである。ただし、通信デバイス用途では、ドーパント元素を殆ど含まない、抵抗率の高い結晶も製造されている。
現在、改良レーリー法で作製したSiC単結晶から、口径51mm(2インチ)から100mmのSiC単結晶ウェハが切り出され、電力エレクトロニクス分野等のデバイス作製に供されている。更には150mmウェハの開発成功も報告されており(非特許文献2参照)、100mm又は150mmウェハを用いたデバイスの本格的な実用化が期待されている。こうした状況にあって、転位密度などの指標で表されるウェハの品質は、デバイスの性能、量産時の歩留まりに大きな影響を与えるため、近年非常に重要視されるようになってきている。
改良型のレーリー法では、成長中の単結晶インゴットに不可避的な内部応力が発生し、それは最終的に得られる単結晶ウェハ内部に、弾性歪、又は転位(塑性歪)の形で残留する。現在市販されているSiCウェハには、基底面転位(以下、BPD)が2×103〜2×104(個/cm2)、貫通螺旋転位(以下、TSD)が8×102〜103(個/cm2)、貫通刃状転位(以下、TED)が5×103〜2×104(個/cm2)存在している(非特許文献3参照)。
近年、結晶欠陥とデバイスに関する調査から、BPDがデバイスの酸化膜不良を生じ、絶縁破壊の原因となることが報告されている(非特許文献4参照)。また、バイポーラデバイスなどでは、BPDから積層欠陥が発生することが報告されており、デバイス特性の劣化の原因となることが知られている(非特許文献5参照)。また、TSDはデバイスのリーク電流の原因となり(非特許文献6参照)、また、ゲート酸化膜寿命を低下させることが報告されている(非特許文献7参照)。そのため、高性能SiCデバイスの作製のために、BPD、及びTSDの少ないSiC単結晶が求められている。
ここで、転位密度の低減技術は複数の報告例がある。例えば、化学気相成長法(CVD法)でのSiC薄膜のエピタキシャル成長において、鏡像力によってBPDがTEDに変換すること(非特許文献8参照)や、溶液成長法においてもほぼ同様の構造変換が起こること(非特許文献9参照)が報告されている。また、昇華再結晶法での報告例として、大谷らはTEDがBPDに変換することを報告している(非特許文献10参照)。しかしながら、これら先行技術において、SiC単結晶を工業的に製造する上で、BPDを構造変換させて減らすための制御方法やその条件等については一切述べられていない。
一方で、昇華再結晶法においては、所定の成長圧力及び基板温度で初期成長層としてのSiC単結晶を成長させた後、基板温度及び圧力を徐々に減じながら結晶成長を行うことで、マイクロパイプと共にTSDの少ないSiC単結晶を得る方法が報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法によって得られたSiC単結晶のTSD密度は103〜104(個/cm2)であり(特許文献1の明細書[発明の効果]の欄参照)、高性能SiCデバイスへの応用を考えると、TSDの更なる低減が必要である。
また、所定の成長圧力、及び基板温度によってSiC単結晶を初期成長層として成長させた後、基板温度はそのまま維持し、減圧して成長速度を高めて結晶成長させることで、マイクロパイプの発生を抑え、かつ、TSD等の転位密度を少なくさせる方法が報告されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法によっても、TSDの低減効果は不十分である。
特許文献3には、種結晶を用いた昇華再結晶法において、SiC単結晶を成長させ、これから種結晶を切り出して再度結晶成長を行い、これを何度か繰り返して、成長結晶の形状を成長方向に対して凸状となるようにすることで、モザイク性の小さなSiC単結晶ウェハを得る技術が報告されている。この技術は、転位の集合体である小傾角粒界が成長表面に垂直に伝播する性質を利用するものであり、成長結晶を成長方向に対して凸状となるようにすることで、転位の集合体である小傾角粒界を成長結晶の周辺部に移動させて、中央部に小傾角粒界密度の低い、すなわち転位密度の低い領域を形成するようにしたものである。
一般に、改良レーリー法では、成長結晶の原料となるSiC結晶粉末側より種結晶側の方が低温になるように、結晶成長方向に温度勾配を形成して結晶成長させていくが、成長する単結晶の成長面の形状は、成長面近傍の温度分布を制御することで決めることができる。すなわち、成長面は等温面に沿って形成されていくため、例えば特許文献3のように、成長結晶の形状を成長方向に対して凸状となるようにするためには、成長結晶外周部における成長表面の任意の地点の温度tPと、この点と種結晶からの距離が等しいインゴット中心部の温度tCとの差(Δt=tP−tC)が正となるように、成長空間内において、成長方向に向かって適度な凸形状の等温線を形成する必要がある。このような等温線を形成しながら結晶成長させることは、多結晶の発生を制御すると同時に、目的とするポリタイプを安定成長させて、良質な単一ポリタイプのSiC単結晶インゴットを製造する目的からも重要であることが分っている。ところが、従来技術において、成長方向と垂直な平面内の温度差Δtが大きくなるような成長プロセスで単結晶インゴットを製造すると、単結晶内部に大きな応力が形成される危険がある。
一方で、ウェハの弾性歪が大きく、ウェハ面内の結晶方位にずれが生じていると、エピタキシャル成長プロセスにおけるステップフロー異常などの問題を引き起こし、デバイス特性に大きな影響を与えてしまう。さらに、大きな弾性歪はウェハの反りを大きくする場合もある。ウェハの反りは、リソグラフプロセスでの焦点ずれや、エピタキシャル成長プロセス中の裏面への原料ガス回り込み等の問題を引き起こす。また、そもそもウェハの搬送などのハンドリングの障害ともなり得る他、チャックによる破損の危険性も考慮しなければならない。
単結晶インゴットの内部応力を緩和する成長技術として、特許文献4には、種結晶またはその上に成長させる単結晶の周辺に配置された温度勾配制御部材と、前記種結晶または前記単結晶と前記温度勾配制御部材との間に設置された局所的温度勾配緩和部材を備えていることを特徴とする単結晶製造装置が開示されている。しかしながら、この技術の目的は種結晶の直上に成長する単結晶中に発生する温度勾配の極大値を小さくし、成長結晶内のクラック発生と伝播を抑制するための技術であり、成長インゴット中のウェハ化される部位の成長条件は本質的に変わらない。従って、該特許技術によってウェハの内部応力や転位密度が低減されることはない。
また、ウェハの反りを、弾性歪の緩和により低減する手段として、以下のような方法が報告されている。特許文献5には、SiC単結晶のインゴット又はウェハを、炭素及び水素を含む非腐食性ガス雰囲気、又は、これらの非腐食性ガスにアルゴンやヘリウムを混合した雰囲気にて、2000℃超2800℃以下の温度で焼鈍することで、インゴットやウェハの内部応力を緩和して、インゴットの加工時やウェハのデバイスプロセスにおける割れやクラックを防ぐ技術が報告されている。更に、特許文献6には、SiC単結晶インゴットから切り出されたウェハを、10MPa以上0.5MPa以下で加圧しながら800℃以上2400℃で加熱処理することで、ウェハの曲率半径を35m以上にする技術が報告されている。
これらの方法は、ウェハの弾性歪を軽減させる点で有効と考えられるが、SiC単結晶に対して外部から2000℃を超える熱負荷を掛けて原子の再配置を行わせることは、昇温及び冷却過程を含めて、新たな温度分布を形成するものであり、温度不均衡によって結晶内部に強い応力場を生み出し、新たに転位を発生させる結果となり得る。特許文献6の実施例における焼鈍後の結晶の転位密度増加は、その現象を示すものである。
特開2002−284599号公報 特開2007−119273号公報 特開2001−294499号公報 特開2013−139347号公報 特開2006−290705号公報 特開2005−93519号公報
Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, vols.52 (1981) pp.146-150 A.A.Burk et al.,Mater.Sci.Forum,717-720,(2012) pp75-80 大谷昇、SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第17回講演会予稿集、2008、p8 J.Senzaki et al.,Mater.Sci.Forum,661, (2005) pp661-664 R.E.Stahlbush et al., Journal of Electronic Materials, 31, (2002), 370-375 坂東ら、SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第19回講演会予稿集、2010、p140−141 山本ら、SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第19回講演会予稿集、2010、p11−12 S.Ha et al., Journal of Crystal Growth,244,(2002),257-266 K.Kamei et al., Journal of Crystal Growth,311, (2009), 855-858 N.Ohtani et al., Journal of Crystal Growth,286, (2006), 55-60
上述のように、ウェハの転位密度を低減する製造方法等が実施されてはいるが、単にウェハの転位密度が低いだけのウェハではデバイスの歩留まりが向上しなかったり、良好なエピタキシャル薄膜が該ウェハ上に形成できなかったりするということが分かってきた。
本発明は、上記のような課題を解決すべく行われたものであり、転位密度が低く、かつ、弾性歪も小さいSiC単結晶ウェハ、及びそれを得ることができる炭化珪素単結晶インゴットの製造方法を提供することを目的とする。
上述したように、SiCデバイスの性能、量産時の歩留まりの向上のためには、ウェハのBPD密度、TSD密度の低下が重要であるが、単に転位密度が低いだけのウェハでは、良好なエピタキシャル薄膜が該ウェハ上に形成できないといった問題があり、結果的にデバイスの歩留まりや性能が向上しないということが分かってきた。本発明者等は、上述のような問題を解決すべく、試験、検討を重ねた結果、SiC単結晶ウェハのBPD密度、及びTSD密度が小さく、かつ、ウェハ内部の弾性歪も小さいSiC単結晶ウェハを実現させることで、これらのデバイス性能や歩留まりが格段に向上するであろうと考えた。
しかしながら、昇華再結晶法を用いた従来の製造技術では、単結晶成長中には必然的に大きな内部応力が発生し、成長後に焼鈍等の工程を追加したとしても、最終的に得られる結晶の転位(塑性歪)又は弾性歪の形式で残留してしまう。すなわち、従来技術では低転位密度と低弾性歪とを両立するウェハを工業的な規模で量産することができなかった。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、内部応力に関する新規の知見をもとに、低転位密度と低弾性歪とを両立する画期的な単結晶製造技術を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
なお、本発明の炭化珪素単結晶ウェハとは、炭化珪素単結晶インゴットを切断加工し、さらに鏡面加工した円形状の板を意味する。
本発明は、以下の構成より成るものである。
(1)表面の基底面転位密度が100個/cm2以上1000個/cm2以下、貫通螺旋転位密度が160個/cm2以上500個/cm2以下、かつ、ラマン指数が0.03以上0.2以下である、口径150mm以上300mm以下の炭化珪素単結晶ウェハ。
(2)表面の基底面転位密度が80個/cm2以上500個/cm2以下、貫通螺旋転位密度が110個/cm2以上300個/cm2以下、かつ、ラマン指数が0.00以上0.15以下である、口径100mm以上150mm以下の炭化珪素単結晶ウェハ。
(3)ラマン指数が0.15以下である(1)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(4)ラマン指数が0.1以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(5)表面の基底面転位密度が500個/cm2以下である(1)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(6)表面の基底面転位密度が300個/cm2以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(7)表面の基底面転位密度が100個/cm2以下である(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(8)貫通螺旋転位密度が300個/cm2以下である(1)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(9)貫通螺旋転位密度が200個/cm2以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(10)表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が260個/cm2以上1000個/cm2以下である(1)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(11)表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が190個/cm2以上1000個/cm2以下である(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(12)表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が500個/cm2以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(13)表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が300個/cm2以下である(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
(14)坩堝内に収容した種結晶に昇華再結晶法により炭化珪素単結晶を成長させて、(1)〜(13)の何れかに記載の炭化珪素単結晶ウェハを作製するための炭化珪素単結晶インゴットを製造する方法であって、単結晶成長中に単結晶インゴット側面からの入熱を制御して、単結晶インゴットの温度分布変化を抑えながら結晶成長させることを特徴とする、炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
(15)2250℃以上の温度で高温熱処理した黒鉛フェルトを結晶育成に用いる坩堝の周辺に配置する断熱材として用いることを特徴とする、(14)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
(16)高温熱処理の温度が2450℃以上である(15)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
(17)種結晶が取り付けられる坩堝蓋体の種結晶取付け領域を形成する部材の室温熱伝導率λ1に対して、室温熱伝導率λ2が1.1×λ1≦λ2の関係を有する熱流束制御部材が、種結晶取付け領域の外周に沿って取り付けられていることを特徴とする、(14)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
(18)熱流束制御部材の室温熱伝導率λ2が、1.2×λ1≦λ2の関係を満たす(17)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
(19)設置した結晶育成用坩堝のまわりを取り囲む周辺空間の雰囲気ガスが、Heガスを10vol%以上含むことを特徴とする、(15)〜(18)の何れかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
(20)前記周辺空間の雰囲気ガスが、Heガスを20vol%以上含む(19)に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
本発明のSiC単結晶ウェハは、転位密度が低く、かつ、弾性歪も小さいため、電力エレクトロニクス分野のデバイス作製等において、高い歩留りと共に良好なデバイス特性を実現することができる。例えば、リソグラフプロセスで正しく焦点を結ぶことができ、また、エピタキシャル成長プロセスにおいて、高品位のステップフロー成長が実現できる。また、転位密度が低いため、デバイスの構造欠陥が軽減でき、デバイスの性能、歩留まり向上に寄与できる。特に、本発明では、このような品質のSiC単結晶ウェハを口径100mm以上の大口径ウェハで実現しているため、その実用性は極めて高いものである。
図1は、SiCウェハのラマン散乱光スペクトルの一例である。 図2は、エッチピット観察像の一例である。 図3は、ウェハ内のエッチピット計測位置を示す図である。 図4は、本発明で用いられた結晶成長装置を示す模式図である。 図5は、本発明の実施例で用いた坩堝構造を示す模式図である。 図6は、本発明の実施例で用いた坩堝構造を示す模式図である。 図7は、本発明の実施例で用いた坩堝構造を示す模式図である。 図8は、本発明の実施例で用いた坩堝構造を示す模式図である。
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、本発明におけるSiC単結晶ウェハは、口径100mm以上であって、そのBPD密度とTSD密度が低く、弾性歪も小さいために、高性能デバイスの作製が可能であり、工業的規模でデバイスを作製した場合でも、高い歩留りを確保できる。本発明におけるSiC単結晶ウェハのBPDの密度は、ウェハ口径150mm以上の場合は1000個/cm2以下、100mm以上の場合は500個/cm2以下であり、TSD密度については、口径150mm以上の場合は500個/cm2以下、口径100mm以上の場合は300個/cm2以下である。
一方、弾性歪について、その評価方法としては、例えばX線による格子常数の精密測定の他、いくつかの方法が存在する。しかし、従来の測定方法では、弾性歪はベクトルで表現されるため、デバイスへの影響度を評価するには高度な解析技術も必要であり、また測定自体も時間や技能を要するなどの問題があった。そこで本発明者らは、デバイス歩留りに影響する弾性歪の最適な評価方法の開発を行った。その結果、1.ウェハのサイズに依らない評価指標である。2.ベクトルである弾性歪を、スカラーに単純化して表現できる。3.測定時間が短い、ことから、SiCのラマン散乱光ピークの波長の逆数について、ウェハ中心部と外周部とでそれぞれ測定した値の差分値(すなわちラマン指数)で評価することが、弾性歪の評価方法として最も効果的であることを見出した。そこで、本発明では、これを弾性歪の評価方法として採用した。
本発明で用いたラマン測定の光源は532nmのグリーンレーザーであり、これをサンプルであるSiC単結晶ウェハ表面のφ2μmのスポットに照射した。1つの測定箇所につき、前述の測定光をスポット間隔10μmにて横8列×縦9列の計72点照射し、その平均値をその測定箇所の散乱光データとした。1枚のウェハにつき、1つの測定箇所の中心がウェハの中心であり、もう1つの測定箇所の中心がウェハのエッジ(外周)から2mm離れた位置(ウェハの中心に向かってエッジから2mm離れた位置)の2箇所でラマン散乱光の波長を測定した。そして、この波数(波長の逆数)の差分(中心の値−外周2mmの値)をラマン指数とする。
図1に、ラマン散乱光の測定例を示す。Neランプのラマンシフト816cm-1のピークは散乱光測定のキャリブレーションに用いた。ラマン指数の符号が正で値が大きいほど、ウェハの弾性歪は大きいことを示す。ウェハの弾性歪は、ウェハ表面のステップ方向、高さを乱す原因となり、その表面に形成されるエピ薄膜の品質を低下させるので好ましくない。本発明のSiC単結晶ウェハのラマン指数は、口径150mm以上のウェハに関しては0.2以下、望ましくは0.15以下、更に望ましくは0.1以下であり、口径100mm以上のウェハについては0.15以下、望ましくは0.1以下である。ラマン指数は通常正の値であるが、特殊な製造条件で製造されると負になる場合もある。マイナス側で大きな絶対値を取ることは、通常、考え難いが、もしも−0.2より小さくなると、やはりデバイス作製上の影響があるので好ましくない。
BPD密度が前述の値よりも低い場合には、さらに高いデバイス性能、歩留りが実現できるので、口径150mm以上のウェハに関しては、BPDが500個/cm2以下となることが望ましく、何れの口径についても、300個/cm2以下、さらには、100個/cm2以下となることがより望ましい。また、TSD密度に関しても同様であり、口径150mm以上のウェハに関しては、TSD密度が300個/cm2以下となることが望ましく、何れの口径についても、200個/cm2以下、さらには、100個/cm2以下となることがより望ましい。BPD、TSDともに、その密度が100個/cm2を下回るレベルにまで低下すれば、デバイスへの悪影響は実質的に皆無になるになると考えられる。
前述の通り、口径150mm以上のウェハと100mm以上のウェハとでは異なる規定を設定しているが、これは、口径150mm以上のウェハは量産、安価型のデバイス作製に使用される場合が多く、その一方で、100mm以上のウェハは、高性能デバイスの作製用としても使用されるので、より高品質が求められるためである。上述したように、BPDとTSDはどちらもデバイス実用上の障害となる。そのため、BPDとTSDの合計密度で1000個/cm2以下である場合に顕著なデバイス性能と歩留りの向上が期待でき、望ましくは、これらの合計が500個/cm2以下であり、さらに望ましくは300個/cm2以下である。なお、口径100mm以上のウェハとは、既存の製品等を考慮すると口径が100mm以上300mm以下のSiC単結晶ウェハであって、例えば、いわゆる100mmウェハや125mmウェハ等がこれに含まれる。また、口径150mm以上のウェハとは、同じく、口径が150mm以上300mm以下のSiC単結晶ウェハであって、いわゆる150mmウェハがこれに含まれる。ウェハの口径については、デバイスの生産性の観点では大きいほど好ましく、その意味では上限は存在しないが、現時点の技術では、口径が300mmを超えると昇華再結晶中の結晶内部の温度差が過大となり、ウェハにおける物性値の差も顕著になる。つまり、口径が大きくなるにつれて内部応力も高くなり、高品質のウェハを得るのが難しくなる傾向にあることから、実質的には300mmが上限である。
上記の様なSiC単結晶ウェハを製造するための方法として、従来、温度勾配を極力小さくした環境でSiC単結晶インゴットを育成し、成長表面の応力を小さくするという考え方が主流であった。しかしながら、前述した通り、昇華再結晶法によるSiC単結晶インゴットの安定成長のためには、成長空間内に温度勾配を与えることは必須であり。無暗に温度勾配を小さくすれば、単一ポリタイプ成長の成功率や成長速度に悪影響し、生産性が低下することから、工業的には不利である。ちなみに、工業的な観点では、インゴットの高さは30mm程度、もしくはそれ以上必要であると考えられる。
本発明者らは、工業的規模の生産において、低BPD、低TSD、低弾性歪のSiC単結晶ウェハを得るための製造方法について、長年かけて研究・開発を行った。その結果、驚くべきことに、最終的にウェハの転位や弾性歪となるSiC単結晶インゴットの内部応力は、成長表面で成長時に発生するのみならず、成長後の結晶の温度分布変化によって著しく増大することを見い出した。以下、この事象について詳しく説明する。
成長中の、ある時点におけるSiC単結晶インゴットは、その時点の温度分布によって内部応力が発生している状態にあり、その内部応力の一部は既に転位に変換されている。もしも、この時の温度分布が維持されたまま、成長が完了すれば、前述した温度分布を反映した転位密度と弾性歪を有するSiC単結晶ウェハを製造することができる。しかしながら、実際の製造条件下では、結晶成長に伴って幾つかの理由により温度分布が変化し、SiC単結晶インゴットに新たな応力が発生する。この新たに発生した応力により、確実にBPDは増殖する。また、成長表面における原子配列も変化し、TSDを発生させる原因となる。またウェハの弾性歪も増加し、その結果として、良質なデバイスの作製が困難になる。ここで、前述の温度分布が、その勾配が小さくなるような変化をした場合、最終的に作製されるウェハの弾性歪が小さくなるという現象は起こり得る。しかしながら、その場合でも、元の温度分布下で応力的に平衡状態にあるインゴットに対して、応力的に平衡ではない温度場の印可によって新たな応力を与えることで転位が発生するので、低転位密度と低弾性歪を両立するウェハを作製することはできない。
そこで、本発明者らは、単結晶成長中に単結晶インゴット側面からの入熱を制御することにより、結晶成長中のインゴットの温度分布変化を抑制し、成長中のBPD、TSDの増殖を抑えると同時に弾性歪も低減できると考えた。しかしながら、実際のSiC単結晶成長においては、結晶の温度を実測することは不可能である。そのため、本発明者らは、有限要素手法を用いて単結晶インゴットや坩堝内部の温度や内部応力を解析し、さらに実際に結晶成長を行って、得られた結晶の品質評価を重ねた結果、上記の考え方を具現化する方法を見出し、本発明のSiC単結晶ウェハの開発に成功したのである。
先ず、温度分布変化を発生させる原因の一つは、結晶成長を行う坩堝の外側に配置される断熱材の特性劣化による単結晶インゴット側面からの入熱の変動である。昇華再結晶法によるSiC単結晶の製造に用いられる断熱材としては、黒鉛のフェルト、または黒鉛の成形断熱材が使われる場合が多い。それらの製造条件としては、最も一般的な熱処理の温度は1000℃以下であり、高温処理品でもその処理温度は2000℃である。SiC単結晶用坩堝の温度は最高で2400℃以上にも達し、前述の断熱材の処理温度よりも高いため、結晶成長中に断熱材の黒鉛化などの反応が起こり、断熱特性が低下する。それに加えて、坩堝内部からは昇華ガス成分が漏洩し、その成分は断熱材と熱化学的な反応を起こして黒鉛材を劣化させ、断熱性を低下させる。この断熱材劣化に伴い、実際にSiC単結晶インゴットを製造する際の装置制御における温度フィードバックによりコイルに投入される電流が上昇する(断熱特性の低下によって坩堝温度が下がったと判断されるため)。すると、断熱材の劣化した坩堝部位の温度は低下するが、劣化が軽度な部位の温度は逆に上昇する場合もある。従って、単結晶インゴットが受ける温度勾配の変化は一様ではない。何れにしても、単結晶インゴットの温度分布が変化し、新たな内部応力が発生することは間違いない。
そこで、結晶成長に先立って、断熱材に2250℃以上、望ましくは2450℃以上の温度で熱処理を施しておけば、成長中に高温に晒されることによる材料特性の変化と、同時に昇華ガス成分との反応性も抑制することができる。昇華ガスとの反応性が抑えられるメカニズムは明確ではないが、黒鉛繊維の黒鉛化度が高いことなどが効果を発揮していると考えられる。また、断熱材の熱処理の方法としては、断熱材素材1ロットをまとめて不活性雰囲気中で処理する方法や、成長用に加工、組み立てされた断熱部材を坩堝と組み付けた状態で、結晶成長用の誘導加熱炉を用いて熱処理を行う方法などがあるが、特に限定されない。処理温度の上限も特に限定するものではないが、超高温環境では黒鉛自体の昇華が生じ、またコスト的にも不利となるので、3000℃程度が上限である。
結晶成長中のインゴットの温度分布変化を発生させる、もう一つの大きな原因は、高温の原料側から低温のSiC単結晶側に向かって、坩堝を形成する黒鉛部材を通過し、その後インゴット側面に入射する熱量の変化である。一般的に、SiCの単結晶成長において、坩堝の温度は一定ではなく、変化を伴う。それは、成長速度制御のための能動的な温度調整である場合と、成長に伴う坩堝内部の状態変化による受動的な変動の場合などもあるが、いずれにしても温度変化は不可避的な現象である。この温度変化に伴い、インゴット側面に入射する熱量も変化し、その結果、インゴット内部の温度分布も変化する。また、もしも温度が一定に保たれているとしても、SiC単結晶の成長に伴い、インゴットの側面面積が増加するので、やはり単結晶インゴット側面から入射する熱量も変化し、インゴット内部の温度分布が変化する。
この温度変化を抑制するためには、種結晶が取り付けられる坩堝蓋体の種結晶取付け領域を形成する部材よりも熱伝導率の高い部材(以下、熱流束制御部材と言う)を種結晶取付け領域の外周に沿って設置し、坩堝から熱流束制御部材に流れる熱流束を増加させることによって、坩堝からインゴット、及びインゴットから種結晶取付け領域という熱流束を減少させることが有効である。このとき、各部材の熱伝導率としては、種結晶取付け領域を形成する部材の室温熱伝導率=λ1と、熱流束制御部材の室温熱伝導率=λ2とが、1.1×λ1≦λ2の関係となるようにすることで効果が表れる。より好ましい条件としては、前述の室温熱伝導率が1.2×λ1≦λ2の関係にある場合である。λ2の値の上限値は特に設定していないが、λ1に対する室温熱伝導率の比が1.8倍を超えると、成長表面の温度分布にも大きな変化が生じ、安定成長が難しくなるので好ましくない。なお、インゴット側面からの入熱を制御して、結晶成長中のインゴットの温度分布変化を抑制するには、種結晶が取り付けられる種結晶取付け領域よりも外側に熱流束制御部材が配置されるのがより効果的であるが、種結晶取付け領域の外側周辺で熱流束制御部材が一部重なるように配置されたとしても、坩堝から熱流束制御部材に流れる熱流束を増加させてインゴット側面への入熱を制御することができれば構わない。
インゴットの温度変化を抑制するもう一つの方法は、二重石英管等に設置した結晶育成用坩堝の周りを取り囲む周辺空間の雰囲気ガスの熱伝導率を向上させて、坩堝から雰囲気中へ放散される熱量を増加させることである。高熱伝導のガス成分として、一般的には水素が良く知られているが、水素は黒鉛やSiCをエッチングするなどの影響があるので好ましくない。この場合のガス種としてはヘリウムが最適であり、雰囲気中にヘリウムが10vol%以上含まれる場合に意図した効果が生じ、ヘリウムが20vol%以上の場合により大きな効果が得られる。ヘリウムの上限値は、コストや、ウェハに求められる電気伝導度(すなわち雰囲気中のドーパント濃度)の関係から必然的に決まるが、ヘリウムガスの濃度が50vol%以上となると、この場合も成長表面の温度分布にも大きな変化が生じ、安定成長が難しくなるので、やはり好ましくない。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
図4は、本発明の実施例、及び比較例に係るSiC単結晶ウェハを作製するためのSiC単結晶インゴットの製造に用いた、改良型レーリー法による単結晶成長の装置である。結晶成長は、昇華原料3を誘導加熱により昇華させ、種結晶1上に再結晶させることにより行われる。種結晶1は、黒鉛蓋(坩堝蓋体)6の内面に取り付けられており、昇華原料3は黒鉛坩堝4の内部に充填される。この黒鉛坩堝4、及び黒鉛蓋6は、熱シールドのために断熱材5で被膜され、二重石英管8内部の黒鉛支持台座7の上に設置される。石英管8の内部を、真空排気装置および圧力制御装置12を用いて1.0×10-4Pa未満まで真空排気した後、純度99.9999%以上の高純度Arガスを、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、真空排気装置および圧力制御装置12を用いて石英管内圧力を80kPaに保ちながらワークコイル9に高周波電流を流し、黒鉛坩堝下部を目標温度である2400℃まで上昇させる。窒素ガス(N2)も同様に、配管10を介してマスフローコントローラ11で制御しながら流入させ、雰囲気ガス中の窒素分圧を制御して、SiC結晶中に取り込まれる窒素元素の濃度を調整した。坩堝温度の計測は、坩堝上部及び下部の断熱材5に直径2〜15mmの光路を設けて放射温度計13aおよび13bにより行う。坩堝上部温度を種結晶温度、坩堝下部温度を原料温度とした。その後、石英管内圧力を成長圧力である0.8kPa〜3.9kPaまで約15分かけて減圧し、この状態を所定の時間維持して結晶成長を実施した。
(実施例1)
先ず、原料や種結晶を装填しない坩堝と、2000℃で熱処理された市販の黒鉛製フェルトを1式用意し、結晶成長に先立って黒鉛製フェルトの熱処理を行った。その後、坩堝と断熱材は成長時と同様の組立を行い、上述した成長準備と同様に石英管内部に設置して真空排気を行った。続いて、石英管内に高純度Arガスを、配管を介してマスフローコントローラで制御しながら流入させ、石英管内圧力を80kPaに保ちながらワークコイルに高周波電流を流し、黒鉛坩堝下部および上部が目標温度に達するまで上昇させ、この状態を12時間保持して熱処理を完了させた。実施例1の黒鉛製フェルトの熱処理温度は2300℃とし、高純度アルゴン雰囲気中で12時間の熱処理を行った。
次に、上記の坩堝とフェルトを用いて行った、実施例1の結晶成長について説明する。種結晶1として、(0001)面を主面とし、<0001>軸が<11−20>方向に4°傾いた、口径101mmの4Hの単一ポリタイプで構成されたSiC単結晶ウェハを使用した。成長圧力は1.33kPaであり、窒素ガスの分圧は180Paから90Paである。窒素分圧はインゴット全体で最適な導電性を維持するために変化させた。ここで、一般的な黒鉛フェルトと比較して、本実施例のような高温熱処理されたフェルトは劣化が少なく、単結晶インゴット側面からの入熱変動を抑制できるので、低転位密度、かつ低弾性歪のSiC単結晶ウェハが製造可能となる。
こうして得られたSiC単結晶インゴットは、口径が106.8mm、高さは34.8mmであった。このようにして、実施例1の口径100mmウェハ作製用のSiC単結晶インゴットを製造した。
得られたインゴットは公知の加工技術により、種結晶と同じく、オフ角度4°の(0001)面を有する厚さ0.4mmの鏡面ウェハ8枚に加工し、品質の評価を行った。種結晶側から順に数えて11〜18をウェハ番号とする。ここで、11番〜18番の各ウェハのインゴット高さに対する相対位置は、それぞれ0.2〜0.9まで0.1刻みである。すなわち、相対位置0は種結晶表面に相当し、1.0はインゴットの高さに相当する。
作製した8枚のウェハについて、先ず、ラマン分光測定器(日本分光社製NRS-7100、分解能±0.05cm-1)を用いて、前述した通りの方法でラマンシフトを測定した。その後、溶融KOHエッチングを行い、光学顕微鏡によってBPD密度およびTSD密度を計測した。ここでは、J.Takahashi et al.,Journal of CrystalGrowth,135,(1994),61−70に記載されている方法に従って、530℃の溶融KOHに試料を10分間浸漬し、貝殻型ピットをBPD、中型・大型の六角形ピットをTSDとして、エッチピット形状から転位欠陥を分類した。エッチピットの観察例を図2に示す。転位密度の算出方法としては、図3に示した通り、図の上下、左右で対称関係にある52点にて、その点が測定エリアの中心となるように、TSDについてはピットのサイズが大きいので2073μm×1601μmとし、TSD以外については663μm×525μmの測定エリアでエッチピットを計数し、その平均値をウェハの転位密度とした。なお、図中に示したdの値は100mmウェハについては3.25mm、150mmウェハについては4.8mmとしたが、前記以外の口径についても、適当なdを選ぶことにより、口径の影響を受けずに転位密度を正確に評価できる。
前述の評価結果を、表1に示す。18番のウェハがBPD密度500個/cm2以下であり、またBPD、TSDの合計密度も1000個/cm2を下回り、本発明範囲の特性を有していた。
Figure 2016164120
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。実施例2でも、実施例1と同様に、2000℃で熱処理された市販の黒鉛製フェルトを1式用意し、結晶成長に先立って黒鉛製フェルトの熱処理を行った。実施例2の黒鉛製フェルトの熱処理温度は2500℃であり、この点以外は実施例1と同様に処理を行った。
上記の坩堝とフェルトを用いて行った、実施例2の結晶成長方法は、実施例1と同様である。実施例2も実施例1と同様な理由で、低転位密度、かつ低弾性歪のSiC単結晶ウェハが製造可能となるが、より高温で処理された黒鉛製フェルトを用いることにより、断熱材劣化による面内温度勾配の過剰な低下が抑えられるので、特にBPDの低減に効果がある。
こうして、口径が105.7mm、高さは37.9mmの口径100mmウェハ作製用のSiC単結晶インゴットを製造した。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて21〜28番)、品質の評価を行った。評価結果を表2に示す。27番〜28番のウェハがBPD密度、BPDとTSDの合計密度でも本発明範囲の品質を有していた。
Figure 2016164120
(実施例3)
次に、実施例3の結晶製造方法について説明する。実施例3では、図5の概略図で示した構造の黒鉛坩堝24を結晶成長に用いた。この黒鉛坩堝24では、種結晶21が坩堝蓋体26の内面側に取り付けられており、この坩堝蓋体26の外周側面に接しながら、そのまわりを取り囲むように、高熱伝導黒鉛材製の熱流束制御部材27が配置されている。ここで、種結晶21が取り付けられる種結晶取付け領域を形成する坩堝蓋体26の室温熱伝導率=λ1と、熱流束制御部材27の室温熱伝導率=λ2とは、1.15×λ1≦λ2の関係にある。さらに、この実施例3では、結晶成長に先立って、実施例1と同様に2300℃で黒鉛製フェルトの熱処理も行った。熱流束制御部材27を含めた坩堝の構造以外の結晶成長条件は実施例1と同様にして単結晶インゴットの製造を行った。実施例3の坩堝構造は、単結晶インゴットの側面に沿った熱流束が増加した条件下で、熱流束が過剰にインゴットに入射しないことを意図した構造である。この坩堝構造により、単結晶インゴット側面からの入熱変動を抑制できることから、低転位密度、かつ低弾性歪のSiC単結晶ウェハが製造可能となる。
この実施例3では、上記のような熱流束制御部材27を備えた坩堝が使用され、また、断熱材は実施例1と同様の方法で熱処理されている。こうして得られたSiC単結晶インゴットは、口径が105.5mm、高さは37.8mmであった。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて31〜38番)、品質の評価を行った。評価結果を表3に示す。33番〜38番のウェハが本発明範囲の特性を有しているが、特に34番〜38番のウェハはBPDとTSDの合計密度でも500個/cm2を下回っており、非常に良好である。
Figure 2016164120
(実施例4)
次に、実施例4の結晶製造方法について説明する。実施例4では、図6の概略図で示した構造の黒鉛坩堝24を結晶成長に用いた。この黒鉛坩堝24では、種結晶21が坩堝蓋体26の内面側に取り付けられており、この坩堝蓋体26の外周側面に接しながらそのまわりを取り囲むと共に、一部が黒鉛坩堝の側壁の外側部分に延設されるようにして高熱伝導黒鉛材製の熱流束制御部材27が配置されている。ここで、種結晶21が取り付けられる種結晶取付け領域を形成する坩堝蓋体26の室温熱伝導率=λ1と、熱流束制御部材27の室温熱伝導率=λ2とは、1.3×λ1≦λ2の関係にある。さらに、この実施例4では、結晶成長に先立って黒鉛製フェルトの熱処理も行った。すなわち、この実施例4については、実施例2と同様の条件である2500℃で黒鉛製フェルトの熱処理を行った。熱流束制御部材27を含めた坩堝の構造以外の結晶成長条件は実施例1と同様にして、単結晶インゴットの製造を行った。
この実施例4では、実施例3と同じ目的で設計された坩堝が使用され、また、断熱材は実施例2と同様の方法で熱処理されている。これらにより、単結晶インゴット側面からの入熱変動はより効果的に抑制され、前述の実施例よりもさらに低転位密度、かつ低弾性歪のSiC単結晶ウェハが製造可能となる。こうして得られたSiC単結晶インゴットは、口径が105.7mm、高さは39.6mmであった。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて41〜48番)、品質の評価を行った。評価結果を表4に示す。すべてのウェハが本発明範囲の特性を有しており、特に44番〜48番のウェハはBPDとTSDの合計密度でも300個/cm2を下回っており、極めて良好である。
Figure 2016164120
(実施例5)
次に、実施例5について説明する。実施例5では、口径150mmのウェハの作製を行った。実施例5の結晶製造については、口径150mmウェハ用インゴットに対応したサイズの坩堝、及び断熱材が使用されたが、その基本構造は図7で示した通りである。この黒鉛坩堝24では、坩堝蓋体26の内面側の略中央部分に種結晶21が取り付けられており、坩堝蓋体26の外側には、種結晶21が取り付けられた種結晶取付け領域を囲うように、高熱伝導黒鉛材製の熱流束制御部材27が配置されている。ここで、坩堝蓋体26のうち、少なくとも種結晶21が取り付けられる種結晶取付け領域を形成する部材の室温熱伝導率=λ1と、熱流束制御部材27の室温熱伝導率=λ2とは、実施例4と同様に1.3×λ1≦λ2の関係にある。さらに、この実施例5では、結晶成長に先立って黒鉛製フェルトの熱処理も行った。実施例5については、実施例2と同様の条件である2500℃で黒鉛製フェルトの熱処理を行った。
また、実施例5の種結晶としては、(0001)面を主面とし、<0001>軸が<11−20>方向に4°傾いた、口径154mmの4Hの単一ポリタイプで構成されたSiC単結晶ウェハを使用した。種結晶のサイズ、及び熱流束制御部材27を含めた坩堝の構造以外の結晶成長条件は実施例1とほぼ同様の条件にして、単結晶インゴットの製造を行った。
実施例5は、口径150mmウェハ作製用の単結晶インゴットの製造例だが、製造方法の考え方は、基本的には実施例4と同様であり、口径が異なるインゴットの場合でも、低転位密度、かつ低弾性歪のSiC単結晶ウェハが製造可能となる。このようにして、実施例5の口径150mmウェハ作製用のSiC単結晶インゴットを製造した。得られたSiC単結晶インゴットは、口径が158.1mm、高さは42.6mmであった。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて51〜58番)、品質の評価を行った。評価結果を表5に示す。すべてのウェハが本発明範囲の特性を有しており、特に55番〜58番のウェハがBPDとTSDの合計密度でも300個/cm2を下回り、極めて良好である。
そして、58番のウェハのSi面には、ホモ・エピタキシャル成長を実施した。エピタキシャル成長の条件は、成長温度1550℃、シラン(SiH4)、プロパン(C3H8)、水素(H2)の流量が、それぞれ32cc/min、21cc/min、150L/minであり、窒素ガスは、活性層におけるキャリア濃度が1×1016cm-3となる流量とし、厚さ約5μmの活性層を成長させた。エピタキシャル膜の表面は全面に渡って非常に平坦で、キャロット等のエピ欠陥も非常に少ない、良好なエピ薄膜が形成されていることが分かった。さらに、このエピタキシャルウェハ上にMOSFET構造を作製し、ゲート絶縁膜の耐圧を測定したところ、およそ820Vであった。
Figure 2016164120
(実施例6)
次に、実施例6の結晶製造方法について説明する。実施例6では、図8の概略図で示した構造の黒鉛坩堝を結晶成長に用いた。この黒鉛坩堝24では、種結晶21が坩堝蓋体26の内面側に取り付けられており、坩堝蓋体26の外周側に、黒鉛坩堝の側壁の一部を介して、高熱伝導黒鉛材製の熱流束制御部材27が配置されている。ここで、種結晶21が取り付けられる種結晶取付け領域を形成する坩堝蓋体26の室温熱伝導率=λ1と、熱流束制御部材27の室温熱伝導率=λ2とは、1.4×λ1≦λ2の関係にある。さらに、この実施例6では、結晶成長に先立って黒鉛製フェルトの熱処理も行った。実施例4については、実施例2と同様の条件である2500℃で黒鉛製フェルトの熱処理を行った。
また、この実施例6では、結晶成長条件は実施例1と同様であるが、二重石英管8に設置した黒鉛坩堝の周りを取り囲む周辺空間の雰囲気ガス中にはHeガスを混合させた。Heガスの含有率は16vol%である。実施例6でも、実施例4と同じ目的で設計された坩堝と、実施例4と同条件で熱処理された黒鉛製フェルトが使用されている。さらに、雰囲気ガスを高熱伝導化することにより、さらなる温度勾配の低減化を図った。こうして得られたSiC単結晶インゴットは、口径が108.7mm、高さは56.3mmであった。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて61〜68番)、品質の評価を行った。評価結果を表6に示す。63番〜68番のウェハが、BPD密度と、BPDとTSDの合計密度でも本発明範囲の特性であり、その中でも66番〜68番のウェハはBPDとTSDの合計密度でも500個/cm2を下回っており、極めて良好である。実施例4に比較すると、やや転位密度は高い結果となったが、ラマン指数が示す通り、弾性歪の非常に小さなウェハを製造することができた。坩堝構造とガス組成、結晶成長条件を総合して最適化することにより、さらに低転位密度、かつ低弾性歪のSiC単結晶ウェハも製造可能になると考えられる。
Figure 2016164120
(比較例1)
次に、比較例1について説明する。比較例1では、2000℃で熱処理された市販の黒鉛製フェルトを1式用いて成長を行った。坩堝の構造は実施例1と同一である。比較例1の結晶成長方法も、実施例1とほぼ同様である。比較例1では、一般的な黒鉛フェルトと黒鉛坩堝が使用されているため、単結晶インゴット側面からの入熱変動は抑制されず、低転位密度と低弾性歪を両立するSiC単結晶ウェハを製造することはできない。こうして得られたSiC単結晶インゴットは、口径が107.4mm、高さは35.2mmであった。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて71〜78番)、品質の評価を行った。評価結果を表7に示す。評価項目毎にウェハの性質を見ていくと、71番のウェハを除けば、ラマン指数は本発明範囲の値を有している。しかしながら、転位密度がすべてのウェハにおいて高く、特にBPD密度が高い。このため、本発明範囲の特性を有するウェハは1枚も得ることができていない。
そして、78番のウェハのSi面には、実施例6と同じ条件にて、ホモ・エピタキシャル成長を実施し、厚さ約5μmの活性層を成長させた。エピタキシャル膜の表面は、バンチング等の表面モフォロジー乱れが観察され、キャロット等のエピ欠陥も多く見られた。このエピタキシャルウェハ上にMOSFET構造を作製し、ゲート絶縁膜の耐圧を測定したところ、およそ270Vであった。
Figure 2016164120
(比較例2)
次に、比較例2について説明する。比較例2では、2000℃で熱処理された市販の黒鉛製フェルトを1式用いて成長を行った。坩堝の構造の概略は実施例1と同一である。比較例2の結晶成長は、実施例1とほぼ同様の準備を行い、得られたSiC単結晶インゴットは、口径が103.1mm、高さは16.5mmであった。比較例2も比較例1と同様であり、一般的な黒鉛フェルトと黒鉛坩堝が使用されているため、単結晶インゴット側面からの入熱変動は抑制されない。成長条件の違いにより、低転位密度、あるいは低弾性歪のどちらかを部分的に実現する場合もあるが、それらを両立するSiC単結晶ウェハを製造することはできない。
得られたインゴットは高さが低いので、81番、88番に相当するウェハの作製は困難であった。このため、82番から87番の相対位置を有する鏡面ウェハ6枚に加工し、品質の評価を行った。評価結果を表8に示す。表8の中で、84番から87番のウェハが基底面転位密度に関しては本発明範囲の値を有している。しかしながら、ラマン指数がすべてのウェハで高く、本発明範囲の特性を有するウェハは1枚も得ることができていない。
そして、87番のウェハのSi面に、実施例6と同じ条件にて、ホモ・エピタキシャル成長を実施し、厚さ約5μmの活性層を成長させた。エピタキシャル膜の表面には、キャロット等のエピ欠陥は、実施例5の58番のウェハよりは多いが、比較例1の78番のウェハに比較すればかなり少なかった。しかしながら、バンチング等の表面モフォロジー乱れは高密度で観察された。これは、弾性歪によりウェハの表面ステップ状態が乱れていたことが原因と考えられる。このエピタキシャルウェハ上にMOSFET構造を作製し、ゲート絶縁膜の耐圧を測定したところ、およそ340Vであった。
Figure 2016164120
(比較例3)
次に、比較例3について説明する。比較例3では、2000℃で熱処理された市販の黒鉛製フェルトを1式用いて、口径150mmのウェハの作製を行った。口径150mmウェハ用インゴットの成長に用いた坩堝と断熱材の構造は実施例1で用いた坩堝と断熱材の相似形であり、口径150mmインゴットに対応したサイズを有している。比較例3の結晶成長方法も、実施例1とほぼ同様である。比較例3では、一般的な黒鉛フェルトと黒鉛坩堝が使用されてため、単結晶インゴット側面からの入熱変動は抑制されず、低転位密度と低弾性歪を両立するSiC単結晶ウェハを製造することはできない。こうして得られたSiC単結晶インゴットは、口径が158.5mm、高さは33.2mmであった。
得られたインゴットは、実施例1と同様のインゴット内の相対位置を有する鏡面ウェハ8枚に加工し(種結晶側から順に数えて91〜98番)、品質の評価を行った。評価結果を表9に示す。評価項目毎にウェハの性質を見ていくと、TSDは本発明範囲の値を有している。しかしながら、BPDが全てのウェハにおいて高く、尚且つラマン指数も総じて高い。このため、本発明範囲の特性を有するウェハは1枚も得ることができていないことが分かる。
Figure 2016164120
1:種結晶(SiC単結晶)
2:SiC単結晶インゴット
3:昇華原料(SiC粉末原料)
4:黒鉛坩堝
5:断熱材
6:黒鉛蓋(坩堝蓋体)
7:黒鉛支持台座(坩堝支持台および軸)
8:二重石英管
9:ワークコイル
10:配管
11:マスフローコントローラ
12:真空排気装置および圧力制御装置
13a:放射温度計(坩堝上部用)
13b:放射温度計(坩堝下部用)
21:種結晶(SiC単結晶)
22:SiC単結晶インゴット
23:昇華原料(SiC粉末原料)
24:黒鉛坩堝
25:断熱材
26:黒鉛蓋(坩堝蓋体)
27:熱流束制御部材

Claims (13)

  1. 表面の基底面転位密度が100個/cm2以上1000個/cm2以下、貫通螺旋転位密度が160個/cm2以上500個/cm2以下、かつ、ラマン指数が0.03以上0.2以下である、口径150mm以上300mm以下の炭化珪素単結晶ウェハ。
  2. 表面の基底面転位密度が80個/cm2以上500個/cm2以下、貫通螺旋転位密度が110個/cm2以上300個/cm2以下、かつ、ラマン指数が0.00以上0.15以下である、口径100mm以上150mm以下の炭化珪素単結晶ウェハ。
  3. ラマン指数が0.15以下である請求項1に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  4. ラマン指数が0.1以下である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  5. 表面の基底面転位密度が500個/cm2以下である請求項1に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  6. 表面の基底面転位密度が300個/cm2以下である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  7. 表面の基底面転位密度が100個/cm2以下である請求項2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  8. 貫通螺旋転位密度が300個/cm2以下である請求項1に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  9. 貫通螺旋転位密度が200個/cm2以下である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  10. 表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が260個/cm2以上1000個/cm2以下である請求項1に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  11. 表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が190個/cm2以上1000個/cm2以下である請求項2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  12. 表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が500個/cm2以下である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
  13. 表面の基底面転位密度と貫通螺旋転位密度との合計が300個/cm2以下である請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
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