本発明の赤外線吸収フィルターは、ガラス基板と、ガラス基板上に設けられた赤外線吸収層を有するものである。赤外線吸収層には、透明性の高い樹脂として知られているシクロオレフィン系樹脂を用い、当該樹脂中に赤外領域の波長を吸収することができるフタロシアニン系化合物が配合されている。本発明の赤外線吸収フィルターは、高温高湿の条件下でも、赤外線吸収層がガラス基板から剥離しにくくするために、特定のフタロシアニン系化合物を用い、さらに赤外線吸収層とガラス基板とのバインダーとして、特定のシランカップリング剤を用いている。具体的には、フタロシアニン系化合物として、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物を用い、さらにバインダーとして、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いている。本発明の赤外線吸収フィルターは、このように構成されることにより、赤外線吸収層とガラス基板との密着性を高めて、耐久性を高めることができる。以下、本発明の赤外線吸収フィルターについて、詳しく説明する。
ガラス基板は、赤外線吸収層の支持体として用いられ、透明な(すなわち光線透過性を有する)板状のガラスであれば、特に制限なく用いることができる。ガラス基板に用いられるガラスは、二酸化ケイ素を主成分とするものが好ましく、ケイ素原子と酸素原子が網目構造を形成しているものが好ましい。ガラスは、ケイ素と酸素以外の原子あるいはイオンを含有していてもよく、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、鉄、銀、銅、コバルト、ニッケル、鉛、亜鉛等が含まれていてもよい。
ガラス基板を用いることにより、耐熱性に優れた赤外線吸収フィルターを得ることができる。このようにして得られた赤外線吸収フィルターは、例えば、半田リフローにより、赤外線吸収フィルターを電子部品に実装することが可能となる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにいため、赤外線吸収層との密着性を確保しやすくなる。
ガラス基板を用いることにより、薄くて高強度の赤外線吸収フィルターを得ることができる。そのため、赤外線吸収フィルターを光学デバイス等の電子部品に適用した場合、電子部品の小型化を図ることができる。ガラス基板の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
赤外線吸収層はガラス基板上に設けられ、少なくともシクロオレフィン系樹脂とフタロシアニン系化合物とを含有している。フタロシアニン系化合物は、シクロオレフィン系樹脂中に分散または溶解しており、赤外線吸収層中で、シクロオレフィン系樹脂と実質的に均一に混合されていることが好ましい。
ところで、シクロオレフィン系樹脂は、単にガラス基板上に塗工しただけでは、実用に耐えられるだけの十分な密着性を得ることが難しい。特に、高温高湿の過酷な条件下では、シクロオレフィン系樹脂がガラス基板から剥離しやすくなる。そこで本発明者らが、シクロオレフィン系樹脂とフタロシアニン系化合物とを含有する赤外線吸収層のガラス基板への密着性を高める方法について様々検討したところ、フタロシアニン系化合物として、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物を用い、さらにバインダーとしてアミノ基を有するシランカップリング剤を用いることにより、高温高湿の条件下でも、赤外線吸収層がガラス基板から剥離しにくくなることが明らかになった。なお、アミノ基を有するシランカップリング剤は赤外線吸収層中に存在するようにしてもよく、アミノ基を有するシランカップリング剤により、赤外線吸収層とは別のバインダー層を赤外線吸収層とガラス基板の間に形成するようにしてもよい。アミノ基を有するシランカップリング剤により、シクロオレフィン系樹脂とフタロシアニン系化合物を含有する赤外線吸収層を、ガラス基板に好適に固定することができる。
すなわち、本発明の赤外線吸収フィルターは、ガラス基板と、前記ガラス基板上に設けられた赤外線吸収層とを有し、赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂と、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物とを含有し、アミノ基を有するシランカップリング剤によりガラス基板に固定されているものである。具体的には赤外線吸収フィルターは、ガラス基板と、ガラス基板上に設けられた赤外線吸収層とを有し、赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂と、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物を含有する樹脂組成物から形成されており、樹脂組成物にはアミノ基を有するシランカップリング剤がさらに含有されているか、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されたバインダー層が赤外線吸収層とガラス基板の間に設けられている。本発明の赤外線吸収フィルターによれば、赤外線吸収層がガラス基板に好適に固定され、赤外線吸収層がガラス基板から剥離しにくくすることができる。
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分の少なくとも一部としてシクロオレフィンを用い、これを重合して得られる(共)重合体であり、主鎖の一部に脂環構造を有する。シクロオレフィン系樹脂は、主鎖の分子骨格に嵩高い脂環構造を有するため、立体障害が大きく、ポリマー鎖が配列しにくい。そのため、シクロオレフィン系樹脂は結晶化しにくく、透明性に優れたものとなる。また、シクロオレフィン系樹脂は、耐候性にも優れている。従って、赤外線吸収層をシクロオレフィン系樹脂から形成することにより、光線透過率が高く、耐候性に優れた赤外線吸収フィルターを得ることができる。
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分が1種または2種以上のシクロオレフィンからなる(共)重合体であってもよいし、モノマー成分としてシクロオレフィンと他の単量体を含む共重合体であってもよい。シクロオレフィン系樹脂が共重合体である場合、共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、交互共重合体であってもよい。
シクロオレフィン系樹脂は、下記式(1)または下記式(2)で表される繰り返し単位を有していることが好ましい。式(1)または式(2)で表される繰り返し単位を有するシクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンとして反応性の高いノルボルネン類をモノマー成分として用いるため、シクロオレフィン系樹脂の製造が容易になる。ノルボルネン類の重合反応としては、付加重合(他のオレフィン類との付加共重合を含む)や開環メタセシス重合が知られており、前者の重合方法により式(1)で表される繰り返し単位を有するシクロオレフィン系樹脂が得られ、後者の重合方法により式(2)で表される繰り返し単位を有するシクロオレフィン系樹脂が得られる。
なお、ノルボルネン類は、オレフィン類とシクロペンタジエンとをディールス・アルダー反応させることにより合成でき、オレフィン類の二重結合炭素の置換基を変えることにより、様々な種類のノルボルネン類を合成することができる。
[式(1)中、mは0〜3の整数を表し、R11〜R14は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、またはアルコキシカルボニルアルキル基を表す。]
[式(2)中、nは0〜3の整数を表し、R21〜R24は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、またはアルコキシカルボニルアルキル基を表す。]
シクロオレフィン系樹脂は、繰り返し単位中にノルボルナン骨格を有していることが好ましい。従って、式(1)および式(2)中、mは0〜3の整数であることが好ましく、nは1〜3の整数であることが好ましい。シクロオレフィン系樹脂の繰り返し単位中にノルボルナン骨格があれば、シクロオレフィン系樹脂の立体障害が大きくなって結晶化しにくくなり、透明性を高めやすくなる。また、ノルボルナン骨格を有することにより、分子量が増えてガラス転移温度を高めることができ、シクロオレフィン系樹脂の耐熱性を高めることができる。なお、モノマー成分であるノルボルネン類の製造容易性の点から、mは0〜2がより好ましく、0または1がさらに好ましく、またnは1または2がより好ましく、1がさらに好ましい。
式(1)および式(2)において、R11〜R14とR21〜R24のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24のアルキル基とアルコキシ基は、炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24のシクロアルキル基は、炭素数が5〜10であることが好ましく、6〜8がより好ましい。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基やシクロヘキシル基等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24のアルケニル基とアルキニル基は、炭素数が2〜10であることが好ましく、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。アルケニル基としては、エテニル基や2−プロペニル基等が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基や2−プロピニル基等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24のアルコキシカルボニル基は、炭素数が2〜10であることが好ましく、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24のアルコキシアルキル基は、炭素数が2〜10であることが好ましく、2〜7がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基(CH3OCH2−)、エトキシメチル基(C2H5OCH2−)、メトキシエチル基(CH3OC2H4−)等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24のアルコキシカルボニルアルキル基は、炭素数が3〜10であることが好ましく、3〜8がより好ましく、3〜6がさらに好ましい。アルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基(CH3OCOCH2−)、エトキシカルボニルメチル基(C2H5OCOCH2−)、メトキシカルボニルエチル基(CH3OCOC2H4−)等が挙げられる。
R11〜R14とR21〜R24は、シクロオレフィン樹脂の製造容易性(ノルボルネン類の合成やノルボルネン類の重合制御の容易性)の点から、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、またはアルコキシカルボニルアルキル基であることが好ましい。また、R11〜R14のうち2つ以上は水素原子であり、R21〜R24のうち2つ以上は水素原子であることが好ましい。
式(1)および式(2)において、例えば、R11〜R14は全て水素原子であってもよく、R21〜R24も全て水素原子であってもよい。この場合、赤外線吸収層の耐熱性を高めやすくなり、また防湿性や酸やアルカリに対する耐薬品性も高めることができる。
式(1)および式(2)において、R11〜R14のうちの少なくとも1つ、またR21〜R24のうちの少なくとも1つは、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、またはアルコキシカルボニルアルキル基であってもよい。シクロオレフィン系樹脂がこのような官能基を有していれば、アミノ基を有するシランカップリング剤と相互作用しやすくなり、赤外線吸収層とガラス基板の密着性を高めやすくなる。なお、これらの官能基は耐薬品性の点からあまり多く設けられないことが好ましく、従って、R11〜R14またはR21〜R24にアルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、およびアルコキシカルボニルアルキル基から選ばれる極性官能基が含まれる場合、R11〜R14のうちの1つまたはR21〜R24のうちの1つが当該極性官能基であることが好ましい。
シクロオレフィン系樹脂は、式(1)または式(2)で表される繰り返し単位を50質量%以上の割合で有していることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。シクロオレフィン系樹脂は、実質的に式(1)または式(2)で表される繰り返し単位のみから構成されていてもよい。また、式(1)で表される繰り返し単位を複数種有していてもよく、式(2)で表される繰り返し単位を複数種有していてもよい。
シクロオレフィン系樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位と式(2)で表される繰り返し単位の両方を有していてもよい。この場合、シクロオレフィン系樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位と式(2)で表される繰り返し単位を合わせて50質量%以上の割合で有していることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
シクロオレフィン系樹脂は、式(1)または式(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有していてもよい。この場合、ノルボルネン類以外のモノマー成分としては、例えば、エチレン、プロピレン等の鎖状オレフィン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル類;ヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のビニルエーテル類等が示される。またシクロオレフィン系樹脂は、式(1)または式(2)で表される脂環構造以外の、例えば、2,4−ジメチレン−ビシクロ[3.3.0]オクタン等の脂環構造を有する繰り返し単位を有していてもよい。これらの中でも、他の繰り返し単位としては、鎖状または環状の炭化水素からなる繰り返し単位であることが好ましく、これによりシクロオレフィン系樹脂に式(1)または式(2)で表される繰り返し単位に由来する性質を付与しやすくなる。
シクロオレフィン系樹脂は市販品を用いてもよく、例えば、ポリプラスチック社製のTOPAS(登録商標)、三井化学社製のAPEL(登録商標)、日本ゼオン社製のZEONEX(登録商標)およびZEONOR(登録商標)、JSR社製のARTON(登録商標)等を用いることができる。
赤外線吸収層中のシクロオレフィン系樹脂の含有量は、ガラス基板との密着性、シクロオレフィン系樹脂の成形性等を勘案して適宜調整すればよいが、例えば、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、また99.5質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下がさらに好ましい。
フタロシアニン系化合物について説明する。フタロシアニン系化合物は、フタロシアニン骨格(すなわち4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された構造)を有し、一般に赤外領域(特に近赤外領域)の波長を吸収することが知られている。赤外線吸収層にフタロシアニン系化合物が含まれることで、赤外線吸収フィルターを透過する光から赤外線をカットすることができる。また、フタロシアニン系化合物は分解温度が高いため、赤外線吸収フィルターが高温下におかれても赤外線吸収能が損なわれにくくなる。
本発明の赤外線吸収フィルターは、赤外線吸収層に含まれるフタロシアニン系化合物として、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物を用いる。このようなフタロシアニン系化合物を用いることにより、バインダーとして用いられるアミノ基を有するシランカップリング剤がシクロオレフィン系樹脂に作用しやすくなり、赤外線吸収層とガラス基板との密着性(接着性)が確保されると考えられる。なお以下において、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物を、「特定フタロシアニン系化合物」と称する場合がある。
特定フタロシアニン系化合物は、赤外線吸収層とガラス基板との密着性(接着性)を高める点から、エステル結合をできるだけ有しないことが好ましい。従って、特定フタロシアニン系化合物は、1分子中にエステル結合を4個以下有するか、エステル結合を有しないことが好ましく、1分子中にエステル結合を2個以下有するか、エステル結合を有しないことが好ましく、エステル結合を有しないことがさらに好ましい。
特定フタロシアニン系化合物は、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
式(3)中、Mは、金属原子、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表し、R1a〜R1d、R2a〜R2d、R3a〜R3dおよびR4a〜R4dは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または、置換基を有していてもよいアリールオキシ基を表す。Mを構成する金属元素は、酸素やハロゲン等の他の元素と結合していても配位していてもよい。
式(3)において、Mを構成する金属元素としては、銅、亜鉛、インジウム、コバルト、バナジウム、鉄、ニッケル、錫、銀、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、鉛等が挙げられる。これらの金属元素の中でも、可視光透過性や耐光性の点から、銅、バナジウム、および亜鉛が好ましく、銅および亜鉛がより好ましい。銅フタロシアニン(フタロシアニンの銅錯体)は、光による劣化が少なく、優れた耐光性を有する。亜鉛フタロシアニン(フタロシアニンの亜鉛錯体)は、光選択透過性の高い赤外線吸収フィルターを得る場合に特に有用である。また、銅フタロシアニンも亜鉛フタロシアニンも、シクロオレフィン系樹脂への溶解性に優れている。
式(3)において、R1a〜R1d、R2a〜R2d、R3a〜R3dおよびR4a〜R4dのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
R1a〜R1d、R2a〜R2d、R3a〜R3dおよびR4a〜R4dの置換基を有していてもよいアルコキシ基は、炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アルコキシ基に結合していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基には、エステル結合を有する置換基(例えば、アルコキシカルボニル基、アルコキシアルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アリールオキシカルボニル基等)が結合していてもよいが、この場合は、式(3)の化合物中に含まれるエステル結合の数が8個未満となるようにする。なお、アルコキシ基に結合していてもよい置換基は、エステル結合を有しないことが好ましい。
R1a〜R1d、R2a〜R2d、R3a〜R3dおよびR4a〜R4dの置換基を有していてもよいアリールオキシ基は、炭素数が6〜15であることが好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10がさらに好ましい。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基に結合していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。アリールオキシ基には、エステル結合を有する置換基(例えば、アルコキシカルボニル基、アルコキシアルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アリールオキシカルボニル基等)が結合していてもよいが、この場合は、式(3)の化合物中に含まれるエステル結合の数が8個未満となるようにする。なお、アリールオキシ基に結合していてもよい置換基は、エステル結合を有しないことが好ましい。
式(3)で表される化合物は、フタロシアニン骨格にハロゲン原子または電子供与性基が結合していることが好ましい。従って、R1a〜R1d、R2a〜R2d、R3a〜R3dおよびR4a〜R4dのうちの1つ以上は、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または、置換基を有していてもよいアリールオキシ基であることが好ましい。なお、実際のフタロシアニン系化合物の合成方法を勘案すれば、R1a〜R1dのうちの1つ以上、R2a〜R2dのうちの1つ以上、R3a〜R3dのうちの1つ以上、およびR4a〜R4dのうちの1つ以上は、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または、置換基を有していてもよいアリールオキシ基であることが好ましい。ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基は電子供与性基であるため、フタロシアニン骨格にこれらの置換基が結合していれば、フタロシアニン系化合物の吸収波長が長波長側にシフトし、赤外領域での吸収能を高めることができる。さらに、アルコキシ基やアリールオキシ基に置換基が結合する場合、それらの置換基が電子供与性であればフタロシアニン系化合物における吸収波長の長波長側シフトに寄与するため好ましく、電子求引性であればフタロシアニン系化合物の耐久性向上に寄与するため好ましい。
フタロシアニン系化合物の溶解性を高める点から、フタロシアニン骨格に結合しうるハロゲン原子や、フタロシアニン骨格に結合しうるアルコキシ基やアリールオキシ基に結合してもよいハロゲン原子は、フッ素原子または塩素原子であることが好ましい。また、R1a〜R1dのうちの1つ以上、R2a〜R2dのうちの1つ以上、R3a〜R3dのうちの1つ以上、およびR4a〜R4dのうちの1つ以上は、置換基を有していてもよいアリールオキシ基であることが好ましい。なお、溶解性向上の点からは、置換基を有していてもよいアリールオキシ基は、RkaとRkd(kは1〜4の整数を表す)の両方に結合していることが好ましい。これは、置換基を有していてもよいアリールオキシ基がRkaとRkd(kは1〜4の整数を表す)の両方に結合することで、立体効果によりフタロシアニン分子が歪み、溶解性が向上するためである。また、耐久性向上の点からは、置換基を有していてもよいアリールオキシ基は、RkbとRkc(kは1〜4の整数を表す)のどちらか一方または両方に結合していることが好ましい。これは、置換基を有していてもよいアリールオキシ基がRkbとRkc(kは1〜4の整数を表す)のどちらか一方または両方に結合することで、フタロシアニン分子の平面性が増して分子どうしの会合が促進され、単分子の場合よりも熱や光の影響を受けにくくなるからである。
特定フタロシアニン系化合物は、600nm〜900nmの波長域に吸収極大波長を有することが好ましい。特定フタロシアニン系化合物がこのような波長域に吸収極大波長を有していれば、特に600nm〜1000nmの領域の光(電磁波)を吸収しやすくなり、近赤外線に起因する光学ノイズを低減あるいは除去することが可能となる。そのため、可視光透過率が高く、かつ近赤外領域の波長の遮断性能優れた赤外線吸収フィルターを得ることが可能となる。また、そのような赤外線吸収フィルターは、光学ノイズの低減性能に優れたものとなる。例えば、上記式(3)で表される特定フタロシアニン系化合物を用いれば、このような波長域に吸収極大を有しやすくなる。
特定フタロシアニン系化合物は、より好ましくは600nm〜800nmの波長域に吸収極大波長を有し、650nm〜750nmの波長域に吸収極大波長を有することがさらに好ましい。なお、特定フタロシアニン系化合物は、400nm以上600nm未満の波長域に実質的に吸収極大波長を有しないことが好ましい。また、特定フタロシアニン系化合物は、350nm〜1000nmの波長範囲において、600nm〜900nmの波長域に最大吸収ピーク波長を有することが好ましい。なお、「吸収極大波長」とは、波長と吸光度との関係を、X軸を波長としY軸を吸光度としてXY平面の2次元のグラフで表した場合に、吸光度が増加から減少に転じる点の波長を意味する。また、「最大吸収ピーク波長」とは、吸収極大波長の中で吸光度が最大のものを意味する。
赤外線吸収層には、2種以上の特定フタロシアニン系化合物が含まれていてもよく、また特定フタロシアニン系化合物以外のフタロシアニン系化合物が含まれていてもよい。例えば、赤外線吸収層に、600nm〜900nmの波長域に吸収極大波長を有するフタロシアニン系化合物が2種類以上含まれていれば、幅広い波長範囲の赤外線を吸収することが可能となる。なお、特定フタロシアニン系化合物は、赤外線吸収層に含まれる全フタロシアニン系化合物のうちの75モル%以上の割合となることが好ましく、85モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、赤外線吸収層には実質的にフタロシアニン系化合物として特定フタロシアニン系化合物のみが含まれることが特に好ましい。
赤外線吸収層中のフタロシアニン系化合物の含有量は、赤外線の吸収能と可視光線の透過性のバランス、ガラス基板との密着性、シクロオレフィン系樹脂の成形性等を勘案して適宜調整すればよいが、例えば、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、また30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
フタロシアニン系化合物は、公知の方法を用いて合成すればよく、一般には、フタロニトリル誘導体を無溶媒または有機溶媒の存在下で加熱することで得ることができる。フタロシアニン系化合物の合成は、例えば、特公平06−031239号公報、特許第3721298号公報、特許第3226504号公報、特開2010−077408号公報等を参考にすることができる。
アミノ基を有するシランカップリング剤について説明する。アミノ基を有するシランカップリング剤は、ケイ素原子に、アルコキシ基等の加水分解性基と、アミノ基を有する置換基が結合したものであれば、特に制限なく用いることができる。シランカップリング剤は、アミノ基を有する置換基とアルコキシ基以外の置換基がケイ素原子に結合していてもよい。アミノ基を有するシランカップリング剤は、ガラス基板と赤外線吸収層とのバインダーとして機能し、加水分解性基によってガラス基板と結合し、アミノ基によって赤外線吸収層のシクロオレフィン系樹脂と相互作用し、赤外線吸収層のガラス基板への密着性(接着性)が高まると考えられる。
フタロシアニン系化合物を含有するシクロオレフィン系樹脂は、単にガラス基板上に塗工しただけではガラス基板への十分な密着性が得られず、特に高温高湿の過酷な条件下では、ガラス基板から剥離しやすくなる。本発明では、シクロオレフィン系樹脂(赤外線吸収層)とガラス基板との密着性を確保するために、特に高温高湿条件下でも十分な密着性を示すようにするために、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いている。シランカップリング剤に含まれるアミノ基が、どのような相互作用によりシクロオレフィン系樹脂との密着性を高めているのかは不明であるが、本発明者らが様々な種類のシランカップリング剤を用いて検討したところ、アミノ基を有するシランカップリング剤が、シクロオレフィン系樹脂とガラス基板との密着性を高めるのに特に有効であることが明らかになった。例えば、繰り返し単位中に極性官能基を有するシクロオレフィン系樹脂を用いた場合だけでなく、繰り返し単位中に極性官能基を有さず脂環構造のみを有するシクロオレフィン系樹脂を用いた場合でも、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることにより、ガラス基板との密着性を高めることができることが分かった。
アミノ基を有するシランカップリング剤は、ケイ素原子に、アミノ基を有する置換基と、2つまたは3つの同一または異なるアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基)が結合したものであることが好ましい。ケイ素原子にアルコキシ基が2つまたは3つ結合していれば、シランカップリング剤がガラス基板に結合するとともに、シランカップリング剤どうしがシロキサン結合することができ、シランカップリング剤がガラス基板に強固に固定されやすくなる。好ましくは、シランカップリング剤は、ケイ素原子にアルコキシ基が3つ結合している。
アミノ基を有する置換基は、ケイ素原子に、1つまたは2つ結合していることが好ましく、1つのみ結合していることがより好ましい。アミノ基を有する置換基は、当該置換基中に、アミノ基を1つのみ有するものであっても、2つ以上有するものであってもよい。アミノ基は、第1級アミノ基または第2級アミノ基であることが好ましく、第1級アミノ基と第2級アミノ基の両方を有していてもよい。好ましくは、シランカップリング剤は少なくとも第1級アミノ基を有しており、これにより、シクロオレフィン系樹脂(赤外線吸収層)とガラス基板との密着性を高めやすくなる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、(2−アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種のみを用いても2種以上を用いてもよい。アミノ基を有するシランカップリング剤としては、シクロオレフィン系樹脂(赤外線吸収層)とガラス基板との密着性を確保しやすく、また入手が容易な点から、3−アミノプロピルトリアルコキシシランや3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリアルコキシシランを用いることが好ましい。
アミノ基を有するシランカップリング剤は、3−アミノプロピルトリメトキシシランが信越シリコーン社製KBM−903として入手でき、3−アミノプロピルトリエトキシシランが東レ・ダウコーニング社製Z−6011として入手でき、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが東レ・ダウコーニング社製Z−6020として入手できる。
アミノ基を有するシランカップリング剤は、シクロオレフィン系樹脂と混合されて、当該シランカップリング剤に由来する構造が赤外線吸収層中に存在していてもよく、アミノ基を有するシランカップリング剤により、赤外線吸収層とは別のバインダー層が赤外線吸収層とガラス基板の間に形成されてもよい。前者の場合、本発明の赤外線吸収フィルターは、ガラス基板と、ガラス基板上に設けられた赤外線吸収層とを有し、赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物と、アミノ基を有するシランカップリング剤を含有する樹脂組成物から形成されるものとなる(以下、第1実施態様に係る赤外線吸収フィルターと称する)。後者の場合、本発明の赤外線吸収フィルターは、ガラス基板と、ガラス基板上に設けられた赤外線吸収層とを有し、赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物を含有する樹脂組成物から形成され、赤外線吸収層とガラス基板の間に、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されたバインダー層が設けられるものとなる(以下、第2実施態様に係る赤外線吸収フィルターと称する)。いずれの場合も、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることで、赤外線吸収層がガラス基板から剥がれにくくなり、赤外線吸収層のガラス基板への密着性を高めることができる。そのため、本発明の赤外線吸収フィルターは耐熱性や耐候性に優れたものとなり、半田リフローにより赤外線吸収フィルターを電子部品に実装することが可能となる。また、真夏の炎天下や高湿の環境下でも赤外線吸収層の剥がれが起こりにくくなる。
第1実施態様に係る赤外線吸収フィルターでは、赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物と、アミノ基を有するシランカップリング剤とを含有する樹脂組成物(以下、「樹脂組成物A」と称する)から形成される。樹脂組成物Aは、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物と、アミノ基を有するシランカップリング剤とを含有し、ガラス基板上に赤外線吸収層を形成するのに好適に用いられる。すなわち樹脂組成物Aは、ガラス基板上への赤外線吸収層の形成用であって、シクロオレフィン系樹脂と、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物と、アミノ基を有するシランカップリング剤とを含有するものである。
樹脂組成物Aにおいて、シクロオレフィン系樹脂は有機溶媒に溶解していることが好ましい。すなわち、樹脂組成物Aは有機溶媒を含有していることが好ましい。この場合、樹脂組成物Aを溶媒キャスト法やスピンコート法等によってガラス基板上に成膜することができるようになるため、比較的低温でガラス基板上に樹脂層を形成することができるとともに、赤外線吸収層をガラス基板上に均一に形成することが容易になる。また、赤外線吸収層の薄膜化も可能となり、より小型化された光学デバイス等を得ることが可能となる。
有機溶媒としては、シクロオレフィン系樹脂の溶解性の点から、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が好適に用いられる。
樹脂組成物Aが有機溶媒を含む場合、有機溶媒100質量部に対して、シクロオレフィン系樹脂は1質量部以上含まれることが好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、また30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がより好ましい。このようにシクロオレフィン系樹脂の濃度を調整することにより、シクロオレフィン系樹脂が有機溶媒に均一に溶解しやすくなり、また溶媒キャスト法やスピンコート法等によりガラス基板上に成膜しやすくなる。
フタロシアニン系化合物は、樹脂組成物A中、シクロオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上含まれることが好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、また30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。アミノ基を有するシランカップリング剤は、樹脂組成物A中、シクロオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上含まれることが好ましく、1質量部以上がより好ましく、また8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。このように各成分の含有量を調整することにより、ガラス基板との密着性に優れた赤外線吸収層を形成しやすくなる。
溶媒を含む樹脂組成物Aの塗工方法としては、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等が好適に用いられる。これらの中でも、スピンコート法が、薄くて均一な厚みの赤外線吸収層を得やすい点で、好ましく用いられる。スピンコート法では、例えば、樹脂組成物Aをガラス基板上に載せた後、室温(25℃)付近で、回転数500rpm〜4000rpmで10秒〜60秒間程度回転させることにより、ガラス基板上に薄くて均一な厚みの塗膜を形成することができる。その後、加熱処理を行うことにより、溶媒が除去されてシクロオレフィン系樹脂が硬化あるいは乾燥し、ガラス基板上に、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物と、アミノ基を有するシランカップリング剤を含有する赤外線吸収層を形成することができる。この際、アミノ基を有するシランカップリング剤がガラス基板と結合するとともに、シクロオレフィン系樹脂と相互作用することにより、赤外線吸収層がガラス基板に固定されるものと考えられる。加熱処理は、80℃〜250℃(好ましくは100℃〜220℃)で、5分〜60分行うことが好ましい。加熱処理は、温度条件を変えて2段階で行ってもよく、例えば、2段階目の加熱処理を1段階目の加熱処理よりも高温で行うことが好ましい。また、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
第2実施態様に係る赤外線吸収フィルターでは、赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物とを含有する樹脂組成物(以下、「樹脂組成物B」と称する)から形成される。そして、赤外線吸収層とガラス基板の間に、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されたバインダー層が設けられる。
バインダー層はアミノ基を有するシランカップリング剤から形成されるが、バインダー層がガラス基板上にできるだけ均一に形成されるようにする点から、バインダー層は、アミノ基を有するシランカップリング剤と溶媒とを含有するバインダー用組成物から形成されることが好ましい。この際、シランカップリング剤の加水分解を促進してガラス基板との結合を強める点から、溶媒として、水および/またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)を用いることが好ましい。溶媒として水および/またはアルコールを用いることにより、シランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解してシラノール基が生成し、このシラノール基がガラス基板表面にある水酸基と脱水縮合することにより、ガラス基板と強固に結合することができる。その結果、ガラス基板とバインダー層との密着性を高めることができる。
バインダー用組成物における溶媒の含有量は、バインダー用組成物100質量%中、92質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましく、また99.9質量%以下が好ましく、99.5質量%以下がより好ましい。また、バインダー用組成物におけるアミノ基を有するシランカップリング剤の含有量は、バインダー用組成物100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、また5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
バインダー用組成物は、加水分解触媒を含有していることが好ましい。バインダー用組成物に加水分解触媒が含まれていれば、シランカップリング剤のアルコキシ基の加水分解反応が促進される。加水分解触媒としては、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の塩基;硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸等の有機酸等が挙げられる。これらの中でも有機酸を用いることが好ましい。
バインダー用組成物における触媒の含有量は、バインダー用組成物100質量%中、0.0001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
バインダー層は、バインダー用組成物をガラス基板上に塗工した後、加熱処理することにより、ガラス基板上に形成することが好ましい。これにより、バインダー用組成物に含まれる溶媒が揮発するとともに、シランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解して生成したシラノール基が、ガラス基板表面にある水酸基と脱水縮合して結合し、ガラス基板上にバインダー層が強固に固定されるようになる。
バインダー用組成物の塗工方法としては、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等が好適に用いられる。これらの中でも、スピンコート法が、薄くて均一な厚みのバインダー層を得やすい点で、好ましく用いられる。スピンコート法では、例えば、バインダー用組成物をガラス基板上に載せた後、室温(25℃)付近で、回転数500rpm〜4000rpmで10秒〜60秒間程度回転させることにより、ガラス基板上に薄くて均一な厚みの塗膜を形成することができる。その後、加熱処理を、例えば、60℃〜150℃(好ましくは80℃〜120℃)で5分〜30分行うことにより、アミノ基を有するシランカップリング剤がガラス基板上に固定され、ガラス基板上にバインダー層を形成することができる。
樹脂組成物Bは、アミノ基を有するシランカップリング剤を含有しない点を除いて、樹脂組成物Aと同様に調製することができる。樹脂組成物Bは、シクロオレフィン系樹脂と、特定フタロシアニン系化合物とを含有し、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されたバインダー層を介してガラス基板上に赤外線吸収層を形成するのに好適に用いられる。すなわち樹脂組成物Bは、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されたバインダー層上への赤外線吸収層の形成用であって、シクロオレフィン系樹脂と、1分子中にエステル結合を8個未満有する又はエステル結合を有しないフタロシアニン系化合物とを含有するものである。
樹脂組成物Bも有機溶媒を含有することが好ましく、樹脂組成物Aの場合と同様にバインダー層上に塗工し、加熱処理することが好ましい。これにより、バインダー層上に赤外線吸収層が形成されるとともに、バインダー層に含まれるアミノ基が赤外線吸収層のシクロオレフィン系樹脂と相互作用して、赤外線吸収層がバインダー層を介してガラス基板上に強固に固定され、赤外線吸収層とガラス基板との密着性が高められる。
赤外線吸収層は、シクロオレフィン系樹脂、特定フタロシアニン系化合物、アミノ基を有するシランカップリング剤以外に、目的に応じて、適宜添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、硬化剤、レベリング剤、顔料、顔料分散剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、耐光安定剤、金属不活性化剤、過酸化物分解剤、充填剤、補強材、可塑剤、潤滑剤、防食剤、防錆剤、乳化剤、鋳型脱型剤、蛍光性増白剤、有機防炎剤、無機防炎剤、滴下防止剤、溶融流改質剤、静電防止剤、すべり付与剤、密着性付与剤、防汚剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤、光増感剤、表面改良剤、密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤等が挙げられる。
赤外線吸収層は、任意の有機微粒子または無機微粒子を含有してもよい。有機微粒子または無機微粒子は、例えば、赤外線吸収層に、屈折率や導電性等に関する機能を付与するために用いられる。赤外線吸収層の高屈折率化や導電性付与に有用な微粒子の具体例として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。一方、赤外線吸収層の低屈折率化に有用な微粒子の具体例として、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ等が挙げられる。防眩性付与に有用な微粒子の具体例としては、上記の微粒子に加え、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等の無機微粒子:シリコーン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びこれらの共重合樹脂等の有機微粒子が挙げられる。赤外線吸収層は、これらの微粒子を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
赤外線吸収層は、ガラス基板の片面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。赤外線吸収層の厚みは、赤外線吸収フィルターの使用目的や使用環境に応じて適宜設定すればよいが、所望の赤外線カット性能を確保し、かつ薄型化を実現する点から、例えば、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、また100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
本発明の赤外線吸収フィルターは、上記に説明したガラス基板、赤外線吸収層、バインダー層以外に、他の層を有していてもよい。なお、他の層は、ガラス基板と赤外線吸収層の間には設けられない。他の層としては、外気側に蛍光灯等の映り込みを低減する反射防止性や防眩性を有する層、傷付き防止性能を有する層、その他の機能を有する透明基材等が挙げられる。
赤外線吸収フィルターは、赤外線吸収層上に赤外線反射膜(特に近赤外線反射膜)が設けられていることが好ましい。例えば、赤外線反射膜は、赤外線吸収層のガラス基板とは反対側の面に設けられていることが好ましい。赤外線反射膜は、赤外線を反射する能力を有する膜である。赤外線反射膜としては、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化錫を少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜等を用いることができる。赤外線吸収フィルターに赤外線反射膜が設けられていれば、赤外線吸収フィルターの透過光から赤外線をよりカットすることができる。なお、赤外線反射膜は、紫外線反射機能を同時(同膜)に含んでいてもよい。
赤外線反射膜の中では、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を用いるのが好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常1.7〜2.5の材料が選択される。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素を含有ドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常1.2〜1.6の材料が選択される。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
本発明の赤外線吸収フィルターは、赤外線吸収層とガラス基板との密着性に優れ、特に高温高湿条件下でも十分な密着性を示すため、耐候性にも優れている。そのため、例えば、カメラモジュール(固体撮像素子)用途における光ノイズを遮断し視感度補正するための光選択透過フィルターとして用いたり、また、様々な環境にさらされる自動車や建物等のガラス等に装着される熱線カットフィルター等に用いることもできる。
本発明の赤外線吸収フィルターは、撮像素子用途に特に好適である。本発明には、赤外線吸収フィルターを有する撮像素子も含まれる。撮像素子は、固体撮像素子やイメージセンサチップとも称され、被写体の光を電気信号に変換し、電気信号として出力する電子部品である。撮像素子は、通常、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の検出素子(センサー)を有し、レンズを有していてもよい。撮像素子は、例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いられる。撮像素子は、本発明の赤外線吸収フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他の部材を有していてもよい。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
(1)フタロシアニン系化合物の合成
(1−1)合成例1(フタロシアニンAの合成)
100mlの4ツ口フラスコに、3,6−ジフルオロ−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)フタロニトリル12.73g(26.2mmol)、酸化亜鉛0.64g(7.9mmol)、p−トルエンスルホン酸0.095g(0.6mmol)、ベンゾニトリル50mlを仕込み、還流温度で撹拌下約5時間保った。その後、冷却した反応液をイソプロピルアルコール500ml中に投入し、得られた固形物をろ過し、さらにイソプロピルアルコール200mlで洗浄しフタロシアニンAを1.36g(収率10.3%)得た。フタロシアニンAの反応を、下記に簡略化して示す。フタロシアニンAは吸収極大を667nmに有しており、吸光度が最も大きい波長(最大吸収ピーク波長)は667nmであった。
(1−2)合成例2(フタロシアニンBの合成)
1000mlの3つ口フラスコに、3−ニトロフタロニトリル100g(0.58mol)、炭酸カリウム159.7g(1.16mol)、2,6−ジクロロフェノール104.6g(0.64mol)、アセトニトリル400gを仕込んだ。60℃で一晩撹拌し反応させた後に、反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトニトリルを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥することにより、中間体Bを100.9g(収率60.4%)得た。
次いで、300mlの4つ口フラスコに、中間体B60.0g(0.21mol)、塩化銅(I)5.65g(0.057mol)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル140.0gを仕込み、160℃で撹拌しながら24時間反応させた後、メチルセロソルブ100.0gを加えて反応液を作製した。この反応液をメタノールと水の混合溶液に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。得られたケーキを再度、メタノールと水との混合溶液で撹拌洗浄し、吸引ろ過し、その後、真空乾燥機を用いて90℃で24時間乾燥し、フタロシアニンBを51.48g(収率81.3%)得た。中間体BからフタロシアニンBの反応を、下記に簡略化して示すが、下記において、RkaとRkd(kは1〜4の整数を表す)の一方には2,5−ジクロロフェノキシ基が結合し、他方には水素原子が結合している。フタロシアニンBは630nmと701nmに吸収極大を有し、吸光度が最も大きい波長(最大吸収ピーク波長)は701nmであった。
(1−3)合成例3(フタロシアニンCの合成)
50mlの3つ口フラスコに、4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3−ジメチルフェノキシ−6−フルオロフタロニトリル10g(0.017mol)、ヨウ化亜鉛(II)1.49g(0.047mol)、ベンゾニトリル20gを仕込み、窒素気流下で撹拌しながら165℃に昇温し、同温度で約16時間反応させた。その後、ベンゾニトリルを留去し、メタノール100gに投入して1時間撹拌して洗浄し、吸引ろ過した後、60℃で真空乾燥させ、フタロシアニンCを8.01g(収率77.8%)得た。フタロシアニンCの合成反応を、下記に簡略化して示すが、下記において、RkaとRkd(kは1〜4の整数を表す)の一方には2,5−ジメチルフェノキシ基が結合し、他方にはフッ素原子が結合している。フタロシアニンCは644nmと717nmに吸収極大を有し、吸光度が最も大きい波長(最大吸収ピーク波長)は717nmであった。
(1−4)合成例4(フタロシアニンDの合成)
1000mlの4つ口セパラブルフラスコに、テトラフルオロフタロニトリル54g(0.27mol)、フッ化カリウム34.5g(0.59mol)、アセトン126gを仕込み、さらに滴下ロートに3−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル127g(0.55mol)およびアセトン216gを仕込んだ。反応容器を氷冷下、撹拌しながら、滴下ロートより3−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル溶液を約2時間かけて滴下した後、さらに2時間撹拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩撹拌した。反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥することにより、中間体Dを108.7g(収率64.8%)得た。
次いで、200mlの4つ口フラスコに、中間体D20.0g(0.032mol)、ヨウ化亜鉛(II)2.57g(0.0081mol)、ベンゾニトリル30.0gを仕込み、160℃で撹拌しながら24時間反応させた後、メチルセロソルブ52.7gを加えて反応液を作製した。この反応液をメタノールと水の混合溶液に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。得られたケーキを再度、メタノールと水との混合溶液で撹拌洗浄し、吸引ろ過し、その後、真空乾燥機を用いて90℃で24時間乾燥し、フタロシアニンDを17.78g(収率86.7%)得た。中間体DからフタロシアニンDの反応を、下記に簡略化して示す。フタロシアニンDは吸収極大を667nmに有しており、吸光度が最も大きい波長(最大吸収ピーク波長)は667nmであった。
(2)赤外線吸収フィルターの作製
(2−1)作製例1
シクロオレフィン系樹脂であるJSR社製ARTON(登録商標)樹脂100質量部とo−ジクロロベンゼン900質量部からなる混合液に、フタロシアニンA(エステル結合を有しないフタロシアニン)5質量部と3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製KBM903)3質量部を溶解し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をろ過して不溶分等を取り除いた後、ガラス基板(SCHOTT社製D263Teco、60mm×60mm×0.3mm)上に0.6ml載せ、スピンコーター(ミカサ株式会社製1H−D7)を用いて、0.2秒間かけて回転数を1000rpmまで上げた後、10秒間その回転数を保持し、その後0.2秒間かけて回転を止め、ガラス基板上に樹脂組成物を成膜した。これを、精密恒温器(ヤマト科学社製DH611)を用いて、100℃で3分間加熱し、次いで200℃で30分間加熱することで、ガラス基板上に赤外線吸収層が形成された赤外線吸収フィルターを得た。得られた赤外線吸収フィルターの赤外線吸収層の厚みは1μmであった。なお、赤外線吸収層の厚みは、赤外線吸収フィルターの厚みとガラス基板の厚みをマイクロメーターを用いて測定し、両者の差から求めた。
(2−2)作製例2
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製KBM−903)1.52質量部とエタノール2質量部と水0.455質量部とギ酸0.26質量部とからなる混合液をエタノールで100倍に希釈(混合液1質量部に対しエタノール99質量部を配合)して、バインダー用組成物Pを調製した。ガラス基板(SCHOTT社製D263Teco、60mm×60mm×0.3mm)上にバインダー用組成物Pを1ml載せ、スピンコーター(ミカサ株式会社製1H−D7)を用いて、3秒間かけて回転数を2200rpmまで上げた後、20秒間その回転数を保持し、その後3秒間かけて回転を止め、ガラス基板上にバインダー用組成物を成膜した。これを精密恒温器(ヤマト科学社製DH611)を用いて、100℃で10分間乾燥し、ガラス基板上にバインダー層を形成して、バインダー層形成ガラス基板を得た。
シクロオレフィン系樹脂であるJSR社製ARTON(登録商標)樹脂100質量部とo−ジクロロベンゼン900質量部からなる混合液に、フタロシアニンA(エステル結合を有しないフタロシアニン)5質量部を溶解して、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をろ過して不溶分等を取り除いた後、バインダー層形成ガラス基板上(バインダー層上)に0.6ml載せ、スピンコーター(ミカサ株式会社製1H−D7)を用いて、0.2秒間かけて回転数を1000rpmまで上げた後、10秒間その回転数を保持し、その後0.2秒間かけて回転を止め、バインダー層形成ガラス基板上に樹脂組成物を成膜した。これを、精密恒温器(ヤマト科学社製DH611)を用いて、100℃で3分間加熱し、次いで200℃で30分間加熱することで、バインダー層形成ガラス基板上に赤外線吸収層が形成された赤外線吸収フィルターを得た。得られた赤外線吸収フィルターの赤外線吸収層の厚みは1μmであった。なお、赤外線吸収層の厚みは、赤外線吸収フィルターの厚みとバインダー層形成ガラス基板の厚みをマイクロメーターを用いて測定し、両者の差から求めた。
(2−3)作製例3
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンB(エステル結合を有しないフタロシアニン)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−4)作製例4
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンB(エステル結合を有しないフタロシアニン)を用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−5)作製例5
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンC(エステル結合を有しないフタロシアニン)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−6)作製例6
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンC(エステル結合を有しないフタロシアニン)を用い、バインダー用組成物Pの代わりに、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6020)1.88質量部とエタノール2質量部と水0.455質量部とギ酸0.26質量部からなる混合液をエタノールで100倍に希釈(混合液1質量部に対しエタノール99質量部を配合)して得られたバインダー用組成物Qを用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−7)作製例7
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンBを用い、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6011)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−8)作製例8
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンBを用い、シランカップリング剤として、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6020)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−9)作製例9
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンBを用い、バインダー用組成物Pの代わりにバインダー用組成物Q(3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを含有するバインダー用組成物)を用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−10)作製例10
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−11)作製例11
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−12)作製例12
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用い、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりに3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6020)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−13)作製例13
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンBを用い、シランカップリング剤を用いなかった以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−14)作製例14
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンD(エステル結合を8個有するフタロシアニン)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−15)作製例15
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンD(エステル結合を8個有するフタロシアニン)を用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−16)作製例16
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンBを用い、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりにエポキシシランである3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6040)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは、アミノ基を有しないシランカップリング剤である。
(2−17)作製例17
フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンBを用い、バインダー用組成物Pの代わりに、エポキシシランである3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6040)2質量部とエタノール2質量部と水0.455質量部とギ酸0.26質量部からなる混合液をエタノールで100倍に希釈(混合液1質量部に対しエタノール99質量部を配合)して得られたバインダー用組成物Rを用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは、アミノ基を有しないシランカップリング剤である。
(2−18)作製例18
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用い、フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンDを用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−19)作製例19
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用い、フタロシアニンAの代わりにフタロシアニンDを用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−20)作製例20
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用い、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりにエポキシシランである3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製Z−6040)を用いた以外は、作製例1と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
(2−21)作製例21
シクロオレフィン系樹脂として、JSR社製ARTON(登録商標)樹脂の代わりに三井化学社製APEL(登録商標)樹脂を用い、バインダー用組成物Pの代わりにバインダー用組成物R(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有するバインダー用組成物)を用いた以外は、作製例2と同様にして赤外線吸収フィルターを作製した。
なお、ARTON(登録商標)樹脂は、下記式(4)で表される繰り返し単位を有するシクロオレフィン系樹脂であり、APEL(登録商標)樹脂は、下記式(5)で表される繰り返し単位と[−CH2−CH2−]の繰り返し単位を有するシクロオレフィン系樹脂であると推定している。
(3)PCT(Pressure Cooker Test)試験による評価方法
上記で作製した赤外線吸収フィルターについて、赤外線吸収層(樹脂層)にカッター(エヌティー社製A−300)で切り込みを入れ、縦列、横列にそれぞれ2mm間隔で10本のクロスカット線を設けることによって4mm2の四角を81マス作製し、評価用サンプルを作製した。次に、この評価用サンプルを、120℃、2気圧、湿度100%の高圧高温高湿槽(平山製作所社製、パーソナルプレッシャークッカーPC−242HS−E、動作モード1)に、15時間または50時間入れた。続いて、室温にて、空気が入らないようにテープ(3M(スリーエム)社製スコッチ(登録商標)透明粘着テープ透明美色(登録商標))を貼り付け、5秒間放置した。その後、評価用サンプルからのテープの剥離を1秒以内に行い、下記基準で評価した。なお、いずれのマスにおいても剥離力が一定となるようにテープの剥離を行った。
○:作製した81マスの四角のうち、1マスも剥がれが発生しなかった
△:作製した81マスの四角のうち、1〜9マスに剥がれが発生した
×:作製した81マスの四角のうち、10〜81マスに剥がれが発生した
(4)結果
表1と表2に、作製例1〜21の赤外線吸収フィルターの作製条件とPCT試験結果を示す。表1および表2において、フタロシアニンA〜Cはエステル結合を有しておらず、フタロシアニンDは1分子中にエステル結合を8個有している。また、アミノシラン1〜3はアミノ基を有するシランカップリング剤であり、エポキシシランはアミノ基を有しないシランカップリング剤である。
作製例1〜12では、フタロシアニン系化合物としてエステル結合を有しないフタロシアニンA〜Cを用い、さらにアミノ基を有するシランカップリング剤を用いたため、PCT試験前と試験後のいずれにおいても赤外線吸収層の剥がれがほとんど認められず、高温高湿の条件下でも赤外線吸収層がガラス基板に十分密着していることが確認できた。一方、シランカップリング剤を用いなかった作製例13、シランカップリング剤としてアミノ基を有さずエポキシ基を有するシランカップリング剤を用いた作製例16,17,20,21では、PCT試験前は赤外線吸収層のガラス基板への密着性がいくらか認められたものものあったが、PCT試験後は密着性が大きく低下した。1分子中にエステル結合を8個有するフタロシアニンDを用いた作製例14,15,18,19では、PCT試験前と試験後のいずれにおいても赤外線吸収層のガラス基板への密着性が不十分であった。なお、いずれの作製例においても、赤外線吸収フィルターの最大ピーク波長は、含有するフタロシアニン系化合物の最大ピーク波長と一致した。