以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
以下に示す実施の形態は、患者(被施術者)としての乳幼児の静脈からカニューレを介して脱血した血液(静脈血)と、術野である当該患者の心臓内外から吸引した血液(吸引血)とを混合して貯留することが可能に構成された乳幼児用貯血槽(いわゆるカーディオトミーリザーバを内蔵した乳幼児用貯血槽)に本発明を適用した場合を例示するものである。ここで、乳幼児(infant)とは、新生児期を満了した後の乳幼児期を含む、概ね生後4週間経過後であってかつ満6歳程度までの子供を意味する。なお、当該乳幼児用貯血槽においては、後述する静脈血流入ポートから流入する静脈血の許容最大流量が、概ね2.5[l/min]程度に設定される。
図1は、本発明の実施の形態に係る貯血槽の斜視図であり、図2は、図1に示す貯血槽の内部構造を示す一部破断側面図である。図3は、図2に示す静脈血濾過ユニットの分解斜視図であり、図4は、図2に示す吸引血濾過ユニットの分解斜視図である。図5は、図1に示す貯血槽における血液の流れを示す断面図である。まず、これら図1ないし図5を参照して、本実施の形態に係る貯血槽1の構成について説明する。
図1、図2および図5に示すように、本実施の形態に係る貯血槽1は、下部側ケーシング10と、上部側ケーシング20と、静脈血濾過ユニット30と、吸引血濾過ユニット40とを主として備えている。
下部側ケーシング10は、上端開口の容器状の部材からなり、血液を一時的に貯留することが可能なチャンバ11をその内部に有している。チャンバ11は、水平断面における断面積が相対的に小さく構成された小容量部12と、水平断面における断面積が相対的に大きく構成された大容量部13とを含んでいる。小容量部12は、チャンバ11の下部に位置しており、大容量部13は、チャンバ11の上部に位置している。これに伴い、下部側ケーシング10は、全体として下端側に向かうに連れて先細りとなる形状を有している。
また、下部側ケーシング10の所定位置には、人工心肺装置の一部である人工肺を取付けるための人工肺接続部14が設けられている。人工肺接続部14は、大容量部13を構成する下部側ケーシング10の壁部から下方に向けて突出するように設けられており、その先端に図示しない人工肺が取付けられる。
上部側ケーシング20は、平板状の部材からなり、静脈血濾過ユニット30を係止するための係止部21と、吸引血濾過ユニット40を係止するための係止部22とをその下面に有している。これら係止部21,22のそれぞれは、静脈血濾過ユニット30または吸引血濾過ユニット40を挟み込んで保持することが可能となるように、所定位置に係止孔が設けられた一対の立壁部によって構成されている。
上部側ケーシング20は、下部側ケーシング10の上端開口を閉塞するように下部側ケーシング10に組付けられる。これにより、下部側ケーシング10に設けられたチャンバ11は、上部側ケーシング20によって覆われることになる。
上部側ケーシング20の所定位置には、静脈血流入ポートP1と、吸引血流入ポートP2と、血液代替液導入ポートP3と、プライミング用ポートP4とを含む各種のポートが設けられている。一方、下部側ケーシング10の所定位置には、血液流出ポートP5が設けられている。
静脈血流入ポートP1は、患者の静脈から脱血した静脈血をチャンバ11に流入させるためのポートであり、上部側ケーシング20の略中央部に1つ設けられている。
吸引血流入ポートP2は、患者の術野から吸引した吸引血をチャンバ11に流入させるためのポートであり、上部側ケーシング20の中央部から偏心した位置に纏めて4つ設けられている。
血液代替液導入ポートP3は、チャンバ11の貯血量に極端な不足が生じた場合(すなわち、貯血量が、図2および図5において示す許容最小貯血レベルLVminを下回った場合等)に、緊急的にチャンバ11に生理食塩水をはじめとする血液代替液や輸血用血液等を補充するためのポートであり、上述した静脈血流入ポートP1に隣接して上部側ケーシング20に1つ設けられている。なお、貯血槽1内の清潔性を保つ観点から、血液代替液導入ポートP3には、上述した緊急時を除き、図示しないキャップが当該血液代替液導入ポートP3を閉塞するように取付けられる。
プライミング用ポートP4は、人工心肺装置に含まれる血液回路をプライミング液にて充填する、施術前のプライミング時において、当該プライミング液をチャンバ11に流入させるためのポートであり、上述した一群の吸引血流入ポートP2に隣接して上部側ケーシング20に1つ設けられている。
血液流出ポートP5は、チャンバ11に貯留された血液を外部(すなわち、貯血槽1に隣接して設けられた人工心肺装置の一部である図示しない血液回路)に流出させるためのポートであり、下部側ケーシング10の下端(すなわち、小容量部12の先端)に1つ設けられている。なお、当該血液流出ポートP5から流出する血液の流量は、人工心肺装置の一部である図示しない送血ポンプの動作状態によって決定される。
上述した下部側ケーシング10および上部側ケーシング20は、たとえば樹脂成形品にて構成される。その場合に、原料としてポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の透光性樹脂材料を用いることとすれば、チャンバ11の貯血量を外部から視認することが可能になる。また、下部側ケーシング10に貯血量を示す目盛を付しておけば、さらに容易に貯血量を把握することができる。
図2および図5に示すように、静脈血濾過ユニット30は、チャンバ11内に設置されることとなるように上部側ケーシング20の下面に組付けられている。より詳細には、静脈血濾過ユニット30は、上部側ケーシング20の下面から大容量部13を経由してチャンバ11の底部近傍である小容量部12の下端部近傍にまで達するようにチャンバ11内に配置されている。
図2、図3および図5に示すように、静脈血濾過ユニット30は、全体として上端開口の長尺箱状の形状を有しており、フレーム31と、静脈血用下部側フィルタ32および静脈血用上部側フィルタ33とによって主として構成されている。静脈血濾過ユニット30は、静脈血流入ポートP1から流入する静脈血を濾過し、濾過した後の血液をチャンバ11に移送するためのものである。
フレーム31は、静脈血濾過ユニット30の芯材となる部材であり、血液が通過可能な通過窓31bが複数設けられてなる枠状の部材からなる。フレーム31は、静脈血用下部側フィルタ32および静脈血用上部側フィルタ33を支持するための部材でもあり、静脈血用下部側フィルタ32および静脈血用上部側フィルタ33は、いずれもフレーム31の内側に収容されている。
フレーム31の上端部寄りの所定位置には、上部側ケーシング20に設けられた係止部21によって係止される被係止部31aが設けられている。被係止部31aは、一対の立壁部からなる係止部21に設けられた上記係止孔に係合可能な係止爪にて構成されており、フレーム31の相対して位置する一対の側面に設けられている。なお、フレーム31は、たとえば樹脂成形品にて構成される。
静脈血用下部側フィルタ32は、上端開口の袋状の形状を有しており、繊維を織成してなる織地にて構成されている。静脈血用下部側フィルタ32としては、ポリエステル繊維等の化学繊維を織成してなるスクリーンメッシュにて構成されていることが好ましく、その孔径は、概ね20[μm]〜40[μm]であることが好ましい。静脈血用下部側フィルタ32は、チャンバ11内に流入する静脈血を濾過するためのものであり、主として静脈血に含まれる血液凝固成分(血栓等)や気泡等を除去するためのものである。
静脈血用下部側フィルタ32は、フレーム31の内面に沿うように当該フレーム31に内挿されており、フレーム31に設けられた複数の通過窓31bを覆っている。これにより、静脈血用下部側フィルタ32によって濾過された後の血液は、フレーム31に設けられた複数の通過窓31bを通過して静脈血濾過ユニット30の外部に流出することになる。なお、静脈血用下部側フィルタ32は、フレーム31の外面に沿うように当該フレーム31に外挿されていてもよく、また、フレーム31の内面または外面に位置するように当該フレーム31と一体的に形成されていてもよい。
静脈血用上部側フィルタ33は、上端および下端開口の筒状の形状を有しており、たとえば連立発泡させた発泡ウレタン等の発泡部材にて構成されている。静脈血用上部側フィルタ33を発泡ウレタンにて構成する場合には、その密度が20〜40[kg/m3]であるとともに、そのセル数が15〜25[個/25mm]であるものを用いることが特に好適である。静脈血用上部側フィルタ33は、万が一、貯血量が、図2および図5において示す許容最大貯血レベルLVmaxを上回った場合(たとえば、袋状の形状を有する静脈血用下部側フィルタ32の濾過速度を超えた静脈血の流入が所定時間にわたって継続した場合等)に、当該静脈血用下部側フィルタ32から溢れ出す静脈血を濾過するためのものであり、当該静脈血に含まれる比較的大きな血液凝固成分(血栓等)や気泡を除去するためのものである。なお、当該静脈血用上部側フィルタ33にシリコーンオイル等の消泡剤を塗布しておくことにより、効果的に静脈血に含まれる気泡を破泡することができる。
静脈血用上部側フィルタ33は、フレーム31の内面に沿うように上述した静脈血用下部側フィルタ32に隣接して当該フレーム31の上端部に内挿されており、当該静脈血用上部側フィルタ33が内挿された部分に対応した位置のフレーム31に設けられた通過窓31bを覆っている。これにより、万が一、静脈血が静脈血用下部側フィルタ32から溢れ出した場合にも、静脈血用上部側フィルタ33によって静脈血が濾過されることになる。なお、当該静脈血用上部側フィルタ33によって濾過された後の血液は、フレーム31に設けられた通過窓31bを通過して静脈血濾過ユニット30の外部に流出する。
図2および図5に示すように、吸引血濾過ユニット40は、チャンバ11内において静脈血濾過ユニット30と隣接して設置されることとなるように上部側ケーシング20の下面に組付けられている。より詳細には、吸引血濾過ユニット40は、上部側ケーシング20の下面から大容量部13と小容量部12との境界部分近傍にまで達するようにチャンバ11内に配置されている。
図2、図4および図5に示すように、吸引血濾過ユニット40は、全体として上端開口の袋状の形状を有しており、フレーム41と、吸引血用一次側フィルタ42と、吸引血用二次側フィルタ43とによって主として構成されている。吸引血濾過ユニット40は、吸引血流入ポートP2から流入する吸引血を患者に送り返す前に、混入した血液凝固成分(血栓等)、脂肪球、肉片、骨片等の異物や気泡を除去し、チャンバ11に移送するためのものである。
フレーム41は、血液が通過可能な通過窓41bが複数設けられてなる枠状の部材からなる。フレーム41は、吸引血用一次側フィルタ42および吸引血用二次側フィルタ43を支持するための部材であり、吸引血用一次側フィルタ42をその内側に収容するとともに、その外側に配置された吸引血用二次側フィルタ43を上端部において巻き込んで支持している。
フレーム41の上端部寄りの所定位置には、上部側ケーシング20に設けられた係止部22によって係止される被係止部41aが設けられている。被係止部41aは、一対の立壁部からなる係止部22に設けられた上記係止孔に係合可能な係止爪にて構成されており、フレーム41の相対して位置する一対の側部に設けられている。なお、フレーム41は、たとえば樹脂成形品にて構成される。
また、フレーム41は、その下端に弾性変形可能に構成された舌状部41cを有しており、当該舌状部41cの表面およびこれに連続する部分のフレーム41の底面には、概ね上下方向に沿って延在するように複数の溝部41dが設けられている。舌状部41cは、後述する吸引血用二次側フィルタ43の下端部43aを静脈血濾過ユニット30側に向けて押し付けるための部位であり、複数の溝部41dは、吸引血濾過ユニット40に流入した吸引血が舌状部41cを介して静脈血濾過ユニット30側に向けて移送されるようにこれを案内するためのものである。
吸引血用一次側フィルタ42は、上端および下端開口の筒状の形状を有しており、たとえば連立発泡させた発泡ウレタン等の発泡部材にて構成されている。吸引血用一次側フィルタ42を発泡ウレタンにて構成する場合には、その密度が20〜40[kg/m3]であるとともに、そのセル数が15〜25[個/25mm]であるものを用いることが特に好適である。吸引血用一次側フィルタ42は、チャンバ11内に流入する吸引血を濾過するためのものであり、主として当該吸引血に含まれる比較的大きな血液凝固成分(血栓等)、脂肪球、肉片、骨片等の異物や気泡等を除去するためのものである。なお、当該吸引血用一次側フィルタ42にシリコーンオイル等の消泡剤を塗布しておくことにより、効果的に吸引血に含まれる気泡を破泡することができる。
吸引血用一次側フィルタ42は、フレーム41の内面に沿うように当該フレーム41の上端部に内挿されている。これにより、吸引血濾過ユニット40に流入した吸引血は、まずこの吸引血用一次側フィルタ42を滲み通って移送されることになり、当該吸引血用一次側フィルタ42によって濾過された後の血液は、吸引血濾過ユニット40の下部側に向けて移動することになる。
吸引血用二次側フィルタ43は、上端開口の袋状の形状を有しており、不織布にて構成されている。吸引血用二次側フィルタ43としては、ポリエステル繊維等の化学繊維を熱的および/または機械的に接着または絡み合わせて構成されてなるものを用いることができる。吸引血用二次側フィルタ43は、吸引血用一次側フィルタ42によって濾過された後の血液から、さらに当該血液に含まれる比較的小さな血液凝固成分(血栓等)、脂肪球、肉片、骨片等の異物や気泡等を除去するためのものである。
吸引血用二次側フィルタ43は、フレーム41の外面に沿うように当該フレーム41に外挿されている。すなわち、吸引血用二次側フィルタ43は、フレーム41および吸引血用一次側フィルタ42をいずれも内包している。これにより、吸引血用一次側フィルタ42を滲み通って移送された血液は、フレーム41に設けられた通過窓41bを通過して吸引血用二次側フィルタ43に接触することになり、当該吸引血用二次側フィルタ43によって濾過されて吸引血濾過ユニット40の外部に流出することになる。
図2および図5に示すように、静脈血濾過ユニット30は、その開口した上端が静脈血流入ポートP1および血液代替液導入ポートP3に面することとなるように、上部側ケーシング20に組付けられている。ここで、静脈血流入ポートP1および血液代替液導入ポートP3の各々に対応して設けられた上部側ケーシング20のノズル部には、それぞれ静脈血流入チューブ23および血液代替液導入チューブ24が取付けられている。なお、血液代替液導入ポートP3に対応して上部側ケーシング20に設けられたノズル部は、図2および図5において現われておらず、静脈血流入ポートP1に対応して上部側ケーシング20に設けられたノズル部20aは、図5においてのみ現われている。
図2、図3および図5に示すように、静脈血流入チューブ23および血液代替液導入チューブ24は、いずれも樹脂製の可撓性チューブにて構成されており、静脈血濾過ユニット30の内側の空間において垂下して位置するように当該静脈血濾過ユニット30に収容されている。当該静脈血流入チューブ23および血液代替液導入チューブ24は、静脈血濾過ユニット30の内部において概ね上下方向に沿って延在するように並行して配置されており、いずれもその一端が上述したノズル部に接続されており、その他端が開放されている。ここで、静脈血流入チューブ23および血液代替液導入チューブ24の開放された他端である開口端部23a,24a(図6参照)は、それぞれ静脈血濾過ユニット30の底部近傍の位置にまで延設されている。
なお、本実施の形態に係る貯血槽1にあっては、血液代替液導入チューブ24の上記開口端部23aの形状や配置位置、配置方向等を工夫することで、静脈血の流入圧が衝撃圧力となって血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧として付加されてしまうことを抑制可能にしているが、その詳細については後述することとする。
一方、図2および図5に示すように、吸引血濾過ユニット40は、その開口した上端が吸引血流入ポートP2およびプライミング用ポートP4に面することとなるように、上部側ケーシング20に組付けられている。ここで、吸引血流入ポートP2およびプライミング用ポートP4に対応して設けられた上部側ケーシング20のノズル部20bには、上述した吸引血濾過ユニット40の吸引血用一次側フィルタ42が接触するように配置されている。なお、吸引血流入ポートP2およびプライミング用ポートP4に対応して上部側ケーシング20に設けられたノズル部20bは、図2において現われておらず、図5においてのみ現われている。
また、図2および図5に示すように、チャンバ11内に設置された静脈血濾過ユニット30には、これを覆うようにカバー部材34が設けられている。カバー部材34は、血液が滲み通ることでこれを移送するためのものであり、静脈血濾過ユニット30のフレーム31を内包するとともにフレーム31の外形に沿う上端開口の袋状の形状を有している。
チャンバ11内において隣り合うように設置された静脈血濾過ユニット30と吸引血濾過ユニット40とは、上述したカバー部材34を介して接触するように配置されている。より詳細には、吸引血濾過ユニット40の一部である吸引血用二次側フィルタ43の下端部43aが、静脈血濾過ユニット30を覆うように設けられたカバー部材34の外表面に接触するように配置されている。
ここで、カバー部材34は、繊維を編製してなる編地にて構成されており、より好適にはポリエステル繊維等の化学繊維を編製してなるトリコット編地にて構成されている。一般に、編地は、縦糸および横糸が交差するように織り込まれたのみの平面的な形状を有する織地に比べ、複雑に繊維が編み込まれることによってより立体的な形状を有するように構成されたものであるため、織地に比べて滲み通る血液に対する保持力が大幅に高く、そのため当該編地を滲み通る血液の移動速度(流下速度)を十分に低減させることができる。したがって、当該カバー部材34として編地を利用することにより、当該カバー部材34を滲み通ることで移送される血液に、当該移送の際に、および、チャンバ11に貯留された血液の液面に着液する際に、気泡が巻き込まれてしまうことが大幅に抑制できる。
また、カバー部材34の外表面は、水平面に対して傾斜しかつ鉛直上方側を向いた傾斜面30aを有している。当該傾斜面30aは、たとえば図示するように箱状の形状を有する静脈血濾過ユニット30を傾斜して配置させることで容易に構成することができる。
ここで、当該傾斜面30aの下端は、チャンバ11の底部近傍にまで達するように構成されている。また、吸引血用二次側フィルタ43の下端部43aは、当該傾斜面30aのチャンバ11の底部近傍の位置よりも鉛直上方側の位置においてカバー部材34に接触するように構成されている。
このように構成することにより、編地からなるカバー部材34を滲み通って移送される血液の移動速度(流下速度)をさらに十分に低減させることが可能になり、当該カバー部材34を滲み通ることで移送される血液に、当該移送の際に、および、チャンバ11に貯留された血液の液面に着液する際に、気泡が巻き込まれてしまうことをより確実に抑制することができる。
ここで、上述した傾斜面30aの水平面に対する傾斜角度は、60度以上になるように設定されることが好ましい。これは、当該傾斜角度を60度より小さくすればする程、小容量部12の容積が構造上大きくなってしまうため、液面の管理がしづらくなってしまうためである。特に、チャンバ11に対して流入する血液量が少ない乳幼児用貯血槽においては、総じて血液が貯留される小容量部12の容積が小さいため、比較的小さな貯血量の変化でも液面を上下に大きく変動させることができる。そのため、上記のように傾斜面30aの上記傾斜角度を60度以上に設定することにより、小容量部12の容積が必要以上に大きくなってしまうことを防止し、これにより貯血量を表わす目盛の目視による確認を容易にし、チャンバ11に貯血された血液の液面の管理を容易にすることが好ましい。
また、本実施の形態のように、静脈血濾過ユニット30を傾斜配置させる必要は必ずしもなく、当該静脈血濾過ユニット30が鉛直方向に沿って起立した姿勢となるように配置されていてもよい。その場合にも、カバー部材34を上述したように繊維を編製してなる編地(より好適にはトリコット編地)にて構成することにより、当該編地を滲み通る血液の移動速度(流下速度)を十分に低減させることができる。
次に、上述した本実施の形態に係る貯血槽1における血液の流れについて、図5を参照して説明する。ここで、貯血槽1における貯血量は、貯血槽1を含む人工心肺装置の運転状況等によって時々刻々と変化するものであるが、以下においては、チャンバ11に貯血された濾過後血液100の液面レベルが、許容最小貯血量LVminと、チャンバ11の小容量部12と大容量部13との境界部分近傍との間に収まっている、定常時の血液の流れについて説明する。なお、図5中においては、血液の流れを矢印にて模式的に表わしている。
図5に示すように、静脈血流入ポートP1を介して貯血槽1に流入した静脈血は、静脈血流入チューブ23を経由して流下し、当該静脈血流入チューブ23の開口端部23aから静脈血濾過ユニット30の内部に向けて導入される。静脈血濾過ユニット30の内部に導入された静脈血は、当該静脈血濾過ユニット30の内部の空間に一時的に貯留され、織地からなる静脈血用下部側フィルタ32によって濾過された後に、フレーム31の通過窓31bを通過して編地からなるカバー部材34に付着し、当該カバー部材34を滲み通ることでチャンバ11に移送される。
一方、吸引血流入ポートP2を介して貯血槽1に流入した吸引血は、吸引血流入ポートP2に対応して設けられた上部側ケーシング20のノズル部20bの壁面を伝って吸引血濾過ユニット40の内部に向けて導入される。吸引血濾過ユニット40の内部に導入された吸引血は、発泡部材からなる吸引血用一次側フィルタ42に供給されて当該吸引血用一次側フィルタ42を滲み通ることで濾過される。
吸引血用一次側フィルタ42によって濾過された後の血液は、フレーム41の底部および舌状部41cを経由して不織布からなる吸引血用二次側フィルタ43の下端部43aに達するか、あるいは、フレーム41の通過窓41bを通過して不織布からなる吸引血用二次側フィルタ43に付着して当該吸引血用二次側フィルタ43を滲み通ることで吸引血用二次側フィルタ43の上記下端部43aに達する。
このとき、上述したように、フレーム41の底部および舌状部41cに複数の溝部41dが概ね上下方向に沿って延在するように並行して設けられているため、当該溝部41dによって血液が分散されることになるとともに、当該溝部41dが設けられることによる表面積の増加に伴って当該溝部41dが血液の流動に対する抵抗となるため、血液の移動速度(流下速度)を抑制することが可能になる。また、吸引血用二次側フィルタ43が不織布にて構成されているため、当該吸引血用二次側フィルタ43を滲み通る血液の移動速度(流下速度)についてもこれを十分に低減させることができる。したがって、当該血液の移送の際に、血液に気泡が巻き込まれてしまうことが大幅に抑制可能になる。
吸引血用二次側フィルタ43の下端部43aに達した血液は、当該下端部43aに接触するように配置されたカバー部材34へと移送される。ここで、カバー部材34へと移送される血液は、吸引血用二次側フィルタ43にて濾過された後の血液である。当該カバー部材34へと移送された血液は、当該カバー部材34を滲み通って移送されることで流下し、チャンバ11に貯血された濾過後血液100の液面に着液する。このとき、カバー部材34が編地にて構成されているため、当該カバー部材34を滲み通る血液の移動速度(流下速度)を十分に低減させることができる。したがって、当該血液の移送の際に、および、チャンバ11に貯留された血液の液面に着液する際に、血液に気泡が巻き込まれてしまうことが大幅に抑制可能になる。
なお、チャンバ11に貯留された濾過後血液100は、その後、血液流出ポートP5を介して外部へと流出される。
図6は、図1に示す貯血槽の静脈血濾過ユニットの下端部近傍の構成を示す図であり、図5中に示すVI−VI線に沿った要部拡大模式断面図である。以下、この図6を参照して、本実施の形態に係る貯血槽1において、静脈血の流入圧が衝撃圧力となって血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧として付加されてしまうことが抑制可能になる仕組みについて説明する。
図6に示すように、本実施の形態に係る貯血槽1にあっては、静脈血濾過ユニット30の内側の空間に収容された静脈血流入チューブ23の開口端部23aが、当該静脈血流入チューブ23の延在方向(図6中において、当該延在方向に合致する静脈血流入チューブ23の中心軸を一点鎖線にて示している(図7および図8も同様))と直交する先端面を有するように構成されているのに対し、静脈血濾過ユニット30の内側の空間に収容された血液代替液導入チューブ24の開口端部24aが、当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と非直交な先端面を有するように構成されている。これにより、血液代替液導入チューブ24の開放された他端である上記開口端部24aにおける開口面積は、血液代替液導入チューブ24の延在方向と直交する断面における流路断面積よりも大きくなっている。
このように構成した場合には、図6中において鎖線にて示すように、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aを当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と直交する先端面を有するように構成した場合に比べ、当該血液代替液導入チューブ24の開口面積が増加するとともに、当該開口端部24aの開口面が静脈血濾過ユニット30の底部30bと正対しなくなる。
そのため、静脈血濾過ユニット30の内側の空間が静脈血流入チューブ23を介して流入した静脈血によって相当程度に満たされることで血液代替液導入チューブ24の上記開口端部24aが浸漬されている状態において、静脈血流入チューブ23の開口端部23aから静脈血が排出されることで生じる静脈血の流入圧(衝撃圧力)が直接的に血液代替液導入チューブ24の開口端部24aを介して当該血液代替液導入チューブ24の内部に達してしまうことが回避できることになる。
これは、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aの開口面積が比較的大きいことで上記衝撃圧力が分散されること、および、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aが傾斜していることで静脈血濾過ユニット30の底部30bにて反射された衝撃圧力が当該開口端部24aに達するまでに必然的に静脈血濾過ユニット30の側壁等においても反射し、結果として衝撃圧力が緩和されること等が寄与しているためである。
したがって、このように構成することにより、血液代替液導入チューブ24の内部に達する衝撃圧力が緩和されることになり、血液代替液導入チューブ24内に充填された静脈血の液面レベルが押し上げられてしまうことが抑制でき、結果として血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できる。
ここで、上述した血液代替液導入チューブ24の開口端部24aは、静脈血流入チューブ23の開口端部23aよりも上方の位置に配置されていることが好ましく、また、チャンバ11の許容最小貯血レベルLVminよりも下方の位置に配置されていることが好ましい。すなわち、図6を参照して、静脈血濾過ユニット30の底部30bを基準とした場合に、当該基準位置から血液代替液導入チューブ24の開口端部24aまでの距離dは、当該基準位置から静脈血流入チューブ23の開口端部23aまでの距離D1よりも大きく、当該基準位置から許容最小貯血レベルLVminまでの距離D2よりも小さいことが好ましい(D1<d<D2)。
これは、D1<dの条件を満たすことにより、上述した衝撃圧力が開口端部24aに達するまでに静脈血濾過ユニット30の側壁等において反射されることで当該衝撃圧力が緩和される効果を高めることができ、より確実に血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できるためであり、d<D2の条件を満たすことにより、血液代替液導入ポートP3を用いた血液代替液の導入の際に、血液代替液が静脈血濾過ユニット30内に貯留された静脈血の液面に滴下されてしまうことで気泡が巻き込まれてしまうことを抑制できるためである。
また、図6に示すように、上述した血液代替液導入チューブ24の開口端部24aは、静脈血流入チューブ23に対向しない方向を向くように配置されていることが好ましい。ここで、静脈血流入チューブ23に対向しない方向とは、たとえば開口端部24aの開口面が、静脈血流入チューブ23が位置する側ではなく、静脈血用下部側フィルタ32の側壁が位置する側へ向いている方向を意味する。このように構成することにより、上述した衝撃圧力が開口端部24aに達するまでに静脈血濾過ユニット30の側壁等において反射されることで当該衝撃圧力が緩和される効果を高めることができ、より確実に血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できる。しかしながら、必ずしもこのように構成する必要はなく、血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できるのであれば、当該血液代替液導入チューブ24の開口端部24aを静脈血流入チューブ23に対向させることとしてもよい。
図7は、図1に示す貯血槽の静脈血濾過ユニットの下端部近傍の他の構成例を示す要部拡大模式断面図である。上述した図6に示す静脈血濾過ユニット30の下端部近傍の構成例においては、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aが、静脈血流入チューブ23が位置する側とは反対側に向くように構成した場合を例示したが、図7に示す静脈血濾過ユニット30の下端部近傍の他の構成例においては、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aの開口面が、図6の場合と比較して、当該血液代替液導入チューブ24の中心軸に対して90度回転した方向を向くように構成している。このように構成した場合にも、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aは、静脈血流入チューブ23に対向しない方向を向くことになるため、より確実に血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できる。
図8は、図1に示す貯血槽の静脈血濾過ユニットの下端部近傍のさらに他の構成例を示す要部拡大模式断面図である。上述した図6に示す静脈血濾過ユニット30の下端部近傍の構成例においては、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aが、当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と非直交な先端面のみを有するように構成した場合を例示したが、図8に示す静脈血濾過ユニット30の下端部近傍のさらに他の構成例においては、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aが、当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と非直交な先端面と、当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と直交する先端面とを有するように構成している。このように構成した場合にも、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aにおける開口面積は、当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と直交する断面における流路断面積よりも大きくなることになる。したがって、当該構成を採用した場合にも、血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できる。
以上において説明したように、本実施の形態に係る貯血槽1とすることにより、血液代替液導入チューブ24の開口端部24aにおける開口面積が当該血液代替液導入チューブ24の延在方向と直交する断面における流路断面積よりも大きくなるように構成するという非常に簡素な構成にて、血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されてしまうことが抑制できる。したがって、当該血液代替液導入ポートP3に大きな陽圧が付加されることで生じ得る不具合(たとえば、血液代替液導入ポートP3を閉塞しているキャップに脱落が生じてしまう等の不具合)の発生を防止することができる。
上述した本発明の実施の形態においては、血液代替液導入チューブの開口端部が傾斜面を少なくとも含むように構成した場合を例示したが、必ずしもこのように構成する必要はなく、当該開口端部における開口面積が血液代替液導入チューブの延在方向と直交する断面における流路断面積よりも大きければ、どのような先端面形状としてもよい。
また、上述した本発明の実施の形態においては、カーディオトミーリザーバを内蔵した乳幼児用貯血槽に本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、新生児用貯血槽や成人用貯血槽にも本発明を適用することが可能であり、また、カーディオトミーリザーバを内蔵しない貯血槽に本発明を適用することも可能である。
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。