本発明のカーディオトミー部は、フィルタと、前記フィルタ内に収納された消泡材とを備える。前記フィルタ及び前記消泡材のそれぞれは、その上側のみが開口した袋形状を有する。前記消泡材は、外側層と、前記外側層の内側に配された内側層とを備え、前記内側層が上側のみに配された半二重構造を有する。前記消泡材の下端は、前記フィルタの内底部に対して上側に離間している。
上記の本発明のカーディオトミー部において、前記外側層の上端と前記内側層の上端とが薄肉部を介して連続している。これにより、消泡材内に導管を挿入する際に内側層が位置ズレしたり、内側層が導管の開口を塞いだりする問題が生じにくい。
前記外側層が、互いに対向するように配置された略台形状の一対の主要部を含むことが好ましく、また、前記内側層が、略台形状の一対の副部を含むことが好ましい。これにより、消泡材の設計を簡単化することができる。
前記一対の主要部は、それぞれの4辺のうちの1辺を一致させて互いに連続し、袋形状となるように他の2辺で互いに接合されていることが好ましい。これにより、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した袋形状の消泡材を容易に得ることができる。
前記1辺は、前記袋形状の底辺をなすことが好ましい。これにより、袋形状の底辺が、連続する消泡材用材料で構成されるので、消泡材からの血液の流出が容易になる。また、これにより、気泡が消泡材に接触しやすくなるので、消泡特性が更に向上する。
本発明の貯血槽は、上部に心内血流入ポートを備え、下端に血液流出ポートを備えたハウジングと、前記ハウジング内に配置されたカーディオトミー部と、前記心内血流入ポートと連通し、前記心内血流入ポートからの血液を前記カーディオトミー部内に流入させる導管とを有する。前記カーディオトミー部が上記の本発明のカーディオトミー部である。
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
[カーディオトミー部]
図1は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミー部1の概略構成を示した断面図である。
カーディオトミー部1は、全体として袋形状を有するフィルタ10と、フィルタ10の内側に配置された消泡材20とを備える。
フィルタ10は、これを血液が通過する際に血液中の異物を捕捉する機能を有してることが好ましく、さらに、気泡を捕捉する機能を有していることがより好ましい。フィルタ10としては、特に制限はなく、例えばスクリーンフィルタ(又はメッシュフィルタ)、不織布フィルタなど、従来のカーディオトミー部に使用されていた公知のフィルタを用いることができる。本実施形態では、スクリーンフィルタの両側にメッシュ部材を配した三層積層構造のフィルタ部材に多数のプリーツを形成した後、袋形状に形成した特許文献2に記載されたフィルタを用いている。
本実施形態では、フィルタ10は、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した形状を有しているが、本発明のフィルタ10の形状はこれに限定されず、上側のみが開口した袋形状を有していればよい。
消泡材20は、上側(樹脂板60側)が開口した、全体として袋形状を有している。消泡材20は、袋形状をなす外側層21と、外側層21の内側に配された内側層22とを備え、内側層22が上側にのみに配された半二重構造を有している。すなわち、消泡材20は、上下方向において上側の領域に、外側層21と内側層22とが重ね合わされた二重構造を有し、下側の領域に、内側層22が存在せず、外側層21のみで構成された一重構造を有している。上側の二重構造を有する部分を「二重部20D」、下側の一重構造を有する部分を「一重部20S」と呼ぶ。二重部20Dにおいて、全周にわたって二重構造を有している必要はなく、例えば内側層22が存在しない部分が周方向の一部に存在していても良い。二重部20Dと一重部20Sとの上下方向の寸法比率は任意に設定することができる。
外側層21の上端と内側層22の上端とは薄肉部101a,101bを介して連続している。
外側層21及び内側層22の厚みは同一でも異なっていても良い。但し、同一であると、後述するように外側層21と内側層22とを、一定厚みの原反シートから所定形状の消泡材用材料(後述する図2Aの消泡材用材料100)を切り出して消泡材20を一体的に作成することができるので、消泡材20を効率良く製造することができる。
本実施形態では、消泡材20は、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した形状を有しているが、本発明の消泡材20の形状はこれに限定されず、上側のみが開口した袋形状を有していればよい。
消泡材20の材料としては、接触した気泡を破泡させる機能を有していれば特に制限はなく、従来のカーディオトミー部に使用されていた公知の消泡材料を任意に選択して使用することができる。例えば、基層としてのポリウレタンの表面に消泡剤としてのシリコーンがコーティングされた材料を用いることができる。また、形態としては、連続気泡を有する発泡体、織物、編み物、不織布などを用いることができる。消泡材20は可撓性及び柔軟性を有していることが好ましい。
消泡材20の下端20bは、フィルタ10の内面の最下部(これを「内底部」という)10bから上側に離間している。
フィルタ10の上端及び消泡材20の上端に樹脂板60が接着されている。樹脂板60の略中央には貫通孔61が形成されている。貫通孔61には、上方から導管90が挿入さる(後述する図4を参照)。
消泡材20及びこれを含むカーディオトミー部1の製造方法を以下に説明する。
最初に、図2Aに示すように、消泡材用材料100を作成する。消泡材用材料100は、互いに同一形状の一対の主要部110a,110bと、これらを挟んで配置された互いに同一形状の一対の副部120a,120bとを含む。
主要部110aは略台形状を有し、互いに平行な下底(第一辺)111a及び上底(第二辺)112a(下底111aは上底112aより短い)と、これらの端部を結ぶ斜辺113a,114aとを有する。同様に、主要部110bも略台形状を有し、互いに平行な下底(第一辺)111b及び上底(第二辺)112b(下底111bは上底112bより短い)と、これらの端部を結ぶ斜辺113b,114bとを有する。下底111aと下底111bとは一致し、下底111a,111bを介して主要部110aと主要部110bとは連続している。
副部120a,120bはいずれも略台形状を有する。副部120aの互いに平行な一対の辺のうちの長い方である上底122aは、主要部110aの上底112aと一致し、上底112a,122aを介して主要部110aと副部120aとが連続している。同様に、副部120bの互いに平行な一対の辺のうちの長い方である上底122bは、主要部110bの上底112bと一致し、上底112b,122bを介して主要部110bと副部120bとが連続している。
消泡材用材料100の形状は、下底111a,111bに対して線対称である。
消泡材用材料100は、例えば一定厚さのポリウレタン発泡体からなる原反シートを上記の形状に切り出すことで作成することができる。
次いで、図2Bに示すように、主要部110aと副部120aとの間の上底112a,122aに沿って薄肉部101aを形成する。同様に、主要部110bと副部120bとの間の上底112b,122bに沿って薄肉部101bを形成する。薄肉部101a,101bは、消泡材用材料100の他の部分に比べて相対的に厚さを減少させた(即ち、薄肉化した)部分である。薄肉部101a,101bの形成方法は、消泡材用材料100の材料等に応じて任意に選択することができるが、例えば熱、高周波、又は超音波等で消泡材用材料100を加熱しながら圧縮することで熱融着する方法、接着剤を付与して消泡材用材料100を圧縮する方法、あるいは、糸等で縫合する方法などを用いることができるが、これらの中でも熱融着する方法が簡便に実施できるために好ましい。図2Bでは、平板上に載置した消泡材用材料100の一方の面(図2Bの上面)に、加熱した直線状のこてを押し当てて消泡材用材料100を加熱圧縮して熱融着させて薄肉部101a,101bを形成している。
次いで、図2Cに示すように、下底111a,111bに沿って消泡材用材料100を折り曲げる。図2Dは、図2Cの矢印2Dに沿って見た消泡材用材料100の正面図である。上述したように、消泡材用材料100は下底111a,111bに対して対称であるので、一対の主要部110a,110bが互いに重なり合い、また、一対の副部120a,120bが互いに重なり合う。この状態で、主要部110a,110bを、斜辺113aと斜辺113bとで接合し、また、斜辺114aと斜辺114bとで接合する。図2C及び図2Dにおいて、ドット模様を付した領域115a,115bは、接合予定領域を示す。接合方法は、特に制限はなく、消泡材用材料100の材料等に応じて任意に選択することができるが、例えば熱、高周波、又は超音波等で消泡材用材料100を加熱しながら圧縮することで熱融着する方法、接着剤を付与して消泡材用材料100を圧縮する方法、あるいは、糸等で縫合する方法など、薄肉部101a,101bの形成と同じ方法を用いることができる。これらの中でも熱融着する方法が簡便に実施できるために好ましい。
かくして、図2Eに示すように、接合部102a,102bで一対の主要部110a,110bが接合された、袋形状を有する消泡材用材料100を得る。図2Eでは、重ね合わされた一対の主要部110a,110bを加熱した直線状の一対のこての間に挟んで、こてを主要部110a,110bに押し当てて加熱圧縮して熱融着させて接合部102a,102bを形成している。接合部102a,102bを形成するためにこてが押し当てられた面と、薄肉部101a,101bを形成するためにこてが押し当てられた面とは、消泡材用材料100の同じ側の面である。
次いで、図2Eの矢印103方向に袋形状の消泡材用材料100の表裏を裏返して、図2Fに示す袋形状の消泡材用材料100を得る。袋形状の消泡材用材料100を裏返すことにより、消泡材用材料100が有する弾性力により、主要部110a,110b間の間隔が拡大する。
次いで、図2Fにおいて、一対の副部120a,120bが一対の主要部110a,110b間に位置するように、薄肉部101a,101bに沿って消泡材用材料100を矢印1104の方向に折り返す。かくして、図2Gに示すように、半二重構造を有し、上側のみが開口した消泡材20を得る。薄肉部101a,101bでは消泡材用材料100が相対的に薄いので、薄肉部101a,101bによって消泡材用材料100の折り位置が確定され、消泡材用材料100を薄肉部101a,101bに沿って容易に折り返すことができる。また、薄肉部101a,101bに沿って消泡材用材料100が折り返された折り返し部分(即ち、消泡材20の開口端縁)の外表面の曲率半径は、薄肉部101a,101bを形成せずに折り返した場合に比べて小さくなる。副部120a,120bは略台形状を有するので、副部120a,120bを主要部110a,110b間に容易に収納することができる。消泡材用材料100の折り返し部分に薄肉部101a,101bが形成されているので、折り返された消泡材用材料100が弾性回復して、一対の主要部110a,110b間に収納された副部120a,120bが主要部110a,110b間から外に飛び出すのを抑えることができる。
次いで、図2Hに示すように、フィルタ10及び消泡材20を、それぞれの開口が上を向くように配置して、フィルタ10内に消泡材20を挿入する。一般に消泡材用材料100は被圧縮性を有するので、消泡材20を適宜弾性圧縮変形させてフィルタ10内に収めることができる。
その後、フィルタ10の上端及び消泡材20の上端(即ち、薄肉部101a,101b)に樹脂板60を接着する。樹脂板60の材料は特に制限はないが、例えばポリウレタンなどの接着剤を用いることができる。樹脂板60を設けることより、フィルタ10及び消泡材20の形状保持特性が向上する。樹脂板60には、血液が流入するための貫通孔61が形成される。樹脂板60の平面形状は、本実施形態では長円形(即ち、陸上競技場のトラック(走路)状)であるが、これに限定されず、楕円形、円形、長方形など任意の形状を選択できる。
かくして、図1に示したカーディオトミー部1が得られる。上述した消泡材20の製造方法から容易に理解できるように、消泡材20の外側層21は、一対の主要部110a,110bで構成され、内側層22は、一対の副部120a,120bで構成される。消泡材20の下端20bは、一対の主要部110a,110bの下底111a,111bで構成される。
消泡材20の上下方向寸法よりフィルタ10を深くすることにより、図1に示すように、消泡材20の下端20bを、フィルタ10の内底部10bから上側に離間させることができる。
上記の消泡材20の製造方法において、必要に応じて消泡材20の表面にシリコーンなどの消泡剤をコーティングしても良い。コーティング工程はどの段階で行っても良いが、例えば図2E、図2F、図2Gのいずれかの段階、すなわち、消泡材用材料100を袋形状に形成した後であって、フィルタ10内に挿入する前のいずれかの段階で行うことが好ましい。
上記の消泡材20の製造方法は例示に過ぎず、本発明の消泡材20は上記の方法以外の方法で製造することももちろん可能である。
例えば、図2Eで得た袋形状の消泡材用材料100を、その表裏を裏返すことなく、フィルタ10内に収納しても良い。
[貯血槽]
図3は本発明の一実施形態に係る貯血槽5の概略構成を示した斜視図、図4はその側面断面図である。この貯血槽5は、ハウジング本体31とハウジング本体31の上部に載置された蓋体36とからなるハウジング30を備える。
ハウジング本体31は、その底面の中心から外れた一部が下方に突出して形成された貯血部32と、貯血部32の下端に設けられた、血液が流出する血液流出ポート33とを備える。ハウジング本体31の下面には、手術室に立設された支柱の上端を挿入することで貯血槽5を保持するための固定用穴34が形成されている。
蓋体36には、心内血が流入する複数の心内血流入ポート50と、静脈血が流入する静脈血流入ポート51とが取り付けられている。更に、蓋体36には、薬液等を血液に混入するための複数の薬液注入ポート71,72、緊急に大量の薬液を血液に混入させたり、カーディオトミー部1のフィルタ10が目詰まりにより使用できなくなった場合に代替のカーディオトミー部を通過させた血液を流入させたりするためのサービスポート73、貯血槽5内の圧力を調整するための排気ポート74、貯血槽5内の圧力が異常な陽圧又は陰圧になるのを防止するための圧力調整弁75等が設けられている。静脈血流入ポート51には、静脈血の温度を測定するための温度プルーブ52が突き刺されている。
静脈血流入ポート51には体外血液循環回路の脱血ラインのチューブが接続され、心内血流入ポート50には心内血吸引ラインのチューブが接続される。血液流出ポート33には体外血液循環回路の送血ラインのチューブが接続される。薬液注入ポート71,72には所定の薬液パックに接続された薬液注入ラインのチューブが接続される。薬液注入ポート71から流入した薬液はカーディオトミー部1内を通過せずに貯血部32内に流入し、薬液注入ポート72から流入した薬液はカーディオトミー部1内を通過した後、貯血部32内に流入する。サービスポート73には各種ラインのチューブが接続される。温度プルーブ52には温度計測機器と接続された電気配線が接続される。
図4に示されているように、カーディオトミー部1はハウジング30内に配置されている。カーディオトミー部1の樹脂板60の貫通孔61に導管90が挿入されている。導管90は、心内血用導管91と薬液用導管92とを含む。心内血用導管91は、蓋体36の上面に設けられた心内血流入ポート50と連通し、心内血をカーディオトミー部1に流入させる。薬液用導管92は、蓋体36の上面に設けられた薬液注入ポート72と連通し、薬液等をカーディオトミー部1に流入させる。
カーディオトミー部1に心内血及び薬液がそれぞれ流入する際に発生する圧力変動が互いに相手方の流入に影響するのを防止する等のために、心内血用導管91と薬液用導管92とは分離壁93を隔てて互いに独立している。この結果、導管90の外径が大きくなり、太い導管90によって消泡材20の上部が圧縮変形している。
ハウジング30内には、静脈血濾過網47を保持するサポート部材40が収納されている。図5は静脈血濾過網47を保持していない状態のサポート部材40を示した斜視図である。サポート部材40は、略升形状を有するカップ状部41と、カップ状部41の一側面に形成された格子状フレームからなる枠状部45とを備えている。カップ状部41の底面には溝43が形成されている。枠状部45は、ハウジング本体31の貯血部32内に挿入されるように、カップ状部41よりも下方に延びている。枠状部45の側面に形成された開口を塞ぐように、静脈血濾過網47が枠状部45に固定保持される。枠状部45の開口は、枠状部45の上下方向のほぼ全範囲にわたって延設されている。枠状部45の下端は、血液流出ポート33近傍にまで達している。
静脈血濾過網47は、血液中の異物や気泡を除去するフィルターとしての機能を有していれば、その構成及び材料に特に制限はなく、公知のものを適宜選択して使用することができる。例えば、静脈血濾過網47として多数の微細な開口を有するスクリーンフィルタを用いることができる。
図4に示されているように、静脈血流入ポート51と静脈血導入管80の上端とが蓋体36を介して接続されている。静脈血導入管80は、カップ状部41の溝43に嵌め込まれ、カップ状部41から枠状部45へとサポート部材40の内側を案内され、その下端の開口は、貯血槽5の最低血液面レベルBよりも下側に位置している。
貯血槽5内の血液の流れを簡単に説明する。図4において、患者の静脈から脱血された静脈血は、静脈血流入ポート51及び静脈血導入管80を順に通過して、静脈血導入管80の下端の開口から流出し、静脈血濾過網47を通過し、血液流出ポート33から流出する。また、患者の術野から吸引された心内血は、心内血流入ポート50、心内血用導管91、及びカーディオトミー部1を順に通過して、サポート部材40内に流出し、静脈血濾過網47を通過し、血液流出ポート33から流出する。この過程で、血液は貯血部32内に一時的に貯留される。
[カーディオトミー部の作用]
本発明のカーディオトミー部1の作用を説明する。
図1に示されているように、本発明のカーディオトミー部1は、袋形状を有するフィルタ10内に、袋形状を有する消泡材20が収納され、消泡材20の下端20bは、フィルタ10の内底部10bから上側に離間している。これにより、心内血用導管91を通じて消泡材20内に流入した血液は、消泡材20内に滞留することなく、直ちに消泡材20を通過し、フィルタ10内に一時的に滞留する。血液が消泡材20を通過する際に、血液中の気泡の一部は消泡材20に接触して破泡し、残りは血液から分離されて消泡材20内にとどまる。このように、消泡材20によって血液中の気泡が血液から分離され、消泡材20内に血液がほとんど滞留しない。その結果、気泡が消泡材20に接触する可能性が増大するので、消泡特性が向上する。
上記において、消泡材20内にとどまった気泡は、時間の経過とともに増大し、上に向かって盛り上がるように成長(増大)することがある。ところが、消泡材20は、外側層21と、外側層21の内側に配された内側層22とを備え、内側層22が上側のみに配された半二重構造を有している。従って、盛り上がった気泡のほとんどは内側層22の下端面22bに接触して破泡してしまう。このように、消泡材20が半二重構造を有していることにより、消泡特性が更に向上する。
気泡の多くが内側層22の下端面22bで破泡されるので、気泡は下端面22bより高くまで盛り上がって成長しにくい。従って、消泡材20の下端面22bより上側の部分、即ち、二重部20Dは、血液によって濡れにくい。これにより、二重部20Dを通じて消泡材20の内側と外側との通気性が確保される。従って、カーディオトミー部1内の圧力が上昇しにくいので、導管91,92を通じてカーディオトミー部1内に流入する血液及び薬液の流入抵抗が増大するのを抑えることができる。
また、上述した実施形態では、消泡材20の製造方法から容易に理解できるように、連続する消泡材用材料100を薄肉部101a,101bで折り返すことにより外側層21及び内側層22からなる二重部20Dが形成されている。即ち、外側層21の上端と内側層22の上端とは薄肉部101a,101bを介して連続している(図1参照)。しかも、薄肉部101a,101bでは消泡材用材料100の厚みが減少されている。従って、薄肉部101a,101bでの消泡材20の折り返し部分での消泡材20の外寸法(または、消泡材20の外表面の曲率半径)は小さい。その結果、図1に示したカーディオトミー部1の樹脂板60の貫通孔61に上方から太い導管90を挿入する際に、導管90の下端が内側層22に引っかかりにくい。これにより、消泡材20を内蔵したカーディオトミー部1に導管90を挿入する組み立て工程において、内側層22の位置ズレが生じにくい。従って、内側層22が位置ズレすることによって消泡特性が劣化するという問題が生じにくい。
本実施形態では、薄肉部101a,101bにおいて消泡材20は樹脂板60に接着されている。これにより、樹脂板60の貫通孔61に上方から挿入された導管90の下端が仮に内側層22に引っかかっても、内側層22が導管90とともに下方に位置ズレするのをより確実に防止することができる。
また、消泡材20の折り返し部分での消泡材20の外寸法(または、消泡材20の外表面の曲率半径)が小さく、且つ、内側層22が位置ズレしにくいので、内側層22が導管90の下端の開口を塞ぐこともない。従って、導管90を通って流入する血液や薬液の流入抵抗が増大するという問題が生じにくい。
上述した実施形態は一例であって、本発明はこれに限定されず、種々の変更が可能である。
例えば、薄肉部101a,101bを形成することなく、消泡材用材料100を矢印104(図2F参照)の方向に折り返して消泡材20を作成してもよい。
また、消泡材20の外側層10と内側層22とがこれらの上端を介して連続している必要はない。例えば、特許文献2に記載された、半二重構造を有する筒状の消泡材の下側の開口を接合して袋形状にした消泡材を用いることができる。あるいは、袋形状の外側層10内に、これと別個に作成した筒状の内側層22を挿入した半二重構造の消泡材を用いることができる。
上記の消泡材用材料100では、略台形状の一対の主要部110a,110bが、下底111aと下底111bとを一致させて連続していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、一対の主要部110a,110bが、斜辺113aと斜辺113b又は斜辺114aと斜辺114bを一致させて連続していても良い。この場合、消泡材用材料100は、一致させた一方の斜辺に沿って折り曲げられ、下底111a,111b同士及び他方の斜辺同士を接合して袋形状に形成することができる。あるいは、別部品として作成した主要部110aと主要部110bとを袋形状になるように接合してもよい。
カーディオトミー部1を構成するフィルタ10は、上記の実施形態に示した、スクリーンフィルタを含む三層積層構造のフィルタ部材をプリーツ加工し袋形状に形成したフィルタに限定されない。例えば不織布をプリーツ加工することなく袋形状に形成したフィルタであっても良い。
上記のカーディオトミー部1では、消泡材20は樹脂板60に接着されて保持されていたが、消泡材20の保持方法はこれに限定されない。例えば、フィルタ10に対して消泡材20が下降しないように消泡材20の下端に設けられた治具で消泡材20を保持しても良い。上記の実施形態のように、消泡材20の上端の薄肉部101a,101bにて内側層22が外側層21の内側になるように折り返されている場合には、消泡材20の上端が樹脂板60に接着されていなくても、内側層22の位置ズレは生じにくい。
本発明の消泡材20を含むカーディオトミー部1を内蔵する貯血槽の構成は特に限定はなく、例えば公知の貯血槽の中から適宜選択することができる。貯血槽は、静脈血と心内血とが流入する心内血貯血槽一体型静脈血貯血槽に限定されず、例えば、静脈血が流入しない心内血貯血槽であっても良い。
本発明のカーディオトミー部の消泡特性の評価実験を行った。
(実施例1)
図6は、本発明のカーディオトミー部1に血液を流入させたときのカーディオトミー部1内の圧力上昇を測定する方法を示した概略図である。
図2A〜図2Hで説明した方法を用いて図1に示した実施例1にかかるカーディオトミー部1を作成した。
消泡材20の材料である消泡材用材料100として厚さ10mmのポリウレタン発泡体を用いた。図2Eに示すように袋形状に形成した消泡材用材料100をシリコーン濃度10%の溶液に浸漬してポリウレタン発泡体の表面にシリコーンを塗布した。
フィルタ10は、特許文献2に記載された方法で作成した。即ち、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、孔径が40μmのメッシュフィルタ(スクリーンフィルタ)の両側に、ポリプロピレンからなり、孔径が1mmのメッシュ(サポートフィルタ)を配した三層積層構造のフィルタ部材に、10mmピッチで山折りと谷折りを繰り返して多数のプリーツを形成した後、袋形状に形成してフィルタ10を得た。
図1において、樹脂板60の下面から消泡材20の外側層10の下端20bまでの距離(外側層10の高さ)Hd1を80mm、樹脂板60の下面から消泡材20の内側層20の下端面22bまでの距離(内側層20の高さ)Hd2を20mm、樹脂板60の下面からフィルタ10の下端までの距離(フィルタ10の高さ)Hfを145mmとした。
図6に示すように、カーディオトミー部1に図3に示した貯血槽5の蓋体36を装着した。
上面が開口した箱形状を有する貯血槽300に血液301を注ぎ入れた。血液301とし、温度25度の新鮮クエン酸加牛血(Hb=12.0±1.0g/dL)を用いた。柔軟性を有するチューブ302の一端を血液301内に浸漬し、その他端を蓋体36に設けられた複数の心内血流入ポート50のうちの1つに接続した。チューブ302が接続されていない心内血流入ポート50は全て封止した。チューブ302上に、血液ポンプ303及びT字コネクタ305を設けた。血液ポンプ303は、貯血槽300内の血液301を、チューブ302を介して心内血流入ポート50に移送するためのものである。気体ポンプ309が設置された柔軟性を有するチューブ308の一端をT字コネクタ305に接続した。気体ポンプ309で空気をT字コネクタ305に送り、T字コネクタ305にて、この空気をチューブ302内を流れる血液中に混入させた。心内血流入ポート50に流入した血液は、心内血用導管91からカーディオトミー部1内に流入し、消泡材20及びフィルタ10を順に通過して、貯血槽300内に滴下させた。図6において、矢印321は血液の流れの向きを示し、矢印322は空気の流れの向きを示す。
複数の薬液注入ポート72のうちの1つと水柱圧力計310とを柔軟性を有するチューブ312で接続した。チューブ312が接続されていない薬液流入ポート72は全て封止した。
上記のように構成された図6に示す試験装置において、血液ポンプ303にてカーディオトミー部1内に血液301を流入させた。カーディオトミー部1内に流入する血液の流量は、図7に示すように、20分ごとに、0.1,0.2,0.5,1.0,1.5,2.5,3.5L/minに段階的に増加させた。血液中に混入される空気の流量は0.5L/minで一定とした。
図7に示す白抜き丸の各時点で、水柱圧力計310を用いてカーディオトミー部1内の圧力上昇を測定した。カーディオトミー部1内の圧力はカーディオトミー部1の消泡特性と相関を有し、カーディオトミー部1の消泡特性が悪く、気泡が血液面上に盛り上がるように成長すると、カーディオトミー部1内の圧力が上昇する。
(比較例1)
図8は、比較例1に係るカーディオトミー部401の概略構成を示した断面図である。このカーディオトミー部401は、消泡材の形状において実施例1のカーディオトミー部1と異なる。本比較例1では、実施例1の消泡材20において内側層22(即ち、副部120a,120b)を省略することにより、全一重構造の袋形状を有する消泡材421を用いた。
図8において、樹脂板60の下面から消泡材421の下端421bまでの距離(消泡材421の高さ)Hdを80mm、樹脂板60の下面からフィルタ10の下端までの距離(フィルタ10の高さ)Hfを145mmとした。
比較例1のカーディオトミー部401は、上記を除いて実施例1のカーディオトミー部1と同じである。
図6及び図7で説明したのと同じ方法で比較例1のカーディオトミー部401に空気混入血液を流入させ、カーディオトミー部401内の圧力上昇を測定した。
(比較例2)
図9は、比較例2に係るカーディオトミー部402の概略構成を示した断面図である。このカーディオトミー部402は、消泡材の形状において実施例1のカーディオトミー部1と異なる。本比較例2では、筒形状を有する全一重構造の消泡材422を用いた。実施例1で用いた消泡材用材料100と同じ厚さ10mmのポリウレタン発泡体を長方形に切り出して、環状に接続して消泡材422を形成した。実施例1と同様に、ポリウレタン発泡体の表面にシリコーンを塗布した。
図9において、樹脂板60の下面から消泡材422の下端422bまでの距離(消泡材422の高さ)Hdを30mm、樹脂板60の下面からフィルタ10の下端までの距離(フィルタ10の高さ)Hfを145mmとした。
比較例2のカーディオトミー部402は、上記を除いて実施例1のカーディオトミー部1と同じである。
図6及び図7で説明したのと同じ方法で比較例2のカーディオトミー部402に空気混入血液を流入させ、カーディオトミー部402内の圧力上昇を測定した。
(評価結果)
実施例1及び比較例1,2の各カーディオトミー部内の圧力上昇の経時変化を図10に示す。実施例1及び比較例1,2のそれぞれにおいて、内圧上昇が100mmH2Oを超えた時点で内圧上昇の測定を中止した。
比較例1,2では、カーディオトミー部内の圧力は、血液流量が1.0L/minになると上昇し始め、血液流量が2.5L/minになると急激に上昇した。これに対して、実施例1では、カーディオトミー部内の圧力は、血液流量が1.5L/min以下ではほとんど上昇せず、血液流量が3.5L/minになると急激に上昇した。このように、実施例1では、比較例1,2に比べて、圧力がほとんど上昇しない血液流量の上限値がより高い。従って、実施例1のカーディオトミー部1は、消泡特性に優れ、血液の流入抵抗の増大が抑制されていることが確認された。体外血液循環回路においてカーディオトミー部内に流入する血液の流量は一般に1.5L/min以下であることを考慮すると、実施例1のカーディオトミー部1は、血液流量の実用域において優れた消泡特性を有していることが確認された。