次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明によるセットプレート5を含む動力伝達装置10の概略構成図である。同図に示す動力伝達装置10は、後輪駆動車両の前部に縦置きに搭載される駆動源としての図示しないエンジン(内燃機関)のクランクシャフト(出力軸)2に接続され、当該エンジンからの動力(トルク)を図示しない左右の後輪(駆動輪)に伝達するものである。図示するように、動力伝達装置10は、セットプレート5に加えて、エンジンから入力軸20iに伝達された動力を変速して出力軸20oに伝達する自動変速機20や、トランスミッションケース(静止部材)11や、発進装置(流体伝動装置)12、オイルポンプ17等を含む。セットプレート5は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたドライブプレート3に締結されると共に、発進装置12のフロントカバー(カバー部材)13に固定される。
発進装置12は、フロントカバー13に加えて、当該フロントカバー13に密に固定されるポンプシェルを有する入力側のポンプインペラ14pや、自動変速機20の入力軸(入力部材)20iに連結される出力側のタービンランナ14t、ポンプインペラ14pおよびタービンランナ14tの内側に配置されてタービンランナ14tからポンプインペラ14pへの作動油の流れを整流するステータ14s、図示しないステータシャフトより支持されると共にステータ14sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ14o等を有するトルクコンバータを含む。
更に、発進装置12は、エンジンのクランクシャフト2に連結されたフロントカバー13と自動変速機20の入力軸20iとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するロックアップクラッチ15と、フロントカバー13と自動変速機20の入力軸20iとの間で振動を減衰するダンパ機構16とを含む。本実施形態において、ロックアップクラッチ15は、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)を有する多板摩擦式油圧クラッチとして構成される。なお、発進装置12は、ステータ14sを有さない流体継手を含むものであってもよい。
オイルポンプ17は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアッセンブリ、チェーンまたはギヤ列を介して発進装置12のポンプインペラ14pに連結された外歯ギヤ(インナーロータ)、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ(アウターロータ)等を有するギヤポンプとして構成される。オイルポンプ17は、エンジンからの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して図示しない油圧制御装置へと圧送する。
自動変速機20は、10段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、入力軸20iに加えて、図示しないデファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して左右の後輪に連結される出力軸(出力部材)20oや、自動変速機20(入力軸20iや出力軸20o)の軸方向に並べて配設されるシングルピニオン式の第1遊星歯車21および第2遊星歯車22、ダブルピニオン式遊星歯車とシングルピニオン式遊星歯車とを組み合わせて構成される複合遊星歯車機構としてのラビニヨ式遊星歯車機構25とを含む。更に、自動変速機20は、入力軸20iから出力軸20oまでの動力伝達経路を変更するための第1係合要素としてのクラッチC1(第1クラッチ)、第2係合要素としてのクラッチC2(第2クラッチ)、第3係合要素としてのクラッチC3(第3クラッチ)、第4係合要素としてのクラッチC4(第4クラッチ)、第5係合要素としてのブレーキB1(第1ブレーキ)および第6係合要素としてのブレーキB2(第2ブレーキ)を含む。
本実施形態において、第1および第2遊星歯車21,22並びにラビニヨ式遊星歯車機構25は、発進装置12すなわちエンジン側(図1における左側)から、ラビニヨ式遊星歯車機構25、第2遊星歯車22、第1遊星歯車21、すなわち、ラビニヨ式遊星歯車機構25を構成するシングルピニオン式遊星歯車、ラビニヨ式遊星歯車機構25を構成するダブルピニオン式遊星歯車、第2遊星歯車22、第1遊星歯車21という順番で並ぶようにトランスミッションケース11内に配置される。これにより、ラビニヨ式遊星歯車機構25は、発進装置12に近接するように車両の前部側に配置される。また、第1遊星歯車21は、出力軸20oに近接するように車両の後部側に配置される。更に、第2遊星歯車22は、入力軸20iや出力軸20o等の軸方向におけるラビニヨ式遊星歯車機構25と第1遊星歯車21との間に配置される。
第1遊星歯車21は、外歯歯車である第1サンギヤ21sと、第1サンギヤ21sと同心円上に配置される内歯歯車である第1リングギヤ21rと、それぞれ第1サンギヤ21sおよび第1リングギヤ21rに噛合する複数の第1ピニオンギヤ21pと、複数の第1ピニオンギヤ21pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第1キャリヤ21cとを有する。第1遊星歯車21の第1キャリヤ21cは、図1に示すように、入力軸20iに連結された自動変速機20の中間軸(インターミディエイトシャフト)20mに常時連結(固定)される。これにより、エンジンから入力軸20iに動力が伝達されている際、第1キャリヤ21cには、エンジンからの動力が入力軸20iおよび中間軸20mを介して常時伝達される。また、第1キャリヤ21cは、クラッチC4の係合時に第1遊星歯車21の入力要素として機能し、クラッチC4の解放時には空転する。更に、第1リングギヤ21rは、クラッチC4の係合時に当該第1遊星歯車21の出力要素として機能する。
第2遊星歯車22は、外歯歯車である第2サンギヤ22sと、第2サンギヤ22sと同心円上に配置される内歯歯車である第2リングギヤ22rと、それぞれ第2サンギヤ22sおよび第2リングギヤ22rに噛合する複数の第2ピニオンギヤ22pと、複数の第2ピニオンギヤ22pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第2キャリヤ(プラネタリキャリヤ)22cとを有する。第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sは、図1に示すように、第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sと一体化(常時連結)されており、当該第1サンギヤ21sと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。ただし、第1サンギヤ21sと第2サンギヤ22sとは、別体に構成されると共に図示しない連結部材(第1連結部材)を介して常時連結されてもよい。また、第2遊星歯車22の第2キャリヤ22cは、出力軸20oに常時連結されており、当該出力軸20oと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。これにより、第2キャリヤ22cは、第2遊星歯車22の出力要素として機能する。更に、第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rは、当該第2遊星歯車22の固定可能要素として機能する。
ラビニヨ式遊星歯車機構25は、外歯歯車である第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24sと、第3サンギヤ23sと同心円上に配置される内歯歯車である第3リングギヤ23rと、第3サンギヤ23sに噛合する複数の第3ピニオンギヤ(ショートピニオンギヤ)23pと、第4サンギヤ24sおよび複数の第3ピニオンギヤ23pに噛合すると共に第3リングギヤ23rに噛合する複数の第4ピニオンギヤ(ロングピニオンギヤ)24pと、複数の第3ピニオンギヤ23pおよび複数の第4ピニオンギヤ24pを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持する第3キャリヤ23cとを有する。
このようなラビニヨ式遊星歯車機構25は、ダブルピニオン式遊星歯車(第3遊星歯車)とシングルピニオン式遊星歯車(第4遊星歯車)とを組み合わせて構成される複合遊星歯車機構である。すなわち、ラビニヨ式遊星歯車機構25の第3サンギヤ23s、第3キャリヤ23c、第3および第4ピニオンギヤ23p,24p、並びに第3リングギヤ23rは、ダブルピニオン式の第3遊星歯車を構成する。更に、ラビニヨ式遊星歯車機構25の第4サンギヤ24s、第3キャリヤ23c、第4ピニオンギヤ24p、および第3リングギヤ23rは、シングルピニオン式の第4遊星歯車を構成する。
また、ラビニヨ式遊星歯車機構25(第3および第4遊星歯車)を構成する回転要素のうち、第4サンギヤ24sは、ラビニヨ式遊星歯車機構25の固定可能要素(自動変速機20の第2固定可能要素)として機能する。更に、第3キャリヤ23cは、図1に示すように、入力軸20iに常時連結(固定)されると共に、連結部材(第2連結部材)としての中間軸20mを介して第1遊星歯車21の第1キャリヤ21cに常時連結される。これにより、エンジンから入力軸20iに動力が伝達されている際、第3キャリヤ23cには、エンジンからの動力が入力軸20iを介して常時伝達されることになる。従って、第3キャリヤ23cは、ラビニヨ式遊星歯車機構25の入力要素として機能する。また、第3リングギヤ23rは、ラビニヨ式遊星歯車機構25の第1出力要素として機能し、第3サンギヤ23sは、当該ラビニヨ式遊星歯車機構25の第2出力要素として機能する。
クラッチC1は、常時連結された第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sとラビニヨ式遊星歯車機構25の第1出力要素である第3リングギヤ23rとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。クラッチC2は、常時連結された第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sとラビニヨ式遊星歯車機構25の第2出力要素である第3サンギヤ23sとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。クラッチC3は、第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rとラビニヨ式遊星歯車機構25の第1出力要素である第3リングギヤ23rとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。クラッチC4は、第1遊星歯車21の出力要素である第1リングギヤ21rと出力軸20oとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。
ブレーキB1は、ラビニヨ式遊星歯車機構25の固定可能要素である第4サンギヤ24sを静止部材としてのトランスミッションケース11に対して回転不能に固定(接続)すると共に当該第4サンギヤ24sをトランスミッションケース11に対して回転自在に解放するものである。ブレーキB2は、第2遊星歯車22の固定可能要素である第2リングギヤ22rをトランスミッションケース11に対して回転不能に固定(接続)すると共に当該第2リングギヤ22rを静止部材としてのトランスミッションケース11に対して回転自在に解放するものである。
本実施形態では、クラッチC1〜C4として、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、それぞれ作動油が供給される係合油室および遠心油圧キャンセル室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)が採用される。また、ブレーキB1およびB2としては、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される係合油室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧ブレーキが採用される。そして、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、油圧制御装置により作動油が給排されることで動作する。
図2に自動変速機20の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の作動状態との関係を表した作動表を示し、図3に自動変速機20における入力軸20iの回転速度(入力回転速度)に対する各回転要素の回転速度の比を示す速度線図を示す。自動変速機20は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで、第1速段から第10速段までの前進段と後進段とを提供する。
また、第1および第2遊星歯車21,22並びにラビニヨ式遊星歯車機構25の10個の回転要素(ただし、第1サンギヤ21sと第2サンギヤ22sとが常時連結されているので、実質的には合計9個の回転要素)は、これらのギヤ比(λ1,λ2,λ3,λ4)に応じた間隔をおいて図3における左側から図示される順番で並ぶ。このような速度線図上での並び順に従い、本実施形態では、第1サンギヤ21sを自動変速機20の第1回転要素とし、第1キャリヤ21cを自動変速機20の第2回転要素とし、第1リングギヤ21rを自動変速機20の第3回転要素とする。また、第2サンギヤ22sを自動変速機20の第4回転要素とし、第2キャリヤ22cを自動変速機20の第5回転要素とし、第2リングギヤ22rを自動変速機20の第4回転要素とする。更に、第4サンギヤ24sを自動変速機20の第7回転要素とし、第3キャリヤ23cを自動変速機20の第8回転要素とし、第3リングギヤ23rを自動変速機20の第9回転要素とし、第3サンギヤ23sを自動変速機20の第10回転要素とする。
なお、自動変速機20において、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチあるいはドグブレーキといった噛み合い係合要素とされてもよい。例えば、自動変速機20では、前進第1速段から前進第4速段の形成に際して連続して係合されると共に、後進段の形成に際して係合されるブレーキB2として、ドグブレーキが採用されてもよい。また、自動変速機20において、第1および第2遊星歯車21,22の少なくとも何れかは、ダブルピニオン式の遊星歯車であってもよく、ラビニヨ式遊星歯車機構25は、例えばシンプソン型やCR−CR型といった複合遊星歯車列に置き換えられてもよい。更に、上述の自動変速機20は、前輪駆動車両に搭載される変速機に改変されてもよい。また、動力伝達装置10(セットプレート5)は、駆動源としての電動機のロータに接続されてもよい。
図4は、ドライブプレート3や発進装置12に対するセットプレート5の取付状態を示す断面図である。同図に示すように、ドライブプレート3は、エンジンのクランクシャフト2に締結(固定)される円盤状のプレート部30と、エンジンをクランキングする図示しないセルモータのピニオンギヤ(駆動ギヤ)に噛合可能な環状のリングギヤ部35とを含む。プレート部30は、クランクシャフト2の先端部が嵌合される中心孔31と、当該中心孔31を包囲するように周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数の締結孔32とを有する。また、プレート部30の外周部には、短尺円筒状の筒状部33と、複数(本実施形態では、6個)の連結孔34が形成されている。筒状部33は、ドライブプレート3(プレート部30)の軸方向に延在する。複数の連結孔34は、筒状部33の径方向内側で当該筒状部33に沿って間隔をおいて(等間隔に)配設される。
リングギヤ部35は、図示しない複数の外歯を有し、当該リングギヤ部35の内周面は、プレート部30の筒状部33の外周面に溶接あるいはカシメ等により固定される。本実施形態において、複数の連結孔34等を有するプレート部30の外周部は、中心孔31や複数の締結孔32を有する内周部よりもドライブプレート3(プレート部30)の軸方向にオフセットされている。そして、プレート部30は、複数の連結孔34等を有する外周部が内周部よりも発進装置12側に位置するように、各締結孔32に挿通されたボルト4によりエンジンのクランクシャフト2に締結される。なお、本実施形態において、リングギヤ部35は、リングギヤ製造設備を利用してプレート部30とは別に製造されるが、例えばプレス加工等によりプレート部30と一体に成形されてもよい。
また、図4に示すように、発進装置12のフロントカバー13は、センターピース13cと、当該センターピース13cに溶接により固定されるカバー本体130とを含む。センターピース13cは、図4に示すように、クランクシャフト2の先端部に形成された凹部内に嵌合される。また、カバー本体130は、環状の内周部131、環状の内側傾斜壁部132、第1筒状壁部134、環状の外側傾斜壁部135および第2筒状壁部136を有する。
カバー本体130の内周部131は、クランクシャフト2や発進装置12、フロントカバー13の軸心(図4における一点鎖線参照)と直交する方向に延在し、センターピース13cの外周部に接合される。内側傾斜壁部132は、クランクシャフト2側に向かうにつれて拡径するように内周部131から径方向外側に斜めに延出される。側壁部133は、発進装置12等の軸心と直交する方向に延在するように、内側傾斜壁部132から径方向外側に延出される。第1筒状壁部134は、発進装置12等の軸心と平行に延在するように側壁部133からクランクシャフト2側とは反対側(自動変速機20側)に延出される。
外側傾斜壁部135は、クランクシャフト2側とは反対側(自動変速機20側)に向かうにつれて拡径するように第1筒状壁部134から径方向外側に斜めに延出される。第2筒状壁部136は、発進装置12等の軸心と平行に延在するように外側傾斜壁部135からクランクシャフト2側とは反対側(自動変速機20側)に延出される。このように、フロントカバー13(カバー本体130)に内側傾斜壁部132や外側傾斜壁部135を設けることで、当該フロントカバー13の剛性をより向上させることができる。
更に、図4に示すように、カバー本体130の側壁部133の内面には、ロックアップクラッチ15のクラッチハブ151が溶接等により固定される。クラッチハブ151には、ロックアップクラッチ15の複数のセパレータプレート152(摩擦係合プレート)の内周部が嵌合される。また、フロントカバー13の第1筒状壁部134とクラッチハブ151との径方向における間には、ロックアップクラッチ15のクラッチドラム153の一部が差し込まれる。クラッチドラム153の一部には、ロックアップクラッチ15の複数の摩擦プレート154(摩擦係合プレート)の内周部が嵌合される。それぞれ複数のセパレータプレート152および摩擦プレート154は、図示するように、交互に配置される。これにより、セパレータプレート152および摩擦プレート154の少なくとも一部は、フロントカバー13の第1筒状壁部134により包囲される。なお、クラッチドラム153は、ダンパ機構16の図示しない入力要素に連結される。
セットプレート5は、鋼板等をプレス成形することにより形成され、図4および図5に示すように、環状の固定部50と、固定部50の一端(図4および図5における左端)から周方向に間隔をおいて延出された複数(本実施形態では、例えば6個)の締結具取付部51とを含む。本実施形態において、固定部50は、短尺円筒状に形成される。また、固定部50の内周面は、フロントカバー13の第1筒状壁部134の外周面の曲率半径よりも僅かに大きい曲率半径を有する。複数の締結具取付部51は、固定部50の軸心と直交する方向に延在するように、当該固定部50の一端から周方向に間隔をおいて(等間隔に)延出される。これにより、固定部50は、各締結具取付部51と垂直をなす。
各締結具取付部51には、図4に示すように、締結具としてのナット6が取り付けられる。本実施形態において、ナット6は、圧入ナットとして構成されており、各締結具取付部51に形成された孔部52に圧入される短尺円筒状の圧入部60を有する。また、圧入部60の外周面には、図示しないセレーション(図示省略)が形成されている。これにより、各ナット6を対応する締結具取付部51に強固に固定することができる。また、本実施形態において、ナット6は、図6に示すような二面幅ナットとして構成されている。そして、固定部50には、ナット6の締結具取付部51に対する回転を規制するように、それぞれ対応するナット6の一側面61と当接する複数(本実施形態では、例えば6個)の回り止め部55が形成されている。各回り止め部55は、例えば固定部50の他端(図4および図5における右端)から延出された延出部を固定部50の軸心と直交する方向に延在するように折り曲げることにより形成される。
更に、互いに隣り合う締結具取付部51の間には、固定部50の軸心と直交する方向に延在すると共に両隣の締結具取付部51と連続するようにリブ部53が形成されている。各リブ部53は、締結具取付部51よりも低背に形成される。すなわち、固定部50の径方向におけるリブ部53の長さは、固定部50の径方向における当該締結具取付部51の長さよりも短い。このように、固定部から複数の締結具取付部51を延出させると共に互いに隣り合う締結具取付部51の間に低背のリブ部53を設けることで、セットプレート5を軽量化しつつ、当該セットプレート5の剛性を良好に向上させることが可能となる。また、本実施形態において、各締結具取付部51は、ナット6や固定部50とは反対側に、当該固定部50の軸心と直交する方向に延在する平坦な当接面51sを有する。図5に示すように、各当接面51sは、各リブ部53の固定部50とは反対側の表面53sよりも当該固定部50から離間する方向に突出するように形成される。
上述のように構成されるセットプレート5は、各締結具取付部51の当接面51sがフロントカバー13(カバー本体130)の側壁部133の外表面よりも第2筒状壁部136とは反対側(図4における左側)に突出するように、第1筒状壁部134に嵌合される。更に、固定部50と第1筒状壁部134とは、側壁部133の外表面側から両者の境界に沿って全周にわたり溶接される。これにより、固定部50は、第1筒状壁部134の側壁部133側の端部の外周面に接合(固定)され、各締結具取付部51や各リブ部53は、それぞれ発進装置12等の軸心と直交する方向に延在する。ここで、フロントカバー13の第1筒状壁部134は、側壁部133から垂直に延出されるので、第1筒状壁部134の側壁部133側の端部(角部)付近の剛性は低下しがちである。従って、円筒状の固定部50を第1筒状壁部134の側壁部133側の端部の外周面に溶接により固定することで、剛性が低下しがちな当該端部(角部)付近の強度を良好に向上させることが可能となる。
また、フロントカバー13に固定されたセットプレート5をクランクシャフト2の締結されたドライブプレート3に締結するに際しては、ナット6が連結孔34と正対するように各締結具取付部51の当接面51sをドライブプレート3のプレート部30(外周部)の表面に当接させる。そして、各連結孔34を介してボルト7を各ナット6に螺合させ、セットプレート5をドライブプレート3に締結する。これにより、発進装置12すなわち動力伝達装置10がセットプレート5およびドライブプレート3を介してエンジンのクランクシャフトに接続される。
図5に示すように、各締結具取付部51の当接面51sは、各リブ部53の表面53sよりも固定部50から離間する方向に突出している。従って、セットプレート5がドライブプレート3に締結された際、各リブ部53の表面53sとドライブプレート3のプレート部30(外周部)の表面との間には隙間が形成される。すなわち、本実施形態のセットプレート5では、各締結具取付部51の当接面51sのみがプレート部30の表面と当接する。これにより、発進装置(トルクコンバータ)の作動に伴ってフロントカバー13のバルーニングが発生した際にフロントカバー13の変形を各リブ部53とドライブプレート3のプレート部30の間の隙間により吸収することが可能となる。
更に、セットプレート5には、各ナット6の締結具取付部51に対する回転を規制する複数の回り止め部55が設けられている。これにより、動力伝達装置10をエンジンのクランクシャフト2から取り外す際に、締結具取付部51に対してナット6が回転(空転)することにより当該ナット6に螺合されたボルト7を緩められなくなってしまうのを良好に抑制することが可能となる。
なお、発進装置12のフロントカバー13は、第2筒状壁部136よりも縮径化された第1筒状壁部134を有するが、フロントカバー13の構成は、上述のものに限られない。すなわち、フロントカバー13は、側壁部から軸心と平行に延出された単一の円筒状の外周壁部を有するものであってもよく、セットプレート5は、当該外周壁部の外周面に接合(固定)されてもよい。この場合、セットプレート5は、当該外周壁部の側壁部側の端部の外周面に接合(固定)されるとよい。
また、上記セットプレート5において、環状の固定部50は、各締結具取付部51と垂直をなすように形成されるが、これに限られるものではない。すなわち、固定部50は、フロントカバー13の形状に応じて、フロントカバー13の軸心に沿って締結具取付部51から離間するにつれて拡径するように形成されてもよく、フロントカバー13の軸心に沿って締結具取付部51から離間するにつれて縮径するように形成されてもよい。
更に、セットプレート5では、固定部50から複数の締結具取付部51が周方向に間隔をおいて延出されると共に互いに隣り合う締結具取付部51の間に低背のリブ部53が設けられるが、セットプレート5の構成は、これに限られるものではない。すなわち、締結具取付部51は、固定部50の一端から環状のフランジ状に延出されてもよく、当該環状の締結具取付部51に対して複数の孔部52が形成されてもよい。
また、上記実施形態では、ナット6として二面幅ナットが用いられるが、これに限られるものではない。すなわち、ナット6は、回り止め部55と当接可能な側面を有するものであれば、図6において二点鎖線で示すような六角ナットであってもよく、四角ナット等の多角形ナットであってもよい。そして、ナット6は、回り止め部55と当接可能な外周面を有する図7に示すような楕円ナットであってもよい。
更に、セットプレート5に回り止め部55を設ける代わりに、セレーションを有するナット6の圧入部60が図8において実線で示すように短尺の楕円筒状に形成されてもよい。また、ナット6の圧入部60は、図8において二点鎖線で示すように短尺の多角筒状に形成されてもよい。これらの構成を採用しても、締結具取付部51に対してナット6が回転するのを良好に規制することが可能となる。
また、ナット6は、例えばピアスナットのような圧入ナット以外のナットであってもよく、溶接やカシメにより締結具取付部51に固定されてもよい。更に、締結具取付部51にナット6を固定する代わりに、ドライブプレート3側にナット6が固定されてもよい。すなわち、締結具取付部51は、孔部52にボルト7が挿通されるように構成されてもよい。
以上説明したように、本発明によるセットプレートは、駆動源の出力軸に固定されたドライブプレートに締結されると共に、発進装置のカバー部材に固定されるセットプレートにおいて、前記カバー部材の外周面に固定される環状の固定部と、それぞれ前記発進装置の軸心と直交する方向に延在するように前記固定部から周方向に間隔をおいて径方向外側に延出され、前記ドライブプレートへの締結に用いられる締結具が固定または挿通される複数の締結具取付部と、互いに隣り合う前記締結具取付部の間で、両隣の前記締結具取付部と連続すると共に前記発進装置の軸心と直交する方向に延在するように形成された該締結具取付部よりも低背のリブ部とを備えることを特徴とする。
このセットプレートは、環状の固定部と、それぞれ発進装置の軸心と直交する方向に延在するように固定部から周方向に間隔をおいて径方向外側に延出される複数の締結具取付部とを含む。更に、互いに隣り合う締結具取付部の間には、両隣の締結具取付部と連続すると共に発進装置の軸心と直交する方向に延在するように当該締結具取付部よりも低背のリブ部が形成される。これにより、セットプレートを軽量化しつつ、当該セットプレートの剛性を良好に向上させることが可能となる。そして、環状の固定部は、発進装置のカバー部材の外周面に固定される。これにより、セットプレートの取付対象であるカバー部材の強度を向上させることができる。
また、前記締結具は、前記締結具取付部に固定されるナットであってもよく、前記セットプレートは、前記ナットの前記締結具取付部に対する回転を規制するように当該ナットと当接する回り止め部を更に備えてもよい。これにより、締結具取付部に対してナットが回転することによりナットに螺合されたボルトを緩められなくなってしまうのを良好に抑制することが可能となる。
更に、前記締結具は、前記締結具取付部に圧入されるナットであってもよく、前記ナットの圧入部は、楕円筒状または多角筒状に形成されてもよい。このような構成を採用しても、締結具取付部に対してナットが回転するのを良好に規制することが可能となる。
また、前記固定部は、前記締結具取付部と垂直をなすように形成されてもよい。このような固定部をカバー部材の円柱面状の外周面に固定することで、当該カバー部材の強度を良好に向上させることが可能となる。
更に、前記発進装置は、複数の摩擦係合プレートを有する多板式のロックアップクラッチを含んでもよく、前記カバー部材は、前記発進装置の軸心と直交する方向に延在する側壁部と、前記摩擦係合プレートを包囲するように前記側壁部から前記発進装置の軸心と平行に延出された第1筒状壁部と、前記第1筒状壁部から径方向外側に斜めに延出された傾斜壁部と、前記傾斜壁部から前記発進装置の軸心と平行に延出された第2筒状壁部とを有してもよく、前記固定部は、前記第1筒状壁部の前記側壁部側の端部の外周面に溶接により固定されてもよい。
このように構成されるカバー部材では、第1筒状壁部が側壁部から垂直に延出されるので、第1筒状壁部の側壁部側の端部(角部)付近の剛性は低下しがちである。従って、セットプレートの固定部を第1筒状壁部の側壁部側の端部の外周面に溶接により固定することで、剛性が低下しがちな第1筒状壁部の当該端部(角部)の強度を良好に向上させることが可能となる。更に、第1筒状壁部と第2筒状壁部との間に傾斜壁部を設けることで、カバー部材の剛性をより向上させることができる。
そして、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。