JP2016089005A - 難燃性樹脂組成物及び難燃性絶縁電線・ケーブル - Google Patents

難燃性樹脂組成物及び難燃性絶縁電線・ケーブル Download PDF

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Abstract

【課題】難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、低い加熱変形率及び低い脆化温度の全てについての近年の要請を満たし、特に、酸素指数35以上、D硬度50以上を示す難燃性樹脂組成物、及び前記難燃性樹脂組成物により絶縁された難燃性絶縁電線・ケーブルを提供する。【解決手段】酢酸ビニルの含有量が30質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、水酸化アルミニウム、及び屈折率が1.43以上で1.48以下の変性シリコーンを含有する樹脂組成物であって、前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の組成比、及び前記水酸化アルミニウムの含有量が所定の範囲内であり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、前記ポリエチレン樹脂の一方又は両方の、5質量%以上25質量%以下が無水マレイン酸で変性されている難燃性樹脂組成物、及び前記難燃性樹脂組成物により絶縁された難燃性絶縁電線・ケーブル。【選択図】なし

Description

本発明は、絶縁電線の絶縁被覆や絶縁ケーブルのシースの形成等に用いることができる難燃性樹脂組成物、及びその難燃性樹脂組成物により絶縁された難燃性絶縁電線や絶縁ケーブルに関する。
自動車や鉄道車両の内部配線等として使用される絶縁電線や絶縁ケーブル(以下「絶縁電線・ケーブル」と言う)やビル、工場等で使用される絶縁電線・ケーブルには、高い絶縁性や燃焼時の低発煙性とともに、高い難燃性、高い機械的強度、特に引張強さ、引張伸び等の引張特性に優れることや硬度が高く外傷を受けにくいこと(耐外傷性)等が求められる場合が多い。さらに、高温の環境での使用に耐えられるように、高温環境においても変形しにくい性質(低い加熱変形率)、一方、低温での使用でも脆化しないように、脆化温度が低いこと(低温性)等も望まれる場合も多い。
そこで、これらの絶縁電線・ケーブルを絶縁する材料として、燃焼時の低発煙性のためにハロゲンフリーであるとともに、高い難燃性、優れた引張特性や高い硬度を有し、さらに低い加熱変形率及び低い脆化温度の成形体を形成できる難燃性樹脂組成物が望まれている。そして、種々のハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物や、この樹脂組成物を絶縁被覆やシースとする絶縁電線・ケーブルが提案されている。
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂、金属水酸化物、及び炭素−炭素二重結合を有する官能基をその末端に有する変性シリコーンを含有してなる難燃性樹脂組成物が開示されている(請求項1)。そして、熱可塑性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂やポリオレフィン樹脂が挙げられており、金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが挙げられている。
特許文献2には、シングルサイト触媒で製造されたプロピレン−エチレン系共重合体成分(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂やエチレン−エチルアクリレート共重合樹脂等のエチレン系共重合体成分(B)、密度0.86〜0.91g/cmのエチレン−αオレフィン共重合体及び、密度0.91〜0.97g/cmのポリエチレン系樹脂成分(C)からなる樹脂成分に、官能基含有オレフィン重合体成分及び難燃剤成分を配合してなる難燃性樹脂組成物が開示されている。そして、官能基含有オレフィン重合体として、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン等が、難燃剤成分としてステアリン酸表面処理合成水酸化マグネシウム等が記載されている。
特許文献3には、絶縁体および/またはシースとしてゴム・プラスチックからなる押出被覆層を設けてなる絶縁電線・ケーブルにおいて、前記被覆層の外層側が、重量平均分子量30万以上のポリエチレンをベースポリマーとするノンハロゲン難燃性組成物からなり、内層側が密度0.925以上のポリエチレン、ポリプロピレン等なる絶縁電線・ケーブルが開示されている。
特許文献4には、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体等のエチレン共重合体(A)、密度0.91〜0.96g/cmのポリエチレン樹脂(B)、および官能基含有オレフィン重合体(C)を含む樹脂成分100質量部と、無機難燃剤(D)30〜200質量部から構成される難燃樹脂組成物からなる難燃樹脂材料が開示されている。さらに有機シリコーン化合物等の傷付き白化防止剤を配合することも記載されている。
特許文献5には、エチレン共重合体(A)及び熱可塑性エラストマー(B)から選ばれる重合体を主成分とする重合体成分100重量部に対して、無機難燃剤(C)が5〜300重量部、及びアクリル変性ポリオルガノシロキサン(D)が0.01〜20重量部配合されている難燃性組成物が開示されている。
WO2014/046165A1公報 特開2011−1506号公報 特許第3953694号公報 特開2005−29605号公報 特許第3908195号公報
しかし、絶縁電線・ケーブルに求められている前記の諸特性について、近年、より高い基準が望まれる場合が多くなっており、前記のような従来の絶縁電線・ケーブルや難燃性樹脂組成物では、その全ての要請を同時に充たすことが困難になっている。
例えば、IEEE std.383−1974垂直トレー試験に大きな裕度をもって合格するためには酸素指数35以上を示す難燃性が必要である。又、8mmの段差をつけた床を1mあたり1500kgの荷重を加えたケーブルを引きずり、裂けないという高い外傷耐性が求められている。特許文献1に記載の末端ビニル変性シリコーンの使用や特許文献2や4に記載の無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン等の官能基含有オレフィン重合体成分の使用により、難燃性が向上し酸素指数も上昇することも考えられるが、これらの使用のみでは酸素指数35以上は困難である。
酸素指数35以上の難燃性は、(酸素指数の高い)エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の含有割合の高い樹脂の使用や、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物の難燃剤を多量に配合することにより達成できる。しかし、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の含有割合の高い樹脂は、柔らかく絶縁被覆は外傷を受けやすいものとなり、D硬度50以上の高い硬度や耐外傷性についての要請を満たすことはできない。
又、金属水酸化物の難燃剤の配合割合を大きくすると引張伸び等の引張特性が低下し又脆化温度が上昇し優れた低温性が得られない。さらに、押出成型の際のトルクが高くなるとの問題もある。(硬度の高い)ポリエチレン樹脂の含有割合の高い樹脂を使用することにより、耐外傷性を高めることができるが、酸素指数は小さくなる。
このように前記のような従来の絶縁電線・ケーブルや難燃性樹脂組成物では、ハロゲンフリーであり、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)についての近年の要請を全て満たすことは困難であり、これらの要請を全て満たす絶縁電線・ケーブルや難燃性樹脂組成物の開発が望まれていた。
本発明は、ハロゲンフリーであって、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たし、特に、酸素指数35以上、D硬度50以上との優れた難燃性、耐外傷性を示す難燃性樹脂組成物を提供することを課題とする。本発明は、又、前記難燃性樹脂組成物をその形成材料とする絶縁被覆を有する難燃性絶縁電線・ケーブルを提供することも課題とする。
前記の課題は、以下に示す構成からなる態様により解決される。
第1の態様は、
酢酸ビニル含有量が30質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、水酸化アルミニウム、及び屈折率が1.43以上で1.48以下の変性シリコーンを含有する樹脂組成物であって、
前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の総含有量に対する前記ポリエチレン樹脂の含有量が55質量%以上で80質量%以下であり、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、前記ポリエチレン樹脂の一方又は両方の、5質量%以上25質量%以下が無水マレイン酸で変性されており、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び前記ポリエチレン樹脂の総含有量に対して、前記水酸化アルミニウムの含有量が、140質量%以上200質量%以下であり、前記変性シリコーンの含有量が、0.5質量%以上で10質量%以下である難燃性樹脂組成物である。
第2の態様は、前記第1の態様の難燃性樹脂組成物から形成された絶縁被覆を有する難燃性絶縁電線・ケーブルである。
第1の態様の難燃性樹脂組成物を用いて導体や電線を被覆することにより、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たし、特に、酸素指数35以上、D硬度50以上との優れた難燃性、耐外傷性を示す絶縁被覆を形成することができる。
第2の態様により、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たし、特に、酸素指数35以上、D硬度50以上との優れた難燃性、耐外傷性を示す絶縁被覆を有する難燃性絶縁電線・ケーブルが提供される。
次に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の範囲はこの形態や実施例に限定されるものではなく本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、
ポリエチレン樹脂、酢酸ビニルの含有量が30質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、水酸化アルミニウム、変性シリコーンを含有する樹脂組成物であって、
前記変性シリコーンとして、屈折率が特定の範囲にある変性シリコーンを用いるとともに、
前記ポリエチレン樹脂と前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の組成比を特定の範囲内とし、
前記ポリエチレン樹脂と前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂のいずれか又は両方を、特定の範囲内の割合について無水マレイン酸で変性し、
前記水酸化アルミニウムと変性シリコーンの含有量を、特定の範囲内とすることにより、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たし、特に、酸素指数35以上、D硬度50以上との優れた難燃性、耐外傷性を示す難燃性樹脂組成物が得られることを見出し、下記の第1の態様及び第2の態様の発明を完成した。
(1)第1の態様
第1の態様は、
酢酸ビニル含有量が30質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、水酸化アルミニウム、及び屈折率が1.43以上で1.48以下の変性シリコーンを含有する樹脂組成物であって、
前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の総含有量に対する前記ポリエチレン樹脂の含有量が55質量%以上で80質量%以下であり、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、前記ポリエチレン樹脂の一方又は両方の、5質量%以上25質量%以下が無水マレイン酸で変性されており、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び前記ポリエチレン樹脂の総含有量に対して、前記水酸化アルミニウムの含有量が、140質量%以上200質量%以下であり、前記変性シリコーンの含有量が、0.5質量%以上で10質量%以下である難燃性樹脂組成物である。
1)難燃性樹脂組成物の組成について
ア)ポリエチレン樹脂
第1の態様の難燃性樹脂組成物を構成するポリエチレン樹脂は、成形物(絶縁被覆等)の硬度を高め、優れた耐外傷性を付与し、又引張強度等の優れた引張特性を付与するために配合される。このポリエチレン樹脂としては、密度が0.93g/mLを超える高密度ポリエチレン樹脂、密度が0.90g/mL未満の超低密度ポリエチレン樹脂も使用することもできるが、好ましくは、密度が0.90g/mL以上で0.93g/mL以下の低密度ポリエチレン(LDPE)又は直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)である。そこで、第1の態様の中の好ましい態様として、前記ポリエチレン樹脂が、密度が0.90g/mL以上で0.93g/mL以下の低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンである難燃性樹脂組成物が提供される。
イ)エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂は、難燃性で酸素指数が高い樹脂であり、その配合により、難燃性樹脂組成物の酸素指数を高めることができる。又、無機フィラーの保持性を高め、高硬度・高弾性率を維持するために使用される。
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の酢酸ビニルの含有量が高くなると、難燃性は向上するが、融点が低下し、加熱により変形しやすくなる。そこで、近年の要請を満たす低い加熱変形率を達成するために、酢酸ビニルの含有量が30質量%以下であるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂が、第1の態様の難燃性樹脂組成物の構成材料として使用される。
より低い加熱変形率を達成するとの観点からは、酢酸ビニルの含有量が28質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(融点が71℃以上)が好ましい。そこで、第1の態様の中の好ましい態様として、前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の酢酸ビニルの含有量が、28質量%以下である難燃性樹脂組成物が提供される。
ウ)エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂とポリエチレン樹脂の組成比
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び前記ポリエチレン樹脂の総含有量に対する前記ポリエチレン樹脂の含有量は55質量%以上で80質量%以下である。すなわち、前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の含有量は20質量%以上で45質量%以下である。ポリエチレン樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の組成比を、前記の範囲内とすることにより、D硬度50以上、酸素指数35以上、引張弾性率220MPa以上を達成することができる。ポリエチレン樹脂の組成比が高い場合は、D硬度が上がり外傷を受けにくくなるが、酸素指数が低下し、近年の要請を満たすことができなくなる。一方、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の組成比が高い場合は、酸素指数が上がるが、D硬度が低下して外傷を受けやすくなり耐外傷性についての近年の要請を満たすことができなくなる。又、引張弾性率等の引張特性も低下する。
エ)無水マレイン酸変性
第1の態様の難燃性樹脂組成物を構成する前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の少なくとも一方は、その一部が無水マレイン酸で変性されている。無水マレイン酸で変性とは、無水マレイン酸を樹脂にグラフトさせて変性すること又は重合段階から無水マレイン酸を共存させ、共重合させることを意味する。グラフトさせて変性することは容易であり、例えば、有機過酸化物等のラジカル発生剤の存在下、樹脂と無水マレイン酸を溶融混練する方法に製造することができる。無水マレイン酸で変性した樹脂を配合することにより、無機難燃剤等と樹脂との相互作用を高めることができ、低温性と引張伸び、引張強さ等の引張特性を向上させることができる。
無水マレイン酸で変性される樹脂は、前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂のいずれか一方であってもよく、又は両方であってもよいが、好ましくは、ポリエチレン樹脂が無水マレイン酸で変性される場合である。無水マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂や無水マレイン酸で変性されたエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂としては、市販品を使用することもできる。
第1の態様の難燃性樹脂組成物においては、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、前記ポリエチレン樹脂の一方又は両方の一部が、無水マレイン酸で変性されている。無水マレイン酸で変性されている樹脂の割合は、前記樹脂の総量に対して5質量%以上25質量%以下である。無水マレイン酸で変性されている樹脂の割合が5質量%未満の場合は、脆化温度が上昇し、又引張伸び、引張強さが低下し、近年の要請を満たす−20℃以下の脆化温度や10MPa以上の引張強さを達成しにくくなる。一方、無水マレイン酸で変性されている樹脂の割合を25質量%より大きくしても、割合の増大にともなう上記特性の向上は見られずコスト増となるので好ましくない。
オ)水酸化アルミニウム
第1の態様の難燃性樹脂組成物においては、無機難燃剤として水酸化アルミニウムが使用される。無機難燃剤としては、水酸化マグネシウム等も知られているが、コスト面(合成水酸化マグネシウムの場合)、成形体に白筋が入る場合がある(天然水酸化マグネシウムの場合)、塩基性のため無水マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂との相互作用が強すぎて引張伸びが低下する、塩基性のためエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂からの脱酢酸を誘発し臭気が生じることがある、等の問題があるため、水酸化アルミニウムが好ましい。
水酸化アルミニウムとしては、市販品を使用することができる。水酸化アルミニウムとしては、粒径が0.5〜10μm程度のものが広く使用されているが、粒径の範囲は特に限定されず、前記範囲外のものも使用できる。又、表面処理がされた水酸化アルミニウムも使用できる。
水酸化アルミニウムの含有量は、前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の総含有量に対して、140質量%以上で200質量%以下である。水酸化アルミニウムの含有量を、140質量%以上とすることにより、酸素指数35を達成できる。含有量が、140質量%未満となると急激に酸素指数が低下する(表5の実験例24で示すように、130質量%では酸素指数30であり、100質量%では26である)。
水酸化アルミニウムの含有量が、200質量%を超えると引張特性が急激に低下し、又低温性も低下(脆化温度が上昇)する。例えば、表5の実験例23で示すように、210質量%では、引張強さは10MPa未満であり、脆化温度も−10℃である。
カ)変性シリコーン
第1の態様の難燃性樹脂組成物を構成する変性シリコーンとは、ジメチルシリコーンに有機基を導入したものである。有機基の種類は特に限定されないが、アルキル変性、アルキル・アラルキル変性のものが通常用いられる。シリコーン製品を取り扱う各社の市販品を用いることもできる。
第1の態様の難燃性樹脂組成物に含有される変性シリコーンは、屈折率が1.43以上で1.48以下であることを特徴とする。屈折率が1.43以上で1.48以下である変性シリコーンを含有し、樹脂の組成比や水酸化アルミニウムの含有量等を前記のようにすることにより、酸素指数35以上を達成することができる。変性シリコーン以外の、シリコン樹脂を使用した場合や、屈折率が1.43未満又は屈折率が1.48を超える変性シリコーンを用いた場合では、樹脂の組成比や水酸化アルミニウムの含有量等を前記のようにしても、酸素指数35以上を達成することはできない。屈折率は分子構造の極性に対応するが、変性シリコーンとしてその極性が樹脂の極性と近いものを使用することで、変性シリコーンがうまく取り込まれ、また適度に分散し組成物が均一化するので、燃焼時の殻作り性が向上し、難燃性が向上するものと思われる。
屈折率が1.43以上で1.48以下である変性シリコーンの含有量は、前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の総含有量に対して、0.5質量%以上で10質量%以下である。この変性シリコーンの含有量が、0.5質量%未満の場合は、酸素指数35以上を達成することはできない。一方含有量が、10質量%を超える場合は、表面にブリードアウトが発生する。変性シリコーンは、滑材としても作用し、加工設備への外部滑材的働きもするため、その配合により加工性が良くなるとの効果も奏する。
変性シリコーン(の分子量)としては、粘度が30〜1200cstの範囲内のものが好ましい。より好ましくは、粘度が50〜900cstの範囲内の変性シリコーンである。変性シリコーンの粘度が低すぎる場合は、成形体(絶縁被覆等)からブリードアウトする等の問題が生じ易くなる。一方、変性シリコーンの粘度が高すぎる場合は、取扱い作業性が低下するともに、燃焼時に樹脂と一緒に燃えやすくなるので殻作り補助効果が低くなり、難燃性が低下する場合がある。
キ)その他の成分
第1の態様の難燃性樹脂組成物は、前記の必須成分に加えて、発明の趣旨を損ねない範囲で、他の成分を含有することもできる。他の成分としては、酸化防止剤や滑材等を挙げることができる。又、耐候性の向上ためにカーボンブラックを、着色のため顔料・染料などを添加してもよい。
さらに、難燃剤の分散性やコシの調整のためにエチレン−プロピレン共重合ゴムや超低密度ポリエチレン、ポリエチレンエラストマーを添加し、調整してもよいが、LDPE、LLDPEの含有量より少ないことが好ましい。
2)難燃性樹脂組成物の製法について
第1の態様の難燃性樹脂組成物は、前記の必須の成分及び必要によりその他の成分を、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等の公知の溶融混練法を用い、公知の条件に準じて混合して製造することができる。例えば、各成分を常温において混合した後、二軸の混練押出機を用いて溶融混練を行う方法を挙げることができる。
3)難燃性樹脂組成物の用途について
第1の態様の難燃性樹脂組成物は、絶縁電線の絶縁被覆や、絶縁ケーブルの外被(シース)の形成に好適に用いることができるが、用途はこれらに限定されない。なお、単に「絶縁被覆」と言うときは、絶縁電線の絶縁被覆とともに絶縁ケーブルの外被(シース)等の絶縁材を含む意味で用いられる。
第1の態様の難燃性樹脂組成物により、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たす絶縁電線・ケーブルの絶縁被覆を形成することができる。具体的には、酸素指数35以上の難燃性、D硬度50以上の耐外傷性、引張弾性率220MPa以上、引張強さ10MPa以上の引張特性、脆化温度−20℃以下の低温性、75℃、4kgでの加熱変形で変形率10%以下の耐熱性を示す絶縁被覆を形成することができる。
(2)第2の態様
第2の態様は、前記第1の態様の難燃性樹脂組成物から形成された絶縁被覆を有する難燃性絶縁電線・ケーブルである。第2の態様により、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たす難燃性絶縁電線・ケーブルが提供される。
絶縁電線とは、銅、アルミニウム等からなる導体線と、その導体線の外表面を被覆する絶縁材からなる層(絶縁被覆)を有する電線を言う。導体線は単線であってもよく、撚線等、複数の電線からなるものでもよい。第2の態様の絶縁電線は、絶縁被覆が、第1の態様の難燃性樹脂組成物で形成されることを特徴とするが、絶縁被覆の形成方法は、従来の絶縁電線における絶縁被覆の形成と同様な方法、条件により行うことができる。例えば、導体線の上に第1の態様の難燃性樹脂組成物を押出被覆することにより作製することができる。
ケーブルとは、前記のような絶縁電線の1本又は複数本を束ねたものの外周を絶縁性の外被(シース)で覆ったものを言う。なお、前記のように、単に絶縁被覆と言うときには、ケーブルの外被(シース)も含まれる。
第2の態様の絶縁電線・ケーブルの絶縁被覆は、第1の態様の難燃性樹脂組成物で形成されているので、その絶縁被覆は、絶縁性、難燃性、引張強さ、引張伸び等の引張特性、耐外傷性、耐熱性(低い加熱変形率)及び低温性(低い脆化温度)の全てについての近年の要請を満たし、特に、酸素指数35以上、D硬度50以上との優れた難燃性、耐外傷性を示すものである。
(使用した材料)
先ず、下記の実験例(実施例、比較例)で使用した材料について述べる。
[ポリエチレン樹脂]
・LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン):(比重0.92g/mL、MFR0.6g/10min)(MFRは、190℃・21.6kgの測定条件で測定した。以下同じである。)
・LDPE(低密度ポリエチレン):(比重0.92g/mL、MFR1.4g/10min)
・MAH−LLDPE(無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン):(融点122℃、MFR1.5g/10min)
[エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂]
・EVA1:(酢酸ビニル含量:25質量%、融点:77℃)
・EVA2:(酢酸ビニル含量:28質量%、融点:72℃)
・EVA3:(酢酸ビニル含量:33質量%、融点:61℃)
・MAH−EVA(無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂):(酢酸ビニル含量:28質量%、MFR1.5g/10min)
[無機難燃剤]
・水酸化アルミニウム1:(平均粒径1.0μm、表面未処理品)
・水酸化アルミニウム2:(平均粒径8.0μm、表面未処理品)
・水酸化アルミニウム3:(平均粒径1.0μm、ステアリン酸処理品)
・水酸化マグネシウム1:(平均粒径3.1μm、高級脂肪酸処理品)
[シリコン樹脂]
・変性シリコーン1:(粘度500cst、屈折率1.451、アルキル変性)
・変性シリコーン2:(粘度50cst、屈折率1.437、アルキル変性)
・変性シリコーン3:(粘度800cst、屈折率1.468、アルキル・アラルキル変性)
・ジメチルシリコーン:(粘度500cst、屈折率1.404)
・ジメチルシリコーン2:(粘度10000cst、屈折率1.404)
・末端ビニル変性シリコーン:(粘度1500cst、屈折率1.52)
(試験片作製用のシートの作製)
上記の使用材料を、表1に示す配合(質量比)で、加圧ニーダーにて180℃で混練した後、160℃でプレス成形し、厚さ1mm、2mm、3mmのシートを作製した。
(測定方法)
下記の実験例(実施例、比較例)で行った物性等の測定方法について述べる。
・酸素指数:160℃でプレス成形した厚さ3mmのシートから、試験片を作製しJIS K7201に準拠して酸素指数を測定した。酸素指数は40まで測定し、35以上を合格(規格を満たす)とした。
・D硬度:ショアD硬度計を使用して、JIS K7215 タイプDに準じて測定した。50以上を合格とした。
・引張弾性率、引張強さ
160℃でプレス成形した厚さ1mmのシートから引張試験片を打ち抜き、島津製作所社製オートグラフを使用してJIS K6251に準拠して、200mm/分の試験速度で引張試験を行った。引張弾性率は、220MPa以上を、引張強さは、10MPa以上を合格とした。
・脆化温度:
160℃でプレス成形した厚さ2mmのシートから引張試験片を打ち抜き、東洋精機社製の測定機を使用して、JIS K 7216に準じて測定した。−25℃以下を合格とした(−25℃で合格した場合それ以下の温度は未実施)。
・加熱変形率:安田精機社製の測定機を使用して、JIS C 3005に準じ、75℃、4kgの条件で、10mmφの鉄棒にて押込みを行って測定した。10%以下を合格とした。
・混練時の付着/作業性
樹脂組成物を混練するときの装置への付着の有無を観察した。その結果を、付着が認められない場合をA、付着が認められた場合をBとして、表1〜5に示した。
・ブリードアウト
樹脂組成物を成形後、常温にて1週間放置した後の、ブリードアウトの有無を観察した。その結果を、ブリードアウトが認められない場合をA、ブリードアウトが認められた場合をBとして、表1〜5に示した。
Figure 2016089005
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表1〜5に示されている結果より、酢酸ビニルの含有量が30質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、及び、屈折率が1.43以上で1.48以下の変性シリコーンを使用し、ポリエチレン樹脂(LLDPE又はLDPE)とエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の組成比、無水マレイン酸で変性されているポリエチレン樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の割合、水酸化アルミニウムの含有量や変性シリコーンの含有量が、第1の態様の範囲内にある、実験例1〜15では、酸素指数35以上の難燃性、D硬度50以上の耐外傷性、220MPa以上の引張弾性率、10MPa以上の引張強さ、−20℃以下の脆化温度、75℃・4時間の条件での10%以下の加熱変形率が得られており、難燃性、耐外傷性、加熱変形率、低温性の全てについての近年の要請を満たしていることが明らかである。
又、樹脂組成物の混練時の装置への付着もなく、ブリードアウトもないので、絶縁電線・ケーブルの絶縁被覆を形成する材料として好適であると言える。
一方、変性シリコーン等のシリコーンを使用していない実験例16、屈折率が1.43以上で1.48以下の変性シリコーンの代わりに、屈折率1.404のジメチルシリコーン(粘度:500cst)を使用した実験例17、屈折率1.404のジメチルシリコーン2(粘度:10000cst)を使用した実験例18、屈折率1.52の末端ビニル変性シリコーン(粘度:1500cst)を使用した実験例19では、酸素指数は低く近年の要請を満たす難燃性は得られていない。又、樹脂組成物の混練時の装置への付着又はブリードアウトが生じている。
無水マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂、又は無水マレイン酸で変性されたエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を使用していない実験例20では、脆化温度は−10℃であり、−20℃以下の脆化温度は得られておらず、低温性についての要請を満たしていない。
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の含有量が多く、ポリエチレン樹脂及びエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の総含有量に対するポリエチレン樹脂の含有量が55質量%未満(40質量%)の実験例21では、D硬度が低く耐外傷性が不十分であり、引張特性も低い。さらに、加熱変形率も大きく、混合時の樹脂の装置への付着も見られる。
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂として、酢酸ビニルの含有量が30質量%を超えるものを用いた実験例22では、引張特性も不十分であり、加熱変形率も大きく耐熱性の要請は満たされていない。
水酸化アルミニウムの含有量が、200質量%を超える210質量%である実験例23では、引張特性が不十分であり、脆化温度は−10℃であり、−20℃以下の脆化温度は得られておらず、低温性についての要請を満たしていない。一方、水酸化アルミニウムの含有量が、140質量%未満(130質量%)である実験例24では、酸素指数は低く近年の要請を満たす難燃性は得られていない。水酸化アルミニウムの代わりに水酸化マグネシウムを用いた実験例25では、引張強さが低く引張特性が不十分である。

Claims (5)

  1. 酢酸ビニル含有量が30質量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、水酸化アルミニウム、及び屈折率が1.43以上で1.48以下の変性シリコーンを含有する樹脂組成物であって、
    前記ポリエチレン樹脂及び前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の総含有量に対する前記ポリエチレン樹脂の含有量が55質量%以上で80質量%以下であり、
    前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、前記ポリエチレン樹脂の一方又は両方の、5質量%以上25質量%以下が無水マレイン酸で変性されており、
    前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂及び前記ポリエチレン樹脂の総含有量に対して、前記水酸化アルミニウムの含有量が、140質量%以上200質量%以下であり、前記変性シリコーンの含有量が、0.5質量%以上で10質量%以下である難燃性樹脂組成物。
  2. 前記ポリエチレン樹脂が、密度が0.90g/mL以上で0.93g/mL以下の低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンである請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
  3. 前記エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂の酢酸ビニルの含有量が、28質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
  4. 前記変性シリコーンの粘度(25℃)が、30cst以上で1200cst以下の範囲である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物から形成された絶縁被覆を有する難燃性絶縁電線・ケーブル。
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