図1は、本発明の実施形態に係るプリンタ1の要部を模式的に示す斜視図である。
プリンタ1は、インクジェットプリンタである。より具体的には、例えば、プリンタ1は、ピエゾヘッド式、シリアルヘッド式、且つ、オフキャリッジ式のカラープリンタとされている。なお、プリンタ1は、適宜な数の色のインクでカラーの画像を実現してよいが、本実施形態では、4色(ブラック、イエロー、マゼンタ及びシアン)のインクによってカラー画像を実現する。
プリンタ1は、例えば、メディア(例えば紙)101を矢印y1で示す搬送方向へ搬送する搬送部3と、搬送されているメディア101に向けてインク滴を吐出するヘッド5と、ヘッド5をメディア101の搬送方向に直交する副走査方向(矢印y2)において往復移動させる走査部7と、ヘッド5にインクを供給するインクカートリッジ9と、ヘッド5からのインクの吐出動作を含むプリンタ1の動作を制御する制御部11とを有している。
ヘッド5からメディア101へのインク滴の吐出が、副走査方向に直交する方向である主走査方向(y方向)に広がった範囲で繰り返し行われつつ、走査部7によるヘッド5の往復移動が行われることにより、メディア101には帯状の2次元画像が形成される。更に、搬送部3によってメディア101が間欠的に搬送されることで、メディア101には、帯状の2次元画像が繋がって連続的な2次元画像が形成される。
搬送部3は、例えば、不図示の供給スタックに積層された複数のメディア101を一ずつ不図示の排出スタックへ搬送する。搬送部3は、公知の適宜な構成とされてよい。図1では、搬送経路がストレートパスとされ、メディア101に当接するローラ13と、ローラ13を回転させるモータ15と、モータ15に駆動電力を付与するドライバ17とを有する搬送部3が例示されている。
走査部7は、公知の適宜な構成とされてよい。例えば、走査部7は、ヘッド5が搭載される不図示のキャリッジを副走査方向に案内可能に支持する不図示のガイドレールと、キャリッジに固定された不図示のベルトと、当該ベルトが掛け渡された不図示のプーリと、当該プーリを回転させるモータ19と、モータ19に駆動電力を付与するドライバ21とを有している。
インクカートリッジ9は、ヘッド5とは別の場所に(ヘッド5と共に移動しないように)設置されている。インクカートリッジ9は、可撓性のチューブを介してヘッド5と接続されている。インクカートリッジ9は、ヘッド5が吐出するインクの色の数に対応して複数(本実施形態では4つ)設けられている。
制御部11は、例えば、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置を含んで構成されている。制御部11は、搬送部3のドライバ17、走査部7のドライバ21及びヘッド5のドライバ(後述)に制御信号を出力し、搬送部3、走査部7及びヘッド5の動作を制御する。
図2は、ヘッド5の要部を示す斜視図である。なお、図2では、図示の都合上、一部を省略したり、点線で示したりしている。
ヘッド5は、例えば、インクカートリッジ9からインクが供給されるインク供給部材23と、インク供給部材23内のインクを加熱するための第1ヒータ25及び第2ヒータ27と、インク供給部材23からインクが供給され、メディア101に向けてインク滴を吐出するヘッド本体29と、を有している。
インク供給部材23は、例えば、インクが流れる溝や貫通孔が形成された(非可撓性の)基体31と、基体31に貼られた不図示の可撓性の複数のフィルムとを有して構成されている。インク供給部材23は、例えば、概略、y方向負側へ延びてからz方向の負側へ延びるL字に形成されており、インクは、概略、このL字に沿って流れる。
より具体的には、例えば、まず、複数色のインクは、y方向正側の部分にてz方向の正側に開口する複数のインク導入口33に供給される。そして、複数色のインクは、例えば、全体としてy方向の負側へ延びる不図示の複数のインク導入路を流れる。このインク導入路は、例えば、基体31の板状部31aのz方向の負側の面に溝が形成され、この溝の負側の面が不図示の可撓性のフィルムによって塞がれることによって構成されている。
次に、複数色のインクは、例えば、必要に応じてz方向の負側へ流れた後、z方向に積層的に配置された複数のバッファー部35(本実施形態では4色に対応して4つ。ただし、2つは不図示)を全体としてy方向の正側へ流れる。複数のバッファー部35は、基体31の2枚の板状部31bのz軸方向の正側及び負側の面に比較的広い面積の凹部が形成され、その凹部のz方向の正側又は負側の開口が可撓性の不図示のフィルタによって塞がれることによって構成されている。バッファー部35では、不図示のフィルタの撓みによってインクの圧力変動が吸収される。
次に、複数色のインクは、必要に応じてz方向の正側へ流れた後、インク供給路37をz方向の負側へ流れる。インク供給路37は、例えば、基体31に、z方向に貫通し、x方向へ配列された貫通孔が形成されることによって構成されている。別の観点では、インク供給路37は、x方向へ連ねられた複数の筒状部31cによって構成されている。そして、複数色のインクは、インク供給路37の下端の開口からヘッド本体29に供給される。
なお、複数の色と、複数の流路(インク導入口33、バッファー部35及びインク供給路37等)との割り当ては適宜に設定されてよい。また、図2は模式図であることから、複数の流路が立体交差することなどを避けて図示しており、また、流路の方向はy方向に平行とされている。実際には、複数の流路が適宜に立体交差したり、y方向に傾斜する方向に流路が延びたりしてもよい。また、複数のインク導入口33は、x方向ではなく、y方向に配列されてもよい。
第1ヒータ25は、例えば、ヘッド本体29、複数のインク供給路37、及び、最もヘッド本体29側のバッファー部35(z方向の負側の板状部31bのz方向の負側の面に形成されていることから板状部31bに隠れて不図示)に囲まれた空間に配置されている。従って、第1ヒータ25は、インク供給部材23内のインク、特に、インク供給路37内のインクを加熱可能である。
第2ヒータ27は、2つの板状部31bに挟まれた空間に配置されている。従って、第2ヒータ27は、インク供給部材23内のインク、特に、複数のバッファー部35内のインクを加熱可能である。
第1ヒータ25及び第2ヒータ27は、例えば、比較的抵抗値が高い導体を含んで構成され、電力が供給されることによって発熱する。これらヒータは、例えば、チップ型のものであってもよいし、フィルム型のものであってもよい。
ヘッド本体29は、例えば、概ね薄型の直方体状(板状)とされており、その主面をメディア101(z方向負側)に向けて配置されている。また、ヘッド本体29は、メディア101と反対側(z方向正側)の面のうちy方向負側の端部がインク供給路37の下端に重なるように配置されている。
図3は、ヘッド5の、ヘッド本体29を含む一部の分解斜視図である。なお、図3の紙面左側は、図2の紙面右側である(xyz座標系参照)。
ヘッド本体29は、インクの流路を構成する流路部材39と、流路部材39からインクを吐出させるための駆動力を生じる圧電アクチュエータ41とを有している。
また、ヘッド5は、圧電アクチュエータ41に電気的に接続されたFPC(フレキシブル配線基板)43と、FPC43を介して圧電アクチュエータ41を駆動制御するドライバIC45とを有している。
流路部材39は、例えば、概略、薄型の直方体状(板状)に形成されており、メディア101に対向する第1主面39a及びその背面の第2主面39bを有している。第1主面39aには、インク滴を吐出するために、後述する複数のノズルが開口している。また、第2主面39bの端部には、インク供給部材23からインクが供給される流入部39hが色毎に形成されている。
流入部39hは、第2主面39bに複数の流入孔48が形成されることによって形成されている。従って、別の観点では、流入部39hは、インク供給部材23から供給されたインクから異物を除去するためのフィルタを構成している。なお、各流入孔48の形状及び寸法、並びに、複数の流入孔48の数及び分布は、除去したい異物の大きさやインクの圧力損失等を考慮して適宜に設定されてよい。
圧電アクチュエータ41は、例えば、概略、薄型の直方体状(板状)に形成されており、流路部材39の第2主面39bに重ねられる。圧電アクチュエータ41は、例えば、複数の流入部39hの配置領域を除いて、第2主面39bの全部又は大部分を覆う大きさに形成されている。
FPC43は、例えば、圧電アクチュエータ41を覆う対向部43aと、当該部分から圧電アクチュエータ41の外方へ延び出る延在部43bとを有している。なお、延在部43bは、主走査方向及び副走査方向のいずれの方向に設けられてもよい。
ドライバIC45は、例えば、延在部43bにおいて、対向部43aが圧電アクチュエータ41に対向する側の主面と同一の主面に実装されている。なお、ドライバIC45は、FPC43が折り曲げられることによって適宜な位置に配置されてよい。また、FPC43に延在部43bが2つ設けられ、その2つの延在部それぞれにドライバIC45(合計2つのドライバIC45)が設けられてもよい。ドライバIC45は、第1ヒータ25として機能してもよい。
図4は、流路部材39の分解斜視図である。
流路部材39は、複数のプレートが積層されることによって構成されている。例えば、流路部材39は、メディア101に対向する側(z方向負側)から順に、第1樹脂プレート47、第1金属プレート49A〜第4金属プレート49D(以下、単に「金属プレート49」といい、これらを区別しないことがある。)と、第2樹脂プレート51とを有している。
これらの複数のプレートのそれぞれに孔及び/又は溝が形成されることによって、流路部材39の内部にはインクが流れる流路等が構成されている。例えば、上述した流入部39h(複数の流入孔48)は、第2樹脂プレート51に形成されている。その他の流路については、図5等を参照しつつ述べる。
図5(a)は、図3の領域Vaに相当する領域においてヘッド本体29を示す拡大平面図である。この図では、流路部材39のプレートに形成された孔及び溝の一部を点線で示している。図5(b)は図5(a)のVb−Vb線における断面図である。
流路部材39は、第1主面39aに開口する複数のノズル53と、複数のノズル53からインク滴を吐出させるための圧力をインクに付与するための複数の圧力室55と、流入部39hからのインクを複数の圧力室55に供給するための共通流路57(図5(b))とを有している。
なお、これらの具体的形状は適宜に設定されよい。例えば、図5(a)に例示するように、圧力室55の平面形状は、短辺の中央にノズル53が接続される概ね矩形であってもよい。また、例えば、圧力室55の平面形状は、図5(a)とは異なり、角部にノズル53が接続される菱形であってもよいし、半円状の端部にノズル53が接続される長円乃至は楕円であってもよい。
図4及び図5(b)に示すように、複数のノズル53は、例えば、第1樹脂プレート47に形成されている。
複数の圧力室55は、例えば、複数の金属プレート49からなる積層体50に形成されており、積層体50の第2樹脂プレート51側の面に開口している。より具体的には、例えば、複数の圧力室55は、積層体50のうち最も第2樹脂プレート51側に位置する1枚の金属プレート49(第4金属プレート49D)に貫通孔が形成されることによって構成されている。
圧力室55の開口は、第2樹脂プレート51によって塞がれている。従って、第2樹脂プレート51を圧力室55側へ撓ませることによって、圧力室55内のインクに圧力を付与し、インク滴をノズル53から吐出させることができる。
共通流路57は、例えば、複数の金属プレート49からなる積層体50に形成されており、主として、圧力室55よりも第1主面39a側において延びている。より具体的には、例えば、共通流路57は、主として、第2金属プレート49Bに抜け穴状の溝が形成されることによって構成されている。
なお、共通流路57の第1主面39a側の面は、例えば、金属プレート49(本実施形態では第1金属プレート49A)によって構成されている。ただし、当該面の全部又は一部は、第1樹脂プレート47によって構成されてもよい。この場合、第1樹脂プレート47の剛性及び厚さにもよるが、第1樹脂プレート47は、インクの圧力変動を吸収するダンパーとして機能し得る。
図4及び図5は模式図であることから、流路の要部のみを単純化した形状で示しているが、図示した構成の他に、適宜な部位が設けられてよい。例えば、いずれかの金属プレート49の主面に凹溝が形成されることによって共通流路57と圧力室55とを連通する絞りが構成されたり、共通流路57よりも第1主面39a側の金属プレート49の主面に凹部が形成され、当該凹部が比較的薄い金属プレート49(又は金属プレート49の薄い部分)により共通流路57と隔てられることにより、共通流路57の圧力変動を吸収するダンパーが構成されたりしてもよい。複数の金属プレート49の厚さ、枚数及び形状は、流路の形状等に合わせて適宜に設定されてよい。
第1樹脂プレート47及び第2樹脂プレート51の材料は、適宜な種類の樹脂とされてよい。例えば、樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂である。同様に、金属プレート49の材料は、適宜な種類の金属とされてよい。例えば、金属は、ステンレス鋼である。
第1樹脂プレート47の厚みは、例えば、ノズル53の形状等に応じて適宜に設定されてよく、例えば、25μm以上75μm以下である。各金属プレート49の厚みは、例えば、流路の形状等に応じて適宜に設定されてよく、例えば、25μm以上200μm以下である。第2樹脂プレート51の厚みは、後述する効果を考慮して適宜に設定されてよい。第2樹脂プレート51の厚みは、例えば、第1樹脂プレート47の厚みと同等、又は、第1樹脂プレート47の厚みよりも小さく、7.5μm以上25μm以下である。
流路部材39を構成する複数のプレート(47、49及び51)の広さは、例えば、互いに同等である。すなわち、平面視においてこれらのプレートの外縁は一致する。ただし、加工誤差等に起因する比較的微小な差異があってもよい。例えば、第2樹脂プレート51の外縁に規定される面積(流入孔48の面積を含む)が第1樹脂プレート47の外縁に規定される面積(ノズル53の面積を含む)の99%以上101%以下の場合も、ここでいう同等に含まれるものとする。
図5(b)に示すように、圧電アクチュエータ41は、例えば、ユニモルフ型の圧電アクチュエータ基板により構成されており、流路部材39側から順に、振動板59、共通電極61、圧電体63及び複数の個別電極65が積層されて構成されている。なお、これらはいずれも層状(板状)に形成されている。
共通電極61と個別電極65との間に電圧が印加されると、主としてその個別電極65と重なる領域において圧電体63は逆圧電効果によって平面方向において縮小する。これにより、振動板59及び振動板59に密着している第2樹脂プレート51は圧力室55側へ撓む。この動作が利用されて、圧力室55内のインクに圧力が付与され、インク滴がノズル53から吐出される。
なお、第2樹脂プレート51は、振動板59と同様に、圧電アクチュエータ41の平面方向の収縮を規制して圧電アクチュエータ41に撓み変形を生じさせることに寄与し得る。また、第2樹脂プレート51は、インクが圧電アクチュエータ41に浸透する可能性を低減することに寄与し得る。
振動板59、共通電極61及び圧電体63は、複数の圧力室55全体に亘って設けられている。一方、個別電極65は、圧力室55毎に設けられている。共通電極61には、例えば、基準電位が付与される。複数の個別電極65には選択的に共通電極61とは異なる電位(駆動信号)が付与される。これにより、複数のノズル53から選択的にインク滴が吐出される。
図5(a)に示すように、複数の個別電極65は、圧力室55の概ね全体に重なり、圧電体63に電圧を印加するための電極本体65aと、FPC43との接続のための引出電極65bとを有している。電極本体65aは、例えば、圧力室55の平面形状と概ね同様(相似)の形状とされている。引出電極65bは、電極本体65aから適宜な方向に延び出ている。例えば、引出電極65bは、電極本体65aに対してノズル53とは反対側へ、圧力室55と重ならない位置まで延び出ている。
振動板59は、例えば、セラミック、酸化シリコン若しくは窒化シリコンにより形成されている。共通電極61及び個別電極65は、例えば、銀、白金若しくはパラジウムにより形成されている。圧電体63は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等のセラミックにより形成されている。
なお、以下では、図5において示した、流路部材39及び圧電アクチュエータ41のうち、一のノズル53に対応する部分(概略、平面視において圧力室55及び個別電極65の配置領域)を吐出素子67ということがある。
図6(a)は、概ね図3の領域VIaに相当する領域においてヘッド本体29を示す平面図である。
図3及び図6(a)に示すように、複数の吐出素子67は、主走査方向及び副走査方向に配列されている。具体的には、例えば、以下のとおりである。
複数の吐出素子67のそれぞれは、圧力室55に対してノズル53が配置されたり、電極本体65aに対して引出電極65bが延び出たりする方向を副走査方向(x方向)に一致させて配置されている。
複数の吐出素子67が主走査方向(y方向)に配列されて構成された吐出素子67の行(吐出素子行69)においては、複数の吐出素子67は、互いに同一の向きとされている。互いに隣接する吐出素子行69同士は、ノズル53(引出電極65b)の向きが互いに逆向きとされ、また、吐出素子67の主走査方向における半ピッチの大きさで、互いにずれて配置されている。
ノズル53側同士を向い合わせた2つの吐出素子行69は、一のインクに対応しており、本実施形態では、4色に対応して、合計で8つの吐出素子行69が設けられている。なお、ブラックインクに対しては吐出素子行69の数を多くするなど、色毎に吐出素子行69の数が異なっていてもよい。
図6(b)は、図6(a)のVIb−VIb線における断面図である。
図6(a)及び図6(b)に示すように、例えば、共通流路57は流入部39hと重なっており、これらは積層体50に形成された流入口71によって接続されている。流入口71は、例えば、共通流路57(第2金属プレート49B)よりも第2樹脂プレート51側に位置する金属プレート49(本実施形態では第3金属プレート49C及び第4金属プレート49D)に貫通孔が形成されることにより構成されている。
図6(a)に示すように、共通流路57は、流入口71との接続位置から、その流入口71に対応する吐出素子行69の数(本実施形態では2つ)に対応して分岐して、吐出素子行69に沿って延びている。
図7(a)は、図6(b)の領域VIIaの拡大図である。図7(b)は、図5(b)の領域VIIbの拡大図である。
積層体50(第4金属プレート49D)と第2樹脂プレート51とは、例えば、第1接着剤73によって接着されている。また、第2樹脂プレート51と圧電アクチュエータ41(振動板59)とは第2接着剤75によって接着されている。
なお、特に図示しないが、複数の金属プレート49は、接着剤により互いに接着されている。第1樹脂プレート47と積層体50(第1金属プレート49A)とは接着剤により互いに接着されている。
第1接着剤73及び第2接着剤75、並びに、その他の不図示の接着剤は、例えば、熱硬化性樹脂からなる。これらの接着剤は、基本的には、各プレート間において一定の厚さで層状に広がっている。
図7(a)に示すように、積層体50の第2樹脂プレート51側の面には、第1接着剤73の一部が配置(例えば充填)された共通凹部77が形成されている。共通凹部77は、図4にも示すように、全ての圧力室55の周囲となる領域に、複数のノズル53及び複数の圧力室55を含むインクの流路とは隔離されて形成されている。より具体的には、例えば、共通凹部77は、全ての圧力室を囲むように延びる溝状である。また、本実施形態では、圧電アクチュエータ41の外縁はその全体が、流路部材39の外縁の全体よりも内側に位置しており(図2)、共通凹部77は、例えば、圧電アクチュエータ41を囲むように延びている(図4、図6(a))。
また、図7(b)に示すように、積層体50の第2樹脂プレート51側の面には、第1接着剤73の一部が配置(例えば充填)された複数の個別凹部79が形成されている。各個別凹部79は、図5(a)にも示すように、各圧力室55の周囲となる領域に、複数のノズル53及び複数の圧力室55を含むインクの流路とは隔離されて形成されている。より具体的には、例えば、各個別凹部79は、各圧力室55を囲む溝状である。
共通凹部77の溝の環の形状は、例えば、複数の吐出素子67の配置領域の形状等に応じて適宜に設定されてよく、例えば、概略矩形である。また、個別凹部79の溝の環の形状は、圧力室55等の形状に応じて適宜に設定されてよく、例えば、圧力室55の平面形状(本実施形態では矩形)と概略相似である。なお、共通凹部77及び個別凹部79の環は一部において途切れていてもよい。共通凹部77及び個別凹部79の断面形状は適宜に設定されてよく、例えば、概略、矩形、三角形(V字溝)、U字溝又は半円形(開口面側が中心側)である。
共通凹部77及び個別凹部79は、例えば、最も第2樹脂プレート51側の金属プレート49(第4金属プレート49D)に凹部が形成されることによって構成されており、その深さは、第4金属プレート49Dの厚み未満である。なお、共通凹部77及び個別凹部79は、第4金属プレート49Dに貫通孔が形成されることによって構成され、その深さが第4金属プレート49Dの厚みと同等であってもよい。また、共通凹部77及び個別凹部79は、第2樹脂プレート51側の2枚以上の金属プレート49の孔等によって構成され、第4金属プレート49Dの厚みよりも深くてもよい。ただし、共通凹部77又は個別凹部79が途切れない環状である場合においては、第4金属プレート49Dが分離しないように、凹部の深さは第4金属プレート49Dの厚み未満である。
共通凹部77及び個別凹部79の寸法は適宜に設定されてよい。例えば、各凹部の溝の幅は、第2樹脂プレート51の厚さよりも大きく、例えば、30μm以上120μm以下である。また、例えば、各凹部の深さは、第4金属プレート49Dの厚みの1/3以上2/3未満であり、例えば、20μm以上70μm以下である。なお、共通凹部77及び個別凹部79の幅及び深さについて一緒に説明したが、両凹部の幅又は深さは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
共通凹部77及び個別凹部79の他にも、適宜に積層体50(第4金属プレート49D)の第2樹脂プレート51側の面に、第1接着剤73が配置された、インクの流路とは隔離された凹部(凹溝)が形成されてもよい。ただし、個別凹部79は、積層体50(第4金属プレート49D)の第2樹脂プレート51側の面において、最も圧力室55に近い凹部である。また、特に図示しないが、金属プレート49の他の接着面にも、接着剤が配置され、インクの流路とは隔離された凹部(凹溝)が形成されてもよい。
第1接着剤73の、共通凹部77及び個別凹部79に配置される部分は、例えば、以下のように形成される。まず、第4金属プレート49D又は第2樹脂プレート51に所定の厚さで未硬化の第1接着剤73を塗布する。次に、第4金属プレート49D及び第2樹脂プレート51によって所定の圧力で第1接着剤73を挟み込み、第1接着剤73を塗布時よりも薄くして、第1接着剤73をこれらの凹部に流れ込ませる。その後、第1接着剤73を硬化させる。なお、図7(a)では、第1接着剤73は、共通凹部77及び個別凹部79に完全に充填されているが、実際には、開口面側の一部にのみ配置されるなどしていてもよい。
図7(a)に示すように、第2接着剤75は、圧電アクチュエータ41の外縁から外側にはみ出しており、そのはみ出した部分(盛り上がり部75b)が盛り上がって圧電アクチュエータ41(振動板59)の側面にも密着している。盛り上がり部75bは、例えば、圧電アクチュエータ41を囲んでいる。なお、盛り上がり部75bは、圧電アクチュエータ41の全周に亘っていることが好ましいが、一部に途切れる部分があってもよい。
盛り上がり部75bは、例えば、以下のように形成される。まず、第2樹脂プレート51又は振動板59に所定の厚さで未硬化の第2接着剤75を塗布する。次に、第2樹脂プレート51及び振動板59によって所定の圧力で第2接着剤75を挟み込み、第2接着剤75を塗布時よりも薄くして、第2接着剤75をはみ出させる。その後、第2接着剤75を硬化させる。なお、圧電アクチュエータ41の外縁が第2樹脂プレート51の外縁よりも内側に位置していたほうが、第2接着剤75をはみ出させる際に、はみ出した部分の逃げ場が第2樹脂プレート51側(z方向負側)になく、はみ出した部分が圧電アクチュエータ41側へ盛り上がりやすい。
以上のとおり、本実施形態のヘッド5は、厚み方向に貫通する複数のノズル53を有している第1樹脂プレート47と、第1樹脂プレート47に対して積層された複数の金属プレート49により構成されており、複数のノズル53に通じ、第1樹脂プレート47とは反対側に開口する複数の圧力室55を有している積層体50と、複数の圧力室55の開口を塞ぐように積層体50に重ねられた第2樹脂プレート51と、を有している。
従って、例えば、金属からなり、熱伝導率が比較的高い積層体50は、樹脂からなり、熱伝導率が比較的低いプレート(47、51)に挟まれることにより、比較的広い面積を有する主面において断熱される。その結果、例えば、第1ヒータ25及び第2ヒータ27等によって加熱されたインクの熱が、積層体50の外部へ放出される可能性が低減される。また、例えば、圧電アクチュエータ41の駆動によって発生する熱が積層体50内のインクに伝わり難くなり、インクが不要に温められる可能性が低減される。インクからの放熱又はインクの不要な昇温の可能性が低減されることにより、インクの粘度が一定に保たれやすくなり、画質が向上する。
また、例えば、圧力室55に撓むプレート(第2樹脂プレート51)が金属よりもヤング率が低い樹脂により構成されることから、当該プレートが金属により構成された場合に比較して圧力室55への撓みの変形量を大きくすることができる。別の観点では、所望の変形量を得るために圧電アクチュエータ41に印加する電圧を低くし、ヘッド5の消費電力を低減することができる。
また、例えば、積層体50とは熱膨張係数が異なる樹脂プレートが、積層体50の一方の主面だけでなく、両面に設けられることになるから、熱応力によるヘッド本体29の反りが低減される。反りが低減されることにより、例えば、プレートの剥離の可能性が低減される。また、例えば、吐出素子67間において流路の容積や形状に関してばらつきが生じることが低減され、画質が向上する。
また、例えば、ヘッド本体29を構成するプレートにおいて樹脂の割合が大きくなるから、全体を金属によって構成した場合に比較して、コストが削減される。
また、例えば、積層体50を構成するプレートは、金属から構成されていることから、流路となる溝等の加工が容易である。また、流路部材39の最下層(第1樹脂プレート47)及び最上層(第2樹脂プレート51)においては、ノズル53又は流入孔48等の貫通孔ができればよい。従って、流路部材39の最下層及び最上層のみを樹脂にすることによって、上述のような好適な効果を得つつ、全体として簡便に加工を行うことができる。
また、本実施形態では、積層体50は、第2樹脂プレート51に接着された面のうち複数の圧力室55全体の周囲となる領域に、複数のノズル53及び複数の圧力室55を含むインクの流路とは隔離された共通凹部77を有している。
従って、例えば、第1接着剤73が共通凹部77に配置されることによって、第2樹脂プレート51と積層体50との接着を強固にすることができる。具体的には、例えば、第1接着剤73の積層体50に対する接着面積が増加する。また、例えば、第1接着剤73と共通凹部77とが平面方向において係合し、熱膨張等による第2樹脂プレート51と積層体50との平面方向のずれが生じる可能性が低減される。なお、余剰な接着剤を収容するという消極的な目的で凹部が設けられることがあるが、本実施形態では、複数の圧力室55全体の周囲となる領域に凹部を設けることによって、接着を強固にする目的で凹部を積極的に利用している。
さらに、本実施形態では、共通凹部77は、複数の圧力室55を囲む溝状であることから、上述した接着を強固にする効果が顕著である。
また、本実施形態では、ヘッド5は、第2樹脂プレート51に対して積層体50とは反対側に重ねられた圧電アクチュエータ41と、第2樹脂プレート51と圧電アクチュエータ41との間に介在する第2接着剤75と、を更に有している。第2接着剤75は、第2樹脂プレート51と圧電アクチュエータ41との間から外側へはみ出して圧電アクチュエータ41の側面に密着している。
従って、第2樹脂プレート51と圧電アクチュエータ41との接着を強固にすることができる。具体的には、例えば、第2接着剤75の圧電アクチュエータ41に対する接着面積が増加する。また、例えば、第2接着剤75と圧電アクチュエータ41とが平面方向において係合し、熱膨張等による第2樹脂プレート51と圧電アクチュエータ41との平面方向のずれが生じる可能性が低減される。なお、接着剤の外側へのはみ出しは通常避けられるが、本実施形態では、はみ出しを積極的に利用している。
さらに、本実施形態では、前記の圧電アクチュエータ41の側面に密着する部分(盛り上がり部75b)は、圧電アクチュエータ41を囲んでいることから、上述した接着を強固にする効果が顕著である。
また、本実施形態では、例えば、第2樹脂プレート51は、第1樹脂プレート47よりも薄い。
従って、第2樹脂プレート51が第1樹脂プレート47と同等の厚みとされるなど、比較的厚くされた場合に比較して、圧力室55への撓みの変形量を大きくすることができる。別の観点では、所望の変形量に対してその結果、例えば、圧電アクチュエータ41に印加する電圧を低くし、ヘッド5の消費電力を低減することができる。
また、本実施形態では、第2樹脂プレート51は、第1樹脂プレート47と同等の広さを有している。
従って、積層体50の両主面に加えられる熱応力の広さが互いに同等となり、積層体50の反りが効果的に低減される。なお、この際、第2樹脂プレート51の体積が第1樹脂プレート47の体積と同等(例えば95%以上105%未満)となるように第2樹脂プレート51の厚みが設定されると、より好適に反りが低減される。このときの体積は、ノズル53等の空所を除いた体積である。
また、本実施形態では、積層体50は、第2樹脂プレート51に接着された面のうち複数の圧力室55それぞれの周囲となる領域に、複数のノズル53及び複数の圧力室55を含むインクの流路とは隔離された複数の個別凹部79を有している。
従って、例えば、第1接着剤73の個別凹部79に配置された部分が、平面方向において個別凹部79と係合する。その結果、例えば、第2樹脂プレート51の圧力室55上の部分は、個別凹部79から引張り力によって圧力室55側への自重等による撓みが低減される。このような撓みの低減により、例えば、流路部材39と圧電アクチュエータ41とを貼り合わせたときに、両者の間に空気層が介在してしまうおそれが低減される。
また、本実施形態では、個別凹部79は、各圧力室55を囲む溝状であることから、上述した圧電アクチュエータ41の意図しない撓みの低減の効果が顕著である。
また、本実施形態では、積層体50は、第2樹脂プレート51側の面に開口する流入口71と、流入口71から延びて複数の圧力室55に通じる共通流路57とを有している。第2樹脂プレート51は、流入口71に重なり、ノズル53の開口よりもそれぞれ開口面積が小さい複数の流入孔48が形成されたフィルタ領域部(流入部39h)を有している。
従って、圧力室55を塞ぐプレート(第2樹脂プレート51)とは別にフィルタを設ける(後述する図9参照)必要がない。その結果、製造工程が簡素化されるとともにコストが削減される。複数の流入孔48は、第2樹脂プレート51が樹脂であり、また、他のプレートに比較して薄いことから、レーザー等によって簡便に形成される。
(変形例)
以下、図8及び図9を参照して本実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、実施形態の構成と同一又は類似する構成については、実施形態の符号と同一の符号を付し、また、説明を省略することがある。
図8は、第1の変形例に係るヘッド本体229を示す、図5(b)に対応する断面図である。ヘッド本体229は、積層体50にダンパー用流路258が設けられている点のみが実施形態と相違する。
ダンパー用流路258は、例えば、共通流路57から延び、積層体50の第2樹脂プレート51側の面に開口し、この開口は、第2樹脂プレート51によって塞がれている。従って、共通流路57に圧力変動が生じると、その圧力はダンパー用流路258を介して第2樹脂プレート51に伝えられる。そして、第2樹脂プレート51の曲げ変形によって圧力変動が吸収される。
なお、圧力変動は、例えば、インク滴を吐出するために圧力室55に圧力が付与されることによって生じる。また、例えば、圧力変動は、ヘッド5が副走査方向に移動したときに、ヘッド5とインクカートリッジ9とを連通するチューブの慣性力によって生じる。
ダンパー用流路258は、例えば、吐出素子67毎に設けられている。具体的には、例えば、共通流路57の内面には、複数の圧力室55に通じる複数の孔が形成されており、複数のダンパー用流路258は、その複数の孔の配列に沿った複数の位置から延びている。このような構成においては、圧力室55からの圧力変動を効果的に吸収できると期待される。なお、複数のダンパー用流路258は、共通流路57の内面の、複数の圧力室55に通じる複数の孔の数よりも少ない数の位置から延びていてもよい。
また、ダンパー用流路258は、上記のような構成に加えて又は代えて、複数の吐出素子67に対して共通に設けられてもよい。例えば、ダンパー用流路258は、共通流路57のうち、流入口71と、流入口71に最も近い吐出素子67との間から延びて、吐出素子行69に対して一つ設けられてもよい。このようなダンパー用流路258は、ヘッド5とインクカートリッジ9とを連通するチューブの慣性力によって生じる圧力変動を効果的に吸収できると期待される。
図8では、ダンパー用流路258は、第2樹脂プレート51のうち圧電アクチュエータ41と重なる部分によって塞がれているが、重ならない部分によって塞がれるように形成されてもよい。
ダンパー用流路258の具体的な形状及び大きさは適宜に設定されてよい。例えば、ダンパー用流路258の第2樹脂プレート51側への開口面の形状は、面積を広くする観点から、円形又は正方形である。また、第2樹脂プレート51側への開口形状及び開口面積と、共通流路57側への開口形状及び開口面積とで異なるなど、ダンパー用流路258の形状及び断面積は、流路方向の位置に対して一定でなくてもよい。
図9は、第2の変形例に係るヘッド本体329を示す、図6(b)に対応する断面図である。ヘッド本体329は、流入部39hにおけるフィルタの構成、及び、第1樹脂プレート47及び第2樹脂プレート51の面積が実施形態と相違する。その他は、実施形態と同様である。
第2樹脂プレート51は、例えば、流入口71を覆う広さを有しておらず、ひいては、フィルタを構成していない。代わりに、この変形例では、第2樹脂プレート51とは別に、フィルタプレート352が流入口71を覆うように設けられている。フィルタプレート352は、例えば、第2樹脂プレート51の一部でないことを除いては、実施形態の第2樹脂プレート51の流入口71上の部分と同様である。
また、第1樹脂プレート47は、第2樹脂プレート51と同等の広さを有するように(外縁が一致するように)形成されている。すなわち、第1樹脂プレート47は、積層体50よりも狭い。
このように、第2樹脂プレート51がフィルタ領域部(流入部39h)を構成しない場合においても、第1樹脂プレート47及び第2樹脂プレート51の広さを同等とし、積層体50の両主面において熱応力が付与される面積を同等とし、流路部材39の反りを効果的に低減できる。なお、第2の変形例においても、反り抑制の観点から、ノズル53等の空所を除いた両樹脂プレートの体積が同等とされてよい。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
例えば、プリンタ(インクジェットヘッド)は、シリアルヘッド式、且つ、オフキャリッジ式のカラープリンタに限定されない。例えば、プリンタは、ラインヘッド式、及び/又は、オンキャリッジ式であってもよいし、カラープリンタでなくてもよい。インクジェットヘッドにヒータは設けられなくてもよい。プリンタにおけるインクジェットヘッド以外の部分(例えばメディアの搬送部)の構成も例示した構成以外の適宜な構成とされてよい。メディアも紙に限定されず、金属又は樹脂からなるものであってもよい。
第2樹脂プレートは、接着剤によって積層体(又は圧電アクチュエータ)に接着されるのではなく、直接に密着されてもよい。例えば、半硬化状の樹脂シートが積層体に貼り付けられ、その後、硬化されてもよい。従って、共通凹部(77)及び個別凹部(79)内には、接着剤でははく、第2樹脂プレート自体が配置されていてもよい。
共通凹部及び個別凹部は溝状のものに限定されない。例えば、共通凹部は、複数の圧力室全体を囲むように、比較的短い凹溝が点線のように配列されて複数の圧力室を囲んでいてもよい。個別凹部も同様である。また、共通凹部は、複数の圧力室全体を囲んでいなくてもよい。例えば、矩形状の流路部材の1辺、2辺又は3辺のみに設けられてもよい。同様に、個別凹部は、各圧力室を囲んでいなくてもよい。例えば、圧力室に対して長手方向又は短手方向の両側(すなわち2箇所)に設けられてもよい。
接着剤のうち、第2樹脂プレートと圧電アクチュエータとの間から外側へはみ出して圧電アクチュエータの側面に密着する部分(盛り上がり部)は、圧電アクチュエータを囲んでいなくてもよい。すなわち、盛り上がり部は、平面視における側面の一部にのみ設けられていてもよい。
第2樹脂プレートの厚さは、第1樹脂プレートの厚さよりも厚くてもよいし、第2樹脂プレートの広さは、第1樹脂プレートの広さと異なっていてもよい。