以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
<基材>
本発明に用いられる基材は、長尺な支持体であって、後述のガスバリア性を有するバリア層(「ガスバリア層」)を保持することができるもので、下記のような材料で形成されるが、特にこれらに限定されるものではない。
例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(Ny)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の各樹脂のフィルム、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム(例えば、製品名Sila−DEC(登録商標);チッソ株式会社製、及び、製品名シルプラス(登録商標);新日鐵化学社製等)、さらには前記樹脂を二層以上積層して構成される樹脂フィルム等を挙げることができる。
コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等が好ましく用いられ、また光学的透明性、耐熱性、無機層、バリア層との密着性の点においては、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルムが好ましく用いることができる。
一方で、例えば、フレキシブルディスプレイなどの電子デバイス用途でガスバリア性フィルムを用いる場合、アレイ作製工程でプロセス温度が高温となるときがある。ロール・トゥ・ロールによる製造の場合、基材には常にある程度の張力が印加されているため、基材が高温下に置かれて基材温度が上昇した際、基材温度がガラス転移点温度を超えると基材の弾性率は急激に低下して張力により基材が伸び、バリア層にダメージを与える懸念がある。したがって、このような用途においては、ガラス転移点が150℃以上の耐熱性材料を基材として用いることが好ましい。すなわち、ポリイミドやポリエーテルイミド、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルムを用いることが好ましい。
また、本発明においては、バリア層成膜工程において250℃以上の高温に基材がさらされるため、好ましくは熱膨張率が5.0×10−5/K以下である基材、より好ましくは熱膨張率が3.0×10−5/K以下である基材を用いる。かような熱膨張率が低い基材を用いることにより、バリア層成膜工程における基材の熱膨張が抑制され、バリア層がダメージを受けにくいという利点がある。基材の熱膨張率は低いほどよいので、下限は特に制限されるものではないが、例えば、1.0×10−6/K以上である。本発明において、基材の熱膨張率はJIS K 7197(2012)に準拠して50℃〜200℃で測定した値(熱膨張係数)を採用する。上記のような熱膨張率が低い基材としては、具体的には、ポリイミドフィルム(特に、低熱膨張ポリイミドフィルム)、PET 2軸延伸フィルム、PEN 2軸延伸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム等が挙げられ、市販品としてはユーピレックス(登録商標)シリーズ(宇部興産株式会社製)、カプトン(登録商標)シリーズ(東レ・デュポン株式会社)、ネオプリム(登録商標)シリーズ(三菱ガス株式会社)、等を好ましく用いることができる。
基材の膜厚は10〜100μm程度が好ましく、好ましくは15〜80μmである。膜厚が10μm以上の基材を用いることにより、成膜時のツレを抑制し、工程適性が上がるという利点がある。一方、基材の膜厚が100μm以下であることにより、フレキシブル性が付与できるという利点がある。
また、基材は透明であることが好ましい。ここでいう基材が透明とは、可視光(400〜700nm)の光透過率が80%以上であることを示す。なお、可視光透過率は、JIS R3106(1985)の規格に準じて計算した値とする。
基材が透明であり、基材上に形成するバリア層も透明であることにより、透明なガスバリア性フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
また、上記に挙げた樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
本発明に用いられる基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。
また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等の公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、又は基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2倍〜10倍が好ましい。さらには、延伸フィルムに於いて基板の寸法安定性を向上するために、延伸後の緩和処理をする事が好ましい。
また、本発明に係る基材においては、バリア層を形成する前に、その表面(バリア層を設ける側)に、接着性向上のための公知の種々の処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、プラズマ処理、もしくはプライマー層の積層等を、必要に応じて単独であるいは組み合わせて施してもよい。
本発明に用いられる基材の表面粗さとしては、JIS B 0601:2001で規定される平均表面粗さ(Ra)が5nm以下であるものが好ましい。平均表面粗さ(Ra)が5nm以下であることにより、バリア上に積層するデバイスの精度を向上させ、歩留まりが上げられるという効果がある。下限は特にないが、実用上、0.01nm以上である。必要に応じて、基材の両面、少なくともバリア層を設ける側を研摩し、平滑性を向上させておいてもよい。
また、本発明においては、水蒸気透過率(Water Vapor Transmission Rate、以下、「WVTR」とも称する。)が1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する基材を用いることもできる。基材が1×10−2g/m2/day以下のバリア性(例えば1×10−3〜1×10−2g/m2/dayのバリア性を有する基材)を有することにより、後述のバリア性下地膜を設けなくとも、バリア層の層厚方向における該バリア層表面からの距離とケイ素原子の量に対する酸素原子の量の比率とを示す酸素分布曲線が、領域(A)において極小値を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。別途にバリア層を形成し得ることを考慮すれば基材自体に過度に高いバリア性は要求されず、例えば、WVTRが1〜10g/m2/day程度の基材を用いることもできる。基材のバリア性は、後述するバリア層と同様の手法で測定された値を採用するものとする。
1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する基材としては、特に制限されるものではないが、例えば、シリカ薄膜、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム、ガラス繊維フィルム等を挙げることができる。なお、フレキシブル性を有する表示デバイス等への応用を考慮すると、基材に1×10−2g/m2/day以下のバリア性が無くとも、上述のポリイミド等の樹脂製基材に、後述の手法により1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜を形成することで、酸素分布曲線が領域(A)において極小値を有するガスバリア性フィルムを得ることもできる。
<バリア層>
本発明において「バリア層」とは、38℃、相対湿度100%の雰囲気で透湿度測定装置(AQUATRAN model1、MOCON社製、米国)を用いて測定した水蒸気透過率(WVTR)が、1×10−2g/m2/day以下である層をいう。また、本発明において、バリア層は、基材の片面側にのみ形成されても良いし、両面側に形成されても良い。
バリア層の組成比や厚さは、当業者であれば任意の方法で調整することができる。例えば化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD法)によりバリア層を成膜する場合は、成膜(形成)時の原料化合物(原料ガス)と酸素との供給比、供給ガス圧(原料ガスや酸素ガスの供給量)、プラズマ発生電源の印加電力、ラインスピード(搬送速度)等を調整すればよい。また、塗膜形成法によりバリア層を形成する場合は、原料化合物(例えば、ポリシラザン)を含む塗布液の厚さ、塗布後の乾燥の程度、印加するエネルギーの程度(例えば、真空紫外線を照射してエネルギーを印加する場合は、エネルギー量、照射時間)、エネルギー印加時の雰囲気等を調整すればよい。より具体的には、ポリシラザン塗膜への真空紫外線照射時に、雰囲気の酸素濃度を調整することで、酸素源の取り込み量を調整し、領域の組成比や厚さを調整する方法等が挙げられる。
バリア層の厚さ方向の組成分布は、下記のようなXPS(光電子分光法)分析を用いた方法で測定して求めることができる。以下、XPS分析について説明する。なお、装置や測定条件が変わっても本発明の主旨に即した測定方法であれば問題なく適用できる。本発明の主旨に即した測定方法とは、主に厚さ方向の解像度であり、測定点1点あたりのエッチング深さ(下記のスパッタイオンとデプスプロファイルの条件に相当)は1〜15nmであり、1〜10nmであることがより好ましい。
本発明におけるガスバリア層の組成は、下記条件でガスバリア層表面を1分間スパッタ後に測定して得られるものである。
(XPS分析条件)
・装置:アルバックファイ製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・本件の測定は、SiO2換算で、約2.8nmの厚さ分となるようにスパッタ時間を調整する。
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量する。データ処理は、アルバックファイ社製のMultiPakを用いる。
バリア層の膜厚(2層以上の積層構造である場合はその総厚)は、20〜1500nm程度であることが好ましく、200〜1000nmであることがより好ましい。この範囲であれば、ガスバリア性と屈曲時のクラック耐性とのバランスが良好となる。20nm以上とすることで、ガスバリア性が確保され、1500nm以下とすることで屈曲時にクラックが発生する可能性が低くなる。
バリア層は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。バリア層の層数の上限は特に限定されないが、透明性や生産性の観点から、通常10以下である。すなわち、バリア層は、基材上に、1〜10層、より好ましくは1〜6層積層されることが好ましい。バリア層が2層以上の積層構造である場合、各バリア層は同じ組成であってもよいし異なる組成であってもよい。また、バリア層が2層以上の積層構造である場合、バリア層は後述する塗膜形成法により形成される層のみからなってもよいし、塗膜形成法により形成される層と真空成膜法により形成される層との組み合わせであってもよい。
[領域(A)]
本発明に係るガスバリア性フィルムには、上記基材の少なくとも一方の面側にバリア層が配置され、下記式(1)で表わされる組成比を有する領域(A)が該バリア層に含まれる。
式(1)中、1.5<x<2.0、0.1<y<0.25である。式(1)中、1.5<x<2.0、0.1<y<0.25であることにより、酸素や水の存在下においても酸化耐性に優れ、バリア層の組成比が経時でも安定する。好ましくは、バリア層に含まれる領域(A)は、式(1)において1.5<x<1.9、0.15<y<0.25である組成比からなる。
本明細書においては、SiOxNy(1.5<x<2.0、0.1<y<0.25)の条件を満たす領域を、領域(A)とする。本発明において、領域(A)に含まれる全元素のうち、上述のXPS分析で求められる水素を除いた原子組成%(at%)で、ケイ素(Si)、酸素(O)、及び窒素(N)の合計が90at%以上であることが好ましい。領域(A)に含まれる全元素のうち、ケイ素(Si)、酸素(O)、及び窒素(N)の上限は、100at%である。バリア層形成時の原料や基材・雰囲気等から取り込まれる少量の炭素等、上記のケイ素・酸素・窒素以外の元素は、領域(A)に含まれる全元素のうち、各々5at%未満であることが望ましく、各々2at%未満であることが望ましい。
本発明に係るガスバリア性フィルムのバリア層は、領域(A)を少なくとも1領域有していればよい。バリア層に含まれる領域(A)の数は、作業効率の観点から、好ましくは5領域以下であり、より好ましくは1領域である。この場合、式(1)の組成比で表わされる層厚方向に連続した領域を、一つの領域(A)としてカウントする。
本発明に係るガスバリア性フィルムのバリア層には、SiOxNy(1.5<x<2.0、0.1<y<0.25)の条件を満たす領域(A)の厚さが20nm以上且つ100nm以下含まれていればよいが、領域(A)以外の組成比である領域が含まれていることを妨げるものではない。
領域(A)以外の組成比である領域としては、例えば、SiOa(2.0≦a<2.5)である領域、SiObNc(0<b≦1.5、0.33≦c<1.0)である領域などが挙げられ、これらの領域が、例えば10〜1300nm程度含まれ得る。
本発明においては、基材の少なくとも一方の面側にポリシラザン塗膜を形成し、塗膜をエネルギー印加処理および250℃以上の加熱処理する工程を含むことにより、領域(A)を含むバリア層が形成される。過度に高温の条件で加熱処理を行うと、領域(A)が形成された場合であっても、基材の伸縮や変形によりバリア性が低下することがある。このため、加熱処理は550℃以下が好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、バリア層を含むガスバリア性フィルムの製造方法であって、前記バリア層の成膜工程が、基材の少なくとも一方の面側にポリシラザン塗膜を形成し、該塗膜をエネルギー印加処理および250℃〜550℃の加熱処理することを含む、ガスバリア性フィルムの製造方法が提供される。バリア層の形成工程がエネルギー印加処理と加熱処理とを含むことにより、領域(A)の厚さを20nm以上にまで厚くすることができる。
本発明に係るガスバリア性フィルムに配置されたバリア層に含まれる領域(A)の厚さは、層厚方向に連続して20nm〜100nmであり、好ましくは25nm〜80nmであり、より好ましくは30nm〜50nmである。領域(A)の厚さが層厚方向に連続して20nm未満であると、高温高湿環境における十分な耐久性をガスバリア性フィルムに付与することができない。
バリア層の成膜工程において、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する基材、または1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜上に上記の塗膜を形成することにより、後述の酸素分布曲線(バリア層の層厚方向における該バリア層表面からの距離と、ケイ素原子の量に対する酸素原子の量の比率とを示す)が、前記領域(A)において極小値を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、バリア層の成膜工程が、1×10−2g/m2/day以下のWVTRである基材の少なくとも一方の面側、または基材の少なくとも一方の面側に設けられた1×10−2g/m2/day以下のWVTRである下地膜上にポリシラザン塗膜を形成し、該塗膜をエネルギー印加処理および250℃〜550℃の加熱処理することを含む、ガスバリア性フィルムの製造方法が提供される。より好ましくは、基材の少なくとも一方の面側に設けられたWVTRが1×10−2g/m2/day以下の下地膜上にポリシラザン塗膜を形成することが、基材のフレキシビリティーという観点から好ましい。
領域(A)は、ポリシラザン塗膜を形成した基材をエネルギー印加処理および250℃以上の加熱処理することを含む工程により形成される。領域(A)のさらに上層に領域(A)とは組成が異なるバリア層を設けることも可能ではあるが、領域(A)がバリア層表面から100nm以内に含まれることが、作業性の観点から好ましい。
本発明においては、バリア層の層厚方向における該バリア層表面からの距離と、ケイ素原子の量に対する酸素原子の量の比率とを示す酸素分布曲線が、領域(A)において少なくとも1つの極小値を有することが好ましい。酸素分布曲線が、領域(A)において少なくとも1つの極小値を有することにより、ガスバリア性フィルムの高温高湿環境での耐久性がより向上する。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、このメカニズムは以下のように推定している。すなわち、酸素分布曲線が領域(A)において極小値を有するということは、酸素量が少なく改質の程度が低い部分を領域(A)が有することを示す。かような酸素量が少ない部分を領域(A)が有することにより、バリア層の屈曲性が向上するため、耐久性が向上するものと推測される。なお、酸素分布曲線は、上述のXPS分析により測定することができる。
本明細書において「極小値」とは、バリア層の表面からの層厚方向への距離を変化させた場合に、ケイ素原子の量に対する酸素原子の量が減少から増加に変わる点(以下、「極小点」、「Pmin」とも称する。)における単位ケイ素原子量(ケイ素原子の量=1)に対する酸素原子の量(以下、「酸素割合」、「Omin」とも称する。)を示す値であり、かつ以下の関係式1、関係式2で表わされる2つの要件の両方を満たすものをいう。
関係式1および関係式2中、Ominは、極小点(Pmin)における酸素割合を意味する。関係式1中、Oaは、極小点(Pmin)からバリア層表層側へ20nm変化させた位置における、酸素割合を意味する。関係式2中、Obは、極小点(Pmin)から基材側(バリア層表層側方向とは反対方向)に10nm変化させた位置における、酸素割合を意味する。本明細書において「極小値」は、OaからOminを引いた値が0.1以上であり、かつ、ObからOminを引いた値が0.05以上という条件を満足する。例えば、バリア層表面から層厚方向へ距離を変化させた場合に、ケイ素原子の量に対する酸素原子の量が減少から増加に変わる点(Pmin)が存在したとする。Pminにおける酸素割合(Omin)が1.6であり、Pminからバリア層表層側へ20nm変化させた位置における酸素割合(Oa)が1.7以上であり、Pminから基材側へ10nm変化させた位置における酸素割合(Ob)が1.65以上であれば、Ominは領域(A)が有する極小値となる。(図2参照)一方、Pminからバリア層表層側へ20nm変化させた位置における酸素割合(Oa)が1.7未満であったり、Pminから基材側へ10nm変化させた位置における酸素割合(Ob)が1.65未満であったりするときは、本明細書においては、領域(A)が有する極小値としてはOminは含まれない。
本発明の技術的範囲を制限するものではないが、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する基材、または1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜上に上記の塗膜を形成することにより、酸素分布曲線が領域(A)において極小値を有するメカニズムは、以下のように推測している。すなわち、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する基材(例えば、シリカ薄膜)や1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜は、ケイ素を含む無機成分が酸化された組成を有するものである。一方、改質前の塗膜中のポリシラザンは、例えばパーヒドロポリシラザンがSiOxNy(x=0、y=1)で表わされるように、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する基材や下地膜よりも酸素割合が低い。従って、かような酸素割合の高い塗布面に酸素割合の低いポリシラザン含有液を塗布することにより、塗布面を境界として、基材側の酸素割合が高くなり、ポリシラザン塗膜側の酸素割合が低くなる。ポリシラザン塗膜をエネルギー印加処理することにより、ポリシラザンが改質し、ポリシラザン塗膜の表層側において酸素割合が上昇する。ポリシラザンの改質は、ポリシラザン塗膜におけるエネルギーが印加される面側(表層側)から速く進み、表層側のポリシラザンの改質に伴って、次第にポリシラザン塗膜の深部に印加エネルギーが届きにくくなる。これにより、ポリシラザンの改質の進行が遅い(または未改質である)ポリシラザン塗膜の深部は、依然として単位ケイ素原子量(ケイ素原子の量=1)に対する酸素原子の量が少ない状態で維持されることとなり、ポリシラザン塗膜の表層側から深部に向かって酸素割合が低下するという勾配ができることとなる。結果として、酸素分布曲線をXPSにより測定すると、ポリシラザンの改質が進んだポリシラザン塗膜の表層付近で酸素割合が高く、改質が進んでいないポリシラザン塗膜の深部で酸素割合が低くなり、塗布面より基材側(酸素の多い基材や下地膜に由来する)では酸素割合が再び高くなる。かような工程を含む方法でバリア層を形成することにより、酸素分布曲線が領域(A)において極小値を有することとなる。
本発明においては、ポリシラザン塗膜を形成する基材または下地膜の少なくとも塗膜面が、下記式(2)で表わされる組成比を有することが好ましい。
式(2)中、1.8≦m≦2.5であることが好ましく、より好ましくは2.0≦m≦2.5である。式(2)で表わされる組成比を有する塗膜面は、基材表面であっても良く、また、基材上に形成された下地膜表面であっても良いが、好ましくは下地膜表面である。
酸素分布曲線が領域(A)において有する極小値の数は、製造効率の観点から、1〜2であることが好ましく、酸素分布曲線が領域(A)において1つの極小値を有することがより好ましい。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、領域(A)における極小値を極値とする谷のピークの半値幅(H)(nm)と、領域(A)の厚さ(T)(nm)とが、下記数式1の関係を有することが好ましい。
領域(A)における極小値を極値とする谷のピークの半値幅(H)(nm)が、領域(A)の厚さ(T)(nm)の20%以上(領域(A)の厚さ(T)×0.2≦谷のピークの半値幅(H))、50%以下(谷のピークの半値幅(H)≦領域(A)の厚さ(T)×0.5)という要件を満たすことにより、ガスバリア性フィルムの耐候性がより一層向上しうる。本発明の技術的範囲をなんら制限するものではないが、これは、谷のピークの半値幅(H)(nm)が領域(A)の厚さ(T)(nm)の20〜50%であることにより、バリア層に付与される屈曲性が適度になるためであると推測される。
酸素分布曲線の極小値の半値幅(H)は、バリア層や領域(A)の厚さ、改質の程度(例えば、印加するエネルギー量を調整する)、加熱処理温度等を調節することによって制御することができる。例えば、エネルギー印加処理におけるエネルギー量を増やしたり、加熱温度を高くしたりすれば、半値幅(H)を大きくすることができる。
[バリア層の成膜(形成)方法]
基材の少なくとも一方の面側にポリシラザン含有液を塗布し、エネルギーを印加してポリシラザンを改質し、ケイ素、酸素、窒素原子を含む層を得る手法は従来から知られている。しかしながら、従来の手法で得られたケイ素、酸素、窒素原子を含むバリア層では、酸素や水蒸気に由来する酸素とバリア層に存在する窒素と置き換わり、該窒素が窒素ガスとして外界に抜けてしまうため、組成比を安定させることが困難であった。また、式(1)で表わされるような組成比を層厚方向に連続して20nm以上とする手法はこれまで知られておらず、バリア層がかような構成をとることによって表示デバイスに要求されるような高いガスバリア性を得ることができ、特に高温高湿環境での耐久性に優れたガスバリア性フィルムを得ることができる。
本明細書においては、バリア層および/または該バリア層に含まれる各領域の形成を、「成膜」とも称する。
バリア層の成膜方法は特に制限されず、物理気相成長法(PVD法)、化学気相成長法(CVD法)などの真空成膜法や、塗膜形成法を採用することができる。領域(A)を含むバリア層を得るため、本発明に係るガスバリア性フィルムの製造工程は、基材の少なくとも一方の面側にポリシラザン塗膜を形成し、塗膜をエネルギー印加処理および250℃以上の加熱処理することを含む。基材の伸縮や変形の防止を考慮すると、加熱処理は550℃以下が好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、バリア層を含むガスバリア性フィルムの製造方法であって、バリア層の成膜工程が、基材の少なくとも一方の面側にポリシラザン塗膜を形成し、塗膜をエネルギー印加処理および250℃〜550℃の加熱処理することを含む、ガスバリア性フィルムの製造方法が提供される。ポリシラザン塗膜は、WVTRが1×10−2g/m2/day以下の基材または下地膜上に形成することが好ましい。
[成膜方法1.塗膜形成法]
塗膜形成法は、ポリシラザンを含有する塗布液(ポリシラザン含有液)を基材の少なくとも一方の面側に塗布して塗膜を形成し、塗膜をエネルギー印加処理する方法である。なお、エネルギーの印加によりポリシラザン塗膜はガスバリア性を発現するが、領域(A)を含むバリア層を塗膜形成法により形成する場合は、エネルギー印加処理中またはエネルギー印加処理後に250℃以上の加熱処理を行う。このため、本発明において、バリア層の少なくとも一部は、塗膜形成法により形成される。
(ポリシラザン)
前記ポリシラザンとしては、ポリシラザン含有液の調製が可能であれば特に限定はされない。
具体的には、例えば、パーヒドロポリシラザン、オルガノポリシラザン等を挙げることができ、パーヒドロポリシラザン(パーヒドロポリシラザン含有液)が特に好ましい。ポリシラザンを塗布液の原料として用いることにより、ガスバリア性能が高く、屈曲時および高温高湿条件下であってもバリア性能が維持される。ポリシラザンは、単独でもまたは2種以上組み合わせて用いることもできる。
ポリシラザンとは、ケイ素−窒素結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有するSiO2、Si3N4、および両方の中間固溶体SiOpNq等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
具体的には、ポリシラザンは、好ましくは下記の構造を有する。
上記一般式(I)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1、R2およびR3は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。ここで、アルキル基としては、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などがある。また、アリール基としては、炭素原子数6〜30のアリール基が挙げられる。より具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。(トリアルコキシシリル)アルキル基としては、炭素原子数1〜8のアルコキシ基で置換されたシリル基を有する炭素原子数1〜8のアルキル基が挙げられる。より具体的には、3−(トリエトキシシリル)プロピル基、3−(トリメトキシシリル)プロピル基などが挙げられる。上記R1〜R3に場合によって存在する置換基は、特に制限はないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基などがある。なお、場合によって存在する置換基は、置換するR1〜R3と同じとなることはない。例えば、R1〜R3がアルキル基の場合には、さらにアルキル基で置換されることはない。これらのうち、好ましくは、R1、R2およびR3は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、ビニル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基または3−(トリメトキシシリルプロピル)基である。
また、上記一般式(I)において、nは、整数であり、一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、好ましい態様の一つは、R1、R2およびR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンである。
または、ポリシラザンとしては、下記一般式(II)で表される構造を有する。
上記一般式(II)において、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’およびR6’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基である。この際、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’およびR6’は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。上記における、置換または非置換の、アルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基は、上記一般式(I)の定義と同様であるため、説明を省略する。
また、上記一般式(II)において、n’およびpは、整数であり、一般式(II)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められることが好ましい。なお、n’およびpは、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
上記一般式(II)のポリシラザンのうち、R1’、R3’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’、R4’およびR5’が各々メチル基を表す化合物;R1’、R3’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’、R4’が各々メチル基を表し、R5’がビニル基を表す化合物;R1’、R3’、R4’およびR6’が各々水素原子を表し、R2’およびR5’が各々メチル基を表す化合物が好ましい。
一方、そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンを用いてバリア層を形成した場合、メチル基等のアルキル基を有することにより基材側の領域との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より(平均)膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。このため、用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6および8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。
ポリシラザンは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有液として使用することができる。ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
本発明で使用できるポリシラザンの別の例としては、以下に制限されないが、例えば、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等の、低温でセラミック化するポリシラザンが挙げられる。
(ポリシラザン含有液)
ポリシラザン含有液を調製するための溶剤としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水および反応性基(例えば、ヒドロキシル基、あるいはアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、モノ−およびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類;などを挙げることができる。上記溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的にあわせて選択され、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ポリシラザン含有液におけるポリシラザンの濃度は、特に制限されず、領域の厚さや塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
ポリシラザン含有液は、改質を促進するために、触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ポリシラザンを基準としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%の範囲である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行による過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。
ポリシラザン含有液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート等のセルロースエーテル類、セルロースエステル類;ゴム、ロジン樹脂、尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネート、ポリシロキサン等の天然または合成樹脂;である。
(ポリシラザン含有液を塗布する方法)
ポリシラザン含有液を塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
ポリシラザン含有液は基材上に直接塗布しても良いが、後述する下地膜やバリア層以外の層上に塗布しても良く、好ましくは基材上または下地膜上に塗布する。
塗膜の厚さ(複数回塗布を行う場合は、その総厚)は、領域(A)を20nmとする必要があることから、例えば、改質処理後の厚さが25〜500nmとなるように塗布し、好ましくは30〜400nmとなるように塗布する。
塗布液を塗布した後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥することによって、塗膜中に含有される有機溶媒を除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適なバリア層が得られうる。なお、残存する溶媒は後に除去されうる。乾燥後の塗膜、または乾燥後改質した後の塗膜上に、さらにポリシラザン塗膜を形成しても良い。
塗膜の乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜150℃であることが好ましい。上記温度は、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって設定されうる。乾燥時間は短時間に設定することが好ましく、例えば、乾燥温度が150℃である場合には30分以内に設定することが好ましい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
ポリシラザン含有液を塗布して得られた塗膜は、エネルギーの印加前またはエネルギーの印加中に水分を除去する工程を含んでいてもよい。水分を除去する方法としては、乾燥窒素ガス雰囲気下でエネルギー印加処理を行うことにより除湿する形態が好ましい。低湿度環境における露点温度は、好ましくは4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましくは−5℃(温度25℃/湿度10%)以下であり、維持される時間はバリア層の膜厚によって適宜設定する。バリア層の膜厚が1.0μm以下の条件においては、露点温度は−5℃以下で、維持される時間は1分以上であることが好ましい。なお、露点温度の下限は特に制限されないが、通常、−50℃以上であり、−40℃以上であることが好ましい。改質処理前、あるいは改質処理中に水分を除去することによって、バリア層の脱水反応を促進する。
(エネルギー印加処理)
続いて、上記のようにして形成された塗膜に対して、エネルギー印加処理を行い、酸窒化ケイ素への転化反応を行う。ポリシラザンの酸窒化ケイ素への転化は、エネルギー印加処理を行わなくとも、後述の加熱処理のみによっても若干は進行しうる。従って、エネルギー印加処理をせず、加熱処理をしたポリシラザン塗膜によって成膜されたバリア層にも領域(A)は含まれることがあるが、かような方法によって形成される領域(A)は薄く、厚さを20nm以上にすることは困難である。
ポリシラザンの転化反応は、公知の方法を適宜選択して適用することができる。本明細書においては、ポリシラザンの酸窒化ケイ素への転化反応を起こさせる処理を、「改質処理」と称する。改質処理としては、具体的には、プラズマ処理、紫外線照射処理(特に、真空紫外線照射処理)が挙げられる。
プラズマ処理、または紫外線照射処理(例えば、真空紫外線照射処理)によって改質処理を行う場合、プラズマや紫外線(例えば、真空紫外線)に曝される面側で、ポリシラザンの転化反応が進行しやすい。従って、印加するエネルギーを強く、塗膜の膜厚を薄くすると、プラズマや紫外線に曝される面側において、組成比において酸素(O)が多くなる。このため、組成比において酸素(O)が多い領域(A)は、プラズマや紫外線(例えば、真空紫外線)に曝される面側に形成しやすい。さらに、印加するエネルギー量を多くすることで、領域(A)を厚くすることもできる。当業者であれば、印加するエネルギー、塗膜の膜厚、雰囲気の酸素濃度等を適宜調整し、任意の厚さで領域(A)を形成し得る。以下、好ましい改質処理方法であるプラズマ処理、紫外線照射処理について説明する。
(プラズマ処理)
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等があげられる。大気圧近傍でのプラズマ処理を行う大気圧プラズマ法は、真空下のプラズマ法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガスまたは長周期型周期表の第18族原子を含むガス、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
(紫外線照射処理)
改質処理の方法としては、紫外線照射による処理が好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸窒化ケイ素膜等を形成することが可能である。
この紫外線照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO2とH2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンが励起し、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られるバリア層が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
紫外線照射処理においては、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外線を用いる。
紫外線の照射は、照射されるバリア層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が所定の範囲になるように基材−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、照射を行うことができる。
紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には、基材が変形したり、その強度が劣化したりする等、基材の特性が損なわれる恐れがある。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムの場合には、より高温での改質処理が可能である。したがって、この紫外線照射時の基材温度としては、一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製、MDエキシマ社製など)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線を塗膜に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから塗膜に当てることが好ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、塗膜を表面に有する積層体を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、塗膜を表面に有する積層体が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材やバリア層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは30秒〜5分である。
(真空紫外線照射処理:エキシマ光照射処理)
本発明において、最も好ましい改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ光照射処理)である。ポリシラザン塗膜を基材の少なくとも一方の面側に形成し、真空紫外線を照射することによりエネルギー印加処理がされてバリア層が成膜される工程を含むことが、本発明においては好ましい。
真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、改質を行う方法である。
真空紫外線照射処理によりポリシラザン塗膜が改質され、SiOxNyの特定組成となる推定メカニズムを、パーヒドロポリシラザンを例に説明する。
パーヒドロポリシラザンは「−(SiH2−NH)n−」の組成で示すことができる。SiOxNyで示す場合、x=0、y=1である。x>0となるためには外部の酸素源が必要であるが、これは、(i)ポリシラザン塗布液に含まれる酸素や水分、(ii)塗布乾燥過程の雰囲気中から塗膜に取り込まれる酸素や水分、(iii)真空紫外線照射工程での雰囲気中から塗膜に取り込まれる酸素や水分、オゾン、一重項酸素、(iv)真空紫外線照射工程で印加される熱等により基材側からアウトガスとして塗膜中に移動してくる酸素や水分、(v)真空紫外線照射工程が非酸化性雰囲気で行われる場合には、その非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気へと移動した際に、その雰囲気から塗膜に取り込まれる酸素や水分、などが酸素源となる。
一方、yについては、Siの酸化よりも窒化が進行する条件は非常に特殊であると考えられるため、基本的には1が上限である。
また、Si、O、Nの結合手の関係から、基本的にはx、yは2x+3y≦4の範囲にある。酸化が完全に進んだy=0の状態においては、塗膜中にシラノール基を含有するようになり、2<x≦2.5の範囲となる場合もある。
本発明においての放射線源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものであれば良いが、好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、230nm以下の波長成分を有する中圧および高圧水銀蒸気ランプ、および約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
真空紫外線照射は、1回のみ行ってもあるいは2回以上行ってもよいが、1〜5回が好ましく、1〜3回がより好ましく、2回が更に好ましい。
このうち、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン塗膜の改質を実現できる。
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で、すなわち短い波長でエネルギーを照射するため、改質対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収があるため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、管理された酸素濃度および水蒸気濃度の雰囲気下で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、0.001〜2体積%とすることが好ましく、0.005〜1体積%とすることがより好ましい。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは0.001〜0.4体積%の範囲である。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザン塗膜が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度のピーク値は50mW/cm2〜500W/cm2であることが好ましく、80mW/cm2〜300mW/cm2であることがより好ましく、100mW/cm2〜250mW/cm2であることがさらに好ましい。50mW/cm2以上とすることにより改質効率が高まり、500W/cm2以下とすることにより塗膜にアブレーションが生じたり、基材にダメージを与えたりする可能性が低くなる。印加エネルギー量を増やすと、領域(A)が厚くなる傾向にある。
塗膜面における真空紫外線の印加エネルギー量(照射量)は、100mJ/cm2〜30J/cm2であることが好ましく、150mJ/cm2〜20J/cm2であることがより好ましく、200mJ/cm2〜10J/cm2であることがさらに好ましい。100mJ/cm2以上とすることにより十分に改質がなされ、30J/cm2以下とすることにより過剰改質によるクラック発生や、基材が熱変形する可能性が低くなる。また、真空紫外線照射時間は、0.1秒〜10分程度であることが好ましく、1秒〜5分であることがより好ましく、30秒〜5分であることが更に好ましい。
また、用いられる真空紫外線は、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガスで形成されたプラズマにより発生させてもよい。
ポリシラザン塗膜を基材の少なくとも一方の面側に形成し、真空紫外線を照射することによりエネルギーの印加を行う場合、改質されたポリシラザン塗膜が基材側からの酸素供給を遮断することがあるため、領域(A)やバリア層の膜厚を厚くすることが難しい場合がある。この場合は、塗膜の形成とエネルギーの印加とを複数回繰り返せば、領域(A)やバリア層の膜厚を厚くすることができる。
他の真空紫外線照射条件は、特に制限されない。例えば、真空紫外線照射温度(ステージ温度や基材到達温度)は、50〜150℃で行うことができる。また、後述の加熱処理で適用される温度帯で照射処理を行うことにより、エネルギー印加処理と加熱処理とを同時に行うこともできるが、改質の程度を制御しやすいという観点から、エネルギー印加処理後に加熱処理を行うことが好ましい。
(加熱処理)
所望の厚さの領域(A)を含むバリア層を塗膜形成法により形成するため、ポリシラザン塗膜を基材の少なくとも一方の面側に形成し、エネルギー印加処理中またはエネルギー印加処理後に250℃以上の加熱処理を行う。本発明においては、領域(A)を形成するため、バリア層の少なくとも一部は塗膜形成法により成膜される。領域(A)を含むバリア層は、加熱処理を行わなくともエネルギー印加処理のみによっても成膜されうる。しかしながら、ポリシラザン塗膜の改質はエネルギーが印加される表層側から速く進み、表層側の改質によってポリシラザン塗膜の深部に印加エネルギーが届きにくくなるため、エネルギー印加処理のみによって形成された領域(A)は薄く、厚さを20nm以上にすることは困難である。バリア層の形成工程が加熱処理を含むことにより、領域(A)の厚さを20nm以上にまで厚くすることができる。また、エネルギー印加処理では改質の進行しにくいポリシラザン塗膜の深部においても、加熱処理によってバリア性が向上する。
加熱処理における加熱(焼成)温度は250℃以上であれば良いが、550℃以下が好ましい。より好ましくは250℃を超えて550℃以下であり、更に好ましくは270℃〜500℃であり、特に好ましくは350℃〜450℃である。加熱温度を250℃以上とすることにより領域(A)を20nm以上形成することができ、250℃を超える温度で加熱することにより領域(A)の組成がより安定し、ガスバリア性フィルムの高温高湿環境での耐久性がさらに向上する。また、加熱温度が550℃以下であることにより、基材の伸縮や変形によるバリア性劣化が抑えられるという効果が得られる。加熱温度を上げることで、領域(A)の厚さを厚くすることもできる。
加熱処理は、焼成炉、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって行うことができる。乾燥時間は、設定温度によって調整することもできるが、通常は3分〜10時間であり、好ましくは5分〜5時間である。加熱時間が長くなると、領域(A)の厚さが厚くなる傾向にある。また、加熱処理における雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
加熱処理後、バリア層を成膜した基材を冷却するため、例えば室温で徐冷してもよい。
[成膜方法2.真空成膜法]
物理気相成長法(Physical Vapor Deposition、PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタ法(DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、およびマグネトロンスパッタ法等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
本発明においては、バリア層における下地膜の形成において、真空成膜法が用いられうる。例えば、スパッタ法、真空蒸着法またはイオンプレーティング法等によりフレキシブル基材上に酸窒化ケイ素等の膜を形成し、当該下地膜上にポリシラザンの塗膜を形成することもできる。
スパッタ法は、真空チャンバ内にターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴン)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、基材に付着させる方法である。このとき、チャンバ内に窒素ガスや酸素ガスを流すことにより、アルゴンガスによってターゲットからはじき出された元素と、窒素や酸素とを反応させて層を形成する、反応性スパッタ法を用いてもよい。
化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD法)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基材表面または気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、真空プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられる。特に限定されるものではないが、成膜速度や処理面積の観点から、真空プラズマCVD法または大気圧プラズマCVD法等のプラズマCVD法を適用することが好ましい。以下では、プラズマCVD法によって薄膜を作成する場合を例示して説明する。
プラズマCVD法によって薄膜を作成する場合、原料ガスは目的の膜に応じて任意に選択すればよい。
例えば、ケイ素化合物を原料化合物として用い、分解ガス(反応ガス)に酸素を用いれば、ケイ素酸化物が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
原料化合物としては、ケイ素化合物、アルミニウム化合物、およびチタン化合物等が挙げられるこれら原料化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
ケイ素化合物としては、上記のポリシラザンの他、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
アルミニウム化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ−s−ブトキシド等が挙げられる。
チタン化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソポロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスが使用されてもよい。反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物などのケイ素化合物となるガスが選択される。薄膜として酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素ガス、オゾンガスを使用することができる。なお、これらの反応ガスは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。形成(成膜)時における原料ガスと反応ガスとの供給比を調整することにより、ガスバリア層の組成比を調整することができる。
プラズマCVD法には、図1に記載のような成膜装置31が用いられうる。以下、成膜装置31を例に、真空成膜法によりバリア層を成膜する方法を説明する。成膜装置31では、送り出しローラー32にセットした基材2は、搬送ローラー33により搬送される。成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に磁場を印加すると共に、成膜ローラー39と成膜ローラー40にそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電してプラズマを発生させる。次いで、形成された放電領域に成膜ガスを供給し、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に搬送した基材2上にバリア層3を形成する。バリア層3が形成された基材2(ガスバリア性フィルム)は、巻取りローラー45で巻き取られる。
成膜が行われる雰囲気の圧力(真空度)は、原料ガスの種類などに応じて適宜調整すればよいが、0.1〜50Paであることが好ましい。また、成膜装置31の供給ガス圧(原料ガスと、酸素ガス等の反応ガスとの総圧)は、目的とするバリア層の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えば、100〜2000sccmである。反応ガスとして酸素ガスを用いた場合、供給ガス圧における酸素ガスの割合を多くすることで、バリア層における酸素の組成比を増やすことができる。原料化合物としてケイ素化合物を、反応ガスとして酸素ガスを用いた場合、ケイ素化合物と酸素ガスとの供給比は、例えば、1:1〜1:50(流量比)である。成膜装置31のプラズマ発生用電源42に印加する電力もまた、原料ガスの種類や真空チャンバ(図示せず)内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり、一概に言えるものでないが、例えば0.1〜10kWの範囲である。成膜装置31の搬送速度は、例えば1〜30m/分であり、搬送速度を遅くすればバリア層の厚さを厚くすることができる。成膜装置31の供給ガス圧を高く、搬送速度を遅くすると、領域の厚さが厚くなるため、これらのパラメーターを調節して目的とするバリア層の組成や厚さに調整できる。
[1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜]
本発明において、下地膜は、基材の少なくとも一方の面側にポリシラザン塗膜を形成し、塗膜をエネルギー印加処理および250℃以上の加熱処理することによってバリア層を形成する場合に、塗膜が形成される面を提供する膜である。従って、例えば、基材面にCVD法等によりバリア性のある蒸着膜(第1下地膜)を形成し、蒸着膜(第1下地膜)上にポリシラザン含有液を塗布して第一塗膜を形成し、第一塗膜をエネルギー印加処理することで第2下地膜とした後、さらに、第一塗膜上にポリシラザン含有液の第二塗膜を形成してエネルギー印加処理および250℃〜550℃の加熱処理をして領域(A)を形成した場合、蒸着膜(第1下地膜)は第一塗膜(第2下地膜)の下地膜となり、第一塗膜(第2下地膜)は第二塗膜の下地膜となる。この場合、バリア層は蒸着膜(第1下地膜)、第一塗膜(第2下地膜)および第二塗膜からなる。なお、このとき、第二塗膜の形成後に行う加熱書処理によって第一塗膜も同時に加熱処理されるため、厚さ20nmの領域(A)が第一塗膜(第2下地膜)と第二塗膜との両方に含まれていても良く、さらには第一塗膜(第2下地膜)と第二塗膜とに含まれる領域(A)が連続していても良い。
本発明の一態様に係るガスバリア性フィルムの製造方法においては、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜(「1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜」を、単に「バリア性下地膜」とも称する。)上に、ポリシラザン塗膜が形成される。この場合、ガスバリア性フィルムのバリア層のすくなくとも一部は、バリア性下地膜に由来するものとなる。かようなバリア性下地膜を設けることにより、基材にバリア性が無くとも、酸素分布曲線が領域(A)において極小値をもつガスバリア性フィルムが得られる。
バリア性下地膜のWVTRは1×10−2g/m2/day以下であればよい。かようなバリア性を有する膜としては、例えば、上述の塗布形成法や真空成膜法などの成膜方法の他、国際公開第2007/123006号、国際公開第2011/004682号、特開2011−121298号公報、特開2011−146226号公報、特開2011−238355号公報、特開2012−106433号公報、特開2013−226758号公報などに記載されるような方法により作製された酸化ケイ素膜、酸窒化ケイ素膜、酸炭化ケイ素膜が挙げられる。
バリア性下地膜は1層でもよく、複数層でもよい。一般的に、上記の薄膜は、複数層重ねることでバリア性が向上するため、所望のバリア性が得られるように複数層重ねた下地膜を用いても良い。このとき、下地膜に含まれる複数層の各層は、それぞれ同一組成であっても別々の組成であっても良い。
特に制限されるものではないが、例えば、特開2013−226758号公報に記載されるような方法を例にとると、基材上に50nm程度の酸化ケイ素膜を蒸着形成し、その上にポリシラザン塗膜を成膜する。70℃程度に加温したステージ上にポリシラザン塗膜を成膜した基材を固定し、ポリシラザン塗膜に130mW/cm2の真空紫外光照射(5秒)を、1000Pa以下の真空度、1体積%の酸素濃度雰囲気下で行う。かような方法により1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜を得ることができる。
バリア性下地膜上の塗膜を形成する面(表層)は、上記式(2)で表わされる組成比を有していても良い。表層が上記式(2)で表わされる組成比を有するバリア性下地膜上にポリシラザン含有液を塗布し、塗膜をエネルギー印加処理および250℃〜550℃の加熱処理することにより、領域(A)を含むバリア層が配置され、酸素分布曲線が前記領域(A)において少なくとも1つの極小値を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。
バリア性下地膜の表層を式(2)で表わされるような酸素割合が特に高い組成比とするためには、例えば、ポリシラザン含有液を用いた塗布形成法によりバリア性下地膜を形成する場合は、印加エネルギーを増やしたり(例えば、真空紫外光照射時間やプラズマ処理時間を増やす、真空紫外光の照射エネルギーを高める)、エネルギー印加処理を複数回行ったりするなどしてポリシラザンが改質しやすくすればよい。例えば、国際公開第2011/004682号に記載されるような方法を例にとると、基材上に設けた平滑層(感光性樹脂層)にポリシラザン塗膜を形成し、MDエキシマ社製のステージ可動型キセノンエキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200(波長172nm)を用いて真空紫外光照射処理を行う。真空紫外光照射処理では、ランプと試料の照射距離が2mmとなるように試料を固定し、試料温度85℃とし、真空紫外線(VUV)照射庫内に導入するガスの窒素ガス/酸素ガス流量比により酸素濃度を0.1体積%〜0.3体積%とし、ステージの移動速度10mm/秒の速さで試料を7〜9往復搬送させることで、式(2)で表わされるような組成比を有し、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜を得ることができる。
バリア性下地膜の厚さは特に制限されず、1×10−2g/m2/day以下のバリア性が得られれば特に制限されるものではないが、フィルムの屈曲性を考慮すると30〜1000nm(多層のバリア性下地膜である場合は、その総厚)であることが好ましく、50〜600nm(総厚)であることがより好ましい。
<バリア層以外の層>
本発明に係るガスバリア性フィルムは、バリア層以外の層を有してもよい。
本発明のガスバリア性フィルムは、例えば、基材とバリア層との間、バリア層の上、またはバリア層が形成されていない基材の他方の面に、バリア層以外の層を有していても良い。バリア層以外の層としては、特に制限されず、従来のガスバリア性フィルムに使用される部材が同様にしてあるいは適宜修飾して使用できる。具体的には、平滑層、アンカーコート層、オーバーコート層、ブリードアウト防止層、保護層、吸湿層や帯電防止層の機能化層などが挙げられる。以下、バリア層以外の層として、アンカーコート層、平滑層、ブリードアウト防止層、オーバーコート層について説明するが、これらの層に限定されるものではない。
(アンカーコート層)
ガスバリア性フィルムのバリア層を配置する側の基材の表面には、バリア層と基材との密着性の向上を目的として、アンカーコート層を形成してもよい。
アンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。上記のアンカーコート剤は、ロールコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。
上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5.0g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。アンカーコート層は、物理蒸着法または化学蒸着法といった気相法により形成することもできる。また、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
アンカーコート層については、特開2013−232320号公報の段落「0105」〜「0111」に記載された事項も適宜参酌され、採用されうる。
(平滑層)
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、基材とバリア層との間に、平滑層を有してもよい。本発明に用いられる平滑層は突起等が存在する基材の粗面を平坦化するために設けられる。このような平滑層は、基本的には感光性材料、または、熱硬化性材料を硬化させて作製される。
平滑層の感光性材料としては、例えば、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた樹脂組成物等が挙げられる。この中でも特に耐熱性を有するエポキシ樹脂ベースの材料であることが好ましい。
平滑層の形成方法は、特に制限はないが、スピンコーティング法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
平滑層の形成では、上述の樹脂に、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、平滑層の積層位置に関係なく、いずれの平滑層においても、成膜性向上及び膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
平滑層の厚さとしては、フィルムの耐熱性を向上させ、フィルムの光学特性のバランス調整を容易にする観点から、1〜10μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは、2μm〜7μmの範囲にすることが好ましい。
平滑層の平滑性は、JIS B 0601:2001で規定される表面粗さで表現される値で、十点平均粗さRzが、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、バリア層を塗布形式で塗布した場合であっても、ワイヤーバー、ワイヤレスバー等の塗布方式で、平滑層表面に塗工手段が接触する場合であっても塗布性が損なわれることが少なく、また、塗布後の凹凸を平滑化することも容易である。
平滑層については、特開2013−232320号公報の段落「0112」〜「0121」に記載された事項も適宜参酌され、採用されうる。
(ブリードアウト防止層)
本発明のガスバリア性フィルムは、上記平滑層を設けた面とは反対側の基材面にブリードアウト防止層を有してもよい。
ブリードアウト防止層は、平滑層を有するフィルムを加熱した際に、平滑層を有するフィルム中から未反応のオリゴマー等が表面へ移行して、接触する面を汚染してしまう現象を抑制する目的で、平滑層を有する基材の反対面に設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
ブリードアウト防止層に、ハードコート剤として含ませることが可能な重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物としては、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する多価不飽和有機化合物または分子中に一個の重合性不飽和基を有する単価不飽和有機化合物等を挙げることができる。
その他の添加剤として、マット剤を含有してもよい。マット剤としては平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機粒子が好ましい。このような無機粒子としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の1種または2種以上を併せて使用することができる。マット剤は、ハードコート剤の固形分100質量部に対して2〜20質量部、好ましくは4〜18質量部、より好ましくは6〜16質量部の割合で混合される。
また、ブリードアウト防止層は、ハードコート剤およびマット剤の他の成分として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤等を含有させてもよい。
以上のようなブリードアウト防止層は、ハードコート剤、マット剤、および必要に応じて他の成分を配合して、適宜必要に応じて用いる希釈溶剤によって塗布液として調製し、当該塗布液を基材表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することができる。
なお、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等から発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、又は走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
ブリードアウト防止層の厚さとしては、1〜10μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは、2μm〜7μmの範囲にすることが好ましい。
ブリードアウト防止層については、例えば特開2011−104829号公報の段落「0137」〜「0152」に記載された事項も適宜参酌される。
(オーバーコート層)
本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層上に、さらにオーバーコート層を設けてもよい。オーバーコート層については、特開2013−232320号公報の段落「0131」〜「0151」に記載された事項が適宜参酌され、採用されうる。
<電子デバイス>
本発明のガスバリア性フィルムは、空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。すなわち、本発明は、本発明のガスバリア性フィルムを用いた電子デバイスをも提供する。
前記電子デバイスの例としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機ELデバイス)、液晶表示デバイス(LCD)、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等の電子デバイスを挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、有機ELデバイスまたは太陽電池に好ましく用いられ、有機EL素子に特に好ましく用いられる。具体的な電子デバイスの一例としては、例えば特開2013−232320号公報の段落「0157」〜「0228」に記載された電子デバイスが挙げられる。
本発明のガスバリア性フィルムは、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のガスバリア性フィルムを設ける方法である。ガスバリア性フィルムを設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
本発明のガスバリア性フィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリア性フィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
以下に有機ELデバイスの層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(3)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/陽極バッファー層(正孔注入層)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰
極バッファー層(電子注入層)/陰極
(陽極)
有機ELデバイスにおける陽極(透明電極)としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチタンオキサイド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜として形成し、その薄膜をフォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましい。陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
(陰極)
有機ELデバイスにおける陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより作製することができる。陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。陰極の膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
また、陰極の説明で挙げた上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有するデバイスを作製することができる。
(注入層:電子注入層、正孔注入層)
注入層には電子注入層と正孔注入層があり、電子注入層と正孔注入層を必要に応じて設け、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させる。
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
陽極バッファー層(正孔注入層)の具体例としては、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
陰極バッファー層(電子注入層)の具体的には、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
(発光層)
有機ELデバイスにおける発光層は、電極(陰極、陽極)または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
有機ELデバイスの発光層には、以下に示すドーパント化合物(発光ドーパント)とホスト化合物(発光ホスト)が含有されることが好ましい。
(発光ドーパント)
発光ドーパントは、大きく分けて蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの2種類がある。
蛍光性ドーパントの代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。リン光性ドーパントの代表例としては、好ましくは元素の周期表で第8族、第9族、第10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。発光ドーパントは複数種の化合物を混合して用いてもよい。
(発光ホスト)
発光ホスト(単にホストとも言う)とは、2種以上の化合物で構成される発光層中にて混合比(質量)の最も多い化合物のことを意味し、それ以外の化合物については「ドーパント化合物(単に、ドーパントとも言う)」という。例えば、発光層を化合物A、化合物B、化合物Cの3種から構成し、その混合比がA:B:C=5:10:85であれば、化合物A、化合物Bがドーパント化合物であり、化合物Cがホスト化合物である。
発光ホストとしては構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、またはカルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
そして、発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により成膜して形成することができる。発光層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。この発光層はドーパント化合物やホスト化合物が1種または2種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。これ以外にも、特開2013−232320号公報の段落「0162」に開示の化合物を、正孔輸送材料として採用することもできる。
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する電子輸送材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
(有機ELデバイスの作製方法)
有機ELデバイスの作製方法について説明する。
ここでは有機ELデバイスの一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機ELデバイスの作製方法について説明する。
まず、ガスバリア性フィルム上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング、プラズマCVD等の方法により形成させ、陽極を作製する。
次に、その上に有機ELデバイス材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の有機化合物薄膜を形成させる。この有機化合物薄膜の成膜方法としては、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等がある。さらに層毎に異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機ELデバイスが得られる。
この有機ELデバイスの作製は、一回の真空引きで一貫して陽極、正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うなどすれば、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。また、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することもできる。
このようにして得られた有機ELデバイスを備える多色の表示装置(有機ELパネル)に、直流電圧を印加する場合には、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
<実施例1>
(基材)
膜厚25μm、熱膨張率1.2×10−5/Kのポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製 ユーピレックス(登録商標)−25SGA)を基材として使用した。
(ポリシラザン塗膜の形成)
ポリシラザン含有液として、パーヒドロポリシラザン(PHPS)含有液を調製した。すなわち、触媒を含まないパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、アクアミカ(登録商標) NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン)をパーヒドロポリシラザンに対して5質量%含有するパーヒドロポリシラザン20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ(登録商標) NAX120−20)とを4:1の割合(v/v)で混合して用い、真空紫外線(VUV光)照射後の膜厚が250nmとなるようにジブチルエーテルで適宜希釈することにより、アミン触媒をパーヒドロポリシラザンに対して1質量%含むジブチルエーテル溶液として調製した。
調製したポリシラザン含有液を、スピンコート法により上記のポリイミドフィルム上に塗布し、塗膜を形成した。形成した塗膜を、ホットプレートにて80℃で1分間乾燥させた。
(エネルギー印加処理)
上記方法により調製した塗膜を、エネルギー印加処理として真空紫外線(VUV光)照射処理した。真空紫外線(VUV光)照射処理は、下記条件にて、ランプと試料との間隔(Gapともいう)が3mmとなるように試料を設置して行った。照射時間は、可動ステージの可動速度を調整して変化させた。
また、真空紫外線(VUV光)照射時の酸素濃度の調整は、照射庫内に導入する窒素ガス、および酸素ガスの流量をフローメーターにより測定し、庫内に導入するガスの窒素ガス/酸素ガス流量比により調整した。
真空紫外線照射装置:ステージ可動型キセノンエキシマ照射装置(MDエキシマ社製、MECL−M−1−200)
照度:140mW/cm2(172nm)
ステージ温度:100℃
処理環境:ドライ窒素ガス雰囲気下
処理環境の酸素濃度:0.1体積%
照射エネルギー量:6.5J/cm2
照射時間:46.4秒。
(加熱処理)
塗膜を上記のようにエネルギー印加処理した後、焼成炉にて350℃で1時間加熱(大気圧雰囲気下)することにより加熱処理し、その後室温(20〜25℃)で徐冷した。
以上により、ガスバリア性フィルム試料1を得た。
<実施例2>
実施例1に記載の基材上に、下記のCVD法により1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する下地膜(第1下地膜、CVD膜)を形成した。
(第1下地膜の形成)
上記基材を、図1に示されるような製造装置31にセットして、搬送させた。次いで、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に磁場を印加すると共に、成膜ローラー39と成膜ローラー40にそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電してプラズマを発生させた。次いで、形成された放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとして酸素ガス(放電ガスとしても機能する)との混合ガスを供給し、基材2上に、プラズマCVD法にて薄膜(第1下地膜、CVD膜)を形成した。第1下地膜の厚みは、150nmであった。成膜条件は、以下の通りとした。
《成膜条件》
原料ガスの供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)
酸素ガスの供給量:500sccm(0℃、1気圧基準)
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
搬送速度:1.0m/分。
(ポリシラザン塗膜の形成とエネルギー印加処理)
上記の第1下地膜上に、実施例1におけるポリシラザン塗膜を形成し、乾燥後、実施例1と同様の条件でエネルギー印加処理を行い、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する第2下地膜を形成した。
さらに、第2下地膜(第一塗膜)上に、実施例1に記載のポリシラザン含有液を乾燥膜厚が30nmとなるように塗布して第二塗膜を形成した。その後、第二塗膜上に照射エネルギー量が2.7J/cm2(140mW/cm2、照射時間19.3秒)となるようにエキシマ照射を行った。
(加熱処理)
上記のように形成させ、改質・乾燥した塗膜を、530℃で1時間加熱処理した。
上記以外は実施例1と同様にガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性フィルム試料2を得た。
<実施例3>
実施例2の方法に準じて、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する第2下地膜の形成、乾燥まで行った。その後、第2下地膜(第一塗膜)上に、実施例1に記載のポリシラザン含有液を乾燥膜厚が30nmとなるように塗布して第二塗膜を形成した。その後、照射エネルギー量1J/cm2(140mW/cm2、照射時間7.1秒)でエキシマ照射を行った以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性フィルム試料3を得た。
<実施例4>
実施例2における加熱処理温度を250℃に変更した以外は実施例2と同様にして、ガスバリア性フィルム試料4を得た。
<実施例5>
実施例2の方法に準じて、1×10−2g/m2/day以下のバリア性を有する第2下地膜の形成、乾燥まで行った。その後、第2下地膜(第一塗膜)上に、実施例1に記載のポリシラザン含有液を乾燥膜厚が40nmとなるように塗布してさらに第二塗膜を形成した。その後、照射エネルギー量が2.7J/cm2(140mW/cm2、照射時間19.3秒)となるようにエキシマ照射を行った。
(加熱処理)
上記のように形成させ、改質・乾燥した塗膜を、350℃で1時間加熱処理した以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを作製し、ガスバリア性フィルム試料5を得た。
<実施例6>
実施例5における加熱処理条件を450℃で10分間に変更した以外は実施例5と同様にして、ガスバリア性フィルム試料6を得た。
<実施例7>
実施例4における加熱処理条件を560℃で3分間に変更した以外は実施例4と同様にして、ガスバリア性フィルム試料7を得た。
<比較例1>
実施例5における加熱処理を行わなかった以外は実施例5と同様にして、比較試料1を得た。
<比較例2>
実施例2の方法に準じて、第2下地膜の形成・乾燥まで行った。その後、乾燥した塗布膜をエネルギー印加処理せずに、さらに乾燥後膜厚が40mnとなるようにポリシラザン塗膜を形成し、乾燥させた。
次いで、乾燥した塗膜をエネルギー印加処理せずに350℃で1時間加熱処理した。
上記以外は実施例5と同様にして、比較試料2を得た。
<元素組成分布の測定>
上記のように作製した各試料について、バリア層の厚さ方向の元素組成分布を、XPS(光電子分光法)分析により下記のように測定した。
(XPS分析条件)
・装置:アルバックファイ製QUANTERASXM
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・本件の測定は、SiO2換算で、約2.8nmの厚さ分となるようにスパッタ時間を調整する。
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバックファイ社製のMultiPakを用いた。
比較例1、比較例2および実施例5の比較から、20nm以上の領域(A)を形成するためには、エネルギー印加処理および加熱処理の両方の処理が必要であることが分かる。
実施例2と実施例4との比較から、加熱温度を高くすることにより、酸素分布曲線の領域(A)における半値幅が大きくなることが分かる。同様の傾向は、実施例5と実施例6との比較においても確認された。
実施例3と実施例5との比較から、印加エネルギー量を増やすことにより、酸素分布曲線の領域(A)における半値幅が大きくなることが分かる。
実施例4と実施例5との比較から、塗膜を厚くし、加熱温度を高くすることにより、領域(A)を厚くすることができることが分かる。実施例2と実施例4との領域(A)の厚さが同じである理由は、これらの実施例においては、領域(A)の形成可能な最大厚さとなっている(すなわち、第二塗膜の全域に渡って領域(A)が形成されている)ためであると考えられる。
ガスバリア性フィルム試料5におけるケイ素原子の量に対する酸素原子の量の比率(酸素分布曲線)および窒素原子の量の比率(窒素分布曲線)を図2に示す。図2より、ガスバリア性フィルム試料5は、領域(A)において酸素分布曲線が極小値を有することが分かる。バリア層表層からの距離40nm付近における山型のピークは、第一塗膜と第二塗膜との境界領域付近を示す。バリア層表層からの距離290nm付近において、第一下地膜(CVD膜)と第2下地膜(第一塗膜)との境界領域が存在する。
<バリア性評価>
上記試料を85℃85%RH環境下で100時間保管後、封止材を介してCa蒸着膜と貼りあわせて、バリア性評価サンプルを作製し、腐食法によりバリア性を評価した。バリア性評価サンプルを85℃85%環境下で保管し、500時間経過後のサンプルを観察し下記指標に従い評価した。結果を下表に示す。
4:Caの腐食面積が、30%未満
3:Caの腐食面積が、30%以上%50未満
2:Caの腐食面積が、50%以上80%未満
1:Caの腐食面積が、80%以上