本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機が知られている。
このダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図4および図5に示すように構成されている。図4に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された中間壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1とともに回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図5参照)が回転自在に挟持されている。
図4中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図4の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
図5は、図4のA−A線に沿う断面図である。図5に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図5においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図5の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図5の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図4の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ(シリンダボディ)31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図5で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図5の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、さらにこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図5の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
ところで、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機の組み立てでは、入力軸1の一方の端部側から押圧装置12、一対の入力側ディスク2,2、一対の出力側ディスク3,3、出力歯車4等に対して、図4に示す配置順に従って入力軸1が一方の端部側から挿入されるようにして、入力軸1に各部材を取り付けることになる。図4に示すトロイダル型無段変速機の場合に、入力軸1の他方の端部には、拡径された鍔部1dが設けられるとともに、この鍔部1dに位置を規制されるように、皿ばね8を介して押圧装置12のカム板7が配置される。また、入力軸1の一方の端部側で入力軸1が最後に挿入される一方の入力側ディスク2の背面に入力軸1の一方の端部の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9を突き当てることになる。
すなわち、入力軸1の一方の端部から他方の端部の鍔部1dに向かって、皿ばね8、押圧装置12、入力側ディスク2、出力側ディスク3、出力歯車4、出力側ディスク3、入力側ディスク2の順でこれら部材を入力軸1に取り付け、最後にローディングナット9で固定することになる。
また、図6に示すように、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機において、押圧装置12から遠い側の一方の入力側ディスク2の背面にローディングナット9ではなく、コッタ70を突き当てた構造とする場合もある。
なお、図6および後述の図7に示すダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、一対の入力側ディスク2,2の間に配置される一対の出力側ディスク3,3の背面同士を接合した状態に、一対の出力側ディスク3,3を一体にするとともに、この一体になった出力側ディスク3,3の外周面に外周歯41を設けて出力歯車とした一体型出力側ディスク34が用いられている。
また、このようなダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機では、一対のヨーク23A,23Bを支持する上下の球面ポスト64,68が、上下で繋がれた一体型の柱状ポスト69になっている。柱状ポスト69の上下端部にそれぞれ球面ポスト64,68が配置され、柱状ポスト69の中央部に入力軸1が貫通している。また、一対の柱状ポスト69は、一体型出力側ディスク34を挟むように、左右に離間して配置されている。また、押圧装置12は、油圧式となっている。
また、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機においては、図7に示すように、入力軸1の押圧装置12側の他方の端部にコッタ70(またはローディングナット9)を配置し、押圧装置12から遠い側の入力側ディスク2の背面側となる入力軸1の一方の端部に鍔部1dを設けたものも知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合には、入力側ディスク2、一体型出力側ディスク34、入力側ディスク2、押圧装置12の順で入力軸1の他方の端部側から挿入し、最初に挿入された一方の入力側ディスク2が入力軸1の一方の端部の鍔部1dに突き当てられた状態で、最後に入力軸1の他方の端部側でコッタ70またはローディングナット9で固定することになる。
また、押圧装置12から遠い側の一方の入力側ディスク2と入力軸1とは、スプライン嵌め合いで結合され、入力軸1の回転を入力側ディスク2に動力伝達するようになっている。
また、増速側に変速する場合に、パワーローラ11が入力側ディスク2の外径側に接触する。例えば、図8に示すように、入力側ディスク2の外径側の接触点tで入力側ディスク2とパワーローラ11が接触する。
この場合に、入力側ディスク2では、内側面2aの接触点tから90度位相がずれた位置のディスク小径側の内径面の雌スプラインの溝底の応力が高くなる。例えば、図8に示すように、入力側ディスク2の接触点tから90度位相がずれた内径側が高応力部位sとなり、この部分で雌スプラインの溝低の応力が高くなる。そこで、入力側ディスク2の内径面の雌スプラインより小径側に入力軸1とインロー嵌合するインロー部71(図9に図示)を設けている。
例えば、図7の拡大図である図9に示すように、入力側ディスク2の雌スプラインより小径側にインロー部71を設けている。ここで、インロー部71を設けた場合に、入力軸1の強度を確保するためインロー部71の内径を雌スプラインの溝底(歯底円)の径より小さくしている。
ところで、上述のように入力側ディスク2の貫通孔内に、雌スプラインの溝底の径より小さい径のインロー部71があると、雌スプラインを形成する加工では、一般的なブローチ加工が困難になる。ブローチ加工では、例えば、入力側ディスク2の貫通孔の内周面(内径面)に軸方向に沿った雌スプラインの複数の溝を形成する加工を行う場合に、溝を形成する工具を入力側ディスク2の貫通孔の軸方向に通して溝を形成する。したがって、工具の溝を形成する部分は、雌スプラインの溝底部分(歯底円)の内径と同様の外径を有する。したがって、入力側ディスク2の貫通孔の内径面に雌スプラインの歯底円の内径より小径のインロー部71があると、内径面の雌スプラインを形成する部分以外に工具の溝を形成する部分の径より小さい内径の部分があることになり、工具を通すことができない。
ブローチ加工は、貫通孔に工具を通すだけで雌スプラインを形成する加工が可能なことから、他の加工方法に比較して加工時間が短く、加工コストも低い。また、加工精度も高い。したがって、雌スプラインの加工にブローチ加工を用いることができない場合に、雌スプライン加工の加工時間および加工コストの増大を招くことになる。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、一対の外側ディスクのうちの押圧装置から遠い側の一方の外側ディスクが当該外側ディスクに貫通する軸にスプライン結合されるとともに、雌スプラインの溝底の歯底円の径より径が小さい部分が軸に嵌合する構造であっても、ブローチ加工が可能となるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、同心的に設けられた一対の外側ディスクと、当該一対の外側ディスクの間に同心的に設けられるとともに一対の前記外側ディスクにそれぞれ対向する内側ディスクと、互いに対向する前記外側ディスクと前記内側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、これら前記外側ディスクおよび前記内側ディスクの中心部を貫通する軸とを備え、
一方の前記外側ディスクは、前記軸が貫通する貫通孔を備え、
前記軸が前記貫通孔に一方の端部から挿入され、
当該軸の他方の端部に一方の前記外側ディスクがスプライン結合されて前記軸から動力伝達されるトロイダル型無段変速機において、
一方の前記外側ディスクの前記貫通孔の内周面に設けられた雌スプラインが前記軸に設けられた雄スプラインにスプライン結合されているとともに、前記雌スプラインの前記雄スプラインとスプライン結合される部分より前記軸の一方の端部に近い部分が前記軸に嵌合され、
前記雌スプラインの前記雄スプラインとスプライン結合される部分の歯のたけより、前記軸に嵌合される部分の歯のたけが長くなっていることを特徴とする。
このような構成によれば、一方の外側ディスクの貫通孔の内周面(内径面)において、軸に設けられた雄スプラインと結合する雌スプラインの外側ディスクの小径部分(押圧装置に近い部分、軸の一方の端部に近い部分)が軸に嵌合する。
この場合に、軸に嵌合する部分は、雌スプラインの歯先部分となり、嵌合する部分の径は、雌スプラインの溝底の径より小さくなる。
一方の外側ディスクの内周面(内径面)の軸に嵌合する部分にも雌スプライン溝が形成されることになり、スプライン溝の歯底円の径を、雄スプラインと結合する部分と軸に嵌合する部分とで同じにすれば、ブローチ加工により雌スプラインを加工できる。すなわち、外側ディスクの軸に嵌合する部分の径が雌スプラインの歯底円より小径であっても、その部分もブローチ加工してしまうことによりブローチ加工が可能になり、加工時間の短縮と加工コストの低減を図ることができる。
本発明の前記構成において、前記軸の一方の前記外側ディスクの前記雌スプラインに嵌合する部分が前記雌スプラインに圧入されていることが好ましい。
このような構成によれば、外側ディスクの雌スプラインの一部に軸が圧入されているので、荷重がかかった際のこの外側ディスクの内径の変形を抑えることができる。これにより外側ディスクの雌スプラインの溝低の応力が低減可能になる。応力が低減されるので外側ディスクの肉厚を薄く設定できる、これにより、トロイダル型無段変速機の軸方向長さを短くする小型化を図ることができるとともに、軽量化を図ることができる。
本発明によれば、軸の一方の端部から軸が挿入されて軸の他方の端部にスプライン結合される一方の外側ディスクの内径面に雌スプラインの溝底(歯底円)より小径の軸に嵌合する部分があってもブローチ加工が可能になり、加工時間の短縮と加工コストの低減を図ることができる。
本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の入力側ディスクとこの入力側ディスクの貫通孔に挿入される入力軸とを示す断面図である。
同、入力側ディスクと入力側ディスクの貫通孔に挿入される入力軸とを示す要部断面図である。
同、入力側ディスクと、入力側ディスクの貫通孔に挿入されてスプライン結合した入力軸とを示す図であり、(a)が入力側ディスクの全体を示す断面図であり、(b)は(a)の一部拡大図である。
従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
図4におけるA−A線に沿う断面図である。
押圧装置から遠い側の入力側ディスクの背面で入力軸にコッタが配置された従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
押圧装置の背面で入力軸にコッタが配置された従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
入力側ディスクにおける高応力部位を説明するための図である。
図7の要部拡大図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
この実施形態は、本発明を図7に示すように入力軸(軸)1の他方の端部に鍔部1dを設け、入力軸1の鍔部1d側の他方の端部から入力側ディスク(外側ディスク)2、一体型出力側ディスク34、入力側ディスク2、押圧装置12の順で配置され、押圧装置12の背面側で入力軸1に嵌合するコッタ70を設けたダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機に適用した場合の一例である。
なお、この実施形態のトロイダル型無段変速機の主な特徴は、一対の入力側ディスク2,2のうちの鍔部1dが形成された入力軸1の他方の端部にスプライン結合される入力側ディスク2の雌スプライン101と、入力軸1の鍔部1d側端部の前記雌スプライン101にスプライン結合される入力軸1の雄スプライン102と、雌スプライン101の入力側ディスク2の小径側部分に嵌合する入力軸1の嵌合部103とにあり、その他の構成は図4〜図7に示したトロイダル型無段変速機と略同様であるので、以下では前記特徴について詳しく説明する。
図1から図3に示すように、一対の入力側ディスク2,2のうちの押圧装置12から遠い側の入力側ディスク2は、その貫通孔110に入力軸1が一方の端部側から挿入され、入力軸1の鍔部1dを有する他方の端部にスプライン結合されるものである。
入力軸1の他方の端部には、上述のように入力軸1を拡径したフランジ状の鍔部1dが設けられ、入力軸1の鍔部1dより一方の端部に近い側の外周面に鍔部1dに隣り合うように雄スプライン102が設けられている。雄スプライン102には、複数の溝106(歯105)が入力軸1の円周方向に並んで設けられ、各溝106が入力軸1の軸方向に延在する構造となっている。
入力軸1の他方の端部の雄スプライン102より一方の端部に近い側には、雄スプライン102に隣り合うように、入力側ディスク2の内径面に嵌合する円柱状の嵌合部103が設けられている。すなわち、入力軸1の他方の端部には、他方の端から鍔部1d、雄スプライン102、嵌合部103の順でこれらが同軸上に略隣接して設けられている。
雄スプライン102は、上述のように入力軸1の外周面に複数の溝106を設けたもので、隣り合う溝106同士の間が歯105となっている。歯105の先端が歯先107であり、歯先107を全て通る円が歯先円となる。また、溝106の最も深い部分が溝底109となり、全ての溝底109を通る円が歯底円となる。嵌合部103の外径は、歯底円の径より少しだけ大きく、歯先円の径より小さいものとなっている。
入力側ディスク2の貫通孔110の内周面(内径面)には、雌スプライン101が設けられている。なお、入力側ディスク2の貫通孔110の入力側ディスク2の大径側の端部の内周面は、外側に向かって拡径する円錐台状のテーパー面111となっている。前記貫通孔110の内周面のテーパー面111の内側に隣接して雌スプライン101が設けられている。
また、入力側ディスク2の貫通孔110の小径側の端部は、外側に向かって拡径する円錐台状のテーパー面112となっている。貫通孔110の内周面のテーパー面112に隣接して円筒状の大径孔部113が設けられ、この大径孔部113の内側に隣接して所定の曲率半径で縮径する縮径部114が設けられ、この縮径部114の内側に隣接して雌スプライン101が形成されている。
雌スプライン101は、入力軸1の雄スプライン102に対応する形状を有するもので、入力側ディスク2の貫通孔110の内径面の周方向に沿って並ぶ複数の溝121が設けられているとともに、隣り合う溝121同士の間が歯122となっている。各歯122および溝121は、入力側ディスク2(貫通孔110)の軸方向に沿って延在している。
入力軸1に入力側ディスク2を取り付けた状態では、雄スプライン102の歯105が雌スプライン101の溝121に嵌合し、雌スプライン101の歯122が雄スプライン102の溝106に嵌合している。
歯122の先端が歯先123であり、歯先123を全て通る円が歯先円となる。また、溝121の最も深い部分が溝底124となり、全ての溝底124を通る円が歯底円となる。入力側ディスク2の貫通孔110において、雌スプライン101以外の部分の内径面の内径は、雌スプライン101の歯底円の径より大きくなっている。
雌スプライン101の歯底円の径より雄スプライン102の歯先円の径が小さく、雌スプライン101の歯先円の径より、雄スプライン102の歯底円の径が小さくなっている。雌スプライン101は、入力軸1の雄スプライン102と結合するスプライン結合部131と、入力軸1の嵌合部103に嵌合する嵌合スプライン部132とからなっている。
雄スプライン102の入力軸1の軸方向に沿った長さは、雌スプライン101のスプライン結合部131の入力側ディスク2の軸方向に沿った長さbに略等しく、嵌合部103の入力軸1の軸方向に沿った長さは、雌スプライン101の嵌合スプライン部132の入力側ディスク2の軸方向に沿った長さaに略等しい。嵌合スプライン部132の長さaは、スプライン結合部131の長さbより短い。
雌スプライン101の嵌合スプライン部132とスプライン結合部131との間では、歯122の歯先123に段差117があり、スプライン結合部131の歯先円の径より嵌合スプライン部132の歯先円の径の方が小さくなっている。雌スプライン101の歯122の歯底(溝底124)から歯先123までの歯122のたけの長さは、スプライン結合部131より嵌合スプライン部132の方が長くなっている。なお、スプライン結合部131と嵌合スプライン部132とでは、歯底円の径は同じとなっている。すなわち、スプライン結合部131と嵌合スプライン部132とにおいて、溝121は、同様の形状となっている。
一対の入力側ディスク2,2のうちの上述のような構成を有する一方の入力側ディスク2の貫通孔110の内径面に雌スプライン101を形成する場合には、ブローチ加工が用いられる。すなわち、貫通孔110の内径面においては、雌スプライン101の歯底円より小さな内径の部分がなく、貫通孔110にブローチ加工用の工具を通して雌スプライン101を形成することができる。ブローチ加工後においては、上述の雌スプライン101の歯先123の段差117がなく、歯先円の径が一様となっている。
この状態で、入力側ディスク2の内径側に熱処理を施した後に、雌スプライン101のスプライン結合部131の各歯先123を1つの円筒面上に配置されるように切削加工することにより、段差117が形成され、スプライン結合部131の歯先円の径の方が嵌合スプライン部132の歯先円の径より大きくなる。また、スプライン結合部131の歯先円の径は、入力軸1の嵌合部103の外径より大きくなっている。また、嵌合スプライン部132の径は、入力軸1の嵌合部103の外径と略等しくなっている。ここでは、嵌合スプライン部132の径と、入力軸1の嵌合部103の外径とがしまりばめの関係にあり、嵌合スプライン部132の歯先123部分に入力軸1の嵌合部103が圧入された状態となる。なお、嵌合スプライン部132と嵌合部103がインロー嵌合するものであってもよい。また、入力軸1の嵌合部103も熱処理後に所定の外径となるように加工される。また、入力軸1の嵌合部103の外径は、雌スプライン101の歯底円の径より小さく、雄スプライン102の歯底円の径より大きくなっている。
このようなトロイダル型無段変速機においては、入力側ディスク2の雌スプライン101を除く内径面に、雌スプライン101の歯底円より小径の部分がなく、かつ、雌スプライン101の歯底円の径が一様となっているので、雌スプライン101をブローチ加工により形成することができる。これにより雌スプライン101の加工時間の短縮と加工コストの低減を図ることができる。
また、入力側ディスク2の貫通孔110に入力軸1を挿入する際に、スプライン結合部131の歯先円の内径を入力軸1の嵌合部103の外径より大きくして、スプライン結合部131を嵌合部103が通過することを可能としている。また、嵌合スプライン部132の歯先円の径をスプライン結合部131の歯先円の径より小径とするとともに、嵌合部103の外径と略同じまたは少し小さくして、嵌合部103がスプライン結合部131を通過した後に嵌合スプライン部132と嵌合するようになっている。この際には、嵌合スプライン部132に嵌合部103が圧入される。
嵌合スプライン部132に嵌合部103が圧入されることにより、荷重がかかった際においても入力側ディスク2内径の変形を抑えることができる、これにより、入力側ディスク2の雌スプライン101におけるスプライン底(溝底124)の応力の低減が可能になる。このため、入力側ディスク2の肉厚を薄く設定でき、トロイダル型無段変速機の小型軽量化を図ることができる。
なお、嵌合部103と嵌合スプライン部132との嵌合においては、圧入ではなく、インロー嵌合するものであってもよい。
また、雌スプライン101においては、スプライン結合部131の長さbが、嵌合スプライン部132の長さaより長くなっている。また、スプライン結合部131の軸方向長さbと、雄スプライン102の軸方向長さが略同じになっている。したがって、入力側ディスク2の貫通孔110に入力軸1を挿入した場合に、雌スプライン101のスプライン結合部131が雄スプライン102の一部に結合された後に、嵌合スプライン部132が入力軸1の嵌合部103に嵌合されることになる。したがって、雌スプライン101のスプライン結合部131が雄スプライン102に結合することにより、雄スプライン102が雌スプライン101に案内された状態で、嵌合スプライン部132に嵌合部103を圧入またはインロー嵌合させることができる。すなわち、入力側ディスク2の貫通孔110に入力軸1を挿入する際に、雌スプライン101の嵌合スプライン部132が入力軸1の嵌合部103に嵌合する前に、雌スプライン101のスプライン結合部131が雄スプライン102に噛み合うことになる。
なお、一対の入力側ディスク2,2を一対の外側ディスクとし、一対の出力側ディスク3,3または一体型出力側ディスク34を一対の内側ディスクとしたが、外側ディスクと内側ディスクとを入れ替えた構成とすることが可能であり、外側ディスクを出力側ディスク3,3としてもよい。この場合に一対の出力側ディスク3,3は一体ではなく別体である必要がある。また、この場合に、一対の入力側ディスク2,2を一体としてもよい。
本発明は、ダブルキャビティ式の様々なハーフトロイダル型無段変速機の他、ダブルキャビティ式のフルトロイダル型無段変速機にも適用することができる。
1 入力軸(軸)
2 入力側ディスク(外側ディスク)
3 出力側ディスク(内側ディスク)
11 パワーローラ
34 一体型出力側ディスク(内側ディスク)
101 雌スプライン
102 雄スプライン
103 嵌合部
110 貫通孔
131 スプライン結合部(雌スプラインの雄スプラインと結合する部分)
132 嵌合スプライン部(入力軸の結合部に嵌合する部分)