JP2015188003A - SiC板状体における転位の面内分布評価方法 - Google Patents

SiC板状体における転位の面内分布評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】単結晶炭化珪素からなり、所定の厚みを有したSiC板状体に含まれる転位の面内分布を、非破壊で簡便かつ容易に評価することができる方法を提供する。
【解決手段】予め、参照試料のSiC板状体について、該SiC板状体の表面のX線トポグラフ像を撮影してX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得し、また、化学エッチングを用いたエッチピット分析法により単位面積当たりのエッチピットの数から転位密度を求めて、これら転位密度と画像の濃淡情報との相関関係を得ておき、被測定試料のSiC板状体について、該SiC板状体の表面のX線トポグラフ像を撮影して、前記相関関係に基づき、X線回折強度に基づく画像の濃淡情報を転位密度に換算し、被測定試料のSiC板状体における転位の面内分布を評価する、SiC板状体における転位の面内分布評価方法である。
【選択図】図11

Description

この発明は、単結晶炭化珪素からなり、所定の厚みを有した単結晶炭化珪素板状体(単に「SiC板状体」とも言う)に含まれる転位の面内分布を評価する方法に関し、詳しくは、X線トポグラフを用いて、非破壊で転位の分布を評価する方法に関する。
半導体に代表される単結晶基板から素子を作製して利用する場合、結晶中に含まれる転位が素子の性能悪化をもたらす最も大きな要因のひとつとなることが知られている。したがって、素子を作製する基板について、転位の密度やその分布を調べることは、素子の歩留まりを向上させる上で重要となる。特に、転位を比較的多く含む単結晶材料においては、転位密度の分布に対する素子性能や歩留まりとの相関を明らかにする観点から、単結晶基板の表面全体を非破壊で、かつ簡易に評価することができる方法が求められている。
このような半導体単結晶材料のひとつとして、炭化珪素(以下SiCと表記する)が挙げられる。SiCは、機械的強度に優れ、放射線に強いなどの物理的、化学的安定性から、耐環境性半導体材料として注目されている。また、絶縁破壊電界強度、耐熱性、熱伝導性においてシリコン(Si)を凌駕する物性を有していることから、近年、高周波高耐圧電子素子用途として、単結晶SiCからなるSiC基板の需要が高まっている。しかしながら、単結晶SiCには各種の転位が存在し、素子性能を劣化させる要因として問題視されており、SiCの普及・実用化を阻む要因のひとつとなっている。
単結晶SiC中に存在する代表的な転位には、基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)、貫通らせん転位(Threading Screw Dislocation:TSD)、貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation:TED)などがあり、現在市販のSiC基板の全転位密度は、およそ103〜104cm-2に上ると言われている。したがって、無転位結晶が工業的にも実現されているSiとは対照的に、SiCは一定の転位密度を有する領域から素子を作製せざるを得ない単結晶材料である。また、これらの転位は、素子性能への影響がそれぞれ異なることが分かっており、SiCでは基板全面に存在する転位の種類やその密度の面内分布が特に重要な情報となる。
このような単結晶SiCに含まれる転位を評価する方法として、水酸化カリウムを主成分とした溶融アルカリエッチング等によるエッチピット分析法が広く利用されている。例えば、特許文献1には、溶融アルカリ液に試料を浸漬することで試料表面をエッチングし、(0001)Si終端面を主面とする単結晶SiC基板の表面に現れるエッチピットの形状から、転位を判別する方法が開示されている。また、特許文献2には、融液への浸漬ではなく、溶融アルカリを加熱して生じる蒸気を用いる方法が開示されており、エッチング速度が大きくエッチピットによる転位の判別が困難であった(000−1)C終端面を主面とする試料についても、エッチピット形状から転位を検出できるようにしている。なお、ここで(0001)Si終端面と(000−1)C終端面は併せて{0001}面、もしくは結晶のc軸方向を向く面としてc面と呼ぶ場合がある。
しかしながら、エッチピット分析法は破壊試験であり、評価対象の試料をそのまま使用して素子を作製することができないといった根本的な課題がある。また、多くの転位が含まれて、エッチピットが高密度で互いに接近して形成される場合には、転位の種類判別や計数評価が困難であり、研磨痕のような傷の混入がそれらをより難しくする。更には、エッチング反応の起きる試料最表面での転位の検出に限られてしまうことのほか、異方性エッチングにより好適なピット形状を出現させるために、融液への添加物の混合比や温度、エッチング時間の細かな調整が求められる。加えて、強アルカリ性の劇薬である水酸化カリウムを約500℃程度以上の高温に加熱することから、安全面でも厳重な注意が必要になる。
これに対して、非破壊で半導体単結晶材料に含まれる転位やその他の結晶構造欠陥を評価する方法として、X線トポグラフ法、フォトルミネッセンス法、電子顕微鏡法等が知られている。例えば、特許文献3では、試料に光を照射して試料から放出されるフォトルミネッセンス光を観察し、結晶構造欠陥の二次元的な分布を評価する方法を開示している。これは、高速で非破壊的に欠陥検出が行える利点を有している。
しかしながら、フォトルミネッセンス光のスペクトルからは一定の面積領域を有するような積層欠陥の判別は可能であるが、点や線であるBPD、TSD、TED等の転位の種類判別とその密度情報を得る方法は確立されておらず、また、単結晶SiCのように転位を多く含み、観察視野に存在する構造欠陥同士が互いに重なり合ってしまうようなものには適さない。
また、特許文献4及び5は、X線回折を用いた欠陥評価方法を開示している。このうち、特許文献4は、X線回折強度測定を2試料同時に可能な光学系を組み上げて行い、一方を完全結晶もしくは完全結晶に近い結晶とすることにより、評価したい試料について、完全結晶との回折強度比から欠陥度を評価する方法である。また、特許文献5では、X線回折強度を計測した結果とエッチングにより計数した欠陥密度とをグラフ化し、グラフを介してX線回折強度から欠陥密度を測定する方法を開示している。
しかしながら、特許文献4の方法は、特別な装置を準備する必要があることに加え、同一材料として完全結晶を準備することが求められるが、単結晶SiCについて完全結晶もしくは完全結晶に近い結晶を準備することは、現時点において事実上不可能である。一方の特許文献5の方法では、基板の直径に沿って、その線上のX線回折強度を求めると共に、同じ場所をエッチングして結晶欠陥を計数して、X線回折強度と結晶欠陥カウントとの関係のグラフを得ている。これは、Siのような引き上げ法(CZ法)で形成される円形状のスワール欠陥(例えば特許文献4の図5を参照)を想定するものと考えられるが、転位の発生に明瞭な規則性を認め難く、かつその分布が広範囲に亘る単結晶SiCの場合、その転位の面内分布を正しく把握するためには、事実上の適用が困難である。
加えて、特許文献6では、X線トポグラフを用いて得られる像において、転位線の長さから欠陥密度を測定する方法を開示しているが、この場合にも転位の発生が直線的かつ等方的であるとの仮定に基づいており、比較的転位密度が高い単結晶SiCであったり、厚みを有した試料であって転位が重なり合ってしまうような場合には、このような測定は容易でない。
上記以外にも、例えば、電子顕微鏡を用いた結晶欠陥検出方法として、透過型電子顕微鏡法により結晶欠陥を観察することも可能であるが、破壊検査であるうえ、観察のための試料準備に時間と労力を要し、試料をウェハ全面などの広域で評価することは現実的に不可能である。
特開2011−151317号公報 特開2013−211547号公報 特開2009−54771号公報 特開昭58−24842号公報 特開平1−138449号公報 特開平5−175306号公報
そこで、本発明では、単結晶SiCからなり、所定の厚みを有したSiC板状体について、それに含まれる転位の面内分布を非破壊で簡便に、かつ容易に評価することができる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、X線トポグラフ像によるX線回折強度に基づく画像の濃淡情報と、エッチピット分析法で得られた転位密度との相関関係を得ておくことで、測定対象のSiC板状体のX線トポグラフ像を撮影すれば、X線回折強度に基づく画像の濃淡情報を転位密度に換算して、転位の面内分布を広域にわたって簡便かつ正確に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)単結晶炭化珪素からなり、所定の厚みを有したSiC板状体に含まれる転位の面内分布を評価する方法であって、
予め、参照試料のSiC板状体について、該SiC板状体の表面のX線トポグラフ像を撮影してX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得し、また、化学エッチングを用いたエッチピット分析法により単位面積当たりのエッチピットの数から転位密度を求めて、これら転位密度と画像の濃淡情報との相関関係を得ておき、
被測定試料のSiC板状体について、該SiC板状体の表面のX線トポグラフ像を撮影して、前記相関関係に基づき、X線回折強度に基づく画像の濃淡情報を転位密度に換算し、被測定試料のSiC板状体における転位の面内分布を評価することを特徴とする、SiC板状体における転位の面内分布評価方法。
(2)参照試料及び被測定試料のSiC板状体の表面がそれぞれオフ角度8°以内のc面である場合、前記相関関係を得るにあたり、参照試料のSiC板状体の表面において、互いに離間する観察領域を少なくとも2箇所選択して、それぞれの観察領域の画像の濃淡情報をX線トポグラフ像から求めると共に、エッチピット分析法により当該観察領域の転位密度を求めることを特徴とする、(1)に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
(3)参照試料及び被測定試料のSiC板状体の表面がそれぞれオフ角度8°以内のa面である場合、前記相関関係を得るにあたり、参照試料のSiC板状体の表面において、[0001]方向に縦幅を有すると共に[0001]方向と垂直に交わる方向に横幅を有する観察領域を互いに離間するように少なくとも2箇所選択して、それぞれの観察領域の画像の濃淡情報をX線トポグラフ像から求め、また、各観察領域の奥行き面として対応させるように、観察領域の横幅を含むようにしながら、それぞれの観察領域をSiC板状体の厚み方向に切り出してオフ角度8°以内のc面を得て、エッチピット分析法により各観察領域の奥行き面に相当するオフ角度8°以内のc面の転位密度を求めることを特徴とする、(1)に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
(4)nを1以上の整数とする<000n>方位を回折ベクトルに用いることにより、X線トポグラフ像から貫通らせん転位を含んだX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、前記エッチピット分析法により貫通らせん転位の転位密度を求めて、前記画像の濃淡情報と貫通らせん転位の転位密度との相関関係を得ておき、被測定試料のSiC板状体における貫通らせん転位の面内分布を評価する、(2)又は(3)に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
(5)結晶学的に等価な<11−20>3方位のうちのいずれか1方位を回折ベクトルに用いることにより、X線トポグラフ像から貫通刃状転位及び基底面転位を含んだX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、前記エッチピット分析法により貫通刃状転位及び基底面転位の合計転位密度を求めて、前記画像の濃淡情報と貫通刃状転位及び基底面転位の合計転位密度との相関関係を得ておき、被測定試料のSiC板状体における貫通刃状転位及び基底面転位の面内分布を評価する、(2)又は(3)に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
(6)(4)に記載の方法により得られた貫通らせん転位の面内分布と請求項5に記載の方法により得られた貫通刃状転位及び基底面転位の面内分布とを合算して、被測定試料のSiC板状体における貫通らせん転位、貫通刃状転位、及び基底面転位の面内分布を評価する、SiC板状体における転位の面内分布評価方法。
(7)被測定試料のSiC板状体の表面を0.1mm角以上の画素に対応させて転位の面内分布を評価する、(1)〜(6)のいずれかに記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
本発明によれば、SiC板状体に含まれる転位の面内分布を非破壊で正確かつ簡便に評価することができる。
図1は、オフ角度8°以内のc面からなる参照試料のSiC板状体における観察領域の様子を模式的に示す斜視説明図である。 図2は、オフ角度8°以内のa面からなる参照試料のSiC板状体における観察領域の様子を模式的に示す斜視説明図である。 図3は、実施例1に係る参照試料のSiC板状体を説明する斜視説明図である。 図4は、実施例1に係る参照試料のSiC板状体における観察領域を説明するための平面図である。 図5は、実施例1における[0004]回折コントラストとTSD密度との関係を示すグラフである。 図6は、実施例1における[11−20]回折コントラストとTED及びBPD密度の和との関係を示すグラフである。 図7は、実施例1に係る被測定試料のSiC基板について、転位の面内分布マップの一例を想定した概念図である。 図8は、実施例2に係る参照試料のSiC板状体における観察領域を示す平面説明図である。 図9は、実施例2における[0008]回折コントラストとTSD密度との関係を示すグラフである。 図10は、実施例2における[11−20]回折コントラストとTED及びBPD密度の和との関係を示すグラフである。 図11は、実施例2に係る被測定試料のSiC基板について、転位の面内分布マップの一例を想定した概念図である。
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、本発明で用いるX線トポグラフ法は、X線回折において結晶中に格子の乱れた不完全な領域(結晶欠陥)があると、その領域近傍で回折X線強度が増大すること(消衰効果の減少)を利用したものであり、観察試料の各位置の回折強度を濃淡コントラストの二次元画像(すなわち画像の濃淡情報)にして、結晶欠陥の分布情報を検出するものである。このとき、入射X線の回折ベクトルgと、転位のもつ格子ズレに相当するバーガースベクトルbとの関係において、b・g=1(互いのベクトルが平行となる条件)のとき回折強度は最大となり、b・g=0(互いのベクトルが直交となる条件)のとき最小となる。これを利用することにより、回折ベクトルからトポグラフ像に現れる転位のバーガースベクトルを判別し、転位の種類同定を行うことができる。なお、g及びbは、いずれもベクトルの意味であり、gはgの上に→を有することを表し、bはbの上に→を有することを表す。
SiCの転位は、nを整数とするn<0001>のバーガースベクトル(4H-SiCではn>2、6H-SiCではn>1)を有する貫通らせん転位(TSD)、1/3<11−20>のバーガースベクトルを有する貫通刃状転位(TED)、同じく1/3<11−20>のバーガースベクトルを有する基底面転位(BPD)からなることから、<11−20>に直交する<000n>を回折ベクトルに用いることによりTSDの検出が可能であり、<0001>に直交する回折ベクトルとして<11−20>を用いることにより、TED及びBPDの検出が可能になる。そのため、回折ベクトル<11−20>と<000n>を両方用いることにより、X線入射領域のSiC結晶中に含まれるTSD、TED、及びBPDの全ての転位を検出することができる。また、<11−2n>を回折ベクトルに選んだ場合には、直交するバーガースベクトルをもつ転位が存在しないため、これら全ての転位の検出が一度に可能になる。なお、4H型のポリタイプを有する4H−SiCの場合、特に制限はないが、nとして4や8を用いるのが一般的である。
そこで、本発明においては、単結晶SiCからなり、所定の厚みを有したSiC板状体について、その表面における転位の面内分布を評価するにあたり、予め、参照試料のSiC板状体について、その表面のX線トポグラフ像を撮影してX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得し、また、化学エッチングを用いたエッチピット分析法により単位面積当たりのエッチピットの数から転位密度を求めて、これら転位密度と画像の濃淡情報との関係をグラフ化するなどして相関関係を得ておく。
化学エッチングを用いたエッチピット分析法(エッチピット観察法等として呼ばれる場合もある)については、公知の方法を採用することができ、例えば、水酸化カリウムを主成分とした溶融アルカリエッチングを用いるほか、特許文献2に記載されるような溶融アルカリを加熱して生じる蒸気を用いるようにしてもよい。そして、光学顕微鏡等を用いて、現れたエッチピットの形状により、転位の種類を判別しながら単位面積当たりのエッチピットの数をカウントする。一般には、中型六角形状を有したエッチピットが貫通らせん転位(TSD)に相当し、小型六角形状を有したものが貫通刃状転位(TED)に相当し、楕円形状(貝殻形状)を有したものが基底面転位(BPD)に相当する。ちなみに、これら以外では、大型六角形状を有したエッチピットがマイクロパイプ(MP)、線状のものが積層欠陥(SF)である。ここで、後述するように、化学エッチングを行うオフ角度8°以内のc面は、エッチング面の表面に{0001}基底面が交差して基底面転位(BPD)のエッチピットが形成されて、貫通転位(TSD、TED)と合わせた面内全ての転位のエッチピットを一度に観察可能にするため、オフ角度を0°超にする必要がある。また、エッチピット形状から転位を正しく判別するためには、化学エッチングを行う前に鏡面研磨によって加工ひずみを取り除いておくようにするのがよい。
また、転位密度と画像の濃淡情報との相関関係を得るには、参照試料のSiC板状体において少なくとも2箇所、好ましくは3箇所以上でX線回折強度に基づく画像の濃淡情報とエッチピット分析法による転位密度とを求めるようにする。
ここで、高周波高耐圧電子素子のようなパワーデバイス用途をはじめとして、広く利用が期待されているオフ角度8°以内のc面を主面とするSiC板状体、すなわち昇華再結晶法によりc軸<0001>に沿って成長させたインゴットを輪切りにしたような{0001}面に対してオフ角度8°以内(好適には0°超8°以下、より好適には4°以上8°以下)のオフ角度を有するSiC板状体について転位の面内分布を評価する場合には、参照試料として同じくオフ角度8°以内(好適には0°超8°以下、より好適には4°以上8°以下)のc面を主面としたSiC板状体を用意し、例えば、図1に示したように、主面内で互いに離間する観察領域1を2箇所以上選択して、それぞれの観察領域1の画像の濃淡情報をX線トポグラフ像から求めると共に、エッチピット分析法により当該観察領域1の転位密度を求めるようにすればよい。その際、例えば参照試料のSiC板状体の中心部付近と円周部付近とを含む2箇所以上の観察領域1を選ぶなどして、転位の面内での偏りを減らすようにするのがよい。なお、参照試料において得られた転位密度とX線トポグラフ画像の濃淡情報との相関関係を直接適用する上で、転位密度の差異を除く他の条件をすべて同一とするためには、参照試料のSiC板状体と被測定試料のSiC板状体とは同じ厚みにすること、研磨等による表面仕上げ状態を同じにしておくこと、及びオフ角度とそのオフ方向についても揃えるようにするのが望ましいが、例えば[11−20]方向に4°のオフ角度を有したc面のSiC板状体を参照試料として、転位密度と画像の濃淡情報との関係のグラフを得ておけば、オフ角度が異なっていたとしても0°以上8°以下の範囲内であれば、同じくc面を有する被測定試料のSiC板状体について、転位の面内分布を評価することは実用上可能である。
さらに、エッチピット分析法に用いる8°以内のc面からなる参照試料は、その厚み方向に転位密度の変化していないもの、もしくは転位密度の変化が十分無視できるものを選ぶのが望ましい。これは、X線の入射条件によって試料へのX線侵入深さが変化した場合、厚み方向に転位密度が大きく変化している試料では、化学エッチングにより表面にエッチピットとして現れる転位の数とX線にて検出している転位の数とがかけ離れてしまい、X線トポグラフのコントラストとエッチピット密度との相関関係が失われてしまうおそれがあるためである。実際、参照試料としてその厚み方向に転位密度の変化が十分無視できるものを選ぶことは可能である。
一方で、転位を低減可能な結晶成長法が検討されているc面に垂直なa面を主面とするSiC板状体、すなわち昇華再結晶法によりc軸<0001>に沿って成長させたインゴットを縦切りにしたような{11−20}面や{1−100}面に対してオフ角度8°以内(好適には4°以内)のオフ角度を有するSiC板状体について転位の面内分布を評価する場合には、参照試料として同じくオフ角度8°以内(好適には4°以内)のa面を主面としたSiC板状体を用意して、図2に示したように、主面内において、[0001]方向に縦幅を有すると共に[0001]方向に垂直に交わる方向に横幅を有する観察領域1を互いに離間するように少なくとも2箇所選択して、それぞれの観察領域1の画像の濃淡情報をX線トポグラフ像から求めるようにする。その際、例えば参照試料のSiC板状体におけるインゴットの成長方向(c軸方向)の始点側と終点側を含む2箇所以上の観察領域1を選ぶなどして、転位の面内での偏りを防ぐようにするのがよい。なお、厳密には、a面は{11−20}面であり、{1−100}面はm面と呼ぶが、SiCの結晶を扱う技術的な慣習に則り、ここでは{11−20}面も{1−100}面も共にc面に垂直に交わる面としてa面と呼ぶものとする。
但し、エッチピット分析法による転位密度の算出では、a面での転位評価・分類方法が確立されていないこと、また実用上の転位密度はオフ角度8°以内のc面での値が用いられることなどから、前述のオフ角度8°以内のc面を主面とするSiC板状体と同様に、エッチピット分析法はオフ角度8°以内のc面をa面試料から切り出して行うものとする。つまり、各観察領域1の奥行き面2として対応させるように、観察領域の横幅を含むようにしながら、それぞれ参照試料のSiC板状体を厚み方向に切り出してオフ角度8°以内のc面を得て、これらの奥行き面2をそれぞれ化学エッチングして転位密度を求めるようにする。このとき切り出す奥行き面2を備えた試料は、前述と同様にその厚み方向に転位密度の変化していないもの、もしくは転位密度の変化が十分無視できるような単結晶SiC部位3とするのがよい。
すなわち、図1及び2を用いて説明すると、先のオフ角度8°以内のc面を主面とするSiC板状体の場合には、X線トポグラフにより観察領域1の厚み方向を含めた単結晶SiC部位3のX線回折強度を測定すると共に、エッチピット分析法により当該観察領域1の転位密度を求めるようにするのに対し、オフ角度8°以内のa面を主面とするSiC板状体の場合には、X線トポグラフにより観察領域1の厚み方向を含めた単結晶SiC部位3のX線回折強度を測定し、エッチピット分析法では、当該単結晶SiC部位3の奥行き面2(すなわちオフ角度8°以内のc面)の転位密度を求めるようにする。そのため、X線トポグラフには反射モードと透過モードが存在するが、a面を主面とするSiC板状体については、好ましくは透過モードによりX線トポグラフ像を得るのがよい。これにより、エッチピット分析法を用いて転位密度を導出した奥行き面2を含むように、X線トポグラフ画像の濃淡情報を得ることができ、エッチピット分析法とX線トポグラフ法との間で検出している転位の数に不一致が生じることを避けることができる。また、参照試料のSiC板状体と被測定試料のSiC板状体とは同じ厚み、同じ表面仕上げ状態にすること、及び、オフ角度とそのオフ方向についても揃えるようにすることはc面の場合と同様である。
また、観察領域の数については増える分だけ評価の精度は高まるが、転位密度と画像の濃淡情報とは比較的良好な相関性を有することから、c面とa面のいずれの場合も3〜4箇所程度の観察領域を選択すれば十分である。更には、現状のSiCデバイスにおける有効面積は0.1mm×0.1mm程度が最小サイズであり、また、現時点における市販のSiC基板の転位密度は、貫通らせん転位、貫通刃状転位、及び基底面転位を合計するとおよそ103〜104cm-2であることなどを踏まえると、被測定試料のSiC板状体の表面を0.1mm角以上の画素に対応させて転位の面内分布を評価するのが好都合である。そのため、観察領域もこのサイズで選択すればよいが、作業性等を考慮すると2mm×2mm程度の大きさで観察領域を選ぶようにすればよい。なお、画素サイズの上限については、特に規定していないが、SiC板状体の表面をひとつのデバイスとして利用することを考慮して、理論上はSiC板状体のサイズが上限である。
そして、本発明の方法によりSiC板状体に含まれる転位の面内分布を評価するにあたっては、上述したようなX線トポグラフの原理を踏まえて、参照試料のSiC板状体について、nを1以上の整数とする<000n>方位を回折ベクトルに用いたX線トポグラフ像からX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、エッチピット分析法により貫通らせん転位の転位密度を求めて、これらの関係をグラフ化しておけば(得られたものをグラフ(1)とする)、参照試料の場合と回折条件を同じにして、被測定試料のSiC板状体のX線トポグラフ像を撮影することで、上記グラフ(1)を介して、被測定試料のSiC板状体における貫通らせん転位の面内分布を得ることができる。
また、参照試料のSiC板状体について、結晶学的に等価な<11−20>3方位のうちのいずれか1方位を回折ベクトルに用いたX線トポグラフ像からX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、エッチピット分析法により貫通刃状転位及び基底面転位を合計した転位密度を求めて、これらの関係をグラフ化しておけば(得られたものをグラフ(2)とする)、参照試料の場合と回折条件を同じにして、被測定試料のSiC板状体のX線トポグラフ像を撮影することで、上記グラフ(2)を介して、被測定試料のSiC板状体における貫通刃状転位及び基底面転位の合計転位の面内分布を得ることができる。
更には、参照試料のSiC板状体について、nを1以上の整数とする<11−2n>を回折ベクトルに用いたX線トポグラフ像からX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、エッチピット分析法により貫通らせん転位、貫通刃状転位、及び基底面転位を合計した転位密度を求めて、これらの関係をグラフ化しておけば(得られたものをグラフ(3)とする)、参照試料の場合と回折条件を同じにして、被測定試料のSiC板状体のX線トポグラフ像を撮影することで、上記グラフ(3)を介して、被測定試料のSiC板状体における貫通らせん転位、貫通刃状転位、及び基底面転位の合計転位の面内分布を得ることができる。
或いは、貫通らせん転位、貫通刃状転位、及び基底面転位の合計転位の面内分布を評価するにあたっては、上記グラフ(1)を用いて得た貫通らせん転位の面内分布と上記グラフ(2)を用いて得た貫通刃状転位及び基底面転位の面内分布とを合算して、被測定試料のSiC板状体における転位の面内分布を評価するようにしてもよい。
本発明の評価方法によれば、単結晶SiCからなるSiC基板を含めて、所定の厚みを有したSiC板状体に含まれる転位の面内分布を非破壊で正確かつ簡便に評価することができる。すなわち、従来の化学エッチングを用いたエッチピット分析法では、光学顕微鏡等による限られた視野内で観察された転位密度を面内全体の値として平準化していたが、本発明によれば、X線トポグラフ像から面内全体での転位の分布をマップ表示のようにしてより正確に把握することができるようになる。しかも、本発明によれば、エッチピット分析法では評価対象の試料は破壊されて使用することができなかった根本的な課題を解消できることに加えて、一旦、所定のグラフを得ておけば、被測定試料のSiC板状体のX線トポグラフ像を撮影して転位の面内分布を評価することができ、研磨痕のようなキズの混入や多数のエッチピットにより正確な計数が困難であった問題を解決することができ、事前に必要であった鏡面研磨等の手間を省くこともできる。
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明は以下の内容に制限されない。
[実施例1]
先ず、昇華再結晶法により育成した4インチSiC単結晶インゴットを厚さ2mmの板状に縦切りして、(0001)に垂直な面である(1−100)面を10mm×20mmのサイズに切り出し、次いで、(1−100)面を0.5μm砥粒ダイヤモンドポリッシュ仕上げして厚さ1.5mmにして、図3に示すようなオフ角度0°の(1−100)面を主面とする4H−SiC基板を用意した。
この4H−SiC基板を参照試料として、主面である(1−100)面を透過モードのX線トポグラフ法により、g=[11−20]の回折条件、及びg=[0004]の回折条件にて、それぞれ全面撮影した。得られたトポグラフ像のコントラストについては、像内の強度の最大値は31926であり、これを濃淡コントラストの階調(コントラスト値)256階調のうちで100とおいて、X線回折の強度値を0から100の階調値を有する画像の濃淡情報として振り分けた。
次いで、この参照試料のSiC板状体について、後述する3箇所の観察領域1を含むようにして、それぞれ[0001]方向に1mmの縦幅を有すると共に[0001]方向と垂直に交わる方向に10mmの横幅を有しながら、SiC板状体を厚み方向に切り出して、短冊状の試料片を3枚切り出した。これらの短冊状試料片を得るにあたっては、図4に示したように、SiC板状体の主面内から、当該SiC板状体を切り出したインゴットの成長方向(c軸方向)における始点側と終点側を含む3箇所を選択した。そして、これら3枚の短冊状試料片については、それぞれ切り出した片側の切断面を0.5μm砥粒ダイヤモンドポリッシュ仕上げして厚み750μmとし、かつ、[11−20]方向に4°のオフ角度を有した(0001)面を形成した。その上で、この4°オフ(0001)面を有した3枚の短冊状試料片を500℃のKOH融液に10分間浸漬した。なお、これら3枚の短冊状試料片については、それぞれ上下に隣接して切り出された別の試料片に対して溶融KOHエッチングを行ってエッチピット観察したところ、これら3枚の短冊状試料片の表裏面において貫通らせん転位(TSD)の転位密度に有意な差はなく、また、貫通刃状転位(TED)と基底面転位(BPD)を合わせた合計の転位密度にも有意な差はないことを確認した。
ここで、3枚の短冊状試料片について、それぞれの側面(すなわちSiC板状体の主面にあたる(1-100)面)のうち横幅1.5mm×縦幅750μmを観察領域1とし、各観察領域1の横幅を含んで奥行き側に対応する1.5mm×1.5mmの4°オフ(0001)面をそれぞれの奥行き面2として、これらの奥行き面2でのエッチピットを光学顕微鏡にて計数し、1cm2あたりのTSD密度、TED密度、及びBPD密度を算出した。その結果、各観察領域1に対応する奥行き面2でのi)TSD密度、及びii)TED密度+BPD密度は、表1に示すとおりであった。また、これらの観察領域1について、g=[0004]の回折条件で撮影したX線トポグラフ像から、それぞれの面内平均コントラスト値(画像の濃淡情報)を取得すると共に、g=[11−20]の回折条件で撮影したX線トポグラフ像から、面内平均コントラスト値(画像の濃淡情報)を取得すると、表1に示すとおりであった。なお、ここで、昇華再結晶法における成長端側にあたる最初の観察領域のコントラスト値は、作業上の不備から、トポグラフ像観察領域外となったため、コントラスト値は最近接領域のコントラスト値と、種結晶からの距離に依存したコントラスト減衰傾向からフィッティングカーブにより外挿した値を採用している。
Figure 2015188003
そして、上記で得られた結果をもとに、3箇所の観察領域についての[0004]回折コントラストとTSD密度との関係をグラフ化したものが図5であり、[11−20]回折コントラストとTED及びBPD密度の和との関係をグラフ化したものが図6である。いずれも転位密度と画像の濃淡情報とが良好な相関関係を有することが分かる。
次に、被測定試料のSiC基板として、参照試料と同様に、昇華再結晶法により育成した4インチSiC単結晶インゴットを厚さ2mmの板状に縦切りして、(0001)に垂直な面である(1−100)面を130mm×70mmのサイズにし、次いで、(1−100)面を0.5μm砥粒ダイヤモンドポリッシュ仕上げにより厚さ1.5mmにして、オフ角度0°の(1−100)面を主面とする4H−SiC基板を用意した。
そして、この被測定試料のSiC基板について、参照試料と同一の装置を用いた同一の撮影条件により、g=[11−20]の回折ベクトルの場合のX線トポグラフ像と、g=[0004]の回折ベクトルの場合のX線トポグラフ像とをそれぞれ撮影した。このとき、トポグラフ像における強度の最大値が27568であり、参照試料と同様に強度31926を256階調の100とおいてX線回折の強度値を階調値(画像の濃淡情報)へと振り分けた結果、被測定試料のSiC基板におけるトポグラフ像のコントラスト階調は0から86となった。
この場合、基板サイズが参照試料と異なるが、厚みと仕上げ表面を合わせることにより、得られたX線トポグラフ像コントラストを参照試料にて得られたコントラストと直接比較対応させることができ、上記で得られた図5及び図6の各グラフより、被測定試料のSiC基板上の任意の領域について、トポグラフ像のコントラスト階調値(画像の濃淡情報)から転位密度の導出が可能となる。
例えば、g=[11−20]の回折ベクトルで得られた被測定試料のSiC基板におけるX線トポグラフ像を1cm×1cm□の領域に細分し、それぞれの領域のコントラスト平均値から、図6を介して、TED密度及びBPD密度の和を求めると、図7のような、矩形の縦切り面に相当する転位密度のマップが得られる。これより、TEDとBPDを合わせた転位密度が1×104cm-2以下の領域は約80%を占めることが分かる。そのため、例えば、本実施例1に係る被測定試料のSiC基板からTEDとBPDを合わせた密度が1×104cm-2以下の領域を選び出し、昇華再結晶法によりc軸<0001>と垂直な方向への成長(a面成長)を行うことで、転位密度の少ない高品質の単結晶SiCを製造することが可能になる。
[実施例2]
参照試料として(0001)から[11−20]方向へ4°のオフ角度を有した4インチ径の4H−SiC(0001)基板を用意した。このSiC基板は、昇華再結晶法により育成したインゴットの成長端近傍から切り出したものであり、厚み方向の転位密度変化は無視することができるものを参照試料として選んだ。実際、この参照試料に用いたSiC基板の上下に隣接して切り出された別のSiC基板に対して溶融KOHエッチングを行い、参照試料のSiC基板上と互いに対応する領域のエッチピット観察を行ったところ、参照試料のSiC基板の表裏面において貫通らせん転位(TSD)の転位密度に有意な差はなく、また、貫通刃状転位(TED)と基底面転位(BPD)を合わせた合計の転位密度についても有意な差はなかった。
この参照試料のSiC基板の表面は0.5μm砥粒ダイヤモンドポリッシュ仕上げされており、厚みは350μmであった。先ず、この参照試料であるオフ角度4°の(0001)SiC基板の主面を透過モード及び反射モードのX線トポグラフ法によりg=[11−20]の回折条件、及びg=[0008]の回折条件にてそれぞれ全面撮影した。得られたトポグラフ像において、像内の強度の最大値23863を濃淡コントラストの階調(コントラスト値)256階調のうちで120とおいて、X線回折の強度値を0から120の階調値を有する画像の濃淡情報として振り分けた。
次いで、この参照試料のSiC基板を500℃のKOH融液へ10分間浸漬し、基板表面に現れるエッチピットを光学顕微鏡にて観察した。このとき、図8に示したように、SiC基板の中心部と円周部付近とを含むように3箇所で2mm×2mmの観察領域を選択し、それぞれでエッチピットを計数して、各観察領域における1cm2あたりのTSD密度、TED密度、及びBPD密度を算出し、i)TSD密度、及びii)TED密度+BPD密度を求めた。また、エッチピットを計数した3箇所の観察領域について、g=[0008]の回折条件で撮影したX線トポグラフ像から、それぞれの観察領域の面内平均コントラスト値(画像の濃淡情報)を取得すると共に、g=[11−20]の回折条件で撮影したX線トポグラフ像から、同様に面内平均コントラスト値(画像の濃淡情報)を取得した。
そして、実施例1と同様、上記で得られた結果をもとに、3箇所の観察領域についての[0008]回折コントラストとTSD密度との関係をグラフ化したものが図9であり、[11−20]回折コントラストとTED及びBPD密度の和との関係をグラフ化したものが図10であり、いずれも転位密度と画像の濃淡情報との間に良好な相関関係を得ることができる。
次に、被測定試料のSiC基板として、参照試料と同様に(0001)から[11−20]方向へ4°のオフ角度を有する4H−SiC(0001)基板を用意した。このSiC基板は、参照試料の場合と同様に表面が0.5μm砥粒ダイヤモンドポリッシュ仕上げされており、厚みは350μmである。そして、この被測定試料のSiC基板について、参照試料と同一の装置を用いた同一の撮影条件により、g=[11−20]の回折ベクトルの場合のX線トポグラフ像と、g=[0008]の回折ベクトルの場合のX線トポグラフ像とをそれぞれ撮影した。
ここで、被測定試料のトポグラフ像における強度の最大値が55361であり、参照試料と同様に強度23863を256階調の120とおいてX線回折の強度値を階調値(画像の濃淡情報)へと振り分けた結果、被測定試料のSiC基板におけるトポグラフ像のコントラスト階調は0から208となった。これにより、得られたX線トポグラフ像のコントラストを参照試料にて得られたコントラストと直接比較対応させることができ、上記で得られた図9及び図10の各グラフより、被測定試料のSiC基板上の任意の領域について、トポグラフ像のコントラスト階調値(画像の濃淡情報)から転位密度の導出が可能となる。
例えば、g=[0008]の回折ベクトルで得られた被測定試料のSiC基板におけるX線トポグラフ像について、基板全面のコントラスト平均値を導出し、図9のグラフを介して基板全面の平均TSD密度を導出することができる。また、被測定試料のSiC基板におけるX線トポグラフ像を1cm×1cm□の領域に細分し、それぞれの領域のコントラスト平均値から図9を介して転位密度を導出することもでき、例えば、TSD密度が5×102cm-2以下の1cm×1cm□領域が基板面内で何%を占めるかなどの情報が得られる。更には、g=[11−20]の回折ベクトルで得られた被測定試料のSiC基板におけるX線トポグラフ像をもとに、図10を介してTED密度及びBPD密度の和を求めたうえで、TSD密度の情報と合算すると、図11に示したような、円形状をした基板の総転位密度のマップが得られる。この場合、当該実施例2の被測定試料のSiC基板について、TSD、TED、及びBPDを合計した総転位密度の面内分布が評価できる。
また、本実施例に係る被測定試料のSiC基板を用いて、1cm×1cm□の有効面積を有するダイオード素子を作製する場合、目的の性能を満たす製品がTSD密度5×102cm-2以下であるとの対応付けが得られたとすると、前述の情報をもとに、予めトポグラフ像コントラストから転位密度の低い領域を選んで素子作製することが可能になる。
[実施例3]
この実施例3は実施例2の変形例であり、実施例2と同じ参照試料のSiC基板を準備して、X線トポグラフの回折ベクトルをg=[11−28]、及びg=[0008]としてX線トポグラフ像を撮影した以外は、実施例2と同様にして転位密度と画像の濃淡情報との関係をグラフ化した。
この場合、[11−28]回折のトポグラフ像には、回折ベクトルと直交するバーガースベクトルを有する転位が存在しないことから、X線入射領域に含まれるTSD、TED、及びBPD全ての転位が検出される。そのため、このとき[11−28]回折コントラストと総転位密度の関係を示すグラフが得られる。一方、[0008]回折のトポグラフ像にはTSDのみが検出されることから、実施例2と同様に[0008]回折コントラストとTSD密度との関係を示すグラフが得られる。
そこで、実施例2と同じ被測定試料のSiC基板について、g=[11−28]の回折ベクトルのX線トポグラフ像を撮影すれば、前者のグラフを介して、TSD、TED、及びBPDを合せた総転位密度の面内分布を評価することができる。また、g=[0008]の回折ベクトルのX線トポグラフ像を撮影すれば、後者のグラフを介して、TSD密度の面内分布を評価することができ、更には、総転位密度からTSD密度を差し引くことにより、TEDとBPDの和の転位密度を導き出すこともできる。
[実施例4]
この実施例4は実施例2の別の変形例であり、参照試料として、実施例2と同様に(0001)から[11−20]方向へ4°のオフ角度を有した4インチ径の4H−SiC(0001)基板を用意した。この参照試料のSiC基板は、昇華再結晶法で得られたインゴットからワイヤーソーにより厚み500μmに切り出されたものである。
先ず、この参照試料のSiC基板について、鏡面加工を施す前に、透過モード及び反射モードのX線トポグラフ法によりg=[11−20]の回折条件、及びg=[0008]の回折条件にて、主面をそれぞれ全面撮影した。得られたトポグラフ像において、像内の強度の最大値を濃淡コントラストの階調(コントラスト値)256階調のうちで150とおいて、X線回折の強度値を0から150の階調値を有する画像の濃淡情報として振り分けるようにした。
次いで、この参照試料のSiC基板の表面を0.5μm砥粒ダイヤモンドポリッシュ仕上げとした上で、500℃のKOH融液へ10分間浸漬し、基板表面に現れるエッチピットを光学顕微鏡にて観察した。このとき、実施例2と同様に2mm×2mmの観察領域を3箇所選択し、それぞれでエッチピットを計数して、各観察領域における1cm2あたりのTSD密度、TED密度、及びBPD密度を算出し、i)TSD密度、及びii)TED密度+BPD密度を求めた。また、エッチピットを計数した3箇所の観察領域について、g=[0008]の回折条件で撮影したX線トポグラフ像から、それぞれの観察領域の面内平均コントラスト値(画像の濃淡情報)を取得すると共に、g=[11−20]の回折条件で撮影したX線トポグラフ像から、同様に面内平均コントラスト値(画像の濃淡情報)を取得した。そして、これらの結果をもとに、3箇所の観察領域についての[0008]回折コントラストとTSD密度との関係をグラフ化し、[11−20]回折コントラストとTED及びBPD密度の和との関係をグラフ化すると、いずれも実施例2と同様に良好な相関関係を有するグラフが得られる。
次に、被測定試料のSiC基板として、参照試料と同様に(0001)から[11−20]方向へ4°のオフ角度を有する4H−SiC(0001)基板を用意した。このSiC基板は、参照試料の場合と同様に昇華再結晶法で得られた他のインゴットからワイヤーソーにより厚み500μmに切り出されたものである。そして、この被測定試料のSiC基板について、参照試料と同一の装置を用いた同一の撮影条件により、g=[11−20]の回折ベクトルの場合のX線トポグラフ像と、g=[0008]の回折ベクトルの場合のX線トポグラフ像とをそれぞれ撮影した。これにより、得られたX線トポグラフ像のコントラストを参照試料にて得られたコントラストと直接比較対応させることができる。
ここで、参照試料のSiC基板において得られた各グラフより、測定対象試料基板上の任意の領域について、トポグラフ像のコントラスト階調値から転位密度の導出が可能となる。すなわち、インゴットからの切り出し状態にて、基板の転位密度分布の評価が可能となることから、インゴットから切り出し状態での複数のSiC基板を対象としてX線トポグラフ像を撮影すれば、予め製品化の対象とならないような品質の劣る基板はトポグラフ像のコントラストから判断して除外することができ、良品のみ選んで研削・研磨を行うことが可能になり、時間・コストを要する加工工程を大幅に効率化することができる。
1:観察領域
2:奥行き面
3:単結晶SiC部位

Claims (7)

  1. 単結晶炭化珪素からなり、所定の厚みを有したSiC板状体に含まれる転位の面内分布を評価する方法であって、
    予め、参照試料のSiC板状体について、該SiC板状体の表面のX線トポグラフ像を撮影してX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得し、また、化学エッチングを用いたエッチピット分析法により単位面積当たりのエッチピットの数から転位密度を求めて、これら転位密度と画像の濃淡情報との相関関係を得ておき、
    被測定試料のSiC板状体について、該SiC板状体の表面のX線トポグラフ像を撮影して、前記相関関係に基づき、X線回折強度に基づく画像の濃淡情報を転位密度に換算し、被測定試料のSiC板状体における転位の面内分布を評価することを特徴とする、SiC板状体における転位の面内分布評価方法。
  2. 参照試料及び被測定試料のSiC板状体の表面がそれぞれオフ角度8°以内のc面である場合、前記相関関係を得るにあたり、参照試料のSiC板状体の表面において、互いに離間する観察領域を少なくとも2箇所選択して、それぞれの観察領域の画像の濃淡情報をX線トポグラフ像から求めると共に、エッチピット分析法により当該観察領域の転位密度を求めることを特徴とする、請求項1に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
  3. 参照試料及び被測定試料のSiC板状体の表面がそれぞれオフ角度8°以内のa面である場合、前記相関関係を得るにあたり、参照試料のSiC板状体の表面において、[0001]方向に縦幅を有すると共に[0001]方向と垂直に交わる方向に横幅を有する観察領域を互いに離間するように少なくとも2箇所選択して、それぞれの観察領域の画像の濃淡情報をX線トポグラフ像から求め、また、各観察領域の奥行き面として対応させるように、観察領域の横幅を含むようにしながら、それぞれの観察領域をSiC板状体の厚み方向に切り出してオフ角度8°以内のc面を得て、エッチピット分析法により各観察領域の奥行き面に相当するオフ角度8°以内のc面の転位密度を求めることを特徴とする、請求項1に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
  4. nを1以上の整数とする<000n>方位を回折ベクトルに用いることにより、X線トポグラフ像から貫通らせん転位を含んだX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、前記エッチピット分析法により貫通らせん転位の転位密度を求めて、前記画像の濃淡情報と貫通らせん転位の転位密度との相関関係を得ておき、被測定試料のSiC板状体における貫通らせん転位の面内分布を評価する、請求項2又は3に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
  5. 結晶学的に等価な<11−20>3方位のうちのいずれか1方位を回折ベクトルに用いることにより、X線トポグラフ像から貫通刃状転位及び基底面転位を含んだX線回折強度に基づく画像の濃淡情報を取得すると共に、前記エッチピット分析法により貫通刃状転位及び基底面転位の合計転位密度を求めて、前記画像の濃淡情報と貫通刃状転位及び基底面転位の合計転位密度との相関関係を得ておき、被測定試料のSiC板状体における貫通刃状転位及び基底面転位の面内分布を評価する、請求項2又は3に記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
  6. 請求項4に記載の方法により得られた貫通らせん転位の面内分布と請求項5に記載の方法により得られた貫通刃状転位及び基底面転位の面内分布とを合算して、被測定試料のSiC板状体における貫通らせん転位、貫通刃状転位、及び基底面転位の面内分布を評価する、SiC板状体における転位の面内分布評価方法。
  7. 被測定試料のSiC板状体の表面を0.1mm角以上の画素に対応させて転位の面内分布を評価する、請求項1〜6のいずれかに記載のSiC板状体における転位の面内分布評価方法。
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