以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、波面計測計10の全体構成図である。波面計測計10は、投影光学系16の波面収差を計測する。波面計測計10は、後述する光学部材18によって絞られた光LTを利用する。波面計測計10の一例は、シャックハルトマン型波面計測計である。
図1に示すように、波面計測計10は、光源12と、計測用レチクル14と、光学部材18と、コリメータ光学系20と、マイクロレンズアレイ22と、撮像部24と、制御部26とを備える。計測用レチクル14と光学部材18との間に、計測対象である投影光学系16が配される。波面計測計10の説明において、上流及び下流とは、光源12から出射された光の経路における上流及び下流のことである。
光源12は、波面計測計10において、最も上流側に配置されている。光源12は、狭帯化及び波長選択の少なくとも一方により直線偏光を出射するレーザ光を、計測用の光LTとして出力するレーザ出力装置である。光源12の一例は、193nmのレーザ光を出力するArF(アルゴンフッ素)エキシマレーザ装置である。尚、光源12は、絞り、及び、レンズ等の光学系を有してもよい。
計測用レチクル14は、光源12の下流側に配置されている。計測用レチクル14は、投影光学系16の光軸AXを法線とする略平面状に形成されている。計測用レチクル14は、光源12からの光LTを遮光する板状の部材を含む。計測用レチクル14には、光LTの一部を通過させる通過孔30が形成されている。通過孔30の形状の一例は、円形状である。
投影光学系16は、計測用レチクル14の下流側に配置されている。投影光学系16は、一例として、光LTの進行方向と平行な共通の光軸AXを有する複数のレンズを有する両側テレセントリックの縮小系である。投影光学系16は、計測用レチクル14を透過した光LTを集光して出射する。投影光学系16および光源12は、例えば、ウェハを露光する露光装置の一部である。
光学部材18は、投影光学系16の下流側に配置されている。光学部材18は、投影光学系16の結像位置に配置されている。例えば、レチクルによってウェハを露光する場合、計測用レチクル14の位置に露光用のレチクルが配置され、ウェハが光学部材18の位置に配置される。光学部材18は、光軸AXを法線とする略平面状に形成されている。光学部材18は、基板40と、ピンホール44及び複数の凹部46が形成された金属膜42と、カバー部材45とを有する。これにより、光学部材18は、投影光学系16によって集光された光LTの一部を、ピンホール44によって通過させる。尚、光学部材18に入射する光の一部は、光軸AXに対して、傾斜している。例えば、光学部材18に入射する光の光軸AXに対する最大傾斜角度は、70°である。光学部材18の詳細は、後述する。
コリメータ光学系20は、光学部材18の下流側に配置されている。コリメータ光学系20は、光LTの進行方向と平行な共通の光軸AXを有する複数のレンズを有する。尚、図には、まとめて1枚のレンズで図示している。コリメータ光学系20は、投影光学系16によって集光され、光学部材18を通過した光LTを平行光にして、出射する。
マイクロレンズアレイ22は、コリメータ光学系20の下流側に配置されている。マイクロレンズアレイ22は、複数のマイクロレンズ32を有する。複数のマイクロレンズ32は、光軸AXに直交する同一平面上に配列されている。複数のマイクロレンズ32は、平面視において、互いに直交する行方向及び列方向に配列されている。即ち、複数のマイクロレンズ32は、マトリックス状に配置されている。各マイクロレンズ32は、コリメータ光学系20から出射された平行光を、それぞれ異なる位置へと集光する。これにより、各マイクロレンズ32は、撮像部24上の複数の位置に光LTを結像させる。
撮像部24は、マイクロレンズアレイ22の下流側に配置されている。撮像部24は、受光した光を電気信号に変換する複数の受光領域34を有する。複数の受光領域34は、面内でマトリックス状に配置されている。撮像部24の一例は、CCD(charge-coupled device)イメージセンサ、または、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。撮像部24は、各マイクロレンズ32によって集光された光LTを受光する。撮像部24は、受光した光LTに対応する電気信号を制御部26へと出力する。これにより、撮像部24は、面内の各受光領域34で受光した各光LTの強度に対応する電気信号を出力する2次元光学センサとして機能する。
制御部26は、CPU(central processing unit)等の演算処理装置を有するコンピュータである。制御部26は、波面計測計10の制御全般を司る。制御部26は、信号を入出力可能に光源12及び撮像部24と電気的に接続されている。制御部26は、光源12を制御して、光LTを出射させる。制御部26は、撮像部24から取得した電気信号に基づいて、波面収差を検出する。
次に、波面計測計10の動作について説明する。
波面計測計10では、まず、制御部26が光源12に光LTの出射指示を出力する。光源12は、出射指示を受けると、光LTを計測用レチクル14へ出射する。計測用レチクル14は、光源12から出射された光LTを絞って、投影光学系16へ出射する。
投影光学系16は、光LTを集光して、光学部材18へと出射する。光学部材18は、集光された光LTを絞って、コリメータ光学系20へ出射する。コリメータ光学系20は、集光されている光LTを平行光にして、マイクロレンズアレイ22へ出射する。マイクロレンズアレイ22の各マイクロレンズ32は、光LTを異なる複数の領域へと集光して、撮像部24へと出射する。撮像部24は、各マイクロレンズ32によって複数の領域へと集光された光LTを受光する。撮像部24の各受光領域は、受光した光LTを電気信号に変換して、制御部26へと出力する。
ここで、点線で示すように収差のない波面WS1の場合、撮像部24の各受光領域34は、予め定められた基準位置が重心となる光LTを受光して、電気信号を出力する。これにより、制御部26は、収差のない波面WS1と判断できる。一方、実線で示す収差がある波面WS2の場合、撮像部24の各受光領域34は、予め定められた基準位置と異なる位置で光LTを受光して、電気信号を出力する。これにより、制御部26は、収差がある波面WS2の場合、収差のない波面WS1の場合と異なる重心位置または拡がりを有する光LTの電気信号を取得することになるので、波面WS2の収差を計測することができる。
図2は、光学部材18の縦断面図である。図3は、光学部材18の上面図である。尚、図3は、平面図であるが、説明上、金属膜42に図2の金属膜42と同じハッチングを付与している。
基板40は、例えば、石英ガラスの板状部材からなる。尚、基板40は、入射する光LTを透過して、金属膜42を支持できる部材であればよい。基板40の上下面は、光軸AXを法線とする略平面に形成されている。
金属膜42は、基板40の一方の面、例えば、上面に形成されている。金属膜42は、光LTの透過を防ぐことができる厚みであることが好ましい。金属膜42の厚みの一例は、100nmである。金属膜42は、光LTによる練成振動によって表面プラズモンを生じさせる材料によって構成される。ここで、表面プラズモンの波数Kspは、次の式で表すことができる。
更に、表面プラズモンを励起するためには、入射する光LTの波数とエネルギーが、表面プラズモンの波数とエネルギーと一致する必要がある。従って、金属膜42の材料は、基板40及びカバー部材45の材料、及び、入射する光LTによって、適宜選択される。金属膜42の材料の一例は、アルミニウム、金、及び、銀から選択されたいずれか1つである。例えば、光LTの波長が150nmから400nmの場合、金属膜42の材料はアルミニウムが適用される。光LTの波長が600nmから800nmの場合、金属膜42の材料は金が適用される。光LTの波長が400nmから600nmの場合、金属膜42の材料は銀が適用される。金属膜42には、ピンホール44と、複数の凹部46とが形成されている。
ピンホール44は、金属膜42を貫通する。ピンホール44は、平面視において、円形状の孔である。ピンホール44の直径は、入射する光LTの波長の10倍から100倍である。ピンホール44は、入射する光LTの波長よりも大きい直径を有する。ピンホール44の直径の一例は、8μmである。従って、光学部材18が投影光学系16の結像位置に配置されていることを考慮すると、ピンホール44の開口数は、周囲が空気の場合、0.94となり、周囲が水の場合、1.35となる。ピンホール44の中心は、光軸AXと同じ位置に形成されている。金属膜42の厚みが、100nmとした場合、光LTが光軸AXに対して70°の角度で入射すると、ピンホール44から内側に300nmの範囲では光LTが通過できないので、ケラレが生じる。
複数の凹部46は、金属膜42を上下方向に貫通した溝状に形成されている。各凹部46の径方向の大きさ、即ち、幅は、光LTの波長よりも小さい。複数の凹部46は、ピンホール44の外側に形成されている。複数の凹部46は、ピンホール44の外周から1μmの範囲に形成されている。複数の凹部46は、平面視において、円周状に形成されている。複数の凹部46の中心は、ピンホール44の中心と同じ位置である。複数の凹部46は、光の波長よりも小さい間隔DSで周期的に配列されている。例えば、複数の凹部46は、5周期程度形成することが好ましい。複数の凹部46間の間隔DSは、金属膜42の法線方向である光軸AXに対する光の最大入射角度で励起される表面プラズモンの波長と同じであることが好ましい。例えば、隣接する凹部46の間隔DSは、入射する光LTの波長が193nmの場合、55nmである。ここで、通常、入射する光LTの分散関係は、ライトラインの上、表面プラズモンの分散関係はライトラインの下になるため両者は交わらず、表面プラズモンを励起できない。しかし、複数の凹部46を上述の間隔DSで周期的に形成することによって、凹部46は、入射する光LTと表面プラズモンの波数を変換して、光LT及び表面プラズモンの波数及びエネルギーを一致させることができる。これにより、凹部46は、表面プラズモンを励起させる。
ここで、光LTの入射角度のうち、特定の入射角度(例えば、最大入射角度の70°)に対して表面プラズモンが発生するように凹部46の周期構造を設定すると、励起された表面プラズモンは、凹部46を通過して金属膜42の下面に到達する。金属膜42は、下面に達した表面プラズモンを伝搬光に変換して、出射する。これにより、光LTは、ピンホール44以外の領域を実質的に透過することができる。一方、上述した特定の入射角度から大きく異なる角度で入射する光LTは、表面プラズモンを励起させないので、ピンホール44以外の領域で金属膜42を透過しない。
カバー部材45は、金属膜42及び金属膜42から露出した基板40の上面を覆うように形成されている。これにより、カバー部材45は、金属膜42のピンホール44及び複数の凹部46を覆う。カバー部材45は、基板40と屈折率が近い材料によって構成することが好ましい。カバー部材45は、基板40と同じ屈折率で構成することがより好ましい。従って、カバー部材45は、基板40と同じ材料で構成することが好ましい。
光学部材18は、複数の凹部46によって表面プラズモンを発生させることにより、各マイクロレンズ32によって撮像部24上に形成された結像スポットの強度分布の重心のずれを抑制できる。
次に、光学部材18のピンホール44を通過した光による結像スポットの強度分布の重心のずれについて説明する。尚、重心のずれの説明においては、基板40及びカバー部材45を省略して、金属膜42のみを図示して説明する。
図4は、5nmの厚みの金属膜42aにピンホール44aのみが形成された光学部材18aの縦断面図である。換言すれば、金属膜42aは、ほとんど厚みを持たない。従って、図4に示す形態は、金属膜42aによるケラレが生じない理想的な光学部材18aである。図5は、図4の金属膜42aによる結像スポット50aの強度分布の図である。
図4に示すように、光LTが、光軸AXから70°傾斜した角度θで、金属膜42aのピンホール44aに入射しても、金属膜42aがほとんど厚みを有さないので、ケラレが生じない。従って、図5に示すように、光LTの結像スポット50aの重心は、収差がないとした場合の理想的な位置Paとなり、ずれがほとんど生じない。但し、金属膜42aの厚みが5nmの場合、金属膜42aを透過する光が生じて、S/N比が悪化するので好ましくない。
図6は、金属膜42bにピンホール44bのみが形成された光学部材18bの縦断面図である。図7は、図6の金属膜42bによる結像スポット50bの強度分布の図である。尚、強度分布は模式的に図示している。金属膜42bの厚みは、金属膜42の厚みと同じである。
図6に示すように、光LTが、光軸AXから70°傾斜した角度θで、金属膜42bのピンホール44bに入射すると、三角形の点線で示すケラレ52が生じる。従って、図7に点線で示す領域54bに達するべき光LTが遮られるので、実線で示す結像スポット50bの形状が図5に比べて歪み、結像スポット50bの位置がずれる。これにより、収差がない場合であっても、結像スポット50の重心の位置Pbが、理想的な位置Paからずれる。
図8は、金属膜42にピンホール44及び凹部46が形成された光学部材18の縦断面図である。即ち、図8は、本実施形態による金属膜42の縦断面図である。図9は、図8の金属膜42による結像スポット50b、50cの強度分布の図である。
図8に示すように、光LTが、光軸AXから70°傾斜した角度θで、金属膜42のピンホール44に入射すると、三角形の点線で示すケラレ52が生じる。しかしながら、金属膜42の凹部46の側壁は、入射した光LTによって表面プラズモンを生じさせる。この表面プラズモンが、凹部46を通過して、金属膜42の下面から出射される。ここで、表面プラズモンにより出射される光LTは、入射した光の方向を維持して、金属膜42の下面から出射される。
従って、図9に点線で示す結像スポット50は、表面プラズモンによる光LTによる結像スポット50cが、結像スポット50b及びケラレ52により光LTが遮られている領域54bを含む領域の両側に形成される。これにより、図7の結像スポット50bに比べて、金属膜42による結像スポット50b、50cは広がり、結像スポット50b、50cの重心の位置Pcが、図7に示す重心の位置Pbよりも図5に示す理想的な重心の位置Paに近づく。この結果、金属膜42による結像スポットの重心のずれは、金属膜42bによる結像スポットの重心のずれよりも小さくなる。
図10は、金属膜142の形状を変更した光学部材118の縦断面図である。光学部材118の金属膜142には、ピンホール44と、複数の凹部146とが形成されている。複数の凹部146は、ピンホール44の外周から1μmの範囲に形成されている。金属膜142は、凹部146の底に対応する領域に底部147を有する。これにより、凹部146は、金属膜142を貫通しない。底部147は、光LTの波長の1/10以下の厚みを有する。底部147の厚みの一例は、5nmである。
図11は、図10の光学部材118による結像スポット50b、50cの強度分布の図である。図10に示す光学部材118の金属膜142は、底部147を有するので、凹部146で生じた表面プラズモンが底部147により共鳴する。これにより、表面プラズモンの強度が強くなり、表面プラズモンによって金属膜142の下面から出射する光LTによる領域の結像スポット50cの強度が強くなる。従って、図11に示すように、金属膜142による結像スポット50b、50cの重心は、図8に示す光学部材18による結像スポット50b、50cの重心の位置Pcよりも、理想の位置Paに近づく。
図12は、金属膜242の形状を変更した光学部材218の縦断面図である。図12に示すように、光学部材218の金属膜242には、ピンホール244の外周の全周にわたって薄膜部248が形成されている。薄膜部248は、薄膜部248以外の領域の金属膜242よりも薄い。例えば、薄膜部248以外の金属膜242の厚みが100nmの場合、薄膜部248の厚みは60nmである。薄膜部248の径方向の幅の一例は、160nmである。薄膜部248以外の金属膜242の内周の上端部と、薄膜部248の内周の上端部とを結ぶ直線と、金属膜242の法線方向との間の角度は、光LTの最大入射角度以下であることが好ましい。これにより、金属膜242はケラレの増加を抑制できる。ピンホール244の直径PDの一例は、8μmである。尚、本実施形態におけるピンホール244は、薄膜部248の内周側の領域である。
図13は、光学部材218による光の経路を説明する縦断面図である。図14は、図12の光学部材218による結像スポット50b、50c、50dの強度分布の図である。図13に示すように、凹部46に入射した光LTは、表面プラズモンを生じさせた後、下面から出射する。ここで、図13に光LTaとして示すように、ピンホール244に最も近い凹部46に入射した光LTaによって生じた表面プラズモンは、薄膜部248によって、ピンホール244側へと伝搬する。これにより、光LTaは、よりピンホール244側から出射されて、薄膜部248の下面が擬似光源として機能する。従って、図14に示すように、ケラレによって光が到達しなかった領域54bにも光が到達して結像スポット50dの一部を形成する。これにより、結像スポット50b、50c、50dの重心の位置Peが、位置Pdよりもより理想の位置Paに近づく。
図15は、金属膜342の形状を変更した光学部材318の縦断面図である。金属膜342は、底部147と、薄膜部248とを有する。換言すれば、金属膜342は、金属膜142及び金属膜242を組み合わせた構成を有する。これにより、金属膜342は、結像スポットの重心の位置をより理想の位置Paに近づけることができる。
次に、上述した各実施形態の効果を実証するためのシミュレーションについて説明する。
図16は、光学部材18における凹部46の間隔DSと、重心シフト量との関係を調べたシミュレーションの結果である。金属膜42の材料は、アルミニウム及びタンタルとした。
シミュレーションの条件(1)は以下の通りである。
金属膜の厚み:100nm
ピンホールの直径:8μm
入射する光の波長:193nm
光の入射角度:70°
図16の縦軸の重心シフト量は、理想的な位置Paから結像スポットの重心がシフトした量である。尚、凹部が形成されていない光学部材18bの場合、重心シフト量は220nmであった。
図16に示すように、金属膜42の材料をアルミニウムとした光学部材18の場合、凹部46の間隔DSが50nmにおいて、最も重心シフト量が小さくなる。具体的には、間隔DSが50nmの場合、重心シフト量は、90nmとなった。換言すれば、光学部材18は、凹部46の間隔DSを50nmにすることによって、光学部材18bの場合に比べて、重心の位置Pcが理想の位置Paに130nm近づいた。また、凹部46の間隔DSが60nm以下の場合、重心シフト量が大きく改善されることがわかる。尚、金属膜42の材料をタンタルとした場合、重心シフト量が200nm前後となり、アルミニウムに比べてあまり改善されなかった。これにより、金属膜42の材料が重要なことがわかる。
図17は、光学部材118における底部147の厚みと、重心シフト量との関係を調べたシミュレーションの結果である。凹部146の間隔DSは50nmとした。凹部146は、ピンホール44の外周から径方向に1μmの範囲に形成した。それ以外のシミュレーションの条件は、上述した条件(1)と同様である。
図17に示すように、金属膜142の材料をアルミニウムとした光学部材118の場合、底部147の厚みが5nmにおいて、最も重心シフト量が小さくなる。具体的には、底部147の厚みが5nmの場合、重心シフト量は90nmとなった。換言すれば、光学部材118は、底部147の厚みを5nmにすることによって、光学部材18bに比べて、重心の位置Pdが理想の位置Paに130nm近づいた。また、光学部材118は、底部147の厚みが10nm以下の場合、重心シフト量が大きく改善されることがわかる。尚、光学部材118の場合でも、タンタルによる重心シフト量の改善は小さかった。
図18は、光学部材318における底部147の厚みと、重心シフト量との関係を調べたシミュレーションの結果である。薄膜部248の径方向の幅は160nmである。薄膜部248の厚みは60nmである。凹部146の間隔DSは50nmとした。凹部146は、ピンホール244の外周から径方向に1μmの範囲に形成した。それ以外のシミュレーションの条件は、上述した条件(1)と同様である。
図18に示すように、金属膜342の材料をアルミニウムとした光学部材318の場合、底部147の厚みが5nmにおいて、最も重心シフト量が小さくなる。具体的には、底部147の厚みが5nmの場合、重心シフト量は9nmとなった。換言すれば、光学部材318は、底部147の厚みを5nmにすることによって、光学部材18bに比べて、重心の位置が理想の位置Paに211nm近づいた。即ち、光学部材318は、光学部材18bに比べて、重心シフト量を1/20改善できた。光学部材318は、底部147の厚みが少なくとも40nm以下の場合、重心シフト量が大きく改善されることがわかる。尚、光学部材318の場合、タンタルによる重心シフト量は、光学部材18、118の場合に比べて改善されることがわかる。
図19は、各光学部材と重心シフト量との関係を調べてシミュレーションの結果である。試料名の試料SAからSHの左横の図は、各試料の金属膜の形状を示す。試料SAは、ケラレのない形状であって、光学部材18aに対応する。試料SE、SF、SG、SHは、それぞれ光学部材18、118、218、318に対応する。試料SB、SC、SDは、比較用の試料である。試料SBは、光学部材18bに対応する。試料SCは、試料SG、即ち、光学部材218から凹部46、146を削除した形状である。試料SDは、試料SGの薄膜部248を斜面にした形状である。尚、斜面の傾斜は、光軸AXに対して70°である。各試料の金属膜42、142、242、342の材料がアルミニウム及びタンタルの場合についてそれぞれ調べた。
比較用の試料SBからSDにおいては、金属膜42、142、242、342の材料がアルミニウムであってもタンタルであってもほとんど重心シフト量に変化はない。一方、各実施形態による試料SEからSHにおいては、金属膜42、142、242、342の材料が、タンタルの場合に比べて、アルミニウムの場合の方が、重心シフト量が極めて小さくなることがわかる。
また、試料SE、SF、SGの結果からわかるように、凹部46、底部147、薄膜部248の順で重心シフト量が小さくなることがわかる。更に、試料SHの結果からわかるように、凹部146、底部147及び薄膜部248を全て備えることによって、相乗効果により重心シフト量が極めて小さくなることがわかる。
次に、凹部46の間隔DSと、凹部46による表面プラズモンの励起条件との関係について説明する。
図20は、凹部46の間隔DSが105nmの場合の表面プラズモンPLの励起を説明するグラフである。図21は、凹部46の間隔DSが52nmの場合の表面プラズモンPLの励起を説明するグラフである。図20、図21において、太点線が表面プラズモンPLを示す。「15°」及び「70°」の実線はそれぞれ入射角度が15°及び70°の光を示す。「193nm」の実線は波長が193nmの光を示す。「LL」はライトラインを示す。
図20に示すように、凹部46を周期的に形成して、間隔DSが105nmの場合、円CA内で表面プラズモンPLと70°の入射角度の光が交差する。即ち、円CA内で、表面プラズモンPLと当該光の波数が一致するので、当該光により表面プラズモンが励起される。しかしながら、入射角度70°の光は折り返しRE1により、入射角度15°の光と一致する。これにより、間隔DSが105nmの場合、−1次の回析光が生じる。この結果、光学部材18の下面から入射した方向とは異なる方向に回折光が出射されてしまう。
一方、図21に示すように、凹部46を周期的に形成して、間隔DSが52nmの場合、折り返しRE2は波数0.06[nm−1]と略一致する。ここで、回析光なしで表面プラズモンを励起させる条件は、次の式(2)となる。
DS<2π/Ksp
但し、Kspは表面プラズモンの波数とする。従って、例えば、金属膜42がアルミニウム、基板40及びカバー部材45がSiO2の場合、凹部46の間隔DSは83nm以下であることが好ましい。
次に、波面収差等の光学特性を計測する波面収差計測機能が適用される露光装置500について説明する。図22は、実施形態に係る露光装置500の概略的な構成を示す図である。図23は、露光装置500に設けられる光学特性計測装置590の構成を示す図である。
図22の露光装置500はステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置(スキャニング・ステッパまたはスキャナとも呼ばれる)である。露光装置500は、光源501及び照明光学系512を含む照明系、レチクルRを保持するレチクルステージRST、投影光学系PL、ウェハWが載置されるウェハステージWST及び装置全体を統括制御する主制御装置520等を備えている。
光源501としては、ここではArFエキシマレーザ光源が用いられる。照明光学系512は、偏光制御ユニット502、偏光変換ユニット503、オプティカルインテグレータ(ホモジナイザ)505、明系開口絞り506、コンデンサレンズ510等を備えている。オプティカルインテグレータ505としては、フライアイレンズやロッドインテグレータ、回折光学素子などを用いることができる。
このように構成された照明光学系512において、光源501からパルス発光されたレーザビームLBは、偏光制御ユニット502及び偏光変換ユニット503により偏光方向が所望の方向に規定され、オプティカルインテグレータ505に入射する。そしてオプティカルインテグレータ505の射出側焦点面に2次光源が形成される。2次光源から射出された照明光ILは、リレーレンズ508、レチクルブラインド509、ミラー507、及び、コンデンサレンズ510を経て、レチクルR上の矩形の照明領域を均一に照明する。
投影光学系PLは、光軸AXの方向がZ軸方向とされている。投影光学系PLは、例えば両側テレセントリックな縮小系であり、共通のZ軸方向の光軸AXを有する不図示の複数のレンズエレメントを含む。照明光ILによりレチクルR上の照明領域が照明されると、レチクルRに形成されたパターンが投影光学系PLによって投影倍率βで縮小された像が、ウェハW上のスリット状の露光領域に投影される。
なお、本実施形態では、上記の複数のレンズエレメントのうち、特定のレンズエレメントがそれぞれ独立に移動可能となっている。かかる特定のレンズエレメントの移動は、特定のレンズエレメント毎に設けられた複数のピエゾ素子等の駆動素子によって行われる。すなわち、これらの駆動素子を個別に駆動することにより、特定のレンズエレメントを、それぞれ独立に、各駆動素子の変位量に応じて光軸AXに沿って平行移動させることもできるし、光軸AXと垂直な平面に対して所望の傾斜を与えることもできる。本実施形態では各駆動素子を駆動するための駆動信号は、主制御装置520からの指令に基づいて結像特性補正コントローラ551によって出力され、投影光学系PLのディストーション、像面湾曲、非点収差、コマ収差、あるいは球面収差等の諸収差が調整可能となっている。
ウェハステージWSTは、投影光学系PLの下方で不図示のベース上に配置され、その上面にウェハホルダ525が載置されている。ウェハWはウェハホルダ525上に固定される。ウェハステージWSTの位置情報(または速度情報)はウェハレーザ干渉計518によって計測されて主制御装置520に送られ、主制御装置520はその位置情報(または速度情報)に基づきウェハステージ駆動系524を介してウェハステージWSTを駆動する。ウェハステージWSTの+Y側には後述する光学特性計測装置590が設けられている。
投影光学系PLの側面にはアライメント検出系ASが配置されている。アライメント検出系ASの詳細な構成は、例えば特開平9−219354号公報およびこれに対応する米国特許第5859707号などに開示されている。
次に、図22に示すウェハステージWSTに設けられる光学特性計測装置590について説明する。図23に示されるように、光学特性計測装置590は、光学部材591と、コリメータ光学系592と、光学系ユニット593と、受光器595とを備えている。光学特性計測装置590は、測定対象である投影光学系PLの波面収差を計測する。
光学部材591として、図2から図15の光学部材18、118、218、318が用いられる。光学部材591には、さらに、中央の開口594との位置関係が設計上既知の3組以上の2次元位置検出用マーク596が形成されている。
コリメータ光学系592は光学部材591の下方に配置され、光学部材591から出射した光は、コリメータ光学系592により鉛直下向きの平行光に変換される。
光学系ユニット593には、開口部597と、マイクロレンズアレイ598と、偏光検出系599とが回転軸を中心に所定の角度間隔で配置されている。この回転軸の回転により、開口部597と、マイクロレンズアレイ598と、偏光検出系599のいずれかを、コリメータ光学系592を介した光の光路上に配置することができる。
開口部597は、コリメータ光学系から射出された平行光をそのまま通過させる。開口部597を光路上に配置することにより、受光器595では瞳像を計測することができる。ここで瞳像とは、計測用レチクルRに設けられたピンホールパターンを介して投影光学系PLに入射する光によって投影光学系PLの瞳面に形成される光源像を指す。開口部597には平行光をそのまま透過させる透過部材を配置しても良い。
マイクロレンズアレイ598は、複数のマイクロレンズが光路に対して直交する面内にアレイ状に配置されて構成されている。マイクロレンズアレイ598は、例えば一辺の長さが等しい正方形状の多数のマイクロレンズがマトリクス状に密に配列されたものである。マイクロレンズアレイ598では、マイクロレンズ毎に、光学部材591の開口594に形成された、計測用レチクルRのピンホールパターンの像の結像光束を射出する。
受光器595は、2次元CCD等からなる受光素子586と、例えば電荷転送制御回路等の電気回路588等から構成されている。受光素子586は、開口594に形成される、計測用レチクルRのピンホールパターンの像がマイクロレンズアレイ598の各マイクロレンズによって再結像される結像面であって、開口594の形成面の光学的な共役面に受光面を有している。また、この受光面は、開口部597が上記の光路上に配置されている状態では、投影光学系PLの瞳面の共役面から少しだけずれた面に位置する。
尚、上述の露光装置500及び光学特性計測装置590における照明光学系512、レチクルR、投影光学系PL、主制御装置520、コリメータ光学系592、マイクロレンズアレイ598、及び、受光器595は、それぞれ波面計測計10における光源12、計測用レチクル14、投影光学系16、制御部26、コリメータ光学系20、マイクロレンズアレイ22、及び、撮像部24に対応する。
上述の露光装置500では、ウェハステージWSTをZ方向に沿って移動させつつ、マイクロレンズアレイ598によって集光された各スポットのコントラストを受光器595が撮像する。受光器595が撮像したコントラストが最大となる位置にウェハステージWSTを固定する。次に、主制御装置520は、光学系ユニット593を回転させて、偏光検出系599を照明光の光軸AX上に配置して、照明光の偏光状態を計測する。主制御装置520は、ストークスパラメータの算出値に基づいて、計測された偏光状態がH偏光となるように偏光制御ユニット502を調整する。例えば、主制御装置520は、照明光の楕円偏光性が強い場合、偏光制御ユニット502の内部の偏光子を調整して直線偏光とする。また、主制御装置520は、照明光の偏光方向がX軸方向からずれている場合、偏光制御ユニット502の内部の1/2波長板の回転量を調整して、偏光方向をX軸方向とする。これにより、主制御装置520は、照明光をH偏光とする。
この後、主制御装置520は、光学系ユニット593を回転させて、開口部597を照明光の光軸AX上に配置する。この状態では、コリメータ光学系592を介した平行光は、そのまま受光器595に入射する。ここで、受光器595は、投影光学系PLの瞳面と共役な位置に配置されているとみなすことができる。従って、受光器595は、瞳面における瞳像に対応する光束を受光して撮像できる。主制御装置520は、受光器595の撮像した瞳像を取得して、瞳像の中心位置、大きさ及び強度分布を検出する。これらの計測を計測用レチクルRに計測された複数のピンホールに対して実行する。
この後、マイクロレンズアレイ598を光軸AX上に配置して、上述した波面計測計10において説明した方法によって波面収差を計測する。
上述した各実施形態の構成の形状、配置、個数等の数値、材料は適宜変更してよい。また、各実施形態を組み合わせてもよい。
例えば、上述の実施形態では、薄膜部248を階段状に形成したが、傾斜させて、くさび状に形成してもよい。この場合、傾斜の角度は、入射する光の最大の角度と少なくとも一部が平行になることが好ましい。
上述した実施形態では、凹部46を円周上につながった溝状に形成したが、凹部46の形状は適宜変更してよい。例えば、凹部は、平面視において、円形状、または、多角形状であってもよい。この場合、凹部は、ピンホール44等の周りに点在することになる。
上述した実施形態の各構成の厚み、幅、長さ等は適宜変更してよい。例えば、金属膜42の厚みは200nm程度あってもよい。
上述の露光装置500において、投影光学系PLとウェハWとの間に純水等の液体を満たしてもよい。このような液浸の露光装置500においても、上述の波面計測計10を適用することができる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。