以下、本発明の実施の形態によるブレーキ制御装置を、四輪自動車に搭載されるブレーキ制御装置を例に挙げて、添付図面に従って詳細に説明する。
図1ないし図3は本発明の実施の形態に係るブレーキ制御装置を示している。図1において、左,右の前輪1L,1Rと左,右の後輪2L,2Rとは、車両のボディを構成する車体(図示せず)の下側に設けられている。左,右の前輪1L,1Rには、それぞれ前輪側ホイールシリンダ3L,3Rが設けられ、左,右の後輪2L,2Rには、それぞれ後輪側ホイールシリンダ4L,4Rが設けられている。
これらのホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rは、液圧式のディスクブレーキまたはドラムブレーキのシリンダを構成し、夫々の車輪(前輪1L,1R及び後輪2L,2R)毎に制動力を付与するものである。ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rは、各車輪(前輪1L,1R及び後輪2L,2R)とともに回転する被制動部材D(ディスクロータまたはブレーキドラム)へ押圧される摩擦ライニングP(ブレーキパッドまたはブレーキシュー)が設けられている。
ブレーキペダル5は車体のフロントボード(図示せず)側に設けられ、該ブレーキペダル5は、車両のブレーキ操作時に運転者によって図1中の矢示A方向に踏込み操作される。ブレーキペダル5には、ブレーキスイッチ6とブレーキセンサ7が設けられ、ブレーキスイッチ6は、車両のブレーキ操作の有無を検出して、例えばブレーキランプ(図示せず)を点灯,消灯させるものである。また、ブレーキセンサ7は、ブレーキペダル5の踏込み操作量(ストローク量)または踏力を検出し、その検出信号を後述の第1のECU26等に出力する。ブレーキペダル5の踏込み操作により、マスタシリンダ8には後述の電動倍力装置16を介してブレーキ液圧が発生される。
マスタシリンダ8は、タンデム型マスタシリンダにより構成され、一側が開口端となり他側が底部となって閉塞された有底筒状のシリンダ本体9を有している。このシリンダ本体9には、後述のリザーバ14内に連通するリザーバポート14A,14Bが設けられている。リザーバポート14Aは、後述するブースタピストン18の摺動変位により第1の液圧室11Aに対して連通,遮断される。一方、第2のリザーバポート14Bは後述する第2のピストン10により第2の液圧室11Bに対して連通,遮断される。
このシリンダ本体9は、その開口端側が後述する電動倍力装置16のブースタハウジング17に複数の取付ボルト(図示せず)等を用いて着脱可能に固着されている。マスタシリンダ8は、シリンダ本体9と、第1のピストン(後述のブースタピストン18と入力ロッド19)及び第2のピストン10と、第1の液圧室11Aと、第2の液圧室11Bと、第1の戻しばね12と、第2の戻しばね13とを含んで構成されている。
この場合、マスタシリンダ8は、前記第1のピストンが後述のブースタピストン18と入力ロッド19とにより構成され、シリンダ本体9内に形成される第1の液圧室11Aは、第2のピストン10とブースタピストン18(及び入力ロッド19)との間に画成されている。第2の液圧室11Bは、シリンダ本体9の底部と第2のピストン10との間でシリンダ本体9内に画成されている。
第1の戻しばね12は、第1の液圧室11A内に位置してブースタピストン18と第2のピストン10との間に配設され、ブースタピストン18をシリンダ本体9の開口端側に向けて付勢している。第2の戻しばね13は、第2の液圧室11B内に位置してシリンダ本体9の底部と第2のピストン10との間に配設され、第2のピストン10を第1の液圧室11A側に向けて付勢している。
マスタシリンダ8のシリンダ本体9は、ブレーキペダル5の踏込み操作に応じてブースタピストン18(入力ロッド19)と第2のピストン10とがシリンダ本体9の底部に向かって変位し、リザーバポート14A,14Bを遮断したときに、第1,第2の液圧室11A,11B内の作動液によりブレーキ液圧(マスタ圧)を発生させる。一方、ブレーキペダル5の操作を解除した場合には、ブースタピストン18(及び入力ロッド19)と第2のピストン10とが第1,第2の戻しばね12,13によりシリンダ本体9の開口部に向かって矢示B方向に変位していくときに、リザーバ14から作動液の補給を受けながら第1,第2の液圧室11A,11B内の液圧を解除していく。
マスタシリンダ8のシリンダ本体9には、内部に作動液が収容されている作動液タンクとしてのリザーバ14が設けられ、該リザーバ14の内部には作動液が収容されている。リザーバ14は、シリンダ本体9内の各液圧室11A,11Bに作動液を給排するための容器である。即ち、リザーバポート14Aがブースタピストン18により第1の液圧室11Aに連通され、リザーバポート14Bが第2のピストン10により第2の液圧室11Bに連通されている間は、これらの液圧室11A,11B内にリザーバ14内の作動液が給排される。
一方、リザーバポート14Aがブースタピストン18により第1の液圧室11Aに遮断され、リザーバポート14Bが第2のピストン10により第2の液圧室11Bから遮断されたときには、これらの液圧室11A,11Bに対するリザーバ14内の作動液の給排が断たれる。このため、マスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内には、ブレーキ操作に伴ってブレーキ液圧が発生し、このブレーキ液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管15A,15Bを介して後述のホイール圧制御機構29に送られる。
車両のブレーキペダル5とマスタシリンダ8との間には、ブレーキペダル5の操作力を増大させるブースタとしての電動倍力装置16が設けられている。該電動倍力装置16は、マスタシリンダ8と共に、前記車両に設けられた液圧発生機構を構成し、駆動モータ21が作動することでマスタシリンダ8からホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rヘと作動液を供給するものである。この電動倍力装置16は、ブレーキセンサ7の出力に基づいて後述の電動アクチュエータ20(三相モータからなる駆動モータ21)を駆動制御することにより、マスタシリンダ8内に発生するブレーキ液圧を可変に制御するものである。
マスタ圧制御手段としての電動倍力装置16は、車体のフロントボードである車室前壁(図示せず)に固定して設けられるブースタハウジング17と、該ブースタハウジング17に移動可能に設けられ後述の入力ロッド19に対して相対移動可能なピストンとしてのブースタピストン18と、該ブースタピストン18をマスタシリンダ8の軸方向に進退移動させ当該ブースタピストン18にブースタ推力を付与するアクチュエータとしての後述の電動アクチュエータ20と、後述するマスタ圧制御ユニットとしての第1のECU26とを含んで構成されている。
ブースタハウジング17は、後述の減速機構23等を内部に収容する筒状の減速機ケース17Aと、該減速機ケース17Aとマスタシリンダ8のシリンダ本体9との間に設けられブースタピストン18を軸方向に摺動変位可能に支持した筒状の支持ケース17Bと、減速機ケース17Aを挟んで支持ケース17Bとは軸方向の反対側(軸方向一側)に配置され減速機ケース17Aの軸方向一側の開口を閉塞する段付筒状の蓋体17Cとにより構成されている。減速機ケース17Aの外周側には、後述の駆動モータ21を固定的に支持するための支持板17Dが設けられている。
ブースタピストン18は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に開口端側から軸方向に摺動可能に挿嵌された筒状部材により構成されている。ブースタピストン18の内周側には、ブレーキペダル5の操作に従って直接的に押動され、マスタシリンダ8の軸方向(即ち、矢示A,B方向)に進退移動する入力部材としての入力ロッド19が摺動可能に挿嵌されている。入力ロッド19は、ブースタピストン18と一緒にマスタシリンダ8の第1のピストンを構成し、入力ロッド19の後側(一側)端部にはブレーキペダル5が連結されている。シリンダ本体9内は、第2のピストン10とブースタピストン18及び入力ロッド19との間に第1の液圧室11Aが画成されている。
入力ロッド19は、蓋体17C側からブースタハウジング17内に挿入され、ブースタピストン18内を第1の液圧室11Aに向けて軸方向に延びている。入力ロッド19の先端側(軸方向他側)端面は、ブレーキ操作時に第1の液圧室11A内に発生する液圧をブレーキ反力として受圧し、入力ロッド19はこれをブレーキペダル5に伝達する。これにより、車両の運転者にはブレーキペダル5を介して適正な踏応えが与えられ、良好なペダルフィーリング(ブレーキの効き)を得ることができる。この結果、ブレーキペダル5の操作感を向上することができ、ペダルフィーリング(踏応え)を良好に保つことができる。
電動倍力装置16の電動アクチュエータ20は、ブースタハウジング17の減速機ケース17Aに支持板17Dを介して設けられた三相モータからなる駆動モータ21と、該駆動モータ21の回転を減速して減速機ケース17A内の筒状回転体22に伝えるベルト等の減速機構23と、筒状回転体22の回転をブースタピストン18の軸方向変位(進退移動)に変換するボールネジ等の直動機構24とにより構成されている。ブースタピストン18と入力ロッド19は、それぞれの前端部(軸方向他側の端部)をマスタシリンダ8の第1の液圧室11Aに臨ませ、ブレーキペダル5から入力ロッド19に伝わる踏力(推力)と電動アクチュエータ20からブースタピストン18に伝わるブースタ推力とにより、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧(マスタ圧)を発生させる。
即ち、電動倍力装置16のブースタピストン18は、ブレーキセンサ7の出力(即ち、制動指令)に基づいて電動アクチュエータ20により駆動され、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧(マスタ圧)を発生させるポンプ機構を構成している。また、ブースタハウジング17の支持ケース17B内には、ブースタピストン18を制動解除方向(図1中の矢示B方向)に常時付勢する戻しばね25が設けられている。ブースタピストン18は、ブレーキ操作の解除時に駆動モータ21が逆向きに回転されると共に、戻しばね25の付勢力により図1に示す初期位置まで矢示B方向に戻されるものである。
駆動モータ21は、例えば三相モータを用いて構成されている。また、駆動モータ21には、レゾルバと呼ばれる回転センサ21A(図1参照)が設けられている。この回転センサ21Aは、駆動モータ21(モータ軸)の回転位置(回転角)を検出し、その検出信号を後述の第1のECU26に出力する。第1のECU26は、この回転位置信号に従って、駆動モータ21のフィードバック制御を行う。
また、回転センサ21Aは、検出した駆動モータ21の回転位置に基づいて、車体に対するブースタピストン18の絶対変位を検出する回転検出手段としての機能を備えている。さらに、回転センサ21Aはブレーキセンサ7と共に、ブースタピストン18と入力ロッド19との相対変位量を検出する変位検出手段を構成し、これらの検出信号は、第1のECU26に送出される。
なお、前記回転検出手段としては、レゾルバ等の回転センサ21Aに限らず、絶対変位(回転角)を検出できる回転型のポテンショメータ等により構成してもよい。また、減速機構23は、ベルト等に限らず、例えば歯車減速機構等を用いて構成してもよい。さらにまた、回転運動を直線運動に変換する直動機構24は、例えばラックーピニオン機構等により構成することもでき、場合によっては減速機構23を廃止することも可能である。例えば、筒状回転体22に筒状のモータ軸を一体に設け、駆動モータのステータを筒状回転体22の周囲に配置して、駆動モータにより直接、筒状回転体22を回転させるようにしてもよい。
マスタ圧制御手段のマスタ圧制御ユニットを構成する第1のECU26は、例えばマイクロコンピュータ(CPU)等からなり、例えばROM,RAM,不揮発性メモリ等からなる記憶部26Aを有している(図2参照)。第1のECU26は、液圧発生機構である電動倍力装置16の電動アクチュエータ20をブレーキペダル5の操作に基づいて電気的に駆動制御するものである。即ち、第1のECU26は、液圧反力が伝達されるブレーキペダル5の操作によりマスタシリンダ8の作動液を加圧するための駆動モータ21を制御するマスタ圧制御手段を構成している。
ここで、第1のECU26の入力側は、ブレーキペダル5の操作量または踏力を検出するブレーキセンサ7と、駆動モータ21の回転センサ21Aと、例えばL−CANと呼ばれる通信が可能な車載の信号線27及びV−CANと呼ばれる車載向けの多重通信を行う車両データバス(図示せず)と、第3のECU50等とに接続されている。
一方、第1のECU26の出力側は、駆動モータ21、車載の信号線27及び車両データバス、第3のECU50等に接続されている。そして、第1のECU26は、ブレーキセンサ7、液圧センサ28からの検出信号に従って電動倍力装置16によりマスタシリンダ8内に発生させるブレーキ液圧を可変に制御すると共に、電動倍力装置16が正常に動作しているか否か等を判別する機能も有している。
検出手段としての液圧センサ28は、例えばシリンダ側液圧配管15A内の液圧を検出するもので、マスタシリンダ8からシリンダ側液圧配管15Aを介して後述のホイール圧制御機構29に供給されるブレーキ液圧を検出する。液圧センサ28は、後述の第2のECU31に電気的に接続されると共に、液圧センサ28による検出信号は、第2のECU31から信号線27を介して第1のECU26及び第3のECU50にも通信により送られる。
電動倍力装置16においては、ブレーキペダル5が操作されると、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ロッド19が前進し、このときの動きがブレーキセンサ7によって検出される。第1のECU26は、ブレーキセンサ7からの検出信号により駆動モータ21に起動指令を出力して駆動モータ21を回転駆動し、その回転が減速機構23を介して筒状回転体22に伝えられる。そして、筒状回転体22の回転は、直動機構24によりブースタピストン18の軸方向変位に変換される。
このとき、ブースタピストン18は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ロッド19と一体的に(または、相対変位をもって)前進し、ブレーキペダル5から入力ロッド19に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ20からブースタピストン18に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生する。また、第1のECU26は、液圧センサ28からの検出信号を信号線27から受取ることによりマスタシリンダ8に発生した液圧を監視することができ、電動倍力装置16が正常に動作しているか否かを判別することができる。
次に、車両の各車輪(前輪1L,1R及び後輪2L,2R)側に配設されたホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとマスタシリンダ8との間に設けられたホイール圧制御機構29について、図1を参照して説明する。
ホイールシリンダ液供給制御手段としてのホイール圧制御機構29(ESC)は、マスタシリンダ8とホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとの間に設けられている。このホイール圧制御機構29は、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8(第1,第2の液圧室11A,11B)内に発生したブレーキ液圧を、車輪毎のホイールシリンダ圧(ホイール圧)として可変に制御して各車輪のホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに個別に供給するホイールシリンダ圧制御装置を構成している。
即ち、ホイール圧制御機構29は、マスタシリンダ8からシリンダ側液圧配管15A,15B等を介してホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに向けて供給するブレーキ液圧が不足する場合、または各種のブレーキ制御(例えば、前輪1L,1R、後輪2L,2R毎に制動力を配分する制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御、車両安定化制御等)をそれぞれ行う場合に、必要で十分なブレーキ液圧を補償してホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへの作動液の供給を制御するブレーキアシスト装置を構成するものである。
ここで、ホイール圧制御機構29は、マスタシリンダ8(第1,第2の液圧室11A,11B)からシリンダ側液圧配管15A,15Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部30A,30B,30C,30Dを介してホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに分配、供給する。これにより、前述の如く車輪(前輪1L,1R、後輪2L,2R)毎にそれぞれ独立した制動力が個別に付与される。ホイール圧制御機構29は、後述の各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′と、液圧ポンプ43,43′を駆動する電動モータ44と、液圧制御用リザーバ48,48′等とを含んで構成されている。
ホイールシリンダ液供給制御手段としての第2のECU31は、ホイール圧制御機構29を電気的に駆動制御するホイール圧制御ユニットとしてのホイール圧制御機構用コントローラである。この第2のECU31は、例えばマイクロコンピュータ(CPU)等からなり、例えばROM,RAM,不揮発性メモリ等からなる記憶部31Aを有している(図2参照)。第2のECU31の入力側は、液圧センサ28、信号線27及び車両データバス等に接続されている。一方、第2のECU31の出力側は、後述の各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′、電動モータ44、信号線27及び車両データバス等に接続されている。
ここで、第2のECU31は、ホイール圧制御機構29の各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′及び電動モータ44等を後述の如く個別に駆動制御する。これによって、第2のECU31は、ブレーキ側配管部30A〜30Dからホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに供給する作動液のブレーキ液圧を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、ホイールシリンダ3L,3R,4L,4R毎に個別に行うものである。
即ち、第2のECU31は、ホイール圧制御機構29(ESC)を作動制御することにより、例えば以下の制御(1)〜(8)等を実行することができる。
(1)車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪(1L,1R,2L,2R)に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪(1L,1R,2L,2R)の制動力を自動的に調整して前輪1L,1Rと後輪2L,2Rのロックを防止するアンチロックブレーキ制御。
(3)走行中の各車輪(1L,1R,2L,2R)の横滑りを検知してブレーキペダル5の操作量に拘わらず各車輪(1L,1R,2L,2R)に付与する制動力を適宜自動的に制御しつつ、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において各車輪(1L,1R,2L,2R)の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御。
(7)走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(8)車両前方または後方の障害物との衡突を回避する障害物回避制御。
ここで、ホイールシリンダ液供給制御手段は、電磁弁(即ち、各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′)により液路の連通及び遮断を制御する液圧制御ユニットであるホイール圧制御機構29と、該ホイール圧制御機構29のコントローラである第2のECU31とを含んで構成されている。
ホイール圧制御機構29は、マスタシリンダ8の一方の出力ポート(即ち、シリンダ側液圧配管15A)に接続されて左前輪(FL)側のホイールシリンダ3Lと右後輪(RR)側のホイールシリンダ4Rとに液圧を供給する第1液圧系統32と、他方の出力ポート(即ち、シリンダ側液圧配管15B)に接続されて右前輪(FR)側のホイールシリンダ3Rと左後輪(RL)側のホイールシリンダ4Lとに液圧を供給する第2液圧系統32′との2系統の液圧回路を備えている。ここで、第1液圧系統32と第2液圧系統32′とは、同様な構成を有しているため、以下の説明は第1液圧系統32についてのみ行い、第2液圧系統32′については各構成要素に符号に「′」を付し、それぞれの説明を省略する。
ホイール圧制御機構29の第1液圧系統32は、シリンダ側液圧配管15Aの先端側に接続されたブレーキ管路33を有し、ブレーキ管路33は、第1管路部34及び第2管路部35の2つに分岐して、ホイールシリンダ3L,4Rにそれぞれ接続されている。ブレーキ管路33及び第1管路部34は、ブレーキ側配管部30Aと共にホイールシリンダ3Lに液圧を供給する管路を構成し、ブレーキ管路33及び第2管路部35は、ブレーキ側配管部30Dと共にホイールシリンダ4Rに液圧を供給する管路を構成している。
ブレーキ管路33には、ブレーキ液圧の供給制御弁36が設けられ、該供給制御弁36は、ブレーキ管路33を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。ここで、供給制御弁36は、マスタシリンダ8で発生したブレーキ液圧(マスタ圧)をホイールシリンダ3L,4Rに対しホイール圧として供給するか、停止するかを制御する緊急ブレーキ用の制御弁を構成している。
第1管路部34には増圧制御弁37が設けられ、該増圧制御弁37は、第1管路部34を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。第2管路部35には増圧制御弁38が設けられ、該増圧制御弁38は、第2管路部35を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。
一方、ホイール圧制御機構29の第1液圧系統32は、ホイールシリンダ3L,4R側と液圧制御用リザーバ48とをそれぞれ接続する第1,第2の減圧管路39,40を有し、これらの減圧管路39,40には、それぞれ第1,第2の減圧制御弁41,42が設けられている。第1,第2の減圧制御弁41,42は、減圧管路39,40をそれぞれ開,閉する常閉の電磁切換弁により構成されている。
また、ホイール圧制御機構29は、液圧源としての液圧ポンプ43を備え、該液圧ポンプ43は電動モータ44により回転駆動される。ここで、電動モータ44は、第2のECU31からの給電により駆動され、給電の停止時には液圧ポンプ43と一緒に回転停止される。液圧ポンプ43の吐出側は、逆止弁45を介してブレーキ管路33のうち供給制御弁36よりも下流側となる位置(即ち、第1管路部34と第2管路部35とが分岐する位置)に接続されている。液圧ポンプ43の吸込み側は、逆止弁46,47を介して液圧制御用リザーバ48に接続されている。
液圧制御用リザーバ48は、余剰の作動液を一時的に貯留するために設けられ、ブレーキシステム(ホイール圧制御機構29)のABS制御時に限らず、これ以外のブレーキ制御時にもホイールシリンダ3L,4Rのシリンダ室(図示せず)から流出してくる余剰の作動液を一時的に貯留するものである。また、液圧ポンプ43の吸込み側は、逆止弁46及び常閉の電磁切換弁である加圧制御弁49を介してマスタシリンダ8のシリンダ側液圧配管15A(即ち、ブレーキ管路33のうち供給制御弁36よりも上流側となる位置)に接続されている。
ホイール圧制御機構29を構成する各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′、及び液圧ポンプ43,43′を駆動する電動モータ44は、第2のECU31から出力される制御信号に従ってそれぞれの動作制御が予め決められた手順で行われる。
即ち、ホイール圧制御機構29の第1液圧系統32は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時において、電動倍力装置16によってマスタシリンダ8で発生した液圧を、ブレーキ管路33及び第1,第2管路部34,35を介してホイールシリンダ3L,4Rに直接供給する。例えば、アンチスキッド制御等を実行する場合は、増圧制御弁37,38を閉じてホイールシリンダ3L,4Rの液圧を保持し、ホイールシリンダ3L,4Rの液圧を減圧するときには、減圧制御弁41,42を開いてホイールシリンダ3L,4Rの液圧を液圧制御用リザーバ48に逃がすように排出する。
また、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ホイールシリンダ3L,4Rに供給する液圧を増圧するときには、供給制御弁36を閉弁した状態で電動モータ44により液圧ポンプ43を作動させ、該液圧ポンプ43から吐出した作動液を第1,第2管路部34,35を介してホイールシリンダ3L,4Rに供給する。このとき、加圧制御弁49が開弁されていることにより、マスタシリンダ8側から液圧ポンプ43の吸込み側へとリザーバ14内の作動液が供給される。
このように、第2のECU31は、車両運転情報等に基づいて供給制御弁36、増圧制御弁37,38、減圧制御弁41,42、加圧制御弁49及び電動モータ44(即ち、液圧ポンプ43)の作動を制御し、ホイールシリンダ3L,4Rに供給する液圧を適宜に保持したり、減圧または増圧したりする。これによって、前述した制動力分配制御、車両安定化制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御が実行される。
一方、電動モータ44(即ち、液圧ポンプ43)を停止した状態で行う通常の制動モードでは、供給制御弁36及び増圧制御弁37,38を開弁させ、減圧制御弁41,42及び加圧制御弁49を閉弁させる。この状態で、ブレーキペダル5の踏込み操作に応じてマスタシリンダ8の第1のピストン(即ち、ブースタピストン18、入力ロッド19)と第2のピストン10とがシリンダ本体9内を軸方向に変位するときに、第1の液圧室11A内に発生したブレーキ液圧が、シリンダ側液圧配管15A側からホイール圧制御機構29の第1液圧系統32、ブレーキ側配管部30A,30Dを介してホイールシリンダ3L,4Rに供給される。第2の液圧室11B内に発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管15B側から第2液圧系統32′、ブレーキ側配管部30B,30Cを介してホイールシリンダ3R,4Lに供給される。
また、第1,第2の液圧室11A,11B内に発生したブレーキ液圧(即ち、液圧センサ28により検出したシリンダ側液圧配管15A内の液圧)が不十分なときに行うブレーキアシストモードでは、加圧制御弁49と増圧制御弁37,38とを開弁させ、供給制御弁36及び減圧制御弁41,42を適宜開、閉弁させる。この状態で、電動モータ44により液圧ポンプ43を作動させ、該液圧ポンプ43から吐出する作動液を第1,第2管路部34,35を介してホイールシリンダ3L,4Rに供給する。これにより、マスタシリンダ8側で発生するブレーキ液圧と共に、液圧ポンプ43から吐出する作動液によってホイールシリンダ3L,4Rによる制動力を発生することができる。
なお、液圧ポンプ43としては、例えばプランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の公知の液圧ポンプを用いることができるが、車載性、静粛性、ポンプ効率等を考慮するとギヤポンプとすることが望ましい。電動モータ44としては、例えばDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の公知のモータを用いることができるが、本実施の形態においては、車載性等の観点からDCモータとしている。
また、ホイール圧制御機構29の各制御弁36,37,38,41,42,49は、その特性を夫々の使用態様に応じて適宜設定することができるが、このうち供給制御弁36及び増圧制御弁37,38を常開弁とし、減圧制御弁41,42及び加圧制御弁49を常閉弁とすることにより、第2のECU31からの制御信号がない場合にも、マスタシリンダ8からホイールシリンダ3L〜4Rに液圧を供給することができる。従って、ブレーキ制御装置のフェイルセーフ及び制御効率の観点から、このような構成とすることが望ましいものである。
制動予測検出手段としての第3のECU50は、例えばマイクロコンピュータ(CPU)等からなり、車両の制動が必要となることを予測するものである。この第3のECU50は、図2に示すように、例えばROM,RAM,不揮発性メモリ等からなる記憶部50Aを有し、この記憶部50Aには、各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rによる車両の自動制御または緊急制動が必要となることを予測し、自動制御を実行する図3に示す制動予測用および緊急ブレーキ制御用のプログラム等が格納されている。第3のECU50は、マスタ圧制御手段である第1のECU26と、ホイールシリンダ液供給制御手段である第2のECU31とに、後述する予圧要求の判定結果と制動要求の判定結果とを出力するものである。
第3のECU50の入力側は、信号線27を介して第1のECU26、第2のECU31に接続され、また、車両データバス等に接続されている。さらに、図2に示すように、荷重センサ51、車体速センサ52、車間距離センサ53等の各種センサに接続されている。一方、第3のECU50の出力側は、第1のECU26、第2のECU31、信号線27、車両データバス等に接続されている。
荷重センサ51は、車体とサスペンションとの間に介挿され、車体重量を検出し、その検出信号を第3のECU50に出力する。荷重センサ51は、例えば、ロードセンシングバルブを用いて、前輪1L,1R、後輪2L,2Rの各輪荷重を計測して車体重量を求める。
車体速センサ52は、車体に設けられ、車両の走行速度を検出し、その検出信号を第3のECU50に出力する。車体速センサ52は、例えば、変速機の回転軸の回転を検出する回転センサ、各車輪1L,1R,2L,2Rの回転を検出する回転センサ等により構成される。
車間距離センサ53は、車体に設けられ、前方車両と自車両との車間距離L(相対距離)を検出し、その検出信号を第3のECU50に出力する。車間距離センサ53は、例えば、車両前方のフロントグリルに配設されたレーザレーダ、ミリ波レーダ等で構成される。
従って、制動予測検出手段は、第1のECU26と第2のECU31とに対して予圧要求の判定結果と制動要求の判定結果とを出力する第3のECU50と、荷重センサ51と、車体速センサ52と、車間距離センサ53とを含んで構成される。
第1の実施の形態によるブレーキ制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両の運転者がブレーキペダル5を踏込み操作すると、これにより入力ロッド19が矢示A方向に押込まれると共に、電動倍力装置16の電動アクチュエータ20が第1のECU26により作動制御される。即ち、第1のECU26は、ブレーキセンサ7からの検出信号により駆動モータ21に起動指令を出力して駆動モータ21が回転駆動される。
このように、駆動モータ21が回転すると、その回転は減速機構23を介して筒状回転体22に伝えられると共に、筒状回転体22の回転は、直動機構24によりブースタピストン18の軸方向変位に変換される。これにより、電動倍力装置16のブースタピストン18は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ロッド19とほぼ一体的に前進し、ブレーキペダル5から入力ロッド19に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ20からブースタピストン18に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生する。
また、第1のECU26は、液圧センサ28からの検出信号を信号線27から受取ることによりマスタシリンダ8に発生した液圧を監視し、電動倍力装置16の電動アクチュエータ20(駆動モータ21の回転)をフィードバック制御する。これにより、マスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生するブレーキ液圧を、ブレーキペダル5の踏込み操作量に基づいて可変に制御することができる。また、第1のECU26は、ブレーキセンサ7と液圧センサ28との検出値に従って電動倍力装置16が正常に動作しているか否かを判別することができる。
一方、ブレーキペダル5に連結された入力ロッド19は、第1の液圧室11A内の圧力を受圧し、これをブレーキ反力としてブレーキペダル5へと伝える。この結果、車両の運転者には入力ロッド19を介して踏応えが与えられるようになり、これによって、ブレーキペダル5の操作感を向上でき、ペダルフィーリングを良好に保つことができる。
次に、ホイール圧制御機構29は、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8(第1,第2の液圧室11A,11B)内に発生したブレーキ液圧を、シリンダ側液圧配管15A,15Bからホイール圧制御機構29内の液圧系統32,32′及びブレーキ側配管部30A,30B,30C,30Dを介してホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへと可変に制御しつつ、車輪毎のホイールシリンダ圧として分配して供給する。各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rは、供給されたブレーキ液圧に応じて、それぞれ、摩擦ライニングPを被制動部材Dに押圧する。これにより、車両の車輪(各前輪1L,1R、各後輪2L,2R)毎にホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rを介して適正な制動力が付与される。
ここで、ホイール圧制御機構29を制御する第2のECU31は、ブレーキセンサ7からの検出信号を信号線27から受取ることによりブレーキペダル5の踏込み操作量を監視することができ、液圧センサ28からの検出信号によりブレーキ液圧を監視し続けることができる。そして、ブレーキ操作時には、ブレーキセンサ7からの検出信号を通信で受取ることにより、第2のECU31から電動モータ44に制御信号を出力して液圧ポンプ43,43′を作動できると共に、各制御弁36,36′,37,37′,38,38′,41,41′,42,42′,49,49′を選択的に開,閉弁することができる。
このため、車両の制動時等には、ブレーキペダル5の踏込み操作に従ってマスタシリンダ8(及び/又は液圧ポンプ43,43′)からホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rにそれぞれ供給するブレーキ液圧を個別に増圧、保持または減圧でき、ブレーキペダル5の踏込み操作、車両の運転状態等に対応したブレーキ液圧をホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに供給できると共に、車両の制動力制御を高精度に行うことができる。
次に、第3のECU50による制動予測処理および自動(緊急)ブレーキ処理について図3を用いて説明する。なお、この制動予測処理は、例えば一定の制御周期毎に繰り返し実行されるものである。
まず、図3に示す制御処理が車両のエンジン始動に伴う電力供給を受けて開始されると、車間距離センサ53によって、前方車両と自車両との車間距離Lを検出する。ステップ1では、第3のECU50において前方車両との車間距離Lが第1の距離閾値L0以下まで接近したか否か、即ち、予圧の必要があるか否かを判定し、これによって、車両の制動が必要であるかを予測するものである。
ここで、第1の距離閾値L0とは、後述する第2の距離閾値L1までに予圧を準備できる距離をいう。具体的には、第1の距離閾値L0とは、第2の距離閾値L1に、マスタ圧を圧力P0まで昇圧するのにかかる時間と、制御上のむだ時間やばらつきを考慮したマージンを加えた距離である。即ち、第1の距離閾値L0は、少なくとも第3のECU50が予圧の必要性を判定してから、マスタ圧がP0になるまでの間に、当該車両が前方車両に対して第2の距離閾値L1よりも接近することがないように設定する。
ステップ1にて「NO」と判定した場合は、前方車両との車間距離Lが第1の距離閾値L0よりも大きいので、ステップ1に戻って待機する。ステップ1で「YES」と判定した場合は、前方車両との車間距離Lが第1の距離閾値L0以下であるので、第3のECU50は、ステップ2において、第1のECU26と第2のECU31に対して、予圧要求を送信する。
これにより、第2のECU31は、ホイール圧制御機構29の供給制御弁36,36′を閉弁する制御を行い、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとの間を遮断して、マスタシリンダ8から各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへの作動液の供給を禁止する。第2のECU31が作動液の供給を禁止した後に、第1のECU26は、マスタ圧が圧力P0になるように電動倍力装置16の駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を加圧(昇圧)する。ここで、圧力P0とは、緊急制動要求があったときにマスタ圧を速やかに後述の圧力P1に増圧できる圧力のことをいい、例えば経験知等によって予め決められる圧力である。この場合、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとが遮断されることによって、マスタ圧がホイール圧に影響を与えることがない。すなわち、マスタシリンダ8で発生するブレーキ液圧が各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに供給されることがないため、前,後輪1L,1R,2L,2Rにおいて摩擦ライニングPを被制動部材Dに当接させることがなくなり、摩擦ライニングの偏摩耗等の発生を抑制することができる。
ここで、供給制御弁36,36′を閉弁しマスタ圧を圧力P0にする予圧時において、ドライバによるブレーキペダル5の操作があった場合は、供給制御弁36,36′を即座に開弁させ、通常のドライバ操作に戻す構成としている。
次のステップ3では、第3のECU50において、前方車両との車間距離Lが第1の距離閾値L0以下まで接近したか否かを判定し、予圧の必要性を判別する。ステップ3にて「NO」と判定した場合は、前方車両との車間距離Lが第1の距離閾値L0よりも大きくなって、前方車両との衝突の危険性はないと判断できるので、第3のECU50は予圧を不要と判定する。そして、第3のECU50は、第1のECU26と第2のECU31に対して、予圧解除要求を送信する。
このとき、第1のECU26は、マスタシリンダ8のリザーバポート14A,14Bを各液圧室11A,11Bに対して連通するよう電動倍力装置16を制御する(ステップ4)。同時に、第2のECU31は、閉弁状態にある供給制御弁36,36′を開弁するように制御する。そして、ステップ4が終了すると、ステップ1にリターンする。
一方、ステップ3で「YES」と判定した場合は、前方車両との車間距離Lが第1の距離閾値L0以下まで接近しているので、ステップ5に進む。ステップ5では、第3のECU50において前方車両との車間距離Lが第2の距離閾値L1以下まで接近したか否かを判定し、緊急制動の必要性を判別する。
ここで、第2の距離閾値L1とは、自車両が前方車両に対して衝突せずに、ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rによる制動力で停止可能な距離をいう。具体的には、第2の距離閾値L1とは、荷重センサ51で検出した車体重量と車体速センサ52で検出した車体速とから緊急制動時の停止距離を予測し、該停止距離に制御上のむだ時間やばらつきを考慮したマージンを加えた距離のことをいう。即ち、第2の距離閾値L1は、第1の距離閾値L0よりも予め決められた距離分だけ小さな値に設定されるものである。
ステップ5にて「NO」と判定した場合は、前方車両との車間距離Lが第2の距離閾値L1より大きいので、ステップ3の処理に戻り、再度、ステップ3以降の処理を続行する。
一方、ステップ5にて「YES」と判定した場合は、前方車両との車間距離Lが第2の距離閾値L1以下となっているので、第3のECU50は、第1のECU26と第2のECU31に対して、この場合は制動要求を送信する。
そして、ステップ6において、第2のECU31は、マスタシリンダ8から各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに作動液の供給を開始するよう、ホイール圧制御機構29の供給制御弁36,36′を制御して、開弁させる。また、第1のECU26は、マスタ圧が圧力P1になるように電動倍力装置16の駆動モータ21を制御してマスタ圧を加圧(昇圧)する。ここで、圧力P1とは、ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rにより必要な制動トルクを発生させるのに十分な圧力であり、車両が前方車両に衝突せずに、停車可能な圧力をいう。圧力P1は、荷重センサ51から検出した車体重量と車体速センサ52から検出した車体速等に基づいて設定すればよい。
かくして、第1の実施の形態によれば、第3のECU50にて車両の制動が必要となることが予測されたとき、第2のECU31が、ホイール圧制御機構29の供給制御弁36,36′を閉弁させることによってマスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとを遮断し、作動液(即ち、ブレーキ液圧)の供給を禁止する。また、第1のECU26は、マスタ圧が予圧としての圧力P0になるように電動倍力装置16の駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を加圧(昇圧)する。
しかし、この段階ではホイール圧制御機構29の供給制御弁36,36′は閉弁状態に制御されている。これにより、車両制動が必要となる第2の距離閾値L1まで前方車両に接近しない限りは、キャリパ(ホイールシリンダ3L,3R,4L,4R)にブレーキ液圧が供給されることはないため、ブレーキ予圧に伴う摩擦パッドの引き摺り、偏摩耗が発生するのを抑制することができる。
また、第1のECU26は、駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を加圧(昇圧)し、マスタ圧を圧力P0に設定した状態で、第3のECU50により車両制動が必要となる第2の距離閾値L1まで前方車両に接近したか否かを判定している。これにより、前方車両と自車両との車間距離Lが第2の距離閾値L1以下になったときは、電動倍力装置16によりマスタシリンダ8のブレーキ液圧(マスタ圧)を圧力P0から制動トルクの発生に十分な圧力である圧力P1まで即座に昇圧することができ、応答性の良い制動制御を実現することが可能となる。
なお、前記実施の形態では、制動予測および自動制御の統括処理を第3のECU50で実行する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第1の変形例として、制動予測および自動制御の統括処理を第1のECU26において実行する構成としてもよい。この場合、第1のECU26の記憶部26Aには、図3に示す制動予測(予圧)および自動制御判定用のプログラムが格納される。
第1の変形例においては、予測信号である荷重センサ51の検出信号と車体速センサ52の検出信号と車間距離センサ53の検出信号とが、第3のECU50から第1のECU26へと送信される。第1のECU26は、受信した各センサ51,52,53の検出信号に基づき前方車両が第1の距離閾値L0まで接近したことを検知したとき、または、第3のECU50から車両の制動が必要となる予測信号の入力を受けたときに、予圧の必要性を判定する。予圧の必要がある場合は、第1のECU26から、第2のECU31に対して、マスタシリンダ8から各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへの作動液の供給を禁止する供給禁止信号(予圧要求)が出力される。
そして、第2のECU31は、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとを遮断し、作動液の供給を禁止するよう、供給制御弁36,36′を制御して、閉弁させる。また、第1のECU26が第2のECU31に対して供給禁止信号を出力した後に、第1のECU26は、マスタ圧が圧力P0になるように駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を加圧(昇圧)する。
さらに、第1のECU26は、第3のECU50から受信した各センサ51,52,53の検出信号に基づき、前方車両が第2の距離閾値L1まで接近したことを検知したときに、制動の必要性を判定する。車両の制動が必要となった場合は、第1のECU26は、第2のECU31に対して、マスタシリンダ8から各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへの作動液の供給を開始する供給許可信号(制動要求)を出力する。
そして、第2のECU31は、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rを連通させ、マスタシリンダ8から各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに作動液の供給を開始するよう、供給制御弁36,36′を制御し、開弁する。また、第1のECU26は、マスタ圧が圧力P1になるように駆動モータ21を制御してマスタ圧を加圧(昇圧)する。
一方、前方車両が第2の距離閾値L1に接近することなく、第1の距離閾値L0よりも遠ざかった場合には、第1のECU26は、予圧を不要と判定し、マスタシリンダ8のリザーバポート14A,14Bを開弁するようマスタシリンダ8を制御する。同時に、第1のECU26は、第2のECU31に対して、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rを連通させ、供給制御弁36,36′を制御し、開弁するよう予圧解除要求を送信する。
また、本発明は上記の構成に替えて、例えば第2の変形例として、制動予測の統括処理を第2のECU31において実行する構成としてもよい。この場合、第2のECU31の記憶部31Aには、図3に示す制動予測(予圧)判定用のプログラムが格納される。
第2の変形例においては、予測信号である荷重センサ51の検出信号と車体速センサ52の検出信号と車間距離センサ53の検出信号とが、第3のECU50から第2のECU31へと送信される。第2のECU31は、受信した各センサ51,52,53の検出信号に基づき、前方車両が第1の距離閾値L0まで接近したことを検知したとき(第3のECU50から車両の制動が必要となる予測信号の入力を受けたとき)に、予圧の必要性を判定する。予圧の必要がある場合は、第2のECU31は、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとを遮断し、作動液の供給を禁止するよう、供給制御弁36,36′を制御し、閉弁する。
そして、第2のECU31は、作動液の供給を禁止した後に、第1のECU26に対して、駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を圧力P0まで加圧(昇圧)させる第1の駆動モータ信号(予圧要求)を出力する。第1の駆動モータ信号を受信した第1のECU26は、マスタ圧が圧力P0になるように駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を加圧(昇圧)する。
さらに、第2のECU31は、第3のECU50から受信した各センサ51,52,53の検出信号に基づき、前方車両が第2の距離閾値L1まで接近したことを検知したときに、制動の必要性を判定する。車両の制動が必要となった場合は、第2のECU31は、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rを連通させ、マスタシリンダ8から各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに作動液の供給を開始するよう、供給制御弁36,36′を制御し、開弁する。
また、第2のECU31は、第1のECU26に対して、駆動モータ21を制御してマスタシリンダ8の作動液を圧力P1まで加圧(昇圧)させる第2の駆動モータ信号を出力する。そして、第1のECU26は、マスタ圧が圧力P1になるように駆動モータ21を制御してマスタ圧を加圧(昇圧)する。
一方、前方車両が第2の距離閾値L1に接近することなく、第1の距離閾値L0よりも遠ざかった場合には、第2のECU31は、予圧を不要と判定し、第1のECU26に対して、マスタシリンダ8のリザーバポート14A,14Bを開弁するよう予圧解除要求を送信する。同時に、第2のECU31は、マスタシリンダ8と各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rを連通させるよう、供給制御弁36,36′を制御し、開弁する。
なお、前記実施の形態では、ブレーキ制御装置は、第1のECU26と第2のECU31と第3のECU50とを備える構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、ブレーキ制御装置は、単一のコントロールユニットによって構成してもよく、必要な場合は複数のコントロールユニットに分割して3個以上のコントロールユニットを備える構成としてもよい。
また、前記実施の形態では、車間距離Lは自車両と前方車両との距離(相対距離)とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、車間距離Lは自車両と車両前方に出現した障害物との距離(相対距離)としてもよい。