以下、本発明の実施の形態によるブレーキ制御装置を、電気自動車やハイブリッド自動車等のモータ・ジェネレータ(発電電動機)が搭載された4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1ないし図6は、本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左,右の前輪2L,2Rと左,右の後輪3L,3Rとが設けられている。左,右の前輪2L,2Rには、それぞれ前輪側ホイールシリンダ4L,4Rが設けられ、左,右の後輪3L,3Rには、それぞれ後輪側ホイールシリンダ5L,5Rが設けられている。これらのホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rは、液圧式のディスクブレーキまたはドラムブレーキのシリンダを構成し、夫々の車輪(前輪2L,2Rおよび後輪3L,3R)毎に制動力を付与するものである。即ち、ホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rは、摩擦ライニングとなる摩擦パッドまたはブレーキシューをディスクまたはドラムに押付けることにより車両の制動を行う摩擦制動装置6(例えば、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ)を構成するものである。
車体1のフロントボード側には、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル7が設けられている。ブレーキペダル7は、車両のブレーキ操作時に運転者によって図1および図2中の矢示A方向に踏込み操作される。ブレーキペダル7には、ブレーキスイッチ7Aと操作量検出センサ8が設けられ、ブレーキスイッチ7Aは、車両のブレーキ操作の有無を検出して、例えばブレーキランプ(図示せず)を点灯,消灯させるものである。また、操作量検出センサ8は、ブレーキペダル7の踏込み操作量をストローク量として検出し、その検出信号を後述のECU27,35および車両データバス29等に出力する。ブレーキペダル7の踏込み操作は、後述の電動倍力装置17を介してマスタシリンダ9に伝えられる。なお、本実施の形態においては、操作量検出センサ8をブレーキペダル7のストローク量で検出するものとしたが、これに限らず、ブレーキペダル7の踏込み操作量を踏力で検出するものとしてもよい。
図2に示すように、マスタシリンダ9は、一側が開口端となり他側が底部となって閉塞された有底筒状のシリンダ本体10を有している。このシリンダ本体10は、その開口端側が後述する電動倍力装置17のブースタハウジング18に複数の取付ボルト(図示せず)等を用いて着脱可能に固着されている。マスタシリンダ9は、シリンダ本体10と、第1のピストン(後述のブースタピストン19と入力ピストン20)および第2のピストン11と、第1の液圧室12Aと、第2の液圧室12Bと、第1の戻しばね13と、第2の戻しばね14とを含んで構成されている。ここで、図2においては、電気回路の信号線を途中に2本の斜め線を付した細線で示しており、また、電気回路の電源線を途中に2本の斜め線を付した太線で示しており、液圧配管を途中に2本の斜め線を付していない細線で示している。
この場合、マスタシリンダ9は、前記第1のピストンが後述のブースタピストン19と入力ピストン20とにより構成され、シリンダ本体10内に形成される第1の液圧室12Aは、第2のピストン11とブースタピストン19(および入力ピストン20)との間に画成されている。第2の液圧室12Bは、シリンダ本体10の底部と第2のピストン11との間でシリンダ本体10内に画成されている。
第1の戻しばね13は、第1の液圧室12A内に位置してブースタピストン19と第2のピストン11との間に配設され、ブースタピストン19をシリンダ本体10の開口端側に向けて付勢している。第2の戻しばね14は、第2の液圧室12B内に位置してシリンダ本体10の底部と第2のピストン11との間に配設され、第2のピストン11を第1の液圧室12A側に向けて付勢している。
マスタシリンダ9のシリンダ本体10は、ブレーキペダル7の踏込み操作に応じてブースタピストン19(入力ピストン20)と第2のピストン11とがシリンダ本体10の底部に向かって変位するときに、第1,第2の液圧室12A,12B内のブレーキ液によりマスタシリンダ圧としての液圧を発生させる。一方、ブレーキペダル7の操作を解除した場合には、ブースタピストン19(および入力ピストン20)と第2のピストン11とが第1、第2の戻しばね13、14によりシリンダ本体10の開口部に向かって矢示B方向に変位していくときに、リザーバ15からブレーキ液の補給を受けながら第1,第2の液圧室12A,12B内の液圧を解除していく。
マスタシリンダ9のシリンダ本体10には、内部にブレーキ液が収容されている作動液タンクとしてのリザーバ15が設けられ、該リザーバ15は、シリンダ本体10内の液圧室12A,12Bにブレーキ液を給排する。また、マスタシリンダ9の第1,第2の液圧室12A,12B内に発生したマスタシリンダ圧としての液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管16A,16Bを介して後述の液圧供給装置であるESC33に送られる。
車両のブレーキペダル7とマスタシリンダ9との間には、ブレーキペダル7の操作力を増大させる電動倍力装置17が設けられている。この電動倍力装置17は、後述する液圧供給装置(ESC)33と共にブレーキアクチュエータ59(図3参照)を構成するもので、操作量検出センサ8の出力等に基づいて後述の電動アクチュエータ21を駆動制御することにより、マスタシリンダ9内に発生する液圧(即ち、マスタシリンダ圧)を制御する。
電動倍力装置17は、車体のフロントボードである車室前壁に固定して設けられるブースタハウジング18と、該ブースタハウジング18に移動可能(即ち、マスタシリンダ9の軸方向に進退移動可能)に設けられた駆動ピストンとしてのブースタピストン19と、該ブースタピストン19にブースタ推力を付与する後述の電動アクチュエータ21とを含んで構成されている。
ブースタピストン19は、マスタシリンダ9のシリンダ本体10内に開口端側から軸方向に摺動可能に挿嵌された筒状部材により構成されている。ブースタピストン19の内周側には、ブレーキペダル7の操作に従って直接的に押動され、マスタシリンダ9の軸方向(即ち、矢示A,B方向)に進退移動する軸部材からなる入力ピストン20が摺動可能に挿嵌されている。入力ピストン20は、ブースタピストン19と一緒にマスタシリンダ9の第1のピストンを構成し、シリンダ本体10内は、第2のピストン11とブースタピストン19および入力ピストン20との間に第1の液圧室12Aが画成されている。
ブースタハウジング18は、後述の減速機構24等を内部に収容する筒状の減速機ケース18Aと、該減速機ケース18Aとマスタシリンダ9のシリンダ本体10との間に設けられブースタピストン19を軸方向に摺動変位可能に支持した筒状の支持ケース18Bと、減速機ケース18Aを挟んで支持ケース18Bとは軸方向の反対側(軸方向一側)に配置され減速機ケース18Aの軸方向一側の開口を閉塞する段付筒状の蓋体18Cとにより構成されている。減速機ケース18Aの外周側には、後述の電動モータ22を固定的に支持するための支持板18Dが設けられている。
入力ピストン20は、蓋体18C側からブースタハウジング18内に挿入され、ブースタピストン19内を第1の液圧室12Aに向けて軸方向に延びている。入力ピストン20の先端側(軸方向他側)端面は、ブレーキ操作時に第1の液圧室12A内に発生する液圧をブレーキ反力として受圧し、入力ピストン20はこれをブレーキペダル7に伝達する。これにより、車両の運転者にはブレーキペダル7を介して適正な踏み応えが与えられ、良好なペダルフィーリング(ブレーキの効き)を得ることができる。この結果、ブレーキペダル7の操作感を向上することができ、ペダルフィーリング(踏み応え)を良好に保つことができる。
電動倍力装置17の電動アクチュエータ21は、ブースタハウジング18の減速機ケース18Aに支持板18Dを介して設けられた電動モータ22と、該電動モータ22の回転を減速して減速機ケース18A内の筒状回転体23に伝えるベルト等の減速機構24と、筒状回転体23の回転をブースタピストン19の軸方向変位(進退移動)に変換するボールネジ等の直動機構25とにより構成されている。ブースタピストン19と入力ピストン20は、それぞれの前端部(軸方向他側の端部)をマスタシリンダ9の第1の液圧室12Aに臨ませ、ブレーキペダル7から入力ピストン20に伝わる踏力(推力)と電動アクチュエータ21からブースタピストン19に伝わるブースタ推力とにより、マスタシリンダ9内にブレーキ液圧を発生させる。
即ち、電動倍力装置17のブースタピストン19は、後述する第1のECU27からの出力(給電)に基づいて電動アクチュエータ21により駆動され、マスタシリンダ9内にブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させるポンプ機構を構成している。また、ブースタハウジング18の支持ケース18B内には、ブースタピストン19を制動解除方向(図1および図2中の矢示B方向)に常時付勢する戻しばね26が設けられている。ブースタピストン19は、ブレーキ操作の解除時に電動モータ22が逆向きに回転されると共に、戻しばね26の付勢力により図2に示す初期位置まで矢示B方向に戻されるものである。
電動モータ22は、例えばDCブラシレスモータを用いて構成され、電動モータ22には、レゾルバと呼ばれる回転センサ22Aが設けられている。この回転センサ22Aは、電動モータ22(モータ軸)の回転位置(回転角)を検出し、その検出信号を後述する第1のECU27に出力する。第1のECU27は、この回転位置信号により、フィードバック制御を行う。また、回転センサ22Aは、電動モータ22の回転位値を検出し、この回転位値に基づいて、車体に対するブースタピストン19の絶対変位を検出する回転検出手段としての機能を備えている。
さらに、回転センサ22Aは、操作量検出センサ8と共に、ブースタピストン19と入力ピストン20との相対変位量を検出する変位検出手段を構成し、これらの検出信号は、第1のECU27に送出される。なお、前記回転検出手段としては、レゾルバ等の回転センサ22Aに限らず、絶対変位(回転角)を検出できる回転型のポテンショメータ等により構成してもよい。減速機構24は、ベルト等に限らず、例えば歯車減速機構等を用いて構成してもよい。また、減速機構24は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、筒状回転体23にモータ軸を一体に設け、電動モータのステータを筒状回転体23の周囲に配置して、電動モータにより直接、筒状回転体23を回転させるようにしてもよい。
第1のECU27は、例えばマイクロコンピュータ等からなり、電動倍力装置17の電動アクチュエータ21を電気的に駆動制御する電動倍力装置用コントローラ(制御装置)である。第1のECU27の入力側は、ブレーキペダル7の操作の有無を検出するブレーキスイッチ7Aと、ブレーキペダル7の操作量または踏力を検出する操作量検出センサ8と、電動モータ22の回転センサ22Aと、例えばL−CANと呼ばれる通信が可能な車載の信号線28および車両データバス29等とに接続されている。車両データバス29は、車両に搭載されたV−CANと呼ばれるシリアル通信部であり、車載向けの多重通信を行うものである。また、第1のECU27は、電源ライン30と接続され、該電源ライン30を通じてバッテリ31からの電力が給電される。
液圧センサ32は、例えばシリンダ側液圧配管16A内の液圧を検出するもので、マスタシリンダ9からシリンダ側液圧配管16Aを介して後述のESC33に供給されるブレーキ液圧を検出する。液圧センサ32は、後述の第2のECU35に電気的に接続されると共に、液圧センサ32による検出信号は、第2のECU35から信号線28を介して第1のECU27にも通信により送られる。
第1のECU27の出力側は、電動モータ22、車載の信号線28および車両データバス29等に接続されている。そして、第1のECU27は、操作量検出センサ8、液圧センサ32からの検出信号等に従って電動倍力装置17によりマスタシリンダ9内に発生させるブレーキ液圧を可変に制御する。
ここで、電動倍力装置17においては、ブレーキペダル7が操作されると、マスタシリンダ9のシリンダ本体10内に向けて入力ピストン20が前進し、このときの動きが操作量検出センサ8によって検出される。第1のECU27は、操作量検出センサ8からの検出信号等に基づいて電動モータ22に給電して電動モータ22を回転駆動し、その回転が減速機構24を介して筒状回転体23に伝えられると共に、筒状回転体23の回転は、直動機構25によりブースタピストン19の軸方向変位に変換される。
これにより、ブースタピストン19は、マスタシリンダ9のシリンダ本体10内に向けて前進方向に変位し、ブレーキペダル7から入力ピストン20に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ21からブースタピストン19に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ9の第1,第2の液圧室12A,12B内に発生する。また、車両全体としての制動力を、摩擦制動装置6の摩擦ライニングによる摩擦制動力と後述するモータ・ジェネレータ57による回生制動力とに配分する場合、即ち、摩擦制動力(摩擦ブレーキ)と回生制動力(回生ブレーキ)との両制動力で車両全体の制動力を得る場合は、回生制動力に対応する分、ブレーキ液圧が低くなるように、電動アクチュエータ21によりブースタピストン19を変位させる。
次に、車両の各車輪(前輪2L,2Rおよび後輪3L,3R)側に配設されたホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rとマスタシリンダ9との間に設けられた液圧供給装置33(以下、ESC33という)について説明する。
電動倍力装置17と共に後述のブレーキアクチュエータ59(図3参照)を構成するESC33は、電動倍力装置17によりマスタシリンダ9(第1,第2の液圧室12A,12B)内に発生したマスタシリンダ圧としての液圧を、車輪毎のホイールシリンダ圧として可変に制御して各車輪のホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに個別に供給する。
即ち、ESC33は、マスタシリンダ9からシリンダ側液圧配管16A,16B等を介してホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに向けて供給するブレーキ液圧が不足する場合、または各種のブレーキ制御(例えば、前輪2L,2R、後輪3L,3R毎に制動力を配分する制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御、車両安定化制御等)をそれぞれ行う場合に、必要で十分なブレーキ液圧を補償してホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給するブレーキアシスト装置を構成するものである。
ここで、ESC33は、マスタシリンダ9(第1,第2の液圧室12A,12B)からシリンダ側液圧配管16A,16Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部34A,34B,34C,34Dを介してホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに分配、供給する。これにより、前述の如く車輪(前輪2L,2R、後輪3L,3R)毎にそれぞれ独立した制動力が個別に付与される。ESC33は、後述の各制御弁40,40′,41,41′,42,42′,45,45′,46,46′,53,53′と、液圧ポンプ47,47′を駆動する電動モータ48等とを含んで構成されている。
第2のECU35は、第1のECU27と同様にマイクロコンピュータ等からなり、ESC33を電気的に駆動制御する液圧供給装置用コントローラ(制御装置)である。第2のECU35は、その入力側が、液圧センサ32、信号線28および車両データバス29等に接続されている。第2のECU35の出力側は、後述の各制御弁40,40′,41,41′,42,42′,45,45′,46,46′,53,53′、電動モータ48、信号線28および車両データバス29等に接続されている。また、第2のECU35は、電源ライン30と接続され、該電源ライン30を通じてバッテリ31からの電力が給電される。
ここで、第2のECU35は、ESC33の各制御弁40,40′,41,41′,42,42′,45,45′,46,46′,53,53′および電動モータ48等を後述の如く個別に駆動制御する。これによって、第2のECU35は、ブレーキ側配管部34A〜34Dからホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給するブレーキ液圧を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、ホイールシリンダ4L,4R、5L,5R毎に個別に行うものである。
即ち、第2のECU35は、ESC33を作動制御することにより、例えば車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪(前輪2L,2Rおよび後輪3L,3R)に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪2L,2R,3L,3Rの制動力を自動的に調整して車輪2L,2R,3L,3Rのロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪2L,2R,3L,3Rの横滑りを検知してブレーキペダル7の操作量に拘わらず各車輪2L,2R,3L,3Rに付与する制動力を適宜自動的に制御しつつ、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、車両前方または後方の障害物との衡突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
ESC33は、マスタシリンダ9の一方の出力ポート(即ち、シリンダ側液圧配管16A)に接続されて左前輪(FL)側のホイールシリンダ4Lと右後輪(RR)側のホイールシリンダ5Rとに液圧を供給する第1液圧系統36と、他方の出力ポート(即ち、シリンダ側液圧配管16B)に接続されて右前輪(FR)側のホイールシリンダ4Rと左後輪(RL)側のホイールシリンダ5Lとに液圧を供給する第2液圧系統36′との2系統の液圧回路を備えている。ここで、第1液圧系統36と第2液圧系統36′とは、同様な構成を有しているため、以下の説明は第1液圧系統36についてのみ行い、第2液圧系統36′については各構成要素に符号に「′」を付し、それぞれの説明を省略する。
ESC33の第1液圧系統36は、シリンダ側液圧配管16Aの先端側に接続されたブレーキ管路37を有し、ブレーキ管路37は、第1管路部38および第2管路部39の2つに分岐して、ホイールシリンダ4L,5Rにそれぞれ接続されている。ブレーキ管路37および第1管路部38は、ブレーキ側配管部34Aと共にホイールシリンダ4Lに液圧を供給する管路を構成し、ブレーキ管路37および第2管路部39は、ブレーキ側配管部34Dと共にホイールシリンダ5Rに液圧を供給する管路を構成している。
ブレーキ管路37には、ブレーキ液圧の供給制御弁40が設けられ、該供給制御弁40は、ブレーキ管路37を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。第1管路部38には増圧制御弁41が設けられ、該増圧制御弁41は、第1管路部38を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。第2管路部39には増圧制御弁42が設けられ、該増圧制御弁42は、第2管路部39を開,閉する常開の電磁切換弁により構成されている。
一方、ESC33の第1液圧系統36は、ホイールシリンダ4L,5R側と液圧制御用リザーバ52とをそれぞれ接続する第1,第2の減圧管路43,44を有し、これらの減圧管路43,44には、それぞれ第1,第2の減圧制御弁45,46が設けられている。第1,第2の減圧制御弁45,46は、減圧管路43,44をそれぞれ開,閉する常閉の電磁切換弁により構成されている。
また、ESC33は、液圧源である液圧発生手段としての液圧ポンプ47を備え、該液圧ポンプ47は電動モータ48により回転駆動される。ここで、電動モータ48は、第2のECU35からの給電により駆動され、給電停止には液圧ポンプ47と一緒に回転停止される。液圧ポンプ47の吐出側は、逆止弁49を介してブレーキ管路37のうち供給制御弁40よりも下流側となる位置(即ち、第1管路部38と第2管路部39とが分岐する位置)に接続されている。液圧ポンプ47の吸込み側は、逆止弁50,51を介して液圧制御用リザーバ52に接続されている。
液圧制御用リザーバ52は、余剰のブレーキ液を一時的に貯留するために設けられ、ブレーキシステム(ESC33)のABS制御時に限らず、これ以外のブレーキ制御時にもホイールシリンダ4L,5Rのシリンダ室(図示せず)から流出してくる余剰のブレーキ液を一時的に貯留するものである。また、液圧ポンプ47の吸込み側は、逆止弁50および常閉の電磁切換弁である加圧制御弁53を介してマスタシリンダ9のシリンダ側液圧配管16A(即ち、ブレーキ管路37のうち供給制御弁40よりも上流側となる位置)に接続されている。
ESC33を構成する各制御弁40,40′,41,41′,42,42′,45,45′,46,46′,53,53′、および、液圧ポンプ47,47′を駆動する電動モータ48は、第2のECU35からの給電に従ってそれぞれの動作制御が予め決められた手順で行われる。
即ち、ESC33の第1液圧系統36は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時に、電動倍力装置17によってマスタシリンダ9で発生した液圧を、ブレーキ管路37および第1,第2管路部38,39を介してホイールシリンダ4L,5Rに直接供給する。例えば、アンチスキッド制御等を実行する場合は、増圧制御弁41,42を閉じてホイールシリンダ4L,5Rの液圧を保持し、ホイールシリンダ4L,5Rの液圧を減圧するときには、減圧制御弁45,46を開いてホイールシリンダ4L,5Rの液圧を液圧制御用リザーバ52に逃がすように排出する。
また、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ホイールシリンダ4L,5Rに供給する液圧を増圧するときには、供給制御弁40を閉弁した状態で電動モータ48により液圧ポンプ47を作動させ、該液圧ポンプ47から吐出したブレーキ液を第1,第2管路部38,39を介してホイールシリンダ4L,5Rに供給する。このとき、加圧制御弁53が開弁されていることにより、マスタシリンダ9側から液圧ポンプ47の吸込み側へとリザーバ15内のブレーキ液が供給される。
このように、第2のECU35は、車両運転情報等に基づいて供給制御弁40、増圧制御弁41,42、減圧制御弁45,46、加圧制御弁53および電動モータ48(即ち、液圧ポンプ47)の作動を制御し、ホイールシリンダ4L,5Rに供給する液圧を適宜に保持したり、減圧または増圧したりする。これによって、前述した制動力分配制御、車両安定化制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御が実行される。
一方、電動モータ48(即ち、液圧ポンプ47)を停止した状態で行う通常の制動モードでは、供給制御弁40および増圧制御弁41,42を開弁させ、減圧制御弁45,46および加圧制御弁53を閉弁させる。この状態で、ブレーキペダル7の踏込み操作に応じてマスタシリンダ9の第1のピストン(即ち、ブースタピストン19、入力ピストン20)と第2のピストン11とがシリンダ本体10内を軸方向に変位するときに、第1,第2の液圧室12A内に発生したブレーキ液圧が、シリンダ側液圧配管16A側からESC33の第1液圧系統36、ブレーキ側配管部34A,34Dを介してホイールシリンダ4L,5Rに供給される。第2の液圧室12B内に発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管16B側から第2液圧系統36′、ブレーキ側配管部34B,34Cを介してホイールシリンダ4R,5Lに供給される。
また、第1,第2の液圧室12A,12B内に発生したブレーキ液圧(即ち、液圧センサ32により検出したシリンダ側液圧配管16A内の液圧)が不十分なときに行うブレーキアシストモードでは、加圧制御弁53と増圧制御弁41,42とを開弁させ、供給制御弁40および減圧制御弁45,46を適宜開、閉弁させる。この状態で、電動モータ48により液圧ポンプ47を作動させ、該液圧ポンプ47から吐出するブレーキ液を第1,第2管路部38,39を介してホイールシリンダ4L,5Rに供給する。これにより、マスタシリンダ9側で発生するブレーキ液圧と共に、液圧ポンプ47から吐出するブレーキ液によってホイールシリンダ4L,5Rによる制動力を発生することができる。
なお、液圧ポンプ47としては、例えばプランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の公知の液圧ポンプを用いることができるが、車載性、静粛性、ポンプ効率等を考慮するとギヤポンプとすることが望ましい。電動モータ48としては、例えばDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の公知のモータを用いることができるが、本実施の形態においては、車載性等の観点からDCモータとしている。
また、ESC33の各制御弁40,41,42,45,46,53は、その特性を夫々の使用態様に応じて適宜設定することができるが、このうち供給制御弁40および増圧制御弁41,42を常開弁とし、減圧制御弁45,46および加圧制御弁53を常閉弁とすることにより、第2のECU35からの給電がない場合にも、マスタシリンダ9からホイールシリンダ4L〜5Rに液圧を供給することができる。従って、ブレーキ装置のフェイルセーフおよび制御効率の観点から、このような構成とすることが望ましいものである。
車両に搭載された車両データバス29には、車両制御装置に相当する第3のECU54が接続されている。第3のECU54は、第1,第2のECU27,35と同様にマイクロコンピュータ等からなり、例えば、後述するモータ・ジェネレータ57の駆動状態(力行、回生)を制御するモータ・ジェネレータ用コントローラ(制御装置)を含んで構成されている。この場合、第3のECU54は、車両の減速時および制動時等に車輪(本実施の形態の場合は前輪2L,2R)の回転による慣性力を利用して、モータ・ジェネレータ57を制御することにより、運動エネルギを電力として回収(回生)しつつ制動力を得るものである。
ここで、第3のECU54の入力側は、アクセルペダルの操作量(ストローク量)を検出するアクセルストロークセンサ55、車両の速度(車速V)を検出する車両速度検出手段としての車速センサ56、後述するモータ・ジェネレータ57、車両データバス29等に接続されている。第3のECU54の出力側は、モータ・ジェネレータ57、車両データバス29等に接続されている。これにより、第3のECU54は、車両データバス29を介して第1のECU27と第2のECU35とに接続されている。さらに、第3のECU54は、電源ライン30と接続され、該電源ライン30を通じてバッテリ31からの電力が給電される。
第3のECU54に接続された回生制動装置としてのモータ・ジェネレータ(M・G)57は、車両の加速時等に車両を走行させるための駆動を行い、車両の減速時等に車両の慣性力に基づいて発電(回生)を行う電動モータ(発電電動機)として構成されている。即ち、モータ・ジェネレータ57は、例えば車両の蓄電装置(図示せず)に蓄電された電力に基づいて車両を走行するためのトルク(回転力)を発生するモータ(電動機)としての役目と、車両の走行慣性力に基づいて発電を行うジェネレータ(発電機)としての役目とを有するものである。なお、図1では、車両の駆動源としてモータ・ジェネレータ57のみを表しているが、例えば電気自動車であればモータ・ジェネレータ57が走行用の駆動源となり、ハイブリッド自動車であればモータ・ジェネレータ57と図示しないエンジン(内燃機関)とが走行用の駆動源となる。
次に、図3を参照して本実施の形態による回生協調制御について説明する。ここで、回生協調制御とは、減速時および制動時等に、車両の慣性力に基づいてモータ・ジェネレータ57を回転させることにより運動エネルギを電力として回収(回生)すると共に、運転者のブレーキ操作に対し、モータ・ジェネレータ57の回生による制動力(回生制動力)を差引いて摩擦制動装置6の摩擦ライニングによる制動力(摩擦制動力)を調整することにより、これらの両制動力で車両全体として所望の制動力を得るようにするブレーキ制御である。
ここで、図3では、図1および図2で3つのECU(制御装置)として表された第1,第2,第3のECU27,35,54を、1つの回生協調ブレーキ制御装置58として表している。即ち、図3の回生協調ブレーキ制御装置58は、図1および図2の第1,第2,第3のECU27,35,54を含んで構成したものとして表している。ただし、回生協調ブレーキ制御装置58で行う制御(処理)は、何れか1のECU(例えば第1のECU27または第3のECU54)で行う構成としてもよいし、第1,第2,第3のECU27,35,54で分担して(協働して)行う構成としてもよい。要は、少なくとも何れかのECU27,35,54で、図3の回生協調ブレーキ制御装置58が行う制御(処理)を実現できるように構成する。
また、図3では、図1および図2の電動倍力装置17とESC33とを、1つのブレーキアクチュエータ59として表している。即ち、図3のブレーキアクチュエータ59は、図1および図2の電動倍力装置17とESC33とを含んで構成したものとして表している。ただし、ブレーキアクチュエータ59は、例えば、摩擦制動装置6の摩擦ライニングを押付ける力(に対応する液圧)を制御(調整)するものあればよく、例えば、ESC33を省略して電動倍力装置17のみにより構成してもよいし、逆に、電動倍力装置17を省略してESC33のみにより構成してもよい。
図3の回生協調ブレーキ制御装置58は、摩擦制動装置6の摩擦ライニングによる摩擦制動力(摩擦制動トルク)とモータ・ジェネレータ57による回生制動力(回生制動トルク)との配分を制御するものである。本実施の形態では、摩擦制動装置6の摩擦ライニングによる摩擦制動力を、車両の速度(車速V)の変化に伴う摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化に対応できるように構成している。このために、本実施の形態では、図3に示すように、回生協調ブレーキ制御装置58は、目標制動トルク算出部60と、回生協調制御部61と、車両制御部62と、パッドμ補正項算出部63と、補正演算部64と、摩擦液圧変換部65とにより大略構成している。
目標制動トルク指令値演算手段としての目標制動トルク算出部60は、操作量検出センサ8に接続され、該操作量検出センサ8からブレーキペダル7の踏込み操作量であるストローク量が入力される。目標制動トルク算出部60は、ブレーキペダル7の操作(ストローク量)に基づき、目標制動トルク指令値としての目標制動トルクTtを演算するものである。
具体的には、目標制動トルク算出部60は、操作量検出センサ8が出力するストローク量に応じた液圧を算出する。この液圧は、モータ・ジェネレータ57により得られる制動力(回生制動力)を0とした場合における、摩擦制動装置6で発生させるべき摩擦制動力(=車両全体の制動力)に対応する液圧である。ここで、回生制動力が0となる場合は、例えば、蓄電装置が満充電で制動を行うとき、高速走行中に制動を行うとき、極低速走行中に制動を行うとき等が挙げられる。
目標制動トルク算出部60では、回生制動力を0とした場合の液圧に基づいて、運転者が意図する車両の減速度に対応する目標減速度を算出し、この目標減速度に基づいて、その減速度を得るために必要な目標制動トルクTtを算出する。なお、ストローク量と液圧と目標減速度と目標制動トルクTtとの対応関係は、予め実験、シミュレーション、計算等によりマップ、計算式等として作成し、目標制動トルク算出部60(より具体的には、回生協調ブレーキ制御装置58のメモリ)に記憶させておく。目標制動トルク算出部60は、このようなマップ、計算式等に基づいて、ブレーキペダル7のストローク量から目標制動トルクTtを演算する。
制動トルク配分手段としての回生協調制御部61は、その入力側が目標制動トルク算出部60に接続され、目標制動トルク算出部60から目標制動トルクTtが入力される。また、回生協調制御部61の出力側は、車両制御部62と補正演算部64とに接続されている。回生協調制御部61は、車両の回生制動装置状態(モータ・ジェネレータ57の回生状態)に基づいて、目標制動トルクTtを、回生制動トルク指令値としての回生制動トルク(要求回生トルクないし実行回生トルクTr)と摩擦制動トルク指令値としての摩擦制動トルクTaに配分する演算を行うものである。
具体的には、回生協調制御部61は、目標制動トルクTtに基づいて、車両全体としての制動力が目標制動トルクTtとなるように、モータ・ジェネレータ57の回生に伴う回生制動トルクと摩擦制動装置6による摩擦制動トルクTaとに配分する演算を行う。換言すれば、回生協調制御部61は、モータ・ジェネレータ57による回生を行いつつ、この回生による回生制動トルクと摩擦制動装置6による摩擦制動トルクTaとにより運転者が意図する車両の減速度を得られように、目標制動トルクTtから回生制動トルクを差引くことにより、摩擦制動トルクTaを算出する。
ここで、回生協調制御部61では、まず、目標制動トルク算出部60で算出されたそのときの目標制動トルクTtに対応した要求回生トルクを算出する。この要求回生トルクは、そのときの目標制動トルクTtに応じて定まる、モータ・ジェネレータ57から得るべき(ないし、得られると予測される)回生トルクである。目標制動トルクTtと要求回生トルクとの関係は、予め実験、シミュレーション、計算等によりマップ、計算式等として作成し、回生協調制御部61(より具体的には、回生協調ブレーキ制御装置58のメモリ)に記憶させておく。回生協調制御部61では、このようなマップ、計算式等に基づいて、目標制動トルクTtから要求回生トルクを算出する。
回生協調制御部61は、算出した要求回生トルクを、車両制御部62に出力する。車両制御部62は、モータ・ジェネレータ57で要求回生トルクが得られるように、モータ・ジェネレータ57を制御すると共に、実際にモータ・ジェネレータ57で発生した回生トルクである実行回生トルクTrを回生協調制御部61に出力する。回生協調制御部61では、目標制動トルクTtから実行回生トルクTrを差引くことにより、摩擦制動トルクTaを算出する。即ち、回生協調制御部61では、下記数1式に基づいて、摩擦制動トルクTaを算出する。そして、回生協調制御部61で算出された摩擦制動トルクTaは、後述の補正演算部64に出力する。
パッドμ補正項算出部63は、補正演算部64と共に摩擦制動トルク指令値補正手段を構成するものである。即ち、パッドμ補正項算出部63と補正演算部64は、車両の速度(車速V)に対する摩擦制動装置6の摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変動特性を記憶し、車速センサ56で検出される車速に応じたその変動特性により摩擦制動トルクTaを補正するものである。ここで、パッドμ補正項算出部63は、その入力側が車速センサ56に接続され、車速センサ56から車両の速度である車速Vが入力される。パッドμ補正項算出部63(より具体的には、回生協調ブレーキ制御装置58のメモリ)には、車速Vに対応した摩擦制動装置6の摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変動特性が記憶されている。即ち、パッドμ補正項算出部63には、図5に示す車速Vとその車速Vに対応する実際の摩擦係数(パッドμ)との関係(変動特性)を表す特性線66に基づいて算出された、図6に特性線67で示す車速Vと補正項Hとの関係が記憶されている。
ここで、図6の補正項Hの特性線67は、図5で得られる実際のパッドμ(特性線66)が、後述する摩擦液圧変換部65で想定されているパッドμ(図5で破線で表された特性線68)の何倍になるかを示す値である。即ち、図6の補正項Hの特性線67は、図5で得られる実際のパッドμ(特性線66)のそれぞれの値を摩擦液圧変換部65で想定されているパッドμの値(特性線68)で割ることにより算出したものである。
パッドμ補正項算出部63と共に摩擦制動トルク指令値補正手段を構成する補正演算部64は、その入力側が回生協調制御部61とパッドμ補正項算出部63とに接続され、回生協調制御部61からはそのときの摩擦制動トルクTaが入力され、パッドμ補正項算出部63からはそのときの車速Vに応じた摩擦係数(パッドμ)に対応する補正項Hが入力される。補正演算部64は、車速Vと摩擦係数(パッドμ)との変動特性に基づいて、摩擦制動トルクTaをそのときの車速Vに応じて補正するものである。具体的には、補正演算部64は、そのときの摩擦制動トルクTaに、そのときの車速V応じた補正項Hの逆数H−1を乗じ、この値(H−1・Ta)を、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)として摩擦液圧変換部65に出力する。
摩擦制動トルク制御手段としての摩擦液圧変換部65は、回生協調制御部61により配分される摩擦制動トルクTaに基づいて摩擦制動装置6(ホイールシリンダ4L,4R、5L,5R)を制御するものである。このために、摩擦液圧変換部65では、摩擦制動トルクTaに基づいて、この摩擦制動トルクTaを摩擦制動装置6で得るために必要な液圧(摩擦ライニングを押付ける液圧)に対応する液圧指令値Pを算出し、この液圧指令値Pをブレーキアクチュエータ59に出力する。この場合、摩擦制動トルクTaとそれに必要な液圧に対応する液圧指令値Pとの対応関係は、摩擦制動装置6の摩擦ライニングの摩擦係数が、図5でCの値(特性線68)とした場合における対応関係として、予め実験、シミュレーション、計算等によりマップ、計算式等として作成し、摩擦液圧変換部65(より具体的には、回生協調ブレーキ制御装置58のメモリ)に記憶させておく。
本実施の形態では、車速Vに応じて変化する摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化に対応すべく、回生協調制御部61から出力される摩擦制動トルクTaは、補正演算部64で補正項Hの逆数H−1が乗じられ、摩擦液圧変換部65には、「車速Vに応じて補正された摩擦制動トルクTa」である補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)が入力される。そして、摩擦液圧変換部65では、上記マップ、計算式等に基づいて、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)から液圧指令値Pが算出され、該液圧指令値Pが摩擦液圧変換部65からブレーキアクチュエータ59に出力される。ブレーキアクチュエータ59では、摩擦制動装置6のホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給される液圧が液圧指令値Pとなるように、例えば電動倍力装置17の電動モータ22を駆動する。従って、ホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rには、そのときの車速Vに応じて補正された摩擦制動トルク、即ち、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)を発生させるために必要な液圧が供給され、摩擦制動装置6では、その液圧に応じた摩擦制動力である実摩擦制動トルクTfが発生する。
ここで、車速Vに応じた補正を行わない場合は、摩擦制動装置6には、摩擦制動トルク(Ta)を発生させるための液圧が供給される。この場合、車速Vに応じて変化する摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化を考慮すると、実際に摩擦制動装置6で発生する実摩擦制動トルクTfは、摩擦制動トルクTaのH倍、即ち、Tf=Ta×Hとなる。これに対し、本実施の形態の場合には、摩擦制動装置6には、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)を発生させるための液圧が供給されるから、実際に摩擦制動装置6で発生する実摩擦制動トルクTfは、下記の数2式で表せる。
即ち、本実施の形態では、車速Vに応じて変化する摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化の影響が消去され、これにより、摩擦制動装置6では、回生協調制御部61から指令値として出力される摩擦制動トルクTaを、実摩擦制動トルクTfとして発生させることができる。そして、車両全体としての総制動トルクは、下記数3式で算出される。
即ち、総制動トルク=目標制動トルクとなり、車速Vによる摩擦係数(パッドμ)の変化の影響を受けずに車両全体の制動力(総制動トルク)を所望の制動力(目標制動トルク)として得ることができる。
第1の実施の形態によるブレーキ制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両の運転者がブレーキペダル7を踏込み操作すると、これにより入力ピストン20が矢示A方向に押込まれると共に、操作量検出センサ8からの検出信号が第1のECU27を含んで構成される回生協調ブレーキ制御装置58に入力される。回生協調ブレーキ制御装置58は、ブレーキペダル7のストローク量に対応した運転者が意図する制動力(車両全体としての制動力)からモータ・ジェネレータ57の回生による制動力(回生制動力)を差引いた、摩擦制動装置6で発生すべき制動力(摩擦制動力)を演算し、この制動力を得るために必要な液圧指令値Pに基づいて、電動モータ22への給電を行い、該電動モータ22を回転駆動する。
電動モータ22の回転は、減速機構24を介して筒状回転体23に伝えられると共に、筒状回転体23の回転は、直動機構25によりブースタピストン19の軸方向変位に変換される。これにより、電動倍力装置17のブースタピストン19は、マスタシリンダ9のシリンダ本体10内に向けて前進方向に変位し、ブレーキペダル7から入力ピストン20に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ21からブースタピストン19に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ9の第1,第2の液圧室12A,12B内に発生する。
次に、各車輪(前輪2L,2Rおよび後輪3L,3R)側のホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rとマスタシリンダ9との間に設けられたESC33は、電動倍力装置17によりマスタシリンダ9(第1,第2の液圧室12A,12B)内に発生したマスタシリンダ圧としての液圧を、シリンダ側液圧配管16A,16BからESC33内の液圧系統36,36′およびブレーキ側配管部34A,34B,34C,34Dを介してホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rへと可変に制御しつつ、車輪毎のホイールシリンダ圧として分配して供給する。これにより、車両の車輪(各前輪2L,2R、各後輪3L,3R)毎にホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rを介して適正な制動力が付与される。
また、ESC33を制御する第2のECU35は、信号線28を通じて受け取る操作量検出センサ8からの検出信号等に基づいて、電動モータ48に給電して液圧ポンプ47,47′を作動し、各制御弁40,40′,41,41′,42,42′,45,45′,46,46′,53,53′を選択的に開,閉弁する。これにより、制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御、車両安定化制御、坂道発進補助制御、トラクション制御、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等を実行することができる。
ところで、摩擦制動装置6の摩擦ライニングの摩擦係数の変化要因の一つとして、例えば、摩擦ライニングの温度がある。このため、そのままでは、回生協調制御のときに、摩擦制動力が想定よりも大きくなり、制動フィーリングが変動するという問題がある。ここで、摩擦ライニングの温度変化を検出し、この温度変化を監視し続け、監視した温度変化に応じて摩擦制動力を補正することが考えられる。しかしながら、この場合、摩擦ライニングの温度を直接検出することは、困難であり、温度を摩擦ライニングの押付力や押付時間等を基に演算して推定することになる。この場合、検出ロスや演算の煩雑さ等による制御遅れの虞があり、制動フィーリングの変動を十分に抑制することが難しい。
一方、摩擦ライニングの摩擦係数の変化要因としては、車両の速度(車速V)がある。即ち、図5に特性線66で示すように、摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)は、車速Vに応じて変化するようになっている。そこで、本実施の形態では、上述したように、回生協調ブレーキ制御装置58は、パッドμ補正項算出部63と補正演算部64とを有する構成とし、摩擦ライニングによる摩擦制動力(摩擦制動トルク)を、車両の速度(車速V)の変化に伴う摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化に対応できるように構成している。
次に、運転者がブレーキペダル7を操作したときに、回生協調ブレーキ制御装置58で行われる回生協調制御処理について、図4の流れ図を用いて説明する。
運転者が車両走行中にブレーキペダル7を操作することにより、図4の処理動作がスタートすると、回生協調ブレーキ制御装置58は、ステップ1に先立って、目標制動トルク算出部60にて、目標制動トルクTtを算出する。即ち、操作量検出センサ8によるストローク量に基づいて、摩擦制動装置6で発生させるべき摩擦制動力(=車両全体の制動力)に対応する液圧を算出し、該液圧から、運転者が意図する車両の減速度に対応する目標減速度を算出し、この目標減速度に基づいて、その減速度を得るために必要な目標制動トルクTtを算出する。この場合の目標制動トルクTt(液圧、目標減速度)は、回生制動装置であるモータ・ジェネレータ57により得られる制動トルク(回生制動トルク)を0とした場合における、摩擦制動装置6で発生させるべき摩擦制動トルク(=車両全体の制動トルク)に対応する目標制動トルクTt(液圧、目標減速度)である。
目標制動トルクTtを算出したならば、ステップ1では、回生協調制御部61にて、目標制動トルクTtから、その目標制動トルクTtに応じた要求回生トルクを算出する。続くステップ2では、回生協調制御部61から車両制御部62に要求回生トルクを入力する。これにより、車両制御部62によってモータ・ジェネレータ57が制御され、回生トルクが発生する。続くステップ3では、実際に発生した回生トルクである実行回生トルクTrを、車両制御部62から回生協調制御部61に入力する。そして、ステップ4では、回生協調制御部61にて、摩擦制動トルク指令値である摩擦制動トルクTaを、目標制動トルクTtと実行回生トルクTrを用いて上述した数1式より算出する。
続くステップ5では、パッドμ補正項算出部63にて、図6の特性線に基づいて現在の車速Vに対応する補正項Hを算出し、補正演算部64にて、この補正項Hの逆数H−1を摩擦制動トルクTaに乗じる。そして、このように補正項Hの逆数H−1を乗じることにより補正した補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)を摩擦液圧変換部65に入力する。
続いて、ステップ6では、摩擦液圧変換部65にて、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)から液圧指令値Pを算出し、ブレーキアクチュエータ59に出力する。ブレーキアクチュエータ59では、摩擦制動装置6のホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給される液圧が液圧指令値Pとなるように、例えば電動倍力装置17の電動モータ22を駆動(制御)する。これにより、続くステップ7で、ブレーキアクチュエータ59により発生した液圧が摩擦制動装置6のホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給され、摩擦制動装置6で摩擦制動トルクTfが発生する。
この場合、摩擦制動装置6には、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)を発生させるための液圧が供給されるから、実際に摩擦制動装置6で発生する実摩擦制動トルクTfは、上述した数2式となる。そして、車両全体としての総制動トルクは、上述した数3式となる。
かくして、第1の実施の形態によれば、回生協調ブレーキ制御装置58は、パッドμ補正項算出部63と補正演算部64とにより、目標制動トルク指令値(目標制動トルクTt)から配分された摩擦制動トルク指令値(摩擦制動トルクTa)を、車速Vに対する摩擦ライニングの摩擦係数の変動特性(補正項H)により補正する構成としている。このため、摩擦ライニングによる摩擦制動力(実際に摩擦制動装置6で発生する実摩擦制動トルクTf)を、車速Vの変化に伴う摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化に応じて調整することができる。これにより、摩擦ライニングの摩擦係数の変化に伴う制動フィーリングの変動を抑制することができる。この場合、摩擦ライニングによる摩擦制動力(実際に摩擦制動装置6で発生する実摩擦制動トルクTf)の調整を、車速Vに応じて行う構成としているため、摩擦ライニングの温度に応じて摩擦制動力を調整する構成に比べ、検出ロス等による制御遅れを抑制することができる。これにより、制動フィーリングの変動を高次元で抑制することができ、制動時の操作性を向上することができる。
次に、図7および図8は本発明の第2の実施の形態を示している。上述した第1の実施の形態では、目標制動トルク指令値(目標制動トルクTt)から配分された摩擦制動トルク指令値(摩擦制動トルクTa)を、車速に応じて補正する構成としている。この構成の場合は、摩擦制動装置6のみで制動する場合、即ち、回生制動トルク指令値が0(即ち、実行回生トルクTr=0)であり、目標制動トルク指令値=摩擦制動トルク指令値(即ち、目標制動トルクTt=摩擦制動トルクTa)となる場合に、摩擦制動トルク指令値(摩擦制動トルクTa)が車速に応じて補正されることにより、同一ストロークに対する液圧が車速Vに応じて変動する虞がある。即ち、摩擦制動装置6のみで制動する場合に、ブレーキペダル7をストローク一定で踏込むと、車両の減速度は変化しないが、車速Vの変化に応じて摩擦制動トルク指令値(摩擦制動トルクTa)が補正項Hの逆数(H−1)にて補正されることにより液圧指令値Pが変動し、ブレーキペダル7の反力が変動する虞がある。これにより、制動フィーリングが変動する虞がある。
そこで、本実施の形態の場合は、目標制動トルク指令値(目標制動トルクTt)を、摩擦制動トルク指令値(摩擦制動トルクTa)を補正する補正値(H−1)の逆数の関係となる値(H)で補正する構成としている。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付すと共に、その説明は、第1の実施の形態と相違する部分を中心に行う。
本実施の形態の回生協調ブレーキ制御装置71は、目標制動トルク算出部60と、第1の補正演算部72と、回生協調制御部61と、車両制御部62と、パッドμ補正項算出部63と、第2の補正演算部73と、摩擦液圧変換部65とにより構成している。
第1の補正演算部72は、その入力側が目標制動トルク算出部60とパッドμ補正項算出部63とに接続され、目標制動トルク算出部60からはそのときの目標制動トルクTtが入力され、パッドμ補正項算出部63からはそのときの車速Vに応じた摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)に対応する補正項Hが入力される。第1の補正演算部72は、車速Vと摩擦係数(パッドμ)との変動特性に基づいて、目標制動トルクTtをそのときの車速Vに応じて補正する。具体的には、第1の補正演算部72は、そのときの目標制動トルクTtに、そのときの補正項Hを乗じ、この値(H・Tt)を、補正目標制動トルク(H・Tt)として回生協調制御部61に出力する。この場合、後述する第2の補正演算部73では、摩擦制動トルクTaを補正する補正値が補正項Hの逆数H−1であるのに対して、第1の補正演算部72では、目標制動トルクTtを補正する補正値を補正項Hとしている。即ち、第1の補正演算部72では、目標制動トルクTtを、摩擦制動トルクTaを補正する補正値(H−1)の逆数となる補正値(H)で補正している。
第1の補正演算部72と接続された回生協調制御部61には、第1の補正演算部72から補正目標制動トルク(H・Tt)が入力される。回生協調制御部61は、車両の回生制動装置状態(モータ・ジェネレータ57の回生状態)に基づいて、補正目標制動トルク(H・Tt)を回生制動トルク指令値としての回生制動トルク(実行回生トルクTr)と摩擦制動トルク指令値としての摩擦制動トルクTaに配分する演算を行う。
具体的には、回生協調制御部61では、補正目標制動トルク(H・Tt)から実行回生トルクTrを差引くことにより、摩擦制動トルクTaを算出する。即ち、回生協調制御部61では、下記数4式に基づいて、摩擦制動トルクTaを算出する。そして、回生協調制御部61で算出された摩擦制動トルクTaは、後述の第2の補正演算部73に出力される。
第2の補正演算部73は、車速Vと摩擦係数(パッドμ)との変動特性に基づいて、摩擦制動トルクTaをそのときの車速Vに応じて補正する。具体的には、第2の補正演算部73は、そのときの摩擦制動トルクTaに、そのときの補正項Hの逆数H−1を乗じ、この値(H−1・Ta)を、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)として摩擦液圧変換部65に出力する。即ち、第2の補正演算部73から摩擦液圧変換部65には、下記数5式に基づいて、補正摩擦制動トルクが出力される。
ここで、摩擦制動装置6のみで制動する場合、即ち、回生制動トルク(実行回生トルクTr)が0の場合(Tr=0)を考えると、この場合は、上記数5式から、摩擦液圧変換部65に入力される補正摩擦制動トルクは、目標制動トルクTtとなる。即ち、車速Vに基づいて補正項Hが変化しても、補正摩擦制動トルクは目標制動トルクTtとなる。このため、ブレーキペダル7のストローク量が一定であれば、一定の補正摩擦制動トルク(Tt)となり、摩擦液圧変換部65で算出される液圧指令値Pも一定となる。このため、摩擦制動装置6のみの制動で、ブレーキペダル7を一定ストローク量で踏込んだ場合、車両の減速度を一定としつつブレーキペダル7の反力も一定とすることができる。これにより、この面からも、制動フィーリングの変動を抑制することができる。
次に、運転者がブレーキペダル7を操作したときに、回生協調ブレーキ制御装置71で行われる回生協調制御処理について、図8の流れ図を用いて説明する。
運転者が車両走行中にブレーキペダル7を操作することにより、図8の処理動作がスタートすると、回生協調ブレーキ制御装置71は、ステップ21に先立って、目標制動トルク算出部60にて、目標制動トルクTtを算出する。この目標制動トルクTtの算出は、上述した第1の実施の形態で行う目標制動トルクTtの算出と同様である。
目標制動トルクTtを算出したならば、ステップ21では、第1の補正演算部72にて、パッドμ補正項算出部63で算出した補正項Hを目標制動トルクTtに乗じた値を、補正目標制動トルク(H・Tt)として回生協調制御部61に入力する。
続くステップ22では、回生協調制御部61にて、補正目標制動トルク(H・Tt)から、その補正目標制動トルク(H・Tt)に応じた要求回生トルクを算出する。次いで、ステップ23では、回生協調制御部61から車両制御部62に要求回生トルクを入力する。これにより、車両制御部62によりモータ・ジェネレータ57が制御され、回生トルクが発生する。続くステップ24では、実際に発生した回生トルクである実行回生トルクTrを、車両制御部62から回生協調制御部61に入力する。そして、ステップ25では、回生協調制御部61にて、摩擦制動トルク指令値である摩擦制動トルクTaを、補正目標制動トルク(H・Tt)と実行回生トルクTrを用いて上述した数4式より算出する。
続くステップ26では、第2の補正演算部73にて、パッドμ補正項算出部63で算出した補正項Hの逆数H−1を摩擦制動トルクTaに乗じる。そして、このように補正項Hの逆数H−1を乗じることにより補正した補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)を摩擦液圧変換部65に入力する。
続いて、ステップ27では、摩擦液圧変換部65にて、補正摩擦制動トルク(H−1・Ta)から液圧指令値Pを算出し、ブレーキアクチュエータ59に出力する。ブレーキアクチュエータ59では、摩擦制動装置6のホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給される液圧が液圧指令値Pとなるように、例えば電動倍力装置17の電動モータ22が駆動(制御)される。これにより、続くステップ28で、ブレーキアクチュエータ59により発生した液圧がホイールシリンダ4L,4R、5L,5Rに供給され、摩擦制動装置6で摩擦制動トルクTfが発生する。
ここで、実摩擦制動トルクTfは、前述の数2式となる。そして、車両全体としての総制動トルクは、下記数式6式となる。
即ち、総制動トルクは、実行回生トルクTrと無関係の式で表現できるので、回生協調制動時と回生を伴わない摩擦制動時との両方で、車両の減速度の変動は、Hの変動が関連することになる。従って、例えば、制動中に、回生協調制動から摩擦制動(回生を伴わない摩擦のみによる制動)に切換える(すり替える)ときに、この切換え(すり替え)を行う車速を、補正項Hが同じなる車速、もしくは、減速度の変動を小さく抑えることができるような補正項Hの差になる車速にすれば、切換え(すり替え)の前後での減速度の変化を抑制することができる。
さらに、上述の数5式から明らかなように、摩擦制動装置6のみで制動する場合、即ち、回生制動トルク(実行回生トルクTr)が0の場合は、補正摩擦制動トルクが目標制動トルクTtとなり、ブレーキペダル7のストロークを一定とすれば、摩擦液圧変換部65で算出される液圧指令値Pも一定となる。このため、ブレーキペダル7の一定ストロークに対する液圧の変動を抑制することができ、ブレーキペダル7の反力が変動することを抑制することができる。
かくして、このように構成される第2の実施の形態においても、上述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、目標制動トルク指令値である目標制動トルクTtは、摩擦制動トルク指令値である摩擦制動トルクTaを補正する補正値(H−1)の逆数の関係となる値(H)で補正する構成としている。このため、摩擦制動装置6のみによる制動(モータ・ジェネレータ57による制動力が0の制動)で、ブレーキペダル7を一定のストローク量で踏込んだ場合に、車両の減速度を一定としつつブレーキペダル7の反力も一定とすることができる。これにより、摩擦制動装置6のみの制動のときの車速Vの変化による制動フィーリングの変動を抑制することができる。しかも、回生協調制動から摩擦制動(回生を伴わない摩擦のみによる制動)に切換える(すり替える)ときに、この切換え(すり替え)を行う車速Vを、補正値の補正項Hとの関係で減速度が小さくなるように設定することにより、切換え(すり替え)の前後での減速度の変化を抑制することができる。
なお、上述した各実施の形態では、電気自動車やハイブリッド自動車等の四輪自動車のブレーキ制御装置に適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば鉄道車両等の自動車以外の車両のブレーキ制御装置に適用してもよい。
以上の実施の形態によれば、摩擦ライニングの摩擦係数の変化に伴う制動フィーリングの変動を抑制することができる。
即ち、摩擦制動トルク指令値補正手段は、目標制動トルク指令値から配分された摩擦制動トルク指令値を、車両の速度に対する摩擦ライニングの摩擦係数の変動特性により補正する構成としている。このため、摩擦ライニングによる摩擦制動力を、車両の速度の変化に伴う摩擦ライニングの摩擦係数(パッドμ)の変化に応じて調整することができる。これにより、摩擦ライニングの摩擦係数の変化に伴う制動フィーリングの変動を抑制することができる。この場合、摩擦ライニングによる摩擦制動力の調整を車両の速度に応じて行う構成としているため、摩擦ライニングの温度に応じて摩擦制動力を調整する構成に比べ、検出ロス等による制御遅れを抑制することができる。これにより、制動フィーリングの変動を高次元で抑制することができ、制動時の操作性を向上することができる。
実施の形態によれば、目標制動トルク指令値は、摩擦制動トルク指令値を補正する補正値の逆数の関係となる値で補正する構成としている。このため、摩擦制動装置のみによる制動(回生制動装置による制動力が0の制動)で、ブレーキ操作部材を一定の操作量とした場合に、車両の減速度を一定としつつブレーキ操作部材の反力も一定とすることができる。これにより、摩擦制動装置のみの制動のときの車両の速度の変化による制動フィーリングの変動を抑制することができる。しかも、回生協調制動から摩擦制動(回生を伴わない摩擦のみによる制動)に切換える(すり替える)ときに、この切換え(すり替え)を行う車両の速度を、補正値との関係で減速度が小さくなるように設定することにより、切換え(すり替え)の前後での減速度の変化を抑制することができる。
また、上記実施の形態においては、摩擦材(摩擦ライニング)を車輪回転体に押圧する摩擦制動と、車輪に接続された回生機構による回生制動とで車両の制動を協調して行う回生協調制御における前記摩擦制動の摩擦材押圧力の制御方法において、ブレーキ操作によって指示される目標制動トルクを前記摩擦制動トルクと前記回生制動トルクとに配分したのち、前記摩擦制動トルクから前記車両の速度に応じた前記摩擦材の摩擦係数に基づいて前記車両の速度が停止状態に近づくほど減少するように前記摩擦材押圧力を算出して前記摩擦材の押圧による前記摩擦制動を制御する摩擦制動の摩擦材押圧力の制御方法、という概念を含んでいる。
さらに、上記実施の形態においては、摩擦材を車輪回転体に押圧する摩擦制動と、車輪に接続された回生機構による回生制動とで車両の制動を協調して行う回生協調制御における前記摩擦制動の摩擦材押圧力の制御方法において、ブレーキ操作によって指示される目標制動トルクを前記車両の速度に応じた前記摩擦材の摩擦係数に基づいて前記車両の速度が停止状態に近づくほど増加させてから前記摩擦制動トルクと前記回生制動トルクとに配分し、配分した前記摩擦制動トルクから前記車両の速度に応じた前記摩擦材の摩擦係数に基づいて前記車両の速度が停止状態に近づくほど減少するように前記摩擦材押圧力を算出して前記摩擦材の押圧による前記摩擦制動を制御する摩擦制動の摩擦材押圧力の制御方法、という概念を含んでいる。