以下、本発明の実施の形態によるブレーキ装置を、四輪自動車に搭載されるブレーキ装置を例に挙げて、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図5は本発明の実施の形態に係るブレーキ装置を示している。図1において、左,右の前輪1L,1Rと左,右の後輪2L,2Rとは、車両のボディを構成する車体(図示せず)の下側に設けられている。左,右の前輪1L,1Rには、それぞれ前輪側ホイールシリンダ3L,3Rが設けられ、左,右の後輪2L,2Rには、それぞれ後輪側ホイールシリンダ4L,4Rが設けられている。
これらのホイールシリンダ3L,3R、4L,4Rは、液圧式のディスクブレーキまたはドラムブレーキのシリンダを構成し、夫々の車輪(前輪1L,1R及び後輪2L,2R)毎に制動力を付与するものである。
ブレーキペダル5は車体のフロントボード(図示せず)側に設けられ、該ブレーキペダル5は、車両のブレーキ操作時に運転者によって図1中の矢示A方向に踏込み操作される。ブレーキペダル5には、ペダル戻しばね5Aとブレーキスイッチ6とブレーキセンサ7が設けられている。このペダル戻しばね5Aは、図1中の矢示B方向に向かうばね力Frをブレーキペダル5に付与して、ブレーキペダル5を初期位置に向けて付勢するものである。ブレーキスイッチ6は、車両のブレーキ操作の有無を検出して、例えばブレーキランプ(図示せず)を点灯,消灯させる。
また、ブレーキセンサ7は、例えばブレーキペダル5のストローク量(ペダルストロークS)を検出するストロークセンサによって構成されている。なお、ブレーキセンサ7は、少なくともブレーキペダル5の位置(後述の入力ロッド18の位置)または踏込み操作量である変化量(ストローク量)が検出可能なものであればよい。ブレーキセンサ7は、入力ロッド18の変位センサを含む複数の位置センサと、運転者によるブレーキペダル5のペダル踏力Fpを検出する力センサを含むものでもよい。ブレーキセンサ7は、その検出信号を後述のECU27,32及び車両データバス29等に出力する。ブレーキペダル5の踏込み操作により、マスタシリンダ8には後述の電動倍力装置16を介してブレーキ液圧Pが発生する。
マスタシリンダ8は、タンデム型マスタシリンダにより構成され、一側が開口端となり他側が底部となって閉塞された有底筒状のシリンダ本体9を有している。このシリンダ本体9には、後述のリザーバ14内に連通するリザーバポート14A,14Bが設けられている。第1のリザーバポート14Aは、後述するブースタピストン19の摺動変位により第1の液圧室11Aに対して連通,遮断される。一方、第2のリザーバポート14Bは後述する第2のピストン10により第2の液圧室11Bに対して連通,遮断される。
このシリンダ本体9は、その開口端側が後述する電動倍力装置16のブースタハウジング17に複数の取付ボルト(図示せず)等を用いて着脱可能に固着されている。マスタシリンダ8は、シリンダ本体9と、第1のピストン(後述の入力ロッド18とブースタピストン19)及び第2のピストン10と、第1の液圧室11Aと、第2の液圧室11Bと、第1の戻しばね12と、第2の戻しばね13とを含んで構成されている。
この場合、マスタシリンダ8において、前記第1のピストンが後述の入力ロッド18とブースタピストン19とにより構成されている。また、シリンダ本体9内に形成される第1の液圧室11Aは、第2のピストン10とブースタピストン19(及び入力ロッド18)との間に画成されている。第2の液圧室11Bは、シリンダ本体9の底部と第2のピストン10との間でシリンダ本体9内に画成されている。
第1の戻しばね12は、第1の液圧室11A内に位置してブースタピストン19と第2のピストン10との間に配設され、ブースタピストン19をシリンダ本体9の開口端側に向けて付勢している。第2の戻しばね13は、第2の液圧室11B内に位置してシリンダ本体9の底部と第2のピストン10との間に配設され、第2のピストン10を第1の液圧室11A側に向けて付勢している。
マスタシリンダ8のシリンダ本体9は、ブレーキペダル5の踏込み操作に応じてブースタピストン19(及び入力ロッド18)と第2のピストン10とがシリンダ本体9の底部に向かって変位し、リザーバポート14A,14Bを遮断したときに、第1,第2の液圧室11A,11B内のブレーキ液によりブレーキ液圧Pを発生させる。一方、ブレーキペダル5の操作を解除した場合には、ブースタピストン19(及び入力ロッド18)と第2のピストン10とが第1,第2の戻しばね12,13によりシリンダ本体9の開口部に向かって矢示B方向に変位していくときに、リザーバ14からブレーキ液の補給を受けながら第1,第2の液圧室11A,11B内の液圧を解除していく。
マスタシリンダ8のシリンダ本体9には、ブレーキ液タンクとしてのリザーバ14が設けられ、該リザーバ14の内部にはブレーキ液が収容されている。リザーバ14は、シリンダ本体9内の各液圧室11A,11Bにブレーキ液を給排するための容器である。即ち、第1のリザーバポート14Aがブースタピストン19により第1の液圧室11Aに連通され、第2のリザーバポート14Bが第2のピストン10により第2の液圧室11Bに連通されている間は、これらの液圧室11A,11B内にリザーバ14内のブレーキ液が給排される。
一方、第1のリザーバポート14Aがブースタピストン19により第1の液圧室11Aに遮断され、第2のリザーバポート14Bが第2のピストン10により第2の液圧室11Bから遮断されたときには、これらの液圧室11A,11Bに対するリザーバ14内のブレーキ液の給排が断たれる。このため、マスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内には、ブレーキ操作に伴ってブレーキ液圧Pが発生する。このブレーキ液圧Pは、例えば一対のシリンダ側液圧配管15A,15Bを介して後述のホイール圧制御機構31(即ち、ESC)に送られる。
車両のブレーキペダル5とマスタシリンダ8との間には、ブレーキペダル5の操作力を増大させるブースタとしての電動倍力装置16が設けられている。該電動倍力装置16は、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧Pを発生させる液圧発生機構を構成し、電動モータ21が作動することでマスタシリンダ8からホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rヘとブレーキ液を供給するものである。この電動倍力装置16は、ブレーキペダル5による後述の入力ロッド18の移動に応じて後述のアクチュエータ20を作動させて、後述のブースタピストン19に推力を発生させ、ブレーキ液圧Pを可変に制御するものである。
電動倍力装置16は、車体のフロントボードである車室前壁(図示せず)に固定して設けられるブースタハウジング17と、該ブースタハウジング17に移動可能に設けられる入力ロッド18と、該入力ロッド18に対して相対移動可能に配置されたピストンとしてのブースタピストン19と、該ブースタピストン19をマスタシリンダ8の軸方向に進退移動させ当該ブースタピストン19にブースタ推力を付与するアクチュエータ20と、反力調整機構としての中立ばね26A,26Bと、後述するマスタ圧制御ユニットとしての第1のECU27とを含んで構成されている。
ブースタハウジング17は、後述の減速機構23等を内部に収容する筒状の減速機ケース17Aと、該減速機ケース17Aとマスタシリンダ8のシリンダ本体9との間に設けられブースタピストン19を軸方向に摺動変位可能に支持した筒状の支持ケース17Bと、減速機ケース17Aを挟んで支持ケース17Bとは軸方向の反対側(軸方向一側)に配置され減速機ケース17Aの軸方向一側の開口を閉塞する段付筒状の蓋体17Cとにより構成されている。減速機ケース17Aの外周側には、後述の電動モータ21を固定的に支持するための支持板17Dが設けられている。
入力ロッド18は、蓋体17C側からブースタハウジング17内に挿入され、後述のブースタピストン19内を第1の液圧室11Aに向けて軸方向に延びている。即ち、この入力ロッド18はブレーキペダル5の操作により進退移動する入力部材を構成している。入力ロッド18の先端側(軸方向他側)端面は、ブレーキ操作時に第1の液圧室11A内に発生する液圧をブレーキ反力として受圧し、入力ロッド18はこれをブレーキペダル5に伝達する。これにより、車両の運転者にはブレーキペダル5を介してブレーキの制動力に応じた適正な踏応えが与えられ、良好なペダルフィーリングを得ることができる。この結果、ブレーキペダル5の操作感を向上することができ、ペダルフィーリングを良好に保つことができる。
ピストンとしてのブースタピストン19は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に開口端側から軸方向に摺動可能に挿嵌された筒状部材により構成されている。ブースタピストン19の内周側には、ブレーキペダル5の操作に従って直接的に押動され、マスタシリンダ8の軸方向(即ち、矢示A,B方向)に進退移動する入力ロッド18が摺動可能に挿嵌されている。ブースタピストン19は、入力ロッド18と一緒にマスタシリンダ8の第1のピストンを構成し、入力ロッド18の後側(一側)端部にはブレーキペダル5が連結されている。シリンダ本体9内は、第2のピストン10とブースタピストン19及び入力ロッド18との間に第1の液圧室11Aが画成されている。
電動倍力装置16のアクチュエータ20は、ブースタハウジング17の減速機ケース17Aに支持板17Dを介して設けられた電動モータ21と、該電動モータ21の回転を減速して減速機ケース17A内の筒状回転体22に伝えるベルト等の減速機構23と、筒状回転体22の回転をブースタピストン19の軸方向変位(進退移動)に変換するボールネジ等の直動機構24とにより構成されている。入力ロッド18とブースタピストン19とは、それぞれの前端部(軸方向他側の端部)をマスタシリンダ8の第1の液圧室11Aに臨ませ、ブレーキペダル5から入力ロッド18に伝わるペダル踏力Fp(推力)とアクチュエータ20からブースタピストン19に伝わるブースタ推力とにより、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧Pを発生させる。
即ち、電動倍力装置16のブースタピストン19は、ブレーキセンサ7の出力(即ち、制動指令)に基づいてアクチュエータ20により駆動され、マスタシリンダ8内にブレーキ液圧Pを発生させるポンプ機構を構成している。また、ブースタハウジング17の支持ケース17B内には、ブースタピストン19を制動解除方向(図1中の矢示B方向)に常時付勢する戻しばね25が設けられている。ブースタピストン19は、ブレーキ操作の解除時に電動モータ21が逆向きに回転されると共に、戻しばね25の付勢力により図1に示す初期位置まで矢示B方向に戻されるものである。
電動モータ21は、例えば三相DCブラシレスモータを用いて構成されている。また、電動モータ21には、レゾルバと呼ばれる回転センサ21A(図1参照)が設けられている。この回転センサ21Aは、電動モータ21(モータ軸)の回転位置(回転角)を検出し、その検出信号をコントロールユニット(以下、第1のECU27という)に出力する。第1のECU27は、この回転位置信号に従って、電動モータ21のフィードバック制御を行う。
また、回転センサ21Aは、検出した電動モータ21の回転位置に基づいて、車体に対するブースタピストン19の絶対変位を検出する回転検出手段としての機能を備えている。さらに、回転センサ21Aはブレーキセンサ7と共に、入力ロッド18とブースタピストン19との相対変位量ΔXを検出する変位検出手段を構成し、これらの検出信号は、第1のECU27に送出される。
なお、前記回転検出手段としては、レゾルバ等の回転センサ21Aに限らず、絶対変位(回転角)を検出できる回転型のポテンショメータ等により構成してもよい。また、減速機構23は、ベルト等に限らず、例えば歯車減速機構等を用いて構成してもよい。また、回転運動を直線運動に変換する直動機構24は、例えばラック−ピニオン機構等により構成することもでき、場合によっては減速機構23を廃止することも可能である。例えば、筒状回転体22に筒状のモータ軸を一体に設け、電動モータのステータを筒状回転体22の周囲に配置して、電動モータにより直接、筒状回転体22を回転させるようにしてもよい。
入力ロッド18とブースタピストン19との間には、一対の中立ばね26A,26Bが介装されている。中立ばね26Aは支持ケース17B内のブレーキペダル5側に設けられ、中立ばね26Bは支持ケース17B内のリザーバ14側に設けられている。各中立ばね26A,26Bは、入力ロッド18とブースタピストン19との軸方向の相対変位量ΔXに応じて、入力ロッド18に対する反力を調整する反力調整機構を構成するものである。
この場合、入力ロッド18とブースタピストン19とは、各中立ばね26A,26Bによって中立位置に弾性的に保持されている。このとき、入力ロッド18には、入力ロッド18とブースタピストン19との軸方向の相対変位量ΔXに応じて、各中立ばね26A,26Bのばね力Fnが作用する(図3参照)。ここで、相対変位量ΔXは、ブレーキペダル5の非操作状態における入力ロッド18とブースタピストン19との相対位置を基準位置とし(ΔX=0)、この基準位置からのブースタピストン19の相対的な変位量を示している。
図3の横軸において、ブースタピストン19が入力ロッド18に対して矢示A方向に進んでいる場合を、相対変位量ΔXの正方向とする。相対変位量ΔXが正方向にあるとき、中立ばね26Aは縮み、中立ばね26Bは伸びるので、ばね力Fnの力の向きは矢示A方向となる。また、縦軸において、ブレーキペダル5のペダル踏力Fpが増加する方向、即ち、ブレーキペダル5を初期位置に戻す力が増加する方向をばね力Fnの正方向とする。
ここで、ばね力Fnと相対変位量ΔXとの特性線の傾きKは、中立ばね26A,26Bの合成ばね定数となる。また、ブレーキペダル5を踏んでいない場合(ブレーキペダル5が初期位置にある場合)は、中立ばね26A,26Bの合成ばね力であるばね力Fnは初期ばね力F0となる。このため、初期位置のブレーキペダル5には矢示B方向の初期ばね力F0が加わっている。この場合、第1の液圧室11A内の圧力と、入力ロッド18とブースタピストン19の相対変位量ΔXで決まる中立ばね26A,26Bのばね力Fnとが、入力ロッド18を介してブレーキペダル5にフィードバックされる。このフィードバックされた力とペダル戻しばね5Aのばね力Frとを合成したもの(合力)がブレーキペダル操作中に運転者が感じるペダル踏力Fpとなる。
従って、一定の倍力比を得るときには、入力ロッド18の変位に対して、ブースタピストン19を追従させ、これらの相対変位量ΔXが一定になるように相対変位制御する。これにより、入力ロッド18とブースタピストン19との受圧面積比によって決まる一定の倍力比を得ることができる。一方、倍力比を変化させるときには、入力ロッド18の変位に対して、例えば比例ゲインを乗じて入力ロッド18とブースタピストン19との相対変位を変化させる。これにより、ばね力Fnが変化すると共に、発生した液圧の変化量に対するペダル踏力Fpの変化量を変更できるため、倍力比を変化させることができる。
マスタ圧制御ユニットを構成する第1のECU27は、例えばマイクロコンピュータ(CPU)等からなり、例えばROM,RAM,不揮発性メモリ等からなる記憶部を有している。この記憶部には、図3に示す、入力ロッド18とブースタピストン19との相対変位量ΔXを制御するプログラム等が格納されている。この第1のECU27は、液圧発生機構である電動倍力装置16のアクチュエータ20をブレーキペダル5の操作に基づいて電気的に駆動制御するものである。第1のECU27の入力側は、ブレーキペダル5のペダルストロークSを検出するブレーキセンサ7と、電動モータ21の回転センサ21Aと、例えばL−CANと呼ばれる通信が可能な車載の信号線28及び車両データバス29等とに接続されている。車両データバス29は、車両に搭載されたV−CANと呼ばれるシリアル通信部であり、車載向けの多重通信を行うものである。
一方、第1のECU27の出力側は、電動モータ21、車載の信号線28及び車両データバス29等に接続されている。そして、第1のECU27は、ブレーキセンサ7、液圧センサ30からの検出信号に従って電動倍力装置16によりマスタシリンダ8内に発生させるブレーキ液圧Pを可変に制御すると共に、電動倍力装置16が正常に動作しているか否か等を判別する機能も有している。
検出手段としての液圧センサ30は、例えばシリンダ側液圧配管15A内の液圧を検出するもので、マスタシリンダ8からシリンダ側液圧配管15Aを介して後述のホイール圧制御機構31(ESC)に供給されるブレーキ液圧Pを検出する。液圧センサ30は、後述の第2のECU32に電気的に接続されると共に、液圧センサ30による検出信号は、第2のECU32から信号線28を介して第1のECU27にも通信により送られる。
ここで、電動倍力装置16においては、ブレーキペダル5が操作されると、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ロッド18が前進し、このときの動きがブレーキセンサ7によって検出される。第1のECU27は、ブレーキセンサ7からの検出信号により電動モータ21に起動指令を出力して電動モータ21を回転駆動し、その回転が減速機構23を介して筒状回転体22に伝えられる。そして、筒状回転体22の回転は、直動機構24によりブースタピストン19の軸方向変位に変換される。
このとき、ブースタピストン19は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ロッド18と一体的に(または、相対変位をもって)前進し、ブレーキペダル5から入力ロッド18に付与されるペダル踏力Fp(推力)とアクチュエータ20からブースタピストン19に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧Pがマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生する。また、第1のECU27は、信号線28を介して液圧センサ30からの検出信号を受取ることによりマスタシリンダ8に発生した液圧を監視することができ、電動倍力装置16が正常に動作しているか否かを判別することができる。
ESCとしてのホイール圧制御機構31は、各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに供給するブレーキ液圧Pを増圧、減圧または保持する制御を行うことにより、例えば各車輪の制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、横滑り防止を含む車両安定化制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御を実行するものである。このホイール圧制御機構31は、液圧供給装置用コントローラとしての第2のECU32により電気的に駆動制御される。
ホイール圧制御機構31は、第1の液圧室11Aの液圧を左前輪1L及び右後輪2Rのホイールシリンダ3L,4Rに供給するための第1液圧系統33と、第2の液圧室11Bの液圧を右前輪1R及び左後輪2Lのホイールシリンダ3R,4Lに供給するための第2液圧系統33′とからなる2系統の液圧回路を備えている。
ホイール圧制御機構31は、マスタシリンダ8から各液圧系統33,33′へのブレーキ液圧Pの供給を制御する電磁開閉弁である供給制御弁34,34′と、各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rへのブレーキ液圧Pの供給を制御する電磁開閉弁である増圧制御弁35,35′,36,36′と、各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rからブレーキ液圧Pの解放を制御する電磁開閉弁である減圧制御弁37,37′,38,38′とを備えている。
また、ホイール圧制御機構31は、各ホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rにブレーキ液圧Pを供給するための液圧ポンプ39,39′と、該液圧ポンプ39,39′を駆動する電動モータ40と、ブレーキ液圧Pを解放するための液圧制御用リザーバ41,41′と、マスタシリンダ8から液圧ポンプ39,39′の吸込み側への液圧の供給を制御する電磁開閉弁である加圧制御弁42,42′と、液圧ポンプ39,39′の下流側から上流側への逆流を防止するための逆止弁43,43′,44,44′,45,45′とを備えている。
車両に搭載された車両データバス29には、電力充電用の回生協調制御装置46が接続されている。回生協調制御装置46は、車両の減速時及び制動時等に各車輪の回転による慣性力を利用して、発電機(図示せず)を駆動制御することにより運動エネルギを電力として回収するものである。回生協調制御装置46は、車両データバス29を介して第1のECU27と第2のECU32とに接続され、回生制動制御手段を構成している。
第1の実施の形態によるブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両の運転者がブレーキペダル5を踏込み操作すると、これにより入力ロッド18が矢示A方向に押込まれると共に、電動倍力装置16のアクチュエータ20が第1のECU27により作動制御される。即ち、第1のECU27は、ブレーキセンサ7からの検出信号により電動モータ21に起動指令を出力して電動モータ21が回転駆動される。
このように、電動モータ21が回転すると、その回転は減速機構23を介して筒状回転体22に伝えられると共に、筒状回転体22の回転は、直動機構24によりブースタピストン19の軸方向変位に変換される。これにより、電動倍力装置16のブースタピストン19は、マスタシリンダ8のシリンダ本体9内に向けて入力ロッド18とほぼ一体的に前進し、ブレーキペダル5から入力ロッド18に付与されるペダル踏力Fp(推力)とアクチュエータ20からブースタピストン19に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧Pがマスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生する。
また、第1のECU27は、信号線28を介して液圧センサ30からの検出信号を受取ることによりマスタシリンダ8に発生したブレーキ液圧Pを監視し、電動倍力装置16のアクチュエータ20(電動モータ21の回転)をフィードバック制御する。これにより、マスタシリンダ8の第1,第2の液圧室11A,11B内に発生するブレーキ液圧Pを、ブレーキペダル5の踏込み操作量に基づいて可変に制御することができる。また、第1のECU27は、ブレーキセンサ7と液圧センサ30との検出信号に従って電動倍力装置16が正常に動作しているか否かを判別することができる。
一方、ブレーキペダル5に連結された入力ロッド18は、第1の液圧室11A内の圧力を受圧し、これをブレーキ反力としてブレーキペダル5へと伝える。この結果、車両の運転者には入力ロッド18を介して制動力に応じた踏応えが与えられるようになり、これによって、ブレーキペダル5の操作感を向上でき、ペダルフィーリングを良好に保つことができる。
ここで、ブレーキペダル5が操作され始めても、リザーバポート14A,14Bが遮断されるまでの間は、マスタシリンダ8にブレーキ液圧Pが発生しない。このようなブレーキ液圧Pが発生しないブレーキペダル5のストローク領域(以下、ロスストローク領域という)では、ペダルストロークSが増加しても、ブレーキ液圧Pによる制動力は増加しない。一方、ブレーキペダル5を初期位置に戻す力(ペダル踏力Fp)は、ペダル戻しばね5Aのばね力Frによって、ストロークSに応じて増加する。この結果、運転者のペダルフィーリングと制動力との間に違和感が生じる傾向がある。
本実施の形態では、このようなペダルフィーリングの違和感を考慮して、第1のECU27は図2に示すような相対変位制御処理を行う。なお、この相対変位制御処理は、例えば一定の制御周期毎に繰り返し実行されるものである。
まず、図2に示す相対変位制御処理が車両のエンジン始動に伴う電力供給を受けて開始されると、ブレーキセンサ7によって、ブレーキペダル5の操作量であるペダルストロークSを検出する。ステップ1では、第1のECU27においてペダルストロークSと予め設定したストローク閾値Sthとを比較し、ペダルストロークSがストローク閾値Sth以下であるか否かを判定する。ここで、ストローク閾値Sthとは、ブレーキペダル5が操作されたか否かを判定する値をいう。ストローク閾値Sthは、ブレーキセンサ7のノイズなどによる運転者のペダル操作以外の微小変動影響を排除できる値に設定する。
ステップ1で「YES」と判定した場合は、ペダルストロークSがストローク閾値Sth以下であるので、ステップ2では、目標相対変位量ΔXTを0に設定する。ここで、目標相対変位量ΔXTとは、入力ロッド18とブースタピストン19とによる相対変位量ΔXを制御するための値をいう。従って、目標相対変位量ΔXTを0に設定すると、ステップ6で相対変位量ΔXも0となるように制御される。この結果、ブースタピストン19の変位は入力ロッド18の変位に追従し、中立ばね26A,26Bのばね力Fnは一定となる。
一方、ステップ1で「NO」と判定した場合は、ペダルストロークSがストローク閾値Sthより大きいので、ステップ3に進む。ステップ3では、第1のECU27において、液圧センサ30から検出したブレーキ液圧Pが予め設定した液圧閾値Pth以下であるか否かを判定する。ここで、液圧閾値Pthとは、ブレーキペダル5がロスストローク領域にあるか否かを判定する値をいう。液圧閾値Pthは、例えばセンサノイズ等の、入力ロッド18及びブースタピストン19が摺動して発生したブレーキ液圧P以外の微小変動影響を排除できる値に設定する。
ステップ3で「YES」と判定した場合は、ブレーキ液圧Pが液圧閾値Pth以下であり、ブレーキペダル5がロスストローク領域にあるので、ステップ4に進む。ここで、ロスストローク領域においては、ブースタピストン19と第2のピストン10とがリザーバポート14A,14Bを遮断していないので、ブレーキ液圧Pは発生していない。そのため、運転者が感じるペダル踏力Fpは、入力ロッド18とブースタピストン19との相対変位量ΔXによって決定される中立ばね26A,26Bのばね力Fnと、ペダルストロークSの増加に比例するペダル戻しばね5Aのばね力Frとの合成となる。
この場合、図3に示すように、中立ばね26A,26Bのばね力Fnと相対変位量ΔXとの関係は負の比例関係となり、相対変位量ΔXが増加するとばね力Fnは減少する。即ち、ブレーキペダル5が初期位置にあるとき、ばね力Fnは初期ばね力F0となり、図1の矢示B方向に入力ロッド18を付勢している。相対変位量ΔXが増加すると上記矢示B方向を向いたばね力Fnは減少していく。相対変位量ΔXがある一定の値を超えたところで、ばね力Fnは図1の矢示A方向を向く。さらに、相対変位量ΔXを増加すると、上記矢示A方向を向いたばね力Fnは増加していく。
以上のような相対変位量ΔXと中立ばね26A,26Bのばね力Fnとの関係に基づいて、ステップ4で、ペダル戻しばね5Aのばね力Frによるペダル踏力Fpの増加を相殺するための目標相対変位量ΔXTを算出する。このとき、目標相対変位量ΔXTは、図4に示すように、ペダルストロークSに対して増加するように設定された目標値算出マップ47から算出する。また、例えば、予め図4に示す傾きGを設定しておき、目標相対変位量ΔXTは以下の数1式により算出してもよい。
ステップ3で「NO」と判定した場合は、ブレーキ液圧Pが液圧閾値Pthより大きく、ブレーキペダル5がロスストローク領域を超えたので、ステップ5に進む。ステップ5では、目標相対変位量ΔXTは前回値を保持する。即ち、前回の制御周期のステップ4で算出した目標相対変位量ΔXTの値をそのまま保持する。
ステップ6では、入力ロッド18とブースタピストン19との相対変位量ΔXを、ステップ2,4,5のいずれかで算出した目標相対変位量ΔXTと一致するようにブースタピストン19を移動させて制御する。即ち、第1のECU27は、算出した目標相対変位量ΔXTに基づいて電動倍力装置16のアクチュエータ20を制御してブースタピストン19を変位させて、相対変位量ΔXを目標相対変位量ΔXTに近付ける。これにより、ロスストローク領域では、ペダル戻しばね5Aのばね力FrがペダルストロークSに応じて増加したときに、この増加分を相殺する力が中立ばね26A,26B(反力調整機構)で発生する。
以上の効果を確認するために、本実施の形態によるブレーキ装置について、ペダルストロークSとペダル踏力Fpとの関係を示す特性線を図5に示す。図5には、本実施の形態によるブレーキ装置の結果と対比するために、比較例として本実施例による制御を行わず、相対変位量ΔXを一定に保った場合の特性線も併せて記載した。
図5に示すように、比較例のブレーキ装置では、ロスストローク領域を含む全ての領域で、ペダルストロークSが増加するに従って、ペダル踏力Fpも増加している。このため、比較例では、ロスストローク領域で制動力とペダルフィーリングとが一致せず、違和感が生じる傾向がある。
これに対し、本発明によるブレーキ装置では、ロスストローク領域においては、ペダルストロークSが増加しても、ペダル踏力Fpはほぼ一定となり、ペダル踏力Fpの増加が抑制されている。これにより、ロスストローク領域でのペダル踏力Fpの増加を抑えることができ、ペダルフィーリングの違和感を緩和することができる。なお、本発明は、ロスストローク領域において、ブースタピストン19の変位を入力ロッド18の変位より大きくし、ロスストローク領域を超えた後も、目標相対変位量ΔXTは前回値を保持している。このため、ロスストローク領域を超えた後も、比較例よりもペダル踏力Fpが小さい値となる。
かくして、本実施の形態によれば、ブレーキペダル5のロスストローク領域において、ペダル戻しばね5Aのばね力Frと中立ばね26A,26Bのばね力Fnとを相殺するために、入力ロッド18とブースタピストン19との相対変位量ΔXを制御する。即ち、ペダル戻しばね5Aのばね力Frが増加する際に、ブースタピストン19の変位量を入力ロッド18の変位量より大きくして、中立ばね26A,26Bのばね力Fnがペダル戻しばね5Aのばね力Frを打ち消し合うようにする。これにより、ブレーキペダル5の操作において、ロスストローク領域のペダル踏力Fpの増加を抑制し、無効踏力を抑えることができる。その結果、ブレーキ操作時の運転者の違和感を軽減することができる。
なお、本実施の形態のステップ3において、ブレーキペダル5がロスストローク領域にあるか否かの判定にブレーキ液圧Pを用いた。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、ブレーキペダルがロスストローク領域にあるか否かの判定にペダルストローク量を用いてもよい。
また、前記実施の形態では、マスタシリンダ8とホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rとの間にホイール圧制御機構31を設ける構成としたが、ホイール圧制御機構31を省いて、マスタシリンダ8内のブレーキ液圧Pを直接的にホイールシリンダ3L,3R,4L,4Rに供給してもよい。