以下、本発明の実施の形態によるブレーキ装置を、四輪自動車等の車両に搭載した場合を例に挙げて、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図5は本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ装置を示している。図1において、ブレーキペダル1は制動操作子を構成し、車両のブレーキ操作時に運転者によって矢示A方向に踏込み操作される。該ブレーキペダル1は、車体のフロントボード(いずれも図示せず)側に設けられている。ブレーキペダル1には、ブレーキスイッチ2と操作量検出器3が付設されている。
このうちブレーキスイッチ2は、車両のブレーキ操作の有無を検出して、例えばブレーキランプ(図示せず)を点灯,消灯させるものである。操作量検出器3は、ブレーキペダル1の踏込み操作量(ストローク量)または踏力を検出し、その検出信号を後述のECU23,29および車両データバス(図示せず)等に出力する。ブレーキペダル1が踏込み操作されると、マスタシリンダ4には後述の電動倍力装置11を介してブレーキ液圧が発生する。
図1に示すように、マスタシリンダ4は、一側が開口端となり他側が底部となって閉塞された有底筒状のシリンダ本体5を有している。このシリンダ本体5には、後述のリザーバ10内に連通する第1,第2のサプライポート5A,5Bが設けられている。第1のサプライポート5Aは、後述するブースタピストン13の摺動変位により第1の液圧室7Aに対して連通,遮断される。一方、第2のサプライポート5Bは、後述する第2のピストン6により第2の液圧室7Bに対して連通,遮断される。
シリンダ本体5は、その開口端側が後述する電動倍力装置11のブースタハウジング12に複数の取付ボルト(図示せず)等を用いて着脱可能に固着されている。マスタシリンダ4は、シリンダ本体5と、第1のピストン(後述のブースタピストン13と入力ピストン14)および第2のピストン6と、第1の液圧室7Aと、第2の液圧室7Bと、第1の戻しばね8と、第2の戻しばね9とを含んで構成されている。
マスタシリンダ4の第1のピストンは、後述のブースタピストン13と入力ピストン14とにより構成されている。シリンダ本体5内に形成される第1の液圧室7Aは、第2のピストン6とブースタピストン13(および入力ピストン14)との間に画成されている。第2の液圧室7Bは、シリンダ本体5の底部と第2のピストン6との間でシリンダ本体5内に画成されている。
第1の戻しばね8は、第1の液圧室7A内に位置してブースタピストン13と第2のピストン6との間に配設され、ブースタピストン13をシリンダ本体5の開口端側に向けて付勢している。第2の戻しばね9は、第2の液圧室7B内に位置してシリンダ本体5の底部と第2のピストン6との間に配設され、第2のピストン6を第1の液圧室7A側に向けて付勢している。
マスタシリンダ4のシリンダ本体5は、ブレーキペダル1の踏込み操作に応じてブースタピストン13と第2のピストン6とがシリンダ本体5の底部側へと変位して第1,第2のサプライポート5A,5Bを遮断したときに、第1,第2の液圧室7A,7B内のブレーキ液によりブレーキ液圧を発生させる。一方、ブレーキペダル1の操作を開放、解除した場合には、ブースタピストン13と第2のピストン6とが第1、第2の戻しばね8,9により付勢されてシリンダ本体5の開口部側へと矢示B方向に変位していくときに、リザーバ10からブレーキ液の補給を受けながら第1,第2の液圧室7A,7B内の液圧を解除していく。
マスタシリンダ4のシリンダ本体5には、作動液タンクとしてのリザーバ10が設けられ、該リザーバ10の内部にはブレーキ液が収容されている。リザーバ10は、シリンダ本体5内の液圧室7A,7Bにブレーキ液を給排するための容器である。即ち、第1のサプライポート5Aがブースタピストン13により第1の液圧室7Aに連通され、第2のサプライポート5Bが第2のピストン6により第2の液圧室7Bに連通している間は、これらの液圧室7A,7B内にリザーバ10内のブレーキ液が給排される。
一方、第1のサプライポート5Aがブースタピストン13により第1の液圧室7Aから遮断され、第2のサプライポート5Bが第2のピストン6により第2の液圧室7Bから遮断されたときには、これらの液圧室7A,7Bに対するリザーバ10内のブレーキ液の給排が断たれる。このため、マスタシリンダ4の第1,第2の液圧室7A,7B内には、ブレーキ操作に伴ってブレーキ液圧が発生し、このブレーキ液圧は、後述の液圧配管24A,24Bを介して液圧供給装置25(即ち、ESC25)に送られる。
車両のブレーキペダル1とマスタシリンダ4との間には、ブレーキペダル1の操作力を増大させるブースタとしての電動倍力装置11が設けられている。この電動倍力装置11は、操作量検出器3からの検出信号に基づいて後述の電動アクチュエータ17を駆動制御することにより、マスタシリンダ4内に発生するブレーキ液圧を可変に制御するものである。
電動倍力装置11は、車体のフロントボードである車室前壁(図示せず)に固定して設けられるブースタハウジング12と、該ブースタハウジング12に移動可能に設けられ後述の入力ピストン14に対して相対移動可能なブースタピストン13と、該ブースタピストン13をマスタシリンダ4の軸方向に進退移動させ当該ブースタピストン13にブースタ推力を付与するアクチュエータとしての後述の電動アクチュエータ17と、制御手段としてのECU23とを含んで構成されている。
ブースタピストン13は、マスタシリンダ4のピストンとして用いられ、マスタシリンダ4のシリンダ本体5内に開口端側から軸方向に摺動可能に挿嵌された筒状部材により構成されている。ブースタピストン13の内周側には、ブレーキペダル1の操作に従って直接的に押動され、マスタシリンダ4の軸方向(即ち、矢示A,B方向)に進退移動する入力部材としての入力ピストン14が摺動可能に挿嵌されている。入力ピストン14は、ブースタピストン13と一緒にマスタシリンダ4の第1のピストンを構成し、入力ピストン14の後側(一側)端部には、入力ロッド14A等を介してブレーキペダル1が連結されている。シリンダ本体5内は、第2のピストン6とブースタピストン13および入力ピストン14との間に第1の液圧室7Aが画成されている。
ブースタハウジング12は、後述の減速機構20等を内部に収容する筒状の減速機ケース12Aと、該減速機ケース12Aとマスタシリンダ4のシリンダ本体5との間に設けられブースタピストン13を軸方向に摺動変位可能に支持した筒状の支持ケース12Bと、減速機ケース12Aを挟んで支持ケース12Bとは軸方向の反対側(軸方向一側)に配置され減速機ケース12Aの軸方向一側の開口を閉塞する段付筒状の蓋体12Cとにより構成されている。減速機ケース12Aの外周側には、後述の電動モータ18を固定的に支持するための支持板12Dが設けられている。
図1に示すように、入力ピストン14は、蓋体12C側からブースタハウジング12内に挿入され、ブースタピストン13内を第1の液圧室7Aに向けて軸方向に延びている。ブースタピストン13と入力ピストン14との間には、一対の中立ばね15,16が介装されている。該中立ばね15,16は、ブースタピストン13と入力ピストン14とを両者の中立位置に向けて弾性的に付勢し、ブースタピストン13と入力ピストン14とが軸方向に相対変位すると、これを抑える方向で中立ばね15,16のばね力が作用する構成となっている。
入力ピストン14の先端側(軸方向他側)端面は、ブレーキ操作時に第1の液圧室7A内に発生する液圧をブレーキ反力として受圧し、入力ピストン14はこれを入力ロッド14Aを介してブレーキペダル1に伝達する。これにより、車両の運転者にはブレーキペダル1を介して適正な踏み応えが与えられ、良好なペダルフィーリング(ブレーキの効き)を得ることができる。この結果、ブレーキペダル1の操作感を向上することができ、ペダルフィーリング(踏み応え)を良好に保つことができる。
また、入力ピストン14は、ブースタピストン13に対して相対移動(所定量前進)したときに、ブースタピストン13に当接してブースタピストン13を押圧し前進させることができる構造となっている。この構造により、後述する電動アクチュエータ17や第1のECU23が失陥した場合に、ブレーキペダル1への踏力によりブースタピストン13を前進させてマスタシリンダ4に液圧を発生させることが可能となる。
電動倍力装置11の電動アクチュエータ17は、ブースタハウジング12の減速機ケース12Aに支持板12Dを介して設けられた電動モータ18と、該電動モータ18の回転を減速して減速機ケース12A内の筒状回転体19に伝えるベルト等の減速機構20と、筒状回転体19の回転をブースタピストン13の軸方向変位(直線的な進退移動)に変換するボールネジ等の直動機構21とにより構成されている。減速機構20と直動機構21とは、入力ピストン14(入力部材)に対して相対移動可能に設けられ、ブースタピストン13(即ち、マスタシリンダのピストン)を進退移動させる推進機構を構成するものである。この推進機構は、電動モータ18によって作動されるものである。
ここで、直動機構21は、筒状回転体19の内周側に前記ボールねじを介して軸方向に移動可能に設けられた筒状の直動部材21Aを有し、この直動部材21Aは、ブースタハウジング12の蓋体12Cと筒状回転体19の内周側をブースタピストン13と一体になって軸方向に変位する。そして、ブースタピストン13が戻り位置まで後退したときには、図1に示すように、直動部材21Aが蓋体12Cの閉塞端側に当接し、ブースタピストン13の戻り位置(初期位置)が規制される。
ブースタピストン13と入力ピストン14は、それぞれの前端部(軸方向他側の端部)をマスタシリンダ4の第1の液圧室7Aに臨んで配置されている。そして、ブレーキペダル1から入力ピストン14に伝えられる踏力(推力)と電動アクチュエータ17からブースタピストン13に伝えられるブースタ推力とにより、マスタシリンダ4の液圧室7A,7B内にはブレーキ液圧が発生する。
即ち、電動倍力装置11のブースタピストン13は、操作量検出器3の出力(即ち、図2中に示すペダルストロークの制動指令)に基づいて電動アクチュエータ17(電動モータ18)により駆動され、マスタシリンダ4内にブレーキ液圧(M/C液圧)を発生させるポンプ機構を構成している。また、ブースタハウジング12の支持ケース12B内には、ブースタピストン13を制動解除方向(図1中の矢示B方向)に常時付勢する戻しばね22が設けられている。ブースタピストン13は、ブレーキ操作の解除(開放)時に電動モータ18が逆向きに回転されると共に、戻しばね22の付勢力により図1に示す初期位置まで矢示B方向に戻されるものである。
電動モータ18は、例えばDCブラシレスモータを用いて構成され、電動モータ18には、レゾルバと呼ばれる回転センサ18Aと、モータ電流を検出する電流センサ18B(図2参照)とが設けられている。回転センサ18Aは、電動モータ18のモータ回転位置を検出し、その検出信号を制御手段としてのコントロールユニット(以下、第1のECU23という)に出力する。第1のECU23は、回転センサ18Aからの信号(モータ回転位置の検出信号)に従って電動モータ18の回転位置をフィードバック制御する。また、回転センサ18Aは、検出した電動モータ18の回転位置に基づいて車体に対するブースタピストン13の絶対変位を検出する回転検出手段としての機能を備えている。
さらに、回転センサ18Aは操作量検出器3と共に、ブースタピストン13と入力ピストン14との相対変位を検出する変位検出手段を構成し、これらの検出信号は、第1のECU23に送出される。なお、前記回転検出手段としては、レゾルバ等の回転センサ18Aに限らず、絶対変位(角度)を検出できる回転型のポテンショメータ等により構成してもよい。
なお、減速機構20は、ベルト等に限らず、例えば歯車減速機構等を用いて構成してもよい。また、回転運動を直線運動に変換する直動機構21は、例えばラックーピニオン機構等で構成することもできる。さらに、減速機構20は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、筒状回転体19にモータ軸を一体に設け、電動モータのステータを筒状回転体19の周囲に配置して、電動モータによって直接に筒状回転体19を回転させる構成としてもよい。
第1のECU23は、例えばマイクロコンピュータ等からなっており、電動倍力装置11の一部を構成すると共に、ブレーキ装置の制御手段として構成されている。第1のECU23は、電動倍力装置11の電動アクチュエータ17を電気的に駆動制御する制御回路を構成している。図2に示すように、第1のECU23には、フラッシュメモリ、EEPROM,ROM,RAM等のメモリ23Aが設けられている。
このメモリ23Aには、例えば図4に示すブレーキペダル1の操作量Sと車両の減速度Gとの関係をS−G特性データとしてマップ化した特性線図のデータと、図5に示す車両の減速度Gとマスタシリンダ4で発生する液圧Pとの関係をG−P特性データとしてマップ化した特性線図のデータと、電動モータ18の回転位置制御を行うための制御処理プログラム(図示せず)等とが格納されている。
第1のECU23の入力側は、ブレーキペダル1の操作量または踏力を検出する操作量検出器3と、電動モータ18の回転センサ18A及び電流センサ18Bと、後述のGセンサ31と、例えばL−CANと呼ばれる通信が可能な車載の信号線(図示せず)と、給電および他の車両機器のECUからの信号の授受を行う車両データバス(図示せず)等とに接続されている。この車両データバスは、車両に搭載されたV−CANと呼ばれるシリアル通信部であり、車載向けの多重通信を行うものである。
第1のECU23の出力側は、電動モータ18、前記車載の信号線および車両データバス等に接続されている。そして、第1のECU23は、操作量検出器3や液圧センサ28からの検出信号に従って電動アクチュエータ17によりマスタシリンダ4内に発生させるブレーキ液圧を可変に制御すると共に、電動倍力装置11が正常に動作しているか否か等を判別する機能も有している。
マスタシリンダ4に発生した液圧は、例えば一対の液圧配管24A,24Bを介して液圧供給装置25(以下、ESC25という)に送られる。このESC25は、マスタシリンダ4からの液圧を各車輪側のホイールシリンダ26に分配して供給する。これにより、車両の各車輪(即ち、左,右の前輪と左,右の後輪毎)に制動力が付与される。ESC25は、各ホイールシリンダ26に供給するブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行うことにより、例えば各車輪の制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、横滑り防止を含む車両安定化制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御を実行するものである。
ホイールシリンダ26は、例えば図2に示すように、キャリパ本体26A、一対の摩擦パッド26Bおよび取付部材(図示せず)等を含んだディスクブレーキにより構成されている。キャリパ本体26Aには、マスタシリンダ4からESC25を介して各ホイールシリンダ26に供給されるブレーキ液圧により、一対の摩擦パッド26Bをディスクロータ27の両面に押圧するブレーキピストン(図示せず)が設けられている。ここで、ディスクロータ27は、車両の各車輪と一体に回転するブレーキ回転体を構成し、摩擦パッド26Bは、このブレーキ回転体を押圧するブレーキ摩擦体を構成する。前記取付部材は、車両の各車輪側で非回転部分に取付けられるキャリア等の取付ブラケットを構成するものである。
液圧センサ28はマスタシリンダ4のブレーキ液圧を検出する液圧検出手段である。この液圧センサ28は、例えば液圧配管24A内の液圧(即ち、マスタシリンダ4から液圧配管24Aを介してESC25に供給されるブレーキ液圧)を検出する。本実施の形態において、液圧センサ28は、ESC25用の制御手段(コントローラ)である他のECU(図示せず)に電気的に接続されると共に、液圧センサ28による検出信号は、前記他のECUから信号線を介して第1のECU23にも通信により送られる。
なお、液圧センサ28は、マスタシリンダ4のブレーキ液圧を検出することができればよく、例えばマスタシリンダ4のシリンダ本体5に直接取付けられるようにしてもよい。また、液圧センサ28は、その検出信号を前記他のECUを介さずに、直接的に第1のECU23に入力できるように構成してもよい。
図2に示すように、第1のECU23には、車両に搭載された前記車両データバスを介して電力充電用の回生協調制御装置29(以下、第2のECU29という)が接続されている。第2のECU29は、車両の減速時および制動時等に各車輪の回転による慣性力を利用して、回生用モータ30(即ち、車両を走行駆動する走行用の電動モータ)を駆動制御することにより運動エネルギを電力として回収するものである。第2のECU29は、前記車両データバスを介して第1のECU23と前記他のECUとに接続され、回生制動制御手段を構成している。
Gセンサ31は、車両の減速度G(即ち、車両の前,後方向に働く加速度)を検出する加速度検出手段または減速度検出手段を構成している。車両の走行中に前述の如くブレーキ操作を行うと、例えば各ホイールシリンダ26により車両の各車輪(即ち、左,右の前輪と左,右の後輪毎)に制動力が付与されて減速度Gが発生する。Gセンサ31は、このときの減速度Gを実減速度として検出し、その検出信号を第1のECU23に出力するものである。
図3に示すように、第1のECU23は、目標減速度設定手段としての目標減速度算出部32と、目標液圧設定手段としての減速度・液圧変換部33と、モータ駆動手段としての目標液圧補正部34と、操作量−減速度算出部35と、目標減速度補正部36と、減速度・液圧変換部37とを含んで構成されている。
このうち、目標減速度算出部32は、前記メモリ23Aに予め記憶されている図4の特性線38(即ち、ブレーキペダル1の操作量Sであるストロークと車両の減速度Gとの望ましい関係をマップ化した所定のS−G特性データ)に基づき、操作量検出器3によって検出された操作量S(例えば、図4中に示す操作量Sa)から車両の目標減速度G(例えば、目標減速度Ga)を算出して設定する。
減速度・液圧変換部33は、メモリ23Aに予め記憶されている図5に示す特性線40(即ち、車両の減速度Gとマスタシリンダ4で発生する液圧との関係をマップ化したG−P特性データ)に基づいて前記目標減速度Gを目標液圧Pに変換し、前記目標減速度G(例えば、目標減速度Ga)に対応した目標液圧P(例えば、目標液圧Pa)を設定するものである。目標液圧補正部34は、減速度・液圧変換部33からの目標液圧Pを後述の差分液圧ΔP分だけ変更するように補正し、補正後の目標液圧Pcがマスタシリンダ4から発生するように目標液圧Pcに対する電流値を設定して電動倍力装置11の電動モータ18を駆動制御するものである。
操作量−減速度算出部35は、操作量検出器3によって検出されたブレーキペダル1の操作量S(例えば、図4中に示す操作量Sa)とGセンサ31で検出された車両の実減速度G(例えば、実減速度Gb)との関係を、例えば図4中に一点鎖線で示す特性線39として算出する。目標減速度補正部36は、このときの実減速度Gと前記目標減速度Gとの差分、即ち目標減速度Gaと実減速度Gbとの差分を差分減速度ΔG(ΔG=Ga−Gb)として演算により求める。
減速度・液圧変換部37は、図5に示す特性線40(G−P特性データ)に基づいて前記差分減速度ΔGを差分液圧ΔPに変換して求め、この差分液圧ΔPを目標液圧補正部34に出力する。そして、目標液圧補正部34は、減速度・液圧変換部33からの目標液圧Pを差分液圧ΔP分だけ変更するように補正し、補正後の目標液圧Pc(例えば、Pc=Pa+ΔP)がマスタシリンダ4から発生するように電動倍力装置11の電動モータ18を駆動制御するものである。
換言すると、目標減速度算出部32は、所定のS−G特性データ(図4の特性線38)を予め記憶し、該S−G特性データに基づいて操作量検出器3により検出される操作量Sから車両の目標減速度G(例えば、目標減速度Ga)を設定する目標減速度設定手段を構成している。減速度・液圧変換部33は、所定のG−P特性データ(図5に示す特性線40)を予め記憶し、このG−P特性データに基づいて前記目標減速度G(例えば、目標減速度Ga)から目標液圧P(例えば、目標液圧Pa)を設定する目標液圧設定手段を構成している。
また、目標液圧補正部34は、減速度・液圧変換部33の目標液圧Pをマスタシリンダ4で発生させるように電動モータ18を駆動するモータ駆動手段を構成している。さらに、目標液圧補正部34は、操作量−減速度算出部35、目標減速度補正部36および減速度・液圧変換部37と共に、操作量検出器3の検出操作量に対する目標減速度GとGセンサ31の検出減速度との差分減速度ΔGから前記G−P特性データに基づいて算出される差分液圧ΔPによって前記目標液圧Paを補正後の目標液圧Pc(例えば、Pc=Pa+ΔP)に変更する目標液圧変更手段を構成している。
ここで、図4中に実線で示す特性線38は、例えば摩擦パッド26Bに偏摩耗等が生じていない新品状態でのS−G特性を表しており、ブレーキペダル1の操作量Sと車両の減速度Gとの望ましい関係をマップ化した所定のS−G特性データである。一方、図4中に一点鎖線で示す特性線39は、例えば摩擦パッド26Bに偏摩耗が生じた状態でのS−G特性を表しており、ブレーキペダル1の操作量Sに対する車両の減速度Gは、特性線38(本来の望ましい関係)よりもパッド摩耗の影響で相対的に低下している。即ち、ホイールシリンダ26による制動力は、パッド摩耗の影響により相対的に低下することになる。
なお、図4中の特性線39は、摩擦パッド26Bの任意の偏摩耗状態における特性を具象化するために表したものであり、この特性はパッド摩耗の進行に伴ってより下方へと傾いた特性となる。摩擦パッド26Bの偏摩耗が小さい状態では、一点鎖線で示す特性線39の傾きが小さくなり、本来の望ましい関係を実線で示す特性線38に近付いた特性となる。
第1の実施の形態によるブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両の運転者がブレーキペダル1を踏込み操作すると、これにより入力ピストン14が矢示A方向に押込まれると共に、電動倍力装置11の電動アクチュエータ17が第1のECU23により作動制御される。即ち、第1のECU23は、操作量検出器3からの検出信号により電動モータ18に起動指令(モータ駆動電流)を出力して電動モータ18を回転駆動し、その回転が減速機構20を介して筒状回転体19に伝えられると共に、筒状回転体19の回転は、直動機構21によりブースタピストン13の軸方向変位に変換される。
これにより、電動倍力装置11のブースタピストン13は、マスタシリンダ4のシリンダ本体5内に向けて入力ピストン14とほぼ一体的に前進し、ブレーキペダル1から入力ピストン14に付与される踏力(推力)と電動アクチュエータ17からブースタピストン13に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がM/C液圧としてマスタシリンダ4の第1,第2の液圧室7A,7B内に発生する。
また、第1のECU23は、液圧センサ28からの検出信号を前記信号線から受取ることによりマスタシリンダ4に発生したM/C液圧を監視しつつ、電動倍力装置11の電動アクチュエータ17(電動モータ18の回転)をフィードバック制御する。これにより、マスタシリンダ4の第1,第2の液圧室7A,7B内に発生するブレーキ液圧(M/C液圧)を、ブレーキペダル1の踏込み操作量に基づいて可変に制御することができる。また、第1のECU23は、操作量検出器3と液圧センサ28との検出値に従って電動倍力装置11が正常に動作しているか否かを判別することができる。
一方、ブレーキペダル1に連結された入力ピストン14は、第1の液圧室7A内の圧力を受圧し、これをブレーキ反力としてブレーキペダル1へと伝える。この結果、車両の運転者には入力ピストン14を介して踏み応えが与えられる。これによって、ブレーキペダル1の踏込み操作感を向上することができ、ペダルフィーリングを良好に保つことができる。
ところで、車両のブレーキ操作を繰返すうちに各ホイールシリンダ26側では一対の摩擦パッド26Bが偏摩耗することがある。各摩擦パッド26Bの偏摩耗が進行すると、ブレーキペダル1の操作量Sに応じた液圧をマスタシリンダ4で発生させて、ペダル反力が生じている場合にも、摩擦パッド26Bの偏摩耗による影響で所望の減速度を得ることができなくなることがある。即ち、摩擦パッド26Bが偏摩耗した場合は、この摩耗に相当する液量分だけ液圧の発生量を増やさない限り車両の減速度が変動してしまう。このため、車両運転者はブレーキペダル1を予め規定したストローク量で操作するだけでは、所望の減速度を確保することができず、ペダル操作に違和感が生じる可能性がある。
そこで、第1の実施の形態では、第1のECU23のメモリ23Aに、例えば図4中に実線で示す特性線38を所定のS−G特性データとして予め記憶させている。このS−G特性データは、ブレーキペダル1の操作量Sと車両の減速度Gとの望ましい関係をマップ化したもので、これまでの経験値、試験、実験データ等に基づいて車両の車種やグレード等での車両諸元の違いによってそれぞれ作成されている。図4の特性線38は、摩擦パッド26Bに偏摩耗等が生じていない新品状態でのS−G特性を表している。一方、図4中に一点鎖線で示す特性線39は、例えば摩擦パッド26Bに偏摩耗が生じた状態でのS−G特性を表しており、ブレーキペダル1の操作量Sに対して車両の減速度Gは、特性線38(本来の望ましい関係)よりもパッド摩耗の影響で相対的に低下している。
ここで、第1のECU23は、目標減速度設定手段としての目標減速度算出部32と、目標液圧設定手段としての減速度・液圧変換部33と、モータ駆動手段としての目標液圧補正部34と、操作量−減速度算出部35と、目標減速度補正部36と、減速度・液圧変換部37とを含んで構成されている。目標液圧補正部34は、操作量−減速度算出部35、目標減速度補正部36および減速度・液圧変換部37と共に目標液圧変更手段を構成し、操作量検出器3の検出操作量に対する目標減速度GとGセンサ31の検出減速度との差分減速度ΔGから前記G−P特性データに基づいて算出される差分液圧ΔPにより、パッド摩耗の影響を反映させた目標液圧となるように、減速度・液圧変換部33からの目標液圧Paを補正後の目標液圧Pc(例えば、Pc=Pa+ΔP)に変更するものである。
このように、操作量検出器3により検出したペダル操作量S(入力ピストン14の位置)に応じて算出した目標減速度から目標液圧(ブレーキ液圧)を求め、望ましい関係(図4の特性線38)に対しブレーキペダル1の操作量Sが増え始めたときには、目標減速度補正部36および減速度・液圧変換部37により算出した液圧値(差分液圧ΔP)だけ前記目標液圧を増やすように変更して補正することができる。
このため、目標液圧補正部34は、パッド摩耗の影響を反映させた補正後の目標液圧Pcがマスタシリンダ4から発生するように電動倍力装置11の電動モータ18を駆動制御することができ、電動モータ18によりブースタピストン13を入力ピストン14よりも前進させるように相対移動させる。これにより、マスタシリンダ4から発生する液圧を前記差分液圧ΔP分だけ増やすように補正して制御でき、望ましい関係(図4の特性線38)に沿った減速度G(例えば、目標減速度Ga)を車両に発生できるように、各ホイールシリンダ26による制動力を制御することができる。
この結果、パッドが偏摩耗した状態でも、ある減速度Gで車両を制動するためのブレーキ踏み方向でブレーキペダル1の操作量Sが前記望ましい関係(図4の特性線38)に対して長くなるのを抑えることができ、ペダルフィーリングを改善することができる。従って、摩擦パッド26Bの摩耗時にもブレーキペダル1の操作に違和感が生じるのを抑えることができる。
次に、図6および図7は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、図7に示すブレーキ液量と液圧との関係をマップ化した特性線41に基づいて、目標液圧Pcがマスタシリンダ4から発生するように電動倍力装置11の電動モータ18を駆動制御する構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
ここで、電動倍力装置11のECU23には、メモリ23A内に、第1の実施の形態と同様に、例えば図4に示すS−G特性データと図5に示すG−P特性データとが格納されている。しかし、第2の実施の形態では、メモリ23A内に、図6に示す処理プログラムが格納されると共に、図7に示すブレーキ液量Vと液圧Pとの関係をマップ化した特性線図のデータ等が格納されている。図6に示す処理プログラムは、図7の特性線41に基づいて目標液圧Pcがマスタシリンダ4から発生するように電動モータ18を駆動制御する処理手順を表している。
即ち、電動倍力装置11のECU23は、ブレーキペダル1の踏込み操作により図6の制御処理がスタートすると、ステップ1でGセンサ31から車両の減速度Gを実減速度として読込む。ステップ2では、このときのペダルストロークを操作量検出器3からの操作量Sとして読込む。次のステップ3では、下記の数1式による演算を行ってホイールシリンダ26のピストン(図示せず)に供給されるブレーキ液の液量Vを求める。
数1式中のSはペダルストロークであり、操作量検出器3により操作量Sとして検出される。ピストン面積Apは、ホイールシリンダ26のキャリパ本体26Aに形成されているシリンダ穴(図示せず)内に摺動可能に挿嵌された前記ピストンの受圧面積を表し、ピストン面積Apは既知の面積である。そして、次のステップ4では、前記数1式により算出された液量Vに対して、図7に示す特性線41に基づいて発生可能な液圧P(即ち、検出液圧)を算出する。
図4中に一点鎖線で示した特性線39の場合には、実減速度が減速度Gbとなったときに、ブレーキペダル1の操作量は操作量Saとなっている。このため、検出ペダルストロークである操作量Saに対して、数1式により算出される液量V(例えば、液量Vr)は、Vr=Sa×Apとして算出される。そして、液量Vrに対して発生可能な液圧Pは、図7に示す特性線41に基づき液圧Prとして算出される。
次のステップ5では、ブレーキペダル1の操作量Sと車両の減速度Gとの望ましい関係(所定のS−G特性)を示す図4の特性線38から、このときの操作量S(例えば、操作量Sa)に対応した目標減速度G(例えば、目標減速度Ga)を求める。そして、この目標減速度Gaに対応した目標液圧Paを、図5に示すG−P特性を表す特性線40により求める。さらに、このステップ5では、前記目標液圧Paと発生可能な液圧Prとを比較して下記の数2式による差分液圧ΔPを求める。
次のステップ6では、発生可能な液圧Prに対して差分液圧ΔPを足合わせた合計液圧(Pr+ΔP)に対応する液量Vaを、図7に示す特性線41に基づいて求める。そして、このときの液量Vaを前記数1式に代入してピストンの進め量を、下記の数3式によりブースタピストン13の追加移動量Scとして算出し、次のステップ7でリターンする。
これにより、電動倍力装置11は、ブレーキペダル1が踏込み操作されたときに、ブースタピストン13をマスタシリンダ4のシリンダ本体5側に向けて前記操作量Saと前記追加移動量Sc分だけ前進方向に移動させるように、電動アクチュエータ17の電動モータ18を駆動制御することができ、望ましい関係(図4の特性線38)に沿った減速度Gを車両に発生できるように、各ホイールシリンダ26による制動力を制御することができる。
換言すると、制御手段である第1のECU23は、運転者によるブレーキペダル1の操作中に、Gセンサ31により検出減速度(実減速度)を検出したときの操作量検出器3による検出ペダルストローク(例えば、操作量Sa)によりマスタシリンダ4から供給されるブレーキ液の液量Vを算出し、この液量Vに基づく検出液圧(即ち、液圧Pr)を算出する検出液圧算出手段(図6中のステップ1〜4参照)と、想定液圧算出手段および差分液圧制御手段とを備えている。
前記想定液圧算出手段は、前記検出ペダルストローク(例えば、操作量Sa)における目標減速度G(例えば、目標減速度Ga)を予め記憶された図4に示す特性線38(S−G特性データ)に基づいて算出し、この目標減速度Gaに対応した目標液圧Paを、図5に示すG−P特性を表す特性線40により求める。即ち、この目標液圧Paを想定液圧算出手段による想定液圧Pとして算出する(図6中のステップ5参照)。
次に、前記差分液圧制御手段は、前記検出液圧算出手段による検出液圧P(例えば、液圧Pr)と前記想定液圧算出手段による想定液圧P(例えば、目標液圧Pa)とから差分液圧ΔPを算出し、該差分液圧ΔPに関する入力ピストン14に対するブースタピストン13の移動位置を算出して電動モータ18の回転位置を制御する(図6中のステップ5の後段とステップ6参照)。
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、ブレーキ液量Vと液圧Pとの関係をマップ化した図7に示す特性線図のデータを用いて、ブースタピストン13の移動位置を補正して制御することにより、摩擦パッド26Bの偏摩耗時等にもブレーキペダル1の操作に違和感が生じるのを抑えることができ、第1の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。
なお、前記第2の実施の形態では、想定液圧算出手段は、前記検出ペダルストローク(例えば、操作量Sa)における目標減速度Gaを求め、該目標減速度Gaにより想定液圧P(例えば、目標液圧Pa)を算出する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば想定液圧算出手段を下記のように構成してもよい。
即ち、想定液圧算出手段は、検出減速度(例えば、図4に示す減速度Gb)における想定ペダルストローク(例えば、図4に示す操作量Sb)を予め記憶されたS−G特性データ(図4の特性線38)に基づいて算出し、前記想定ペダルストロークによりマスタシリンダから供給されるブレーキ液量を、例えば数1式により演算して求め、演算結果のブレーキ液量に基づいて、例えば図7に示す特性線41から想定液圧を算出する構成としてもよい。そして、この場合は、図5に示す特性線40によるG−P特性データを用いる必要がなくなる。
また、前記各実施の形態では、各車輪側のホイールシリンダ26をディスクブレーキにより構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えばドラムブレーキを用いて各車輪側のホイールシリンダを構成してもよいものである。