JP2015136735A - ボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金並びにこのボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を用いて封止された電子部品及び電子部品搭載装置 - Google Patents

ボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金並びにこのボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を用いて封止された電子部品及び電子部品搭載装置 Download PDF

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Abstract

【課題】特に濡れ広がり性、接合性に優れ、加工性や応力緩和性等にも優れるとともに、適した融点を有し、かつAu含有量が少なく低コストである高温用鉛フリーのボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を提供する。【解決手段】ボール状のAu−Sn−Ag系はんだ合金であって、その形状は縦横比が1.00以上1.20以下であり、かつSnを27.5質量%以上33.0質量%未満含有し、Agを8.0質量%以上14.5質量%以下含有し、残部が製造上、不可避に含まれる元素を除き、Auからなることを特徴とする。【選択図】 図2

Description

本発明はボール状の高温用鉛フリーはんだ合金に関するものであり、Auを主成分としたボール状はんだ合金、および該はんだ合金を用いて封止した電子部品などに関する。
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は電子部品などを基板に接合する目的で使用されるはんだ材料に対しても例外ではない。はんだ材料には古くから鉛が主成分として使われ続けてきたが、すでにRohs指令などで規制対象物質になっている。このため、鉛(Pb)を含まないはんだ(以降、鉛フリーはんだまたは無鉛はんだと称する。)の開発が盛んに行われている。
電子部品を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(約140℃〜230℃)に大別され、それらのうち、中低温用はんだに関してはSnを主成分とするもので鉛フリーはんだが実用化されている。
例えば、中低温用の鉛フリーはんだ材料としては、特許文献1として示す特開平11−77366号公報にはSnを主成分とし、Agを1.0〜4.0重量%、Cuを2.0重量%以下、Niを1.0重量%以下、Pを0.2重量%以下含有する無鉛はんだ合金組成が記載されている。また、特許文献2として示す特開平8−215880号公報にはAgを0.5〜3.5重量%、Cuを0.5〜2.0重量%含有し、残部がSnからなる合金組成の無鉛はんだが記載されている。
一方、高温用の鉛フリーはんだ材料に関しても、さまざまな機関で開発が行われている。例えば、特許文献3として示す特開2002−160089号公報には、Biを30〜80at%含んだ溶融温度が350〜500℃のBi/Agろう材が記載されている。また、特許文献4として示す特開2008−161913号公報には、Biを含む共昌合金に2元共昌合金を加え、さらに添加元素を加えたはんだ合金が記載されており、このはんだ合金は、4元系以上の多元系はんだではあるものの、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能になるとしている。
また、高価な高温用の鉛フリーはんだ材料としてはすでにAu−Sn合金やAu−Ge合金などが水晶デバイス、SAWフィルター、そして、MEMS等の電子部品搭載装置で使用されている。Au−20質量%Sn合金(80質量%のAuと20質量%のSnから構成されることを意味する。以下同様。)は共晶点の組成であり、その融点は280℃である。一方、Au−12.5質量%Ge合金も共晶点の組成であり、その融点は356℃である。
Au−Sn合金とAu−Ge合金の使い分けは、まずはこの融点の違いによる。すなわち、高温用といっても比較的温度の低い箇所の接合に用いる場合はAu−Sn合金を用いる。そして、比較的高い温度の場合にはAu−Ge合金を用いる。しかし、このようなAu系合金はPb系はんだやSn系はんだに比較し非常に硬く、ボール状はんだ合金とするのは難しい。しかも、当然、Au−20質量%Sn合金やAu−12.5質量%Ge合金の場合、材料コストが他のはんだ材料と比較し、桁違いに高い。
そこで、Au−Sn合金を安価でさらに使いやすくすることを目的として、例えば特許文献5〜7に示すAu−Sn−Ag系はんだ合金が開発されている。
特許文献5として示す特開2008−155221号公報には、比較的低融点で扱いやすく、強度、接着性に優れ、かつ安価であるろう材、及び圧電デバイスを提供することを目的として、
組成比(Au(重量%),Ag(重量%),Sn(重量%))が、
Au、Ag、Snの三元組成図において、
点A1(41.8, 7.6,50.5)、
点A2(62.6, 3.4,34.0)、
点A3(75.7, 3.2,21.1)、
点A4(53.6,22.1,24.3)、
点A5(30.3,33.2,36.6)
に囲まれる領域にあるろう材が記載されている。
また、特許文献6として示す特許第4305511号公報には、Auの添加量が従来のAu−Sn共晶合金よりも少なくて済むばかりでなく、固相線温度が270℃以上である鉛フリー高温はんだを提供することを目的として、また、容器本体と蓋部材間の接合部が耐ヒートサイクルや機械的強度に優れたパッケージを提供することを目的として、Ag2〜12質量%、Au40〜55質量%、残部Snからなる溶融封止用高温鉛フリーはんだ合金が記載されている。
また、特許文献7として示す特許第2670098号公報には、融点が低く、Fe−Ni合金のリードフレームを脆化せず、適度のろう流れで接合強度が安定し、しかもリードフレームの耐蝕性を低下させることのないろう材を備えたろう付きリードフレームを提供することを目的として、リードフレームのピンの先端に、AgにAu20〜50重量%とGe10〜20重量%又はSn20〜40重量%とが添加されてなるろう材が取付けられているろう付きリードフレームが記載されている。
一方、特許文献8として示す特開2011−198777号公報には、ボール状のSn−Ag−Cu合金などの非Au系鉛フリーはんだ合金が記載され、また特許文献9として示す特開2011−235342号公報には、シート状やワイヤ状やボール状の非Au系鉛フリーZn系はんだ合金が記載されている。
特開平11−77366号公報 特開平8−215880号公報 特開2002−160089号公報 特開2008−161913号公報 特開2008−155221号公報 特許第4305511号公報 特許第2670098号公報 特開2011−198777号公報 特開2011−235342号公報
高温用の鉛フリーはんだ材料に関しては、上記、引用文献以外にもさまざまな機関で開発されてはいるが、未だ低コストで汎用性のあるはんだ材料は見つかっていない。すなわち、一般的に電子部品や基板には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、例えば特許文献3に開示されているBi/Agろう材では、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上となり、接合される電子部品や基板の耐熱温度を超えてしまうことになる。
そして、Au−Sn系はんだやAu−Ge系はんだの場合は非常に高価なAuを多量に使用するため、汎用のPb系はんだやSn系はんだなどに比較して非常に高価であり、実用化されてはいるものの、その使用範囲は水晶デバイス、SAWフィルター、そして、MEMSなどのとくに高い信頼性が必要とされる箇所のはんだ付けの使用に限られている。加えて、Au系はんだは非常に硬く加工しづらい。具体的には圧延工程を必要とするリボン材への加工、プレス加工を必要とする打抜き材への加工、そして高い真球度や表面酸化抑制が要求されるボール形状への加工は難しく、特に良好な濡れ広がり性と接着性を得られるようなボール状はんだ合金に成形することは非常に困難である。
さらに、このような加工性の悪さを解決するため、Au系はんだをはんだペースト化するなどの工夫もされているが、ボイド発生やさらなるコストアップなどの新たな問題を引き起こしてしまう。
一方、以上のような融点や加工性やコストなどを含め、Au系はんだのさまざまな課題を解決することを目的として開発された特許文献5〜7に示すAu−Sn−Ag系はんだ合金にもそれぞれ次のような課題がある。
特許文献5には、比較的低融点で扱いやすく、強度、接着性に優れ、かつ安価であるろう材、及び圧電デバイスを提供する、と述べられている。さらに上記のようにAu、Sn、Agそれぞれの組成範囲を限定したことで、Au含有量を従来に比して減少させつつ、封止材として同等の特性が得られるようにしている、とも述べられている。しかし、Agを添加することによってAu−Sn合金の強度や接着性が向上する理由が記載されていないだけではなく、封止材として同等の特性(Au−Ge合金やAu−Sn合金と同等の特性と解釈できる)が得られる理由も記載されていない。
すなわち、Au−Ge共晶合金やAu−Sn共晶合金と同等の特性、例えば同等の信頼性が得られる理由について記載が全くなく、発明の技術的根拠が不明である。そして以下に述べる理由により信頼性等を含め、Au−Ge共晶合金やAu−Sn共晶合金より優れるどころか、特許文献5が示す広い組成範囲の全ての領域においては、Au−Ge共晶合金やAu−Sn共晶合金と同等の特性を得ることもできないと思われる。よって、特許文献5の技術は実施不可能であると考えられる。
以下、特許文献5の技術が実施不可能であると考える理由について説明する。特許文献5は 、組成比(Au(wt%),Ag(wt%),Sn(wt%))を
Au、Ag、Snの三元組成図において、
点A1(41.8, 7.6,50.5)、
点A2(62.6, 3.4,34.0)、
点A3(75.7, 3.2,21.1)、
点A4(53.6,22.1,24.3)、
点A5(30.3,33.2,36.6)
に囲まれる領域にある組成としているが、この領域はあまりにも高範囲過ぎていて、このような広い組成範囲の全ての領域において目的とする特性を同じように得ることは理論的に不可能である。
例えば、点A3と点A5はAu含有量が45.4質量%も異なる。このようにAu含有量に大きな差があるのに、点A3と点A5で似たような特性が得られるとは到底考えられない。Au、Sn、Agの組成比が異なれば生成される金属間化合物が異なり、液相線温度や固相線温度も大きく異なる。最も酸化しづらいAu含有量が45.4質量%も違えば濡れ性も当然大きく変わることとなる。Au−Sn−Ag三元系状態図を示した図1を参照すれば明らかなように、Au、Sn、Agの各組成の組み合わせによりAu−Sn−Ag金属間化合物は大きく異なる。したがって接合時に生成される金属間化合物の種類やその量も大きく異なり、特許文献5に示されるような広い組成範囲において濡れ性や接合性と加工性や応力緩和性について同じような優れた特性を実現できるものではない。
特許文献6に記載のろう材は、Agが2〜12質量%、Auが40〜55質量%であることから、残部のSnは33〜58質量%であることになるわけであるが、このようにSnの含有量が多いと酸化が進行して濡れ性等が十分に得られない可能性がある。Au−20質量%Sn合金が実用上問題なく使用されていることからSnが30数質量%程度であれば、良好な濡れ性を確保できると思われるが、40質量%を越えてしまうと良好な濡れ性の確保が場合によっては困難であると推測される。また、特にこの組成範囲では共晶合金でないため、結晶粒が粗大であったり、液相線温度と固相線温度の差が大きく接合時に溶け分かれ現象が生じたりして、十分な接合信頼性を得ることは困難である。
特許文献7に記載のろう材は、Auの含有量が最大でも50質量%であり、Au原料の削減効果は非常に大きい。Snの含有量も40質量%以下(または40質量%未満)であることから、ある程度の濡れ性を確保できる可能性はある。しかし、この発明はFe−Ni合金のリードフレームが脆化しないようにしたり、適度なろう流れで接合強度が安定したりするようにし、しかもリードフレームの耐蝕性を低下させないようにすることが目的である。
このような観点から特許文献7に示されたろう材では、例えば熱により膨張収縮による応力緩和など、半導体素子の接合用として求められる特性を満たしているとは考えがたい。そして特にこの組成範囲では共晶合金でないため、結晶粒が粗大であったり、液相線温度と固相線温度の差が大きく、接合時に溶け分かれ現象が生じたりして、十分な接合信頼性を得ることは困難だと言える。さらにFe−Ni合金を対象としたたろう材であるため、半導体素子のメタライズ層やCuなどの接合用基板に適した合金を生成するとは考えにくい。このような観点から考えてもこのろう材は水晶デバイス等との接合用としては適していないことは明らかである。
したがって、特許文献5〜7に示されたAu−Sn−Ag系はんだ合金はそれぞれ上記のような課題があるため、濡れ広がり性と接合性並びに低コストと加工性と応力緩和性と信頼性の全てにおいて優れた特性を有した鉛フリー高温用Au−Sn−Ag系はんだ合金には成り得ていない。
一方、Au−Sn−Ag系はんだ合金は良好な濡れ広がり性と接合性を確保するためにはボール状とするのが最適である。特許文献8や特許文献9に示された鉛フリーはんだ合金は非Au系はんだ合金であるため加工が容易で真球に近いボール状に形成し易い。しかし、Au−Sn−Ag系はんだ合金は非Au系はんだ合金と比べると若干加工しがたいため、ボールが歪んだ形状となることがある。歪んだ形状では濡れ広がり性が安定せず接合不良の原因となる。また、搬送時安定しない。さらにレーザエネルギー吸収量が安定せず溶融状態が安定しない。さらにまた、はんだ飛び散りの原因にもなる。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水晶デバイス、SAWフィルターやMEMS等の非常に高い信頼性を要求される電子部品や電子部品搭載装置の接合においても十分に使用できる各種特性に優れ、特に濡れ広がり性と接合性に優れる高温用ボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を提供することである。さらに、低コストであり、加工性、応力緩和性、そして信頼性に優れたはんだ合金を提供することである。
そこで、上記目的を達成するために本発明によるボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金は、ボール状のAu−Sn−Ag系はんだ合金であって、その形状は縦横比(「長径÷短径、または、長辺÷短辺」のことをいう。以下同じ)が1.00以上1.20以下であり、かつSnを27.5質量%以上33.0質量%未満含有し、Agを8.0質量%以上14.5質量%以下含有し、残部が製造上、不可避に含まれる元素を除き、Auからなることを特徴としている。
また、本発明においては、縦横比が1.00以上1.10以下であり、かつSnを29.0質量%以上32.0質量%以下含有し、Agを10.0質量%以上14.0質量%以下含有し、残部が製造上、不可避に含まれる元素を除き、Auからなることが好ましい。
また、本発明によるボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金は、上記のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金が一方向から潰され、縦横比が1.00を超え1.50以下であることを特徴としている。
また、本発明においては、金属組織の少なくとも一部がラメラ組織であることが好ましい。
一方、本発明による電子部品は、上記のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を用いて封止されていることを特徴としている。
また、本発明による電子部品搭載装置は、上記のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を用いて封止された電子部品が搭載されていることを特徴としている。
本発明によれば、水晶デバイス、SAWフィルター、そして、MEMSなどの非常に高い信頼性を要求される電子部品や電子部品搭載装置に使われるはんだ合金を従来のAu系はんだよりも安価に提供できる。さらに、本発明のはんだ合金は共晶金属を基本としており、よって結晶が微細化し且つ結晶構造がラメラ組織となっていて加工性に優れ、ボール状の高温鉛フリーのはんだ合金を生産性よく製造でき、より一層の低コスト化が実現できる。その上適切な縦横比のボール状としたことにより、優れた濡れ広がり性を有していて高い接合信頼性が得られる。したがって、各種特性に優れたボール状Au系はんだを提供でき、工業的な貢献度は極めて高い。
370℃におけるAu−Sn−Ag三元系状態図である。 ボール形状がフットボール型であるボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金の縦横比の定義について説明した模式図である。 ボール形状が長楕円型であるボール状Au−Sn−Agはんだ合金の縦横比の定義について説明した模式図である。 ボール状のAu−Sn−Ag系はんだ合金、Au−Snはんだ合金またはAu−Geはんだ合金の濡れ広がり性に関する縦横比の定義について説明した模式図である。
以下、本発明のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金について詳しく説明する。
本発明のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金は、ボール状のAu−Sn−Ag系はんだ合金であって、その形状は縦横比が1.00以上1.20以下であり、かつSnを27.5質量%以上33.0質量%未満含有し、Agを8.0質量%以上14.5質量%以下含有し、残部が製造上、不可避に含まれる元素を除き、Auからなることを特徴としている。
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、AuとSnとAgの三元共晶点(図1のAg−Sn−Ag三元系状態図の「e1点」)の組成付近を基本としているAu−Sn−Ag系はんだ合金が、鉛フリーのAu系はんだとして特に諸特性に優れ、またボール形状の縦横比を一定範囲内とすると濡れ広がり性が優れたものとなることを見出した。すなわち、AuとSnとAgの三元共晶点付近の組成範囲を満たすと、必ずAu−Sn合金に比べて柔らかく、よって加工性や応力緩和性に優れたはんだ合金となる。さらに、ボール形状の縦横比が上記要件を満たすと、濡れ広がり性と接合性に特に優れたはんだ合金となる。その上、高価なAuの一部をSnとAgで代替することによってAu含有量を大幅に下げてはんだ合金のコストを格段に下げることが可能となる。
つまりAu−Sn―Ag三元共晶点の組成であるAu=57.2質量%、Sn=30.8質量%、Ag=12.0質量%(at%表示では、Au=43.9at%、Sn=39.3at%、Ag=16.8at%)を基本的な組成とすることによって、三元共晶点にて溶融合金が固体化する際に、結晶が微細化し且つ結晶構造がラメラ組織となり、加工性、応力緩和性等が格段に向上する。また本発明では、液相線温度と固相線温度の差が基本的には無いかまたは小さいため溶け分かれ現象も起こりにくい。さらに、Sn、Agを多く含有させることができ、よってAu含有量が低減でき、大きなコスト削減効果を得ることができる。そして、ボール形状の縦横比を特定の範囲内とするとともに、反応性が高くて酸化し難いAgを多く含有することによって、特に優れた濡れ広がり性と接合性を得ることができる。以下、本発明のはんだ合金の形状や必須の元素について、さらに詳しく説明する。
<縦横比>
本発明において、ボール状のAu−Sn−Ag系はんだ合金の縦横比を1.00以上1.20以下とすることは必須条件である。本発明においてボール状とは、真球型に限るものではなくフットボール型や部分的に平面視直線部分を有する長楕円型も含む。いずれの場合も縦横比が上記範囲内であればよい。
なお、本発明のAu−Sn−Ag系はんだ合金のボール状の形状の縦横比とは、計算式1及び図2と図3に定義した通りであり、球型の直径が一番長い箇所の測定値を長径又は長辺とし、直径が一番短い箇所の測定値を短径又は短辺とする。
[計算式1] 縦横比=長径÷短径 または 長辺÷短辺
ただし、図2はフットボール型の例を、図3は長楕円型の例を示すが、これらは一例であり、形状は図示したものに限定されず、また長径と長辺、短径と短辺の区別も厳密なものではない。なお、図2と図3は長径と長辺、短径と短辺の区別をわかりやすくするため、図示した縦横比は本発明の上記縦横比の範囲外のものを示している。
このようにボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金の形状を制御することによって、はんだ合金は溶融した場合、平面視真円に近い状態に濡れ広がるのである。はんだ合金がある程度ボール状であっても、真球度が低下するに従い、はんだ溶融時にはんだが接合面に円状に広がらず、接合したい部分を部分的にはみ出したり、あるいは不足したりして接合できない部分が発生し、十分な合金化ができていない部分ができてしまうこととなる。さらにはんだの厚さが不均一になりチップの傾き等の原因になったり、十分な封止ができなかったりする。
このような不具合が発生しないようにするために、本発明のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金の縦横比は1.00以上1.20以下とする。縦横比が1.20以下であれば、はんだ溶融時に表面張力によってはんだが半球状に広がり、接合面は円形に均一に濡れ広がるのである。縦横比が1.20を超えてしまうと、本発明のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金の場合は、はんだ溶融時の表面張力によっても接合面に均一に濡れ広がることは難しくなってしまう。
また、縦横比が1.00以上1.10以下であれば、より一層、はんだ溶融時に表面張力によってはんだが半球状に広がり、接合面は円形に均一に濡れ広がることとなりより好ましい。
また、本発明のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を一方向から潰し、縦横比が1.00を超え1.50以下となるようにする。基本的には短径(短辺)がより短くなる方向に潰すが、長径(長辺)側を潰してもよい。結果として縦横比が上記範囲内になればよい。一方向から潰したはんだ合金を接合面に置いたとき、潰された平らな平面が接合面に接することになる。このため、はんだの置かれた接合面をはんだ側から垂直に見た場合、はんだは略円状になっている。この状態ではんだを溶融させるとはんだは円状に濡れ広がるのである。
なお、Au−Sn系はんだ合金やAu−Ge系はんだ合金を一方向から潰して縦横比を1.50近くにすると、硬いためにクラックが入って円状に潰れず、よって円状に濡れ広がらなかったり、場合によってははんだが割れてしまったりする。
<Au>
Auは本発明のはんだ合金の主成分であり、当然、必須の元素である。Auは非常に酸化しづらいため、高い信頼性が要求される電子部品類の接合や封止用のはんだとして、特性面においては最も適している。このため、水晶デバイスやSAWフィルターの封止用としてAu系はんだが多用されており、本発明のはんだ合金もAuを基本とし、このような高信頼性を要求される技術分野に属するはんだを提供する。
ただし、Auは非常に高価な金属であるため、コスト面からするとできるだけ使わない方がよく、このため、一般的なレベルの信頼性を要求される電子部品にはほとんど使用されていない。本発明のはんだ合金は、濡れ性や接合性といった特性面ではAu−20質量%SnはんだやAu−12.5質量%Geはんだと同等以上であり、かつ、柔軟性、加工性を向上させ、加えてAu含有量を減らしてコストを下げるべく、Au−Sn−Ag系の三元共晶点の組成付近の合金としている。
<Sn>
Snは本発明のはんだにおいて必須の元素であり、基本を成す元素である。Au−Snはんだ合金は、通常、共晶点付近の組成、つまりAu−20質量%Sn付近の組成で使用される。これによって、固相線温度が280℃になり、かつ、結晶が微細化し、比較的柔軟性が得られるのである。しかし、共晶合金と言ってもAu−20質量%Sn合金はAu1Sn1金属間化合物とAu5Sn1金属間化合物から構成されているため、硬くて脆い。このため、加工しづらく、例えば、圧延によってシート状に加工する際には少しずつしか薄くしていくことができず生産性が悪かったり、圧延時に多数のクラックが入って収率が悪かったりするが、金属間化合物の硬くて脆い性質は一般的には変えることができない。このように硬くて脆い材料ではあるが、酸化しにくく濡れ性、信頼性に優れるため、高信頼用途に使用されているのである。
本発明のはんだ合金はAu1Sn1金属間化合物とζ相から構成され、かつ共晶点付近の組成を基本とする。なお、ζ相はAu−Sn−Ag金属間化合物であり、その組成の比率はat%でAu:Sn:Ag=30.1:16.1:53.8である(参考文献:Ternary Alloys, A Comprehensive Compendium of Evaluated Constitutional Data and Phase Diagrams, Edited by G. Petzow and Effenberg, VCH)。このζ相が比較的柔軟性を有すること、そして共晶点付近を基本組成としておりラメラ組織を形成することから、本発明のはんだ合金は加工性、応力緩和性等に優れることになるのである。そして融点も下げることでAu−Ge合金の共晶点温度と大差ない370℃の共晶点温度を有するのである。このような高温用はんだ合金として適切な融点を持つことも本発明のはんだ合金の優れる点の一つである。
Snの含有量は27.5質量%以上33.0質量%未満である。27.0質量%未満であると結晶粒が大きくなってしまい柔軟性、加工性向上等の効果が十分に発揮されないうえ、液相線温度と固相線温度の差が大きくなりすぎて溶け分かれ現象などが生じてしまう。さらにAu含有量も多くなりやすくなるためコスト削減効果も限定されたものとなってしまう。一方、Snの含有量が33.0質量%以上になると共晶点の組成から外れすぎてしまい、結晶粒の粗大化、液相線温度と固相線温度の差が大きくなってしまうという問題が生じる。加えて、Sn含有量が多くなりすぎ、酸化しやすくなってしまう可能性が高くなり、Au系はんだの特徴である良好な濡れ性を失い、よって、高い接合信頼性を得ることが難しくなってしまう。
Sn含有量が29.0質量%以上32.0質量%以下であれば、一層、共晶点の組成に近く、結晶粒微細化効果が得られ、かつ溶け分かれ現象などが生じづらく好ましい。
<Ag>
Agは本発明のはんだにおいて必須の元素であり、三元共晶の合金とするために欠かすことのできない元素である。Au−Sn−Agの三元共晶点付近の組成とすることにより、はじめて優れた柔軟性や加工性、応力緩和性、適した融点等を得ることができ、かつ大幅にAu含有量を下げることが可能となり、よって大きなコスト削減を実現できる。Agは濡れ性向上の効果も有する。すなわちAgは基板等の最上面に使用されるCu、Niなどと反応性がよく、濡れ性を向上させることができる。当然、半導体素子の接合面によく使用されるAgやAuメタライズ層との反応性に優れることは言うまでもない。
このように優れた効果を有するAgの含有量は8.0質量%以上14.5質量%以下である。8.0質量%未満では共晶点の組成を外れすぎてしまい、液相線温度が高くなり過ぎたり、結晶粒が粗大化してしまい、良好な接合を得ることが難しくなる。一方、14.5質量%を越えてしまった場合も液相線温度が高くなり、溶け分かれ現象を生じたり、結晶粒の粗大化が問題になったりしてしまう。
Ag含有量が10.0質量%以上14.0質量%以下であれば共晶点の組成にさらに近く、Agを含有させた効果がより一層現れて好ましい。
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
まず、原料としてそれぞれ純度99.99質量%以上のAu、Sn、Agおよび比較例用のGeを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく均一になるように留意しながら切断、粉砕等を行い、3mm以下の大きさに細かくした。次に、高周波溶解炉用グラファイトるつぼに、これら原料から表1の試料1〜36の各試料に相当する所定量をそれぞれ秤量して入れた。なお、試料29、35はAu−20質量%Sn合金であり、試料30、36はAu−12.5質量%Ge合金である。
原料の入ったるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7L/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく攪拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかにるつぼを取り出し、るつぼ内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型には、ボールを製造するための液中アトマイズ用に直径24mmの円柱形状のものを使用した。
このようにして、原料の混合比率を変えた以外は全て同様の方法により、試料1〜36のはんだ母合金を作製した。これらの試料1〜36の各はんだ母合金について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成分析を行った。得られた分析結果を下記表1に示した。
次に、試料1〜36を得るための各はんだ母合金からのボール状はんだ合金の製造方法と、はんだ合金試料の縦横比の測定方法について説明する。
<ボール状はんだ合金の製造方法>
準備した試料1〜36の各母合金(直径24mm)を液中アトマイズ装置のノズルに投入し、このノズルを260℃に加熱した油の入った石英管の上部(高周波溶解コイルの中)にセットした。ノズル中の母合金を高周波により550℃まで加熱して5分保持した後、不活性ガスによりノズルに圧力を加えてアトマイズを行い、ボール状のはんだ合金とした。尚、ボール直径は設定値を0.30mmとし、予めノズル先端の直径を調整した。得られたボール状形状の各試料はそれぞれエタノール洗浄を3回行い、その後、真空乾燥機で真空中40℃−3時間の乾燥を行った。そして、乾燥させたボール状形状の各試料を本発明の縦横比を満たすものと満たさないものとに選別した。選別方法としては特開平11−319728号公報に示されるような装置を用い、試料の落下方向に対して直角となる方向に直進する振動を加え試料を落下させて選別のための傾斜面に試料を落下させ、一定範囲内に落下したものを縦横比を満たすものとし、その他の区域に落下したものを縦横比を満たさないものとして第1段階の選別を行った。その後、後述する縦横比の測定により各試料を最終的に選別した。
さらに試料16〜20、31〜36についてはボール状の形状を潰し、平面のある形状とした。具体的には温間プレスを用い、酸化抑制のために窒素を5L/分の流量で流しながら200℃に加熱した金型で試料を潰し、30秒保持後、窒素を満たしたサイドボックスに移動し、常温まで冷却して取出した。潰しの程度は所望の縦横比となるように金型の隙間を制御して潰し量を調整した。
<はんだ合金試料の縦横比の測定>
試料1〜15、21〜30については三次元測定機によって任意の50カ所について直径を測定し、最小の長さを短径または短辺、最大の長さを長径または長辺とした。
潰した試料16〜20、31〜36については、潰した方向のうち実際に潰された部分の長さ(厚さ)を任意に10カ所測定して最小の長さ(厚さ)を短辺とし、短辺を測定した方向と垂直方向について長さを任意に10カ所測定して最大の長さを長辺とした。
はんだ合金試料の縦横比の測定結果を表1に示す。
Figure 2015136735
(注)表中の※を付した試料は比較例である。
次に、各評価について説明し、得られた各評価結果を表2に示す。
<濡れ広がり性の評価(接合体の縦横比の測定)>
濡れ広がり性を評価するため、図4の模式図に示すようなNiめっきしたCu基板上に各試料のはんだ合金をはんだ付けした接合体を以下のように作製して、接合体の縦横比を測定した。
濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を起動し、加熱するヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素ガスを12L/分の流量で流した。その後、ヒーター設定温度を融点より50℃高い温度にして加熱した。ヒーター温度が設定値で安定した後、Niめっき(膜厚:3.0μm)したCu基板(板厚:0.3mm)をヒーター部にセッティングして25秒加熱し、次にボール状のはんだ合金をCu基板上に載せて25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却し、十分に冷却した後大気中に取り出した。
得られた接合体、即ち図4に示すようにCu基板のNiめっき層にはんだ合金が接合された接合体について、濡れ広がったはんだ合金の濡れ広がり長さを測定して縦横比を求めた。具体的には、図4に示す最大のはんだ濡れ広がり長さを長径とし、最小のはんだ濡れ広がり長さ短径とし、測定値より下記計算式2によって縦横比を算出した。
[計算式2] 縦横比=長径÷短径
接合体の縦横比の測定結果を表2に示す。
計算式2の縦横比が1に近いほど基板上に円形状に濡れ広がっており、濡れ広がり性がよいと判断できる。1より大きくなるに従い、濡れ広がり形状が円形からずれていき、溶融はんだの移動距離にバラつきがでて反応が不均一になり、合金層の厚みや成分バラつきが大きくなったりし、均一で良好な接合ができなくなってしまう。さらに、ある方向に多くのはんだが流れるように広がって、はんだ量が過剰な箇所とはんだが無い箇所ができ、接合不良や場合よっては接合できなかったりしてしまう。はんだ合金の成分にもよるが、縦横比は最大でも1.3未満が好ましい。
<接合性の評価(ボイド率の測定)>
上記濡れ性の評価の際と同様にして得られた図4に示す接合体について、はんだ合金が接合されたCu基板のボイド率をX線透過装置(株式会社東芝製、TOSMICRON−6125)を用いて測定した。具体的には、はんだ合金とCu基板の接合面を上部から垂直にX線を透過し、下記計算式3を用いてボイド率を算出した。
[計算式3]
ボイド率(%)=ボイド面積÷(ボイド面積+はんだ合金とCu基板の接合面積)×100
接合体のボイド率の測定結果を表2に示す。
<ヒートサイクル試験(信頼性の評価)>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記接合性の評価と同様にして得たはんだ合金とCu基板が接合された接合体を用いて行った。まず、接合体に対して、−40℃の冷却と250℃の加熱を1サイクルとして、これを所定のサイクル繰り返した。その後、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(日立製作所製 S−4800)により接合面の観察を行った。接合面にはがれやはんだにクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。
接合体のヒートサイクル試験結果を表2に示す。
Figure 2015136735
(注)表中の※を付した試料は比較例である。
上記表2から分かるように、本発明の試料1〜20の各はんだ合金は、各評価項目において良好な特性を示している。即ち、濡れ広がり性の評価では、全ての試料で縦横比が1.02以下で円状に均一に広がっており、接合性の評価ではボイドがほとんど発生せず、信頼性の評価であるヒートサイクル試験では全ての試料で500サイクルまで不良が発生しなかった。このように良好な結果が得られた理由は本発明のはんだ合金は縦横比が決められた範囲内であり、かつ合金組成が組成範囲内であるからである。また、本発明の試料1〜20について樹脂埋めして断面研磨を実施して、SEMによる断面観察を行った結果、ラメラ組織であることを確認した。
一方、比較例である試料21〜36の各はんだ合金は、少なくともいずれかの特性において好ましくない結果となった。即ち、濡れ広がり性の評価では、全ての試料で縦横比が1.3以上で不均一に広がっていた。また、接合性の評価ではボイドが0.7〜10%程度と多く発生した。そして信頼性の評価であるヒートサイクル試験では試料35、36を除いた全ての試料に関して300サイクルまでに不良が発生した。
さらに本発明の試料1〜20はAu含有量が最大でも61質量%であり、実用化されている80質量%Au−20質量%はんだ合金や87.5質量%Au−12.5質量%Geはんだ合金よりも格段に低コストであることが分かる。

Claims (6)

  1. ボール状のAu−Sn−Ag系はんだ合金であって、その形状は縦横比(「長径÷短径、または、長辺÷短辺」のことをいう。以下同じ)が1.00以上1.20以下であり、かつSnを27.5質量%以上33.0質量%未満含有し、Agを8.0質量%以上14.5質量%以下含有し、残部が製造上、不可避に含まれる元素を除き、Auからなることを特徴とするボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金。
  2. 縦横比が1.00以上1.10以下であり、かつSnを29.0質量%以上32.0質量%以下含有し、Agを10.0質量%以上14.0質量%以下含有し、残部が製造上、不可避に含まれる元素を除き、Auからなることを特徴とする請求項1に記載のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金。
  3. 請求項1または2に記載のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金が一方向から潰され、縦横比が1.00を超え1.50以下であることを特徴とするボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金。
  4. 金属組織の少なくとも一部がラメラ組織であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のボール状Au−Sn−Ag系はんだ合金を用いて封止されていることを特徴とする電子部品。
  6. 請求項5に記載の電子部品が搭載されていることを特徴とする電子部品搭載装置。
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