[1.第1の実施の形態]
[1−1.全体構成]
図1は、第1の実施の形態に係る電流センサの構成例を示す概略図である。第1の実施の形態に係る電流センサは、配線500の近傍に配置され、この配線500に流れる測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200を有する。第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200は、それぞれ磁化自由層として動作する第1磁性層101,201及び磁化固定層102,202を有する。また、第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200は、印加された誘導磁界の大きさと抵抗値との関係が互いに異なる。更に言えば、本実施の形態に係る第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200は、所定の誘導磁界の増加量に応じた抵抗値の増加量又は減少量が異なる。このような形態の電流センサを用いることによって、広いレンジの電流値に対して高精度な測定を低消費電力で実現することができる。
以下、所定の誘導磁界の増加量に応じた抵抗値の増加量又は減少量を磁場感度と呼ぶ。磁場感度は、磁気抵抗素子の抵抗値の変化量をdR、磁気抵抗素子の通常の抵抗値をR、磁気抵抗素子の飽和磁場をHsとすると、(dR/R)/2Hsで表すことが可能である。尚、飽和磁場は、誘導磁場の変化に対し、抵抗値が変化しなくなった時の磁場の大きさである。
尚、図1に示した電流センサでは、異なる磁気−抵抗特性を有する2つの磁気抵抗素子100及び200を例示したが、異なる3つ以上の磁気−抵抗特性を有する複数の磁気抵抗素子を用いてもよい。異なる磁気−抵抗特性を有する磁気抵抗素子の数は、測定対象の電流レンジおよび求められる測定分解能に応じて適切に調整することができる。
[1−2.動作原理]
図2は、本実施の形態に係る電流センサに用いられる磁気抵抗素子の概略構成を例示する模式的斜視図である。例えば第1の磁気抵抗素子100は、第1磁性層101と、第2磁性層102と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられた中間層103と、図示しない電極層とを含む。尚、第2の磁気抵抗素子200は、第1の磁気抵抗素子100とほぼ同様に構成されている。
中間層103は、例えば、非磁性層である。第1磁性層101は、例えば、磁化が自由に変化する磁化自由層である。第2磁性層102は、例えば、磁化の固定された磁化固定層である。
第1の磁気抵抗素子100は、中間層103が導電材料で形成されている場合はGMR(Giant Magneto Resistance)素子であり、中間層103が絶縁材料で形成されている場合はTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子である。第1の磁気抵抗素子100がGMR素子である場合には、電流が膜面垂直方向に通電されるCPP−GMR素子である場合や、電流が膜面内方向に通電されるCIP−GMR素子である場合がある。第1の磁気抵抗素子100がTMR素子である場合には、電流が膜面垂直方向に通電される。また、第1の磁気抵抗素子100は、AMR素子であっても良い。
図3は、本実施の形態で用いる磁気抵抗素子が磁場を検知する機能について説明する模式図である。以降、第1磁性層101が磁化自由層、第2磁性層102が磁化固定層の場合を例にとり、説明する。
磁気抵抗素子が磁場を検知する機能は「MR効果」に基づく。「MR効果」は、第1磁性層101と中間層103と第2磁性層102との積層膜において発現する。「MR効果」とは、磁性体を有する積層膜において、外部磁界が印加されたときに、磁性体の磁化の変化によって積層膜の電気抵抗の値が変化する現象である。
図3(b)に示すように第1の磁気抵抗素子100に誘導磁界が加わっていない初期状態では、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向が所定の角度を有する。第2磁性層102の磁化方向は、後述するように積層方向に隣接する反強磁性層などで固定されており、第1磁性層101の磁化方向は、第1の線形応答磁性体160等や磁界中アニールの方向によって所定の向きに設定される。
図3(a),(c)に示すように、第1の磁気抵抗素子100に誘導磁界が加わることで、第1磁性層101の磁化方向が変化する。その結果、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向の相対角度が変化する。
第1の磁気抵抗素子100に電流を流すと、磁化方向の相対角度の変化が抵抗変化として表れる。低抵抗状態の抵抗をRとし、MR効果によって変化する電気抵抗の変化量をΔRとしたときに、ΔR/Rを「MR変化率」という。第1磁性層101と中間層103と第2磁性層102の材料の組み合わせによって正の磁気抵抗効果が生ずる場合、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向の相対角度の減少に伴って電気抵抗が減少する。一方、第1磁性層101と中間層103と第2磁性層102の材料の組み合わせによって負の磁気抵抗効果が生ずる場合、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向の相対角度の減少に伴って電気抵抗が増大する。
図3(d)に示す例では、正の磁気抵抗効果を例にとっている。GMR素子やTMR素子などの磁気抵抗素子では、「MR変化率」が非常に大きいため、ホール素子などに比べて、磁界に対する感度が高い。また、磁気抵抗素子では、図3(d)に例示するとおり、磁化自由層と磁化固定層が平行の場合が抵抗の最小値、反平行である場合が抵抗の最大値とした、磁場に対する電気抵抗変化のダイナミックレンジが存在する。図3(d)に示したとおり、磁気抵抗素子のダイナミックレンジは2Hsで定義される。
[1−3.磁気抵抗素子の構成例]
以下、本実施の形態に係る磁気抵抗素子の構成例について説明する。図4(a)〜図4(d)は、本実施の形態に係る電流センサに用いられる磁気抵抗素子を例示する模式的斜視図である。尚、以下において、「材料A/材料B」の記載は、材料Aの層の上に、材料Bの層が設けられている状態を示す。尚、以下の説明においては第1の磁気抵抗素子100を例として説明するが、第2の磁気抵抗素子200も同様に構成することが可能であり、更に磁気抵抗素子を設ける場合にも、同様に構成することが可能である。
図4(a)は、所定の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Aを例示する模式的斜視図である。図4(a)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Aは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、ピニング層105と、第2磁化固定層106と、磁気結合層107と、第2磁性層102と、中間層103と、第1磁性層101と、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は第1磁化固定層として機能する。図4(a)の第1の磁気抵抗素子100Aは、ボトムスピンバルブ型と呼ばれる。
下地層104には、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さ(Z軸方向の長さ)は、例えば、3nmである。このRu層の厚さは、例えば、2nmである。ピニング層105には、例えば、7nmの厚さのIrMn層が用いられる。第2磁化固定層106には、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。磁気結合層107には、例えば、0.9nmの厚さのRu層が用いられる。第1磁化固定層102には、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。中間層103には、例えば、1.6nmの厚さのMgO層が用いられる。第1磁性層101には、例えば、Co40Fe40B20/Ni80Fe20が用いられる。2nmの厚さのCo40Fe40B20と8nmの厚さのNi80Fe20の積層体が用いられる。キャップ層108には、例えばTa/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、1nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
下部電極E1及び上部電極E2には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム銅合金(Al−Cu)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び、金(Au)の少なくともいずれかが用いられる。下部電極E1及び上部電極E2として、このような電気抵抗が比較的小さい材料を用いることで、第1の磁気抵抗素子100Aに効率的に電流を流すことができる。
下部電極E1は、下部電極E1用の下地層(図示せず)と、キャップ層(図示せず)と、の間に、Al、Al−Cu、Cu、Ag、及び、Auの少なくともいずれかの層が設けられた構造を有しても良い。例えば、下部電極E1には、タンタル(Ta)/銅(Cu)/タンタル(Ta)などが用いられる。下部電極E1用の下地層としてTaを用いることで、例えば、下部電極E1を構成する層間の密着性を向上させることができる。下部電極E1用の下地層として、チタン(Ti)、または、窒化チタン(TiN)などを用いても良い。下部電極E1用のキャップ層としてTaを用いることで、そのキャップ層の下の銅(Cu)などの酸化を防ぐことができる。下部電極E1用のキャップ層として、チタン(Ti)、または、窒化チタン(TiN)などを用いても良い。
下地層104には、バッファ層(図示せず)とシード層(図示せず)との積層構造を用いることができる。このバッファ層は、例えば、下部電極E1の表面の荒れを緩和し、バッファ層の上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層として、例えば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。バッファ層として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いても良い。
バッファ層の厚さは、1nm以上10nm以下が好ましい。バッファ層の厚さは、1nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層が薄すぎると、バッファ効果が失われる。バッファ層が厚すぎると、第1の磁気抵抗素子100Aが過度に厚くなる。バッファ層の上にシード層が形成され、そのシード層がバッファ効果を有することができる。バッファ層は省略しても良い。バッファ層には、例えば、3nmの厚さのTa層が用いられる。
図示しないシード層は、シード層の上に積層される層の結晶配向を制御する。シード層は、シード層の上に積層される層の結晶粒径を制御する。シード層として、fcc構造(Face-Centered Cubic Structure:面心立方格子構造)、hcp構造(Hexagonal Close-Packed Structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(Body-Centered Cubic Structure:体心立方格子構造)の金属等が用いられる。
シード層として、hcp構造のルテニウム(Ru)、または、fcc構造のNiFe、または、fcc構造のCuを用いることにより、例えば、シード層の上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。シード層には、例えば、2nmの厚さのCu層、または、2nmの厚さのRu層が用いられる。シード層の上に形成される層の結晶配向性を高める場合には、シード層の厚さは、1nm以上5nm以下が好ましい。シード層の厚さは、1nm以上3nm以下がより好ましい。これにより、結晶配向を向上させるシード層としての機能が十分に発揮される。一方、例えば、シード層の上に形成される層を結晶配向させる必要がない場合(例えば、アモルファスの磁化自由層を形成する場合など)には、シード層は省略しても良い。シード層としては、例えば、2nmの厚さのRu層が用いられる。
ピニング層105は、ピニング層105の上に形成される強磁性層に、一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固定する。図4(a)に示した例では、ピニング層105の上に形成される第2磁化固定層106の強磁性層に、一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固定する。ピニング層105には、例えば、反強磁性層が用いられる。ピニング層105には、例えば、Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層105の厚さが適切に設定する。
ピニング層105に接する強磁性層の磁化の固定を行うためには、磁場印加中での熱処理が行われる。熱処理時に印加されている磁場の方向にピニング層105に接する強磁性層の磁化が固定される。アニール温度は、例えば、ピニング層105に用いられる反強磁性材料の磁化固着温度よりも高い温度とする。また、Mnを含む反強磁性層を用いる場合、ピニング層105以外の層にMnが拡散してMR変化率を低減する場合がある。よってMnの拡散が起こる温度以下に設定することが望ましい。例えば200度(℃)以上、500度(℃)以下とすることができる。好ましくは、260度(℃)以上、400度(℃)以下とすることができる。
ピニング層105としてPt−MnまたはPd−Pt−Mnが用いられる場合には、ピニング層105の厚さは、8nm以上20nm以下が好ましい。ピニング層105の厚さは、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層105としてIrMnを用いる場合には、ピニング層105としてPtMnを用いる場合よりも薄いピニング層105で、一方向異方性を付与することができる。この場合には、ピニング層105の厚さは、4nm以上18nm以下が好ましい。ピニング層105の厚さは、5nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層105には、例えば、7nmの厚さのIr22Mn78層が用いられる。Ir22Mn78層を用いる場合、磁界中熱処理条件として、10kOeの磁場を印加しつつ320℃において一時間の熱処理を行うことができる。Pt50Mn50層を用いる場合、磁界中熱処理条件として、10kOeの磁場を印加しつつ320―℃で10時間の熱処理を行うことができる。
第2磁化固定層106には、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの材料に添加元素を加えた材料とすることもできる。
第2磁化固定層106には、例えば、CoxFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、NixFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いられる。第2磁化固定層106として、例えば、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。第2磁化固定層106として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いても良い。
第2磁化固定層106の厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。これにより、例えば、ピニング層105による一方向異方性磁界の強度をより強くすることができる。例えば、第2磁化固定層106の上に形成される磁気結合層107を介して、第2磁化固定層106と第1磁化固定層102との間の反強磁性結合磁界の強度をより強くすることができる。第2磁化固定層106の磁気膜厚(飽和磁化Bsと厚さtとの積(Bs・t))は、第1磁化固定層102の磁気膜厚と実質的に等しいことが好ましい。
薄膜でのCo40Fe40B20の飽和磁化は、約1.9T(テスラ)である。例えば、第1磁化固定層102として、3nmの厚さのCo40Fe40B20層を用いる場合には、第1磁化固定層102の磁気膜厚は、1.9T×3nmであり、5.7Tnmとなる。一方、Co75Fe25の飽和磁化は、約2.1Tである。上記と等しい磁気膜厚が得られる第2磁化固定層106の厚さは、5.7Tnm/2.1Tであり、2.7nmとなる。この場合、第2磁化固定層106には、約2.7nmの厚さのCo75Fe25を用いることが好ましい。第2磁化固定層106として、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。
図4(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Aにおいては、第2磁化固定層106と磁気結合層107と第1磁化固定層102とのシンセティックピン構造が用いられている。その代わりに、1層の磁化固定層からなるシングルピン構造を用いても良い。シングルピン構造を用いる場合には、磁化固定層として、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。シングルピン構造の磁化固定層に用いる強磁性層として、後述する第1磁化固定層102と同じ材料を用いても良い。
磁気結合層107は、第2磁化固定層106と第1磁化固定層102との間に反強磁性結合を生じさせる。磁気結合層107は、シンセティックピン構造を形成する。磁気結合層107として、例えば、Ruが用いられる。磁気結合層107の厚さは、0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。第2磁化固定層106と第1磁化固定層102との間に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、磁気結合層107としてRu以外の材料を用いても良い。磁気結合層107の厚さは、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合のセカンドピーク(2ndピーク)に対応する0.8nm以上1nm以下の厚さに設定することができる。さらに、磁気結合層107の厚さは、RKKY結合のファーストピーク(1stピーク)に対応する0.3nm以上0.6nm以下の厚さに設定しても良い。磁気結合層107として、例えば、0.9nmの厚さのRuが用いられる。これにより、高信頼性の結合がより安定して得られる。
第1磁化固定層には、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの材料に添加元素を加えた材料とすることもできる。
第1磁化固定層102に用いられる磁性層は、MR効果に直接的に寄与する。第1磁化固定層102として、例えば、Co−Fe−B合金が用いられる。具体的には、第1磁化固定層102として、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは0at.%以上100at.%以下、yは0at.%以上30at.%以下)を用いることもできる。第1磁化固定層102として、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いた場合には、例えば、磁気抵抗素子のサイズが小さい場合においても、結晶粒に起因した素子間のばらつきを抑えることができる。第1磁化固定層102として、アモルファス合金を用いた場合には、第1磁化固定層102の上に形成される層(例えばトンネル絶縁層)を平坦化することができる。トンネル絶縁層の平坦化により、トンネル絶縁層の欠陥密度を減らすことができる。例えば、トンネル絶縁層の材料としてMgOを用いる場合には、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いることで、トンネル絶縁層の上に形成されるMgO層の(100)配向性を強めることができる。MgO層の(100)配向性をより高くすることで、より大きいMR変化率が得られる。(CoxFe100−x)100−yBy合金は、アニール時にMgO層の(100)面をテンプレートとして結晶化する。このため、MgOと(CoxFe100−x)100−yBy合金との良好な結晶整合が得られる。良好な結晶整合を得ることで、より大きいMR変化率が得られる。第1磁化固定層102として、Co−Fe−B合金以外に、例えば、Fe−Co合金を用いても良い。
第1磁化固定層102がより厚いと、より大きなMR変化率が得られる。より大きな固定磁界を得るためには、第1磁化固定層102は薄いほうが好ましい。MR変化率と固定磁界との間には、第1磁化固定層102の厚さにおいてトレードオフの関係が存在する。第1磁化固定層102としてCo−Fe−B合金を用いる場合には、第1磁化固定層102の厚さは、1.5nm以上5nm以下が好ましい。第1磁化固定層102の厚さは、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
第1磁化固定層102(第2磁性層20)には、上述した材料の他に、fcc構造のCo90Fe10合金、または、hcp構造のCo、または、hcp構造のCo合金が用いられる。第1磁化固定層102として、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくとも1つが用いられる。第1磁化固定層102として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金が用いられる。第1磁化固定層102として、bcc構造のFeCo合金材料、50at.%以上のコバルト組成を含むCo合金、または、50at.%以上のNi組成の材料を用いることで、例えば、より大きなMR変化率が得られる。第1磁化固定層102として、Co2MnGe、Co2FeGe、Co2MnSi、Co2FeSi、Co2MnAl、Co2FeAl、Co2MnGa0.5Ge0.5、及び、Co2FeGa0.5Ge0.5などのホイスラー磁性合金層を用いることもできる。例えば、第1磁化固定層102として、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。
中間層103は、第1磁化固定層102と第1磁性層101との磁気的な結合を分断する。中間層103には、金属または絶縁体または半導体が用いられる。中間層103として金属を用いる場合、例えば、Cu、AuまたはAg等が用いられる。この場合、中間層103の厚さは、例えば、1nm以上7nm以下程度である。中間層103として絶縁体または半導体を用いる場合、例えば、マグネシウム酸化物(Mg−O等)、アルミ酸化物(Al2O3等)、チタン酸化物(Ti−O等)、亜鉛酸化物(Zn−O等)、または、酸化ガリウム(Ga−O)などが用いられる。この場合、中間層103の厚さは、例えば0.6nm以上5nm以下程度である。
第1磁性層101の材料は、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの材料に添加元素を加えた材料とすることもできる。第1磁性層は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。また、これらの金属、合金に、添加元素や極薄層として、B,Al,Si,Mg,C,Ti,V,Cr,Mn、Cu,Zn,Ga,Zr,Hfなどを添加することもできる。また、結晶磁性層だけではなく、アモルファス磁性層を用いることも可能である。
また、酸化物や窒化物の磁性層を用いることも可能である。例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni80Fe20[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、第1磁性層101として、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成を採用しても構わない。
第1磁性層101には、CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70at.%〜90at.%)も用いることができる。
また、中間層にMgOを用いたTMR素子では、第1磁性層の材料として、(CoxFe100−x)100−yBy合金(x=0at.%〜100at.%、y=0at.%〜30at.%)を用いることが好ましい。(CoxFe100−x)100−yBy合金はアニール時にMgO(100)面をテンプレートとして結晶化するため、MgOと(CoxFe100−x)100−yBy合金の良好な結晶整合を得ることが出来る。このような良好な結晶整合は高いMR変化率を得る観点で重要である。一方で、第1磁性層にCo−Fe−B合金を用いる場合、軟磁気特性を良好にする観点で、Ni−Fe合金との積層体とすることが好ましい。例えば、Co40Fe40B20[2nm]/Ni80Fe20[8nm]などを用いることができる。ここで、高いMR変化率を得る観点で、Co−Fe−B層は中間層側に配置するのが好ましい。また、Co40Fe40B20層とNi80Fe20層の間の結晶整合を切ると、Co40Fe40B20層がMgO中間層をテンプレートとして良好な配向が得られるため、TaやTiなどの非磁性金属を間に挿入しても良い。また、Co−Fe−B層とNi―Fe―B層の積層体としても良い。
キャップ層108は、キャップ層108の下に設けられる層を保護する。キャップ層108には、例えば、複数の金属層が用いられる。キャップ層108には、例えば、非磁性金属を用いることができる。キャップ層108には、例えば、Ta層とRu層との2層構造(Ta/Ru)が用いられる。このTa層の厚さは、例えば1nmであり、このRu層の厚さは、例えば5nmである。キャップ層108として、Ta層やRu層の代わりに他の金属層を設けても良い。キャップ層108の構成は、任意である。キャップ層108には、例えば、非磁性材料を用いることができる。キャップ層108の下に設けられる層を保護可能なものであれば、キャップ層108として、他の材料を用いても良い。
図4(b)は、他の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Bを例示する模式的斜視図である。図4(b)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Bは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、第1磁性層101と、中間層103と、第2磁性層102と、磁気結合層107と、第2磁化固定層106と、ピニング層105と、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は第1磁化固定層として機能する。図4(b)の第1の磁気抵抗素子100Bは、トップスピンバルブ型と呼ばれる。第1の磁気抵抗素子100Bに含まれる層のそれぞれには、例えば、図4(a)に示す磁気抵抗素子に関して説明した材料を用いることができる。
図4(c)は、他の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Cを例示する模式的斜視図である。図4(c)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Cは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、下部ピニング層105aと、下部第2磁化固定層106aと、下部磁気結合層107aと、下部第2磁性層102aと、下部中間層103aと、第1磁性層101と、上部中間層103bと、上部第2磁性層102bと、上部磁気結合層107bと、上部第2磁化固定層106bと、上部ピニング層105bと、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101が磁化自由層として機能し、下部第2磁性層102aが下部第1磁化固定層102aとして機能し、上部第2磁性層102bが上部第1磁化固定層として機能する。既に説明した図4(a)に示す第1の磁気抵抗素子100A及び図4(b)に示す第1の磁気抵抗素子100Bにおいては、磁化自由層である第1磁性層101の一方の面側に磁化固定層である第2磁性層102が配置されている。一方、図4(c)に示す第1の磁気抵抗素子100Cにおいては、2つの磁化固定層の間に磁化自由層が配置されている。図4(c)に示す第1の磁気抵抗素子100Cは、デュアルスピンバルブ型と呼ばれる。図4(c)に示す第1の磁気抵抗素子100Cに含まれる層のそれぞれには、例えば、図4(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Aに関して説明した材料を用いることができる。
図4(d)は、他の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Dを例示する模式的斜視図である。図4(d)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Dは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、ピニング層105と、第2磁性層102と、中間層103と、第1磁性層101と、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は磁化固定層として機能する。既に説明した図4(a)に示す第1の磁気抵抗素子100A及び図4(b)に示す第1の磁気抵抗素子100Bにおいては、第2磁化固定層106と、磁気結合層107と、第1磁化固定層として機能する第2磁性層102とを用いた構造が適用されている。一方、図4(d)に示す第1の磁気抵抗素子100Dにおいては、単一の磁化固定層24を用いたシングルピン構造が適用されている。図4(d)に示す第1の磁気抵抗素子100Dに含まれる層のそれぞれには、例えば、図4(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Aに関して説明した材料を用いることができる。
図5は、他の構成に係る第1の磁気抵抗素子100Eを例示する模式的斜視図である。図5に表したように、第1の磁気抵抗素子100Eにおいては、絶縁層109が設けられる。すなわち、下部電極E1と上部電極E2との間に、互いに離間する2つの絶縁層(絶縁部分)109が設けられ、それらの間に、下地層104と、ピニング層105と、第2磁化固定層106と、磁気結合層107と、第2磁性層102と、中間層103と、磁化自由層101と、キャップ層108からなる積層体が設けられる。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は第1磁化固定層として機能する。第1の磁気抵抗素子100Eに含まれる層のそれぞれには、例えば、図4(a)に示す磁気抵抗素子に関して説明した材料を用いることができる。また、絶縁層109には、例えば、アルミニウム酸化物(例えば、Al2O3)、または、シリコン酸化物(例えば、SiO2)などを用いることができる。絶縁層109により、上記積層体の周囲におけるリーク電流を抑制することができる。上記の絶縁層109は、図4(a)〜(d)に示すいずれの磁気抵抗素子にも適用できる。
[1−4.磁気抵抗素子の他の構成例]
図6(a)は、他の構成に係る第1の磁気抵抗素子100Fを示す模式的斜視図である。図6(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Fはグラニュラー型の磁気抵抗素子と呼ばれ、母層(マトリックス)中に磁性体の微粒子が3次元的に分散した構造と、この構造の側部に設けられる一対の電極Eとを有する。母層が導電体の場合にはグラニュラー型GMR素子と呼ばれ、絶縁体の場合にはグラニュラー型TMR素子と呼ばれる。
図6(c)に示すとおり、外部磁界なしの状態では、3次元的に分散した磁性粒子の磁化の向きは3次元的にランダムとなっており、図6(b)、(d)に示すとおり、外部磁界が加わると一方向に揃う。図6(e)に示したとおり、分散した磁性粒子の相対角度に応じて電気抵抗が変化する。このMR現象は、前述した積層型のGMR素子やTMR素子と同じ原理に基づく。第1の磁気抵抗素子100Fは、積層型に比べて作製が容易であるなどの利点を持つ。
第1の磁気抵抗素子100Fに用いられる磁性粒子は、前述した積層型の磁気抵抗素子における磁化自由層に対応する。磁性粒子に用いられる材料として、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの金属、合金に、添加元素として、B,Al,Si,Mg,C,Ti,V,Cr,Mn、Cu,Zn,Ga,Zr,Hfなどを添加することもできる。例えば、Co90Fe10からなる磁性粒子を用いることができる。
第1の磁気抵抗素子100Fのマトリックスとしては、グラニュラー型TMR素子の場合には、絶縁材料や半導体材料として、マグネシウム酸化物(Mg−O等)、アルミ酸化物(Al2O3等)、チタン酸化物(Ti−O等)、亜鉛酸化物(Zn−O等)、または、酸化ガリウム(Ga−O)などが用いられる。一方、グラニュラー型GMR素子の場合には、導電体材料として、Cu,Ag,Au,Al,Cr,Ruなどの金属を用いることができる。
尚、第1の磁気抵抗素子100Fは、電極Eを側壁に設け、膜面内方向に通電するCIP素子として形成されているが、下部電極E1及び上部電極E2を介して膜面垂直方向に通電を行うCPP素子とすることもできる。
[1−5.磁気抵抗素子の磁場感度の調整]
次に、磁気抵抗素子の磁場感度の調整について説明する。磁気抵抗素子の磁場感度を調整するためには、線形応答磁性体を用いる方法、磁束ガイドを用いる方法、磁気抵抗素子の配置による方法及びその他の方法を適用することが可能である。線形応答磁性体は、被測定電流による誘導磁界の方向と略垂直な方向から磁気抵抗素子に磁場を印加する。本実施の形態に係る電流センサは、この線形応答磁性体を用いて磁場感度の調整を行っている。
[1−6.横置き線形応答磁性体]
線形応答磁性体を用いて磁気抵抗素子の磁場感度を調整する方法について説明する。図7は、第1の磁気抵抗素子100と、第1の線形応答磁性体160Aの模式図である。第1の線形応答磁性体160Aは、線形応答磁性体の一態様である。
第1の線形応答磁性体160Aは、第1の磁気抵抗素子100中の第1磁性層101、第2磁性層102及び中間層103に隣接して配置され、第1磁性層101、第2磁性層102及び中間層103に磁界を加える。また、第1の線形応答磁性体160Aは、下部電極E1と上部電極E2との間に設けられる。更に、例えば第1の線形応答磁性体160Aと第1の磁気抵抗素子100との間には、絶縁層109が配置される。この例では、第1の線形応答磁性体160Aと下部電極E1との間に、絶縁層109が延在している。
図7では1つの第1の磁気抵抗素子100を挟むように一対の第1の線形応答磁性体160Aが設けられる。しかし、1つの第1の磁気抵抗素子100に対して1つの第1の線形応答磁性体160Aを設けてもよい。以降で説明する具体例においても1対の第1の線形応答磁性体160Aが設けられているが、片側のみとしてもよい。
第1の線形応答磁性体160Aの磁界により、外部磁界が印加されていない状態における第1の磁性層101の磁化方向を所望の方向に設定できる。例えば、第1の線形応答磁性体160Aの磁化方向を第2の磁性層102の磁化方向と直交方向に設定することで、図3(b)に示すように、第1の磁性層101の磁化方向を第2の磁性層102の磁化方向と直交させることができる。第1の磁性層101の磁化方向と第2の磁性層102の磁化方向とを交差(直交)させることで、図3(d)に示すように正負の磁界に線形的に感応させることができる。
第1の線形応答磁性体160Aには、例えば、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高いハード磁性材料(硬質強磁性材料)が用いられる。また、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。例えば、CoPt(Coの比率は、50at.%以上85at.%以下)、(CoxPt100−x)100−yCry(xは50at.%以上85at.%以下、yは0at.%以上40at.%以下)、または、FePt(Ptの比率は40at.%以上60at.%以下)などが用いられてもよい。このような材料を用いる場合、第1の線形応答磁性体160Aの磁化の方向は、線形応答磁性体160Aの保磁力よりも大きい外部磁界を加えることで、外部磁界を加えた方向に設定(固定)することができる。第1の線形応答磁性体160Aの厚さ(例えば、下部電極E1から上部電極E2に向かう方向に沿った長さ)は、例えば5nm以上50nm以下である。
図7に示すように、第1の線形応答磁性体160Aと下部電極E1との間に絶縁層109を配置する場合、絶縁層109の材料として、SiOxやAlOxを用いることができる。さらに、絶縁層109と第1の線形応答磁性体160Aの間に、図示しない磁性体下地層を設けてもよい。線形応答磁性体160AにCo−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高い硬質強磁性材料を用いる場合には、磁性体下地層の材料として、CrやFe−Coなどを用いることができる。上記の第1の線形応答磁性体160Aは、上記及び以下で説明する第1の磁気抵抗素子100のいずれにも適用できる。
第1の線形応答磁性体160Aは、図示しない線形応答磁性体用ピニング層に積層された構造を有していてもよい。この場合、第1の線形応答磁性体160Aと線形応答磁性体用ピニング層の交換結合により、第1の線形応答磁性体160Aの磁化の方向を設定(固定)できる。この場合、第1の線形応答磁性体160Aには、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金からなる強磁性材料を用いることができる。この場合、第1の線形応答磁性体160Aには、例えば、CoxFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、NixFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いることができる。第1の線形応答磁性体160Aとして、前述した第2磁性層102と同様の材料を用いることができる。また、線形応答磁性体用ピニング層には、前述した磁気抵抗素子のピニング層105と同様の材料を用いることができる。また、線形応答磁性体用ピニング層を設ける場合、磁気抵抗素子の下地層で説明した材料と同様の下地層を線形応答磁性体用ピニング層の下に設けても良い。また、線形応答磁性体用ピニング層は、第1の線形応答磁性体160Aの下部に設けても良いし、上部に設けても良い。この場合の第1の線形応答磁性体160Aの磁化方向は、磁気抵抗素子のピニング層で説明したとおり、磁界中熱処理により決定することができる。
上記の第1の線形応答磁性体160Aは、上記第1の磁気抵抗素子100及び以下で説明する第1の磁気抵抗素子100のいずれにも適用できる。上述したような第1の線形応答磁性体160Aと線形応答磁性体用ピニング層の積層構造を用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1の線形応答磁性体160Aに加わった場合においても、第1の線形応答磁性体160Aの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
ここで、磁気抵抗素子の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、線形応答磁性体等の構成によって調整することができる。図8(a)〜(c)には、2つの磁気抵抗素子について異なる磁場感度を得るために、第1の線形応答磁性体160A及び第2の線形応答磁性体260Aの構成に差を設けた例を示す。尚、図8(a)〜(c)においては、電流センサが2つの磁気抵抗素子を備える例について説明しているが、電流センサは、当然3つ以上の磁気抵抗素子を備えていても良い。また、図8では、図7に示すような、磁気抵抗素子の側方に隣接して第1又は第2の線形応答磁性体160A,260Aを設けた場合を例にとり説明しているが、磁気抵抗素子の斜め側方に第1又は第2の線形応答磁性体を設けた場合でも、同様に異なる磁場感度を得ることができる。尚、図8及び以下の図中において、201は第2の磁気抵抗素子200の第1磁性層(磁化自由層)を、202は中間層を、203は第2磁性層(磁化固定層)を、それぞれ表している。
図8(a)に示すとおり、磁気抵抗素子と第1及び第2の線形応答磁性体160A,260Aとの間の距離を変えることで、磁場感度を変えることが可能である。図8(a)に示す第1の磁気抵抗素子100と一対の第1の線形応答磁性体160Aとのそれぞれの間の距離の和L1a+L1bは、第2の磁気抵抗素子200と一対の第2の線形応答磁性体260Aのそれぞれの距離の和L2a+L2bよりも大きく設定されている。この場合、第1又は第2の線形応答磁性体160A,260Aから距離が大きいほど、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は小さくなる。従って、第1の磁気抵抗素子100の飽和磁場Hsは小さくなり、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して高く設定される。
図8(b)に示すとおり、第1の線形応答磁性体160Aの基板平面における面積と、第2の線形応答磁性体260Aの基板平面における面積を変えることで、磁場感度を変えることが可能である。図8(b)に示す一対の第1の線形応答磁性体160Aのそれぞれの面積の和S1a+S1bは、一対の第2の線形応答磁性体260Aのそれぞれの面積の和S2a+S2bよりも小さく設定されている。この場合、第1又は第2の線形応答磁性体160A,260Aの面積が大きいほど、第1又は第2の線形応答磁性体160A,260Aの磁気体積が大きくなる。従って、第1の磁気抵抗素子100の飽和磁場Hsは小さくなり、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して高く設定される。
図8(c)に示すとおり、第1及び第2の線形応答磁性体160A,260Aの膜厚を変えることで、磁場感度を変えることが可能である。図8(c)に示す一対の第1の線形応答磁性体160Aのそれぞれの膜厚の和t1a+t1bは、一対の第2の線形応答磁性体260Aのそれぞれの膜厚の和t2a+t2bよりも小さく設定されている。この場合、第1及び第2の線形応答磁性体160A,260Aの膜厚が厚いほど、第1及び第2の線形応答磁性体160A,260Aの磁気体積が大きくなる。従って、第1の磁気抵抗素子100の飽和磁場Hsは小さくなり、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して高く設定される。
上述した図8(b)、図8(c)では、第1及び第2の線形応答磁性体160A,260Aの面積または膜厚を変えることで磁気体積を変えた場合について説明したが、第1及び第2の線形応答磁性体160A,260Aに用いられる磁性材料の種類を変えることでも磁気体積を変えることができる。例えば、第1の線形応答磁性体160Aと第2の線形応答磁性体260Aのそれぞれに飽和磁化の異なる磁性材料を用いることで、磁気体積を変え、第1および第2の磁気抵抗素子100,200の磁場感度を変えることも出来る。
図9(a)及び(b)には、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1の線形応答磁性体160D又は160Eから磁界を印加する場合について説明するための模式図である。第1の線形応答磁性体160D又は160Eは、第1の線形応答磁性体160の他の態様である。このような構成によっても、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能である。尚、図9においては、電流センサが第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200に加え、第3の磁気抵抗素子300を備えた例について説明する。但し、磁気抵抗素子の数は2つでも良いし、4つ以上でも良い。
図9(a)に示すとおり、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1の線形応答磁性体160Dを用いても、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能である。図9(a)では、第1の線形応答磁性体160Dの磁化方向(Y方向)における幅がそれぞれの磁気抵抗素子に対して同等となっているが、複数の磁気抵抗素子のそれぞれと一対の第1の線形応答磁性体160Dの間の距離が異なる。このような形状の第1の線形応答磁性体160Dを用いることによって、それぞれの磁気抵抗素子に最も近接した位置の第1の線形応答磁性体160Dとそれぞれの磁気抵抗素子の間の実効的な距離が異なるため、図8(a)で説明したとおり、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能となる。
図9(b)に示すとおり、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1の線形応答磁性体160Eを用いても、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能である。図9(b)では、第1の線形応答磁性体160Eの磁化方向(Y方向)における幅がそれぞれの磁気抵抗素子に対して異なっており、かつ、複数の磁気抵抗素子のそれぞれと一対の第1の線形応答磁性体160Eの間の距離が異なる。このような形状の第1の線形応答磁性体160Eを用いた場合、それぞれの磁気抵抗素子に最も近接した位置の第1の線形応答磁性体160Eとそれぞれの磁気抵抗素子の間の実効的な距離および面積が異なるため、図8(a)、(b)で説明したとおり、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能となる。
ここまで説明した線形応答磁性体160A〜Eのいずれにおいても、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高い硬質強磁性材料を用いることができ、また、線形応答磁性体と線形応答磁性体用ピニング層とを積層した構造を用いてもよい。図10には、図8(a)のバリエーションとして、それぞれ第1の線形応答磁性体160A及び第2の線形応答磁性体260Aの下面に接する線形応答磁性体用ピニング層169及び269を配置した例を示す。ピニング層169及び269は、線形応答磁性体用ピニング層の一例である。尚、図10においては図8(a)の変形例を示しているが、このような線形応答磁性体と線形応答磁性体用のピニング層を用いたバリエーションは、図7〜図9のいずれの例にも適用できる。また、線形応答磁性体用ピニング層は、線形応答磁性体の下部に設けても良いし、上部に設けても良い。
図11は、第1の線形応答磁性体160Aと線形応答磁性体用ピニング層169の積層の構成例を示す模式図である。第1の線形応答磁性体160Aと線形応答磁性体用ピニング層169の積層構造を用いる場合、図11(a)に示す構造だけでなく、図11(b)に示すように、線形応答磁性体用ピニング層169/線形応答磁性体160A/線形応答磁性体用磁気結合層169/線形応答磁性体160Aのような積層構造としてもよい。また、図11(c)に示すように、線形応答磁性体用磁気結合層168を介して線形応答磁性体160Aを3層以上積層してもよい。このような積層構造の場合、線形応答磁性体用磁気結合層169を介した2つの線形応答磁性体160Aは互いに反平行の磁化方向となる。この場合、第1の磁気抵抗素子100の第1磁性層101に最も距離の近い第1の線形応答磁性体160Aの磁化の向きに第1磁性層101の磁化が向く。また、このような構造を用いる場合、第1の磁気抵抗素子100の第1磁性層101に最も距離の近い線形応答磁性体160Aの厚みを、積層構造に含まれるほかの線形応答磁性体160Aの厚みよりも厚くすることが好ましい。
第1の線形応答磁性体160Aと線形応答磁性体用ピニング層169の積層構造を用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1の線形応答磁性体160Aに加わった場合においても、第1の線形応答磁性体160Aの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
[1−7.縦置き線形応答磁性体]
次に、線形応答磁性体を磁気抵抗素子に積層して配置する場合の磁気抵抗素子と線形応答磁性体との関係について説明する。以下の説明においては、第1の磁気抵抗素子100と第1の線形応答磁性体160を例として説明するが第2の磁気抵抗素子200や第2の線形応答磁性体260等も同様に構成することが可能である。
図12には、第1の磁気抵抗素子100と、線形応答磁性体として機能する第1の線形応答磁性体160Fの模式図を示す。第1の線形応答磁性体160Fは、第1の線形応答磁性体160の他の態様である。尚、図12においては、上部電極E2を省略している。
本実施の形態においては、第1の線形応答磁性体160Fが第1の磁気抵抗素子100の積層方向に設けられる。例えば、第1の線形応答磁性体160Fは、図12に示すように、第1の磁気抵抗素子100中のキャップ層108の上に設けられる。但し、第1の線形応答磁性体160Fは、例えば下地層104よりも下方に設けてもよい。但し、磁化自由層として機能する第1磁性層101が磁化固定層として機能する第2磁性層102よりも上に位置する場合には、第1磁性層101よりも上に第1の線形応答磁性体160Fを設けたほうが好ましく、第1磁性層101が第2磁性層102よりも下に位置する場合には、第2磁性層102よりも下に第1の線形応答磁性体160Fを設けたほうが好ましい。
また、図12に示すとおり、第1の線形応答磁性体とキャップ層108の間に第1の線形応答磁性体160F用の下地層161を設けてもよい。図12において、第1の線形応答磁性体160上に図示しない上部電極を設けることで、上部電極と下部電極E1の間に通電した電流が第1の線形応答磁性体160Fと磁気抵抗素子に流れる。また、上部電極は、第1の線形応答磁性体160Fとキャップ層108の間に設けても良い。
第1の線形応答磁性体160Fを用いることにより、上述した第1の線形応答磁性体160Aを用いた場合と同様の効果を得ることが可能である。ここで、第1の線形応答磁性体160Fは第1の磁性層101等の積層方向に設けられる為、第1の線形応答磁性体160Fから第1の磁性層101への漏洩磁界は第1の線形応答磁性体160Fの磁化方向と逆向きとなる。尚、このような第1の線形応答磁性体160Fを前述した線形応答磁性体と組み合わせて使用してもよい。
第1の線形応答磁性体160Fや線形応答磁性体用下地層151に用いる材料は、図7の説明で述べた材料と同様のものを使うことができる。図12のような積層方向に配置した第1の線形応答磁性体では、第1の線形応答磁性体160Fの端部から漏洩磁界が発生する。従って、第1の線形応答磁性体160Fの面積を第1の磁気抵抗素子100の面積と比べて大きくしすぎると、第1の線形応答磁性体160Fからの磁界が第1の磁気抵抗素子100に十分加わらない。従って、第1の線形応答磁性体160Fの面積は、適切に設定する必要がある。例えば、第1の線形応答磁性体160Fの面積は第1磁性層100の面積と同等以上、25倍以下程度が好ましい。また、第1の線形応答磁性体160Fにおいても、前述した線形応答磁性体と線形応答磁性体用ピニング層の積層構造を用いてもよい。この場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1の線形応答磁性体160Fに加わった場合においても、第1の線形応答磁性体160Fの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
ここで、磁気抵抗素子の感度((dR/R)/2Hs)は、第1の線形応答磁性体160F等の構成によって調整することができる。図13(a)及び(b)には、2つの磁気抵抗素子について異なる磁場感度を得るために、第1の線形応答磁性体160F及び第2の磁性体260Fの構成に差を設けた例を示す。尚、図13(a)及び(b)では、2つの磁気抵抗素子について例にとっているが、3つ以上の磁気抵抗素子としてもよい。
図13(a)に示すとおり、磁気抵抗素子と第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fとの間の距離を変えることで、磁界を変えることが可能である。図13(a)に示す第1の磁気抵抗素子100と第1の線形応答磁性体160Fの間の距離L1は、第2の磁気抵抗素子200と第2の線形応答磁性体260Fの間の距離L2よりも大きく設定されている。この場合、第1又は第2の線形応答磁性体160F,260Fから距離が大きいほど、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は小さくなる。従って、第1の磁気抵抗素子100の飽和磁場Hsは小さくなり、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して高く設定される。
図13(b)に示すとおり、第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fの膜厚を変えることで、磁界を変えることが可能である。図13(b)に示す第1の線形応答磁性体160Fの膜厚t1は、第2の線形応答磁性体260Fの膜厚t2よりも小さく設定されている。この場合、第1又は第2の線形応答磁性体160F,260Fの膜厚が厚いほど、第1又は第2の線形応答磁性体160F,260Fの磁気体積が大きくなる。従って、第1の磁気抵抗素子100の飽和磁場Hsは小さくなり、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して高く設定される。
図13(b)では、第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fの膜厚を変えることで磁気体積を変えた場合について説明したが、第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fに用いられる磁性材料の種類を変えることでも磁気体積を変えることができる。例えば、第1の線形応答磁性体160Fと第2の線形応答磁性体260Fのそれぞれに飽和磁化の異なる磁性材料を用いることで、磁気体積を変え、第1および第2の磁気抵抗素子100,200の磁場感度((dR/R)/2Hs)を変えることも出来る。
また、前述したように第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fの面積を変えることで、磁界を変えることが可能である。第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fを第1及び第2の磁気抵抗素子100,200に対して積層方向に配置する場合、第1及び第2の線形応答磁性体160F,260Fの端部と第1及び第2の磁気抵抗素子100,200の端部の距離が離れるほど、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は小さくなり、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200の磁場感度((dR/R)/2Hs)は高くなる。
また、図9(a)〜(c)の、平面方向から第1の線形応答磁性体160を隣接させた場合と同じように、積層方向に配置した第1の線形応答磁性体160においても形状を変えた1つの第1の線形応答磁性体160で複数の磁気抵抗素子の感度を調整してもよい。
[1−8.インスタック型の線形応答磁性体]
次に、線形応答磁性体を磁気抵抗素子に包含する場合の磁気抵抗素子と線形応答磁性体との関係について説明する。以下の説明においては、第1の磁気抵抗素子100と第1の線形応答磁性体160を例として説明するが第2の磁気抵抗素子200や第2の線形応答磁性体260等も同様に構成することが可能である。
図14には、本実施の形態に係る第1の磁気抵抗素子100と第1の線形応答磁性体160Gの模式図を示す。第1の線形応答磁性体160Gは、第1の線形応答磁性体160の一態様である。
図14に示す態様においては、第1の磁気抵抗素子100が第1の線形応答磁性体160Gを包含している。第1の線形応答磁性体160Gは、積層構造からなるインスタックバイアス層として構成される。従って、第1の線形応答磁性体160Gは、内部に含まれるバイアス磁性層の磁化と磁化自由層の間の交換結合磁界により、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度を調整することができる。例えば、第1の磁性層160Gの磁化方向を被測定電流から生ずる誘導磁界と略垂直に設定することで、上述した第1の線形応答磁性体160Aを用いた場合と同様の効果を得ることが可能である。
図14に表した態様において、第1の線形応答磁性体160Gは、分離層162と、第1バイアス磁性層163と、バイアス磁気結合層164と、第2バイアス磁性層165と、バイアスピニング層166とを含む。
第1バイアス磁性層163および第2バイアス磁性層165は、例えば、磁性材料によって形成される。第2バイアス磁性層165の磁化は、バイアスピニング層166によって一方向に固定される。第1バイアス磁性層163の磁化は、バイアス磁気結合層164を介して隣り合う第2バイアス磁性層165の磁化とは反対に設定される。一方向に磁化が固定された第1バイアス磁性層163は、交換結合などの磁気的結合によって、第1磁性層101にバイアスを加える。このような、バイアス磁性層とバイアスピニング層の積層構造からなる線形応答磁性体160Gを用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1の線形応答磁性体160Gに加わった場合においても、第1の線形応答磁性体160Gの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
分離層162は、例えば、非磁性材料などから形成され、第1バイアス磁性層163と第1磁性層101とを物理的に分離することで、第1バイアス磁性層163と第1磁性層101との間の磁気的結合の強度を調整する。なお、第1バイアス磁性層163の材料によっては、分離層162は必ずしも設けられなくともよい。図14のように、複数のオフセット磁性層の磁化を反平行(180°)とすることで、バイアス磁性層から外部への漏洩磁界を抑え、磁化自由層への交換結合によるバイアス印加以外の磁気的干渉を抑えることができる。
第1の線形応答磁性体160Gは、図14で示すように、第1バイアス磁性層163/バイアス磁気結合層164/第2バイアス磁性層165を含んでいるが、分離層162とバイアスピニング層166の間に単層の第1バイアス磁性層163のみを設けることによって構成してもよい。また、第1バイアス磁性層/第1磁気結合層/第2バイアス磁性層/第2磁気結合層/第3バイアス磁性層のように、オフセット磁性層の層数を3層以上としてもよい。
分離層162には、例えば、5nmのCuが用いられる。第1バイアス磁性層163には、例えば、3nmのFe50Co50が用いられる。バイアス磁気結合層164には、例えば、0.9nmのRuが用いられる。第2バイアス磁性層165には、例えば、3nmのFe50Co50が用いられる。バイアスピニング層166には、例えば、7nmのIrMnが用いられる。
第1バイアス磁性層163および第2バイアス磁性層165には、例えば、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくともいずれかを用いることができる。第1バイアス磁性層163として、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いてもよい。例えば、第1バイアス磁性層163には、CoxFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、NixFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いられる。第1バイアス磁性層163として、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは0at.%以上100at.%以下、yは0at.%以上30at.%以下)が用いられてもよい。
分離層162には、例えば、非磁性材料が用いられる。分離層43は、例えば、Cu、Ru、Rh、Ir、V、Cr、Nb、Mo、Ta、W、Rr、Au、Ag、Pt、Pd、Ti、Zr、Hf、及び、Hfの群から選択された少なくとも一つの元素を含む層を用いることができる。
バイアスピニング層166は、バイアスピニング層に接して形成される第2バイアス磁性層165に、一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を付与して第1オフセット磁性層163の磁化を固定する。バイアスピニング層166には、例えば、反強磁性層が用いられる。バイアスピニング層166には、例えば、Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。十分な強さの一方向異方性を付与するために、バイアスピニング層166の厚さは適切に設定される。
バイアスピニング層166としてPtMnまたはPdPtMnが用いられる場合には、バイアスピニング層の厚さは、8nm以上20nm以下が好ましい。バイアスピニング層166の厚さは、10nm以上15nm以下がより好ましい。バイアスピニング層166としてIrMnが用いられる場合には、バイアスピニング層166としてPtMnが用いられる場合よりも薄いバイアスピニング層166で、一方向異方性を第1バイアス磁性層163に付与することができる。この場合には、バイアスピニング層166の厚さは、4nm以上18nm以下が好ましい。バイアスピニング層166の厚さは、5nm以上15nm以下がより好ましい。
バイアスピニング層166として、ハード磁性層(硬質強磁性材料)が用いられてもよい。例えば、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高いハード磁性材料(硬質強磁性材料)が用いられる。また、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Coの比率は、50at.%以上85at.%以下)、(CoxPt100−x)100−yCry(xは50at.%以上85at.%以下、yは0at.%以上40at.%以下)、または、FePt(Ptの比率は40at.%以上60%at.以下)などが用いられてもよい。
バイアス磁気結合層165は、第1バイアス磁性層163と第2バイアス磁性層165との間に反強磁性結合を生じさせる。バイアス磁気結合層165は、シンセティックピン構造を形成する。第1磁気結合層として、例えば、Ruが用いられる。第1磁気結合層の厚さは、0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。第1バイアス磁性層163と第2バイアス磁性層165との間に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、バイアス磁気結合層165としてRu以外の材料を用いてもよい。バイアス磁気結合層164の厚さは、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合のセカンドピーク(2ndピーク)に対応する0.8nm以上1nm以下の厚さに設定することができる。さらに、バイアス磁気結合層164の厚さは、RKKY結合のファーストピーク(1stピーク)に対応する0.3nm以上0.6nm以下の厚さに設定してもよい。第1磁気結合層として、例えば、0.9nmの厚さのRuが用いられる。これにより、高信頼性の結合がより安定して得られる。
第1バイアス磁性層163の厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。第2バイアス磁性層165の厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。これにより、例えば、バイアスピニング層166による一方向異方性磁界の強度をより強くすることができる。第1バイアス磁性層163の磁気膜厚(飽和磁化Bsと厚さtとの積(Bs・t))は、第2バイアス磁性層165の磁気膜厚と実質的に等しいことが好ましい。
第1の線形応答磁性体160Gから第1磁性層101に加わるバイアス磁界の方向は、第2磁性層102の磁化方向に対して、任意の方向とすることが可能である。
図14(b)は、第1の線形応答磁性体160Gにおける磁化方向の設定方法を説明するための模式図である。例えば、第2磁性層102の磁化方向に対して、第1の線形応答磁性体160Gから第1磁性層101に加わるバイアス磁界の方向を90°(若しくは270℃)に設定することも可能である。このようなバイアス磁界の方向の設定は、2段階の磁界中アニール、並びに、ピニング層105に用いられる材料構成及びバイアスピニング層166に用いられる材料構成の選択によって可能となる。
ピニング層105またはバイアスピニング層166に用いられる反強磁性材料については、その組成によって磁化固着が生ずる温度が異なる。例えば、PtMnなど規則合金系の材料については、IrMnなどの不規則でも磁化固着を生ずる材料にくらべて、磁化固着が行われる温度が高い。例えば、ピニング層105にPtMnを用い、バイアスピニング層166にIrMnを用いることが可能である。
次に、図14(b)に示すような2段階の磁界中熱処理を行う。例えば、図14(b)の(1)に表すように、図14(b)の右方向に磁場を印加しつつ320℃において10時間アニールを行う。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は、右向きに固着される。また、バイアスピニング層166に接した第2バイアス磁性層165の磁化方向は、いったん右向きに固着される。
次に、例えば、図13(b)の(2)に表すように、図15(b)の左方向に磁場を印加しつつ260℃において1時間アニールを行う。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は右向きのまま変化せず、バイアスピニング層166に接した第2バイアス磁性層165の磁化方向は、左向きに固着される。この磁化の向きは、図13(b)の右図に示すように、室温においても保持される。
このように、磁界中アニールの方法、並びに、ピニング層105の材料構成及びバイアスピニング層166の材料構成の選択によって、第1の磁性層101及び第2の磁性層102へのバイアス磁界の方向を任意に設定することが可能である。そのほか、ピニング層105とバイアスピニング層166の磁化固着の温度差は、それぞれの材料の選定のみでなく、それぞれの層の膜厚で設定することも可能である。例えば、ピニング層105にIrMn7nmを用い、バイアスピニング層166にIrMn5nmを用いた場合においても、図14(b)に示した磁界中2段階アニールを行うことで、図14(a)に示したような磁化方向のアライメントを行うことが可能である。
ここで、磁気抵抗素子の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、インスタックバイアス層の構成によって調整することができる。例えば、第1の磁気抵抗素子100及び第1の線形応答磁性体160Gを図14に示すように構成し、更に第2の磁気抵抗素子200及び第2の線形応答磁性体260をこれらと同様に構成する。但し、第2の線形応答磁性体260においては、第1の磁気抵抗素子160Gと比較して分離層162を厚くする。これによって、第1の磁気抵抗素子100のほうが、バイアス磁界が相対的に弱まる。そのほか、第1バイアス磁性層163と第2バイアス磁性層165の厚みを2つの磁気抵抗素子で差をつけることによってもバイアス磁界を変えることが可能である。この場合、第1バイアス磁性層163と第2バイアス磁性層165の厚みを厚くしたほうが、第1磁性層101に加わるバイアス磁界が弱まる。従って、飽和磁化Hsは低くなり、感度((dR/R)/2Hs)は高く設定させる。
尚、ここまでの説明では、第1の線形応答磁性体160Gの磁化方向を設定するために2段階の磁界中アニールを行う事について説明した。ここで、このような2段階の磁界中アニールを用いた場合、第1の磁性層101の磁化方向を設定することも可能である。図15は、この為の方法を説明するための模式図である。このような方法によっても、例えば、図3(b)に示すように、磁化自由層の磁化方向を磁化固定層の磁化方向と直交させ、図3(d)に示すように正負の磁界に線形的に感応させることができる。
第1磁性層101の磁化方向と第2磁性層102の磁化方向を異なる方向に設定するためには、例えば、図15(b)の左図に示すように、第1の磁界中熱処理を行う。第1の磁界中熱処理は、例えば図15(b)の右方向に磁場を印加しつつ320℃において10時間アニールを行うことによって行われる。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は、右向きに固着される。
次に、例えば、第2の磁界中熱処理を行う。第2の磁界中熱処理は、例えば図15(b)の中図に示すように、図15(b)の上方向に磁場を印加しつつアニールを行うことによって行う。この際の温度は、320℃よりも低温であり、且つバイアスピニング層166に用いる反強磁性体の磁化固着温度よりも低温に設定する。これにより、第2磁化固定層106の磁化方向を右向きにしたままで、第1磁性層101の磁化方向を上向きに設定することができる。即ち、第1磁性層101の誘導磁気異方性の方向を上下方向に設定することが出来る。
ここで、磁気抵抗素子の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、2段階アニールの第2の磁界中熱処理の温度や時間によって調整することができる。例えば、第1の磁気抵抗素子100と第2の磁気抵抗素子200を作製し、第1の磁気抵抗素子100製造時の第2の磁界中熱処理の時間を第2の磁気抵抗素子200製造時の第2の磁界中熱処理の時間よりも長時間とすることによって、第2の磁気抵抗素子200の第1磁性層の誘導磁気異方性が第1の磁気抵抗素子100のそれよりも高くなるため、Hsが大きくなり、磁場感度((dR/R)/2Hs)は低く設定される。
[1−9.製造方法]
次に、本実施の形態に係る電流センサの製造方法について述べる。図16(a)〜図16(j)は、本実施の形態に係る電流センサの製造方法を例示する工程順模式的斜視図である。
図16(a)に表したように、基板110上に下部電極E1を形成する。例えば、Ta(5nm)/Cu(200nm)/Ta(35nm)を形成する。この後に、下部電極E1の最表面にCMP処理などの表面平滑化処理を行い、下部電極E1上に形成される構成を平坦にしても良い。
次に、図16(b)に示すように、下部電極E1の平面形状を加工する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。例えば、Arイオンミリングを行う。
次に、図16(c)に示すように、下部電極E1の周辺に絶縁層111の埋め込み成膜を行う。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図16(b)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に絶縁層111を成膜し、その後レジストパターンを除去する。絶縁層111として、例えば、SiOx、AlOx、SiNx及びAlNxなどを用いることができる。
次に、下部電極E1上に磁気抵抗素子の電極間の構成を成膜する。例えば、下地層104として、Ta(3nm)/Ru(2nm)を形成する。その上にピニング層105として、IrMn(7nm)を形成する。その上に第2磁性膜102として、Co75Fe25(2.5nm)/Ru(0.9nm)/Co40Fe40B20(3nm)を形成する。その上に中間層103として、MgO(2nm)を形成する。その上に第1磁性膜101として、Co40Fe40B20(2nm)/Ta(0.4nm)/Ni80Fe20(6nm)を形成する。その上にキャップ層108として、Cu(1nm)/Ta(2nm)/Ru(5nm)を形成する。
次に、第2磁性膜102の磁化方向を固着する磁界中アニールを行う。例えば、7kOeの磁場を印加しつつで300℃で一時間のアニールを行う。このアニールは、例えば、誘導磁界印加方向(X方向)に対して、略平行に外部磁界を加えて行う。ここで、例えば、前述したインスタックバイアス層を設けた線形応答磁性体(160G,図14(a))を用いる場合などには、2段階のアニールを行っても良い。
次に、図16(e)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成の平面形状を加工する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。この工程によって、図16(e)に示すように、複数の構成を一括して加工することができる。
次に、図16(f)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成の周辺に絶縁層109の埋め込み成膜を行う。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図16(e)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に絶縁層109を成膜し、その後レジストパターンを除去する。絶縁層109として、例えば、SiOx、AlOx、SiNx及びAlNxなどを用いることができる。
次に、図16(g)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成に隣接して設ける線形応答磁性体160を埋め込むためのホール109aを形成する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。図16(g)では、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1の線形応答磁性体160Eを形成する場合を例にとっているが、複数の磁気抵抗素子に対して、別個にオフセット磁性体を形成する場合でも一括で加工することができる。この工程において、ホール109aは絶縁層109を貫通するところまで行っても良いし、途中で止めても良い。図16(g)では途中で止めた場合を例示している。後述するが、ホール109aを、絶縁層109を貫通するところまでエッチングした場合には、図16(h)に示す第1のオフセット磁性体150の埋め込み工程において、第1の線形応答磁性体160Eの下に図示しない絶縁層を成膜する必要がある。
次に、図16(h)に示すように、図16(g)で形成したホール109aに第1の線形応答磁性体160Eを埋め込む。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図16(h)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に第1の線形応答磁性体160Eを成膜し、その後レジストパターンを除去する。ここでは、例えば、第1の線形応答磁性体160E用下地層として、Cr(5nm)を形成し、その上に第1の線形応答磁性体160Eとして、例えば、Co80Pt20(20nm)を形成する。その上に、さらに図示しないキャップ層を形成しても良い。このキャップ層として、磁気抵抗素子のキャップ層108に使用可能な材料として上述した材料を用いても良いし、SiOx、AlOx、SiNx及びAlNxなどの絶縁層を用いても良い。図16(h)にて、第1の線形応答磁性体160Eを埋め込んだ後に、室温で外部磁界を加えて、第1の線形応答磁性体160Eに含まれるハード磁性層(硬質磁性材料)の磁化方向の設定を行う。例えば、誘導磁界の方向に対して、略垂直な方向に外部磁界の印加を行う。この外部磁界による第1の線形応答磁性体160Eの磁化方向の設定は、第1の線形応答磁性体160Eの埋め込み後であれば、レジストパターンの除去前、除去後、及び図16(j)に示す上部電極E2の加工後のいずれのタイミングに行っても良い。
次に、図16(i)に示すように、上部電極E2を成膜する。次に、図16(j)に示すように、上部電極E2の平面形状を加工する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが行われる。
このような態様に係る製造方法によれば、工程数の増加を招くことなく本実施の形態に係る電流センサを製造することが可能である。尚、図16(a)〜(j)では図示していないが、下部電極E1へのコンタクトホールの形成を行っても良いし、上部電極E2の加工後に保護膜を形成しても良い。
次に、本実施の形態に係る電流センサの別の製造方法について述べる。図17(a)〜図17(j)は、本実施の形態に係る電流センサの別の製造方法を例示する工程順模式的斜視図である。尚、図17(a)〜図17(d)に示す工程は、図16(a)〜図16(d)に示した工程と同様であるため、説明を省略する。
図17(e)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成の平面形状を加工する。この工程は、図16(e)に示した工程とほぼ同様に行われるが、積層された第1の磁性膜101等のY方向の寸法を最終的な寸法よりも長くしている点において異なる。
次に、図17(f)に示すように、積層体の周辺に絶縁層の埋め込み成膜を行う。この工程は、図16(f)に示した工程と同様に行われる。
次に、図17(g)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成に隣接して設ける第1の線形応答磁性体160Eを埋め込むためのホール109aを形成する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。図17(g)では、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1の線形応答磁性体160Eを形成する場合を例にとっているが、複数の磁気抵抗素子に対して、別個に線形応答磁性体160を形成する場合でも一括で加工することができる。図17(g)には、ホール109aが絶縁層109を貫通するまでエッチングを行った例を示している。図17(g)に示した例では、このエッチングによって、積層された第1の磁性膜101等のY方向の寸法が最終的な寸法になるように加工を行っている。
次に、図17(h)に示すように、図17(g)で形成したホール109aに第1の線形応答磁性体160Eを埋め込む。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図17(h)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に第1の線形応答磁性体160Eを成膜し、その後レジストパターンを除去する。ここでは、ホール109aが絶縁層109を貫通しているため、第1の線形応答磁性体160Eの埋め込み工程の第1層として、絶縁層112の形成を行う。絶縁層112は、例えば、SiOxを10nm製膜することによって形成される。ここで、形成された絶縁層112はホール109aの側壁にも堆積する。従って、その側壁に堆積した絶縁層112によって、磁気抵抗素子と第1の線形応答磁性体160Eとを絶縁し、更にこれらの間の距離を好適に調整することができる。その後、例えば、図16(h)に示した工程と同様の工程によって第1の線形応答磁性体160Eを埋め込む。図17(h)にて、第1の線形応答磁性体160Eを埋め込んだ後に、室温で外部磁界を加えて、第1の線形応答磁性体160Eに含まれる硬質磁性材料の磁化方向の設定を行う。例えば、誘導磁界の方向に対して、略垂直な方向に外部磁界の印加を行う。この外部磁界による第1の線形応答磁性体160Eの磁化方向の設定は、第1の線形応答磁性体160Eの埋め込み後であれば、レジストパターンの除去前、除去後、及び図16(j)に示す上部電極E2の加工後のいずれのタイミングに行っても良い。
次に、図17(i)に示すように、上部電極E2を形成する。次に、図17(j)に示すように、上部電極E2の平面形状を加工する。この工程は、図16(j)を用いて説明した工程と同様に行われる。
このような態様に係る製造方法によっても、工程数の増加を招くことなく本実施の形態に係る電流センサを製造することが可能である。尚、図17(a)〜(j)では図示していないが、下部電極E1へのコンタクトホールの形成を行っても良いし、上部電極E2の加工後に保護膜を形成しても良い。
[2.第2の実施の形態]
[2−1.構成]
次に、図18及び図19を参照して、第2の実施の形態に係る電流センサについて説明する。図18は、本実施の形態に係る電流センサの一部の概略構成を示す平面図、図19は、同電流センサの構成例を示す概略図である。図19に示す通り、本実施の形態に係る電流センサは、第1の実施の形態に係る電流センサと同様に、配線500の近傍に配置され、この配線500に流れる測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200を有する。また、本実施の形態に係る第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200は、第1の実施の形態と同様に、磁場感度が異なる。しかしながら、本実施の形態に係る磁気抵抗素子は、線形応答磁性体では無く磁束ガイド(例えば図18、図19中の170A)を用いて磁場感度の調整を行っている点において第1の実施の形態と異なる。
磁束ガイド170は従来のインダクタンス型で用いられている磁性コアと同一の原理で働くものであり、磁気抵抗素子の周辺に配置された高透磁率の磁性体からなる。高誘磁率の磁性体が配置されていた場合、この磁性体を通過する磁束が磁性体の飽和磁束以下である限り、磁束はこの磁性体に引き寄せられる。従って、上記磁束ガイドを使用することにより、磁気抵抗素子に磁束を集中させることが可能である。従って、磁束ガイドの有無、又は構成等の違いにより、磁気抵抗素子に入射する磁束密度(すなわち磁界)に差を設け、磁場感度に差を設けることが可能である。
図18及び図19に示す通り、本実施の形態に係る電流センサにおいては、第1の磁気抵抗素子100の周辺に、第1の磁束ガイド170Aが配置されている。第1の磁束ガイド170Aは、磁束ガイドの一態様である。また、第2の磁気抵抗素子200の周辺には、磁束ガイドが配置されていない。
磁束ガイド170は、第1の磁気抵抗素子100の、被測定電流からの誘導磁場が印加される方向の側面に配置される。また、磁束ガイド170は台形状に形成されており、第1の磁気抵抗素子100から離れた面170aが、第1の磁気抵抗素子100に対向する面よりも広くなるように形成されている。更に、磁束ガイド170の第1の磁気抵抗素子100に対向する面170bの幅は、第1の磁気抵抗素子100の幅より少し大きい。
被測定電流からの誘導磁界は、第1磁性層101の磁化方向に対しては垂直、第2磁性層102の磁化方向に対しては平行に入射する。ここで、磁束ガイド170は高透磁率の磁性体から形成されている為、誘導磁界は磁束ガイド170の面170aに向かって収束し、磁束ガイド170に入射する。また、磁束が出射する面170bの面積は、磁束が入射する面170aの面積と比較して小さい。従って、磁束ガイド170に入射した磁束は更に収束して第1の磁気抵抗素子100に入射する。従って、第1の磁気抵抗素子100に印加される磁界は、磁束ガイド170を設けない場合と比較して大きくなる。
磁束ガイド170は、種々の高透磁率の軟磁性体(Fe,Co,Niの単体または合金)から形成することが可能であるが、例えばニッケル鉄、コバルトジルコニウムニオブ、鉄アルミニウムシリコン、鉄コバルトニッケルと軟磁性アモルファス合金等の軟磁性材料を適用することが可能である。
ここで、図19においては、磁束ガイド170の有無によって磁場感度((dR/R)/2Hs)に差を設けた例について説明したが、磁気抵抗素子の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、磁束ガイド170等の構成によって調整することもできる。図20(a)及び(b)には、第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200について異なる磁場感度を得るために、第1の磁束ガイド170A及び第2の磁束ガイド270Aの構成に差を設けた例を示す。第2の磁束ガイド270Aは、磁束ガイドの一態様である。尚、図20(a)及び(b)においては、電流センサが2つの磁気抵抗素子を備える例について説明しているが、電流センサは、当然3つ以上の磁気抵抗素子を備えていても良い。また、図20及び図19では、磁気抵抗素子の側方に隣接して第1又は第2の磁束ガイド170A,270Aを設けた場合を例にとり説明しているが、磁気抵抗素子の斜め側方に第1又は第2の磁束ガイド170A,270Aを設けた場合でも、同様に異なる磁場感度を得ることができる。また、図20においては簡略化のために、第1又は第2の磁束ガイド170A,270Aの凸部のみを図示している。
図20(a)に示すとおり、磁気抵抗素子と第1及び第2の磁束ガイド170A,270Aとの間の距離を変えることで、磁場感度を変えることが可能である。図20(a)に示す第1の磁気抵抗素子100と一対の磁束ガイド170Aとのそれぞれの間の距離の和L1a+L1bは、第2の磁気抵抗素子200と一対の第2の磁束ガイド270Aのそれぞれの距離の和L2a+L2bよりも大きく設定されている。この場合、第1又は第2の磁束ガイド170A,270Aから距離が大きいほど、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる誘導磁界は小さくなる。第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して低く設定される。
図20(b)に示すとおり、第1の磁束ガイド170Aの第1の磁気抵抗素子100に対向する面の面積と、第2の磁束ガイド270Aの第2の磁気抵抗素子200に対向する面の面積を変えることで、磁場感度を変えることが可能である。図20(b)に示す一対の第1の磁束ガイド170A凸部の面積S1aは、第1の磁気抵抗素子100の側面の面積と同程度に設定されている。これに対し、一対の第2の磁束ガイド270A凸部の面積S2a、第2の磁気抵抗素子200の側面の面積よりも大きく設定されている。この場合、第1又は第2の磁束ガイド170A,270Aの面積が大きいほど、磁気抵抗素子100,200に印加される磁界の磁束密度が小さくなる。従って、第1の磁気抵抗素子100の磁場感度((dR/R)/2Hs)は、第2の磁気抵抗素子200と比較して高く設定される。
図20(a)及び(b)では、第1及び第2の磁束ガイド170A,270Aの配置または膜厚を変えることで磁場感度を変えた場合について説明したが、第1及び第2の磁束ガイド170A,270Aに用いられる磁性材料の種類を変えることでも磁場感度を変えることができる。例えば、第1の磁束ガイド170Aと第2の磁束ガイド270Aのそれぞれに透磁率の異なる磁性材料を用いることで、第1および第2の磁気抵抗素子100,200の磁場感度を変えることも出来る。
図21には、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の磁束ガイド170Dから磁界を印加する場合について説明するための模式図である。第1の磁束ガイド170Dは、第1の磁束ガイド170の他の態様である。このような構成によっても、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能である。尚、図21においては、電流センサが第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200に加え、第3の磁気抵抗素子300を備えた例について説明する。但し、磁気抵抗素子の数は2つでも良いし、4つ以上でも良い。
図21に示すとおり、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1の磁束ガイド170Dを用いても、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能である。図21では、第1の磁束ガイド170Dの磁化方向(Y方向)における幅がそれぞれの磁気抵抗素子に対して異なっており、かつ、複数の磁気抵抗素子のそれぞれと一対の第1の磁束ガイド170Dの間の距離が異なる。このような形状の第1の磁束ガイド170Dを用いた場合、それぞれの磁気抵抗素子に最も近接した位置の第1の磁束ガイド170Dとそれぞれの磁気抵抗素子の間の実効的な距離および面積が異なるため、それぞれの磁気抵抗素子の磁場感度を変えることが可能となる。
[2−2.製造方法]
次に、本実施の形態に係る電流センサの製造方法について述べる。図22(a)〜(g)及び図23(a)〜(b)は、それぞれ本実施の形態に係る電流センサの製造方法を例示する工程順模式的斜視図である。本実施の形態に係る電流センサの製造方法は、第1の実施の形態に係る電流センサの製造方法とほぼ同様であるが、第1の線形応答磁性体160を製造する工程において、第1の磁束ガイド170を製造する点において異なる。尚、第1の磁束ガイド170の材料としては、上述した高透磁率の磁性体を適用することが可能である。
[3.第3の実施の形態]
次に、図24を参照して、第3の実施の形態に係る電流センサ600について説明する。図24は、本実施の形態に係る電流センサ600の構成を示す回路ブロック図である。
上記実施の形態に係る電流センサは、誘導磁場の大きさに応じて、異なる磁場感度を有する複数の磁気抵抗素子から最適な磁気抵抗素子を選択し、その出力電圧から選択出力信号を算出する。しかしながら、複数の磁気抵抗素子はそれぞれ磁場感度が異なるため、同一の出力電圧によって駆動していたとしても、測定した誘導磁界の値が異なる。そのため、どの磁気抵抗素子から出力された出力電圧が適切であるかを特定できなければ、被測定電流からの誘導磁場値を測定することができない。
そこで、本実施の形態に係る電流センサ600においては、n個配置された測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nの出力信号と一つのリファレンス磁気抵抗素子620の出力信号をすべてマルチプレクサ650に入力し、所定の制御信号Scに基づいて最適な出力信号を選択する。尚、制御信号Scは、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号に応じて生成される。また、本実施の形態に係る電流センサ600は、直流電流を測定する。
図24に示す通り、本実施の形態に係る電流センサ600は、n個の測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nと、リファレンス磁気抵抗素子620と、コンパレータ630と、レジスタ640と、マルチプレクサ650と、増幅器660と、A/D変換回路670と、メモリ680と、通信回路690とを備える。
n個の測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nとリファレンス磁気抵抗効果素子は、n+1通りの異なる磁場感度を有する。測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nとリファレンス磁気抵抗素子620は、第1及び第2の実施の形態のいずれかに係る磁気抵抗素子等を適用することが可能である。また、測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nの近傍には、線形応答磁性体160や磁束ガイド170等を設けることも可能である。
リファレンス磁気抵抗素子620は、誘導磁場の大まかな大きさを測定する磁気抵抗素子であり、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号は、コンパレータ630による制御信号Scの生成に用いられる。従って、リファレンス磁気抵抗素子620は、n個の測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nと比較して広い磁場範囲に感度を有する。また、リファレンス磁気抵抗素子620として、第1及び第2の実施の形態のいずれかに係る磁気抵抗素子を採用することも可能である。また、リファレンス磁気抵抗素子620の近傍に線形応答磁性体160や磁束ガイド170等を設けることも可能である。
コンパレータ630は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号に基づいて、誘導磁場の大まかな大きさを示す制御信号Scを生成する。図25は、コンパレータ630の構成を示す回路図である。コンパレータ630は、n+1個の比較器631−1〜631−n+1を備える。比較器631−1〜631−n+1は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号を基準電圧V1…Vn,Vmax(本実施の形態に係る磁気抵抗素子のフリー層(第1磁性層101等)とピン層(第2磁性層102等)の磁化ベクトルが180°方向に向いた状態の出力電圧)と比較してその結果を出力する。従って、比較器631−1〜631−n+1の一方の入力端子はそれぞれリファレンス磁気抵抗素子620に接続されている。また、他方の入力端子にはそれぞれ異なる基準電圧V1…Vn,Vmaxが印加されている。更に、これら複数の比較器631の出力端子はレジスタ640に接続されている。尚、制御信号Scは、比較器631−1〜631−n+1の出力信号からなるn+1bitのデータ列である。
図24に戻って説明を続ける。レジスタ640は、コンパレータ630の出力信号を制御信号Scとして保持する。マルチプレクサ650は、この制御信号Scに基づいて測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号から一の出力信号を選択する。換言すれば、マルチプレクサ650は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧に基づいて測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n、リファレンス磁気抵抗素子620を選択する。増幅器660はマルチプレクサ650の出力信号を増幅し、A/D変換回路670は増幅器660の出力信号をデジタル出力値に変換する。メモリ680はA/D変換回路670の出力信号及びレジスタ640の出力信号を格納し、通信回路690はメモリ680に格納された信号を外部に出力する。
図26は、複数の測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n及びリファレンス磁気抵抗素子620の特性を示すグラフである。横軸は誘導磁場の大きさを表しており、縦軸は測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n及びリファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧を表している。
図に示すように、複数の測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nは、それぞれ異なる磁場感度及び異なる飽和磁場H1〜Hnを有する。即ち、kを1以上n以下の整数とすると、測定用磁気抵抗素子610−kは、k番目に高い磁場感度と、k番目に小さい飽和磁場Hkを有する。また、リファレンス磁気抵抗素子620の磁場感度は測定用磁気抵抗素子610−nよりも低く、飽和磁場Hrは測定用磁気抵抗素子610−nよりも大きい。
高い磁場感度を有する測定用磁気抵抗素子610−1の抵抗値は、磁場変化に対して急峻に変化し、比較的小さい磁場H1が印加された時点で磁化状態が飽和する。従って、微小な磁場を高精度に測定することが可能である。一方、低い磁場感度を有するリファレンス磁気抵抗素子620の抵抗値は、磁場変化に対してなだらかに変化し、比較的大きい磁場Hrが印加されるまで磁化状態が飽和しない。従って、比較的広いダイナミックレンジにおいて磁場を測定することが可能である。
測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nの磁場感度の設定は、例えば次のように行う事が考えられる。先ず、要求される分解能に応じて、最も高い磁場感度を有する測定用磁気抵抗素子610−1の磁場感度を設定する。次に、要求されるダイナミックレンジに応じて、最も低い、即ち、磁場変化に対する抵抗値の変化が少ないリファレンス磁気抵抗素子620の磁場感度を設定する。更に、測定用磁気抵抗素子610−2〜610−nの磁場感度を設定する。
図26中のV1〜Vn及びVmaxは、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧と比較される上記基準電圧である。本実施の形態において、基準電圧V1〜Vnは、全ての測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nについてそれぞれ1つ設定される。測定用磁気抵抗素子610−kに対応する基準電圧Vk(k=1〜n)は、測定用磁気抵抗素子610−kの飽和磁場Hkにおける、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧である。
但し、実際には、誘導磁場が飽和磁場に近付くと、誘導磁場と磁気抵抗素子の抵抗値との線形成が劣化する。従って、測定用磁気抵抗素子610−kに対応する基準電圧Vkを、測定用磁気抵抗素子610−kの飽和磁場Hkよりも低い磁場におけるリファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧としても良い。同様に、Vmaxは、第1磁性層と第2磁性層の磁化ベクトルが180°方向に向き切る前の状態の磁気抵抗素子の出力電圧とすることも可能である。
図27は、誘導磁場の大きさ、制御信号Scの値及びマルチプレクサ650によって選択される測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n又はリファレンス磁気抵抗素子620の関係を示す表である。図27の左欄には誘導磁場の大きさを、中欄には制御信号Scを、右欄には選択される磁気抵抗素子を示している。尚、制御信号Scはn+1個の比較器631−1〜631−n+1(図25)の出力信号からなるため、図27においては、比較器631−1〜631−n+1の出力信号毎のデータを記載している。
誘導磁場の大きさHが、Hk−1≦H<Hkであった場合、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧は、Vk−1以上であり、Vkより小さい。従って、比較器631−1〜631−k−1の出力信号は1(High)となり、比較器631−k〜631−nの出力信号は0(low)となる。これらの出力信号からなる制御信号Scを受けて、コンパレータ630は測定用磁気抵抗素子610−kの出力信号を選択し、出力する。
次に、メモリ680の動作について説明する。図28は、メモリ680の動作を説明するための回路ブロック図である。マルチプレクサ650から出力された出力信号は、A/D変換回路670によってNbitのデジタルデータに変換される。また、制御信号Scはn+1bitのデジタルデータである。本実施の形態に係る電流センサ600は、制御信号Scによって選択した測定用磁気抵抗素子610を特定する。従って、メモリ680は、N+n+1bitのデジタルデータを1ユニットとして格納する。
[4.第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態に係る電流センサ601について説明する。第3の実施に係る電流センサ600が直流電流を測定していたのに対し、第4の実施に係る電流センサ601は交流電流を測定する。本実施の形態に係る電流センサ601は、基本的には第3の実施の形態に係る電流センサ600と同様に構成されているが、コンパレータ639の構成において第3の実施の形態と異なる。以下、第3の実施の形態と同様である部分については、説明を省略する。
図29は、本実施の形態に係るコンパレータ639の構成を示す回路図である。本実施の形態に係る電流センサ601は交流電流を測定するため、誘導磁場が正の値のみならず負の値にもなり得る。従って、本実施の形態に係るコンパレータ639は、2n個の比較器631−1〜631−(2n+2)を備える。比較器631−1〜631−(2n+2)は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号を基準電圧Vmin(本実施の形態に係る磁気抵抗素子のフリー層(第1磁性層101等)とピン層(第2磁性層102等)の磁化ベクトルが0°方向に向いた状態の出力電圧),V1…V2n,Vmaxと比較してその結果を出力する。従って、比較器631−1〜631−(2n+2)の一方の入力端子はそれぞれリファレンス磁気抵抗素子620に接続されている。また、他方の入力端子にはそれぞれ異なる基準電圧Vmin,V1…V2n,Vmaxが印加されている。更に、これら複数の比較器631−1〜631−(2n+2)の出力端子はレジスタ640に接続されている。尚、本実施の形態において、制御信号Scは、比較器631−1〜631−(2n+2)の出力信号からなる2n+2bitのデータ列である。
図30は、複数の測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n及びリファレンス磁気抵抗素子620の特性を示すグラフである。横軸は誘導磁場の大きさを表しており、縦軸は測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n及びリファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧を表している。
図30中のVmin,V1〜V2n,Vmaxは、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧と比較される上記基準電圧である。本実施の形態において、基準電圧V1〜V2nは、全ての測定用磁気抵抗素子610−1〜610−nについてそれぞれ2つ設定される。測定用磁気抵抗素子610−k(k=1〜n)に対応する基準電圧Vn+k及びVn−k+1は、それぞれ測定用磁気抵抗素子610−kの飽和磁場Hk及び−Hkにおける、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧である。
図31は、誘導磁場の大きさ、制御信号Scの値及びマルチプレクサ650によって選択される測定用磁気抵抗素子610−1〜610−n又はリファレンス磁気抵抗素子620の関係を示す表である。図31の左欄には誘導磁場の大きさを、中欄には制御信号Scを、右欄には選択される磁気抵抗素子を示している。尚、制御信号Scは2n+2個の比較器631−1〜631−(2n+2)(図29)の出力信号からなるため、図31においては、比較器631−1〜631−(2n+2)の出力信号毎のデータを記載している。
誘導磁場の大きさHが負の値であり、−Hk≦H<−Hk−1であった場合、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧は、Vn−k+1以上であり、Vn−kより小さい。従って、比較器631−1〜631−(n−k+1)の出力信号は1(High)となり、比較器631−(n−k)〜631−2nの出力信号は0(low)となる。一方、誘導磁場の大きさHが正の値であり、Hk−1≦H<Hkであった場合、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧は、Vn+k−1以上であり、Vn+kより小さい。従って、比較器631−1〜631−(k−1)の出力信号は1(High)となり、比較器631−k〜631−nの出力信号は0(low)となる。これらの出力信号からなる制御信号Scを受けて、コンパレータ639は測定用磁気抵抗素子610−kの出力信号を選択し、出力する。
次に、メモリ680の動作について説明する。図32は、メモリ680の動作を説明するための回路ブロック図である。マルチプレクサ650から出力された出力信号は、A/D変換回路670によってNbitのデジタルデータに変換される。また、制御信号Scは2n+2bitのデジタルデータである。本実施の形態に係る電流センサ600は、制御信号Scによって選択した測定用磁気抵抗素子610を特定する。従って、メモリ680は、N+2n+2bitのデジタルデータを1ユニットとして格納する。
尚、上記測定用磁気抵抗素子610_1〜610_n及びリファレンス磁気抵抗素子620としては、複数の第1の磁気抵抗素子100又は第2の磁気抵抗素子200を直列又は並列に接続した物を用いることも可能である。図33は、このような実施の形態に係る電流センサを例示する模式図である。
図33(a)に表したように、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100を電気的に直列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n−1)とし、複数の第2の磁気抵抗素子200を電気的に直列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k+1としてもよい。直列に接続されている磁気抵抗素子の数をNとしたとき、得られる電気信号は、磁気抵抗素子の数が1である場合のN倍となる。その一方で、熱ノイズ及びショットキーノイズは、N1/2倍になる。すなわち、SN比(signal-noise ratio:SNR)は、N1/2倍になる。直列に接続する磁気抵抗素子の数Nを増やすことで、SN比を改善することができる。
1つの磁気抵抗素子に加えられるバイアス電圧は、例えば、50ミリボルト(mV)以上150mV以下である。N個の磁気抵抗素子を直列に接続した場合は、バイアス電圧は、50mV×N以上150mV×N以下となる。例えば、直列に接続されている磁気抵抗素子の数Nが25である場合には、バイアス電圧は、1V以上3.75V以下となる。
バイアス電圧の値が1V以上であると、磁気抵抗素子から得られる電気信号を処理する電気回路の設計は容易になり、実用的に好ましい。
バイアス電圧(端子間電圧)が10Vを超えると、磁気抵抗素子から得られる電気信号を処理する電気回路においては、望ましくない。実施形態においては、適切な電圧範囲になるように、直列に接続される磁気抵抗素子の数N及びバイアス電圧が設定される。
例えば、複数の磁気抵抗素子を電気的に直列に接続したときの電圧は、1V以上10V以下となるのが好ましい。例えば、電気的に直列に接続された複数の磁気抵抗素子の端子間(一方の端の端子と、他方の端の端子と、の間)に印加される電圧は、1V以上10V以下である。
図33(b)に表したように、他の実施の形態に係る電流センサにおいては、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100を電気的に並列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)とし、複数の第2の磁気抵抗素子200を電気的に並列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k+1としても良い。
図33(c)に表したように、他の実施の形態に係る電流センサにおいては、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100と第1の磁気抵抗素子の逆極性を示す抵抗値が同一の磁気抵抗素子110を、ホイートストンブリッジ回路を形成するように接続して測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)とし、複数の第2の磁気抵抗素子200と第2の磁気抵抗素子の逆極性を示す抵抗値が同一の磁気抵抗素子210を、ホイートストンブリッジ回路を形成するように接続して測定用磁気抵抗素子610_k+1としても良い。これにより、例えば、検出特性の温度補償を行うことができる。
また、前述の磁気抵抗素子110に代えて第1の磁気抵抗素子100と同一抵抗値の固定抵抗を採用し、前述の磁気抵抗素子210に代えて第2の磁気抵抗素子200と同一抵抗値の固定抵抗を採用しても良い(ハーフホイーストンブリッジ回路)。
図33(d)に表したように、他の実施の形態に係る電流センサにおいては、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100を直列に接続した磁気抵抗素子120と前記磁気抵抗素子110を直列に接続した130によってホイートストンブリッジ回路を形成し、このホイートストンブリッジ回路を測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)としても良い。また、例えば複数の第2の磁気抵抗素子200を直列に接続した磁気抵抗素子220と、前記磁気抵抗素子210を直列に接続した磁気抵抗素子230によってホイートストンブリッジ回路を形成し、このホイートストンブリッジ回路を測定用磁気抵抗素子610_k+1としても良い。
また、前述の磁気抵抗素子130に代えて磁気抵抗素子120と同一の抵抗値の固定抵抗を採用し、前述の磁気抵抗素子230に代えて磁気抵抗素子220と同一の抵抗値の固定抵抗を採用しても良い(ハーフホイーストンブリッジ回路)。
[5.第5の実施の形態]
次に、第5の実施の形態について説明する。本実施の形態においては、上記第1〜第4の実施の形態に係る電流センサをスマートメータに搭載している。スマートメータは電圧及び電流を測定する。ここで、電圧は従来の半導体素子において測定することが可能である。従って、上記実施の形態のいずれかに係る電流センサにこの半導体素子を付加することで、スマートメータを構成することが可能である。以下においては、第4の実施の形態に係る電流センサ601をスマートメータに適用した例について説明するが、他の実施の形態に係る電流センサを適用することも可能である。
図34(a)は、本実施の形態に係るスマートメータ700の外観を示す模式的な斜視図、図34(b)は、同スマートメータ700の模式的な平面図、図34(c)は、同スマートメータ700の模式的な側面図である。
図34(a)〜(c)に示す通り、スマートメータ700は、センサ部を納めるための筐体710、並びに、筐体710に設けられた第1の端子部720、第2の端子部730及び電力量を外部に表示する表示部740を備える。筐体710は、本実施の形態に係るスマートメータ700の各構成を格納する。第1の端子部720及び第2の端子部730は、図示しないプローブを介してスマートメータ700の各構成と、被測定対象とを電気的に接続する。表示部740は、スマートメータ700による測定の結果等を表示する。尚、筐体710に収容されるスマートメータの各構成を電流測定モジュールと呼ぶ。
本実施の形態に係るスマートメータ700は、例えば50〜60Hz程度の交流電流及び交流電圧を計測することが可能である様に構成することが考えられるが、例えば直流電流及び直流電圧のみを計測可能な構成としても良い。また、図34においては、100〜200V程度の単層交流の電流及び電圧を測定可能である例を示しているが、例えば三相交流の電流及び電圧を測定可能に構成しても良い。この場合、上記端子部720及び730は、3対設けられる。
図34(b)に示す通り、スマートメータ700は、筐体710内に、配線500と、電子基板モジュール711と、電流センサ601とを収容している。配線500は、一端が第1の端子部720に、他端が第2の端子部730に接続されている。また、配線500は、筐体710の上下方向(以下、Z方向)に被測定電流を流すように配置され、絶縁性の電流線固定支持部510(図37(c))を介して筐体710に固定されている。電子基板モジュール711は、筐体710内に、筐体710の底面と平行に固定されている。電流センサ601は、電子基板モジュール711上に、筐体710の底面と平行に固定されている。従って、本実施の形態に係るスマートメータ700においては、配線500と電流センサ601の位置関係が固定されているため、被測定電流からの誘導磁場を好適に測定可能である。
図35(a)及び(b)は、同スマートメータ700の一部の構成を説明するための模式図である。図35(a)及び(b)に示す通り、本実施の形態において、被測定電流からの誘導磁場の方向は、筐体710の左右方向(以下、X方向)である。また、電流センサ601は第1の磁気抵抗素子100を備えている。第1の磁気抵抗素子100は、例えば第1の実施の形態に係る磁気抵抗素子100と同様に構成されており、第1磁性層101、第2磁性層102及び中間層103を備える。第1磁性層101の初期磁化方向(配線500に電流が流れていない時の磁化方向)は、電流センサ601から配線500に向かう方向又はその逆方向(以下、Y方向)である。これにより、交流電流のいずれの極性の電流も線形成良く検知することが可能となる。
図35に示す構造においては、好適に磁化アライメントが行われ、外部ノイズの影響を好適に低減する事が可能である。即ち、外部磁場ノイズが最も印可されやすい電流センサ601の表面から外部磁界が印可された場合、その面(xy平面)に直行する方向(z方向)に磁界が印可される。しかしながら電流センサ601の磁化方向(第1磁性層101の磁化方向)はその面(xy平面)と平行であるため、その面と直行する方向(z方向)の磁界を印加されても、ほぼノイズを生じない。この磁化アライメントによれば、外部磁場の影響をよけいな構造を付加することなく少なくする事が可能である。尚、電流センサ601の断面方向においては、磁気シールドを設けても良い。この磁気シールドは、電流測定モジュールの中では最も断面積が小さい。従って、磁気シールドを追加することに伴うコストの増大も最小限に抑えることが可能になる。また電流センサ601の基板をそのまま電子基板モジュール711に貼り付けることが可能なので、配置の誤差による影響などが少なくなり、配置の精度を高く保つために必要な製造コストを最小限に抑えることが可能となる。よって、図34、図35に示したような構成においては、配線500による誘導磁界と電流センサ601の磁化アライメントを好適に行う事が可能である。
さらに、図34のような配置することにより、同一基板上に複数の電流センサを配置することが可能である。そのため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
図36は、スマートメータ700の概略構成を示す機能ブロック図である。図36に示す通り、スマートメータ700は、上記配線500及び電流センサ601に加え、電圧計750、A/D変換回路760、演算部770及び通信回路780を更に備える。尚、電圧計750、A/D変換回路760、演算部770及び通信回路780は、半導体素子として電子基板モジュール711上に作り込む事も可能である。
電流センサ601は、第4の実施の形態に係る電流センサ601である。しかし、メモリ680や通信回路690を省略することも可能である。電流センサ601は、配線500の近傍に配置され、配線500に流れる電流を測定する。
電圧計750としては、種々の電圧計を適用することが可能である。電圧計750は、第1の端子部720及び第2の端子部730の間の電圧を測定する。A/D変換回路760は、電圧計750によって測定された電圧値をデジタル信号に変換する。
演算部770は、電流センサ601から電流値を、A/D変換回路760から電圧値を取得し、電力の算出等を行う。表示部740は、演算部から電流値、電圧値及び電力の大きさ等を取得し、表示する。通信回路780は、同じく演算部から電流値、電圧値及び電力の大きさ等を取得し、スマートメータ700の外部に出力する。
[6.第6の実施の形態]
次に、第6の実施の形態に係るスマートメータ701について説明する。図37(a)は、本実施の形態に係るスマートメータ701の模式的な平面図、図37(b)は、同スマートメータ701の模式的な側面図である。
本実施の形態に係るスマートメータ701は、基本的には第5の実施の形態に係るスマートメータ700と同様に構成されているが、磁気抵抗素子の配置において第5の実施の形態と異なる。即ち、図37(a)及び(b)に示す通り、本実施の形態においては、複数の測定用磁気抵抗素子610が、配線500からの距離が異なる様に配置されている。また、複数の測定用磁気抵抗素子610よりも更に配線500から遠い位置に、リファレンス磁気抵抗素子620が配置されている。
本実施の形態に係るスマートメータ701において、複数の測定用磁気抵抗素子610に印加される誘導磁場の大きさは全て異なり、配線500との距離が小さいほど強い磁場が印加される。本実施の形態に係るスマートメータ701においては、このような方法によって測定用磁気抵抗素子610の磁場感度を調整している。
[7.第7の実施の形態]
次に、第7の実施の形態に係るスマートメータ702について説明する。図38は、本実施の形態に係るスマートメータ702の模式的な平面図である。
本実施の形態に係るスマートメータ702は、基本的には第5の実施の形態に係るスマートメータ700と同様に構成されているが、磁気抵抗素子の配置において第5の実施の形態と異なる。即ち、図38に示す通り、本実施の形態においては、複数の測定用磁気抵抗素子610及びリファレンス磁気抵抗素子620が、配線500からほぼ同程度の位置に配置されている。また、本実施の形態においては、複数の測定用磁気抵抗素子610及びリファレンス磁気抵抗素子620として第1の実施の形態に係る電流センサの磁気抵抗素子が採用されており、これらの磁場感度は、第1の実施の形態において説明した種々の線形応答磁性体によって調整されている。
尚、複数の測定用磁気抵抗素子610及びリファレンス磁気抵抗素子620は、図39に示す通り、電子基板モジュール711上に、マトリクス状に配置することも可能である。磁気抵抗素子をこのように配置した場合、線形応答磁性体等による磁場感度の調整に加え、配線500との距離の違いによる磁場感度の調整を行い、更に広い範囲の誘導磁界を測定することが可能となる。
[8.第8の実施の形態]
次に、第8の実施の形態に係るスマートメータ703について説明する。図40(a)は、本実施の形態に係るスマートメータ703の外観を示す模式的な斜視図、図40(b)は、同スマートメータ703の模式的な平面図、図40(c)は、同スマートメータ703の模式的な側面図である。また、図41(a)及び(b)は、同スマートメータ703の一部の構成を説明するための模式図である。
本実施の形態に係るスマートメータ703は、基本的には第5の実施の形態に係るスマートメータ700と同様に構成されているが、以下の点において、第5の実施の形態に係るスマートメータ700と異なる。
即ち、図40(a)に示す通り、本実施の形態に係るスマートメータ703においては、第1の端子部720及び第2の端子部730がX方向に配設されている。また、第1の端子部720及び第2の端子部730がX方向に配設されている為、図40(b)及び(c)に示す通り、配線500は、筐体710のX方向に被測定電流を流すように配置されている。更に、この場合、被測定電流による誘導磁場の方向は筐体710のY方向となる。従って、図41(a)及び(b)に示す通り、電流センサ601は、電子基板モジュール711上に、筐体710の底面と垂直に固定されている。
[9.第9の実施の形態]
次に、第9の実施の形態に係るスマートメータ704について説明する。図42(a)は、本実施の形態に係るスマートメータ704の外観を示す模式的な平面図、図42(b)は、同スマートメータ704の模式的な側面図である。
本実施の形態に係るスマートメータ704は、基本的には第8の実施の形態に係るスマートメータ703と同様に構成されているが、磁気抵抗素子の配置において第8の実施の形態と異なる。即ち、図42(a)及び(b)に示す通り、本実施の形態においては、複数の測定用磁気抵抗素子610が、配線500との距離が異なる様に配置されている。また、複数の測定用磁気抵抗素子610よりも更に配線500から遠い位置に、リファレンス磁気抵抗素子620が配置されている。
本実施の形態に係るスマートメータ704において、複数の測定用磁気抵抗素子610に印加される誘導磁場の大きさは全て異なり、配線500との距離が小さいほど強い磁場が印加される。本実施の形態に係るスマートメータ704においては、このような方法によって測定用磁気抵抗素子610の磁場感度を調整している。
[10.第10の実施の形態]
次に、第10の実施の形態に係るスマートメータ705について説明する。図43は、本実施の形態に係るスマートメータ705の模式的な平面図である。
本実施の形態に係るスマートメータ705は、基本的には第8の実施の形態に係るスマートメータ703と同様に構成されているが、磁気抵抗素子の配置において第8の実施の形態と異なる。即ち、図43に示す通り、本実施の形態においては、複数の測定用磁気抵抗素子610及びリファレンス磁気抵抗素子620が、配線500からほぼ同程度の位置に配置されている。また、本実施の形態においては、複数の測定用磁気抵抗素子610及びリファレンス磁気抵抗素子620として第1の実施の形態に係る電流センサの磁気抵抗素子が採用されており、これらの磁場感度は、第1の実施の形態において説明した種々の線形応答磁性体によって調整されている。
尚、複数の測定用磁気抵抗素子610及びリファレンス磁気抵抗素子620は、図44に示す通り、電子基板モジュール711上に、マトリクス状に配置することも可能である。磁気抵抗素子をこのように配置した場合、線形応答磁性体等による磁場感度の調整に加え、配線500との距離の違いによる磁場感度の調整を行い、更に広い範囲の誘導磁界を測定することが可能となる。
[11.第11の実施の形態]
次に、第11の実施の形態について説明する。第11の実施の形態に係る電流センサは、家庭用電化製品に搭載されている。これにより、HEMS(Home Energy Management System)を実現することも可能である。図45は、本実施の形態に係る家庭用電化製品の様子を示す模式図である。電流センサは、種々の家庭用電化製品に搭載することが可能であるが、図45においては、エアーコンディショナー800に搭載した場合の様子を示している。
本実施の形態に係るエアーコンディショナー800は、電流測定機構801を備えている。電流測定機構801は、例えば第4の実施の形態に係る電流センサ601を筐体802中に収容してなる。筐体802の側面には第1及び第2の端子部803,804が設けられており、電流センサ601はこれら第1及び第2の端子部を介して他の部品と接続される。
[12.その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、下記の様な態様によっても実施することが可能である。
[態様1]
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する複数の磁気抵抗素子と、
これら複数の磁気抵抗素子から一の磁気抵抗素子を選択し、選択した磁気抵抗素子の抵抗値を出力する選択回路と
を有し、
前記複数の磁気抵抗素子は、印加された前記誘導磁界の大きさと前記抵抗値との関係が互いに異なる
ことを特徴とする電流センサ。
[態様2]
前記複数の磁気抵抗素子は、所定の誘導磁界の増加量に応じた抵抗値の増加量又は減少量が互いに異なる磁気抵抗素子を含む
ことを特徴とする態様1記載の電流センサ。
[態様3]
前記複数の磁気抵抗素子は、互いに異なる飽和磁界を有する磁気抵抗素子を含む
ことを特徴とする態様2記載の電流センサ。
[態様4]
前記複数の磁気抵抗素子は、
それぞれ固定バイアス磁界を印加するための一対の硬質磁性バイアス膜を有し、
互いに前記硬質磁性バイアス膜の厚さまたは硬質磁性バイアス膜間の距離が異なる磁気抵抗素子を含む
ことを特徴とする態様3記載の電流センサ。
[態様5]
前記複数の磁気抵抗素子は、磁化自由層と、ピン層とを備え、
前記複数の磁気抵抗素子のピン層の磁化方向は、前記被測定電流からの誘導磁界の方向と平行である
ことを特徴とする態様1〜4に記載の電流センサ。
[態様6]
前記複数の磁気抵抗素子の、被測定電流による誘導磁場方向に隣接する部分には、台形形状を有する磁束ガイドが配置されている
ことを特徴とする態様1〜5に記載の電流センサ。
[13.その他]
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。