[1.第1の実施の形態に係る電流センサ]
[1−1.全体構成]
図1(a)及び(b)は、第1の実施の形態に係る電流センサの構成例を示す概略図である。図1(a)に示す電流センサは、配線500の近傍に配置され、この配線500に流れる測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する第1の磁気抵抗素子100、第2の磁気抵抗素子200及び第1のオフセット磁性体150を有する。第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200は、それぞれ磁化自由層として動作する第1磁性層101,201及び磁化固定層102,202を有する。第1のオフセット磁性体150は、第1の磁気抵抗素子100に対し、測定電流からの誘導磁界に対して略平行な方向から第1のオフセット磁界を加える。このような形態の電流センサを用いることによって、広いレンジの電流値に対して高精度な測定を低消費電力で実現することができる。
また、図1(b)に示す電流センサは、配線500の近傍に配置され、この配線500に流れる測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する第1の磁気抵抗素子100、第2の磁気抵抗素子200、第1のオフセット磁性体150及び第2のオフセット磁性体250を有する。第1のオフセット磁性体150は、第1の磁気抵抗素子100に対し、測定電流からの誘導磁界に対して略平行な方向から第1のオフセット磁界を加える。第2のオフセット磁性体250は、第2の磁気抵抗素子200に対し、測定電流からの誘導磁界に対して略平行な方向から第2のオフセット磁界を加える。第1の磁気抵抗素子100に加わる第1のオフセット磁界と第2の磁気抵抗素子200に加わる第2のオフセット磁界とはその強度が異なる。このような形態の電流センサを用いることによって、広いレンジの電流値に対して高精度な測定を低消費電力で実現することができる。
図1(a)及び(b)の電流センサでは、異なる2つのオフセット磁界を加えた磁気抵抗素子100及び200を例示したが、異なる3つ以上の複数のオフセット磁界を加えた磁気抵抗素子を用いてもよい。オフセット磁界を変えた磁気抵抗素子の数は、測定対象の電流レンジおよび求められる測定分解能に応じて適切に調整することができる。
また、図1(a)と図1(b)を組み合わせた電流センサを用いてもよい。すなわち、オフセット磁界を加えていない磁気抵抗素子と、異なる2つ以上のオフセット磁界を加えた磁気抵抗素子を用いてもよい。尚、図1(a)及び(b)には、電流の検知回路等を図示していないが、これら回路等は適宜変更可能である。
[1−2.動作原理]
図2は、本実施の形態で用いる磁気抵抗素子の概略構成を例示する模式的斜視図である。例えば第1の磁気抵抗素子100は、第1磁性層101と、第2磁性層102と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられた中間層103と、図示しない電極層とを含む。尚、第2の磁気抵抗素子200は、第1の磁気抵抗素子100とほぼ同様に構成されている。
中間層103は、非磁性層である。第1磁性層101は、例えば、磁化が自由に変化する磁化自由層である。第2磁性層102は、例えば、磁化の固定された磁化固定層である。
第1の磁気抵抗素子100は、中間層103が導電材料で形成されている場合はGMR(Giant Magneto Resistance)素子であり、中間層が絶縁材料で形成されている場合はTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子である。第1の磁気抵抗素子100がGMR素子である場合には、電流が膜面垂直方向に通電されるCPP−GMR素子である場合や、電流が膜面内方向に通電されるCIP−GMR素子である場合がある。第1の磁気抵抗素子100がTMR素子である場合には、電流が膜面垂直方向に通電される。また、第1の磁気抵抗素子100は、AMR素子であっても良い。
図3は、本実施の形態で用いる磁気抵抗素子が磁場を検知する機能について説明する模式図である。以降、第1磁性層101が磁化自由層、第2磁性層102が磁化固定層の場合を例にとり、説明する。
磁気抵抗素子が磁場を検知する機能は「MR効果」に基づく。「MR効果」は、第1磁性層101と中間層103と第2磁性層102との積層膜において発現する。「MR効果」とは、磁性体を有する積層膜において、外部磁界が印加されたときに、磁性体の磁化の変化によって積層膜の電気抵抗の値が変化する現象である。
図3(b)に示すように第1の磁気抵抗素子100に誘導磁界が加わっていない初期状態では、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向が所定の角度を有する。第2磁性層102の磁化方向は、後述するように積層方向に隣接する反強磁性層などで固定されており、第1磁性層101の磁化方向は、例えば、後述する線形応答磁性体等や磁界中アニールの方向によって所定の向きに設定される。
図3(a),(c)に示すように、第1の磁気抵抗素子100に誘導磁界が加わることで、第1磁性層101の磁化方向が変化する。その結果、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向の相対角度が変化する。
第1の磁気抵抗素子100に電流を流すと、磁化方向の相対角度の変化が抵抗変化として表れる。低抵抗状態の抵抗をRとし、MR効果によって変化する電気抵抗の変化量をΔRとしたときに、ΔR/Rを「MR変化率」という。第1磁性層101と中間層103と第2磁性層102の材料の組み合わせによって正の磁気抵抗効果が生ずる場合、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向の相対角度の減少に伴って電気抵抗が減少する。一方、第1磁性層101と中間層103と第2磁性層102の材料の組み合わせによって負の磁気抵抗効果が生ずる場合、第1磁性層101と第2磁性層102の磁化方向の相対角度の減少に伴って電気抵抗が増大する。
図3(d)に示す例では、正の磁気抵抗効果を例にとっている。GMR素子やTMR素子などの磁気抵抗素子では、「MR変化率」が非常に大きいため、ホール素子などに比べて、磁界に対する感度が高い。また、磁気抵抗素子では、図3(d)に例示するとおり、磁化自由層と磁化固定層が平行の場合が抵抗の最小値、反平行である場合が抵抗の最大値とした、磁場に対する電気抵抗変化のダイナミックレンジが存在する。図3(d)に示したとおり、磁気抵抗素子のダイナミックレンジは2Hsで定義される。
[1−3.効果]
本実施の形態に係る電流センサでは、オフセット磁界を変えた複数の磁気抵抗素子100,200を用いることにより、高分解能と広ダイナミックレンジを実現することができる。また、オフセット磁界は、第1のオフセット磁性体150として永久磁石材料を用いることによって静的に加えるため、電力を必要としない。よって、低消費電力で実現することが可能となる。
図4は、本実施の形態に係る電流センサによる高分解能と広ダイナミックレンジの実現について説明する模式図である。図4(a)には、電流センサの被測定電流による誘導磁界が加わった場合の図1(a)に示した第1の磁気抵抗素子100と第2の磁気抵抗素子200の電気抵抗の変化を示す。第2の磁気抵抗素子200は、図3に示した原理で外部から加わる正負の誘導磁界に対して線形的な電気抵抗の変化を示し、その感度が高い。以下、このように外部磁場の変化に対して電気抵抗が変化する様な外部磁場の範囲を、磁気抵抗素子の測定範囲と呼ぶ。一方、第1の磁気抵抗素子100は、第1のオフセット磁性体150によるオフセット磁界の分、電気抵抗を変化させる誘導磁界がオフセットされる(例えば、相殺される)。このような2つ以上の磁気抵抗素子を組み合わせることで、異なる範囲の誘導磁界に対して感応する磁気抵抗素子を提供し、かつ、それぞれの磁気抵抗素子の感度を必要とされる電流センサの分解能に合わせて高感度にすることができる。よって、必要な誘導電流のダイナミックレンジにおいて、感応する誘導磁界のレンジを複数の磁気抵抗素子で分けて検知することで、広ダイナミックレンジを実現し、かつ、高分解能を実現することができる。また、第1の磁気抵抗素子100にオフセット磁界を加える第1のオフセット磁性体150を、ハード磁性層(硬質強磁性材料)などの永久磁石材料を用いることによって、静的に加えるため、この機構を用いることによる電力の消費量は増えず、低消費電力を実現することができる。
図4(b)には、電流センサの被測定電流による誘導磁界が加わった場合の図1(b)に示した第1の磁気抵抗素子100と第2の磁気抵抗素子200の電気抵抗の変化を示す。第1および第2の磁気抵抗素子100,200は、第1のオフセット磁性体150および第2のオフセット磁性体250によるオフセット磁界の分、電気抵抗が変化する誘導磁界がオフセットする。また、第1のオフセット磁界と第2のオフセット磁界を異なるものに設定し、これらの2つ以上の磁気抵抗素子を組み合わせることで、異なる誘導磁界に対して感応する磁気抵抗素子を提供し、かつ、それぞれの磁気抵抗素子の感度を必要とされる電流センサの分解能に合わせて高感度にすることができる。よって、必要な誘導電流のダイナミックレンジにおいて、感応する誘導磁界のレンジを複数の磁気抵抗素子で分けて検知することで、広ダイナミックレンジを実現し、かつ、高分解能を実現することができる。また、第1および第2の磁気抵抗素子100,200にオフセット磁界を加える第1および第2のオフセット磁性体150,250を、ハード磁性層(硬質強磁性材料)などの永久磁石材料を用いることによって、静的に加えるため、この機構を用いることによる電力の消費量は増えず、低消費電力を実現することができる。
図1および図4に示す構造を用いることによって、被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する第1の磁気抵抗素子100および第2の磁気抵抗素子200と、を備え、前記第1の磁気抵抗素子が感応する前記誘導磁界のレンジの中間値と、前記第2の磁気抵抗素子が感応する前記誘導磁界のレンジの中間値と、が異なる電流センサを提供できる。
図1および図4に示す構造を用いることによって、被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する複数の磁気抵抗素子を備え、前記磁気抵抗素子の抵抗値が中間値となる前期誘導磁界が前記磁気抵抗素子によって異なる電流センサを提供することができる。
[1−4.磁気抵抗素子の構成例]
以下、本実施の形態に係る磁気抵抗素子の構成例について説明する。図5(a)〜図5(d)は、本実施の形態に係る電流センサに用いられる磁気抵抗素子を例示する模式的斜視図である。尚、以下において、「材料A/材料B」の記載は、材料Aの層の上に、材料Bの層が設けられている状態を示す。尚、以下の説明においては第1の磁気抵抗素子100を例として説明するが、第2の磁気抵抗素子200も同様に構成することが可能であり、更に磁気抵抗素子を設ける場合にも、同様に構成することが可能である。
図5(a)は、所定の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Aを例示する模式的斜視図である。図5(a)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Aは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、ピニング層105と、第2磁化固定層106と、磁気結合層107と、第2磁性層102と、中間層103と、第1磁性層101と、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は第1磁化固定層として機能する。図5(a)の第1の磁気抵抗素子100Aは、ボトムスピンバルブ型と呼ばれる。
下地層104には、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さ(Z軸方向の長さ)は、例えば、3nmである。このRu層の厚さは、例えば、2nmである。ピニング層105には、例えば、7nmの厚さのIrMn層が用いられる。第2磁化固定層106には、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。磁気結合層107には、例えば、0.9nmの厚さのRu層が用いられる。第1磁化固定層102には、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。中間層103には、例えば、1.6nmの厚さのMgO層が用いられる。第1磁性層101には、例えば、Co40Fe40B20/Ni80Fe20が用いられる。2nmの厚さのCo40Fe40B20と8nmの厚さのNi80Fe20の積層体が用いられる。キャップ層108には、例えばTa/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、1nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
下部電極E1及び上部電極E2には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム銅合金(Al−Cu)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び、金(Au)の少なくともいずれかが用いられる。下部電極E1及び上部電極E2として、このような電気抵抗が比較的小さい材料を用いることで、第1の磁気抵抗素子100Aに効率的に電流を流すことができる。
下部電極E1は、下部電極E1用の下地層(図示せず)と、キャップ層(図示せず)と、の間に、Al、Al−Cu、Cu、Ag、及び、Auの少なくともいずれかの層が設けられた構造を有しても良い。例えば、下部電極E1には、タンタル(Ta)/銅(Cu)/タンタル(Ta)などが用いられる。下部電極E1用の下地層としてTaを用いることで、例えば、下部電極E1を構成する層間の密着性を向上させることができる。下部電極E1用の下地層として、チタン(Ti)、または、窒化チタン(TiN)などを用いても良い。下部電極E1用のキャップ層としてTaを用いることで、そのキャップ層の下の銅(Cu)などの酸化を防ぐことができる。下部電極E1用のキャップ層として、チタン(Ti)、または、窒化チタン(TiN)などを用いても良い。
下地層104には、バッファ層(図示せず)とシード層(図示せず)との積層構造を用いることができる。このバッファ層は、例えば、下部電極E1の表面の荒れを緩和し、バッファ層の上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層として、例えば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。バッファ層として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いても良い。
バッファ層の厚さは、1nm以上10nm以下が好ましい。バッファ層の厚さは、1nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層が薄すぎると、バッファ効果が失われる。バッファ層が厚すぎると、第1の磁気抵抗素子100Aが過度に厚くなる。バッファ層の上にシード層が形成され、そのシード層がバッファ効果を有することができる。バッファ層は省略しても良い。バッファ層には、例えば、3nmの厚さのTa層が用いられる。
図示しないシード層は、シード層の上に積層される層の結晶配向を制御する。シード層は、シード層の上に積層される層の結晶粒径を制御する。シード層として、fcc構造(Face-Centered Cubic Structure:面心立方格子構造)、hcp構造(Hexagonal Close-Packed Structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(Body-Centered Cubic Structure:体心立方格子構造)の金属等が用いられる。
シード層として、hcp構造のルテニウム(Ru)、または、fcc構造のNiFe、または、fcc構造のCuを用いることにより、例えば、シード層の上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。シード層には、例えば、2nmの厚さのCu層、または、2nmの厚さのRu層が用いられる。シード層の上に形成される層の結晶配向性を高める場合には、シード層の厚さは、1nm以上5nm以下が好ましい。シード層の厚さは、1nm以上3nm以下がより好ましい。これにより、結晶配向を向上させるシード層としての機能が十分に発揮される。一方、例えば、シード層の上に形成される層を結晶配向させる必要がない場合(例えば、アモルファスの磁化自由層を形成する場合など)には、シード層は省略しても良い。シード層としては、例えば、2nmの厚さのRu層が用いられる。
ピニング層105は、ピニング層105の上に形成される強磁性層に、一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固定する。図5(a)に示した例では、ピニング層105の上に形成される第2磁化固定層106の強磁性層に、一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固定する。ピニング層105には、例えば、反強磁性層が用いられる。ピニング層105には、例えば、Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層105の厚さが適切に設定する。
ピニング層105に接する強磁性層の磁化の固定を行うためには、磁場印加中での熱処理が行われる。熱処理時に印加されている磁場の方向にピニング層105に接する強磁性層の磁化が固定される。アニール温度は、例えば、ピニング層105に用いられる反強磁性材料の磁化固着温度よりも高い温度とする。また、Mnを含む反強磁性層を用いる場合、ピニング層105以外の層にMnが拡散してMR変化率を低減する場合がある。よってMnの拡散が起こる温度以下に設定することが望ましい。例えば200度(℃)以上、500度(℃)以下とすることができる。好ましくは、250度(℃)以上、400度(℃)以下とすることができる。
ピニング層105としてPt−MnまたはPd−Pt−Mnが用いられる場合には、ピニング層105の厚さは、8nm以上20nm以下が好ましい。ピニング層105の厚さは、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層105としてIrMnを用いる場合には、ピニング層105としてPtMnを用いる場合よりも薄いピニング層105で、一方向異方性を付与することができる。この場合には、ピニング層105の厚さは、4nm以上18nm以下が好ましい。ピニング層105の厚さは、5nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層105には、例えば、7nmの厚さのIr22Mn78層が用いられる。Ir22Mn78層を用いる場合、磁界中熱処理条件として、10kOeの磁場を印加しつつ320℃において一時間の熱処理を行うことができる。Pt50Mn50層を用いる場合、磁界中熱処理条件として、10kOeの磁場を印加しつつ320―℃で10時間の熱処理を行うことができる。
第2磁化固定層106には、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの材料に添加元素を加えた材料とすることもできる。
第2磁化固定層106には、例えば、CoxFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、NixFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いられる。第2磁化固定層106として、例えば、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。第2磁化固定層106として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いても良い。
第2磁化固定層106の厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。これにより、例えば、ピニング層105による一方向異方性磁界の強度をより強くすることができる。例えば、第2磁化固定層106の上に形成される磁気結合層107を介して、第2磁化固定層106と第1磁化固定層102との間の反強磁性結合磁界の強度をより強くすることができる。第2磁化固定層106の磁気膜厚(飽和磁化Bsと厚さtとの積(Bs・t))は、第1磁化固定層102の磁気膜厚と実質的に等しいことが好ましい。
薄膜でのCo40Fe40B20の飽和磁化は、約1.9T(テスラ)である。例えば、第1磁化固定層102として、3nmの厚さのCo40Fe40B20層を用いる場合には、第1磁化固定層102の磁気膜厚は、1.9T×3nmであり、5.7Tnmとなる。一方、Co75Fe25の飽和磁化は、約2.1Tである。上記と等しい磁気膜厚が得られる第2磁化固定層106の厚さは、5.7Tnm/2.1Tであり、2.7nmとなる。この場合、第2磁化固定層106には、約2.7nmの厚さのCo75Fe25を用いることが好ましい。第2磁化固定層106として、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。
図5(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Aにおいては、第2磁化固定層106と磁気結合層107と第1磁化固定層102とのシンセティックピン構造が用いられている。その代わりに、1層の磁化固定層からなるシングルピン構造を用いても良い。シングルピン構造を用いる場合には、磁化固定層として、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。シングルピン構造の磁化固定層に用いる強磁性層として、後述する第1磁化固定層102と同じ材料を用いても良い。
磁気結合層107は、第2磁化固定層106と第1磁化固定層102との間に反強磁性結合を生じさせる。磁気結合層107は、シンセティックピン構造を形成する。磁気結合層107として、例えば、Ruが用いられる。磁気結合層107の厚さは、0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。第2磁化固定層106と第1磁化固定層102との間に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、磁気結合層107としてRu以外の材料を用いても良い。磁気結合層107の厚さは、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合のセカンドピーク(2ndピーク)に対応する0.8nm以上1nm以下の厚さに設定することができる。さらに、磁気結合層107の厚さは、RKKY結合のファーストピーク(1stピーク)に対応する0.3nm以上0.6nm以下の厚さに設定しても良い。磁気結合層107として、例えば、0.9nmの厚さのRuが用いられる。これにより、高信頼性の結合がより安定して得られる。
第1磁化固定層には、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの材料に添加元素を加えた材料とすることもできる。
第1磁化固定層102に用いられる磁性層は、MR効果に直接的に寄与する。第1磁化固定層102として、例えば、Co−Fe−B合金が用いられる。具体的には、第1磁化固定層102として、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは0at.%以上100at.%以下、yは0at.%以上30at.%以下)を用いることもできる。第1磁化固定層102として、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いた場合には、例えば、磁気抵抗素子のサイズが小さい場合においても、結晶粒に起因した素子間のばらつきを抑えることができる。第1磁化固定層102として、アモルファス合金を用いた場合には、第1磁化固定層102の上に形成される層(例えばトンネル絶縁層)を平坦化することができる。トンネル絶縁層の平坦化により、トンネル絶縁層の欠陥密度を減らすことができる。例えば、トンネル絶縁層の材料としてMgOを用いる場合には、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いることで、トンネル絶縁層の上に形成されるMgO層の(100)配向性を強めることができる。MgO層の(100)配向性をより高くすることで、より大きいMR変化率が得られる。(CoxFe100−x)100−yBy合金は、アニール時にMgO層の(100)面をテンプレートとして結晶化する。このため、MgOと(CoxFe100−x)100−yBy合金との良好な結晶整合が得られる。良好な結晶整合を得ることで、より大きいMR変化率が得られる。第1磁化固定層102として、Co−Fe−B合金以外に、例えば、Fe−Co合金を用いても良い。
第1磁化固定層102がより厚いと、より大きなMR変化率が得られる。より大きな固定磁界を得るためには、第1磁化固定層102は薄いほうが好ましい。MR変化率と固定磁界との間には、第1磁化固定層102の厚さにおいてトレードオフの関係が存在する。第1磁化固定層102としてCo−Fe−B合金を用いる場合には、第1磁化固定層102の厚さは、1.5nm以上5nm以下が好ましい。第1磁化固定層102の厚さは、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
第1磁化固定層102(第2磁性層20)には、上述した材料の他に、fcc構造のCo90Fe10合金、または、hcp構造のCo、または、hcp構造のCo合金が用いられる。第1磁化固定層102として、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくとも1つが用いられる。第1磁化固定層102として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金が用いられる。第1磁化固定層102として、bcc構造のFeCo合金材料、50at.%以上のコバルト組成を含むCo合金、または、50at.%以上のNi組成の材料を用いることで、例えば、より大きなMR変化率が得られる。第1磁化固定層102として、Co2MnGe、Co2FeGe、Co2MnSi、Co2FeSi、Co2MnAl、Co2FeAl、Co2MnGa0.5Ge0.5、及び、Co2FeGa0.5Ge0.5などのホイスラー磁性合金層を用いることもできる。例えば、第1磁化固定層102として、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。
中間層103は、第1磁化固定層102と第1磁性層101との磁気的な結合を分断する。中間層103には、金属または絶縁体または半導体が用いられる。中間層103として金属を用いる場合、例えば、Cu、AuまたはAg等が用いられる。この場合、中間層103の厚さは、例えば、1nm以上7nm以下程度である。中間層103として絶縁体または半導体を用いる場合、例えば、マグネシウム酸化物(Mg−O等)、アルミ酸化物(Al2O3等)、チタン酸化物(Ti−O等)、亜鉛酸化物(Zn−O等)、または、酸化ガリウム(Ga−O)などが用いられる。この場合、中間層103の厚さは、例えば0.6nm以上5nm以下程度である。
第1磁性層101の材料は、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの材料に添加元素を加えた材料とすることもできる。第1磁性層は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。また、これらの金属、合金に、添加元素や極薄層として、B,Al,Si,Mg,C,Ti,V,Cr,Mn、Cu,Zn,Ga,Zr,Hfなどを添加することもできる。また、結晶磁性層だけではなく、アモルファス磁性層を用いることも可能である。
また、酸化物や窒化物の磁性層を用いることも可能である。例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni80Fe20[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、第1磁性層101として、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成を採用しても構わない。
第1磁性層101には、CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70at.%〜90at.%)も用いることができる。
また、中間層にMgOを用いたTMR素子では、第1磁性層の材料として、(CoxFe100−x)100−yBy合金(x=0at.%〜100at.%、y=0at.%〜30at.%)を用いることが好ましい。(CoxFe100−x)100−yBy合金はアニール時にMgO(100)面をテンプレートとして結晶化するため、MgOと(CoxFe100−x)100−yBy合金の良好な結晶整合を得ることが出来る。このような良好な結晶整合は高いMR変化率を得る観点で重要である。一方で、第1磁性層にCo−Fe−B合金を用いる場合、軟磁気特性を良好にする観点で、Ni−Fe合金との積層体とすることが好ましい。例えば、Co40Fe40B20[2nm]/Ni80Fe20[8nm]などを用いることができる。ここで、高いMR変化率を得る観点で、Co−Fe−B層は中間層側に配置するのが好ましい。また、Co40Fe40B20層とNi80Fe20層の間の結晶整合を切ると、Co40Fe40B20層がMgO中間層をテンプレートとして良好な配向が得られるため、TaやTiなどの非磁性金属を間に挿入しても良い。また、Co−Fe−B層とNi―Fe―B層の積層体としても良い。
キャップ層108は、キャップ層108の下に設けられる層を保護する。キャップ層108には、例えば、複数の金属層が用いられる。キャップ層108には、例えば、非磁性金属を用いることができる。キャップ層108には、例えば、Ta層とRu層との2層構造(Ta/Ru)が用いられる。このTa層の厚さは、例えば1nmであり、このRu層の厚さは、例えば5nmである。キャップ層108として、Ta層やRu層の代わりに他の金属層を設けても良い。キャップ層108の構成は、任意である。キャップ層108には、例えば、非磁性材料を用いることができる。キャップ層108の下に設けられる層を保護可能なものであれば、キャップ層108として、他の材料を用いても良い。
図5(b)は、他の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Bを例示する模式的斜視図である。図5(b)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Bは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、第1磁性層101と、中間層103と、第2磁性層102と、磁気結合層107と、第2磁化固定層106と、ピニング層105と、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は第1磁化固定層として機能する。図5(b)の第1の磁気抵抗素子100Bは、トップスピンバルブ型と呼ばれる。第1の磁気抵抗素子100Bに含まれる層のそれぞれには、例えば、図5(a)に示す磁気抵抗素子に関して説明した材料を用いることができる。
図5(c)は、他の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Cを例示する模式的斜視図である。図5(c)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Cは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、下部ピニング層105aと、下部第2磁化固定層106aと、下部磁気結合層107aと、下部第2磁性層102aと、下部中間層103aと、第1磁性層101と、上部中間層103bと、上部第2磁性層102bと、上部磁気結合層107bと、上部第2磁化固定層106bと、上部ピニング層105bと、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101が磁化自由層として機能し、下部第2磁性層102aが下部第1磁化固定層102aとして機能し、上部第2磁性層102bが上部第1磁化固定層として機能する。既に説明した図5(a)に示す第1の磁気抵抗素子100A及び図5(b)に示す第1の磁気抵抗素子100Bにおいては、磁化自由層である第1磁性層101の一方の面側に磁化固定層である第2磁性層102が配置されている。一方、図5(c)に示す第1の磁気抵抗素子100Cにおいては、2つの磁化固定層の間に磁化自由層が配置されている。図5(c)に示す第1の磁気抵抗素子100Cは、デュアルスピンバルブ型と呼ばれる。図5(c)に示す第1の磁気抵抗素子100Cに含まれる層のそれぞれには、例えば、図5(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Aに関して説明した材料を用いることができる。
図5(d)は、他の実施の形態に用いられる第1の磁気抵抗素子100Dを例示する模式的斜視図である。図5(d)に表したように、第1の磁気抵抗素子100Dは、順に並べられた、下部電極E1と、下地層104と、ピニング層105と、第2磁性層102と、中間層103と、第1磁性層101と、キャップ層108と、上部電極E2とを含む。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は磁化固定層として機能する。既に説明した図5(a)に示す第1の磁気抵抗素子100A及び図5(b)に示す第1の磁気抵抗素子100Bにおいては、第2磁化固定層106と、磁気結合層107と、第1磁化固定層として機能する第2磁性層102とを用いた構造が適用されている。一方、図5(d)に示す第1の磁気抵抗素子100Dにおいては、単一の磁化固定層24を用いたシングルピン構造が適用されている。図5(d)に示す第1の磁気抵抗素子100Dに含まれる層のそれぞれには、例えば、図5(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Aに関して説明した材料を用いることができる。
図6は、他の構成に係る第1の磁気抵抗素子100Eを例示する模式的斜視図である。図6に表したように、第1の磁気抵抗素子100Eにおいては、絶縁層109が設けられる。すなわち、下部電極E1と上部電極E2との間に、互いに離間する2つの絶縁層(絶縁部分)109が設けられ、それらの間に、下地層104と、ピニング層105と、第2磁化固定層106と、磁気結合層107と、第2磁性層102と、中間層103と、磁化自由層101と、キャップ層108からなる積層体が設けられる。
この例では、第1磁性層101は磁化自由層として機能し、第2磁性層102は第1磁化固定層として機能する。第1の磁気抵抗素子100Eに含まれる層のそれぞれには、例えば、図5(a)に示す磁気抵抗素子に関して説明した材料を用いることができる。また、絶縁層109には、例えば、アルミニウム酸化物(例えば、Al2O3)、または、シリコン酸化物(例えば、SiO2)などを用いることができる。絶縁層109により、上記積層体の周囲におけるリーク電流を抑制することができる。上記の絶縁層109は、図5(a)〜(d)に示すいずれの磁気抵抗素子にも適用できる。
[1−5.磁気抵抗素子の他の構成例]
図7(a)は、他の構成に係る第1の磁気抵抗素子100Fを示す模式的斜視図である。図7(a)に示す第1の磁気抵抗素子100Fはグラニュラー型の磁気抵抗素子と呼ばれ、母層(マトリックス)中に磁性体の微粒子が3次元的に分散した構造と、この構造の側部に設けられる一対の電極Eとを有する。母層が導電体の場合にはグラニュラー型GMR素子と呼ばれ、絶縁体の場合にはグラニュラー型TMR素子と呼ばれる。
図7(c)に示すとおり、外部磁界なしの状態では、3次元的に分散した磁性粒子の磁化の向きは3次元的にランダムとなっており、図7(b)、(d)に示すとおり、外部磁界が加わると一方向に揃う。図7(e)に示したとおり、分散した磁性粒子の相対角度に応じて電気抵抗が変化する。このMR現象は、前述した積層型のGMR素子やTMR素子と同じ原理に基づく。第1の磁気抵抗素子100Fは、積層型に比べて作製が容易であるなどの利点を持つ。
第1の磁気抵抗素子100Fに用いられる磁性粒子は、前述した積層型の磁気抵抗素子における磁化自由層に対応する。磁性粒子に用いられる材料として、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金とすることができる。また、これらの金属、合金に、添加元素として、B,Al,Si,Mg,C,Ti,V,Cr,Mn、Cu,Zn,Ga,Zr,Hfなどを添加することもできる。例えば、Co90Fe10からなる磁性粒子を用いることができる。
第1の磁気抵抗素子100Fのマトリックスとしては、グラニュラー型TMR素子の場合には、絶縁材料や半導体材料として、マグネシウム酸化物(Mg−O等)、アルミ酸化物(Al2O3等)、チタン酸化物(Ti−O等)、亜鉛酸化物(Zn−O等)、または、酸化ガリウム(Ga−O)などが用いられる。一方、グラニュラー型GMR素子の場合には、導電体材料として、Cu,Ag,Au,Al,Cr,Ruなどの金属を用いることができる。
尚、第1の磁気抵抗素子100Fは、電極Eを側壁に設け、膜面内方向に通電するCIP素子として形成されているが、下部電極E1及び上部電極E2を介して膜面垂直方向に通電を行うCPP素子とすることもできる。
[1−6.横置きオフセット磁性体]
次に、オフセット磁性体を磁気抵抗素子に隣接させて配置する場合の磁気抵抗素子とオフセット磁性体との関係について説明する。以下の説明においては、第1の磁気抵抗素子100と第1のオフセット磁性体150を例として説明するが第2の磁気抵抗素子200や第2のオフセット磁性体250等も同様に構成することが可能である。
図8には、第1の磁気抵抗素子100と、第1のオフセット磁性体150Aの模式図を示す。第1のオフセット磁性体150Aは、第1のオフセット磁性体150の一態様である。
第1のオフセット磁性体150Aは、第1の磁気抵抗素子100中の第1磁性層101、第2磁性層102及び中間層103に隣接して配置され、第1磁性層101、第2磁性層102及び中間層103にオフセット磁界を加える。また、第1のオフセット磁性体150Aは、下部電極E1と上部電極E2との間に設けられる。更に、例えば第1のオフセット磁性体150Aと第1の磁気抵抗素子100との間には、絶縁層109が配置される。この例では、第1のオフセット磁性体150Aと下部電極E1との間に、絶縁層109が延在している。
図8(a)では1つの第1の磁気抵抗素子100に対して1つの第1のオフセット磁性体150Aが設けられる。一方で、図8(b)のように1つの第1の磁気抵抗素子100を挟むように一対の第1のオフセット磁性体150Aを設けてもよい。以降で説明する具体例においても1対の第1のオフセット磁性体150が設けられているが、片側のみとしてもよい。
図8(c)に示すとおり、第1のオフセット磁性体150の磁界によって第1の磁気抵抗素子100に加わる誘導磁界と略平行にオフセット磁界を加えることができる。これによって、第1の磁気抵抗素子100の抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットさせることができる。例えば、第1のオフセット磁性体150の磁化を被測定電流から生ずる誘導磁界と略平行方向に設定することで、図4に示すように、第1の磁気抵抗素子100の抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットさせることができる。
第1のオフセット磁性体150Aには、例えば、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高いハード磁性材料(硬質強磁性材料)が用いられる。また、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。例えば、CoPt(Coの比率は、50at.%以上85at.%以下)、(CoxPt100−x)100−yCry(xは50at.%以上85at.%以下、yは0at.%以上40at.%以下)、または、FePt(Ptの比率は40at.%以上60at.%以下)などが用いられてもよい。このような材料を用いる場合、第1のオフセット磁性体150Aの磁化の方向は、オフセット磁性体150Aの保磁力よりも大きい外部磁界を加えることで、外部磁界を加えた方向に設定(固定)することができる。第1のオフセット磁性体150Aの厚さ(例えば、下部電極E1から上部電極E2に向かう方向に沿った長さ)は、例えば5nm以上50nm以下である。
図8(a)に示すように、第1のオフセット磁性体150Aと下部電極E1との間に絶縁層109を配置する場合、絶縁層109の材料として、SiOxやAlOxを用いることができる。さらに、絶縁層109と第1のオフセット磁性体150Aの間に、図示しないオフセット磁性体下地層を設けてもよい。オフセット磁性体150AにCo−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高い硬質強磁性材料を用いる場合には、オフセット磁性体下地層の材料として、CrやFe−Coなどを用いることができる。上記の第1のオフセット磁性体150Aは、上記及び以下で説明する第1の磁気抵抗素子100のいずれにも適用できる。
第1のオフセット磁性体150Aは、図示しないオフセット磁性体用ピニング層に積層された構造を有していてもよい。この場合、第1のオフセット磁性体150Aとオフセット磁性体用ピニング層の交換結合により、第1のオフセット磁性体150Aの磁化の方向を設定(固定)できる。この場合、第1のオフセット磁性体150Aには、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金からなる強磁性材料を用いることができる。この場合、第1のオフセット磁性体150Aには、例えば、CoxFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、NixFe100−x合金(xは0at.%以上100at.%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いることができる。第1のオフセット磁性体150Aとして、前述した第2磁性層102と同様の材料を用いることができる。また、オフセット磁性体用ピニング層には、前述した磁気抵抗素子のピニング層105と同様の材料を用いることができる。また、オフセット磁性体用ピニング層を設ける場合、下地層104で説明した材料と同様の下地層をオフセット磁性体用ピニング層の下に設けても良い。また、オフセット磁性体用ピニング層は、第1のオフセット磁性体150Aの下部に設けても良いし、上部に設けても良い。この場合の第1のオフセット磁性体150Aの磁化方向は、磁気抵抗素子のピニング層で説明したとおり、磁界中熱処理により決定することができる。
上記の第1のオフセット磁性体150Aは、上記第1の磁気抵抗素子100及び以下で説明する第1の磁気抵抗素子100のいずれにも適用できる。上述したような第1のオフセット磁性体150Aとオフセット磁性体用ピニング層の積層構造を用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1のオフセット磁性体150Aに加わった場合においても、第1のオフセット磁性体150Aの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
図9には、第1の磁気抵抗素子100と、第1のオフセット磁性体150Bの模式図を示す。第1のオフセット磁性体150Bは、第1のオフセット磁性体150の他の態様である。
図8では、第1のオフセット磁性体150Aを第1の磁気抵抗素子100の側方に隣接して配置したが、図9に示すように、第1のオフセット磁性体150Bを第1の磁気抵抗素子100の斜め上に設けても良い。この場合も、図9(a)に示す通り、1つの第1の磁気抵抗素子100に対して1つの第1のオフセット磁性体150Bを設けても良いし、図9(b)に示す通り、1つの第1の磁気抵抗素子100を挟むように一対の第1のオフセット磁性体150Bを設けてもよい。図9のように、第1のオフセット磁性体150Bを斜め上に設けた場合においても、オフセット磁石からの漏洩磁界は真横にのみでなくある程度の分布を持って漏洩するので、図9(c)に示すように第1の磁気抵抗素子100にオフセット磁界を加えることができる。
ここで、磁気抵抗素子のオフセット磁界Hoffsetは、第1のオフセット磁性体150A等の構成によって調整することができる。図10(a)〜(c)には、2つの磁気抵抗素子について異なるオフセット磁界を得るために、第1のオフセット磁性体150及び第2のオフセット磁性体250の構成に差を設けた例を示す。尚、図10(a)〜(c)では、2つの磁気抵抗素子について例にとっているが、3つ以上の磁気抵抗素子としてもよい。また、図10では、図9に示すような、磁気抵抗素子の側方に隣接して第1又は第2のオフセット磁性体150A,250Aを設けた場合を例にとり説明しているが、図9に示すような、磁気抵抗素子の斜め側方に第1又は第2のオフセット磁性体150B,250Bを設けた場合でも、同様に異なるオフセット磁界を得ることができる。
図10(a)に示すとおり、磁気抵抗素子と第1及び第2のオフセット磁性体150A,250Aとの間の距離を変えることで、オフセット磁界を変えることが可能である。図10(a)に示す第1の磁気抵抗素子100と一対の第1のオフセット磁性体150Aとのそれぞれの間の距離の和L1a+L1bは、第2の磁気抵抗素子200と一対の第2のオフセット磁性体250Aのそれぞれの距離の和L2a+L2bよりも大きく設定されている。この場合、第1又は第2のオフセット磁性体150A,250Aから距離が大きいほど、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は小さくなるため、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界Hoffsetは小さくなる。
図10(b)に示すとおり、第1のオフセット磁性体150Aの基板平面における面積と、第2のオフセット磁性体250Aの第2の基板平面における面積を変えることで、オフセット磁界を変えることが可能である。図10(b)に示す一対の第1のオフセット磁性体150Aのそれぞれの面積の和S1a+S1bは、一対の第2のオフセット磁性体250Aのそれぞれの面積の和S2a+S2bよりも小さく設定されている。この場合、第1又は第2のオフセット磁性体150A,250Aの面積が大きいほど、第1又は第2のオフセット磁性体150A,250Aの磁気体積が大きくなるため、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は大きくなり、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界は大きくなる。
図10(c)に示すとおり、第1及び第2のオフセット磁性体150A,250Aの膜厚を変えることで、オフセット磁界を変えることが可能である。図10(c)に示す一対の第1のオフセット磁性体150Aのそれぞれの膜厚の和t1a+t1bは、一対の第2のオフセット磁性体250Aのそれぞれの膜厚の和t2a+t2bよりも小さく設定されている。この場合、第1及び第2のオフセット磁性体150A,250Aの膜厚が厚いほど、第1及び第2のオフセット磁性体150A,250Aの磁気体積が大きくなるため、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は大きくなり、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界は大きくなる。
上述した図10(b)、図10(c)では、第1及び第2のオフセット磁性体150A,250Aの面積または膜厚を変えることで磁気体積を変えた場合について説明したが、第1及び第2のオフセット磁性体150A,250Aに用いられる磁性材料の種類を変えることでも磁気体積を変えることができる。例えば、第1のオフセット磁性体150Aと第2のオフセット磁性体250Aのそれぞれに飽和磁化の異なる磁性材料を用いることで、磁気体積を変え、第1および第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界を変えることも出来る。
図11(a)〜(c)は、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1のオフセット磁性体150C、150D又は150Eからオフセット磁界を印加する場合について説明するための模式図である。第1のオフセット磁性体150C、150D又は150Eは、第1のオフセット磁性体150の他の態様である。このような構成によっても、それぞれの磁気抵抗素子のオフセット磁界を変えることが可能である。尚、図11においては、電流センサが第1の磁気抵抗素子100及び第2の磁気抵抗素子200に加え、第3の磁気抵抗素子300を備えた例について説明する。但し、磁気抵抗素子の数は2つでも良いし、4つ以上でも良い。
図11(a)に示すとおり、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1のオフセット磁性体150Cを用いても、それぞれの磁気抵抗素子のオフセット磁界を変えることが可能である。図11(a)では、第1のオフセット磁性体150Cの磁化方向もしくは誘導磁界の方向(X方向)における幅がそれぞれの磁気抵抗素子に対して同等となっているが、複数の磁気抵抗素子のそれぞれと一対の第1のオフセット磁性体150Cの間の距離が異なる。このような形状の第1のオフセット磁性体150Cを用いることによって、それぞれの磁気抵抗素子に最も近接した位置の第1のオフセット磁性体150Cとそれぞれの磁気抵抗素子の間の実効的な距離が異なるため、図10(a)で説明したとおり、それぞれの磁気抵抗素子のオフセット磁界を変えることが可能となる。
図11(b)に示すとおり、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1のオフセット磁性体150Dを用いても、それぞれの磁気抵抗素子のオフセット磁界を変えることが可能である。図11(b)では、第1のオフセット磁性体150Dの磁化方向もしくは誘導磁界の方向(X方向)における幅がそれぞれの磁気抵抗素子に対して異なっており、かつ、複数の磁気抵抗素子のそれぞれと一対の第1のオフセット磁性体150Dの間の距離が異なる。このような形状の第1のオフセット磁性体150Dを用いた場合、それぞれの磁気抵抗素子に最も近接した位置の第1のオフセット磁性体150Dとそれぞれの磁気抵抗素子の間の実効的な距離および面積が異なるため、図10(a)、(b)で説明したとおり、それぞれの磁気抵抗素子のオフセット磁界を変えることが可能となる。
図11(c)では、複数の磁気抵抗素子のそれぞれと一対の第1のオフセット磁性体150Eの間の距離は同等であるが、第1のオフセット磁性体150Eの磁化方向もしくは誘導磁界の方向(X方向)における幅が、それぞれの磁気抵抗素子が位置するY座標の位置によって異なる。このような形状の第1のオフセット磁性体150Eを用いることによって、それぞれの磁気抵抗素子に最も近接した位置における第1のオフセット磁性体150Eの実効的な磁気面積が異なるため、図10(b)で説明したとおり、それぞれの磁気抵抗素子のオフセット磁界を変えることが可能となる。
ここまで説明したオフセット磁性体150A〜Eのいずれにおいても、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高い硬質強磁性材料を用いることができ、また、オフセット磁性体とオフセット磁性体用ピニング層とを積層した構造を用いてもよい。図12には、図10(a)のバリエーションとして、それぞれ第1のオフセット磁性体150A及び第2のオフセット磁性体250Aの下面に接するオフセット磁性体用ピニング層159及び259を配置した例を示す。ピニング層159及び259は、オフセット磁性体用ピニング層の一例である。尚、図12においては図10(a)の変形例を示しているが、このようオフセット磁性体及びオフセット磁性体用のピニング層を用いたバリエーションは、図8〜図11のいずれの例にも適用できる。また、オフセット磁性体用ピニング層は、オフセット磁性体の下部に設けても良いし、上部に設けても良い。
図13は、第1のオフセット磁性体150Aとオフセット磁性体用ピニング層159の積層の構成例を示す模式図である。第1のオフセット磁性体150Aとオフセット磁性体用ピニング層159の積層構造を用いる場合、図13(a)に示す構造だけでなく、図13(b)に示すように、オフセット磁性体用ピニング159層/オフセット磁性体150A/オフセット磁気結合層158/オフセット磁性体150Aのような積層構造としてもよい。また、図13(c)に示すように、オフセット磁気結合層158を介してオフセット磁性体150Aを3層以上積層してもよい。このような積層構造の場合、オフセット磁気結合層158を介した2つのオフセット磁性体150Aは互いに反平行の磁化方向となる。この場合、第1の磁気抵抗素子100の第1磁性層101に最も距離の近い第1のオフセット磁性体150Aの磁化の向きにオフセット磁界が加わる。また、このような構造を用いる場合、第1の磁気抵抗素子100の第1磁性層101に最も距離の近いオフセット磁性体150Aの厚みを、積層構造に含まれるほかのオフセット磁性体150Aの厚みよりも厚くすることが好ましい。第1のオフセット磁性体150Aの磁化方向を第1の磁気抵抗素子100の第1磁性層101の磁化方向と平行に設定する場合は、それらの磁化方向を1度の磁界中熱処理で決定してもよい。例えば、図13(a)、(b)、(c)に示すように、オフセット磁気結合層158を介した第1のオフセット磁性体150Aの層数を奇数とするか偶数とするかで、第1磁性層101に最も近接した第1のオフセット磁性体150Aの磁化方向を第2磁性層102の磁化方向に対して、0°と180°のどちらに向くかを設定することができる。
また、第1磁性層101に最も近接した第1のオフセット磁性体150Aの磁化の向きと第2磁性層102の磁化の向きの関係は、図13(a)、(b)、(c)に示す第1のオフセット磁性体150Aの層数を変えずに、磁場の向きを変えて行う2段階の磁界中熱処理によっても制御することができる。2段階の磁界中熱処理の方法は、後述するインスタック型のオフセット磁性体にて説明する。
第1のオフセット磁性体150Aとオフセット磁性体用ピニング層159の積層構造を用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1のオフセット磁性体150Aに加わった場合においても、第1のオフセット磁性体150Aの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
[1−7.積層型の縦置きオフセット磁性体]
次に、オフセット磁性体を磁気抵抗素子に積層して配置する場合の磁気抵抗素子とオフセット磁性体との関係について説明する。以下の説明においては、第1の磁気抵抗素子100と第1のオフセット磁性体150を例として説明するが第2の磁気抵抗素子200や第2のオフセット磁性体250等も同様に構成することが可能である。
図14には、第1の磁気抵抗素子100と、オフセット磁性体として機能する第1のオフセット磁性体150Fの模式図を示す。第1のオフセット磁性体150Fは、第1のオフセット磁性体150の他の態様である。尚、図14においては、上部電極E2を省略している。
本実施の形態においては、第1のオフセット磁性体150Fが第1の磁気抵抗素子100の積層方向に設けられる。例えば、第1のオフセット磁性体150Fは、図14(a)に示すように、第1の磁気抵抗素子100中のキャップ層108の上に設けられる。但し、第1のオフセット磁性体150Fは、例えば下地層104よりも下方に設けてもよい。但し、磁化自由層として機能する第1磁性層101が磁化固定層として機能する第2磁性層102よりも上に位置する場合には、第1磁性層101よりも上に第1のオフセット磁性体150Fを設けたほうが好ましく、第1磁性層101が第2磁性層102よりも下に位置する場合には、第2磁性層102よりも下に第1のオフセット磁性体150Fを設けたほうが好ましい。
また、図14(a)に示すとおり、第1のオフセット磁性体とキャップ層108の間に第1のオフセット磁性体150F用の下地層151を設けてもよい。図14において、第1のオフセット磁性体150上に図示しない上部電極を設けることで、上部電極と下部電極E1の間に通電した電流が第1のオフセット磁性体150Fと磁気抵抗素子に流れる。また、上部電極は、第1のオフセット磁性体とキャップ層108の間に設けてもよい。
図14(b)に示す通り、第1のオフセット磁性体150Fの磁界によって、第1の磁気抵抗素子100の抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットさせることができる。例えば、第1のオフセット磁性体150Fの磁化を被測定電流から生ずる誘導磁界と略平行方向に設定することで、図4に示すように、第1の磁気抵抗素子100の抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットさせることができる。ここで、図14(b)に示すように、第1のオフセット磁性体150Fを直上に配置した場合、第1の磁気抵抗素子100に加わるオフセット磁界の方向は第1のオフセット磁性体150Fの磁化方向と逆向きとなる。
第1のオフセット磁性体150Fやオフセット磁性体用下地層151に用いる材料は、図8の説明で述べた材料と同様のものを使うことができる。図14のような積層方向に配置した第1のオフセット磁性体では、第1のオフセット磁性体150Fの端部から漏洩磁界が発生する。従って、第1のオフセット磁性体150Fの面積を第1の磁気抵抗素子100の面積と比べて大きくしすぎると、第1のオフセット磁性体150からの磁界が第1の磁気抵抗素子100に十分加わらない。従って、第1のオフセット磁性体150Fの面積は、適切に設定する必要がある。例えば、第1のオフセット磁性体150Fの面積は第1磁性層100の面積と同等以上、25倍以下程度が好ましい。また、第1のオフセット磁性体150Fにおいても、前述したオフセット磁性体とオフセット磁性体用ピニング層の積層構造を用いてもよい。この場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1のオフセット磁性体150Fに加わった場合においても、第1のオフセット磁性体150Fの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
ここで、磁気抵抗素子のオフセット磁界Hoffsetは、第1のオフセット磁性体150F等の構成によって調整することができる。図15(a)及び(b)には、2つの磁気抵抗素子について異なるオフセット磁界を得るために、第1のオフセット磁性体150F及び第2の磁性体250Fの構成に差を設けた例を示す。尚、図15(a)及び(b)では、2つの磁気抵抗素子について例にとっているが、3つ以上の磁気抵抗素子としてもよい。
図15(a)に示すとおり、磁気抵抗素子と第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fとの間の距離を変えることで、オフセット磁界を変えることが可能である。図14(a)に示す第1の磁気抵抗素子100と第1のオフセット磁性体150Fの間の距離L1は、第2の磁気抵抗素子200と第2のオフセット磁性体250Fの間の距離L2よりも大きく設定されている。この場合、第1又は第2のオフセット磁性体150F,250Fから距離が大きいほど、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は小さくなるため、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界Hoffsetは小さくなる。
図15(b)に示すとおり、第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fの膜厚を変えることで、オフセット磁界を変えることが可能である。図15(b)に示す第1のオフセット磁性体150Fのそれぞれの膜厚t1は、第2のオフセット磁性体250Fの膜厚t2よりも小さく設定されている。この場合、第1又は第2のオフセット磁性体150F,250Fの膜厚が厚いほど、第1又は第2のオフセット磁性体150F,250Fの磁気体積が大きくなるため、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は大きくなり、第1又は第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界は大きくなる。
図15(b)では、第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fの膜厚を変えることで磁気体積を変えた場合について説明したが、第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fに用いられる磁性材料の種類を変えることでも磁気体積を変えることができる。例えば、第1のオフセット磁性体150Fと第2のオフセット磁性体250Fのそれぞれに飽和磁化の異なる磁性材料を用いることで、磁気体積を変え、第1および第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界を変えることも出来る。
また、前述したように第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fの面積を変えることで、オフセット磁界を変えることが可能である。第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fを第1及び第2の磁気抵抗素子100,200に対して積層方向に配置する場合、第1及び第2のオフセット磁性体150F,250Fの端部と第1及び第2の磁気抵抗素子100,200の端部の距離が離れるほど、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200に加わる磁界は小さくなり、第1及び第2の磁気抵抗素子100,200のオフセット磁界は小さくなる。
また、図11(a)〜(c)の、平面方向から第1及び第2のオフセット磁性体150,250を隣接させた場合と同じように、積層方向に配置した第1のオフセット磁性体150においても形状を変えた1つの第1のオフセット磁性体150で複数の磁気抵抗素子の感度を調整してもよい。
[1−8.インスタック型のオフセット磁性体]
次に、オフセット磁性体を磁気抵抗素子に包含する場合の磁気抵抗素子とオフセット磁性体との関係について説明する。以下の説明においては、第1の磁気抵抗素子100と第1のオフセット磁性体150を例として説明するが第2の磁気抵抗素子200や第2のオフセット磁性体250等も同様に構成することが可能である。
図16には、本実施の形態に係る第1の磁気抵抗素子100と第1のオフセット磁性体150Gの模式図を示す。第1のオフセット磁性体150Gは、第1のオフセット磁性体150の一態様である。
図154に示す実施の形態においては、第1の磁気抵抗素子100が第1のオフセット磁性体150Gを包含している。第1のオフセット磁性体150Gは、積層構造からなるインスタックオフセット層として構成される。従って、第1のオフセット磁性体150Gは、内部に含まれるオフセット磁性層の磁化と磁化自由層の間の交換結合磁界により、第1の磁気抵抗素子100の抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットさせることができる。例えば、第1の磁性層150Gの磁化方向を被測定電流から生ずる誘導磁界と略平行に設定することで、図4に示すように、第1の磁気抵抗素子100の抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットさせることができる。
図16に表した実施の形態において、第1のオフセット磁性体150Gは、分離層152と、第1オフセット磁性層153と、オフセット磁気結合層154と、第2オフセット磁性層155と、オフセットピニング層156とを含む。
第1オフセット磁性層153および第2オフセット磁性層155は、例えば、磁性材料によって形成される。第2オフセット磁性層155の磁化は、オフセットピニング層156によって一方向に固定される。第1オフセット磁性層153の磁化は、オフセット磁気結合層154を介して隣り合う第2オフセット磁性層155の磁化とは反対に設定される。一方向に磁化が固定された第1オフセット磁性層153は、交換結合などの磁気的結合によって、第1磁性層101にオフセットを加える。このような、オフセット磁性層とオフセットピニング層の積層構造を用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が第1のオフセット磁性体150Gに加わった場合においても、第1のオフセット磁性体150Gの磁化の向きを容易に保持することが出来る。
分離層152は、例えば、非磁性材料などから形成され、第1オフセット磁性層153と第1磁性層101とを物理的に分離することで、第1オフセット磁性層153と第1磁性層101との間の磁気的結合の強度を調整する。なお、第1オフセット磁性層153の材料によっては、分離層152は必ずしも設けられなくともよい。図16のように、複数のオフセット磁性層の磁化を反平行(180°)とすることで、オフセット磁性層から外部への漏洩磁界を抑え、磁化自由層への交換結合によるオフセット印加以外の磁気的干渉を抑えることができる。
第1のオフセット磁性体150Gは、図15で示すように、第1オフセット磁性層153/オフセット磁気結合層154/第2オフセット磁性層155を含んでいるが、分離層152とオフセットピニング層156の間に単層の第1オフセット磁性層153のみを設けることによって構成してもよい。また、第1オフセット磁性層/第1磁気結合層/第2オフセット磁性層/第2磁気結合層/第3オフセット磁性層のように、オフセット磁性層の層数を3層以上としてもよい。
分離層152には、例えば、5nmのCuが用いられる。第1オフセット磁性層153には、例えば、3nmのFe50Co50が用いられる。オフセット磁気結合層154には、例えば、0.9nmのRuが用いられる。第2オフセット磁性層155には、例えば、3nmのFe50Co50が用いられる。オフセットピニング層156には、例えば、7nmのIrMnが用いられる。
第1オフセット磁性層153および第2オフセット磁性層155には、例えば、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくともいずれかを用いることができる。第1オフセット磁性層153として、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いてもよい。例えば、第1オフセット磁性層153には、CoxFe100−x合金(xは0%以上100%以下)、NixFe100−x合金(xは0%以上100%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いられる。第1オフセット磁性層153として、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは0%以上100%以下、yは0%以上30%以下)が用いられてもよい。
分離層152には、例えば、非磁性材料が用いられる。分離層43は、例えば、Cu、Ru、Rh、Ir、V、Cr、Nb、Mo、Ta、W、Rr、Au、Ag、Pt、Pd、Ti、Zr、Hf、及び、Hfの群から選択された少なくとも一つの元素を含む層を用いることができる。
オフセットピニング層156は、オフセットピニング層に接して形成される第2オフセット磁性層155に、一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を付与して第1オフセット磁性層153の磁化を固定する。オフセットピニング層156には、例えば、反強磁性層が用いられる。オフセットピニング層156には、例えば、Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。Ir−Mn、Pt−Mn、Pd−Pt−Mn、Ru−Mn、Rh−Mn、Ru−Rh−Mn、Fe−Mn、Ni−Mn、Cr−Mn−PtおよびNi−Oにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。十分な強さの一方向異方性を付与するために、オフセットピニング層156の厚さは適切に設定される。
オフセットピニング層156としてPtMnまたはPdPtMnが用いられる場合には、オフセットピニング層の厚さは、8nm以上20nm以下が好ましい。オフセットピニング層156の厚さは、10nm以上15nm以下がより好ましい。オフセットピニング層156としてIrMnが用いられる場合には、オフセットピニング層156としてPtMnが用いられる場合よりも薄いオフセットピニング層156で、一方向異方性を第1オフセット磁性層153に付与することができる。この場合には、オフセットピニング層156の厚さは、4nm以上18nm以下が好ましい。オフセットピニング層156の厚さは、5nm以上15nm以下がより好ましい。
オフセットピニング層156として、ハード磁性層(硬質強磁性材料)が用いられてもよい。例えば、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdなどの磁気異方性および保磁力が比較的高いハード磁性材料(硬質強磁性材料)が用いられる。また、Co−Pt、Fe−Pt、Co−Pd、Fe−Pdにさらに添加元素を加えた合金を用いても良い。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Coの比率は、50%以上85%以下)、(CoxPt100−x)100−yCry(xは50%以上85%以下、yは0%以上40%以下)、または、FePt(Ptの比率は40%以上60%以下)などが用いられてもよい。
オフセット磁気結合層155は、第1オフセット磁性層153と第2オフセット磁性層155との間に反強磁性結合を生じさせる。第1磁気結合層44aは、シンセティックピン構造を形成する。第1磁気結合層として、例えば、Ruが用いられる。第1磁気結合層の厚さは、0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。第1オフセット磁性層153と第2オフセット磁性層155との間に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、オフセット磁気結合層155としてRu以外の材料を用いてもよい。オフセット磁気結合層154の厚さは、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合のセカンドピーク(2ndピーク)に対応する0.8nm以上1nm以下の厚さに設定することができる。さらに、オフセット磁気結合層154の厚さは、RKKY結合のファーストピーク(1stピーク)に対応する0.3nm以上0.6nm以下の厚さに設定してもよい。第1磁気結合層として、例えば、0.9nmの厚さのRuが用いられる。これにより、高信頼性の結合がより安定して得られる。
第1オフセット磁性層153の厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。第2オフセット磁性層155の厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。これにより、例えば、オフセットピニング層156による一方向異方性磁界の強度をより強くすることができる。第1オフセット磁性層153の磁気膜厚(飽和磁化Bsと厚さtとの積(Bs・t))は、第2オフセット磁性層155の磁気膜厚と実質的に等しいことが好ましい。
第1のオフセット磁性体150Gから第1磁性層101に加わるオフセット磁界の方向は、第2磁性層102の磁化方向に対して、任意の方向とすることが可能である。
図16(b)は、第1のオフセット磁性体150Gにおける磁化方向の設定方法を説明するための模式図である。例えば、第2磁性層102の磁化方向に対して、第1のオフセット磁性体150Gから第1磁性層101に加わるオフセット磁界の方向を180°に設定することも可能である。このようなオフセット磁界の方向の設定は、2段階の磁界中アニール、並びに、ピニング層105に用いられる材料構成と及びオフセットピニング層156に用いられる材料構成の選択によって可能となる。
ピニング層105またはオフセットピニング層156に用いられる反強磁性材料については、その組成によって磁化固着が生ずる温度が異なる。例えば、PtMnなど規則合金系の材料については、IrMnなどの不規則でも磁化固着を生ずる材料にくらべて、磁化固着が行われる温度が高い。例えば、ピニング層105にPtMnを用い、オフセットピニング層156にIrMnを用いることが可能である。
次に、図16(b)に示すような2段階の磁界中熱処理を行う。例えば、図16(b)の(1)に表すように、図16(b)の右方向に外部磁場を印加しつつ320℃において10時間アニールを行う。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は、右向きに固着される。また、オフセットピニング層156に接した第2オフセット磁性層155の磁化方向は、いったん右向きに固着される。
次に、例えば、図16(b)の(2)に表すように、図15(b)の左方向に外部磁場を印加しつつ250℃において1時間アニールを行う。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は右向きのまま変化せず、オフセットピニング層156に接した第2オフセット磁性層155の磁化方向は、左向きに固着される。この磁化の向きは、図16(b)の右図に示すように、室温においても保持される。
このように、磁界中アニールの方法、並びに、ピニング層105の材料構成及びオフセットピニング層156の材料構成の選択によって、第1の磁性層101及び第2の磁性層102へのオフセット磁界の方向を任意に設定することが可能である。そのほか、ピニング層105とオフセットピニング層156の磁化固着の温度差は、それぞれの材料の選定のみでなく、それぞれの層の膜厚で設定することも可能である。例えば、ピニング層105にIrMn7nmを用い、オフセットピニング層156にIrMn5nmを用いた場合においても、図16(b)に示した磁界中2段階アニールを行うことで、図16(a)に示したような磁化方向のアライメントを行うことが可能である。
ここで、磁気抵抗素子に加わるオフセット磁界は、インスタックオフセット層の構成によって調整することができる。例えば、第1の磁気抵抗素子100及び第1のオフセット磁性体150Gを図16に示すように構成し、更に第2の磁気抵抗素子200及び第2のオフセット磁性体250をこれらと同様に構成する。但し、第2のオフセット磁性体250においては、第1の磁気抵抗素子150Gと比較して分離層152を厚くする。これによって、第1の磁気抵抗素子100のほうが、オフセット磁界が相対的に弱まる。そのほか、第1オフセット磁性層153と第2オフセット磁性層155の厚みを2つの磁気抵抗素子で差をつけることによってもオフセット磁界を変えることが可能である。この場合、第1オフセット磁性層153と第2オフセット磁性層155の厚みを厚くしたほうが、第1磁性層101に加わるオフセット磁界が弱まる。
また、磁気抵抗素子に加わるオフセット磁界の方向は、インスタックオフセット層に含まれるオフセット磁気結合層154を介したオフセット磁性層の数によっても調整できる。例えば、図16に示すように、オフセット磁性層の数が2つなど偶数の場合は、オフセットピニング層156に接した第2オフセット磁性層155の向きと、第1磁性層101に近接する第1オフセット磁性層153の磁化の向きは逆となるが、オフセット磁性層の数を奇数とした場合は、オフセットピニング層156に接したオフセット磁性層の向きと、第1磁性層101に近接するオフセット磁性層の磁化の向きは同じ方向となる。よって、インスタックオフセット層によるオフセット方向が磁気抵抗素子のピン層の磁化方向と略平行な場合、インスタックオフセット層の磁化方向の正負の選択には図16(b)に示した2段階アニールは必ずしも必要なく、オフセット磁性層の数によって、1段階のアニールで決めることができる。
[1−9.製造方法]
次に、本実施の形態に係る電流センサの製造方法について述べる。図17(a)〜図17(j)は、本実施の形態に係る電流センサの製造方法を例示する工程順模式的斜視図である。
図17(a)に表したように、基板110上に下部電極E1を形成する。例えば、Ta(5nm)/Cu(200nm)/Ta(35nm)を形成する。この後に、下部電極E1の最表面にCMP処理などの表面平滑化処理を行い、下部電極E1上に形成される構成を平坦にしても良い。
次に、図17(b)に示すように、下部電極E1の平面形状を加工する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。例えば、Arイオンミリングを実施する。
次に、図17(c)に示すように、下部電極E1の周辺に絶縁層111の埋め込み成膜を行う。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図17(b)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に絶縁層111を成膜し、その後レジストパターンを除去する。絶縁層111として、例えば、SiOx、AlOx、SiNx及びAlNxなどを用いることができる。
次に、下部電極E1上に磁気抵抗素子の電極間の構成を成膜する。例えば、下地層104として、Ta(3nm)/Ru(2nm)を形成する。その上にピニング層105として、IrMn(7nm)を形成する。その上に第2磁性膜102として、Co75Fe25(2.5nm)/Ru(0.9nm)/Co40Fe40B20(3nm)を形成する。その上に中間層103として、MgO(2nm)を形成する。その上に第1磁性膜101として、Co40Fe40B20(2nm)/Ta(0.4nm)/Ni80Fe20(6nm)を形成する。その上にキャップ層108として、Cu(1nm)/Ta(2nm)/Ru(5nm)を形成する。
次に、第2磁性膜102の磁化方向を固着する磁界中アニールを行う。例えば、7kOeの外部磁場を印加しつつで300℃で一時間のアニールを行う。例えば、誘導磁界印加方向(X方向)に対して、略平行に外部磁界を加えて行う。ここで、例えば、前述したインスタックバイアス層を設けたオフセット磁性体(150G,図16(a))を用いる場合などには、2段階のアニールを行っても良い。
次に、図17(e)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成の平面形状を加工する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。この工程によって、図17(e)に示すように、複数の構成を一括して加工することができる。
次に、図17(f)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成の周辺に絶縁層109の埋め込み成膜を行う。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図17(e)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に絶縁層109を成膜し、その後レジストパターンを除去する。絶縁層109として、例えば、SiOx、AlOx、SiNx及びAlNxなどを用いることができる。
次に、図17(g)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成に隣接して設ける第1のオフセット磁性体150を埋め込むためのホール109aを形成する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。図17(g)では、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1のオフセット磁性体150Eを形成する場合を例にとっているが、複数の磁気抵抗素子に対して、別個にオフセット磁性体を形成する場合でも一括で加工することができる。この工程において、ホール109aは絶縁層109を貫通するところまで行っても良いし、途中で止めても良い。図17(g)では途中で止めた場合を例示している。後述するが、ホール109aを、絶縁層109を貫通するところまでエッチングした場合には、図17(h)に示す第1のオフセット磁性体150の埋め込み工程において、第1のオフセット磁性体150の下に図示しない絶縁層を成膜する必要がある。
次に、図17(h)に示すように、図17(g)で形成したホール109aに第1のオフセット磁性体150を埋め込む。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図17(h)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に第1のオフセット磁性体150を成膜し、その後レジストパターンを除去する。ここでは、例えば、第1のオフセット磁性体150用下地層として、Cr(5nm)を形成し、その上に第1のオフセット磁性体150として、例えば、Co80Pt20(20nm)を形成する。その上に、さらに図示しないキャップ層を形成しても良い。このキャップ層として、磁気抵抗素子のキャップ層108に使用可能な材料として上述した材料を用いても良いし、SiOx、AlOx、SiNx及びAlNxなどの絶縁層を用いても良い。図17(h)にて、第1のオフセット磁性体150を埋め込んだ後に、室温で外部磁界を加えて、オフセット磁性体150に含まれるハード磁性層(硬質強磁性材料)の磁化方向の設定を行う。例えば、誘導磁界の方向に対して、略平行な方向に外部磁界の印加を行う。この外部磁界による第1のオフセット磁性体150の磁化方向の設定は、第1のオフセット磁性体150の埋め込み後であれば、レジストパターンの除去前、除去後、および図17(j)に示す上電極の加工後のどのタイミングで行ってもよい。
次に、図17(i)に示すように、上部電極E2を成膜する。次に、図17(j)に示すように、上部電極E2の平面形状を加工する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが行われる。
このような態様に係る製造方法によれば、工程数の増加を招くことなく本実施の形態に係る電流センサを製造することが可能である。尚、図17(a)〜(j)では図示していないが、下部電極E1へのコンタクトホールの形成を行っても良いし、や上部電極E2の加工後に保護膜を形成しても良い。
次に、本実施の形態に係る電流センサの別の製造方法について述べる。図18(a)〜図18(j)は、本実施の形態に係る電流センサの別の製造方法を例示する工程順模式的斜視図である。尚、図18(a)〜図18(d)に示す工程は、図17(a)〜図17(d)に示した工程と同様であるため、説明を省略する。
図18(e)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成の平面形状を加工する。この工程は、図17(e)に示した工程とほぼ同様に行われるが、積層された第1の磁性膜101等のY方向の寸法を最終的な寸法よりも長くしている点において異なる。
次に、図18(f)に示すように、積層体の周辺に絶縁層の埋め込み成膜を行う。この工程は、図17(f)に示した工程と同様に行われる。
次に、図18(g)に示すように、磁気抵抗素子の電極間の構成に隣接して設ける第1のオフセット磁性体150を埋め込むためのホール109aを形成する。この工程では、レジストをフォトリソグラフィによりパターニングし、その後、図示しないレジストパターンをマスクとして用いて、物理ミリングまたは化学ミリングが実施される。図18(g)では、複数の磁気抵抗素子に対して、一対の第1のオフセット磁性体150Eを形成する場合を例にとっているが、複数の磁気抵抗素子に対して、別個にオフセット磁性体を形成する場合でも一括で加工することができる。図18(g)には、ホール109aが絶縁層109を貫通するまでエッチングを行った例を示している。図18(g)に示した例では、このエッチングによって、積層された第1の磁性膜101等のX方向の寸法が最終的な寸法になるように加工を行っている。
次に、図18(h)に示すように、図18(g)で形成したホール109aに第1のオフセット磁性体150を埋め込む。この工程では、例えば、リフトオフ工程が行われる。例えば、図18(h)のフォトリソグラフィで形成したレジストパターンは残したままで、全面に第1のオフセット磁性体150を成膜し、その後レジストパターンを除去する。ここでは、ホール109aが絶縁層109を貫通しているため、第1のオフセット磁性体150の埋め込み工程の第1層として、絶縁層112の形成を行う。絶縁層112は、例えば、SiOxを10nm製膜することによって形成される。ここで、形成された絶縁層112はホール109aの側壁にも堆積する。従って、その側壁に堆積した絶縁層112によって、磁気抵抗素子と第1のオフセット磁性体150とを絶縁し、更にこれらの間の距離を好適に調整することができる。その後、例えば、図17(h)に示した工程と同様の工程によって第1のオフセット磁性体150を埋め込む。図18(h)にて、第1のオフセット磁性体150を埋め込んだ後に、室温で外部磁界を加えて、オフセット磁性体150に含まれる硬質強磁性材料の磁化方向の設定を行う。例えば、誘導磁界の方向に対して、略平行な方向に外部磁界の印加を行う。この外部磁界による第1のオフセット磁性体150の磁化方向の設定は、第1のオフセット磁性体150の埋め込み後であれば、レジストパターンの除去前、除去後、および図18(j)に示す上電極の加工後のどのタイミングで行ってもよい。
次に、図18(i)に示すように、上部電極E2を形成する。次に、図18(j)に示すように、上部電極E2の平面形状を加工する。この工程は、図17(j)を用いて説明した工程と同様に行われる。
このような態様に係る製造方法によっても、工程数の増加を招くことなく本実施の形態に係る電流センサを製造することが可能である。尚、図18(a)〜(j)では図示していないが、下部電極E1へのコンタクトホールの形成を行っても良いし、上部電極E2の加工後に保護膜を形成しても良い。
図19には、本実施の形態に係わる電流センサの一つの例を示す。図19(a)には、逆向きのオフセット磁界を加えた磁気抵抗素子を含む電流センサの配置例を示している。被測定電流が交流の場合など、正負の誘導磁界を測定する場合には、オフセット磁界の向きを逆向きとした磁気抵抗素子群を用いるのが望ましい。このような逆向きのオフセット磁界は、オフセット磁性体の磁化の向きを逆向きとすることで実現できる。また、オフセット磁性体の磁化の方向の設定は前述したとおりの方法で自由に設定することができる。
即ち、図19に示す通り、本実施の形態においては、基板上Y方向に第1の磁気抵抗素子100、第2の磁気抵抗素子200、第5の磁気抵抗素子410、第6の磁気抵抗素子420、第3の磁気抵抗素子300及び第4の磁気抵抗素子400が配設されている。また、第1の磁気抵抗素子100、第2の磁気抵抗素子200、第3の磁気抵抗素子300及び第4の磁気抵抗素子400の、X方向に対向する面には、それぞれ第1のオフセット磁性体150、第2のオフセット磁性体250、第3のオフセット磁性体350及び第4のオフセット磁性体450が設けられている。更に、第1のオフセット磁性体150及び第4のオフセット磁性体450は、それぞれ第1の磁気抵抗素子100及び第4の磁気抵抗素子400に近接に配置されている。一方、第2のオフセット磁性体250及び第3のオフセット磁性体350は、それぞれ第2の磁気抵抗素子200及び第3の磁気抵抗素子300に近接に配置されている。
尚、第4〜第6の磁気抵抗素子400,410及び420は、第1〜第3の磁気抵抗素子100,200及び300と同様の構成を有する。更に、第3のオフセット磁性体350及び第4のオフセット磁性体450はオフセット磁性体の一態様であり、第1のオフセット磁性体150及び第2のオフセット磁性体250と同様の構成を有する。
このような構成では、第1の磁気抵抗素子100に対してX方向に強いオフセット磁界が印加され、第2の磁気抵抗素子200に対してX方向に弱いオフセット磁界が印加される。また、第4の磁気抵抗素子400に対して−X方向に強いオフセット磁界が印加され、第3の磁気抵抗素子300に対して−X方向に弱いオフセット磁界が印加される。尚、磁気抵抗素子の数は適宜変更可能であり、更に第5の磁気抵抗素子410又は第6の磁気抵抗素子420を省略することも可能である。
図19(a)に示すようなオフセット磁界の向きを逆向きとした磁気抵抗素子群は同一の基板上に前述したようなオフセット磁性体の構成や2段階熱処理方法で作り分けることができる。一方で、図19(b)に示すとおり、オフセット磁性体の磁化の向きが第2磁性層の磁化の向きに対して平行な場合と反平行な場合の素子群を別の基板w1,w2上に作成して、その後チップc1,c2に切り出した後に、センサ基板モジュール712上に、並べて配置してもかまわない。このような作成方法のほうが、同一の基板上に、逆向きのオフセット磁性体を作製するよりも製造方法が簡便と成る。
また、図19(c)に示すように、複数の磁気抵抗素子及びオフセット磁性体を同一の基板w1上に同一の構成で作製した後に、チップc1,c2等に切り出し、その後、外部磁界を印加することによってオフセット磁性体の磁化の方向が異なるチップc1,c2を作製することもできる。このように作製したチップを、センサ基板モジュール712上に、並べて配置してもかまわない。
図19に示したような、オフセット磁界の向きを逆向きとした磁気抵抗素子群の配置や製造方法は本明細書に記載しているいかなるオフセット磁性体の形態に対しても適用できる。
[2.第2の実施の形態に係る電流センサ]
次に、第2の実施の形態に係る電流センサの構成について説明する。本実施の形態に係る電流センサは、上記実施の形態に係る電流センサとほぼ同様に構成されているが、オフセット用磁性体に代えて、線形応答磁性体を有する点において異なる。図20(a)は、第1の磁気抵抗素子100と、第1の線形応答磁性体160Aの模式図である。第1の線形応答磁性体160Aは、線形応答磁性体の一態様である。第1の線形応答磁性体160Aは、第1のオフセット磁性体150Aとほぼ同様に構成されているが、第1の磁気抵抗素子100に対し、被測定電流による電流磁界に対して、略垂直となる方向に磁場を印加する点において異なる。尚、線形応答磁性体の材料の選定は、オフセット磁性体と同様に行われる。線形応答磁性体と線形応答磁性体用ピニング層の積層体を用いる場合も、オフセット磁性体で説明した構成と同様の構成を用いることができる。このような、線形応答磁性体と線形応答磁性体用ピニング層の積層構造を用いた場合、被測定電流として瞬間的に大電流が流れ、大きい誘導磁界が線形応答磁性体に加わった場合においても、線形応答磁性体の磁化の向きを容易に保持することが出来る。
第1の線形応答磁性体160Aの磁界により、外部磁界が印加されていない状態における第1の磁性層101の磁化方向を所望の方向に設定できる。例えば、第1の線形応答磁性体160Aの磁化方向を第2の磁性層102の磁化方向と直交方向に設定することで、図3(b)に示すように、第1の磁性層101の磁化方向を第2の磁性層102の磁化方向と直交させることができる。第1の磁性層101の磁化方向と第2の磁性層102の磁化方向とを交差(直交)させることで、図3(d)に示すように正負の磁界に線形的に感応させることができる。尚、このような第1の線形応答磁性体160Aを前述したオフセット磁性体と組み合わせて使用してもよい。
第1の線形応答磁性体160Aおよび図示しない下地層には、前述したオフセット磁性体と同様の材料を用いることができる。ここで、磁気抵抗素子の感度((dR/R)/2Hs)は、第1の線形応答磁性体160Aの構成によって調整することができる。前述したオフセット磁性体の配置の仕方によるオフセット磁界の大きさの調整の方法を第1の線形応答磁性体160Aの場合にも適用できる。第1の線形応答磁性体160Aの場合は、前述した方法でオフセット磁界を大きくした場合が飽和磁界Hsの大きさとなる。飽和磁界Hsを大きく設定するほど、感度は低く設定される。
図20(b)は、第1の磁気抵抗素子100と、第1の線形応答磁性体160Fの模式図である。第1の線形応答磁性体160Fは、線形応答磁性体の一態様である。第1の線形応答磁性体160Fは、第1のオフセット磁性体150Fとほぼ同様に構成されているが、第1の磁気抵抗素子100に対し、被測定電流による電流磁界に対して、略垂直となる方向に磁場を印加する点において、第1のオフセット磁性体150Fと異なる。尚、図20(b)においては、上部電極E2を省略している。
第1の線形応答磁性体160Fを用いることにより、上述した第1の線形応答磁性体160Aを用いた場合と同様の効果を得ることが可能である。ここで、第1の線形応答磁性体160Fは第1の磁性層101等の積層方向に設けられる為、第1の線形応答磁性体160Fから第1の磁性層101への漏洩磁界は第1の線形応答磁性体160Fの磁化方向と逆向きとなる。尚、このような第1の線形応答磁性体160Fを前述したオフセット磁性体と組み合わせて使用してもよい。
第1の線形応答磁性体160Fの材料の選定及び感度の調整は、第1の線形応答磁性体160Aと同様に行う事が可能である。
図21には、他の構成に係る第1の磁気抵抗素子100と第1の線形応答磁性体160Gの模式図を示す。第1の線形応答磁性体160Gは、第1の線形応答磁性体160の一態様である。第1の線形応答磁性体160Gは、第1のオフセット磁性体150Gとほぼ同様に構成されているが、第1の磁気抵抗素子100に対し、被測定電流による電流磁界に対して、略垂直となる方向に磁場を印加する点において、第1の線形応答磁性体160Gと異なる。
第1の線形応答磁性体160Gを用いることにより、上述した第1の線形応答磁性体160Aを用いた場合と同様の効果を得ることが可能である。
図20に表した第1の線形応答磁性体160Gは、分離層162と、第1バイアス磁性層163と、バイアス磁気結合層164と、第バイアス磁性層165と、バイアスピニング層166とを含む。尚、これら層の材料の選定や膜厚の調整等は、それぞれ分離層152、第1オフセット磁性層153、オフセット磁気結合層154、第2オフセット磁性層155及びオフセットピニング層156と同様に行われる。
第1の線形応答磁性体160Gから第1磁性層101に加わる磁界の方向は、第2磁性層102の磁化方向に対して、任意の方向とすることが可能である。
図21(b)は、第1の線形応答磁性体160Gにおける磁化方向の設定方法を説明するための模式図である。例えば、第2磁性層102の磁化方向に対して、第1の線形応答磁性体160Gから第1磁性層101に加わる磁界の方向を90°(もしくは270°)に設定することも可能である。このような磁界の方向の設定は、図16(b)を用いて説明した方法とほぼ同様の方法によって可能となる。但し、本実施の形態に示す方法においては、図21(b)の中図に表すように、図21(b)の下方向に外部磁場を印加しつつアニールを行う点において異なる。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は右向きのまま変化せず、バイアスピニング層166に接した第2バイアス磁性層165の磁化方向は、左向きに固着される。この磁化の向きは、図21(b)の右図に示すように、室温においても保持される。
ここで、本実施の形態における磁気抵抗素子の感度((dR/R)/2Hs)は、図16を用いて説明した実施の形態におけるオフセット磁界の調整方法と同様に、分離層162、第1バイアス磁性層163及び第2バイアス磁性層165の膜厚を調整することによって調整可能である。
尚、ここまでの説明では、それぞれ第1のオフセット磁性体150G及び第1の線形応答磁性体160Gの磁化方向を設定するために2段階の磁界中アニールを行う事について説明した。ここで、このような2段階の磁界中アニールを用いた場合、第1の磁性層101の磁化方向を設定することも可能である。図22は、この為の方法を説明するための模式図である。このような方法によっても、例えば、図3(b)に示すように、磁化自由層の磁化方向を磁化固定層の磁化方向と直交させ、図3(d)に示すように正負の磁界に線形的に感応させることができる。
第1磁性層101の磁化方向と第2磁性層102の磁化方向を異なる方向に設定するためには、例えば、図21(b)の左図に示すように、第1の磁界中熱処理を行う。第1の磁界中熱処理は、例えば図21(b)の右方向に外部磁場を印加しつつ320℃において10時間アニールを行うことによって行われる。これにより、ピニング層105に接した第2磁化固定層106の磁化方向は、右向きに固着される。
次に、例えば、第2の磁界中熱処理を行う。第2の磁界中熱処理は、例えば図21(b)の中図に示すように、図21(b)の上方向に外部磁場を印加しつつアニールを行うことによって行う。この際の温度は、320℃よりも低温であり、且つバイアスピニング層166に用いる反強磁性体の磁化固着温度よりも低温に設定する。これにより、第2磁化固定層106の磁化方向を右向きにしたままで、第1磁性層101の磁化方向を上向きに設定することができる。即ち、第1磁性層101の誘導磁気異方性の方向を上下方向に設定することが出来る。
ここで、磁気抵抗素子の感度((dR/R)/2Hs)は、2段階アニールの第2の磁界中熱処理の温度や時間によって調整することができる。例えば、第1の磁気抵抗素子100と第2の磁気抵抗素子200を作製し、第1の磁気抵抗素子100製造時の第2の磁界中熱処理の時間を第2の磁気抵抗素子200製造時の第2の磁界中熱処理の時間よりも長時間とすることによって、第2の磁気抵抗素子200の第1磁性層の誘導磁気異方性が第1の磁気抵抗素子100のそれよりも高くなるため、Hsが大きくなり、感度((dR/R)/2Hs)は低く設定される。
[3.第3の実施の形態に係る電流センサ]
次に、第3の実施の形態に係る電流センサについて説明する。本実施の形態に係る電流センサは、第1の実施の形態に係る電流センサとほぼ同様に構成されているが、オフセット磁性体と線形応答磁性体とを共に有している点において異なる。尚、本実施の形態において、前述したオフセット磁性体と線形応答磁性体は、構造上可能な限り組み合わせて用いることができる。
図23は、オフセット磁性体と線形応答磁性体とを組み合わせて使用する電流センサの構成を示す模式図である。図23(a)に示す例においては、第1の磁気抵抗素子100の側方に隣接して第1のオフセット磁性体150Aを置き、かつ、第1の磁気抵抗素子100中にインスタックバイアス層を用いた第1の線形応答磁性体160Gを設けた場合を示す。第1の線形応答磁性体160Gによって、外部磁場に対する抵抗変化の線形性が向上し、第1のオフセット磁性体150Aによって、抵抗変化が生ずる誘導磁界をオフセットできる。
図23(b)に示す例においては、第1の磁気抵抗素子100の誘導磁界と平行方向の側方に第1のオフセット磁性体150Aを設け、かつ、第1の磁気抵抗素子100の誘導磁界の垂直方向の側方に第1の線形応答磁性体160Aを設けた場合を示す。この場合の組合せにおいても、図23(a)の組合せと同様の効果を奏することが可能である。
尚、図23(a)及び(b)に示したオフセット磁性体と線形応答磁性体の組み合わせはあくまでも一例にすぎず、構造上実現可能な範囲で前述したそれぞれの構造を組み合わせることができる。
[4.第4の実施の形態に係る電流センサ]
次に、第4の実施の形態に係る電流センサについて説明する。図24は、第4の実施の形態に係る電流センサの構成を示す概略図である。第4の実施の形態に係る電流センサは、第3の実施の形態に係る電流センサとほぼ同様に構成されているが、更に磁界ガイド170を有している。
磁界ガイド170は、第1の磁気抵抗素子100の誘導磁界が印加される方向に平行な側方に隣接して設けられ、誘導磁界を収束して第1の磁気抵抗素子100に印加する。このような磁界ガイド170を設けることによって、より高感度に誘導磁界を測定することが可能となる。ここで、このような磁界ガイド170と本実施の形態に係る第1のオフセット磁性体150Bによる磁界オフセットを併用するには、図9に示した第1の磁気抵抗素子100の斜め側方に設けられた第1のオフセット磁性体150Bを用いることが考えられる。これにより、構造上の干渉なく、磁界ガイド170と第1のオフセット磁性体150Bを配置することができる。また、本実施の形態に係る電流センサは、線形応答磁性体160Gを含んでいる。なお、磁界ガイド170は、例えば、Fe、Co及びNiの少なくともいずれか、または、これらの少なくとも1種を含む合金からなる強磁性材料を用いることができ、軟質磁性材料を用いることが好ましい。例えば、Ni80Fe20などを用いることができる。
[5.第5の実施の形態に係る電流センサ]
次に、本発明の第5の実施の形態に係る電流センサについて説明する。上記実施の形態に係る電流センサは、図4を用いて説明したように、誘導磁場の大きさに応じて、複数の磁場感度が異なる磁気抵抗素子から最適な磁気抵抗素子を選択し、その出力電圧から選択出力信号を算出する。
しかしながら、複数の磁気抵抗素子は異なる範囲の誘導磁界に対して感応するため、同一の出力電圧によって駆動していたとしても、測定した誘導磁界の値が異なる。そのため、どの磁気抵抗素子から出力された出力電圧が適切であるかを特定できなければ、被測定電流からの誘導磁場値を測定することができない。
そこで、本実施の形態に係る電流センサにおいては、複数配置された磁気抵抗素子の出力信号をすべてマルチプレクサに入力し、所定の制御信号に基づいて最適な出力信号を選択する。尚、制御信号は、誘導磁場の範囲に応じて一つの最適なセンサを選択するデータを含んでいる。
図25は、本実施の形態に係る電流センサ600の構成を示す回路ブロック図である。本実施の形態に係る電流センサ600は、複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nと、リファレンス磁気抵抗素子620と、コンパレータ630と、レジスタ640と、マルチプレクサ650と、増幅器660と、A/D変換回路670と、メモリ680と、通信回路690とを備える。
複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nは、異なる大きさの磁場に対して感度を有する。複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nとしては、第1、第3及び第4の実施の形態のいずれかに係る磁気抵抗素子を適用することが可能である。即ち、測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nの近傍にはオフセット磁性体が設けられる。また、線形応答磁性体等を設けることも可能である。
リファレンス磁気抵抗素子620は、複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nと比較して広い磁場範囲に感度を有する磁気抵抗素子である。また、リファレンス磁気抵抗素子620として、第1〜第4の実施の形態のいずれかに係る磁気抵抗素子を採用することも可能である。即ち、リファレンス磁気抵抗素子620の近傍にオフセット磁性体や線形応答磁性体等を設けることも可能である。
コンパレータ630は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号に基づいて、外部磁場の大まかな大きさを示す制御信号を生成する。図26は、コンパレータ630の構成を示す回路図である。コンパレータ630は、複数の比較器631_1〜631_2n+4を備える。比較器631_1〜631_2n+4は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号を基準電圧Vmin(本実施の形態に係る磁気抵抗素子のフリー層(第1磁性層101等)とピン層(第2磁性層102等)の磁化ベクトルが0°方向に向いた状態の出力電圧),V1…V2n+2,Vmax(本実施の形態に係る磁気抵抗素子のフリー層(第1磁性層101等)とピン層(第2磁性層102等)の磁化ベクトルが180°方向に向いた状態の出力電圧)と比較してその結果を出力する。従って、複数の比較器631_1〜631_2n+4の一方の入力端子はリファレンス磁気抵抗素子620に接続されている。また、他方の入力端子にはそれぞれ異なる基準電圧が印加されている。更に、これら複数の比較器631_1〜631_2n+4の出力端子はレジスタ640に接続されている。
図25に戻って説明を続ける。レジスタ640は、コンパレータ630の出力信号を制御信号として保持する。マルチプレクサ650は、この制御信号に基づいて測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_n、リファレンス磁気抵抗素子620の出力信号から一の出力信号を選択する。増幅器660はマルチプレクサ650の出力信号を増幅し、A/D変換回路670は増幅器660の出力信号をデジタル出力値に変換する。メモリ680はA/D変換回路670の出力信号及び制御信号を格納し、通信回路690はメモリ680に格納された信号を外部に出力する。
図27は、複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_n及びリファレンス磁気抵抗素子620の特性を示すグラフである。横軸は誘導磁場の大きさを表しており、縦軸は測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_n及びリファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧を表している。
図に示すように、複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nは、磁場感度が同じであるが飽和磁場の値がオフセットされた特性になっている。即ち、測定用磁気抵抗素子610_cは0Oeを中心とした−Hc〜Hcの領域に磁場感度を有している。更に、測定用磁気抵抗素子610_1〜610_nは、測定範囲が正の方向にシフトしている。尚、測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)における測定範囲のシフト量は、k番目に少ない。また、測定磁気抵抗素子610_−1〜610_−nは、測定範囲が負の方向にシフトしている。尚、測定用磁気抵抗素子610_−k(k=1〜n)における測定範囲のシフト量は、k番目に少ない。
図27において、Vmax及びVminは、測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_n及びリファレンス磁気抵抗素子620の磁化飽和状態における出力電圧である。所定の大きさを有する外部磁場が印加された場合、この外部磁場が測定範囲内である測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)の出力信号は、VmaxとVminの間の大きさとなる。一方、外部磁場が測定範囲外である測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)の出力信号は、Vmax又はVminとなる。リファレンス磁気抵抗素子620は、測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nと比較して磁場感度が低い。また、リファレンス磁気抵抗素子620は、0Oeを中心とした−Hr〜Hrの領域に磁場感度を有しており、この測定範囲には、複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nの測定範囲が全て含まれている。
以下、外部磁場の大きさが0である場合において抵抗値が最大値と最小値の中間になるような測定用磁気抵抗素子610_cを、中心磁気抵抗素子610と呼ぶことがある。この中心磁気抵抗素子610を中心に、測定範囲を±側にシフトさせた測定用磁気抵抗素子610を同一個数(例えばn個)配置すれば、交流磁場に対しても±磁場を対称に測定が可能である。以下の記載は、図27のような磁場―電圧特性を持った電流センサを前提に説明を行う。
図27中のV1〜V2n+2は、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧と比較される上記基準電圧である。基準電圧は、全ての測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nについてそれぞれ設定される。測定範囲が−方向にシフトしている測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1について設定される基準電圧V1〜Vnは、この測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1の出力電圧がVminになる時の飽和磁場−Hn〜−H1における、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧である。測定範囲が+方向にシフトしている測定用磁気抵抗素子610_1〜610_nについて設定される基準電圧Vn+3〜V2n+2は、この測定用磁気抵抗素子610_1〜610_nの出力電圧がVmaxになる時の飽和磁場H1〜Hnにおける、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧である。尚、中心磁気抵抗素子610_cについては、これら2つの方法によって2つの基準電圧Vn+1及びVn+2が設定される。
但し、実際の磁界センサでは、線形応答可能な範囲がVmin〜Vmaxの範囲より狭いため、前述のVminは飽和磁場における出力電圧よりも大きく、Vmaxは飽和磁場における出力電圧よりも小さく設定しても良い。−側に測定用磁気抵抗素子をn個、+側に測定用磁気抵抗素子をn個、中心磁気抵抗素子610を1個配置した場合、基準電圧は2n+2通り設定する必要がある。
図28は、誘導磁場の大きさ、制御信号Scの値及びマルチプレクサ650によって選択される測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_n及びリファレンス磁気抵抗素子620の関係を示す表である。図28の左欄には誘導磁場の大きさを、中欄には制御信号Scを、右欄には選択される磁気抵抗素子を示している。尚、制御信号Scは2n+4個の比較器631_1〜631_2n+4(図26)の出力信号からなるため、図28においては、比較器631_1〜631_2n+4の出力信号毎のデータを記載している。
図28誘導磁場の大きさHが、−Hk≦H<−Hk−1(k=1〜n)であった場合、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧は、Vn−k+1以上であり、Vn−k+2よりも小さい。従って、比較器631_1〜631_n−k+1の出力信号は1(High)となり、比較器631_n−k+2〜631_2n+4の出力信号は0(low)となる。誘導磁場の大きさHが、−Hc≦H<Hcであった場合、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧は、Vn+1以上であり、Vn+2よりも小さい。従って、比較器631_1〜631_nの出力信号は1(High)となり、比較器631_n+1〜631_2n+4の出力信号は0(low)となる。誘導磁場の大きさHが、Hk−1≦H<Hk(k=1〜n)であった場合、リファレンス磁気抵抗素子620の出力電圧は、Vn+k+1以上であり、Vn+k+2よりも小さい。従って、比較器631_1〜631_n+k+1の出力信号は1(High)となり、比較器631_n+k+2〜631_2n+4の出力信号は0(low)となる。これらの出力信号からなる制御信号Scを受けて、コンパレータ630は測定用磁気抵抗素子610−kの出力信号を選択し、出力する。
次に、メモリ680の動作について説明する。図29は、メモリ680の動作を説明するための回路ブロック図である。マルチプレクサ650から出力された出力信号は、A/D変換回路670によってNbitのデジタルデータに変換される。また、制御信号は2n+4bitのデジタルデータである。本実施の形態に係る電流センサ600は、制御信号によって選択した測定用磁気抵抗素子610を特定する。従って、メモリ680は、N+2n+4bitのデジタルデータを1ユニットとして格納する。
[6.第6の実施の形態に係る電流センサ]
次に、本発明の第6の実施の形態に係る電流センサについて説明する。図30は、本実施の形態に係る電流センサ601の構成を示す回路ブロック図である。本実施の形態に係る電流センサ601は、第5の実施の形態に係る電流センサ600とほぼ同様に構成されているが、リファレンス磁気抵抗素子620を有していない点、コンパレータ639の構成及び制御信号の生成方法において異なる。
図31は、本実施の形態に係るコンパレータ639の構成を示す回路図である。コンパレータ639は、複数の比較器632_1〜632_2n+2を備える。複数の比較器632_1〜632_2n+2の一方の入力端子は複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nにそれぞれ接続されている。ここで、各測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_1〜610_nにはそれぞれ比較器632_1〜632_n,632_n+3〜632_2n+2が接続されているが、中心測定用磁気抵抗素子610_cには、2つの比較器632_n+1,632_n+2が接続されている。また、比較器632_1〜632_2n+2の他方の入力端子にはそれぞれ異なる基準電圧が印加されている。更に、これら複数の比較器632_1〜632_2n+2の出力端子はレジスタ640に接続されている。
図32は、複数の測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nの特性を示すグラフである。基準電圧は、全ての測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_nについてそれぞれ設定される。測定範囲が−方向にシフトしている測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1について設定される基準電圧はVminである。測定範囲が+方向にシフトしている測定用磁気抵抗素子610_1〜610_nについて設定される基準電圧はVmaxである。尚、中心磁気抵抗素子610_cについては、Vmin及びVmaxが基準電圧として設定される。
但し、実際の磁界センサでは、線形応答可能な範囲がVmin〜Vmaxの範囲より狭いため、前述のVminは飽和磁場における出力電圧よりも大きく、Vmaxは飽和磁場における出力電圧よりも小さく設定しても良い。−側磁気抵抗素子をn個、+側磁気抵抗素子をn個、中心磁気抵抗素子610を1個配置した場合、基準電圧は2n+2通り設定する必要がある。
コンパレータ639から出力される制御信号は、結果として第5の実施の形態における制御信号と同様となる。従って、マルチプレクサ650は、第6の実施の形態と同様に測定用磁気抵抗素子610を選択する。
尚、上記測定用磁気抵抗素子610_−n〜610_−1,610_c,610_1〜610_n及びリファレンス磁気抵抗素子620としては、複数の第1の磁気抵抗素子100又は第2の磁気抵抗素子200を直列又は並列に接続した物を用いることも可能である。図33は、このような実施の形態に係る電流センサを例示する模式図である。尚、このような実施の形態においては、複数の第1の磁気抵抗素子100に同等のオフセット磁界が印加されている。同様に、複数の第2の磁気抵抗素子200にも同等のオフセット磁界が印加されている。
図33(a)に表したように、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100を電気的に直列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n−1)とし、複数の第2の磁気抵抗素子200を電気的に直列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k+1としてもよい。直列に接続されている磁気抵抗素子の数をNとしたとき、得られる電気信号は、磁気抵抗素子の数が1である場合のN倍となる。その一方で、熱ノイズ及びショットキーノイズは、N1/2倍になる。すなわち、SN比(signal-noise ratio:SNR)は、N1/2倍になる。直列に接続する磁気抵抗素子の数Nを増やすことで、SN比を改善することができる。
1つの磁気抵抗素子に加えられるバイアス電圧は、例えば、50ミリボルト(mV)以上150mV以下である。N個の磁気抵抗素子を直列に接続した場合は、バイアス電圧は、50mV×N以上150mV×N以下となる。例えば、直列に接続されている磁気抵抗素子の数Nが25である場合には、バイアス電圧は、1V以上3.75V以下となる。
バイアス電圧の値が1V以上であると、磁気抵抗素子から得られる電気信号を処理する電気回路の設計は容易になり、実用的に好ましい。
バイアス電圧(端子間電圧)が10Vを超えると、磁気抵抗素子から得られる電気信号を処理する電気回路においては、望ましくない。実施形態においては、適切な電圧範囲になるように、直列に接続される磁気抵抗素子の数N及びバイアス電圧が設定される。
例えば、複数の磁気抵抗素子を電気的に直列に接続したときの電圧は、1V以上10V以下となるのが好ましい。例えば、電気的に直列に接続された複数の磁気抵抗素子の端子間(一方の端の端子と、他方の端の端子と、の間)に印加される電圧は、1V以上10V以下である。
図33(b)に表したように、他の実施の形態に係る電流センサにおいては、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100を電気的に並列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)とし、複数の第2の磁気抵抗素子200を電気的に並列に接続して測定用磁気抵抗素子610_k+1としても良い。
図33(c)に表したように、他の実施の形態に係る電流センサにおいては、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100と第1の磁気抵抗素子の逆極性を示す抵抗値が同一の磁気抵抗素子110を、ホイートストンブリッジ回路を形成するように接続して測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)とし、複数の第2の磁気抵抗素子200と第2の磁気抵抗素子の逆極性を示す抵抗値が同一の磁気抵抗素子210を、ホイートストンブリッジ回路を形成するように接続して測定用磁気抵抗素子610_k+1としても良い。これにより、例えば、検出特性の温度補償を行うことができる。
また、図33(c)に表した回路において、前述の磁気抵抗素子110に代えて第1の磁気抵抗素子100と同一抵抗値の固定抵抗を採用し、前述の磁気抵抗素子210に代えて第2の磁気抵抗素子200と同一抵抗値の固定抵抗を採用しても良い(ハーフホイーストンブリッジ回路)。
図33(d)に表したように、他の実施の形態に係る電流センサにおいては、例えば複数の第1の磁気抵抗素子100を直列に接続した磁気抵抗素子120と前記磁気抵抗素子110を直列に接続した130によってホイートストンブリッジ回路を形成し、このホイートストンブリッジ回路を測定用磁気抵抗素子610_k(k=1〜n)としても良い。また、例えば複数の第2の磁気抵抗素子200を直列に接続した磁気抵抗素子220と、前記磁気抵抗素子210を直列に接続した磁気抵抗素子230によってホイートストンブリッジ回路を形成し、このホイートストンブリッジ回路を測定用磁気抵抗素子610_k+1としても良い。
また、図33(d)に表した回路において、前述の磁気抵抗素子130に代えて磁気抵抗素子120と同一の抵抗値の固定抵抗を採用し、前述の磁気抵抗素子230に代えて磁気抵抗素子220と同一の抵抗値の固定抵抗を採用しても良い(ハーフホイーストンブリッジ回路)。
[7.スマートメータへの応用例]
次に、上記第1〜第6の実施の形態に係る電流センサをスマートメータに応用した例について説明する。スマートメータの場合には電圧、および電流を測定する必要があるが、電圧においては従来の半導体素子において電圧モニタをすることが可能であるため、本発明の電流センサを付加することで、電流センサとしてだけでなく、スマートメータとして機能する。以下においては、第5の実施の形態に係る電流センサ600をスマートメータに適用した例について説明するが、他の実施の形態に係る電流センサを適用することも可能である。
図34は、本実施の形態に係るスマートメータ700の外観を示す模式図である。図34に示す通り、スマートメータ700は、センサ部を収めるための筐体710、並びに、筐体710に設けられた第1の端子部720、第2の端子部730及び電力量を外部に表示する表示部740を備える。筐体710は、本実施の形態に係るスマートメータ700の各構成を格納する。第1の端子部720及び第2の端子部730は、図示しないプローブを介してスマートメータ700の各構成と、被測定対象とを電気的に接続する。表示部740は、スマートメータ700による測定の結果等を表示する。一般的には50〜60Hz程度の交流電流を想定するが、用途によっては直流電流であってもかまわない。図において電流の方向性を図示しているが、これは電流磁界の方向を説明するために直流電流のような電流の一意の方向を示しているものであり、交流電流の場合には電流方向は時間に応じて逆極性に変化する。また、この図では100~200V程度の単相交流の電流の場合を示しているが、三相交流の場合であっても本質的には変わらない。外部から接続される電流線が図のような一対の状態から三対の状態になるだけである。尚、筐体710に収容されるスマートメータの各構成を電流測定モジュールと呼ぶ。
図35は、スマートメータ700の概略構成を示す機能ブロック図である。図35に示す通り、スマートメータ700は、上記構成に加え、配線500、電流センサ600、電圧計750、A/D変換回路760、演算部770及び通信回路780を、更に備える。
電流センサ600は、第5の実施の形態に係る電流センサ600である。しかし、メモリ680や通信回路690を省略することも可能である。電流センサ600は、配線500の近傍に配置され、配線500に流れる電流を測定する。配線500は、第1の端子部720及び第2の端子部730に接続されており、図示しないプローブを介して被測定対象に接続される。
電圧計750としては、種々の電圧計を適用することが可能である。電圧計750は、第1の端子部720及び第2の端子部730の間の電圧を測定する。A/D変換回路760は、電圧計750によって測定された電圧値をデジタル信号に変換する。
演算部770は、電流センサ600から電流値を、A/D変換回路760から電圧値を取得し、電力の算出等を行う。表示部740は、演算部から電流値、電圧値及び電力の大きさ等を取得し、表示する。通信回路780は、同じく演算部から電流値、電圧値及び電力の大きさ等を取得し、スマートメータ700の外部に出力する。
以下、スマートメータ700の筐体710内部における電流センサ600の配置例を示す。
[7−1.平置きの場合1]
図36及び図37は、スマートメータ700の筐体710内部における電流センサ600の配置例を示す模式図である。図37(a)に示すように、本実施の形態においては、電流が筺体710の上下(z方向)に流れるように配置されている。筺体710内部の配線500は位置が変化しないように絶縁性の電流線固定指示部510を介して筺体710に固定されている。また、この固定された配線500からの誘導磁界を検知する電流センサ600においても配線500との距離が継時変化で変わらないようにするために、筺体710に固定されている。電流センサ600と配線500の距離が変化しないようにセンサ基板モジュール712として固定されていることが、電流値を精度よく検知するためには重要である。
電流センサ600を筺体710に固定するために、電子基板モジュール711が筺体710に固定されており、その電子基板モジュール711にセンサ基板モジュール712を固定する構成となっている。こうすることで、電流センサ600が筺体710に位置固定されていることとなり、同様に固定された配線500との距離が変わらないようになっている。
この実施例においては、筺体710内部に固定された配線500の電流が流れる方向(z方向)に対し、その断面を略垂直に切り取った平面上にセンサ基板モジュール711が設置されている。また、センサ基板モジュール712を固定している電子基板モジュール711も同一平面内に設定されている。
図37(a)に示すように、センサ基板モジュール712近傍における誘導磁界の方向は紙面奥から手前に平行な方向(x方向)である。
図37(b)に示すように、前記誘導磁界を検知するために、電流センサ600が形成された基板713はセンサ基板モジュール712の平面に対して平行な平面(xy平面)となっている。その上に形成された電流センサ600の第1磁性層101の初期磁化方向(電流がゼロのときの磁化方向)は、上記平面内に磁化方向があり、かつ配線500に対して垂直な方向にある。こうすることで、交流電流のいずれの極性の電流も線形性よく検知することが可能となる。
図37に示す構造においては、好適に磁化アライメントが行われ、外部ノイズの影響を好適に低減する事が可能である。即ち、外部磁場ノイズが最も印可されやすい電流センサ601の表面から外部磁界が印可された場合、その面(xy平面)に直行する方向(z方向)に磁界が印可される。しかしながら電流センサ601の磁化方向(第1磁性層101の磁化方向)はその面(xy平面)と平行であるため、その面と直行する方向(z方向)の磁界を印加されても、ほぼノイズを生じない。この磁化アライメントによれば、外部磁場の影響をよけいな構造を付加することなく少なくする事が可能である。尚、電流センサ601の断面方向においては、磁気シールドを設けても良い。この磁気シールドは、電流測定モジュールの中では最も断面積が小さい。従って、磁気シールドを追加することに伴うコストの増大も最小限に抑えることが可能になる。また電流センサ601の基板をそのまま電子基板モジュール711に貼り付けることが可能なので、配置の誤差による影響などが少なくなり、配置の精度を高く保つために必要な製造コストを最小限に抑えることが可能となる。よって、図36、図37に示したような構成においては、配線500による誘導磁界と電流センサ601の磁化アライメントを好適に行う事が可能である。
さらに、図36のような配置することにより、同一基板上に複数の電流センサを配置することが可能である。そのため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
図36に示すように、本実施の形態に係るスマートメータ700では、複数の測定用磁気抵抗素子610が配線500から距離がほぼ一定のところに配置されている。また、複数の測定用磁気抵抗素子610は、それぞれオフセット磁界が異なる。従って、本実施の形態に係るスマートメータ700においては、広い電流範囲を測定することが可能となる。また、図37(b)に示すように、図25、図27にて説明したリファレンス磁気抵抗素子620をもうけてもよい。また、交流電流を測定するためには、図19に示したオフセット磁界の向きを逆向きとした磁気抵抗素子群を用いることが好ましい。
[7−2.平置きの場合2]
図38及び図39は、スマートメータ700の筐体710内部における電流センサ600の他の配置例を示す模式図である。図38及び図39には、配線500から異なる距離の位置に、複数の測定用磁気抵抗素子610を配置した構成を示している。即ち、広ダイナミックレンジの電流範囲を検知できるようにするために、配線500からの距離に差を設け、ある大きさの電流を流したときの誘導磁界の大きさを、測定用磁気抵抗素子610によって異ならせている。また、例えば配線500からの距離が異なる2つの測定用磁気抵抗素子610に着目すると、これら測定用磁気抵抗素子610の測定範囲が同様であったとしても、配線500から遠く離れたところに配置された測定用磁気抵抗素子610は大きな電流が流れている状態の誘導磁界を検知でき、配線500から近くに配置された測定用磁気抵抗素子610は微弱な電流が流れている状態の誘導磁界を検知できることになる。従って、測定用磁気抵抗素子610をこのように配置することで、オフセット磁界を変えることによる測定範囲の増大にくわえて、さらに広い測定範囲が検知可能となる。筺体710と磁化方向の関係は、図38及び図39に示したように、図36及び図37を用いて説明した場合と同様である。
[7−3.縦置きの場合1]
図40及び図41は、スマートメータ700の筐体710内部における電流センサ600の他の配置例を示す模式図である。本実施の形態では、スマートメータ700の筺体710に対し、第1の端子部720及び第2の端子部730が横方向(y方向)に配置されており、筺体710内の配線500が筺体710の表示面と平行に流れるように配置されている。
図40及び図41に示す配置例は、図36及び図37に示した配置例とほぼ同様であるが、図40及び図41に示すように、本配置例においては、センサ基板モジュール612に対して、電流センサ600の取り付けが縦置きになっている点において、図36及び図37に示した配置例と異なっている。即ち、電流センサ600を形成した基板713が配線500の長軸方向(y方向)と平行な平面(xy平面)内に配置されており、電子基板モジュール711に対して測定用磁気抵抗素子600が垂直に立つように配置されている。図41(b)に示す通り、第1磁性層101の初期磁化方向は配線500の長軸方向(y方向)に対し、平行方向に向いている。このような配置にすることで、交流電流による交流磁界をいずれの極性であっても検知可能となる。
[7−4.縦置きの場合2]
図42及び図43は、スマートメータ700の筐体710内部における電流センサ600の他の配置例を示す模式図である。本配置例は、図42及び図43を用いて説明した配置例とほぼ同様であるが、図43においては、配線500から異なる距離の位置に、複数の測定用磁気抵抗素子600を配置した構成となっている。即ち、広ダイナミックレンジの電流範囲を検知できるようにするために、配線500からの距離に差を設け、ある大きさの電流を流したときの誘導磁界の大きさを、測定用磁気抵抗素子610によって異ならせている。また、例えば配線500からの距離が異なる2つの測定用磁気抵抗素子610に着目すると、これら測定用磁気抵抗素子610の測定範囲が同様であったとしても、配線500から遠く離れたところに配置された測定用磁気抵抗素子610は大きな電流が流れている状態の誘導磁界を検知でき、配線500から近くに配置された測定用磁気抵抗素子610は微弱な電流が流れている状態の誘導磁界を検知できることになる。従って、測定用磁気抵抗素子610をこのように配置することで、オフセット磁界を変えることによる測定範囲の増大にくわえて、さらに広い測定範囲が検知可能となる。また、交流電流を測定するためには、図19に示したオフセット磁界の向きを逆向きとした磁気抵抗素子群を用いることが好ましい。筺体710と磁化方向の関係は、図43に示したように、図42及び図43を用いて説明した場合と同様である。
[8.家庭用電化製品内部への電流センサの搭載]
上記各実施の形態に係る電流センサは、スマートメータのような高精度、広ダイナミックレンジの用途だけでなく、家庭用電化製品の電力測定を行う用途にも適用可能である。これはHEMS(Home Energy Management System)の目的として活用することが可能である。図44に家庭用電化製品800、およびHEMS用途に電流センサ600を適用した場合の実施例を示す。家庭用電化製品800においても、計測対象とする配線500と電流センサ600は固定配置されたモジュール構成となっていることが好ましい。そのモジュール構成は、図36〜図43に示したものと同様とすることができる。
[9.その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、下記の様な態様によっても実施することが可能である。
[態様1]
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する複数の磁気抵抗素子を備え、
前記磁気抵抗素子が感応する前記誘導磁界の範囲の中間値は、前記磁気抵抗素子によって異なる
ことを特徴とする電流センサ。
[態様2]
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する複数の磁気抵抗素子を備え、
前記磁気抵抗素子の抵抗値が中間値となる前期誘導磁界は、前記磁気抵抗素子によって異なる
ことを特徴とする電流センサ。
[態様3]
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する複数の磁気抵抗素子と、
前記複数の磁気抵抗素子のうちの第1の磁気抵抗素子に加わる前記誘導磁界に対して略平行に第1のオフセット磁界を印加する第1の磁性体と
を備えたことを特徴とする電流センサ。
[態様4]
前記複数の磁気抵抗素子のうち、前記第1の磁気抵抗素子と異なる第2の磁気抵抗素子に加わる前記誘導磁界に対して略平行に第2のオフセット磁界を印加する第2の磁性体を更に備え、
前記第1のオフセット磁界と前記第2のオフセット磁界が異なる
ことを特徴とする態様3の電流センサ。
[態様5]
前記第1の磁気抵抗素子と前記第1の磁性体の距離は、前記第2の磁気抵抗素子と前記第2の磁性体の距離と異なる
ことを特徴とする態様4の電流センサ。
[態様6]
前記第1の磁性体の磁気体積が前記第2の磁性体の磁気体積と異なる
ことを特徴とする態様4の電流センサ。
[態様7]
前記第1の磁性体の面積が、前記第2の磁性体の面積と異なる
ことを特徴とする態様4の電流センサ。
[態様8]
前記第1の磁性体は、前記複数の磁気抵抗素子のうち、前記第1の磁気抵抗素子と異なる第2の磁気抵抗素子に加わる前記誘導磁界に対して略平行に第2のオフセット磁界を印加し、
前記第1のオフセット磁界と前記第2のオフセット磁界が異なる
ことを特徴とする態様3の電流センサ。
[態様9]
前記第1の磁気抵抗素子と前記第1の磁性体の距離は、第2の磁気抵抗素子と前記第1の磁性体の距離と異なる
ことを特徴とする態様8の電流センサ。
[態様10]
前記第1の磁気抵抗素子に加わる前記誘導磁界の方向において前記第1の磁気抵抗素子と隣接する前記第1の磁性体の寸法が、前記第2の磁気抵抗素子に加わる前記誘導磁界の方向において前記第2の磁気抵抗素子と隣接する前記第1の磁性体の寸法と異なる
ことを特徴とする態様8の電流センサ。
[態様11]
前記第1の磁性体は、前記第1の磁気抵抗素子と隣接して配置される
ことを特徴とする態様3又は8〜10の電流センサ。
[態様12]
前記第1の磁性体は、前記第1の磁気抵抗素子に積層されて配置される
ことを特徴とする態様3又は8〜10の電流センサ。
[態様13]
前記第1の磁性体及び前記第2の磁性体は、それぞれ前記第1の磁気抵抗素子及び前記第2の磁気抵抗素子と隣接して配置される
ことを特徴とする態様4〜7の電流センサ。
[態様14]
前記第1の磁性体及び前記第2の磁性体は、それぞれ前記第1の磁気抵抗素子及び前記第2の磁気抵抗素子に積層されて配置される
ことを特徴とする態様4〜7の電流センサ。
[態様15]
前記複数の磁気抵抗素子は、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、一対の電極層を有する
ことを特徴とする態様1〜15の電流センサ。
[態様16]
前記複数の磁気抵抗素子は、複数の磁性粒子が含まれた非磁性体マトリックスと、一対の電極層を有する
ことを特徴とする態様1〜15の電流センサ。
[態様17]
前記複数の磁気抵抗素子は、前記誘導磁界に対して磁化方向が変化する第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた第1の中間層と、一対の電極層とを有し、
前記第1の磁性体は、前記第1の磁気抵抗素子中の一方の前記電極層と前記第1の磁性体との間に設けられ、
前記第1のオフセット磁界は、交換結合によるオフセットである
ことを特徴とする態様3の電流センサ。
[態様18]
前記複数の磁気抵抗素子のうち、前記第1の磁気抵抗素子と異なる第2の磁気抵抗素子に加わる前記誘導磁界に対して略平行に第2のオフセット磁界を印加する第2の磁性体を更に備え、
前記第1のオフセット磁界と前記第2のオフセット磁界は異なり、
前記第2の磁性体は、前記第2の磁気抵抗素子中の一方の前記電極層と前記中間層との間に設けられる
ことを特徴とする態様17の電流センサ。
[態様19]
前記第1の磁気抵抗素子は、前記第1の磁性層と前記第1の磁性体との間に設けられた第1の分離層を更に有し、
前記第2の磁気抵抗素子は、前記第1の磁性層と前記第2の磁性体との間に設けられた第2の分離層を更に有し、
前記第1の分離層と前記第2の分離層の膜厚は異なる
ことを特徴とする態様18の電流センサ。
[態様20]
前記誘導磁界に対して、前記複数の磁気抵抗素子から得られる複数の異なる出力信号のうち、適切な出力信号を示すものを選択出力する
ことを特徴とする態様1〜19の電流センサ。
[態様21]
前記複数の出力信号をマルチプレクサに入力し、前記マルチプレクサの制御信号に応じて一の出力信号を選択して出力する
ことを特徴とする態様20の電流センサ。
[態様22]
態様1〜21の電流センサを搭載したスマートメータ。
[その他]
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。