以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
[第一実施形態]
<成形用加飾シート>
図1の成形用加飾シート1は、表面側樹脂層2と、裏面側樹脂層3とを有している。成形用加飾シート1は、成形型内に配設されたうえでこの成形型内に注入される樹脂と一体化されるインモールド成形用シート又はインサート成形用シートとして用いられる。
(表面側樹脂層)
表面側樹脂層2は、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート系樹脂から形成されている。表面側樹脂層2は、下記式(1)で示される植物由来のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート系樹脂を含んでいる。
上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物としては、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。なかでも、資源として豊富に存在し、種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが好ましい。表面側樹脂層2を形成するポリカーボネート系樹脂は、上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルから溶融重合法によって製造することができる。
表面側樹脂層2は、ポリカーボネート系樹脂の構成単位として、上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物に加えて、上記(1)で示されるジヒドロキシ化合物以外の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むとよい。この脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。当該成形用加飾シート1は、上記脂肪族ジヒドロキシ化合物を含むことによって、柔軟性、耐熱性、成形性、紫外線に対する耐黄変性、難燃性等を向上することができる。
上記直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール等のプロパンジオール類、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のブタンジオール類、1,5−ヘプタンジオール等のヘプタンジオール類、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のヘキサンジオール類、1,7−ヘプタンジオール等のヘプタンジオール類、1,8−オクタンジオール等のオクタンジオール類、1,10−デカンジオール等のデカンジオール類、1,12−ドデカンジオール等のドデカンジオール類等が挙げられる。なかでも、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール又は1,10−デカンジオールが好ましい。
上記脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、5員環構造又は6員環構造を含むものが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物として、5員環構造又は6員環構造を含むものを用いることで、耐熱性を向上することができる。また、6員環構造は、共有結合によって椅子型又は舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数としては70以下が好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数の上限は、50がより好ましく、30がさらに好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数が上記上限を超える場合、耐熱性は高くなる反面、合成、精製等が困難になるおそれがある。一方、脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数の下限は、例えば5とすることができる。
上記芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」とも呼ばれる)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「テトラブロモビスフェノールA」とも呼ばれる)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。なかでも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、耐衝撃性の点から特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」)が好ましい。
表面側樹脂層2を構成するポリカーボネート系樹脂を形成する全ジヒドロキシ化合物に対する上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物の含有量の下限としては、特に限定されないが、10モル%が好ましい。全ジヒドロキシ化合物に対する上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物の含有量の下限は、30モル%がより好ましく、50モル%がさらに好ましい。一方、全ジヒドロキシ化合物に対する上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物の含有量の上限は、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましい。上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物の含有量が上記範囲であることによって、耐擦傷性、透明性、柔軟性、耐熱性、成形性、紫外線に対する耐黄変性、難燃性等を好適に向上することができる。
また、表面側樹脂層2が、ポリカーボネート系樹脂の構成単位として、上記式(1)で示されるジヒドロキシ化合物及び上記脂環式ジヒドロキシ化合物を含む場合、全ジヒドロキシ化合物に対する上記(1)で示されるジヒドロキシ化合物及び上記脂環式ジヒドロキシ化合物の合計の含有量としては、特に限定されないが、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。
反応温度は、ジヒドロキシ化合物の分解を抑えるとともに、透明性が高く高粘度の樹脂を得る点から、比較的低温であることが好ましい。重合反応を好適に進めるための重合温度の下限としては、180℃が好ましい。一方、上記重合温度の上限としては、280℃が好ましく、260℃がより好ましい。
また、反応初期ではジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させ、徐々に減圧にして反応後期では反応系を1.3×10−3〜1.3×10−5MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は、0.5以上4時間以下が好ましい。
上記炭酸ジエステルとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。なかでも、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特に反応性がよくコストがかからない点からジフェニルカーボネートが好ましい。
上記炭酸ジエステルはジヒドロキシ化合物に対して、0.98以上1.02以下のモル比となるように混合して用いることが好ましい。また、このモル比の上限は、1.01がより好ましい。一方、このモル比の下限は、0.99がより好ましい。上記炭酸ジエステルのジヒドロキシ化合物に対するモル比が上記上限を超える場合、炭酸エステル残基が末端封止として働き十分な重合度が得られないおそれがある。逆に、上記炭酸ジエステルのジヒドロキシ化合物に対するモル比が上記下限未満の場合も十分な重合度が得られないおそれがある。
重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物等が挙げられる。また、重合触媒としては、上記アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とともに、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物が併用されるのが好ましい。
これらの重合触媒の使用量の下限としては、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対して1×10−9当量が好ましく、1×10−8当量がより好ましい。一方、上記重合触媒の使用量の上限としては、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対して1×10−3当量が好ましく、5×10−4当量がより好ましい。また反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。
表面側樹脂層2には、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。かかる添加剤としては、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、防カビ剤、可塑剤、粘着性付与剤、補強剤、滑剤等が挙げられる。
上記酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成形時の熱や酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止することができる。上記酸化防止剤の配合量の下限としては、表面側樹脂層2の形成材料100質量部に対し、0.001質量部が好ましく、0.005質量部がより好ましい。一方、上記酸化防止剤の配合量の上限としては、5質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。
上記帯電防止剤としては、例えばアルキル硫酸塩、アルキルリン酸塩等のアニオン系帯電防止剤、第四アンモニウム塩、イミダゾリン化合物等のカチオン系帯電防止剤、ポリエチレングリコール系、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル、エタノールアミド類等のノニオン系帯電防止剤、ポリアクリル酸等の高分子系帯電防止剤などが挙げられる。なかでも、帯電防止効果が比較的大きいカチオン系帯電防止剤が好ましく、少量の添加で帯電防止効果が奏される。
表面側樹脂層2は、着色剤を分散含有するとよい。表面側樹脂層2が含有する着色剤としては、顔料又は染料が挙げられる。当該成形用加飾シート1は、表面側樹脂層2が着色剤を分散含有することによって、意匠性を向上することができる。また、当該成形用加飾シート1は、このような構成によれば、別途印刷等によって加飾層を設けることなく成形品の色調、光沢等を向上することができるため、生産性を向上するとともに、コストの削減を促進することができる。さらに、当該成形用加飾シート1は、上記着色剤として顔料を含むことによって、耐熱性、熱的寸法安定性、耐候性、強度、経年劣化防止性等を向上することができる。
表面側樹脂層2に含有される顔料又は染料としては、特に限定されるものではない。表面側樹脂層2に顔料が含有される場合、この顔料としては、例えば黒色顔料、白色顔料、赤色顔料、青色顔料、黄色顔料、緑色顔料、橙色顔料、紫色顔料等が挙げられる。
上記黒色顔料としては、無機系黒色顔料及び有機系黒色顔料が挙げられ、具体的には、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等)、グラファイト(黒鉛)、酸化銅、二酸化マンガン、アゾ系顔料(アゾメチンアゾブラック等)、アニリンブラック、ペリレンブラック、シアニンブラック、複合酸化物系黒色色素、チタンブラック、活性炭、フェライト(非磁性フェライト、磁性フェライト等)、マグネタイト、酸化クロム、酸化鉄、二硫化モリブデン、クロム錯体等が挙げられる。
上記白色顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸鉛、硫酸バリウム等の無機顔料が挙げられる。上記赤色顔料としては、鉛丹、酸化鉄赤等の赤色系無機顔料や、アントラキノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール等の赤色系有機顔料が挙げられる。上記青色顔料としては、ウルトラマリン青、プロシア青等の青色系無機顔料や、フタロシアニン、アントラキノン、インジゴイド等の青色系無機顔料が挙げられる。上記黄色顔料としては、黄鉛、亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)、イソインドリノン、キノフタロン、イソインドリン、アントラキノン、アントロン、キサンテン等の黄色系有機顔料が挙げられる。上記緑色顔料としては、フタロシアニン、アゾメチン等が挙げられる。上記橙色顔料としては、ジケトピロロピロール、ペリレン、イントラキノン(アントロン)、ペリノン、キナクリドン、インジゴイド等が挙げられる。上記紫色顔料としては、ジオキサジン、キナクリドン、ペリレン、インジゴイド、アントラキノン(アントロン)、キサンテン等が挙げられる。
上記顔料の平均粒子径の下限としては、100nmが好ましく、300nmがより好ましい。一方、上記顔料の平均粒子径の上限としては、30μmが好ましく、3μmがより好ましい。顔料の平均粒子径が上記下限より小さいと、凝集等により表面側樹脂層2中への均一な分散が困難になるおそれがある。一方、顔料の平均粒子径が上記上限を超えると、耐熱性等の諸特性向上効果が低下するおそれがある。
上記顔料の含有量としては、8質量%以上30質量%以下が好ましい。顔料の含有量が上記下限より小さいと、表面側樹脂層2の耐久性、耐熱性、強度等の向上効果が小さくなる。一方、顔料の含有量が上記上限を超えると、表面側樹脂層2中での顔料の分散性が低下し、表面側樹脂層2の強度の低下を招来するおそれがある。
表面側樹脂層2のガラス転移温度(Tg)としては、特に限定されないが80℃以上170℃以下が好ましい。表面側樹脂層2のガラス転移温度(Tg)の上限は、160℃がより好ましい。一方、表面側樹脂層2のガラス転移温度(Tg)の下限は、90℃がより好ましい。表面側樹脂層2のガラス転移温度が上記上限を超える場合、成形時の溶融流動性が低下するおそれがある。逆に、表面側樹脂層2のガラス転移温度が上記下限未満の場合、耐熱性が不十分となるおそれがある。
表面側樹脂層2を形成するポリカーボネート系樹脂の5%熱減量温度としては、特に限定されないが、340℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましい。表面側樹脂層2を形成するポリカーボネート系樹脂の5%熱減量温度が上記下限未満の場合、熱安定性が劣り高温での使用性が低下するおそれがある。なお、上記5%熱減量温度を高くする方法としては、例えば上記重合触媒として、アルカリ金属化合物と含窒素塩基性化合物とを併用することが挙げられる。
表面側樹脂層2の平均厚みとしては、特に限定されないが、50μm以上700μm以下が好ましい。表面側樹脂層2の平均厚みの上限は600μmがより好ましく、500μmがさらに好ましい。一方、表面側樹脂層2の平均厚みの下限は、100μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。表面側樹脂層2の平均厚みが上記範囲内であることによって、柔軟性及び高度を好適に保ちつつ、一定の薄さに形成して曲げ性を向上することができる。
表面側樹脂層2の表面には、波状の微細変調構造が形成されている。当該成形用加飾シート1は、表面側樹脂層2の表面に波状の微細変調構造を有することによって、表面側樹脂層2が金型の内面と対向するように当該成形用加飾シート1を金型内に配設して真空引きをした際に、当該成形用加飾シート1と金型との間に存在する空気を的確に取り除くことができる。それゆえ、当該成形用加飾シート1は、成形品を製造するうえでの作業性を向上するとともに、成形品の成形性を向上することができる。
上記微細変調構造における稜線間隔pとしては、特に限定されないが、1mm以上500mm以下が好ましい。稜線間隔pの上限は、100mmがより好ましく、60mmがさらに好ましい。一方、稜線間隔pの下限は、10mmがより好ましく、20mmがさらに好ましい。稜線間隔pが上記上限を超える場合、表面側樹脂層2が金型の内面と対向するように当該成形用加飾シート1を金型内に配設した際に、微細変調構造の谷部側が金型内面側に撓曲され、空気の排出効率が低下するおそれがある。逆に、稜線間隔pが上記下限未満の場合、空気の排出経路が的確に形成されにくくなるおそれがある。なお、微細変調構造における全ての稜線間隔pが上記範囲内にあることが好ましいが、微細変調構造における複数の稜線間隔pのうち一部が上記範囲外であってもよく、この場合には、複数の稜線間隔のうち50%以上、好ましくは70%の稜線間隔が上記範囲内にあるとよい。
また、上記微細変調構造における複数の谷線を通る近似仮想面を基準とする稜線の平均高さhとしては、特に限定されないが、5μm以上40μm以下が好ましい。上記平均高さhの上限は、20μmがより好ましく、15μmがさらに好ましい。一方、上記平均高さhの下限は、7μmがより好ましく、9μmがさらに好ましい。上記平均高さhが上記上限を超える場合、上記微細変調構造の凹凸が大きくなり、所望の成形品の表面形状が得られないおそれがある。逆に、上記平均高さhが上記下限未満の場合、上記微細変調構造の稜線と谷線との間から的確に空気を排出することができないおそれがある。
(裏面側樹脂層)
裏面側樹脂層3は、表面側樹脂層2の裏面側に積層される。裏面側樹脂層3を形成する主成分としては、樹脂成形体の素材に適した感熱性、感圧性又は接着性の樹脂を適宜選択して用いることができる。
裏面側樹脂層3の主成分としては、例えばアクリル樹脂;ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体);AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体);塩化ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその鹸化物、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系共重合体;6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン−テトラフロロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂等が挙げられる。また、裏面側樹脂層3の主成分としては、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)又はAS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)とポリカーボネート系樹脂とのポリマーアロイも好適に用いられる。
なお、裏面側樹脂層3には、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。かかる添加剤としては、例えば難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防カビ剤、可塑剤、粘着性付与剤、補強剤、滑剤等が挙げられる。
<成形用加飾シートの製造方法>
次に、成形用加飾シート1の製造方法について説明する。
成形用加飾シート1の製造方法としては、表面側樹脂層2及び裏面側樹脂層3からなるシート状の積層体を生成する工程(STEP1)と、表面側樹脂層2の表面に微細変調構造を形成する工程(STEP2)とを有している。成形用加飾シート1は、図2の共押出機11を用いた共押出成形法により成形される。本実施形態における成形用加飾シート1の製造方法では、共押出機11を用いて、STEP1とSTEP2とが同時に行われる。
共押出機11は、押出機12、13と、ダイ14と、第一押圧ロール15と、第二押圧ロール16とを有している。第一押圧ロール15及び第二押圧ロール16は、隣接して平行に配設されている。また、ダイ14は、断面形状として微細変調構造の反転形状を有している。
STEP1では、まず、表面側樹脂層2の形成材料が押出機12に投入され、裏面側樹脂層3の形成材料が押出機13に投入される。次に、表面側樹脂層2の形成材料及び裏面側樹脂層3の形成材料は、ダイ14に供給され所望の厚みになるように積層された後、ダイ14の先端からフィルム状に押出しされる。なお、押出機12、13及びダイ14の温度設定は、使用される樹脂の融点等を考慮して適宜選択される。
STEP2では、ダイ14に形成された微細変調構造の反転形状の断面により、表面側樹脂層2の表面に波状の微細変調構造が形成される。
<利点>
当該成形用加飾シート1は、表面側樹脂層2が植物由来のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート系樹脂を含んでいるので、金型への追従性を向上するとともに、耐溶剤性及び耐白化性を向上することができる。また、当該成形用加飾シート1は、表面側樹脂層2が植物由来のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート系樹脂を含んでいるので、耐擦傷性、耐サンスクリーン性、紫外線に対する耐黄変性、難燃性等を好適に高めることができる。さらに、当該成形用加飾シート1は、上記ジヒドロキシ化合物が石油資源から誘導される原料を用いていないため、廃棄処分した場合でも二酸化炭素の増加を防止することができる。
当該成形用加飾シート1は、表面側樹脂層2及び裏面側樹脂層3が共押出成形法によって形成されるので、表面側樹脂層2と裏面側樹脂層3とを接着剤等を用いることなく確実に積層することができ、作業性が向上されるとともにコストの削減を促進することができる。また、かかる共押出成形法によれば、押出ダイに上記微細変調構造の稜線と垂直断面形状の反転形状をつけることで、上記表面側樹脂層の表面に波状の微細変調構造を容易かつ的確に形成することができる。
<成形品>
図3の成形品21は、金型内に注入された溶融樹脂を硬化してなる樹脂成形体22と、樹脂成形体22の表面に配設される当該成形用加飾シート1とを有している。成形品21は、裏面側樹脂層3と金型内に注入された溶融樹脂とが一体化されて形成されている。
<利点>
当該成形品21は、当該成形用加飾シート1が金型への追従性及び耐溶剤性に優れているので成形性が高められ、所望の形状に好適に形成される。また、当該成形品21は、当該成形用加飾シート1の表面側樹脂層2が植物由来のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート系樹脂を含んでいるので、耐擦傷性、耐白化性、耐サンスクリーン性、紫外線に対する耐黄変性、難燃性等が好適に高められる。さらに、当該成形品21は、上記ジヒドロキシ化合物が石油資源から誘導される原料を用いていないため、廃棄処分された場合でも二酸化炭素の増加を抑制することができる。
<成形品の製造方法>
成形用加飾シート1を用いて成形品21を製造する方法としては、例えば成形用加飾シート1を金型内に配設する工程(STEP11)と、成形用加飾シート1を配設した金型内に溶融した樹脂を注入する工程(STEP12)とを有している。
STEP11では、可動型と固定型とからなる金型内に、成形用加飾シート1を表面側樹脂層2が金型内面と対面するように配設する。成形用加飾シート1は、枚葉のものを1枚ずつ送り込んでもよく、長尺状のものの必要部分を間欠的に送り込んでもよい。
STEP12では、成形用金型を閉じた後、溶融した樹脂をゲートから裏面側樹脂層3側に注入する。
STEP12で注入される樹脂としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂(2液硬化性樹脂を含む)が挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。また、上記熱硬化性樹脂としては、例えば2液硬化性ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。なお、これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
その後、成形用加飾シート1とSTEP12で注入された樹脂とを冷却固定後、金型を開いて成形品を取り出す。
<利点>
当該成形品の製造方法は、当該成形用加飾シート1を用いるので、金型への追従性及び耐溶剤性が向上され、成形品21を容易かつ確実に製造することができる。また、当該成形品の製造方法で得られる成形品21は、当該成形用加飾シート1の表面側樹脂層2が植物由来のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート系樹脂を含んでいるので、耐擦傷性、耐白化性、耐サンスクリーン性、紫外線に対する耐黄変性、難燃性等が好適に高められる。さらに、当該成形品の製造方法は、上記ジヒドロキシ化合物が石油資源から誘導される原料を用いていないため、得られる成形品21が廃棄処分された場合でも二酸化炭素の増加を抑制することができる。
また、当該成形品の製造方法は、当該成形用加飾シート1が表面側樹脂層2の表面に波状の微細変調構造を有しているので、当該成形用加飾シート1を表面側樹脂層2が金型の内面と対向するように金型内に配設して真空引きをした際に、当該成形用加飾シート1と金型との間に存在する空気を的確に取り除くことができる。それゆえ、当該成形品の製造方法は、成形品21を製造するうえでの作業性を向上するとともに、成形品21の成形性を向上することができる。
[第二実施形態]
<成形用加飾シート>
図4の成形用加飾シート31は、表面側樹脂層2と、裏面側樹脂層32と、ハードコート層33とを有している。成形用加飾シート31は、図1の成形用加飾シート1に換えて成形型内に配設された上でこの成形型内に注入される樹脂と一体化されるインモールド成形用シート又はインサート成形用シートとして用いられる。成形用加飾シート31の表面側樹脂層2は、図1の表面側樹脂層2と同様のため、同一符号を付して説明を省略する。
(裏面側樹脂層)
裏面側樹脂層32は、表面側樹脂層2の裏面側に積層される。裏面側樹脂層32は、表面側樹脂層2の裏面側に積層される第一樹脂層34と、第一樹脂層34の裏面に配設される第二樹脂層35とを有している。
(第一樹脂層)
第一樹脂層34の主成分としては、例えば例えばアクリル樹脂;ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体);AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体);塩化ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその鹸化物、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系共重合体;6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン−テトラフロロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂等が挙げられる。また、第一樹脂層34の主成分としては、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)又はAS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)とポリカーボネート系樹脂とのポリマーアロイも好適に用いられる。なかでも、第一樹脂層34の主成分としては、表面側樹脂層2と同様のポリカーボネート系樹脂が好ましい。
なお、第一樹脂層34には、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。かかる添加剤としては、例えば難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防カビ剤、可塑剤、粘着性付与剤、補強剤等が挙げられる。
(第二樹脂層)
第二樹脂層35を形成する主成分としては、樹脂成形体の素材に適した感熱性、感圧性又は接着性の樹脂を適宜選択して用いることができる。第二樹脂層35の主成分としては、例えば図1の裏面側樹脂層3と同様のものが挙げられる。なお、第二樹脂層35には、裏面側樹脂層3と同様の添加剤が添加されてもよい。また、裏面側樹脂層32としては、第一樹脂層34の主成分としてポリカーボネート系樹脂を用い、第二樹脂層35の主成分としてABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)を用いるのが好ましい。裏面側樹脂層32をかかる構成とすることで、表面側樹脂層2、裏面側樹脂層32及び裏面側樹脂層32の裏面側に積層される樹脂成形体を強固に接着するとともに、透明性、金型への追従性、耐溶剤性及び耐白化性等を好適に向上することができる。
(ハードコート層)
ハードコート層33は、表面側樹脂層2の表面側に形成されている。
ハードコート層33の形成材料としては、特に限定されるものではないが、トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと有機微粒子とを含む組成物が好適に用いられる。このトリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーとしては、アミノトリアジン化合物、パラホルムアルデヒド及び水酸基含有(メタ)アクリレートから1工程で合成されるものが挙げられる。また、上記有機微粒子としては、乳化重合法によって合成される微粒子が挙げられる。上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーの平均分子量としては、特に限定されないが、200以上20000以下が好ましい。上記平均分子量が上記上限を超える場合、粘度が高くなり塗工が困難になるおそれが高くなる。逆に、上記平均分子量が上記下限未満である場合、十分な硬度が得られないおそれが高くなる。当該成形用加飾シート31は、ハードコート層33の形成材料として、かかるトリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと有機微粒子とを含む組成物を用いることで伸縮性を向上することができる。
上記アミノトリアジン化合物は、トリアジン環の3つの炭素原子それぞれにアミノ基が結合した構造を有するもので、アミノトリアジン又はその誘導体を意味する。上記アミノトリアジンとしては、例えばメラミンが挙げられる。上記アミノトリアジン誘導体としては、例えばベンゾグアナミン、アセトグアナミン、シクロヘキサンカルボグアナミン、シクロヘキセンカルボグアナミン、ノルボルナンカルボグアナミン、ノボルネンカルボグアナミン等が挙げられる。
上記水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。また、上記水酸基含有(メタ)アクリレートには、必要に応じて、少なくとも1個のヒドロキシシル基を有するエチレン性不飽和結合を有する化合物、例えば2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アリルアルコール、エチレングリコールアリルエーテル、グリセリン(モノ、ジ)アリルエーテル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等あるいはこれらの混合物を添加することができる。
上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーの合成は、アミノトリアジン化合物へのホルムアルデヒドの付加反応によるメチロール基の生成及びメチロール基とヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートのヒドロキシル基との縮合反応によって進行するか、あるいはヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとホルムアルデヒドとからホルムアルデヒドヘミアセタールが生成し、このホルムアルデヒドヘミアセタールとアミノトリアジン化合物とが縮合して進行する。縮合反応の進行程度はこれら縮合反応により離脱する水分量により判断することができ、この水分量を経時的に把握し、所定の段階において水分留出を止めることによってこれらの縮合反応を制御することができる。
上記有機微粒子としては、例えば乳化重合法により合成されたスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、アクリル系樹脂等の有機微粒子が挙げられる。上記有機微粒子は、乳化重合法によって合成されることで、架橋剤を添加すると共に、一次粒子径のバラツキを抑え、面内での屈曲性の均一化を促進することができる。
上記有機微粒子の平均一次粒子径としては、特に限定されないが、80nm以上500nm以下が好ましい。上記有機微粒子の平均一次粒子径が上記上限を超える場合、ヘイズが上昇してハードコート層33の裏面側に配設される各層の視認性が低下するおそれが高くなる。逆に、上記有機微粒子の平均一次粒子径が上記下限未満である場合、有機微粒子の合成が困難になるおそれが高くなる。なお、平均一次粒子径とは凝集を起こしていない単一の粒子の径のことをいい、球状のものについてはその直径を、球状以外のものについては長軸径と短軸径との算術平均値を示すもので、電子顕微鏡によって測定される値をいう。
上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマー100重量部に対する上記有機微粒子の添加量の下限としては、特に限定されないが、1重量部が好ましく、10重量部がより好ましい。一方、上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマー100重量部に対する上記有機微粒子の添加量の上限としては、特に限定されないが、50重量部が好ましく、30重量部がより好ましい。上記添加量が上記上限を超える場合、十分に硬度を向上できなりおそれが高くなる。逆に、上記添加量が上記下限未満である場合、屈曲性が低下するおそれが高くなる。
また、ハードコート層33の形成材料としては、上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーに残存する未反応の水酸基をイソシアネート化合物と反応させてなるウレタン化トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと有機微粒子とを含む組成物も好適に用いられる。上記有機微粒子としては、乳化重合法によって合成されるスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、アクリル系樹脂等の有機微粒子が挙げられる。また、この有機微粒子の平均一次粒子径及び上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマー100重量部に対する上記有機微粒子の添加量は、上記同様である。上記ウレタン化トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーは、ウレタン化することによって屈曲性を更に向上することができる。
上記イソシアネート化合物としては、脂肪族、脂環式、芳香族、芳香脂肪族イソシアネートおよびこれらの変性物が挙げられる。
上記脂肪族イソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)等が挙げられる。上記脂環式イソシアネートとしては、例えばジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1、4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)等が挙げられる。また、上記芳香族イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、4、4´(または2、4´)−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、p−フェニレンジイソシアネート(PPDI)等が挙げられる。上記芳香脂肪族イソシアネートとしては、例えばα、α、α´、α´−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
上記脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族イソシアネート化合物の変性物としては、上記化合物のイソシアネート基の一部または全部がカーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、ビューレット基、イソシアヌレート基等に変性された化合物が挙げられる。なお、上記イソシアネ−ト化合物は一種のみを用いてもよく、二種以上併用してもよい。
また、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基との反応を促進させるため、有機錫系ウレタン化触媒を用いることができる。かかる有機錫系ウレタン化触媒としては、ウレタン化反応に一般に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアルキルマレート、ステアリン酸錫、オクチル酸錫等が挙げられる。
上記有機錫系ウレタン化触媒の使用量としては、特に限定されないが、0.005質量%以上3質量%以下が好ましい。上記有機錫系ウレタン化触媒の使用量が上記上限を超える場合、ウレタン反応時の発熱によって反応制御が困難になるおそれが高くなる。逆に、上記有機錫系ウレタン化触媒の使用量が上記下限未満である場合、ウレタン反応が十分に進行しないおそれが高くなる。
ハードコート層33は、反応性化合物として多官能重合性モノマーを用い、混合又は重合することを経て形成されるのが好ましい。
上記多官能重合性モノマーは、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基を分子中に少なくとも2個以上有するものである。上記多官能重合性モノマーとしては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。かかる(メタ)アクリロイル基を有する多官能重合性モノマーは、ラジカル反応性が非常に高く、速硬性と高硬度の点から優位性がある。
上記(メタ)アクリロイル基を有する多官能重合性モノマーとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、単独、または混合して使用することができる。
ハードコート層33の平均厚みとしては、特に限定されないが、1μm以上20μm以下が好ましい。ハードコート層33の平均厚みの上限は、15μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。また、ハードコート層33の平均厚みの下限は、3μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。ハードコート層33の平均厚みが上記上限を超える場合、薄型化の要求に反すると共に、柔軟性が低下するおそれが高くなる。逆に、ハードコート層33の平均厚みが上記下限未満である場合、所望の硬度を得られないおそれが高くなる。
成形用加飾シート31の伸び率としては、特に限定されないが、30%以上150%以下が好ましい。成形用加飾シート31の伸び率の上限は、130%がより好ましく、100%がさらに好ましい。また、成形用加飾シート31の伸び率の下限は、40%がより好ましく、50%がさらに好ましい。上記伸び率が上記上限を超える場合、硬度が低下するおそれが高くなる。逆に、上記伸び率が上記下限未満である場合、柔軟性が低下し金型の曲面に好適に追従できなくなるおそれが高くなる。なお、「伸び率」とは、幅15mm、長さ150mmにカットし、チャック間距離100m、引張り速度50mm/minで試験片を引っ張り、クラックが発生したときの試験片の長さをいう。
成形用加飾シート31の表面の鉛筆硬度としては、特に限定されないが、B以上が好ましく、HB以上がより好ましく、H以上がさらに好ましい。上記鉛筆硬度が上記下限未満である場合、耐擦傷性が低下するおそれが高くなる。なお、「鉛筆硬度」とは、JIS K5600−5−4に規定する試験方法に記載の鉛筆引っかき値に基づく値をいう。
<成形用加飾シートの製造方法>
次に、成形用加飾シート31の製造方法について説明する。
成形用加飾シート31の製造方法としては、表面側樹脂層2及び裏面側樹脂層32からなるシート状の積層体を生成する工程(STEP21)と、表面側樹脂層2の表面に微細変調構造を形成する工程(STEP22)と、表面側樹脂層2の表面側にハードコート層33を形成する工程(STEP23)とを有している。本実施形態における成形用加飾シート31の製造方法において、STEP21及びSTEP22は共押出機を用いて行われる。本実施形態で用いられる共押出機は、ダイが断面形状として微細変調構造の反転形状を有している。STEP21及びSTEP22は、かかる共押出機を用いて同時に行われる。
STEP21では、表面側樹脂層2の形成材料、第一樹脂層34の形成材料及び第二樹脂層35の形成材料が、各々別個の押出機に投入されたうえ、ダイに供給される。そして、表面側樹脂層2の形成材料、第一樹脂層34の形成材料及び第二樹脂層35の形成材料は、所望の厚みになるように積層された後、ダイの先端からフィルム状に押出しされる。
STEP22では、ダイに形成された微細変調構造の反転形状の断面により、表面側樹脂層2の表面に波状の微細変調構造が形成される。
STEP23は、ハードコート層33の形成材料を表面側樹脂層2の表面に塗布し、乾燥、硬化させることで行われる。
ハードコート層33の形成材料を表面側樹脂層2の表面に塗布する方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法等の公知の方法が挙げられる。なお、ハードコート層33の形成材料は、硬化後の表面に微細変調構造が形成されるように表面側樹脂層2の表面に一様に塗布されるのが好ましい。
また、表面側樹脂層2の表面に塗布されたハードコート層33の形成材料を硬化させる方法としては、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が挙げられる。紫外線によって硬化する場合、ハードコート層33の形成材料中には、光重合開始剤が含有される。
上記光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)チタニウム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。なお、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀灯やメタルハライドランプ等既知の装置が使用できる。紫外線照射エネルギーとしては、100〜2000mJ/cm2が好ましく、300〜700mJ/cm2がより好ましい。また、紫外線照射は、窒素ガス雰囲気下で行うことで耐擦傷性がより向上させることができる。
また、電子線照射装置としては、従来既知の硬化装置が使用できる。電子線照射線量としては、10kGy〜200kGyが好ましく、30kGy〜100kGyがより好ましい。
<利点>
当該成形用加飾シート31は、表面側樹脂層2の表面側にハードコート層33を有しているので、表面側の硬度を高め耐擦傷性等を向上することができる。また、当該成形用加飾シート31は、ハードコート層33の形成材料として、上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと有機微粒子とを含む組成物を用いる場合、表面側の耐擦傷性が高められるとともに、金型への追従性も良好に保たれ、インモールド成形用シート又はインサート成形用シートとしてさらに好適に用いることができる。
[第三実施形態]
<成形用加飾シート>
図5の成形用加飾シート41は、表面側樹脂層2と、裏面側樹脂層3と、自己修復性コート層42とを有している。成形用加飾シート41は、図1の成形用加飾シート1に換えて成形型内に配設された上でこの成形型内に注入される樹脂と一体化されるインモールド成形用シート又はインサート成形用シートとして用いられる。成形用加飾シート41の表面側樹脂層2及び裏面側樹脂層3は、図1の成形用加飾シート1と同様のため、同一符号を付して説明を省略する。
(自己修復性コート層)
自己修復性コート層42は、表面側樹脂層2の表面側に形成されている。
自己修復性コート層42は、ポリウレタン系樹脂を主成分として形成されている。自己修復性コート層42に用いるポリウレタン系樹脂としては、熱硬化性ポリウレタン樹脂又は熱可塑性ポリウレタン樹脂が挙げられる。自己修復コート層42は、上記熱硬化性ポリウレタン樹脂及び熱可塑性ポリウレタン樹脂を、単独で、又は混合して用いることができる。
上記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、ポリオール類とポリイソシアネートからなる主原料のうち、原料の少なくとも一部に官能基数が3以上である化合物を使用することによって得られるポリウレタン樹脂である。一方、上記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、官能基数が2である化合物のみを用いて得られるポリウレタン樹脂である。なかでも自己修復性コート層42の形成材料としては、耐薬品性、耐汚染性、耐久性の観点から熱硬化性ポリウレタン樹脂が好ましい。
ポリウレタン系樹脂の原料に用いるポリオール類としては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。これらの中でも耐久性、コスト、強度、自己修復性のバランスが優れるポリエステル系のポリオールが好ましく、環状エステル(特にカプロラクトン)を開環して得られるポリエステル系ポリオールが特に好ましい。また、ポリオールの官能基数は、平均として1より大きいことを要するが、強度、伸張性、自己修復性のバランスの観点から、2〜3であることが好ましい。また上記ポリオール類はトリオール単体、2種以上のトリオール混合物、又はトリオールとジオールの混合物が好ましい。また上記ポリオール類は、鎖延長剤を含んでいてもよい。この鎖延長剤としては、短鎖ポリオール、短鎖ポリアミン等を挙げることができる。これらの中でも、透明性、柔軟性、反応性の観点から短鎖ポリオールが好ましく、短鎖ジオールが特に好ましい。上記ポリオール類の水酸基価は特に限定されないが、原料ポリオール中の平均水酸基価としては100〜600が好ましく、200〜500がより好ましい。なお、上記平均水酸基価は鎖延長剤を含めて計算した平均水酸基価である。
ポリウレタン系樹脂の原料に用いるポリイソシアネートとしては、耐黄変性を有する無黄変性ポリイソシアネートが好ましい。無黄変性ポリイソシアネートは、芳香核に直接結合したイソシアネート基を有しないポリイソシアネートであり、具体的には例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
上記ポリウレタン系樹脂の原料は、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。また、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の安定剤、ウレタン化触媒、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤等の添加剤を添加してもよい。
自己修復性コート層42の平均厚みの下限は、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、自己修復性コート層42の平均厚みの上限は、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。自己修復性コート層42の平均厚みが上記下限未満の場合、自己修復性が十分発揮されないおそれがある。逆に、自己修復性コート層42の平均厚みが上記上限を超える場合、自己修復性の効果が余り向上されないおそれがあるとともに、コストが上昇する。
<成形用加飾シートの製造方法>
次に、成形用加飾シート41の製造方法について説明する。
成形用加飾シート41の製造方法としては、表面側樹脂層2及び裏面側樹脂層3からなるシート状の積層体を生成する工程(STEP31)と、表面側樹脂層2の表面に微細変調構造を形成する工程(STEP32)と、表面側樹脂層2の表面側に自己修復性コート層42を形成する工程(STEP33)とを有している。本実施形態における成形用加飾シート41の製造方法において、STEP31及びSTEP32は共押出機を用いて行われる。本実施形態で用いられる共押出機は、ダイが断面形状として微細変調構造の反転形状を有している。STEP31及びSTEP32は、かかる共押出機を用いて同時に行われる。
STEP31では、表面側樹脂層2の形成材料及び裏面側樹脂層3の形成材料が、各々別個の押出機に投入されたうえ、ダイに供給される。そして、表面側樹脂層2の形成材料及び裏面側樹脂層3の形成材料は、所望の厚みになるように積層された後、ダイの先端からフィルム状に押出しされる。
STEP32では、ダイに形成された微細変調構造の反転形状の断面により、表面側樹脂層2の表面に波状の微細変調構造が形成される。
STEP33は、自己修復性コート層42の形成材料を表面側樹脂層2の表面に塗布し、乾燥、硬化させることで行われる。
自己修復性コート層42の形成材料を表面側樹脂層2の表面に塗布する方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法等の公知の方法が挙げられる。なお、自己修復性コート層42の形成材料は、硬化後の表面に微細変調構造が形成されるように表面側樹脂層2の表面に一様に塗布されるのが好ましい。
<利点>
当該成形用加飾シート41は、表面側樹脂層2の表面側に自己修復性コート層42を有しているので、表面側から衝撃が加わった場合に自己修復性コート層42に応力が働き、軟質樹脂の流動によって高い自己修復性が発揮され、耐擦傷性等を向上することができる。
[その他の実施形態]
なお、本発明の成形用加飾シート、成形品の製造方法及び成形品は、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、本発明の成形用加飾シートは、第一実施形態においては表面側樹脂層と裏面側樹脂層の2層構造体とされ、第二実施形態では表面側樹脂層と裏面側樹脂層(第一樹脂層及び第二樹脂層含む)とハードコート層との3層構造体とされ、第三実施形態では表面側樹脂層と裏面側樹脂層と自己修復性コート層との3層構造とされているが、加飾層、接着層等の他の層を有していてもよい。また、当該成形用加飾シートは、各層間や表面又は裏面にコロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、グロー放電処理、酸化処理、プライマーコート処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理等が施されてもよい。当該成形用加飾シートは、上記各実施形態の構成を適宜組み合わせて構成することができる。例えば、当該成形用加飾シートは、裏面側樹脂層が単層であるか又は複層からなるかは限定されるものではない。当該成形用加飾シートは、必ずしも微細変調構造を有していなくてもよい。また、当該成形用加飾シートは、微細変調構造が形成される場合であっても、必ずしも押出ダイの断面形状を微細変調構造の反転形状とすることで形成されなくてもよく、例えば隣接して配設される一対の押圧ロールのうちの一方の表面形状を微細変調構造の反転形状とすることで形成されてもよい。