以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
[第一実施形態]
〈インサートフィルム1〉
図1のインサートフィルム1は、基材層2と、表面側樹脂層3と、裏面側樹脂層4とを有している。
基材層2は、ポリカーボネート系樹脂を主成分としている。基材層2を形成するポリカーボネート系樹脂としては、特に限定されず、直鎖ポリカーボネート系樹脂又は分岐ポリカーボネート系樹脂のいずれかを使用することができる。また、基材層2を形成するポリカーボネート系樹脂としては、直鎖ポリカーボネート系樹脂及び分岐ポリカーボネート系樹脂からなるポリカーボネート系樹脂を使用することもできる。
直鎖ポリカーボネート系樹脂としては、公知のホスゲン法または溶融法によって製造された直鎖の芳香族ポリカーボネート系樹脂であり、カーボネート成分とジフェノール成分とからなる。カーボネート成分を導入するための前駆物質としては、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。また、ジフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−チオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3−ジクロロジフェニルエーテル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。このような直鎖ポリカーボネート系樹脂は、例えば、米国特許第3989672号に記載されている方法等で製造することができる。
分岐ポリカーボネート系樹脂としては、分岐剤を用いて製造したポリカーボネート系樹脂であり、分岐剤としては、例えば、フロログルシン、トリメリット酸、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2−トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。
このような分岐ポリカーボネート系樹脂は、例えば、特開平03−182524号公報に挙げられているように、芳香族ジフェノール類、上記分岐剤およびホスゲンから誘導されるポリカーボネートオリゴマー、芳香族ジフェノール類および末端停止剤を、これらを含む反応混合液が乱流となるように撹拌しながら反応させ、反応混合液の粘度が上昇した時点で、アルカリ水溶液を加えると共に反応混合液を層流として反応させる方法により製造することができる。本発明の樹脂組成物の分岐ポリカーボネート系樹脂は、ポリカーボネート系樹脂中に5重量%以上80重量%以下の範囲で含有され、好ましくは10重量%以上60重量%以下の範囲で含有される。これは、分岐ポリカーボネート系樹脂が10重量%未満では、伸長粘度が低下し押出成形での成形が困難となるためであり、80重量%を超えると樹脂の剪断粘度が高くなり成形加工性が低下するためである。
基材層2には、表面調製剤、レベリング剤、光安定化剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、溶剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、重合禁止剤、重合促進剤、酸化防止剤、難燃剤、耐炎剤、防カビ剤、充填剤、離型剤、消泡剤等の添加剤を、必要に応じて添加することができる。
基材層2のガラス転移温度(Tg)としては、特に限定されないが、130℃以上180℃以下が好ましい。基材層2のガラス転移温度(Tg)の上限は、170℃がより好ましく、160℃がさらに好ましい。また、基材層2のガラス転移温度(Tg)の下限は、140℃がより好ましく、150℃がさらに好ましい。基材層2のガラス転移温度(Tg)が上記上限を超える場合、基材層2の柔軟性が低下し、金型の曲面への追従性が低下するおそれが高くなる。逆に、基材層2のガラス転移温度(Tg)が上記下限未満の場合、基材層2の硬度が低下し、耐擦傷性が低下するおそれが高くなる。
基材層2の平均厚みとしては、特に限定されないが、15μm以上570μm以下が好ましい。基材層2の平均厚みの上限は、400μmがより好ましく、200μmがさらに好ましく、100μmが特に好ましい。また、基材層2の平均厚みの下限は、20μmがより好ましく、25μmがさらに好ましい。基材層2の平均厚みが上記上限を超える場合、薄型化の要求に反するおそれが高くなると共に柔軟性が低下するおそれが高くなる。逆に、基材層2の平均厚みが上記下限未満である場合、硬度が低下するおそれが高くなる。
表面側樹脂層3は、基材層2の表面に積層されている。表面側樹脂層3は、アクリル系樹脂を主成分としている。表面側樹脂層3には、基材層2と同様の添加剤を添加することができる。
表面側樹脂層3を形成するアクリル系樹脂は、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する骨格を有する樹脂である。アクリル系樹脂の例としては、特に限定されないが、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体)などが挙げられる。これらのアクリル系樹脂のなかでも、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが好ましく、メタクリル酸メチル系樹脂がより好ましい。
また、表面側樹脂層3の形成材料としては、アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)と、反応性オリゴマー及び反応性モノマーから選択される少なくとも1種(B)と、ラジカル重合性開始剤(C)とを含有する組成物も用いられる。アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)と、反応性オリゴマー及び反応性モノマーから選択される少なくとも1種(B)と、ラジカル重合性開始剤(C)は、それぞれ1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、不飽和ジカルボン酸(無水物)とは、不飽和ジカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸無水物を含む概念である。
上記アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)は、ポリオレフィン由来の構造単位と不飽和ジカルボン酸(無水物)由来の構造単位とアクリル由来の構造単位とからなり、ポリオレフィン成分と不飽和ジカルボン酸(無水物)成分とアクリル成分とから得られる。また、上記ポリオレフィン成分、不飽和ジカルボン酸成分及びアクリル成分は、それぞれ1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。
上記ポリオレフィン成分としては、特に限定されないが、炭素数4〜12のα−オレフィンの1種以上とプロピレンとを必須構成単位とする共重合体が好適に用いられる。この炭素数4〜12のα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、中でも1−ブテンが最も好ましい。上記ポリオレフィン成分中における炭素数4〜12のα−オレフィンの含有量は15mol%以上70mol%以下が好ましい。なお、上記ポリオレフィン成分としては、上記炭素数4〜12のα−オレフィンの1種以上及びプロピレンと共に、これら以外のオレフィンを構成単位として含む共重合体も用いることができる。また、この場合、上記ポリオレフィン成分中における炭素数4〜12のα−オレフィンの1種以上及びプロピレン以外のオレフィンの含有量は1mol%以下が好ましく、0.5mol%以下がより好ましく、0.1mol%以下がさらに好ましい。
上記ポリオレフィン成分としては、高分子ポリオレフィンからの熱減成ポリオレフィン(高分子ポリオレフィンを高温で熱分解して得られる低分子ポリオレフィン)が好ましい。高分子ポリオレフィンからの熱減成ポリオレフィンは、末端や分子内に比較的多くの二重結合が均一に存在しているため、不飽和ジカルボン酸(無水物)のグラフト化が容易となり、不飽和ジカルボン酸(無水物)の付加率を好適に向上させることができる。かかる熱減成ポリオレフィンは、例えば、数平均分子量15000〜150000の高分子ポリオレフィンを、有機過酸化物の存在下で180〜300℃又は有機過酸化物の非存在下で300〜450℃で、0.5〜1時間程度加熱することによって得ることができる。また、上記ポリオレフィン成分の数平均分子量としては、500以上40000以下が好ましく、1500以上30000以下がより好ましい。
上記不飽和ジカルボン酸(無水物)成分としては、特に限定されないが、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等のジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸、シクロヘプテンジカルボン酸、アコニット酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、上記不飽和ジカルボン酸無水物と炭素数1〜5のアルキルアルコールとのエステル化物等が挙げられる。
上記アクリル成分としては、特に限定されないが、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート等のような活性水素を有する成分や、2−アクリロイルエチルイソシアネート等のようなイソシアネート基を含有する成分等が挙げられる。また、上記アクリル成分としては、メチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル等も用いることができる。
上記アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)を得る方法としては、特に限定されるものではなく、ポリオレフィン成分に不飽和ジカルボン酸(無水物)成分をグラフト付加したのち、アクリル成分を反応させる方法等が挙げられる。
上記アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)の融点としては、90℃以上115℃以下が好ましく、95℃以上110℃以下がより好ましい。アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)の融点が上記上限を超える場合、表面側樹脂層3が濁りやすくなると共に耐水性が低下するおそれが高くなる。逆に、アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)の融点が上記下限未満である場合、高温での密着性が低下するおそれが高くなる。
上記アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)における不飽和ジカルボン酸(無水物)の付加率としては、特に限定されないが、5質量%以上15質量%以下が好ましく、7質量%以上12質量%以下がより好ましい。不飽和ジカルボン酸(無水物)の付加率が上記上限を超える場合、耐水性が低下するおそれが高くなる。逆に、不飽和ジカルボン酸(無水物)の付加率が上記下限未満である場合、表面側樹脂層3が濁りやすくなると共に耐水性が低下するおそれが高くなる。
上記アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)の数平均分子量としては、特に限定されるものではないが、600以上50000以下が好ましく、1600以上30000以下がより好ましい。アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)の数平均分子量が上記上限を超える場合、表面側樹脂層3が濁りやすくなると共に、流動性が低下するおそれが高くなる。逆に、アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)の数平均分子量が上記下限未満である場合、物性が低下するおそれが高くなる。
上記反応性オリゴマーおよび反応性モノマーから選ばれる少なくとも1種(B)としては、特に限定されないが、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート、又はこれらのオリゴマー等が挙げられる。
上記反応性オリゴマーおよび反応性モノマーから選ばれる少なくとも1種(B)の重量平均分子量としては、特に限定されるものではないが、100以上50000以下が好ましい。上記重量平均分子量が上記上限を超える場合、流動性が低下するおそれが高くなる。逆に、上記重量平均分子量が上記下限未満である場合、物性が低下するおそれが高くなる。
上記ラジカル重合性開始剤(C)としては、特に限定されないが、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカボーネート等が挙げられる。
アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)と反応性オリゴマーおよび反応性モノマーから選ばれる少なくとも1種(B)との質量比(A/B)としては、7/93以上60/40以下が好ましく、10/90以上50/50以下がより好ましい。質量比(A/B)が上記上限を超える場合、流動性が低下すると共に表面側樹脂層3が濁りやすくなる。逆に、質量比(A/B)が上記下限未満である場合、非極性材料に対する密着性が低下するおそれが高くなる。
また、ラジカル重合性開始剤(C)のアクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)及び反応性オリゴマーおよび反応性モノマーから選ばれる少なくとも1種(B)に対する質量比(C/A+B)としては、特に限定されないが、0.1/100以上10/100以下が好ましく、0.5/100以上5/100以下がより好ましい。質量比(C/A+B)が上記上限を超える場合、反応が早くなりすぎ、部位による密着性のばらつきが生じやすくなる。逆に、質量比(C/A+B)が上記下限未満である場合、重合が不十分となるおそれが高くなる。
表面側樹脂層3は、アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)と、反応性オリゴマー及び反応性モノマーから選択される少なくとも1種(B)と、ラジカル重合性開始剤(C)とを含有する組成物を含有することによって、ポリオレフィン基材など非極性の熱可塑性プラスチック基材に対しても優れた密着性を発揮することができると共に、適度な流動性を付与することができる。
表面側樹脂層3は、顔料を含有するとよい。表面側樹脂層3に含有される顔料としては、特に限定されるものではなく、黒色顔料、白色顔料、赤色顔料、青色顔料、黄色顔料、緑色顔料、橙色顔料、紫色顔料等が挙げられる。
上記黒色顔料としては、無機系黒色顔料及び有機系黒色顔料が挙げられ、具体的には、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等)、グラファイト(黒鉛)、酸化銅、二酸化マンガン、アゾ系顔料(アゾメチンアゾブラック等)、アニリンブラック、ペリレンブラック、シアニンブラック、複合酸化物系黒色色素、チタンブラック、活性炭、フェライト(非磁性フェライト、磁性フェライト等)、マグネタイト、酸化クロム、酸化鉄、二硫化モリブデン、クロム錯体等が挙げられる。
上記白色顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸鉛、硫酸バリウム等の無機顔料が挙げられる。上記赤色顔料としては、鉛丹、酸化鉄赤等の赤色系無機顔料や、アントラキノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール等の赤色系有機顔料が挙げられる。上記青色顔料としては、ウルトラマリン青、プロシア青等の青色系無機顔料や、フタロシアニン、アントラキノン、インジゴイド等の青色系無機顔料が挙げられる。上記黄色顔料としては、黄鉛、亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)、イソインドリノン、キノフタロン、イソインドリン、アントラキノン、アントロン、キサンテン等の黄色系有機顔料が挙げられる。上記緑色顔料としては、フタロシアニン、アゾメチン等が挙げられる。上記橙色顔料としては、ジケトピロロピロール、ペリレン、イントラキノン(アントロン)、ペリノン、キナクリドン、インジゴイド等が挙げられる。上記紫色顔料としては、ジオキサジン、キナクリドン、ペリレン、インジゴイド、アントラキノン(アントロン)、キサンテン等が挙げられる。
当該当該インサートフィルム1は、表面側樹脂層3に顔料が含まれることによって、意匠性を向上することができると共に、耐熱性、熱的寸法安定性、耐候性、強度、経年劣化防止性等を向上することができる。
上記顔料の平均粒子径は、100nm以上30μm以下が好ましく、300nm以上3μm以下が特に好ましい。顔料の平均粒子径が上記下限より小さいと、凝集等により表面側樹脂層3中への均一な分散が困難になるおそれがある。一方、顔料の平均粒子径が上記上限を超えると、耐熱性等の諸特性向上効果が低下するおそれがある。
上記顔料の含有量としては、8質量%以上30質量%以下が好ましい。顔料の含有量が上記下限より小さいと、表面側樹脂層3の耐久性、耐熱性、強度等の向上効果が小さくなる。一方、顔料の含有量が上記上限を超えると、表面側樹脂層3中での顔料の分散性が低下し、表面側樹脂層3の強度の低下を招来するおそれがある。
表面側樹脂層3のガラス転移温度(Tg)としては、特に限定されないが、0℃以上130℃以下が好ましい。表面側樹脂層3のガラス転移温度(Tg)の上限は、110℃がより好ましく90℃がさらに好ましい。また表面側樹脂層3のガラス転移温度(Tg)の下限は、20℃がより好ましく、40℃がさらに好ましい。表面側樹脂層3のガラス転移温度(Tg)が上記上限を超える場合、柔軟性が低下し、金型の曲面に対する追従性が低下してクラックが発生するおそれが高くなると共に、カールが発生するおそれが高くなる。逆に、表面側樹脂層3のガラス転移温度(Tg)が上記下限未満の場合、硬度が低下するおそれが高くなる。
表面側樹脂層3の平均厚みとしては、特に限定されないが、5μm以上180μm以下が好ましい。表面側樹脂層3の平均厚みの上限は、150μmがより好ましく、100μmがさらに好ましく、50μmが特に好ましい。また、表面側樹脂層3の平均厚みの下限は、10μmがより好ましく、13μmがさらに好ましく、16μmが特に好ましい。表面側樹脂層3の平均厚みが上記上限を超える場合、薄型化の要求に反するおそれが高くなると共に柔軟性が低下するおそれが高くなる。逆に、表面側樹脂層3の平均厚みが上記下限未満である場合、硬度が低下するおそれが高くなる。
裏面側樹脂層4は、基材層2の裏面に積層されている。裏面側樹脂層4は、アクリル系樹脂を主成分としている。裏面側樹脂層4には、基材層2と同様の添加剤を添加することができる。裏面側樹脂層4を形成するアクリル系樹脂としては、表面側樹脂層3を形成するアクリル系樹脂と同様である。また、裏面側樹脂層4のガラス転移温度及び平均厚みは、表面側樹脂層3と同様である。
基材層2のガラス転移温度(Tg)と表面側樹脂層3のガラス転移温度(Tg)との差、及び基材層2のガラス転移温度(Tg)と裏面側樹脂層4のガラス転移温度(Tg)との差としては、特に限定されないが、50℃以上130℃以下が好ましい。上記ガラス転移温度(Tg)の差の上限は、110℃がより好ましく、100℃がさらに好ましい。また、上記ガラス転移温度(Tg)の差の下限は、60℃がより好ましく、80℃がさらに好ましい。上記ガラス転移温度(Tg)の差が上記上限を超える場合、熱膨張等による基材層2の寸法変化によって生じる応力を表面側樹脂層3及び裏面側樹脂層4で好適に吸収緩和することができず、カールが発生するおそれが高くなる。逆に、上記ガラス転移温度(Tg)の差が上記下限未満である場合、当該インサートフィルム1の金型の曲面に対する追従性を向上させつつ、硬度を好適に向上させるのが困難となるおそれが高くなる。
表面側樹脂層3の基材層2に対する厚み比、及び裏面側樹脂層4の基材層2に対する厚み比としては、特に限定されないが、1/7以上1/2以下が好ましい。上記厚み比の上限は、2/5がより好ましく、1/3がさらに好ましい。また、上記厚み比の下限は、1/6がより好ましく、1/5がさらに好ましい。上記厚み比が上記上限を超える場合、柔軟性が低下するおそれが高くなる。逆に、上記厚み比が上記下限未満である場合、硬度が低下するおそれが高くなる。
インサートフィルム1の平均厚みとしては、特に限定されないが、40μm以上800μm以下が好ましい。インサートフィルム1の平均厚みの上限は、700μmがより好ましく、600μmがさらに好ましい。また、インサートフィルム1の平均厚みの下限は、45μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。インサートフィルム1の平均厚みが上記上限を超える場合、薄型化の要求に反すると共に、柔軟性が低下するおそれが高くなる。逆に、インサートフィルム1の平均厚みが上記下限未満である場合、硬度が低下するおそれが高くなる。また特に、当該インサートフィルム1は、表面側樹脂層3の基材層2に対する厚み比、及び裏面側樹脂層4の基材層2に対する厚み比が上記範囲とされ、かつ平均厚みが上記範囲とされることによって、柔軟性及び硬度を好適に保ち、かつ一定の薄さに形成して曲げ性を向上させることができる。
インサートフィルム1の曲げ半径としては、特に限定されないが、3R以下が好ましく、2R以下がさらに好ましい。上記曲げ半径が上記上限を超える場合、金型の曲面に好適に追従することができず、クラックが発生するおそれが高くなる。
〈製造方法〉
当該インサートフィルム1の製造方法としては、上記構造のものが製造できれば特に限定されないが、(a)Tダイを用いた押出成形法によって基材層押出体を形成する基材層形成工程と、(b)基材層押出体の表面に表面側樹脂層3を積層する第一積層工程と、(c)基材層押出体の裏面に裏面側樹脂層4を積層する第二積層工程とを有する製造方法が挙げられる。特に、当該インサートフィルム1の製造方法としては、Tダイを用いた共押出成形法によって、基材層形成工程と、第一積層工程と、第二積層工程とを同時に行うことが好ましい。当該インサートフィルム1は、共押出成形法によって製造することで、基材層形成工程と、第一積層工程と、第二積層工程とを同一のラインで(すなわちインライン積層工程として)実施することができ、その結果、製造コストを抑え、生産性や作業効率を向上することができる。
〈利点〉
当該インサートフィルム1は、表面側樹脂層3によって表面側の硬度が高められるので耐擦傷性を向上することができる。当該インサートフィルム1は、表面側樹脂層3及び裏面側樹脂層4の間に配設される基材層2がポリカーボネート系樹脂を主成分として形成されているので、基材層2によって柔軟性を向上することができる。このため、当該インサートフィルム1は、例えば、従来のアクリル系樹脂からなる保護フィルムよりも金型の曲面に対する追従性を向上しクラックの発生を防止することができる。当該インサートフィルム1は、基材層2の表面側に表面側樹脂層3が積層され、基材層2の裏面側に裏面側樹脂層4が積層され、かつ表面側樹脂層3及び裏面側樹脂層4が共にアクリル系樹脂を主成分としているので、基材層2と表面側樹脂層3との内部応力差及び基材層2と裏面側樹脂層4との内部応力差が乖離するのを抑え、カールの発生を防止することができる。
[第二実施形態]
〈インサートフィルム11〉
図2のインサートフィルム11は、基材層2と、表面側樹脂層3と、裏面側樹脂層4と、ハードコート層12と、加飾層13とを有している。インサートフィルム11における基材層2、表面側樹脂層3及び裏面側樹脂層4は、図1のインサートフィルム1と同様のため、同一番号を付して説明を省略する。
ハードコート層12は、表面側樹脂層3の表面に形成されている。
ハードコート層12の形成材料としては、特に限定されるものではないが、トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと有機微粒子とを含む組成物が好適に用いられる。このトリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーとしては、アミノトリアジン化合物、パラホルムアルデヒド及び水酸基含有(メタ)アクリレートから1工程で合成されるものが挙げられる。また、上記有機微粒子としては、乳化重合法によって合成される微粒子が挙げられる。上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーの平均分子量としては、特に限定されないが、200以上20000以下が好ましい。上記平均分子量が上記上限を超える場合、粘度が高くなり塗工が困難になるおそれが高くなる。逆に、上記平均分子量が上記下限未満である場合、十分な硬度が得られないおそれが高くなる。
上記アミノトリアジン化合物は、トリアジン環の3つの炭素原子それぞれにアミノ基が結合した構造を有するもので、アミノトリアジン又はその誘導体を意味する。上記アミノトリアジンとしては、例えばメラミンが挙げられる。上記アミノトリアジン誘導体としては、例えばベンゾグアナミン、アセトグアナミン、シクロヘキサンカルボグアナミン、シクロヘキセンカルボグアナミン、ノルボルナンカルボグアナミン、ノボルネンカルボグアナミン等が挙げられる。
上記水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。また、上記水酸基含有(メタ)アクリレートには、必要に応じて、少なくとも1個のヒドロキシシル基を有するエチレン性不飽和結合を有する化合物、例えば2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アリルアルコール、エチレングリコールアリルエーテル、グリセリン(モノ、ジ)アリルエーテル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等あるいはこれらの混合物を添加することができる。
上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーの合成は、アミノトリアジン化合物へのホルムアルデヒドの付加反応によるメチロール基の生成及びメチロール基とヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートのヒドロキシル基との縮合反応によって進行するか、あるいはヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとホルムアルデヒドとからホルムアルデヒドヘミアセタールが生成し、このホルムアルデヒドヘミアセタールとアミノトリアジン化合物とが縮合して進行する。縮合反応の進行程度はこれら縮合反応により離脱する水分量により判断することができ、この水分量を経時的に把握し、所定の段階において水分留出を止めることによってこれらの縮合反応を制御することができる。
上記有機微粒子としては、例えば乳化重合法により合成されたスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、アクリル系樹脂等の有機微粒子が挙げられる。上記有機微粒子は、乳化重合法によって合成されることで、架橋剤を添加すると共に、一次粒子径のバラツキを抑え、面内での屈曲性の均一化を促進することができる。
上記有機微粒子の平均一次粒子径としては、特に限定されないが、80nm以上500nm以下が好ましい。上記有機微粒子の平均一次粒子径が上記上限を超える場合、ヘイズが上昇して視認性が低下するおそれが高くなる。逆に、上記有機微粒子の平均一次粒子径が上記下限未満である場合、有機微粒子の合成が困難になるおそれが高くなる。なお、平均一次粒子径とは凝集を起こしていない単一の粒子の径のことをいい、球状のものについてはその直径を、球状以外のものについては長軸径と短軸径との算術平均値を示すもので、電子顕微鏡によって測定される値をいう。
上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマー100重量部に対する上記有機微粒子の添加量としては、特に限定されないが、1重量部以上50重量部以下が好ましく、10重量部以上30重量部以下がより好ましい。上記添加量が上記上限を超える場合、十分に硬度を向上できなりおそれが高くなる。逆に、上記添加量が上記下限未満である場合、屈曲性が低下するおそれが高くなる。
また、ハードコート層12の形成材料としては、上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーに残存する未反応の水酸基をイソシアネート化合物と反応させてなるウレタン化トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと有機微粒子とを含む組成物も好適に用いられる。上記有機微粒子としては、乳化重合法によって合成されるスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、アクリル系樹脂等の有機微粒子が挙げられる。また、この有機微粒子の平均一次粒子径及び上記トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマー100重量部に対する上記有機微粒子の添加量は、上記同様である。上記ウレタン化トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーは、ウレタン化することによって屈曲性を更に向上することができる。
上記イソシアネート化合物としては、脂肪族、脂環式、芳香族、芳香脂肪族イソシアネートおよびこれらの変性物が挙げられる。
上記脂肪族イソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)等が挙げられる。上記脂環式イソシアネートとしては、例えばジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1、4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)等が挙げられる。また、上記芳香族イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、4、4´(または2、4´)−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、p−フェニレンジイソシアネート(PPDI)等が挙げられる。上記芳香脂肪族イソシアネートとしては、例えばα、α、α´、α´−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
上記脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族イソシアネート化合物の変性物としては、上記化合物のイソシアネート基の一部または全部がカーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、ビューレット基、イソシアヌレート基等に変性された化合物が挙げられる。なお、上記イソシアネ−ト化合物は一種のみを用いてもよく、二種以上併用してもよい。
また、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基との反応を促進させるため、有機錫系ウレタン化触媒を用いることができる。かかる有機錫系ウレタン化触媒としては、ウレタン化反応に一般に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアルキルマレート、ステアリン酸錫、オクチル酸錫等が挙げられる。
上記有機錫系ウレタン化触媒の使用量としては、特に限定されないが、0.005重量%以上3重量%以下が好ましい。上記有機錫系ウレタン化触媒の使用量が上記上限を超える場合、ウレタン反応時の発熱によって反応制御が困難になるおそれが高くなる。逆に、上記有機錫系ウレタン化触媒の使用量が上記下限未満である場合、ウレタン反応が十分に進行しないおそれが高くなる。
ハードコート層12は、反応性化合物として多官能重合性モノマーを用い、混合又は重合することを経て形成されるのが好ましい。
上記多官能重合性モノマーは、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基を分子中に少なくとも2個以上有するものである。上記多官能重合性モノマーとしては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。かかる(メタ)アクリロイル基を有する多官能重合性モノマーは、ラジカル反応性が非常に高く、速硬性と高硬度の点から優位性がある。
上記(メタ)アクリロイル基を有する多官能重合性モノマーとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、単独、または混合して使用することができる。
ハードコート層12の平均厚みとしては、特に限定されないが、1μm以上20μm以下が好ましい。ハードコート層12の平均厚みの上限は、15μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。また、ハードコート層12の平均厚みの下限は、3μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。ハードコート層12の平均厚みが上記上限を超える場合、薄型化の要求に反すると共に、柔軟性が低下するおそれが高くなる。逆に、ハードコート層12の平均厚みが上記下限未満である場合、所望の硬度を得られないおそれが高くなる。
加飾層13は、裏面側樹脂層4の裏面に形成されている。加飾層13は、バインダーとこのバインダー中に分散含有される顔料とを有している。
加飾層13に用いられるバインダーとしては、特に限定されるものではないが、セルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合して得られる共重合体が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種のセルロース樹脂に由来する分子鎖を有するものが好ましい。なかでも、セルロースアセテートプロピオネートが特に好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸sec−ブチルからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸エチル、メタクリル酸エチルが特に好ましい。
グラフトされる(メタ)アクリル酸エステルのセルロース誘導体に対する質量比としては、固形分質量として1/1以上4/1以下が好ましく、3/2以上5/2以下がより好ましい。質量比が上記上限を超える場合、インキ流れ防止効果が低下するおそれが高くなる。逆に質量比が上記下限未満の場合、印刷適性が低下するおそれが高くなる。
上記セルロース誘導体としては、分子鎖に(メタ)アクリル酸エステルが重合を開始する重合開始点を有していることが好ましい。かかる重合開始点としては、ビニル基が挙げられる。このビニル基は、例えば、セルロース誘導体の原料であるセルロース樹脂が分子鎖に水酸基を有する場合、水酸基と反応する官能基を含有するビニルモノマーを用いて、セルロース樹脂の分子鎖に導入することができる。上記水酸基と反応する官能基としては、例えばイソシアネート基が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合開始点の量としては、セルロース誘導体100molに対して25〜500molが好ましく、50〜450molがより好ましく、100〜400molがさらに好ましく、120〜350molが特に好ましい。重合開始点の量が上記上限を超える場合、グラフトされるポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子鎖が短くなり、分子同士の絡み合いが少なくなるため、インキ流れを防止できなくなるおそれが高くなる。逆に、重合開始点の量が上記下限未満の場合、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子鎖が長くなりすぎて樹脂溶液の粘度が高くなり、塗工が困難になるおそれが高くなる。
セルロース誘導体にグラフトしたポリ(メタ)アクリル酸エステル鎖の重量平均分子量としては、10〜30万が好ましく、18〜28万がより好ましく、20〜25万がさらに好ましい。質量平均分子量が上記上限を超える場合、溶液粘度が高くなり、塗工が困難になるおそれが高くなる。逆に、質量平均分子量が上記下限未満の場合、分子鎖が短くなり、分子同士の絡み合いが少なくなるため、インキ流れを防止できなくなるおそれが高くなる。
セルロース誘導体に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させる方法としては、例えば、ビニル基系の重合開始点を導入したセルロース誘導体に(メタ)アクリル酸エステルを加え、重合開始剤の存在下において、60℃〜90℃、6時間〜15時間の条件で溶液重合する方法等が挙げられる。
上記重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
セルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合して得られる共重合体の重量平均分子量(Mw)(ポリスチレン換算)としては、100,000〜300,000が好ましく、120,000〜230,000がより好ましく、150,000〜200,000がさらに好ましい。Mwが上記範囲である場合、インキ流れの発生を抑制することができると共に、刷り重ね適性を向上することができる。
加飾層13に含有される顔料としては、特に限定されるものではなく、表面側樹脂層3に含有される顔料と同様のものが挙げられる。
加飾層13を形成するための組成物は、塗工性を向上させるために溶剤を含んでいてもよい。かかる溶剤としては、例えば、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル化グリコールエーテル類などの有機溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、また必要に応じて数種類を混合して用いてもよい。
加飾層13の平均厚みとしては、特に限定されないが、0.1μm以上5μm以下が好ましく、0.5μm以上3μm以下がより好ましい。加飾層13の平均厚みが上記範囲であることによって、隠蔽性及び意匠性を向上することができると共に、熱成形時に色ムラが発生するのを防止することができる。
当該インサートフィルム11は、加飾層13のバインダーとしてセルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合して得られる共重合体が用いられることによって、耐熱性、耐流動性を向上しインキ流れを防止することができる。また、当該インサートフィルム11は、加飾層13のバインダーとしてセルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合して得られる共重合体が用いられることによって、アクリル系樹脂を主成分とする裏面側樹脂層4との親和性を向上することができる。
インサートフィルム11の伸び率としては、特に限定されないが、3%以上150%以下が好ましい。インサートフィルム11の伸び率の上限は、130%がより好ましく、100%がさらに好ましい。また、インサートフィルム11の伸び率の下限は、30%がより好ましく、60%がさらに好ましい。上記伸び率が上記上限を超える場合、硬度が低下するおそれが高くなる。逆に、上記伸び率が上記下限未満である場合、柔軟性が低下し金型の曲面に好適に追従できなくなるおそれが高くなる。
インサートフィルム11の表面の鉛筆硬度としては、特に限定されないが、HB以上が好ましく、H以上がより好ましく、2H以上がさらに好ましい。上記鉛筆硬度が上記下限未満である場合、耐擦傷性が低下するおそれが高くなる。
〈製造方法〉
当該インサートフィルム11の製造方法としては、上記構成のものが製造できれば特に限定されないが、(a)表面側樹脂層3、基材層2及び裏面側樹脂層4からなる積層体を製造する積層体製造工程と、(b)表面側樹脂層3の表面にハードコート層12を形成するハードコート層形成工程と、(c)裏面側樹脂層4の裏面に加飾層13を形成する加飾層形成工程とを有する製造方法が挙げられる。上記積層体製造工程としては、図1のインサートフィルム1の製造工程と同様の方法が挙げられる。
上記ハードコート層形成工程としては、ハードコート層12の形成材料を表面側樹脂層3の表面に塗布し、乾燥、硬化させる方法が挙げられる。
ハードコート層12の形成材料を表面側樹脂層3の表面に塗布する方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法等の公知の方法が挙げられる。
また、表面側樹脂層12の表面に塗布されたハードコート層12の形成材料を硬化させる方法としては、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が挙げられる。紫外線によって硬化する場合、ハードコート層12の形成材料中には、光重合開始剤が含有される。
上記光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)チタニウム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。なお、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀灯やメタルハライドランプ等既知の装置が使用できる。紫外線照射エネルギーとしては、100〜2000mJ/cm2が好ましく、300〜700mJ/cm2がより好ましい。また、紫外線照射は、窒素ガス雰囲気下で行うことで耐擦傷性がより向上させることができる。
また、電子線照射装置としては、従来既知の硬化装置が使用できる。電子線照射線量としては、10kGy〜200kGyが好ましく、30kGy〜100kGyがより好ましい。
上記加飾層形成工程としては、加飾層13の形成材料を裏面側樹脂層4の裏面に塗布し、乾燥、硬化させる方法が挙げられる。加飾層13の形成材料を裏面側樹脂層4の裏面に塗布する方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法等の公知の方法が挙げられる。
〈利点〉
当該インサートフィルム11は、ハードコート層12を有しているので、表面側の硬度を高め耐擦傷性等を向上することができる。また、当該インサートフィルム11は、ハードコート層12の裏面にアクリル系樹脂を主成分とし比較的硬度の高い表面側樹脂層3が積層されているので、ハードコート層12と表面側樹脂層3との硬度差に起因してカールが発生するのを防止することができる。
当該インサートフィルム11は、裏面側樹脂層4の裏面に加飾層13を有しているので、意匠性を向上することができる。また、当該インサートフィルム11は、加飾層13により加飾を施すことによって、色彩の均一化を図ることができると共に、生産性を向上することができる。
[第三実施形態]
〈インサート成形品21〉
インサート成形品21は、自動車用内装部材22と、自動車用内装部材22の表面に積層されるインサートフィルム11とを有する自動車の内装パネルとして形成されている。インサートフィルム11は、図2のインサートフィルム11と同様のため、同一番号を付して説明を省略する。
自動車用内装部材22の形成材料としては、特に限定されるものではなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。
〈製造方法〉
インサートフィルム11を自動車用内装部材22に積層する方法としては、一般的には、(a)インサートフィルム11を射出成形金型内に配設する工程と、(b)真空成型を施して金型内面にインサートフィルム11を密着させる工程と、(c)この金型内に自動車用内装部材の形成樹脂を射出成形する工程とを有している。
〈利点〉
当該インサート成形品21は、インサートフィルム11が一定の柔軟性を有しているので、製造の容易性及び確実性が向上される。また、当該インサート成形品21は、インサートフィルム11が一定の硬度を有しているので、耐擦傷性を向上することができる。当該インサート成形品21は、インサート成形によって形成されるので、異物の混入を防止することができる。
また、自動車の内装パネルは、表面の美観保持に対する要求が高い。それゆえ、自動車の内装パネルとして当該インサート成形品21を用いることによって、この内装パネルの表面側の耐擦傷性を向上させ、かつ異物の混入を好適に防止して好適に美観を保持することができる。
当該インサートフィルム11は、裏面側樹脂層4が上記アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィン(A)と、反応性オリゴマー及び反応性モノマーから選択される少なくとも1種(B)と、ラジカル重合性開始剤(C)とを含有する組成物によって形成されているので、ポリオレフィン系樹脂等の非極性樹脂に対しても良好な接着性を保つことができる。
[その他の実施形態]
なお、本発明のインサートフィルム及びインサート成形品は、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、基材層と表面側樹脂層、基材層と裏面側樹脂層との間、及び裏面側樹脂層と加飾層との間に他の層を有していてもよい。また、当該インサートフィルムは、各層間や表面又は裏面にコロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、グロー放電処理、酸化処理、プライマーコート処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理等が施されてもよい。