JP2015034262A - 変性ビニルアルコール系重合体 - Google Patents

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容子 森
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Abstract

【課題】皮膜の水溶性及び耐水性に優れ、熱成形性、特に低温での熱成形性が改善された変性ビニルアルコール系重合体を提供する。
【解決手段】本発明は、ビニルアルコール単位、エチレン単位及び下記式(1)で表される単位を含み、上記エチレン単位の含有率が1モル%以上15モル%以下である変性ビニルアルコール系重合体である。上記式(1)で表される単位の含有率としては、0.1モル%以上30モル%以下が好ましい。当該変性ビニルアルコール系重合体のけん化度としては、80モル%以上99.9モル%以下が好ましい。当該変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度としては、200以上5000以下が好ましい。
Figure 2015034262

【選択図】なし

Description

本発明は、変性ビニルアルコール系重合体に関する。
ビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」ともいう。)は、数少ない結晶性を有する水溶性高分子である。その優れた水溶性、皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)を利用し、ビニルアルコール系重合体は、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルム等に広く用いられている。
従来のPVAは、熱安定性に不都合があるために、通常水溶液の形態で使用されている。しかし、「完全けん化PVA」の場合には、融点と熱分解温度とが非常に近く、熱成形性、特に低温での熱成形性が低下する不都合がある。一方、「完全けん化PVA」よりも融点の低い「部分けん化PVA」の場合には、熱溶融成形時に酢酸臭が発生するという不都合がある。一方、可塑剤等をPVAにブレンドすることにより、PVAの溶融粘度を低下させて、PVAを熱溶融成形する方法が考えられる。しかし、可塑剤を添加する方法は、成形物を長期間に渡って使用すると、成形物中の可塑剤含有量が経時的に減少し、特に冬場のような低温低湿度下では、成形物の柔軟性が不足し、成形物に割れやひびが発生するという不都合がある。
そのため、PVAを変性することにより、PVAの融点を低下させる方法が提案されている。具体的には、特許文献1にはエチレン単位を有するPVAが開示されている。しかし、特許文献1に記載されているPVAは低温の水への溶解性が低く、水溶液の調製の際に高温でPVAを溶解する必要があり、さらなる改善が求められている。
また、特許文献2には、変性種として3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等の不飽和単量体を用いて製造する方法が記載されている。しかし、上記変性種は共重合性比の観点から、変性に用いる不飽和単量体が選択的に重合せず、高重合率にしないと、重合後も変性に用いた不飽和単量体が残存するため、廃棄物が増加し、製造コストの面で課題を抱えている。また、成形品が皮膜の場合、上記皮膜に対しては上述の特性に加えてより優れた耐水性も求められるが、それも満足のいくものではない。
特開2000−309607号公報 特開2004−75866号公報
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、皮膜の水溶性及び耐水性に優れ、熱成形性、特に低温での熱成形性が改善された変性ビニルアルコール系重合体(以下、「変性PVA」ともいう。)の提供を目的とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、主鎖に特定含有率のエチレン単位及び下記式(1)で表される単位(以下、「単位(1)」ともいう。)を有する変性PVAによって上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいて検討を重ねて本発明を完成させた。
上記課題を解決するためになされた発明は、ビニルアルコール単位、エチレン単位及び下記式(1)で表される単位を含み、上記エチレン単位の含有率が1モル%以上15モル%以下の変性ビニルアルコール系重合体である。
Figure 2015034262
当該変性PVAは、ビニルアルコール単位に由来する親水性と、エチレン単位に由来する優れた溶融成形性及び耐水性と、単位(1)に由来する結晶性の低下性能とを兼ね備えるため、皮膜の水溶性及び耐水性に優れ、熱成形性、特に低温での熱成形性が改善された。
単位(1)の含有率としては0.1モル%以上30モル%以下が好ましい。このように上記含有率を上記範囲とすることで、当該変性PVAの結晶性をより低下させることができる。
当該変性PVAのけん化度としては80モル%以上99.9モル%以下が好ましい。このように上記けん化度を上記範囲とすることで、当該変性PVAの皮膜の耐水性をより向上させることができる。
当該変性PVAの粘度平均重合度としては200以上5000以下が好ましい。このように上記粘度平均重合度を上記範囲とすることで、当該変性PVAの熱成形性をより向上させることができる。
本発明によれば、皮膜の水溶性及び耐水性に優れ、熱成形性、特に低温での熱成形性が改善された変性ビニルアルコール系重合体が提供される。
<変性PVA>
当該変性PVAは、ビニルアルコール単位、エチレン単位及び下記式(1)で表される単位とを含み、上記エチレン単位の含有率が1モル%以上15モル%以下である変性ビニルアルコール系重合体である。
Figure 2015034262
より具体的には、当該変性PVAは、構造単位として、ビニルアルコール単位のエチレン単位及び単位(1)を含む。また、当該変性PVAは、本発明の効果を損なわない範囲でその他の構造単位を任意に有していてもよい。以下、当該変性PVAの各単位について詳説する。
(ビニルアルコール単位)
当該変性PVAは、構造単位としてビニルアルコール単位を含むため、当該変性PVAの水溶性を向上させることができる。
当該変性PVAにおけるビニルアルコール単位の含有率は特に限定されないが、重合体中の全構造単位を100モル%として、好ましくは40モル%以上99モル%未満であり、より好ましくは50モル%以上98モル%以下、さらに好ましくは60モル%以上97モル%以下である。含有率が40モル%未満であると、変性PVAの水溶性が不十分となるおそれがある。
(エチレン単位)
当該変性PVAは構造単位としてエチレン単位を有するため、当該変性PVAの溶融成形性及び耐水性を向上させることができる。
当該変性PVAにおけるエチレン単位の含有率は、重合体中の全構造単位を100モル%として、1モル%以上15モル%以下であり、1.5モル%以上13モル%以下が好ましく、2モル%以上10モル%がより好ましく、2.5モル%以上8.5モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位の含有率が1モル%未満の場合には、変性PVAの熱成形性や、当該変性PVAから得られる皮膜の耐水性が低下する。一方、エチレン単位の含有率が15モル%を超える場合には、変性PVAが水に不溶となる。
当該変性PVAにおけるエチレン単位の含有率は、例えば、当該変性PVAの前駆体又は再酢化物であるエチレン単位を含有する変性ポリビニルエステルのH−NMRから求められる。即ち、得られた変性ポリビニルエステルをn−ヘキサン/アセトンで再沈精製を3回以上十分に行った後、80℃での減圧乾燥を3日間行い分析用の変性ポリビニルエステルを作製する。上記ポリマーをDMSO−dに溶解し、500MHzのH−NMRを用いて80℃で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7ppm以上5.2ppm以下)とエチレン、ビニルエステル及び第3成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8ppm以上1.6ppm以下)を用いてエチレン単位の含有率を算出することができる。また、その他の単位の含有率についても、同様の方法に従って算出することができる。
(単位(1))
当該変性PVAは構造単位として単位(1)を有することで、当該変性PVAの結晶性を低下させることができ、その結果水溶性等の取扱い性を向上させることができると共に、低温での熱成形が改善される。
当該変性PVAにおける単位(1)の含有率は特に限定されないが、重合体中の全構造単位を100モル%として、好ましくは0.1モル%以上30モル%以下、より好ましくは0.2モル%以上20モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以上10モル%以下である。含有率が0.1モル%未満であると、変性PVAの水溶性が不十分となるか、或いは低温での熱成形が困難となるおそれがある。一方、含有率が30モル%を超えると、変性PVAの結晶性が低下し過ぎることにより、得られる皮膜の耐水性が不十分となるおそれがある。
<その他の構造単位>
当該変性PVAは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記構造単位以外のその他の構造単位を任意に有していてもよい。
その他の構造単位としては、例えばビニルアルコール単位、エチレン単位及び式(1)で表される単位以外のエチレン性不飽和単量体に由来する単位等が挙げられる。
エチレン性不飽和単量体としては、例えば、
プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;
アクリル酸及びその塩;
アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;
メタクリル酸及びその塩;
メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;
アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);
メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;
塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;
塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;
酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;
マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
<変性PVAの製造方法>
当該変性PVAの製造方法は特に限定されない。
一例を挙げれば、当該変性PVAは、
ビニルアルコール単位に変換可能なビニルエステル類、エチレン及び単位(1)に変換可能な不飽和単量体を共重合させる工程(共重合工程)と、
上記ビニルエステル類及び上記不飽和単量体に由来する単位をけん化する工程(けん化工程)を備えた製造方法により得ることができる。上記製造方法によって、当該変性PVAを容易かつ確実に得ることができる。
具体的には、ビニルアルコール単位に変換可能なビニルエステル類、エチレン及び単位(1)に変換可能な不飽和単量体とを共重合させ、得られた共重合体のビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換し、一方で上記不飽和単量体に由来する単位を単位(1)に変換することで、当該変性PVAを得ることができる。
式(1)で表される単位に変換可能な不飽和単量体としては、例えば以下の式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」ともいう。)等が挙げられる。
Figure 2015034262
上記式(2)中、Rは、一部に分岐構造又は環状構造を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基である。また、Rが有する水素原子の一部は、他の官能基で置換されていてもよい。
Rの構造としては特に限定されず、一部に分岐、環状構造を有していてもよい。また、一部が他の官能基で置換されていてもよい。Rは好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、上記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等の直鎖又は分岐を有するアルキル基が挙げられる。また、Rが有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基等が挙げられる。
化合物(2)としては、例えば1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン(DAMP)、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチリルオキシ−2−メチレンプロパン等が挙げられる。これらの中では、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンが製造容易性の点で好ましい。
化合物(2)は、一般的にPVAの変性に用いられる他のアリル型不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル等)に比べ、ビニルエステル類との共重合反応が進行し易い。従って、本発明のヒドロキシメチル基含有ビニルアルコール系重合体は、重合時における変性量や重合度の制約が少なく、変性量及び重合度を高くすることができる。また、重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体の量が少ないことから、本発明の変性PVAは工業的な製造時における環境面及びコスト面においても優れている。以下、各工程について詳説する。
(共重合工程)
本工程では、ビニルアルコール単位に変換可能なビニルエステル類、エチレン及び単位(1)に変換可能な不飽和単量体とを共重合させることで、当該変性PVAへ変換するためのビニルエステル系共重合体を得ることができる。
共重合の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよく、重合方法には塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法を適用できる。無溶媒又はアルコール等の溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が通常採用される。高重合度のビニルエステル系共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。
溶液重合法の溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール等が挙げられる。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。溶媒としては、これらの中で重合の容易性の観点からメタノールが好ましい。
重合系における溶媒の使用量は、目的とする変性PVAの粘度平均重合度に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との質量比{=(溶媒)/(全単量体)}にして0.01以上10以下の範囲、好ましくは0.05以上3以下の範囲から選択される。
上記共重合に使用される重合開始剤としては、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等から重合方法に応じて選択される。
アゾ系開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)等が挙げられる。
過酸化物系開始剤としては、例えば、
ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート系化合物;
t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;
過酸化アセチル;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。
レドックス系開始剤としては、例えば上記過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせた重合開始剤等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択される。例えば重合開始剤にアゾビスイソブチロニトリル或いは過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル類に対して0.01モル%以上0.2モル%以下が好ましく、0.02モル%以上0.15モル%以下がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温以上150℃以下程度が通常であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
重合開始剤としては、これらの中で、重合容易性の観点からアゾ系開始剤が好ましく、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。
上記共重合は、本発明の効果が得られる限り、連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
連鎖移動剤としては、例えば、
アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;
ホスフィン酸ナトリウム一水和物等のホスフィン酸塩類等である。これらの中では、アルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。
重合系への連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする変性PVAの重合度などに応じて決定されるが、一般にビニルエステル類100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下が好ましい。
(けん化工程)
本工程では、上記ビニルエステル類及び上記不飽和単量体に由来する単位をけん化することで、当該変性PVAを得ることができる。
具体的には、上記共重合により得られたビニルエステル系共重合体をけん化することにより、ビニルアルコール単位、エチレン単位及び式(1)で表される単位を含む当該変性PVAを得ることができる。上記ビニルエステル系共重合体をけん化することによって、共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、上記不飽和単量体に由来する単位のエステル結合も加水分解され、式(1)で表される1,3−ジオール構造に変換される。従って、当該変性PVAは、けん化後、さらに加水分解等の反応を行わなくても製造することができる。
変性ビニルエステル系共重合体のけん化は、例えばビニルアルコール又は含水アルコールに当該共重合体が溶解した状態で行うのがよい。けん化に使用するアルコールは、例えばメタノール、エタノール等の低級アルコールであり、好ましくはメタノールである。けん化に使用するアルコールは、その質量の40質量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼン等の溶媒を含んでもよい。けん化に使用する触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒、鉱酸等の酸触媒である。けん化を行う温度は限定されないが、20℃以上60℃以下の範囲が好適である。けん化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、ヒドロキシメチル基含有ビニルアルコール系重合体を得ることができる。けん化方法は、前述した方法に限らず公知の方法を適用できる。
当該変性PVAにおけるビニルアルコール単位、エチレン単位、下記式(1)で表される単位等の配列順序には特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互等のいずれであってもよい。その中でも、本発明の効果を最大限に発揮する観点からブロック又は交互であることが好ましく、製造の容易性の観点からブロックがより好ましい。
当該変性PVAのJIS K 6726:1994に準拠したけん化度(即ち、変性PVAにおける水酸基とエステル基との合計に対する水酸基のモル分率)は特に限定されないが、皮膜の耐水性の観点から、好ましくは80モル%以上99.9モル%以下であり、より好ましくは90モル%以上99.5モル%以下である。けん化度が80モル%未満になると、皮膜の耐水性及び高温での熱成形性が不十分となるおそれがある。一方、けん化度が99.9モル%より高いPVAは、一般に製造が難しくなるおそれがある。
当該変性PVAのJIS K 6726:1994に準拠した粘度平均重合度は特に限定されないが、好ましくは200以上5000以下であり、より好ましくは300以上4000以下であり、さらに好ましくは300以上3000以下である。粘度平均重合度が200未満になると、高温での熱成形性が不十分となるおそれがある。粘度平均重合度が5000を超えると、当該変性PVAを工業的に製造することが困難となるおそれがある。
当該変性PVAには、さらに、充填剤、銅化合物等の加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤等の添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
当該変性PVAは、その特性を利用して単独で又は他の成分を添加した組成物として、成形、紡糸、エマルジョン化等の公知方法に従い、PVAが用いられる各種用途に使用可能である。例えば各種用途の界面活性剤;各種のコーティング剤;紙用内添剤及び顔料バインダー;塗料;経糸糊剤;繊維加工剤;ポリエステル等の疎水性繊維の糊剤;各種フィルム、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜等に使用できる。
当該変性PVAを成形する方法は限定されない。成形方法は、例えば当該重合体の溶媒である水又はジメチルスルホキシド等に溶解した溶液の状態から成形する方法(例えばキャスト成形法);加熱により当該重合体を可塑化して熱成形する方法(例えば押出成形法、射出成形法、インフレ成形法、プレス成形法、ブロー成形法)等である。これらの成形方法により、フィルム、シート、チューブ、ボトル等の任意の形状を有する成形体が得られる。当該変性PVAは、単位(1)を有することにより、変性PVAの結晶性が低下するため、低温での熱成形することが可能となる点からも有用である。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
H−NMR]
変性PVAの一次構造については、500MHz H−NMRにより定量した。H−NMR測定時の変性PVAの溶媒はDMSO−dを用いた。
[粘度平均重合度]
粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準拠して測定した。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](g/dl)から次式により求めた粘度平均重合度(P)で表す。

P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
[けん化度]
けん化度はJIS K 6726:1994に準拠して測定した。
[皮膜の水溶性]
濃度4%の変性PVA水溶液を調製し、それをPETフィルム上に流延した後20℃で1週間乾燥させ、さらに真空乾燥機で一晩乾燥させることで、厚み40μmの皮膜を得た。1Lのイオン交換水を加えた1Lのビーカーを20℃に温度制御したバスに浸し、長さ30mmのテフロン(登録商標)製マグネティックスターラーチップで300rpmの回転速度で攪拌しているところに、金属枠で固定した上記皮膜(サイズ:40mm×40mm、厚み40μm)を投入し、完全に溶解する時間を測定し、以下の3段階で評価した。
A:15分以内に完全溶解する。
B:30分以内に完全溶解する。
C:30分以上経過しても完全溶解しない。
[皮膜の耐水性]
濃度10質量%に調製した変性PVA水溶液を50℃でキャスト製膜して50μmの皮膜を作製した。得られた皮膜の一部を120℃で10分間熱処理を行った。熱処理後の皮膜を20℃の水中に24時間浸漬後に取り出し、手で皮膜をこすった感触を以下の5段階で評価した。
A:膜は乾燥時と同一の感触で、しっかりしている。
B:膜は比較的しっかりしているが、ややヌメリ感がある。
C:膜は残っているが、ヌルヌルした感触がある。
D:膜は一部残っているが、取り出すことができない。
E:膜は完全に溶解している。
[熱成形性]
下記2通りの成形温度条件で押出しすることにより変性PVAペレットを製造し、下記の評価項目で成形中の熱成形性を評価した。
・ペレット化条件
押出機:株式会社東洋精機製作所製 ラボプラストミル
スクリュー:2軸同方向、25mmφ、L/D=26
吐出量:3.0kg/hr
(1)ペレット化高温条件
設定温度(シリンダー部):230℃
設定温度(ダイ部):130℃
A:成形中に全く発煙を生じず、分解臭なし。
B:成形にさしつかえない程度の発煙を生じるが、分解臭なし。
C:成形中に発煙を生じ、やや分解臭がする。
D:成形中にかなり発煙を生じ、分解臭が発生する。
E:成形中に激しく発煙を生じ、分解臭が激しく成形できない。
(2)ペレット化低温条件
設定温度(シリンダー部):200℃
設定温度(ダイ部):110℃
A:未溶解物がない。
B:成形にさしつかえない程度の微量の未溶解物が含まれる。
C:成形はできるものの、未溶解物がやや多量に含まれている。
D:未溶解物が多量に含まれ、成形に使用できない。
[実施例1](変性PVAの製造)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口及びディレー溶液添加口を備えた250L加圧反応槽に酢酸ビニル107.2kg、メタノール42.8kg、コモノマーとして1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン(DAMP)0.54kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2となるようにエチレンを導入仕込みした。ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度0.3g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液98mLを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cm2に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて310mL/hrでAMVを、連続添加して重合を実施した。4時間後に重合率が40%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニル(以下、「PVAc」ともいう。)のメタノール溶液とした。次に、これにメタノールを加えて調製したPVAcのメタノール溶液497質量部(溶液中のPVAc100質量部)に、14.0質量部の水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度10.0%)を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液のPVAc濃度30%、PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.100)。アルカリ添加後約1分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体の変性PVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた変性PVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥された変性PVAを得た。得られた変性PVAは粘度平均重合度1000、けん化度98.5モル%、エチレン変性率(エチレン単位の含有率)7モル%、1,3−ジオール変性率(単位(1)の含有率)0.9モル%であった。
当該変性PVAについて皮膜の水溶性及び耐水性、並びに熱成形性を評価した。評価結果を表2に示す。
[実施例2〜7、比較例1〜3]
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時のエチレン圧、重合時に使用するコモノマーの種類や添加量等の重合条件、けん化時におけるPVAcの濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により各種変性PVAを製造した。各変性PVAの物性を表2に示す。
Figure 2015034262
Figure 2015034262
実施例1〜7から明らかなように、本発明のエチレン単位及び単位(1)を有する変性PVA(実施例1〜7)は、水溶性、皮膜の耐水性及び熱成形性に優れ、さらには低温での熱成形が可能であることが分かる。一方、単位(1)を有さない場合(比較例1)は、水溶性が不十分である。また、他の変性種を用いた場合(比較例2及び3)は、水溶性や熱成形性が不十分であった。
当該変性PVAは、エチレン単位及び単位(1)を有するため、皮膜の水溶性及び耐水性に優れ、熱成形性、特に低温での熱成形性が改善されている。このような当該変性PVAは、例えば、紙用コーティング剤、紙用内添剤及び顔料バインダー等の紙用改質剤、木材、紙、アルミ箔及び無機物等の接着剤、不織布バインダー、塗料、経糸糊剤、繊維加工剤、ポリエステル等の疎水性繊維の糊剤、バリアフィルム及びバリアコーティング、その他各種フィルム、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜等に使用できる。

Claims (4)

  1. ビニルアルコール単位、エチレン単位及び下記式(1)で表される単位を含み、
    上記エチレン単位の含有率が1モル%以上15モル%以下である変性ビニルアルコール系重合体。
    Figure 2015034262
  2. 上記式(1)で表される単位の含有率が0.1モル%以上30モル%以下である請求項1に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
  3. けん化度が80モル%以上99.9モル%以下である請求項1又は請求項2に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
  4. 粘度平均重合度が200以上5000以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
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