(実施形態1)
(エレクトロクロミック表示素子の構造)
図1に、本実施形態に係るエレクトロクロミック表示素子20の構造の一例を示す。
エレクトロクロミック表示素子20は、表示基板21、第1の表示電極22、第1のエレクトロクロミック層23、第1の絶縁層24、第2の表示電極25、第2エレクトロクロミック層26、第2の絶縁層27、第3の表示電極28、第3のエレクトロクロミック層29、電解質層30、白色反射層31、電荷保持層32、対向電極33、駆動素子層34、対向基板35、壁部材36を含む。
図1に示す様に、エレクトロクロミック表示素子20は、対向する2枚の基板の間に、白色反射層、複数のエレクトロクロミック層を有しており、基板間を、電解質層30で充填している。また、図1には明記されていないが、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子、白色反射層に含まれる酸化チタン粒子は、金属水酸化物で被覆されている。
表示基板21側の詳細な構造として、表示基板21に接して第1の表示電極22が設けられている。更に、第1の表示電極22に接して第1のエレクトロクロミック層23が設けられている。更に、第1のエレクトロクロミック層23と第2の表示電極25との間には、第1の絶縁層24が設けられている。更に、第2の表示電極25に接して第2エレクトロクロミック層26が設けられている。更に、第2エレクトロクロミック層26と第3の表示電極28との間には、第2の絶縁層27が設けられている。更に、第3の表示電極28に接して第3のエレクトロクロミック層29が設けられている。
一方、対向基板35側の詳細な構造として、対向基板35に接して駆動素子層34が設けられている。更に、駆動素子層34に接して対向電極33が設けられている。対向電極33は、駆動素子層34に含まれる各駆動素子に対応してそれぞれ設けられている。更に、対向電極33に接して電荷保持層32が設けられている。
なお、白色反射層31は、第3のエレクトロクロミック層29に接して形成されても良いし、電荷保持層32に接して形成されても良い。
表示基板21は、第1の表示電極22、第1のエレクトロクロミック層23、第1の絶縁層24、第2の表示電極25、第2エレクトロクロミック層26、第2の絶縁層27、第3の表示電極28、第3のエレクトロクロミック層29等の積層構造を支持するための基板である。
表示基板21の材料としては、透光性を有する材料であることが好ましい。例えば、ガラス、プラスチックフィルム等が挙げられる。
第1の表示電極22は、該電極と対向電極33との間に生じる電圧により、第1のエレクトロクロミック層23を発色或いは消色させる。第2の表示電極25は、該電極と対向電極33との間に生じる電圧により、第2のエレクトロクロミック層26を発色或いは消色させる。第3の表示電極28は、該電極と対向電極33との間に生じる電圧により、第3のエレクトロクロミック層29を発色或いは消色させる。各エレクトロクロミック層での発色は、対向電極33と各表示電極との間に生じるこれらの電圧の大きさによって定まるため、該電圧により、各エレクトロクロミック層の色の諧調は変化する。
第1の表示電極22、第2の表示電極25、及び第3の表示電極の材料としては、透光性を有する導電性材料であることが好ましい。例えば、スズがドープされた酸化インジウム(ITO)、フッ素がドープされた酸化スズ(FTO)、アンチモンがドープされた酸化スズ(ATO)等の無機材料が挙げられる。また、InSnO、GaZnO、SnO、In2O3、ZnO等を用いることが特に好ましい。
第1のエレクトロクロミック層23は、エレクトロクロミック化合物23a、エレクトロクロミック化合物を担持する金属酸化物(酸化チタン)のナノ粒子23b、金属酸化物のナノ粒子23bの表面を被覆する金属水酸化物23cを含む(図2参照)。図2に示す様に、金属酸化物のナノ粒子23bにエレクトロクロミック化合物23aの単分子を吸着させることで、金属酸化物23bのナノ粒子の大きな表面積を利用して、効率良くエレクトロクロミック化合物23aに電子を注入することができる。従って、エレクトロクロミック化合物23aの発色時の色濃度を高くし、発色及び消色の切り替え速度を高速にすることができる。
エレクトロクロミック化合物23aは、第1の表示電極22と対向電極33との間に生じる電圧により、酸化還元反応を生じ、発色或いは消色する(可逆反応)。エレクトロクロミック化合物23aの単分子の長さは、5nm程度以下であることが好ましい。
金属酸化物のナノ粒子23bは、エレクトロクロミック化合物23aを担持する。金属酸化物のナノ粒子23bの粒径は、5nm〜100nm程度であることが好ましく、特に20nm程度であることが好ましい。金属酸化物のナノ粒子23bの粒径を、5nm〜100nm程度とすることにより、第1のエレクトロクロミック層23を透明な層とすることができる。即ち、反射型表示素子においては、発色していないときに高い白反射率を得ることができる。また透過型表示素子においては発色時には鮮やかな色が得られ、消色時には無色透明の状態が得られる。
金属水酸化物23cは、酸化チタンのナノ粒子の表面を被覆し、酸化チタンの光触媒活性を抑制する。金属水酸化物23cの膜厚は、0.2nm以上4.0nm以下であることが好ましい。金属水酸化物23cが、酸化チタンの光触媒活性を抑制する理由であるが、酸化チタンのナノ粒子の表面を、金属水酸化物により被覆することで、酸化チタンのナノ粒子と金属水酸化物との界面で発生するフリーラジカルを、失活(不活性化)させることができるためであると考えられる。酸化チタンの光触媒活性を抑制した結果、エレクトロクロミック表示素子の耐光性を改善できることは、後述する実験結果により示唆される。
なお、図1において、金属酸化物のナノ粒子23bは、1種類のエレクトロクロミック化合物23aを担持した構造を有しているが、金属酸化物のナノ粒子23bは、複数種類のエレクトロクロミック化合物を担持することも可能である。
第2のエレクトロクロミック層26及び第3のエレクトロクロミック層29も、第1のエレクトロクロミック層23と同様に、エレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック化合物を担持する酸化チタンのナノ粒子、酸化チタンのナノ粒子の表面を被覆する金属水酸化物を含む。
第2のエレクトロクロミック層26及び第3のエレクトロクロミック層29に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面を、金属水酸化物により被覆することで、酸化チタンの光触媒活性を抑制できる。従って、全てエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面を、金属水酸化物により被覆し、酸化チタンの光触媒活性を抑制することで、エレクトロクロミック表示素子の耐光性を改善できる。
なお、図2では、理想的な状態として金属酸化物のナノ粒子23bにエレクトロクロミック化合物23aの単分子を吸着させた構造を示しているが、該構造に限定されない。エレクトロクロミック化合物23aが移動しないよう高密度に固定される構造であれば良い。また、エレクトロクロミック化合物23aの酸化還元反応に伴う電子の授受が妨げられないように、第1のエレクトロクロミック層23と第1の表示電極22との電気的な接続が確保される構造であれば良い。また、エレクトロクロミック化合物23aと金属酸化物のナノ粒子23bとは混合されて単一層となっていても良い。第2のエレクトロクロミック層26及び第3のエレクトロクロミック層29の場合も同様である。
金属酸化物の材料としては、本明細書では、酸化チタンを用いている。これは、酸化チタンが、エレクトロクロミック化合物の担持粒子、及び白色反射層の材料として、好適に用いられ、且つ、現在、代表的な光触媒活性物質として、広く用いられているためである。しかしながら、金属酸化物の材料は、酸化チタンに限定されるものではない。今後、エレクトロクロミック表示素子に適用され、その粒子を金属水酸化物により被覆することで、耐光性を高められる光触媒活性物質が実用化された場合、このような物質も範疇に含むものとする。
金属水酸化物の材料としては、酸化チタンナノ粒子の光触媒活性の抑制を効果的に高められる材料であれば、特に限定されないが、水酸化鉄、水酸化アルミニウム等が挙げられる。水酸化アルミニウムを用いることが特に好ましい。
エレクトロクロミック化合物の材料としては、色素系、ポリマー系、金属錯体系、金属酸化物系等の公知のエレクトロクロミック化合物材料を用いることができる。
例えば、色素系及びポリマー系のエレクトロクロミック化合物として、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、また、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物が挙げられる。更に、これらの材料は、ビオロゲン系化合物(例えば、特許3955641号公報、特開2007−171781号公報参照)又はジピリジン系化合物(例えば、特開2007−171781号公報、特開2008−116718号公報参照)を含むことが好ましい。ビオロゲン系化合物又はジピリジン系化合物を含ませることで、表示電極及び対向電極に印加する電圧が低くても、発色時及び消色時に、エレクトロクロミック化合物が良好な色値を示すことができる。
また、例えば、金属酸化物系のエレクトロクロミック化合物として、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化インジウム、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化バナジウム、プルシアンブルー等が挙げられる。
なお、エレクトロクロミック表示素子20内の、各エレクトロクロミック層におけるエレクトロクロミック化合物に用いられる材料は、全て酸化発色材料であるか、或いは、全て還元発色材料である、という様に統一されることが好ましい。
第1の絶縁層24は、第1のエレクトロクロミック層23が設けられた第1の表示電極22と、第2エレクトロクロミック層26が設けられた第2の表示電極25とが、電気的に絶縁されるように、これらを隔離する。
第2の絶縁層27は、第2エレクトロクロミック層26が設けられた第2の表示電極25と、第3のエレクトロクロミック層29が設けられた第3の表示電極28とが、電気的に絶縁されるように、これらを隔離する。
なお、第1の表示電極22と第2の表示電極25との間の電極間抵抗を大きくすることができるのであれば、第1の絶縁層24は設けなくても良い。例えば、第1のエレクトロクロミック層23の膜厚を大きくすることで、第1の表示電極22と第2の表示電極25との間の電極間抵抗を大きくすることは可能である。同様に、第2の表示電極25と第3の表示電極28との間の電極間抵抗を大きくすることができるのであれば、第2の絶縁層27は設けなくても良い。
これらの絶縁層を設けることで、各エレクトロクロミック層での発色は及び消色を個別に制御することができるため、高精細なフルカラー表示が可能になる。
絶縁層の材料としては、多孔質の絶縁体であれば良く、特に限定されるものではないが、絶縁性及び耐久性が高く、成膜性に優れた材料であることが好ましい。少なくともZnSを含む材料であることが好ましい。ZnSは、スパッタリングによる高速成膜が可能であるためである。また、ZnSは、成膜時にエレクトロクロミック層に与えるダメージを低減することができるためである。例えば、ZnS−SiO2、ZnS−SiC、ZnS−Si、ZnS−Ge等を用いることが好ましい。
対向基板35は、駆動素子層34、対向電極33、電荷保持層32等の積層構造を支持するための基板である。
対向基板35の材料としては、透光性を有する材料であることが好ましい。例えば、ガラス、プラスチックフィルム等が挙げられる。
対向電極33は、各表示電極との間に生じる電圧に基づいて、第1のエレクトロクロミック層23、第2エレクトロクロミック層26、及び第3のエレクトロクロミック層29を発色或いは消色させる。
対向電極33の材料としては、導電性を有する材料であれば、特に限定されない。例えば、透光性を有する導電性材料として、ITO、FTO、酸化亜鉛等が挙げられる。また、導電性金属材料として、亜鉛、白金等が挙げられる。また、カーボン等を用いても良い。
駆動素子層34は、複数の駆動素子を含み、選択された画素に応じて、駆動素子を駆動する。なお、画素密度と、駆動素子の数は、比例する。
電荷保持層32は、各表示電極と対向電極33との間に印加される電圧によって生じる電荷の授受を緩和する。電荷保持層32を設けることで、各エレクトロクロミック層における発色及び消色の繰り返し耐久性を改善することができる。繰り返し耐久性を高めることで、エレクトロクロミック表示素子を用いた表示装置において高精細な表示が可能になる。
電荷保持層32の材料としては、導電体微粒子材料或いは半導体微粒子材料(微粒子材料)と、ポリマー材料との混合材料を用いることができる。
ポリマー材料として、特別な制約は無いが、例えば、アクリル系、アルキド系、フッ素系、イソシアネート系、ウレタン系、アミノ系、エポキシ系、フェノール系等が挙げられる。
導電体微粒子として、例えば、ITO、FTO、ATO等が挙げられる。
半導体微粒子として、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、銀、亜鉛、ストロンチウム、鉄、ニッケル等の酸化物が挙げられる。
なお、各エレクトロクロミック層におけるエレクトロクロミック化合物に用いられる材料が、いずれも酸化発色材料である場合、ポリマー材料と混合する微粒子材料として、ATOを用いることが特に好ましい。また、各エレクトロクロミック層におけるエレクトロクロミック化合物に用いられる材料が、いずれも還元発色材料である場合、ポリマー材料と混合する微粒子材料として、酸化タングステンを用いることが特に好ましい。酸化発色材料である場合に、ATOを、還元発色材料である場合に、酸化タングステンを用いることで、エレクトロクロミック表示素子の駆動電圧を低下させ、繰り返し耐久性を向上させることができる。
壁部材36は、各表示電極、各エレクトロクロミック層及び白色反射層31を取り囲む。壁部材36の材料としては、アクリレート系(ラジカル重合型)、エポキシ系(カチオン重合型)などの紫外線硬化樹脂材料、エポキシ系、フェノール系、メラミン系などの熱硬化樹脂材料を用いることができる。
白色反射層31は、エレクトロクロミック表示素子20において、白色の反射率を向上させるためのものである。白色反射層31は、酸化チタン粒子、及び酸化チタン粒子の表面を被覆する金属水酸化物を含む。なお、酸化チタン粒子の表面を金属水酸化物で被覆しない構造とすることもできるが、特に、反射型表示において、エレクトロクロミック表示素子20の白色の反射率をより高めるためには、被覆する構造とする方が好ましい。
酸化チタン粒子の粒径は、200nm〜3μm程度であることが好ましく、特に300nm程度であることが好ましい。
酸化チタン粒子を被覆する金属水酸化物の膜厚は、0.2nm以上4.0nm以下であることが好ましい。
白色反射層31に含まれる酸化チタン粒子の表面を、金属水酸化物により被覆することで、酸化チタンの光触媒活性を抑制できる。また、白色反射層31に含まれる酸化チタン粒子の表面を、金属水酸化物で被覆することにより、白色反射層31に含まれる酸化チタンの光触媒活性を抑制した結果、エレクトロクロミック表示素子の耐光性を改善できることは、後述する実験結果により示唆される。
金属水酸化物の材料としては、酸化チタン粒子の光触媒活性の抑制を効果的に高められる材料であれば、特に限定されないが、水酸化鉄、水酸化アルミニウム等が挙げられる。水酸化アルミニウムを用いることが特に好ましい。
電解質層30は、対向基板35と、周りが壁部材36で囲まれた表示基板21との間に生じるスペースを充填する。電解質層30は、各エレクトロクロミック層が電解質層30中に含まれるように、該スペースを充填する。電解質層30は、第1の表示電極22、第2の表示電極25、又は第3の表示電極28と、対向電極33との間で電荷を移動させ、第1のエレクトロクロミック層23、第2エレクトロクロミック層26、及び第3のエレクトロクロミック層29の、発色或いは消色を促す。
電解質層30の材料としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩等を用いることができる。
例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2等が挙げられる。
また、電解質層30の材料としては、イオン性液体を用いることもできる。有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造を有しているため、用いることが好ましい。
例えば、カチオン成分として、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩、等のイミダゾール誘導体が挙げられる。また、N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩、等のピリジニウム誘導体が挙げられる。また、トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩、等の脂肪族4級アンモニウム系が挙げられる。
また、例えば、アニオン成分として、大気中での安定性を考慮して、フッ素を含んだ化合物を用いることが好ましい。例えば、BF4−、CF3SO3−、PF4−、(CF3SO2)2N−、等が挙げられる。
即ち、電解質層30の材料としては、カチオン成分とアニオン成分とを任意に組み合わせたイオン性液体を用いることが好ましい。該イオン性液体は、光重合性モノマー、オリゴマー、及び液晶材料のいずれかに直接溶解させても良い。なお、溶解性が悪い場合は、少量の溶媒(例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、−ジメトキシエタン、−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類など)に溶解させ、該溶液を光重合性モノマー、オリゴマー、及び液晶材料のいずれかと混合して用いれば良い。
更に、保護層を、第1のエレクトロクロミック層23及び第2エレクトロクロミック層26の各々の表示基板21と反対側の面に接するように、設けても良い。保護層を設けることで、第1のエレクトロクロミック層23及び第2エレクトロクロミック層26の各々の隣接層(例えば、第1の絶縁層24、第2の絶縁層27等)との密着性、溶剤に対する耐溶解性、等を向上させ、エレクトロクロミック表示素子20の耐久性を向上させることができる。
保護層の材料としては、有機高分子材料を用いることが好ましい。例えば、ポリビニルアルコール、ポリNビニルアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレンなど一般的な樹脂が挙げられる。
また、無機保護層を、第3のエレクトロクロミック層29と電解質層30との間に設けても良い。無機保護層を設けることで、第3のエレクトロクロミック層29の電解質層30に対する耐溶解性、耐食性、等を向上させ、エレクトロクロミック表示素子20の耐久性を向上させることができる。
なお、図1に示すエレクトロクロミック表示素子20は、第1のエレクトロクロミック層23、第2エレクトロクロミック層26、第3のエレクトロクロミック層29、の3つのエレクトロクロミック層を有しているが、特に限定されない。フルカラー画像表示ではなく、モノクロ画像表示を目的とする場合には、例えば、図3に示すエレクトロクロミック表示素子20Aの様に、1つのエレクトロクロミック層のみを有していても良い。
上述のエレクトロクロミック表示素子20によれば、エレクトロクロミック化合物の担持粒子として用いられる酸化チタンのナノ粒子の表面を、金属水酸化物で被覆することで、酸化チタンの光触媒活性を抑制し、反射型表示及び透過型表示のどちらの場合であっても、エレクトロクロミック表示素子の耐光性を高めることができる。加えて、白色反射層の材料として用いられる酸化チタン粒子の表面を、金属水酸化物で被覆することで、特に、反射型表示において、白反射率を高めることができる。
(エレクトロクロミック表示素子の多色表示)
次に、エレクトロクロミック表示素子の多色表示について説明する。
図1に示すエレクトロクロミック表示素子20は、上述の構造を有することにより、容易に多色表示が可能である。
エレクトロクロミック表示素子20において、第1のエレクトロクロミック層23は、シアン色を発色し、第2エレクトロクロミック層26は、マゼンタ色を発色し、第3のエレクトロクロミック層29は、イエロー色を発色する。
第1の表示電極22と第2の表示電極25とが、第1の絶縁層24を介して隔離して設けられているため、エレクトロクロミック表示素子20は、対向電極33と第1の表示電極22との間に生じる電圧と、対向電極33と第2の表示電極25との間に生じる電圧とを独立して制御することができる。
また、第2の表示電極25と第3の表示電極28とが、第2の絶縁層27を介して隔離して設けられているため、エレクトロクロミック表示素子20は、対向電極33と第2の表示電極25との間に生じる電圧と、対向電極33と第3の表示電極28との間に生じる電圧とを独立して制御することができる。
つまり、エレクトロクロミック表示素子20は、第1の表示電極22に接して設けられた第1のエレクトロクロミック層23と、第2の表示電極25に接して設けられた第2エレクトロクロミック層26と、第3の表示電極28に接して設けられた第3のエレクトロクロミック層29とを、それぞれ独立して発色或いは消色させることができる。
その結果、エレクトロクロミック表示素子20は、対向電極及び各表示電極に印加される電圧に基づき、各エレクトロクロミック層を、任意に発色或いは消色させることができる。例えば、第1のエレクトロクロミック層23のみの発色、第2エレクトロクロミック層26のみの発色、第1のエレクトロクロミック層23及び第3のエレクトロクロミック層29のみの発色等、多段階の発色パターンで任意に発色させることができる。また、各エレクトロクロミック層が発色する色、色濃度、明るさ、等を対向電極及び各表示電極に印加される電圧に基づき、適宜調整し、所望の多色表示を行うことができる。
なお、エレクトロクロミック表示素子20において、第1のエレクトロクロミック層23が発色する色は、シアン色に限定されない。また、第2エレクトロクロミック層26が発色する色は、マゼンタ色に限定されない。また、第3のエレクトロクロミック層29が発色する色は、イエロー色に限定されない。
エレクトロクロミック表示素子20は、各エレクトロクロミック層に含まれるエレクトロクロミック化合物の担持粒子として、酸化チタンを用いているため、発色或いは消色の応答速度に優れた多色表示を行うことができる。また、エレクトロクロミック表示素子20は、各エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面を、金属水酸化物で被覆しているため、酸化チタンの光触媒活性を抑制し、優れた耐光性を維持することができる。これより、エレクトロクロミック表示素子20は、高精細、且つ高コントラストを維持しつつ耐光性に優れたフルカラー表示(多色表示)を実現できる。
(エレクトロクロミック表示素子の製造方法)
次に、図4を用いてエレクトロクロミック表示素子20の製造方法の一例について説明する。
エレクトロクロミック表示素子20の製造方法は、図4のステップS11からステップS23に示される様に、表示電基板21上に第1の表示電極22を形成する第1の表示電極形成工程(ステップS11)と、その上に第1のエレクトロクロミック層23を形成する第1のエレクトロクロミック層形成工程(ステップS12)と、その上に第1の絶縁層24を形成する第1の絶縁層形成工程(ステップS13)と、その上に第2の表示電極25を形成する第2の表示電極形成工程(ステップS14)と、その上に第2のエレクトロクロミック層26を形成する第2のエレクトロクロミック層形成工程(ステップS15)と、その上に第2の絶縁層27を形成する第2の絶縁層形成工程(ステップS16)と、その上に第3の表示電極28を形成する第3の表示電極形成工程(ステップS17)と、その上に第3のエレクトロクロミック層29を形成する第3のエレクトロクロミック層形成工程(ステップS18)と、その上に白色反射層31を形成する白色反射層形成工程(ステップS19)と、対向基板35上に駆動素子層34を形成する駆動素子層形成工程(ステップS20)と、その上に対向電極33を形成する対向電極形成工程(ステップS21)と、その上に電荷保持層32を形成する電荷保持層形成工程(ステップS22)と、表示基板21と対向基板35とを貼合せる貼合せ工程(ステップS23)とを有する。
(第1の表示電極形成工程)
まず、図4のステップS11に示される第1の表示電極形成工程を行う。
表示基板21(例えば、縦40mm×横40mmのガラス基板)上に、スパッタ法を用いて、膜厚が約100nm、表面抵抗が約200Ω/□のITO膜を成膜し、第1の表示電極22を形成する。
成膜法としては、スパッタ法に限定されず、イオンプレーティング法等、その他の真空成膜法を適用することができる。
(第1のエレクトロクロミック層形成工程)
次に、図4のステップS12に示される第1のエレクトロクロミック層形成工程を行う。
まず、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタンのナノ粒子の分散液を、第1の表示電極22上に、スピンコート法により塗布する。その後、第1の表示電極22と酸化チタンのナノ粒子、及び酸化チタンのナノ粒子同士が部分的に接合するように、120℃で15分間のアニール処理を行う。これより、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタンのナノ粒子を多数含む酸化チタン粒子膜を形成する。
酸化チタンと水酸化アルミニウムの重量比は、88.3%:11.7%である。また、酸化チタンのナノ粒子の粒径は、20nmである。
その後、酸化チタン粒子膜上に、エレクトロクロミック化合物4,4'-(isooxazole-3,5-diyl)bis(1-(2-phosphonoethyl)pyridinium)bromideを1wt%含む2,2,3,3-テトラフロロプロパノール(以下「TFP」と記載)溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間のアニール処理を行う。これより、酸化チタン粒子膜とエレクトロクロミック化合物からなる第1のエレクトロクロミック層23を形成する。
その後、第1のエレクトロクロミック層23上に、ポリNビニルアミドを0.1wt%含むエタノール溶液、ポリビニルアルコールを0.5wt%含む水溶液を、スピンコート法により塗布することによって、保護層を形成する。
(第1の絶縁層形成工程)
次に、図4のステップS13に示される第1の絶縁層形成工程を行う。
保護層上に、スパッタ法を用いて、膜厚が約140nmのZnS−SiO2膜を成膜し、第1の絶縁層24を形成する。ZnSとSiO2の組成比は、8:2である。
成膜法としては、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の真空成膜法を適用することができる。
(第2の表示電極形成工程)
次に、図4のステップS14に示される第2の表示電極形成工程を行う。
第1の絶縁層24上に、スパッタ法を用いて、膜厚が約100nm、表面抵抗が約200Ω/□のITO膜を成膜し、第2の表示電極25を形成する。
(第2のエレクトロクロミック層形成工程)
次に、図4のステップS15に示される第2のエレクトロクロミック層形成工程を行う。
まず、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタンのナノ粒子の分散液を、第2の表示電極25上に、スピンコート法により塗布する。その後、第2の表示電極25と酸化チタンのナノ粒子、及び酸化チタンのナノ粒子同士が部分的に接合するように、120℃で15分間のアニール処理を行う。これより、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタンのナノ粒子を多数含む酸化チタン粒子膜を形成する。
酸化チタンと水酸化アルミニウムの重量比は、88.3%:11.7%である。また、酸化チタンのナノ粒子の粒径は、20nmである。
その後、酸化チタン粒子膜上に、エレクトロクロミック化合物4,4'-(1-phenyl-1H-pyrrole-2,5-diyl)bis(1-(4-phosphonomethyl)benzyl)pyridinium)bromideを1wt%含むTFP溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間のアニール処理を行う。これより、酸化チタン粒子膜とエレクトロクロミック化合物からなる第2のエレクトロクロミック層26を形成する。
その後、第2のエレクトロクロミック層26上に、ポリNビニルアミドを0.1wt%含むエタノール溶液、ポリビニルアルコールを0.5wt%含む水溶液を、スピンコート法により塗布することによって、保護層を形成する。
(第2の絶縁層形成工程)
次に、図4のステップS16に示される第2の絶縁層形成工程を行う。
保護層上に、スパッタ法を用いて、膜厚が約140nmのZnS−SiO2膜を成膜し、第2の絶縁層27を形成する。ZnSとSiO2の組成比は、8:2である。
成膜法としては、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の真空成膜法を適用することができる。
(第3の表示電極形成工程)
次に、図4のステップS17に示される第3の表示電極形成工程を行う。
第2の絶縁層27上に、スパッタ法を用いて、膜厚が約100nm、表面抵抗が約200Ω/□のITO膜を成膜し、第3の表示電極28を形成する。
(第3のエレクトロクロミック層形成工程)
次に、図4のステップS18に示される第3のエレクトロクロミック層形成工程を行う。
まず、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタンのナノ粒子の分散液を、第3の表示電極28上に、スピンコート法により塗布する。その後、第3の表示電極28と酸化チタンのナノ粒子、及び酸化チタンのナノ粒子同士が部分的に接合するように、120℃で15分間のアニール処理を行う。これより、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタンのナノ粒子を多数含む酸化チタン粒子膜を形成する。
酸化チタンと水酸化アルミニウムの重量比は、88.3%:11.7%である。また、酸化チタンのナノ粒子の粒径は、20nmである。
その後、酸化チタン粒子膜上に、エレクトロクロミック化合物4,4'-(4,4'-(1,3,4-oxadiazole-2,5-diyl)bis(4,1-phenylene))bis(1-(8-phosphonooctyl)pyridinium)bromideを1wt%含むTFP溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間のアニール処理を行う。これより、酸化チタン粒子膜とエレクトロクロミック化合物からなる第3のエレクトロクロミック層29を形成する。
(白色反射層形成工程)
次に、図4のステップS19に示される白色反射層形成工程を行う。
まず、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタン粒子、及び水性ポリウレタン樹脂のTFP分散液を、第3のエレクトロクロミック層29上に、スピンコート法により塗布する。その後、120℃で10分間のアニール処理を行う。これより、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタン粒子を多数含む白色反射層31を形成する。
酸化チタンと水酸化アルミニウムの重量比は、91.1%:8.9%である。また、酸化チタン粒子の粒径は、300nmである。
その後、第1の表示電極22、第2の表示電極25、第3の表示電極28、第1のエレクトロクロミック層23、第2のエレクトロクロミック層26、第3のエレクトロクロミック層29、白色反射層31を、壁部材36(図1参照)で取り囲む。
(駆動素子層形成工程)
次に、図4のステップS20に示される駆動素子層形成工程を行う。
対向基板35(例えば、縦40mm×横40mmのガラス基板)上に、画素密度が140ppi(Pixels per Inch)となる様に、複数の駆動素子を有する駆動素子層34を、公知の工程により形成する。
(対向電極形成工程)
次に、図4のステップS21に示される対向電極形成工程を行う。
対向基板35上に、スパッタ法を用いて、膜厚が約100nmのITO膜を成膜する。その後、フォトリソグラフィにより、駆動素子層34が有する複数の駆動素子に対応させて、複数の対向電極35を形成する。
(電荷保持層形成工程)
次に、図4のステップS22に示される電荷保持層形成工程を行う。
電荷保持層32は、ポリマー材料と微粒子材料とを混合して分散媒に分散させ、スピンコーティング法により、該混合材料を、駆動素子層34及び対向電極33上に塗布することで形成される。
具体的には、駆動素子層34及び対向電極35上に、水性ポリウレタン樹脂及びATOナノ粒子のTFP分散液をスピンコート法により塗布する。その後、120℃で15分間のアニール処理を行うことにより、膜厚が約640nm、表面抵抗が約1.0E+06Ω/□の電荷保持層32を形成する。
水性ポリウレタン樹脂とATOの重量比は、55%:45%である。
塗布法としては、スピンコーティング法、ブレードコーティング法等、その他の印刷手法を適用することができる。
なお、水性ポリウレタン樹脂及びATOナノ粒子のTFP溶液は、対向電極33上のみに選択的に塗布する必要はなく、駆動素子層34に含まれる複数の駆動素子に対応して形成される対向電極33と対向電極33との間に、塗布しても良い。該溶液を、選択的に塗布する必要が無いため、電荷保持層32を形成しない場合と比較して、電荷保持層32を形成する場合の方が、製造工程を簡易化し、製造コストを抑えることができる。
(貼合せ工程)
次に、図4のステップS23に示される貼合せ工程を行う。
電荷保持層32までを形成した対向基板35と、白色反射層31までを形成した表示基板21とを、対向電極と表示電極とが対面するように電解質を挟んで貼合せる。
具体的には、壁部材36に囲まれた表示基板21において、電解質の前駆体材料を、白色反射層31の上から、注入する。注入口を封止することによって、表示基板21と対向基板35とを貼合せる。その後、高圧水銀ランプにより、紫外光を、対向電極33側から、2分間照射する。紫外光照射により、該前駆体材料を光重合相分離させることができるため、両基板の間に電解質層30を形成することができる。なお、紫外光は、中心波長が365nm、強度が50mW/cm2である。
電解質層30の前駆体材料は、エレクトロクロミック表示素子20の製造前に調整される。ステップS23における貼合せ工程では、事前に調整された電解質層30の前駆体材料を使用する。電解質層30の前駆体材料の調整方法の一例としては、まず、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(Tetra Butyl Ammonium Perchlorate:TBAP)の炭酸プロピレン(propylene carbonate)溶液を、TBAPのモル濃度が、約2.0mol/lとなる様に調整する。その後、PNLC(Polymer Network Liquid Crystal)用の液晶組成物、モノマー組成物、及び重合開始剤の混合物を、該溶液に混合する。その後、炭酸プロピレン溶液におけるTBAPのモル濃度が、約0.04mol/lになる様に再び調整する。その後、製造される電解質層30の膜厚を規定するために、粒径10μmの真球状樹脂ビーズを0.2wt%濃度で、該炭酸プロピレン溶液に分散させる。こうして、電解質層30の前駆体材料とすることができる。
(実施形態2)
(エレクトロクロミック表示素子の耐光性評価)
本実施形態では、エレクトロクロミック表示素子の耐光性について説明する。
エレクトロクロミック表示素子の色差保持率から、エレクトロクロミック表示素子の耐光性を評価した。
色差保持率の変化から、白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の表面、或いはエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面を金属水酸化物で被覆することによって生じる効果を調べた。また、色差保持率の変化から、該金属水酸化物を、水酸化アルミニウム、或いは水酸化鉄(Fe(OH)3)とすることによって生じる効果を調べた。
評価結果を図5に示す。
エレクトロクロミック表示素子としては、5種類の異なるエレクトロクロミック表示素子を用いた。なお、5種類のエレクトロクロミック表示素子の構造は、次に示す構造((1)〜(5)参照)がそれぞれ異なっている。異なる構造を除いた他の構造は、実施形態1に示したエレクトロクロミック表示素子20の構造と全て等しい。構造(1)〜(4)を実施例のエレクトロクロミック表示素子(実施例1〜4)とした。構造(5)を比較例のエレクトロクロミック表示素子(比較例1)とした。
1種類目として、(1)白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面を水酸化アルミニウムで被覆したエレクトロクロミック表示素子を用いた。2種類目として、(2)エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面のみを水酸化アルミニウムで被覆したエレクトロクロミック表示素子を用いた。3種類目として、(3)白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の表面のみを水酸化アルミニウムで被覆したエレクトロクロミック表示素子を用いた。4種類目として、(4)白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面を水酸化鉄(Fe(OH)3)で被覆したエレクトロクロミック表示素子を用いた。5種類目として、(5)白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面をどちらも金属水酸化物で被覆しないエレクトロクロミック表示素子を用いた。
色差保持率は、エレクトロクロミック表示素子に光を照射する前の色差ΔE_αと、エレクトロクロミック表示素子に光を照射した後の色差ΔE_βに基づいて算出した。光照射は、測定対象のエレクトロクロミック表示素子に対して、UV成分を含む白色蛍光灯の光を、照度15000Lx、100時間照射することにより行った。
色差ΔEは、次の様に算出した。まず、測定対象のエレクトロクロミック表示素子を完全に消色させた状態と、測定対象のエレクトロクロミック表示素子においてエレクトロクロミック層を発色させた状態との2状態における発色濃度の違いを分光測色計により測色した。CIE Lab表色系(L*a*b*表色系)で表された2値の座標に対応させて、色差ΔEを算出し、発色濃度の指標とした。光照射後の色差ΔE_βを、光照射前の色差ΔE_αとして、色差ΔE_βを色差ΔE_αで除すことにより、色差保持率を算出した。
なお、CIE Lab表色系とは、色を、明度L*とクロマネティクス指数a*、b*からなる均等色空間上の座標で表したものであり、人の目の色覚を元に計算式が定義されている。
まず、(1)のエレクトロクロミック表示素子における、光照射前後の色差保持率を算出した。
白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の粒径を300nm、酸化チタン粒子と水酸化アルミニウムの重量比を、91.1%:8.9%とした。また、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の粒径を20nm、酸化チタンのナノ粒子と水酸化アルミニウムの重量比を、88.3%:11.7%とした。
光照射前における色差ΔE_αは、54.8であった。
光照射後における色差ΔE_βは、49.0であった。
即ち、白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面を水酸化アルミニウムで被覆した場合、光照射を経た色差保持率は89.4%であった。この結果より、(1)のエレクトロクロミック表示素子は、優れた耐光性を有することが示唆される。
次に、(2)のエレクトロクロミック表示素子における、光照射前後の色差保持率を算出した。
エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の粒径を20nm、酸化チタンのナノ粒子と水酸化アルミニウムの重量比を、88.3%:11.7%とした。
光照射前における色差ΔE_αは、55.1であった。
光照射後における色差ΔE_βは、37.0であった。
即ち、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面のみを水酸化アルミニウムで被覆した場合、光照射を経た色差保持率は67.1%であった。この結果より、(2)のエレクトロクロミック表示素子は、(1)のエレクトロクロミック表示素子と比較して耐光性が低下することが示唆される。
次に、(3)のエレクトロクロミック表示素子における、光照射前後の色差保持率を算出した。
白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の粒径を300nm、酸化チタン粒子と水酸化アルミニウムの重量比を、91.1%:8.9%とした。
光照射前における色差ΔE_αは、53.4であった。
光照射後における色差ΔE_βは、24.2であった。
即ち、白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の表面のみを水酸化アルミニウムで被覆した場合、光照射を経た色差保持率は45.3%であった。この結果より、白色反射層を水酸化アルミニウムで被覆する場合と比べて、エレクトロクロミック層を水酸化アルミニウムで被覆する場合の方が、耐光性は高まることが示唆される。
次に、(4)のエレクトロクロミック表示素子における、光照射前後の色差保持率を算出した。
白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の粒径を300nm、酸化チタン粒子と水酸化鉄(Fe(OH)3)の重量比を、90.3%:9.7%とした。また、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の粒径を20nm、酸化チタンのナノ粒子と水酸化鉄(Fe(OH)3)の重量比を、87.5%:12.5%とした。
光照射前における色差ΔE_αは、55.7であった。
光照射後における色差ΔE_βは、42.9であった。
即ち、白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面を水酸化鉄(Fe(OH)3)で被覆した場合、光照射を経た色差保持率は77.1%であった。この結果より、白色反射層及びエレクトロクロミック層を水酸化アルミニウムで被覆する場合よりは劣るが、白色反射層及びエレクトロクロミック層を水酸化鉄(Fe(OH)3)で被覆する場合も、エレクトロクロミック表示素子は、優れた耐光性を有することが示唆される。また、水酸化アルミニウムは、水酸化鉄(Fe(OH)3)と比較して、酸化チタンに対する光触媒活性の抑制効果が大きいことが示唆される。
次に、(5)のエレクトロクロミック表示素子における、光照射前後の色差保持率を算出した。
光照射前における色差ΔE_αは、55.4であった。
光照射後における色差ΔE_βは、11.0であった。
即ち、白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面をどちらも金属水酸化物で被覆しない場合、光照射を経た色差保持率は19.8%であった。この結果より、エレクトロクロミック表示素子の耐光性は、非常に悪いことが示唆される。
上述の5つの結果を比較すると、白色反射層及びエレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面をどちらも金属水酸化物で被覆し、且つその金属水酸化物が、水酸化アルミニウムである場合に、光照射後における色差_βが最も大きく色差保持率が高いことが確認できた。
従って、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面を金属水酸化物で被覆することで、優れた耐光性を有するエレクトロクロミック表示素子を実現できることが示唆される。
また、白色反射層に含まれる酸化チタン粒子の表面を金属水酸化物で被覆することで、更に優れた耐光性を有するエレクトロクロミック表示素子を実現できることが示唆される。
なお、エレクトロクロミック層を、1層のみ形成し、モノクロ表示のエレクトロクロミック表示素子における光照射前後の色差保持率を算出すると、光照射前における色差ΔE_αは、53.0、光照射後における色差ΔE_βは47.9であり、光照射を経た色差保持率は90.3%であった。分光測色計による測色においては、白色板上に該エレクトロクロミック表示素子を重ねて測色した。これより、モノクロ表示の場合であっても、優れた耐光性を有するエレクトロクロミック表示素子を実現できることが示唆される。
(実施形態3)
(エレクトロクロミック表示素子を適用した情報機器)
本実施形態では、実施形態1に係るエレクトロクロミック表示素子20を、電子書籍リーダに適用した場合について説明する。エレクトロクロミック表示素子20は、電子書籍リーダに限定されず、例えば、電子広告、モバイルパソコン、携帯端末等、表示装置を備えたあらゆる情報機器に適用することができる。
図6は、電子書籍リーダ100の概略構造の一例を示している。
電子書籍リーダ100は、表示装置101、メインコントローラ102、ROM103、RAM104、フラッシュメモリ105、キャラクタジェネレータ106、インターフェース107を含む。また、表示装置101は、タッチパネル付きの表示パネル111、タッチパネルドライバ112、表示コントローラ113、VRAM114を含む。
なお、図6に示す構造では、表示装置101の外部にキャラクタジェネレータ106が備えられているが、表示装置101の内部にキャラクタジェネレータ106が備えられていても良い。また、表示パネル111は、タッチパネルを備えていなくても良い。他の入力手段がある場合は、他の入力手段を、表示パネル111に備えれば良い。表示パネル111がタッチパネルを備えていない場合は、タッチパネルドライバ112は不要である。
なお、図6に示す矢印は、代表的な信号や情報の流れを表しており、各ブロックの接続関係の全てを表すものではない。
タッチパネル付きの表示パネル111は、実施形態1に係るエレクトロクロミック表示素子20、及び第1のエレクトロクロミック層23、第2エレクトロクロミック層26、第3のエレクトロクロミック層29を個別に駆動する駆動回路を含む。駆動回路は、駆動素子層34を含んでおり、駆動素子層34は、各々の対向電極33に対応した複数の駆動素子を有する。表示パネル111は、表示コントローラ113から出力される画素選択信号に基づいて、選択された画素に対応する駆動素子を駆動させ、選択された画素に、所定の電圧を印加する。なお、画素選択信号は、選択される画素の縦方向の位置と横方向の位置とを指定する信号である。また、表示パネル111は、表示コントローラ113から出力される色指定信号に基づいて、その指定色に応じて、対応する表示電極に所定の電圧を印加する。画素選択信号、色指定信号等の信号に基づいて、表示パネル111は、動画像又は静止画像等を表示する。
また、表示パネル111は、ユーザがタッチパネルをタッチした際、タッチ位置に基づく信号をタッチパネルドライバ112に出力する。
なお、表示パネル111は、実施形態1に係るエレクトロクロミック表示素子20を備えているため、高い白反射率及び高コントラスト比を維持しつつ、高精細なフルカラー表示(多色表示)を実現することができる。実際、フルカラー画像の表示と消去とを交互に1000回繰り返した後であっても、画像の表示状態には特別な変化は見られなかった。
また、表示パネル111は、発色或いは消色の切り替えを高速に行うことができる。実際、駆動開始から画像取得までに要する時間、及び取得した画像を消去するまでに要する時間を測定すると、500mm秒程度であった。
また、表示パネル111は、耐光性に優れているため、日光や室内光等の光に対する堅牢性が高く、長時間光が照射されても、視認性の高い画像表示を維持することができる。実際、フルカラー画像を表示させた後、30分程度静置しても、画像の見え方に変化はなく、画像のボケは認識できなかった。
VRAM114は、表示パネル111に動画像又は静止画像を表示するための表示データを格納する。該表示データは、表示パネル111に含まれる複数の画素に個別に対応している。従って、該表示データは、各々の画素に対応する表示色情報を含む。
表示コントローラ113は、所定のタイミング毎に、VRAM114に格納されている表示データを読み出し、該表示データに応じて、表示パネル111に含まれる複数の画素の表示色を個別に制御する。表示コントローラ113は、発色させる画素を特定するための画素選択信号と、色を特定するための色指定信号とを表示パネル111に出力する。
タッチパネルドライバ112は、表示パネル111上においてユーザがタッチした位置に対応する位置情報をメインコントローラ102に出力する。
メインコントローラ102は、ROM103に格納されているプログラムに従って、RAM104、フラッシュメモリ105、キャラクタジェネレータ106、インターフェース107、VRAM114等の各部を統括的に制御する。
例えば、ユーザによって電源がオンされると、メインコントローラ102は、初期メニュー画面データを、ROM103から読み出し、キャラクタジェネレータ106を参照して、該初期メニュー画面データをドットデータに変換し、該ドットデータを、VRAM114に転送する。これより、初期メニュー画面が、表示パネル111に表示される。この際、フラッシュメモリ105に格納されているコンテンツの一覧が、表示パネル111に表示される。表示パネル111上のメニューの1つが、ユーザによって選択され、その表示部分がタッチされると、メインコントローラ102は、タッチパネルドライバ112からの位置情報に基づいて、ユーザの選択内容を取得する。
ユーザがコンテンツを指定し、該コンテンツの閲覧を要求した場合には、メインコントローラ102は、該コンテンツの電子データをフラッシュメモリ105から読み出し、キャラクタジェネレータ106を参照して、該電子データをドットデータに変換し、該ドットデータを、VRAM114に転送する。
また、ユーザがインターネットを介したコンテンツの購入を要求した場合には、メインコントローラ102は、インターフェース107を介して所定の購入サイトに接続し、通常のブラウザとして機能する。該購入サイトからの情報が表示パネル111に表示され、ユーザがコンテンツを購入すると、該コンテンツの電子データがダウンロードされる。メインコントローラ102は、該コンテンツの電子データをフラッシュメモリ105に格納する。
ROM103は、メインコントローラ102にて解読可能なコードで記述された各種プログラム、及びプログラムの実行に必要な各種データを格納する。
RAM104は、作業用のメモリである。
フラッシュメモリ105は、コンテンツである書籍の電子データ等を格納する。
キャラクタジェネレータ106は、各種キャラクタデータに対応するドットデータを格納する。
インターフェース107は、外部機器との接続を制御する。インターフェース107は、メモリカード、パソコン、公衆回線を接続することが可能である。なお、パソコン及び公衆回線への接続は、有線、無線いずれも可能である。
本実施の形態に係る電子書籍リーダ100によれば、タッチパネルに、実施形態1に示すエレクトロクロミック素子を適用しているため、反射型表示、及び透過型表示どちらの場合であっても耐光性を高めることができる。
(実施形態4)
(エレクトロクロミック調光レンズの構造)
図7は、本実施の形態に係るエレクトロクロミック調光レンズを例示する断面図である。図7を参照するに、エレクトロクロミック調光レンズ110は、レンズ120と、レンズ120に接して設けられた薄膜調光機能部130とを有する。エレクトロクロミック調光レンズ110は、傷防止のためのハードコート層や、反射を抑制するための反射防止層等を必要に応じて備えていても良い。
エレクトロクロミック調光レンズ110の製造方法としては、実施形態1におけるエレクトロクロミック表示素子20の製造方法を参酌することができるため、詳細な説明は省略する。製造方法の一例としては、レンズ120上に第1の電極層131、エレクトロクロミック層132、絶縁性多孔質層133、第2の電極層134、劣化防止層135を順次積層する工程と、第2の電極層134、劣化防止層135形成される貫通孔から絶縁性多孔質層133に、電解質を充填する工程と、電解質注入後に塗布法で保護層136を形成する工程、等を含む方法が挙げられる。電解質注入後に塗布法により保護層136を形成することで、エレクトロクロミック調光レンズ110を薄くすることができる。このため、2枚のレンズを貼り合わせる構造と比較して、軽量化、低コスト化を図り易い。
エレクトロクロミック調光レンズ110において、エレクトロクロミック層132、第2の電極層134、劣化防止層135は、多孔質層となっている。これらの層に形成される多数の貫通孔は、絶縁性多孔質層133に電解質を充填するための注入孔として利用される。これらの層が多数の貫通孔を有することで、電解質を充填する前に、低抵抗な第2の電極層134を形成することができる。このため、エレクトロクロミック調光レンズ110の性能を向上させることができる。
なお、劣化防止層135、及びエレクトロクロミック層132は、電気活性層と称することもできる。この場合、エレクトロクロミック調光レンズ110は、レンズと、レンズに接して設けられた第1の電極層と、第1の電極層に接して設けられた第1の電気活性層と、第1の電気活性層に接して設けられた絶縁性多孔質層と、絶縁性多孔質層に接して設けられた第2の電気活性層と、第2の電気活性層に接して設けられた第2の電極層と、第1の電極層と第2の電極層との間を充填し、絶縁性多孔質層を介して該電気活性層と接触する電解質層と、を有し、第1(第2)の電気活性層に含まれる酸化チタン粒子の表面は、金属水酸化物で被覆されることを特徴とする構造とすることもできる。
レンズ120は、眼鏡用レンズとして機能するものであれば、特に限定されず、度数(屈折率)の調整がされていないレンズ(単なるガラス板等)も、その範疇に含むものとする。
レンズ120の材料としては、透明性が高く、厚みが薄く、且つ軽量な材料を用いることが好ましい。又、熱履歴による膨張がなるべく小さい方が好ましく、ガラス転移点Tgが高い材料、線膨張係数が小さい材料が好ましい。
具体的には、ガラスの他に、特許庁の高屈折率メガネレンズに関する技術概要資料に記載される材料等を使用することができ、例えば、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂等やそれらの混合物等が挙げられる。又、必要に応じて、ハードコートや密着性を改善するためのプライマーを形成していてもよい。
レンズ120の平面形状は、特に限定されないが、例えば、丸型の平面形状とすることができる。
薄膜調光機能部130は、エレクトロクロミック層132の発消色(調光)を行い、複数の薄膜が積層された積層構造を有する。具体的には、薄膜調光機能部130は、第1の電極層131、エレクトロクロミック層132、絶縁性多孔質層133、第2の電極層134、劣化防止層135、及び保護層136が順次積層された積層構造を有する(図7参照)。第2の電極層134と保護層136との間に劣化防止層135が設けられることで、繰り返し使用しても安定動作が可能なエレクトロクロミック調光レンズを実現できる。
薄膜調光機能部130の構造は、図7に示す構造に限定されない。例えば、劣化防止層135が、第2の電極層と保護層136との間、及び第2の電極層と絶縁性多孔質層133との間に設けられ、第2の電極層134の両面に接して設けられていてもよい。又、例えば、劣化防止層135が、第2の電極層と絶縁性多孔質層133との間のみに設けられていてもよい。
エレクトロクロミック層132(電気活性層)、劣化防止層135(電気活性層)は、一方の層が酸化(還元)反応をする際、他方の層が還元(酸化)反応をするという関係にある。従って、エレクトロクロミック層132と劣化防止層135とは逆の位置に設けられていても良い。つまり、例えば、エレクトロクロミック層が、第2の電極層と保護層136との間、及び第2の電極層と絶縁性多孔質層133との間に設けられ、劣化防止層が、第1の電極層131と絶縁性多孔質層133との間に設けられていてもよい。又、例えば、エレクトロクロミック層が、第2の電極層と保護層136との間のみに設けられていてもよい。又、例えば、エレクトロクロミック層が、第2の電極層と絶縁性多孔質層133との間のみに設けられていてもよい。
薄膜調光機能部130の厚みは、2μm〜200μm程度とすることが好ましい。薄膜調光機能部130の厚みを200μmより厚くすると、丸型レンズの加工時に亀裂、剥離が生じる、レンズの光学特性等に悪影響が出る等の不具合が生じ、2μmより薄くすると、充分な調光機能が得られない。
第1の電極層131及び第2の電極層134の材料としては、導電性を有する材料であれば、特に限定されないが、調光ガラスとして利用する場合は光の透過性を確保する必要があるため、光の透過性が高く、且つ導電性に優れた材料(以下、透明導電性材料とする)を用いることが好ましい。透明導電性材料を用いることで、ガラスの透明性を高められると共に、エレクトロクロミック層132の着色時におけるコントラストをより高めることができる。
透明導電性材料としては、スズをドープした酸化インジウム(以下、ITOとする)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、FTOとする)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、ATOとする)等の無機材料を用いることができる。特に、真空成膜により形成されたインジウム酸化物(以下、In酸化物とする)、スズ酸化物(以下、Sn酸化物とする)又は亜鉛酸化物(以下、Zn酸化物とする)の何れか1つを含む無機材料を用いることが好ましい。
In酸化物、Sn酸化物、及びZn酸化物は、スパッタ法により、容易に成膜が可能な材料であると共に、良好な透明性と電気伝導度が得られる材料であるため好適である。又、InSnO、GaZnO、SnO、In2O3、ZnO等を用いることがより好ましい。更に、光の透過性が高い銀、金、カーボンナノチューブ、金属酸化物等も有用である。カーボンナノチューブ、他の高導電性の非透過性材料等を、微細なネットワーク状に形成し、光の透過性を高めたネットワーク電極は、光の透過性が高く、且つ導電性に優れた電極として、特に好適である。
第1の電極層131及び第2の電極層134の各々の膜厚は、エレクトロクロミック層132の酸化還元反応に必要な電気抵抗値を得られる様に、適宜調整されることが好ましい。第1の電極層131及び第2の電極層134の材料としてITOを用いた場合、第1の電極層131及び第2の電極層134の各々の膜厚は、例えば50〜500nm程度とすることができる。
第1の電極層131及び第2の電極層134の各々の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。又、第1の電極層131及び第2の電極層134の各々の材料が塗布形成できるものであれば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
第2の電極層134は、厚さ方向に貫通する多数の貫通孔が形成された多孔質の電極層である。第2の電極層134における微細な貫通孔の形成方法としては、以下の様な方法が挙げられる。
微細な貫通孔は、第2の電極層134を形成する前に、予め下地層として凹凸を有する層を形成し、該下地層上に、第2の電極層134を形成する、という方法により形成してもよい。
又、微細な貫通孔は、第2の電極層134を形成する前に、予め下層にマイクロピラー等の凸形状構造体を形成し、第2の電極層134を形成後に、凸形状構造体を取り除く、という方法により形成してもよい。
又、微細な貫通孔は、第2の電極層134を形成する前に、予め下層に発泡性の高分子重合体等を散布し、第2の電極層134を形成後に、加熱や脱気する等の処理を施して発泡させる、という方法により形成してもよい。
又、微細な貫通孔は、第2の電極層134に直接各種放射線を輻射する、レーザ光を用いた加工装置を利用する、等方法により形成してもよい。
又、微細な貫通孔は、コロイダルリソグラフィー法により形成してもよい。第2の電極層134を形成する前に、予め下層に微粒子を散布し、微粒子が散布された面に、該微粒子をマスクとして真空成膜法等により導電膜を形成し、導電膜を形成後に、微粒子と共に一部の導電膜を除去することでパターニングを行い、微細貫通孔を有する第2の電極層134を形成することができる。
又、微細な貫通孔は、フォトレジストやドライフィルム等を用いた公知のリフトオフ法により形成してもよい。所望のフォトレジストパターンを形成後に、導電膜を形成し、フォトレジストパターンと共にフォトレジストパターン上に形成される導電膜(不要な部分)を除去することで、微細貫通孔を有する第2の電極層134を形成することができる。公知のリフトオフ法により第2の電極層134に微細貫通孔を形成する場合、光照射による下層へのダメージを回避するため、対象物への光照射面積が小さくて済むように、使用するフォトレジストはネガ型のものを使用することが好ましい。
ネガ型のフォトレジストとしては、例えば、ポリビニルシンナメート、スチリルピリジニウムホルマール化ポリビニルアルコール、グリコールメタクリレート/ポリビニルアルコール/開始剤、ポリグリシジルメタクリレート、ハロメチル化ポリスチレン、ジアゾレジン、ビスアジド/ジエン系ゴム、ポリヒドロキシスチレン/メラミン/光酸発生剤、メチル化メラミン樹脂、メチル化尿素樹脂等を挙げることができる。
微細な貫通孔の径としては、10nm以上100μm以下であると好適である。貫通孔の径が10nm(0.01μm)よりも小さい場合、電解質イオンの透過が悪くなる不具合が生じる。又、微細貫通孔の径が100μmよりも大きい場合、目視できるレベル(通常のディスプレイでは1画素電極レベルの大きさ)であり、微細な貫通孔直上の表示性能に不具合が生じることになる。
微細な貫通孔の、第2の電極層134の表面積に対する孔面積の比(穴密度)は、適宜設定することができるが、例えば0.01〜40%程度とすることができる。穴密度が高すぎると、第2の電極層134の表面抵抗が大きくなるため、第2の電極層134が形成されない領域の面積が広くなることで、エレクトロクロミック層に欠陥が生じる。又、穴密度が低すぎると電解質イオンの浸透性が悪くなるため、駆動時に不具合が生じる。
エレクトロクロミック層132は、第1の電極層131と第2の電極層134との間に電圧が印加されることで生じる電荷の授受(酸化還元反応)により、発消色する。エレクトロクロミック層132は、厚さ方向に貫通する多数の貫通孔が形成された多孔質層であり、電解質(図示せず)が充填されている。エレクトロクロミック層132に含まれる酸化チタン粒子の表面は、金属水酸化物で被覆されている。
エレクトロクロミック層132は、エレクトロクロミック材料を含んだ層であり、エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物の何れを用いても構わない。又、エレクトロクロミズムを示すことで知られる導電性高分子を用いてもよい。
無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタン等が挙げられる。又、有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、ビオロゲン、希土類フタロシアニン、スチリル等が挙げられる。
又、エレクトロクロミック層132としては、導電性又は半導体性微粒子に有機エレクトロクロミック化合物を担持した構造を用いてもよい。具体的には、電極表面に粒径5nm〜50nm程度の微粒子を焼結し、その微粒子の表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基等の極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着した構造である。
このような構造では、微粒子の大きな表面効果を利用して、効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入されるため、従来のエレクトロクロミック表示素子と比較して高速応答が可能となる。更に、微粒子を用いることで表示層として透明な膜を形成することができるため、エレクトロクロミック色素の高い発色濃度を得ることができる。又、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を導電性又は半導体性微粒子に担持することもできる。
具体的には、色素系のエレクトロクロミック化合物として、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物を用いることができる。
上記中、発消色電位が低く良好な色値を示すビオロゲン系化合物又はジピリジン系化合物を含むことが特に好ましい。例えば、式[化1](一般式)で表されるジピリジン系化合物を含むことが好ましい。
なお、式[化1](一般式)中、R1及びR2は、それぞれ独立に置換基を有してもよい炭素数1から8のアルキル基、又はアリール基を表し、R1又はR2の少なくとも一方は、COOH、PO(OH)
2、Si(OC
kH
2k+1)
3から選ばれる置換基を有する。Xは1価のアニオンを表す。n、m、lは0、1、又は2を表す。A、B、Cは各々独立に置換基を有してもよい炭素数1から20のアルキル基、アリール基、複素環基を表す。
一方、金属錯体系や金属酸化物系のエレクトロクロミック化合物としては、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化イリジウム、酸化ニッケル、プルシアンブルー等の無機系エレクトロクロミック化合物を用いることができる。
導電性又は半導体性微粒子としては特に限定されるものではないが、金属酸化物を用いることが好ましい。具体的な材料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物を用いることができる。
又、これらの金属酸化物は、単独で用いてもよく、2種以上が混合され用いてもよい。電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステンから選ばれる一種、若しくはそれらの混合物が用いられたとき、発消色の応答速度に優れた色表示が可能である。とりわけ、酸化チタンが用いられたとき、より発消色の応答速度に優れた色表示が可能である。
又、導電性又は半導体性微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が用いられる。例えば、微粒子が、ナノ粒子の集合体であるときは、大きな比表面積を有するため、より効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比が優れる。
エレクトロクロミック層132の膜厚は、例えば、0.05〜5.0μm程度とすることができる。エレクトロクロミック層132の膜厚が上記範囲よりも薄い場合、発色濃度を得にくくなる。又、エレクトロクロミック層132の膜厚が上記範囲より厚い場合、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下しやすい。エレクトロクロミック層132、及び、導電性又は半導体性微粒子層は、真空成膜により形成することも可能であるが、生産性の点で粒子分散ペーストとして塗布形成することが好ましい。
絶縁性多孔質層133は、第1の電極層131と第2の電極層134とを電気的に絶縁するために設けられており、絶縁性多孔質層133は、絶縁性金属酸化物微粒子を含んでいる。又、絶縁性多孔質層133は、電解質を保持するために設けられる。
絶縁性多孔質層133の材料としては、多孔質層を形成できる材料であれば、特に限定されるものではないが、絶縁性及び耐久性が高く成膜性に優れた有機材料や無機材料、及びそれらの複合体を用いることが好ましい。
絶縁性多孔質層133の形成方法としては、例えば、焼結法(高分子微粒子や無機粒子を、バインダ等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)を用いることができる。絶縁性多孔質層133の形成方法として、例えば、抽出法(溶剤に可溶な有機物又は無機物類と溶剤に溶解しないバインダ等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物又は無機物類を溶解させ細孔を得る)等を用いてもよい。
又、絶縁性多孔質層133の形成方法として、高分子重合体等を加熱や脱気する等して発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子類の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法等の形成方法を用いてもよい。具体例としては、金属酸化物微粒子(SiO2粒子やAl2O3粒子等)とポリマー結着剤を含むポリマー混合粒子膜、多孔性有機膜(ポリウレタン樹脂やポリエチレン樹脂等)、多孔質膜状に形成した無機絶縁材料膜等が挙げられる。
絶縁性多孔質層133の凹凸は、第2の電極層134の膜厚にも依存するが、例えば第2の電極層134の膜厚を100nmとすると、絶縁性多孔質層133の表面粗さは平均粗さ(Ra)で100nm未満の要件を満たす必要がある。平均粗さが100nmを超える場合には第2の電極層134の表面抵抗が大きく失われ、表示不良の原因となる。絶縁性多孔質層133の膜厚は、例えば、0.5〜2μm程度とすることができる。
又、絶縁性多孔質層133は、無機膜と組み合わせて用いることが好ましい。これは絶縁性多孔質層133の表面に形成される第2の電極層134をスパッタ法により形成する際に、下層である絶縁性多孔質層133やエレクトロクロミック層132の有機物質へのダメージを低減させるためである。
上記無機膜としては、SiO2に加え、ZnSを含む材料を用いることが好ましい。ZnSは、スパッタ法によって、エレクトロクロミック層132等にダメージを与えることなく高速に成膜できるという特徴を有する。更に、ZnSを主な成分として含む材料として、ZnS−SiO2、ZnS−SiC、ZnS−Si、ZnS−Ge等を用いてもよい。
ここで、ZnSの含有率は、絶縁層を形成した際の結晶性を良好に保つために、約50〜90mol%とすることが好ましい。従って、特に好ましい材料は、ZnS−SiO2(8/2)、ZnS−SiO2(7/3)、ZnS、ZnS−ZnO−In2O3−Ga2O3(60/23/10/7)である。絶縁性多孔質層133として上記のような材料を用いることにより、薄膜で良好な絶縁効果が得られ、膜強度低下や膜剥離を防止することができる。
劣化防止層135は、エレクトロクロミック層132と逆の化学反応をし、電荷のバランスをとって第1の電極層131や第2の電極層134が不可逆的な酸化還元反応により腐食や劣化することを抑制する、等の役割を有する。その結果として、エレクトロクロミック調光レンズ10の繰り返し安定性を向上させることが可能になる。なお、逆反応とは、劣化防止層が酸化還元する場合に加え、キャパシタとして作用することも含む。
劣化防止層135は、絶縁性多孔質層の上面(レンズ120が形成される面とは反対側の面)のみに形成されても良い。この場合、第2の電極層の下面(レンズ120が形成される面)に、劣化防止層を形成する必要がないため、第2の電極層形成時のスパッタ等により生じる劣化防止層へのダメージを低減できる。又、劣化防止層は、第2の電極層の上面(レンズ120が形成される面とは反対側の面)のみに形成されても良い。この場合、微細な貫通孔を有する第2の電極層134を通して、電解質に含まれるイオンを第2の電極層134の表裏に移動させることができる。即ち、劣化防止層135は、絶縁性多孔質層の上面のみに形成されても、第2の電極層の上面のみに形成されても良いが、劣化防止層をより均質できる構造を、適宜選択することが好ましい。なお、必要に応じて、劣化防止層は、第2の電極層の上面及び第2の電極層の下面の両面に形成されても良い。
劣化防止層135の材料としては、第1の電極層131及び第2の電極層134の不可逆的な酸化還元反応による腐食を防止する役割を担う材料であれば特に限定されるものではない。劣化防止層135の材料として、例えば、酸化アンチモン錫や酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、又はそれらを複数含む導電性又は半導体性金属酸化物を用いることができる。更に、劣化防止層の着色が問題にならない場合は、前述のエレクトロクロミック材料と同じものを用いることができる。
劣化防止層135は、電解質の注入を阻害しない程度の多孔質薄膜から構成することができる。例えば酸化アンチモン錫や酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫等の導電性又は半導体性金属酸化物微粒子を、例えばアクリル系、アルキド系、イソシアネート系、ウレタン系、エポキシ系、フェノール系等のバインダにより第2の電極層34に固定化することで、電解質の浸透性と、劣化防止層としての機能を満たす、好適な多孔質薄膜を得ることができる。
或いは、劣化防止層135の材料として、電荷の授受に伴って透明状態を保持する材料を用いてもよい。例えば、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリアニリン系、又はそれらの誘導体等の導電性高分子や、金属錯体と有機リガンドのハイブリッドポリマー、ラジカルポリマーなどが挙げられる。これらを用いる際は、電解質の注入を阻害しないように膜密度を調整するか、或いはレーザ加工等により貫通孔を形成する必要がある。或いは、エレクトロクロミック層132として、これらの材料を用い、劣化防止層135として、既述の導電性或いは半導体性微粒子に担持した有機エレクトロクロミック化合物を用いてもよい。
劣化防止層135として、透明性の高いn型半導体性酸化物微粒子(n型半導体性金属酸化物)を用いることが好ましい。具体例としては、100nm以下の1次粒子径粒子からなる、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、又はそれらを複数含む化合物粒子、混合物を用いることができる。
更に、これらの劣化防止層135を用いる場合は、エレクトロクロミック層132が酸化反応により着色から透明に変化する材料であることが好ましい。エレクトロクロミック層132が酸化反応すると同時にn型半導体性金属酸化物が還元(電子注入)され易く、駆動電圧が低減できるからである。
このような形態において、特に好ましいエレクトロクロミック材料は、有機高分子材料である。塗布形成プロセス等により容易に成膜できると共に、分子構造により色の調整や制御が可能となる。これらの有機高分子材料例としては、ポリ(3,4- エチレンジオキシチオフェン)系材料、ビス(ターピリジン)類と鉄イオンの錯形成ポリマー等である。
劣化防止層135の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンレーティング法等を用いることができる。又、劣化防止層135の材料が塗布形成できるものであれば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
保護層136は、外的応力や洗浄工程の薬品から素子を守ることや、電解質の漏洩を防ぐこと、大気中の水分や酸素などエレクトロクロミック素子が安定的に動作するために不要なものの侵入を防ぐこと、等の役割を有する。同時に、レンズとしての機能を損なわないための透明性、表面の平滑性、屈折率、耐熱性、耐光性が求められる。厚みとしては1μm〜200μmの範囲が好ましい。
保護層136は、少なくとも劣化防止層135の上面(レンズ120が形成される面とは反対側の面)に形成されていればよい。図7に示す様に、保護層136は、第1の電極層131、エレクトロクロミック層132、絶縁性多孔質層133、第2の電極層134、及び劣化防止層135の各側面に形成されていてもよく、被覆される側面の層は、特に限定されない。
保護層136の材料としては、紫外線硬化型や熱硬化型の樹脂を用いることができ、具体的には、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系樹脂等を用いることが好ましい。保護層36の形成プロセスとしては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャスト法等の各種成膜法を用いることができる。
電解質(図示せず)は、電解液として、劣化防止層135を介して、第2の電極層134に形成された微細な貫通孔から第1の電極層131と第2の電極層134との間に配置された絶縁性多孔質層133に充填される。つまり、電解質は、第1の電極層131と第2の電極層134との間に充填されてエレクトロクロミック層132と接し、且つ、第2の電極層134に形成された貫通孔を介して劣化防止層135と接するように設けられている。電解液としては、イオン液体等の液体電解質又は、固体電解質を溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
電解質の材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的には、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2等を用いることができる。
又、イオン性液体も用いることができる。イオン性液体としては、一般的に研究・報告されている物質ならばどのようなものでも構わない。特に有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造がある。分子構造の例としては、カチオン成分としてN,N−ジメチルイミダゾール塩、N,N−メチルエチルイミダゾール塩、N,N−メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体、N,N−ジメチルピリジニウム塩、N,N−メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体など芳香族系の塩、又は、トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウムなど脂肪族4級アンモニウム系が挙げられる。
アニオン成分としては大気中の安定性の面でフッ素を含んだ化合物がよく、BF4、CF3SO3−、PF4−、(CF3SO2)2N−等が挙げられる。これらのカチオン成分とアニオン成分の組み合わせにより処方したイオン性液体を用いることができる。
又、溶媒の例としては、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1、2−ジメトキシエタン、1、2−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類やそれらの混合溶媒等を用いることができる。
又、電解液は低粘性の液体である必要はなく、ゲル状や高分子架橋型、液晶分散型等の様々な形態をとることが可能である。電解液はゲル状、固体状に形成することが、素子強度向上、信頼性向上、発色拡散の防止から好ましい。固体化手法としては、電解質と溶媒をポリマー樹脂中に保持する方法が好ましい。高いイオン伝導度と固体強度が得られるためである。更に、ポリマー樹脂は光硬化可能な樹脂を用いることが好ましい。熱重合や、溶剤を蒸発させることにより薄膜化する方法に比べて、低温かつ短時間で素子を製造できるためである。
上述の様な構造のエレクトロクロミック調光レンズ(図7参照)は、耐光性に優れ、且つ高性能なレンズとなる。該レンズは、エレクトロクロミック調光眼鏡等に適用することが可能である。
図8は、本実施の形態に係るエレクトロクロミック調光眼鏡150を例示する斜視図である。図8を参照するに、エレクトロクロミック調光眼鏡150は、エレクトロクロミック調光レンズ151と、眼鏡フレーム152と、スイッチ153と、電源154とを有する。図8に示すエレクトロクロミック調光レンズ151は、図7に示すエレクトロクロミック調光レンズ110を所望の形状に加工したものである。
2つのエレクトロクロミック調光レンズ151は、眼鏡フレーム152に組み込まれている。眼鏡フレーム152には、スイッチ153及び電源154が設けられている。電源154は、スイッチ153を介して、図示しない配線により、第1の電極層131及び第2の電極層134と電気的に接続されている。スイッチ153を切り替えることにより、例えば、第1の電極層131と第2の電極層134との間にプラス電圧を印加する状態、マイナス電圧を印加する状態、電圧を印加しない状態の中から1つの状態を選択可能である。
スイッチ153としては、例えば、スライドスイッチやプッシュスイッチ等の任意のスイッチを用いることができる。但し、少なくとも前述の3つの状態を切り替え可能なスイッチに限る。電源154としては、例えば、ボタン電池や太陽電池等の任意の直流電源を用いることができる。電源154は、第1の電極層131と第2の電極層134との間にプラスマイナス数V程度の電圧を印加可能である。
例えば、第1の電極層131と第2の電極層134との間にプラス電圧を印加することにより、2つのエレクトロクロミック調光レンズ151が所定の色に発色する。又、第1の電極層131と第2の電極層134との間にマイナス電圧を印加することにより、2つのエレクトロクロミック調光レンズ151が消色し透明となる。
但し、エレクトロクロミック層132に使用する材料の特性により、第1の電極層131と第2の電極層134との間にマイナス電圧を印加することにより発色し、プラス電圧を印加することにより消色し透明となる場合もある。なお、一度発色した後は、第1の電極層131と第2の電極層134との間に電圧を印加しなくても発色は継続する。
エレクトロクロミック調光眼鏡150のレンズとして、エレクトロクロミック調光レンズ110を利用することで、耐光性に優れ、且つ高性能なエレクトロクロミック調光眼鏡150を実現することができる。
(実施形態5)
本実施の形態では、エレクトロクロミック調光レンズを作製し、耐光性評価を行った。エレクトロクロミック調光レンズとしては、2種類の異なるエレクトロクロミック調光レンズを作製した。即ち、実施例としてのエレクトロクロミック調光レンズと、比較例としてのエレクトロクロミック調光レンズを作製した。
<実施例としてのエレクトロクロミック調光レンズの作製>
まず、実施例としてのエレクトロクロミック調光レンズを作製した。
[第1の電極層、エレクトロクロミック層の形成]
直径65mmのレンズを準備し、25mm×45mmの領域及び引き出し部分にメタルマスクを介してITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さに成膜して、第1の電極層131を形成した。
次に、このITO膜の表面に表面を水酸化アルミニウムで被覆した酸化チタンナノ粒子の分散液(平均粒子径:約20nm、酸化チタンのナノ粒子と水酸化アルミニウムの重量比:11.7%)をスピンコート法により塗布した。そして、120℃で5分間アニール処理を行うことによって、約1.0μmの酸化チタン粒子膜からなるナノ構造半導体材料を形成した。
続いて、エレクトロクロミック化合物として、構造式[化2]で表される化合物を1.5wt%含む2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布した。その後、120℃×10分間アニール処理を行うことにより、酸化チタン粒子膜に担持(吸着)させて、エレクトロクロミック層32を形成した。
[絶縁性多孔質層、微細な貫通孔が形成された第2の電極層の形成]
続いて、エレクトロクロミック層132上に平均一次粒径20nmのSiO
2微粒子分散液(シリカ固形分濃度24.8重量%、ポリビニルアルコール1.2重量%、水74重量%)をスピンコートし、絶縁性多孔質層133を形成した。形成した絶縁性多孔質層133の膜厚は約2μmであった。更に、平均一次粒径450nmのSiO
2微粒子分散液(シリカ固形分濃度1重量%、2−プロパノール99重量%)をスピンコートし、微細貫通孔形成用マスク(コロイダルマスク)を形成した。
続いて、微細貫通孔形成用マスク上にZnS−SiO2(8/2)の無機絶縁層をスパッタ法により40nmの膜厚で形成した。更に、無機絶縁層上にスパッタ法により約100nmのITO膜を、第1の電極層131で形成したITO膜と重なる25mm×45mmの領域、及び、第1の電極層131とは異なる領域にメタルマスクを介して形成し、第2の電極層134を作製した。なお、第1の電極層131とは異なる領域に形成したITO膜は第2の電極層134の引き出し部分である。
この後、2−プロパノール中で超音波照射を3分間行い、コロイダルマスクである450nmのSiO2微粒子の除去処理を行った。SEM観察により250nm程度の微細な貫通孔が形成された第2の電極層134が形成されていることを確認した。第2の電極層134のシート抵抗は約100Ω/□であった。
[劣化防止層の形成]
続いて、第2の電極層134上に、劣化防止層135として、酸化アンチモン錫粒子分散液をスピンコート法により塗布した。そして、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、約1.0μmの酸化アンチモン錫粒子膜からなるナノ構造半導体材料を形成した。
[電解質の充填]
電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム、溶媒としてジメチルスルホキシド及びポリエチレングリコール(分子量:200)を12対54対60で混合した溶液を電解液とした。そして、劣化防止層135まで形成した素子を1分間浸漬し、その後120℃のホットプレート上で1分間乾燥させることで電解質を充填させた。
[保護層の形成]
更に、紫外線硬化接着剤(商品名:SD−17 DIC社製)をスピンコートし、紫外光照射により硬化させることで保護層136を約3μmの厚さに形成した。これにより、実施例としてのエレクトロクロミック調光レンズを得た。
<比較例としてのエレクトロクロミック調光レンズの作製>
次に、比較例としてのエレクトロクロミック調光レンズを作製した。
実施例と同様の方法により、エレクトロクロミック調光レンズを作製した。但し、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子(平均粒子径:約20nm)の表面を、金属水酸化物等で全く被覆しなかった。
(エレクトロクロミック調光レンズの耐光性評価)
色差保持率から、2種類の異なるエレクトロクロミック調光レンズの耐光性を評価した。(評価は上述の実施例1〜4、比較例1と同様に実施した)。評価結果を図9に示す。
図9に示す様に、実施例のエレクトロクロミック調光レンズにおいて、光照射前における色差ΔE_αは、53.7であった。又、光照射後における色差ΔE_βは、37.7であった。
即ち、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面を水酸化アルミニウムで被覆した場合、光照射を経た色差保持率は70.2%であった。
図9に示す様に、比較例のエレクトロクロミック調光レンズにおいて、光照射前における色差ΔE_αは、53.9であった。又、光照射後における色差ΔE_βは、10.1であった。
即ち、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタン粒子の表面を金属水酸化物等(例えば、水酸化アルミニウム)で被覆しなかった場合、光照射を経た色差保持率は18.7%であった。
以上から、エレクトロクロミック層に含まれる酸化チタンのナノ粒子の表面を金属水酸化物で被覆することで、優れた耐光性を有するエレクトロクロミック調光レンズを実現できることが示唆される。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。