JP2015013794A - ジフルオロリン酸塩の製造方法 - Google Patents

ジフルオロリン酸塩の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高純度のジフルオロリン酸塩を簡便かつ工業的に有利に製造することが可能なジフルオロリン酸塩の製造方法を提供する。【解決手段】有機溶媒を含まない無水フッ化水素酸と、リンのオキソ酸等とを反応させてフルオロリン酸溶液を生成させる工程と、アルカリ金属等のハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物及び酸化物の不存在下で、フルオロリン酸溶液に六フッ化リン酸塩を添加することにより、フルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程と、ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸溶液を加熱乾燥して、フルオロリン酸を留去する工程、又は 晶析によりフルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、ジフルオロリン酸塩を固液分離し、さらに固液分離後のジフルオロリン酸塩に含まれるフルオロリン酸を留去する工程のいずれかとを含む。【選択図】 なし

Description

本発明は、高純度のジフルオロリン酸塩を簡便かつ工業的に有利に製造することが可能なジフルオロリン酸塩の製造方法に関する。
近年、イオン液体を、電池や電気二重層キャパシタの電解液として応用する検討や、めっき浴として利用する検討が活発に進められている。従来の電池や電気二重層キャパシタにおいては、電解液として水系電解液または有機系電解液が用いられてきた。しかし、水系電解液では、水の分解電圧に制約を受けるという問題があった。また有機系電解液では、耐熱性や安全面に問題があった。一方、イオン液体は難燃性・不揮発性といった安全上好ましい特徴を有するうえ、電気化学的安定性も高い。そのため、イオン液体は高温環境下で使用する電池や電気二重層キャパシタの電解液に特に好適である。
イオン液体を電池や電気二重層キャパシタの電解液として適用するために、様々な種類の陽イオンと陰イオンとからなるイオン液体の検討が進められている。例えば、非特許文献1では、イオン液体として、ジフルオロホスフェートを陰イオンとする1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートの特性が報告されている。また、非特許文献2では、当該1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートが、代表的なイオン液体として知られる1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと同等の電気伝導性・耐電圧性を有しており、電気二重層キャパシタの電解質として好適に使用できると報告されている。
前記1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートの製造方法としては、非特許文献1によると、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドとジフルオロリン酸カリウムとをアセトン中で反応させ、副生する塩化カリウムを濾別したアセトン溶液をアルミナカラムに作用させた後、アセトンを留去させることにより製造可能とされている。電解液中の不純物は電池や電気二重層キャパシタの性能に著しく影響するため、イオン液体を電解液として使用する際には、可能な限り不純物を低減することが好ましい。イオン液体は難揮発性であり、また広い温度範囲に渡って液体状態であるため、蒸留や再結晶といった精製方法により不純物を低減することが困難である。そのため、純度の高いイオン液体を合成するには高純度の原料を用いる必要がある。従って、非特許文献1に開示の製造方法においては、使用するジフルオロリン酸カリウム中に含まれる不純物は可能な限り少ない方が望ましい。
ここで、ジフルオロリン酸カリウム等のジフルオロリン酸塩の製造方法としては、例えば、下記特許文献1〜特許文献8、および非特許文献3〜非特許文献7に開示されている。
非特許文献3及び非特許文献4には、五酸化ニ燐にフッ化アンモニウムや酸性フッ化ナトリウムなどを作用させてジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかし、これらに開示の製造方法では、ジフルオロリン酸塩の他にモノフルオロリン酸塩やリン酸塩、水が多量に副生する。そのため、その後の精製工程の負荷が大きく効率的な製造方法とは言い難い。
非特許文献5には、P(無水ジフルオロリン酸)を、例えばLiO又はLiOHなどの酸化物や水酸化物と作用させてジフルオロリン酸塩を製造する方法が開示されている。しかし、無水ジフルオロリン酸は非常に高価であり、純度が高いものを入手するのは困難であるため、当該製造方法は工業生産には不利である。
特許文献1には、六フッ化リン酸カリウムとメタリン酸カリウムを混合融解させることによりジフルオロリン酸カリウムを得る方法が開示されている。しかし、この製造方法であると、六フッ化リン酸カリウム及びメタリン酸カリウムを溶融する際に用いる坩堝により、ジフルオロリン酸カリウムが汚染されるという問題がある。また、溶融においては、700℃といった高温の環境を実現する必要もある。そのため、特許文献1に開示の製造方法も、製品の純度や生産性の観点から好ましい方法とは言えない。
非特許文献6には、尿素とリン酸ニ水素カリウムとフッ化アンモニウムを融解、反応させることにより、ジフルオロリン酸カリウムを製造する方法が開示されている。この製造方法においては、反応温度を170℃程度に抑制できることから、特許文献1の反応条件と比べて工業的生産が実現可能である。しかし、大量に副生するアンモニアガスを廃棄処理する必要があり、またフッ化アンモニウムも大量に残留するという問題がある。従って、非特許文献6に開示の製造方法も、製造効率や製品の純度の観点から好ましくない。
非特許文献7には、アルカリ金属クロライドと過剰のジフルオロリン酸を反応させ、副生する塩化水素と余剰のジフルオロリン酸を加熱減圧乾燥することによって留去させた後、ジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかしながら、十分に純度が高いジフルオロリン酸を使用したとしても、この方法により得られるジフルオロリン酸塩には、モノフルオロリン酸塩やフッ化物塩が不純物として多量に残存する。従って、非特許文献7に開示の製造方法も、純度の高いジフルオロリン酸塩を得ることは困難である。
特許文献2〜4には、六フッ化リン酸リチウムとホウ酸塩、二酸化ケイ素、炭酸塩とを非水溶媒中で反応させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。また、特許文献5には、炭酸塩やホウ酸塩を、五フッ化リン等の気体と接触させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。しかし、これらの特許文献に開示の製造方法であると、ジフルオロリン酸塩を得るためには、例えば40〜170時間といった長時間の工程を要する。そのため、工業生産には向かない。
特許文献6には、リンのオキソ酸やオキシハロゲン化物と、六フッ化リン酸塩およびアルカリ金属のハロゲン化物等とをフッ化水素の存在下で反応させ、ジフルオロリン酸塩を得る方法が記載されている。この方法によれば、六フッ化リン酸塩が存在することにより、混入する水分に対して有効に作用し、純度の高いジフルオロリン酸塩が得られるとされている。しかし、高価な六フッ化リン酸塩を比較的大量に使用することに加え、実施例に記載の方法によれば、リン及びフッ素を大量に含んだ排ガスや廃液が生じることから、有用物の分離回収や廃棄処理が煩雑になるという問題がある。
特許文献7には、アルカリ金属等のハロゲン化物とジフルオロリン酸とを、六フッ化リン酸塩の存在下で反応させるジフルオロリン酸塩の製造方法が開示されている。また、特許文献8には、ジフルオロリン酸中でジフルオロリン酸とアルカリ金属のハロゲン化物等とを反応させ、ジフルオロリン酸中でジフルオロリン酸塩を晶析操作により得る方法が開示されている。これらの製造方法では純度の高いジフルオロリン酸を用いる必要があるが、ジフルオロリン酸は腐蝕性が高いため、減圧蒸留等の操作が必要な上に、製造設備も複雑となる。また、ジフルオロリン酸は純度に関わらず工業的に入手するのが困難であるという問題がある。
一方、高純度ジフルオロリン酸塩はイオン液体の原料としてだけでなく、リチウム二次電池用電解液の添加剤としても利用することができる。近年、リチウム二次電池の応用分野は、携帯電話やパソコン、デジタルカメラ等の電子機器から車載への用途拡大に伴い、出力密度やエネルギー密度の向上ならびに容量損失の抑制等、さらなる高性能化が進められている。特に車載用途は民生品用途よりも過酷な環境に晒されるおそれがあることから、サイクル寿命や保存性能の面において高い信頼性が要求されている。リチウム二次電池の電解液には、有機溶媒にリチウム塩を溶解させてなる非水電解液が使用されているが、こうした非水電解液の分解や副反応がリチウム二次電池の性能に影響を及ぼすため、非水電解液に各種添加剤を混合することによって、サイクル寿命や保存性能を向上させる試みがなされてきた。
例えば、特許文献9には、リチウム電池の非水電解液として、有機溶媒にモノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムのうち少なくとも一方が添加剤として含有することが開示されている。当該特許文献9によれば、そのような非水電解液を用いることによって正極及び負極に皮膜を形成させることができ、これにより非水電解液と正極活物質及び負極活物質との接触に起因する電解液の分解を抑制し、自己放電の抑制、保存性能の向上が可能とされている。
ドイツ特許第813848号 特開平2005−53727号 特開平2005−219994号 特開平2005−306619号 特開平2006−143572号 特開2010−155774号 特開2010−155773号 特開2012−51752号 日本国特許第3439085号
K. Matsumoto and R. Hagiwara, Inorganic Chemistry, 2009, 48, 7350-7358 第77回電気化学会予稿集 1I18 Ber. Dtsch. Chem., Ges. B26(1929)786 Zh. Neorgan. Khim., 7(1962)1313-1315 Journal of Fluorine Chemistry, 38(1988)297-302 日本分析化学会第43年会公演要旨集、536(1994) Inorganic Nuclear Chemistry Letters, vol.5(1969)581-585
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、高純度のジフルオロリン酸塩を簡便かつ工業的に有利に製造することが可能なジフルオロリン酸塩の製造方法を提供することにある。
本願発明者等は、前記従来の課題を解決すべく、ジフルオロリン酸塩の製造方法について検討した。その結果、下記の構成を採用することにより純度の高いジフルオロリン酸塩を、工業的に有利な方法で合成することが可能なことを見出して、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法は、前記の課題を解決する為に、有機溶媒を含まない無水フッ化水素酸と、リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種とを反応させてフルオロリン酸溶液を生成させる工程と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム若しくはオニウムのハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物又は酸化物の少なくとも何れかの不存在下で、前記フルオロリン酸溶液に六フッ化リン酸塩を添加することにより、当該フルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程と、前記ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸溶液を加熱乾燥して、フルオロリン酸を留去する工程、又は 晶析によりフルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、当該ジフルオロリン酸塩を固液分離し、さらに固液分離後のジフルオロリン酸塩に含まれるフルオロリン酸を留去する工程のいずれかとを含むことを特徴とする。
前記の構成によれば、先ず、フルオロリン酸の生成においては、リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「リンのオキソ酸等」という)と、無水フッ化水素酸とを反応させて行う。リンのオキソ酸等とフッ化水素との反応は非常に激しいため、これらの化合物と六フッ化リン酸塩とを同時に反応させてジフルオロリン酸塩を合成しようとすると、所望の組成のジフルオロリン酸塩を得ることが困難な場合がある。その結果、最終的に得られるジフルオロリン酸塩についても高品位のものが得られ難くなる。従って、両者の反応性を緩和させることを目的として、大量の有機溶媒中で反応させる場合がある。しかしながら、本発明に於いては、予めフルオロリン酸の合成を行った上で、六フッ化リン酸塩と反応させてジフルオロリン酸塩を合成するので、所望の組成の高品位なジフルオロリン酸塩を製造することが可能になる。
また、本発明においては、有機溶媒を用いずにフルオロリン酸を合成するので、有機溶媒に対する防曝対策が不要となり、製造設備における仕様の複雑化を防止することができる。また、有機溶媒を用いた場合、フルオロリン酸の生成後の有機溶媒に、フルオロリン酸やフッ化水素等の酸が副生する結果、有用物の分離や廃棄処理が煩雑になるという問題がある。しかし、本発明に於いては、そのような有用物の分離・回収や廃棄処理等の問題もなくすことができる。
また、ジフルオロリン酸塩の生成工程においては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム若しくはオニウムのハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物又は酸化物の少なくとも何れかが存在しない状況下で行う。これにより、これらの化合物に起因した不溶解分が生じるのを防止することができる。また、使用原料の低減により生産性が向上すると共に、新たな不純物(特に水分)が持ち込まれることも防ぐことができる。その結果、高品位のジフルオロリン酸塩の製造を可能にする。
さらに、前記構成に於いては、フルオロリン酸溶液中に生成したジフルオロリン酸塩を分離するために、これを加熱乾燥し、フルオロリン酸の留去を行うか、ジフルオロリン酸塩が生成したフルオロリン酸溶液中において晶析操作によって析出した析出物を当該フルオロリン酸から固液分離し、析出物に含まれるフルオロリン酸を留去する。これにより、高純度のジフルオロリン酸塩を得ることができる。
前記の構成に於いて、前記フルオロリン酸溶液を生成させる工程は、前記リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種と、前記無水フッ化水素酸とを、−40℃〜10℃の範囲内に冷却しながら混合させることが好ましい。リンのオキソ酸等と、無水フッ化水素酸との反応を、少なくとも10℃以下となるように冷却しながら行うことにより、例えば、当該反応により得られたフルオロリン酸のうち、沸点の低いものが蒸発するのを抑制し、目的の組成のものが得られなくなるのを防止することができる。すなわち、リンのオキソ酸等と、無水フッ化水素酸とを冷却しながら混合させることで、両者の反応性の制御が図れる。尚、リンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸との混合液は−40℃以上であることが好ましい。これにより、混合液の粘性の増大を防止し、攪拌効率の低下を防ぐことができる。
また、前記の構成に於いて、前記フルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程は、前記フルオロリン酸溶液に前記六フッ化リン酸塩を添加する際に、当該フルオロリン酸溶液を−40℃〜100℃の範囲内に保持して行うことが好ましい。フルオロリン酸溶液を−40℃〜100℃の範囲内に保持することにより、六フッ化リン酸塩が分解するのを防止することができ、ジフルオロリン酸塩を安定的に生成させることが可能になる。尚、フルオロリン酸溶液は−40℃以上であることが好ましい。これにより、フルオロリン酸溶液の粘性の増大を防止し、攪拌効率の低下を防ぐことができる。
また、前記の構成に於いては、前記固液分離後のフルオロリン酸溶液中に、六フッ化リン酸塩、又は六フッ化リン酸塩およびフルオロリン酸を添加した後、加熱乾燥して余剰なフルオロリン酸を留去する工程、又は前記ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸を晶析することにより析出させた析出物を固液分離し、さらに前記析出物に含まれるフルオロリン酸を留去する工程のいずれかを繰り返すことが好ましい。これにより、固液分離されたフルオロリン酸溶液を再び六フッ化リン酸塩との反応に再利用することができ、製造コストの低減が図れる。
さらに、前記構成に於いては、前記六フッ化リン酸塩が六フッ化リン酸リチウムであることが好ましい。
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、フルオロリン酸の生成においては、リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、無水フッ化水素酸とを、有機溶媒を用いずに反応させて行うので、有機溶媒に対する防曝対策が不要となり、製造設備における仕様の複雑化を防止することができる。また、有機溶媒中の有用物の分離・回収や廃棄処理等の問題もない。
また、本発明に於いては、前記の様にして予め作成しておいたフルオロリン酸を反応溶媒としてジフルオロリン酸塩の生成を行う。そのため、フッ化水素の存在下でリンのオキソ酸等と六フッ化リン酸塩とを反応させる場合と比較して、生成されるジフルオロリン酸塩の品位を安定させることができる。さらに、ジフルオロリン酸塩の合成にあたっては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム若しくはオニウムのハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物又は酸化物の少なくとも何れかが存在しない状況下で行うので、これらの化合物に起因した不溶解分が生じるのを防止することができる。また、これらの化合物が添加されることにより、新たな不純物(特に水分)が持ち込まれることも防止できるので、一層高品位のジフルオロリン酸塩を製造することができる。
さらに、本発明に於いては、ジフルオロリン酸塩が溶解したフルオロリン酸溶液を加熱乾燥して、フルオロリン酸の留去を行うか、晶析によりジフルオロリン酸塩を析出させ、その析出物を当該フルオロリン酸から固液分離して、析出物に含まれるフルオロリン酸を留去する。そのため、高純度のジフルオロリン酸塩を簡便に得ることができ、工業的に有利である。その結果、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法により得られるジフルオロリン酸塩は、二次電池用非水電解液の添加剤として極めて有用であり、優れた性能を有する二次電池の提供も可能にする。
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
本実施の形態に係るジフルオロリン酸塩の製造方法は、フルオロリン酸を生成する工程と、フルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を生成する工程と、ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸を加熱乾燥することにより、余剰なフルオロリン酸を留去する工程、又はフルオロリン酸中において晶析操作によって析出した析出物を当該フルオロリン酸中から固液分離し、前記析出物に含まれるフルオロリン酸を留去する工程の何れかとを含む。
前記フルオロリン酸を生成する工程においては、リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種と、無水フッ化水素酸とを反応させることにより行われる。この工程では、無水フッ化水素酸が有機溶媒と混合して用いられることはない。そのため、有機溶媒に対する防曝対策が不要となり、製造設備における仕様の複雑化を防止することができる。また、有機溶媒を用いた場合、排ガスや廃液中には、有機溶媒とフルオロリン酸やフッ化水素等の酸と混在してしまう。そのため、これらの有用物の分離や廃棄処理が煩雑であるという問題がある。しかし、本実施の形態に於いては、有機溶媒を使用しないため、そのような有用物の分離・回収や廃棄処理等の問題もなくすことができる。
前記リンのオキソ酸としては特に限定されず、例えば、リン酸、メタリン酸、リン酸が脱水縮合したピロリン酸、トリポリリン酸等の鎖状のポリリン酸、トリメタリン酸等のような環状のポリリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
前記リンのオキソ酸無水物としては特に限定されず、例えば、前記リンのオキソ酸の無水物等が挙げられ、より具体的には五酸化二リン等が挙げられる。例示したリンのオキソ酸無水物は一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
前記リンのオキシハロゲン化物としては特に限定されず、例えば、リン酸トリクロリド、リン酸トリフルオリド、リン酸ジクロリドフルオリド、ジホスホリルクロリド等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施の形態に於いて生成されるフルオロリン酸は、リン(P)、酸素(O)、水素(H)およびフッ素(F)を含む組成である。リンを1としたときの酸素と水素とフッ素のモル比率をa、b、cとすると、(Pのモル数):(Oのモル数):(Hのモル数):(Fのモル数)=1:a:b:cと表され、a、b、cはそれぞれ1≦a≦10、0.8≦b≦10、0.8≦c≦10の範囲が好ましく、より好ましくは2≦a≦5、0.9≦b≦5、0.9≦c≦5であり、さらに好ましくは2.5≦a≦3、1≦b≦3、1≦c≦3である。リンに対する水素やフッ素の下限値は、無水フッ化水素酸の量によって調整することができ、前記bおよびcを0.8以上にすることにより、得られるフルオロリン酸の粘性が高くなりすぎ、操作性に問題が生じるのを防止することができる。その一方、リンに対する酸素、水素およびフッ素の上限値はリンのオキソ酸やリンのオキソ酸無水物の種類や量と、混合する無水フッ化水素酸の量によって調整可能であり、前記a、b、cをそれぞれ10以下にすることにより、最終的に得られるジフルオロリン酸塩にモノフルオロリン酸塩やリン酸塩等の不純物が多く含まれるといった、製品の品位が低下するのを防止することができる。また、フルオロリン酸中の組成は、蒸留操作等により調整することも可能である。
前記フルオロリン酸の組成の範囲において、リンに対する水素やフッ素の比率が低くなるとフルオロリン酸の粘性が増大する場合がある。従って、操作性に支障がある場合には、リンのオキソ酸等は、上記組成の範囲内において後段の六フッ化リン酸塩を投入する際に回分で加えても構わない。すなわち、フルオロリン酸の合成の際には、所望量のリンのオキソ酸等を少なめに仕込み、所望量に不足する分量は、後段の六フッ化リン酸塩の投入の直前又は同時に加えても構わない。
フルオロリン酸の合成では、リンのオキソ酸等と、無水フッ化水素酸との反応が非常に激しいため、十分に冷却しながら徐々に混合することが好ましい。混合は無水フッ化水素酸に対し、リンのオキソ酸等を添加するのが好ましい。また、予め作成したフルオロリン酸にリンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸とを添加するのが好ましい。後者の場合、予め作成したフルオロリン酸は十分に冷却しておくのが好ましい。また、リンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸は、何れを先にフルオロリン酸に添加してもよい。冷却温度範囲は−40℃〜10℃の範囲が好ましく、−30℃〜0℃の範囲がより好ましく、−20℃〜−5℃の範囲が特に好ましい。冷却温度を−40℃以上にすることにより、粘性が増大し撹拌効率が低下するのを防止し、経済性も向上させることができる。その一方、冷却温度を10℃以下にすることにより、リンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸との反応性の制御を可能にする。局所的な発熱等によってその周辺の成分が揮発するなど、反応性が制御できない場合、仕込み原料の質量(リンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸の総質量)に対して、得られたフルオロリン酸の質量が低下することで、収率が低下する場合がある。
尚、前記冷却温度とは、例えば、無水フッ化水素酸に対し、リンのオキソ酸等を添加する場合は、リンのオキソ酸等の温度を意味する。また、フルオロリン酸にリンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸とを添加する場合は、フルオロリン酸の温度を意味する。
リンのオキソ酸等と無水フッ化水素酸の混合時の反応性は、フルオロリン酸の質量減少率を指標とすることができる。フルオロリン酸の質量減少率は5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは1.5質量%以下であり、特に好ましいくは1質量%以下である。尚、フルオロリン酸の質量減少率(%)は、((仕込み原料の質量)−(フルオロリン酸の質量))/(仕込み原料の質量)×100(%)により求めることができる。
また、前記フルオロリン酸の合成の際における冷却の時間は、冷却温度との関係で適宜必要に応じて設定されるが、無水フッ化水素酸に対しリンのオキソ酸等の添加が完了するまでの間行われるのが好ましい。より具体的には、例えば、2時間〜10時間の範囲内が好ましく、3時間〜8時間の範囲内がより好ましく、3.5時間〜7.5時間の範囲内が特に好ましい。
前記ジフルオロリン酸塩の生成工程においては、六フッ化リン酸塩とフルオロリン酸とを反応させることにより行う。この反応は、フルオロリン酸溶液中において行われる。そのため、有機溶媒は用いられず、フルオロリン酸溶液は反応溶媒としての役割を果たす。従来のジフルオロリン酸塩の製造方法においては、有機溶媒を使用しない合成例もあり、例えば、六フッ化リン酸リチウムとフッ化リチウムと五酸化二リンとにフッ化水素を加えて反応させ、ジフルオロリン酸リチウムを製造する方法が行われている。しかし、このような合成では、反応が非常に激しく進行し、得られるジフルオロリン酸リチウムの品位も安定していないという不都合がある。これは、反応が激しいために、局所的な発熱等によって反応容器内における温度分布にムラが生じ、反応条件を安定化させることが難しいためと考えられる。しかしながら、本実施の形態に於いては、予め合成しておいたフルオロリン酸を反応溶媒として、六フッ化リン酸塩と当該フルオロリン酸とを反応させるので、反応容器内における温度分布のムラの発生を低減し、反応条件の安定化を図ることができる。その結果、得られるジフルオロリン酸塩の品位をより安定化させることが可能になる。
また、ジフルオロリン酸塩の生成工程においては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム若しくはオニウムのハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物又は酸化物(以下、「アルカリ金属等のハロゲン化物等」という。)の少なくとも何れかが実質的に存在しない状況下で行われる。本実施の形態に於いては、ジフルオロリン酸塩の生成にあたって有機溶媒を用いないので、アルカリ金属等のハロゲン化物等を添加しないことにより、当該ハロゲン化物等に起因する不溶解分が生じるのを防止することができる。また、使用原料の低減により生産性が向上すると共に、新たな不純物(特に水分)が持ち込まれることも防ぐことができる。その結果、高品位のジフルオロリン酸塩の製造を可能にする。
前記アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。また、前記オニウムとしては、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムが挙げられる。さらに、前記アンモニウムとしてはNH4、第2級アンモニウム、第3級アンモニウム、第4級アンモニウムが挙げられ、第4級アンモニウムとしては、テトラアルキルアンモニウム(例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム等)、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピリジニウム、トリアゾリウム、ピリダジニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウムが挙げられる。前記ホスホニウムとしては、テトラアルキルホスホニウム(テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム等)が挙げられる。前記スルホニウムとしては、トリアルキルスルホニウム(トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等)が挙げられる。
前記ハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物が挙げられる。前記ホウ酸塩としては、オルトホウ酸塩、メタホウ酸塩、二ホウ酸塩、四ホウ酸塩、五ホウ酸塩、八ホウ酸塩が挙げられる。前記リン酸塩としては、オルトリン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、メタリン酸一水素塩、メタリン酸二水素塩、ホスフェン酸塩、メタホスフェン酸塩が挙げられる。
ここで、六フッ化リン酸塩とフルオロリン酸溶液の混合は、フルオロリン酸溶液に対し六フッ化リン酸塩を添加することにより行うのが好ましい。また、六フッ化リン酸塩の添加は、反応の状況を踏まえて適宜決定することができ、所定量を一度に投入してもよく、複数回に分けて投入してもよい。六フッ化リン酸塩をフルオロリン酸溶液に添加する際のフルオロリン酸溶液の液温は、−40℃〜100℃の範囲内が好ましく、−30℃〜90℃の範囲内がより好ましく、−20℃〜80℃の範囲内が特に好ましい。前記液温を100℃以下にすることにより、六フッ化リン酸塩がフルオロリン酸溶液に接触する際に、当該フルオロリン酸溶液の熱により分解するのを防止することができる。その一方、液温を−40℃以上にすることにより、六フッ化リン酸塩とフルオロリン酸との反応を促進することができる。
前記六フッ化リン酸塩とフルオロリン酸の反応条件は、任意に設定することができる。反応温度は0℃〜300℃の範囲内が好ましく、0℃〜200℃の範囲内がより好ましく、0℃〜180℃の範囲内が特に好ましい。反応は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。反応時間は、通常0.5時間〜5時間の範囲で行われるが、反応装置や仕込み量によって適宜設定することができる。
また、六フッ化リン酸塩とフルオロリン酸の反応効率を高めるために、還流を行ってもよい。還流塔の温度は−50℃〜10℃の範囲内が好ましく、−40℃〜8℃の範囲内がより好ましく、−30℃〜5℃の範囲内が特に好ましい。
前記得六フッ化リン酸塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびオニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
前記六フッ化リン酸塩におけるアルカリ金属としては特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。これらのアルカリ金属のうちLi、Na、Kが価格、入手しやすさの観点から好ましい。
前記アルカリ土類金属としては特に限定されず、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。これらのアルカリ土類金属のうちMg、Ca、Ba、Alが価格・安全性の面から好ましい。
前記オニウムとしては特に限定されず、例えば、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
六フッ化リン酸塩とフルオロリン酸溶液の混合比率は、本工程の後に行われるフルオロリン酸を留去する工程に応じて設定され得る。すなわち、ジフルオロリン酸塩の生成工程の後に行われる工程が、加熱乾燥しながら余剰のフルオロリン酸を留去する工程であるか、フルオロリン酸溶液中でジフルオロリン酸塩を晶析した後に固液分離することによりフルオロリン酸を留去する工程であるかによって異なる。
次工程が加熱乾燥しながら余剰のフルオロリン酸を留去する工程である場合、フルオロリン酸中のリンのモル数に対する六フッ化リン酸塩中の六フッ化リン酸イオンのモル数の比率をxとすると、0.3≦x≦0.7が好ましく、0.35≦x≦0.65がより好ましく、0.4≦x≦0.6がさらに好ましい。xを0.3以上にすることにより、得られるジフルオロリン酸塩に対して留去するフルオロリン酸の量が多くなり生産効率が低下するのを防止することができる。その一方、xを0.7以下にすることにより、未反応として残留する原料の六フッ化リン酸塩の低減が図れる。
また、次工程がジフルオロリン酸塩の晶析後に固液分離を行う場合、フルオロリン酸への温度に依存した溶解度差に相当するジフルオロリン酸塩を回収することになる。従って、フルオロリン酸に対するジフルオロリン酸塩の飽和溶解度に相当するモル量の六フッ化リン酸塩をフルオロリン酸と反応させればよい。よって、前記xは0.05≦x≦0.5であることが好ましく、0.1≦x≦0.45であることがより好ましく、0.15≦x≦0.4であることが特に好ましい。
尚、原料の六フッ化リン酸塩を多く仕込むと、過剰な六フッ化リン酸塩は未反応として残り、ジフルオロリン酸塩と六フッ化リン酸塩の混合物が得られる。例えば、前記六フッ化リン酸塩が六フッ化リン酸リチウムの場合、六フッ化リン酸リチウムの仕込み量が多いと、得られる生成物は六フッ化リン酸リチウムとジフルオロリン酸リチウムとの混合物となる。
前記ジフルオロリン酸塩の生成工程の後、本実施の形態に於いては、残留するフルオロリン酸を留去する工程を行う。フルオロリン酸を留去する方法としては、ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸を加熱乾燥することにより、余剰なフルオロリン酸を留去する方法、又は晶析によりフルオロリン酸溶液中に析出した析出物を当該フルオロリン酸中から固液分離し、前記析出物に含まれるフルオロリン酸を留去する方法の何れかを行う。
前者の方法においては、加熱温度は40℃〜200℃の範囲内が好ましく、50℃〜180℃の範囲内がより好ましく、60℃〜150℃の範囲内が特に好ましい。加熱温度を40℃以上にすることにより、フルオロリン酸の留去が不十分となるのを防止することができる。その一方、加熱温度を200℃以下にすることにより、乾燥装置の耐久性の問題を回避することができる。また、加熱時間は加熱温度等の条件により適宜必要に応じて設定され得る。具体的には、2時間〜35時間の範囲内が好ましく、3時間〜30時間の範囲内がより好ましく、4時間〜25時間の範囲内が特に好ましい。
さらに、加熱乾燥は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下または不活性ガス気流下で行うことが好ましい。これにより、大気中の水分がフルオロリン酸溶液に溶解して、ジフルオロリン酸イオンが加水分解し、モノフルオロリン酸イオンやリン酸イオン等の不純物が生成して、組成変化が生じるのを防止することができる。また、加熱乾燥は使用する乾燥装置の観点から常圧が好ましいが、揮発物(フルオロリン酸)の留去を促進する観点からは減圧乾燥であってもよい。さらに、乾燥効率の観点から、乾燥の際にはジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸を振動や揺動、攪拌等の混合操作を行ってもよい。
後者の方法においては、先ず、フルオロリン酸中のジフルオロリン酸塩の晶析を行う。晶析は当該フルオロリン酸を加熱し、又は冷却することによりジフルオロリン酸塩を飽和状態または過飽和状態にして行う。これにより、ジフルオロリン酸塩の結晶をフルオロリン酸中に析出させる。晶析温度は適宜必要に応じて設定することができ、具体的には、−100℃〜100℃の範囲内が好ましく、−80℃〜80℃の範囲内がより好ましく、−50℃〜50℃の範囲内が特に好ましい。
ジフルオロリン酸塩の結晶を析出させた後、固液分離を行う。固液分離は、例えば濾過により行われる。これにより得られた析出物には晶析溶媒として用いたフルオロリン酸が含まれている。そのため、加熱乾燥によって当該フルオロリン酸を取り除く必要がある。本実施の形態に於いては、この加熱乾燥により副生した不純物も析出物から除去することができる。このときの加熱乾燥温度は、40℃〜200℃の範囲内が好ましく、50℃〜180℃の範囲内がより好ましく、60℃〜150℃の範囲内が特に好ましい。加熱温度を40℃以上にすることにより、フルオロリン酸の留去が不十分となるのを防止することができる。その一方、加熱温度を200℃以下にすることにより、乾燥装置の耐久性の問題を回避することができる。また、加熱時間は加熱温度等の条件により適宜必要に応じて設定され得る。具体的には、2時間〜35時間の範囲内が好ましく、3時間〜30時間の範囲内がより好ましく、4時間〜25時間の範囲内が特に好ましい。
さらに、加熱乾燥は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下または不活性ガス気流下で行うことが好ましい。これにより、大気中の水分がフルオロリン酸に溶解し水素原子と酸素原子の比率が変動して組成変化が生じるのを防止することができる。また、加熱乾燥は使用する乾燥装置の観点から常圧が好ましいが、揮発物(フルオロリン酸)の留去を促進する観点からは減圧乾燥であってもよい。さらに、乾燥効率の観点から、乾燥の際にはジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸を振動や揺動、攪拌等の混合操作を行ってもよい。これにより、析出物に含まれるフルオロリン酸や不純物を留去することができ、高純度のジフルオロリン酸塩を得ることができる。
尚、前記の固液分離により得られたフルオロリン酸溶液には未析出のジフルオロリン酸塩が溶解している。そのため、固液分離後のフルオロリン酸溶液は再利用することができる。固液分離後のフルオロリン酸溶液の再利用は、当該フルオロリン酸溶液中のジフルオロリン酸塩の濃度が低下していることから、低下分に相当する原料塩(六フッ化リン酸塩)、又は原料塩およびフルオロリン酸を加えることにより行うことができる。これにより、フルオロリン酸と六フッ化リン酸塩を反応させた後、前記と同様に、ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸溶液を加熱乾燥して、余剰なフルオロリン酸を留去する工程を繰り返す。あるいは、晶析によりフルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、これを固液分離し、その後、加熱乾燥させることによりフルオロリン酸を留去させる工程を繰り返す。これにより、高純度のジフルオロリン酸塩を効率よく製造することができる。
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
(実施例1)
<フルオロリン酸の調製>
HF100gを内容積1LのPFAボトルに分取して攪拌しながら−10℃まで冷却を行い、284gのPを少量ずつゆっくりと添加した。冷却はPの添加が終了するまでの間、1時間行った。さらに、添加したPを完溶させるために、得られた混合溶液を、窒素雰囲気下で攪拌しながら80℃にて5時間加温した。これにより、フルオロリン酸溶液380gを得た。
<ジフルオロリン酸リチウムの合成>
前記フルオロリン酸溶液138gを内容積1LのPFA容器に量り取り、これに六フッ化リン酸リチウム107gを窒素雰囲気下で添加した。六フッ化リン酸リチウムの添加時のフルオロリン酸溶液の液温は、30℃とした。その後、窒素気流下で130℃、20時間の条件で加熱乾燥し、濃縮乾固を行った。これにより、白色結晶73.5gを得た。
得られた白色結晶についてイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス(株)製ICS−1000、カラムAS−23)でアニオン分析を行った。その結果、得られた結晶がジフルオロリン酸リチウムであることが確認された。また、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度の指標とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で98%であった。
(実施例2)
<フルオロリン酸の調製>
前記実施例1と同様にしてフルオロリン酸溶液380gを得た。
<ジフルオロリン酸リチウムの合成>
前記フルオロリン酸溶液126gを内容積1LのPFA容器に量り取り、これに六フッ化リン酸リチウム50gを窒素雰囲気下で添加した。六フッ化リン酸リチウムの添加時のフルオロリン酸溶液の液温は、50℃とした。さらに、六フッ化リン酸リチウム添加後のフルオロリン酸溶液を−20℃まで冷却し、晶析を行った。これにより、フルオロリン酸溶液と析出物とからなるスラリー溶液を得た。
続いて、得られたスラリー溶液161gを窒素雰囲気下で濾過により固液分離を行い、反応母液を含んだ白色結晶15.5gを得た。さらに、反応母液を含む白色結晶をPFAボトルに移し変え、窒素気流下で130℃にて20時間の加熱乾燥を行い、白色結晶9.5gを得た。
得られた白色結晶についてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムであることが確認された。また、その純度は相対面積で98%であった。
(比較例1)
六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ株式会社製)36gを内容積1LのPFA容器に量り取り、フッ化リチウム(試薬:ステラケミファ製)11.8g、五酸化二リン(試薬:和光純薬製)66.7gを加えた。続いて、無水フッ化水素酸300gを加え、130℃で2時間加熱し、余剰な溶媒や反応副生成物を留去させた。その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶25gを得た。さらに、実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸リチウム結晶の純度は相対面積で89%であった。
(実施例3)
<フルオロリン酸の調製>
HF100gを内容積1LのPFAボトルに分取して攪拌しながら10℃まで冷却を行い、284gのPを少量ずつゆっくりと添加した。冷却はPの添加が終了するまでの間、1時間行った。さらに、添加したPを完溶させるために、得られた混合溶液を、窒素雰囲気下で攪拌しながら80℃にて5時間加温した。これにより、フルオロリン酸溶液367gを得た。
<ジフルオロリン酸リチウムの合成>
上記フルオロリン酸溶液135gを内容積1LのPFA容器に量り取り、これに六フッ化リン酸リチウム105gを窒素雰囲気下で添加した。六フッ化リン酸リチウムの添加時のフルオロリン酸溶液の液温は、30℃とした。その後、窒素気流下で130℃、20時間の条件で加熱乾燥し、濃縮乾固を行った。これにより、白色結晶72.3gを得た。
得られた白色結晶についてイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス(株)製ICS−1000、カラムAS−23)でアニオン分析を行った。その結果、得られた結晶がジフルオロリン酸リチウムであることが確認された。また、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度の指標とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で97%であった。
(実施例4)
<フルオロリン酸の調製>
HF100gを内容積1LのPFAボトルに分取して攪拌しながら20℃まで冷却を行い、284gのPを少量ずつゆっくりと添加した。冷却はPの添加が終了するまでの間、1時間行った。さらに、添加したPを完溶させるために、得られた混合溶液を、窒素雰囲気下で攪拌しながら80℃にて5時間加温した。これにより、フルオロリン酸溶液362gを得た。
<ジフルオロリン酸リチウムの合成>
上記フルオロリン酸溶液136gを内容積1LのPFA容器に量り取り、これに六フッ化リン酸リチウム106gを窒素雰囲気下で添加した。六フッ化リン酸リチウムの添加時のフルオロリン酸溶液の液温は、30℃とした。その後、窒素気流下で130℃、20時間の条件で加熱乾燥し、濃縮乾固を行った。これにより、白色結晶72.4gを得た。
得られた白色結晶についてイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス(株)製ICS−1000、カラムAS−23)でアニオン分析を行った。その結果、得られた結晶がジフルオロリン酸リチウムであることが確認された。また、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度の指標とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で95%であった。

ドイツ特許第813848号 特開2005−53727号 特開2005−219994号 特開2005−306619号 特開2006−143572号 特開2010−155774号 特開2010−155773号 特開2012−51752号 日本国特許第3439085号
前記フッ化リン酸塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびオニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。

Claims (5)

  1. 有機溶媒を含まない無水フッ化水素酸と、リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種とを反応させてフルオロリン酸溶液を生成させる工程と、
    アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム若しくはオニウムのハロゲン化物、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、水酸化物又は酸化物の少なくとも何れかの不存在下で、前記フルオロリン酸溶液に六フッ化リン酸塩を添加することにより、当該フルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程と、
    前記ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸溶液を加熱乾燥して、フルオロリン酸を留去する工程、又は 晶析によりフルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、当該ジフルオロリン酸塩を固液分離し、さらに固液分離後のジフルオロリン酸塩に含まれるフルオロリン酸を留去する工程のいずれかとを含むジフルオロリン酸塩の製造方法。
  2. 前記フルオロリン酸溶液を生成させる工程は、前記リンのオキソ酸、オキソ酸無水物及びオキシハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種と、前記無水フッ化水素酸とを、−40℃〜10℃の範囲内に冷却しながら混合させる請求項1に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
  3. 前記フルオロリン酸溶液中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程は、前記フルオロリン酸溶液に前記六フッ化リン酸塩を添加する際に、当該フルオロリン酸溶液を−40℃〜100℃の範囲内に保持して行う請求項1又は2に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
  4. 前記固液分離後のフルオロリン酸溶液中に、六フッ化リン酸塩、又は六フッ化リン酸塩およびフルオロリン酸を添加した後、加熱乾燥して余剰なフルオロリン酸を留去する工程、又は前記ジフルオロリン酸塩を含むフルオロリン酸を晶析することにより析出させた析出物を固液分離し、さらに前記析出物に含まれるフルオロリン酸を留去する工程のいずれかを繰り返す請求項1〜3の何れか1項に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
  5. 前記六フッ化リン酸塩が六フッ化リン酸リチウムである請求項1〜4の何れか1項に記載にジフルオロリン酸塩の製造方法。

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