以下、図面を参照して、本発明に係る回避軌道予測装置の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施の形態では、本発明に係る回避軌道予測装置を、自車両が他車両と衝突するのを回避するための運転支援を行う衝突回避運転支援装置における他車両が障害物を回避するための回避経路(特許請求の範囲に記載する回避軌道に相当)の予測機能に適用する。本実施の形態に係る衝突回避運転支援装置は、自車両周辺の他車両が障害物を回避した場合や衝突を避けられないときの衝突した場合を想定し、その回避した後や衝突した後の他車両に自車両が衝突するのを回避(衝突を避けられないときの衝突による損害の軽減も含む)するための多重衝突回避のための運転支援装置である。
なお、他車両(特許請求の範囲に記載の対象車両に相当)としては、自車両周辺の車両であり、例えば、自車両と同じ車線や隣接する車線を走行する先行車両や後方車両、対向車線を走行する対向車両、前方の交差点で交差する車線を走行する交差車両である。障害物(特許請求の範囲に記載の路上物体に相当)としては、他車両の走行に障害になる可能性のある物体であり、路上の静止物と移動物を含む。本実施の形態で用いる座標系は、自車両の左右方向(横方向)をx方向とし、自車両の前後方向をy方向とし、自車両の位置を基準とする座標系とする。なお、座標系については、これに限定されず、例えば、グローバルな座標系としてもよい。
図1を参照して、本実施の形態に係る衝突回避運転支援装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係る衝突回避運転支援装置の構成図である。
衝突回避運転支援装置1は、他車両が障害物を回避するための障害物回避経路(衝突が避けられない場合の経路も含む)を予測し、その障害物回避経路に基づいて自車両が他車両と衝突して損害を受ける可能性のある損害エリアを計算し、損害エリアを回避(衝突した場合の損害の最小化も含む)する自車両の他車両回避経路を予測し、その他車両回避経路に基づいてHMI[Human Machine Interface]や介入制御等を行う。特に、衝突回避運転支援装置1では、障害物回避経路を高精度に予測するために、障害物の種類を判別し、障害物の種類に応じて障害物回避軌跡を計算する。
衝突回避運転支援装置1は、外界センサ10、内界センサ11、路車間通信装置12、地図データベース13、HMI装置20、介入制御ECU[Electronic Control Unit]21及びECU30を備えている。なお、路車間通信装置12と地図データベース13を備える構成としているが、いずれか一方だけ備えていてもよいしあるいは両方を備えていなくてもよい。運転者に対する各種支援を行うためにHMI装置20と介入制御ECU21を備える構成としているが、いずれか一方だけ備えていてもよいしあるいは他の支援手段を備えていてもよい。
外界センサ10は、自車両周辺の外界の環境を検知するセンサである。検知対象物としては、例えば、車両、歩行者、自転車、バイク、建物、壁、ガードレール、路上の落下物、路上工事に関連する物がある。外界センサ10としては、例えば、ミリ波レーダ、音波レーダ、レーザレーダ等のレーダセンサ、カメラと画像処理装置からなるカメラセンサがある。これらレーダセンサやカメラセンサによる物体検知については従来の手法を適用する。これらのセンサによる物体検知によって、三次元空間内での検知対象物の有無、検知対象物が存在する場合にはその物体の位置、大きさ(幅方向、奥行き方向、高さ方向)、形状、種別、構成物(例えば、金属、非金属、樹脂)等を取得する。特に、構成物については、ミリ波レーダや音波レーダ等を利用することによって判別したり、画像に基づく物体の種別によって判別できる。外界センサ10では、一定時間毎に、自車両周辺の環境を検知し、外界情報(検知対象物の有無、検知対象物が存在する場合には検知対象物毎の位置、大きさ、形状、種別、構成物等の情報)をECU30に送信する。なお、車両を検知する手段としては、車車間通信装置等の他の手段で他車両の情報を検知してもよい。
内界センサ11は、自車両の情報を検知するセンサである。内界センサ11としては、例えば、自車両の位置を検知するGPS[Global Positioning System]センサ、車速を検知する車速センサ、ヨーレートを検知するヨーレートセンサ、ステアリングホイール(あるいは、転舵輪)の舵角を検知する舵角センサがある。内界センサ11では、一定時間毎に、自車両の各種情報(位置、車速、ヨーレート、舵角等)を検知し、自車両情報をECU30に送信する。
路車間通信装置12は、路上に設置されるインフラ装置(例えば、ビーコン)と路車間通信するための装置である。路車間通信装置12では、自車両がインフラ装置の通信エリア内に進入すると、インフラ装置から各種情報を受信し、その受信した各種情報をECU30に送信する。この各種情報としては、例えば、インフラ装置周辺の道路情報、信号機情報、交通標識情報、渋滞情報、工事情報がある。
地図データベース13は、各種地図データを格納したデータベースであり、主にナビゲーションシステム(図示せず)で利用されるデータベースである。この格納されているデータとしては、例えば、道路データ、道路周辺の建物データがある。ECU30では、地図データベース13から必要なデータを読み出す。
HMI装置20は、自車両の運転者に対する注意喚起、警報等を行う際に用いる装置である。HMI装置20としては、例えば、スピーカ等の音声出力手段、HUD[Head Up Display]、ナビゲーションシステムのディスプレイやコンビネーションメータ等の表示装置がある。HMI装置20では、ECU30からの注意喚起の教示情報、警報情報を受信すると、その注意喚起の教示情報、警報情報に応じてHMIを行う。
介入制御ECU21は、自車両において介入制御を実行させるECUである。介入制御ECU21は、ブレーキECU(図示せず)、エンジンECU(図示せず)、操舵ECU(図示せず)等から構成される。介入制御ECU21では、ECU30から各介入制御量を受信すると、各介入制御量に応じてブレーキアクチュエータ(図示せず)、アクセルアクチュエータ(図示せず)、ステアリングアクチュエータ(図示せず)を制御し、自動介入制御(減速制御や停止制御、加速制御、操舵制御)を実施する。特に、この各介入制御には強弱を設定することも可能である。例えば、介入ブレーキの場合、強い介入制御としては自動停止させる介入ブレーキ、弱い介入制御としては自車両を減速させる介入ブレーキがある。
ECU30は、CPU[CentralProcessing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等からなる電子制御ユニットであり、衝突回避運転支援装置1を統括制御する。ECU30では、ROMに格納されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することにより、他車両検出機能、障害物検出機能、障害物判別機能、障害物回避経路計算機能、障害物/他車両衝突判定機能、損害エリア計算機能、他車両回避経路計算機能、支援機能等を実施する。そして、ECU30では、一定時間毎に、外界センサ10からの外界情報や内界センサ11からの自車両情報を受信する。また、ECU30では、路車間通信装置12でインフラ装置から情報を受信した場合にはその情報を受信する。また、ECU30では、地図データベース13から必要なデータを読み出す。そして、ECU30では、その各情報を用いて各機能の処理を行う。さらに、ECU30では、支援を実施する場合には支援情報をHMI装置20や介入制御ECU21に送信する。ECU30では、各機能の処理を単位時間(CPUのクロック周波数に基づく一定の周期)毎に行う。
なお、本実施の形態では、外界センサ10及びECU30での障害物検出機能が特許請求の範囲に記載する検知手段に相当し、ECU30での障害物判別機能が特許請求の範囲に記載する判別手段に相当し、ECU30での障害物回避経路計算機能が特許請求の範囲に記載する予測手段に相当する。
他車両検出機能について説明する。ECU30では、外界情報に基づいて、検出されている物体の中に車両が存在するか否かを判断する。車両が存在する場合、ECU30では、車両毎に、車両の位置(自車両と車両との位置関係)や進行方向等から自車両と衝突する可能性のある他車両か否かを判断する。この判断方法としては、従来の方法を適用する。
障害物検出機能について説明する。他車両検出機能で他車両が検出されている場合、ECU30では、外界情報に基づいて、検出されている物体毎に、路車間通信装置12や地図データベース13から取得した道路データ等からその物体が道路に対して一時的なもの(例えば、車両、歩行者、自転車、バイク、路上の落下物、路上工事に関連する物)かあるいは固定のもの(例えば、建物、ガードレール、交通標識、電柱)かを判別する。そして、ECU30では、検出されている物体毎に、一時的なものか否かの情報や他車両と物体の位置関係等から他車両の障害物として考慮すべき物体か否かを判断する。
障害物判別機能について説明する。障害物検出機能で考慮すべき障害物が検知された場合、ECU30では、外界情報に基づいて、その障害物についての道路に対して一時的なものか否かの情報、大きさ、形状、種別、構成物等から障害物の種類を判別する。この障害物の種類は、他車両が障害物を回避する際に回避状況が変わる分類(要因)に基づく種類である。この分類(要因)としては、回避する際に他車両の横方向の移動状況や前後方向の移動状況が変わるものであり、例えば、障害物によって他車両から先を見通せるか否か、障害物の形状が変化しているか否か、障害物が移動する準備中か否かがある。先を見通せるか否かは、運転者にとって、障害物回避後のより先方の安全確認が取れるかに直接関わり、確認の有無によって安全余裕の取り方に差が出ることは現実の運転動作に則したものとして考慮されるべきものである。したがって、障害物によって先を見通せない場合、障害物を回避して先を見通せるようになるために、他車両の横方向の移動が大きくなる。また、障害物の形状に変化がある場合、形状変化に対応するために、他車両の前後方向の移動が大きくなる(特に、減速や停止)。また、障害物が移動準備中の場合、障害物が横方向に移動するので、他車両の横方向の移動が大きくなる可能性がある。
図2には、上記の分類に応じた障害物の種類の一例を示している。先を見通せない分類の場合、障害物の種類としては、例えば、移動物として背の高い大型車両(トラック等)、静止物としては建物や壁がある。先を見通せるかつ形状変化がない分類の場合、障害物の種類としては、例えば、移動物として背の低い車両やバイク、静止物としてはガードレールや工事現場の枠がある。先を見通せるかつ形状変化が有る分類の場合、障害物の種類としては、例えば、移動物として荷台から荷物がはみだし状態の車両、静止物としては人が降りてドアを開く停車車両がある。移動準備物の場合、障害物の種類としては、例えば、移動物として走行中のウインカを点滅させている車両や交差する道路上の車両、静止物としては停止中のウインカを点滅させている車両や交差する道路上の車両がある。例えば、ECU30では、障害物がこれらのどの物体に該当するかを判別し、この判別した物体の分類を特定する。
障害物回避経路計算機能について説明する。車両の走行経路を予測する場合、従来は式(1)、式(2)による予測モデルを用いていた。式(1)、式(2)は、車両が等速運動するものと想定して、離散化された任意の単位時間での計算式である。Xp()は、単位時間毎の車両のx方向の位置である。Yp()は、単位時間毎の車両のy方向の位置である。Vxは、車両のx方向の現在速度である。Vyは、車両のy方向の現在速度である。Vx、Vyは、Xp()、Yp()の時間変化で求められる。hは、計算周期である単位時間である。k,k+1は、単位時間h毎にカウントアップされるカウント値であり、各時間(各時点)を示す。
上記の従来の予測モデルで他車両の障害物を回避する経路を予測した場合、障害物の種類に関係なく、一律に障害物回避経路が予測されることになるので、実際の回避経路と大きく異なる可能性がある。そこで、障害物の種類に応じて障害物回避経路を予測する。そのために、本実施の形態では、各分類による障害物の種類によって決まる速度変化分である加減速度関数(x方向のgx(a)とy方向のgy(a))を導入し、この加減速度関数を上記の予測モデルに加味する。aは、分類を示す。gx(a)、gy(a)は、他車両が障害物から離れる方向をプラスとする。
図2には、各分類(障害物の各種類)に応じた加減速度関数の一例を示している。先を見通せない分類の場合、障害物の種類(移動物として背の高い大型車両(トラック等)、静止物としては建物や壁等)では、障害物を回避するために横方向の移動が多くなり、前後方向の加減速が小さい傾向があるので、gx(a)が大であり、gy(a)が小である。先を見通せるかつ形状変化が無い分類の場合、障害物の種類(移動物として背の低い車両やバイク、静止物としてはガードレールや工事現場の枠等)では、障害物を回避するために横方向の移動が少なく、前後方向の減速(又は加速)がある程度大きくなる傾向があるので、gx(a)が小であり、gy(a)が中である。先を見通せるかつ形状変化が有る分類の場合、障害物の種類(移動物として荷台から荷物がはみだし状態の車両、静止物としては人が降りてドアを開く車両等)では、障害物の形状変化を回避するために横方向の移動がある程度多くなり、前後方向の減速(又は加速)が大きくなる傾向があるので、gx(a)が中であり、gy(a)が大である。移動準備物の場合、障害物の種類(移動物として走行中のウインカを点滅させている車両や交差する道路上の車両、静止物としては停止中のウインカを点滅させている車両や交差する道路上の車両等)では、障害物を回避するために横方向の移動が多くなり、車線変更が場合は前後方向の加減速がない傾向があるので、gx(a)が大であり、gy(a)が0である。なお、gx(a)、gy(a)についての具体的な数値については、実車実験やシミュレート等によって適宜設定してよい。
ECU30では、障害物判別機能で判別した障害物の種類(ひいては、分類)に応じて加減速度関数gx(a)、gy(a)を設定する。そして、ECU30では、そのgx(a)、gy(a)を用いて、式(3)、式(4)の予測モデルによって他車両の障害物回避経路を計算する。この式(3)、式(4)の予測モデルの場合、他車両の現在の速度Vx,Vyに加えて障害物の種類(分類)に応じた加減速度関数gx(a)、gy(a)によって他車両の障害物に対する回避経路を予測できる。Tsは、単位時間である。ここでは、Xp(k)、Yp(k)の初期値は実際の他車両の位置であり、Xp(k+1)、Yp(k+1)を計算する毎にその各値をXp(k)、Yp(k)として次のXp(k+1)、Yp(k+1)を順次計算し、loop分のXp,Ypの各値を計算する。loopは、予測する任意の時間(loop×単位時間)を規定する値であり、適宜設定してよい。
障害物/他車両衝突判定機能について説明する。ECU30では、障害物回避経路計算機能で計算した他車両の障害物回避経路と障害物の位置を用いて、他車両と障害物との衝突の可能性を示す衝突可能性指標(Xmargin、Ymargin)を計算する。ここでは、障害物回避経路の各時点での位置と障害物の位置との差分の逆数に他車両の絶対加速度を乗算した値をloop分累積する式(5)、式(6)により、Xmargin、Ymarginを計算する。Xp(i),Yp(i)は、式(3)、式(4)で計算された障害物回避経路の各時点の他車両の位置である。Xprk,Yprkは、k時点(現在時点)での障害物の位置である。Ap()は、他車両の絶対加速度であり、式(7)で計算される。式(7)のVp()は、式(8)によって計算される。衝突可能性指標Xmargin、Ymarginは、障害物の位置と他車両の予測の障害物回避経路の各位置との相対距離の逆数と他車両の絶対加速度との積の累積値で表現されているので、この値が大きくなるほど他車両が障害物に衝突する可能性が高くなる。特に、他車両の予測の障害物回避経路と障害物との位置との差が十分にあったとしても、他車両の衝突側への加速が大きい場合には、衝突可能性指標(Xmargin、Ymargin)が大きくなる。
そして、ECU30では、衝突可能性指標のx方向値Xmargin及びy方向値Ymarginと閾値とをそれぞれ比較する。この閾値は、他車両と障害物とが衝突する可能性があるか否かを判定するための閾値であり、実車実験やシミュレーション等によって予め設定される。ECU30では、Xmargin、Ymarginの少なくとも一方が閾値よりも大きいと判定した場合、他車両が障害物と衝突する可能性が高いと予測する。
損害エリア計算機能について説明する。他車両が障害物と衝突する可能性が高いと予測した場合、ECU30では、他車両が障害物と衝突した後(あるいは障害物を回避した後)の他車両が存在する可能性のあるエリアを計算する。このエリアの計算では、車両の運転者が取りうる最大舵角、最大アクセル、最大ブレーキを用いて、車両が取り得るエリアの境界線を計算する。ここでは、実際に衝突が起きなくても、衝突が起きそうな場面において緊急的な回避運転も含まれ、その場合には障害物を回避した後の他車両が存在する可能性のあるエリアである。エリアの境界線を計算する場合、例えば、障害物回避経路のk+loop時点の他車両の位置(Xp(k+loop)、Y(k+loop))を中心にして楕円の式fbに当てはめる。自車両に対して対向車線の他車両の場合、楕円の角度は他車両の最大舵角の範囲であり、楕円の半径は最大のアクセルによる加速方向のみで楕円の式fbに当てはめる。自車両に対して同じ車線の先行の他車両の場合、楕円の角度は他車両の最大舵角の範囲であり、楕円の半径は最大のブレーキによる減速方向のみで楕円の式fbに当てはめる。この楕円の式(境界線)で規定されるエリアが、障害物を回避又は衝突した他車両による自車両に対する損害エリアである。ちなみに、このエリアは面ではなく線で計算しており、更に加減速方向を限定することにより、エリアの範囲を全て計算する必要はない。したがって、計算負荷を低減でき、計算時間を短縮できる。
図3には、自車両MVと対向車線の他車両AV及び他車両AVの障害物Oの一例を示している。この例の場合、障害物Oは、他車両AVの前方の路側に存在する静止物(例えば、停止車両)である。他車両AVの障害物Oと衝突しない経路としては、経路AC1である。一方、他車両AVの障害物Oと衝突する経路(緊急回避の経路も含む)としては、経路AC2である。この経路AC2が、他車両AVの現在の位置や速度及び障害物Oの種類から障害物回避経路として予測された経路とする。この経路AC2の終点P2を中心として、加速方向のみで損害エリアAの境界線Bが計算される。
他車両回避経路計算機能について説明する。ECU30では、損害エリア計算機能で計算した損害エリアの境界線と自車両の予測走行経路を用いて、評価式(9)によって境界線と自車両の予測走行経路とが交差する2点間の弧の長さを評価値Lp(k)として計算する。fb()は、他車両のk時点での楕円の式である。X(k)、Y(k)は、自車両のk時点(現在時刻)での位置である。X(k+loop)、Y(k+loop)は、k+loop時点での自車両の予測位置であり、自車両の現在位置X(k)、Y(k)と自車両の現在の加減速度(アクセル量、ブレーキ量)や舵角から計算される。自車両の予測の走行経路は、この2点を用いた経路とする。flineは、2点間の弧の長さを求める関数である。評価値Lp(k)は、自車両が損害エリアに入る大きさ(衝突した場合の衝突する度合い)を示し、値が大きいほど他車両と衝突した場合に損害が大きくなる可能性がある。したがって、自車両が他車両と衝突しないためには評価値Lp(k)が0になる必要があり、衝突が避けられない場合でも評価値Lp(k)が出来るだけ小さい値になるほうがよい。
ECU30では、評価値Lp(k)が0より大きいか否かを判定する。評価値Lp(k)が0と判定した場合、このまま自車両が走行しても損害エリア内に入ることはないので、他車両回避経路は計算しない。評価値Lp(k)が0より大きいと判定した場合、ECU30では、評価値Lp(k)が0になるように、自車両の他車両を回避するための他車両回避経路を計算する。ここでは、従来の線分の交差判定ロジックを用いて、交差しない経路(交差する線分(2点間の弧)の長さが0)になる経路を計算する。この際、道路情報から得られる道路幅から、自車両が回避できる範囲には制限がある。したがって、道路幅が狭く、評価値Lp(k)が0になる他車両回避経路を走行できない場合、ECU30では、その制限範囲内で、評価値Lp(k)が最も小さくなる(交差する線分(2点間の弧)の長さが出来るだけ短くなる)ように、自車両の他車両を回避しつつ損害が小さくなるための他車両回避経路を計算する。
図3の例の場合、他車両AVが障害物Oを回避する経路AC1を走行すると、自車両MVの経路はMC1となる。他車両AVの障害物回避経路として経路AC2が計算されたとすると、損害エリアとして境界線Bが得られる。そこで、この境界線B(他車両のk時点での楕円の式)と交差しない他車両回避経路として、経路MC2が計算される。この経路MC2の場合、評価値Lp(k)は0である。しかし、道路幅の制限でそこまで自車両MVが横方向に移動できない場合、道路幅の制限内で境界線Bと交差する線分が最も少ない他車両回避経路として、経路MC3が計算される。この経路MC3の場合、評価値Lp(k)は境界線Bと経路MC3とが交差する2点間の弧部分に相当する。
支援機能について説明する。他車両回避経路計算機能で他車両回避経路を計算すると、その他車両回避経路で他車両を回避できる場合、ECU30では、現在の加減速度や舵角で任意の時間(loop×単位時間)経過後には他車両と衝突する可能性があるので、他車両回避経路や損害エリアを音声や画像等で教示して注意喚起するための教示情報を生成し、その教示情報をHMI装置20に送信する。この教示する方法としては、例えば、損害エリアを赤、他車両回避経路を青等の色別に示す画像を生成し、直感的に認識し易い表示を行う。他車両回避経路で他車両を回避できない場合や注意喚起しても自車両が他車両回避経路での回避走行を行わない場合、ECU30では、警報するための情報を生成し、その警報情報をHMI装置20に送信する。さらに、ECU30では、アクセル、ブレーキ、操舵による他車両回避経路への誘導支援制御を行う各介入制御量を計算し、その各介入制御量を介入制御ECU21に送信する。なお、ここで示した支援方法は、運転者に対する支援の一例であり、他車両回避経路を用いた支援について他の様々な支援を行ってよい。
図1を参照して、衝突回避運転支援装置1の動作の流れを図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、図1の衝突回避運転支援装置における動作の流れを示すフローチャートである。なお、衝突回避運転支援装置1では、単位時間毎に以下の動作を繰り返し行っている。
外界センサ10では、自車両周辺の状況(環境)を検知し、その検知した外界情報をECU30に送信している(S1)。ECU30では、この外界情報を受信する。また、内界センサ11では、自車両の各種情報を検知し、その検知した自車両情報をECU30に送信している。ECU30では、この自車両の検出情報を受信する。また、ECU30では、路車間通信装置12や地図データベース13から自車両周辺の道路データ等を取得する。
ECU30では、自車両周辺の外界情報から自車両と衝突する可能性のある他車両を検出している場合、自車両周辺の外界情報による各物体と道路データ等とを比較し、他車両の障害として考慮すべき物体(障害物)を検出する(S2)。さらに、ECU30では、検出した障害物の種類(分類)を判別する(S3)。
ECU30では、外界情報の時系列データに基づいて他車両の実際の経路を検知し、他車両の現在位置や現在速度を取得する(S4)。そして、ECU30では、障害物の種類に応じた加減速度関数を設定し、その加減速度関数及び他車両の現在位置と現在速度を用いて式(3)、式(4)の予測モデルにより他車両の障害物に対する障害物回避経路を計算する(S5)。
ECU30では、障害物回避経路と障害物の位置を用いて、式(5)、式(6)により他車両と障害物との衝突可能性指標(Xmargin、Ymargin)を計算し、このXmargin、Ymarginが閾値より大きいか否か(他車両が障害物と衝突する可能性が高いか否か)を判定する(S6)。S6にてXmargin、Ymarginが共に閾値以下(他車両が障害物と衝突する可能性が低い)と判定した場合、ECU30では、今回の処理を終了する。
S6にてXmargin、Ymarginの少なくとも一方が閾値より大きい(他車両が障害物と衝突する可能性が高い)と判定した場合、ECU30では、他車両の障害物との衝突の緊急回避後又は衝突が避けられない場合の衝突後の損害エリア(境界線を示す楕円の式)を障害物回避経路から計算する(S7)。そして、ECU30では、その損害エリア(境界線)と自車両の予測走行経路を用いて評価式(9)によって評価値Lp(k)を計算し、その評価値Lp(k)が0より大きいか否か(自車両の予測走行経路が損害エリア内に入るか否か)を判定する(S8)。S8にて評価値Lp(k)が0(自車両の予測走行経路が損害エリア内に入らない)と判定した場合、ECU30では、今回の処理を終了する。
S8にて評価値Lp(k)が0より大きい(自車両の予測走行経路が損害エリア内に入る)と判定した場合、ECU30では、損害エリアを回避あるいは損害エリアに出来るだけ入らない(評価値Lp(k)が0になるあるいは出来るだけ小さくなる)自車両の他車両回避経路を計算する(S9)。そして、ECU30では、その他車両回避経路で他車両を回避可能か否かを判定する(S10)。S10にて他車両回避経路で回避可能と判定した場合、ECU30では、他車両回避経路や損害エリアを音声や画像等で教示して注意喚起するための教示情報を生成し、その教示情報をHMI装置20に送信する(S11)。HMI装置20では、この教示情報を受信すると、教示情報に従って音声や画像等を出力する(S11)。S10にて他車両回避経路で回避できないと判定した場合、ECU30では、音声や画像等で警報するための警報情報をHMI装置20に送信する(S12)。HMI装置20では、この警報情報を受信すると、警報情報に従って音声や画像等を出力する(S12)。さらに、ECU30では、アクセル、ブレーキ、操舵による他車両回避経路への誘導支援制御を行う各介入制御量を介入制御ECU21に送信する(S12)。介入制御ECU21では、ECU30から各介入制御量を受信すると、各介入制御量に応じて自動介入制御(減速制御や停止制御、加速制御、操舵制御)を実施する(S12)。これで、今回の動作を終了する。
この衝突回避運転支援装置1によれば、障害物の種類(分類:先を見通せるか否か、形状変化の有無、移動準備物か否か)を考慮して他車両の障害物に対する回避経路を計算することにより、他車両が障害物を回避するための回避経路(衝突が避けられない場合の衝突後の経路を含む)を高精度に予測できる。この高精度な他車両の障害物に対する回避経路を用いることにより、回避後又は衝突後の損害エリア(他車両が存在する可能性のあるエリア)を高精度に予測できる。さらに、この高精度な損害エリアを用いることにより、自車両の他車両を回避するための回避経路(衝突が避けられない場合の損害を小さくする経路を含む)を高精度に予測することができる。その結果、他車両が障害物を回避又は衝突した場合に、自車両が他車両をスムーズに回避できたりあるいは衝突を避けられないときでも損害を出来るかぎり軽減できる。
衝突回避運転支援装置1によれば、障害物の先を見通せるか否か、障害物の形状変化の有無、移動準備物か否かをよって障害物の種類を分類することにより、他車両の回避経路に影響を与える障害物の種類(分類)を適切に判別できる。先を見通せるか否かについては、回避経路における他車両の横方向の移動に影響を与える傾向がある。形状変化の有無については、回避経路における他車両の前後方向の移動に影響を与える傾向がある。移動準備物か否か(ウインカの点滅の有無)については、回避経路における他車両の横方向の移動に影響を与える傾向がある。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では自車両が他車両と衝突するのを回避する衝突回避運転支援装置における他車両が障害物を回避するための回避軌道を予測する機能に適用したが、自車両が障害物(路上物体)を回避するための回避軌道を予測する場合、自車両や他車両に限定することなく、車両が障害物(路上物体)を回避するための回避軌道を予測する場合等にも適用できる。また、その予測した回避軌道を用いて衝突回避以外の各種運転支援に適用してもよい。
また、本実施の形態では障害物の先を見通せるか否か、形状変化の有無、移動準備物(ウインカの点滅等)を用いて障害物の種類(分類)を判別する一例を示したが、先を見通せるか否かだけで判別してもよいし、先を見通せるか否かに加えて他の1つの要因で判別してもよいしあるいはそれ以外の要因を加えて判別してもよい。また、見通し特性として先を見通せるか否かとしたが、見通せる程度(障害物によってその先の背景を遮断される面積の大きさ)を複数の段階で判別し、複数段階の見通せる程度で判別してもよい。
また、本実施の形態では障害物の種類(障害物による見通し特性等)に応じて加減速度関数(x方向、y方向)を設定し、この加減速度関数を加味して障害物回避経路を計算する例を示したが、加減速度関数(x方向、y方向)以外のものを用いて障害物の種類を考慮した障害物回避経路を計算するようにしてもよい。