以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
本発明の実施形態に係る走行支援装置は、車両に搭載可能である(以下、本発明の実施形態に係る走行支援装置を搭載した車両を「自車両」という。)。本発明の実施形態に係る走行支援装置は、自車両の他車両の運転特性を予測し、予測した他車両の運転特性に基づき他車両の動作を予測し、予測した他車両の動作に基づき自車両の走行支援を行う。本明細書において、「走行支援」は、乗員(運転者)による運転操作を伴わない自動運転制御の他、運転者による運転操作に介入することにより自車両の走行を支援する走行支援を含んでよい。
また、本明細書において、「他車両の運転特性」は、他車両が運転者による手動運転制御の場合には、他車両の運転者による運転操作の傾向を意味する。「他車両の運転特性」は、他車両が運転者による運転操作を伴わない自動運転制御の場合には、自動運転制御の傾向を意味する。「他車両の運転特性」は、他車両が運転者による運転操作に介入する走行支援制御を含む場合には、他車両の運転者による運転操作と走行支援制御による総合的な制御の傾向を意味する。他車両の運転特性として、例えば、自己中心的に急な運転操作を行う傾向、他車両の周囲の車両に配慮して慎重に運転操作を行う傾向、他車両の周囲環境に対する認知機能が比較的低い傾向、及び他車両の周囲環境する認知機能が比較的高い傾向等が挙げられる。
先ず、本発明の実施形態に係る走行支援装置を適用する運転シーンの一例を説明する。図1に示すように、片道二車線道路の右側車線を自車両1が走行し、左側車線の自車両1の左前方の位置を他車両2が並走している。左側車線の他車両2の前方には駐車車両3が存在し、他車両2が駐車車両3に接近している。このような走行シーンでは、他車両2が駐車車両3を追い越す動作として、自車両1に先を譲り、減速しながら左側車線での走行を継続し、自車両1が他車両2を追い抜いてから右側車線へ車線変更を行う軌道t1と、自車両1に先行して右側車線へ車線変更を行う軌道t2が考えられる。
他車両2の動作が軌道t1,t2のいずれになるかは、他車両2の運転特性に依存する。例えば、運転者が運転初心者等であり慎重な運転を行う傾向を有する場合には、自車両1に先を譲る軌道t1が選択される可能性が高いと推定される。また、他車両2の周囲環境に対する認知機能が比較的高い傾向を有する場合には、自車両1を早期に認知することで、自車両1に先を譲る軌道t1が選択される可能性が高いと推定される。一方、運転者が自己中心的であり比較的急な運転操作を行う傾向を有する場合には、自車両1に先行して車線変更を行う軌道t2が選択される可能性が高いと推定される。また、他車両2の周囲環境に対する認知機能が比較的低い傾向を有する場合には、自車両1の認知が遅いために、自車両1に先行して車線変更を行う軌道t2が選択される可能性が高いと推定される。本発明の実施形態に係る走行支援装置は、このような他車両2の運転特性を推定することで、他車両2の動作を適切に予測可能とするものである。
本発明の実施形態に係る走行支援装置10は、図2に示すように、物体検出装置11、自車両位置推定装置12、地図取得装置13及びコントローラ14を備える。物体検出装置11は、自車両1に搭載された、レーザレーダやミリ波レーダ、カメラ等、自車両1の周囲の物体を検出する、複数の異なる種類の物体検出センサを備える。物体検出装置11は、複数の物体検出センサを用いて、自車両1の周囲における物体を周囲環境として検出する。
物体検出装置11は、他車両や自転車、歩行者を含む移動物体と、駐車車両や落下物を含む静止物体を周囲環境として検出する。他車両は、二輪車及び四輪車を含む。物体検出装置11は、例えば、移動物体及び静止物体の自車両1に対する位置、姿勢(ヨー角)、大きさ、速度、加速度、減速度、ヨーレートを検出する。以下の説明において、物体の位置、姿勢、大きさ、速度、加速度、減速度、ヨーレートを総称して、物体の「挙動」と呼ぶ。物体検出装置11は、検出結果として、例えば自車両1の上方の空中から眺める天頂図(平面図ともいう)における、2次元の物体の挙動を出力する。物体検出装置11は更に、他車両の方向指示器(ウインカ)の点灯状態(点灯又は消灯)を検出する。例えば、物体検出装置11は、他車両を含む撮像画像からパターンマッチングにより他車両のウインカ領域を抽出し、抽出したウインカ領域の明度に基づいて、ウインカの点灯状態を判断することができる。
自車両位置推定装置12は、自車両1に搭載された全地球測位システム(GPS)受信機や、オドメトリ等の自車両1の絶対位置を計測する位置検出センサを備える。自車両位置推定装置12は、位置検出センサを用いて、自車両1の絶対位置、即ち、所定の基準点に対する自車両1の位置、姿勢及び速度を計測する。
地図取得装置13は、自車両1が走行する道路の構造を示す地図情報を取得する。道路の構造を示す地図情報は、例えば、1時間以下の頻度で更新される静的情報に相当する。地図取得装置13は、地図情報を格納した地図データベースを所有してもよく、クラウドコンピューティングにより地図情報を外部の地図データサーバから取得してもよい。地図取得装置13が取得する地図情報は、車線の絶対位置や車線の接続関係、相対位置関係等の道路構造の情報を含む。地図取得装置13は更に、更新頻度の高い地図情報(例えば、ダイナミックマップに埋め込まれている情報)を取得する。例えば、地図取得装置13は、1秒以下の頻度で更新される動的情報、1分以下の頻度で更新される准動的情報、1時間以下の頻度で更新される准静的情報を自車両1の外部から無線通信により取得する。動的情報は、周囲車両、歩行者、信号機の情報を含む。准動的情報は、事故情報、渋滞情報、狭域気象情報を含む。准静的情報は、交通規制情報、道路工事情報、広域気象情報を含む。
コントローラ14は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含む電子制御ユニット(ECU)等の処理回路で構成することができる。プロセッサは、例えば中央演算処理装置(CPU)やマイクロプロセッサ(MPU)であってよい。記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。なお、コントローラ14を、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。例えば、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路でコントローラ14を実現してもよい。例えば、コントローラ14はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)等を有していてもよい。
コントローラ14は、物体検出装置11よる物体の検出結果、自車両位置推定装置12による自車両1の位置等の推定結果、及び地図取得装置13による地図情報の取得結果に基づき、他車両2の運転特性を推定する。コントローラ14は更に、他車両2の運転特性等に基づき他車両2の動作を予測し、他車両2の動作等から自車両1の経路を生成し、生成した経路に従って自車両1を制御する。なお、実施形態では、コントローラ14を、自車両1を制御する走行支援装置として例示するが、これに限定されない。例えば、コントローラ14は、他車両2の運転特性を推定する運転特性推定装置であってもよく、他車両2の動作を予測する動作予測装置であってもよい。即ち、コントローラ14は、自車両1の経路生成及び経路に沿った走行支援を行なわず、他車両2の運転特性の推定結果、又はこの推定結果に基づく他車両2の動作の予測結果を最終的な出力としてもよい。
コントローラ14は、検出統合部20、物体追跡部21、地図内位置演算部22、動作予測部23、自車両経路生成部24及び車両制御部25を備える。コントローラ14は、所定の記憶装置に格納されたコンピュータプログラムをプロセッサで実行することにより、検出統合部20、物体追跡部21、地図内位置演算部22、動作予測部23、自車両経路生成部24及び車両制御部25の機能を実現してよい。
検出統合部20は、物体検出装置11が備える複数の物体検出センサの各々から得られた複数の検出結果を統合して、各物体に対して一つの検出結果を出力する。例えば、検出統合部20は、物体検出センサの各々から得られた物体の挙動から、各物体検出センサの誤差特性等を考慮した上で最も誤差が少なくなる最も合理的な物体の挙動を算出する。検出統合部20は、既知のセンサ・フュージョン技術を用いることにより、複数種類のセンサで取得した検出結果を総合的に評価して、より正確な検出結果を得てもよい。
物体追跡部21は、物体検出装置11により検出された物体を追跡する。例えば、物体追跡部21は、検出統合部20により統合された検出結果としての異なる時刻に出力された物体の挙動から、異なる時刻間における物体の同一性の検証(対応付け)を行い、その対応付けに基づき物体の挙動を予測する。なお、異なる時刻に出力された物体の挙動は、コントローラ14内のメモリに記憶され、後述する軌道予測の際に用いられる。
地図内位置演算部22は、自車両位置推定装置12により得られた自車両1の絶対位置、及び地図取得装置13により取得された地図情報から、地図上における自車両1の位置及び姿勢を推定する。また、地図内位置演算部22は、自車両1が走行している道路、更に当該道路のうちで自車両1が走行する車線を特定する。
動作予測部23は、検出統合部20により得られた検出結果と、地図内位置演算部22により特定された自車両1の位置に基づき、自車両1の周囲における移動物体の動作を予測する。動作予測部23は、挙動判定部30、動作候補予測部31、動作候補修正部32、軌道予測部33、運転特性推定部34及び尤度推定部35を備える。
挙動判定部30は、地図上における自車両1の位置と、検出統合部20により得られた物体の挙動とから、地図上における物体の位置及び挙動を特定する。更に、挙動判定部30は、物体の地図上の位置が時間の経過と共に変化する場合、当該物体を「移動物体」と判定し、移動物体の大きさ及び速度から、当該移動物体の属性(走行中の他車両、歩行者)を判定する。移動物体を走行中の「他車両」と判定した場合、挙動判定部30は、当該他車両が走行する道路及び車線を判定する。一方、物体の地図上の位置が時間の経過と共にしない場合、挙動判定部30は、この物体を静止物体と判定し、静止物体の地図上の位置、姿勢及び大きさから、静止物体の属性(停止中の他車両、駐車車両、歩行者等)を判定する。
動作候補予測部31は、地図取得装置13に取得された地図情報に基づき他車両の動作候補を予測する。動作候補予測部31は、地図情報に含まれる道路構造及び他車両が属する車線情報から、他車両が次にどのように走行するのかという動作意図を予測し、当該動作意図に基づく他車両の基本軌道を道路構造に基づき演算する。ここで、「動作候補」とは、動作意図及び基本軌道を含む上位概念である。基本軌道は、異なる時刻における他車両の位置のプロファイルのみならず、各位置における他車両の速度のプロファイルをも示す。なお、基本軌道の演算では道路構造を考慮するが、検出統合部20により統合された移動物体や静止物体は考慮しない。
例えば、他車両が単車線の単路及びカーブ路を走行する場合、動作候補予測部31は、車線の形状に沿って走行する動作意図(直進)を予測すると共に、基本軌道として、地図上の車線に沿った軌道を演算する。また、他車両が複数車線の単路及びカーブ路を走行する場合、動作候補予測部31は、動作意図(直進)と、右側或いは左側へ車線変更する動作意図(車線変更)を予測する。動作意図(車線変更)における他車両の基本軌道は、道路構造及び所定の車線変更時間に基づき車線変更する軌道である。また、他車両が交差点を走行する場合、動作候補予測部31は、直進、右折及び左折の動作意図を予測し、地図上の交差点における道路構造に基づく直進軌道、右折軌道、左折軌道を基本軌道として演算する。
例えば図3に示す走行シーンは、図1に示した走行シーンと同様であるが、動作候補予測部31は、他車両2の動作候補として、左側車線に沿って走行する動作意図(直進)及び基本軌道t3を演算する。なお、動作候補予測部31は、自車両1の周囲における静止物体である駐車車両3に起因する動作意図(車線変更)と、車線変更の基本軌道t1,t2は演算しない。また、自車両1の周囲における移動物体が有る場合には、動作候補予測部31は、移動物体に起因する動作意図(車線変更)と、車線変更の基本軌道を演算しない。
動作候補修正部32は、物体検出装置11により検出された静止物体及び移動物体を考慮して、動作候補予測部31により予測された動作候補を修正する。例えば、動作候補修正部32は、他車両の基本軌道と静止物体又は移動物体の位置が干渉するか否かを判定する。他車両の基本軌道と静止物体又は移動物体の位置が干渉すると判定された場合、動作候補修正部32は、静止物体又は移動物体を回避するための他車両2の動作意図及び基本軌道を新たに生成する。
例えば図3に示すように、物体検出装置11により静止物体である駐車車両3が検出されている場合、動作候補修正部32は、駐車車両3と他車両2の基本軌道t3との干渉があるか否かを経時的に判定する。駐車車両3と他車両2の基本軌道t3との干渉があると判定された場合には、動作候補修正部32は、駐車車両3との干渉を回避する他車両2の動作意図(車線変更)及び基本軌道t1,t2を新たに生成する。基本軌道t1は、自車両1に先を譲る軌道であり、基本軌道t2は、自車両1に先行して車線変更を行う軌道である。基本軌道t2は、例えば、地図情報が示す車線変更前の他車両2の走行レーンの中心と、車線変更後の他車両2の走行レーンの中心に基づき、クロソイド曲線を用いて生成してよいが、これに限定されない。
軌道予測部33は、挙動判定部30により検出された他車両2の実際の挙動に基づき、他車両2が実際に走行する軌道(実効軌道)を予測する。例えば、軌道予測部33は、動作候補予測部31により予測された動作意図にしたがって動作する場合の他車両2の実効軌道を、カルマンフィルター等の既知の状態推定技術を用いて演算する。実効軌道は、基本軌道と同様に、異なる時刻における他車両2の位置を示すのみならず、各位置における他車両2の速度のプロファイルをも示す。実効軌道と基本軌道は、他車両2が走行する軌道である点で共通するが、実効軌道は他車両2の挙動を考慮して演算されるのに対して、基本軌道は他車両の挙動を考慮しないで演算される点が相違する。
図4及び図5は、他車両2がカーブを走行している様子を示す。図4及び図5にそれぞれ示す他車両2の基本軌道t21,t22は、動作意図及び道路構造に基づき導出された他車両2の軌道の例であり、他車両2の挙動は考慮されていない。よって、例えば、他車両2の現在の姿勢(ヨー角)が考慮されていないため、他車両2の現在位置から、異なる方向に向けて、複数の基本軌道t21,t22が延びている。これに対して、軌道予測部33は、他車両2の挙動を考慮して、動作候補予測部31により予測された動作意図に沿った軌道(実効軌道)t31,t32を演算する。換言すれば、動作候補予測部31により予測された動作意図に沿った動作を取った場合の他車両2の実効軌道t31,t32を演算する。
図4において、他車両2の姿勢(ヨー角)は、道路の形状に沿った走行の基本軌道t21よりも左側に傾き、他車両2の速度は、進行方向の速度成分のみからなり、車幅方向の速度成分はゼロである。即ち、他車両2は直進状態である。よって、この姿勢及び速度を起点として他車両2が道路の形状に沿った走行の動作意図に従って走行する場合、基本軌道t21から左側に離れた後に、基本軌道t21に近づいて一致する実効軌道t31となる。換言すれば、走行車線からの逸脱を修正するような修正軌道(オーバーシュート軌道)を描くことが予測される。軌道予測部33は、他車両2の姿勢(ヨー角)及び速度を起点として、道路の形状に沿った走行の動作意図(直進)に従って走行する実効軌道t31を予測する。
また、図5に示すように、図4と同じ姿勢及び速度を起点として他車両2が車線変更の動作意図に従って走行する場合、左方向への旋回を開始し、左側車線へ移動した後に、右へ旋回して左側車線に沿った軌道へ修正する実効軌道t32となる。即ち、舵角が中立位置の状態から始まる左旋回のクロソイド曲線及び右旋回のクロソイド曲線からなる実効軌道t32を描く。よって、実効軌道t32は、車線変更軌道t22を演算するときの所定の車線変更時間とほぼ同じ時間をかけて車線変更が完了する軌道となる。なお、実効軌道を描く際の曲線は必ずしもクロソイド曲線である必要はなく、その他の曲線を用いて描いてもよい。図5の例では、実効軌道t32は車線変更における基本軌道t22とほぼ同じ軌道となる。
図4及び図5と同様に、図3に示す基本軌道t1,t2についても、軌道予測部33は、他車両2の挙動を考慮して、動作意図に沿った軌道(実効軌道)を演算する。例えば、軌道予測部33は、他車両2の位置、姿勢(ヨー角)、速度及び加速度に基づき、自車両1の前で車線変更を行う動作意図に従って走行する他車両2の実効軌道と、自車両1が追い抜くまで右側車線への車線変更を行わずに減速しながら左側車線を走行し続ける動作意図に従って走行する他車両2の実効軌道とをそれぞれ演算する。
運転特性推定部34は、物体検出装置11等から得られる他車両2の周囲環境から、他車両2がウインカ操作を要する進入エリアを推定する。ウインカ操作を要する進入エリアとは、例えば障害物の回避等のために車線変更が必要な区間や、右左折時の交差点等の、他車両2が進入時にウインカ操作を要する領域である。運転特性推定部34は更に、推定された進入エリアに対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する。進入エリアに対するウインカ点灯状態は、例えば他車両2のウインカの点灯開始から、他車両2の進入エリアへ進入するまでの進入時間である。進入時間は、他車両2の進入エリアまでの距離、速度及び加速度等に基づき推定することができる。
例えば図3に示した運転シーンにおいて、運転特性推定部34は、自車両位置推定装置12により推定された自車両1の位置や、車速センサにより検出される自車両1の車速及び加速度等に基づき、自車両1の予想経路t0を推定する。運転特性推定部34は更に、自車両1の予想経路t0と、他車両2の予測軌道t2とに基づき、他車両2がウインカ操作を要する進入エリアA1を推定する。進入エリアA1は、他車両2が駐車車両3を回避するための車線変更時にウインカ操作を要する領域である。進入エリアA1の範囲は、道路の幅員や他車両2の車幅等を考慮して適宜設定可能である。進入エリアA1は、自車両1の予想経路t0と他車両2の予測軌道t2とが交差する交差エリアである。なお、運転特性推定部34は、他車両2がウインカ操作を要する進入エリアA1を推定する代わりに、自車両1の予想経路t0と、他車両2の予測軌道t2とに基づき、自車両1と他車両2が交差する交差エリアを推定し、推定した交差エリアを進入エリアとしてもよい。
運転特性推定部34は、自車両1の進入エリアA1までの距離、速度及び加速度等に基づき、自車両1が例えば現在時刻から進入エリアA1へ進入するまでの時間(以下、「自車両進入時間」という。)を推定する。運転特性推定部34は、他車両2が自車両1との進入エリアA1へ進入する進入時間と、自車両1が進入エリアA1へ進入する自車両進入時間との差分が、所定の閾値未満か否かを判定する。所定の閾値は適宜設定可能である。進入時間と自車両進入時間との差分が所定の閾値未満と判定された場合、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を推定する処理を行う。一方、進入時間と自車両進入時間との差分が所定の閾値以上と判定された場合、他車両2の運転特性を推定する処理を行わない。なお、運転特性推定部34は、他車両2が自車両1との進入エリアA1へ進入すると推定される時刻と、自車両1が進入エリアA1へ進入すると推定される時刻との差分が、所定の閾値未満か否かを判定してもよい。この場合の差分が所定の閾値未満と判定された場合には他車両2の運転特性を推定する処理を行い、差分が所定の閾値以上と判定された場合には他車両2の運転特性を推定する処理を行わなくてもよい。
運転特性推定部34は、自車両1の他車両2に対する衝突予測時間(TTC)又は車間時間(THW)を算出してもよい。TTCは、車間距離を他車両2との相対速度で除算した値である。THWは、車間距離を他車両2の速度で除算した値である。コントローラ1は、例えばTHW及びTTCが所定の閾値以上である場合に、他車両2の運転特性を推定する処理を行わず、THW又はTTCが所定の閾値未満である場合に、他車両2の運転特性を推定する処理を行ってもよい。
運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯開始から進入エリアA1へ進入するまでの進入時間を推定する。他車両2のウインカの点灯開始のタイミングは物体検出装置11により検出されるウインカの点灯状態等から判断できる。他車両2が進入エリアA1へ進入するタイミングは、他車両2の進入エリアA1までの距離、速度及び加速度等に基づき推定可能である。他車両2が進入エリアA1へ進入するタイミングは、例えば他車両2の一部が進入エリアA1に進入したタイミングであってもよく、他車両2が進入エリアA1へ進入するための動作(例えば車線変更)を開始したタイミングであってもよい。なお、運転特性推定部34は、他車両2が進入エリアA1へ進入するタイミングとして、物体検出装置11による検出結果等から得られる他車両2が実際に進入したタイミングを用いて進入時間を算出してもよい。
運転特性推定部34は、推定又は算出した進入時間に基づき、他車両2の運転特性を推定する。例えば、運転特性推定部34は、推定又は算出した進入時間が所定の閾値(所定)以上か否かを判定する。進入時間が所定の閾値以上の場合、車線変更のタイミングよりも比較的早いタイミングからウインカが点灯しているため、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Cautious」と推定する。一方、進入時間が所定の閾値未満の場合、車線変更のタイミングの比較的直前でウインカの点灯が開始しているため、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Aggressive」と推定する。
「Aggressive」は、自己中心的の運転を行う傾向を有する運転特性であり、比較的急な運転操作を行う傾向を有する。換言すれば、安全運転の傾向が比較的弱く、動作の予測可能性が比較的低い。これとは逆に、「Cautious」は、慎重な運転を行う傾向を有する運転特性であり、比較的緩慢な運転操作を行ったり、平均的な周囲車両や法定速度よりも低い速度で走行したりする傾向を有する。換言すれば、安全運転の傾向が比較的強く、また動作の予測可能性が比較的高い。なお、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性が推定されていない場合には、運転特性が未推定であることを示す状態として「Unknown」を使用してもよい。なお、他車両2の動作の予測に使用される運転特性はこれら例示した運転特性に限られず、他車両2の動作の予測に有用な他の運転特性を採用してもよい。
運転特性推定部34は、進入エリアA1へ進入すると推定される時刻(第1時刻)より所定の閾値(所定時間)前の時刻(第2時刻)における他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定してもよい。例えば、運転特性推定部34は、進入エリアA1へ進入すると推定される時刻(第1時刻)より所定の閾値(所定時間)前の時刻(第2時刻)において他車両2のウインカが点灯しているか否かを判定する。所定の閾値は、例えば3秒程度であり、適宜設定可能である。そして、第2時刻において他車両2のウインカが点灯していると判定された場合、車線変更のタイミングよりも比較的早いタイミングからウインカが点灯しているため、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Cautious」と推定する。一方、第2時刻において他車両2のウインカが点灯していない(消灯している)と判定された場合、車線変更のタイミングの比較的直前でウインカの点灯が開始しているため、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Aggressive」と推定する。
運転特性推定部34は、進入エリアA1に対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する代わりに、他車両2の運転特性が「Aggressive」である可能性(尤もらしさ)、及び「Cautious」である可能性(尤もらしさ)をそれぞれ推定してもよい。以下、他車両2の運転特性が「Aggressive」である可能性を「「Aggressive」尤度」、「Cautious」である可能性を「「Cautious」尤度」と表記する。例えば、運転特性推定部34は、他車両2が進入エリアA1へ進入する進入時間が所定の閾値以上の場合、「Cautious」尤度を相対的に高く推定すると共に、「Aggressive」尤度を相対的に低く推定する。一方、他車両2が進入エリアA1へ進入する進入時間が所定の閾値未満の場合、「Cautious」尤度を相対的に低く推定すると共に、「Aggressive」尤度を相対的に高く推定する。
運転特性推定部34は、「Aggressive」尤度及び「Cautious」尤度を、動作予測部23及び動作候補修正部32が予測した複数の動作候補が他車両2の動作となるそれぞれの尤度(即ち他車両2の動作として選択される尤度)として記憶装置に保持する。例えば、「Aggressive」尤度は、他車両2が基本軌道t2を選択する尤度に対応し、「Cautious」尤度は基本軌道t1を選択する尤度に対応する。これら他車両2の運転特性の推定に基づき予測される各動作候補が他車両2の動作となる尤度を「第1尤度α1」と表記する。
運転特性推定部34は、進入エリアA1へ進入すると推定される第1時刻より前の第2時刻における他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定した後に、他車両2のウインカの点灯開始から進入エリアA1へ進入するまでの進入時間に基づき、推定した他車両2の運転特性を補正してもよい。例えば、進入時間が所定の閾値以上と判定された場合、運転特性推定部34は、推定されていた他車両2の運転特性である「Cautious」尤度を増加させると共に、「Aggressive」尤度を減少させる。一方、進入時間が所定の閾値未満と判定された場合、運転特性推定部34は、推定されていた他車両2の運転特性である「Cautious」尤度を増加させると共に、「Aggressive」尤度を減少させる。なお、これとは逆に、運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯開始から進入エリアA1へ進入するまでの進入時間に基づき、他車両2の運転特性を推定した後に、進入エリアA1へ進入すると推定される第1時刻より前の第2時刻における他車両2のウインカの点灯状態に基づき、推定した他車両2の運転特性を補正してもよい。更に、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を推定した後に、他車両2のウインカの点灯開始時刻から進入エリアA1へ実際に進入するまでの進入時間に基づき、推定した他車両2の運転特性を補正してもよい。
尤度推定部35は、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性と、動作候補予測部31及び動作候補修正部32が予測した動作候補と軌道予測部33が予測した実効軌道との比較結果と、に基づき他車両2の動作を予測する。他車両の動作は、他車両の軌道及び速度のプロファイルを含む。他車両2の軌道は、異なる時刻における他車両2の位置のプロファイルを示す。
例えば、尤度推定部35は、動作候補予測部31及び動作候補修正部32により予測された動作候補の各々について基本軌道と実効軌道とを対比する。そして、基本軌道と実効軌道との差分から、各動作候補が他車両2の動作として選択されるそれぞれの尤度を求める。基本軌道と実効軌道との差違は、例えば、両軌道間の位置や速度のプロファイルの差異の総和を基に算出する。図4及び図5に示す面積S1、S2は、基本軌道と実効軌道との位置の差違を積分した総和の一例である。面積S1、S2が狭い程、位置の差違が小さいと判定できるので、高い尤度を演算する。或いは、位置の差違が小さくても、速度のプロファイルが大きく異なる場合には、低い尤度を演算してもよい。基本軌道と実効軌道との差分に基づき予測される、各動作候補が他車両2の動作となる尤度を「第2尤度α2」と表記する。尤度推定部35は、基本軌道と実効軌道との差違が小さいほど第2尤度α2が高くなるように第2尤度α2を演算する。
更に、尤度推定部35は、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性と、第2尤度α2とに基づき、他車両2の動作を予測する。たとえば、尤度推定部35は、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性と、動作候補予測部31及び動作候補修正部32により予測された動作候補を対応付ける。この際、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性である「Cautious」或いは「Cautious」尤度を、各動作候補のうちの自車両1よりも先に進入エリアA1に進入する動作候補に対応付けることができる。また、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性である「Aggressive」或いは「Aggressive」尤度を、自車両1よりも跡に進入エリアA1に進入する動作候補に対応付けることができる。例えば図3に示す走行シーンでは、「Cautious」或いは「Cautious」尤度を、自車両1に先を譲る軌道t1に対応付け、「Aggressive」或いは「Aggressive」尤度を、自車両1に先行する軌道t2に対応付ける。
更に、尤度推定部35は、他車両2の運転特性として第1尤度α1(例えば、「Aggressive」尤度又は「Cautious」尤度)が推定される場合には、第1尤度α1に基づき各動作候補の第2尤度α2に重み付けを行う。例えば、動作候補毎に、第1尤度α1を係数として第2尤度α2に乗算して最終的な尤度(最終尤度α)を算出する。或いは、動作候補毎に、第1尤度α1及び第2尤度α2をそれぞれ重み付けし、重み付けした第1尤度α1及び第2尤度α2を加算して最終尤度αを算出する。これにより、運転特性推定部34により予測された第1尤度α1と尤度推定部35が推定する第2尤度α2に結合させた最終尤度αを得ることができる。
例えば、図3に示す走行シーンにおいて、他車両2の運転特性が「Aggressive」である場合、軌道t2の第2尤度α2よりも、軌道t1の第2尤度α2により大きな係数(第1尤度α1)を乗算する。最高の尤度が演算された動作候補は、他車両2の運転特性と挙動を考慮した最も尤もらしい動作候補であると判定できる。このため尤度推定部35は、最終尤度αが最も高い動作候補を他車両2の動作として決定してもよい。なお、第1尤度α1、第2尤度α2及び最終尤度αは、その動作候補が実際に発生する可能性を表す指標の一例であって、尤度以外の表現であっても構わない。このようにして、動作予測部23では、尤度推定部35により想定された各動作候補の尤度に基づき、他車両2の動作を予測する。
自車両経路生成部24は、動作予測部23により予測された他車両2の動作に基づき、自車両1の経路を生成する。「自車両1の経路」は、異なる時刻における自車両1の位置のプロファイルのみならず、各位置における自車両1の速度のプロファイルをも示す。ここでは、地図上における他車両2の挙動に基づき、他車両2の軌道を含む他車両の動作を予測している。このため、他車両2の軌道を基にして自車両1の経路を生成することは、他車両2との相対距離の変化、加減速度或いは姿勢角の差に基づき自車両1の経路を生成していることになる。
例えば、図3に示した走行シーンにおいて、動作予測部23により軌道t2を予測した場合、或いは、動作予測部23により算出された軌道2の最終尤度αが所定の閾値以上である場合、他車両2の車線逸脱を予測した上での自車両1の経路を生成できる。自車両1の経路は、車線変更に干渉しない経路であり、他車両2を自車両1の前に車線変更させるように減速する経路である。或いは、レーン幅(車線幅)が十分に広ければ、右側車線内の右側に寄って走行する経路であってもよい。更に右側に隣接レーンがある場合、事前にレーンチェンジを行う経路であってもよい。よって、他車両2と接触せず、且つ、他車両2の挙動により自車両1が急減速又は急ハンドルとならない滑らかな自車両1の経路を生成することができる。
図3に示す走行シーンにおいて、他車両2が減速して左側車線で走行し続ける挙動を示す場合、他車両2の挙動は、自車両1を先に行かせ、他車両2はその後に右側車線へ車線変更したいという動作意図を示していると解釈できる。この場合、他車両2の動作意図を考慮して自車両1の経路を形成し、或いは自車両1を制御することにより、自車両1は減速せず或いは加速して駐車車両3の脇を先に通過することができる。これにより、他車両2と自車両1の双方が譲り合ってしまう状況を回避できるので円滑な交通流を実現可能となる。自車両経路生成部24は、図3に示す走行シーンを通過した後も、他車両2が自車両1の周囲を走行しているシーンにおいては、動作予測部23により予測された他車両2の動作に基づき、自車両1の経路を生成してもよい。
車両制御部25では、自車両経路生成部24により生成された経路に従って自車両1が走行するように、地図内位置演算部22により演算された自己位置に基づき、ステアリングアクチュエータ、アクセルペダルアクチュエータ、及びブレーキペダルアクチュエータの少なくとも1つを駆動する。なお、実施形態では、自車両1の経路に従って制御する場合を示すが、自車両1の経路を生成せずに、自車両1を制御してもよい。この場合、他車両2との相対距離、或いは、他車両2と自車両1との姿勢角の差に基づき制御を行うことも可能である。
(走行支援方法)
次に、図6のフローチャートを参照して、実施形態に係る走行支援装置10による走行支援方法の一例を説明する。
ステップS1において、物体検出装置11は、複数の物体検出センサを用いて、自車両1の周囲における他車両等の物体の挙動を検出する。物体検出装置11は更に、他車両のウインカの点灯状態を検出する。ステップS2において、検出統合部20は、複数の物体検出センサの各々から得られた複数の検出結果を統合して、各物体に対して一つの検出結果を出力する。物体追跡部21は、検出統合部20により検出及び統合された各物体を追跡する。
ステップS3において、自車両位置推定装置12は、位置検出センサを用いて、所定の基準点に対する自車両1の位置、姿勢及び速度を計測する。ステップS4において、地図取得装置13は、自車両1が走行する道路の構造を示す地図情報を取得する。ステップS5において、地図内位置演算部22は、ステップS3で計測された自車両1の位置、及びステップS4で取得された地図情報から、地図上における自車両1の位置及び姿勢を推定する。
ステップS6において、動作予測部23は、ステップS2で得られた検出結果に含まれる他車両2の挙動と、ステップS5で推定された自車両1の位置に基づき、自車両1の周囲における他車両2の動作を予測する動作予測処理を行う。ここで、動作予測部23は、他車両2の運転特性を推定し、推定された他車両2の運転特性に基づき、他車両2の動作を予測する(ステップS6の詳細は後述する)。ステップS7において、自車両経路生成部24は、ステップS6で予測された他車両の動作に基づき、自車両1の経路を生成する。ステップS8において、車両制御部25は、ステップS7で生成された自車両1の経路に従って走行するように自車両1を制御する。
(動作予測処理)
次に、図6のステップS6の動作予測処理(動作予測方法)の一例を、図7のフローチャートを参照して説明する。
ステップS10において、挙動判定部30は、地図上における自車両1の位置と、ステップS2で得られた物体の挙動とから、他車両2が走行する道路及び車線を判定する。ステップS11において、動作候補予測部31は、地図に基づく他車両2の動作候補を予測する。例えば、動作候補予測部31は、地図情報に含まれる道路構造から動作意図を予測する。動作候補予測部31は、他車両2について予測された様々な動作意図(例えば、直進や車線変更、又は交差点での直進や右左折)のいずれかを選択する。動作候補予測部31は、選択した動作意図における他車両2の基本軌道を演算し、選択した動作意図及びこれに対応する基本軌道を動作候補として生成する。
ステップS12において、コントローラ14は、ステップS1で検出された全ての他車両についてステップS10及びS11の処理が行われたか否かを判定する。全ての他車両2について処理が行われていないと判定された場合、ステップS10へ戻る。一方、全ての他車両2について処理が行われたと判定された場合、ステップS13に移行する。
ステップS13において、動作候補修正部32は、ステップS1において他車両2と同時に検出された静止物体を考慮して、ステップS11で予測された動作候補を修正し、修正された動作候補を生成する。ステップS14において、動作候補修正部32は、ステップS1において検出された他車両2以外の移動物体を考慮して、ステップS11で予測された動作候補を修正し、修正された動作候補を生成する。
ステップS15において、運転特性推定部34は、他車両2の車両挙動に基づき他車両2の運転特性を推定する運転特性推定処理を行う。例えば運転特性推定部34は、他車両2の運転特性として、「Aggressive」尤度及び「Cautious」尤度を推定する(ステップS15の詳細は後述する)。ステップS16において、動作予測部23は、運転特性推定部34により推定された「Cautious」尤度及び「Aggressive」尤度を、動作候補予測部31及び動作候補修正部32が予測した複数の動作候補に対応する第1尤度α1として決定する。
ステップS17において、コントローラ14は、ステップS1で検出された全ての他車両2についてステップS13~S16の処理が行われたか否かを判定する。全ての他車両2について処理が行われていないと判定された場合、ステップS13へ戻る。一方、全ての他車両2について処理が行われたと判定された場合、ステップS18へ移行する。
ステップS18において、軌道予測部33は、他車両2が挙動を維持し、且つ予測された動作意図にしたがって動作する場合の他車両2の実効軌道を、例えばカルマンフィルター等の既知の状態推定技術を用いて演算する。ステップS19において、尤度推定部35は、動作候補予測部31及び動作候補修正部32が予測した動作候補の基本軌道と実効軌道とを対比する。尤度推定部35は、基本軌道と実効軌道との差分に基づき、動作候補予測部31及び動作候補修正部32が予測した動作候補が他車両2の動作となるそれぞれの第2尤度α2を推定する。ステップS20において、尤度推定部35は、第1尤度α1に基づき各動作候補の第2尤度α2に重み付けを行い、各動作候補について、他車両2と動作となり得る尤もらしさとして最終的な尤度(最終尤度α)をそれぞれ決定する。
ステップS21において、コントローラ14は、動作候補予測部31及び動作候補修正部32が予測した動作候補の全てについてステップS18~S20の処理が行われたか否かを判定する。いずれか動作候補について処理が行っていないと判定された場合、ステップS18へ戻る。一方、全動作候補について処理が行われたと判定された場合、ステップS22へ移行する。全動作候補について最終尤度αが決定されると、尤度推定部35は、尤も最終尤度αが高い動作候補を他車両2の動作として決定してもよい。
ステップS22において、コントローラ14は、ステップS1で検出された全ての他車両2についてステップS18~S21の処理が行われたか否かを判定する。全ての他車両2について処理が行われていないと判定された場合、ステップS18へ戻る。一方、全ての他車両2について処理が行われたと判定された場合、処理を完了する。
(運転特性推定処理)
次に、図7のステップS15における運転特性推定処理(運転特性推定方法)の一例を、図8のフローチャートを参照して説明する。
ステップS30において、運転特性推定部34は、図7のステップS11、S13、S14で予測された他車両2の動作候補のいずれかを選択する。ステップS31において、運転特性推定部34は、自車両1の予想経路を取得する。ステップS32において、運転特性推定部34は、選択された他車両2の動作候補の基本軌道t2に基づき、他車両2が進入する際にウインカ操作を要する進入エリアA1を推定する。進入エリアA1は、例えば選択された他車両2の動作候補の基本軌道t2と自車両1の予想経路とが交差する交差エリアである。なお、他車両2の基本軌道と自車両1の予想経路とが交差しない場合には、ステップS43に移行してもよい。なお、他車両2の基本軌道のいずれも自車両1の予想経路と交差しない場合には、他車両2の運転特性を推定する処理を行わず、他車両2の運転特性をUnknown(未推定)としてもよい。
ステップS33において、運転特性推定部34は、自車両1が進入エリアA1へ進入するまでの自車両進入時間を推定する。運転特性推定部34は更に、他車両2が進入エリアA1へ進入するまでの進入時間を推定する。ステップS34において、運転特性推定部34は、自車両1が進入エリアA1へ進入すると推定される時刻と、他車両2が進入エリアA1へ進入すると推定される時刻との時間差が閾値未満か否かを判定することにより、自車両1と他車両2が接近しているか否かを判定する。時間差が閾値以上の場合、自車両1と他車両2が接近していないため、ステップS43へ移行する。一方、時間差が閾値未満の場合、自車両1と他車両2が接近しているため、ステップS35へ移行する。
ステップS35~S42において、運転特性推定部34は、進入エリアA1に対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する。ステップS35において、運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯状態を検出する。ステップS36において、運転特性推定部34は、他車両2が進入エリアA1へ進入すると推定される第1時刻よりも所定の閾値前の第2時刻における他車両2のウインカの点灯状態に基づき、第2時刻において他車両2のウインカが点灯したか否かを判定する。第2時刻において他車両2のウインカが点灯したと判定した場合、ステップS37へ移行する。ステップS37において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Cautious」に設定する。例えば、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を相対的に低く設定すると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を相対的に高く設定する。一方、ステップS36において、第2時刻において他車両2のウインカが点灯していないと判定された場合、ステップS38に移行する。ステップS38において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Aggressive」に設定する。例えば、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を相対的に高く設定すると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を相対的に低く設定する。
なお、ステップS36において、運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯開始から、他車両2が進入エリアA1に進入するまでの進入時間を推定し、推定した進入時間が所定の閾値以上か否かを判定してもよい。進入時間が所定の閾値以上と判定した場合、ステップS37へ移行する。ステップS37において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Cautious」に設定する。例えば、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を相対的に低く設定すると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を相対的に高く設定する。一方、ステップS36において、進入時間が所定の閾値未満と判定された場合、ステップS38に移行する。ステップS38において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Aggressive」に設定する。例えば、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を相対的に高く設定すると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を相対的に低く設定する。
ステップS39において、運転特性推定部34は、進入エリアA1へ進入するための車線変更等の他車両2の動作を検出する。運転特性推定部34は、他車両2が進入エリアA1へ進入する時刻を算出する。他車両2が進入エリアA1へ進入する時刻は、例えば他車両2が進入エリアA1へ進入した時刻であってもよい。或いは、他車両2が進入エリアA1へ進入する時刻は、例えば他車両2が進入エリアA1へ進入した時刻より前の、他車両2が進入エリアA1へ進入するための動作(車線変更)の開始時刻であってもよい。
ステップS40において、運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯開始時刻から、他車両2が進入エリアA1へ進入する時刻までの進入時間(点灯時間)を算出する。運転特性推定部34は、算出した進入時間が所定の閾値(例えば3秒程度)未満か否かを判定する。進入時間が所定の閾値未満と判定された場合、ステップS41に移行する。ステップS41において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を増加させると共に、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を減少させるように、他車両2の推定された運転特性を補正する。一方、ステップS40において進入時間が所定の閾値以上と判定された場合、ステップS42に移行する。ステップS42において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を増加させると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を減少させるように、他車両2の推定された運転特性を補正する。
ステップS43において、運転特性推定部34は、予測された他車両2の動作候補の全てがステップS30で選択されたか否かを判定する。全ての動作候補がステップS30で選択されたと判定された場合、処理を完了する。一方、全ての動作候補がステップS30で選択されていないと判定された場合、ステップS30に戻り、未選択の動作候補についてステップS30~S42の手順を繰り返す。
なお、ステップS36~S38の手順を省略してもよい。その場合、ステップS36~S38で推定された他車両2の運転特性をステップS40~S42で補正する代わりに、ステップS40~S42で他車両2の運転特性を推定してもよい。即ち、ステップS40において、運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯開始時刻から、他車両2が進入エリアA1へ進入する時刻までの進入時間(点灯時間)を算出する。運転特性推定部34は、算出した進入時間が所定の閾値(例えば3秒程度)未満か否かを判定する。進入時間が所定の閾値未満と判定された場合、ステップS41に移行する。ステップS41において、運転特性推定部34は、他車両2の運転特性を「Cautious」に設定する。例えば、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を相対的に低く設定すると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を相対的に高く設定する。一方、ステップS40において進入時間が所定の閾値以上と判定された場合、ステップS42に移行する。ステップS42において、他車両2の運転特性を「Aggressive」に設定する。例えば、他車両2の運転特性の「Aggressive」尤度を相対的に高く設定すると共に、他車両2の運転特性の「Cautious」尤度を相対的に低く設定する。
以上説明したように、実施形態によれば、運転特性推定部34が、他車両2の周囲環境から他車両2がウインカ操作を要する進入エリアA1を推定し、推定された進入エリアA1に対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する。これにより、他車両2の運転特性を考慮して、急な車線変更や右左折等の他車両2の動作を事前に適切に予測することができる。この結果、自車両1がより安全な挙動を取ることができると共に、自車両1の乗員に与える違和感を低減することができる。
更に、進入エリアA1に対する他車両2のウインカ点灯状態は、他車両2のウインカの点灯開始から、他車両2の進入エリアA1へ進入するまでの進入時間であって、運転特性推定部34は、この進入時間に基づき、他車両2の運転特性を推定する。これにより、他車両2の進入エリアA1へ進入する進入時間に基づいて、他車両2の運転特性を適切に推定することができる。
更に、他車両2の進入エリアA1までの距離、速度及び加速度に基づき、他車両2のウインカの点灯開始から、他車両2の進入エリアA1へ進入するまでの進入時間を推定する。これにより、他車両2の進入エリアA1までの距離、速度及び加速度に基づき、他車両2の運転特性を適切に推定することができる。
更に、自車両1が進入エリアA1へ進入する自車両進入時間を推定し、他車両2が進入エリアA1へ進入する進入時間と自車両進入時間との差分が閾値未満か否かを判定する。進入時間と自車両進入時間との差分が閾値未満と判定された場合、他車両2の運転特性を推定し、進入時間と自車両進入時間との差分が閾値以上と判定された場合、他車両2の運転特性を推定する処理を行わない。これにより、処理時間を削減し、より早いタイミングで他車両2の運転特性を推定することができる。
更に、他車両2のウインカの点灯開始時刻から他車両2の動作開始時刻までのウインカ点灯時間を算出し、算出したウインカ点灯時間に基づき、推定した他車両2の運転特性を補正することにより、他車両2の運転特性を精度良く推定することができる。
更に、他車両2の地図に基づく第1予測軌道を推定し、他車両2の挙動に基づく第2予測軌道を推定し、第1予測軌道と第2予測軌道との比較結果と、他車両2の運転特性とに基づき、他車両2の動作を予測する。これにより、他車両2の急な車線変更や右左折を適切に予測することができ、自車両1がより安全な挙動を取ることができる。
更に、予測された他車両2の動作に応じて、自車両1の走行を制御する。例えば図3に示すように、他車両2が自車両1に先行する軌道t2を選択すると予測された場合、或いは他車両2が自車両1に先行する軌道t2を選択する最終尤度αが所定の閾値以上の場合に、自車両1が事前に減速、停止、車線変更等を行う。このように、適切に予測された他車両2の動作に応じて、自車両1が事前に安全な挙動を取ることができる。
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、本発明の実施形態に係る走行支援装置10は、図9に示す走行シーンにも適用可能である。図9では、片側一車線の左側車線を自車両1が走行し、右側車線を対向車である他車両2が走行している。他車両2の前方には、駐車車両3が存在する。この場合、軌道予測部33は、他車両2が駐車車両3を追い越す動作として、自車両1が駐車車両3の側方を通過するまで駐車車両3の後方で減速又は停止して待機し、自車両1が通過後に左側車線に進入する軌道t41と、自車両1が駐車車両3の側方を通過する前に、他車両2が左側車線に進入して駐車車両3の側方を通過するための軌道t42を予測する。
運転特性推定部34は、他車両2が駐車車両3を回避すべく車線変更のためにウインカ操作(他車両2の右側のウインカ点灯)を要する進入エリアA2を推定し、推定された進入エリアA2に対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する。尤度推定部35は、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性に基づき、軌道t41,t42を選択する尤度を算出し、他車両2の動作を予測する。この際、他車両2の運転特性の「Cautious」又は「Cautious」尤度は軌道t41に対応付けられ、他車両2の運転特性の「Aggressive」又は「Aggressive」尤度は軌道t42に対応付けられる。
また、本発明の実施形態に係る走行支援装置10は、図10に示すように、交差点に自車両1が進入する場合の走行シーンにも適用可能である。図10に示すように、交差点に自車両1が進入する際に、対向車である他車両2が右折を予定している。この場合、軌道予測部33は、他車両2が右折する動作として、自車両1が交差点を通過するまで待機し、自車両1が通過後に右折する軌道t51と、自車両1が交差点を通過する前に、他車両2が右折する軌道t52を予測する。運転特性推定部34は、他車両2が右折のためにウインカ操作(他車両2の右側のウインカ点灯)を要する進入エリアA3を推定し、推定された進入エリアA3に対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する。所定の閾値は、例えば10mを他車両2の推定速度で除算した値を使用可能であり、適宜設定可能である。
また、運転特性推定部34は、他車両2のウインカの点灯開始から他車両2が推定エリアA3に進入するまでの進入時間が所定の閾値以上と判定された場合、他車両2の運転特性を「Cautious」尤度を増加させると共に、「Aggressive」尤度を減少させる。一方、他車両2のウインカの点灯開始から他車両2が推定エリアA3に進入するまでの進入時間が所定の閾値未満と判定された場合、「Cautious」尤度を増加させると共に、「Aggressive」尤度を減少させてもよい。所定の閾値は、例えば10mを他車両2の推定速度で除算した値を使用可能であり、適宜設定可能である。尤度推定部35は、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性に基づき、軌道t51,t52を選択する尤度を算出し、他車両2の動作を予測する。この際、他車両2の運転特性の「Cautious」又は「Cautious」尤度は軌道t51に対応付けられ、他車両2の運転特性の「Aggressive」又は「Aggressive」尤度は軌道t52に対応付けられる。
また、本発明の実施形態に係る走行支援装置10は、図11に示す走行シーンにも適用可能である。図11では、片側二車線の左側車線を自車両1が走行し、自車両1が走行している車線に他車両2が合流予定である。この場合、軌道予測部33は、他車両2が合流する動作として、自車両1が通過後に自車両1に後続するように合流する軌道t61と、自車両1が通過する前に、自車両1に先行するように合流する軌道t62を予測する。
運転特性推定部34は、他車両2が合流のためにウインカ操作(他車両2の右側のウインカ点灯)を要する進入エリアA4を推定し、推定された進入エリアA4に対する他車両2のウインカの点灯状態に基づき、他車両2の運転特性を推定する。尤度推定部35は、運転特性推定部34により推定された他車両2の運転特性に基づき、軌道t61,t62を選択する尤度を算出し、他車両2の動作を予測する。この際、他車両2の運転特性の「Cautious」又は「Cautious」尤度は軌道t61に対応付けられ、他車両2の運転特性の「Aggressive」又は「Aggressive」尤度は軌道t62に対応付けられる。
また、本発明の実施形態に係る走行支援装置10は、図示を省略するが、他車両がラウンドアバウトに進入する場合、他車両が駐車場から道路に進入する場合、狭路において対向車が駐車車両を追い越す場合等の、他車両がウインカ操作を要する進入エリアが存在する種々の走行シーンに適用できる。
このように、本発明は、ここで記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。