以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の構成要素には同一の記号を付してある。それらの名称および機能は同じであり、重複説明は避ける。また、以下の説明では内転型回転子を対象としているが、本発明の効果は内転型回転子に限定されるものではなく、同様の構成を有する外転型回転子にも適用可能である。
また、固定子の巻線方式は集中巻でも良いし分布巻でも良い。また、回転子の極数、固定子コイルの相数も、実施例の構成に限定されるものではない。また、以下の説明ではインバータ駆動の永久磁石モータを対象としているが、本発明の効果は自己始動型永久磁石モータにも適用可能である。
以下、図1乃至6を用いて、本発明の第1の実施例について説明する。また、本実施例の説明に当たり、図8乃至11を参照する。
図1は、本発明の第1の実施例における永久磁石同期機について、固定子と回転子とを回転軸に垂直な横断面で示す図である。
図2は、本発明に係る数3の関係を示す図である。
図3は、本発明の第1の実施例におけるトルク特性の説明図である。
図4は、永久磁石モータのベクトル図である。
図5及び図6は、本発明の第1の実施例における永久磁石同期機について、回転子を回転軸に垂直な横断面で示す図である。
図8は、6極9スロット三相モータの固定子コイル接続図である。
図9は、磁石トルクとリラクタンストルクの原理説明図である。
図10は、永久磁石モータのベクトル図である。
図11は、本発明との比較例である永久磁石同期機の回転子を回転軸に垂直な横断面で示す部分断面図である。
本実施例の永久磁石同期機について、図1を用いて説明する。
本実施例の永久磁石同期機では、固定子9の内周側に回転子1を備えている。回転子1は固定子9に対してギャップGを介して、図示しない軸受けによって回転自在に保持される。
固定子9は、ティース11を有する固定子鉄心10と、ティース11に巻回された固定子巻線12とで構成される。固定子巻線12は、三相の巻線U、V、Wを順に周方向に配置する。U相、V相及びW相の各相は3つのコイルが直列に接続されている(図8参照)。全部で9つのコイル12u1、12u2、12u3、12v1、12v2、12v3、12w1、12w2、12w3が各ティース11に分かれて巻き付けられており、集中巻きの永久磁石同期機を構成している。
このために、固定子9には、ティース11及びスロットが9つ設けられている。回転子1は永久磁石収容孔4を備えた回転子鉄心2と、6極(極対数p=3)を構成するよう配置された永久磁石3とで構成される。回転子1の中心部には、シャフト(回転軸、出力軸)6が貫通する貫通孔6aが形成され、貫通孔6aにシャフト6が挿通されている。
本実施例の永久磁石同期機は、図1に示すように、回転子1が方形状の磁石収容孔4を有し、磁石収容孔4には永久磁石3が埋設されている。永久磁石3は、磁石収容孔4に挿入され、永久磁石3と磁石収容孔4とが周方向に沿って複数設けられることにより、回転子1の内部に周方向に沿って複数の極8が構成される。
永久磁石3による固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψp(Wb)と、相電流実効値Irms(Arms)を固定子コイルに通電した時の直軸インダクタンスLd(H)および横軸インダクタンスLq(H)とは、下記の数3の関係を有する。
また、駆動時の固定子鎖交磁束Ψと前記Ψpとが数4の関係を満足する。
ここでまず、数3の物理量ならびにリラクタンストルクの発生原理に関して、図3、図8及び図9を用いて説明する。本実施例では、6極9スロットの三相モータについて説明するが、4極6スロット、或いは他の極数及びスロット数を有する三相モータであってもよい。
例えば図8に示すように、直列に接続されたU相巻線12u1、12u2、12u3には、インバータから波高値I(このときの実効値をIrmsとする)の交流電流iuが供給される。V相巻線12v1、12v2、12v3、W相巻線12w1、12w2、12w3に関しても同様であるが、各相の電流位相は電気角で120°ずつずれている。IやIrmsの大きさは、ワットメータ等の機器を用いることで求めることができる。或いは、オシロスコープなどで電流波形を取得してフーリエ解析することでも求めることができる。
回転子1と機械的に結合されたシャフト6は負荷に連結され、電流Iの大きさと位相を適当に選定することで、負荷と釣り合うような回転トルクMeが発生する。固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψpは、図8に示すU、V、Wの端子Tu、Tv、Twを開放した状態で回転子1を外部駆動し、その時の相電圧波高値E0、または線間電圧波高値E0×√3を測定することで求めることができる。具体的には、毎分当たりの回転数N[rpm]で外部駆動した時の角周波数ω[rad/s]を数5から求め、それを数6に代入して得られる。ただし、pは極対数である。
ところで、磁石モータのトルクMeは一般に、固定子巻線U、V、W各相の通電電流が生成する回転磁界と,回転子磁極との吸引・反発によって発生する。回転子磁極とは、磁石モータの場合、磁石によって形成される磁界を指すことが多いが、リラクタンストルクを考慮するときには、回転磁界の影響により回転子鉄心が磁化することで形成される磁界も磁極の一種として考えるとわかりやすい。
なお、磁石モータの同期運転時における電流や磁束は交流量であるため、dq軸座標系(回転座標系)に変換し直流量として扱う方法が一般的である。一般に、dq軸座標系では回転子の磁極中心軸をd軸とし、d軸に対して反時計回りに電気角で90°進んだ軸、すなわち極性の異なる永久磁石間の中心軸をq軸とする。この場合、回転子位置によらず、dq軸と回転磁界との相対的な位置関係のみでトルク等の諸物理量を考察することが可能となる。
図9を用いて、磁石モータのトルク発生原理を説明する。図において、反時計回りを正方向としている。(a)は磁石トルクを示す。(b)はd軸電流が負の場合に生じるリラクタンストルクを示しており、回転子q軸の磁化によるものである。(c)はd軸電流が負の場合に生じるリラクタンストルクを示しており、回転子d軸の磁化によるものである。
(a)に示すように、磁石トルクはd軸に発生する磁石磁束とq軸電流により形成される磁界との吸引および反発によって生じるトルクである。このとき、磁石磁束とd軸電流磁界との間には径方向の反発力が発生するが、回転力は生じない。
一方で、(b)に示すように、q軸電流磁界により回転子q軸が磁化される場合、回転子q軸の磁化とd軸電流磁界との間に吸引力および反発力が生じる。これがリラクタンストルクであり、d軸電流が負の場合、すなわち弱め界磁運転時には正のトルクが得られ、増磁作用時には負のトルクとなる。
同様にして、(c)に示すように回転子d軸が磁化されやすい場合も、q軸電流磁界との関係でリラクタンストルクが発生し、こちらは弱め界磁運転時に負のトルク、増磁作用時には正のトルクとなる(一般的には(b)と(c)との和をリラクタンストルクと呼ぶ)。
磁石トルクはq軸電流一定の下であれば磁石の発生する磁束量に比例する。すなわち、磁石トルクを増加させるには磁石量を増やしたり、強力な磁石を用いたりする必要があり、コスト増を招く。これに対し、リラクタンストルクはq軸とd軸のインダクタンスの差に比例するため、両者の差が大きくなるように回転子磁気回路を構成することでトルクの増加を図ることができると考えられてきた。
さて、数3の構成物理量のうち、Ψp、Irmsは上述の要領で求められるのに対し、Ld、Lqの求め方に関しては、ダルトン・カメロン法などのような回転子静止法か、または以下で述べるようなベクトル図から逆算する方法がある。
図10のdq軸座標系のベクトル図を用いて、磁石モータの同期運転時における電流、電圧及び磁束について説明する。
永久磁石による固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψpの位相を基準として、これをd軸とみなし、Ψpの時間微分である誘導起電力E0は位相が90°進んだq軸に発生する。モータに印加される相電圧Vとモータに通電される相電流Iが、E0に対してそれぞれθ、βの位相差をもつとき、V,Iは数7及び数8に示すようにd軸成分、q軸成分に分解できる。
なお、図10の抵抗Rはホイートストーンブリッジなどの抵抗測定器を用いることで計測可能である。また、電圧位相差角θ、電流位相差角βに関しては、E0、V、Iの波形を取得し、各基本波成分の位相関係を割り出すことで求めることができる。図10では相電圧、相電流の波形を用いた場合を表しているが、例えば相電圧の代わりに線間電圧を取得している場合でも、相電圧と線間電圧の位相差を考慮することで、同様にしてθ、βを求めることができる。
上記で得られた物理量を用いて、Ld,Lqは数9の電圧方程式から求めることができる。
以上、数3の物理量ならびにリラクタンストルクの発生原理に関して説明した。
次に、本発明の基本原理、すなわち、数3の関係を満足し、かつ数4の関係を満足することで、トルク向上、効率向上、高速回転化を図ることができる原理を説明する。
一般に発生トルクMeは、極対数p、永久磁石による固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψp、直軸電流Id、横軸電流Iqを用いて数10で示される次式で表される。
ただし、Id、Iq、Ψpは波高値である。
数10において、{ }内第一項が磁石トルクを、第二項がリラクタンストルクを表している。この式から明らかなように、リラクタンストルクはLq−Ld、Id、Iqにそれぞれ比例する。このため、従来はリラクタンストルクの大きさの指標として突極比Lq/Ld、またはLq−Ldが用いられていた。しかしながら、リラクタンストルクが発生トルクMeにどれだけ寄与するかは、磁石トルクとの相対関係で決まる。例えば、リラクタンストルクがマグネットトルクに対して極端に小さい場合は、リラクタンストルクが僅かに変動(増減)しても、発生トルクMeにはほとんど影響しない。したがって、リラクタンストルクの大きさを表す指標には、従来の突極比に加え、磁石トルクとの相対関係を加味できる別の物理量を新たに導入する必要がある。
ここで、磁石トルクは電流位相差角β=0のときに最大となり、その最大値Mp,maxは数8、数10より次式で表せる。
一方、リラクタンストルクはβ=π/4(電気角で45 deg.)のときに最大となり、その最大値Mr,maxは数8、数10より次式で表せる。
数11と数12の比が、リラクタンストルクの大きさを表す指標に他ならないので、この比をリラクタンストルク比αと定義する。電流波高値Iを用いる場合は、
となり、電流実効値Irmsを用いる場合は、
となる。本発明では電流実効値Irmsを用いた数14を使用する。
数14から明らかなように、リラクタンストルクの大きさを表す指標として、従来のLd、Lqに加え、Ψp、Irmsが新たに導入されていることがわかる。このうち、Ψpは永久磁石の物性と形状、固定子巻線仕様、モ−タ断面形状によって決定され、一般的な誘導起電力測定試験から求めることができる。同様に、Ld、Lqもモ−タ構成と通電電流Irmsによって決定され、一般的なモ−タインダクタンス測定法によって求めることができる。したがって、Ψp、Ld、Lqはモ−タ毎に決まる定数であり、数14はαとIrmsの線形関数として扱うことができる。
リラクタンストルク比αは、数14の右辺、特に電流値を変化させることで任意の値を採ることができるが、発生トルク向上、効率向上の観点から言えば、図3に示すようにリラクタンストルクMrが最大となるβ=45 deg.において、発生トルクMeが磁石トルク最大値Mp,maxと同等かそれ以上となることが望ましい。もう少し詳しく説明すると、永久磁石同期機は、効率最大化制御を行う場合、電流位相差角が0〜45°の範囲で駆動される。発生トルクMeは電流位相差角が0°と45°のときに最小値となる。そこで、電流位相差角が0°と45°のときに、発生トルクMeが磁石トルク最大値Mp,maxと同等かそれ以上となるようにすることにより、リラクタンストルクを活用できるようにしている。すなわち、
の関係が成り立てば良い。数15を整理すると、
となり、さらに数14を用いて変形すると次式を得る。
以上より、リラクタンストルクの大きさを表す指標として、従来のLd、Lqに加え、Ψp、Irmsを導入する必要があること、リラクタンストルクを有効活用するためには数17の関係式を満足する必要があることを示した。
しかしながら、数17が成立しない場合、すなわち数3の関係が成立する場合は、リラクタンストルクの活用が困難である。このような状況で、図11に示すようなIPM構造としても、出力向上や効率向上が図れない一方で、突極比が大きいゆえにq軸インダクタンスが大きいため、鉄損増加を招いたり、高速回転化が困難となってしまう。
そこで、駆動時の固定子鎖交磁束Ψと前記Ψpとが数4の関係を満足することが重要となる。この理由について図4を用いて説明する。図4はモータ駆動状態における諸物理量をdq軸上で表したものであり、図10と重複する記号に関しては、その物理的な意味は同義であるため説明を割愛する。
まず、駆動時の固定子鎖交磁束Ψは、永久磁石3による固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψp(Wb)を起点として、d軸電流Idによって発生する反作用磁束LdIdと、q軸電流Iqによって発生する反作用磁束LqIqとのベクトル和で表される。
図4に示すdq軸上では、Ψは直流量であるが、任意の固定子コイルから見た場合は交流量であり、固定子コイルが巻回されたティースには、Ψの交流変化によってヒステリシス損と渦電流損、すなわち鉄損が発生する。一般に、ヒステリシス損はΨの波高値に比例し、渦電流損はΨの波高値の2乗に比例するので、鉄損を低減するためには、Ψを小さくすることが望ましい。しかしながら、従来のIPM構造では、リラクタンストルクの活用を狙ってLqを大きくすることが一般的であったため、図4からも明らかなように、LqIqベクトルの伸長に伴って、ΨがΨpよりも大きくなりやすかった。
リラクタンストルクが活用できる場合は、必然的に負のIdが流れるため、LdIdベクトルによってΨは抑制されやすいが、リラクタンストルクが活用できない場合は、負のIdを流す必要がなくなるため、Ψが抑制できず鉄損増加を招いてしまう。したがって、数3の関係が成立する場合、すなわちリラクタンストルクが活用できない場合には、鉄損低減の観点から数4の関係を同時に満足することが極めて重要となる。
続いて、数4の重要性について高速回転化の観点からも説明する。駆動時において、固定子コイルの電気抵抗による電圧降下分を無視すると、モータ端子電圧Vは固定子鎖交磁束Ψの時間微分と等価とみなすことができ、次式で近似できる。なお、図4に示すように、VはΨに対して90deg.進んだベクトルで表される。
いま、モータ端子電圧の上限値をVmaxとすると、数18から明らかなように、Ψを小さくした分だけ、ωを大きくすることができる、すなわち高速回転化が可能となる。
以上より、数3の関係を満足し、かつ数4の関係を満足することで、トルク向上、効率向上、高速回転化を図ることができる原理を説明した。
ところで、数3の関係を満足し、かつ数4の関係を満足するような具体的な構成としては、図1に示すような回転子構造がある。
図1では、回転子1には、永久磁石3の径方向外周部(外周側)に非磁性体で構成されるスリット7が配置されている。また、隣接する極8の磁極間の回転子鉄心2は、前記永久磁石収容孔4の周方向端部よりも内周側に凹となるよう構成されている。このような構成とすることでq軸インダクタンスを低減し、固定子鉄心の磁気飽和を緩和する。特に、磁極間の回転子鉄心2を内周側に凹となるよう構成することで、永久磁石3の径方向内周部(内周側)を透過しようとするq軸磁束を大幅に低減することができる。以上の構成によって、トルク向上、鉄損低減、効率向上、ならびに高速回転化が可能になる。
ところで、上述した永久磁石同期機を駆動する場合、電流位相差角βは制御ソフトの構成によって任意に設定できるが、数3を満足するような構成においては、発生トルクが最大となる制御動作点は0deg.≦β≦22.5deg.の範囲に存在する。したがって、前記の位相となるように制御することで、より確実にトルク向上、効率向上を図ることができる。
なお、永久磁石3は1極につき周方向に分割されることなく一体で構成しても良いし、複数個を周方向に分割して配置しても良い。
また、1極を構成する永久磁石3及び磁石収容孔4は、1つに限定されるわけではない。例えば、1極を構成する永久磁石3を周方向に分割し、それぞれの磁石に合わせて磁石収容孔4を設け、隣接する収容孔の境界にリブを設けるなどしてもよい。
また、永久磁石3及び磁石収容孔4は、回転軸方向に複数個を分割して構成しても良いし、分割することなく一体で構成しても良い。
回転子鉄心2は軸方向に積み重ねた積層鋼板で構成しても良いし、圧粉磁心などで構成しても良いし、アモルファス金属などで構成しても良い。
本実施例では、磁石収容孔4は1極を構成する永久磁石の磁極中心軸に対して、直交するように形成され、また、回転軸方向からみて平板状である。磁石収容孔4に収容される永久磁石3も、磁石収容孔4の形状に合わせ平板上に形成されている。このような構成とすることで、磁石の成形プロセスを最小限に抑えることができるほか、磁石の挿入工程も簡易となるので、製造コストを抑制できる。
また、磁石収容孔を平板状とすることで、V字状の収容孔などと比べ、回転子鉄心の1極あたりの外周部コア面積を小さくできるので、それに伴いq軸インダクタンスを小さくすることができる。なお、回転子鉄心の1極あたりの外周部コア面積を小さくするためには、磁石収容孔を平板状ではなく、径方向外側に凸となるような形状で構成してもよい。
スリット7は磁石磁束の透過を妨げないと同時に、q軸磁束の透過を妨げるように配置すればよく、直線状に設けても良いし、円弧状にしても良い。また、一続きで構成しても良いし、リブ等で分割して構成しても良い。また、図1では一極あたり4本を配置しているが、製作可能な範囲で有れば何本であっても良い。また、各スリット7の幅は均一でも良いし、不均一でも良い。
スリット7は、上述したように、磁石磁束の透過を妨げず、q軸磁束の透過を妨げる。このため、スリット7は、スリット7が設けられていない状態で回転子鉄心2の永久磁石3の外周側に生じる磁石磁束とq軸磁束とに対して、q軸磁束を横切るように設けられ、磁石磁束をできるだけ横切らず磁石磁束に沿うように設けられる。この条件に適うようにスリット7を設けると、スリット7はq軸磁束を横切る方向(磁石磁束に沿う方向)に長く(寸法が大きく)、磁石磁束を横切る方向(q軸磁束に沿う方向)に短い(寸法が小さい、或いは幅が薄い)形状になる。
スリット7について、図5を参照してさらに詳細に説明する。図5の構成が図1と異なる点は、永久磁石3の径方向外周部(外周側)にスリット7aを設けるだけでなく、径方向内周部(内周側)にもスリット7bを設けている点である。
図5では、d軸は回転子1の回転中心(シャフト6の中心)Oと磁石収容孔4の中央4oとを通る。永久磁石3は、d軸に対して線対称となるように、磁石収容孔4を埋めるように挿入されている。永久磁石3は、磁石収容孔4を完全に埋めるのではなく、隙間を残すように挿入されてもよい。本実施例では、d軸は磁極の中央を通るので、以下、d軸を磁極中央線30clと呼ぶ。
スリット7aは、外周側では磁極中央線30clに近づき、内周側では磁極中央線30clから遠ざかるように、磁極中央線30clに対して傾斜して形成されている。すなわち、スリット7aは、外周側端部が内周側端部に対して磁極中央線30clに近くなるように、磁極中央線30clに対して傾斜して形成されている。具体的には、スリット7aの中心線7aclの外周側端部7aoから磁極中央線30clに下ろした垂線の長さ(外周側端部7aoと磁極中央線30clとの距離)d7aoが、スリット7aの中心線7aclの内周側端部7aiから磁極中央線30clに下ろした垂線の長さ(外周側端部7aiと磁極中央線30clとの距離)d7aiよりも短くなるように、スリット7aは磁極中央線30clに対して傾斜している。
スリット7aは、一つの磁極において、磁極中央線30clの少なくとも片側に形成する。本実施例の場合、磁極中央線30clの両側にスリット7aを形成している。また、磁極中央線30clの両側に形成したスリット7aは磁極中央線30clに対して線対称に形成している。スリット7aを磁極中央線30clに対して線対称に形成することにより、磁石磁束とq軸磁束との透過性に関する設計が容易になる。しかし、必ずしもスリット7aを磁極中央線30clに対して線対称に形成する必要はない。
スリット7aは、図5では、上述した傾斜を有するように直線状に形成しているが、円弧状に形成してもよい。スリット7aを円弧状に形成する場合、磁石磁束に沿うように、磁極中央線30clに向かって凸形状の曲線を描くようにするとよい。
次に、図5に示すスリット7bについて説明する。尚、スリット7bを設けない場合もスリット7aによる効果は得られるため、スリット7bは必ずしも設ける必要はない。しかし、スリット7bを設けることにより、以下で説明する効果が得られる。
スリット7bは永久磁石3の径方向内周部(内周側)に設けられ、スリット7aと同様に非磁性体で構成される。
このような構成とすることで、q軸インダクタンスの低減効果がより一層高まり、固定子鉄心の磁気飽和をより一層緩和することができる。これによって、永久磁石同期機のさらなる高速回転駆動が可能になると同時に、さらなるトルク向上および効率向上を図ることが可能となる。スリット7bは磁石磁束の透過を妨げないと同時に、q軸磁束の透過を妨げるように配置すればよく、直線状に設けても良いし、円弧状にしても良い。また、一続きで構成しても良いし、リブ等で分割して構成しても良い。また、製作可能な範囲で有れば何本であっても良い。また、各スリットの幅は均一でも良いし、不均一でも良い。
ここで、スリット7bの別の効果として永久磁石3の減磁耐力向上がある。永久磁石3の不可逆減磁が発生するのは、固定子コイルが永久磁石3の磁化方向とは反対方向に過大な磁界を発生するときである。固定子コイルが発生する磁界の大きさは、電流の大きさと巻線のターン数、すなわちアンペアターンに比例するが、アンペアターンが一定の場合を考えると、永久磁石3に印加される磁界(以下、減磁磁界)の大きさは、ギャップ部分や固定子鉄心や回転子鉄心の磁気抵抗との兼ね合いによって決まる。すなわち、永久磁石3以外の部分の磁気抵抗が大きいほど、減磁磁界(永久磁石3に印加される磁界)は小さくなる。ここで、スリット7bが無い場合を考えると、永久磁石3の径方向内周部コア部分には磁束の透過を妨げる要素が無いため、磁気抵抗は非常に小さい。これに対し、スリット7bを設けることで、磁束はスリット7bに沿って透過することになるので、磁路が限定され磁気抵抗が増加する。これによって、減磁磁界(永久磁石3に印加される磁界)を小さくできるので、永久磁石3の減磁耐力が向上する。
なお、図6に示すような構成においても本実施例で述べた効果と同様の効果を得ることができる。図6の構成が図5と異なる点は、回転子鉄心2の外周部の磁極間に、リブ102を設け、その内周側にq軸空孔103を設けた点である。このような構成とした場合にも永久磁石3の径方向内周部(内周側)を透過しようとするq軸磁束を大幅に低減することができ、固定子の磁気飽和を緩和できる。また、リブ102を設けることで、永久磁石3の外周部コアに働く遠心力荷重に対して強度が向上するため、より一層の高速回転化が可能となる。リブ102を設ける位置は、図6では永久磁石3よりも外周側としているが、上記の効果を得られるのであれば、必ずしも永久磁石3の外周側とする必要はなく、永久磁石3と同一円周上近傍に設けても良いし、永久磁石3の内周側に設けてもよい。また、リブ102の幅は、永久磁石3の漏れ磁束低減と回転子強度向上の両立を図れる範囲で任意に設定して良い。また、q軸空孔103は、図6では半円状の形状としているが、q軸磁束を低減できるのであれば、その形状は必ずしも半円状でなくても良い。また、q軸空孔103は、図6では極間1カ所につき1つだけ設けているが、2つまたはそれ以上の複数を設けても良い。