この発明は、トレッド踏面に、トレッド周方向に連続して延びる二本以上の周溝と、トレッド幅方向に互いに隣接する該周溝のそれぞれに開口する横断溝とで区画されるブロックを有する重荷重用空気入りタイヤに関するものである。
ダンプトラック等に用いられることのあるこの種の重荷重用タイヤとしては従来、たとえば特許文献1に記載されたものがあり、建設現場、鉱山その他で使用され得るこのダンプトラックは、降雨後に、固い地盤の上に数センチ程度の柔らかい粘土層が形成された泥濘地等の路面の走行に供されることがある。
上述したような粘土層が形成された路面上を走行するに際しては、車輌に装着されたタイヤは、トレッド部が粘土層に完全に埋没することはないものの、トレッド踏面に設けた周溝の溝深さの数十%程度が埋まった状態で負荷転動することになるが、この場合、トレッド踏面と固い地盤との間の、柔らかい粘土層の存在の故に、トラクションフォース及びブレーキングフォースを路面に効率良く伝達させることが困難となる。
とくに、固い地盤上に堆積したこのような粘土層の泥は、タイヤの負荷転動に際し、トレッド踏面に設けたブロックの、先に接地する踏込み側の部分から、その後に接地する蹴出し側の部分へと押し出されることになって、その蹴出し側の部分で路面との間に蓄積するので、かかる路面では、ブロックの蹴出し側の部分でのブロックエッジによる引掻き効果を十分に発揮させることができない結果として、ブレーキングフォースの入力時に車輌がスリップするという問題があった。そしてこのことは、たとえば、鉱山で使用されるダンプトラック等の走行速度の低下、ダンプトラック等による運搬作業の停滞を招いて、その作業能率を低下させるおそれがあった。
このことに対しては、トレッド踏面のエッジのトレッド幅方向成分を増やすことにより、柔らかい粘土層に対する大きな引掻き効果を発揮させることが有効とも考えられるが、単純に、トレッド踏面にトレッド幅方向に延びる溝を追加してブロックを分割することでエッジの幅方向成分を増加させても、接地面内のブロック表面と路面との間に残留する柔らかい粘土層の泥がタイヤをスリップさせるので、スリップ抑制効果を所期したほどに得ることができない。また、接地面内の粘土層の泥を効率的に押し流すべく、トレッド周方向に連続して延びる周溝の本数を増やした場合は、該周溝によりブロックが細分化されてブロック剛性が低下し、耐摩耗性能に悪影響を及ぼすという他の問題がある。
この発明は、泥濘地の走行に供されることのある重荷重用空気入りタイヤが抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を招くことなしに、接地面内の泥はけ性を有効に向上させ得る重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
この発明の重荷重用空気入りタイヤは、トレッド踏面に、トレッド周方向に連続して延びる二本以上の周溝と、トレッド幅方向に互いに隣接する周溝のそれぞれに開口する横断溝とで区画されるブロックを有し、ブロックに、ブロックに隣接する周溝の溝深さより浅い平均溝深さを有する一本以上の浅溝を設け、浅溝の少なくとも一本を、ブロックに隣接する周溝及び横断溝の少なくとも一方に開口させるとともに、トレッド踏面のネガティブ率を40%以上50%以下としたものである。この発明の重荷重用空気入りタイヤによれば、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を招くことなしに、接地面内の泥はけ性を有効に向上させることができる。
ここでいう「トレッド踏面」は、適用リムに組み付けるとともに規定内圧を充填したタイヤを、最大負荷能力に対応する負荷を加えた状態で転動させた際に、路面に接触することになる、タイヤの全周にわたる外周面を意味する。また、「トレッド端」は、前記トレッド踏面の、トレッド幅方向の最外位置をいう。なおここで、「適用リム」とは、タイヤサイズに応じて下記の規格に規定された標準リム(下記TRAのYEAR BOOKでは“Design Rim”と規定。下記ETRTOのSTANDARDS MANUALでは“Measuring Rim”と規定。)をいい、「規定内圧」とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「最大負荷能力」とは、下記の規格でタイヤに負荷されることが許容される最大の質量をいう。そして、その規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって決められたものであり、例えば、アメリカ合衆国では、“THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.(TRA)”の“YEAR BOOK”であり、欧州では、“The European Tyre and Rim Technical Organization(ETRTO)”の“STANDARDS MANUAL”であり、日本では、“日本自動車タイヤ協会(JATMA)”の“JATMA YEAR BOOK”である。
また、上記の「溝深さ」は、タイヤを適用リムに組み付けるとともに規定内圧を充填した無負荷状態で、トレッド踏面への溝開口位置から溝底位置までを、タイヤ半径方向と平行に測定するものとする。そして、浅溝の「平均溝深さ」とは、ブロックに設けた一本以上の浅溝の延在途中でそれの溝深さが異なる場合は、その浅溝の全長にわたる溝深さの平均値を意味する。
なお、この発明でいう「浅溝」は、トレッド接地面内で、対向する溝壁が互いに接触することなく、トレッド踏面に開口した状態となる程度の溝幅を有するものとする。ここで、「トレッド接地面」とは、タイヤを適応リムに組み付けて規定内圧を充填した状態の下で、最大負荷能力を負荷したときに路面に接触する、トレッド踏面の周方向の一部をいう。また、この発明でいう「トレッド踏面のネガティブ率」とは、トレッド踏面に設けられた溝の、トレッド踏面への開口位置での面積の総和の、上記溝の開口位置での面積を含んだトレッド踏面の面積に対する割合をいう。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、浅溝の少なくとも一本を、ブロックのトレッド周方向の両側に隣接する横断溝のそれぞれに開口させることが好ましい。これにより、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロックに、二本以上の浅溝を設け、二本以上の浅溝が、トレッド周方向に対して傾斜した方向に延びる幅方向浅溝と、幅方向浅溝よりもトレッド周方向に対する傾斜角度の小さな周方向浅溝とを含み、幅方向浅溝及び周方向浅溝を互いに連通させることが好ましい。これにより、泥濘地に対する大きな引掻き効果を得つつ、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロック内で、浅溝と周溝及び横断溝の少なくとも一方とで区画され、又は、複数本の浅溝で区画されるサブブロックのうち、最も面積の小さなサブブロックの、トレッド周方向の最大長さをdとし、タイヤの外径をODとすると、d/OD>0.02の関係を満たすことが好ましい。これにより、サブブロックのブロックもげを、有効に防止することができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド幅をTWとし、タイヤ赤道面から、ブロックに隣接する周溝の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置までの距離をL1とすると、L1/TW>0.37の関係を満たすことが好ましい。これにより、ブロックの存在する範囲の最大幅を、車両の空車時での接地幅以上とすることができるので、空車時において、優れた耐スリップ性を得ることができる。ここで、「トレッド幅」とは、両側のトレッド端の間の、トレッド幅方向の距離をいう。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド幅をTWとし、トレッド踏面の、ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲かつトレッド幅方向全範囲にわたる単位踏面領域に存在する、陸部のエッジのトレッド周方向への総投影長さをEbとすると、Eb/TW≧2.1の関係を満たすことが好ましい。これにより、エッジのトレッド周方向成分を、トレッド踏面の全幅領域にわたって十分に確保することができる。ここで「陸部」とは、トレッド踏面の領域のうち、溝を除く部分をいう。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、浅溝のうち少なくとも一本の溝幅を、トレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させることが好ましい。これにより、当該溝幅が増大された浅溝内に取り込んだ泥を、効率的に周溝や横断溝に流すことができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド踏面に、トレッド端から延びて周溝に開口するラグ溝をさらに有し、ラグ溝の溝幅をトレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させることが好ましい。これにより、トレッド踏面のセンター領域で溝内に取り込んだ泥を、ショルダー領域のラグ溝を経て効率的にトレッド幅方向外側へ流出させることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロックに設けた浅溝のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向が、ブロックに隣接する周溝及び横断溝のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが好ましい。これにより、安定的に泥が溝内へ流れ込むようになることから、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。また、これと同様の観点から、ブロックに設けた浅溝の各々の溝幅中心線の延在方向が、ブロックに隣接する周溝及び横断溝のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが、さらに好ましい。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロックがタイヤ赤道面を跨いでおり、ブロックの外周縁が、そのタイヤ赤道面を跨ぐ部分で、ブロックの内側に向けて湾曲又は屈曲した凹形状をなしていることが好ましい。これにより、特に大きな接地圧が掛かるようなトレッド踏面のセンター領域で、エッジによる引掻き効果を最大限に発揮させることで、耐スリップ性を向上させることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤにおいて、浅溝の少なくとも一本は、その一端が浅溝を除くブロック内で終端していてもよい。これにより、ブロックの剛性が過度に低下するのを抑制することができる。
なお、上述したようなネガティブ率、最も面積の小さなサブブロックのトレッド周方向の最大長さd、トレッド幅TW、タイヤ赤道面からブロックに隣接する周溝の溝幅中心線のトレッド幅方向最外位置までの距離L1、及び、単位踏面領域に存在する陸部のエッジのトレッド幅方向への総投影長さEbのそれぞれは、タイヤを適用リムに組み付けて規定内圧を充填した無負荷の状態で、トレッドパターンの展開図で見てトレッド踏面に沿って測定するものとする。また、他の寸法等についても、特に断りがない限り、これと同じ条件で測定するものとする。
この発明の重荷重用空気入りタイヤによれば、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を招くことなしに、接地面内の泥はけ性を有効に向上させ得る重荷重用空気入りタイヤを提供することができる。
この発明の一の実施形態を示す、トレッドパターンの部分展開図である。
この発明の一の実施形態の変形例(実施例タイヤ2)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態の他の変形例(実施例タイヤ3)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態のさらに他の変形例(実施例タイヤ4)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態のさらに他の変形例(実施例タイヤ5)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態のさらに他の変形例(実施例タイヤ6)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
比較例タイヤのトレッドパターンを示す部分展開図である。
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について例示説明する。図1に示すところにおいて、1は、この発明の一の実施形態の重荷重用空気入りタイヤが具えるトレッド踏面を示す。本実施形態では、トレッド踏面1に、例えば図の例のようにジグザグ状の形態で、トレッド周方向に連続して延びる二本以上(図の例では二本)の周溝2を設けている。さらにトレッド踏面1には、例えば図の例のように周溝2のトレッド幅方向内側に突出する折れ曲がり箇所等で、トレッド幅方向に互いに隣接する周溝2のそれぞれに開口する横断溝5を設けている。そして、これら周溝2及び横断溝5により、複数個のブロック6を区画している。
各ブロック6には、該ブロック6に隣接する周溝2の溝深さより浅い平均溝深さを有する一本以上(図の例では五本)の浅溝7〜9、31、32を設ける。そして、それらの浅溝7〜9、31、32の少なくとも一本(図の例では浅溝7、8、31、32)を、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5の少なくとも一方に開口させる。このことによれば、固い地盤の上に柔らかい粘土層が形成された路面の走行に際して、ブロック6上に存在する粘土層の泥が、ブロック6に設けた浅溝7〜9、31、32内に取り込まれるとともに、浅溝7、8、31、32がそれぞれ開口する周溝2及び横断溝5に流されるので、トレッド踏面1の泥はけ性を効果的に向上させることができる。さらに、ブロック表面の蹴出し側部分(図の例では、タイヤの回転方向は図の上下方向のいずれの方向でもよいので、各ブロックのトレッド周方向いずれの側も蹴出し側部分となり得る。)に泥が残留しないので、その蹴出し側部分でのエッジ効果を十分に発揮させて、路面にトラクションフォース及びブレーキングフォースを有効に伝達させることができる。
このとき、図の例のように、浅溝7〜9、31、32の少なくとも一本(図の例では浅溝7及び8)を、ブロック6のトレッド周方向の両側に隣接する横断溝5のそれぞれに開口させることが好ましい。これによれば、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
ここにおいて、トレッド踏面1で蹴出し側部分に押し出される泥の量は、トレッド踏面1の表面積が大きくなるほど多くなり、また、トレッド踏面1に設けた溝に取り込むことのできる泥の量は、総溝面積と溝深さが大きくなるほど多くなる。このことに鑑みて、本実施の形態では、トレッド踏面1のネガティブ率を40%以上50%以下としている。トレッド踏面1のネガティブ率を50%以下、より好ましくは45%以下とすることにより、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を抑制することができる。一方、トレッド踏面1のネガティブ率を40%以上、より好ましくは44%以上とすることにより、接地面内の泥はけ性を有効に向上させることができる。
またここで、ブロック6に二本以上(図の例では五本)の浅溝7〜9、31、32を設け、二本以上の浅溝7〜9、31、32が、少なくとも一部分(図の例では全部)でトレッド周方向に対して傾斜した方向に延びる幅方向浅溝9と、少なくとも一部分(図の例では一部分、又は全部)で幅方向浅溝9よりもトレッド周方向に対する傾斜角度の小さな周方向浅溝7、8、31、32とを含み、幅方向浅溝9及び周方向浅溝7、8を互いに連通させることが好ましい。なお、この「互いに連通させる」とは、図の例のように、幅方向浅溝9の端部を周方向浅溝7、8に開口させる場合に限られず、周方向浅溝の端部を幅方向浅溝に開口させる場合や、幅方向浅溝及び周方向浅溝を互いに交差させる場合をも含む。ブロック6に幅方向浅溝9と周方向浅溝7、8、31、32とを設けることにより、幅方向浅溝9により増加するエッジのトレッド幅方向成分をもって、泥濘地に対する大きな引掻き効果を得つつ、周方向浅溝7、8、31、32による泥はけ性の向上効果を発揮させることができるので、泥濘地における走行性能をより有効に高めることができる。また、幅方向浅溝9及び周方向浅溝7、8を互いに連通させることにより、これら浅溝7〜9内に取り込まれた粘性の低い粘土層の泥が、浅溝7〜9内を自由に流動して、蹴出し側の部分に蓄積されることなく流れることになるので、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
ここで、ブロック6内で、浅溝7〜9と周溝2及び横断溝5の少なくとも一方とで区画され、又は、複数本の浅溝7〜9で区画されるサブブロック6a〜6dのうち、最も面積の小さなサブブロック6b、6cの、トレッド周方向の最大長さをdとし、タイヤの外径をODとすると、d/OD>0.02の関係を満たすことが好ましい。これにより、ブロック6内の最も面積の小さなサブブロック6b、6cの、トレッド周方向の最大長さdが過度に短くなることにより生じ易くなるブロックもげを、有効に防止することができる。
また、トレッド幅をTWとし、タイヤ赤道面Cから、ブロック6に隣接する周溝2の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置Pまでの距離をL1とすると、L1/TW>0.37の関係を満たすことが好ましい。これにより、ブロック6の存在する範囲の最大幅を、車両の空車時での接地幅以上とすることができるので、特に車両の積車時に比べてスリップし易くなる空車時において、トレッド接地面内でのブロック6のエッジのトレッド幅方向成分を十分に確保して、優れた耐スリップ性を得ることができる。ここで、トレッド踏面1に周溝2が三本以上設けられている場合、「ブロック6に隣接する周溝2の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置P」とは、ブロック6に隣接する周溝2のうちトレッド幅方向に最も外側に位置する周溝2の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置をいうものとする。また、「ブロック6の存在する範囲」とは、図の例のようにトレッド踏面1内に複数のブロック6をトレッド周方向に配置してなるブロック列が1列のみ存在する場合は、そのブロック列の存在するトレッド幅方向範囲をいい、トレッド踏面1にこのようなブロック列が複数列存在する場合は、これら複数のブロック列のうちトレッド幅方向に最も外側に位置する2列のブロック列により規定されるトレッド幅方向範囲をいう。
一方、トレッド踏面1の、ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲TCRかつトレッド幅方向全範囲TWRにわたる単位踏面領域(図1の長方形ABCD内の領域)に存在する、陸部のエッジのトレッド周方向への総投影長さをEbとすると、Eb/TW≧2.1の関係を満たすことが好ましい。これにより、エッジのトレッド周方向成分を、トレッド踏面1のセンター領域50だけでなくショルダー領域51をも含む全幅領域にわたって十分に確保することができるので、負荷転動時での泥濘地に対する引掻き効果をさらに向上させることができる。ここで、「ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲TCR」とは、ブロック6のトレッド周方向の最も踏み込み側(蹴出し側)にある位置Q1から、当該ブロック6にトレッド周方向に隣接する他のブロック6のトレッド周方向の最も踏み込み側(蹴出し側)にある位置Q2までの、周方向範囲をいう。また、「単位踏面領域に存在する、陸部のエッジのトレッド周方向への総投影長さEb」とは、単位踏面領域に存在する任意の向きに延びるエッジの、トレッド周方向に沿う向きの成分の長さを総計した長さをいう。
また、図の例のように、トレッド踏面1に、トレッド端から延びて周溝2に開口するラグ溝3をさらに有し、ラグ溝3の溝幅をトレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させることが好ましい。これにより、トレッド踏面1のセンター領域50で溝内に取り込んだ泥を、ショルダー領域51のラグ溝3を経て効率的にトレッド幅方向外側へ流出させることができる。
なお、図示はしないが、ブロック6に設けられた浅溝7〜9、31、32のうち少なくとも一本の溝幅を、トレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させるようにしてもよい。これにより、当該溝幅が増大された浅溝内に取り込んだ泥を、効率的に周溝2や横断溝5に流すことができる。
なお、図1に示すパターンでは、トレッド踏面1に、周溝2よりトレッド幅方向の外側では、トレッド周方向に互いに隣接するラグ溝3間に、陸部としてのラグ4を区画している。また、ラグ4に、周溝2よりも浅い溝深さで、トレッド端からトレッド幅方向に向けて湾曲して延びて周溝2に開口する開口溝30を設けている。
ここで、ブロック6に設けた浅溝7〜9、31、32のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向が、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが好ましい。これにより、安定的に泥が溝内へ流れ込むようになることから、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。また、これと同様の観点から、図の例のように、ブロック6に設けた浅溝7〜9、31、32の各々、即ち、すべての浅溝7〜9、31、32の溝幅中心線の延在方向が、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが、さらに好ましい。
ここにおいて、ブロック6がタイヤ赤道面Cを跨いでおり、ブロック6の外周縁が、そのタイヤ赤道面Cを跨ぐ部分40で、ブロック6の内側に向けて湾曲又は屈曲(図の例では屈曲)した凹形状をなしていることが好ましい。これにより、特に大きな接地圧が掛かるようなトレッド踏面1のセンター領域50で、エッジによる引掻き効果を最大限に発揮させることで、トレッド踏面1を固い地盤に接地させ易くして、耐スリップ性を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、浅溝7〜9、31、32の少なくとも一本(図では浅溝31、32)が、その一端が浅溝を除くブロック6内(すなわちブロック6の陸部内)で終端している。これにより、浅溝を設けたことによりブロック6の剛性が過度に低下するのを抑制することができる。
以上、本発明を、その一実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はこの実施形態に限られず、様々な変形例をも包含する。例えば、図2に示す変形例では、ブロック6に、タイヤ赤道面C上でトレッド周方向に沿って延びて、横断溝5に開口する一本の周方向浅溝10を設けるとともに、周溝2の、トレッド幅方向内側に突出する折れ曲がり箇所で、ブロック6の外周縁から内側に窪ませた二箇所の窪み部18、19を設けている。さらには、ラグ4に、トレッド端からトレッド周方向に沿って延びるとともにラグ溝3に開口する開口溝17を設けている。図3に示す変形例では、ブロック6に、トレッド幅方向に沿って延びて、周溝2に、そのトレッド幅方向外側に突出する折れ曲がり箇所で開口する一本の幅方向浅溝15を設けている。また、ラグ4に、トレッド端からトレッド幅方向に沿って延びるとともに周溝2に開口する開口溝17を設けている。図4に示す変形例では、ブロック6に、トレッド周方向に対して傾斜する向きに延びて、周溝2に開口する一本の幅方向浅溝14を設けている。また、ラグ4に、トレッド端からトレッド幅方向に対して傾斜する方向に延びるとともに周溝2に開口する開口溝16を設けている。図5に示す変形例では、図示の平面視で平行四辺形状をなすブロック6の略対角線上に延びて、横断溝5に開口する周方向浅溝11を設けており、この周方向浅溝11のトレッド幅方向の両側のそれぞれに、該周方向浅溝11よりもトレッド周方向に対して僅かに大きく傾斜して周方向溝2に開口する二本の幅方向浅溝12、13を設けている。ここで、浅溝12、13の一方の端部を、窪み部18、19のそれぞれの形成位置で、周溝2に開口させている。図6に示す変形例では、ブロック6に、トレッド幅方向に沿って延びて周方向溝2に開口する二本の幅方向浅溝7、9と、これらの幅方向浅溝7、9のそれぞれに開口する周方向浅溝8とを設けている。ここで、浅溝9、7の一方の端部を、窪み部18、19のそれぞれの形成位置で、周溝2に開口させている。そして、図2〜6のそれぞれに示す変形例は、いずれも、上述の通り、ブロック6に、ブロック6に隣接する周溝2の溝深さより浅い平均溝深さを有する一本以上の浅溝を設け、浅溝の少なくとも一本を、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5の少なくとも一方に開口させるとともに、トレッド踏面1のネガティブ率を40%以上50%以下としたものである。
次に、この発明の空気入りタイヤを試作し、その性能を評価したので以下に説明する。タイヤサイズはいずれの供試タイヤも、27.00R49とした。実施例タイヤ1〜6は、それぞれ図1〜6に示すパターンを有するものとした。また、比較例タイヤは、図7に示すパターンを有するものとした。
これらの各供試タイヤにつき、ダンプトラックに装着するとともに、TRAに準拠する条件(内圧700kPa、荷重9.5トン、リム幅19.5インチ、フランジ幅4.0インチ)の下、同一条件のルートを走行させて、一定時間の経過後に車輌の進んだ距離(移動距離)を、GPSを用いて実測し、タイヤの回転数から算出される距離(回転距離)との比較によりスリップ率を算出した。このスリップ率は、下記の式により求めることができる。
スリップ率=(回転距離−移動距離)/移動距離
その結果を、各供試タイヤの諸元とともに表1に示す。なお、表1に示すスリップ性は、上記のスリップ率を、比較例タイヤを基準とする指数値で表したものであり、数値が小さいほどスリップが少なかったことを表す。
また、各供試タイヤを車両に装着して、車両を走行させた後、残溝深さから、溝が1mm摩耗する際の走行時間を求め、比較例タイヤの該走行時間を100として指数表示した。指数値が高いほど耐摩耗性に優れていることを示す。
表1に示す結果から明らかなように、実施例タイヤ1〜6は、いずれも、比較例タイヤに比して、耐摩耗性が大幅に悪化することなく、スリップ性が大きく低減されている。このことから、この発明の空気入りタイヤによれば、耐摩耗性を大幅に悪化させることなしに、泥はけ性を有効に向上できることが解かった。
1:トレッド踏面、 2:周溝、 3:ラグ溝、 4:ラグ、 5:横断溝、 6:ブロック、 6a〜6d:サブブロック、 7〜15、31、32:浅溝、 18、19:窪み部、 16、17、30:開口溝、 40:ブロックの外周縁のタイヤ赤道面を跨ぐ部分、 50:センター領域、 51:ショルダー領域、 C:タイヤ赤道面、 d:最も面積の小さなサブブロックの、トレッド周方向の最大長さ、 L1:タイヤ赤道面から、ブロックに隣接する周溝の溝幅中心線のトレッド幅方向最外位置までの距離、 TCR:ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲、 TW:トレッド幅、 TWR:トレッド幅方向全範囲
この発明は、トレッド踏面に、トレッド周方向に連続して延びる二本以上の周溝と、トレッド幅方向に互いに隣接する該周溝のそれぞれに開口する横断溝とで区画されるブロックを有する重荷重用空気入りタイヤに関するものである。
ダンプトラック等に用いられることのあるこの種の重荷重用タイヤとしては従来、たとえば特許文献1に記載されたものがあり、建設現場、鉱山その他で使用され得るこのダンプトラックは、降雨後に、固い地盤の上に数センチ程度の柔らかい粘土層が形成された泥濘地等の路面の走行に供されることがある。
上述したような粘土層が形成された路面上を走行するに際しては、車輌に装着されたタイヤは、トレッド部が粘土層に完全に埋没することはないものの、トレッド踏面に設けた周溝の溝深さの数十%程度が埋まった状態で負荷転動することになるが、この場合、トレッド踏面と固い地盤との間の、柔らかい粘土層の存在の故に、トラクションフォース及びブレーキングフォースを路面に効率良く伝達させることが困難となる。
とくに、固い地盤上に堆積したこのような粘土層の泥は、タイヤの負荷転動に際し、トレッド踏面に設けたブロックの、先に接地する踏込み側の部分から、その後に接地する蹴出し側の部分へと押し出されることになって、その蹴出し側の部分で路面との間に蓄積するので、かかる路面では、ブロックの蹴出し側の部分でのブロックエッジによる引掻き効果を十分に発揮させることができない結果として、ブレーキングフォースの入力時に車輌がスリップするという問題があった。そしてこのことは、たとえば、鉱山で使用されるダンプトラック等の走行速度の低下、ダンプトラック等による運搬作業の停滞を招いて、その作業能率を低下させるおそれがあった。
このことに対しては、トレッド踏面のエッジのトレッド幅方向成分を増やすことにより、柔らかい粘土層に対する大きな引掻き効果を発揮させることが有効とも考えられるが、単純に、トレッド踏面にトレッド幅方向に延びる溝を追加してブロックを分割することでエッジの幅方向成分を増加させても、接地面内のブロック表面と路面との間に残留する柔らかい粘土層の泥がタイヤをスリップさせるので、スリップ抑制効果を所期したほどに得ることができない。また、接地面内の粘土層の泥を効率的に押し流すべく、トレッド周方向に連続して延びる周溝の本数を増やした場合は、該周溝によりブロックが細分化されてブロック剛性が低下し、耐摩耗性能に悪影響を及ぼすという他の問題がある。
この発明は、泥濘地の走行に供されることのある重荷重用空気入りタイヤが抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を招くことなしに、接地面内の泥はけ性を有効に向上させ得る重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
この発明の重荷重用空気入りタイヤは、トレッド踏面に、トレッド周方向に連続して延びる二本以上の周溝と、トレッド幅方向に互いに隣接する周溝のそれぞれに開口する横断溝とで区画されるブロックを有し、ブロックに、ブロックに隣接する周溝の溝深さより浅い平均溝深さを有する一本以上の浅溝を設け、浅溝の少なくとも一本を、ブロックに隣接する周溝及び横断溝の少なくとも一方に開口させるとともに、トレッド踏面のネガティブ率を40%以上50%以下としたものである。この発明の重荷重用空気入りタイヤによれば、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を招くことなしに、接地面内の泥はけ性を有効に向上させることができる。
ここでいう「トレッド踏面」は、適用リムに組み付けるとともに規定内圧を充填したタイヤを、最大負荷能力に対応する負荷を加えた状態で転動させた際に、路面に接触することになる、タイヤの全周にわたる外周面を意味する。また、「トレッド端」は、前記トレッド踏面の、トレッド幅方向の最外位置をいう。なおここで、「適用リム」とは、タイヤサイズに応じて下記の規格に規定された標準リム(下記TRAのYEAR BOOKでは"Design Rim"と規定。下記ETRTOのSTANDARDS MANUALでは"Measuring Rim"と規定。)をいい、「規定内圧」とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「最大負荷能力」とは、下記の規格でタイヤに負荷されることが許容される最大の質量をいう。そして、その規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって決められたものであり、例えば、アメリカ合衆国では、"THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.(TRA)"の"YEAR BOOK"であり、欧州では、"The European Tyre and Rim Technical Organization(ETRTO)"の"STANDARDS MANUAL"であり、日本では、"日本自動車タイヤ協会(JATMA)"の"JATMA YEAR BOOK"である。
また、上記の「溝深さ」は、タイヤを適用リムに組み付けるとともに規定内圧を充填した無負荷状態で、トレッド踏面への溝開口位置から溝底位置までを、タイヤ半径方向と平行に測定するものとする。そして、浅溝の「平均溝深さ」とは、ブロックに設けた一本以上の浅溝の延在途中でそれの溝深さが異なる場合は、その浅溝の全長にわたる溝深さの平均値を意味する。
なお、この発明でいう「浅溝」は、トレッド接地面内で、対向する溝壁が互いに接触することなく、トレッド踏面に開口した状態となる程度の溝幅を有するものとする。ここで、「トレッド接地面」とは、タイヤを適応リムに組み付けて規定内圧を充填した状態の下で、最大負荷能力を負荷したときに路面に接触する、トレッド踏面の周方向の一部をいう。また、この発明でいう「トレッド踏面のネガティブ率」とは、トレッド踏面に設けられた溝の、トレッド踏面への開口位置での面積の総和の、上記溝の開口位置での面積を含んだトレッド踏面の面積に対する割合をいう。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、浅溝の少なくとも一本を、ブロックのトレッド周方向の両側に隣接する横断溝のそれぞれに開口させることが好ましい。これにより、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロックに、二本以上の浅溝を設け、二本以上の浅溝が、トレッド周方向に対して傾斜した方向に延びる幅方向浅溝と、幅方向浅溝よりもトレッド周方向に対する傾斜角度の小さな周方向浅溝とを含み、前記幅方向浅溝は、タイヤ赤道面を跨いでいるとともに、その端部が前記周方向浅溝に開口されており、前記周方向浅溝の両側の端部が、それぞれ、前記ブロックに隣接する前記周溝又は前記横断溝に開口されている。これにより、泥濘地に対する大きな引掻き効果を得つつ、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロック内で、浅溝と周溝及び横断溝の少なくとも一方とで区画され、又は、複数本の浅溝で区画されるサブブロックのうち、最も面積の小さなサブブロックの、トレッド周方向の最大長さをdとし、タイヤの外径をODとすると、d/OD>0.02の関係を満たすことが好ましい。これにより、サブブロックのブロックもげを、有効に防止することができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド幅をTWとし、タイヤ赤道面から、ブロックに隣接する周溝の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置までの距離をL1とすると、L1/TW>0.37の関係を満たすことが好ましい。これにより、ブロックの存在する範囲の最大幅を、車両の空車時での接地幅以上とすることができるので、空車時において、優れた耐スリップ性を得ることができる。ここで、「トレッド幅」とは、両側のトレッド端の間の、トレッド幅方向の距離をいう。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド幅をTWとし、トレッド踏面の、ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲かつトレッド幅方向全範囲にわたる単位踏面領域に存在する、陸部のエッジのトレッド周方向への総投影長さをEbとすると、Eb/TW≧2.1の関係を満たすことが好ましい。これにより、エッジのトレッド周方向成分を、トレッド踏面の全幅領域にわたって十分に確保することができる。ここで「陸部」とは、トレッド踏面の領域のうち、溝を除く部分をいう。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、浅溝のうち少なくとも一本の溝幅を、トレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させることが好ましい。これにより、当該溝幅が増大された浅溝内に取り込んだ泥を、効率的に周溝や横断溝に流すことができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド踏面に、トレッド端から延びて周溝に開口するラグ溝をさらに有し、ラグ溝の溝幅をトレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させることが好ましい。これにより、トレッド踏面のセンター領域で溝内に取り込んだ泥を、ショルダー領域のラグ溝を経て効率的にトレッド幅方向外側へ流出させることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロックに設けた浅溝のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向が、ブロックに隣接する周溝及び横断溝のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが好ましい。これにより、安定的に泥が溝内へ流れ込むようになることから、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。また、これと同様の観点から、ブロックに設けた浅溝の各々の溝幅中心線の延在方向が、ブロックに隣接する周溝及び横断溝のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが、さらに好ましい。
この発明の重荷重用空気入りタイヤでは、ブロックがタイヤ赤道面を跨いでおり、ブロックの外周縁が、そのタイヤ赤道面を跨ぐ部分で、ブロックの内側に向けて湾曲又は屈曲した凹形状をなしていることが好ましい。これにより、特に大きな接地圧が掛かるようなトレッド踏面のセンター領域で、エッジによる引掻き効果を最大限に発揮させることで、耐スリップ性を向上させることができる。
この発明の重荷重用空気入りタイヤにおいて、浅溝の少なくとも一本は、その一端が浅溝を除くブロック内で終端していてもよい。これにより、ブロックの剛性が過度に低下するのを抑制することができる。
なお、上述したようなネガティブ率、最も面積の小さなサブブロックのトレッド周方向の最大長さd、トレッド幅TW、タイヤ赤道面からブロックに隣接する周溝の溝幅中心線のトレッド幅方向最外位置までの距離L1、及び、単位踏面領域に存在する陸部のエッジのトレッド幅方向への総投影長さEbのそれぞれは、タイヤを適用リムに組み付けて規定内圧を充填した無負荷の状態で、トレッドパターンの展開図で見てトレッド踏面に沿って測定するものとする。また、他の寸法等についても、特に断りがない限り、これと同じ条件で測定するものとする。
この発明の重荷重用空気入りタイヤによれば、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を招くことなしに、接地面内の泥はけ性を有効に向上させ得る重荷重用空気入りタイヤを提供することができる。
この発明の一の実施形態を示す、トレッドパターンの部分展開図である。
この発明の一の実施形態の参考例(参考例タイヤ2)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態の他の参考例(参考例タイヤ3)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態のさらに他の参考例(参考例タイヤ4)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態のさらに他の参考例(参考例タイヤ5)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
この発明の一の実施形態のさらに他の参考例(参考例タイヤ6)のトレッドパターンを示す部分展開図である。
比較例タイヤのトレッドパターンを示す部分展開図である。
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について例示説明する。図1に示すところにおいて、1は、この発明の一の実施形態の重荷重用空気入りタイヤが具えるトレッド踏面を示す。本実施形態では、トレッド踏面1に、例えば図の例のようにジグザグ状の形態で、トレッド周方向に連続して延びる二本以上(図の例では二本)の周溝2を設けている。さらにトレッド踏面1には、例えば図の例のように周溝2のトレッド幅方向内側に突出する折れ曲がり箇所等で、トレッド幅方向に互いに隣接する周溝2のそれぞれに開口する横断溝5を設けている。そして、これら周溝2及び横断溝5により、複数個のブロック6を区画している。
各ブロック6には、該ブロック6に隣接する周溝2の溝深さより浅い平均溝深さを有する一本以上(図の例では五本)の浅溝7〜9、31、32を設ける。そして、それらの浅溝7〜9、31、32の少なくとも一本(図の例では浅溝7、8、31、32)を、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5の少なくとも一方に開口させる。このことによれば、固い地盤の上に柔らかい粘土層が形成された路面の走行に際して、ブロック6上に存在する粘土層の泥が、ブロック6に設けた浅溝7〜9、31、32内に取り込まれるとともに、浅溝7、8、31、32がそれぞれ開口する周溝2及び横断溝5に流されるので、トレッド踏面1の泥はけ性を効果的に向上させることができる。さらに、ブロック表面の蹴出し側部分(図の例では、タイヤの回転方向は図の上下方向のいずれの方向でもよいので、各ブロックのトレッド周方向いずれの側も蹴出し側部分となり得る。)に泥が残留しないので、その蹴出し側部分でのエッジ効果を十分に発揮させて、路面にトラクションフォース及びブレーキングフォースを有効に伝達させることができる。
このとき、図の例のように、浅溝7〜9、31、32の少なくとも一本(図の例では浅溝7及び8)を、ブロック6のトレッド周方向の両側に隣接する横断溝5のそれぞれに開口させることが好ましい。これによれば、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
ここにおいて、トレッド踏面1で蹴出し側部分に押し出される泥の量は、トレッド踏面1の表面積が大きくなるほど多くなり、また、トレッド踏面1に設けた溝に取り込むことのできる泥の量は、総溝面積と溝深さが大きくなるほど多くなる。このことに鑑みて、本実施の形態では、トレッド踏面1のネガティブ率を40%以上50%以下としている。トレッド踏面1のネガティブ率を50%以下、より好ましくは45%以下とすることにより、耐摩耗性能の悪化をもたらすブロック剛性の大幅な低下を抑制することができる。一方、トレッド踏面1のネガティブ率を40%以上、より好ましくは44%以上とすることにより、接地面内の泥はけ性を有効に向上させることができる。
またここで、ブロック6に二本以上(図の例では五本)の浅溝7〜9、31、32を設け、二本以上の浅溝7〜9、31、32が、少なくとも一部分(図の例では全部)でトレッド周方向に対して傾斜した方向に延びる幅方向浅溝9と、少なくとも一部分(図の例では一部分、又は全部)で幅方向浅溝9よりもトレッド周方向に対する傾斜角度の小さな周方向浅溝7、8、31、32とを含み、幅方向浅溝9及び周方向浅溝7、8を互いに連通させることが好ましい。なお、この「互いに連通させる」とは、図の例のように、幅方向浅溝9の端部を周方向浅溝7、8に開口させる場合に限られず、周方向浅溝の端部を幅方向浅溝に開口させる場合や、幅方向浅溝及び周方向浅溝を互いに交差させる場合をも含む。ブロック6に幅方向浅溝9と周方向浅溝7、8、31、32とを設けることにより、幅方向浅溝9により増加するエッジのトレッド幅方向成分をもって、泥濘地に対する大きな引掻き効果を得つつ、周方向浅溝7、8、31、32による泥はけ性の向上効果を発揮させることができるので、泥濘地における走行性能をより有効に高めることができる。また、幅方向浅溝9及び周方向浅溝7、8を互いに連通させることにより、これら浅溝7〜9内に取り込まれた粘性の低い粘土層の泥が、浅溝7〜9内を自由に流動して、蹴出し側の部分に蓄積されることなく流れることになるので、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。
ここで、ブロック6内で、浅溝7〜9と周溝2及び横断溝5の少なくとも一方とで区画され、又は、複数本の浅溝7〜9で区画されるサブブロック6a〜6dのうち、最も面積の小さなサブブロック6b、6cの、トレッド周方向の最大長さをdとし、タイヤの外径をODとすると、d/OD>0.02の関係を満たすことが好ましい。これにより、ブロック6内の最も面積の小さなサブブロック6b、6cの、トレッド周方向の最大長さdが過度に短くなることにより生じ易くなるブロックもげを、有効に防止することができる。
また、トレッド幅をTWとし、タイヤ赤道面Cから、ブロック6に隣接する周溝2の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置Pまでの距離をL1とすると、L1/TW>0.37の関係を満たすことが好ましい。これにより、ブロック6の存在する範囲の最大幅を、車両の空車時での接地幅以上とすることができるので、特に車両の積車時に比べてスリップし易くなる空車時において、トレッド接地面内でのブロック6のエッジのトレッド幅方向成分を十分に確保して、優れた耐スリップ性を得ることができる。ここで、トレッド踏面1に周溝2が三本以上設けられている場合、「ブロック6に隣接する周溝2の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置P」とは、ブロック6に隣接する周溝2のうちトレッド幅方向に最も外側に位置する周溝2の溝幅中心線の、トレッド幅方向最外位置をいうものとする。また、「ブロック6の存在する範囲」とは、図の例のようにトレッド踏面1内に複数のブロック6をトレッド周方向に配置してなるブロック列が1列のみ存在する場合は、そのブロック列の存在するトレッド幅方向範囲をいい、トレッド踏面1にこのようなブロック列が複数列存在する場合は、これら複数のブロック列のうちトレッド幅方向に最も外側に位置する2列のブロック列により規定されるトレッド幅方向範囲をいう。
一方、トレッド踏面1の、ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲TCRかつトレッド幅方向全範囲TWRにわたる単位踏面領域(図1の長方形ABCD内の領域)に存在する、陸部のエッジのトレッド周方向への総投影長さをEbとすると、Eb/TW≧2.1の関係を満たすことが好ましい。これにより、エッジのトレッド周方向成分を、トレッド踏面1のセンター領域50だけでなくショルダー領域51をも含む全幅領域にわたって十分に確保することができるので、負荷転動時での泥濘地に対する引掻き効果をさらに向上させることができる。ここで、「ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲TCR」とは、ブロック6のトレッド周方向の最も踏み込み側(蹴出し側)にある位置Q1から、当該ブロック6にトレッド周方向に隣接する他のブロック6のトレッド周方向の最も踏み込み側(蹴出し側)にある位置Q2までの、周方向範囲をいう。また、「単位踏面領域に存在する、陸部のエッジのトレッド周方向への総投影長さEb」とは、単位踏面領域に存在する任意の向きに延びるエッジの、トレッド周方向に沿う向きの成分の長さを総計した長さをいう。
また、図の例のように、トレッド踏面1に、トレッド端から延びて周溝2に開口するラグ溝3をさらに有し、ラグ溝3の溝幅をトレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させることが好ましい。これにより、トレッド踏面1のセンター領域50で溝内に取り込んだ泥を、ショルダー領域51のラグ溝3を経て効率的にトレッド幅方向外側へ流出させることができる。
なお、図示はしないが、ブロック6に設けられた浅溝7〜9、31、32のうち少なくとも一本の溝幅を、トレッド幅方向外側に向かうにつれて徐々に増大させるようにしてもよい。これにより、当該溝幅が増大された浅溝内に取り込んだ泥を、効率的に周溝2や横断溝5に流すことができる。
なお、図1に示すパターンでは、トレッド踏面1に、周溝2よりトレッド幅方向の外側では、トレッド周方向に互いに隣接するラグ溝3間に、陸部としてのラグ4を区画している。また、ラグ4に、周溝2よりも浅い溝深さで、トレッド端からトレッド幅方向に向けて湾曲して延びて周溝2に開口する開口溝30を設けている。
ここで、ブロック6に設けた浅溝7〜9、31、32のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向が、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが好ましい。これにより、安定的に泥が溝内へ流れ込むようになることから、接地面内での泥はけ性を一層高めることができる。また、これと同様の観点から、図の例のように、ブロック6に設けた浅溝7〜9、31、32の各々、即ち、すべての浅溝7〜9、31、32の溝幅中心線の延在方向が、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5のうち少なくとも一本の溝幅中心線の延在方向と平行であることが、さらに好ましい。
ここにおいて、ブロック6がタイヤ赤道面Cを跨いでおり、ブロック6の外周縁が、そのタイヤ赤道面Cを跨ぐ部分40で、ブロック6の内側に向けて湾曲又は屈曲(図の例では屈曲)した凹形状をなしていることが好ましい。これにより、特に大きな接地圧が掛かるようなトレッド踏面1のセンター領域50で、エッジによる引掻き効果を最大限に発揮させることで、トレッド踏面1を固い地盤に接地させ易くして、耐スリップ性を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、浅溝7〜9、31、32の少なくとも一本(図では浅溝31、32)が、その一端が浅溝を除くブロック6内(すなわちブロック6の陸部内)で終端している。これにより、浅溝を設けたことによりブロック6の剛性が過度に低下するのを抑制することができる。
以上、本発明を、その一実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はこの実施形態に限られず、様々な変形例をも包含する。なお、図2に示す参考例では、ブロック6に、タイヤ赤道面C上でトレッド周方向に沿って延びて、横断溝5に開口する一本の周方向浅溝10を設けるとともに、周溝2の、トレッド幅方向内側に突出する折れ曲がり箇所で、ブロック6の外周縁から内側に窪ませた二箇所の窪み部18、19を設けている。さらには、ラグ4に、トレッド端からトレッド周方向に沿って延びるとともにラグ溝3に開口する開口溝17を設けている。図3に示す参考例では、ブロック6に、トレッド幅方向に沿って延びて、周溝2に、そのトレッド幅方向外側に突出する折れ曲がり箇所で開口する一本の幅方向浅溝15を設けている。また、ラグ4に、トレッド端からトレッド幅方向に沿って延びるとともに周溝2に開口する開口溝17を設けている。図4に示す参考例では、ブロック6に、トレッド周方向に対して傾斜する向きに延びて、周溝2に開口する一本の幅方向浅溝14を設けている。また、ラグ4に、トレッド端からトレッド幅方向に対して傾斜する方向に延びるとともに周溝2に開口する開口溝16を設けている。図5に示す参考例では、図示の平面視で平行四辺形状をなすブロック6の略対角線上に延びて、横断溝5に開口する周方向浅溝11を設けており、この周方向浅溝11のトレッド幅方向の両側のそれぞれに、該周方向浅溝11よりもトレッド周方向に対して僅かに大きく傾斜して周方向溝2に開口する二本の幅方向浅溝12、13を設けている。ここで、浅溝12、13の一方の端部を、窪み部18、19のそれぞれの形成位置で、周溝2に開口させている。図6に示す参考例では、ブロック6に、トレッド幅方向に沿って延びて周方向溝2に開口する二本の幅方向浅溝7、9と、これらの幅方向浅溝7、9のそれぞれに開口する周方向浅溝8とを設けている。ここで、浅溝9、7の一方の端部を、窪み部18、19のそれぞれの形成位置で、周溝2に開口させている。そして、図2〜6のそれぞれに示す参考例は、いずれも、上述の通り、ブロック6に、ブロック6に隣接する周溝2の溝深さより浅い平均溝深さを有する一本以上の浅溝を設け、浅溝の少なくとも一本を、ブロック6に隣接する周溝2及び横断溝5の少なくとも一方に開口させるとともに、トレッド踏面1のネガティブ率を40%以上50%以下としたものである。
次に、この発明の空気入りタイヤを試作し、その性能を評価したので以下に説明する。タイヤサイズはいずれの供試タイヤも、27.00R49とした。実施例タイヤ1及び参考例タイヤ2〜6は、それぞれ図1〜6に示すパターンを有するものとした。また、比較例タイヤは、図7に示すパターンを有するものとした。
これらの各供試タイヤにつき、ダンプトラックに装着するとともに、TRAに準拠する条件(内圧700kPa、荷重9.5トン、リム幅19.5インチ、フランジ幅4.0インチ)の下、同一条件のルートを走行させて、一定時間の経過後に車輌の進んだ距離(移動距離)を、GPSを用いて実測し、タイヤの回転数から算出される距離(回転距離)との比較によりスリップ率を算出した。このスリップ率は、下記の式により求めることができる。
スリップ率=(回転距離−移動距離)/移動距離
その結果を、各供試タイヤの諸元とともに表1に示す。なお、表1に示すスリップ性は、上記のスリップ率を、比較例タイヤを基準とする指数値で表したものであり、数値が小さいほどスリップが少なかったことを表す。
また、各供試タイヤを車両に装着して、車両を走行させた後、残溝深さから、溝が1mm摩耗する際の走行時間を求め、比較例タイヤの該走行時間を100として指数表示した。指数値が高いほど耐摩耗性に優れていることを示す。
表1に示す結果から明らかなように、実施例タイヤ1は、比較例タイヤに比して、耐摩耗性が大幅に悪化することなく、スリップ性が大きく低減されている。このことから、この発明の空気入りタイヤによれば、耐摩耗性を大幅に悪化させることなしに、泥はけ性を有効に向上できることが解かった。
1:トレッド踏面、 2:周溝、 3:ラグ溝、 4:ラグ、 5:横断溝、 6:ブロック、 6a〜6d:サブブロック、 7〜15、31、32:浅溝、 18、19:窪み部、 16、17、30:開口溝、 40:ブロックの外周縁のタイヤ赤道面を跨ぐ部分、 50:センター領域、 51:ショルダー領域、 C:タイヤ赤道面、 d:最も面積の小さなサブブロックの、トレッド周方向の最大長さ、 L1:タイヤ赤道面から、ブロックに隣接する周溝の溝幅中心線のトレッド幅方向最外位置までの距離、 TCR:ブロック1ピッチあたりのトレッド周方向範囲、 TW:トレッド幅、 TWR:トレッド幅方向全範囲