JP2014189831A - 銅合金 - Google Patents

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Abstract

【課題】強度、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れた銅合金を提供する。
【解決手段】Crを0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、Tiを0.010〜0.30%、Siを0.01〜0.10%含有し、含有される前記Cr量と前記Ti量の質量比を1.0≦(Cr/Ti)≦30、含有される前記Cr量と前記Si量の質量比を3.0≦(Cr/Si)≦30、かつ、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であり、前記銅合金の幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したときに、平均結晶粒径が0.1μm以上1μm以下、結晶粒径の変動係数が1.5以下であることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、銅合金に関し、詳細には電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチ、配線、端子などに用いられる各種電気・電子部品用材料として好適な銅合金に関する。
近年、電子機器の小型化、及び軽量化の要請に伴い、電気・電子部品の電気系統の複雑化、高集積化が進んでいる。各種電気・電子部品用材料には、薄肉化や複雑な形状の加工に耐え得る特性が求められている。
例えば、電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの通電部品に使用される電気・電子部品用材料は、小型化及び薄肉化によって同一の荷重を受ける材料の断面積が小さくなる。そのため、通電量に対する材料の断面積も小さくなることから、電気・電子部品用材料には、通電によるジュール熱の発生を抑制するために良好な導電性が要求される。更に、電気・電子部品用材料には、電気・電子機器の組立時や作動時に付与される応力に耐え得る高い強度や、電気・電子部品を曲げ加工しても、破断等が生じない曲げ加工性も要求される。
電気・電子部品用材料としてCu−Fe−P合金が汎用されているが、高強度化を図るためにSnなどの合金成分を添加すると、導電性が低下して強度と導電性のバランス(強度−導電性バランス)を図ることが難しかった。
また、高強度材料として析出硬化型の合金(Cu−Ni−Si合金)が提案されているが、導電性を高めるためにNiやSiの含有量を低減させると、引張強度が低下して強度−導電性バランスを図ることが難しかった。
このような従来のCu−Fe−P合金やCu−Ni−Si合金よりも強度−導電性バランスに優れた材料として、Cu−Cr系合金が提案されている(特許文献1)。また、強度と導電性に優れた銅合金として、Cu―Cr−Ti−Zr合金が提案されている(特許文献2)。また、高強度、高導電性を有し、曲げ加工性を向上させた銅合金として、Cu−Cr−Ti−Si合金が提案されている(特許文献3)。
特開2005−29857号公報 特許第3731600号公報 特許第2515127号公報
しかしながら、特許文献1に記載されているCu−Cr系合金には、熱間圧延時に粗大な晶出物が生成してしまい、高強度化と高導電性化のいずれにも限界があった。また、特許文献2に記載されているCu―Cr−Ti−Zr合金には、強度と導電性を向上できるものの、曲げ加工性については不十分であった。特許文献3に記載されているCu−Cr−Ti−Si合金には、曲げ加工性を向上できるものの、後記するように従来よりも厳しい条件の曲げ加工を加えると、割れが生じるなどの問題があった。
近年の電気、電子機器の軽量・小型化などに伴って、電気・電子部品用材料に対して今まで以上に複雑な加工が行われるようになってきた。例えば、電気・電子部品用材料に対して、より一層薄肉化した材料を曲げ加工したり、配線を微細幅にノッチング(切欠き加工)した後に曲げ加工が施されたりするなどの加工が行われるようになってきている。
そのため、電気・電子部品用材料は、強度向上だけでなく、曲げ加工性に対する要求も一段と高いものとなってきている。よって、導電性、強度、曲げ加工性の個々の特性が良好なだけでなく、所定以上の高強度下においても導電性及び曲げ加工性の夫々が高められたもの、すなわち強度−導電性バランスだけでなく、特に強度−曲げ加工性バランスにも優れた材料が求められている。
本発明は前記事情に着目してなされたものであって、その目的は、強度(引張強さと0.2%耐力を指す、以下同じ)、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れた銅合金を提供することにある。
本発明者らは、強度と導電性のバランスに優れるとともに、特に高強度を維持しつつ、W曲げ加工(R/t=0.5)のような厳しい加工条件でも割れが発生することがない、強度−曲げ加工性のバランス向上のための条件について鋭意検討を重ねた。その結果、Cr−Ti−Si系銅合金において、化学組成を制御するとともに、平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数を制御することによって、強度−導電性バランスを維持しつつ、強度−曲げ加工性バランスをより一層向上できることを見出し、前記課題を解決することのできる本発明を完成するに至った。
前記課題を解決した本発明に係る銅合金は、Crを0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、Tiを0.010〜0.30%、Siを0.01〜0.10%含有し、含有される前記Cr量と前記Ti量の質量比を1.0≦(Cr/Ti)≦30、含有される前記Cr量と前記Si量の質量比を3.0≦(Cr/Si)≦30、かつ、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であり、前記銅合金の幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したときに、平均結晶粒径が0.1μm以上1μm以下、結晶粒径の変動係数が1.5以下であることを特徴とする。
このように本発明では、高強度、高導電性を有するCu−Cr−Ti−Si合金の化学組成を所定の条件に制御するとともに、平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数をそれぞれ所定の条件に制御した。つまり、結晶粒を小さくするとともに、結晶粒径のばらつきも小さくした。これにより、本発明に係る銅合金は、高強度と高導電性であるだけでなく、厳しい曲げ加工が可能になるほど曲げ加工性を向上させることができる。その結果、強度、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れたものとすることができる。
本発明では、更に、他の元素として、Fe、Ni、及びCoよりなる群から選択される一種以上を合計で0.3%以下含有するのが好ましい。
このようにすると、銅合金の強度及び導電性を向上させることができる。
本発明では、更に、他の元素として、Znを0.5%以下含有するのが好ましい。
このようにすると、電気部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制することができる。
本発明では、更に、他の元素として、Sn、Mg、及びAlよりなる群から選択される一種以上を合計で0.3%以下含有するのが好ましい。
このようにすると、銅合金の強度を向上させることができる。
本発明に係る銅合金は、強度(引張強さと0.2%耐力を指す、以下同じ)、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れている。
好ましい評価が得られたNo.1の結晶粒径の分布状態を示す図である。図中、横軸は結晶粒径(μm)を示し、縦軸は結晶粒の個数の割合を示す。 好ましくない評価となったNo.21の結晶粒径の分布状態を示す図である。図中、横軸は結晶粒径(μm)を示し、縦軸は結晶粒の個数の割合を示す。
以下、本発明に係る銅合金を実施するための形態(実施形態)について説明する。
本実施形態に係る銅合金は、Crを0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、Tiを0.010〜0.30%、Siを0.01〜0.10%含有し、含有される前記Cr量と前記Ti量の質量比を1.0≦(Cr/Ti)≦30、含有される前記Cr量と前記Si量の質量比を3.0≦(Cr/Si)≦30、かつ、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であり、前記銅合金の幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したときに、平均結晶粒径が0.1μm以上1μm以下、結晶粒径の変動係数が1.5以下としている。本実施形態に係る銅合金の好ましい形態は、後記するように、熱間圧延、冷間圧延及び時効を経て製造された板材である。
(化学組成)
はじめに、本発明の銅合金の化学組成について説明する。
本発明に係る銅合金が前記所望の効果を得るためには、銅合金の化学組成を適切に制御することが重要である。
(Cr:0.10〜0.50%)
Crは、単体の金属Cr又はSiとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する。Cr含有量が0.10%を下回ると、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、粗大な晶出物が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼすことがある。したがって、Cr含有量は0.10%以上、好ましくは0.2%以上であって、0.50%以下、好ましくは0.40%以下である。
(Ti:0.010〜0.30%)
Tiは、Siとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する。また、Tiは、CrやSiの固溶限を低下させ、これらの析出を促進させる効果がある。Ti含有量が0.010%を下回ると、十分な量の析出物を形成できないため、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、粗大な晶出物が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼす。したがって、Ti含有量は0.010%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.30%以下、好ましくは0.15%以下である。
(Si:0.01〜0.10%)
Siは、CrやTiとの化合物を析出させて銅合金の強度向上に寄与する。Si含有量が0.01%を下回ると、析出物の形成が不十分となり、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Si含有量が0.10%を超えると、導電性が悪くなったり、曲げ加工性に悪影響を及ぼしたりすることがある。したがって、Si含有量は0.01%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.10%以下、好ましくは0.08%以下とする。
本発明においては、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく一層向上させるために、添加元素(Cr、Ti、Si)の含有比率を以下の範囲内となるように調整する。
(Cr/Ti(質量比、以下同じ):1.0〜30)
銅合金に含まれるCrとTiの質量比(Cr/Ti)のバランスは強度と導電性に影響する。すなわち、Cr/Tiが小さい方が高い強度が得られる。したがって、Cr/Tiは30以下、好ましくは15以下となるように調整することが好ましい。また、Cr/Tiが1.0よりも小さいと時効処理後の銅合金中のTi固溶量が多くなりすぎ、導電性が低下する。したがって、Cr/Tiは1.0以上、好ましくは3.0以上となるように調整することが好ましい。
(Cr/Si(質量比、以下同じ):3.0〜30)
銅合金に含まれるCrとSiの質量比(Cr/Si)のバランスは曲げ加工性と導電性に影響する。すなわち、Cr/Siが大きくなりすぎると、導電性が低下する。したがって、Cr/Siは30以下、好ましくは20以下となるように調整することが好ましい。また、Cr/Siが3.0よりも小さいと、強度−曲げ加工性バランスに悪影響を及ぼす。更に、他の元素の固溶量が増加して導電性が悪化することがある。したがって、Cr/Siは3.0以上、好ましくは10以上となるように調整することが好ましい。
本発明は前記した化学組成、Cr/Ti、及びCr/Siを満足し、残部は銅、及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えば、V、Nb、Mo、Wなどの元素が挙げられる。不可避的不純物の含有量が多くなると強度、導電性、曲げ加工性などを低下させることがあるため、総量で、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下とすることが好ましい。
なお、本発明に係る銅合金は、更に、他の元素として、以下の元素をそれぞれに規定する含有量で含有していてもよい。
(Fe、Ni、及びCoよりなる群から選択される一種以上:合計で0.3%以下)
ここで、Fe、Ni、Coは、これらを単独で含むときは単独の含有量であり、複数を含む場合は合計量である。
Fe、Ni、Coは、Siとの化合物を析出させて銅合金の強度及び導電性を向上させる作用を有する。これらの元素の含有量(又は合計量)が多くなりすぎると固溶量が多くなって導電性が悪化する。そのため、これらの元素の含有量(又は合計量)は、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。一方、これらの元素の含有量(又は合計量)が少なすぎると、前記した強度及び導電性を向上させる効果が十分に得られない。そのため、これらの元素の含有量(又は合計量)は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上である。
(Zn:0.5%以下)
Znは、電気部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制する効果を有する。このような効果を有効に発揮させるためには、Znを0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰に含有させると、かえって溶融Snやはんだの濡れ広がり性が劣化し、また導電性が悪化することから、好ましくは0.5%以下である。
(Sn、Mg、及びAlよりなる群から選択される一種以上:合計で0.3%以下)
ここで、Sn、Mg、Alは、これらを単独で含むときは単独の含有量であり、複数含む場合は合計量である。
Sn、Mg、Alは、固溶することによって銅合金の強度を向上させる効果を有する。このような効果を十分に発揮させるためには、これらの元素の含有量(又は合計量)で0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。一方、これらの元素を過剰に含有させると導電性が得られなくなることから、これらの元素の含有量(又は合計量)は、好ましくは0.3%以下である。
そして、本実施形態に係る銅合金は、平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数に最大の特徴がある。
(平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数)
本発明は、強度−導電性のバランスに優れたCu−Cr−Ti−Si合金について、結晶粒径のばらつきを小さくさせることにより、厳しい曲げ加工を可能にしたものである。
一般的に、銅合金においては、平均結晶粒径が小さいほど、曲げ加工性が向上することが知られている。しかしながら、これは銅合金を高温で熱処理し、再結晶した結晶粒に関する知見である。再結晶組織では、強度が低下してしまう。
一方で、熱処理温度を低くし、加工組織を残すと、強度は向上するが、曲げ加工性が低下してしまう。
そこで、本発明者らは製造条件から検討を行い、強度−導電性バランスを維持しつつ、曲げ加工性を向上させた銅合金について研究を重ねた。その結果、加工組織のままであっても、結晶粒径を小さくすれば、曲げ加工性が向上するという知見を得た。
更に、結晶粒径の変動係数を小さくすることで、大幅に曲げ加工性が向上する知見を得た。
本発明に係る銅合金の平均結晶粒径は、銅合金の幅方向に垂直な面の表面、より具体的には、銅合金の板表面に対して直角かつ圧延方向に沿った垂直面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したときに、0.1μm以上1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下である。
かかる平均結晶粒径が1.0μm超となると、曲げ変形時に局所的にひずみが集中してしまい、曲げ加工性が不十分となる。したがって、結晶粒の長軸の平均長さは1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下である。平均結晶粒径の下限は特に限定されないが、実現可能な範囲として0.1μm以上とする。
本発明では平均結晶粒径を前記範囲内とするとともに、更に結晶粒径の変動係数を適切に制御することによって、強度−曲げ加工性のバランスを一層向上させている。平均結晶粒径が上記範囲内であっても、結晶粒径の変動係数が1.5超であると、粗大な結晶粒が存在し、曲げ変形時に粗大な結晶粒に局所的にひずみが集中してしまうため、十分な曲げ加工性が得られない。したがって、結晶粒径の変動係数は1.5以下、好ましくは1.2以下とする。下限は特に制限されない。
前記した平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数は、FESEM−EBSP法によって測定し、算出することができる。具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)に後方散乱電子回折像(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)システムを搭載した結晶方位回折法を用いて測定する。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした試料に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、個々の結晶粒径を算出し、その平均(平均結晶粒径)と結晶粒径の標準偏差を算出する。ここで、結晶粒径の変動係数とは、結晶粒径の標準偏差を平均結晶粒径で割った値である。変動係数が大きいと結晶粒径のばらつきが大きく、変動係数が小さいと結晶粒径のばらつきが小さいことを意味する。
前記したように本発明では、銅合金の幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定する。測定を行うにあたって、測定視野(測定位置、測定サイズ)は、測定面の板厚中心付近の厚み方向10μm×圧延方向に30μmの範囲を測定視野とし、測定ステップ間隔を0.05μmとして任意の5箇所を測定し、前記したようにコンピュータにより結晶粒径の平均値と結晶粒径の標準偏差を算出するのが好ましい。
以上に説明した本発明に係る銅合金は、化学組成を所定の条件に制御するとともに、平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数をそれぞれ所定の条件に制御した(なお、平均結晶粒径と結晶粒径の制御は、後記する製造方法により行うことができる。)ので、強度、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れている。
具体的には、本発明に係る銅合金は、引張強さ500MPa以上、0.2%耐力475MPa以上の高強度、導電率70%IACS以上の高導電性を有するとともに、W曲げ加工した際に、R(曲げ半径)/t(板厚)=0.5のときに、日本伸銅協会技術標準JBMA−T307:2007年に記載の「しわ」「割れ」の最大幅(μm)の評価基準に準拠した9段階の評価において、C評価よりもより優れた曲げ加工性を有する。
本発明に係る銅合金は、0.1〜1.0mm程度の厚み(t)を有する電気・電子部品用材料として好適である。
(製造方法及び製造条件)
次に、本発明に係る銅合金の好ましい製造方法及び製造条件について説明する。
本発明に係る銅合金の製造方法の主な工程は、一般的な銅合金の製造方法と同じく、熱間圧延、冷間圧延と時効からなる。平均結晶粒径を小さくし、結晶粒径の変動係数を小さくするために、冷間圧延率を大きくし、冷間圧延の後期のパスの圧下率を大きくすることが好ましい。
銅合金の溶解、鋳造、その後の加熱処理は通常の方法によって行うことができる。例えば、前記した化学組成に調整した銅合金を電気炉で溶解した後、連続鋳造などにより銅合金鋳塊を鋳造する。その後、鋳塊をおおむね800〜1000℃程度に加熱し、必要に応じて一定時間保持(例えば10〜120分)する。
本発明では、熱間圧延の圧下率は特に限定されず、目的とする板厚、及び後記する冷間圧延率との関係で決定すればよい。なお、熱間圧延は1回、又は複数回行うことができる。
熱間圧延後は室温まで急冷することが好ましい。熱間圧延後の冷却速度が小さいと、冷却中に粗大な析出物ができてしまい、曲げ加工性と強度に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、熱間圧延後の平均冷却速度は、空冷を超える速度とし、好ましくは50℃/秒以上とすることが好ましい。冷却速度の上限は特に限定されない。急冷手段としては、例えば水冷が挙げられる。
本発明では、熱間圧延後に冷間圧延を施すことが好ましい。この場合、結晶粒を微細にするために、冷間圧延の合計の圧下率を99.5%以上にする必要がある。合計の冷間圧延率が小さいと、平均結晶粒径が大きくなるおそれがある。
また、冷間圧延は、一般的に、複数回のパスによって行われることが多いが、結晶粒径の変動係数を小さくするため、後期の冷間圧延の1パスの圧下率を50%以上にする必要がある。以下では、50%以上の圧延を高圧下圧延と記述する。高圧下圧延の回数は1回以上とするのが好ましい。高圧下圧延の回数が多いほど結晶粒径の変動係数を小さくすることができる。高圧下圧延を行わないと、結晶粒が分断されず、粗大な結晶粒が残ってしまうことがある。
冷間圧延後は時効処理を行うことが好ましい。時効処理を適切に行うことによって、前記した所定の微細な結晶粒を確保して銅合金の強度、導電性、及び曲げ加工性を向上させることができる。
時効処理は、350℃〜650℃の温度にて30分〜10時間程度行い、時効後は水冷又は放冷により冷却することが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
銅合金をクリプトル炉において、大気中、木炭被覆下で溶解し、鋳鉄製ブックモールドに鋳造し、表1に記載する化学組成(残部銅及び不可避的不純物)を有する厚さ(=t)200mmtの鋳塊を得た。
その後、加熱して950℃に到達後、1時間保持し、熱間圧延して160mmtの板(No.1、8〜10、12,13,15、21)、128mmtの板(No.2〜7、11、14、16〜19、23〜30)、20mmtの板(No.20、22)又は9mmtの板(No.31)とし、熱間圧延終了後、750℃以上の温度から室温まで水冷(平均冷却速度:100℃/s)した。
次いで、酸化スケールを除去した後、冷間圧延を行った。なお、冷間圧延は所定の圧下率まで複数回行うとともに(表1中の「製造条件」参照)、冷間圧延の後期のパスは高圧下圧延とした。最終的に冷延後の厚さが0.64mmtの銅合金板を得た。その後、バッチ焼鈍炉にて、450℃にて2時間の時効処理を行った。なお、No.31は特許文献3に記載されている条件を満たす再現品である。
得られた銅合金板(最終板)から試料(試験片)を切り出し、結晶粒の測定、引張強度、0.2%耐力、導電性、及び曲げ加工性を下記要領で確認した。これらの結果を表2に示す。
(平均結晶粒径、結晶粒径の変動係数)
平均結晶粒径及び結晶粒径の変動係数は、FESEM−EBSP法により測定して求めた。かかる測定では、試料の幅方向に垂直な面の表面(つまり、試料の板表面に対して直角かつ圧延方向に沿った垂直面)の金属組織を観察するため、試料を樹脂埋めし、試料幅方向に垂直な面を機械研磨した後、更に、バフ研磨と電解研磨を順次行い、試料を調製した。
その後、研磨した面を対象に、電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製FESEM:JEOL JSM 5410)を用いてEBSPによる結晶粒の測定を行った。測定領域は板厚方向に10μm×圧延方向に30μm(測定サイズ)とした。測定は、測定ステップ間隔を0.05μmとして任意の5箇所について行った。
EBSP測定・解析システムは、EBSP:TSL社製(OIM)を用いた。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした試料に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影し、これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込んだ。コンピュータでは、この画像を解析して、個々の結晶粒径を算出し、平均結晶粒径(μm)と標準偏差を算出し、結晶粒径の変動係数を算出した。
(引張強度及び0.2%耐力)
引張強度と0.2%耐力は、圧延方向に平行に切り出した試験片(サイズ:JIS5号)を作製し、5882型インストロン社製万能試験機により、室温にて、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で測定した。本発明では引張強度500MPa以上、且つ0.2%耐力475MPa以上を強度に優れていると評価した。
(導電性)
導電性は、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。本発明では導電率70%(IACS)以上を導電性に優れていると評価した。
(曲げ加工性)
曲げ加工性の試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。つまり、板材を幅10mm×長さ30mmに切り出した試料を用いてW曲げ試験を行った。本発明では曲げ半径Rと、銅合金板の板厚tとの比(R/t)が、0.5となるように曲げ加工を実施した。W曲げ加工を行いながら、曲げ部における割れの有無を10倍の光学顕微鏡で観察した。割れの評価は日本伸銅協会技術標準(JBMA−T307:2007年)に準拠して評価した。なお、伸銅協会技術標準では評価が5段階であるが、本発明では詳細に曲げ加工性を評価するために、「しわ」「われ」の最大幅をA(10μm以下)、A〜B(10μm超〜15μm以下)、B(15μm超〜20μm以下)、B〜C(20μm超〜25μm以下)、C(25μm超〜30μm以下)、C〜D(30μm超〜35μm以下)、D(35μm超〜40μm以下)、D〜E(40μm超〜45μm以下)、E(45μm超)の9段階で評価し、本発明ではC評価以上を曲げ加工性に優れていると評価した。これらの結果を表2に示す。
Figure 2014189831
Figure 2014189831
No.1〜19に係る試料(以下では、単に試料ナンバーのみ(例えば、「No.1」など)で記述する。)は、本発明の規定を満足する化学組成、及び金属組織の例である。これらはいずれも十分な導電率を有するとともに、強度(引張強度、0.2%耐力)と曲げ加工性のバランスにも優れていた。
これに対し、No.20〜31は、本発明で規定する化学組成や金属組織を満足せず、所望の特性が得られなかった例である。具体的には以下のようになった。
No.20は、合計の冷間圧延率が低く、また、後期の冷間圧延率も低いため、平均結晶粒径と変動係数を所定の範囲とすることができなかった。そのため、十分な曲げ加工性を確保できなかった。
No.21は、後期の冷間圧延率が低いため、結晶粒径の変動係数を所定の範囲とすることができなかった。そのため、十分な曲げ加工性を確保できなかった。
No.22は、合計の冷間圧延率が低く、平均結晶粒径を所定の範囲とすることができなかった。そのため、十分な曲げ加工性を確保できなかった。
No.23は、Cr含有量が本発明の規定よりも少なく、また、Cr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.23は、Cr含有量が少ないため、十分な強度を確保することができず、またCr/Si比が小さいため曲げ加工性が悪かった。
No.24は、Cr含有量が本発明の規定よりも多く、また、Cr/Si比が本発明の規定を上回る例である。No.24は、Cr含有量が多いため、粗大な晶出物が生成してしまい、十分な曲げ加工性が得られなかった。また、No.24は、Cr/Si比が所定の条件を満たしていないため導電性が悪かった。
No.25は、Ti含有量が本発明の規定よりも少なく、また、Cr/Ti比が本発明の規定を上回る例である。No.25は、強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.26は、Ti含有量が本発明の規定よりも多く、また、Cr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.26は、Ti含有量が多いため、十分な曲げ加工性が得られず、強度−曲げ加工性のバランスが悪かった。また、No.26は、Cr/Ti比が所定の条件を満たしていないため導電性が悪かった。
No.27は、Si含有量が本発明の規定よりも多く、また、Cr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.27は、Si含有量が多く、Cr/Si比が所定の条件を満たしていないため、所定の曲げ加工性を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.28は、Fe含有量が本発明の規定を上回る例である。No.28は、Fe固溶量が多くなりすぎたため、導電性が悪かった。
No.29は、Co含有量が本発明の規定を上回る例である。No.29は、Co固溶量が多くなりすぎたため、導電性が悪かった。
No.30は、Sn含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.30は、Sn固溶量が多くなりすぎたため、導電性が悪かった。
No.31は、前記したように特許文献3に記載されている条件を満たす再現品であるが、平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数が本発明の規定よりも多い例である。No.31は、化学組成は本発明の規定を満たすものの、平均結晶粒径と結晶粒径の変動係数が大きかったため、所定の曲げ加工性を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
好ましい評価が得られた例と、そうでない例に関する結晶粒径の分布状態をそれぞれ図1、2に示す。
図1は、好ましい評価が得られたNo.1の結晶粒径の分布状態を示し、図2は、好ましくない評価となったNo.21の結晶粒径の分布状態を示す。
図1に示すように、No.1は、結晶粒径が3μm以上の結晶粒は存在していないことが分かる。このため、結晶粒径の変動係数が、本発明で規定している1.5よりも小さくなり、0.7(表2)となった。そのため、No.1は曲げ加工性が良くなったと考えられる。
一方、図2に示すように、No.21は、結晶粒径が8.5μm程度までの結晶粒が存在していることが分かる。このように、No.21は、粗大な結晶粒が存在したため、結晶粒径の変動係数が、本発明で規定している1.5を超えて1.9(表2)となった。そのため、No.21は、曲げ加工性が悪くなったと考えられる。

Claims (4)

  1. Crを0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、
    Tiを0.010〜0.30%、
    Siを0.01〜0.10%含有し、
    含有される前記Cr量と前記Ti量の質量比を1.0≦(Cr/Ti)≦30、
    含有される前記Cr量と前記Si量の質量比を3.0≦(Cr/Si)≦30、かつ、
    残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であり、
    前記銅合金の幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したときに、
    平均結晶粒径が0.1μm以上1μm以下、
    結晶粒径の変動係数が1.5以下である
    ことを特徴とする銅合金。
  2. 更に、他の元素として、
    Fe、Ni、及びCoよりなる群から選択される一種以上を合計で0.3%以下含有するものである請求項1に記載の銅合金。
  3. 更に、他の元素として、
    Znを0.5%以下含有するものである請求項1又は2に記載の銅合金。
  4. 更に、他の元素として、
    Sn、Mg、及びAlよりなる群から選択される一種以上を合計で0.3%以下含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金。
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