JP5555154B2 - 電気・電子部品用銅合金およびその製造方法 - Google Patents
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本発明において、銅合金を構成する成分について添加の理由と限定理由を以下に説明する。
本発明におけるFeの含有量は2.1質量%以上2.6質量%以下、好ましくは2.1質量%以上2.3質量%以下である。FeはCu母相中に固溶若しくは析出させることによって、強度と耐熱性を向上させるために含有させる。2.1質量%未満であるとFeの固溶量や析出量が不足して強度および耐熱性を得られない。一方、2.6質量%を越えるとFeの固溶による導電率の低下が大きいと共に、鋳造時に粗大なFeの晶出物が生成し、これが製品に残存すると打ち抜き加工時の割れやめっき不良の原因になりうる。
本発明におけるPの含有量は0.015質量%以上0.15質量%以下である。Pは溶解鋳造中に溶湯に混入する酸素を脱酸する作用があるが、0.015質量%未満であるとその効果を得るには十分でない。0.1質量%を超えると脱酸効果に飽和傾向がみられるものの、Feと化合して析出物を形成し、この析出物も強度や耐熱性の向上に寄与することもある。ただし、0.1質量%を超えると、熱間圧延時の粒界割れの原因となることがまれにある。さらに、0.15%を越えると脱酸効果や強度への寄与も飽和状態となるばかりか、鋳造時に結晶粒界等に析出したPとFeの化合物が芯割れ熱間圧延時の粒界割れの原因となり悪影響が生じる。以上のことから、より好ましい範囲としては、0.015質量%以上0.1質量%以下である。
本発明におけるZnの含有量は0.05質量%以上0.20質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.15質量%以下である。Znは半田濡れ性を向上させるとともに、脱酸、脱ガス作用やCuのマイグレーションの抑制作用があるが、0.01質量%未満であるとその効果を得るには十分でない。一方、0.20質量%を越えると導電率の低下をもたらす。
本発明における銅合金は基本的にはCuを主成分とし、かつ特定量のFe、P、Znを含有するものである。しかし、不純物として、他の元素が混入することを避けられない場合があり、Mg、Al、Si、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Mn、Zr、およびSn等を含有することがある。しかし、0.1質量%未満であれば耐熱性等に悪影響を与えるものではなく、不可避的不純物として許容してよい範囲である。
図1は、発明に係る銅合金の金属組織の要点を示す模式図である。本発明の銅合金の金属組織は、Cu母相中に分散したFe析出物の中で、面積が20nm2以上200nm2未満である析出物のCu母相全体の面積S0に対する面積率S1(S1=S01/S0)が、0.4%以上であり、面積が200nm2以上である析出物のCu母相全体に対する面積率S2(S2=S02/S0)が、0.4≦S1/S2≦1.4の関係を満たすことを特徴とする。以下に構成要素について詳述する。
本発明の銅合金は後述の焼鈍工程にてFeを析出させる。母相のCu中には、析出したFeは、導電率の向上に寄与する。ここで、Feの析出量が少なく、Cuへの固溶量が多い場合は、導電率には寄与しない。このため、後述する焼鈍工程で、十分Feを析出させることが重要である。
Cu母相中に分散したFe析出物の中で、1個あたりが占める面積が20nm2以上200nm2未満である析出物(以下、析出物Aと称す)を分散させる。全体の面積に対する析出物Aの合計面積の割合(S1)を0.4以上とする。以下に各数値限定の理由を述べる。
上述の通り、耐熱性、導電率をより高くするためには、Feを析出させることが重要である。しかし、銅合金を鋳造した後、引張強さを所望の値とすること等を目的として、実際に使用できる形状まで、複数回の加工(圧延)や高加工度の圧延を行う。このとき、微細な析出物は加工による転位や粒界の通過で再固溶されてしまう。このため、加工を経た後のFe析出物のうち、20nm2未満のものは、その割合がかなり小さく、無視することができる。また、実質的に導電率に寄与する析出物は20nm2以上のものであると考えられるため、その下限を20nm2とした。
上述の通り、大きすぎる析出物は、3回以上の加工(圧延)や高加工度の圧延を経たとき、耐熱性へ悪影響を及ぼす。発明者らは、鋭意検討した結果、耐熱性の向上を抑制してしまうFe析出物のサイズは、200nm2の大きさで分類することで、耐熱性への影響を定量化できるという知見を得た。
全体の面積(S1)に対して、20nm2以上200nm2未満である析出物の合計面積の割合(S1)を0.4以上とした理由は、0.4以上であれば、高い導電率の銅合金を得ることができるからである。
本発明において、全体の面積に対する析出物Aの合計面積の割合(S1)と、全体の面積に対する200nm2以上のFe析出物(以下、析出物Bと称す。)の合計の面積の割合(S2)は、0.4≦S1/S2≦1.4の関係式を満たす。以下に各数値限定の理由
を述べる。
上述の通り、S1の量は導電率へ大きく寄与すると考えられる。このため、導電率へ寄与するFe析出物Aと、導電率への寄与が少ない200nm2以上のFe析出物Bとの比が、0.4以上であることが好ましい。
200nm2を超えるFe析出物Bが全くない場合、焼鈍工程において、Fe析出物が十分に成長できていないことを示す。この場合、耐熱性が低くなってしまう。耐熱性を十分発揮するためには、S2の存在も必要である。ただし、多すぎると、耐熱性へ大きく悪影響を及ぼす。発明者らは、比(S1/S2)が1.4以上である場合、耐熱性が大きく低下するという知見を得た。そのため、比(S1/S2)が、1.4以下であることが好ましい。
図2に発明に係る銅合金の製造工程フローの一例を示す。本発明の形態の銅合金は、まず、原材料として、銅合金材の鋳塊を準備する(所定の組成を有する銅合金材の形成:ステップ1、以下、ステップを「S」と表記する)。前記銅合金組成を有する鋳塊を熱間圧延(S2)、第一の冷間圧延(S3)、溶体化処理(又は液体化処理)(S4)、第二の冷間圧延(S5)、焼鈍(S6)、第三の冷間圧延の工程(S7)を経て所望の板厚まで加工する。上記の銅合金の製造工程において、時効処理を550℃以上650℃以下で30分以上、10時間以下の時間で加熱し、その後、加熱温度から450℃にかけた平均冷
却速度0.3℃以上1℃/秒以下で冷却し、その後、70〜85%の加工度で冷間圧延する。以下、銅合金の製造工程を工程ごとに詳述する。
本発明では、溶解・鋳造をして、所定の組成を有する銅合金材の形成した後(S1)、その銅合金を800℃以上1050℃以下の温度によって、熱間圧延する(S2)。800℃未満であると、Feの析出量が多く、熱間圧延時に割れが起こりやすい。次に、冷間圧延(S3)をするが、続く溶体化処理時において素材全体に均等に効率よく熱を伝えるためには板厚を3mm以下になるように減面率を設定することが好ましい。
前記熱間圧延、冷間圧延後、900℃以上の温度で30秒以上保持した後、直ちに300℃まで毎分100℃以上の冷却速度で冷却し、更に室温まで冷却する。溶体化処理は熱間圧延時に析出したFe析出物を固溶させるために行うものである。この工程を省略すると目標とする強度および耐熱性を得られない。
前記溶体化処理後、冷間圧延を行う。冷間圧延は減面率が50%以上となるように行うことが好ましい。これにより次に述べる時効での析出をスムーズにすることができる。
図3の焼鈍工程の概略図に示すように、本発明においては、焼鈍を550℃以上650℃以下で30分以上4時間以下、好ましくは550℃以上600℃以下で1時間以上4時間以下、加熱する。この工程は主に析出物Bを析出させるための工程である。これは550℃未満にした場合、Feの析出および成長により長い時間を必要とし、製造工程の簡略・短縮化に効果が小さい。650℃より高くした場合、Fe析出物が適正サイズよりも粗大になり、これもまた耐熱性低下の原因になる。時間も規定範囲を外れると析出物サイズが適正サイズから外れ、耐熱性および/または導電率低下の原因になる。
前記時効後、圧延を70%以上85%以下の加工度で冷間加工する。70%未満の加工度では目標の強度を得ることができず、85%より大きい加工度では耐熱性が低下し、目標の耐熱性を得ることができない。なお、更にこの後に、伸びの向上や歪除去のために低温焼鈍を行っても良い。
質量%にして2.2%のFe、0.03%のP、0.1%のZnを含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金を高周波誘導型坩堝で溶解後、銅製鋳型で半連続鋳造し、横断面200mm×450mm、長さ4000mmの直方体の鋳塊を作製した。この鋳塊の表面をそれぞれ5mm面作し、950℃で2時間保持後熱間圧延を行い、板厚12mmとした。更に表面および裏面をそれぞれ1mm面削した後、第1の冷間圧延により板厚2.5mmとした。
実施例2〜5においても表1に示した焼鈍条件にて製造した。焼鈍条件を規定範囲内に設定した場合は実施例1と同様に良好な特性が得られた。
実施例6は、実施例1と同様の温度条件で製造しているが、加熱時間は12時間と長くした。表2より、S1の割合が0.4%、S2の割合が1.1%であり、それらの面積率の比(S1/S2)は、0.4であった。また、引張強さは547MPa、伸び率は7%、導電率は67%IACS、ビッカース硬さは159Hvであり、耐熱性は93%であった。製造時間およびコストを考慮する場合は、実施例1〜3の方がより好ましい。
実施例7は、焼鈍条件を除いて実施例1と同様の組成で、同様に製造した。実施例7では第2の冷間圧延の工程後、電気炉を用いて窒素ガス雰囲気中で600℃の温度で2時間焼鈍し、冷却速度5℃/分で500℃まで冷却し、その後2時間焼鈍した。
比較例1〜6も焼鈍条件を除いて実施例1と同様の組成で、同様に製造した。焼鈍条件については表1に示したとおりである。
Claims (3)
- Feを2.1質量%以上2.6質量%以下、Pを0.015質量%以上0.15質量%以下、Znを0.05質量%以上0.20質量%以下で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる銅合金において、
Cu母相中に分散したFe析出物の中で、面積が20nm2以上200nm2未満である析出物の合計の面積がCu母相全体に占める割合である面積率S1が、0.4%以上であり、
面積が200nm2以上である析出物の合計の面積がCu母相全体に占める割合である面積率S2が、0.4≦S1/S2≦1.4の関係を満たすことを特徴とする電気・電子部品用銅合金。 - 請求項1に記載の電気・電子部品用銅合金であって、1.2≦S1/S2≦1.4である
ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金。 - Feを2.1質量%以上2.6質量%以下、Pを0.015質量%以上0.15質量%以下、Znを0.05質量%以上0.20質量%以下で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる鋳塊を熱間圧延、第一の冷間圧延、溶体化処理、第二の冷間圧延、焼鈍、第三の冷間圧延の工程を経て所望の板厚まで加工する銅合金の製造工程において、
前記焼鈍は、550℃以上650℃以下で30分以上、4時間以下で加熱し、その後、平均冷却速度を0.3℃/分以上1℃/分以下で該加熱温度から450℃に冷却し、
前記第三の冷間圧延は、70〜85%の加工度で冷間圧延すること
を特徴とする、請求項1または2に記載の電気・電子部品用銅合金の製造方法。
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