JP2014171423A - 凍結乾燥菌試料およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
種々の菌種に共通して使用できる、優れた均質性および安定性を有する菌試料の安価かつ簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】
細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法であって、所定の細菌を培養して回収した後に、少なくとも、タンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理する細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法。前記タンパク質加水分解物は酵素による加水分解物であることが好ましい。
【選択図】図1
Description
検査結果の信頼性を確保するための手段の一つに精度管理がある。精度管理は検査結果と真値との誤差を認識し、その誤差を生み出す要因を解析して取り除くことを目的とする。精度管理は内部精度管理と外部精度管理に大別される。内部精度管理は各検査室で管理された検査法に基づいて、正しく検査が行われたことを確認するために、一定の頻度と一定の基準に従って実施する技能評価である。一方、技能試験のような外部精度管理は各検査室にとっての第三者機関が主催し、検査室間比較を行うことで各検査室の検査結果の妥当性を客観的に確認する技能評価である。これら精度管理を実施する中で、想定される結果と大きく外れた結果が得られた場合、検査担当者の検査手技、または検査担当者の所属する施設の細菌検査業務の運営状態のどちらか、あるいは両方に問題があると推測される。
そこで種々の菌種に共通して使用できる、優れた均質性および安定性を有する菌試料の安価かつ簡便な製造方法の開発に着手した。
すなわち、本願第一の発明は、
「細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法であって、所定の細菌を培養して回収した後に、少なくともタンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理する細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法。」である。
すなわち、本願第二の発明は、
「前記タンパク質加水分解物が酵素による加水分解物である請求項1に記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。」である。
すなわち、本願第三の発明は、
「前記細菌が大腸菌群または大腸菌である請求項1又は2のいずれかに記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。」である。
すなわち、本願第四の発明は、
「所定の細菌を培養して回収した後に、少なくともタンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理して得られる細菌の凍結乾燥菌試料。」
である。
─細菌の凍結乾燥試料─
細菌検査の精度管理では前述のように、均質性および安定性に優れた単一ロットの菌試料を調製する必要がある。通常、菌の均質かつ安定な保存方法としては、滅菌グリセロール水溶液などに目的の菌を懸濁した状態で凍結する方法などが考えられる。しかし、凍結状態の菌試料を技能試験に用いることは好ましくない。なぜならば、温度管理に不備があった場合に菌試料が融解する可能性があるからである。融解した菌試料は均質性および安定性が著しく損なわれるため、精度管理試験が成立しなくなる。
そこで本発明のように、菌試料を凍結乾燥状態で調製するのが好ましい。凍結乾燥菌試料は凍結菌試料が融解する温度(0℃前後)においても、均質性および安定性を保持することができる点で凍結菌試料よりも優れている。
本願における凍結乾燥菌試料とは、適当な液体に所定の菌を懸濁したものを凍結してか
乾燥する方法により調製した菌試料である。なお、凍結乾燥時における菌の懸濁用の溶液(凍結乾燥保護液)に用いられる凍結乾燥保護剤として、これまで多くの技術者が検討を重ねてきた結果、様々な物質が見出されており、例えばスキムミルクは広く用いられている。
─所定の細菌─
また、これらの菌種に限定されず、その他の細菌にも適用可能であることはいうまでもない。但し、本願発明においては、特に大腸菌群および大腸菌に対して有効に用いることができる。
─溶液の成分─
1)タンパク質加水分解物
一般に、酸によるタンパク質の加水分解では、タンパク質の分解度が高くなり、ペプチドに対する遊離アミノ酸の割合が大きくなるが、膵液などによる酵素的加水分解では、タンパク質の分解度が低く、ペプチドに対する遊離アミノ酸の割合が小さい。このため、タンパク質を酵素的に加水分解したものが、アミノ酸よりもペプチドを好む細胞や細菌を培養する際の培地成分として好適に用いられている。
なお、本発明にいう“カジトン”については、商業的に入手できるものであればよく、また、品名が“カジトン”と称されるものでなくとも、カゼインを膵液によって消化したものであれば本発明にいう“カジトン”に含まれる。具体的な市場のおける商品としては、BactoTM Casitone(Becton, Dickinson and Company)やPANCREATIC DIGEST OF CASEIN(SOLABIA S.A.S)等が挙げられる。
2)糖類
─菌試料の製造─
例えば、所定の菌が凍結乾燥の状態で保存されている場合は、当該凍結乾燥菌試料に対して、滅菌済みの希釈液を添加して菌液とし、平板培地に接種して培養する。所定の菌が凍結状態で保存されている場合は、流水中で速やかに融解させた後、一部を採取し、平板培地上に接種して培養する。
本発明においては、種々の方法で凍結乾燥菌試料を調製することができる。菌懸濁液、ないしは遠心分離によって菌懸濁液から得た菌体に対して、上述のタンパク質加水分解物および糖類を含む凍結乾燥保護液を添加する。これを凍結乾燥用の菌懸濁液として適当な容器に分注し、凍結乾燥して凍結乾燥菌試料を得ることができる。
─凍結および乾燥工程─
1)予備凍結
2)一次乾燥
3)二次乾燥
4)封栓
以下の図表においては便宜的に、凍結乾燥保護剤の名称は略号を用いて表記する。以下に凍結乾燥保護剤の名称と対応する略号を列挙する。
スキムミルク:S カジトン:C
マンニトール:M トレハロース:T
グルタミン酸ナトリウム:G L−ヒスチジン:H
なお、略号に続く数値はパーセント濃度(w/v)を表す。
S10:スキムミルク10%
<試験例1>(スキムミルクおよびカジトン単独、加えてスキムミルクまたはカジトンに糖およびアミノ酸を添加したときの凍結乾燥保護作用の評価)
菌試料調製用の菌として、一般生菌はEnterococcus faecalis(NBRC 100480)、大腸菌群はEnterococcus aerogenes(ATCC 13048)、 大腸菌はEscherichia coli(ATCC 11775)を用いた。
すなわち、タンパク質加水分解物であるカジトンに糖類およびアミノ酸を添加することにより、広く用いられている凍結乾燥保護剤であるスキムミルクよりも作用の強い凍結乾燥保護剤が得られた。
<試験例2>(凍結乾燥菌試料の−20℃保存における均質性および安定性の変化)
同規定において、均質性は試料間標準偏差で表され、安定性は均質性試験時の平均値と、一定期間保存後の試験時平均値との差で表されており、それぞれの値は記載されている計算方法を参考に算出することができる。
そして、技能試験に使用できる試料は、均質性および安定性に関する、以下の2つの基準を同時に満たす必要があると規定されている。
(i)均質性:
まず、均質性について、表3および図1に示すように、スキムミルクを用いた比較例5の検査項目のうち大腸菌において、45日目の試料間標準偏差が0.091となり0.075よりも大きかった。よって45日目において菌試料が不均質であることが判明した。しかし、その他の試験区では試料間標準偏差が0.075より大きくなることはなかった。従って、カジトンおよび糖類、アミノ酸を用いた実施例4,5,6において調製された菌試料は90日間、均質性が保たれていた。
<試験例3>(各成分の役割の解析)
比較例7:実施例7からカジトン2%を除いたもの
比較例8:実施例7から糖類(マンニトール5%、トレハロース4%)を除いたもの
実施例8:実施例7からアミノ酸(グルタミン酸ナトリウム0.85%、L-ヒスチジン0.15%)を除いたもの
を示している。なお、表の数値の単位はLog10cfu/mlとする。
Claims (4)
- 細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法であって、所定の細菌を培養して回収した後に、少なくとも、タンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理する細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法。
- 前記タンパク質加水分解物が酵素による加水分解物である請求項1に記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。
- 前記細菌が大腸菌群または大腸菌である請求項1又は2のいずれかに記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。
- 所定の細菌を培養して回収した後に、少なくとも、タンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理して得られる細菌の凍結乾燥菌試料。
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