JP2010162001A - プロテアーゼ活性が低下した細菌、及びそれを用いたタンパク質製造方法 - Google Patents

プロテアーゼ活性が低下した細菌、及びそれを用いたタンパク質製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 プロテアーゼ活性が低下したバチルス属細菌、及び当該細菌を用いて、遺伝子工学的にタンパク質を製造する方法を提供すること。
【解決の手段】 バチルス属細菌野生株を変異原物質で処理することで、プロテアーゼ活性が前記野生株よりも低下したバチルス属細菌変異株を得ることができた。また、タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドを前記変異株へ形質転換することで得られる、バチルス属細菌を用いて前記タンパク質を発現させると、野生株を宿主として用いたときよりも、組み換えタンパク質の発現量が増大した。
【選択図】 なし

Description

本発明は、プロテアーゼ活性が低下したバチルス属細菌、及びそれを用いた組み換えタンパク質、特にFcレセプターの製造方法に関する。
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。Fcレセプターはその結合する免疫グロブリンの種類によって分類されており、IgGのFc領域に結合するFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある(非特許文献1)。また、各レセプターは、その構造の違いによりさらに細かく分類され、Fcγレセプターの場合、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIの存在が報告されている(非特許文献1)。
Fcγレセプターの一つであるFcγRIは単球とマクロファージ中で発現しており、好中球ではγインターフェロンにより誘導的に発現される(非特許文献1)。また、FcγRIはIgGに対する結合親和性が高く、その平衡解離定数(Kd)は10−8M以下である(非特許文献2)。FcγRIは、細胞外領域、細胞膜貫通領域、細胞質内領域に区分され、IgGとの結合は、IgGのFc領域とFcγRIの細胞外領域で起こり、その後細胞質へとシグナルが伝達される。FcγRIはIgGとの結合に直接関わる分子量約42000のα鎖と、γ鎖の2種類のサブユニットによって構成されており、γ鎖は細胞膜と細胞外領域との境界で共有結合することでホモダイマーを形成している(非特許文献3)。
ヒト型FcγRIのアミノ酸配列、および遺伝子配列(配列番号1)はExPASy(Primary accession number:P12314)などの公的データベースに公表されている。また、FcγRIの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されており、図1にヒト型FcγRIの構造略図を示す。なお、図中のアミノ酸番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1のアミノ酸番号1のメチオニン(Met)から289のバリン(Val)までが細胞外領域、配列番号1のアミノ酸番号290のロイシン(Leu)から374のスレオニン(Thr)までが細胞膜貫通領域および細胞内領域とされている。
近年になり、Fcレセプターの予想外の免疫抑制的な生物学的特性は、特に自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域において医薬として注目を浴びつつある(非特許文献2)。また、FcγRIの機能である抗体の吸着能は各種抗体精製用クロマトグラフィーゲルの捕捉機能を担うタンパク質としても利用することができる。
FcγRIα鎖のアミノ酸配列および遺伝子塩基配列(非特許文献4)はJanet等により明らかにされ、その後、遺伝子組換え技術により、大腸菌(特許文献1)あるいは動物細胞を利用した発現が報告されている。しかしながら、大腸菌を利用した発現系においてはFcγRIの細胞外領域タンパク質の発現量は極めて低く、また、発現されたタンパク質は菌体内発現のため、多くの場合発現したタンパク質は不溶性の封入体となる。封入体タンパク質は可溶化等の操作をすることにより、活性型タンパク質として調製することは可能であるが、煩雑な操作を必要とする。また、動物細胞を用いた系では、大腸菌以上の発現量が報告(非特許文献3)されているが培養に多大な時間を要し、かつ、生産性も高くない。
特表2004−530419号公報
J.V.Ravetch等、Annu.Rev.Immunol.、9、457(1991) Toshiyuki Takai、Jpn.J.Clin.Immunol.、28、318(2005) A.Paetz等、Biochem.Biophys.Res.Commun.、338、1811(2005) J.M.Allen等、Science、243、378(1989) David M.Hoover等、Nucleic Acid Res.、30、e43(2002) Gang Wu等、Protein Expr Purif.、47、441−445(2006)
以前、本出願人は、FcレセプターFcγRI遺伝子を導入したプラスミドベクターをバチルス属細菌に形質転換させることで、遺伝子工学的にFcγRIを発現させている(特願2008−046438号)。しかしながら、バチルス属細菌は一般にプロテアーゼ活性が高く、生産されたFcγRIが分解されてしまう問題点があった。
そこで、本発明の課題はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)活性が低下したバチルス属細菌、及び当該細菌を用いた遺伝子工学的なタンパク質の製造方法を提供することである。
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
(1)バチルス属細菌野生株を変異原物質で処理することで得られる、プロテアーゼ活性が前記野生株よりも低下したバチルス属細菌変異株。
(2)バチルス属細菌野生株がBrevibacillus formosus(NBRC15716)であることを特徴とする、(1)に記載の変異株。
(3)タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドを、(1)または(2)に記載の変異株へ形質転換することにより得られる、前記タンパク質を発現可能なバチルス属細菌。
(4)タンパク質がヒト型FcレセプターFcγRIである、(3)に記載のバチルス属細菌。
(5)(4)に記載のバチルス属細菌を用いたヒト型FcレセプターFcγRIの製造方法。
以下本発明をさらに詳細に説明する。
一般的に変異株の取得方法としては、自然突然変異により派生した優良菌株を選別していく方法の他に、変異原物質や紫外線で細胞を処理することにより変異を加速させた後生産性が向上した菌株を選別していく方法、前記方法で得られた性質の異なる菌株同士を細胞融合させる方法が例示できる。このうち、本発明の変異株は、バチルス属細菌野生株を変異原物質で処理することにより得ることができ、かつ当該変異株の有するプロテアーゼ活性が野生株と比較し低下していることを特徴としている。
本発明のバチルス属細菌変異株に用いる、バチルス属細菌野生株としては、Bacillus alcalophilus、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus badius、Bacillus caldolyticus、Bacillus cereus、Bacillus cohnii、Bacillus firmus、Bacillus insolitus、Bacillus kaustophilus、Bacillus lentus、Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus methenolicus、Bacillus pallidus、Bacillus popilliae、Bacillus pumilus、Bacillus smithii、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis、Bacillus thermoamylovorans、Bacillus thermodenitrificans、Bacillus thermoglucosidasius、Bacillus thermoleovorans、Bacillus vedderiといった狭義のバチルス属細菌の他に、Brevibacillus agri、Brevibacillus borstelensis、Brevibacillus brevis、Brevibacillus centrosporus、Brevibacillus choshinensis、Brevibacillus formosus、Brevibacillus laterosporus、Brevibacillus parabrevis、Brevibacillus reuszeri、Brevibacillus thermoruberといったブレビバチルス属細菌、及びPaenibacillus ahibensis、Paenibacillus alvei、Paenibacillus amylolyticus、Paenibacillus apiarius、Paenibacillus azotofixans、Paenibacillus chondroitinus、Paenibacillus curdlanolyticus、Paenibacillus durum、Paenibacillus glucanolyticus、Paenibacillus illinoisensis、Paenibacillus kobensis、Paenibacillus larvae、Paenibacillus macerans、Paenibacillus macquariensis、Paenibacillus pabuli、Paenibacillus peoriae、Paenibacillus polymyxa、Paenibacillus thiaminolyticus、Paenibacillus validusといったパエニバチルス属細菌のような広義のバチルス属細菌の類縁種も例示できる。特に本発明のバチルス属細菌変異株の作成に用いる野生株の好ましい一例として、遺伝子工学的手法によるタンパク質製造で用いられるBrevibacillus formosus(NBRC15716)があげられる。
本発明のバチルス属細菌変異株の取得に用いる変異原物質としては、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、メタンスルホン酸エチルといった化合物を例示できる。前記変異原物質を用いた変異株の選択方法としては、あらかじめ培養して得た細菌の菌体を前記変異原物質の水溶液に懸濁し、一定時間放置した後、遠心分離などの方法で菌体を回収することで変異原物質を除去した後、平板培地上で培養し、優良菌株のコロニーを選択する方法を例示できる。前記選択方法における、コロニーを選択する方法についても特に制限はなく、カゼインを用いた固体培地上でのハローの形成度合いによる方法、及び任意の多数のコロニーを選択/分離した後液体培養を行ない、培養液中のプロテアーゼ活性をカゼインやアゾカゼインを用いて測定する方法が例示できる。後者の方法は、96穴プレートや384穴プレートを用いて液体培養や抽出・比色定量することで、効率よく選択を行なうことができるため、好ましいコロニー選択方法といえる。前記コロニー選択方法により一次選抜を行ない、次いで培養液中のプロテアーゼ活性を測定することで、野生株よりプロテアーゼ活性が低下した変異株を取得することができる。また、当該操作により得られた変異株に対し、同様な操作を複数回繰り返すことにより、プロテアーゼ活性をより低下させ、また、生産性をさらに向上させることが可能である。
本発明のバチルス属細菌変異株の保存方法については特に限定はなく、任意の培地に継代培養することで菌の活性を維持した状態で保存する方法、凍結法や凍結乾燥法により保存する方法が例示できる。継代培養による保存方法の場合は菌が活発に増殖している状態で新たな培地に継代するのが好ましい。凍結による保存の場合は、培地にグリセロール、マンニトール、ジメチルスルフォキシドといった通常の微生物の保存に用いられる凍結補助剤を添加した後に凍結すればよい。前記凍結補助剤の添加量は菌の生存に影響のない範囲であればよく、例えばグリセロールの場合では培養液容量全体の1/10から1/3が好ましい。凍結の温度は、可能な限り低温であることが好ましく、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−80℃以下である。凍結乾燥による保存の場合は、凍結補助剤を用いてあらかじめ可能な限り低温で凍結後、減圧乾燥すればよい。凍結乾燥の場合の凍結補助剤としては上記のもののほかにスキムミルクなども用いられる。凍結乾燥後の菌体は室温以下の温度で、好ましくは4℃以下で、さらに好ましくは−20℃以下で保存される。
本発明のバチルス属細菌変異株は、バチルス属細菌の培養に好適な公知の培地で増殖させることができる。炭素源には廃糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸などが、窒素源にはコーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粕等の天然成分や、酢酸アンモニウム、アスパラギン酸、グリシン等のアミノ酸類が、無機塩にはリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等のリン酸塩や塩化ナトリウムなどが、金属イオンには塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガン等が、ビタミン類としては酵母エキス、ビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキシン等が使用できる。培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を加えてもよい。また所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレート、ジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでも良い。なお、固体培地を用いる場合には上記の組成の培地に寒天やジェランガムといった固形化剤を加熱溶解させた後に、培養に用いる試験管やシャーレに分注し、さらに目的の温度まで冷却して固形化して用いればよい。バチルス属細菌増殖における培養温度は、約20から40℃、好ましくは25から35℃であり、より好ましくは約30℃である。培地のpHは、約5から10、好ましくは7.0である。
本発明のバチルス属細菌変異株は、野生株と比較しプロテアーゼ活性を低下していることを特徴としている。したがって、タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドを本発明の変異株へ形質転換することにより得られる、組み換えバチルス属細菌を用いて前記タンパク質を発現させると、前記細菌が有するプロテアーゼに由来する発現タンパク質の分解が野生株よりも低減し、結果として得られる前記タンパク質の量が増大する。以降、本発明のバチルス属細菌変異株を用いたタンパク質製造の一例として、ヒト型FcレセプターFcγRIの製造について詳細に説明する。
本発明のバチルス属細菌を用いて遺伝子工学的にヒト型FcレセプターFcγRIを製造する際に使用する、FcγRIをコードするポリヌクレオチドとしては、ヒト型FcγRIをコードする遺伝子の全領域又は一部領域からなるポリヌクレオチドをそのまま用いてもよいが、前記ポリヌクレオチドのコドンをヒト型からバチルス属細菌型に変換したポリヌクレオチドがより好ましい。前記コドン変換したポリヌクレオチドの一態様として、ヒト型FcγRIをコードする遺伝子のうち、少なくとも配列番号1の64番目から867番目のポリヌクレオチド中に存在するバチルス属細菌におけるレアコドン(rare codon)を、コードするアミノ酸を同一のまま、バチルス属細菌の翻訳機構において利用頻度が高いコドン(codon)に変換したポリヌクレオチドがあげられる(特願2008−046438号)。なお、レアコドンとは、その宿主におけるコドンの使用頻度が少ないものをいう。宿主におけるコドンの使用頻度は、ゲノム遺伝子の塩基配列等の解析結果等から推測することが可能であり、例えば、バチルス属細菌の一種であるBrevibacillus choshinensisにおけるレアコドンとしては、アミノ酸セリン(Ser)コドンのUCA、ロイシン(Leu)コドンのCUA、アルギニン(Arg)コドンのCGG、AGA、AGG、イソロイシン(Ile)コドンのAUAがあげられる。また、コドンの使用頻度の情報は公的データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/)からも得ることができる。レアコドンから利用頻度の高いコドンへの変換は対応する塩基配列を変換することにより可能であり、塩基配列の変換はSite−directed mutagenesis法など公知の変異導入法を利用することができるが、好ましい変換方法は、合成オリゴヌクレオチドとPCRを組合わせたDNAWorks法(非特許文献5)やSynthetic Gene Designer法(非特許文献6)である。上記方法では、ポリペプチドをコードするアミノ酸配列を基にして、数十塩基からなるオリゴヌクレオチド群を合成し、PCR法により合成オリゴヌクレオチドをアッセンブリーさせることによって完全長の遺伝子を作製することができる。なお、ヒト型FcγRIをコードするポリヌクレオチドのヒト型からバチルス属細菌型へのコドン変換は、ヒト型FcγRI遺伝子配列(配列番号1)のすべてのレアコドンをヒト型からバチルス属細菌型に変換しても良いし、一部のレアコドン、例えば配列番号1に示すポリヌクレオチド配列のうち64番目から867番目にあるレアコドンをヒト型からバチルス属細菌型に変換してもよい。
さらにヒト型FcγRIをコードするポリヌクレオチドは、ヒト型FcγRIをコードするポリヌクレオチドのコドンをヒト型からバチルス属細菌型に変換したポリヌクレオチドの5’末端側に、転写を開始するためのメチオニンをコードするオリゴヌクレオチドを付加しても良く、また上記記載のポリヌクレオチドの5’末端側にシグナルペプチド配列をコードするオリゴヌクレオチドを付加してもよい。ここに述べる、シグナルペプチドとは、細胞質内で発現したタンパク質が細胞膜を通過し、細胞膜外において分泌するためのポリペプチドであり、通常、当該タンパク質のN末端側に存在しており、細胞膜通過後、特定のプロテアーゼ酵素によって切断される。シグナルペプチドの例としては、配列番号1のアミノ酸番号1から15、あるいは1から20のペプチドをあげることができる。
本発明のバチルス属細菌変異株を用いた遺伝子工学的なヒト型FcγRIの製造において、ヒト型FcγRIを簡便に精製することを目的として、上記記載のポリヌクレオチドに、タグ(tag)となるペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを付加させてもよい。タグペプチドとしてはポリヒスチジンタグ(His−tag)、ミックタグ(C−myc tag)等を例示することができる。付加させる位置は、上述のポリペプチドの生物活性を損なわない限りにおいて、N末端側、C末端側どちらでも構わない。上記記載のオリゴヌクレオチドへのタグペプチドをコードするオリゴヌクレオチドの付加は、当業者に周知の方法にて遺伝子工学的に作製することが可能である。
本発明のバチルス属細菌変異株を用いた遺伝子工学的なヒト型FcγRIの製造において、コドンをヒト型からバチルス属細菌型に変換したヒト型FcγRIポリヌクレオチドが挿入された遺伝子組換えプラスミドベクターは、上記記載のヒト型FcγRIポリヌクレオチドを公知の発現プラスミドベクターの適当な位置に遺伝子工学的に挿入することにより、ヒト型FcγRIが発現可能な遺伝子組換えプラスミドベクターを得ることができる。公知の発現プラスミドベクターとしては、例えば、バチルス属細菌の形質転換に利用されるpUB110、pC194、pE194、pWVO1等をあげることができる。ここで述べる適当な位置とはプラスミドベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、あるいは伝達性に関わる領域を破壊しないような位置等を意味する。そして、上記記載の遺伝子組換えプラスミドベクターを本発明のバチルス属細菌変異株に形質転換して得られる形質転換体を培養することにより、ヒト型FcγRIを発現させることがきる。
本発明のバチルス属細菌変異株を用いた遺伝子工学的なヒト型FcγRIの製造において、バチルス属細菌への外来遺伝子の導入および発現のための手順、および方法は、実施例に記載した方法のほかにも、遺伝子工学の分野により慣用されているものを含み、具体的にはエレクトロポレーション法、Tris−PEG法等をあげることができる。
本発明のバチルス属細菌変異株を用いた遺伝子工学的なヒト型FcγRIの製造において、ヒト型FcγRIの製造で使用する培地の組成としては、本発明の変異株が増殖し、かつヒト型FcγRIを生産し得るものであればよく、前述した炭素源、無機塩、ビタミン類から適宜選択して用いればよい。好ましい実施態様では、発現プラスミドベクターを含有するバチルス属細菌の増殖を選択的に可能にするために、発現プラスミドベクターの構成を基とした選抜剤を培地に含んでもよい。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を発現する細胞の増殖のためにネオマイシンを培地に添加する。発現プラスミドベクターに本発明の変異株の細胞壁タンパク質由来のプロモータを用いる場合には、菌の生育が定常期に入ってから活発に働くため、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定し、対数増殖期から定常期に移行した後、引き続き培養することによりタンパク質を培養液中へ分泌発現させることができる。培養温度は15から40℃が好ましく、pHは6から8が好ましい。また、培養時間はFcγRIが十分に生産される時間であればよく、通常は数時間から200時間の間に設定されるが、最適な培養時間は培地成分、培養温度、および通気量といった条件により変化するため、発現したタンパク質の発現量や活性等を測定して決定するのが好ましい。
培養液から、ヒト型FcγRIを取得するには、発現の形態によって適宜抽出方法を選択すればよい。培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清からヒト型FcγRIを抽出すればよい。細胞質内で発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集め、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することにより菌体を破砕し、ヒト型FcγRIを抽出することができる。抽出タンパク質の中からヒト型FcγRIを分離・精製するためには液体クロマトグラフィーを利用することができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等をあげることができる。これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより高純度なヒト型FcγRIを調製することができる。
本発明のバチルス属細菌変異株を用いて遺伝子工学的手法により得られたヒト型FcγRIの分析方法は、培養液から安定に効率的に定量できれば特に限定はないが、ELISA法(酵素結合免疫吸着法)による定量が簡便性の点で好ましい。
本発明のバチルス属細菌変異株を用いて遺伝子工学的手法により得られたヒト型FcγRIは、医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、または、アフィニティーリガンド(分離剤)等の様々な用途に用いられる。使用の際の形態や純度はその用途により異なり、培養液のまま使用することも可能であり、高度に精製して用いることもでき、またその中間の純度の様々な精製度合いで使用される。前記精製されたヒト型FcγRIは医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、または、アフィニティーリガンド(分離剤)等として利用される。精製ヒト型FcγRIに要求される純度はその用途により異なり、それぞれの目的に要求される純度に調製されて利用される。
本発明の変異株は、バチルス属細菌野生株を変異原性物質で処理することで得られる。本発明の変異株は野生株と比較しプロテアーゼ活性が低下しているため、本発明の変異株を、遺伝子工学的にタンパク質を製造する際の宿主として用いることで、宿主の有するプロテアーゼに由来した発現タンパク質の分解が低減し、結果として前記タンパク質をより効率的に生産することができる。特に、本発明の変異株はFcレセプターFcγRIの遺伝子工学的生産の宿主として好ましく、得られたFcγRIは医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、または、分離剤のリガンドとして用いることができる。
ヒト型FcレセプターFcγRIの構造を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることはいうまでもない。
実施例1 本発明のバチルス属細菌変異体の取得(その1)
以下に示す方法で、プロテアーゼ活性が低下したバチルス属細菌変異体を取得した。
(1)LB培地(トリプトン 10g/L、食塩 10g/L、酵母エキス 5g/L)4mL入りの14mL容チューブに細菌Brevibacillus formosus(NBRC15716)を植菌し、37℃、150rpmで一晩振とう培養を行なった。この培養液のうち1.0mLを1.5mL容のエッペンドルフチューブに移し、15000rpm、10分間の遠心分離により菌体を回収した。
(2)(1)の菌体を10μg/mLのN−メチル‐N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(以下NTGと略記する)の0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)溶液1.0mLに懸濁し、10から60分間室温で静置して変異導入処理を行なった。
(3)遠心分離して菌体を回収後、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)に再懸濁する操作を2回繰り返してNTGを除去した。続いて、回収した菌体を3mLのLB培地に懸濁して、37℃で一晩振とう培養を行なった後、LB培地に1.5重量%の寒天を加えて調製した平板培地に塗布して、37℃で一晩静置培養した。
(4)生じたコロニーをプロテアーゼ選択プレートのカゼイン最小培地プレート(カゼイン 10g/L、グルコース 5g/L、リン酸水素二カリウム 14g/L、リン酸2水素カリウム 6g/L、クエン酸三ナトリウム 1g/L、硫酸マグネシウム・七水和物 0.2g/L、 酵母エキス 0.2g/L、ビオチン 0.1mg/L、 寒天 15g/L)へレプリカし、37℃で数日間静置培養した。カゼイン最小培地プレート上では、生じたコロニーの周辺に、菌が産出するプロテアーゼがカゼインを分解して出来るハローが観察できた。
(5)変異が導入されたコロニーのうち、プロテアーゼ活性が低いもの(すなわち、ハローが小さいもの)、また、カゼイン最小培地プレート上で生育の遅いもの(すなわちコロニー径がレプリカ元のプレートと比べて小さいもの)を候補株として選択した。
(6)生じたコロニーから選択した候補株のプロテアーゼ活性を、下記に示すカゼイン法により測定し、プロテアーゼ活性が低下した菌株の選定を行なった。
(6−1)1%(w/v)カゼインを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.2)0.2mLを30℃で5分間加温した後、酵素濃度を適宜調整した酵素溶液(培養上清)0.2mLを添加し、30℃で10分から半日程度反応を行なった。
(6−2)反応停止液(0.1Mトリクロロ酢酸、0.2M酢酸ナトリウム、0.3M酢酸)0.4mLを添加して反応を停止し、30℃にて30分間放置した後、酸変性タンパク質を遠心分離(15000rpm、10分間)した。
(6−3)遠心分離した上清0.2mLを分注し、アルカリ溶液(0.4M炭酸ナトリウム)1.0mLとフェリン試薬(フェノール試薬を脱イオン水で5倍希釈したもの)0.2mLを添加し、30℃にて20分間加温した。
(6−4)分光光度計を用いて660nmにおける吸光度を測定し、酸可溶性タンパク質分解物の生成量を求めた。菌の濁度あたりの吸光度を計算し、プロテアーゼ活性の比較を行った。なお、上記の酵素反応系に反応停止液を加えた後、酵素溶液を加えた系をブランクとする。
(7)(6)の結果、プロテアーゼ活性が最も低下した菌株としてL−D7株を取得した。前記菌株をLB培地で培養し、得られた培養液1mLに滅菌した70%グリセロ−ル水溶液0.4mLを加えてよく混合し、あらかじめ滅菌したサンプル瓶(容量2mL)に分注して−80℃にて凍結保存した。
(8)LB培地プレート上にL−D7株を植菌して37℃で静置培養し、出現したコロニーを20%スキムミルク水溶液で懸濁した。次いで、アンプル管に約0.1mLずつ分注して、液体窒素中で凍結した後に凍結乾燥機で乾燥し、減圧を保ったまま封管することで、凍結乾燥菌体を調製した。
実施例2 本発明のバチルス属細菌変異体の取得(その2)
以下に示す方法で、プロテアーゼ活性が低下したバチルス属細菌変異体を取得した。
(1)LB培地(トリプトン 10g/L、食塩 10g/L、酵母エキス 5g/L)4mL入りの14mL容チューブに細菌Brevibacillus formosus(NBRC15716)を植菌し、37℃、150rpmで一晩振とう培養を行った。この培養液のうち1.0mLを1.5mL容のチューブに移し、15000rpm、10分間の遠心分離により菌体を回収した。
(2)(1)の菌体を10μg/mLのNTGの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)溶液1.0mLに懸濁し、10から60分間室温で静置することで変異導入処理を行なった。
(3)遠心分離して菌体を回収後、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)に再懸濁する操作を2回繰り返してNTGを除去した。
(4)回収した菌体を3mLのLB培地に懸濁して、37℃で一晩振とう培養を行なった後、LB培地に1.5重量%の寒天を加えて調製した平板培地に塗布して、37℃で一晩静置培養した。
(5)生じたコロニー全てを網羅的に選択し、96穴ディープウェルプレート上の3YC培地(ポリペプトン 30g/L、酵母エキス 5g/L、グルコース 30g/L、硫酸マグネシウム・七水和物 0.1g/L、塩化カルシウム・七水和物 0.1g/L、硫酸マンガン・四水和物 0.01g/L、硫酸第二鉄・七水和物 0.01g/L、硫酸亜鉛・七水和物 0.001g/L)1mLに植菌した後、37℃で一晩振とう培養した。
(6)遠心分離した培養液の上清を用いて、下記に示すアゾカゼイン法によるプロテアーゼ活性を測定し、プロテアーゼ活性が低下した菌株の選定を行なった。
(6−1)培養液の遠心上清0.15mLを96穴プレートに分注し、1(w/v)%アゾカゼイン/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)溶液0.15mLを添加して、37℃1時間反応させた。
(6−2)反応停止液0.3mLを加えた後、37℃15分間静置した。生じた酸変性タンパク質を遠心分離(3000rpm、10分間)することで除去し、上清0.1mLを吸光度測定用96穴プレートへ分注し、アルカリ溶液0.2mLを加えて、440nmの吸光度分光光度計を用いて測定した。
(7)(6)の結果、プロテアーゼ活性が最も大きく低下した菌株としてL−G9株を取得した。前記菌株をLB培地で培養し、得られた培養液1mLに滅菌した70%グリセロ−ル水溶液0.4mLを加えてよく混合し、あらかじめ滅菌したサンプル瓶(容量2mL)に分注して−80℃にて凍結保存した。
(8)LB培地プレート上にL−G9株を植菌して37℃で静置培養後、出現したコロニーを20%スキムミルク水溶液で懸濁した。次いで、アンプル管に約0.1mLずつ分注して、液体窒素中で凍結した後に凍結乾燥機で乾燥し、減圧を保ったまま封管することで、凍結乾燥菌体を調製した。
実施例3 本発明のバチルス属細菌変異体のプロテアーゼ活性
実施例1及び2で取得したバチルス属細菌変異体、及びBrevibacillus formosus(NBRC15716)野生株とで、FcレセプターFcγRIタンパク質を用いてプロテアーゼ活性を比較した。
(1)培養液の遠心上清0.675mLと適度に希釈した精製FcγRI溶液0.075mLを混和後、4℃および30℃にて静置し、一定時間経過ごとに0.15mLずつサンプリングを行なった。
(2)経時変化に対してFcγRIの残存率を下記に示すELISA法で測定し、培養上清中のFcγRI分解活性を測定した。
(2−1)96穴プレート(Nunc社製)に50μg/mLに希釈したガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を各ウェルに100μLずつ添加し、4℃で一晩静置することにより固定した。
(2−2)TBS緩衝液(0.2%(w/v)Tween 20、150mM NaClを含むTris−HCl緩衝液(pH8.0))で洗浄後、Starting Block Blocking Buffers(PIERCE社製)によりブロッキング操作を施した。
(2−3)TBS緩衝液で洗浄後、形質転換体の培養上清を100μL添加し、固定化した抗体ガンマグロブリンと反応させた(30℃、2時間)。反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、His−probe(H−15)HRP抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を添加した。
(2−4)反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し450nmの吸光度を測定した。
結果を表1に示す。なお、かっこ内の数字は、それぞれ野生株の結果を100%とした際のL−D7株及びL−G9株の相対値(%)を示す。L−D7株が有するプロテアーゼ活性は15.9(濁度あたりのプロテアーゼ活性、以降同じ)、L−G9株のプロテアーゼ活性は17.5であり、野生株が有する活性(24.0)より、それぞれL−D7株で約33%、L−G9株で約27%それぞれ低下していた。また、FcγRI分解活性で比較すると、30℃・24時間後のFcγRI残存率が野生株では18%に対し、L−D7株では23%、L−G9株では22%と、いずれも野生株よりもプロテアーゼ活性抑制効果が見られた。
Figure 2010162001
実施例4 本発明のバチルス属細菌変異体を用いたFcγRI生産
宿主として実施例1及び2で取得したバチルス属細菌変異体、及びBrevibacillus formosus(NBRC15716)野生株を用いたときにおける、組み換えFcγRIタンパク質の発現量を比較した。
(1)プラスミドベクターを用いた一般的な遺伝子工学的手法により、FcγRI遺伝子を、野生株、または実施例1及び2で取得した変異株(L−D7株、L−G9株)へ形質転換後、BTYm2培地(ポリペプトンペプトン 30g/L、酵母エキス 7.5g/L、グルコース 15g/L、硫酸第二鉄・七水和物 0.01g/L、硫酸マンガン・四水和物 0.01g/L、硫酸亜鉛・七水和物 0.001g/L)200mLに植菌し、30℃にて2日間培養した。
(2)遠心上清を回収した後、上清中のFcγRI生産量を、実施例3(2)に示すELISA法にて測定し、形質転換体でのFcγRI生産性を測定した。
結果を表2に示す。かっこ内の数字は、それぞれ野生株の結果を100%とした際のL−D7株及びL−G9株の相対値(%)を示す。宿主として野生株を用いたときのFcγRI発現量が77μg/Lであったのに対して、実施例1及び2で取得した株を用いたときのFcγRI発現量は83μg/L(L−D7株)、及び79μg/L(L−G9株)といずれも野生株より向上した。以上より、バチルス属細菌を宿主として用いて組換タンパク質を発現させる際、バチルス属細菌としてプロテアーゼ活性が低下した変異株を用いることで、タンパク質発現量が向上していることがわかる。
Figure 2010162001

Claims (5)

  1. バチルス属細菌野生株を変異原物質で処理することで得られる、プロテアーゼ活性が前記野生株より低下したバチルス属細菌変異株。
  2. バチルス属細菌野生株がBrevibacillus formosus(NBRC15716)であることを特徴とする、請求項1に記載の変異株。
  3. タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドを、請求項1または2に記載の変異株へ形質転換することにより得られる、前記タンパク質を発現可能なバチルス属細菌。
  4. タンパク質がヒト型FcレセプターFcγRIである、請求項3に記載のバチルス属細菌。
  5. 請求項4に記載のバチルス属細菌を用いたヒト型FcレセプターFcγRIの製造方法。
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