JP2014152389A - 超撥水性材料の製造方法および超撥水性材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させることにより、基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子シリカ化合物を堆積させること、超微粒子シリカ化合物が堆積された基板を、有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより超微粒子シリカ化合物を成長させ、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなる表面に凹凸構造を有する膜を形成すること、を包含する、超撥水性材料の製造方法とする。
【選択図】図2C
Description
しかしながら、かかる撥水層では、水に対する接触角が150度以上となるいわゆる超撥水性は実現されていなかった。また、この撥水層は強度が弱く、撥水層を構成する自己組織化単分子膜と基材との密着性に課題が残されていた。
また、「超微粒子シリカ化合物」および「粒状シリカ化合物」とは、主としてシリカ(SiO2)から構成されているが、かかるシリカSi−O−Siネットワークが有機官能基により終端されることでC,H,F等の異種元素を含み得る点において、「化合物」と呼ぶようにしている。
さらに、超微粒子シリカ化合物が「無秩序」に堆積するとは、超微粒子シリカ化合物の堆積態様に幾何学的な秩序性がみられない様子を表現するものである。例えば、超微粒子シリカ化合物の堆積機構が、化学的あるいは熱力学的秩序等に基づくことを妨げるものではない。
かかる製造方法では、超微粒子シリカ化合物の成長時に熱エネルギーを与えることで粒成長を促進させるようにしており、粒子間を例えばネックの形成等により確実に結合させることを可能とする。また、200℃以上の温度に加熱することで、形成される粒状シリカの結晶性をも高めることができ、機械的強度(例えば、硬度)の高い膜を形成することができる。
かかる構成によると、任意の素材からなる基材に対し、超撥水性の付与を目的とする表面に金属膜を設けることで、本発明の金属性表面を有する基材として用いることができる。すなわち、基材としては、その表面が金属性表面であれば、その他の部位の素材については限定されない。
金属膜を1μm以下、典型的には10nm〜500nm程度、より好ましくは10nm〜300nm程度の厚みで形成することで、かかる金属膜を透明(可視光に対して透明、以下同じ。)とすることができる。なお、上記の粒状シリカ化合物からなる膜は本質的に透明であるため、例えば、基材として透明な材料を用いた場合に超撥水性材料の全体を透明なものとして製造することができる。
本発明の製造方法は、例えば、高温(例えば、350℃程度以上)での熱処理を必要としない。したがって、例えば350℃程度以上の高温で変質または溶融される各種の材料を基材とした超撥水性材料を製造することができる。また、上記の通り、超撥水性材料の全体を透明なものとして製造することができる。かかる特徴から、本発明の製造方法は、基材としてガラス材料または樹脂材料を用いる場合にその利点を最大限に発揮することができるために好ましい。
そしてここに開示される発明は、上記のいずれかの製造方法により製造されている、超撥水性材料をも提供する。
本発明の超撥水性材料は、表面が粒状のシリカ化合物の繋がりにより形成されているため、粒状シリカ化合物の堆積状態により形成される凹凸に加え、隣り合う粒状シリカ化合物により形成される凹凸とで、極めて複雑な凹凸構造が形成されている。その結果、表面積が著しく拡大され、実質の自由表面エネルギーが平面に比べて高く、濡れやすい表面がより濡れやすく形成される。かかる形状的な特徴により、本発明の超撥水性材料は、撥水性の高い表面が実現され得る。
上記のとおりの極めて複雑な凹凸構造により、粒状シリカ化合物からなる膜は極めて高い撥水性、すなわち超撥水性を示し得る。したがって、例えば、超撥水性を示す透明な材料が提供される。
かかる超撥水材料は、この反応層の存在により金属性表面を構成する金属元素と、粒状シリカ化合物を構成するケイ素とが化学的に結合している。これにより、粒状シリカ化合物からなる膜と基材表面とが強固に結合(固定)された超撥水材料が提供される。
かかる超撥水性材料は、上記の通り粒状シリカ化合物からなる膜と基材表面とが化学的に結合しており、高い膜密着性を有している。例えば、JIS R−3255(ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法)に基づくスクラッチ試験を指標とすると、臨界荷重が50mN以上という高い膜密着性を有するものとして実現される。
金属膜は厚みが1μm以下、典型的には10nm〜500nm程度、より好ましくは10nm〜300nm程度であることで、透明であり得る。なお、上記の粒状シリカ化合物からなる膜は本質的に透明であるため、例えば、基材として透明な材料を用いた場合に超撥水性材料の全体が透明なものとして実現され得る。
かかる金属性表面は、粒状シリカ化合物からなる膜を構成するケイ素と化学的に結合し得る金属元素を含むよう構成されていることが好ましい。したがって、金属性表面が上記の金属元素を含む金属またはその合金から構成されることで、膜密着性等の機械的性質に優れた撥水性材料が提供される。
ここに開示される超撥水性材料の製造方法は、本質的に、以下の工程を含んでいる。
(1)金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させる。これにより、基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子シリカ化合物を堆積させる。
(2)超微粒子シリカ化合物が堆積された基材を、有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより超微粒子シリカ化合物を成長させる。これにより、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなる表面に凹凸構造を有する膜を形成する。
本発明の製造方法においては、上記のとおり、有機ケイ素化合物を原料とした大気圧下でのプラズマ処理により、基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの有機ケイ素化合物由来の超微粒子シリカ化合物を堆積させるようにしている。
[基材]
本発明において粒状シリカ化合物からなる超撥水性を示す膜(以下、単に超撥水膜という場合がある。)が備えられる基材としては、当該超撥水膜が備えられる部位に金属性表面を備える材料であれば、素材等に特に制限はない。例えば、基材そのものが金属材料から構成されていても良い。あるいは、基材が主として金属材料以外の、例えば、ガラス材料、セラミック材料、樹脂材料等やそれらの複合体から構成されており、その表面の少なくとも一部に金属材料からなる金属性表面が備えられていてもよい。この場合の金属性表面としては、典型的には、金属膜を考慮することができ、例えば、基材(基材本体)に金属膜を形成することで、金属性表面を有する基材とすることができる。
かかる金属性表面を構成する材料としては特に制限はなく、各種の金属あるいはその合金とすることができる。例えば、金属膜を、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)および鉄(Fe)またはこれらの合金で構成すると、かかる金属膜状に形成される球状シリカ化合物と反応し、球状シリカ化合物からなる膜の密着性を高めることができるために好ましい。
本発明において、有機ケイ素化合物としては、プラズマにより発生される各種のラジカルの作用により、Si−O−Si結合(ネットワークであり得る。)が少なくとも1種の有機基で終端されている有機基含有シリカを形成し得る各種の化合物を特に制限なく用いることができる。かかる有機ケイ素化合物は、プラズマCVD法等によるSiO2成膜に用いられる原料化合物として広く知られた材料であり得る。有機ケイ素化合物としては、具体的には、例えば、典型例として、(a)SiあるいはSiを主骨格元素とするSi−O−Siネットワークに少なくとも一つのメチル基,エチル基等の有機官能基が直接結合した化合物や、(b)SiあるいはSiを主骨格元素とするSi−O−Siネットワークに、メトキシ基,エトキシ基等のアルコキシ基が結合した化合物等が挙げられる。より具体的には、例えば、テトラメチルシラン:Si(CH3)4等のシラン類、テトラメトキシシラン:Si(OCH3)4,テトラエトキシシラン:Si(OC2H5)4,テトライソプロポキシシラン:Si(i−OC3H7)4テトラターシャリブトキシシラン:Si(t−OC4H9)4等のアルコキシシラン類、ジイソプロポキシジアセトキシシラン:Si(OC3H7)2(OCOCH3)2(DADBS)等のアルコキシアセトキシシラン類、ヘキサチメチルジシロキサン:Si2C6H18O(HMDS),テトラメチルジシロキサン:Si2C4H12O(TMDS)等の鎖状ポリシロキサン類、オクタメチルシクロテトラシロキサン:Si4C8H24O2(OMCTS),テトラメチルシクロテトラシロキサン:Si4C4H16O4(TOMCATS)等の環状ポリシロキサン等を挙げることができる。これらはいずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
本発明においては、上記の原料としての有機ケイ素化合物を、平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子の形態のシリカ化合物として、基材上に堆積させる。かかる超微粒子シリカの堆積には、プラズマ気相成長(CVD)法を採用することができ、特に、酸化物の超微粒子を常圧近傍で安定して形成可能な熱プラズマCDV法を用いるのがより好ましい。
例えば、熱プラズマを例にして説明すると、プラズマ発生条件については、例えば、プラズマ発生装置の構成や、原料である有機ケイ素化合物の種類等に応じて適宜設定することができる。
熱プラズマ発生装置としては、特に制限なく、各種のプラズマ発生装置(典型的には、プラズマ製膜装置であり得る。)を用いることができる。例えば、原料の導入を比較的容易に行うことができることから、電極間の直流アーク放電を利用した溶射用プラズマ装置等を好適に用いることができる。その他、熱プラズマは、かかる直流アーク放電による発生手法以外にも、多相放電、誘導結合型放電、大気圧マイクロ波加熱放電等により発生することもできる。
そこで、例えば、超微粒子シリカ化合物の原料となる有機ケイ素化合物の組成等に応じて、プラズマ雰囲気を自由に選択することができる。具体的には、例えば、アルゴンを用いた不活性雰囲気、酸素を用いた酸化雰囲気、水素を用いた還元雰囲気等を自由に選択できるので、有機ケイ素化合物に対して所望の分解処理を施すことができる。例えば、有機ケイ素化合物から超微粒子シリカ化合物の形成に還元性環境が必要な場合は、プラズマが還元プラズマとなるよう、キャリアガスの種類等を調製することができる。例えば、キャリアガスが水素ガスを含むようにすることができる。また、例えば、有機ケイ素化合物から超微粒子シリカ化合物の形成に酸化性環境が必要な場合は、プラズマが酸化雰囲気となるよう、キャリアガスの種類等を調製することができる。例えば、キャリアガスが酸素ガスを含むようにすることができる。
なお、超微粒子シリカ化合物の前駆体は、必須ではないものの、基材の温度を制御しておくことで、比較的安定して基材上に堆積される。かかる基材温度としては、例えば、50℃〜150℃程度の範囲を例示することができる。
このように熱プラズマ法により基材上に堆積される超微粒子シリカ化合物は、明瞭な輪郭を有したシリカ化合物の超微粒子が、粒子間に空気を含みながら(空隙をもって)パウダー状に堆積される。また、超微粒子シリカ化合物は幾何学的に無秩序に堆積されており、微粒子間には液相(例えば、水滴)が入り込めない程度の多数の微細な空隙が形成される。かかる超微粒子と空隙とにより形成される微細な凹凸構造は、そのままで150度以上の超撥水性を発現し得る。しかしながら、このように形成される超微粒子シリカは互いが堅く結合されておらず、また基材との密着性も十分なものではない。そしてこのような超微粒子シリカ化合物は、非常に活性があると同時に不安定であり得る。
そこで、本発明では、上記のように超微粒子シリカ化合物が堆積された基材を、有機ケイ素化合物を含む雰囲気(典型的には蒸気)に曝す。これにより超微粒子シリカ化合物の表面に有機ケイ素化合物の蒸気が接触させるとともに、Si−O−Si結合により一体化させて、超微粒子シリカ化合物を成長させるようにしている。これにより、超微粒子シリカ化合物を、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物へと成長(典型的には、気相成長)させることができる。
ここで用いる有機ケイ素化合物は、上記の超微粒子シリカ化合物の形成に用いたのと同じものとすることができる。また、超微粒子シリカ化合物が堆積された基材と、有機ケイ素化合物とは、同一の密閉容器に入れることで、超微粒子シリカ化合物を粒状シリカ化合物へと効率的に成長させることができる。
これにより、基材上に超撥水性を示す膜が密着性良く備えられた超撥水性材料を製造することができる。
かかる形状は、一見無秩序的であり、完全にフラクタルな秩序性は見られないものの、自己アフィン性を示し得る。そして、水に対する撥水性は、150度以上の超撥水性を示し得る。すなわち、気相成長させた後も、150度以上の超撥水性を維持している。すなわち、透明な超撥水性膜が強固に結合されている超撥水性材料が提供される。
次に、本発明に関する実施例を示すとともに、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
基材としてガラス基板を用い、以下の手順で基板上に超撥水膜を形成し、超撥水材料を得た。
1.基板の準備
ガラス基板の表面に付着している有機物等を除去するために、ビーカーにガラス基板およびエタノールを入れて超音波洗浄機にて30分間程洗浄した。エタノールから取り出したガラス基板を乾燥させた後、さらに、ビーカーにガラス基板およびアセトンを入れて超音波洗浄機にて30分間ほど洗浄した。
本実施形態では、金属薄膜によるコーティングを比較的簡便に実施できる真空蒸着法を採用して、ガラス基板に金属性表面としての銅(Cu)膜を形成した。すなわち、上記のとおり洗浄したガラス基板を真空チャンバー内に設置し、板状フィラメントにCu片を載置した状態で、チャンバー内をロータリーポンプにて1×10−3Torrまで排気し、さらに、拡散ポンプにて1×10−5Torrまで減圧した。次いで、フィラメントに通電することでCuを溶解させ、発生したCuの蒸気をガラス基板上に堆積させることで、Cu膜を形成した。なお、Cu膜は、フィラメントと基板との間に設けたシャッターの開閉により約1μmの膜厚となるように形成した。Cu膜が形成されたガラス基板は、シリカ乾燥材を入れた乾燥容器内にて保管した。
Cu膜が形成されたガラス基板を図11に示す溶射用プラズマ発生装置内に設置した。ガラス基板は、基板温度が約100℃程度となるようにプラズマ噴射口から120mm離して設置した。また、後述の原料ガスは、プラズマ噴射口と基板との間で、基板からの距離が10mmの位置に導入口を設置した。
まず、キャリアガスとしてのArガスを6L/minの流量で供給しながらプラズマ発生用電極間に電圧24.8V、電流25Aを印加して発生させたプラズマを、基板に5分間照射した。次いで、キャリアガスを、ArガスにH2ガスを1%添加したものに切り替えて発生させたプラズマを、基板に5分間照射した。その後、液体の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)にArガスを0.4L/minの流量で注入してバブリングさせることで気化させたTMCTSを原料ガスとし、6L/minのArガスとともに導入しながら発生させたプラズマを、基板に7分間照射した。これにより、ガラス基板上のCu膜の表面に、超微粒子シリカ化合物を堆積させた。
図1(a)に示されるように、ガラス基板上には、粒径が数0.010μm〜数0.1μm程度の超微粒子状のシリカが堆積しているのが確認された。これらの超微粒子は明瞭な輪郭を有しており、気相中で超微粒子の核が形成され、核成長が進行する前にパウダー状の粒子として合成されており、粒子間に空気を含みながら(空隙をもって)ふんわりと堆積している様子が見てとれる。超微粒子シリカ化合物はランダムに堆積しており、その最表面には極めて複雑で微細な凹凸が形成されていた。この場合の超微粒子シリカ化合物のおおよその堆積高さ(厚み)は約50μmであった。
上記で得られた超微粒子シリカ化合物が堆積されたガラス基板と、ガラス容器に入れたTMCTSとを、密閉が可能なステンレス容器に入れて密閉し、電気炉にて昇温速度5℃/min、(A)240℃,(B)260℃,(C)270℃および(D)290℃の4通りの温度まで加熱して各温度で3時間保持した後、電気炉の電源を切って室温まで炉冷した。このようにして得たガラス基板を、それぞれサンプル(A)〜(D)とした。
そしてサンプル(A)〜(D)を破断し、破断面と表面とを走査型電子顕微鏡(SEM)にてそれぞれ観察した。その結果を、図2A〜図2Dに示した。なお、サンプル(A)〜(C)については、(a)破断面および(b)表面の観察結果を、サンプル(D)については(a)破断面の観察結果と、その部分拡大図(b)を示した。
[FT−IR分析]
以上のようにして作製されたサンプルのうち、超微粒子シリカ化合物を成長させる際の温度を(B)260℃,(C)270℃および(D)290℃としたサンプル(B)〜(D)と、超微粒子シリカ化合物を成長させなかったサンプル(X)とについてフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)を行い、超微粒子シリカ化合物の堆積物における化学結合状態を分析した。FT−IRスペクトルの測定には、フーリエ変換赤外吸収分光測定(FT−IR;(株)島津製作所製,FTIR8400S、制御ソフトウェア;IRPrestige−21)を行いた。その結果を図3に示した。
気相成長させていない、すなわちプラズマ熱還元コーティングのみにより形成された超微粒子シリカ化合物を備えるサンプル(X)と比較して、気相成長を行ったサンプル(B)〜(D)は、気相成長の際の温度が高くなるほど、CHX−,Si−CH3,Si−O−Si,Si−OHおよびSi−CH3の各結合に帰属するピーク強度が高くなっていくことが確認できた。なお、気相成長の際の温度が高くなるほどSi−O−Siのピークが増大していることから、超微粒子シリカ化合物の結晶性が向上することがわかった。また、気相成長の際の温度が高くなるほどSi−CH3のピークが著しく高まることから、撥水性も向上されることが示された。
上記のサンプル(X),(B)〜(D)について、水の接触角を測定した。接触角の測定には、接触角測定装置(協和界面科学(株)製、CA−Z)を用い、サンプル表面に所定の体積の純水を滴下させ、一定時間が経過した後にCCDカメラを用いて水滴形状を観察することで接触角を求める方法を採用した。
その結果、いずれのサンプルも水の接触角が150度以上であって、超撥水性を示すことが確認された。つまり、気相成長温度を300℃近くまで上昇させた場合であっても、接触角は150度以上を維持していた。なお、測定のためにサンプル表面に滴下した水滴は濡れずに弾かれて略球状となり、サンプルを少し動かすことでサンプル表面を転がる様子が観察された。その際の様子から、サンプル(B)〜(D)については、水の接触角が150度を上回っていることが予想された。
ガラス基板と、該ガラス基板上に形成された超微粒子シリカ化合物の堆積膜との膜密着強度を評価するために、JIS R−3255(ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法)に準じ、スクラッチ試験機を用いてスクラッチ試験を行った。
なお、このスクラッチ試験に用いたサンプルは以下の条件で作製した。すなわち、まず、上記の「3.超微粒子シリカ化合物の形成」においてガラス基板をプラズマ噴射口から120mm離して設置し、TMCTSおよびArガスを供給しながら発生させたプラズマを(1)11分間および(2)12分間の2とおりで照射した。次いで、かかる基板に対し、「4.超微粒子シリカ化合物の成長」における気相成長温度を、室温(25℃)と、200℃以上の温度とで変化させてシリカ化合物を気相成長させ、その他の条件は上記と同様にした。スクラッチ試験の条件は以下の通りとした。
荷重負荷速度:54.13mN/mm
ステージ速度:9.8μm/sec
ステージ角度:3deg
かかる試験により測定された、超撥水膜がガラス基板から剥がれ始める際の臨界荷重を、図4に示した。なお、図中、△印はプラズマを11分間照射して作製したサンプルの臨界荷重を、○印はプラズマを12分間照射して作製したサンプルの臨界荷重を示している。
図4から明らかなように、気相成長の際の温度が200℃程度を超えると、臨界荷重が急激に増大することが確認できた。これは、超微粒子シリカ化合物が粒成長すること、シリカと基板表面のCu膜とが化合物を形成して強固に結合すること、さらに、かかる化合物の形成により超微粒子シリカ化合物の堆積膜の結晶性および基板との密着性が大幅に改善されること、によるものと考えられる。
<Cu膜>
上記実施形態1の「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を265℃,280℃,300℃,330℃および350℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、ガラス基板上にCu膜の成膜、プラズマ熱還元による超微粒子シリカ化合物の堆積、および、シリカの気相成長を行い、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。また、気相成長温度を350℃とした場合については、かかる温度での保持時間3時間から1時間へと短縮した条件でも、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
ガラス基板に形成する金属性表面として、ニッケル(Ni)膜を作製した。すなわち、上記実施形態1の「2.金属性表面の形成」において、Cu片に代えてNi片を板状フィラメントに載置し、後は同様にしてNi膜からなる金属性表面を形成した。その後、「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を330℃および350℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。なお、気相成長温度を350℃とした場合については、かかる温度での保持時間を1時間と短縮した条件においても、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
上記の通り、ガラス基板上に形成された超微粒子シリカ化合物の堆積膜について、成膜条件と膜硬度との関係を評価するために、ナノインデンテーション(押込み)法による膜の硬度測定を行った。膜硬度の測定には、ナノインデンター(ハイジトロン社製、TI900−D)を用い、三角錐型圧子をサンプル表面に初期接触荷重0.03mNで押し込んだ時の変位と、除荷曲線とから、マイヤー硬さpm(GPa)を算出した。その結果を、図5に示した。
図5に示されるように、超微粒子シリカ化合物の気相成長温度を上昇させることで、超微粒子シリカ化合物の堆積膜の膜硬度を大幅に高められることが確認できた。また、気相成長時間をより長くすることでも膜硬度を高め得ることが確認できた。特に、気相成長温度を260℃程度以上とすることで、膜硬度を著しく膜硬度を高め得ることが確認できた。
なお、基板の金属性表面をCu膜からNi膜へと代えた場合や、気相成長時間を変化させた場合は、成長温度を変化させた場合に比べて、得られる超微粒子シリカ化合物の堆積膜の膜硬度に顕著な差異は認められなかった。
<Al膜>
ガラス基板に形成する金属性表面として、アルミニウム(Al)膜を作製した。すなわち、上記実施形態1の「2.金属性表面の形成」において、Cu片に代えてAl片を板状フィラメントに載置し、後は同様にしてAl膜からなる金属性表面を形成した。その後、「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を265℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
この様にして得られたサンプルを破断し、その表面と破断面とをSEMにより観察した。その結果、表面の中心付近のSEM像を図6(a)に、断面のSEM像を(b)に示した。
図6に示されるように、金属性表面をAl膜とした場合も、Cu膜の場合と同様の、超微粒子シリカ化合物の粒成長、基板との接合(Si−Alの化合物の形成)、150度以上の水接触角となる超微粒子シリカ化合物の堆積膜が得られたことが確認された。
<Ni膜>
本実施形態では、実施形態1の「2.金属性表面の形成」において、ガラス基板に形成する金属性表面としてニッケル(Ni)膜を採用し、「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を350℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。なお、気相成長温度を350℃とした場合については、かかる温度での保持時間を1時間と短縮した条件においても、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
この様にして得られたサンプルを破断し、その表面と破断面とをSEMにより観察した。その結果、表面の中心付近のSEM像を図7(a)に、断面のSEM像を(b)に示した。
本実施形態では、(a)Zn,(b)Cu,(c)Al,(d)Agおよび(e)Siからなる金属性表面に、プラズマ熱還元により超微粒子シリカ化合物を堆積させた後、超微粒子シリカ化合物を気相成長させて、超微粒子シリカ化合物の堆積膜を形成した。
気相成長は、(1)250℃で1時間の加熱を行うものと、(2)270℃で1時間の加熱を行うものとの2通りの条件で行った。
得られたサンプルを破断して破断面をSEMにより観察し、また表面を観察した結果を図8(a)〜(e)に示した。図8(a)〜(e)に示されるとおり、金属性表面の金属種を変えた場合でも、粒状シリカ化合物による複雑な凹凸構造を有する膜が形成されているのが確認できた。また、上記の金属性表面と堆積膜との間には、いずれも各金属とシリカとが反応して化合物が形成されていることが確認された。
また得られた粒状シリカ化合物の堆積膜の物理的特性はいずれも実施形態1と同様で、超撥水性と、高い膜密着性とを両立していることが確認された。
本実施形態では、SUS鋼からなる金属性表面に、プラズマ熱還元により超微粒子シリカ化合物を堆積させた後、超微粒子シリカ化合物を気相成長させて、超微粒子シリカ化合物の堆積膜を形成した。
気相成長は、(1)250℃で1時間の加熱を行うものと、(2)270℃で1時間の加熱を行うものとの2通りの条件で行い、サンプル(1)(2)を得た。
得られたサンプル(1)を破断して破断面をSEMにより観察し、その結果を図9Aに、サンプル(2)については図9Bに示した。これらの図から確認できるように、サンプル(1)には直径が1〜2μmの粒状シリカ化合物が、サンプル(2)には直径が1〜4μm程度の粒状シリカ化合物が、それぞれネックで結合して堆積しているのが確認された。それぞれのサンプルについて、スクラッチ試験を行った結果、サンプル(1)については臨界荷重77mN、サンプル(2)については臨界荷重125mNの結果が得られた。また、撥水性については、いずれのサンプルも150度以上であった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。
Claims (12)
- 金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させることにより、前記基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子シリカ化合物を堆積させること、
前記超微粒子シリカ化合物が堆積された基板を、前記有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより前記超微粒子シリカ化合物を成長させ、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなる表面に凹凸構造を有する膜を形成すること、
を包含する、超撥水性材料の製造方法。 - 前記超微粒子シリカ化合物が堆積された基板を、200℃以上の温度で前記有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝す、請求項1に記載の超撥水性材料の製造方法。
- さらに、基材に金属膜を形成して前記金属性表面を有する基材を用意する工程を含み、
前記金属膜を、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)および鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又はその合金で構成する、請求項1または2に記載の超撥水性材料の製造方法。 - 前記金属膜を1μm以下の厚みに形成する、請求項3に記載の超撥水性材料の製造方法。
- 前記基材として、ガラスまたは樹脂材料を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の超撥水性材料の製造方法。
- 金属性表面を有する基材上に、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなり、表面に凹凸構造を有する膜が備えられている、超撥水性材料。
- 前記膜の表面における水の接触角は150度以上である、請求項6に記載の超撥水性材料。
- 前記膜と前記金属性表面との界面には、前記膜と前記金属性表面とが反応されてなる反応層が形成されている、請求項6または7に記載の超撥水性材料。
- 前記金属性表面は厚みが1μm以下である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の超撥水性材料。
- スクラッチ試験に基づく前記基材から前記膜が剥離する際の臨界荷重は、50mN以上である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の超撥水性材料。
- 前記基材がガラスまたは樹脂であって、
前記金属性表面は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)および鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又はその合金で構成されている、請求項6〜10のいずれか1項に記載の超撥水性材料。 - 請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されている、超撥水性材料。
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