JP2014146495A - X線照射源及びx線管 - Google Patents

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Abstract

【課題】筐体からのアルカリイオンの析出を抑制することにより、安定した動作を実現できるX線照射源及びX線管を提供する。
【解決手段】X線照射源では、X線管21の筐体51の壁部のうち、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部51bが、いずれも負の高電圧が印加されるフィラメント52と電界制御電極71とによって挟まれている。
【効果】このような構成により、対向壁部に電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられる。したがって、フィラメントや、グリッド、ターゲット等の異なる電位の電極間における電位関係の変化が抑制され、所望のX線量を保持することができないといった不具合を生じることなく、安定した動作を維持することが可能となる。
【選択図】図6

Description

本発明は、X線照射源及びX線管に関する。
従来、X線照射窓を有する筐体内にX線管や高圧発生モジュールなどを組み込んで構成されたX線照射源が開発されている。例えば特許文献1に記載の工業用X線発生装置では、昇圧回路の高圧側とX線管の陰極とが近接して配置されている。また、例えば特許文献2に記載の軟X線発生装置では、エミッタの表面に所定の粒径のダイヤモンド粒子からなる薄膜が設けられている。この装置では、X線管の筐体全体がアルミで形成されており、X線管のカソード配置面の外側に金属部材が位置した構成となっている。
以上のようなX線照射源においては、X線管の給電端子との熱膨張係数を合わせる観点から、例えばソーダライムガラスといったアルカリを含むガラスを筐体の底板等に用いることが考えられる。このようなガラスの熱膨張係数は、X線管内に配置される各種の電極や封止材料との熱膨張係数と近いため、真空保持性能の高い真空筐体を形成することが可能となる。
特開2012−49123号公報 特開2007−305565号公報
ところで、X線管の筐体にアルカリを含むガラスを用いる場合、負の高電圧が印加される陰極等の高圧部と、低電圧(或いは接地電位)が印加される各種の制御回路等の低圧部とでガラスが挟まれると、高圧部の電位に引き寄せられてアルカリイオンがガラスから析出することがある。このようなアルカリイオンの析出が生じ、X線管内の電極等にアルカリイオンが付着すると、各電極間の電位関係が変化するため、所望のX線量を保持することができないといった不具合が生じるおそれがあることが分かった。
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、筐体からのアルカリイオンの析出を抑制することにより、安定した動作を実現できるX線照射源及びX線管を提供することを目的とする。
上記課題の解決のため、本発明に係るX線照射源は、負の高電圧が印加される陰極と、陰極からの電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、陰極とターゲットとを収容すると共に前記ターゲットから発生したX線を外部に出射させる出力窓を有する筐体とを有するX線管と、陰極に印加される負の高電圧を発生させる電源部と、を備え、筐体は、出力窓が設けられた窓用壁部と、窓用壁部に接合されて陰極及びターゲットを収容する収容空間を形成する本体部と、を有し、本体部は、窓用壁部と対向して配置され、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部を有し、対向壁部の外面側には、電源部から陰極に供給される負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される電界制御電極が配置されていることを特徴としている。
このX線照射源では、X線管の筐体の壁部のうち、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部が、いずれも負の高電圧が印加される陰極と電界制御電極とによって挟まれている。このような構成により、対向壁部に電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられる。したがって、アルカリイオンの付着による各電極間の電位関係の変化が抑制され、所望のX線量を保持することができないといった不具合が生じることなく、安定した動作を維持することが可能となる。
また、陰極は、対向壁部の内面に沿って延在しており、電界制御電極は、陰極と対向するように対向壁部の外面に沿って延在していることが好ましい。陰極が延在する場合には対向壁部でのアルカリイオンの析出も生じ易くなるが、電界制御電極を陰極と対向させることで、アルカリイオンの析出を好適に抑制できる。
また、陰極の電子放出部は、対向壁部から離間しており、電子放出部と対向壁部との間には、電源部から陰極に供給される負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される背面電極が陰極と対向するように配置され、電界制御電極は、背面電極と対向するように対向壁部の外面に沿って延在していることが好ましい。電子放出部が対向壁部と直接的に面していると、対向壁部が帯電して電位が不安定となり、電子の放出も不安定になる場合が考えられる。したがって、背面電極を陰極と対向して配置することにより、かかる不具合を防止できる。一方、対向壁部により近い背面電極が形成する電界によって対向壁部でのアルカリイオンの析出が生じ易くなるが、電界制御電極と背面電極とを対向させることで、安定した電子放出を実現しつつ、アルカリイオンの析出をより好適に抑制できる。
また、電界制御電極は、対向壁部の外面全体を覆うように配置されていることが好ましい。この場合、対向壁部に電界が生じることをより確実に抑制できる。
また、電界制御電極は、対向壁部の外面に密着していることが好ましい。この場合、対向壁部に電界が生じることをより確実に抑制できる。
また、電源部が載置された回路基板を更に備え、筐体は、電界制御電極と回路基板との間に配置された絶縁性部材を介して回路基板に載置されていることが好ましい。この場合、電界制御電極と回路基板との間の電気的な影響を抑制しつつ、X線管を安定して固定できる。
また、電源部が載置された回路基板を更に備え、電界制御電極は、回路基板上に形成されたパターン電極であり、筐体は、パターン電極を介して回路基板に載置されていることが好ましい。この場合、X線管を回路基板に固定するだけで電界制御電極を所望の位置に配置できる。また、電界制御電極への給電を安定して実施できる。
また、電源部が載置された回路基板を更に備え、回路基板には、筐体を嵌合可能な貫通孔が形成され、筐体は、対向壁部及び電界制御電極を覆うように設けられた絶縁性被覆部によって、貫通孔に嵌め込まれた状態で回路基板に保持されていることが好ましい。この場合、電界制御電極と回路基板との間の電気的な影響を抑制すると同時にX線管を安定して固定できる。また、貫通孔に筐体を嵌め込む分、X線照射源を小型化できる。
また、本発明に係るX線管は、負の高電圧が印加される陰極と、陰極からの電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、陰極とターゲットとを収容すると共にターゲットから発生したX線を外部に出射させる出力窓を有する筐体と、を有し、筐体は、出力窓が設けられた窓用壁部と、窓用壁部に接合されて陰極及びターゲットを収容する収容空間を形成する本体部と、を有し、本体部は、窓用壁部と対向して配置され、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部を有し、対向壁部の外面には、陰極に供給される電圧と略同等の負の高電圧が印加される電界制御電極が設けられていることを特徴している。
このX線管では、筐体の壁部のうち、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部が、いずれも負の高電圧が印加される陰極と電界制御電極とによって挟まれている。このような構成により、対向壁部に電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられる。したがって、アルカリイオンの付着による各電極間の電位関係の変化が抑制され、所望のX線量を保持することができないといった不具合が生じることなく、安定した動作を維持することが可能となる。
また、陰極は、対向壁部の内面に沿って延在しており、電界制御電極は、陰極と対向するように対向壁部の外面に沿って延在していることが好ましい。陰極が延在する場合には対向壁部でのアルカリイオンの析出も生じ易くなるが、電界制御電極を陰極と対向させることで、アルカリイオンの析出を好適に抑制できる。
また、陰極の電子放出部は、対向壁部から離間しており、電子放出部と対向壁部との間には、陰極に供給される負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される背面電極が陰極と対向するように配置され、電界制御電極は、背面電極と対向するように対向壁部の外面に沿って延在していることが好ましい。電子放出部が対向壁部と直接的に面していると、対向壁部が帯電して電位が不安定となり、電子の放出も不安定になる場合が考えられる。したがって、背面電極を陰極と対向して配置することにより、かかる不具合を防止できる。一方、対向壁部により近い背面電極が形成する電界によって対向壁部でのアルカリイオンの析出が生じ易くなるが、電界制御電極と背面電極とを対向させることで、安定した電子放出を実現しつつ、アルカリイオンの析出をより好適に抑制できる。
また、電界制御電極は、対向壁部の外面全体を覆うように配置されていることが好ましい。この場合、対向壁部に電界が生じることをより確実に抑制できる。
また、電界制御電極は、対向壁部の外面に密着していることが好ましい。この場合、対向壁部に電界が生じることをより確実に抑制できる。
また、電界制御電極を覆うように絶縁性部材が更に設けられていることが好ましい。この場合、X線管を載置する際の電気的絶縁性を良好に確保できる。
さらに、絶縁性部材は、絶縁性材料からなるシート状部材であり、電界制御電極は、シート状部材上に配置されていることが好ましい。この場合、電界制御電極の電気的絶縁性を良好に保ちつつ、電界制御電極を対向壁部に外面により密着させることができる。
本発明によれば、筐体からのアルカリイオンの析出を抑制することにより、安定した動作を実現できる。
本発明の第1実施形態に係るX線照射源を含んで構成されるX線照射装置を示す斜視図である。 図1に示したX線照射装置の機能的な構成要素を示すブロック図である。 図1に示したX線照射源の斜視図である。 図3の平面図である。 図4におけるV−V線断面図である。 X線管と回路基板との結合状態を示す断面図である。 図6におけるVII−VII線断面図である。 図6に示したX線管を底面側から見た図である。 変形例に係るX線照射源を示す平面図である。 図9におけるX−X線断面図である。 本発明の第2実施形態に係るX線照射源におけるX線管と回路基板との結合状態を示す断面図である。 図11におけるXII−XII線断面図である。 図11に示したX線管を底面側から見た図である。 本発明の第3実施形態に係るX線照射源におけるX線管と回路基板との結合状態を示す断面図である。 図14におけるXV−XV線断面図である。 本発明の効果確認試験結果を示す図であり、(a)は比較例、(b)は実施例の結果である。 本発明の別の効果確認試験結果を示す図であり、(a)は比較例、(b)は実施例の結果である。
以下、図面を参照しながら、本発明に係るX線照射源及びX線管の好適な実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るX線照射源を含んで構成されるX線照射装置を示す斜視図である。同図に示すX線照射装置1は、例えば大型ガラスを取り扱う製造ラインにおいてクリーンルーム等に設置され、X線の照射によって大型ガラスの除電を行うフォトイオナイザ(光照射式除電装置)として構成されている。このX線照射装置1は、X線を照射するX線照射源2と、X線照射源2を制御するコントローラ3とを備えて構成されている。
図2は、X線照射装置1の機能的な構成要素を示すブロック図である。同図に示すように、コントローラ3は、制御回路11を含んで構成されている。制御回路11は、例えばX線照射源2に内蔵されるX線管21に向けて電力を供給する電源回路、X線管21に向けて駆動及び停止を制御する制御信号を送信する制御信号送信回路などを含んで構成されている。この制御回路11は、接続ケーブルCによってX線照射ユニット2と接続されている。
次に、上述したX線照射源2の構成について詳細に説明する。
図3は、図1に示したX線照射源の斜視図である。また、図4は、図3の平面図であり、図5は、図4におけるV−V線断面図である。図3〜図5に示すように、X線照射源2は、金属製の略直方体形状の筐体31内に、X線管21及び高圧発生モジュール22と、X線管21及び駆動回路23の少なくとも一部が搭載される第1の回路基板32と、高圧発生モジュール22が搭載される第2の回路基板33とを有している。
筐体31は、図3及び図4に示すように、X線管21から発生したX線を外部に向けて出射させる出力窓34が形成された長方形状の壁部31a、及びこの壁部31aの各辺に設けられた側壁部31bを有して一面側が開口する本体部35と、壁部31aに対向し、本体部35の開口部分を塞ぐように取り付けられた蓋部31cとを備えている。出力窓34は、壁部31aの略中央部分において、筐体31の長手方向に沿って長方形状に形成された開口部によって構成されている。
X線管21は、図5に示すように、筐体31に比べて十分に小さい略直方体形状の筐体51内に、電子ビームを発生させるフィラメント(陰極)52と、電子ビームを加速させるグリッド53と、電子ビームの入射に応じてX線を発生させるターゲット54とを有している。筐体51は、出力窓57が設けられた窓用壁部51aと、窓用壁部51aに接合されてフィラメント52、グリッド53、及びターゲット54を収容する収容空間を形成する本体部とを備えている。この本体部は、当該窓用壁部51aに対向する対向壁部51bと、窓用壁部51a及び対向壁部51bの外縁に沿う側壁部51cとによって構成されている。窓用壁部51aは、例えばステンレス等の金属板によって形成されている。対向壁部51bは、例えばソーダライムガラスやホウケイ酸ガラスといったアルカリ(ここではナトリウム)を含むガラス等の絶縁性材料によって形成されている。また、側壁部51cは、例えばガラス等の絶縁性材料によって形成されている。
側壁部51cの高さは、窓用壁部51a及び対向壁部51bの長手方向の長さよりも小さくなっている。つまり、筐体51は、窓用壁部51a及び対向壁部51bを平板平面に見立てることができるような、平板状の略直方体形状となっている。窓用壁部51aの略中央部分には、X線出射窓34に比べて一回り小さい開口部51dが筐体51の長手方向(窓用壁部51a及び対向壁部51bの長手方向)に沿って長方形状に形成されている。この開口部51dは、出力窓57を構成する。
フィラメント52は、対向壁部51b側に配置され、グリッド53は、フィラメント52とターゲット54との間に配置されている。フィラメント52及びグリッド53には、それぞれ複数の給電ピン55(図7参照)が接続されている。給電ピン55は、側壁部51cと対向壁部51bとの間を通って筐体51の幅方向の両側にそれぞれ突出し、第1の回路基板32上の配線部38に電気的に接続されている。この配線部38は、高圧発生モジュール22に電気的に接続され、本発明における電源部の一部を構成している。フィラメント52には、配線部38及び給電ピン55を介し、例えば−5kV程度の負の高電圧が高圧発生モジュール22から印加される。
また、フィラメント52の電子放出部52aは、対向壁部51bから離間しており、電子放出部52aと対向壁部51bとの間には、フィラメント52と対向するように背面電極58が配置されている。背面電極58は、その長手方向がフィラメント52の電子放出部52aに沿って延びると共に、その短手方向がフィラメント52の径に対して十分に大きな長さを有するような矩形状に形成され(図8参照)、対向壁部51bの内面に密着して載置された状態で配置されている。背面電極58には、フィラメント52に接続される給電ピン55とは別の複数の給電ピン55が接続されており、フィラメント52と同様に、配線部38及び給電ピン55を介して−5kV程度の負の高電圧が高圧発生モジュール22から印加される。
一方、窓用壁部51aの外面側には、図5に示すように、開口部51dを封止するように、例えばチタンなど、X線透過性が良く且つ導電性を備えた材料からなる長方形状の窓材56が密着固定され、ターゲット54で発生したX線をX線管21の外部へ出力させる出力窓57が構成されている。なお、例えばタングステンなどからなるターゲット54は、窓材56の内面に形成されている。
筐体31内でのX線管21、高圧発生モジュール22、第1の回路基板32、及び第2の回路基板33の固定には、図5に示すように、スペーサ部材60が採用されている。スペーサ部材60は、例えばセラミックによって棒状に形成され、非導電性を呈している。スペーサ部材60は、筐体31における蓋部31cの内面側に立設され、X線管21を搭載した第1の回路基板32と高圧発生モジュール22を搭載した第2の回路基板33とを略平行に支持している。このような構造が設けられた蓋部31cは、X線管21の出力窓57が筐体31のX線出射窓34から露出するように位置合わせされ、本体部35に固定されている。
一方、X線管21と第1の回路基板32との固定にあたっては、図6及び図7に示すように、電界制御電極71と、絶縁シート(絶縁性部材)72と、絶縁スペーサ(絶縁性部材)73とが用いられている。電界制御電極71は、導電性を有する面状の部材であり、例えば銅などからなる導電性テープ等の薄膜や板状の金属部材等である。電界制御電極71は、テープの接着部を用いて対向壁部51bの外面側に密着して貼り付けられており、フィラメント52及び背面電極58と同様に、−5kV程度の負の高電圧が高圧発生モジュール22から印加される。これにより、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部51bが、X線管21の内部で負の高電圧が印加されるフィラメント52及び背面電極58と、X線管21の外部で負の高電圧が印加される電界制御電極71とによって挟まれた状態となっている。
電界制御電極71は、少なくとも背面電極58の全体と対向する(全体を含む)領域に配置されていることが好ましい。本実施形態における電界制御電極71は、例えば図8に示すように、対向壁部51bと等幅で対向壁部51bの長手方向にフィラメント52の両端部よりも外側の位置まで延びており、フィラメント52の全体と対向している。図8の例では、電界制御電極71の両端部は、対向壁部51bの両端部までは到達していないが、電界制御電極71が対向壁部51bの全面にわたって形成されていてもよい。
絶縁シート72は、絶縁性材料からなるシート部材であり、例えばシリコーンゴムからなるシート状の部材である。絶縁シート72は、例えば図8に示すように対向壁部51bの平面形状と略同形の長方形状をなしており、テープによる接着や自己融着性の接着を用いて電界制御電極71を覆うように電界制御電極71及び対向壁部51bの外面側に密着して貼り付けられている。
絶縁スペーサ73は、絶縁性材料からなるブロック状の部材であり、例えばシリコーンゴムからなる。絶縁スペーサ73は、例えば背面電極58よりも一回り小さい扁平な略直方体形状をなし、絶縁シート72及び第1の回路基板32の略中央部分にそれぞれ接着されている。この絶縁スペーサ73により、X線管21は、絶縁シート72が配線部38に接しない程度に第1の回路基板32から離間した状態となっている。
以上のような構成を有するX線照射源2では、X線管21の筐体51の壁部のうち、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部51bが、いずれも負の高電圧が印加されるフィラメント52と電界制御電極71とによって挟まれている。このような構成により、対向壁部51bに電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられる。
アルカリイオンがガラスから析出すると、以下のような不具合が生じる。例えば析出したアルカリイオンが筐体51の内壁面等の絶縁部材の表面に付着すると、耐電圧能が低下する可能性がある。このため、フィラメント52や、グリッド53、ターゲット54等の異なる電位の電極間における耐電圧能も低下し、各電極間にX線管21を駆動させるために必要な電圧を印加することが困難となる可能性がある。また、析出したアルカリイオンがグリッド53に付着すると、グリッド53を構成する材料と付着したアルカリイオンとの仕事関数の違いによって、フィラメント52との間の電位関係に変化が生じる可能性があり、フィラメント52から安定して電子を取り出すことが困難になる可能性がある。
したがって、電界制御電極71によって対向壁部51bに電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられることで、フィラメント52や、グリッド53、ターゲット54等の異なる電位の電極間における電位関係の変化が抑制され、所望のX線量を保持することができないといった不具合が生じることなく、安定した動作を維持することが可能となる。また、析出したアルカリイオンがフィラメント52に付着すると、フィラメント52の表面状態が変化するために電子放出能も変化する可能性があるが、アルカリイオンがガラスから析出することを抑えることで、このような不具合も抑制することができる。
X線照射源2では、フィラメント52が対向壁部51bの内面に沿って長手方向に延在しており、電界制御電極71は、フィラメント52の全体と対向するように対向壁部51bの外面に密着している。フィラメント52が延在する場合には対向壁部51bでのアルカリイオンの析出も生じ易くなるが、電界制御電極71をフィラメント52の全体と対向させることで、アルカリイオンの析出を好適に抑制できる。また、電界制御電極71を対向壁部51bに密着させることで、電界の抑制効果をより高めることができる。なお、図8に示したように、電界制御電極71が対向壁部51bの両端部まで到達していない場合には、高電圧領域の形成範囲を抑えることができる。一方、電界制御電極71を対向壁部51bの外面全体にわたって形成する場合には、電界制御電極71の面積が十分に確保され、対向壁部51bに電界が生じることをより確実に抑制できる。
また、X線照射源2では、フィラメント52の電子放出部52aが対向壁部51bから離間しており、電子放出部52aと対向壁部51bとの間に、高圧発生モジュール22からフィラメント52に供給される負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される背面電極58がフィラメント52と対向するように配置されている。また、電界制御電極71は、背面電極58と対向するように対向壁部51bの外面に沿って延在している。電子放出部52aが対向壁部51bと直接的に面していると、対向壁部51bが帯電して電位が不安定となり、電子の放出も不安定になる場合が考えられる。したがって、背面電極58をフィラメント52と対向して配置することにより、かかる不具合を防止できる。一方、フィラメント52と比較してより対向壁部51bに近い背面電極58が形成する電界によって、対向壁部51bでのアルカリイオンの析出が生じ易くなる。そこで、本実施形態では、電界制御電極71と背面電極58とを対向させることで、安定した電子放出を実現しつつ、対向壁部51bからのアルカリの析出をより確実に抑えることが可能となる。
また、X線照射源2では、電界制御電極71が絶縁シート72に覆われていると共に、X線管21の筐体51が絶縁スペーサ73を介して第1の回路基板32に載置されている。このような構成により、電界制御電極71と第1の回路基板32との絶縁性が十分に担保され、電界制御電極71と第1の回路基板32との間の電気的な影響を抑制できるので、電界制御電極71の電位や第1の回路基板32の動作を安定に保つことができると共に、X線管21を第1の回路基板32に安定に固定できる。
なお、上述した電界制御電極71は、導電性テープのほか、対向壁部51bの外面又は絶縁シートに形成した金属蒸着膜であってもよい。また、絶縁シート72は、シリコーン樹脂、セラミック、ポリイミド等の無機材料フィルムであってもよい。絶縁スペーサ73は、シリコーン樹脂やウレタンなどであってもよい。対向壁部51b、電界制御電極71、絶縁シート72、及び絶縁スペーサ73の各部材の結合は、シールや接着剤等のように面同士の密着性を確保できる手法が好ましい。また、絶縁材料については自己融着性の材料を用いることも好ましい。
なお、図9及び図10に示すように、図4及び図5に示した第1の回路基板32よりも面積の大きい筐体31及び第1の回路基板32を用い、第1の回路基板32の一面側においてX線管21の幅方向の一方側にX線管21を駆動させる駆動回路23の配置領域81を設け、他方側に高圧発生モジュール22を搭載してもよい。この例では、枠状のスペーサ部材82を蓋部31cに固定し、スペーサ部材82の先端に第1の回路基板32を固定している。この場合、回路基板の数が減少することで、筐体31の厚みをより小さくすることができる。
[第2実施形態]
図11及び図12は、本発明の第2実施形態に係るX線照射源におけるX線管と回路基板との結合状態を示す断面図である。同図に示すように、第2実施形態に係るX線照射源では、X線管21と第1の回路基板32との結合状態が第1実施形態と異なっている。
より具体的には、本実施形態では、絶縁シート72及び絶縁スペーサ73が用いられておらず、電界制御電極71は、第1の回路基板32上のパターン電極として形成されている。そして、筐体51は、電界制御電極71を介して第1の回路基板32上に載置されている。電界制御電極71は、第1実施形態と同様に、少なくとも背面電極58の全体と対向する領域に配置されていることが好ましく、例えば図13に示すように、対向壁部51bよりも一回り小さい長方形状の領域に、背面電極58及びフィラメント52の全体と対向するように設けられている。
このような構成においても、X線管21の筐体51の壁部のうち、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部51bが、いずれも負の高電圧が印加されるフィラメント52と電界制御電極71とによって挟まれている。これにより、対向壁部51bに電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられる。したがって、フィラメント52や、グリッド53、ターゲット54等の異なる電位の電極間における電位関係の変化が抑制され、所望のX線量を保持することができないといった不具合の発生を防止できるので、安定した動作を維持することが可能となる。
また、X線管21を第1の回路基板32に固定するだけで電界制御電極71を所望の位置に安定して配置できると共に、電界制御電極71への給電を安定して実施できる。なお、対向壁部51bの平面形状に対応する略長方形状の凹部を第1の回路基板32に形成し、当該凹部の底部にパターン電極として電界制御電極71を形成し、当該凹部に筐体51を嵌め込む形態としてもよい。この場合、凹部の深さの分、装置の厚みを小さくすることが可能となる。
なお、本実施形態においても、図9及び図10に示したように、第1の回路基板32よりも面積の大きい筐体31及び第1の回路基板32を用い、第1の回路基板32の一面側においてX線管21の幅方向の一方側にX線管21を駆動させる駆動回路23の配置領域81を設け、他方側に高圧発生モジュール22を搭載してもよい。
[第3実施形態]
図14及び図15は、本発明の第3実施形態に係るX線照射源におけるX線管と回路基板との結合状態を示す断面図である。同図に示すように、第3実施形態に係るX線照射源では、X線管21と第1の回路基板32との結合状態が第1実施形態と更に異なっている。
より具体的には、本実施形態では、絶縁シート72及び絶縁スペーサ73が用いられておらず、電界制御電極71のみが対向壁部51bの外面側に設けられている。一方、第1の回路基板32の略中央部分には、対向壁部51bの平面形状に対応する略長方形状の貫通孔32aが形成されている。この貫通孔32aの深さ、すなわち、第1の回路基板32の厚みは、筐体51における対向壁部51bの厚みと略同一になっている。そして、X線管21は、壁部51bが貫通孔32a内に位置し、かつ各給電ピン55が第1の回路基板32の配線部38に接続されることによって、第1の回路基板32に保持されている。
また、X線管21と第1の回路基板32との結合部分には、モールド部(絶縁性被覆部)74が設けられている。モールド部74は、例えばシリコーンやエポキシといった絶縁性樹脂によって形成され、第1の回路基板32の裏面側において、電界制御電極71を覆い、かつX線管21と貫通孔32aとの間の隙間を覆うように設けられている。このため、電界制御電極71と第1の回路基板32との間での放電や静電誘導といった電気的な影響を抑制すると同時に、X線管21を安定して固定できる。
このような構成においても、X線管21の筐体51の壁部のうち、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部51bが、いずれも負の高電圧が印加されるフィラメント52と電界制御電極71とによって挟まれている。これにより、対向壁部51bに電界が生じることが抑制され、アルカリイオンがガラスから析出することが抑えられる。したがって、フィラメント52や、グリッド53、ターゲット54等の異なる電位の電極間における電位関係の変化が抑制され、所望のX線量を保持することができないといった不具合の発生を防止でき、安定した動作を維持することが可能となる。
また、この構成では、貫通孔32aに筐体51を嵌め込むことにより、貫通孔32aの深さの分だけ装置の厚みを小さくすることができる。また、モールド部74が貫通孔32aを覆うように設けられていることで筐体51がモールド部74で支持され、X線管21を第1の回路基板32に安定して載置できる。
[本発明の効果確認試験]
図16は、本発明の効果確認試験の結果を示す図である。本試験は、対向壁部に電界制御電極を設けた実施例と、対向壁部に電界制御電極を設けていない比較例とにおいて、動作開始後のX線管の管電圧とターゲット電流とをモニタリングしたものである。図16(a)に示すように、比較例では、動作開始からの時間が経過するに伴い、管電圧A1の変化は見られないものの、ターゲット電流B1が初期値よりも50μA程度上昇している。これに対し、図16(b)に示すように、実施例では、動作開始からの時間が経過した後でも、管電圧A2及びターゲット電流B2のいずれにも殆ど変化が見られなかった。この結果から、本発明の電界制御電極がガラスからのアルカリイオンの析出を抑え、X線照射源の動作の安定に寄与することが確認できた。
また、図17は、本発明の別の効果確認試験の結果を示す図である。本試験は、対向壁部に電界制御電極を設けた実施例と、対向壁部に電界制御電極を設けていない比較例とにおいて、X線管の筐体周辺の電位分布をシミュレーションしたものである。図17(a)に示すように、比較例では、絶縁スペーサの上方で対向壁部に高い電界(計算値で2.5E+6V/m)が発生しており、低圧部品が近接している対向壁部の端部付近でも電界の発生が見られた。これに対し、図17(b)に示すように、実施例では、対向壁部の全体にわたって電界が発生していないことが確認できた。
2…X線照射源、21…X線管、22…高圧発生モジュール(電源部)、32…第1の回路基板(回路基板)、32a…貫通孔、38…配線部(電源部)、51…筐体、51a…窓用壁部、51b…対向壁部、52…フィラメント(陰極)、52a…電子放出部、54…ターゲット、57…出力窓、58…背面電極、71…電界制御電極、72…絶縁シート(絶縁性部材)、73…絶縁スペーサ(絶縁性部材)、74…モールド部(絶縁性被覆部)。

Claims (15)

  1. 負の高電圧が印加される陰極と、前記陰極からの電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、前記陰極と前記ターゲットとを収容すると共に前記ターゲットから発生した前記X線を外部に出射させる出力窓を有する筐体とを有するX線管と、
    前記陰極に印加される前記負の高電圧を発生させる電源部と、を備え、
    前記筐体は、前記出力窓が設けられた窓用壁部と、前記窓用壁部に接合されて前記陰極及び前記ターゲットを収容する収容空間を形成する本体部と、を有し、
    前記本体部は、前記窓用壁部と対向して配置され、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部を有し、
    前記対向壁部の外面側には、前記電源部から前記陰極に供給される前記負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される電界制御電極が配置されていることを特徴とするX線照射源。
  2. 前記陰極は、前記対向壁部の内面に沿って延在しており、
    前記電界制御電極は、前記陰極と対向するように前記対向壁部の外面に沿って延在していることを特徴とする請求項1記載のX線照射源。
  3. 前記陰極の電子放出部は、前記対向壁部から離間しており、
    前記電子放出部と前記対向壁部との間には、前記電源部から前記陰極に供給される前記負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される背面電極が前記陰極と対向するように配置され、
    前記電界制御電極は、前記背面電極と対向するように前記対向壁部の外面に沿って延在していることを特徴とする請求項1又は2記載のX線照射源。
  4. 前記電界制御電極は、前記対向壁部の外面全体を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のX線照射源。
  5. 前記電界制御電極は、前記対向壁部の外面に密着していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のX線照射源。
  6. 前記電源部が載置された回路基板を更に備え、
    前記筐体は、前記電界制御電極と前記回路基板との間に配置された絶縁性部材を介して前記回路基板に載置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のX線照射源。
  7. 前記電源部が載置された回路基板を更に備え、
    前記電界制御電極は、前記回路基板上に形成されたパターン電極であり、
    前記筐体は、前記パターン電極を介して前記回路基板に載置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のX線照射源。
  8. 前記電源部が載置された回路基板を更に備え、
    前記回路基板には、前記筐体を嵌合可能な貫通孔が形成され、
    前記筐体は、前記対向壁部及び前記電界制御電極を覆うように設けられた絶縁性被覆部によって、前記貫通孔に嵌め込まれた状態で前記回路基板に保持されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のX線照射源。
  9. 負の高電圧が印加される陰極と、
    前記陰極からの電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、
    前記陰極と前記ターゲットとを収容すると共に前記ターゲットから発生した前記X線を外部に出射させる出力窓を有する筐体と、を有し、
    前記筐体は、前記出力窓が設けられた窓用壁部と、前記窓用壁部に接合されて前記陰極及び前記ターゲットを収容する収容空間を形成する本体部と、を有し、
    前記本体部は、前記窓用壁部と対向して配置され、アルカリを含むガラスによって形成された対向壁部を有し、
    前記対向壁部の外面には、前記陰極に供給される前記電圧と略同等の負の高電圧が印加される電界制御電極が設けられていることを特徴とするX線管。
  10. 前記陰極は、前記対向壁部の内面に沿って延在しており、
    前記電界制御電極は、前記陰極と対向するように前記対向壁部の外面に沿って延在していることを特徴とする請求項9記載のX線管。
  11. 前記陰極の電子放出部は、前記対向壁部から離間しており、
    前記電子放出部と前記対向壁部との間には、前記陰極に供給される前記負の高電圧と略同等の負の高電圧が印加される背面電極が前記陰極と対向するように配置され、
    前記電界制御電極は、前記背面電極と対向するように前記対向壁部の外面に沿って延在していることを特徴とする請求項9又は10記載のX線管。
  12. 前記電界制御電極は、前記対向壁部の外面全体を覆うように配置されていることを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項記載のX線管。
  13. 前記電界制御電極は、前記対向壁部の外面に密着していることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項記載のX線管。
  14. 前記電界制御電極を覆うように絶縁性部材が更に設けられていることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項記載のX線管。
  15. 前記絶縁性部材は、絶縁性材料からなるシート状部材であり、
    前記電界制御電極は、前記シート状部材上に配置されていることを特徴とする請求項14記載のX線管。
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