以下、更に詳しく、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法を実施するための形態について説明をする。
本発明は、少なくとも水溶性エポキシ化合物(A)および非水溶性エポキシ化合物(B)を含むサイジング剤を炭素繊維に塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)より求められる(I)、(II)の値が(III)の関係を満たすことを特徴とする。
(I)前記サイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)前記サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0。
まず、本発明で使用するサイジング剤について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、水溶性エポキシ化合物(A)および非水溶性エポキシ化合物(B)を少なくとも含む。
本発明における水溶性エポキシ化合物(A)とは、25℃において、水90質量部に対しエポキシ化合物10質量部を混合し、24時間以上スターラーで攪拌し、JIS P3801(1956) 1種に該当するろ紙で濾過した後に残存する固形物の重量が、最初に混合したエポキシ化合物の質量の60%未満のものであるとする。上記の方法で60%以上の固形物が残存するものを、本発明における非水溶性エポキシ化合物(B)であるとする。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、炭素繊維とマトリックスの界面接着性に優れるとともに、そのサイジング剤塗布炭素繊維を湿潤環境保管後にプリプレグに用いた場合にも経時変化が小さく、複合材料用の炭素繊維に好適なものである。
本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維に塗布した際、サイジング層内側(炭素繊維側)に水溶性エポキシ化合物(A)が多く存在する事で、炭素繊維と水溶性エポキシ化合物(A)とが強固に相互作用を行い、接着性を高めるとともに、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には非水溶性エポキシ化合物(B)を多く存在させることで、外部からの水分の浸入を阻害し、内層のエポキシの開環を抑制しながら、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)にはマトリックス樹脂と強い相互作用が可能な化学組成として、所定割合のエポキシ基を含む非水溶性エポキシ化合物(B)が所定の割合で存在するため、マトリックス樹脂との接着性も向上するというものである。
サイジング剤が、非水溶性エポキシ化合物(B)のみからなり、水溶性エポキシ化合物(A)を含まない場合、水分の吸収率が低く、炭素繊維を湿潤環境下で保管した場合、サイジング剤のエポキシ基の開環が生じにくく、物性変化が小さいという利点がある。しかしながら、非水溶性エポキシ化合物(B)は極性が小さく、表面処理を施した炭素繊維に濡れにくいため、水溶性エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が劣ることが確認されている。
また、サイジング剤が、水溶性エポキシ化合物(A)のみからなる場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、水溶性エポキシ化合物(A)は極性が高く、表面処理を施した炭素繊維に濡れやすいため、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基等の官能基と水溶性エポキシ化合物(A)が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、水溶性エポキシ化合物(A)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、水分の吸収率が高く、炭素繊維を湿潤環境下で保管した場合、サイジング剤のエポキシ基が開環し、その炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料の物性が低下する課題があることが確認されている。
本発明において、水溶性エポキシ化合物(A)と非水溶性エポキシ化合物(B)を混合した場合、より極性の高い水溶性エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い非水溶性エポキシ化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、水溶性エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、炭素繊維を保管する際には、外層に多く存在する非水溶性エポキシ化合物(B)は、水溶性エポキシ化合物(A)を水分から遮断する役割を果たす。このことにより、水溶性エポキシ化合物(A)の水分による開環反応が抑制されるため、長期保管時の安定性が発現される。なお、水溶性エポキシ化合物(A)を非水溶性エポキシ化合物(B)でほぼ完全に覆う場合には、サイジング剤とマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり接着性が低下してしまうため、サイジング剤表面の水溶性エポキシ化合物(A)と非水溶性エポキシ化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)より求められる(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことが好ましい。
(I)超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0。
超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a)/(b)値である(I)が、上記(III)の範囲に入ることは、サイジング剤層の表面に、極性の高いC−O結合を有する化合物が少ないことを示す。(I)は好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、(I)が、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。
超音波処理前後のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a)/(b)値の比である(II)/(I)が、上記(III)の範囲に入ることは、サイジング剤表面に比べて、サイジング剤層の内層に、極性が高いC−O結合を有する化合物の割合が多いことを示す。(II)/(I)は好ましくは0.65以上である。また、(II)/(I)は0.85以下であることが好ましい。
(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことで、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつ、サイジング塗布炭素繊維を湿潤環境下で保管した場合、そのサイジング剤塗布炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料の物性低下が少ないため好ましい。なお、ここで説明される超音波処理とは、サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施し、続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥する処理を意味する。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーで測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めるものである。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源として佐賀シンクロトロンを用い、励起エネルギーは400eV、光電子脱出角度55°で測定した。試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求める。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出する。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して、0.1〜10.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量%の範囲である。サイジング剤の付着量が0.1質量%以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量%以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。
サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる。
本発明において、水溶性エポキシ化合物(A)の炭素繊維への付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して、0.05〜5.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.0質量%の範囲である。さらに好ましくは0.3〜1.0質量%である。水溶性エポキシ化合物(A)の付着量が0.05質量%以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。
本発明において、サイジング剤には、少なくとも水溶性エポキシ化合物(A)および非水溶性エポキシ化合物(B)を含む。水溶性エポキシ化合物(A)と非水溶性エポキシ化合物(B)の質量比(A)/(B)は、52/48〜80/20であることが好ましい。(A)/(B)を52/48以上とすることにより、炭素繊維表面に存在する水溶性エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。その結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などのコンポジット物性が高くなる。また、(A)/(B)を80/20以下とすることにより、反応性の高い水溶性エポキシ化合物(A)が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、大気中の水分との接触を抑制できるため好ましい。(A)/(B)の質量比は55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、(A)/(B)の質量比は75/35以下がより好ましく、73/37以下がさらに好ましい。
本発明において、水溶性エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。水溶性エポキシ化合物(A)が、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性をさらに向上することができる。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
本発明において、水溶性エポキシ化合物(A)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。水溶性エポキシ化合物(A)が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において使用する水溶性エポキシ化合物(A)のエポキシ価が2.0meq/g以上であることが好ましい。水溶性エポキシ化合物(A)のエポキシ価が、2.0meq/g以上であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ価の上限は特にないが、8.0meq/g以下であれば、高密度での炭素繊維との相互作用が形成されるため、接着性の観点から十分である。水溶性エポキシ化合物(A)のエポキシ価が3.0〜7.0meq/gであることがより好ましい。
本発明において使用する水溶性エポキシ化合物(A)の水酸基価は2.0〜5.0meq/gであることが好ましい。水溶性エポキシ化合物(A)の水酸基価が2.0meq/g以上であると、炭素繊維表面の水酸基、カルボキシル基などの極性基との相互作用が大きくなり、サイジング層内側に水溶性エポキシ化合物(A)が偏在しやすくなり好ましい。水溶性エポキシ化合物(A)の水酸基価が2.5meq/g以上であることがより好ましい。水酸基価が5.0meq/g以下であると、水溶性エポキシ化合物(A)同士での水素結合を抑制し、粘性が低くなるため取り扱い性が良好になり接着性が向上する。また、エポキシ化合物は、水酸基に対してエピクロロヒドリンを縮合させることで製造されるため、水酸基価が5.0meq以下であると、エポキシ価が相対的に向上する事になり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。水溶性エポキシ化合物(A)の水酸基価が4.0meq/g以下であることがより好ましい。
さらに、本発明において使用する水溶性エポキシ化合物(A)は、分子内にエポキシ基を2個以上有することが好ましい。水溶性エポキシ化合物(A)が、分子内にエポキシ基を2個以上有すると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの1個以上のエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明における水溶性エポキシ化合物(A)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2個以上有する、グリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。
本発明において、水溶性エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、アラビトール、フェノールのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、およびビスフェノールFのエチレンオキサイド付加物等からなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。
エポキシ基に加えて水酸基を有する水溶性エポキシ化合物(A)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(登録商標)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
本発明で用いる水溶性エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールからなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
本発明において、水溶性エポキシ化合物(A)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において非水溶性エポキシ化合物(B)は分子内にエポキシ基を1個以上有する。2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
本発明において、非水溶性エポキシ化合物(B)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。非水溶性エポキシ化合物(B)が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。非水溶性エポキシ化合物(B)が、分子内に3個以上のエポキシ基または1個のエポキシ基と他の官能基を2個以上有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、非水溶性エポキシ化合物(B)のエポキシ価は、2.0meq/g以上であることが好ましく、より好ましくは2.0〜8.0meq/gであり、さらに好ましくは2.0〜5.0meq/g未満である。非水溶性エポキシ化合物(B)のエポキシ価が2.0meq/g以上あると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。
本発明において、非水溶性エポキシ化合物(B)は、エポキシ基以外に分子内に1種以上の官能基を有することができる。また、非水溶性エポキシ化合物(B)は、1種類であっても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いても良い。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上の官能基を含んでいても良い。
本発明において、非水溶性エポキシ化合物(B)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、および水添ビスフェノールFからなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物、およびジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるエポキシ化合物が挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する非水溶性エポキシ化合物(B)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。また、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、非水溶性エポキシ化合物(B)は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基が好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する非水溶性エポキシ化合物(B)としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する非水溶性エポキシ化合物(B)としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(登録商標)”EX−731(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する非水溶性エポキシ化合物(B)としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する非水溶性エポキシ化合物(B)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する非水溶性エポキシ化合物(B)としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する非水溶性エポキシ化合物(B)としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、非水溶性エポキシ化合物(B)は、分子内に芳香環を1個以上有する芳香族エポキシ化合物(B1)であることが好ましい。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。サイジング剤が芳香環を1個以上有する芳香族エポキシ化合物(B1)を含むと、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上し、繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性が向上する。また、芳香環の疎水性により、水溶性エポキシ化合物(A)に比べて炭素繊維との相互作用が弱くなるため、炭素繊維との相互作用により炭素繊維側に水溶性エポキシ化合物(A)が多く存在し、サイジング層外層に非水溶性エポキシ化合物(B)が多く存在する結果となる。これにより、非水溶性エポキシ化合物(B)が水溶性エポキシ化合物(A)と水分との接触を抑制するため、本発明にかかるサイジング剤を塗布した炭素繊維を湿潤環境下で保管した場合の経時変化を抑制することができ好ましい。非水溶性エポキシ化合物(B)として、芳香環を2個以上有するものを選択することで、炭素繊維を湿潤環境下で保管した後の安定性をより向上することができる。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性およびマトリックス樹脂との反応の抑制の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることが炭素繊維を湿潤環境保管での安定性、接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、水溶性エポキシ化合物(A)と非水溶性エポキシ化合物(B)以外の成分を1種類以上含んでも良い。炭素繊維とサイジング剤との接着性促進成分、サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明で用いられるサイジング剤には、水溶性エポキシ化合物(A)と非水溶性エポキシ化合物(B)以外に、分子内にエポキシ基を持たないエステル化合物(C)を配合することができる。本発明にかかるサイジング剤は、エステル化合物(C)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%配合することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。エステル化合物(C)を配合することで、収束性が向上し、取り扱い性が向上すると同時に、大気中の水分とサイジング剤との反応による湿潤環境保管での物性の低下を抑制することができる。
エステル化合物(C)は、芳香環を持たない脂肪族エステル化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族エステル化合物でも良い。エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の取り扱い性が向上すると同時に、芳香族エステル化合物(C1)は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、湿潤環境下での物性低下の抑制効果が高くなる。また、芳香族エステル化合物(C1)は、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基、たとえば、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基を有していてもよい。芳香族エステル化合物(C1)として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、ブチレンオキサイド付加物などが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイド付加物との縮合物が使用される。
ビスフェノール類へのアルキレンオキサイドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることができる。また、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
また、本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維とサイジング剤成分中のエポキシ化合物との接着性を高める目的で、接着性を促進する成分である3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を配合することができる。発明にかかるサイジング剤は、該化合物を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、0.1〜25質量%配合することが好ましい。2〜8質量%がより好ましい。
水溶性エポキシ化合物(A)および非水溶性エポキシ化合物(B)に、接着性促進成分として3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を併用したサイジング剤は、該サイジング剤を炭素繊維に塗布し、特定の条件で熱処理した場合、接着性がさらに向上する。そのメカニズムは確かではないが、まず、該化合物が本発明で用いられる炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基に作用し、これらの官能基に含まれる水素イオンを引き抜きアニオン化した後、このアニオン化した官能基と水溶性エポキシ化合物(A)または非水溶性エポキシ化合物(B)成分に含まれるエポキシ基が求核反応するものと考えられる。これにより、本発明で用いられる炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合が形成され、接着性が向上するものと推定される。
接着性促進成分の具体的な例としては、N−ベンジルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩であることが好ましく、特に1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩が好適である。
上記のDBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ株式会社製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ株式会社製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ株式会社製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ株式会社製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ株式会社製)などが挙げられる。
本発明において、サイジング剤に配合する接着性促進成分としては、トリブチルアミンまたはN,N−ジメチルベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンであることが好ましく、特にトリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミンが好適である。
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明において使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明にかかる炭素繊維は、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の繊密度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。光電子脱出角度90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が、0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面のカルボキシル基濃度(COOH/C)の、より好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が、0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面の表面水酸基濃度(COH/C)は、より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、水酸基濃度(COH/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04モル/リットルの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの3弗化エタノール気体、0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。特に乾湿式紡糸方法を用いることで、強度の高い炭素繊維を得ることができることから、より好ましい。
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000アンペア/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。一方、乾燥の効率を考慮すれば、乾燥温度は、110℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。
次に、上述した炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、水溶性エポキシ化合物(A)、および非水溶性エポキシ化合物(B)を少なくとも含み、それ以外の成分を含んでも良い。
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、水溶性エポキシ化合物(A)および非水溶性エポキシ化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング剤含有液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング剤含有液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング剤含有液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング剤含有液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
本発明におけるサイジング剤含有液は、非水溶性エポキシ化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作製し、水溶性エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合して調整することが好ましい。この時に、水溶性エポキシ化合物(A)を、あらかじめ水に溶解して0.1〜50質量%の水溶液にしておき、0.1〜50質量%の濃度である非水溶性エポキシ化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョン液と混合する方法が、乳化安定性の点から好ましい。また、水溶性エポキシ化合物(A)と非水溶性エポキシ化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期安定性の点から好ましく用いることができる。
サイジング剤含有液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
本発明におけるサイジング剤含有液であって、非水溶性エポキシ化合物(B)を少なくとも含む水系エマルジョンの粒度分布計による粒径は100〜600ナノメートルであることが好ましい。より好ましくは500ナノメートル以下であり、更に好ましくは300ナノメートル以下の範囲である。上記の範囲であると、水中での分散性が良好であり、サイジング剤の長期安定性が向上する。また、炭素繊維にサイジング剤を塗布した時にサイジング剤を均一に付与する事ができる。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング剤含有液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤含有液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング剤含有液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング剤含有液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング剤含有液を炭素繊維に塗布する際のサイジング剤含有液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング剤含有液を付与した後に、余剰のサイジング剤含有液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
炭素繊維に前記サイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃未満および/または30秒未満であると、サイジング剤の水溶性エポキシ化合物(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となり、溶媒を十分に乾燥除去できない場合がある。一方、熱処理条件が、260℃を超えるおよび/または600秒を超える場合、サイジング剤の分解および揮発が起きて、炭素繊維との相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となる場合がある。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
次に本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を用いたプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について詳細を説明する。
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂(ここで説明される樹脂は、樹脂組成物であってもよい)を使用することができる。
本発明で用いられる熱硬化性樹脂は、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する樹脂であれば特に限定されない。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂および熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられ、これらの変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。また、これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合するものであっても良い。
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物(D)としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物などの中から1種以上を選択して用いることができる。
ここで、ビスフェノール型エポキシ化合物とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等が挙げられる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、“jER(登録商標)”505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830、835(以上、DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ化合物としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールS型エポキシ化合物としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−154(DIC(株)製)などが挙げられる。
また、アミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品などが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、TETRAD−X、TETRAD−C(以上、三菱ガス化学(株)製)などが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ化合物の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型エポキシ化合物の市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200L(エポキシ価4.00、軟化点54〜58)、“エピクロン(登録商標)”HP7200(エポキシ価3.84、軟化点59〜63)、“エピクロン(登録商標)”HP7200H(エポキシ価3.57、軟化点80〜85)、“エピクロン(登録商標)”HP7200HH(エポキシ価3.57、軟化点87〜92)(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、XD−1000−L(エポキシ価3.92、軟化点60〜70)、XD−1000−2L(エポキシ価4.00、軟化点53〜63)(以上、日本化薬(株)製)、“Tactix(登録商標)”556(エポキシ価4.25、軟化点79℃)(Vantico Inc社製)などが挙げられる。
イソシアネート変性エポキシ化合物の市販品としては、オキサゾリドン環を有するXAC4151、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348((株)ADEKA製)などが挙げられる。
テトラフェニルエタン型エポキシ化合物の市販品としては、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン型エポキシ化合物である“jER(登録商標)”1031(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
トリフェニルメタン型エポキシ化合物の市販品としては、“タクチックス(登録商標)”742(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
不飽和ポリエステル樹脂としては、α,β−不飽和ジカルボン酸を含む酸成分とアルコールとを反応させて得られる不飽和ポリエステルを、重合性不飽和単量体に溶解したものが挙げられる。α,β−不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等及びこれらの酸無水物等の誘導体等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。また、必要に応じてα,β−不飽和ジカルボン酸以外の酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和ジカルボン酸及びこれらの酸無水物等の誘導体をα,β−不飽和ジカルボン酸と併用してもよい。
アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド(1〜100モル)付加物、キシレングリコール等の芳香族ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。
不飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略す)付加物との縮合物、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略す。)付加物との縮合物及びフマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのEO及びPO付加物(EO及びPOの付加は、ランダムでもブロックでもよい)との縮合物等が含まれ、これらの縮合物は必要に応じてスチレン等のモノマーに溶解したものでもよい。不飽和ポリエステル樹脂の市販品としては、“ユピカ(登録商標)”(日本ユピカ(株)製)、“リゴラック(登録商標)”(昭和電工(株)製)、“ポリセット(登録商標)”(日立化成工業(株)製)等が挙げられる。
ビニルエステル樹脂としては、前記エポキシ化合物とα,β−不飽和モノカルボン酸とをエステル化させることで得られるエポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。α,β−不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、チグリン酸及び桂皮酸等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。ビニルエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物(メタ)アクリレート変性物(ビスフェノールA型エポキシ化合物のエポキシ基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基とが反応して得られる末端(メタ)アクリレート変性樹脂等)等が含まれ、これらの変性物は必要に応じてスチレン等のモノマーに溶解したものでもよい。ビニルエステル樹脂の市販品としては、“ディックライト(登録商標)”(DIC(株)製)、“ネオポール(登録商標)”(日本ユピカ(株)製)、“リポキシ(登録商標)”(昭和高分子(株)製)等が挙げられる。
ベンゾオキサジン樹脂としては、o−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、m−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、p−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−メチルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−シクロヘキシルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−m−トルイジン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−3,5−ジメチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−アミン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールS−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルスルホン−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾフェノン型ベンゾオキサジン樹脂、ビフェニル型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールAF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−メチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、トリフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、およびフェノールフタレイン型ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。ベンゾオキサジン樹脂の市販品としては、BF−BXZ、BS−BXZ、BA−BXZ(以上、小西化学工業(株)製)等が挙げられる。
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、カシュー油、リグニン、レゾルシン及びカテコール等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びフルフラール等のアルデヒド類との縮合により得られる樹脂が挙げられ、ノボラック樹脂やレゾール樹脂等が挙げられる。ノボラック樹脂は、シュウ酸等の酸触媒存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はフェノール過剰の条件で反応させることで得られる。レゾール樹脂は、水酸化ナトリウム、アンモニア又は有機アミン等の塩基触媒の存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はホルムアルデヒド過剰の条件で反応させることにより得られる。フェノール樹脂の市販品としては、“スミライトレジン(登録商標)”(住友ベークライト(株)製)、レヂトップ(群栄化学工業(株)製)、“AVライト(登録商標)”(旭有機材工業(株)製)等が挙げられる。
尿素樹脂としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合によって得られる樹脂が挙げられる。尿素樹脂の市販品としては、UA−144((株)サンベーク製)等が挙げられる。
メラミン樹脂としては、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合により得られる樹脂が挙げられる。メラミン樹脂の市販品としては、“ニカラック(登録商標)”((株)三和ケミカル製)等が挙げられる。
熱硬化性ポリイミド樹脂としては、少なくとも主構造にイミド環を含み、かつ末端又は主鎖内にフェニルエチニル基、ナジイミド基、マレイミド基、アセチレン基等から選ばれるいずれか1個以上を含む樹脂が挙げられる。ポリイミド樹脂の市販品としては、PETI−330(宇部興産(株)製)等が挙げられる。
これらの熱硬化性樹脂の中でも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ化合物(D)を少なくとも含むエポキシ樹脂を用いることが好ましい。特にエポキシ化合物(D)として複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂が好ましい。複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂は、多架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができるため好ましい。
複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾール、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリンおよびN,N−ジグリシジル−4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン等が挙げられる。これらの化合物は、多くの場合、フェノキシアニリン誘導体にエピクロロヒドリンを付加し、アルカリ化合物により環化して得られる。分子量の増加に伴い粘度が増加していくため、取扱い性の点から、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンが特に好ましく用いられる。
フェノキシアニリン誘導体としては、具体的には、4−フェノキシアニリン、4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、4−(3−メチルフェノキシ)アニリン、4−(2−メチルフェノキシ)アニリン、4−(4−エチルフェノキシ)アニリン、4−(3−エチルフェノキシ)アニリン、4−(2−エチルフェノキシ)アニリン、4−(4−プロピルフェノキシ)アニリン、4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリン、4−(4−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(3−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(2−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(4−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(2−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−[4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[3−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−(2−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−(1−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−[(1,1’−ビフェニル−4−イル)オキシ]アニリン、4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(3−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2−ニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−ニトロ−4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−フェノキシアニリン、4−(2−クロロフェノキシ)アニリン、4−(3−クロロフェノキシ)アニリン、4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジクロロフェノキシ)アニリン、3−クロロ−4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、および4−(4−クロロ−3−トリルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品として、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(東都化成(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)604”(三菱化学(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールとしては、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0510、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。
複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物として、上述した中でもグリシジルアミン骨格を少なくとも1個有し、かつエポキシ基を3個以上有する芳香族エポキシ化合物(D1)であることが好ましい。
エポキシ基を3以上有するグリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物(D1)を含むエポキシ樹脂は、耐熱性を高める効果があり、その割合は、エポキシ樹脂中に30〜100質量%含まれていることが好ましく、より好ましい割合は50質量%以上である。グリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物の割合が30質量%以上で、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度が向上、耐熱性が良好になるため好ましい。
これらのエポキシ化合物(D)を用いる場合、必要に応じて酸や塩基などの触媒や硬化剤を添加してよい。例えば、エポキシ樹脂の硬化には、ハロゲン化ホウ素錯体、p−トルエンスルホン酸塩などのルイス酸や、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタンおよびそれらの誘導体や異性体などのポリアミン硬化剤などが好ましく用いられる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を用いたプリプレグにおいて、硬化剤には、潜在性硬化剤(E)を用いることができる。ここで説明される潜在性硬化剤は、本発明の熱硬化性樹脂の硬化剤であって、温度をかけることで活性化してエポキシ基等の反応基と反応する硬化剤であり、70℃以上で反応が活性化することが好ましい。ここで、70℃で活性化するとは、反応開始温度が70℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は例えば、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。具体的には、エポキシ価5.15程度のビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に評価対象の硬化剤10質量部を加えたエポキシ樹脂組成物について、示差走査熱量分析により得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。
潜在性硬化剤(E)は、芳香族アミン硬化剤(E1)、またはジシアンジアミドもしくはその誘導体(E2)であることが好ましい。芳香族アミン硬化剤(E1)としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族アミン硬化剤(E1)の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、Lonzacure(登録商標)M−DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミド誘導体またはその誘導体(E2)とは、アミノ基、イミノ基およびシアノ基の少なくとも一つを用いて反応させた化合物であり、例えば、o−トリルビグアニド、ジフェニルビグアニドや、ジシアンジアミドのアミノ基、イミノ基またはシアノ基にエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ化合物のエポキシ基を予備反応させたものである。
ジシアンジアミドまたはその誘導体(E2)の市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
芳香族アミン硬化剤(E1)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(E2)以外の硬化剤としては、脂環式アミンなどのアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族ジアミン硬化剤に併用して用いてもよい。
潜在性硬化剤(E)として使用するフェノール化合物としては、マトリックス樹脂として上記で例示したフェノール化合物を任意に用いることができる。
本発明にかかるサイジング剤と、芳香族アミン硬化剤(E1)との組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。塗布されるサイジング剤と芳香族アミン硬化剤(E1)のアミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が、0.9でサイジング剤と芳香族アミン硬化剤(E1)とを混合し、混合直後と、温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した場合のガラス転移点を測定する。20日経時後のガラス転移点の上昇が25℃以下であるサイジング剤と、芳香族アミン硬化剤(E1)との組み合わせが好ましい。ガラス転移点の上昇が25℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が15℃以下であることがより好ましい。10℃以下であることがさらに好ましい。なお、ガラス転移点は、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。
また、本発明にかかるサイジング剤と、ジシアンジアミド(E2)との組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。塗布されるサイジング剤とジシアンジアミド(E2)のアミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が、1.0でサイジング剤とジシアンジアミド(E2)とを混合し、混合直後と、温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した場合のガラス転移点を測定する。20日経時後のガラス転移点の上昇が10℃以下であるサイジング剤と、ジシアンジアミド(E2)との組み合わせが好ましい。ガラス転移点の上昇が10℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が8℃以下であることがより好ましい。
また、硬化剤の総量は、全エポキシ樹脂成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
また、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化を促進させることを目的に、硬化促進剤(F)を配合することもできる。
硬化促進剤(F)としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、保存安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物(F1)が好適に用いられる。
特に、硬化促進剤(F)としてウレア化合物(F1)が用いられる場合、潜在性硬化剤(E)としてジシアンジアミドまたはその誘導体(E2)と組み合わせて用いられることが好適である。
ウレア化合物(F1)としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials,LLC製)などが挙げられる。
ウレア化合物(F1)の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1〜4質量部とすることが好ましい。かかるウレア化合物(F1)の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が十分に進行せず、硬化物の弾性率と耐熱性が不足することがある。また、かかるウレア化合物の配合量が4質量部を超える場合は、エポキシ化合物の自己重合反応が、エポキシ化合物と硬化剤との反応を阻害するため、硬化物の靭性が不足することや、弾性率が低下することがある。
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や保存安定性向上に有効な場合がある。
プリプレグには、靱性や流動性を調整するために、熱可塑性樹脂が含まれていることが好ましく、耐熱性の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、熱可塑性樹脂のオリゴマーを含ませることができる。また、エラストマー、フィラーおよびその他の添加剤を配合することもできる。なお、熱可塑性樹脂は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂に含まれていると良い。さらに、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂が用いられる場合、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等を配合することができる。かかるエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂としては、樹脂と炭素繊維との接着性改善効果が期待できる水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
エポキシ樹脂可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂として、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂やスルホニル基を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。
かかるアルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができ、また、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドンを挙げることができ、さらに、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは、主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
エポキシ樹脂に可溶で水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリビニルアセタール樹脂として、デンカブチラール(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(チッソ(株)製)、フェノキシ樹脂として、“UCAR(登録商標)”PKHP(ユニオンカーバイド(株)製)、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(ヘンケル白水(株)製)、“アミラン(登録商標)”(東レ(株)製)、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)、“Matrimid(登録商標)”5218(チバ(株)製)、ポリスルホンとして“スミカエクセル(登録商標)”(住友化学(株)製)、“UDEL(登録商標)”、RADEL(登録商標)”(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(ビーエーエスエフジャパン(株)製)を挙げることができる。
また、アクリル系樹脂は、エポキシ樹脂との相溶性が高く、増粘等の流動性調整のために好適に用いられる。アクリル系樹脂の市販品を例示すると、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M,M100,M500(松本油脂製薬(株)製)、“Nanostrength(登録商標)”E40F、M22N、M52N(アルケマ(株)製)などを挙げることができる。
特に、耐熱性をほとんど損なわずにこれらの効果を発揮できることから、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好適である。ポリエーテルスルホンとしては、“スミカエクセル”(登録商標)3600P、“スミカエクセル”(登録商標)5003P、“スミカエクセル”(登録商標)5200P、“スミカエクセル”2(登録商標、以上、住友化学工業(株)製)7200P、“Virantage”(登録商標)PESU VW−10200、“Virantage”(登録商標)PESU VW−10700(登録商標、以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)、“Ultrason”(登録商標)2020SR(BASF(株)製)、ポリエーテルイミドとしては、“ウルテム”(登録商標)1000、“ウルテム”(登録商標)1010、“ウルテム”(登録商標)1040(以上、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)などを使用することができる。
かかる熱可塑性樹脂は、特に含浸性を中心としたプリプレグ作製工程に支障をきたさないように、エポキシ樹脂組成物中に均一溶解しているか、粒子の形態で微分散していることが好ましい。
また、かかる熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に溶解せしめる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、より好ましくは1〜25質量部である。一方、分散させて用いる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、より好ましくは15〜30質量部である。熱可塑性樹脂がかかる配合量に満たないと、靭性向上効果が不十分となる場合がある。また、熱可塑性樹脂が前記範囲を超える場合は、含浸性、タック・ドレープおよび耐熱性が低下する場合がある。
さらに、本発明のマトリックス樹脂を改質するために、上述した熱可塑性樹脂以外にエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、エラストマー、フィラー、ゴム粒子、熱可塑性樹脂粒子、無機粒子およびその他の添加剤を配合することもできる。
本発明に好ましく用いられるエポキシ樹脂には、ゴム粒子を配合することもできる。かかるゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(JSR(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(新日鐵化学(株)製)等を使用することができる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(以上、武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL−2611、EXL−3387(以上、Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MX(カネカ(株)製)等を使用することができる。
熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。中でも、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられ、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11やナイロン6/12共重合体は、特に良好な熱硬化性樹脂との接着強度を与えることができることから、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。ポリアミド粒子の市販品として、SP−500、SP−10(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”(アルケマ(株)製)等を使用することができる。
この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。本発明では、本発明の効果を損なわない範囲において、エポキシ樹脂組成物の増粘等の流動性調整のため、エポキシ樹脂組成物に、シリカ、アルミナ、スメクタイトおよび合成マイカ等の無機粒子を配合することができる。
プリプレグは、炭素繊維同士の接触確率を高め炭素繊維強化複合材料の導電性を向上させる目的で、導電性フィラーを混合して用いることも好ましい。このような導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属ナノ粒子、カーボン粒子、金属めっきした先に例示した熱可塑性樹脂の粒子、金属めっきした先に例示した熱硬化性樹脂の粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。なかでも安価で効果の高いカーボンブラック、カーボン粒子が好ましく用いられ、かかるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に用いられる。また、かかるカーボン粒子として“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(鐘紡(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)などが具体的に挙げられる。金属めっきした熱硬化性樹脂粒子としてはジビニルベンゼンポリマー粒子にニッケルをメッキし、さらにその上に金をメッキした粒子“ミクロパール(登録商標)”AU215などが具体的に挙げられる。
次に、プリプレグの製造方法について説明する。
プリプレグは、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、サイジング剤塗布炭素繊維束をマトリックス樹脂が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作製し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維束の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧してマトリックス樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがあり、特にスポーツ用品に関しては、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく採用される。より高品質で高性能の積層複合材料が要求される航空機用途においては、オートクレーブ成形法が好ましく採用される。各種車輌外装にはプレス成形法が好ましく用いられる。
本発明のプリプレグの炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、マトリックス樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
また、本発明において炭素繊維強化複合材料を得る方法としては、プリプレグを用いて得る方法の他に、ハンドレイアップ、RTM、“SCRIMP(登録商標)”、フィラメントワインディング、プルトルージョンおよびレジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することができる。これらのいずれかの成形法を適用することにより、前述のサイジング剤塗布炭素繊維と熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む繊維強化複合材料が得られる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物においては、上記に記載のサイジング剤塗布炭素繊維または上記に記載のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法により製造されたサイジング剤塗布炭素繊維と、熱可塑性樹脂を含んでなることが好ましい。
ここで用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン(m−PE)、酸変性ポリプロピレン(m−PP)、酸変性ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN);ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、未変性または変性されたポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)等の非晶性樹脂;フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系樹脂およびアクリロニトリル系エラストマー等の各種熱可塑エラストマー等、これらの共重合体および変性体等から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、耐熱性の観点からは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が好ましい。寸法安定性の観点からは、ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。摩擦・磨耗特性の観点からは、ポリオキシメチレン樹脂が好ましい。強度の観点からは、ポリアミド樹脂が好ましい。表面外観の観点からは、ポリカーボネートやポリスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましい。軽量性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
なお、熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を損なわない範囲で、これらの熱可塑性樹脂を複数種含む熱可塑性樹脂組成物が用いられても良い。
本発明において、上記好ましい熱可塑性樹脂を用いた場合のサイジング剤との相互作用について説明する。
本発明において、サイジング剤に含まれる炭素繊維との相互作用に関与しない残りのエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基は熱可塑性樹脂の主鎖にあるエーテル基、エステル基、スルフィド基、アミド基、側鎖にある酸無水物基、シアノ基、および末端にある水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の官能基と共有結合や水素結合などの相互作用を形成し、界面接着性を向上させるものと考えられる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、末端にあるチオール基やカルボキシル基と、サイジング剤のエポキシ基との共有結合等の相互作用、主鎖にあるスルフィド基とサイジング剤に含まれるエポキシ基や水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。
また、ポリアミド樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、末端にあるカルボキシル基やアミノ基と、サイジング剤に含まれるエポキシ基との共有結合などの相互作用、主鎖にあるアミド基とサイジング剤に含まれるエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。
また、ポリエステル系樹脂やポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、末端にあるカルボキシル基や水酸基と、サイジング剤に含まれるエポキシ基との共有結合などの相互作用、主鎖にあるエステル基と、サイジング剤に含まれるエポキシ基や水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。
また、ABS樹脂のようなポリスチレン系樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、側鎖にあるシアノ基と、サイジング剤に含まれるエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。
また、ポリオレフィン系樹脂の中で、特に酸変性されたポリオレフィン系樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、側鎖にある酸無水物基やカルボキシル基とサイジング剤に含まれるエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、ペレット、スタンパブルシートおよびプリプレグ等の成形材料の形態で使用することができる。最も好ましい成形材料はペレットである。ペレットは、一般的には、熱可塑性樹脂ペレットと連続状炭素繊維もしくは特定の長さに切断した不連続炭素繊維(チョップド炭素繊維)を押出機中で溶融混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものをさす。
上記成形材料の成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形が挙げられる。中でも、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。これらの成形方法により、成形品を得ることができる。
本発明において、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の成形体は、80℃の熱水に浸漬する前の曲げ強度(S1)と80℃の熱水に1000時間浸漬後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.75以上であることが好ましい。(S2/S1)が0.75以上であると、高温高湿環境下で使用しても、十分に炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物としての物性を保つことができ好ましい。0.80以上がより好ましい。
本発明において熱水浸漬前後の曲げ強度を測定するために用いられる成形体は、射出成形品から、長さ130±1mm、幅25±0.2mmの曲げ強度試験片を切り出したものを用いることができる。ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本発明においては、試験機として“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度(S1)とする。また、上記試験片を80℃の熱水中に1000時間浸漬し、表面の水分を除去した後、同様に測定した曲げ強度を(S2)とする。
本発明において、熱可塑性樹脂がポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。上記の樹脂は耐水性が高く、樹脂単独での吸水による物性低下は生じにくい。一方、炭素繊維を強化材として用いた場合、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面におけるサイジング剤の吸水に起因して物性低下が生じる。本発明における非水溶性エポキシ化合物(B)を含むサイジング剤を用いると、サイジング剤の吸水が抑制でき、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の耐水性が向上するため好ましい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途、さらにはゴルフシャフト、バット、バトミントンやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
(1)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の400eVでのX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源として佐賀シンクロトロンを用い、励起エネルギーは400eV、光電子脱出角度55°で測定した。試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(a)より(b)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(2)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤の洗浄
サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。
(3)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(4)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2 を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(5)炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、表面水酸基濃度(COH/C)
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04モル/リットルの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sのメインピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求めた。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表した。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの3弗化エタノール気体、0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sのメインピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
(6)サイジング剤のエポキシ価
サイジング剤のエポキシ価は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
(7)サイジング剤の水酸基価
サイジング剤の水酸基価は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、無水酢酸を用いて、水酸基をアセチル化し、生成した酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定する事により求めた。エポキシ基も滴定されるため、(6)で測定したエポキシ価の値で補正した。
(8)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(9)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmであった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSS(c)を、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(c)(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
IFSSの値が43MPa以上を◎、40MPa以上43MPa未満を○、30MPa以上40MPa未満を△、30MPa未満を×とした。◎、○が本発明において好ましい範囲である。
(10)湿潤環境保管後の界面剪断強度
炭素繊維束を温度50℃、湿度80%で14日保管後、(8)と同様にして界面剪断強度(IFSS)を測定した。(8)で測定したIFSS(c)MPaと、湿潤環境保管後のIFSS(d)MPaとの関係、すなわち経時変化後の低下率を、下記式(1)から算出した。
((c)−(d))/(c) (1)
経時変化後の低下率が10%未満を◎、10%以上20%未満を○、20%以上30%未満を△、30%以上を×とした。◎、○が本発明において好ましい範囲である。
(11)繊維強化複合材料の0°の定義
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、その軸方向を0°軸と定義し軸直交方向を90°と定義した。
(12)繊維強化複合材料の0°引張強度測定
作製後24時間以内の一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm2、2時間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/分で引張試験を行った。
本発明において、0°引張強度の値(e)MPaを(2)で求めたストランド強度の値で割り返したものを強度利用率(%)として、次式で求めた。
強度利用率=引張強度/((CF目付/190)×Vf/100×ストランド強度)×100
CF目付=190g/m2
Vf=56%
強度利用率が83%以上を◎、80%以上83%未満を○、78%以上80%未満を△、78%未満を×とした。◎、○が本発明において好ましい範囲である。
(13)粒度分布計によるエマルジョン粒径測定
水溶液に対する水以外の質量が5質量%のエマルジョン溶液に対して、粒度分布計(大塚電子製FAPR−1000)を用いてキュムラント平均粒子径を測定した。実施例ではn=3で測定し、その平均を測定結果とした。粒子の安定性の指標として、平均粒子径が100nm以上300nm未満を◎、300nm以上500nm未満を○、500nm以上600nm未満を△、600nm以上を×とした。◎、○が本発明において好ましい範囲である。
(14)射出成形品の曲げ特性評価方法
得られた射出成形品から、長さ130±1mm、幅25±0.2mmの曲げ強度試験片を切り出した。ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機として“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度(S1)とした。また、上記試験片を80℃の熱水中に1000時間浸漬し、表面の水分を除去した後、同様に測定した曲げ強度を(S2)とした。耐熱水性の指標として、(S2/S1)が0.75以上が好ましい範囲である。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。なお、固形分残存量は、25℃において、水90質量部に対しエポキシ化合物10質量部を混合し、24時間以上スターラーで攪拌し、JIS P3801(1956) 1種に該当するろ紙で濾過した後に残存する固形物の重量を示す。
・(A)成分:A−1〜A−4
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−810(ナガセケムテックス(株)製)
エチレングリコールのジグリシジルエーテル
エポキシ価:8.85meq/g、水酸基価:0meq/g、エポキシ基数:2、固形分残存量:0%
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ価:5.99meq/g、水酸基価:3.8meq/g、エポキシ基数:4、固形分残存量:52%
A−3:“デナコール(登録商標)”EX−313(ナガセケムテックス(株)製)
グリセロールポリグリシジルエーテル
エポキシ価:7.09meq/g、水酸基価:3.66meq/g、エポキシ基数:2、固形分残存量:1%
A−4:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ価:5.46meq/g、水酸基価:2.58meq/g、エポキシ基数:6.3、固形分残存量:0%。
・(B)成分:B−1〜B−6
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ価:5.71meq/g、エポキシ基数:3、固形分残存量:90%以上
B−2:“エピクロン(登録商標)”N660(DIC(株)製)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
エポキシ価:4.85meq/g、エポキシ基数:3、固形分残存量:90%以上
B−3:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ価:5.29meq/g、エポキシ基数:2、固形分残存量:90%以上
B−4:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ価:2.11meq/g、エポキシ基数:2、固形分残存量:90%以上
B−5:“デナコール(登録商標)”EX−731(ナガセケムテックス(株)製)
N−グリシジルフタルイミド
エポキシ価:4.63meq/g、エポキシ基数:1、固形分残存量:90%以上
B−6:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ価:5.99meq/g、エポキシ基数:2、固形分残存量:90%以上
B−7:“デナコール(登録商標)”EX−411(ナガセケムテックス(株)製)
ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル
エポキシ価:4.37meq/g、水酸基価:0meq/g、エポキシ基数:4、固形分残存量:90%
B−8:“デナコール(登録商標)”EX−622(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ価:5.24meq/g、水酸基価:1.19meq/g、エポキシ基数:5、固形分残存量:85%。
・エポキシ化合物(D1):D−1、D−2
D−1:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
エポキシ価:8.33meq/g
D−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ価:5.29meq/g。
・潜在性硬化剤(E)成分:E−1
E−1:“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)。
・熱可塑性樹脂
“スミカエクセル(登録商標)”5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学工業(株)製)。
ポリアリーレンスルフィド樹脂:
ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂ペレット・・・“トレリナ(登録商標)”M2888(東レ(株)製)。
ポリアミド樹脂:
ポリアミド66(PA)樹脂ペレット・・・“アミラン(登録商標)”CM3001(東レ(株)製)。
ポリカーボネート樹脂:
ポリカーボネート(PC)樹脂ペレット・・・“レキサン(登録商標)”141R(SABIC)。
ポリオレフィン系樹脂:
ポリプロピレン(PP)樹脂ペレット・・・未変性PP樹脂ペレットと酸変性PP樹脂ペレットの混合物(未変性PP樹脂ペレット:“プライムポリプロ(登録商標)”J830HV((株)プライムポリマー製)50質量部、酸変性PP樹脂ペレット:“アドマー(登録商標)”QE800(三井化学(株)製)50質量部)。
(実施例1)
本実施例は、次の第Iの工程、第IIの工程および第IIIの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、繊密度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり50クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.15、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は3.0nmであった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−4)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.0質量%となるように調整した。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および、湿潤環境保管をしたサイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
混練装置で、(D)成分として(D−1)を80質量部と(D−2)を20質量部に、10質量部のスミカエクセル5003Pを配合して溶解した後、硬化剤(E)成分として、(E−1)4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を作製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/m2で離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、気圧1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。続いて、0°引張試験を実施した。結果を表1に示す。0°引張強度利用率が十分高いことが確認できた。結果を表1に示す。
(実施例2〜10)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表1に示す(B)成分を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および、湿潤環境保管をしたサイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表1に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表1に示す。
(実施例11〜15)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表2に示す(A)成分を用いた以外は実施例3と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および、湿潤環境保管をしたサイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表2に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例16〜20)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表2に示す質量比にした以外は、実施例3と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および、湿潤環境保管をしたサイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表2に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例21)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−4)を50質量部、(B)成分として(B−3)を20質量部、芳香族ポリエステルを20質量部、乳化剤を10質量部、DMFに溶解してサイジング液を調合した。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および、湿潤環境保管をしたサイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例22)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、繊密度490テックス、比重1.8、ストランド引張強度6.3GPa、ストランド引張弾性率330GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.20、表面カルボン酸濃度COOH/Cは0.008、表面水酸基濃度COH/Cは0.030であった。これを炭素繊維Bとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例3と同様にした。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例23)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
電解液として濃度0.05モル/lの硫酸水溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり10クーロンで電解表面処理したこと以外は、実施例1と同様とした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.09、表面カルボン酸濃度COOH/Cは0.004、表面水酸基濃度COH/Cは0.003であった。これを炭素繊維Cとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例3と同様にした。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例24〜27)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
熱処理温度を表3に示すようにした以外は、実施例33と同様にした。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例28、29)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
熱処理温度を表3に示すようにした以外は、実施例3と同様にした。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した初期の接着性がやや不足したが、湿潤環境保管後の接着性の低下率は低いことがわかった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は十分高いことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例30)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−4)を50質量部、(B)成分として(B−1)を20質量部混合した後に、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部を混合して水分散エマルジョンを調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.0質量%となるように調整した。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および、湿潤環境保管をしたサイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性が十分に高く、湿潤環境保管後の接着性の低下率が低いことがわかった。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率がやや不足した。結果を表3に示す。
(比較例1〜3)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表4に示す質量比にした以外は、実施例3と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。励起エネルギー400eV、光電子脱出角度55°のX線光電子分光法によって測定されたC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した初期の接着性が低いことがわかった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率が低いことがわかった。結果を表4に示す。
(比較例4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表4に示す質量比にした以外は、実施例3と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。励起エネルギー400eV、光電子脱出角度55°のX線光電子分光法によって測定されたC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。IFSSで測定した初期の接着性は十分高いが、湿潤環境保管後のIFSSが低下した。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は良好であった。結果を表4に示す。
(比較例5、6)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として(A)成分、(B)成分を表4に示すようにした以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。励起エネルギー400eV、光電子脱出角度55°のX線光電子分光法によって測定されたC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。また、アセトン洗浄前後の(a)/(b)の比率を示す(I)/(II)が1であり、サイジング層の内側と外側で組成差が見られないことがわかった。また、IFSSで測定した初期の接着性は十分高いが、湿潤環境保管後のIFSSが低下した。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率は良好であった。結果を表4に示す。
(比較例7、8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として(A)成分、(B)成分を表4に示すようにした以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。励起エネルギー400eV、光電子脱出角度55°のX線光電子分光法によって測定されたC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、アセトン洗浄前後の(a)/(b)の比率を示す(I)/(II)が1であり、サイジング層の内側と外側で組成差が見られないことがわかった。また、IFSSで測定した初期の接着性が十分ではなかった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率が十分な値ではなかった。結果を表4に示す。
(比較例9)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−4)の水溶液を調整し、浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して0.30質量部となるように調整した。続いて、(B)成分として(B−3)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。このサイジング剤を浸漬法により(A)成分を塗布した炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.0質量%となるように調整した。励起エネルギー400eV、光電子脱出角度55°のX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、アセトン洗浄前後の(a)/(b)の比率を示す(I)/(II)が0.6よりも小さく本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した初期の接着性が十分ではなかった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。0°引張強度利用率が十分な値ではなかった。結果を表4に示す。
(実施例31)
実施例1で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径は290nmであり、エマルジョンが水中で安定に存在していることがわかった。結果を表5に示す。
(実施例32、33)
実施例3、11で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径はそれぞれ200、240nmであり、エマルジョンが水中で安定に存在していることがわかった。結果を表5に示す。
(実施例34)
実施例30で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径は540nmであり、エマルジョンが水中でやや不安定であることがわかった。結果を表5に示す。
(比較例10)
比較例2で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径は230nmであり、エマルジョンが水中で安定に存在していることがわかった。結果を表5に示す。
(比較例11)
比較例3で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径は600nmであり、エマルジョンが水中で不安定であることがわかった。結果を表5に示す。
(比較例12)
比較例4で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径は240nmであり、エマルジョンが水中で安定に存在していることがわかった。結果を表5に示す。
(比較例13)
比較例7で用いたサイジング剤水溶液について粒度分布計にて平均粒子径を測定した。平均粒子径は150nmであり、エマルジョンが水中で安定に存在していることがわかった。結果を表5に示す。
(実施例35)
本実施例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり50クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.15、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は3.0nmであった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−3)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−2)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物である。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤が塗布された炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤を塗布した炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤が塗布された炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PPS樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤が塗布された炭素繊維を供給し、バレル温度320℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPPS樹脂ペレット90質量部に対して、サイジング剤が塗布された炭素繊維が10質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表6に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が228MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.81であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(実施例36〜40)
本実施例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成が期待通りであることが確認できた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例35と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例35と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表6に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が十分に高いことがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.75以上であり十分に耐熱耐水性があることがわかった。
(比較例14)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例35と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例35と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表6に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が219MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.68であり耐熱水性が低いことがわかった。
(比較例15)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例35と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例35と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表6に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が215MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.88であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(実施例41〜46)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例35〜40と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PC樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度300℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPC樹脂ペレット92質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が8質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:320℃、金型温度:70℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表7に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が十分に高いことがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.75以上であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(比較例16)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表7に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例41と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例41と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表7に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が150MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.68であり耐熱水性が低いことがわかった。
(比較例17)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表7に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例41と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例41と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表7に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が145MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.80であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(実施例47〜52)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例35〜40と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PP樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度230℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPP樹脂ペレット80質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が20質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表8に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が十分に高いことがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.75以上であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(比較例18)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表8に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例47と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例47と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表8に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が97MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.89であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(比較例19)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表8に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例47と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例47と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表8に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が95MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.98であり十分に耐熱水性があることがわかった。
(実施例53〜58)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例35〜40と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PA66樹脂(PA)ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度280℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPA66樹脂ペレット70質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が30質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:300℃、金型温度:70℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表9に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が十分に高いことがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)は0.75以下であり耐熱水性が低いことがわかった。
(比較例20)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表9に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例53と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例53と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表9に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が340MPaであり十分に高いことがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.52であり耐熱水性が不十分であることがわかった。
(比較例21)
本比較例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例35と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表9に示す(A)成分、(B)成分を用いた以外は実施例35と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。これに続き、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。この結果、炭素繊維表面におけるサイジング剤の組成は本発明の範囲から外れていた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
実施例35と同様にした。
・第IVの工程:押出工程
実施例53と同様にした。
・第Vの工程:射出成形工程:
実施例53と同様に特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表9に示す。この結果、熱処理前の曲げ強度(S1)が320MPaであり不十分であることがわかった。また、熱処理後の曲げ強度(S2)との比(S2/S1)が0.67であり耐熱水性が不十分であることがわかった。