以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<基板濡れ性促進組成物>
本発明の一形態によれば、セルロース誘導体を主成分とする親水性成分と、溶媒成分と、を含む、基板濡れ性促進組成物(以下、単に「組成物」とも称する)が提供される。この際、前記セルロース誘導体の製造由来の不純物が0.1質量%以下であることを特徴とする。必要に応じてさらに公知の添加剤を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、「基板」とは、本形態に係る組成物によって濡れ性が促進されるものをいう。当該基板は、前記組成物の用途に応じて異なる。例えば、組成物を研磨に使用する場合には、前記基板としては、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜等の無機絶縁膜が形成された基板、多結晶シリコン膜が形成された基板、およびシリコン単結晶基板(シリコンウエハ)等が挙げられる。これらのうち、前記基板は、シリコンウエハであることが好ましい。
[親水性成分]
親水性成分は、セルロース誘導体を主成分とする。当該親水性成分には、その他公知の親水性化合物を含んでいてもよい。この際、前記親水性成分には、セルロース誘導体の製造由来の不純物を含む。なお、本明細書において、「主成分」とは、親水性成分の全質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%であることを意味する。なお、上限は100質量%であるが、99質量%以下であってもよい。
親水性成分の含有量の下限は、基板濡れ性促進組成物の全量に対して、0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、親水性成分の含有量の上限は、基板濡れ性促進組成物の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。親水性成分の含有量が上記範囲にあると、基板濡れ性促進組成物が優れた濡れ性を発現することから好ましい。
(セルロース誘導体)
セルロース誘導体とは、水に不溶のセルロースの水酸基の少なくとも1つが置換基で置換されて水溶性となったセルロースの誘導体を意味する。
セルロースとは、多数のβ−グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合したものであり、セルロースの構成単位は、C2位、C3位、およびC6位に水酸基を有する。前記水酸基は分子内、分子間で強固な水素結合を形成することから、一般にセルロースは、水や有機溶媒に不溶である。しかし、セルロースの水酸基の少なくとも一部を置換基で置換して、上記水素結合の少なくとも一部を切断することにより、セルロース誘導体は水溶性を示しうる。
前記置換基としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等が挙げられる。セルロースが置換基を複数有する場合には、それぞれの置換基は同じものであっても、異なるものであってもよい。
具体的なセルロース誘導体の例としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらのうち、濡れ性付与の作用の観点から、セルロース誘導体はヒドロキシエチルセルロース(HEC)であることが好ましい。これらのセルロース誘導体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セルロース誘導体の重量平均分子量(ポリエチレンオキシド換算)は、1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがさらに好ましい。セルロース誘導体の重量平均分子量が1,000以上であると、例えば研磨用途において、研磨される面の親水性が高まることから好ましい。
また、セルロース誘導体の重量平均分子量(ポリエチレンオキシド換算)は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましく、500,000以下であることが特により好ましく、300,000以下であることが最も好ましい。セルロース誘導体の重量平均分子量が2,000,000以下であると、例えば研磨用途において、シリカ粒子等を添加した際に高い分散安定性が得られることから好ましい。
上述のセルロース誘導体は、自ら製造しても、市販品を用いてもよいが、コストの観点から市販品を用いることが好ましい。当該市販品としては、AL−15、AL−15F、AH−25、SV−25F、CF−G、CF−V(住友精化株式会社製)、SP200、SP400、EP850、SE400、SE600、EE820(ダイセルファインケム株式会社製)、K100 PremiumLV、E4M Premium(ダウケミカル・カンパニー製)等が挙げられる。市販品のセルロース誘導体は、工業的に製造されることが通常であり、一般に、セルロースを準備する工程、セルロースをセルロース誘導体に変換する工程を経て製造される。
前記セルロースを準備する工程としては、木材、麦藁、サトウキビ、古紙、木綿等の自然原料からセルロースを得ることを含む。より詳細には、木材、麦藁、サトウキビ、古紙等から、物理的および/または化学的作用によりパルプを調製し、これからセルロースを得る方法;木綿からセルロースを得る方法等が挙げられる。
前記セルロースをセルロース誘導体に変換する工程としては、上記で準備したセルロースを化学的に反応させることを含む。これにより、セルロース誘導体を製造することができる。前記変換方法は、適宜公知の方法を使用することができる。例えば、以下の方法によりセルロースをセルロース誘導体に変換することができる。すなわち、セルロースを水に懸濁させ、塩基を添加することで、アルカリセルロースとし(アルカリ処理)、次いで、セルロースに試薬を添加することで、セルロース誘導体を得ることができる。
この際、前記塩基としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の公知の塩基が用いられうる。
また、前記試薬としては、所望とするセルロース誘導体が得られる試薬が用いられうる。例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を製造する場合には、酸化エチレン等を試薬として使用する。また、酢酸セルロースを製造する場合には、無水酢酸等を試薬として使用する。その他、前記試薬として、反応を促進させる触媒等が用いられうる。
塩基や試薬の種類・量、反応温度、反応時間等を適宜変更することで、セルロース誘導体の置換度や重量平均分子量等を制御することができる。
なお、化学反応によって得られたセルロース誘導体は、適宜、リン酸や硝酸等の酸による中和、精製、乾燥、造粒等が行われうる。
上述の方法によりセルロース誘導体を製造することによって、大量のセルロース誘導体を製造することができるため、コストの観点から有利である。したがって、上述のセルロース誘導体としては、自然原料由来の材料をアルカリ処理して得られたセルロース誘導体であることが好ましく、綿またはパルプをアルカリ処理して得られたセルロース誘導体であることがより好ましい。
(公知の親水性化合物)
上記の公知の親水性化合物としては、セルロース誘導体以外のものであれば特に制限されないが、ポリ(N−アシルアルキレンイミン)等のイミン誘導体;ポリビニルアルコール;変性(カチオン変性、アニオン変性、またはノニオン変性)ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリビニルカプロラクタム;ポリオキシエチレン等のポリオキシアルキレン等;並びにこれらの構成単位を含む共重合体が挙げられる。なお、上記親水性化合物が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。これら公知の親水性化合物は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
公知の親水性化合物の重量平均分子量(ポリエチレンオキシド換算)は、1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましく、200,000以上であることが特に好ましい。公知の親水性化合物の重量平均分子量が1,000以上であると、例えば研磨用途において、研磨される面の親水性が高まることから好ましい。
また、公知の親水性化合物の重量平均分子量(ポリエチレンオキシド換算)は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましく、500,000以下であることが特に好ましい。公知の親水性化合物の重量平均分子量が2,000,000以下であると、例えば研磨用途において、シリカ粒子等を添加した際に高い分散安定性が得られることから好ましい。
公知の親水性化合物を含む場合の含有量は、親水性成分の全質量に対して、50質量%未満であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、1〜30質量%であることがさらに好ましい。
[溶媒成分]
溶媒成分としては、特に制限されないが、環境面、操作の簡便性などの観点から、水であることが好ましい。この際、前記水は、不純物が可能な限り含有されていないものであることが好ましい。当該水としては、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる不純物の除去、蒸留による異物を除去した水であることが好ましい。このような水として、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等が挙げられる。
溶媒成分の含有量は、基板濡れ性促進組成物の全量に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。また、溶媒成分の含有量は、基板濡れ性促進組成物の全量に対して、99.98質量%以下であることが好ましく、99.95質量%以下であることがより好ましく、99.9質量%以下であることがさらに好ましい。
[不純物]
不純物とは、セルロース誘導体の製造工程において含有されうるものである。当該不純物は、特に工業的にセルロース誘導体を製造する際に含有されうる。
前記不純物としては、特に制限されないが、難溶性の無機塩、凝集物、その他の不純物等が挙げられる。
前記難溶性の無機塩としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウムマグネシウム等のリン酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩等が挙げられる。当該難溶性の無機塩は、通常、セルロース誘導体を製造する際におけるアルカリ処理の工程や酸による中和の工程等に添加される試薬、溶媒成分(水等)に含有されるイオン等に起因するものでありうる。
前記凝集物としては、例えば、シリカ(SiO2)の凝集物;その他酸化物の凝集物等が挙げられる。当該凝集物は、通常、セルロース原料となるパルプや綿、セルロース誘導体を製造する際に使用されうる消泡剤に含有されうるシリカ、溶媒(水等)に含有されるケイ素、第2族元素等に起因するものであり、通常、1〜200μm程度の平均粒子径を有するものである。
前記その他の不純物としては、未反応のセルロースが挙げられる。当該未反応のセルロースは、セルロースをセルロース誘導体に変換する際に反応しなかった未変換物に起因するものでありうる。
本発明において、セルロース誘導体の製造由来の不純物が0.1質量%以下であることを特徴とする。当該不純物の含有量は、好ましくは0.05質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以下であり、最も好ましくは0,005質量%以下である。不純物の含有量が0.1質量%以下であれば、不純物が有意に少ない基板濡れ性促進組成物となる。なお、前記不純物の含有量は、基板濡れ性促進組成物の全量に対する含有量である。不純物の含有量の下限は0質量%であるが、1ppb以上であってもよい。
また、本発明の一実施形態において、前記不純物が、マグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方を含み、前記マグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方の含有量が、前記基板濡れ性促進組成物の全量に対して、15ppb以下であることが好ましく、10ppb以下であることがより好ましく、5ppb以下であることがさらに好ましい。前記マグネシウムおよびカルシウムは、上述の難溶性の無機塩に起因するものでありうる。そのため、マグネシウムおよび/またはカルシウムの含有量は、前記難溶性の無機塩の含有量と一定の相関関係が見られる場合がある。上記のマグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方の含有量の下限は0ppbであるが、0.001ppb以上であってもよい。なお、本明細書において、上記の「マグネシウムの含有量」および「カルシウムの含有量」とは、組成物中のマグネシウム元素およびカルシウム元素の含有量を意味し、親水性成分の濃度を1質量%に調整した組成物を用いて、誘導結合高周波プラズマ分光分析法(ICP−AES)により測定された値を採用するものとする。
<基板濡れ性促進組成物の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、セルロース誘導体を主成分とする親水性成分と、溶媒成分と、を含む基板濡れ性促進組成物を製造する方法が提供される。
基板濡れ性促進組成物は、特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、親水性成分を溶媒成分に添加し、撹拌する方法等が挙げられる。
この際、本形態に係る基板濡れ性促進組成物に含有されるセルロース誘導体には、製造工程由来の不純物を含む場合がある。そこで、前記製造方法において、当該不純物を除去または低減する工程を含むことが好ましい。これにより、本形態に係る基板濡れ性促進組成物において、セルロース誘導体の製造由来の不純物が0.1質量%以下となりうる。
前記不純物を除去または低減する工程としては、セルロース誘導体の製造由来の不純物を除去または低減できるものであれば特に制限されないが、(A)セルロース誘導体を溶解ろ過する工程、(B)セルロース誘導体を分級する工程、または(C)セルロース誘導体を溶解し、前記セルロース誘導体の製造由来の不純物に含まれるカチオンを除去する工程であることが好ましい。
すなわち、好ましい実施形態において、基板濡れ性促進組成物の製造方法は、(A)セルロース誘導体を溶解ろ過する工程、(B)セルロース誘導体を分級する工程、および(C)セルロース誘導体を溶解し、前記セルロース誘導体の製造由来の不純物に含まれるカチオンを除去する工程からなる群から選択される少なくとも1種の工程を含むことが好ましい。
以下、(A)セルロース誘導体を溶解ろ過する工程、(B)セルロース誘導体を分級する工程、(C)セルロース誘導体の製造由来の不純物に含まれるカチオンを除去する工程の順に説明する。
[工程(A):セルロース誘導体を溶解ろ過する工程]
本工程は、セルロース誘導体を溶媒に溶解してセルロース誘導体溶液を調製した後、ろ過する工程である。本工程により、セルロース誘導体の製造由来の不純物、好ましくは凝集物の少なくとも一部を除去することができる。
前記溶媒としては、セルロース誘導体を溶解できるものであれば特に制限されないが、上述の溶媒成分が用いられうる。さらに、セルロース誘導体の分散安定性が高まることから、上述の溶媒に一般的な塩基性化合物を加えることが好ましい。
セルロース誘導体溶液のpHは7超であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
前記セルロース誘導体溶液中のセルロース誘導体の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。セルロース誘導体の含有量が0.01質量%以上であると、一定量以上のセルロース誘導体溶液をろ過することができ、生産性の観点から好ましい。
また、前記セルロース誘導体溶液中のセルロース誘導体の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。セルロース誘導体の含有量が10質量%以下であると、セルロース誘導体溶液の粘度が過度に高くならず、高いろ過速度が得られることから好ましい。
セルロース誘導体溶液のろ過に使用されるろ材としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ナイロン、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート、ガラス等が挙げられる。
フィルタ構造としては、特に制限されないが、デプス構造、プリーツ構造、メンブレン構造等が挙げられる。
フィルタの目開きとしては、特に制限されないが、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましい。フィルタの目開きが0.05μm以上であると、高いろ過速度が得られることから好ましい。
また、フィルタの目開きとしては、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。フィルタの目開きが100μm以下であると、ろ過の精度が向上することから好ましい。
ろ過方法としては、常圧で行う自然ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過のいずれであってもよい。
本工程は、2度以上行ってもよい。この際、フィルタの目開き等の条件を適宜変更することが好ましい。例えば、1度目の溶解ろ過では、広い目開きのフィルタを用いて粗大粒子を除去し、2度目の溶解ろ過では、狭い目開きのフィルタを用いて微小粒子を除去する方法等が挙げられる。溶解ろ過を2度以上行うことで、より効率的に不純物を除去することが可能となる。
[工程(B):セルロース誘導体を分級する工程]
本工程は、セルロース誘導体を分級する工程である。本工程により、セルロース誘導体の製造由来の不純物、好ましくは難溶性の無機塩、凝集物、未反応のセルロース、より好ましくは難溶性の無機塩、凝集物の少なくとも一部を除去することができる。なお、本明細書において、「分級」とは、不純物を含むセルロース誘導体から、一定以上の粒子径を有する不純物を分離することを意味する。当該分級は、通常、分級装置を用いて行われる。
分級装置としては、例えば、振動ふるい機、ローヘッドスクリーン、電磁スクリーン等のふるい分け装置;ミクロンセパレーター、サイクロン等の乾式分級装置;デカンタ型遠心分離機、液体サイクロン装置、ドラッグ分級機等の湿式分級装置が挙げられ、これらの分級装置を適宜組み合わせてもよい。
本工程は、2度以上行ってもよい。この際、ふるいの種類や分級方法等の条件を適宜変更することが好ましい。例えば、1度目の分級では、サイクロンを用いて分級を行い、2度目の分級では、振動ふるい機を用いて分級を行う方法等が挙げられる。また、各分級の間にセルロース誘導体の解砕を行ってもよい。分級を2度以上行うことで、より効率的に不純物を除去することが可能となりうる。
[工程(C):セルロース誘導体の製造由来の不純物に含まれるカチオンを除去する工程]
本工程は、セルロース誘導体を溶媒に溶解してセルロース誘導体溶液を調製した後、カチオンを除去する工程である。本工程により、セルロース誘導体の製造由来の不純物、好ましくは難溶性の無機塩の少なくとも一部を除去することができる。
前記溶媒の種類、およびセルロース誘導体溶液中のセルロース誘導体の含有量は、セルロース誘導体を溶解ろ過する工程と同様であることから、ここでは説明を省略する。
カチオンを除去する方法としては、特に制限されないが、イオン交換法を利用することが好ましい。イオン交換法としては、セルロース誘導体溶液を、イオン交換樹脂を充填したカラムに通し、セルロース誘導体とセルロース誘導体の製造由来の不純物とを分離する方法が挙げられる。
用いられうるイオン交換樹脂としては、特に制限されないが、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂等が挙げられる。
前記強酸性カチオン交換樹脂が有する交換基としては、スルホン酸基等が挙げられる。
前記弱酸性カチオン交換樹脂が有する交換基としては、カルボキシ基、フェノール性水酸基等が挙げられる。イオン交換樹脂としては市販品を使用してもよく、当該市販品としては、ダイヤイオン(商標)シリーズ(三菱化学株式会社製)、アンバーライト(商標)、アンバージェット(商標)(オルガノ株式会社製)等が挙げられる。
本工程は、2度以上行ってもよい。この際、セルロース誘導体溶液のpHやイオン交換樹脂の種類等の条件を適宜変更することが好ましい。例えば、1度目のイオン交換においては、低いpH(弱塩基性)のセルロース誘導体溶液を用い、2度目のイオン交換の前にセルロース誘導体溶液のpH調整を行い、高いpH(強塩基性)のセルロース誘導体溶液を調製した後、2度目のイオン交換を行う方法等が挙げられる。イオン交換を2度以上行うことで、より効率的に不純物を除去することが可能となりうる。
また、カチオンの除去と共にアニオンを除去することが好ましい。カチオンの除去後にアニオンを除去することが更に好ましい。カチオン除去工程後のわずかに存在しうる残留カチオンと結合するアニオンを除去することによって、難溶性の無機物が生成される可能性を低減することができる。
アニオンの除去に用いられうるイオン交換樹脂としては、特に制限されないが、強塩基性アニオン交換樹脂I型、強塩基性アニオン交換樹脂II型、弱塩基性アニオン交換樹脂等が挙げられる。
前記強塩基性アニオン交換樹脂I型が有する交換基としては、トリメチルアンモニウム基等が挙げられる。
前記強塩基性アニオン交換樹脂II型が有する交換基としては、ジメチルエタノールアンモニウム基等が挙げられる。
前記弱塩基性アニオン交換樹脂が有する交換基としては、三級アミノ基等が挙げられる。
上述の工程(A)〜(C)は、単独で行っても、2以上を組み合わせて行ってもよい。この際、2以上を組み合わせて行う場合には、いずれの順序で行ってもよい。すなわち、工程(A)−工程(B)の順に行っても、工程(A)−工程(C)の順に行っても、工程(A)−工程(B)−工程(C)の順に行っても、工程(A)−工程(C)−工程(B)の順に行っても、工程(B)−工程(A)−工程(C)の順に行ってもよい。これらうち、工程(B)−工程(A)−工程(C)の順に行うことが好ましい。
また、上述のように各工程は、それぞれ2度以上行ってもよい。よって、工程(A)−工程(B)−工程(A)−工程(C)、工程(B)−工程(B)−工程(A)−工程(C)、工程(B)−工程(B)−工程(A)−工程(C)−工程(C)等の多様な順序、組み合わせで行うことができる。
なお、上述の工程(A)〜(C)の2以上を組み合わせる場合、各工程間には、当然に公知の処理、例えば、解砕処理、pH調整処理やその他の精製処理等が行われてもよい。
上述のような前記不純物を除去または低減する工程を経ることで、セルロース誘導体の製造由来の不純物が0.1質量%以下の組成物を得ることができる。
<研磨用組成物>
上述の基板濡れ性促進組成物は、種々の用途に用いられうる。例えば、研磨、研磨後のリンス、およびはんだ付け等の用途に用いられうる。これらのうち、研磨および研磨後のリンスの用途に使用することが好ましい。以下、上述の組成物を研磨用途に使用することについて特に詳細に説明する。
本発明の一形態によれば、本発明の基板濡れ性促進組成物を含む研磨用組成物が提供される。本形態に係る研磨用組成物によれば、研磨された基板(研磨対象物)が優れた性能を有しうる。
従来、セルロース誘導体、特に工業用のセルロース誘導体を含む研磨用組成物は、用いるセルロース誘導体のロット等によって、研磨対象物の性能が異なることがあった。その結果、セルロース誘導体のロットを切り替えるたびに、異なる性能を有する研磨対象物が得られることとなり、この結果は、特にナノオーダーレベルでの精密性を要する半導体分野においては重大な影響を及ぼしうる。
上記性能の変化を詳細に検討した結果、低い性能となった研磨対象物の表面には、微小欠陥(Light Point Defects:LPD)が発生していることを見出した。そして、さらなる詳細な検討の結果、当該LPDの個数はセルロース誘導体のロットごとに異なることが判明した。
本発明者らは、LPDの発生が、セルロース誘導体に含有されうる不純物と相関関係を有することを見出し、当該不純物を除去または低減することによって、LPDの発生を防止または抑制できることを見出した。
本形態に係る研磨用組成物は、上述の基板濡れ性促進組成物と、シリカ粒子と、塩基性化合物と、を含む。
より詳細には、本形態に係る研磨用組成物は、セルロース誘導体を主成分とする親水性成分と、シリカ粒子と、塩基性化合物と、溶媒成分とを含む。また、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。この際、前記研磨用組成物に含有されうる不純物(以下、「研磨用組成物の不純物」とも称する)は、0.1質量%であり、好ましくは0.05質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以下であり、最も好ましくは0,005質量%以下である。また、研磨用組成物の不純物の含有量の下限は0質量%であるが、1ppb以上であってもよい。なお、研磨用組成物の不純物の含有量は、研磨用組成物の全量に対する含有量である。
また、本発明の一実施形態において、研磨用組成物の不純物が、マグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方を含み、前記マグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方の含有量が、前記研磨用組成物の全量に対して、10ppb以下であることが好ましく、5ppb以下であることがより好ましい。また、上記のマグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方の含有量の下限は0ppbであるが、0.001ppb以上であってもよい。なお、研磨用組成物中のマグネシウムの含有量およびカルシウムの含有量の測定方法は、基板濡れ性促進組成物の場合と同様である。
研磨用組成物のpHは、8以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、9以上であることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHが8以上であると、研磨面を化学的に研磨する機能が向上し、また、シリカ粒子等の分散性が向上することから好ましい。
また、研磨用組成物のpHは、12.5以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、11.5以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHが12.5以下であると、研磨面の平滑性が向上することから好ましい。研磨用組成物のpHは、後述の塩基性化合物、pH調整剤の配合量等により調整することができる。
以下、研磨用組成物に含有されうる各成分について、詳細に説明する。
[親水性成分]
親水性成分としては、上述のセルロース誘導体や公知の親水性化合物等が用いられうることからここでは説明を省略する。
前記基板濡れ性組成物に含有されうるセルロース誘導体の製造由来の不純物は0.1質量%以下であることから、研磨用組成物の不純物もまた、0.1質量%以下となりうる。その結果、本形態に係る研磨用組成物を用いることにより、研磨対象物のLPDの発生を防止または抑制することができ、また、研磨面における異物の残存を防止することができる。
研磨用組成物中の親水性成分の含有量は、研磨用組成物の全量に対して、0.002質量%以上であることが好ましく、0.004質量%以上であることがより好ましく、0.006質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。研磨用組成物中の親水性成分の含有量が0.002質量%以上であると、研磨面の濡れ性がより向上することから好ましい。
また、研磨用組成物中の親水性成分の含有量は、研磨用組成物の全量に対して、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物中の親水性成分の含有量が0.5質量%以下であると、研磨用組成物の分散安定性が向上することから好ましい。
[シリカ粒子]
シリカ粒子は、研磨対象となる面を機械的に研磨する機能を有する。
前記シリカ粒子としては、特に制限されないが、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、ゾルゲル法シリカ等が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子は、基板としてシリコン基板を用いた場合に研磨表面に発生しうるスクラッチを防止または抑制する観点から、コロイダルシリカ、フュームドシリカであることが好ましく、コロイダルシリカであることがより好ましい。なお、前記シリカ粒子は、セルロース誘導体の製造由来の不純物の1つであるシリカの凝集物を含まないことが好ましい。含んだとしても0.1質量%以下である。当該シリカの凝集物は、上述の不純物の平均粒子径の記載からも明らかなように、後述するシリカ粒子の平均一次粒子径または平均二次粒子径と対比して、極めて大きい粒子径を有している。
シリカ粒子は表面修飾されていてもよい。シリカ粒子を表面修飾することにより、ゼータ電位が比較的大きな負の値を有するため、研磨用組成物の分散性が向上し、研磨用組成物の保存安定性が向上しうる。
表面修飾されたシリカ粒子としては、有機酸で表面修飾したシリカ粒子(好ましくは、コロイダルシリカ)であることが好ましい。この際、前記有機酸としては、特に制限されないが、スルホン酸、カルボン酸、リン酸等が挙げられる。
シリカを表面修飾する方法は、特に制限されず、公知の方法が適宜適用されうる。例えば、スルホン酸をコロイダルシリカに表面修飾する場合には、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”(Chem. Commun. 246-247 (2003))に記載の方法により行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後、過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面修飾されたコロイダルシリカを得ることができる。また、カルボン酸をコロイダルシリカに表面修飾する場合には、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”(Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000))に記載の方法により行うことができる。具体的には、光反応性の2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後、光照射を行うことにより、カルボン酸が表面修飾されたコロイダルシリカを得ることができる。
これらのシリカ粒子は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリカ粒子の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径が5nm以上であると、シリコン基板の研磨速度が向上することから好ましい。
また、シリカ粒子の平均一次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径が100nm以下であると、研磨用組成物の分散安定性が向上することから好ましい。なお、本明細書において、「シリカ粒子の平均一次粒子径」の値は、Flow SorbII 2300(マイクロメリティックス社製)を用いて、BET法により測定される比表面積の値を採用するものとする。
シリカ粒子の平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。シリカ粒子の平均二次粒子径が10nm以上であると、研磨する際に高い研磨速度が得られることから好ましい。
また、シリカ粒子の平均二次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径が200nm以下であると、研磨用組成物の分散安定性が向上することから好ましい。なお、本明細書において、「シリカ粒子の平均二次粒子径」の値は、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により測定された値を採用するものとする。
シリカ粒子のアスペクト比(長径/短径比)の平均値は、1.0以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。シリカ粒子のアスペクト比の平均値が1.0以上であると、研磨する際に高い研磨速度が得られることから好ましい。
また、シリカ粒子のアスペクト比(長径/短径比)の平均値は、3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。シリカ粒子のアスペクト比の平均値が3.0以下であると、研磨面に生じうるスクラッチを防止または低減できることから好ましい。なお、本明細書において、「アスペクト比(長径/短径比)の平均値」は、以下の方法により算出した値を採用するものとする。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて200個の粒子を観察し、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、得られた長方形の短辺の長さ(短径の値)に対する長辺の長さ(長径の値)を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
シリカ粒子の真比重は、特に制限されないが、1.5以上であることが好ましく、1.6以上であることがより好ましく、1.7以上であることがさらに好ましい。
また、シリカ粒子の真比重は、2.2以下であることが好ましく、2.1以下であることがより好ましい。シリカ粒子の真比重が1.5以上であると、研磨する際に高い研磨速度が得られることから好ましい。なお、本明細書において、「真比重」の値は、粒子を乾燥させた際の質量と、これに容量既知のエタノールを満たした際の質量とから算出される値を採用するものとする。
研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量は、研磨用組成物の全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量が0.1質量%以上であると、研磨対象となる面に対する研磨速度等の表面加工性能が向上することから好ましい。
また、研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量は、研磨用組成物の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量が10質量%以下であると、研磨用組成物の分散安定性が向上し、かつ、研磨された面のシリカ粒子の残渣が低減することから好ましい。
[塩基性化合物]
塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する機能を有する。また、研磨速度を向上させる機能を有する。さらに、研磨用組成物の分散安定性を向上させる機能を有する。
前記塩基性化合物としては、特に制限されないが、アンモニア、アミン、第四級アンモニウムの水酸化物または塩、アルカリ金属の水酸化物または塩等が挙げられる。この際、前記塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン等が挙げられる。
第四級アンモニウムの水酸化物または塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物または塩としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
上記塩基性化合物のうち、アンモニア、第四級アンモニウムの水酸化物または塩、アルカリ金属の水酸化物または塩であることが好ましく、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムであることがより好ましく、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム水酸化カリウム、水酸化ナトリウムであることがさらに好ましく、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウムであることが特に好ましく、アンモニアであることが最も好ましい。
上記の塩基性化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量は、研磨用組成物の全量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.002質量%以上であることがより好ましく、0.003質量%以上であることがさらに好ましく、0.004質量%以上であることが特に好ましい。研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量が0.001質量%以上であると、研磨対象となる面の化学的な研磨作用が向上し、また、研磨用組成物の分散安定性が向上することから好ましい。
また、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量は、研磨用組成物の全量に対して、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量が1.0質量%以下であると、研磨された面の平滑性が向上することから好ましい。
[溶媒成分]
溶媒成分としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
[研磨用組成物の不純物]
研磨用組成物の不純物としては、セルロース誘導体の製造由来の不純物並びに/またはシリカ粒子、塩基性化合物、および溶媒成分からなる群から選択される少なくとも1つに起因する不純物が挙げられる。すなわち、研磨用組成物の不純物とは、上述した基板濡れ性促進組成物における不純物(セルロース誘導体の製造由来の不純物)とは異なる概念である。
前記セルロース誘導体の製造由来の不純物としては、上述したものが挙げられる。
前記シリカ粒子、塩基性化合物、および溶媒成分からなる群から選択される少なくとも1つに起因する不純物としては、例えば、研磨用組成物の製造過程でシリカ粒子が凝集してなるシリカの凝集物等が挙げられる。
[その他の添加剤]
研磨用組成物に含有されうる添加剤としては、特に制限されないが、砥粒、pH調整剤、界面活性剤、有機酸またはその塩・無機酸またはその塩、キレート剤、防腐剤・防カビ剤等が挙げられる。
(砥粒)
砥粒は、シリカ粒子とともに、研磨対象となる面を機械的に研磨する機能を有する。
前記砥粒としては、シリカ粒子以外の無機粒子、有機粒子、有機無機複合粒子が挙げられる。
前記シリカ粒子以外の無機粒子としては、アルミナ(Al2O3)粒子、セリア(CeO2)粒子、チタニア(TiO2)粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。
前記有機粒子としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子等が挙げられる。
砥粒の含有量は、特に制限されず、研磨用組成物の用途等に応じて適宜設定されうる。
(pH調整剤)
pH調整剤は、研磨用組成物のpHを調整する機能を有する。pHを調整することにより、研磨速度やシリカ粒子の分散性等を制御することができる。
pH調整剤としては、特に制限されず、公知の酸、塩基、またはこれらの塩が挙げられる。
前記酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。これらのうち、pH調整剤は、硫酸、硝酸、リン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、イタコン酸であることが好ましい。
前記塩基としては、上述の塩基性化合物の他、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン;有機塩基;アルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。これらのうち、前記塩基としては、入手容易性の観点から、水酸化カリウム、アンモニアであることが好ましい。
また、上記の酸または塩基の代わりに、または組み合わせて、上記の酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。特に、弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、弱酸と弱塩基の組み合わせとすると、pHの緩衝作用を得ることができる。
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜設定されうる。
(界面活性剤)
界面活性剤は、研磨面の荒れを抑制する機能を有する。研磨面の荒れを抑制することにより、研磨面のヘイズを低減しうる。なお、本形態に係る研磨用組成物は、化学的な研磨を行う塩基性化合物を含むため、界面活性剤を添加することにより、研磨面の荒れをより有効に抑制しうる。
界面活性剤としては、特に制限されないが、重量平均分子量が1000未満のノニオン性またはイオン性の界面活性剤が挙げられる。
前記ノニオン性の界面活性剤としては、オキシアルキレン重合体、ポリオキシアルキレン付加物等が挙げられる。
前記オキシアルキレン重合体としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
前記ポリオキシアルキレン付加物としては、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンオレイルアミド等のポリオキシエチレンアルキルアミド;ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセルエーテル脂肪酸エステル;モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のヒマシ油;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等の共重合体等が挙げられる。
上記の界面活性剤のうち、起泡性が低いため、研磨用組成物の調製時や使用時の取り扱いが容易となり、また、pHの調整が容易となる観点から、ノニオン界面活性剤を用いることが好ましい。
上記の界面活性剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(有機酸またはその塩・無機酸またはその塩)
有機酸またはその塩・無機酸またはその塩は、研磨面の親水性を向上させる機能を有する。
有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸;安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸;クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸等の多価カルボン酸;有機スルホン酸;有機ホスホン酸等が挙げられる。
有機酸塩としては、特に制限されないが、上記有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。
無機酸としては、特に制限されないが、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。
無機酸塩としては、特に制限されないが、上記無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。
これらのうち、研磨製品の金属汚染を抑制する観点から、有機酸または無機酸のアンモニウム塩を用いることが好ましい。
上述の有機酸またはその塩・無機酸またはその塩は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(キレート剤)
キレート剤は、金属不純物と錯体を形成することで捕捉し、研磨製品の金属汚染を防止または抑制する機能を有する。
キレート剤としては、特に制限されないが、アミノカルボン酸系キレート剤、有機ホスホン酸系キレート剤等が挙げられる。
前記アミノカルボン酸系キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム等が挙げられる。
前記有機ホスホン酸系キレート剤としては、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、トリエチレンテトラアミンヘキサ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等が挙げられる。
上記キレート剤のうち、有機ホスホン酸系キレート剤であることが好ましく、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)であることがより好ましい。
上述のキレート剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(防腐剤・防カビ剤)
防腐剤・防カビ剤としては、特に制限されないが、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物;パラオキシ安息香酸エステル類;フェノキシエタノール等が挙げられる。
上述の防腐剤・防カビ剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<研磨用組成物の製造方法>
研磨用組成物の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法が適用されうる。具体例としては、親水性成分、シリカ粒子、塩基性化合物、および任意の添加剤を、溶媒成分に順次添加することにより製造することができる。また、シリカ粒子、および塩基性化合物を溶媒成分に添加し、得られた混合液に親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を混合することにより、研磨用組成物を製造してもよい。これらのうち、後者の方法で研磨用組成物を製造することが好ましい。すなわち、好ましい実施形態において、研磨用組成物の製造方法は、シリカ粒子、および塩基性化合物を溶媒成分に添加して混合液を調製する工程と、前記混合液に親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を添加する工程とを含む。この際、任意の添加剤は、前記混合液に添加しても、基板濡れ性組成物に添加してもよい。以下、上記の好ましい実施形態による製造方法について説明する。
[シリカ粒子、および塩基性化合物を溶媒成分に添加して混合液を調製する工程]
本工程では、混合液を調製する。
混合液は、シリカ粒子、塩基性化合物、および溶媒成分を含む。必要に応じて任意の添加剤を含んでいてもよい。
混合液中のシリカ粒子の含有量は、混合液全量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。シリカ粒子の含有量が1質量%以上であると、製造される研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量の調整が容易となることから好ましい。
また、混合液中のシリカ粒子の含有量は、混合液全量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。シリカ粒子の含有量が50質量%以下であると、シリカ粒子の凝集が防止されうることから好ましい。
混合液中の塩基性化合物の含有量は、混合液全量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。塩基性化合物の含有量が0.01質量%以上であると、シリカ粒子の凝集が抑制されうることから好ましい。
また、混合液中の塩基性化合物の含有量は、混合液全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。塩基性化合物の含有量が10質量%以下であると、製造される研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量の調整が容易となることから好ましい。
前記混合液のpHは7超(アルカリ性)であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、9以上であることがさらに好ましい。pHが7超(アルカリ性)であると、シリカ粒子等を含有する混合液に基板濡れ性促進組成物を添加した場合にシリカ粒子の凝集が抑制される。それにより、最終的に得られる研磨用組成物の分散安定性を向上させる働きが高まる傾向となることから好ましい。
また、前記混合液のpHは、12以下であることが好ましく、10.5以下であるであることがより好ましい。pHが12以下であると、シリカ粒子の溶解を抑制することができることから好ましい。
任意の添加剤の含有量は、所望とする性能等に応じて適宜設定されうる。
[混合液に親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を添加する工程]
本工程では、上記工程で調製した混合液に、親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を添加する。この際、前記親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)は、必要に応じて任意の添加剤を含みうる。
前記混合液が7超であると、混合液中のシリカ粒子が高い分散安定性を有するため、親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を添加した際に生じうるシリカの凝集を防止または抑制することができる。
前記親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を、混合液に投入する際の速度は、混合液1Lに対して、0.1mL/分以上であることが好ましく、1mL/分以上であることよりが好ましく、5mL/分以上であることがさらに好ましい。投入速度が0.1mL/分以上であると、研磨用組成物の生産効率を上げることができることから好ましい。
また、前記親水性成分および溶媒成分を含む溶液(基板濡れ性促進組成物)を、混合液に投入する際の速度は、混合液1Lに対して、500mL/分以下であることが好ましく、100mL/分以下であることよりが好ましく、50mL/分以下であることがさらに好ましい。投入速度が500mL/分以下であると、シリカの凝集を抑制することができることから好ましい。
研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。この場合の希釈倍率は、2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることよりが好ましく、10倍以上であることがさらに好ましい。上記希釈倍率が2倍以上であると、研磨用組成物の原液の輸送コストが安価になるとともに、保管場所を節約することができることから好ましい。
また、上記希釈倍率は、100倍以下であることが好ましく、50倍以下であることよりが好ましく、40倍以下であることがさらに好ましい。上記希釈倍率が100倍以下であると、研磨用組成物の原液の安定性が保たれ易くなることから好ましい。
本形態に係る研磨用組成物は、上述のように、不純物(研磨用組成物の不純物)が0.1質量%以下であることを特徴とする。したがって、上記研磨用組成物を製造するに際しては、原料、製造条件等を適宜設定して、研磨用組成物の不純物を0.1質量%以下にする必要がある。
研磨用組成物の不純物を0.1質量%以下とする手段としては、特に制限されないが、上述の(A)の工程〜(C)の工程の少なくとも1つの工程を含むことによりセルロース誘導体の製造由来の不純物を除去または低減されたセルロース誘導体または研磨用組成物を原料として使用する方法;シリカ粒子を投入する順序や投入速度、投入される液体のpH、投入後のpH等を制御することにより、シリカ粒子の凝集を防止する方法等が挙げられる。なお、(C)工程を経て製造されたセルロース誘導体等を原料として研磨用組成物を製造すると、研磨用組成物に含有されうるマグネシウムおよびカルシウムの少なくとも一方の含有量が好適に低減される傾向がある。
<基板の製造方法>
上述の研磨用組成物は、基板の研磨の用途に用いられうる。当該基板としては、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜等の無機絶縁膜が形成された基板、多結晶シリコン膜が形成された基板およびシリコンウエハ等が挙げられる。これらのうち、本形態に係る研磨用組成物はシリカ粒子を含有することから、基板として、多結晶シリコン膜が形成された基板、シリコンウエハを適用することが好ましく、シリコンウエハを適用することがより好ましい。これにより、高い性能を有するシリコンウエハが製造されうる。
すなわち、本発明の一形態によれば、シリコンウエハの製造方法が提供される。前記シリコンウエハの製造方法は、研磨用組成物によりシリコンウエハを研磨することを含む。
シリコンウエハは、多くの場合、Cz法(Czochralski法)またはFz法(Floating Zone法)によってシリコン単結晶インゴットを形成し、これを加工して製造される。この際、上述の研磨用組成物は、シリコン単結晶インゴットから円盤状にスライスされたシリコン基板の表面を平面化する粗研磨工程(一次研磨・二次研磨)、粗研磨工程後のシリコン基板の表面に存在する微細な凹凸を更に除去して鏡面化する最終研磨工程において使用されうる。前記研磨用組成物は優れた性能を有する研磨対象物を与えることから、最終研磨工程に使用することが好ましい。
用いられうる研磨装置としては、特に制限されず、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと、回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
前記研磨パッドについても、特に制限されず、一般的な不織布、ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等が用いられうる。この際、前記研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
研磨条件についても特に制限はなく、適宜設定することができる。例えば、研磨定盤の回転速度は、10〜500rpmであることが好ましい。また、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5〜10psiであることが好ましい。
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法についても特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この際、供給量についても制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
研磨用組成物を用いて基板を研磨するに際しては、一度研磨に使用された研磨用組成物を回収して、基板の研磨に再び使用してもよい。研磨用組成物を再使用する方法としては、例えば、研磨装置から排出された研磨用組成物をタンク内に回収し、再度研磨装置内へ循環させて使用する方法が挙げられる。研磨用組成物を再使用する方法は、廃液として排出される研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷が低減できる点、および使用する研磨用組成物の量が減ることにより基板の研磨にかかる製造コストを抑制できる点において有用である。
なお、研磨用組成物を再使用する場合には、研磨により消費・損失された親水性成分等の各成分の一部または全部を、組成物調整剤として添加することが好ましい。なお、親水性成分の調製方法は、上述の研磨用組成物の製造方法に係る記載が適宜参照されうる。
研磨用組成物は、シリコンウエハ以外の研磨製品を得る研磨用組成物に適用されてもよい。シリコンウエハ以外の研磨製品の具体例としては、ステンレス等の金属、プラスチック基板、ガラス基板、石英基板等が挙げられる。なお、研磨用組成物に含有させる成分は、研磨製品に応じて適宜変更されてもよい。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(比較例1)
はじめに、市販品のヒドロキシエチルセルロース(HEC)粉末(重量平均分子量250,000(ポリエチレンオキサイド換算)、製品名:SE−400、ダイセルファインケム株式会社製)を準備した。
これに、HECの濃度が1質量%となるように、水を添加し、撹拌することで、基板濡れ性促進組成物を製造した。
(実施例1)
上述の工程(C)を行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
より詳細には、はじめに市販品のHEC粉末(重量平均分子量250,000(ポリエチレンオキサイド換算)、製品名:SE−400、ダイセルファインケム株式会社製)を用い、HECの濃度が1質量%となるように、水を添加し、撹拌することで、セルロース誘導体溶液を調製した。
次に、得られたセルロース誘導体溶液を、強酸性カチオン交換樹脂(交換基:スルホン酸基、製品名:UBK−116、三菱化学株式会社製)が充填されたカラムに通すことで、セルロース誘導体の製造由来の不純物に含まれうるカチオンを除去した。
得られたセルロース誘導体溶液を、HECの濃度が1質量%となるように調整することで、基板濡れ性促進組成物を製造した。
(実施例2)
上述の工程(B)および(C)をこの順に行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
はじめに工程(B)を行った。
具体的には、振動ふるい機(製品名:電磁式ふるい振とう機 ASコントロール、株式会社レッチェ製)を用いて市販品のHEC粉末(重量平均分子量250,000(ポリエチレンオキサイド換算)、製品名:SE−400、ダイセルファインケム株式会社製)の分級を行った。この際、JIS準拠のステンレス製試験篩(φ200mm×H45mm、目開き100μm)を通過したものを回収した。
次いで、工程(C)を行った。
具体的には、市販品のHEC粉末を、工程(B)で分級したHEC粉末に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で、工程(C)を行った。
工程(C)で得られたセルロース誘導体溶液を、HECの濃度が1質量%となるように調整することで、基板濡れ性促進組成物を製造した。
(実施例3)
上述の工程(A)および(C)をこの順に行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
はじめに、工程(A)を行った。
具体的には、市販品のHEC粉末(重量平均分子量250,000(ポリエチレンオキサイド換算)、製品名:SE−400、ダイセルファインケム株式会社製)を用い、HECの濃度が1質量%となるように、水を添加し、撹拌することで、セルロース誘導体溶液を調製した。
次に、得られたセルロース誘導体溶液をポリプロピレン製フィルタ(目開き:1μm、製品名:プロファイルII、日本ポール株式会社製)でろ過した。
次いで、工程(C)を行った。
具体的には、市販品のHEC粉末を水に溶解したセルロース誘導体溶液を、工程(A)で得られたろ液に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で、工程(C)を行った。
工程(C)で得られたセルロース誘導体溶液(ろ液由来)を、HECの濃度が1質量%となるように調整することで、基板濡れ性促進組成物を製造した。
(実施例4)
上述の工程(B)、(A)、および(C)をこの順に行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
はじめに、工程(B)を行った。
具体的には、実施例2と同様の方法で、分級したHEC粉末を得た。
次に、工程(A)を行った。
具体的には、市販品のHEC粉末を、工程(B)で分級したHEC粉末に変更したことを除いては、実施例3と同様の方法で、工程(A)を行った。
最後に工程(C)を行った。
具体的には、市販品のHEC粉末を水に溶解したセルロース誘導体溶液を、本実施例の工程(A)で得られたろ液に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で、工程(C)を行った。
工程(C)で得られたセルロース誘導体溶液(ろ液由来)を、HECの濃度が1質量%となるように調整することで、基板濡れ性促進組成物を製造した。
(比較例2)
上述の工程(B)を行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
より詳細には、工程(C)を行わなかったことを除いては、実施例2と同様の方法で基板濡れ性促進組成物を製造した。
(比較例3)
上述の工程(A)を行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
より詳細には、工程(C)を行わなかったことを除いては、実施例3と同様の方法で基板濡れ性促進組成物を製造した。
(比較例4)
上述の工程(B)および(A)をこの順に行って得られたHECを用いて基板濡れ性促進組成物を製造した。
より詳細には、工程(C)を行わなかったことを除いては、実施例4と同様の方法で基板濡れ性促進組成物を製造した。
[性能評価]
上記実施例1〜4および比較例1〜4で製造した基板濡れ性促進組成物を用いて、各種性能評価を行った。
(強熱残分の測定)
基板濡れ性促進組成物の強熱残分を求めた。
具体的には、はじめに磁製るつぼの空重量を測定した。
次に、基板濡れ性促進組成物を105℃の恒温乾燥器内に24時間放置し、当該組成物の乾燥物(以下、「測定試料」と称する)を得た。
その後、磁製るつぼに測定試料を約1g投入して磁製るつぼの重量を測定し、磁製るつぼの空重量との差から、測定試料の重量(S(g))を求めた。
次に、磁製るつぼ内に硫酸3mLを添加し、ガラス細棒で撹拌した。次いで、電熱器を用いて磁製るつぼを加熱し、測定試料による白煙が発生しなくなった時点で加熱を終了した。そして、磁性るつぼを電気炉により、600℃で180分加熱した。
空冷後、磁製るつぼの重量を測定し、磁製るつぼの空重量との差から、灰分の重量(W(g))を測定し、下記式(1)により強熱残分(重量%)を算出した。
上記式(1)において、Sは測定試料の重量(g)であり、Wは灰分の重量(g)である。
なお、前記灰分には、難溶性の無機塩、凝集物、未反応のセルロース等の不純物に由来する灰分が含まれうる。
(マグネシウムの含有量およびカルシウムの含有量の測定)
基板濡れ性促進組成物(親水性成分:1質量%)中のマグネシウムの含有量およびカルシウムの含有量を求めた。
具体的には、製造した基板濡れ性促進組成物を、測定装置としてICPS−8100(株式会社島津製作所製)を用いて、誘導結合高周波プラズマ分光分析法(ICP−AES)により、基板濡れ性促進組成物中のマグネシウムの含有量およびカルシウムの含有量を求めた。この際、n=3の平均値を求め、小数点以下は四捨五入した。
(LPCの測定)
基板濡れ性促進組成物中のLPC(Large Particle Count)を測定した。ここでは、基板濡れ性促進組成物中に存在する0.7μm以上の粗大粒子の数を測定した。
具体的には、測定装置として、アキュサイザー(登録商標)FX(米国パーティクルサイジングシステムズ(Particle Sizing Systems)社製)を用いてLPCを測定した。この際、n=3の平均値を求め、小数点以下は四捨五入した。
実施例1〜4および比較例1〜4の性能評価の結果を下記表1に示す。
表1の比較例1の結果から、今回使用したHEC粉末については、得られた基板濡れ性促進組成物中の強熱残分の量、カルシウムの量、およびマグネシウムの量が多かった。また、基板濡れ性促進組成物中の0.7μm以上のLPCの個数も多かった。
よって、比較例1の基板濡れ性促進組成物では優れた濡れ性等が得られない可能性がある。また、比較例1の基板濡れ性促進組成物を、例えば、シリコンウエハ等の基板の研磨に使用した場合、基板濡れ性促進組成物中に不純物が含有されることにより、研磨された基板にLPD等の欠陥が生じる可能性があることが理解される。
なお、比較例1と、実施例1〜4とを対比すると、セルロース誘導体中の不純物を除去または低減する工程を行うことにより、強熱残分の量、カルシウムの量、およびマグネシウムの量が低減されていることから、上記不純物の多くは、セルロース誘導体の製造由来のものであることが理解される。
表1の実施例1〜4と比較例2〜4との対比から、工程(C)、すなわち、セルロース誘導体の製造由来の不純物に含まれるカチオンを除去する工程により、多くの不純物が除去されたことが理解される。よって、今回使用したHEC粉末については、難溶性の無機塩が不純物の多くを構成していたことが理解される。
また、表1の実施例1および2と、実施例3および4との結果の対比から、工程(A)、すなわち、セルロース誘導体を溶解ろ過する工程を含むことにより、LPCの個数が有意に低減されていることが理解される。よって、工程(A)を経たセルロース誘導体を用いた基板濡れ性促進組成物を用いて、例えば、基板を研磨した際、粗大粒子によって生じうるLPDを防止できる可能性がある。また、表1の実施例2および4の結果の対比から、工程(A)を含むことにより、強熱残分、カルシウム含有量、マグネシウム含有量、およびLPCのすべてを低減できることが理解される。
さらに、表1の実施例3および4の結果の対比から、工程(B)、すなわち、セルロース誘導体を分級する工程を含むことにより、強熱残分、カルシウム含有量、マグネシウム含有量、およびLPCのすべてを低減できることが理解される。