JP2014125683A - 炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】効率的に高品質なアクリル系炭素繊維束を製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維前駆体アクリル繊維束を酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化工程A、及び、2本以上の加熱ロールにより熱処理する耐炎化工程Bを有する炭素繊維束の製造方法であって、耐炎化工程Bの加熱ロール間におけるアクリル繊維束の発生張力が0.05cN/dtex以上であるの炭素繊維束の製造方法である。耐炎化工程Bのロール群間に0%〜20%の伸長をかけることが好ましい。酸化性雰囲気中にある表面温度が270〜400℃の加熱ロール群に10秒〜120秒接触させ密度1.35〜1.42とする耐炎化工程Bを有することが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明はアクリル系炭素繊維束より炭素繊維束を製造方法に関する。
炭素繊維は、比強度・比弾性に優れているため、スポーツ、レジャー用品から航空宇宙用途まで幅広く利用されている。近年では、従来のゴルフクラブや釣竿などのスポーツ用途、航空機用途に加え、風車部材、自動車部材、CNGタンク、建造物の耐震補強、船舶部材などいわゆる一般産業用途への展開が進み、それに伴いより効率的に炭素繊維を製造する方法が求められている。
炭素繊維は、工業的には前駆体繊維を200〜300℃の空気中で熱処理する耐炎化工程、及び1000℃以上の不活性雰囲気中で熱処理する炭素化工程を経て製造される。
近年、大型成型物向けの炭素繊維束が開発されているが、生産効率をよくするための耐炎化時間の短縮が課題となっている。耐炎化時間を短くするには耐炎化温度を高く設定することが考えられるが工程安定性の点から高温短時間の耐炎化には限界がある。
耐炎化処理の方式としては雰囲気加熱方式と加熱体接触方式などがある。雰囲気加熱方式は、伝熱効率が低くエネルギー消費が大きく、除熱効率が悪く、炭素繊維束が太くなると、蓄熱によるトウ温度の上昇、暴走が起こるため、両者を比較すると相対的に低温長時間に設定する必要がある。一方で加熱体接触方式は伝熱効率、除熱効率が高く、製造する炭素繊維束が太くなっても蓄熱による暴走が起こり難くため、相対的に高温短時間での耐炎化が可能となる。
特開昭59−30914号公報には繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱し、次いで220〜400℃の加熱体表面に繰り返し間欠的に接触させる加熱体接触方式が提案されている。これらはネルソン型ロールを使用した接触方式の提案であり相対的に総繊度の小さいトウを単錘で処理する方法である。これらは総繊度の高い繊維束を多錘並べて製造するには適用が困難であり、生産性が低く工業的に量産する方法に適さない問題がある。ネルソン型ロールは2本のロール間に繊維束1本を多重巻きにして使用する接触方式であり、通常はロール1本に対して繊維束1本を処理する方法である。本発明では総繊度が10000〜100000dtexの太繊度の炭素繊維束をマシン幅方向に多錘並べて、3本〜24本の多数本の加熱ロール群に接触させる製造方法に関するものではない。
特開昭61−167023号公報には繊維を250〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱しC.I.値が0.1〜0.2になるまで耐炎化し、次いで250〜350℃に加熱された加熱体に繰り返し断続的に接触させC.I.値が0.35以上になるまで耐炎化し、さらに250〜350℃の酸化性雰囲気中で加熱することが記載されている。この方法は耐炎化繊維の製造方法であり、炭素繊維の製造に関するものではない。また、耐炎化工程の中間に加熱ロールを用いる耐炎化処理方法であり、本発明が提案する耐炎化工程後半に270〜400℃の高温加熱ロールにより耐炎化する製造方法とは異なる。
特開昭59−30914号公報 特開昭61−167023号公報
本発明の目的は、効率的に高品質なアクリル系炭素繊維束を製造する方法を提供することにある。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化工程A、及び、2本以上の加熱ロールにより熱処理する耐炎化工程Bを有する炭素繊維束の製造方法であって、
耐炎化工程Bの加熱ロール間におけるアクリル繊維束の発生張力が0.05cN/dtex以上であるの炭素繊維束の製造方法である。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、耐炎化工程Bのロール群間に0%〜20%の伸長をかけることが好ましい。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、酸化性雰囲気中にある表面温度が270〜400℃の加熱ロール群に10秒〜120秒接触させ密度1.35〜1.42とする耐炎化工程Bを有することが好ましい。
本発明の製造方法では、耐炎化工程に所要する時間が短いにも関わらず、高品位、高品質な炭素繊維束の製造方法を提供する。
本発明の耐炎化工程Bを表わの概略図である。
以下に本発明を詳細に説明する。
<重合>
本発明に用いるアクリル繊維はアクリル系重合体より構成され、90モル%以上のアクリロニトリルと10モル%以下の共重合可能なビニル系モノマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などの共重合体を挙げることができる。共重合成分が10モル%を越すと後述する耐炎化工程で単繊維間接着が生じやすくなり好ましくない。
アクリル系共重合体を重合する方法としては、特に限定されないが、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを適用することができる。
<紡糸>
アクリル系共重合体を紡糸する際に使用する溶媒としては、特に限定されないが、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、塩化亜鉛水溶液、硝酸などの有機・無機の溶媒を使用することができる。
アクリル系共重合体溶液を紡糸する方法としては、特に限定されないが、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などを適用することができる。湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などで得られた凝固糸を従来公知の水洗、浴延伸、工程油剤付与、乾燥緻密化、スチーム延伸などを行うことにより所定の繊度を有するアクリル系前駆体繊維束とする。
工程油剤には、従来公知のシリコーン系油剤やケイ素を含まない有機化合物からなる油剤などを用いることができる。後述する耐炎化工程や前炭素化工程での単繊維間の接着を防止できれば、工程油剤として好適に使用できる。シリコーン系油剤としては、変性シリコーンで、かつ、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものが好ましい。
工程油剤を付与された繊維束は、加熱により乾燥するのが良い。乾燥処理は50〜200℃に加熱されたロールに接触させて行うのが効率的である。繊維束の含有水分率が1重量%以下となるまで乾燥し、繊維構造を緻密化させることが好ましい。
また、乾燥された繊維束は、延伸するのが良い。延伸する方法としては、特に限定されないが、乾熱延伸法、熱板延伸法、スチーム延伸法などを適用することができる。
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
本発明に用いる炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束のフィラメント数としては特に限定されないが1000〜100000であることが好ましい。
本発明に用いる炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束のアクリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は特に限定されないが0.1〜5.0dtexが好ましい。
本発明に用いる炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束のアクリル系前駆体繊維束の総繊度は特に限定されないが3000〜100000dtexが好ましい。
<耐炎化>
本発明の製造方法におけるアクリル繊維束の耐炎化は雰囲気加熱方式(オーブン)と加熱体接触方式(加熱ロール)を併用することが好ましい。
本発明の製造方法においてはアクリル繊維束の耐炎化工程の前半は雰囲気加熱炉方式、工程の後半は加熱体接触方式(加熱ロール)を用いることが好ましい。
本発明の耐炎化工程前半で用いる雰囲気加熱方式は伝熱効率が低く、反応熱が繊維束内部に蓄熱し発火しやすいため比較的低温長時間での酸化処理を行なう方法である。一方で耐炎化工程後半に用いる加熱体接触方式は伝熱効率が高く、反応熱が繊維束内部に蓄熱発火しにくいため、比較的高温短時間で処理を行なうことができる方式である。
本発明の炭素繊維束の製造方法ではこれらの加熱方式を組み合わせた耐炎化工程を提案する。本発明の製造方法における耐炎化工程では、前半は比較的に低温長時間の耐炎化を行い、後半は比較的に高温短時間の耐炎化をする。加熱体接触方式による高温短時間の耐炎化処理を補填することで雰囲気加熱方式を単独で適用した場合の耐炎化時間を半減するとともに、高品位、高品質の炭素繊維束の製造方法を提供する。
炭素繊維束製造における耐炎化工程においては雰囲気加熱方式を用いることが主流であり耐炎化時間を短くすることが生産性を上げる課題である。本発明の製造方法は時間を要している耐炎化工程の処理時間の半減を実現するものである。耐炎化工程の後半に270℃〜400℃の高温加熱ロールに20秒〜360秒の短時間接触させる手法である。耐炎化工程全体でみると耐炎化工程後半の密度上昇を急加速して耐炎化する方法を提案する。
例えば、炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束の総繊度が30000〜100000dtexを雰囲気加熱方式単独で密度1.35〜1.41g/cm近傍まで耐炎化するには60分〜240分の時間を必要する。一方で加熱体接触方式により総繊度が30000〜100000dtexである炭素繊維前駆体繊維を300℃以上で密度1.41g/cm近傍まで耐炎化する場合に要する時間は2分〜20分で可能である。本発明の製造方法は上記の両者の加熱方式を併用して耐炎化時間20分〜50分と短くすることを目的としている。
本発明の製造方法では、耐炎化時間を短くしたにも関わらず、高い品質、品位を有する炭素繊維の製造方法を提供できる。これらは耐炎化工程に雰囲気加熱方式と加熱方式の組み合わせにより実現可能であり、さらに各工程の温度範囲、処理時間、適用密度範囲、適用張力、伸長率制御により実現可能となる。
<オーブン加熱耐炎化>
本発明の製造方法においては、アクリル繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気中で密度1.27〜1.35g/cmにする耐炎化工程Aを有する。
用いるアクリル繊維束の耐炎化反応性にもよるが、300℃以上では蓄熱による暴走が起こり耐炎化処理はできない。
耐炎化密度1.27g/cm以上では後工程の比較的に高温短時間の加熱体接触方式を適用した場合に製造される炭素繊維の性能発現性が良好である。
<ロール加熱耐炎化>
本発明の製造方法における耐炎化工程Aにより処理されたアクリル繊維束は、加熱ロール群で構成される耐炎化工程Bで処理を行なう。
本発明の耐炎化工程Aに雰囲気加熱炉を用いた場合に適用する温度は200℃〜300℃である。耐炎化工程Aの最高温度近傍に加熱ロール群の初段の温度を設定することが好ましい。耐炎化各工程間には急激な処理温度差がないように、滑らかな温度プロファイルを描くように昇温度することが好ましい。急激な処理温度差が各工程間にあると工程間の伸長バランスや張力バランスが崩れて構造形成、性能発現性に悪い影響を及ぼし、大きく張力や伸長バランスが崩れると巻きつき、切断等の工程トラブルが発生する。
加熱ロール表面温度と接触時間により密度上昇量は決定されるので、特定の密度に処理する加熱ロール群への接触時間は特定される。
ロール加熱群より構成される耐炎化工程Bではロール間に急激な処理温度差が発生しないように、滑らかな温度プロファイルにすることが好ましい。急激な処理温度差あるとロール間の伸長バランスや張力バランスが崩れて構造形成、性能発現性に悪い影響を及ぼすだけでなく、大きく張力や伸長バランスが崩れると巻きつき、切断等の工程トラブルが発生するので好ましくない。
耐炎化密度は用いるアクリル繊維束の耐炎化反応性と加熱ロール温度と接触時間により決まる。
<加熱ロール本数>
加熱ロール群を構成する本数は使用するロール直径、加熱接触面積に関係するので特に限定されるものではない。加熱ロール直径が0.1〜2mを使用する場合は3本〜24本が好ましい。
本発明の製造方法では用いる加熱ロール群の温度適用範囲、その温度プロファイル、密度適用範囲、その密度上昇プロファイル、伸長率-張力、張力適用範囲、その伸長率-張力プロファイルにより高い品質、品位の炭素繊維束の製造を可能とする。ロール本数が3本以下ではきめ細やかな温度設定、温度プロファイル、密度、密度プロファイル、伸長率-張力、伸長率-張力プロファイルが形成できない。
<ロール耐炎化接触時間総計>
本発明に製造方法におけるロール耐炎化加熱ロール表面温度は260℃〜400℃、接触時間は20秒〜360秒である。20秒以下では使用する加熱ロール群の温度を400℃以上とする必要がある。
<ロール耐炎化張力>
本発明の製造方法の耐炎化工程Bにおけるアクリル繊維束の張力は耐炎化工程Aの出口におけるアクリル繊維束の張力以上に設定することが好ましい。耐炎化工程Aの出口よりもアクリル繊維束の発生張力が低いことは張力緩和がおこる可能性が高く、耐炎化工程Aで形成した構造からの構造緩和が起こり性能発現性に影響を及ぼす。すなわち、ロール加熱工程中に張力を発生させ、ロール間での構造緩和がないようにすることが必要である。
加熱ロール群間の発生張力は加熱ロール群間の伸長率調整により制御可能となる。加熱ロール群間の伸長率を上げると発生張力を高くすることができる。加熱ロール群の伸長率が低い場合、伸長緩和、及び、張力緩和が起こりやすい状態となるので伸長方法に設定することが好ましい。
本発明の製造方法における耐炎化工程Bの加熱ロール群におけるアクリル繊維束の張力は0.05cN/dtex以上であることが好ましい。上述のとおり発生張力が0.05cN/dtex以下であると張力緩和、伸長率緩和がおこり、構造緩和がおこり性能発現性に影響を及ぼす。
<加熱ロール耐炎化伸長率>
加熱ロール群による耐炎化は雰囲気加熱方式に比較して工程での延伸性が高くなる特徴ある。雰囲気加熱方式は処理時間を長くするために、相対的に長い有効炉長で処理するが、トウを駆動するロールとロール間の距離が相対的に長く工程中で延伸しようとすると処理されるアクリル繊維束内での延伸点にバラツキが発生するため延伸倍率は10%程度が上限である。また、雰囲気加熱方式はロールとロール間の距離が長く、トウの自重の影響もあるため工程中の伸長率上げなくても高い張力が発生する。
一方で加熱ロール群による耐炎化における伸長はロールとロール間の距離は相対的に短く、延伸した場合にトウ内の延伸点のバラツキも小さくなり20%以上の延伸をかけても破断しない。
耐炎化工程での延伸、又は伸長は繊維の結晶配向を高くすることが可能とし、製造される炭素繊維束の性能向上にも寄与する。
<投入密度>
耐炎化工程への前駆体繊維束の投入密度が高いほど生産性の面では好ましいが、大きくなると後述する雰囲気加熱処理中に発熱反応により繊維束の温度が高くなり分解反応が急激に起こり、繊維束が切断するため、好ましくは1500〜5000dtex/mm、より好ましくは2000〜4000dtex/mmである。
<雰囲気>
雰囲気については、空気、酸素、二酸化窒素など公知の酸化性雰囲気を採用できるが、経済性の面から空気が好ましい。また、加熱体表面で加熱された繊維束は、加熱体表面で加熱された後、加熱体表面の温度より低い温度の酸化性ガスにより冷却されるため、加熱体の表面温度は、雰囲気加熱方式の場合の雰囲気温度に比較して高い温度にすることができる。そのため、加熱体から離れた繊維束の周りの雰囲気温度は、加熱体表面温度より100℃以上低くする必要がある。
<前炭素化>
続いて、かかる耐炎化繊維束を炭素化処理することになるが、その前に前炭素化処理をすることが好ましい。前炭素化処理は省略することもできるが、前炭素化処理を行なうと炭素繊維の機械的特性を向上し、炭素化処理の時間も短縮でき、炭素化収率も向上する。
前炭素化条件としては、不活性雰囲気中、最高温度が500〜800℃で緊張下に、400〜500℃の温度領域において300℃/分以下、好ましくは100℃/分以下の昇温速度で加熱することが炭素繊維の機械的特性を向上させる、また、炭素化収率を向上させるために有効である。また、前炭素化処理時間としては、生産性及び炭素繊維としての強度発現性の観点から0.6〜3.0分であることが好ましい。雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
<焼成速度>
炭素化工程への繊維束の投入速度としては、速いほど生産性の面からは好ましいが、前炭素化炉及び炭素化炉の大きさにもよるが、後述する前炭素化工程及び炭素化工程での十分な処理時間が確保できなくなり、該工程中で繊維束が切断したり、炭素繊維の機械的特性が低下したり、炭素化収率が低下するため、好ましくは2.0〜20.0m/分、より好ましくは3.0〜15.0m/分である。
<炭素化>
かかる前炭素化繊維束の炭素化条件としては、不活性雰囲気中、最高温度が1200〜2000℃で緊張下に、1000〜1200℃の温度領域において500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下の昇温速度で加熱することが炭素繊維の機械的特性を向上させるために有効である。また、炭素化処理時間としては、生産性及び炭素繊維としての強度発現性の観点から0.6〜3.0分であることが好ましい。雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
<黒鉛化>
さらに、必要に応じて公知の方法により黒鉛化することができる。例えば、かかる炭素化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度が2000〜3000℃で緊張下に加熱することにより黒鉛化することができる。
<表面処理>
こうして得られた炭素化(黒鉛化)繊維束の表面改質のため、電解酸化処理をすることができる。電解酸化処理に用いる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドといったアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解酸化処理に要する電気量は、適用する炭素繊維により適宜選択することができる。かかる電解酸化処理により、得られる複合材料において炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を適正化でき、得られる複合材料においてバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
<サイジング剤処理>
この後、得られる炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。
<成形>
こうして得られた炭素(黒鉛)繊維束は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもできるし、織物などのプリフォームとした後、ハンドレイアップ法、プルトルージョン法、レジントランスファーモールディング法などにより複合材料に成形することもできる。また、フィラメントワインディング法や、チョップドファイバーやミルドファイバー化した後、射出成形することにより複合材料に成形することができる。
本発明を実施例により具体的に説明する。
<前駆体繊維束及び炭素繊維束の総繊度の測定>
前駆体繊維束及び炭素繊維束の総繊度は、JIS R 7605に準拠して測定した。
<耐炎化工程への投入密度の測定>
耐炎化工程への投入密度は、下記式より求めた。
耐炎化工程への投入密度(dtex/mm)=前駆体繊維束の総繊度/前駆体繊維束の幅
<耐炎化繊維束の密度の測定>
耐炎化繊維束の密度は、JIS R 7603に準拠して測定した。
<樹脂含浸ストランド特性>
ストランド強度及びストランド弾性率は、JIS-R-7608に記載された試験法に準拠して測定した。
<耐炎化工程から炭素化工程の伸長率>
耐炎化工程から炭素化工程の伸長率(%)は、耐炎化工程入側の前駆体繊維束の走行速度及び炭素化工程出側の炭素繊維束の走行速度から、下記式より求めた。
耐炎化工程から炭素化工程の伸長率(%)=(炭素化工程出側の炭素繊維束の走行速度−耐炎化工程入側の前駆体繊維束の走行速度)/耐炎化工程入側の前駆体繊維束の走行速度×100
<炭素繊維束のサイジング剤の付着量の測定>
炭素繊維束のサイジング剤の付着量は、JIS R 7604に準拠して測定した。
(実施例1)
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
アクリロニトリル98モル%、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル2モル%からなる共重合体をジメチルアセトアミドに溶解して濃度が22重量%の溶液を作成した。この溶液を孔径60μm、ホール数3000の紡糸口金を通して、温度35℃、濃度45%のDMAC水溶液中で凝固させた。この凝固繊維束を水洗後、延伸し、アミノ変性シリコーン油剤を付与した後、乾燥して単繊維繊度2.5dtex、総繊度7500dexの炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
<耐炎化工程A>
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を投入密度が3000dtex/mmであり、温度が230〜260℃の空気中で緊張下に40分間加熱し、密度1.29g/cmの途中耐炎化繊維束を得た。
耐炎化工程Aにおける伸長率は0%、耐炎化工程出の発生張力は0.1cN/dtexであった。
<耐炎化工程B>
耐炎化工程Aで得られた途中耐炎化繊維束を図1に示す構成の加熱ロール群I〜IIIで構成された耐炎化工程Bの処理を行ない密度1.41g/cmの耐炎化繊維束を得た。加熱ロール群I〜IIIの6本の加熱ロールはフリーロールで構成し、工程前後に設置した駆動装置により途中耐炎化繊維を搬送した。
ロール加熱群Iからなる耐炎化工程IのR1とR2の表面温度は270℃、280℃、ロール加熱群IIからなる耐炎化工程IIのR3とR4の表面温度は290℃、330℃ ロール加熱群IIIからなる耐炎化工程IIIのR5とR6の表面温度は360℃、360℃に設定した。耐炎化工程Bにおける伸長率は0%、耐炎化工程出の発生張力は0.1cN/dtexであった。
耐炎化処理に要した時間は耐炎化工程Aと耐炎化工程Bを併せて41分であった。
<前炭素化>
この耐炎化繊維束を窒素雰囲気中、最高温度が600℃で緊張下に1分間加熱し前炭素化繊維束とした。この炭素化処理での400〜500℃での昇温速度は200℃/分であった。前炭素化工程の伸長率は3%に設定した。
<炭素化>
得られた前炭素化繊維束を窒素雰囲気中、最高温度が1350℃で緊張下に1分間加熱し炭素化繊維束とした。この炭素化処理での1000〜1200℃での昇温速度は400℃/分であった。炭素化工程の伸長率は−4.5%に設定した。
<表面処理・サイズ剤付与>
得られた炭素化繊維束を表面処理後、サイジング剤を付与し、炭素繊維束を得た。
<CF性能・品位>
この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性を測定すると弾性率228GPa、強度3.5GPaであった。製造工程中での毛羽発生頻度は低く、高品位な炭素繊維束が得られた。
設定条件と評価結果は表1に示す。
(実施例2)
耐炎化工程Bの伸長率を5%にした以外は実施例1と同様な方法で炭素繊維束を得た。耐炎化工程出の発生張力は0.13cN/dtexであった。この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性を測定すると弾性率235GPa、強度3.7GPaであった。製造工程中での毛羽発生頻度は低く、高品位な炭素繊維束が得られた。
(実施例3)
耐炎化工程Bの伸長率を10%にした以外は実施例1と同様な方法で炭素繊維束を得た。耐炎化工程出の発生張力は0.16cN/dtexであった。この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性を測定すると弾性率235GPa、強度3.9GPaであった。製造工程中での毛羽発生頻度は低く、高品位な炭素繊維束が得られた。
(比較例1)
実施例1で用いたアクリル繊維束を投入密度が3000dtex/mmで空気中230〜260℃で緊張下に80分間加熱し、密度1.41g/cmの途中耐炎化繊維束を得た。
耐炎化工程Aにおける伸長率は0%、耐炎化工程出の発生張力は0.1cN/dtexであった。耐炎化工程Bの加熱処理は未実施とした。次に実施例1と同様な条件で前炭素化、炭素化、表面処理、サイジング剤付与を行い、炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性を測定すると弾性率240GPa、強度3.9GPaであった。製造工程中での毛羽発生頻度は低く、高品位な炭素繊維束が得られた。
実施例1ではオーブン熱処理とロール加熱熱処理を組み合わせることで耐炎化処理時間が41分と短いにも関わらず、オーブン単独で80分処理品と同等の工程通過性、性能発現性、良好な品位を有する炭素繊維束が得られている。
(比較例2)
実施例1で用いたアクリル繊維束を投入密度が3000dtex/mmで空気中230〜260℃で緊張下に40分間加熱し、密度1.29g/cmの途中耐炎化繊維束を得た。
耐炎化工程Aにおける伸長率は0%、耐炎化工程出の発生張力は0.1cN/dtexであった。耐炎化工程Bの加熱処理は未実施とした。次に実施例1と同様な条件で前炭素化、炭素化、表面処理、サイジング剤付与を行い、炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性を測定すると弾性率210GPa、強度3.2GPaであった。炭素化工程中での毛羽が多発するなど工程通過性に問題があった。また、得られた炭素繊維束の品位は実施例1や比較例1で得られたものより劣っていた。
(比較例3)
実施例1で用いたアクリル繊維束を投入密度が3000dtex/mmで空気中230〜260℃で緊張下に40分間加熱し、密度1.41g/cmの途中耐炎化繊維束を得ようとした。この場合、耐炎化工程Aの温度は250〜280℃と相対的に高い温度設定が必要となり、工程中でアクリル繊維束からスモークが発生して耐炎化工程Aを通過しなかった。
(実施例4〜9)
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
アクリロニトリル98モル%、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル2モル%からなる共重合体をジメチルアセトアミドに溶解して濃度が22重量%の溶液を作成した。この溶液を孔径60μm、ホール数24000の紡糸口金を通して、温度35℃、濃度45%のDMAC水溶液中で凝固させた。この凝固繊維束を水洗後、延伸し、アミノ変性シリコーン油剤を付与した後、乾燥して単繊維繊度1.2dtex、総繊度28800dexの炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
<耐炎化工程A>
得られたアクリル系前駆体繊維束を投入密度が3000dtex/mmで空気中230〜260℃で緊張下に40分間加熱し、密度1.29g/cmの途中耐炎化繊維束を得た。
耐炎化工程Aにおける伸長率は0%、耐炎化工程出の発生張力は0.1cN/dtexであった。
<耐炎化工程B>
耐炎化工程Aで得られた途中耐炎化繊維束は図1に示す構成の加熱ロール群I〜IIIで構成された耐炎化工程Bの処理を行ない密度1.41g/cmの耐炎化繊維束を得た。加熱ロール群Iと加熱ロール群IIIはフリーロール(駆動系接続なし)で構成し、加熱ロール群IIは回転軸に駆動系をクラッチで接続して駆動した。工程前後の駆動装置を上記実施例と同様に設置した。本装置構成により加熱ロール群Iよりなる耐炎化工程Iと加熱ロール群IIよりなる耐炎化工程IIIの領域で2段延伸を実施した。
耐炎化工程Bの設定条件と評価結果は表2に示す。
前炭素化、炭素化、表面処理、サイズ剤付与は実施例1と同様な条件で炭素繊維束を製造した。
<CF性能・品位>
炭素繊維束の樹脂含浸ストランド特性測定結果を表2に比較する。耐炎化工程Bの耐炎化工程I/耐炎化工程IIで延伸すると強度、弾性率ともに向上する傾向が観察された。製造工程中での毛羽発生頻度は低く、延伸することにより高品位な炭素繊維束が得られた。

Claims (3)

  1. 炭素繊維前駆体アクリル繊維束を酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化工程A、及び、2本以上の加熱ロールにより熱処理する耐炎化工程Bを有する炭素繊維束の製造方法であって、
    耐炎化工程Bの加熱ロール間におけるアクリル繊維束の発生張力が0.05cN/dtex以上であるの炭素繊維束の製造方法。
  2. 耐炎化工程Bのロール群間に0%〜20%の伸長をかける請求項1の炭素繊維の製造方法。
  3. 酸化性雰囲気中にある表面温度が270〜400℃の加熱ロール群に10秒〜120秒接触させ密度1.35〜1.42とする耐炎化工程Bを有する請求項1〜2の炭素繊維束の製造方法。
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