JP2014125700A - 耐炎化繊維束及び耐炎化繊維束の製造方法 - Google Patents

耐炎化繊維束及び耐炎化繊維束の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】密度斑、断面構造斑が小さい高品質な耐炎化繊維束を提供する。
【解決手段】単繊維繊度が0.8dtex以上5.0dtex以下の単繊維群によって構成された繊維束であって、単繊維の平均密度が1.33g/cm以上1.43g/cm以下、繊維束内の密度斑CV%が0.2%以下である耐炎化繊維束。長径aが10〜32μm、短径bが6〜20μm、溝深さcが0.1〜3.0μm、及び扁平率a/bが1.3以上1.8以下のキドニー形断面の単繊維で構成された前記耐炎化繊維束。
【選択図】図1

Description

本発明は耐炎化繊維束及びその製造方法に関する。
炭素繊維は、比強度・比弾性に優れているため、スポーツ、レジャー用品から航空宇宙用途まで幅広く利用されている。近年では、従来のゴルフクラブや釣竿などのスポーツ用途、航空機用途に加え、風車部材、自動車部材、CNGタンク、建造物の耐震補強、船舶部材などいわゆる一般産業用途への展開が進み、それに伴いより効率的に炭素繊維を製造する方法が求められている。
炭素繊維は、工業的には前駆体繊維を200〜300℃の空気中で熱処理する耐炎化工程、及び1000℃以上の不活性雰囲気中で熱処理する炭素化工程を経て製造される。
近年、大型成型物向けの炭素繊維束が開発されているが、生産効率をよくするための耐炎化時間の短縮が課題となっている。耐炎化時間を短くするには耐炎化温度を高く設定することが考えられるが工程安定性の点から高温短時間の耐炎化には限界がある。
耐炎化処理の方式としては雰囲気加熱方式と加熱体接触方式などがある。雰囲気加熱方式は、伝熱効率が低くエネルギー消費が大きく、除熱効率が悪く、炭素繊維束が太くなると、蓄熱によるトウ温度の上昇、暴走が起こるため、両者を比較すると相対的に低温長時間に設定する必要がある。一方で加熱体接触方式は伝熱効率、除熱効率が高く、製造する炭素繊維束が太くなっても蓄熱による暴走が起こり難くため、相対的に高温短時間での耐炎化が可能となる。
特開昭59−30914号公報には繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱し、次いで220〜400℃の加熱体表面に繰り返し間欠的に接触させる加熱体接触方式が提案されている。これらはネルソン型ロールを使用した接触方式の提案であり相対的に総繊度の小さいトウを単錘で処理する方法である。これらは総繊度の高い繊維束を多錘並べて製造するには適用が困難であり、生産性が低く工業的に量産する方法に適さない問題がある。ネルソン型ロールは2本のロール間に繊維束1本を多重巻きにして使用する接触方式であり、通常はロール1本に対して繊維束1本を処理する方法である。本発明では総繊度が10000〜100000dtexの太繊度の炭素繊維束をマシン幅方向に多錘並べて、3本〜24本の多数本の加熱ロール群に接触させる製造方法に関する。
特開昭61−167023号公報には繊維を250〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱しC.I.値が0.1〜0.2になるまで耐炎化し、次いで250〜350℃に加熱された加熱体に繰り返し断続的に接触させC.I.値が0.35以上になるまで耐炎化し、さらに250〜350℃の酸化性雰囲気中で加熱することが記載されている。上記発明は耐炎化工程の中間に加熱ロールを用いる耐炎化処理方法に関する。本発明は耐炎化工程前半に雰囲気加熱方式を適用した耐炎化工程を有し、耐炎化工程後半に加熱体接触方式による耐炎化工程を有する耐炎化繊維束の製造方法を提案する。
特開昭59−30914号公報 特開昭61−167023号公報
本発明の目的は、炭素繊維前駆体繊維より高品質な耐炎化繊維束を効率的に製造する方法を提供することにある。本発明では密度斑、断面構造斑が小さい耐炎化繊維束及びその製造する。
本発明の耐炎化繊維束は、単繊維繊度が0.8dtex以上5.0dtex以下の単繊維群によって構成された繊維束であって、単繊維の平均密度が1.33g/cm以上1.43g/cm以下、繊維束内の密度斑CV%が0.2%以下である耐炎化繊維束である。
本発明の耐炎化繊維束は、長径aが10〜32μm、短径bが6〜20μm、溝深さcが0.1〜3.0μm、及び扁平率a/bが1.3以上1.8以下のキドニー形断面の単繊維で構成されていることが好ましい。
本発明の耐炎化繊維束は、繊維束を構成する単繊維断面の黒化度が70%以上100%以下、黒化度斑CV%が15%以下であることが好ましい。
本発明の耐炎化繊維束の製造方法は、前駆体繊維束を酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化工程A、及び、2本以上の加熱ロール群により熱処理する耐炎化工程Bを有する耐炎化繊維束の製造方法であって、耐炎化工程Aにより耐炎化処理した後、耐炎化工程Bの加熱ロール群へ接触させ耐炎化処理する耐炎化繊維束の製造方法である。
本発明は耐炎化工程における処理時間が短いにも関わらず、焼成斑が小さい耐炎化繊維束の製造を可能とする。
キドニー断面形状の繊維断面を表す概略図である。 耐炎化繊維束の単繊維断面における黒化度の定義を表す概略図である。
以下に本発明を詳細に説明する。
<重合>
本発明に用いるアクリル繊維はアクリル系重合体より構成され、90モル%以上のアクリロニトリルと10モル%以下の共重合可能なビニル系モノマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などの共重合体を挙げることができる。
共重合成分が10モル%を越すと後述する耐炎化工程で単繊維間接着が生じやすくなり好ましくない。
アクリル系共重合体を重合する方法としては、特に限定されないが、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを適用することができる。
<紡糸>
アクリル系共重合体を紡糸する際に使用する溶媒としては、特に限定されないが、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、塩化亜鉛水溶液、硝酸などの有機・無機の溶媒を使用することができる。
アクリル系共重合体溶液を紡糸する方法としては、特に限定されないが、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などを適用することができる。湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などで得られた凝固糸を従来公知の水洗、浴延伸、工程油剤付与、乾燥緻密化、スチーム延伸などを行うことにより所定の繊度を有するアクリル系前駆体繊維束とする。
工程油剤には、従来公知のシリコーン系油剤やケイ素を含まない有機化合物からなる油剤などを用いることができる。後述する耐炎化工程や前炭素化工程での単繊維間の接着を防止できれば、工程油剤として好適に使用できる。シリコーン系油剤としては、変性シリコーンで、かつ、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものが好ましい。
工程油剤を付与された繊維束は、加熱により乾燥するのが良い。乾燥処理は50〜200℃に加熱されたロールに接触させて行うのが効率的である。繊維束の含有水分率が1重量%以下となるまで乾燥し、繊維構造を緻密化させることが好ましい。
また、乾燥された繊維束は、延伸するのが良い。延伸する方法としては、特に限定されないが、乾熱延伸法、熱板延伸法、スチーム延伸法などを適用することができる。
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
本発明に用いる炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束を用いることが好ましい。フィラメント数としては特に限定されないが1,000〜100000であることが好ましい。
本発明に用いる炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束のアクリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は特に限定されないが0.8〜5.0dtexが好ましい。
本発明に用いる炭素繊維前駆体繊維束であるアクリル繊維束は単繊維繊度の大きい場合、耐炎化時間を短縮したにも関わらず、焼成斑が小さく、単繊維断面内の焼け残り部分が少なくなる比表面積が高い断面形状にすることが好ましく、丸断面よりも扁平断面からキドニー断面の単繊維群で構成される耐炎化繊維束を用いることが好ましい。
本発明に用いる炭素繊維前駆体繊維束であるアクリル繊維束の総繊度は特に限定されないが3000〜100000dtexが好ましい。
本発明に用いる炭素繊維前駆体繊維であるアクリル繊維束は長径aが10〜32μm、短径bが6〜20μm、溝深さが0.1〜3.0μm、扁平率a/bが1.3〜1.8の単繊維で構成されることが好ましい。
<耐炎化繊維束密度斑>
本発明の製造方法を用いれば、これらの単繊維の平均密度が1.33〜1.43g/cmに処理すれば、繊維束内の密度斑CV%が0.2%以下であり、耐炎化繊維束内の密度斑が小さい、均質性の高い耐炎化繊維束とすることができる。耐炎化繊維束を構成する単繊維の断面構造に斑が観察されると工程品質が低下する方向にあり工程中毛羽発現頻度が多くなる。本発明の耐炎化工程Bを通過した耐炎化繊維束の密度斑CV%が0.2%以下とすると、耐炎化工程糸のトウ内密度斑を抑える後工程の通過性も良くなり工程中の毛羽の発現も抑えられる。本発明の繊維束内の密度斑が小さい耐炎化繊維束を用いて炭素化繊維束を製造すると高品質な炭素繊維を製造することができる。
<耐炎化繊維束断面形状>
本発明の耐炎化繊維束は図1に示すように長径a、短径b、溝深さc、扁平率1.3〜1.8のキドニー断面の耐炎化繊維群で構成された耐炎化繊維束であることが好ましい。長径aが10〜32μm、短径bが6〜20μm、溝深さが0.1〜3.0μmの単繊維で構成されることが好ましい。特に単繊維繊度の大きい場合、耐炎化時間を短縮しようとすると比表面積が高い断面形状にする方が良く、本発明のキドニー断面の単繊維群で構成される耐炎化繊維束が好ましい。
<耐炎化繊維束黒化層厚さ>
本発明の耐炎化繊維束の黒化度を定義するための概略図を図2に示す。本発明の耐炎化繊維束を構成する単繊維断面の黒化度が70〜100%、黒化度斑CV%が15%以下である耐炎化繊維束にあることが好ましい。耐炎化糸の断面を蛍光顕微鏡により観察すると耐炎化反応が進行した部分は黒く観察され、耐炎化未反応の部分は白く、白と黒のコントラストをもった断面2重構造が観察されるが、本発明の耐炎化繊維束は黒化されない部分が多少含まれる場合がある。
本発明の耐炎化糸断面黒化度が70%以下では後方の炭素化工程の処理を施した場合にトウ中に毛羽発生が顕著になる。一方で黒化度が上がるほど後工程における工程安定性がよくなり、工程中での毛羽発現が少なくなる。
また、黒化度の斑が大きい、焼け斑があると工程中での毛羽発現に違いが出てくる。耐炎化工程における黒化度とその焼け斑を小さくすることが高品位の炭素繊維を製造する観点からは重要となる。黒化度斑CV%が15%以上では工程中での毛羽発現性が多くなる。
本発明のキドニー断面の単繊維群で構成される繊維束を用いるとともに、本発明の耐炎化方法を適用すると耐炎化繊維束内の黒化度斑が15%以下に抑えることできる。
本発明の耐炎化工程Bは加熱ロールを使用するが、ロール表面の温度均一性が高いこと、トウと金属体との接触方式であり除熱効果があり、トウ内温度均一性が高いことに起因する。雰囲気加熱方式では除熱は風速により制御することもできるが金属体との接触方式に比べるトウ内温度制御の精度は低い。
<耐炎化>
本発明の製造方法においてはアクリル繊維束を酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化工程A、及び、2本以上の加熱ロール群により熱処理する耐炎化工程Bを有する。耐炎化工程Aは雰囲気加熱炉方式、耐炎化工程Bは加熱体接触方式(加熱ロール)を用いることが好ましい。
本発明の耐炎化工程Aで用いる雰囲気加熱方式は伝熱効率が低く、反応熱が繊維束内部に蓄熱し発火しやすいため比較的低温長時間での酸化処理を行なう方法である。一方で耐炎化工程後半に用いる加熱体接触方式は伝熱効率が高く、反応熱が繊維束内部に蓄熱発火しにくいため、比較的高温短時間で処理を行なうことができる方式である。
本発明の炭素繊維束の製造方法ではこれらの加熱方式を組み合わせた耐炎化工程を提案する。本発明の製造方法における耐炎化工程では、前半は比較的に低温長時間の耐炎化を行い、後半は比較的に高温短時間の耐炎化をする。例えば、本発明の耐炎化工程Aの雰囲気制御温度は200℃〜300℃、処理時間は20分から90分とする。また、本発明の耐炎化工程Bの加熱体表面温度は260℃〜400℃、接触時間20秒〜360秒接触させる。
加熱体接触方式による高温短時間の耐炎化処理を補填することで雰囲気加熱方式を単独で適用した場合の耐炎化時間を半減するとともに、高品位、高品質の炭素繊維束の製造方法を提供できる。
炭素繊維束製造における耐炎化工程においては雰囲気加熱方式を用いることが主流であるが耐炎化時間を短くすることが生産性を上げる課題である。本発明の製造方法は時間を要している耐炎化工程の処理時間の半減を実現するものである。耐炎化工程全体でみると耐炎化工程後半に比較的高温に設定した加熱ロールを用いて、耐炎化反応、及び、密度上昇を急加速して耐炎化する方法を提案する。
例えば、炭素繊維前駆体であるアクリル繊維束の総繊度が30000〜100000dtexを雰囲気加熱方式単独で密度1.35〜1.41g/cm近傍まで耐炎化するには60分〜240分の時間を必要する。一方で加熱体接触方式により総繊度が30000〜100000dtexである炭素繊維前駆体繊維を300℃以上で処理する場合、密度1.41g/cm近傍まで耐炎化するのに要する時間は2分〜20分である。本発明の製造方法は上記の両者の加熱方式を併用して耐炎化時間20分〜50分と短くすることができる。
本発明の製造方法では、耐炎化処理時間を短く抑えたにも関わらず、高い品質、品位を有する炭素繊維の製造方法を提供する。これらは耐炎化工程に雰囲気加熱方式と加熱方式の組み合わせにより実現可能であり、さらに各工程の温度範囲、処理時間、適用密度範囲、適用張力、伸長率制御により実現可能となる。
<耐炎化工程A(オーブン加熱耐炎化温度)>
本発明の製造方法においては、アクリル繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気中で処理をする。用いるアクリル繊維束の耐炎化反応性にもよるが、300℃以上では蓄熱による暴走が起こり安定性のある耐炎化処理が難しい。
<耐炎化工程A出密度(耐炎化B入密度)>
本発明では耐炎化工程Aにより耐炎化処理後、耐炎化工程Bの加熱ロール群へ接触させる耐炎化工程を有する。耐炎化工程糸密度が1.27g/cm以下では後工程の比較的に高温短時間の加熱体接触方式を適用した場合に製造される炭素繊維束の性能発現性が低下するので好ましくない。
本発明の耐炎化工程Bでは耐炎化糸工程密度を1.34g/cm以上とすることが好ましい。耐炎化工程糸密度が1.34g/cm以下では製造される炭素繊維束の性能発現性が低下するので好ましくない。
<耐炎化工程B(初段温度)>
本発明の耐炎化工程Bの初段温度は耐炎化工程Aの最高温度近傍に設定することが好ましい。耐炎化各工程間には急激な処理温度差がないように、滑らかな温度プロファイルを描くように昇温度することが好ましい。急激な処理温度差が各工程間にあると工程間の伸長バランスや張力バランスが崩れて構造形成、性能発現性に悪い影響を及ぼし、大きく張力や伸長バランスが崩れると巻きつき、切断等の工程トラブルが発生するので好ましくない。
<耐炎化工程B(加熱ロール本数)>
加熱ロール群を構成する本数は使用するロール直径、加熱接触面積に関係するので特に限定されるものではない。例えば、加熱ロール直径が0.1〜2m、3本〜24本を使用することができる。
<耐炎化工程B(処理温度)>
本発明に製造方法におけるロール耐炎化加熱ロール表面温度は260℃〜400℃を使用することが好ましい。
<耐炎化工程B(張力)>
本発明の製造方法の耐炎化工程Bにおけるアクリル繊維束の張力は耐炎化工程Aの出口におけるアクリル繊維束の張力以上に設定することが好ましい。耐炎化工程Aの出口よりもアクリル繊維束の発生張力が低いことは張力緩和がおこる可能性が高く、耐炎化工程Aで形成した構造からの構造緩和が起こり性能発現性に影響を及ぼす。すなわち、ロール加熱工程中で発生張力させ、ロール間での構造緩和がないようにすることが必要である。
加熱ロール群間の発生張力は加熱ロール群間の伸長率調整により制御可能となる。加熱ロール群間の伸長率を上げると発生張力を高くすることができる。加熱ロール群の伸長率が低い場合、伸長緩和、及び、張力緩和が起こりやすい状態となるので伸長方法に設定することが好ましい。
本発明の製造方法における耐炎化工程Bの加熱ロール群におけるアクリル繊維束の張力は0.05cN/dtex以上であることが好ましい。発生張力が0.05cN/dtex以下であると張力緩和、伸長率緩和がおこり、構造緩和がおこり性能発現性に影響を及ぼす。
<加熱ロール耐炎化伸長率>
加熱ロール群による耐炎化は雰囲気加熱方式に比較して工程での延伸性が高くなる特徴ある。雰囲気加熱方式は処理時間を長くするために、相対的に長い有効炉長で処理するが、トウを駆動するロールとロール間の距離が相対的に長く工程中で延伸しようとすると処理されるアクリル繊維束内での延伸点にバラツキが発生するため延伸倍率は10%程度が上限である。また、雰囲気加熱方式はロールとロール間の距離が長く、トウの自重の影響もあるため工程中の伸長率上げなくても高い張力が発生する。
一方で加熱ロール群による耐炎化における伸長はロールとロール間の距離は相対的に短く、延伸した場合にトウ内の延伸点のバラツキも小さくなり20%以上の延伸をかけて破断しない。
耐炎化工程での延伸、又は伸長は繊維の結晶配向を高くすることが可能とし、製造される炭素繊維束の性能向上にも寄与する。
<投入密度>
耐炎化工程への前駆体繊維束の投入密度が高いほど生産性の面では好ましいが、大きくなると後述する雰囲気加熱処理中に発熱反応により繊維束の温度が高くなり分解反応が急激に起こり、繊維束が切断するため、好ましくは1500〜5000dtex/mm、より好ましくは2000〜4000dtex/mmである。
<雰囲気>
雰囲気については、空気、酸素、二酸化窒素など公知の酸化性雰囲気を採用できるが、経済性の面から空気が好ましい。また、加熱体表面で加熱された繊維束は、加熱体表面で加熱された後、加熱体表面の温度より低い温度の酸化性ガスにより冷却されるため、加熱体の表面温度は、雰囲気加熱方式の場合の雰囲気温度に比較して高い温度にすることができる。そのため、加熱体から離れた繊維束の周りの雰囲気温度は、加熱体表面温度より100℃以上低くする必要がある。
本発明の耐炎化繊維束は以下に説明する方法により炭素繊維束とすることも可能である。
<前炭素化>
続いて、かかる耐炎化繊維束を炭素化処理することになるが、その前に前炭素化処理をすることが好ましい。前炭素化処理は省略することもできるが、前炭素化処理を行なうと炭素繊維の機械的特性を向上し、炭素化処理の時間も短縮でき、炭素化収率も向上する。
前炭素化条件としては、不活性雰囲気中、最高温度が500〜800℃で緊張下に、400〜500℃の温度領域において300℃/分以下、好ましくは100℃/分以下の昇温速度で加熱することが炭素繊維の機械的特性を向上させる、また、炭素化収率を向上させるために有効である。また、前炭素化処理時間としては、生産性及び炭素繊維としての強度発現性の観点から0.6〜3.0分であることが好ましい。雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
<焼成速度>
炭素化工程への繊維束の投入速度としては、速いほど生産性の面からは好ましいが、前炭素化炉及び炭素化炉の大きさにもよるが、後述する前炭素化工程及び炭素化工程での十分な処理時間が確保できなくなり、該工程中で繊維束が切断したり、炭素繊維の機械的特性が低下したり、炭素化収率が低下するため、好ましくは2.0〜20.0m/分、より好ましくは3.0〜15.0m/分である。
<炭素化>
かかる前炭素化繊維束の炭素化条件としては、不活性雰囲気中、最高温度が1200〜2000℃で緊張下に、1000〜1200℃の温度領域において500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下の昇温速度で加熱することが炭素繊維の機械的特性を向上させるために有効である。また、炭素化処理時間としては、生産性及び炭素繊維としての強度発現性の観点から0.6〜3.0分であることが好ましい。雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
<黒鉛化>
さらに、必要に応じて公知の方法により黒鉛化することができる。例えば、かかる炭素化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度が2000〜3000℃で緊張下に加熱することにより黒鉛化することができる。
<表面処理>
こうして得られた炭素化(黒鉛化)繊維束の表面改質のため、電解酸化処理をすることができる。電解酸化処理に用いる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドといったアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解酸化処理に要する電気量は、適用する炭素繊維により適宜選択することができる。かかる電解酸化処理により、得られる複合材料において炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を適正化でき、得られる複合材料においてバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
<サイジング処理>
この後、得られる炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。
<成形>
こうして得られた炭素(黒鉛)繊維束は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもできるし、織物などのプリフォームとした後、ハンドレイアップ法、プルトルージョン法、レジントランスファーモールディング法などにより複合材料に成形することもできる。また、フィラメントワインディング法や、チョップドファイバーやミルドファイバー化した後、射出成形することにより複合材料に成形することができる。
本発明を実施例により具体的に説明する。
<前駆体繊維束及び炭素繊維束の総繊度の測定>
前駆体繊維束及び炭素繊維束の総繊度は、JIS R 7605に準拠して測定した。
<耐炎化工程への投入密度の測定>
耐炎化工程への投入密度は、下記式より求めた。
耐炎化工程への投入密度(dtex/mm)=前駆体繊維束の総繊度/前駆体繊維束の幅
<密度及び密度斑の測定方法>
耐炎化繊維束の密度は、JIS R 7603に準拠して測定した。炭素繊維束のトウ内密度斑は1本のトウを20分割して各密度を測定して斑(CV%=標準偏差/平均値×100)とした。
<断面形状及び形状斑の測定方法>
耐炎化繊維束はアクリル透明樹脂により方枚して端面を研磨機により研磨することにより端面高さを均一にした後に蛍光顕微鏡(反射)にセットして断面画像を得た。試料断面方向に縦横1mm間隔で移動して16〜50点のトウ内の画像を得た。画像には50〜200本の単繊維断面が写るように顕微鏡の拡大倍率を調整した。得られた画像の画像解析を行ない、長径a、短径b、溝深さcを測定した。
<黒化度及び黒化度斑の評価方法>
耐炎化繊維束を構成する単繊維断面における黒化度は図2に示すとおり定義した。上記の断面形状の観察により得られた画像を用いて繊維束を構成する単繊維の黒化層と白化層の厚さを測定した後、その割合を算出した。本発明の耐炎化繊維束においては繊維断面が真円〜楕円形〜空豆形状が存在するが、繊維断面において短径の部分の長さを測定して下記式(1)の方法で計算した。
黒化度(%)=(b−b‘)/b×100 ・・・(1)
b:繊維断面厚さ(μm)
b‘:繊維断面白化層厚さ(μm)
<耐炎化工程から炭素化工程の伸長率>
耐炎化工程から炭素化工程の伸長率(%)は、耐炎化工程入側の前駆体繊維束の走行速度及び炭素化工程出側の炭素繊維束の走行速度から、下記式(2)より求めた。
耐炎化工程から炭素化工程の伸長率(%)=(炭素化工程出側の炭素繊維束の走行速度−耐炎化工程入側の前駆体繊維束の走行速度)/耐炎化工程入側の前駆体繊維束の走行速度×100 ・・・(2)
<炭素繊維束のサイジング剤の付着量の測定>
炭素繊維束のサイジング剤の付着量は、JIS R 7604に準拠して測定した。
(実施例1)
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束>
アクリロニトリル98モル%、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル2モル%からなる共重合体をジメチルアセトアミドに溶解して濃度が22重量%の溶液を作成した。この溶液を孔径75μm、ホール数28000の紡糸口金を通して、温度35℃、濃度45%のDMAC水溶液中で凝固させた。この凝固繊維束を水洗後、延伸し、アミノ変性シリコーン油剤を付与した後、乾燥して単繊維繊度2.5dtex、総繊度70000dtexのアクリル繊維束(炭素繊維前駆体繊維束)を得た。これらの前駆体繊維の断面形状はキドニー断面の単繊維群から構成される繊維束であった。
<耐炎化工程A>
得られたアクリル系前駆体繊維束を投入密度が4487dtex/mmで空気中237〜245℃の緊張下にて52分間加熱し、密度1.340g/cm、密度CV%0.30%黒化度72%、黒化度CV%14.7%の耐炎化繊維束を得た。
得られた耐炎化束を構成する単繊維群は長径aが20.46μm、短径bが12.82μm、溝深さcが1.14μm、扁平率a/bが1.60のキドニー断面であった。
<耐炎化工程B>
耐炎化工程Aで得られた途中耐炎化繊維束は表面温度269〜315℃に設定した6本で構成された加熱ロール群に1分接触する耐炎化工程Bの処理を行ない密度1.384g/cmの、密度CV%0.13%、黒化度77%、黒化度斑CV%13.7%耐炎化繊維束を得た。
得られた耐炎化束を構成する単繊維群の断面形状は長径aが19.1μm、短径bが12.34μm、溝深さcが0.98μm、扁平率a/bが1.55のキドニー断面であった。
(実施例2〜7)
耐炎化工程A、及び、耐炎化工程Bの処理時間、処理温度以外は実施例1と同様な方法で実施した。耐炎化工程Aにおける処理時間、処理温度、耐炎化工程繊維束密度及びCV%、黒化度、及び、CV%、耐炎化工程Bにおける処理時間、処理温度、耐炎化工程繊維束密度、及び、CV%、黒化度及びCV%、キドニー断面形状a,b,c,a/bは表1及び表2にまとめた。
実施例1〜7に示すとおり耐炎化工程Bの処理が完了した耐炎化繊維束の密度斑CV%は0.2%以下となった。耐炎化繊維束を構成する単繊維の黒化度は70%以上であった。
(比較例1)
<耐炎化工程A>
実施例1にて用いたアクリル系前駆体繊維束を投入密度が4487dtex/mmで空気中237〜262℃の緊張下にて90分間加熱し、密度1.392g/cm、密度CV%0.27%、黒化度71%、黒化度CV%16.7%の耐炎化繊維束を得た。
得られた耐炎化束を構成する単繊維群は長径2aが20.06μm、短径2aが12.38μm、溝深さ0.81μm、扁平a/b1.62のキドニー断面であった。
比較例1では耐炎化工程Bの加熱ロール処理は実施しなかった結果、耐炎化繊維束の密度斑は0.27%であった。
(比較例2)
耐炎化時間、耐炎化温度以外は比較例1と同様な方法で実施した。結果は表紙1にまとめる。
実施例1〜7で得られた耐炎化繊維束は耐炎化処理時間が52分と短いにも関わらず、比較例1〜2の耐炎化時間が70〜90分と長いものよりも耐炎化繊維束の密度斑が小さい結果となった。

Claims (4)

  1. 単繊維繊度が0.8dtex以上5.0dtex以下の単繊維群によって構成された繊維束であって、単繊維の平均密度が1.33g/cm以上1.43g/cm以下、繊維束内の密度斑CV%が0.2%以下である耐炎化繊維束。
  2. 長径aが10〜32μm、短径bが6〜20μm、溝深さcが0.1〜3.0μm、及び扁平率a/bが1.3以上1.8以下のキドニー形断面の単繊維で構成された請求項1に記載の耐炎化繊維束。
  3. 繊維束を構成する単繊維断面の黒化度が70%以上100%以下、黒化度斑CV%が15%以下である請求項1または2に記載の耐炎化繊維束。
  4. 前駆体繊維束を酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化工程A、及び、2本以上の加熱ロール群により熱処理する耐炎化工程Bを有する耐炎化繊維束の製造方法であって、耐炎化工程Aにより耐炎化処理した後、耐炎化工程Bの加熱ロール群へ接触させ耐炎化処理することを特徴とする請求項1〜3に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
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