JP2014122329A - ポリアミド樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染の少ないポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】数平均分子量2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%、数平均分子量500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%の範囲で含有し、前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が特定の脂環式モノマーに由来する構造単位であり、前記脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%であるポリアミド樹脂(A)と、リン系難燃剤(B1)およびハロゲン系難燃剤(B2)から選ばれる少なくとも1種の難燃剤(B)を含有するポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
従来からポリアミド6(以下、PA6と略称する)、ポリアミド66(以下、PA66と略称する)などに代表されるポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用や産業資材用の繊維、または汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられている。
特に電気・電子分野では、上述の脂肪族ポリアミドに種々の難燃剤を含有させることで、UL−94規格に基づく高い難燃性の要求に応えた材料が実用化されている。しかしながら、これらの脂肪族ポリアミドは吸水性が大きく、成形品の寸法変化や機械的物性の低下などが問題となっている。近年では、電気・電子分野において表面実装技術(SMT)の発展に伴い、優れた耐熱性、難燃性を持ち、かつ、SMT工程においてリフロー加熱により成形品表面に水脹れ状の腫れが生じる現象(ブリスタ)を防ぐことができる(耐ブリスタ性)材料の開発が求められている。また、薄肉化と狭ピッチ化の要求に対応するために、高い流動性(薄肉流動性)を持つ材料が要求されている。
前記要求に応えるために、難燃剤を含むポリアミドとして、高融点ポリアミドの開発が進められてきた。例えば芳香環構造を有するポリアミドとして、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンからなるポリアミド(以下、PA6Tと略称する)を主成分とする半芳香族ポリアミドが種々提案されている。PA6Tは、融点が370℃付近にあって分解温度を超えるので、溶融重合、溶融成形が困難であるため、アジピン酸、イソフタル酸などのジカルボン酸成分、またはPA6などの脂肪族ポリアミドを共重合することにより、280〜320℃程度の実使用可能な温度領域にまで低融点化した組成で用いられる。このように第3成分を共重合することはポリマーの低融点化には有効だが、結晶化速度、到達結晶化度の低下を伴い、その結果、高温下での剛性(例えば、ポリアミドのガラス転移温度よりも約20℃高い温度で荷重たわみ温度を測定)、耐薬品性、吸水に伴う寸法安定性などの諸物性が低下するほか、成形サイクルの延長に伴う生産性の低下という問題がある。
芳香環構造を有するポリアミドの開発が進められる一方で、脂環構造を有するポリアミドも開発されている。例えば特許文献1には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミド成分と、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンからなるポリアミド成分を重量比として25/75〜85/15となるように共重合して得られた共重合ポリアミドが開示されているが、融点が低く、耐熱性の面での改善効果は不十分である。特許文献2に記載されている1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と炭素数6〜18の脂肪族ジアミンからなるポリアミドは、耐熱性、耐光性、靭性、低吸水性に優れるが、流動性の点でなお改善の余地がある。
さらに、高融点ポリアミドの分野において、成形性と高融点ポリアミドの結晶性との関連性についての知見は十分ではなかった。
特公昭47−42397号公報 特開平9−12868号公報
しかして、本発明の目的は、耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染の少ないポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
本発明によれば、上記の目的は、
(1) 数平均分子量2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%、数平均分子量500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%の範囲で含有し、前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が下記一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位であり、前記脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%であるポリアミド樹脂(A)と、リン系難燃剤(B1)およびハロゲン系難燃剤(B2)から選ばれる少なくとも1種の難燃剤(B)を含有する、ポリアミド樹脂組成物
Figure 2014122329
(式中、Xはカルボキシル基またはアミノ基を表し、Zは炭素数3以上の脂環構造を表す。)
Figure 2014122329
(式中、XおよびZは前記定義の通りであり、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1以上のアルキレン基を表す。);
(2) 前記ポリアミド樹脂(A)を構成する前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端基の総量の10%以上が末端封止剤によって封止されている、上記(1)のポリアミド樹脂組成物;
(3) 前記脂環式モノマーが、前記一般式(I)または一般式(II)におけるXがカルボキシル基である環状脂肪族ジカルボン酸である上記(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物;
(4) 前記環状脂肪族ジカルボン酸が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である、上記(3)のポリアミド樹脂組成物;
(5) 前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)が、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位を含有する、上記(1)〜(4)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(6) 前記脂肪族ジアミンが1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(5)のポリアミド樹脂組成物;
(7) 1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構造単位を25モル%以上含有し、かつ脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを25モル%以上含有する、上記(6)のポリアミド樹脂組成物;
(8) さらに、ラクタムおよび/またはアミノカルボン酸に由来する構造単位を含有する、上記(1)〜(7)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(9) ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してルイス塩基として作用する化合物(C)を0.1〜10質量部含有する、上記(1)〜(8)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(10) 前記ルイス塩基として作用する化合物(C)がアルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、酸化亜鉛および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(9)のポリアミド樹脂組成物;
(11) 前記ルイス塩基として作用する化合物(C)が酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(10)のポリアミド樹脂組成物;
(12) 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して前記難燃剤(B)を5〜100質量部含有する、上記(1)〜(11)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(13) 前記ハロゲン系難燃剤(B2)が臭素系難燃剤である、上記(1)〜(12)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(14) 前記臭素系難燃剤が臭素化ポリスチレンである、上記(13)のポリアミド樹脂組成物;
(15) 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して難燃助剤(D)を1〜30質量部含有する、上記(1)〜(14)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(16) 前記難燃助剤(D)が三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、オルソリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、ポリリン酸メラミン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛およびスズ酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(15)のポリアミド樹脂組成物;
(17) 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して繊維状強化材(E)1〜200質量部を含有する、上記(1)〜(16)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(18) 上記(1)〜(17)のいずれかのポリアミド樹脂組成物を含有する成形品;
(19) 電気部品または電子部品である、上記(18)の成形品;および
(20) 製造工程にSMT工程を含む上記(19)の成形品;
を提供することにより達成される。
本発明によれば、耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染の少ないポリアミド樹脂組成物を提供できる。
実施例1で用いたポリアミド樹脂(A)のGPC溶出曲線(縦軸:シグナル強度、横軸:溶出時間)である。 耐ブリスタ性の評価における試験片の赤外線加熱炉における温度プロファイル(実測ピーク温度(可変)が260℃の場合。)を示すグラフである。 金型汚染性を評価する際に射出成形に用いた金型の正面図である。 金型汚染性を評価する際に射出成形に用いた金型の断面図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
〔ポリアミド樹脂(A)〕
ポリアミド樹脂(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCと略称する)を用いて、後述する実施例での測定条件において得られる各試料の溶出曲線から、ベースラインと溶出曲線によって囲まれる数平均分子量2000以上から主ピークの検出が終了する分子量以下の領域の面積より算出できる、標準ポリメチルメタクリレート(標準PMMA)換算で求められる数平均分子量が2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%含有する。また、ポリアミド樹脂(A)は、前記ポリアミド(a−1)と同様の条件でのGPC測定によって求められる数平均分子量が500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%含有する。
ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)が上述の範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性が向上し、かつ80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行する。また、ポリアミドオリゴマー(a−2)に由来する金型汚染を防止できる。
かかる効果が得られる理由は明確ではないが、例えば以下のように推定される。すなわち、溶融状態でのポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の運動性が高いために結晶化に有利に働くものと考えている。
なお、本発明の効果をより一層奏することができる観点からは、ポリアミド(a−1)を97〜99.95質量%含有することが好ましく、98〜99.95質量%含有することがより好ましい。それに応じて、ポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜3質量%含有することが好ましく、0.05〜2質量%含有することがより好ましい。
ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が、下記一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位であり、該脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%である。
Figure 2014122329
Figure 2014122329
(式中、X、Z、RおよびRは前記定義の通りである。)
Zが表す炭素数3以上の脂環構造としては、例えばシクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロウンデシレン基、シクロドデシレン基、ジシクロペンチレン基、ジシクロヘキシレン基、トリシクロデカレン基、ノルボルニレン基、アダマンチレン基などの単環式または多環式のシクロアルキレン基などが挙げられる。
およびRがそれぞれ表す炭素数1以上のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基などの飽和脂肪族アルキレン基が挙げられる。これらは置換基を有していてもよい。かかる置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基などが挙げられる。
脂環式モノマーとしては、Xがカルボキシル基である環状脂肪族ジカルボン酸、Xがアミノ基である環状脂肪族ジアミンを単独で用いてもよいし、または併用してもよい。
環状脂肪族ジカルボン酸としては、例えば炭素数が3〜10である環状脂肪族ジカルボン酸、好ましくは炭素数が5〜10である環状脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、より具体的には1,4−シクロへキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、および1,3−シクロペンタンジカルボン酸が挙げられる。
環状脂肪族ジカルボン酸は、脂環骨格上にカルボキシル基以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基およびtert−ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。
環状脂肪族ジカルボン酸としては、耐熱性、流動性、高温下での剛性などの観点から、1,4−シクロへキサンジカルボン酸がより好ましい。なお、環状脂肪族ジカルボン酸は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
環状脂肪族ジカルボン酸にはトランス体とシス体の幾何異性体が存在し、環構造に対し二つのカルボキシル基が異なる側にある場合はトランス体、環構造に対し二つのカルボキシル基が同じ側にある場合はシス体となる。
例えば、環状脂肪族ジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いる場合は、現代有機化学(第4版)上巻(K.P.C.Vollhardt,N.E.Schore,(株)化学同人,2004年4月1日発行,174頁)に記載されている通り、二つの置換基の両方がアキシアル位もしくはエクアトリアル位を占める場合にはトランス体、それぞれアキシアル位、エクアトリアル位を占める場合にはシス体となる。
環状脂肪族ジカルボン酸は、トランス体とシス体のどちらか一方を用いてもよく、トランス体とシス体の任意の比率の混合物を用いてもよい。
環状脂肪族ジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いる場合には、高温で異性化しトランス体とシス体の比率が収斂することや、シス体の方がトランス体に比べてジアミンとの当量塩の水溶性が高いという観点から、重合に用いる際にトランス体/シス体比が、50/50〜0/100(モル比)であることが好ましく、40/60〜10/90であることがより好ましく、35/65〜15/85であることがさらに好ましい。なお、環状脂肪族ジカルボン酸のトランス体/シス体比(モル比)は、H−NMRにより求めることができる(後述する実施例参照)。
環状脂肪族ジアミンとしては、例えば炭素数が3〜10、好ましくは炭素数5〜10である環状脂肪族ジアミンが挙げられ、具体的には1,4−シクロへキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、トリシクロデカンジアミンなどが挙げられる。
環状脂肪族ジアミンは、脂環骨格上にアミノ基以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの好ましくは炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。なお、環状脂肪族ジアミンは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
環状脂肪族ジアミンには、環状脂肪族ジカルボン酸と同様にトランス体とシス体の幾何異性体が存在し、環構造に対し二つのアミノ基が異なる側にある場合はトランス体、環構造に対し二つのアミノ基が同じ側にある場合はシス体となる。
例えば、環状脂肪族ジアミンとして1,4−シクロヘキサンジアミンを用いる場合は、現代有機化学(第4版)上巻(K.P.C.Vollhardt,N.E.Schore,(株)化学同人,2004年4月1日発行,174頁)に記載されている通り、二つの置換基の両方がアキシアル位もしくはエクアトリアル位を占める場合にはトランス体、それぞれアキシアル位、エクアトリアル位を占める場合にはシス体となる。
環状脂肪族ジアミンは、トランス体とシス体のどちらか一方を用いてもよく、トランス体とシス体の任意の比率の混合物を用いてもよい。
環状脂肪族ジアミンとして1,4−シクロヘキサンジアミンを用いる場合には、高温で異性化しトランス体とシス体の比率が収斂することや、シス体の方がトランス体に比べてジカルボン酸との当量塩の水溶性が高いという観点から、重合に用いる際にトランス体/シス体比が50/50〜0/100(モル比)であることが好ましく、40/60〜10/90であることがより好ましく、35/65〜15/85であることがさらに好ましい。なお、環状脂肪族ジアミンのトランス体/シス体比(モル比)はH−NMRにより求めることができる。
ポリアミド樹脂(A)において、脂環式モノマーに由来する構造単位はトランス異性体構造単位およびシス異性体構造単位として存在する。かかるトランス異性体構造単位の含有率は、ポリアミド樹脂(A)を構成する脂環式モノマーに由来する構造単位の50〜85モル%であり、60〜85モル%が好ましく、70〜85モル%がより好ましく、80〜85モル%がさらに好ましい。トランス異性体構造単位の含有率が上記範囲内にあると、ポリアミド樹脂(A)の高温下での剛性、流動性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行する。これらは、脂環式モノマーとして1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いたポリアミド樹脂(A)の場合に、特に顕著である。
なお、本明細書中で、ポリアミド樹脂(A)の脂環式モノマーに由来する「トランス異性体構造単位」とは、アミド結合が脂環構造に対し異なる側に存在する構造単位を意味する。
ポリアミド樹脂(A)は、一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位のほか、アミド結合を形成しうる他のモノマーに由来する構造単位を含有していてもよい。かかる他のモノマーとしては、例えば脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、脂肪族ジアミンおよび芳香族ジアミンなどのジアミン、3価以上の多価アミン、ラクタム、アミノカルボン酸が挙げられ、これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スペリン酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ダイマー酸などの炭素数3〜20の直鎖または分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。3価以上の多価カルボン酸としては、例えばトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
脂肪族ジアミンとしては、例えばエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン、1,17−ヘプタデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、1,19−ノナデカンジアミン、1,20−エイコサデカンジアミンなどの直鎖状飽和脂肪族ジアミン;1,2−プロパンジアミン、1−ブチル−1,2−エタンジアミン、1,1−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1−エチル−1,4−ブタンジアミン、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,4−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、3,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,5−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、3−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,5−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン、3,7−ジメチル−1,10−デカンジアミン、7,8−ジメチル−1,10−デカンジアミンなどの分岐状飽和脂肪族ジアミンが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、例えばメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどが挙げられる。3価以上の多価アミンとしては、例えばビスヘキサメチレントリアミンなどが挙げられる。
ラクタムとしては、例えばε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ブチロラクタム、ピバロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)などが挙げられ、中でもε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムが好ましい。また、アミノカルボン酸としては、α,ω−アミノカルボン酸などが挙げられ、例えば6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのω位がアミノ基で置換された炭素数4〜14の飽和脂肪族アミノカルボン酸、パラアミノメチル安息香酸などが挙げられる。ラクタムおよび/またはアミノカルボン酸単位を有している場合、ポリアミド樹脂(A)を含有するポリアミド樹脂組成物の靭性を向上させる作用がある。
ポリアミド樹脂(A)は、耐熱性、低吸水性、流動性の観点から、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)を構成するモノマー単位として、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位を含有することが好ましい。炭素数が4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位としては、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれか1種以上であることが好ましく、1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンに由来する構造単位を含有することがより好ましく、ポリアミド樹脂(A)を構成する脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンに由来する構造単位を25モル%以上含有することがさらに好ましい。1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを併用する場合には、1,9−ノナンジアミン:2−メチル−1,8−オクタンジアミン=99:1〜1:99(モル比)であることが好ましく、95:5〜50:50であることがより好ましい。
中でも、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構造単位を25モル%以上含有し、かつ脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンに由来する構造単位を25モル%以上含有するポリアミド樹脂(A)を含有するポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、低吸水性、流動性に特に優れる。
脂環式モノマーとして1,4−シクロヘキサンジカルボン酸や1,4−シクロヘキサンジアミンを用いる場合には、トランス異性体構造単位の含有率が高い方が得られるポリアミド樹脂(A)の融点が成形するにあたり好ましくなることから、トランス異性体構造単位の含有率としては50〜100モル%が好ましく、50〜90モル%がより好ましく、50〜85モル%であることがより好ましく、60〜85モル%がさらに好ましく、70〜85モル%が特に好ましく、80〜85モル%が最も好ましい。
ポリアミド樹脂(A)において、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する脂環式モノマーに由来する構造単位は、同一であっても異なっていてもよいが、ポリアミド樹脂組成物の80℃の金型における成形性の観点から、同一であることが好ましい。
ポリアミド樹脂(A)は、構成成分であるポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端基の総量の10%以上が末端封止剤により封止されていると、溶融成形性などの物性がより優れたものとなる。
ここで、末端封止率は、ポリアミド樹脂(A)の構成成分であるポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端のカルボキシル基、末端のアミノ基および末端封止剤によって封止された末端基の数を、例えばH−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値に基づいてそれぞれ測定し、算出できる(後述する実施例参照)。
末端封止剤としては、アミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はなく、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などが挙げられる。中でも反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。
前記モノカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸などの脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などが挙げられる。中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シクロへキサンカルボン酸、安息香酸が好ましい。
末端封止剤は、重合時に予め末端封止剤を添加しておく方法、重合中に添加する方法、溶融混練や成形工程において添加する方法などのいずれで添加してもよく、どの方法においても末端封止剤としての機能を果たす。
ポリアミド樹脂(A)は、濃硫酸中の試料濃度0.2g/dL、30℃で測定したηinhが0.4〜3.0dL/gの範囲内であることが好ましく、0.5〜2.0dL/gの範囲内であることがより好ましく、0.6〜1.8dL/gの範囲内であることがさらに好ましい。ηinhが上記の範囲内のポリアミド樹脂(A)を用いると、得られるポリアミド樹脂組成物の耐熱性、高温下での剛性などがより優れる。
ポリアミド樹脂(A)の製造方法としては、数平均分子量および分子量分布の異なるポリアミドを製造した後に混合し、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)が本発明の規定する範囲になるよう、適宜調整する方法が挙げられる。前記ポリアミドは、公知の方法、例えばジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法などの方法により製造できる。
混合方法としては、例えば前記した数平均分子量および分子量分布の異なるポリアミドをドライブレンドし、溶融混練装置へ同時にまたは別々に投入する方法が挙げられる。
ポリアミド樹脂(A)の別の製造方法として、ポリアミド樹脂(A)を製造する際に適当な重合条件を選択することによって、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)が本発明の規定する範囲になるように重合する方法が挙げられる。適当な重合条件としては、例えばまずポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分、ジアミン成分、必要に応じて触媒および末端封止剤を一括して添加してナイロン塩を製造した後、200〜260℃の温度において加熱することで、好ましくは含水率10〜40%のプレポリマーを含有する溶液を得、その溶液をさらに100〜150℃の雰囲気下へ噴霧することで、濃硫酸中の試料濃度0.2g/dL、30℃におけるηinhが0.1〜0.6dL/gの粉末状のプレポリマーを得る。そして、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合する方法が挙げられる。
触媒としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルが挙げられ、具体的には、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸とカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。ここで、プレポリマーのηinhが0.1〜0.6dL/gの範囲内であると、後の重合の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、各種物性に優れたポリアミド樹脂(A)が得られる。
なお、プレポリマーを得た後の重合を固相重合で行う場合、不活性ガス雰囲気下または不活性ガス流通下で行うことが好ましく、重合温度が200℃以上〜ポリアミドの融点よりも20℃低い温度の範囲内であり、重合時間が1〜8時間であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができると共に、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)を本発明の規定する範囲に調整することが容易となる。一方、プレポリマーを得た後の重合を溶融押出機を用いて行う場合、重合温度としては370℃以下であり、重合時間が5〜60分であることが好ましい。かかる条件で重合すると、ポリアミドの分解がほとんどなく、劣化の無いポリアミド樹脂(A)が得られると共に、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)を本発明の規定する範囲に調整することが容易となる。
ポリアミド樹脂(A)を構成するポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量はGPCを用いて、後述する実施例での測定条件における溶出曲線より求める。GPC測定の際にポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂組成物中に、例えばポリアミド樹脂(A)を溶解させる溶媒に可溶である他の成分が含有される場合は、ポリアミド樹脂(A)は不溶だが該他の成分は可溶な溶媒を用いて、該他の成分を抽出して除去した後、GPC測定を行えばよい。また、例えばポリアミド樹脂(A)を溶解させる溶媒に不溶であるルイス塩基として作用する化合物(C)などは、ポリアミド樹脂組成物をポリアミド樹脂(A)を溶解させる溶媒に溶解させ、次いでろ過して不溶物を除去した後、GPC測定を行えばよい。
〔難燃剤(B)〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は、該樹脂組成物に難燃性を付与する観点から、リン系難燃剤(B1)およびハロゲン系難燃剤(B2)から選ばれる少なくとも1種の難燃剤(B)を含有する。
<リン系難燃剤(B1)>
リン系難燃剤(B1)としては、リン元素を含む難燃剤であれば特に制限されないが、例えば赤リン系、リン酸エステル系、リン酸アミド系、(ポリ)リン酸塩系、フォスファゼン系およびホスフィン系のリン系難燃剤が挙げられる。中でもホスフィン系が好ましい。かかるホスフィン系の難燃剤としては、ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩が挙げられる(以下、両者を総称して「ホスフィン酸塩」と略称する場合がある)。なお、リン系難燃剤(B1)の含有量としては、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5〜100質量部含有することが好ましく、10〜75質量部含有することがより好ましく、30〜70質量部含有することがさらに好ましい。リン系難燃剤(B1)の含有量を5質量部以上とすることにより、難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。また、リン系難燃剤(B1)の含有量を100質量部以下とすることにより、溶融混練時の分解ガスの発生、成形加工時の流動性(特に、薄肉流動性。)の低下や成形金型への汚染性物質の付着を抑制することができる。さらに、機械的物性や成形品外観の低下も抑制することができる。
ホスフィン酸塩としては、例えば下記一般式(III)で示される化合物が挙げられる。
Figure 2014122329
Figure 2014122329
ジホスフィン酸塩としては、例えば下記一般式(IV)で示される化合物が挙げられる。
Figure 2014122329
一般式(III)および(IV)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。Rは炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、炭素数7〜20のアルキルアリーレン基または炭素数7〜20のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)または亜鉛(イオン)を表す。mは2または3であり、nは1または3であり、xは1または2である。
上記のアルキル基としては、直鎖または分岐状飽和脂肪族基が挙げられる。上記のアリール基は、無置換または種々の置換基で置換されていてもよく、例えばフェニル基、ベンジル基、o−トルイル基、2,3−キシリル基などが挙げられる。
上記のホスフィン酸塩は、欧州特許出願公開第699708号公報や特開平8−73720号公報などに記載されているように、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物などの金属成分を用いて、水溶液中で製造することができる。これらはモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
ホスフィン酸塩を構成するホスフィン酸およびジホスフィン酸としては、例えばジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などが挙げられる。
ホスフィン酸塩を構成する金属成分としては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンなどが挙げられる。
ホスフィン酸塩としては、例えばジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メチレンビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)亜鉛、フェニレン−1,4−ビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、フェニレン−1,4−ビス(メチルホスフィン酸)マグネシウム、フェニレン−1,4−ビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、フェニレン−1,4−ビス(メチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛などが挙げられる。
中でも、得られるポリアミド樹脂組成物の難燃性、電気特性や、ホスフィン酸塩の入手容易性の観点から、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。これらのホスフィン酸塩は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ホスフィン酸塩としては、ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品の機械的物性(靭性および剛性など)、並びに成形品外観の点で、ホスフィン酸塩の平均粒径が100μm以下に粉砕した粉末として用いることが好ましく、50μm以下に粉砕した粉末を用いることがより好ましい。平均粒径が0.5〜20μmの粉末状のホスフィン酸塩を用いると、難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができるばかりでなく、成形品の剛性が向上するため好ましい。
ホスフィン酸塩は、必ずしも完全に純粋である必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲で未反応物あるいは副生成物を含有していてもよい。
〔ハロゲン系難燃剤(B2)〕
ハロゲン系難燃剤(B2)の含有量としては、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5〜100質量部含有することが好ましく、10〜75質量部含有することがより好ましく、30〜70質量部含有することがさらに好ましい。ハロゲン系難燃剤(B2)の含有量を5質量部以上とすることにより、難燃性に優れるポリアミド組成物を得ることができる。また、ハロゲン系難燃剤(B2)の含有量を100質量部以下とすることにより、溶融混練時の分解ガスの発生、成形加工時の流動性(特に、薄肉流動性)の低下や成形金型への汚染性物質の付着を抑制することができる。さらに、機械的物性や成形品外観の低下も抑制することができる。
ハロゲン系難燃剤(B2)としては、ハロゲン元素を含む難燃剤であれば特に制限されることはないが、例えば塩素系難燃剤および臭素系難燃剤が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩素系難燃剤としては、例えば塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、ドデカクロロペンタシクロオクタデカ−7,15−ジエン(オキシデンタルケミカル社製、「デクロランプラス25」)、無水ヘット酸などが挙げられる。
臭素系難燃剤としては、例えばヘキサブロモシクロドデカン、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモビスフェノールAエポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAカーボネート、エチレン(ビステトラブロモフタル)イミド、エチレンビスペンタブロモジフェニル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールS、臭素化ポリフェニレンエーテル(ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテルなどを含む)、臭素化ポリスチレン(ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋臭素化ポリスチレンなどを含む)、臭素化架橋芳香族重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化スチレン−無水マレイン酸重合体、テトラブロモビスフェノールS、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、ポリブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(ジブロモプロピル)−イソシアヌレートなどが挙げられる。
前記臭素系難燃剤としては、押出や成形などの溶融加工時の腐食性ガスの発生量を低下させ、電気部品または電子部品の難燃性や機械的物性を向上させる観点で、臭素化ポリフェニレンエーテル(ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテルなどを含む)、臭素化ポリスチレン(ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋臭素化ポリスチレンなどを含む)が好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。
臭素化ポリスチレンは、例えばスチレン単量体を重合してポリスチレンを製造した後、ポリスチレンのベンゼン環を臭素化する方法や、臭素化スチレン単量体(ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレンなど)を重合する方法により製造することができる。
臭素化ポリスチレン中の臭素含有量は55〜75質量%が好ましい。臭素含有量を55質量%以上とすることにより、少ない臭素化ポリスチレンの含有量で難燃化に必要な臭素量を満足させることができ、ポリアミド樹脂(A)の機械的物性低下が小さいため、機械的物性および耐熱性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。また、臭素含有量を75質量%以下とすることにより、押出や成形などの溶融加工時において熱分解を起こし難く、ガス発生などを抑制することができ、耐熱変色性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
〔ルイス塩基として作用する化合物(C)〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してルイス塩基として作用する化合物(C)を0.1〜10質量部含有していてもよく、0.1〜5質量部含有していることがより好ましい。ルイス塩基として作用する化合物(C)の量を前記範囲内にすることで、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する、一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマー由来のトランス異性体構造単位の含有率を高めることができ、高融点すなわち耐熱性や高温下での剛性に優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。さらに、トランス異性体構造単位の含有率が高くなることで、得られるポリアミド樹脂組成物の結晶構造がより強固なものとなり、耐薬品性も向上する。
ルイス塩基として作用する化合物(C)としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、酸化亜鉛および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物としては、例えば酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が挙げられ、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物としては、例えば水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
〔難燃助剤(D)〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は難燃助剤(D)を含有していてもよい。難燃助剤(D)を難燃剤(B)と併用することで、本発明のポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品は一層優れた難燃性を発揮することができる。
難燃助剤(D)を含有する場合その含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、1〜25質量部がより好ましく、3〜20質量部がさらにより好ましい。
難燃助剤(D)としては、例えば三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどの酸化アンチモン類などのアンチモン系化合物;オルソリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、ポリリン酸メラミンなどのメラミン系化合物;一酸化スズ、二酸化スズなどの酸化スズ;酸化第二鉄、γ酸化鉄などの酸化鉄;酸化アルミニウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステンなどの金属酸化物;水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅、タングステンなどの金属粉末;炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの金属炭酸塩;ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウムなどの金属ホウ酸塩;シリコーンなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ただし、本発明のポリアミド樹脂組成物中においてルイス塩基として働く化合物は、本明細書においてはルイス塩基として作用する化合物(C)に含まれ、難燃助剤(D)とは区別される。
上記の中でも三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、オルソリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、ポリリン酸メラミン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛およびスズ酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
難燃助剤(D)は粉体状として本発明のポリアミド樹脂組成物に含有させるのが好ましい。その平均粒径の上限は、30μmが好ましく、15μmがより好ましく、10μmがさらに好ましく、7μmが最も好ましい。一方、難燃助剤(D)の平均粒径の下限は、0.01μmが好ましい。平均粒径が0.01〜30μmの場合、得られるポリアミド樹脂組成物の難燃性が向上する。
〔繊維状強化材(E)〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は繊維状強化材(E)を含有してもよい。繊維状強化材(E)を用いることにより、耐熱性、高温下での剛性、耐熱エージング性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
繊維状強化材(E)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維等が挙げられる。中でも、強度や剛性の観点から、ガラス繊維や炭素繊維が好ましい。これらは1種類で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本発明において繊維状強化材(E)は、断面長径D2および断面短径D1の、D2/D1で表される扁平率が1.5以上のものであることが好ましい。扁平率はメーカーによる公称値があればそれをそのまま使用できるが、公称値が無い場合は顕微鏡で繊維状強化材(E)の断面を観察してD2およびD1を算出できる。
繊維状強化材(E)の断面形状としては例えば長方形、長方形に近い長円形、楕円形、繭型、長手方向の中央部がくびれた繭型等が挙げられる。中でも、繊維状強化材(E)の断面形状が、長方形、長方形に近い長円形、楕円形または繭型のものが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物から板状成形品を作製した場合、該板状成形品の反りの低減(形状安定性)、耐熱性、靭性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性の観点から、繊維状強化材(E)の扁平率は1.5以上であることが好ましく、1.5〜10.0であることがより好ましく、2.5〜10.0であることがさらに好ましく、3.1〜6.0であることが最も好ましい。扁平率が15〜20程度に大きいと、他の成分との混合の他、混練、成形等の処理の際に破砕される場合があり、本発明の所望の効果が得られないことがある。
繊維状強化材(E)の繊維径は特に制限はないが、通常、断面短径D1が0.5〜25μm、断面長径D2が1.25〜250μmであることが好ましい。前記範囲より繊維径が小さい場合には繊維の紡糸が困難な場合があり、前記範囲より大きい場合は樹脂との接触面積の減少等により、成形品の機械的強度が低下する場合がある。短径D1は3μm以上が好ましく、短径D1が3μm以上で、かつ扁平率が3より大きい値であることがより好ましい。
繊維状強化材(E)は、例えば特公平3−59019号公報、特公平4−13300号公報、特公平4−32775号公報等に記載されている方法により製造できる。特に、底面に多数のオリフィスを有するオリフィスプレートにおいて、複数のオリフィス出口を囲み、当該オリフィスプレート底面より下方に延びる凸状縁を設けたオリフィスプレート、または、単数もしくは複数のオリフィス孔を有するノズルチップの外周部先端から下方に延びる複数の凸状縁を設けた異形断面ガラス繊維紡糸用ノズルチップを使用して製造された、扁平率が1.5以上のガラス繊維が好ましい。繊維状強化材(E)は、繊維ストランドをロービングとしてそのまま使用してもよく、さらに切断工程を経て、チョップドガラスストランドとして用いてもよい。
繊維状強化材(E)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部であり、より好ましくは1〜180質量部であり、さらに好ましくは5〜150質量部である。繊維状強化材(E)の配合量をポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上とすることにより、本発明のポリアミド樹脂組成物の靭性、機械的強度等が向上し、また、配合量を200質量部以下とすることにより、成形性が容易なポリアミド樹脂組成物が得られる。
繊維状強化材(E)がガラス繊維であるとき、具体的な組成として、Eガラス組成、Cガラス組成、Sガラス組成、耐アルカリガラス組成等が挙げられる。また、ガラス繊維の引張強さは、任意であるが、通常290kg/mm以上である。中でもEガラスが入手が容易である観点から好ましい。これらガラス繊維は、例えばγ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましく、その付着量はガラス繊維重量(ガラス繊維と表面処理剤との合計量)に対し通常0.01質量%以上である。
繊維状強化材(E)には、必要に応じ、集束剤により処理を施すこともできる。集束剤としては、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む重合体、エポキシ化合物、ポリウレタン樹脂、アクリル酸の単独重合体/共重合体、これらの第1級、第2級または第3級アミンとの塩などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は繊維状強化材(E)以外の他の繊維状無機充填材を含有していてもよい。
かかる他の繊維状無機充填材としては、炭素繊維、ウォラストナイト等が挙げられる。これら炭素繊維の場合は、平均繊維径が3〜30μmであり、重量平均繊維長が100〜750μmであり、重量平均繊維長と平均繊維径とのアスペクト比(L/D)が10〜100であるものが、高温下での剛性や流動性に優れるという観点から好ましく用いられる。ウォラストナイトの場合は、平均繊維径が3〜30μmであり、重量平均繊維長が10〜500μmであり、前記アスペクト比(L/D)が3〜100であるものがさらに好ましい。
上記他の繊維状無機充填材の平均繊維径および重量平均繊維長の測定は、ポリアミド樹脂組成物の成形品を、ポリアミドが可溶なギ酸等の溶媒で溶解し、得られた不溶成分を、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察して、例えば100個以上の平均を求めて算出できる。
上記他の繊維状無機充填材には、必要に応じ、集束剤により処理を施すこともできる。集束剤としては、上述した繊維状強化材(E)に対して用いることができる集束剤と同様のものを用いることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物を含有する成形品において、反りの発生の低減化、寸法の異方性の低減化を図る観点から、繊維状強化材(E)以外に、前記他の繊維状無機充填材とは異なる無機充填材を含んでいてもよい。このような無機充填材としては、例えばガラスフレーク、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、タルク、カオリン、マイカ、窒化珪素、ハイドロタルサイト、リン酸一水素カルシウム、ゼオライト、ベーマイト、酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト等が挙げられる。これらの無機充填材は、表面処理されていてもよい。上記した無機充填材は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
〔その他の成分〕
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂(A)、難燃剤(B)、ルイス塩基として作用する化合物(C)、難燃助剤(D)および繊維状強化材(E)以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えばポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)以外の熱可塑性樹脂、相溶化剤、有機充填材、シランカップリング剤、結晶核剤、染料、顔料、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、加工助剤、潤滑剤、蛍光漂白剤、ゴムおよび強化剤などが挙げられる。
〔ポリアミド樹脂組成物の製造方法〕
難燃剤(B)の含有方法としては、ポリアミド樹脂(A)と均一に混合させる方法であればよく、通常、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して溶融混練する方法が採用される。溶融混練条件は特に限定されないが、例えばポリアミド樹脂(A)の融点よりも30〜50℃高い温度範囲で1〜30分間溶融混練することにより、本発明のポリアミド樹脂組成物が得られる。なお、ポリアミド樹脂(A)の粘度が高い場合、難燃剤(B)のポリアミド樹脂組成物中で分散が不十分となり、得られるポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品に十分な難燃性、耐ブリスタ性を付与できず、製品表面の白化が発生しやすくなる。
ルイス塩基として作用する化合物(C)、難燃助剤(D)、繊維状強化材(E)および前記以外の成分は、あらかじめポリアミド樹脂組成物に含有させておいてもよい。また、これらの成分を含有させる方法としては、これらの成分を均一に混合させる方法であればよく、通常、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して溶融混練する方法が採用されるポリアミド樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての成分を同一の供給口に一度に供給してもよいし、成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。溶融混練温度は、ポリアミド樹脂(A)の融点よりも5℃高い温度〜375℃程度であることが好ましい。溶融混練時間は、0.5〜15分程度であることが好ましい。
〔ポリアミド樹脂組成物からなる成形品〕
本発明のポリアミド樹脂組成物を、目的とする成形品の種類、用途、形状などに応じて、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形など、熱可塑性重合体組成物に対して一般に用いられる成形方法を適用することにより、各種の成形品を製造できる。また上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用してもよい。さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物を、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紙、金属、木材、セラミックスなどの各種材料と接着、溶着、接合した複合成形体とすることもできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述したような成形プロセスを経て、電気電子部品、自動車部品、産業部品、繊維、フィルム、シート、家庭用品、その他の任意の形状および用途の各種成形品の製造に有効に使用することができる。
電気電子部品としては、例えばFPCコネクタ、BtoBコネクタ、カードコネクタ、同軸コネクタ等のSMTコネクタ;SMTスイッチ、SMTリレー、SMTボビン、メモリーカードコネクタ、CPUソケット、LEDリフレクタ、カメラモジュールのベース・バレル・ホルダ、ケーブル電線被覆、光ファイバー部品、AV・OA機器の消音ギア、自動点滅機器部品、携帯電話部品、複写機用耐熱ギア、エンドキャップ、コミュテーター、業務用コンセント、コマンドスイッチ、ノイズフィルター、マグネットスイッチ、太陽電池基板、液晶板、LED実装基板、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブルなどが挙げられる。
自動車部品としては、例えばサーモスタットハウジング、ラジエータータンク、ラジエーターホース、ウォーターアウトレット、ウォーターポンプハウジング、リアジョイントなどの冷却部品;インタークーラータンク、インタークーラーケース、ターボダクトパイプ、EGRクーラーケース、レゾネーター、スロットルボディ、インテークマニホールド、テールパイプなどの吸排気系部品;燃料デリバリーパイプ、ガソリンタンク、クイックコネクタ、キャニスター、ポンプモジュール、燃料配管、オイルストレーナー、ロックナット、シール材などの燃料系部品;マウントブラケット、トルクロッド、シリンダヘッドカバーなどの構造部品;ベアリングリテイナー、ギアテンショナー、ヘッドランプアクチュエータギア、スライドドアローラー、クラッチ周辺部品などの駆動系部品;エアブレーキチューブなどのブレーキ系統部品;エンジンルーム内のワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、センサー、ABSボビン、コンビネーションスイッチ、車載スイッチなどの車載電装部品;スライドドアダンパー、ドラミラーステイ、ドアミラーブラケット、インナーミラーステイ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、エアクリーナーのインレートパイプ、ドアチェッカー、プラチェーン、エンブレム、クリップ、ブレーカーカバー、カップホルダー、エアバック、フェンダー、スポイラー、ラジエーターサポート、ラジエーターグリル、ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、バックドア、フューエルセンダーモジュールなどの内外装部品等が挙げられる。
産業部品としては、例えばガスパイプ、油田採掘用パイプ、ホース、防蟻ケーブル(通信ケーブル、パスケーブルなど)、粉体塗装品の塗料部(水道管の内側コーティング)、海底油田パイプ、耐圧ホース、油圧チューブ、ペイント用チューブ、燃料ポンプ、セパレーター、スーパーチャージ用ダクト、バタフライバルブ、搬送機ローラー軸受、鉄道の枕木バネ受け、船外機エンジンカバー、発電機用エンジンカバー、灌漑用バルブ、大型開閉器(スイッチ)、漁網などのモノフィラメント(押出糸)などが挙げられる。
繊維としては、例えばエアバック基布、耐熱フィルター、補強繊維、ブラシ用ブリッスル、釣糸、タイヤコード、人工芝、絨毯、座席シート用繊維などが挙げられる。
フィルムやシートとしては、例えば耐熱マスキング用テープ、工業用テープなどの耐熱粘着テープ;カセットテープ、デジタルデータストレージ向けデータ保存用磁気テープ、ビデオテープなどの磁気テープ用材料;レトルト食品のパウチ、菓子の個包装、食肉加工品の包装などの食品包装材料;半導体パッケージ用の包装などの電子部品包装材料などが挙げられる。
その他、本発明のポリアミド樹脂組成物は、プラスチックマグネット、シューソール、テニスラケット、スキー板、ボンド磁石、メガネフレーム、結束バンド、タグピン、サッシ用クレセント、電動工具モーター用ファン、モーター固定子用絶縁ブロック、芝刈機用エンジンカバー、芝刈機の燃料タンク、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、コネクタのシェル、ICソケット、ボビンカバー、リレーボックス、コンデンサーケース、小型モーターケース、ギヤ、カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、ファスナー、キャスター、ワイヤークリップ、自転車用ホイール、端子台、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、エアクリーナーケース、エアコンファン、ターミナルのハウジング、ホイールカバー、ベアリングテーナー、ウォーターパイプインペラ、クラッチレリーズベアリングハブ、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンターリボンガイドなどにも好適に使用することができる。
中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物は、電気部品または電子部品に好適に用いることができ、特に耐熱性に優れる観点から、SMT工程を含む電気部品または電子部品、より具体的にはSMT対応のコネクタ、スイッチ類、コイルボビン、ブレーカー、電磁開閉器、ホルダー、プラグ、スイッチに好適に用いることができる。また、薄肉流動性に優れることから厚さ0.4mm以下の薄肉部を含むものであっても、好ましく製造が可能である。
以下、実施例および比較例(以下、実施例等と略称する)により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例等において、融点、溶液粘度、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)、末端封止率、脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位含有率、難燃性、耐ブリスタ温度、流動性、荷重たわみ温度、相対結晶化度、金型汚染性は以下の方法で測定または評価した。
<融点>
各実施例等で用いたポリアミド(後述するポリアミド9C−1〜4。以下同様。)の融点は、メトラー・トレド(株)製の示差走査熱量分析装置(DSC822)を使用して、窒素雰囲気下で、30℃から360℃へ10℃/minの速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とすることで求めた。なお、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点とした。
<溶液粘度>
各実施例等で用いたポリアミドの溶液粘度ηinhは、ポリアミド50mgをメスフラスコ中で98%濃硫酸25mLに溶解させ、ウベローデ型粘度計にて、得られた溶液の30℃での落下時間(t)を計り、濃硫酸の落下時間(t)から下記数式(1)より算出した。
ηinh(dL/g)={ln(t/t)}/0.2 (1)
<ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量>
各実施例等で用いるポリアミド樹脂(A)におけるポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)は、GPCを用いて得られる各試料の溶出曲線(縦軸:検出器から得られるシグナル強度、横軸:溶出時間)から、ベースラインと溶出曲線によって囲まれる数平均分子量500以上2000未満の領域の面積、およびベースラインと溶出曲線によって囲まれる数平均分子量2000以上から主ピークの検出が終了する数平均分子量以下の領域の面積より算出した。測定は下記の条件で行った。
・検出器:UV検出器(波長:210nm)
・ カラム:昭和電工株式会社製 HFIP−806M(内径8mm×長さ300mm)
・ 溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウムを0.01モル/Lの濃度で含有するヘキサフルオロイソプロパノール
・ 温度:40℃
・ 流速:1mL/min
・ 注入量:90μL
・ 濃度:0.5mg/mL
・ 試料調製:トリフルオロ酢酸ナトリウムを0.01モル/L含有するヘキサフルオロイソプロパノールに、各実施例等で得られたポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂(A)換算で0.5mg/mLになるように秤量して室温で1時間攪拌して溶解させ、得られた溶液をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過して試料を調製した。
・ PMMA標準試料:昭和電工株式会社製 STANDARD M−75(数平均分子量範囲:1,800〜950,000)を用いて標準溶出曲線(校正曲線)を作成した。
後述する実施例1で用いたポリアミド樹脂(A)を上記の条件で測定した際の溶出曲線を、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)の領域とともに図1に示す。
<末端封止率>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度:80℃)を行い、長さ100mm、幅40mm、厚み1mmの試験片を作製し、得られた試験片から20〜30mgを削りとって、トリフルオロ酢酸−d(CFCOOD)1mLに溶解し、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM−ECX400(400MHz)を用いて、室温、積算回数256回の条件でH−NMRを測定した。そして、カルボキシル基末端(a)、アミノ基末端(b)および末端封止剤によって封止された末端(D)を各末端基の特性シグナルの積分値よりそれぞれ求め、数式(2)から末端封止率(%)を求めた。
末端封止率(%)=c/(a+b+c)×100 (2)
<トランス異性体構造単位含有率>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度:80℃)を行い、長さ100mm、幅40mm、厚み1mmの試験片を作製し、得られた試験片から20〜30mgを削りとって、トリフルオロ酢酸−d(CFCOOD)1mLに溶解させ、グラスフィルターでろ過して不溶物を除去して測定試料を調製し、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM−ECX400(400MHz)を用いて、室温、積算回数256回の条件でH−NMRを測定した。1,4−シクロヘキサンジカルボン酸構造単位のシス異性体のβ水素に由来する2.10ppmのピーク面積と、トランス異性体構造単位のβ水素に由来する2.20ppmのピーク面積の比率から、トランス異性体構造単位含有率を求めた。
<難燃性>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度:80℃)を行い、厚さ1mmの板状の試験片を作製した。そして、以下に示すUL−94規格の規定に準じて難燃性の指標とした。即ち、厚さ1mmの試験片の上端をクランプで止めて試験片を垂直に固定し、下端に所定の炎を10秒間当てて離し、試験片の燃焼時間(1回目)を測定した。消火した後、再び下端に炎を当てて離し、試験片の燃焼時間(2回目)を測定した。5片について同じ測定を繰り返し、1回目の燃焼時間(秒)のデータ5個と、2回目の燃焼時間のデータ5個の、計10個のデータを得た。10個のデータの合計をT、10個のデータのうち最大値をMとした。Tが50秒以下、Mが10秒以下であり、クランプまで燃え上がらず、炎のついた溶融物が落ちて12インチ下の木綿に着火することがなければ「V−0」、Tが250秒以下、Mが30秒以下であり、その他はV−0と同様の条件を満たせば「V−1」、Tが250秒以下、Mが30秒以下であり、クランプまで燃え上がらず、炎のついた溶融物が落ちて12インチ下の木綿に着火した場合には「V−2」とした。また、前記UL−94のいずれの評価基準も満たさない場合には「×」とした。
<耐ブリスタ温度>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度:80℃)を行い、長さ30mm、幅10mm、厚み0.5mmの試験片(シート)を作製した。得られた試験片を温度40℃、相対湿度95%の条件で72時間静置した。その後、赤外線加熱炉( 山陽精工株式会社製、SMTスコープ)を用いて、試験片に対して図2に示す温度プロファイルのリフロー工程を行った。その際、試験片にセンサーを設置して、その温度プロファイルを測定した。リフロー工程は、ピーク温度を240℃から270℃までの区間で5℃刻みで変化させて行った。リフロー工程終了後、試験片の外観を目視にて観察した。試験片が溶融せずかつブリスタが発生しない限界の温度を耐ブリスタ温度とし、耐ブリスタ温度が260℃を超える場合を「○」、耐ブリスタ温度が240℃以上260℃以下であった場合を「△」、耐ブリスタ温度が240℃未満であった場合を「×」とすることで、耐ブリスタ性の指標とした。
<流動性>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、射出成形機(住友重機械株式会社製SE18DU)で、シリンダー温度340℃、射出圧力90%設定、金型温度140℃ の条件下で、長さ30mm、幅30mm、厚み0.3mmの試験片を作製した。射出成形は10ショット行い、10個の試験片を作製し、上記寸法の試験片を10個得られた場合を「○」、ポリアミド樹脂組成物の充填不足により一つでも上記寸法の試験片が得られなかった場合を「△」、ポリアミド樹脂組成物を充填できず、上記寸法の試験片を一つも得られたかった場合を「×」とすることで、流動性の指標とした。
<荷重たわみ温度>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度80℃)を行い、ISO多目的試験片A型(長さ80mm、幅10mm、厚み4mm)を作製した。得られた試験片を用いて、ISO 75−2/Afに従って1.8MPaの負荷を与えたときの荷重たわみ温度(℃)を測定し、高温下での剛性の指標とした。
<相対結晶化度>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、下記条件にて射出成形を行い、長さ100mm、幅40mm、厚み1mmの試験片を作製した。得られた試験片から約10mgを削りとり、DSC822を用いて窒素雰囲気下で、30℃から360℃へ10℃/minの速度で昇温した。ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂(A)に非晶領域が存在すれば、この昇温過程のうち80〜150℃の温度領域において該非晶領域の結晶化が進むことに起因する結晶化ピークが観測される。本明細書では、かかる結晶化ピークから算出される熱量を「結晶化熱量ΔHc」と称する。上述の、30℃から360℃へ10℃/minの速度での昇温過程において、前記した結晶化ピークが検出される後か結晶化ピークが検出されずに、結晶融解ピークが観測される。本明細書では、かかる結晶融解ピークから算出される熱量を「結晶融解熱量ΔHm」と称する。かかるΔHcとΔHmを用いて、相対結晶化度(%)を下記数式(3)にて算出し、80℃の金型での成形性の指標とした。
・射出成形時のポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂組成物温度:340℃
・金型温度:80℃
・ 射出速度:60mm/sec
・ 射出時間:2sec
・ 冷却時間:5sec
相対結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (3)
<金型汚染性>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、図3および4に示す形状の金型(図3:正面図、図4:k軸を切断面とする断面図)で下記条件にて射出成形を行った。ポリアミド樹脂組成物は、図中の突出末端mから浸入し、図3の円nの外周部から流動末端Оに向かって流れる。金型の流動末端部Оの汚れ(変色度)を500ショット連続射出後に目視で確認し、金型に曇りが付着物や曇りが認められなかった場合を○、金型に曇りが認められた場合を△、金型に付着物の認められた場合を×で評価することで、金型汚染性の指標とした。
・ 射出成形時のポリアミド樹脂組成物温度:340℃
・金型温度:80℃
・ 射出速度:60mm/sec
・ 射出時間:2sec
・ 冷却時間:5sec
各実施例等で使用したポリアミド樹脂(A)、難燃剤(B)、ルイス塩基として作用する化合物(C)、難燃助剤(D)および繊維状強化材(E)を以下に示す。
<ポリアミド樹脂(A)>
以下のポリアミドを表1および表2に示す割合で配合してポリアミド樹脂(A)とした。
ポリアミド9C−1:
トランス体/シス体比=30/70(モル比)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5111.2g(29.7モル)、1,9−ノナンジアミン4117.6g(26.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン726.6g(4.59モル)、末端封止剤としての酢酸110.4g(1.84モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物10g、および蒸留水2.5Lを、内容積40Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。2時間かけて内部温度を200℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後2時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥した。これを230℃、13.3Paの条件で10時間固相重合し、溶液粘度ηinhが0.87dL/gであるポリアミド9C−1を得た。
ポリアミド9C−2:
トランス体/シス体比=30/70(モル比)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5111.2g(29.7モル)、1,9−ノナンジアミン4117.6g(26.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン726.6g(4.59モル)、末端封止剤としての酢酸110.4g(1.84モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物10g、および蒸留水2.5Lを、内容積40Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。2時間かけて内部温度を200℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後2時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥し、溶液粘度ηinhが0.23dL/gであるポリアミド9C−2を得た。
ポリアミド9C−3:
ポリアミドPA9C−1を80℃の熱水中で8時間、抽出処理を行った。その後、120℃、減圧下で12時間乾燥し、溶液粘度ηinhが0.89dL/gであるポリアミド9C−3を得た。
ポリアミド9C−4:
トランス体/シス体比=30/70(モル比)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5111.2g(29.7モル)、1,9−ノナンジアミン4117.6g(26.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン726.6g(4.59モル)、末端封止剤としての酢酸110.4g(1.84モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物10g、および蒸留水2.5Lを、内容積40Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。2時間かけて内部温度を200℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後2時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥した。これを温度350℃、減圧下、押出重合装置にて滞留時間が30分になるように重合することで、溶液粘度ηinhが0.78dL/gであるポリアミド9C−4を得た。
<難燃剤(B)>
〔リン系難燃剤(B1)〕
クラリアントジャパン社製、「エクソリットOP−930」(ホスフィン酸アルミニウム)
〔ハロゲン系難燃剤(B2)〕
ALBEMARLE社製、「SAYTEX HP−7010G」(臭素化ポリスチレン:臭素含有量68%)
<ルイス塩基として作用する化合物(C)>
(1)酸化マグネシウム:
協和化学工業株式会社製、「MF−150」(平均粒子径:0.71μm)
(2)酸化カルシウム:
関東化学株式会社製、「酸化カルシウム」(平均粒子径:15μm)
(3)酸化亜鉛:
和光純薬工業株式会社製、「酸化亜鉛」(平均粒子径:5.0μm以下)
<難燃助剤(D)>
(1)ボラックス・ジャパン株式会社製、「ファイアーブレイク415」(ホウ酸亜鉛)
(2)チバスペシャル化学社製、「MELAPUR200」(ポリリン酸メラミン)
(3)山中産業株式会社製、「MSA」(三酸化アンチモン)
(4)日本軽金属株式会社製、「FLAMTARD−S」(スズ酸亜鉛)
<繊維状強化材(E)>
日東紡績株式会社製、「CS−3J−256S」(ガラス繊維:扁平率=1、直径11μm、カット長3mm)
〔実施例1〜17および比較例1〜9〕
ポリアミド9C−1〜4を表1および表2に示す量で配合した混合物を減圧下、120℃で24時間乾燥した後、表1および表2に示す量の難燃剤(B)、必要に応じてルイス塩基として作用する化合物(C)および難燃助剤(D)をドライブレンドし、得られた混合物を二軸押出機(スクリュー径:30mm、L/D=28、シリンダー温度350℃、回転数150rpm)のホッパーからフィードし、さらに必要に応じて下流側供給口から表1および表2に示す量の繊維状強化材(E)をフィードして溶融混練し、ストランド状に押出した後、ペレタイザにより切断してペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物を使用し、前記した方法に従って所定形状の試験片を作製し、各種物性を評価した。結果を表1および表2に示す。
Figure 2014122329
Figure 2014122329
実施例1〜9は、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量、トランス異性体構造単位含有率が特定範囲にあり、リン系難燃剤(B1)を含むため、耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性、成形性(相対結晶化度が大きい。)に優れ、かつ金型汚染が起こらない。中でも、実施例7〜9は、ルイス塩基として作用する化合物(C)を含有するため、トランス異性体構造単位含有率が高く、それに伴い高温下での剛性がより優れている。実施例10は耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性、成形性に優れるが、流動性、金型汚染性には僅かな差異が見られる。比較例1は、リン系難燃剤(B1)を含まないため難燃性に劣る。比較例2〜4はポリアミドオリゴマー(a−2)が少ないため、流動性および成形性に劣る。さらに、流動性が悪いことに伴い、耐ブリスタ性にも劣る。
実施例11〜16は、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量、トランス異性体構造単位含有率が特定範囲にあり、ハロゲン系難燃剤(B2)を含むため、耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性、成形性(相対結晶化度が大きい。)に優れ、かつ金型汚染が起こらない。中でも、実施例13〜16は、ルイス塩基として作用する化合物(C)を含有するため、トランス異性体構造単位含有率が高く、それに伴い高温下での剛性がより優れている。実施例17は耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性、成形性に優れるが、金型汚染性には僅かな差異が見られる。比較例5は、ハロゲン系難燃剤(B)を含まないため難燃性に劣る。比較例6〜9はポリアミドオリゴマー(a−2)が少ないため、流動性および成形性に劣る。さらに、流動性が悪いことに伴い、難燃性、耐ブリスタ性にも劣る。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、難燃性、耐ブリスタ性、流動性、高温下での剛性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染が少なく、例えば、電気電子部品、自動車部品、産業資材部品、日用品および家庭用品用などの各種部品材料として幅広く利用できる。

Claims (20)

  1. 数平均分子量2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%、数平均分子量500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%の範囲で含有し、前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が下記一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位であり、前記脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%であるポリアミド樹脂(A)と、リン系難燃剤(B1)およびハロゲン系難燃剤(B2)から選ばれる少なくとも1種の難燃剤(B)を含有する、ポリアミド樹脂組成物。
    Figure 2014122329
    (式中、Xはカルボキシル基またはアミノ基を表し、Zは炭素数3以上の脂環構造を表す。)
    Figure 2014122329
    (式中、XおよびZは前記定義の通りであり、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1以上のアルキレン基を表す。)
  2. 前記ポリアミド樹脂(A)を構成する前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端基の総量の10%以上が末端封止剤によって封止されている、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. 前記脂環式モノマーが、前記一般式(I)または一般式(II)におけるXがカルボキシル基である環状脂肪族ジカルボン酸である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. 前記環状脂肪族ジカルボン酸が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. 前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)が、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 前記脂肪族ジアミンが1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
  7. 1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構造単位を25モル%以上含有し、かつ脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを25モル%以上含有する、請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物。
  8. さらに、ラクタムおよび/またはアミノカルボン酸に由来する構造単位を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  9. ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してルイス塩基として作用する化合物(C)を0.1〜10質量部含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  10. 前記ルイス塩基として作用する化合物(C)がアルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、酸化亜鉛および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載のポリアミド樹脂組成物。
  11. 前記ルイス塩基として作用する化合物(C)が酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載のポリアミド樹脂組成物。
  12. 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して前記難燃剤(B)を5〜100質量部含有する、請求項1〜11のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  13. 前記ハロゲン系難燃剤(B2)が臭素系難燃剤である、請求項1〜12のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  14. 前記臭素系難燃剤が臭素化ポリスチレンである、請求項13に記載のポリアミド樹脂組成物。
  15. 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して難燃助剤(D)を1〜30質量部含有する、請求項1〜14のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  16. 前記難燃助剤(D)が三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、オルソリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、ポリリン酸メラミン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛およびスズ酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項15に記載のポリアミド樹脂組成物。
  17. 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して繊維状強化材(E)1〜200質量部を含有する、請求項1〜16のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  18. 請求項1〜17のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含有する成形品。
  19. 電気部品または電子部品である、請求項18に記載の成形品。
  20. 製造工程にSMT工程を含む請求項19に記載の成形品。
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